説明

血清または血漿分離用組成物の滅菌方法

【課題】チクソトロピー性を有する血清または血漿分離用組成物に電子線を照射することにより滅菌する際に、電子線照射による発泡を抑制し得る、血清または血漿分離用組成物の滅菌方法を提供する。
【解決手段】チクソトロピー性を有する血清または血漿分離用組成物を滅菌するにあたり、前記血清または血漿分離用組成物中に、含有割合が全体の0.2重量%以上かつ5重量%以下となるように1−アルキル−2−ピロリドンを含有させて、電子線を照射することを特徴とする、血清または血漿分離用組成物の滅菌方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液から血清または血漿を分離するために用いられる血清または血漿分離用組成物を、電子線を照射することにより滅菌する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血液成分の比重差を利用して遠心分離により血液から血清または血漿を分離する方法が広く用いられている。分離を速やかに行うために、従来より、比重を血清あるいは血漿成分と血球成分との中間である1.03〜1.08に調整した血清または血漿分離用組成物が提案されている。
【0003】
上記血清または血漿分離用組成物としては、チクソトロピー性を有する組成物が用いられている。チクソトロピー性を有するので、検査用容器に収容された血清または血漿分離用組成物が、輸送や保管時に流れることを防止できる。また、採血後、遠心分離により血清または血漿分離用組成物からなる隔壁が形成されるが、該隔壁より上層の血清や血漿を別の容器に採取する際、あるいは輸送や保管時に、該隔壁が崩れ難い。
【0004】
例えば、下記の特許文献1には、液状樹脂成分に、比重調整及びチクソトロピー性付与の目的で、無機微粉末を分散させた分離用組成物が開示されている。ここでは、無機微粉末として、シリカ、ベントナイトのような二酸化ケイ素系無機微粉末、二酸化チタン系無機微粉末などが用いられている。また、特許文献1の従来技術の項では、上記液状樹脂成分としては、シリコーンオイル、α−オレフィン−マレイン酸ジエステル共重合体、アクリル樹脂、ポリエステル系共重合体などの、それ自体が液状である液状樹脂が開示されている。
【0005】
このような血清または血漿分離用組成物を使用するに際しては、上記血清または血漿分離用組成物や、上記血清または血漿分離用組成物を収容した容器をあらかじめ滅菌しておく必要がある。特許文献1及び2では、血清または血漿分離用組成物を収容した血液検査用容器を滅菌するために、Co60から放射されるγ線を上記血液検査用容器に照射している。γ線は透過力が強いため、嵩高い梱包物の滅菌が可能である。そのため、上記のようなCo60から放射されるγ線照射による滅菌は、血清または血漿分離用組成物を収容した血液検査用容器を滅菌する方法として広く利用されている。
【0006】
このようなγ線照射による滅菌を行うに際し、上記血清または血漿分離用組成物が発泡することがあった。下記の特許文献2には、血液分離剤組成物の発泡を抑制する方法が記載されている。具体的には、下記の特許文献2の実施例において、血液分離剤組成物にαメチルスチレンダイマーを添加することにより、γ線を照射した時の発泡を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−10122号公報
【特許文献2】特開2007−101322号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1等において使用されるγ線照射による滅菌方法では、γ線の透過力が強いため、γ線と物質との相互作用が起こりにくい。そのため、滅菌に必要な規定の吸収線量に到達するのに長時間を要し、滅菌効率が悪かった。
【0009】
さらに、滅菌に長時間を要する過程において、大気中の酸素が上記血清または血漿分離用組成物の内部深くに拡散移行する。このような酸素にγ線が照射されることにより、上記血清または血漿分離用組成物の内部深くで酸素ラジカルが生成する。従って、滅菌直後には材質劣化の兆候が見られなかったとしても、上記血清または血漿分離用組成物の材質劣化が経時的に進行するという非常に厄介な問題が起こることがあった。
【0010】
また、γ線を照射するために使用されるCo60は、自発的に崩壊してγ線を放射し続ける。そのため、時間の経過と共にCo60の量が減少する。更に、Co60の調達先も限られている。従って、滅菌に必要なコストが高くついていた。
【0011】
