説明

血液浄化装置及びそのプライミング方法

【課題】簡便な方法で効率的に血液浄化装置のプライミングを行う。
【解決手段】血液浄化装置において、補液ポンプ41によって透析液を静脈側血液流路30に供給し、血液ポンプ21を逆回転させ、血液ポンプ21の送液流量が補液ポンプ41による透析液の供給流量よりも小さくなるようにして透析器10と動脈側血液流路20と静脈側血液流路30とに初期充填されている空気を空気排出流路38から排出して透析器10と動脈側血液流路20と静脈側血液流路30とをプライミングする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液浄化装置の構造及びそのプライミング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
透析治療に使用する血液浄化装置は、半透膜である中空糸膜の内部に患者の血液、外面に透析液を流し、中空糸膜を通して血液中の老廃物を透析液に透析させるもので、老廃物を含んだ透析液は透析器から排出され、浄化された血液は患者に戻すように構成されている。
【0003】
患者の透析治療に使用される前には、このような血液浄化装置の血液流路或いは透析器等の内部には空気或いは無菌水等が充填されているので、患者の透析治療にこれらの血液浄化装置を使用する前に、血液回路内に生理食塩水を流して装置内に充填されている空気或いは無菌水等を取り除くプライミングを行う必要がある。
【0004】
一方、透析治療の際に透析器に供給される透析液を用いてプライミングを行う技術が提案されている。例えば、動脈側血液回路先端と静脈側血液回路先端とを接続した後、透析器に透析液を供給し、透析器の中空糸膜の外面側から中空糸膜の内部に向かって透析液を逆濾過させて透析液を各血液回路中に流入させ、各血液回路中に設けられたエアートラップチャンバに接続されたオーバーフローラインから血液浄化装置内に充填されていた空気或いは無菌水を外部に排出させてプライミングを行う方法が提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002‐325837号公報
【特許文献2】特開2004−16619号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1,2に記載された従来技術のプライミング方法は、透析器の中空糸膜の外側に透析液を供給して、血液回路側に逆濾過させているので、限外濾過率が低く、膜弾性率が低い中空糸膜では透析液の逆濾過時に付与される高圧に耐えることができず、潰れて流路が閉塞してしまう場合があり、透析液の圧送に耐え得る中空糸膜に適用範囲が限定されてしまうという問題があった。更に、この方法では、プライミングのために血液回路に流せる透析液の流量が中空糸膜を逆濾過する透析液の流量によって決まってくるため、プライミングの際に血液回路に流せる透析液の流量が少なく、プライミングに時間がかかるという問題があった。また、透析液の流量が少ないので血液回路を一度にプライミングすることができず、例えば、透析器と静脈側エアートラップチャンバの静脈側回路、その他の静脈側回路と動脈側回路というように部分毎に複数回プライミングを行うことが必要で更にプライミングに時間がかかるという問題があった。
【0007】
本発明は、簡便な方法で効率的に血液浄化装置のプライミングを行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の血液浄化装置は、半透膜を介して血液と透析液とを接触させて血液を浄化する透析器と、患者の血液を前記透析器に流入させる動脈側血液流路と、前記動脈側血液流路に設けられる正逆回転可能な血液ポンプと、前記透析器で浄化した血液を前記透析器から前記患者に戻す静脈側血液流路と、前記静脈側血液流路に設けられ、血液中の空気を除去する静脈側エアートラップチャンバと、前記静脈側エアートラップチャンバに接続され、静脈側エアートラップチャンバで除去した空気を外部に排出する排出流路と、前記静脈側エアートラップチャンバ、または前記静脈側エアートラップチャンバと前記透析器との間の前記静脈側血液流路に接続され、液体を前記静脈側血液流路に供給する補液流路と、前記補液流路に設けられる補液ポンプと、前記動脈側血液流路の患者側端と前記静脈側血液流路の患者側端とを接続する接続手段と、前記血液ポンプの回転方向と、前記血液ポンプと前記補液ポンプの流量とを変更する制御部と、を備える血液浄化装置であって、制御部は、前記補液ポンプによって前記液体を前記静脈側血液流路に供給し、前記血液ポンプを逆回転させ、前記血液ポンプの送液流量が前記補液ポンプによる前記液体の供給流量よりも小さくなるようにして前記透析器と前記動脈側血液流路と前記静脈側血液流路とに初期充填されている流体を前記排出流路から排出して前記透析器と前記動脈側血液流路と前記静脈側血液流路とをプライミングするプライミング手段を備えることを特徴とする。
