説明

血液透析装置、血液回路への補液方法、血液透析装置の作動方法

【課題】血液透析装置における血液回路への補液をより簡単に行う。
【解決手段】血液透析装置1の透析液回路12は、内部を第1の室50と第2の室51に隔て変位可能な隔壁52を有する定量容器40と、第1の室50に透析液を供給するための第1の回路41と、第1の室50の透析液を透析器10に供給するための第2の回路52と、透析器10を通過した透析液を第2の室51に排出するための第3の回路43と、第2の室51に水を供給するための第4の回路44と、第2の室51の透析液又は水を第2の室51から排出するための第5の回路45と、第1の回路41と、第2の回路42、第3の回路43、第4の回路44及び第5の回路45の開閉を行う開閉弁67、80、90、100、110を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液の透析を行う血液透析装置、及び血液透析装置における血液回路への補液方法、血液透析装置の作動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血液透析装置は、透析器の膜の一次側に血液を通過させる血液回路と、前記透析器の膜の二次側に透析液を通過させる透析液回路を有し、透析器において膜を通じて血液の透析を行っている。例えば透析液回路には、透析器に供給するための定量の透析液を収容可能な第1の室と透析液から排出された定量の透析廃液を収容可能な第2の室を有する定量容器が設けられている(特許文献1参照)。この血液透析装置の透析処理では、血液回路において透析器の膜の一次側に血液を流した状態で、透析液回路において定量容器の第1の室から透析器の膜の二次側に透析液が供給され、その透析器の二次側から定量容器の第2の室に透析液が戻される。透析液が透析器を通過する際に、膜を通じて血液中の老廃物が取り込まれる。この種の血液透析装置は、透析器への透析液の供給量と透析器からの透析液の排出量を簡単な構成の回路を用いて厳格に制御する際に有用である。
【0003】
ところで、上述のような血液透析装置を用いた透析処理では、例えば透析に先立って、血液回路内を生理食塩水などに置換して清浄化するプライミング処理が行われる。また、透析の後には、血液回路内に残存している血液を生理食塩水などで押し出し返血する返血処理が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−146506号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述のようなプライミング処理や返血処理では、生理食塩水のバックを用意し、血液透析装置の吊るし台に設置し、当該バックを血液回路に接続し、クランプなどを操作して、バックから血液回路内に生理食塩水を流し込む作業が必要であった。このため、作業が多く煩雑で、時間もかかっていた。
【0006】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、プライミング処理や返血処理時などに行われる血液回路への補液をより簡単に行うことができる血液透析装置、血液回路への補液方法及び血液透析装置の作動方法を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明は、透析器の膜の一次側に血液を通過させる血液回路と、前記透析器の膜の二次側に透析液を通過させる透析液回路を有し、前記透析器において前記膜を通じて血液の透析を行う血液透析装置であって、前記透析液回路は、内部を第1の室と第2の室に隔て変位可能な隔壁を有する容器と、前記容器の第1の室に透析液を供給するための第1の回路と、前記第1の室の透析液を前記透析器に供給するための第2の回路と、前記透析器を通過した透析液を前記容器の第2の室に排出するための第3の回路と、前記第2の室に所定の液体を供給するための第4の回路と、前記第2の室の透析液又は前記所定の液体を当該第2の室から排出するための第5の回路と、前記第1の回路、前記第2の回路、前記第3の回路、前記第4の回路及び前記第5の回路の開閉を行う開閉装置と、を有する。なお、隔壁の「変位」には、隔壁全体が移動するもののみならず、隔壁自体が変形して変位するものも含まれる。
【0008】
本発明によれば、第1の回路、第3の回路及び第5の回路を閉鎖した状態で、第4の回路から容器の第2の室に液体を供給し、容器の隔壁の第1の室側への変位により第1の室の透析液を透析器に供給して、当該透析器の膜を通じて血液回路側に透析液を供給できる。これにより、透析液を用いて補液を行うことができ、従来のように生理食塩水のバックを設置等する必要がないので、補液を簡単に行うことができる。また、透析を行う回路を利用できるので、補液を行う機能を簡単かつ安価に追加できる。
