説明

血球凝集素およびマトリックスタンパク質を含むインフルエンザウイルスワクチン

インフルエンザウイルス血球凝集素およびマトリックスタンパク質を含む免疫原性組成物。これらは卵よりもむしろ細胞培養において増殖させたインフルエンザウイルスからであってもよい。このマトリックスタンパク質は、全長ウイルスマトリックスタンパク質の断片(例えば20kDa未満の分子量のマトリックスM1断片)であってもよい。この組成物は、精製された表面糖タンパク質を含むサブユニットワクチンであってもよい。また別の実施形態において、(i)細胞培養においてインフルエンザウイルスを増殖させる工程と;(ii)抗原組成物が血球凝集素およびマトリックスタンパク質を含むことを特徴として、工程(i)で増殖させたウイルスから抗原組成物を調製する工程と;(iii)免疫原性組成物を生ずるために、薬学的担体に抗原組成物を組み合わせる工程とを含む免疫原性組成物調製の方法もまた提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書において引用されたすべての書類は、それらの全体の参照により組み入れられる。
【0002】
本発明は、インフルエンザウイルス感染に対する防御のためのワクチン、および特にマトリックスタンパク質を含むワクチンの分野である。
【背景技術】
【0003】
インフルエンザウイルスワクチンの様々な形式が、現在利用可能である(例えば、参考文献1の17および18章を参照)。ワクチンは、一般に生ウイルスまたは非活化ウイルスのいずれかに基づく。不活化ワクチンは、全ビリオン、「スプリット」ビリオン、または精製された表面抗原に基づいてもよい。
【0004】
血球凝集素(HA)は不活性化されたインフルエンザワクチンの主要な免疫原であり、ワクチン用量は典型的には、一元放射免疫拡散(SRID)分析により測定されて、HAレベルへの参照により標準化される。現行ワクチンは典型的には、1用量あたり1株あたり約15μgのHAを含む。インフルエンザHAの含有に加えて、ワクチンはさらにインフルエンザウイルスタンパク質を含むことができる。例えば、現行ワクチンはすべてノイラミニダーゼ(NA)を含んでいる。参考文献2(非特許文献1)は、ヨーロッパのインフルエンザワクチンが、かなりの量の他のインフルエンザウイルスタンパク質も含むことを報告する。例えば、マトリックス(M)タンパク質は、精製表面抗原ワクチンではなくスプリットワクチンで見出された。
【0005】
参考文献2(非特許文献1)は、インフルエンザウイルス抗原に加えて、ワクチンがオボアルブミンのような卵由来タンパク質も含むことを報告する。ワクチン製造におけるインフルエンザウイルス増殖の標準的な方法が、ウイルスが卵内容物(尿膜腔液)から精製されている孵化鶏卵を使用するので、これらのタンパク質は生じる。
【非特許文献1】Chaloupkaら、Eur J Clin Microbiol Infect Dis(1996)15:121−7
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0006】
ワクチン製造においてウイルス増殖に卵を使用するよりはむしろ、細胞培養においてウイルスを増殖させることが提案された。この技法を調べている間に、本発明者は思いがけずマトリックス配列を検出した。特に、参考文献2では卵で増殖させたビリオンから調製された精製表面抗原ワクチン中でマトリックスタンパク質は見出されなかったが、本発明者は細胞培養において増殖させたビリオンから調製された精製表面抗原ワクチン中でマトリックスタンパク質を検出した。
【0007】
したがって、本発明は、細胞培養において増殖させたウイルスから調製されるインフルエンザウイルス血球凝集素およびマトリックスタンパク質を含む免疫原性組成物を提供する。
【0008】
本発明は、組成物がオボアルブミンを含まないことを特徴として、インフルエンザウイルス血球凝集素およびマトリックスタンパク質を含む免疫原性組成物もまた提供する。この組成物は、他の卵タンパク質(例えばオボムコイド)およびニワトリDNA不含でもありえる。
【0009】
本発明は、(i)細胞培養においてインフルエンザウイルスを増殖させる工程と;(ii)抗原組成物が血球凝集素およびマトリックスタンパク質を含むことを特徴として、工程(i)で増殖させたウイルスから抗原組成物を調製する工程と;(iii)免疫原性組成物を生ずるために、薬学的担体に抗原組成物を組み合わせる工程とを含む免疫原性組成物調製の方法もまた提供する。
【0010】