【0009】
本発明の血液浄化装置のプライミング方法は、半透膜を介して血液と透析液とを接触させて血液を浄化する透析器と、患者の血液を前記透析器に流入させる動脈側血液流路と、前記動脈側血液流路に設けられる正逆回転可能な血液ポンプと、前記透析器で浄化した血液を前記透析器から前記患者に戻す静脈側血液流路と、前記静脈側血液流路に設けられ、血液中の空気を除去する静脈側エアートラップチャンバと、前記静脈側エアートラップチャンバに接続され、静脈側エアートラップチャンバで除去した空気を外部に排出する排出流路と、前記静脈側エアートラップチャンバ、または前記静脈側エアートラップチャンバと前記透析器との間の前記静脈側血液流路に接続され、液体を前記静脈側血液流路に供給する補液流路と、前記補液流路に設けられる補液ポンプと、前記動脈側血液流路の患者側端と前記静脈側血液流路の患者側端とを接続する接続手段と、を備える血液浄化装置のプライミング方法であって、前記接続手段によって前記動脈側血液流路の患者側端と前記静脈側血液流路の患者側端とを接続後、前記補液ポンプによって前記液体を前記静脈側血液流路に供給する工程と、前記血液ポンプを血液透析の際と逆方向に回転させる工程と、前記血液ポンプの送液流量が前記補液ポンプによる前記液体の供給流量よりも小さくなるように制御する工程とを少なくとも含み、前記透析器と前記動脈側血液流路と前記静脈側血液流路とに初期充填されている流体を前記排出流路から排出して前記透析器と前記動脈側血液流路と前記静脈側血液流路とをプライミングすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、簡便な方法で効率的に血液浄化装置のプライミングを行うことができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態における血液浄化装置の構成を示す系統図である。
【図2】本発明の実施形態における血液浄化装置のプライミング動作の際の流体の流れを示す説明図である。
【図3】本発明の他の実施形態における血液浄化装置のプライミング動作の際の流体の流れを示す説明図である。
【図4】本発明の他の実施形態における血液浄化装置のプライミング動作の際の流体の流れを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。図1に示すように、本発明の血液浄化装置100は、半透膜を介して血液と透析液とを接触させて血液を浄化する透析器10と、患者の血液を透析器10に流入させる動脈側血液流路20と、動脈側血液流路20に設けられ、血液中の空気を除去する動脈側エアートラップチャンバ23と、動脈側血液流路20に設けられる正逆回転可能な血液ポンプ21と、透析器10で浄化した血液を透析器10から患者に戻す静脈側血液流路30と、静脈側血液流路30に設けられ、血液中の空気を除去する静脈側エアートラップチャンバ33と、静脈側エアートラップチャンバ33に接続され、静脈側エアートラップチャンバ33で除去した空気を外部に排出する空気排出流路38と、静脈側エアートラップチャンバ33に接続され、透析液を静脈側血液流路30に供給する補液流路40と、補液流路40に設けられる補液ポンプ41と、動脈側血液流路20の患者側端に設けられた接続プラグ27と静脈側血液流路30の患者側端に設けられた接続プラグ37と、血液ポンプ21と補液ポンプ41の流量を変更する制御部60と、を備えている。また、透析器10には透析液を供給する透析液供給流路51と透析器10から透析液を排出する透析液排出流路52とが接続されている。透析液供給流路51には透析液ポンプ53が設けられている。
【0013】