【0009】
前記第1の回路は、前記容器の第1の室に透析液の原液と希釈液を供給し透析液を生成するものであってもよい。かかる場合、所望の成分の透析液を生成するため、容器の第1の室の容積によって予め規定される所定量の原液と希釈液が第1の室に送られる。このため、第1の室に貯留される透析液の全体量を増やしてその分を補液に使うことができない構成となる。本発明によれば、かかる構成の回路において、第2の室側に所定の液体を供給することにより、第1の室での所望の透析液の生成を確保しつつ、補液を実現できる。
【0010】
前記第4の回路は、希釈液供給源に連通し、前記所定の液体として前記希釈液を前記第2の室に供給するものであってもよい。かかる場合、所定の液体として比較的安価な希釈液を利用できるので、補液のために使用され排出される液体にかかるコストを抑え、補液を安価に行うことができる。また、新たに液体の供給源を設ける必要がなく、簡単かつ安価に補液の機能を追加できる。
【0011】
以上の血液透析装置は、前記第2の室への前記所定の液体の供給量を調整する装置を、さらに有していてもよい。かかる場合、第2の室への所定の液体の供給量を調整し、それによって第1の室から透析器に供給される透析液の量を調整して、血液回路への透析液の補液量を調整できる。よって、目的に応じて補液量を調整できる。
【0012】
別の観点による本発明は、透析器の膜の一次側に血液を通過させる血液回路と、前記透析器の膜の二次側に透析液を通過させる透析液回路を有し、前記透析器において前記膜を通じて血液の透析を行う血液透析装置において、前記透析液回路の透析液を前記透析器の膜を通じて前記血液回路側に供給して補液を行う方法であって、前記透析液回路は、内部を第1の室と第2の室に隔て変位可能な隔壁を有する容器と、前記容器の第1の室に透析液を供給するための第1の回路と、前記第1の室の透析液を前記透析器に供給するための第2の回路と、前記透析器を通過した透析液を前記容器の第2の室に排出するための第3の回路と、前記第2の室に所定の液体を供給するための第4の回路と、前記第2の室の透析液又は前記所定の液体を当該第2の室から排出するための第5の回路と、を有するものであり、前記第1の回路、前記第3の回路及び前記第5の回路を閉鎖した状態で、前記第4の回路から前記容器の第2の室に前記所定の液体を供給し、前記容器の隔壁の前記第1の室側への変位により前記第1の室の透析液を前記透析器に供給して、当該透析器の膜を通じて前記血液回路側に透析液を供給するものである。
【0013】
本発明によれば、透析液を用いて補液を行うことができ、従来のように生理食塩水のバックを設置等する必要がないので、補液を簡単に行うことができる。また、透析を行う回路を利用できるので、補液を行う機能を血液透析装置に簡単かつ安価に追加できる。
【0014】
前記血液回路への補液方法において、前記第2の室への前記所定の液体の供給量を調整し、前記第1の室から前記透析器への透析液の供給量を調整して、前記透析器の膜を通じた前記血液回路側への透析液の供給量を調整するようにしてもよい。
【0015】
また、別の観点による本発明は、透析器の膜の一次側に血液を通過させる血液回路と、前記透析器の膜の二次側に透析液を通過させる透析液回路を有し、前記透析器において前記膜を通じて血液の透析を行う血液透析装置の作動方法であって、前記透析液回路は、内部を第1の室と第2の室に隔て変位可能な隔壁を有する容器と、前記容器の第1の室に透析液を供給するための第1の回路と、前記第1の室の透析液を前記透析器に供給するための第2の回路と、前記透析器を通過した透析液を前記容器の第2の室に排出するための第3の回路と、前記第2の室に所定の液体を供給するための第4の回路と、前記第2の室の透析液又は前記所定の液体を当該第2の室から排出するための第5の回路と、を有するものであり、前記第1の回路、前記第3の回路及び前記第5の回路を閉鎖した状態で、前記第4の回路から前記容器の第2の室に前記所定の液体を供給させ、前記容器の隔壁の前記第1の室側への変位により前記第1の室の透析液を前記透析器に供給させて、当該透析器の膜を通じて前記血液回路側に透析液を供給させる制御手段が作動するものである。
【0016】