調べられた特定のマトリックスタンパク質は、M1の断片である。全長M1タンパク質は27.8kDaタンパク質であるが、観察された断片は低分子量SDS−PAGEゲル上で約5kDaの分子量である(以下を参照)。このタンパク質は高度に保存されたアミノ酸配列LSYSXGALA(配列番号1)、ここでXはAまたはT、を含む。したがって本発明は、マトリックスタンパク質が20kdDa未満の分子量を有しており、配列番号1に少なくとも50%の同一性(例えば少なくとも60%、70%、80%、85%、90%、95%またはそれ以上)を有するアミノ酸配列を含むことを特徴として、インフルエンザウイルス血球凝集素およびマトリックスタンパク質を含む免疫原性組成物を提供する。観察された別のM1断片は約75アミノ酸長であり、完全なM1配列のN末端メチオニンを欠く(例えばそれは、アミノ酸配列の配列番号28または配列番号29を有する)。したがって本発明は、マトリックスタンパク質が天然のM1配列のN末端メチオニンを欠くM1タンパク質である、インフルエンザウイルス血球凝集素およびマトリックスタンパク質を含む免疫原性組成物を提供する。マトリックスタンパク質は、配列番号28または配列番号29に少なくとも50%の同一性(例えば少なくとも60%、70%、80%、85%、90%、95%またはそれ以上)を有するアミノ酸配列を含んでもよい。この断片は、N末端メチオニンの欠損に加えて、N末端メチオニンから下流の1つまたは複数のさらなるアミノ酸を欠いてもよい。
【0011】
これらの組成物は好ましくは細胞培養において増殖させたウイルスから調製されるが、それらはあるいは他の手段で、例えば卵由来ワクチンにマトリックスタンパク質を追加することにより、マトリックスタンパク質の産生および存在をもたらす卵由来ビリオンの精製プロトコールの使用により、組換えにより発現されたHA(および任意で他の組換えにより発現されたタンパク質)にマトリックスタンパク質を組み合わせることなどにより、調製することができる。
【0012】
抗原成分の調製
本発明は全ビリオン(WV)抗原を使用せず、すなわち生ウイルスまたは不活性化全ビリオンを使用するワクチンを含まない。その代りに、本発明の抗原は、スプリットビリオンのような非WV抗原または精製表面抗原である。本発明の組成物は、少なくとも2つのインフルエンザウイルス抗原、すなわち血球凝集素およびマトリックスを含む。それらは、ノイラミニダーゼのような他のインフルエンザウイルス抗原も含んでもよい。抗原は典型的には、インフルエンザビリオン(好ましくは細胞培養において増殖させた)から調製されるだろうが、いくつかの実施形態において、抗原は組換え宿主において(例えばパキュロウイルスベクターを使用する昆虫株化細胞において)発現させることができ、精製された形式で使用することができる[3、4]。しかしながら一般に、抗原はビリオンからであるだろう。
【0013】
ビリオンからの非WV抗原調製において、ビリオンは不活性化されてもよい。ウイルス不活性化のための化学的手段は、界面活性剤、ホルムアルデヒド、β−プロピオラクトンまたはメチレンブルー、ソラレン、カルボキシフラーレン(C60)、二成分エチルアミン、アセチルエチレンイミン、またはその組合せの薬剤のうちの1つまたは複数の効果的な量による処理を含む。ウイルス不活性化の非化学的な方法は、例えば紫外線またはガンマ線照射などが当技術分野において公知である。
【0014】
ビリオンは、ウイルス含有液体から様々な方法によって採取することができる。例えば精製過程は、ビリオンを破壊するために界面活性剤を含む直線ショ糖勾配溶液を使用する、ゾーン遠心法を含んでもよい。次に抗原は、ダイアフィルトレーションによって、任意で希釈後に精製されてもよい。
【0015】
スプリットビリオンは、サブビリオン調製品を産生するために、界面活性剤(例えばエチルエーテル、ポリソルベート80、デオキシコレート、トリ−N−ブチルリン酸、トリトンX−100、トリトンΝ101、臭化セチルトリメチルアンモニウム、タージトール(Tergitol)ΝP9など)により精製ビリオンを処理すること(「ツイーン−エーテル」スプリッティング過程を含む)によって得られる。インフルエンザウイルスのスプリッティング法は、当技術分野において周知であり、例えば参考文献5〜10などを参照。ウイルスのスプリッティングは、スプリッティング剤の破壊にふさわしい濃度により、感染性か無感染性かにかかわらず、全ウイルスの破壊または断片化によって典型的には実行される。破壊により、ウイルスの構造全体性は変化し、ウイルスタンパク質の完全な可溶化または部分的な可溶化がもたらされる。