透析器10は、内部に半透膜である中空糸膜を多数配置したもので、上方の血液入口11から透析器10に流入した血液は中空糸膜の内部を流れ、下方の血液出口から流出していく。一方、透析器10の側面下部には透析液を中空糸膜の外面に流入させる透析液入口10aが設けられ、透析器10の側面の上部には中空糸膜を介して血液中の老廃物を透析した透析後の透析液を外部に流出させる透析液出口10bが設けられている。透析液ポンプ53によって透析液供給流路51から透析液入口10aに供給された透析液は血液との透析後、透析液出口10bから透析液排出流路52に排出される。
【0014】
透析器10の血液入口11には動脈側血液流路20が接続されている。動脈側血液流路20は、患者の動脈に挿入された穿刺針に接続される接続プラグ27と、接続プラグ27と血液ポンプ21との間を接続する血液ポンプ入口流路24と、血液ポンプ21と動脈側エアートラップチャンバ23との間を接続する動脈側エアートラップチャンバ入口流路25と、動脈側エアートラップチャンバ23と透析器10の血液入口11を接続する透析器入口流路26とを含んでいる。血液ポンプ21はモータ22によって駆動されるしごき型のポンプで、血液ポンプ21内部に設けられた可撓性のチューブの外側を所定の方向にしごいて血液を流動させるものである。可撓性のチューブは血液ポンプ21の内部に設けられていてもよいし、血液ポンプ入口流路24または動脈側エアートラップチャンバ入口流路25を可撓性のチューブで構成し、その一部をしごくように構成してもよい。動脈側エアートラップチャンバ23は、円筒型の容器で上部側面に血液入口23bが設けられ、下部に血液出口23cが設けられ、内部の下方にはメッシュ23aが設けられている。
【0015】
透析器10の血液出口12には静脈側血液流路30が接続されている。静脈側血液流路30は、透析器10の血液出口12と静脈側エアートラップチャンバ33とを接続する静脈側エアートラップチャンバ入口流路35と、静脈側エアートラップチャンバ33から流出した血液を患者の静脈に戻す血液戻し流路36と、血液戻し流路36の先端に設けられ、患者の動脈に挿入された穿刺針に接続される接続プラグ37とを含んでいる。静脈側エアートラップチャンバ33は、円筒型の容器で上部側面に血液入口33bが設けられ、下部に血液出口33cが設けられ、内部の下方にはメッシュ33aが設けられている。また、上部側面には補液入口33eが設けられ、上部には空気排出口33dが設けられている。また、上部側面に設けられた補液入口33eは血液入口33bよりも上側となっている。
【0016】
補液入口33eには補液流路40が接続されている。補液流路40は、補液ポンプ41と、透析液供給流路51の分岐点54と補液ポンプ41の入口とを接続する補液ポンプ入口流路43と、補液ポンプ41と静脈側エアートラップチャンバ33の補液入口33eを接続する補液供給流路44とを含んでいる。補液ポンプ41はモータ42によって駆動されるしごき型のポンプで、補液ポンプ41の内部に設けられた可撓性のチューブの外側を所定の方向にしごいて血液を流動させるものである。可撓性のチューブは補液ポンプ41の内部に設けられていてもよいし、補液ポンプ入口流路43または補液供給流路44を可撓性のチューブで構成し、その一部をしごくように構成してもよい。
【0017】
静脈側エアートラップチャンバ33の上部の空気排出口33dには、空気排出流路38が接続されている。空気排出流路38の静脈側エアートラップチャンバ33の端部は静脈側エアートラップチャンバ33の上部から内部に向かって伸び、その先端が内面に形成される血液面から少しだけ血液の中に入り込んでいる。空気排出流路38の排出側端部は、図示しないトラップまで伸びている。
【0018】
制御部60は内部にCPUとメモリとを含む信号処理を行うコンピュータである。血液ポンプ21のモータ22と、補液ポンプ41のモータ42と、透析液ポンプ53とは制御部60に接続され、制御部60の指令によって動作するよう構成されている。
【0019】
以上のように構成された、本実施形態の血液浄化装置100の透析の際の血液、透析液の流れについて説明する。患者の動脈の血液は、接続プラグ27から血液ポンプ入口流路24に入り、正方向に回転している血液ポンプ21によって動脈側エアートラップチャンバ23に送られる。動脈側エアートラップチャンバ23に流入した血液は、動脈側エアートラップチャンバ23で血液に混入している空気分が除去され、動脈側エアートラップチャンバ23の下方の血液出口23cから透析器入口流路26に流出し、透析器入口流路26から透析器10の血液入口11を介して透析器10に配置された中空糸膜の一端からその内部に流入する。一方、透析液ポンプ53によって透析液供給流路51から透析液入口10aに透析液が供給される。透析液入口10aから透析器10に流入した透析液は中空糸膜の外面を満たして流れる。血液と透析液とは半透膜の中空糸膜を介して接触し、血液中の老廃物は透析液に透析される。
