説明

血液透析から生じる酸化ストレスおよび急性または慢性腎疾患の予防および治療を目的としたシスチンまたはシステインの使用

本発明は、慢性腎不全に罹患している患者における血液透析治療から生じる酸化ストレスの予防および治療、ならびに急性または慢性腎疾患および末期腎疾患の治療および予防を目的とした経口医薬品を調製するために、シスチンおよび/またはシステインを使用することを開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、慢性腎不全に罹患している患者において、血液透析治療から生じる酸化ストレスの予防および治療を目的とした経口医薬品を調製するために、システインおよびそのジスルフィドへの酸化型(シスチン)を使用することに関する。
【0002】
本発明はまた、急性または慢性腎疾患の治療および予防を目的とした薬剤を調製するために、システインまたはシスチンを使用することに関する。
【背景技術】
【0003】
酸化ストレスは、抗酸化防御の生理系と、免疫系細胞による酸素ラジカルまたは窒素ラジカルの産生増大との間の不均衡と定義される。結果として、タンパク質、糖類および脂質の分子構造が損傷すると共に、細胞機能に損傷が及ぶ可能性がある。これは、人体の生命維持に必要不可欠な器官の機能にも悪影響を及ぼす。酸化ストレスは、腎不全に罹患し血液透析を受けている患者において、特に明らかに認められている。この事象は、患者の循環血液細胞と透析膜との間の生体不適合性に原因があると共に、慢性尿毒症状態などの他の要因もある。この生体不適合性は、免疫系によって活性酸素種(ROS)の過剰産生を引き起こすと同時に、透析膜のフィルターを通ることで、グルタチオン(GSH)、ビタミンA、ビタミンCおよびビタミンEなどの抗酸化分子が損失するため、人体の抗酸化力を減少させる。
【0004】
この異常な免疫応答が招く結果の1つが酸化ストレスという状態であり、免疫担当細胞の継続的な活性化によって、免疫応答の欠如およびアミロイドーシスに至り、アテローム性動脈硬化を加速させた結果、感染症を非常に引き起こしやすくなる。これにより炎症反応を来たす。その結果として、サイトカインおよびリソソームのタンパク質分解酵素が継続的に放出し、フリーラジカルの産生が刺激される。実際には、酸化ストレスは自己複製過程になり、慢性炎症の状態をもたらす。
【0005】
酸化ストレスが招く主な結果は心血管系の合併症であり、これは慢性腎不全に罹患している患者の主な死因である。局所レベルでは、これらの合併症は、内皮細胞の変化、脂質の蓄積、凝血塊の形成および内腔の閉塞によって明示される。
【0006】
全身レベルでは、長期にわたる酸化ストレスは、アルブミンおよびトランスフェリンなどの他のタンパク質の合成を犠牲にして、肝臓による急性期タンパク質の合成を促進する。その結果が栄養失調であり、筋タンパクの異化分解および食欲の減退によって悪化する。
【0007】
慢性腎不全(CRF)は進行性の腎疾患である。腎臓が血液の浄化能力をすべて失ってしまうと、患者は生きていくことができず、透析処置を受けなければならない。そのような最終状態は末期腎疾患(ESRD)の顕著な特徴である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
抗酸化活性を有する製剤を投与することによる酸化ストレスの治療例が、以下に報告されている。現在、酸化ストレスの予防および治療に最もよく使われる製剤は、N−アセチルシステインである(例えば、Kidney Int.、Vol 64(2003)、pp.82〜91;Current Med.Chem.、2003、10、pp.1241〜53を参照のこと)。特にWO01/02004には、血液透析治療前および/または治療中の、静脈内注射によるN−アセチルシステインの使用について記載されている。
【0009】
Nakanishi et al.,Kidney Int.2003 Mar;63(3):1137〜40によると、システインおよびホモシステインの血漿中濃度は、透析を受ける慢性腎不全患者において上昇する。それ故に、これらの患者においてシステイン濃度をさらに上昇させることは、道理にかなったことではないように思われる。
【0010】
Santangelo F.、Current Med.Chem.、2003、10、2599〜2610には、N−アセチルシステインおよびそのエステル、チアゾリジン、γ−グルタミルシステインならびにグルタチオンエステルなどの、システインのプロドラッグを治療に使用することが最近概説され、特に細胞内GSH濃度の重要性について論じられている。しかしながら、これらの誘導体よりもむしろシステインまたはシスチンの経口投与については、この概説で開示も示唆もされていない。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、慢性腎不全に罹患している患者において、血液透析治療から生じる酸化ストレスの予防および治療を目的として、シスチンおよび/またはシステインを投与することを含む。
【0012】
さらなる実施形態によると、本発明はまた、慢性または急性腎疾患の治療および予防、ならびに末期腎疾患(ESRD)の治療および予防を目的とした、経口経路によって投与する薬剤を調製するために、シスチンおよび/またはシステインを使用することに関する。
【0013】
システインを使用することが好ましいが、抗酸化作用を有することが知られている、タウリン、リポ酸、ならびにビタミンA、CおよびEなど他の物質を加えることもできよう。
【0014】
したがって、本発明は、慢性腎不全に罹患している患者における血液透析治療から生じる酸化ストレスの予防および治療、または急性もしくは慢性腎疾患の治療および予防、または末期腎疾患(ESRD)の治療および予防を目的とした、シスチンおよび/またはシステインを含む経口組成物に関する。