本発明によれば、透析液を用いて補液を行うことができ、従来のように生理食塩水のバックを設置等する必要がないので、補液を簡単に行うことができる。また、透析を行う回路を利用できるので、補液を行う機能を血液透析装置に簡単かつ安価に追加できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、プライミング処理や返血処理時に行われる血液回路への補液を簡単に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】血液透析装置の構成の概略を示す模式図である。
【図2】透析処理時の開閉弁の開閉タイミングを示す説明図である。
【図3】第1、6の工程の血液透析装置の状態を示す説明図である。
【図4】第2、7の工程の血液透析装置の状態を示す説明図である。
【図5】第3、8の工程の血液透析装置の状態を示す説明図である。
【図6】第4の工程の血液透析装置の状態を示す説明図である。
【図7】第5の工程の血液透析装置の状態を示す説明図である。
【図8】第4の回路に定量ポンプを設けた場合の血液透析装置の構成を示す模式図で ある。
【図9】第4の回路に定量ポンプを設けた場合の血液透析装置の構成を示す模式図 である。
【図10】定量容器を二つ設けた場合の血液透析装置の構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明の好ましい実施の形態について説明する。図1は、本実施の形態に係る血液透析装置1の構成の概略を示す説明図である。
【0020】
血液透析装置1は、図1に示すように例えば透析器10に対し血液を循環させる血液回路11と、透析器10に対する透析液の供給と排出を行う透析液回路12を有している。
【0021】
透析器10は、例えば中空糸の膜20を内蔵した中空糸モジュールであり、膜20の一次側10aに患者の血液を通過させつつ、膜20の二次側10bに透析液を通過させ、一次側10aの血液の不要物質を膜20を通じて二次側10bの透析液に取り込んで血液を透析することができる。
【0022】
血液回路11は、例えば患者に穿刺される針部30から透析器10の一次側10aの入口端10cに接続された採血回路31と、透析器10の一次側10aの出口端10dから他の針部32に接続された返血回路33を有している。例えば採血回路31には、ポンプ34が設けられている。
【0023】
透析液回路12は、例えば定量容器40と、第1の回路41と、第2の回路42と、第3の回路43と、第4の回路44及び第5の回路45を有している。
【0024】
定量容器40は、例えば一定容積の内部を第1の室50と第2の室51に隔てる変位可能な隔壁52を有している。隔壁52は、例えばゴム製のダイアフラムなどにより構成されている。定量容器40は、各室50、51の内圧の変動により隔壁52が変位して各室50、51の容積が変動し、一方の室の容積が大きくなるとその分他方の室の容積が小さくなる。
【0025】
第1の回路41は、定量容器40の第1の室50に透析液を供給するためのものであり、例えば希釈液供給源60と2つの透析原液供給源61、62から第1の室50に通じている。例えば第1の回路41は、希釈液供給源60と第1の室50を接続する主回路63と、主回路63から分岐して各透析原液供給源61、62に通じる分岐回路64を有している。主回路63における分岐回路64との分岐部Aより上流側には、例えばポンプ65と開閉弁66が設けられている。主回路63の分岐部Aより下流側には、第1の室50への流路を開閉する開閉装置としての開閉弁67が設けられている。分岐回路64には、ポンプ68と、各透析原液供給源61、62に通じる流路を開閉する開閉弁69、70が設けられている。第1の回路41では、希釈液供給源60と透析原液供給源61、62から第1の室50に所定量の希釈液と原液を供給して透析液を生成できる。
【0026】
第2の回路42は、第1の室50の透析液を透析器10に供給するためのものであり、第1の室50から透析器10の膜20の二次側10bの入口端10eに通じている。第2の回路42には、透析器10への流路を開閉する開閉装置としての開閉弁80が設けられている。
【0027】
第3の回路43は、透析器10を通過した透析液を第2の室51に排出するためのものであり、透析器10の二次側10bの出口端10fから第2の室51に通じている。第3の回路43には、第2の室51への流路を開閉する開閉装置としての開閉弁90と、ポンプ91が設けられている。
【0028】
第4の回路44は、希釈液供給源60の希釈液を第2の室51に供給するためのものであり、第1の回路41の主回路63の分岐部Aより上流側にある分岐部Bから第2の室51に通じている。第4の回路44には、第2の室51への流路を開閉する開閉装置としての開閉弁100が設けられている。
【0029】