【0020】
透析によって老廃物が除去された血液は中空糸膜の他端から透析器10の血液出口12に流れ、透析器10から流出する。また、老廃物を含んだ透析液は透析器10の透析液出口10bから透析液排出流路52に排出される。透析器10を流出した血液は、静脈側エアートラップチャンバ入口流路35から静脈側エアートラップチャンバ33に流入する。静脈側エアートラップチャンバ33に流入した血液は、静脈側エアートラップチャンバ33で血液に混入している空気分が除去され、静脈側エアートラップチャンバ33の下方の血液出口33cから流出し、血液戻し流路36、接続プラグ37から患者の静脈に戻される。また、静脈側エアートラップチャンバ33で除去した空気は空気排出流路38から外部に排出される。このようにして、本実施形態の血液浄化装置100は血液の透析を行う。
【0021】
次に、図2を参照して本実施形態の血液浄化装置100のプライミング動作について説明する。以下の説明では、血液浄化装置100の透析器10、動脈側血液流路20、静脈側血液流路30には空気が充填されており、プライミング動作は、充填されている空気を排出する動作として説明する。まず、動脈側血液流路20の接続プラグ27と静脈側血液流路30の接続プラグ37とを接続し、動脈側血液流路20と静脈側血液流路30と透析器10とが循環流路を構成するようにする。そして、例えば、操作パネルのプライミング開始のボタンを押す、あるいはスクリーンのプライミング開始のボタンをクリックするなどによって制御部60にプライミング動作を開始させる。
【0022】
制御部60は、プライミング開始の信号が入力されると、血液ポンプ21を駆動するモータ22に逆回転の指令を出力する。この指令によってモータ22は逆方向に回転を開始し、血液ポンプ21は先に説明した透析動作の際の血液の流れとは逆方向に空気を送り出し始める。また、制御部60は、補液ポンプ41を始動する指令を出力する。この指令によって、補液ポンプ41が始動し、透析液供給流路51から透析液を静脈側エアートラップチャンバ33に送り出し始める。制御部60は、血液ポンプ21の送り出し流量Q1が透析器10や各血液流路20,30のプライミングに必要な流量Q1に設定する指令を出力する。この指令によって血液ポンプ21を駆動するモータ22は血液ポンプの送り出し流量がQ1となる回転数となる。また、制御部60は、補液ポンプ41の送り出し流量、つまり、静脈側エアートラップチャンバ33に供給される透析液の流量が血液ポンプ21の送り出し流量Q1よりも大きい流量Q2に設定する指令を出力する。例えば、流量Q2は、流量Q1よりも10%から100%流量が大きいことが好ましく、流量Q1よりも20%から40%流量が大きいと更に好ましい。この指令によって補液ポンプ41を駆動するモータ42は、補液ポンプ41の送り出し流量がQ2となる回転数で回転する。
【0023】
血液ポンプ21が送り出し流量Q1で運転されると、図2に示すように、動脈側血液流路20、静脈側血液流路30、透析器10の内部に充填されていた空気は、透析器10から血液ポンプ21に吸い込まれて静脈側血液流路30へと流れ、静脈側エアートラップチャンバ33の下部の血液出口33cから静脈側エアートラップチャンバ33に入り込む。そして、静脈側エアートラップチャンバ33の下部に設けられたメッシュ33aを通り抜けて静脈側エアートラップチャンバ33の下側から静脈側エアートラップチャンバ33の中に入る。
【0024】
一方、補液ポンプ41によって静脈側エアートラップチャンバ33に流入した透析液は、静脈側エアートラップチャンバ33の上部側面に設けられた補液入口33eから静脈側エアートラップチャンバ33の中に流入する。血液ポンプ21が逆回転しているので静脈側エアートラップチャンバ33の内部の流体は、血液入口33bから透析器10、動脈側血液流路20に吸引されるが、静脈側エアートラップチャンバ33の血液入口33bは上部側面に設けられているので、透析液の液面が血液入口33bより上にならないと透析液は血液入口33bから流出しない。また、下部の血液出口33cからは血液ポンプ21によって送り出された空気が流入してくるので、透析液は下部の血液出口33cからも流出しない。