好ましいスプリッティング剤は、非イオン性界面活性剤およびイオン性(例えば陽イオン性)界面活性剤であり、例えばアルキルグリコシド、アルキルチオグリコシド、アシル糖、スルホベタイン、ベタイン、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、N,N−ジアルキル−グルカミド、ヘカメグ(Hecameg)、アルキルフェノキシ−ポリエトキシエタノール、第四級アンモニウム化合物、サルコシル、CTAB(臭化セチルトリメチルアンモニウム)、トリ−N−ブチルリン酸、セタブロン、ミリスチルトリメチルアンモニウム塩、リポフェクチン、リポフェクタミン、およびDOT−MA、オクチルフェノキシポリオキシエタノールまたはノニルフェノキシポリオキシエタノール(例えばトリトンX−100またはトリトンN101のような、トリトン界面活性剤)ポリオキシエチレンソルビタンエステル(ツイーン界面活性剤)、ポリオキシエチレンエーテル、ポリオキシエチレンエステルなどである。有益なスプリッティング手順の1つは、デオキシコール酸ナトリウムおよびホルムアルデヒドの連続効果を使用し、スプリッティングは、ビリオン精製初期(例えばショ糖密度勾配溶液において)の間に起こる。したがって、スプリッティング過程は、ビリオン含有物質の清澄化(非ビリオン物質を除去するため)、採取されたビリオンの濃縮(例えば、CaHPO吸着のような吸着方法を使用して)、非ビリオン物質からの全ビリオンの分離、密度勾配遠心分離工程においてスプリッティング剤を使用するビリオンのスプリッティング(例えば、デオキシコール酸ナトリウムのようなスプリッティング剤を含むショ糖勾配を使用して)、および次に所望されない物質を取り出すための濾過(例えば限外濾過)を含むことができる。スプリットビリオンは、リン酸ナトリウム緩衝等張食塩水中に有用に再懸濁することができる。ベグリバック(BEGRIVAC)(商標)、フルアリックス(FLUARIX)(商標)、フルゾーン(FLUZONE)(商標)およびフルシールド(FLUSHIELD)(商標)製品は、スプリットワクチンである。
【0016】
精製表面抗原ワクチンは、インフルエンザ表面抗原の血球凝集素および典型的にはノイラミニダーゼもまた含む。精製された形式でこれらのタンパク質を調製する過程は、当技術分野において周知である。フルビリン(FLUVIRIN)(商標)、アグリッパル(AGRIPPAL)(商標)およびインフルバック(INFLUVAC)(商標)製品はサブユニットワクチンである。
【0017】
インフレキシアル(INFLEXAL)V(商標)およびインババック(INVAVAC)(商標)製品でのように、インフルエンザ抗原は、ビロゾーム[11](核酸不含有ウイルス様リポソーム粒子)の形式でも提示することができるが、本発明と共にビロゾームを使用しないことが好まれる。したがっていくつかの実施形態において、インフルエンザ抗原はビロゾームの形式で存在しない。
【0018】
インフルエンザウイルスは弱毒化されてもよい。インフルエンザウイルスは温度感受性であってもよい。インフルエンザウイルスは低温適応性であってもよい。抗原として生ウイルスを使用するときには、これらの3つの特徴は特に有益である。
【0019】
ワクチンで使用されるインフルエンザウイルス株はシーズンごとに変わる。現行の汎流行中間期において、ワクチンは典型的には2つのインフルエンザA型株(H1N1およびH3N2)および1つのインフルエンザB型株を含み、三価ワクチンが典型的である。本発明は、H2、H5、H7またはH9サブタイプ株(特にインフルエンザA型ウイルスの)のような汎流行株(すなわちワクチン接種者および一般的なヒト集団に対して免疫学的にナイーブである株)からのHAもまた使用してもよく、汎流行株のためのインフルエンザワクチンは単味ワクチンであってもよいか、または汎流行株によって補われた通常の三価ワクチンに基づいてもよい。しかしながらシーズンおよびワクチンに含まれる抗原の性質に依存して、本発明は、1つまたは複数のインフルエンザA型ウイルスHAサブタイプのH1、H2、H3、H4、H5、H6、H7、H8、H9、H10、H11、H12、H13、H14、H15またはH16に対して防御してもよい。本発明は、1つまたは複数のインフルエンザA型ウイルスNAサブタイプのN1、N2、N3、N4、N5、N6、N7、N8またはN9に対して防御してもよい。
【0020】