第5の回路45は、第2の室51の透析液や所定の液体としての希釈液を装置1の外部に排出するためのものであり、第2の室51から装置1の外部に通じている。第5の回路45には、開閉装置としての開閉弁110が設けられている。なお、本実施の形態においては、第1の回路41、第2の回路42が互いに接続されて定量容器40に接続されているが、それぞれが独立して定量容器40に接続されていてもよい。同様に第3の回路43、第4の回路44及び第5の回路45が互いに接続されて定量容器40に接続されているが、それぞれが独立して定量容器40に接続されていてもよい。
【0030】
血液透析装置1の作動は、制御手段としての制御装置120により実行されている。制御装置120は、例えばコンピュータであり、メモリに記憶された所定のプログラムを実行することによって、ポンプ34、65、68、91、開閉弁66、67、69、70、80、90、100、110などの動作を制御して、後述する血液回路11への補液方法及び血液透析装置1の作動方法を実行できる。
【0031】
次に、以上のように構成された血液透析装置1で行われる血液回路11への補液方法及び血液透析装置1の作動方法を、透析処理のプロセスと共に説明する。図2は、かかる透析処理の各工程における開閉弁67、80、90、100、110の開閉動作を示す説明図である。
【0032】
透析処理では、先ず、患者への透析が開始される前に、血液回路11を浄化するプライミング処理が行われる。この際、透析液回路12側の透析液を透析器10の膜20を通じて血液回路11側に供給する補液が行われる。
【0033】
プライミング処理では、先ず図3に示すように開閉弁80、90、100が閉鎖され、開閉弁67、110が開放され、第1の室50に透析液が供給される(図2に示す第1の工程S1)。このとき、例えば第1の回路41において開閉弁66が開放され、ポンプ65が作動し、希釈液供給源60の所定量の希釈液としての水が第1の室50に供給される。また、開閉弁69、70が開放され、ポンプ68が作動し、透析原液供給源61、62の2種類の所定量の原液が第1の室50に供給される。これにより、第1の室50が水と原液で満たされ、第1の室50において水と原液が所定の割合で混合し、所望の成分の清浄な透析液が生成される。
【0034】
また、第1の室50に透析液が供給されるとともに、隔壁52が第2の室51側に移動する。このとき予め第2の室51に貯留されていた例えば透析液は、第5の回路45を通じて装置1の外部に排出される。
【0035】
次に、図4に示すように開閉弁110、67が閉鎖され、開閉弁80、100が開放され、ポンプ65が作動し、希釈液供給源60の水が第4の回路44を通じて第2の室51に供給される(図2に示す第2の工程S2)。第2の室51に水が供給されると、隔壁52が第1の室50側に移動し、第1の室50に貯留されている透析液が第2の回路42を通じて透析器10の膜20の二次側10bに供給される。開閉弁90により第3の回路43は閉鎖されているため、透析器10の二次側10b供給されて行き場を失った透析液は膜20を通じて一次側10aに流出する。こうして、血液回路11側に透析液が補液される。透析器10の一次側10aに流出した透析液は、採血回路31と返血回路33に流出し、血液回路11が透析液で置換され、血液回路11が浄化される。
【0036】
次に、図5に示すように開閉弁80、100が閉鎖され、開閉弁67、110が開放され、再び第1の室50に透析液が供給される(図2に示す第3の工程S3)。このとき、上述した第1の工程S1と同様に第1の室50に水と原液が供給され、透析液が生成され充填される。また、この第1の室50への透析液の供給により、隔壁52が第2の室51側に移動し、第2の室51の水が第5の回路45を通じて装置1の外部に排出される。こうして、プライミング処理が終了する。なお、かかるプライミング処理は、初め第1の工程S1〜第3の工程S3を順次行い、その後第2の工程S2と第3の工程S3を交互に繰り返して、複数回血液回路11側に補液を行ってもよい。
【0037】
次に、患者への透析が行われる。血液回路11側では、ポンプ34が作動し、患者の血液が採血回路31を通じて透析器10に供給される。血液は、透析器10の一次側10aを通過し、返血回路33を通じて患者に戻される。
【0038】