【0025】
このため、補液入口33eから静脈側エアートラップチャンバ33の中に流入した透析液は静脈側エアートラップチャンバ33の内部に溜まり始め、静脈側エアートラップチャンバの内部には透析液の水面ができ始める。すると、血液出口33cから静脈側エアートラップチャンバ33の内部に流入した空気は、泡となって静脈側エアートラップチャンバ33の内部に溜まった透析液の中を上昇し、水面から出た空気は血液入口33bから静脈側エアートラップチャンバ入口流路35、透析器10を通って血液ポンプ21に吸い込まれて、透析器10、動脈側血液流路20、静脈側血液流路30を循環する。このため、静脈側エアートラップチャンバ33の内部にできる透析液の水位が血液入口33bに達するまでの間、静脈側エアートラップチャンバ33の下部から流れこんだ空気は、外部にはほとんど排出されない。
【0026】
そして、静脈側エアートラップチャンバ33の内部にできた透析液の水位がしだいに上昇し、血液入口33bに達すると、透析液が静脈側エアートラップチャンバ33の血液入口33bから静脈側エアートラップチャンバ入口流路35に流出し始める。そして、血液出口33cから流入した空気は静脈側エアートラップチャンバ33の上部に設けられた空気排出流路38から外部に流出するようになる。血液ポンプ21の送り出し流量Q1、つまり血液出口33cから静脈側エアートラップチャンバ33に流入する空気流量は、補液ポンプ41の送り出し流量Q2、つまり補液入口33eから静脈側エアートラップチャンバ33に流入する透析液の流量よりも小さい。逆に言えば、補液入口33eから静脈側エアートラップチャンバ33に流入する透析液の流量Q2は、血液出口33cから静脈側エアートラップチャンバ33に流入する空気流量Q1よりも多くなっている。
【0027】
このため、静脈側エアートラップチャンバ33の内部に流入した空気がすべて上部の空気排出流路38から外部に流出したとしても、静脈側エアートラップチャンバ33内部の透析液の水位は低下せず、透析液が常に血液入口33bよりも上にあって血液入口33bから透析器10に向かって透析液が流れていく。この血液入口33bから透析器10に向かって流れていく透析液の流量、つまり、透析器10の洗浄流量はQ1である。静脈側エアートラップチャンバ33の内部に流入する透析液の流量Q2は空気の流量Q1よりも大きいので、その流量差ΔQ=(Q2−Q1)分の透析液は血液入口33bから透析器10に向かって流れずに空気と一緒になって空気排出流路38から外部に流出する。
【0028】
このように、血液ポンプ21によって送り出された透析器10、動脈側血液流路20、静脈側血液流路30に充填されていた空気は静脈側エアートラップチャンバ33の空気排出流路38から外部に排出され、補液ポンプ41によって供給された透析液が透析器10、動脈側血液流路20、静脈側血液流路30に流入し、透析器10、動脈側血液流路20、静脈側血液流路30は透析液に置換され、血液浄化装置100がプライミングされる。
【0029】
静脈側エアートラップチャンバ33の血液出口33cから静脈側エアートラップチャンバ33の内部に流入する空気の一部は、透析液と共に血液入口33bから透析器10に流れ、透析器10、動脈側血液流路20、静脈側血液流路30を循環してしまうので、血液浄化装置100のプライミングでは、例えば、透析器10、動脈側血液流路20、静脈側血液流路30の内部容積の何倍かの透析液を静脈側エアートラップチャンバ33に供給することによってプライミングを行う。また、透析器10の中空糸膜の外面のプライミングは、例えば、透析液ポンプ53によって透析液を透析器10の透析液入口10aに供給し、透析液出口12から排出する動作を所定の時間だけ継続することで行う事としてもよい。
【0030】
以上説明した本実施形態の血液浄化装置100は、透析器10の中空糸膜の内部に補液である透析液を流してプライミングを行うので、中空糸膜の強度が低い透析器10を備える血液浄化装置100にも適用することができる。また、プライミングのために流す透析液の流量を多くすることができるので、プライミング時間を短縮することができる。更に、プライミング中にクランプやバルブ等によって透析液の流路を切り替える必要がないことから、装置が簡便になると共に、プライミングの操作が容易となる。また、本実施形態は、透析器10、動脈側血液流路20、静脈側血液流路30の循環流路の一箇所、空気排出流路38から空気を外部に排出するよう構成しているので、その一箇所の流体の状態を確認することにより、プライミングの終了判断を行うことができ、プライミングによって排出する透析液の液量が少なくなり、効率的にプライミングを行うことができる。