【0015】
これらの組成物は、医薬品製造技術において既知である従来の方法、例えば、“Remington’s Pharmaceutical Handbook”、Mack Publishing Co.、N.Y.、USAに記載されている方法に従って調製することになる。
【0016】
本発明は、腎不全に罹患している患者において、血液透析治療前および/または治療後に、シスチンおよび/またはシステインの有効量を経口投与することを含む。この量は、状態の重症度および患者の体重など、種々の要因によって決まる。
【0017】
しかしながら、単位服用量は、概して200〜1000mgのシスチンおよび/またはシステインを含む。本発明による組成物は、通常、血液透析治療前および/または治療後に投与されることになる。よって、これらの組成物は、経口による単位服用量を有する組成物の形態で投与されることが好ましい。
【0018】
急性もしくは慢性腎疾患の治療および予防、または末期腎疾患(ESRD)の治療および予防については、システインまたはシスチンの有効量は、1日1〜4回、100〜1000mgの範囲に及ぶ。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明のさらなる態様によると、シスチンまたはシステインは、非毒性の経口抗酸化剤、特にビタミンA、CおよびE、リコピン、リポ酸、アスコルビン酸ならびにタウリンと共に用いることが可能である。ビタミンEおよびタウリンが好ましい。
【0020】
本発明によると、該組成物は、錠剤、カプセル剤、経口製剤、散剤、顆粒剤、トローチ剤、用時溶解型散剤、シロップ剤、液剤または懸濁剤の形態であることが可能である。固形組成物は、従来の賦形剤、例えば、セルロース、マンニトールおよび乳糖などの結合剤、炭酸カルシウム、リン酸カルシウムおよび乳糖などの希釈剤、圧縮剤、ステアリン酸マグネシウムなどの潤滑剤、デンプン、ポリビニルピロリドンおよびデンプン誘導体などの崩壊剤、着色剤、香味剤ならびに同種のものを含むことが可能である。
【0021】
液体組成物は、従来の賦形剤、例えば、ソルビトール、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースおよびカルボキシメチルセルロースなどの懸濁化剤、例えば、p−ヒドロキシ安息香酸メチル、p−ヒドロキシ安息香酸プロピルまたはソルビン酸などの保存剤、ならびに必要に応じて従来の香味剤または着色剤を含むことが可能である。
【0022】
シスチンおよび/またはシステインの経口投与は、N−アセチルシステインの静脈内注射製剤および/または輸液剤の使用が、透析治療前の投与に関して熟練した人材を必要とし、その上透析中の汚染の危険性を含むのに比べて、投与の費用、容易さおよび安全性の点から見て相当な利点を提供する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
慢性腎不全に罹患している患者における血液透析治療から生じる酸化ストレスの予防および治療、あるいは急性もしくは慢性腎疾患または末期腎疾患の治療および予防を目的とした経口医薬品を調製するための、シスチンおよび/またはシステインの使用。
【請求項2】
慢性腎不全に罹患している患者における、血液透析治療から生じる酸化ストレスの予防および治療を目的とした、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
シスチンおよび/またはシステインが、200〜1000mgの範囲の単位服用量で投与される、請求項1または2に記載の使用。
【請求項4】
シスチンおよび/またはシステインが、血液透析治療前および/または治療後に投与される、請求項1、2または3に記載の使用。
【請求項5】
シスチンおよび/またはシステインが、タウリン、リポ酸、ならびにビタミンA、CおよびEなど他の物質と共に用いられる、請求項1から4のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
慢性腎不全に罹患している患者における血液透析治療から生じる酸化ストレスの予防および治療、または急性もしくは慢性腎疾患の治療および予防を目的とし、有効成分としてシステインまたはシスチンを含む、経口投与のための医薬組成物。
【請求項7】
慢性腎不全に罹患している患者における血液透析から生じる酸化ストレスの予防および治療方法であって、血液透析治療前および/または治療後に、200〜1000mgのシスチンおよび/またはシステインを、前記患者に経口投与することを含む方法。
【請求項8】
急性または慢性腎不全に罹患している患者の予防および治療方法であって、200〜1000mgのシスチンおよび/またはシステインを、前記患者に経口投与することを含む方法。
【請求項9】
末期腎疾患に罹患している患者の予防および治療方法であって、200〜1000mgのシスチンおよび/またはシステインを、前記患者に経口投与することを含む方法。

【公表番号】特表2007−534646(P2007−534646A)
【公表日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−544341(P2006−544341)
【出願日】平成16年12月16日(2004.12.16)
【国際出願番号】PCT/EP2004/014359
【国際公開番号】WO2005/058305
【国際公開日】平成17年6月30日(2005.6.30)
【出願人】(506207598)ビオ 3 リサーチ ソシエタ ア レスポンサビリタ リミタータ (1)
【氏名又は名称原語表記】BIO 3 RESEARCH S.R.L.
【Fターム(参考)】