透析液回路12側では、例えば図6に示すように開閉弁67、100、110が閉鎖され、開閉弁80、90が開放され、ポンプ91が作動して、第1の室50の透析液が第2の回路42を通じて透析器10に供給される(図2に示す第4の工程S4)。透析液は、透析器10の二次側10bを流れ、この際、一次側10aの血液内の不要物質が膜20を通過して二次側10bの透析液に取り込まれる。その後、透析器10を通過した透析液は、第3の回路43を通じて第2の室51に排出される。また、隔壁52の移動により、第1の室50の容積が減少した分、第2の室51の容積が増大するので、第1の室50から供給された透析液の量と、第2の室51に排出された透析液の量が同じになる。また、透析器10において取り込んだ不要物質分の透析液は、例えば第3の回路43に接続された図示しない分岐路から外部に排出される。
【0039】
次に、図7に示すように開閉弁80、90が閉鎖され、開閉弁67、110が開放され、上述の第1の工程S1や第3の工程S3と同様に、第1の室50に透析液が供給される(図2に示す第5の工程S5)。すなわち、希釈液供給源60と透析原液供給源61、62から第1の室50に第1の回路41を通じて水と原液が供給され、透析液が生成されることによって、第1の室50に透析液が供給される。また、透析液の供給により隔壁52が第2の室51側に移動し、第2の室51の透析液が第5の回路45を通じて装置1の外部に排出される。この第4の工程S4と第5の工程S5が交互に繰り返され、患者の透析が行われる。
【0040】
患者の透析が終了すると、血液回路11内に残存している血液を患者に戻す返血処理が行われる。この際、透析液回路12側の透析液を透析器10の膜20を通じて血液回路11側に供給する補液が行われる。
【0041】
返血処理における補液は、上述のプライミング処理と同様に行われる。すなわち、先ず第1の工程S1と同様に図3に示すように開閉弁80、90、110が閉鎖され、開閉弁67、100が開放され、第1の回路41を通じて第1の室50に透析液が供給される(図2に示す第6の工程S6)。このときの隔壁52の第2の室51側への移動により、第2の室51の透析液が第5の回路45を通じて装置1の外部に排出される。なお、透析終了時に第1の室50に透析液が既に充填されている状態の場合には、次の第7の工程S7から開始してもよい。
【0042】
次に、第2の工程と同様に図4に示すように開閉弁100、67が閉鎖され、開閉弁80、110が開放され、ポンプ65が作動し、希釈液供給源60の水が第4の回路44を通じて第2の室51に供給される(図2に示す第7の工程S7)。このときの隔壁52の第1の室50側への移動により、第1の室50の透析液が第2の回路42を通じて透析器10の膜20の二次側10bに供給される。開閉弁90により第3の回路43が閉鎖されているので、透析器10の二次側10b供給された透析液が膜20を通じて一次側10aに流出する。これにより、血液回路11側に透析液が補液され、透析液が、採血回路31と返血回路33に流出し、血液回路11内の血液が患者側に押し出され、返血される。
【0043】
次に、第3の工程と同様に図5に示すように開閉弁80、100が閉鎖され、開閉弁67、110が開放され、再び第1の回路41を通じて第1の室50に透析液が供給され、第2の室51の水が第5の回路45を通じて装置1の外部に排出される(図2に示す第8の工程S8)。こうして、返血処理が終了する。なお、かかる返血処理は、初め第6の工程S6〜第8の工程S8を順次行い、その後第7の工程S7と第8の工程S8を交互に繰り返して、複数回血液回路11側に補液を行ってもよい。
【0044】
以上の実施の形態によれば、プライミング処理時や返血処理時に、第1の回路41、第3の回路43及び第5の回路45を閉鎖した状態で、第4の回路44を通じて第2の室51に希釈液である水を供給し、隔壁52の第1の室50側への変位により第1の室50の透析液を透析器10に供給して、当該透析器10の膜20を通じて血液回路11側に透析液を供給できる。これにより、清浄な透析液を用いて補液を行うことができ、従来のように生理食塩水のバックを設置等する必要がないので、補液を簡単に行うことができる。また、透析を行う回路を利用できるので、補液を行う機能を簡単かつ安価に追加できる。
【0045】
第1の回路41は、第1の室50に透析液の原液と希釈液である水を供給し透析液を生成するものである。この場合、所望の成分の透析液を生成するために、第1の室50の容積によって予め規定される所定量の原液と水が第1の室50に送られる。このため、第1の室50に貯留される透析液の全体量を増やしてその分を補液に使うことができない構成となる。本発明によれば、かかる構成の回路において、第2の室51側に水を供給することにより、第1の室50での所望の透析液の生成を確保しつつ、第1の室50の透析液を用いた補液を実現できる。
【0046】