近年、γ線の代わりに電子線を照射することにより血清または血漿分離用組成物を滅菌する例が増えている。電子線照射による滅菌は、上記血清または血漿分離用組成物の嵩高さにもよるが、0.1MeV〜10MeV程度に加速した電子線を被照射物に照射することによって行われる。
【0012】
電子線の吸収線量は、γ線照射により滅菌する場合と同様に、滅菌保証レベルに応じて5kGy〜30kGy程度の範囲から選定される。このとき、電子線の照射による滅菌では、電流設定値を調整することによって、規定の吸収線量に到達するのに必要な時間を制御することができる。また、電子線は、電源のON/OFFで自由に照射を制御することができる。さらに、電子線は物質との相互作用が起こりやすいため、秒単位の極めて短い時間で、規定の吸収線量に到達させることができる。従って、滅菌効率が非常に高い。
【0013】
しかしながら、電子線と物質との相互作用は起こりやすい。そのため、極めて短時間の内にラジカルが局所的に高濃度で上記血清または血漿分離用組成物内部に生成し、上記血清または血漿分離用組成物が激しく発泡するという問題があった。他方、上記血清または血漿分離用組成物はチクソトロピー性を有する。従って、上記血清または血漿分離用組成物の発泡により気泡が生じると、上記気泡が上記血清または血漿分離用組成物の中に永続的に閉じ込められることがある。そのため、採血後の遠心分離時に、上記血清または血漿分離用組成物がちぎれ、血液中に油滴や油膜が発生するという問題が起こることがある。生じた油滴や油膜は測定装置を汚染し、血液成分の測定の際に誤った測定値を与えるおそれがある。
【0014】
このような発泡を抑制する方法として、特許文献2には、上述のようにαメチルスチレンダイマーを添加する方法が開示されている。しかしながら、特許文献2の実施例において具体的に示される方法は、γ線を照射した際の発泡抑制方法にすぎない。上述のように電子線は物質との相互作用が起こりやすいため、電子線照射による滅菌の際には、γ線照射による滅菌の際よりもさらに激しく発泡するが、特許文献2には、電子線照射による滅菌の際における具体的な発泡抑制方法は開示されていない。従って、電子線照射により生じる激しい発泡を抑制し得る方法が求められている。
【0015】
本発明の目的は、チクソトロピー性を有する血清または血漿分離用組成物に電子線を照射することにより滅菌する際に、電子線照射による発泡を抑制し得る、血清または血漿分離用組成物の滅菌方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本願発明者らは、チクソトロピー性を有する血清または血漿分離用組成物に電子線を照射することにより滅菌する方法において、上記課題を達成すべく鋭意検討した。その結果、前記チクソトロピー性を有する血清または血漿分離用組成物に、特定量の1−アルキル−2−ピロリドンを含有させ、電子線を照射することにより、電子線照射による発泡現象を解消することができることを見出し、本発明を完成させるにいたった。
【0017】
すなわち、本発明によれば、チクソトロピー性を有する血清または血漿分離用組成物を滅菌するにあたり、上記血清または血漿分離用組成物に、含有割合が全体の0.2重量%以上かつ5重量%以下となるように1−アルキル−2−ピロリドンを含有させて、電子線を照射することを特徴とする、血清または血漿分離用組成物の滅菌方法が提供される。
【0018】
また、本発明の血清または血漿分離用組成物の滅菌方法のある特定の局面では、上記血清または血漿分離用組成物が、αメチルスチレンダイマーに由来する2−フェニル−2−プロペニル基を有する化合物を含まない。本発明によれば、αメチルスチレンダイマーに由来する化合物を含んでいなくとも、電子線照射による発泡を抑制することができる。
【0019】
以下、本発明の詳細を説明する。
【0020】
(血清または血漿分離用組成物を滅菌する方法)
本発明の血清または血漿分離用組成物の滅菌方法では、チクソトロピー性を有する血清または血漿分離用組成物を滅菌するにあたり、上記血清または血漿分離用組成物に、含有割合が全体の0.2重量%以上かつ5重量%以下となるように1−アルキル−2−ピロリドンを含有させて、電子線を照射することにより滅菌する。
【0021】
上記血清または血漿分離用組成物は、チクソトロピー性を有する限り特に限定されず、血液成分の比重差を利用することにより血液から血清または血漿を分離するために用いられる従来公知の組成物を使用することができる。
【0022】
上記血清または血漿分離用組成物としては、例えば、液状樹脂成分に無機微粉末を分散させた組成物等を用いることができる。
【0023】