【0031】
図3を参照して本発明の他の実施形態について説明する。先に説明した実施形態では透析液によって血液浄化装置100のプライミングを行うこととして説明したが、本実施形態は、生理食塩水を用いてプライミングを行うものである。先に説明した実施形態と同様の部分には同様の符号を付して説明は省略する。図3に示すように本実施形態は、生理食塩水タンク45から生理食塩水を補液として供給するようにしたものである。本実施形態は、例えば、停電などで透析液が供給できない場合など透析液を供給できないような場合でも血液浄化装置100のプライミングを行うことができる。装置の動作、効果などについては、先に説明した実施形態と同様である。
【0032】
図4を参照して本発明の他の実施形態について説明する。先に図2を参照して説明した実施形態と同様の部分には同様の符号を付して説明は省略する。本実施形態は、補液供給流路44が静脈側エアートラップチャンバ33でなく、静脈側エアートラップチャンバ入口流路35に接続されているものである。その他の構成は図2を参照して説明した実施形態と同様である。
【0033】
本実施形態も先に図2を参照して説明した実施形態と同様、プライミングの開始信号が制御部60に入力されると制御部60は、モータ22を始動して血液ポンプ21を逆回転でその送り出し流量がQ1となるように設定し、補液ポンプ41は送り出し流量がQ2となるように設定し、プライミングを開始する。図4に示すように、透析器10、動脈側血液流路20、静脈側血液流路30に最初に充填されている空気は血液ポンプ21によって静脈側エアートラップチャンバ33の血液出口33cから静脈側エアートラップチャンバ33の中に流入する。一方、補液ポンプ41によって送り出された透析液は補液供給流路44から静脈側エアートラップチャンバ入口流路35に流入する。
【0034】
補液ポンプ41の送り出し流量Q2は血液ポンプ21の送り出し流量Q1よりも大きいので、静脈側エアートラップチャンバ入口流路35に流入した透析液の内、血液ポンプ21に吸い込まれる流量Q1は透析器10から血液ポンプ21に向かって流れ、透析器10の内部の空気を透析液で置換していく。また、補液ポンプ41と血液ポンプ21との流量差ΔQ=(Q2−Q1)は、静脈側エアートラップチャンバ入口流路35から静脈側エアートラップチャンバ33に向かって流れ、血液入口33bから静脈側エアートラップチャンバ33に流入する。
【0035】
血液入口33bからは透析液が流入しているので、静脈側エアートラップチャンバ33の下側の血液出口33cから流入した空気は血液入口33bから流出できず、静脈側エアートラップチャンバ33の上部に設けられている空気排出流路38から外部に排出される。血液入口33bから静脈側エアートラップチャンバ33に流入した透析液は、血液出口33cから流出できないので、静脈側エアートラップチャンバ33の中には透析液の水面ができ、その水位がしだいに上昇していく。水位が空気排出流路38の静脈側エアートラップチャンバ33側の先端の高さよりも低い場合には、静脈側エアートラップチャンバ33に流入した透析液は空気排出流路38から外部に流出しないので、静脈側エアートラップチャンバ33に流入した空気だけが空気排出流路38から流出していく。
【0036】
そして、水位が空気排出流路38の静脈側エアートラップチャンバ33側の先端の高さに達すると、血液入口33bから流入する透析液も空気と共に空気排出流路38から外部に流出していく。そして、静脈側エアートラップチャンバ入口流路35に流入した透析液によって透析器10、動脈側血液流路20、静脈側血液流路30がプライミングされる。
【0037】
本実施形態の血液浄化装置100は先に図2を参照して説明した実施形態と同様の効果を奏する。また、本実施形態では、最初に透析器10、動脈側血液流路20、静脈側血液流路30に空気が充填されているとして説明したが、最初に無菌水が充填されている場合でも同様にプライミングを行うことができる。
【符号の説明】
【0038】