第4の回路44は、希釈液供給源60に連通し、所定の液体として透析液の希釈液である水を第2の室51に供給するものである。この場合、所定の液体として比較的安価な水を利用できるので、補液のために使用され排出される液体にかかるコストを抑え、補液を安価に行うことができる。また、希釈液を利用するので、新たに液体の供給源を設ける必要がなく、簡単かつ安価に補液の機能を追加できる。
【0047】
以上の実施の形態において、血液透析装置1は、第2の室51への水の供給量を調整する装置をさらに有していてもよい。かかる場合、例えば図8に示すように第4の回路44に、定量ポンプ130が設けられる。そして、補液を行う際には、例えば先ず、開閉弁110、67、90が閉鎖され、開閉弁80、100が開放され、ポンプ65が作動し、希釈液供給源60の水が第4の回路44を通じて第2の室51に供給され、第1の室50の透析液が第2の回路42を通じて透析器10の膜20の二次側10bに供給される。このとき、例えば定量ポンプ130により、第2の室51への水の供給量が調整される。この水の供給量は、第1の室50に充填されていた透析液の量より少なく設定される。よって、第1の室50から透析器10には、第2の室51への水の供給量と同量の一部の透析液が供給され、その分血液回路11に補液される。
【0048】
次に、図9に示すように開閉弁100が閉鎖され、開閉弁90が開放され、ポンプ91が作動し、第1の室50の残りの透析液が第2の回路42を通じて透析器10に供給され、透析器10を通過した透析液が第3の回路43を通じて第2の室51に排出される。
【0049】
かかる場合、血液回路11への補液量が調整できるので、目的に応じた適正な量の補液を行うことができる。なお、第2の室51への水の供給量を調整する装置は、定量ポンプ130に限られず、流量調整弁などの他の装置であってもよい。
【0050】
以上の実施の形態では、定量容器40が一つであったが、二つあってもよい。例えば図10に示すように第1の定量容器40aと、第2の定量容器40bが透析器10に対して並列的に接続される。なお、第1の定量容器40aと第2の定量容器40bが接続される回路構成は、上述の定量容器40と同様であるので、説明を省略して同じ符号を付す。
【0051】
補液を行う際には、例えば第1の定量容器40aにおいて、第4の回路44を通じて水が第2の室51に供給され、隔壁52が移動して、第1の室50の透析液が透析器10に供給されて、血液回路11に補液が行われる(補液工程)。このとき、第2の定量容器40bにおいて、第1の回路41を通じて第1の室50に透析液が供給され、隔壁52が移動して、第2の室51の水が第5の回路45を通じて装置1の外部に排出される(透析液補充工程)。次に、第1の定量容器40aにおいて、第1の室50への上記透析液補充工程が行われ、第2の定量容器40bにおいて、上記補液工程が行われる。各定量容器40a、40bにおいて、これらの補液工程と透析液補充工程が交互に行われ、いずれかの定量容器において補液工程が行われるので、血液回路11への補液を連続的に行うことができる。
【0052】
また、透析を行う際には、一方の定量容器において、第1の回路41を通じて第1の室50に透析液が供給され、第2の室51の透析液が第5の回路45を通じて装置1の外部に排出される(透析液補充工程)。このとき、他方の定量容器において、ポンプ91により、第1の室50の透析液が第2の回路42を通じて透析器10に供給され、透析器10を通過した透析液が第3の回路43を通じて第2の室51に排出されて、患者の透析が行われる(透析工程)。各定量容器40a、40bにおいて、これらの透析液補充工程と透析工程が交互に行われ、いずれかの定量容器において透析工程が行われるので、患者への透析を連続的に行うことができる。
【0053】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0054】
例えば以上の実施の形態では、血液回路11への補液がプライミング処理時や返血処理時に行われるものであったが、本発明は、透析処理の他の処理時に行う血液回路11への補液にも適用できる。例えば透析時に血液回路11内の血液の圧力を回復、上昇させるために行う補液にも本発明は適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、血液透析装置における血液回路への補液を簡単に行う際に有用である。
【符号の説明】
【0056】
1 血液透析装置
10 透析器
11 血液回路
12 透析液回路
40 定量容器
41 第1の回路
42 第2の回路
43 第3の回路
44 第4の回路
45 第5の回路
50 第1の室