上記液状樹脂成分としては、好ましくは、5℃以上で液状であり、隔壁形成性を発現するために必要な流動性と比重を有する樹脂成分を用いることができる。ここに言う流動性とは、コーンプレート型ローターを装着したBROOKFIELD型回転粘度計における25℃の粘度(せん断速度=1sec−1)が500Pa・s以下であることを意味する。また、ここに言う比重は、25℃の水の密度に対する25℃の液状樹脂成分の密度比であって、0.9〜1.1、好ましくは1.02〜1.07であることを意味する。
【0024】
上記液状樹脂成分としては、シリコーン樹脂、α−オレフィン−フマル酸ジエステル共重合体系、アクリル系樹脂、ポリエステル、セバシン酸と2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオールと1,2−プロパンジオールとの共重合体系、ポリエーテルポリウレタン、もしくはポリエーテルエステル等の液状樹脂が挙げられる。また、ポリ−α−ピネンポリマーと塩素化炭化水素との液状混合物、塩素化ポリブテンとエポキシ化動植物油等の液状化合物との液状混合物、三弗化塩化エチレンやベンゼンポリカルボン酸アルキルエステル誘導体等とポリオキシアルキレングリコール等との液状混合物、あるいは、石油類のスチームクラッキングにより得られる、C5留分(シクロペンタジエン、イソプレン、ピペリレン、2−メチルブテン−1、2−メチルブテン−2等を含む)の単独または共重合物、C9留分(スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、インデン、クマロン等を含む)の単独または共重合物、前記C5留分とC9留分の共重合物等の未水添、部分水添、または完全水添物からなる、石油樹脂(石油系炭化水素樹脂とも言う)あるいはDCPD樹脂(シクロペンタジエン系石油樹脂とも言う)等とベンゼンポリカルボン酸アルキルエステル誘導体(例えばフタル酸エステル、トリメリット酸エステル、ピロメリット酸エステル)等との液状混合物等の、液体同士あるいは固体と液体を混合して得られる溶液なども用いることができる。
【0025】
上記無機微粉末としては特に限定されず、例えば、公知の気相法(乾式法とも言う)あるいは沈降法で製造されるシリカ、または、ベントナイト、スメクタイト等からなる粘土鉱物等の二酸化ケイ素系、あるいは二酸化チタン系、アルミナ系等の微粉末を用いることができる。上記無機微粉末は単独で用いてもよく、2種以上の無機微粉末を用いてもよい。
【0026】
上記液状樹脂成分に上記無機微粉末を分散させた上記組成物における、上記液状樹脂成分と上記無機微粉末との配合割合は、特に限定されないが、上記組成物全体に対して、上記無機微粉末の濃度を3重量%以下とすることが好ましい。その場合には、上記組成物の初期チクソトロピー性を長期に渡って安定に維持することができる。
【0027】
なお、特許文献2においては、γ線照射により生じる発泡を抑制するために、αメチルスチレンダイマーに由来する2−フェニル−2−プロペニル基を有する化合物を添加する方法が開示されている。しかしながら、特許文献2の実施例において具体的に開示されている方法は、電子線照射ではなく、あくまでγ線照射により生じる発泡を抑制する方法にすぎない。
【0028】
これに対し、本発明の血清または血漿分離用組成物の滅菌方法では、上記化合物を用いなくても、電子線照射により生じる発泡を効果的に抑制することができる。従って、上記血清または血漿分離用組成物は、αメチルスチレンダイマーに由来する2−フェニル−2−プロペニル基を有する化合物を含んでいてもよいが、含んでいなくともよい。
【0029】
上記1−アルキル−2−ピロリドンの種類は特に限定されないが、上記1−アルキル−2−ピロリドンに含まれるアルキル基の炭素数は18以下が好ましく、12以下がより好ましい。アルキル基が18以下の1−アルキル−2−ピロリドンとしては、例えば、1−メチル−2−ピロリドン、1−エチル−2−ピロリドン及び1−オクチル−2−ピロリドン等が挙げられる。
【0030】
さらに好ましくは、上記1−アルキル−2−ピロリドンとしては、1−エチル−2−ピロリドン及び1−オクチル−2−ピロリドン等のアルキル基の炭素数が2以上である1−アルキル−2−ピロリドンを用いることができる。その場合には、上記1−アルキル−2−ピロリドンの疎水性がより強くなる。そのため、1−アルキル−2−ピロリドンの血液中への溶出が抑制される。さらに、1−アルキル−2−ピロリドンに含まれるピロリドン環のカルボニル基と上記無機微粉末の表面に存在する水酸基との水素結合の形成が、嵩高いアルキル基によって抑制される。従って、上記血清または血漿分離用組成物の降伏値が過大になり難いため、より好ましい。
【0031】