本発明の組成物は、汎流行中間期の株に対する予防接種に適切であることに加えて、汎流行株に対する予防接種に特に有用である。インフルエンザ株に汎流行の大発生をもたらす潜在能力を付与する特性は、(a)インフルエンザ株が現在流行しているヒト株における血球凝集素と比較して新しい血球凝集素、すなわち10年間以上ヒト集団において明らかでない血球凝集素(例えばH2)、または今までにヒト集団で全く見られたことのない血球凝集素(例えばトリ集団中でのみ一般的には見出されるH5、H6またはH9)を含み、ヒト集団がインフルエンザ株の血球凝集素に免疫学的にナイーブであることと;(b)インフルエンザ株がヒト集団において水平感染を起こしうることと;(c)インフルエンザ株がヒトに対して病原性であることである。H5血球凝集素タイプを有するウイルスは、H5N1株のような汎流行インフルエンザに対する予防接種に好ましい。他の可能な株は、H5N3、H9N2、H2N2、H7N1およびH7N7、ならびに他の汎流行の可能性のある新興株を含む。H5サブタイプ内で、ウイルスは、HAクレード1、HAクレード1’、HAクレード2またはHAクレード3に分類され[12]、特にクレード1および3は関連する。
【0021】
抗原が組成物中に有用に含まれることが可能な他の株は、耐性汎流行株[14]を含む、抗ウイルス薬の治療に対して耐性のある(例えば、オセルタミビル[13]および/またはザナミビルに対して耐性のある)株である。
【0022】
本発明の組成物は、インフルエンザA型ウイルスおよび/またはインフルエンザB型ウイルスを含む、1つまたは複数の(例えば1、2、3または4以上の)インフルエンザウイルス株からの抗原を含んでいてもよい。単味ワクチンは好ましくなく、ワクチンがインフルエンザの1つ以上の株を含んでいる場合には、異なる株は典型的には別々に増殖させ、ウイルスが採取され抗原が調製された後に混合される。したがって、本発明の過程は、1つ以上のインフルエンザ株からの抗原を混合する工程を含んでもよい。三価ワクチンは、2つのインフルエンザA型ウイルス株および1つのインフルエンザB型ウイルス株からの抗原を含んでおり、好ましい。
【0023】
本発明のいくつかの実施形態において、組成物は単一のインフルエンザA型株からの抗原を含んでいてもよい。いくつかの実施形態において、A型株からの2つの株がH1N1およびH3N2でなければ、組成物は2つのインフルエンザA型株からの抗原を含んでもよい。いくつかの実施形態において、組成物は、2つ以上のインフルエンザA型株からの抗原を含んでもよい。
【0024】
インフルエンザウイルスはリアソータント株であってもよいし、リバースジェネティクス技術によって得られてもよい。リバースジェネティクス技術[例えば、15〜19]により、プラスミドを使用して、所望のゲノムセグメントを有するインフルエンザウイルスのインビトロでの調製を可能にする。典型的には、細胞中での両方のタイプのDNAの発現が完全な状態の感染性ビリオンの集合を導くように、(a)例えばpolIプロモーターから、所望のウイルスRNA分子をコードするDNA分子、および(b)例えばpolIIプロモーターから、ウイルスタンパク質をコードするDNA分子の発現を含む。DNAは好ましくはウイルスRNAおよびウイルスタンパク質をすべて提供するが、RNAおよびタンパク質のうちのいくつかを提供するためにヘルパーウイルスを使用することも可能である。各ウイルスRNAの産生に個別のプラスミドを使用するプラスミドに基づく方法が好ましく[20〜22]、これらの方法は、さらにウイルスタンパク質のすべてまたはいくつか(例えばPB1、PB2、PAおよびNPタンパク質だけ)を発現するためにいくつかの方法において使用されている12のプラスミドによる、プラスミドの使用も含むだろう。
【0025】
必要とされるプラスミドの数を減少させるために、最近のアプローチ[23]は、同一のプラスミド上に(ウイルスRNA合成のための)複数のRNAポリメラーゼI転写カセット(例えば1、2、3、4、5、6、7または8つすべてのインフルエンザA型vRNAセグメントをコードする配列)、および別のプラスミド上にRNAポリメラーゼIIプロモーターを有する複数のタンパク質をコードする領域(例えば1、2、3、4、5、6、7または8つすべてのインフルエンザA型mRNA転写物をコードする配列)を組み合わせる。参考文献23の方法の好ましい態様は、(a)単一のプラスミド上に、PB1、PB2およびPAのmRNAをコードする領域と;(b)単一のプラスミド上にすべての8つのvRNAをコードするセグメントとを含む。1つのプラスミド上にNAおよびHAのセグメントおよび別のプラスミド上に6つの他のセグメントを含むことは、さらに問題を容易にするかもしれない。
【0026】
ウイルスRNAセグメントをコードするpolIプロモーターの使用に対する代替物として、バクテリオファージポリメラーゼプロモーターの使用が可能である[24]。例えば、SP6、T3またはT7ポリメラーゼのプロモーターは都合よく使用することができる。polIプロモーターの種特異性のために、外来性ポリメラーゼ酵素をコードするプラスミドで細胞をトランスフェクションしなければならないが、バクテリオファージポリメラーゼプロモーターは多くの細胞タイプ(例えばMDCK)に、より都合よくなりえる。