51 第2の室
52 隔壁
60 希釈液供給源
67、80、90、100、110 開閉弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透析器の膜の一次側に血液を通過させる血液回路と、前記透析器の膜の二次側に透析液を通過させる透析液回路を有し、前記透析器において前記膜を通じて血液の透析を行う血液透析装置であって、
前記透析液回路は、
内部を第1の室と第2の室に隔て変位可能な隔壁を有する容器と、
前記容器の第1の室に透析液を供給するための第1の回路と、
前記第1の室の透析液を前記透析器に供給するための第2の回路と、
前記透析器を通過した透析液を前記容器の第2の室に排出するための第3の回路と、
前記第2の室に所定の液体を供給するための第4の回路と、
前記第2の室の透析液又は前記所定の液体を当該第2の室から排出するための第5の回路と、
前記第1の回路、前記第2の回路、前記第3の回路、前記第4の回路及び前記第5の回路の開閉を行う開閉装置と、を有する、血液透析装置。
【請求項2】
前記第1の回路は、前記容器の第1の室に透析液の原液と希釈液を供給し透析液を生成する、請求項1に記載の血液透析装置。
【請求項3】
前記第4の回路は、希釈液供給源に連通し、前記所定の液体として前記希釈液を前記第2の室に供給する、請求項2に記載の血液透析装置。
【請求項4】
前記第2の室への前記所定の液体の供給量を調整する装置を、さらに有する、請求項1〜3のいずれかに記載の血液透析装置。
【請求項5】
透析器の膜の一次側に血液を通過させる血液回路と、前記透析器の膜の二次側に透析液を通過させる透析液回路を有し、前記透析器において前記膜を通じて血液の透析を行う血液透析装置において、前記透析液回路の透析液を前記透析器の膜を通じて前記血液回路側に供給して補液を行う方法であって、
前記透析液回路は、
内部を第1の室と第2の室に隔て変位可能な隔壁を有する容器と、
前記容器の第1の室に透析液を供給するための第1の回路と、
前記第1の室の透析液を前記透析器に供給するための第2の回路と、
前記透析器を通過した透析液を前記容器の第2の室に排出するための第3の回路と、
前記第2の室に所定の液体を供給するための第4の回路と、
前記第2の室の透析液又は前記所定の液体を当該第2の室から排出するための第5の回路と、を有するものであり、
前記第1の回路、前記第3の回路及び前記第5の回路を閉鎖した状態で、前記第4の回路から前記容器の第2の室に前記所定の液体を供給し、前記容器の隔壁の前記第1の室側への変位により前記第1の室の透析液を前記透析器に供給して、当該透析器の膜を通じて前記血液回路側に透析液を供給する、血液回路への補液方法。
【請求項6】
前記第2の室への前記所定の液体の供給量を調整し、前記第1の室から前記透析器への透析液の供給量を調整して、前記透析器の膜を通じた前記血液回路側への透析液の供給量を調整する、請求項5に記載の血液回路への補液方法。
【請求項7】
透析器の膜の一次側に血液を通過させる血液回路と、前記透析器の膜の二次側に透析液を通過させる透析液回路を有し、前記透析器において前記膜を通じて血液の透析を行う血液透析装置の作動方法であって、
前記透析液回路は、
内部を第1の室と第2の室に隔て変位可能な隔壁を有する容器と、
前記容器の第1の室に透析液を供給するための第1の回路と、
前記第1の室の透析液を前記透析器に供給するための第2の回路と、
前記透析器を通過した透析液を前記容器の第2の室に排出するための第3の回路と、
前記第2の室に所定の液体を供給するための第4の回路と、
前記第2の室の透析液又は前記所定の液体を当該第2の室から排出するための第5の回路と、を有するものであり、
前記第1の回路、前記第3の回路及び前記第5の回路を閉鎖した状態で、前記第4の回路から前記容器の第2の室に前記所定の液体を供給させ、前記容器の隔壁の前記第1の室側への変位により前記第1の室の透析液を前記透析器に供給させて、当該透析器の膜を通じて前記血液回路側に透析液を供給させる制御手段が作動する、血液透析装置の作動方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−182927(P2011−182927A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−50850(P2010−50850)
【出願日】平成22年3月8日(2010.3.8)
【出願人】(000116806)旭化成クラレメディカル株式会社 (133)
【出願人】(000138037)株式会社メテク (11)
【Fターム(参考)】