なお、上記1−アルキル−2−ピロリドンとしては1種類の1−アルキル−2−ピロリドンを単独で用いてもよいし、2種以上の1−アルキル−2−ピロリドンの混合物を用いてもよい。
【0032】
上記血清または血漿分離用組成物に上記1−アルキル−2−ピロリドンを含有させる際の含有割合は、上記血清または血漿分離用組成物に上記1−アルキル−2−ピロリドンを含有させた後の組成物全体に対し0.2重量%以上かつ5重量%以下となるようにする。本発明では、上記血清または血漿分離用組成物に1−アルキル−2−ピロリドンを上記含有割合の範囲において含有させ、電子線を照射することにより、電子線照射による発泡を大幅に抑制することができる。
【0033】
上記含有割合が0.2重量%より少ないと、電子線照射による発泡を充分に抑制できないことがある。また、上記配合割合が5重量%より高いと、発泡抑制効果はあるものの、1−アルキル−2−ピロリドンが親水性を有するために、上記血清または血漿分離用組成物が血液中の水分を吸収して白濁することがある。なお、電子線照射による発泡をより効果的に抑制するためには、上記含有割合が0.4重量%以上かつ4重量%以下となるように上記1−アルキル−2−ピロリドンを配合させるのが好ましい。
【0034】
上記1−アルキル−2−ピロリドンを上記血清または血漿分離用組成物に含有させる方法は、上記含有割合が全体の0.2重量%以上かつ5重量%以下となる限り、特に限定されない。上記方法としては、例えば、プラネタリーミキサー、ロールミル、ホモジナイザー等の公知の混練方法などが挙げられる。
【0035】
なお、上記血清または血漿分離用組成物を調製する際において上記1−アルキル−2−ピロリドンを添加し、1−アルキル−2−ピロリドンを含有した上記血清または血漿分離用組成物を得てもよい。もっとも、上記血清または血漿分離用組成物をあらかじめ調製しておき、その後に上記1−アルキル−2−ピロリドンを上記血清または血漿分離用組成物に添加してもよい。
【0036】
上記血清または血漿分離用組成物に上記1−アルキル−2−ピロリドンを含有させた組成物に対し、上記電子線を照射させる方法は特に限定されず、従来公知の方法により電子線を照射すればよい。
【0037】
また、上記のように電子線を照射することにより上記血清または血漿分離用組成物を滅菌するに際しては、上記血清または血漿分離用組成物に上記1−アルキル−2−ピロリドンを含有させた後の組成物全体を検査用容器にあらかじめ収納しておき、その後に上記検査用容器の外側から電子線を照射させることにより、上記血清または血漿分離用組成物を滅菌してもよい。
【0038】
上記検査用容器は特に限定されず、一端に開口部を有する有底管状容器などの公知の検査用容器を用いることができる。また、上記検査用容器は、上記検査用容器の内部に収納された上記血清または血漿分離用組成物を、上記検査用容器の外側から照射された電子線により滅菌するために、電子線を透過する材質により形成されることが好ましい。
【0039】
(滅菌された血清または血漿分離用組成物により血液を分離する方法)
本発明の滅菌方法により滅菌された血清または血漿分離用組成物を用いることにより、血清または血漿を血液から分離することができる。上記分離に際しては、例えば、上記血液検査用容器の底部あるいは側壁に、血清または血漿分離用組成物を収容し、しかる後、検体としての血液を容器内に採取する。
【0040】
このとき、上述のように、上記1−アルキル−2−ピロリドンを含有させた後の上記血清または血漿分離用組成物を検査用容器にあらかじめ収納しておき、検体としての血液を容器内に採取する前に、上記検査用容器の外側から電子線を照射させ、上記血清または血漿分離用組成物を滅菌してもよい。
【0041】
そして、遠心分離装置により遠心分離を行うと、血液中の細胞成分が下方に沈降し、上澄みとして血清または血漿が得られる。このとき、上記血清または血漿分離用組成物は、これらの中間層に位置して、両者を隔離する隔壁を形成する。
【0042】
なお、血漿を分離するには、ヘパリンやエチレンジアミン四酢酸等のアルカリ金属塩のような抗凝固剤を、予め、血液及び/または血液検査用容器内に添加、あるいは容器内壁面に塗布しておけばよい。
【0043】
また、血清を分離するには、抗凝固剤を用いることなく、血液検査用容器に血液を採取し、上記凝固させた後に、遠心分離を行えばよい。なお、血液の凝固を促進させる必要がある場合は、シリカ、またはベントナイト、スメクタイト等からなる粘土鉱物等の微粉末、あるいはトロンビン等の血液の凝固を促進させる物質を、予め、血液及び/または血液検査用容器内に添加、あるいは容器内壁面に塗布しておけばよい。
【発明の効果】
【0044】