【0027】
他の技術において、同時に単一の鋳型からウイルスRNA、および発現可能なmRNAをコードする2のpolIおよびpolIIプロモーターを使用することは可能である[25、26]。
【0028】
したがって、インフルエンザA型ウイルスは、A/PR/8/34ウイルスからの1つまたは複数のRNAセグメントを含んでもよい(典型的には、ワクチン株からHAセグメントおよびNセグメントと共に、A/PR/8/34からの6つのセグメント、すなわち6:2リアソータント)。それは、A/WSN/33ウイルスからの、またはワクチン調製のためのリアソータントウイルスを生じさせるために有用な他のウイルス株からの1つまたは複数のRNAセグメントもまた含んでもよい。典型的には、本発明は、ヒトからヒトへの感染が可能な株に対して防御し、そのため通常は、株のゲノムは、哺乳類(例えばヒトにおいて)インフルエンザウイルスから生じた少なくとも1つのRNAセグメントを含むだろう。それは、トリインフルエンザウイルスから生じたNSセグメントを含んでもよい。
【0029】
抗原源として使用されるウイルスは、一般には細胞培養で増殖させるが、いくつかの実施形態において、卵で増殖させてもよい。インフルエンザウイルス増殖のための現行標準方法は、ウイルスが卵内容物(尿膜腔液)から精製される特定病原体未感染(SPF)孵化鶏卵を使用する。しかしながらより最近では、ウイルスは動物細胞培養において増殖され、速さおよび患者アレルギーの理由のためにこの増殖方法は好ましい。卵に基づくウイルス増殖が使用されるならば、1つまたは複数のアミノ酸はウイルスと共に卵の尿膜腔液に導入されてもよい[10]。
【0030】
細胞基質は典型的には哺乳類起源の株化細胞になるだろう。適切な起源の哺乳類の細胞は、ハムスター細胞、ウシ細胞、霊長類(ヒトおよびサルを含む)細胞およびイヌ細胞を含むが、これらに限定されない。腎臓細胞、線維芽細胞、網膜細胞、肺細胞などのような様々な細胞タイプが使用されてもよい。適切なハムスター細胞の例は、BHK21またはHKCCと呼ばれる株化細胞である。適切なサル細胞は、例えばベロ株化細胞のような腎臓細胞などのアフリカミドリザル細胞である。適切なイヌ細胞は、例えばMDCK株化細胞のような腎臓細胞である。したがって適切な株化細胞は、MDCK;CHO;293T;BHK;ベロ;MRC−5;PER.C6;WI−38;などを含むが、これらに限定されない。哺乳類細胞の使用は、ワクチンが卵タンパク質(オボアルブミンおよびオボムコイドなど)をもたないことに加えて、ニワトリDNAをもたないことを意味し、その結果としてアレルゲン性を減少させる。インフルエンザウイルスの増殖のための好ましい哺乳類株化細胞は、マディン−ダービーイヌ腎臓に由来するMDCK細胞[27〜30];アフリカミドリザル(セルコピテカス・エチオプス(Cercopithecus aethiops))腎臓に由来するベロ細胞[31〜33];またはヒト胚網膜芽細胞に由来するPER.C6細胞[34]を含む。これらの株化細胞は、例えばアメリカン・タイプ・セル・カルチャー(American Type Cell Culture)(ATCC)コレクション[35]、コリエル細胞貯蔵所(Coriell Cell Repositories)[36]、またはヨーロッパ細胞培養コレクション (European Collection of Cell Cultures )(ECACC)から広く利用可能である。例えば、ATCCは、カタログ番号CCL−81、CCL−81.2、CRL−1586およびCRL−1587で様々な異なるベロ細胞を供給し、カタログ番号CCL−34でMDCK細胞を供給する。PER.C6は寄託番号96022940でECACCから利用可能である。哺乳類株化細胞に対して好ましさの劣る代替物として、ウイルスは、アヒル(例えばアヒル網膜)またはニワトリに由来した株化細胞を含む、トリ株化細胞で増殖することができる[例えば参考文献37〜39]。トリ株化細胞の例はトリ胚性幹細胞[37、40]およびアヒル網膜細胞[38]を含む。適切なトリ胚性幹細胞は、ニワトリ胚性幹細胞に由来するEBx株化細胞のEB45、EB14、およびEB14−074を含む[41]。ニワトリ胚線維芽細胞(CEF)もまた使用されてよい。
【0031】