10 透析器、10a 透析液入口、10b 透析液出口、11,23b,33b 血液入口、12,23c,33c 血液出口、12 透析液出口、20 動脈側血液流路、21 血液ポンプ、22,42 モータ、23 動脈側エアートラップチャンバ、23a,33a メッシュ、24 血液ポンプ入口流路、25 動脈側エアートラップチャンバ入口流路、26 透析器入口流路、27,37 接続プラグ、30 静脈側血液流路、33 静脈側エアートラップチャンバ、33d 空気排出口、33e 補液入口、35 静脈側エアートラップチャンバ入口流路、36 血液戻し流路、38 空気排出流路、40 補液流路、41 補液ポンプ、43 補液ポンプ入口流路、44 補液供給流路、45 生理食塩水タンク、51 透析液供給流路、52 透析液排出流路、53 透析液ポンプ、54 分岐点、60 制御部、100 血液浄化装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半透膜を介して血液と透析液とを接触させて血液を浄化する透析器と、
患者の血液を前記透析器に流入させる動脈側血液流路と、
前記動脈側血液流路に設けられる正逆回転可能な血液ポンプと、
前記透析器で浄化した血液を前記透析器から前記患者に戻す静脈側血液流路と、
前記静脈側血液流路に設けられ、血液中の空気を除去する静脈側エアートラップチャンバと、
前記静脈側エアートラップチャンバに接続され、静脈側エアートラップチャンバで除去した空気を外部に排出する排出流路と、
前記静脈側エアートラップチャンバ、または前記静脈側エアートラップチャンバと前記透析器との間の前記静脈側血液流路に接続され、液体を前記静脈側血液流路に供給する補液流路と、
前記補液流路に設けられる補液ポンプと、
前記動脈側血液流路の患者側端と前記静脈側血液流路の患者側端とを接続する接続手段と、
前記血液ポンプの回転方向と、前記血液ポンプと前記補液ポンプの流量とを変更する制御部と、
を備える血液浄化装置であって、
前記制御部は、
前記補液ポンプによって前記液体を前記静脈側血液流路に供給し、前記血液ポンプを逆回転させ、前記血液ポンプの送液流量が前記補液ポンプによる前記液体の供給流量よりも小さくなるようにして前記透析器と前記動脈側血液流路と前記静脈側血液流路とに初期充填されている流体を前記排出流路から排出して前記透析器と前記動脈側血液流路と前記静脈側血液流路とをプライミングするプライミング手段を備えること、
を特徴とする血液浄化装置。
【請求項2】
半透膜を介して血液と透析液とを接触させて血液を浄化する透析器と、患者の血液を前記透析器に流入させる動脈側血液流路と、前記動脈側血液流路に設けられる正逆回転可能な血液ポンプと、前記透析器で浄化した血液を前記透析器から前記患者に戻す静脈側血液流路と、前記静脈側血液流路に設けられ、血液中の空気を除去する静脈側エアートラップチャンバと、前記静脈側エアートラップチャンバに接続され、静脈側エアートラップチャンバで除去した空気を外部に排出する排出流路と、前記静脈側エアートラップチャンバ、または前記静脈側エアートラップチャンバと前記透析器との間の前記静脈側血液流路に接続され、液体を前記静脈側血液流路に供給する補液流路と、前記補液流路に設けられる補液ポンプと、前記動脈側血液流路の患者側端と前記静脈側血液流路の患者側端とを接続する接続手段と、を備える血液浄化装置のプライミング方法であって、
前記接続手段によって前記動脈側血液流路の患者側端と前記静脈側血液流路の患者側端とを接続後、前記補液ポンプによって前記液体を前記静脈側血液流路に供給する工程と、
前記血液ポンプを血液透析の際と逆方向に回転させる工程と、
前記血液ポンプの送液流量が前記補液ポンプによる前記液体の供給流量よりも小さくなるように制御する工程とを少なくとも含み、
前記透析器と前記動脈側血液流路と前記静脈側血液流路とに初期充填されている流体を前記排出流路から排出して前記透析器と前記動脈側血液流路と前記静脈側血液流路とをプライミングすることを特徴とする血液浄化装置のプライミング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−95843(P2012−95843A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−246233(P2010−246233)
【出願日】平成22年11月2日(2010.11.2)
【出願人】(000226242)日機装株式会社 (383)
【Fターム(参考)】