本発明の第1の態様により提供される血清または血漿分離用組成物の滅菌方法では、上記血清または血漿分離用組成物に、含有割合が全体の0.2重量%〜5重量%の範囲となるように1−アルキル−2−ピロリドンを含有させて、電子線を照射するため、電子線照射による発泡を大幅に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】実施例及び比較例の滅菌方法による血清または血漿分離用組成物の発泡度合の評価方法を説明するための、電子線を照射し終えた直後の血清または血漿分離用組成物の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下、本発明の具体的な実施例及び比較例を挙げることにより、本発明を明らかにする。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0047】
実施例及び比較例において用いた物質は以下の通りである。
【0048】
(液状樹脂成分として使用した物質)
【0049】
【表1】

【0050】
(無機微粉末として使用した物質)
【0051】
【表2】

【0052】
(1−アルキル−2−ピロリドンとして使用した物質)
【0053】
【表3】

【0054】
(検査容器内壁面に塗布した血液凝固剤として使用した物質)
【0055】
【表4】

【0056】
(実施例1〜4)
液状樹脂成分として、シクロペンタジエン系オリゴマー(エクソンモービル社製、商品名:ESCOREZ5690)と、トリメリット酸エステル(大日本インキ化学工業社製、商品名:モノサイザーW700)とを130℃で溶解し、液状樹脂成分を調製した。この液状樹脂成分に、1−アルキル−2−ピロリドンとして、1−メチル−2−ピロリドン(和光純薬工業社製、1−メチル−2−ピロリドン)または1−エチル−2−ピロリドン(和光純薬工業社製、1−エチル−2−ピロリドン)を溶解させ、約30℃まで冷却した。次に、無機微粉末として、疎水性微粉末シリカ(日本アエロジル社製、商品名:アエロジルR974)を、プラネタリーミキサーで前記液状樹脂成分を攪拌しつつ、分散させた。このようにして、1−アルキル−2−ピロリドンを含有した血清または血漿分離用組成物を得た。得られた上記血清または血漿分離用組成物の比重は1.06であった。
【0057】
各成分の配合割合は下記の表5に示すとおりである。具体的には、実施例1〜3では1−メチル−2−ピロリドンを0.4、1、及び5%を使用し、実施例4では1−エチル−2−ピロリドンを1%使用して、血清または血漿分離用組成物を得た。なお、ESCOREZ5690及びアエロジルR974の配合量は、それぞれ52%及び4%と一定とした。モノサイザーW700の配合量は、1−アルキル−2−ピロリドンを配合する量に応じて減量した。
【0058】
続いて、7mL容量のポリエチレンテレフタレート製試験管(外直径13mm×長さ100mm、肉厚1.3mm)110本に、得られた上記1−アルキル−2−ピロリドンを含有した血清または血漿分離用組成物を約0.9gずつ収容した。その後、上記試験管の内壁面に、カオリン(竹原化学工業社製、商品名:RC−1)2重量%及びポリオキシアルキレン変性シリコーンオイル(東レ・ダウコーニング社製、商品名:SH3749)0.1重量%を含む水懸濁液を、約10mg/本の割合で噴霧し、その後乾燥することにより、血液検査用容器を110本作製した。その後、前記血液検査用容器の内部を5kPaに減圧し、ブチルゴム栓により密封した。
【0059】
上記血液検査用容器のうち100本に対し、上記血液検査用容器を作製後1週間以内に、加速電圧を4.8MeV、電流値を10mAとして、上記血液検査用容器の頭部から底部に向かう方向に電子線を照射した。上記電子線の吸収線量は、上記血液検査用容器の頭部において30kGyとなるように設定した。このようにして、上記血液検査用容器を滅菌した。
【0060】
(比較例1)
1−アルキル−2−ピロリドンを用いなかったこと、及び各成分の配合割合を表5に示したように変更したことを除いては、実施例1〜4と同様にして、血清または血漿分離用組成物を得て、血液検査用容器を作製し、滅菌した。
【0061】
(比較例2)
1−アルキル−2−ピロリドンとして、1−メチル−2−ピロリドンを0.1%配合し、各成分の配合割合を表5に示したように変更したことを除いては、実施例1〜4と同様にして、血清または血漿分離用組成物を得て、血液検査用容器を作製し、滅菌した。
【0062】
【表5】

【0063】
(評価方法)
1)電子線滅菌による発泡の評価