インフルエンザウイルスの増殖のための最も好ましい株化細胞は、MDCK株化細胞である。もとのMDCK株化細胞はCCL−34としてATCCから利用可能であるが、この株化細胞の派生細胞もまた使用されてよい。例えば参考文献27は、懸濁培養での増殖に適合したMDCK株化細胞を開示する(DSM ACC 2219として寄託された「MDCK 33016」)。同様に、参考文献42は、無血清培養において懸濁状態で増殖する、MDCKに由来する株化細胞を開示する(FERM BP−7449として寄託された「B−702」)。参考文献43は、「MDCK−S」(ATCC PTA−6500)、「MDCK−SF101」(ATCC PTA−6501)、「MDCK−SF102」(ATCC PTA−6502)および「MDCK−SF103」(PTA−6503)を含む、非腫瘍形成性MDCK細胞を開示する。参考文献44は、「MDCK.5F1」細胞(ATCC CRL−12042)を含む、感染への高感受性を有するMDCK株化細胞を開示する。これらのMDCK株化細胞のうちのいずれかを使用することができる。
【0032】
細胞増殖のための培養、およびさらに培養を始めるために使用されるウイルス接種物には、単純ヘルペスウイルス、呼吸器合胞体ウイルス、パラインフルエンザウイルス3、SARSコロナウイルス、アデノウイルス、ライノウイルス、レオウイルス、ポリオーマウイルス、ビルナウイルス、シルコウイルス、および/またはパルボウイルスが存在しない(すなわち検査され、混入について陰性の結果が与えられる)ことが好ましい[45]。単純ヘルペスウイルスが存在しないことは特に好ましい。
【0033】
ウイルスは懸濁培養[46]、または接着培養の細胞で増殖されてもよい。1つの実施形態において、細胞は懸濁での増殖に適合しているかもしれない。懸濁培養での増殖に適合した適切なMDCK株化細胞の1つは、MDCK 33016(DSM ACC 2219として寄託された)である。代替物として、マイクロキャリア培養を使用することができる。
【0034】
インフルエンザウイルス複製を支持する株化細胞は、好ましくは無血清培地および/または無タンパク質培地で増殖される。本明細書の文脈では、ヒトまたは動物由来の血清からの添加物がない培地は無血清培地と呼ばれる。無タンパク質とは、タンパク質、増殖因子、他のタンパク質添加物および非血清タンパク質の除外により細胞の増殖が起こるが、任意でトリプシンまたはウイルス増殖に必要かもしれない他のプロテアーゼなどのタンパク質を含むことができる培養を意味すると理解される。そのような培養中で自然に増殖する細胞は細胞自体のタンパク質を含む。
【0035】
インフルエンザウイルス複製を支持する株化細胞は、好ましくはウイルス複製の間に37℃以下[47](例えば30〜36℃)で増殖される。
【0036】
培養された細胞においてウイルスを増殖させる方法は、一般に培養されるべき株で培養された細胞に接種する工程と、例えばウイルス力価または抗原発現により決定されるようなウイルス増殖のために、所望の期間感染細胞を培養する工程と(例えば接種後24〜168時間)、増殖させたウイルスを回収する工程とを含む。培養された細胞は、1:500〜1:1、好ましくは1:100〜1:5、より好ましくは1:50〜1:10の細胞比率までのウイルス(PFUまたはTCID50により測定された)で接種される。ウイルスは懸濁細胞へ追加されるか単層細胞へ適用され、ウイルスは少なくとも60分間、しかし通常は300分未満、好ましくは90〜240分で、25℃〜40℃、好ましくは28℃〜37℃で、細胞上で吸収される。採取された培養上清のウイルス含有量を増加させるために、感染細胞培養(例えば単層)は、凍結融解または酵素作用により取り出されてもよい。採取された液体は、次に不活性化または凍結保存する。培養される細胞は、約0.0001〜10、好ましくは0.002〜5、より好ましくは0.001〜2の感染多重度(「m.o.i.」)で感染させてもよい。さらに好ましくは、細胞は約0.01のm.o.iで感染させる。感染細胞は、感染後30〜60時間で採取されてもよい。好ましくは、細胞は感染後34〜48時間で採取される。さらに好ましくは、細胞は感染後38〜40時間で採取される。プロテアーゼ(典型的にはトリプシン)は、一般にウイルス放出を可能にするために細胞培養の間に追加され、プロテアーゼは培養の間に任意の適切な段階で追加することができる。
【0037】
HAは、現行の不活性化インフルエンザワクチンにおける主要な免疫原であり、ワクチン用量は、典型的にはSRIDにより測定されるHAレベルへの参照により標準化される。既存のワクチンは典型的には、1株あたり約15μgのHAを含むが、例えば子供に対して、または汎流行状況において、またはアジュバントを使用するときにはより低い用量を使用することができる。より高用量(例えば3×または9×用量[48および49])であるので、1/2(すなわち1株あたり7.5μgのHA)、1/4および1/8などの分割量が使用される[89および90]。したがってワクチンは、1インフルエンザ株あたり0.1〜150μg、好ましくは0.1〜50μg、例えば、0.1〜20μg、0.1〜15μg、0.1〜10μg、0.1〜7.5μg、0.5〜5μgなどのHAを含んでもよい。特定の用量は、1株あたり例えば約45、約30、約15、約10、約7.5、約5、約3.8、約1.9、約1.5、などを含む。
【0038】
生菌ワクチンについては、用量はHA含有量よりもむしろ中央値組織培養感染用量(TCID50)により測定され、1株あたり10〜10(好ましくは106.5〜107.5)のTCID50が典型的である。
【0039】
本発明で使用されるHAは、ウイルスにおいて見出されるような天然HAまたは修飾されたものでもよい。例えば、トリ種においてウイルスを高病原性にする決定基(例えばHA1とHA2間の切断部位のまわりの超塩基性領域)を除去するためにHAを修飾すること(除去しない場合にはこれらの決定基がウイルスの卵中での増殖を阻害するので)が公知である。
【0040】
マトリックスタンパク質
血球凝集素を含むことに加えて、本発明の組成物はマトリックスタンパク質を含む。インフルエンザA型ウイルスのセグメント7はM1ポリペプチドおよびM2ポリペプチドをコードする。M1はウイルス脂質二重層の下にあるが、M2はアマンタジンにより阻害されるイオンチャネルを呈する膜内在型タンパク質である。M2はスプライシングされたmRNAから発現される。インフルエンザB型ウイルスのセグメント7は、M1およびBM2のポリペプチドをコードする。
【0041】
本発明の組成物中に含まれるマトリックスタンパク質は、典型的にはインフルエンザA型ウイルスからのM1タンパク質である。PR/8/34インフルエンザA型ウイルスからの全長252アミノ酸のM1配列は、GI:138817でデータベースにおいて利用可能であり、それは本明細書において配列番号2で以下の配列である。
【0042】
【化1】

本発明の組成物中に含まれるマトリックスタンパク質は、好ましくは前記mアミノ酸が、配列番号2に少なくともn%同一性を有し、少なくともmアミノ酸長であるM1アミノ酸配列を含む。mアミノ酸は、典型的には配列番号2からの少なくともp連続アミノ酸断片を含むだろう。
【0043】
mの値は、例えば7、8、9、10、12、14、16、18、20、25、30、35、40、45、50、60、70、80、90、100またはそれ以上でありえる。nの値は、例えば70(例えば75、80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99またはそれ以上)でありえる。pの値は、例えば5、6、7、8、9、10、12、14、16、18、20、25、30、35、40、45、50、60、70、80、90、100またはそれ以上でありえる。nが<100である場合には、pはm未満であるだろう。
【0044】
mアミノ酸の配列は、配列番号2と比較して、1つまたは複数の(例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、10など)保存的アミノ酸置換(すなわち関連した側鎖を有する別のアミノ酸による1つのアミノ酸の置換)を含んでもよい。遺伝子にコードされるアミノ酸は一般に、(1)酸性アミノ酸、すなわちアスパラギン酸、グルタミン酸と;(2)塩基性アミノ酸、すなわちリジン、アルギニン、ヒスチジンと;(3)非極性アミノ酸、すなわちアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファンと;(4)非荷電極性アミノ酸、すなわちグリシン、アスパラギン、グルタミン、システイン、セリン、スレオニン、チロシンの4つのファミリーに分けられる。フェニルアラニン、トリプトファンおよびチロシンは、芳香族アミノ酸として時には併用して分類される。一般に、これらのファミリー内の単一のアミノ酸の置換は生物活性に重大な影響を持たない。mアミノ酸は、配列番号2と比較して、1つまたは複数の(例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、10など)単一アミノ酸欠失もまた含んでもよい。mアミノ酸は、配列番号2と比較して、1つまたは複数の(例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、10など)挿入(例えば各々1、2、3、4または5アミノ酸)もまた含んでもよい。
【0045】