実施例1〜4及び比較例1〜2により滅菌された各100本の血液検査用容器中の血清または血漿分離用組成物の発泡度合を確認した。すなわち、電子線を照射し終えた直後の各100本の血液検査用容器について、血液検査用容器中の血清または血漿分離用組成物の発泡の有無及び発泡した場合にはその発泡度合を、下記の表6に示した4段階のスコアにより評価して、評価結果を下記の表7に示した。
【0064】
なお、図1は、表6に示した4段階のスコアについて説明するための、電子線を照射し終えた直後の血清または血漿分離用組成物の写真である。図1の左端に示す血清または血漿分離用組成物中には発泡が見られない。このように、発泡が見られない場合のスコアを0とした。また、図1の左端以外に示す血清または血漿分離用組成物中には発泡が見られるが、その場合には、発泡により生じた泡の体積の分だけ、血液検査用容器内に収容されている血清または血漿分離用組成物の上面の高さが上昇している。このように、図1の血液検査用容器内に収容されている分離用組成物の上面の高さの上昇距離が2mm以下の場合のスコアを1とし、該上昇距離が2mmを超え、かつ5mm以下の範囲の場合のスコアを2とし、該上昇距離が5mmを超える場合のスコアを3とした。例として、スコアが1〜3の場合における血清または血漿分離用組成物の発泡状態を、図1の左端から2番目(スコア1)、3番目(スコア2)及び4番目(スコア3)に示す。
【0065】
【表6】

【0066】
【表7】

【0067】
表7から明らかなように、比較例1では100本全ての血液検査用容器において、比較例2では70本の血液検査用容器において多量の発泡が認められた。これに対し、実施例1〜4では発泡が認められた血液検査用容器の本数が、それぞれ20、4、1、および3本と少なかった。従って、本発明の滅菌方法により血清または血漿分離用組成物を滅菌することにより、電子線照射時における発泡が比較例に比べて著しく抑制されていた。
【0068】
2)血液分離性の評価
実施例1〜4及び比較例1〜2により滅菌された上記血清または血漿分離用組成物を収容した血液検査用容器のうち、発泡が見られたものを優先的に選択して、計4本に、ボランティアのヒト新鮮血を3mL/本の割合で採取し、転倒混和した。続いて、血液の凝固が完了したことを確認した後に、上記血液検査用容器を20℃で1700G×5分の条件により遠心分離した。
【0069】
その後、遠心分離によって血清と血餅成分とを分離するために形成される上記血清または血漿分離用組成物による隔壁、溶血の有無、油状浮遊物及び油膜の有無を目視により観察した。評価結果を以下の表8に示した。
【0070】
【表8】

【0071】
表8から明らかなように、血液分離性の評価においても、実施例1〜4及び比較例2の滅菌方法により滅菌された血清または血漿分離用組成物を用いた遠心分離では、上記血清または血漿分離用組成物が良好な隔壁形成性を示すとともに、溶血も見られず、遠心分離された血液成分中には油状浮遊物や油膜も発生しなかった。これに対し、比較例1の滅菌方法により滅菌された血清または血漿分離用組成物を用いた遠心分離においては、隔壁形成性は良好かつ溶血も見られなかったものの、遠心分離された血液成分中に油状浮遊物および油膜が、検討した4本中2本に発生した。
【0072】
以上のように、実施例1〜4の滅菌方法を用いることにより、血清または血漿分離用組成物の電子線照射時の発泡が抑制されることがわかる。さらに、このようにして滅菌された血清または血漿分離用組成物は、血液分離に用いた際にも良好な隔壁形成性を示し、油滴の発生もないことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チクソトロピー性を有する血清または血漿分離用組成物を滅菌するにあたり、前記血清または血漿分離用組成物中に、含有割合が全体の0.2重量%以上かつ5重量%以下となるように1−アルキル−2−ピロリドンを含有させて、電子線を照射することを特徴とする、血清または血漿分離用組成物の滅菌方法。
【請求項2】
前記血清または血漿分離用組成物が、αメチルスチレンダイマーに由来する2−フェニル−2−プロペニル基を有する化合物を含まない、請求項1に記載の血清または血漿分離用組成物の滅菌方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−61283(P2013−61283A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−200821(P2011−200821)
【出願日】平成23年9月14日(2011.9.14)
【出願人】(390037327)積水メディカル株式会社 (111)
【Fターム(参考)】