本発明の組成物への含有のために好ましいマトリックスタンパク質は、M1からのエピトープを含む。エピトープは、T細胞エピトープおよび/またはB細胞エピトープであってもよい。T細胞エピトープおよびB細胞エピトープは、経験的に同定することができるか(例えばペプスキャン(PEPSCAN)[50、51]または類似した方法を使用して)、またはそれらは予測することができる(例えば ジェームソン−ウルフ(Jameson−Wolf)抗原性指標[52]、マトリクスに基づくアプローチ[53]、テピトープ(TEPITOPE)[54]、ニューラルネットワーク[55]、オプティマー&エピマー(OptiMer& EpiMer)[56および57]、ADEPT[58]、Tサイツ(Tsites)[59]、親水性[60]、抗原性指標[61]または参考文献62に開示された方法などを使用して)。そのような方法により、T細胞エピトープは、以下を含むインフルエンザA型ウイルスM1タンパク質中で既に同定されている[63]。
【0046】
【化2】

M1中の他のT細胞エピトープは、SLLTEVETYV(配列番号15;配列番号2の残基2〜11)と;IIPSGPLK(配列番号16;配列番号2の残基14〜21)と;LEDVFAGK(配列番号17;配列番号2の残基28〜35)とを含む。
【0047】
細胞培養において調製されたワクチンで最初に検出された特定のマトリックスタンパク質は、N末端配列EISLSYSAGALA(配列番号18;配列番号2の残基114〜125)を有する5kDaタンパク質である。このポリペプチドのN末端およびサイズはM1のトリプシン断片に一致しており、その場合には、全長ポリペプチドは、以下のアミノ酸配列のうちの1つを有しているかもしれない。
【0048】
【化3】

配列番号19は、亜鉛に対する親和性を付与する完全なCys−Cys−His−Hisモチーフ(配列番号2の残基148−162)を含む[72]。したがって、本発明で使用されるマトリックスタンパク質はさらに亜鉛イオンを含んでもよい。
【0049】
配列番号18配列は、5番目の残基「X」がThr(LSYSTGALA、配列番号21)またはAla(LSYSAGALA、配列番号22)のいずれかで、配列LSYSXGALA(配列番号1)(それらはインフルエンザA型ウイルス株間で非常によく保存されている)を含む。この保存された9量体の変異は知られている(例えば、A/ブタ/オンタリオ/01911−2/99(H4N6)において、9量体はLNYSTGALA[GI10442678;配列番号23]であり、A/ブタ/イギリス/191973/92(H1N7)において、9量体はLGYSTGALA[GI1835734;配列番号24]であり、A/ニワトリ/ペンシルバニア/13609/93(H5N2)において、9量体はLSYSTGALT[GI:4584948;配列番号25]であり、A/WSN/33において、9量体はFSYSAGALA[GI:324407;配列番号26]である)が、配列番号1は最も共通する配列である。コアYSXGAL(配列番号27)はこれらの配列のすべてにおいて重要な役割を演じる。インフルエンザウイルスの配列は、www.flu.lanl.govでインフルエンザ配列データベース(ISD)で便利に捜し出すことができる[73]。さらなる配列は参考文献74において見出すことができる。
【0050】
したがって本発明の組成物中に含まれる好ましいマトリックスタンパク質は、1つまたは複数のアミノ酸配列の配列番号1、21、22、23、24、25、26および/または27を含む。しかしながら、全長M1タンパク質は27.8kDaタンパク質であるが、本発明の組成物中に含まれるマトリックスタンパク質は、20kDa、例えば≦15kDa、≦12kDa、≦10kDa、≦9kDa、≦8kDa、≦7kDa、≦6kDa、≦5.5kDa、または約5kDaである。マトリックスタンパク質の分子量は、好ましくは2〜8kDa、例えば3〜7kDa、4〜6kDa、または約5kDaの範囲以内にある。マトリックスタンパク質のN末端は、アミノ酸配列の配列番号1、19、20、21、22、23または24のうちの1つが後に続くGlu−Ile−Serであってもよい。
【0051】
マトリックスタンパク質は、組成物内でオリゴマー(例えばホモダイマーなどの二量体)を形成してもよい。マトリックスタンパク質がアミノ酸137(配列番号2中での番号付け)を含むならば、このアミノ酸は、Ala(配列番号2中でのように)またはThr(病原性H5N1ヒトウイルスにおいて見られたように)であるだろう。マトリックスタンパク質は様々な量で存在してもよいが、典型的には1μg/ml〜15μg/ml、例えば2〜14μg/ml、3〜13μg/ml、4〜12μg/ml、5〜11μg/ml、6〜10μg/ml、7〜9μg/mlなどで存在してもよい。1未満μg/mlの濃縮もまた可能である。
【0052】
血球凝集素に加えてこれらのマトリックスタンパク質を含むことにより、次に本発明の組成物は、存在する任意のT細胞エピトープから利益を得て、それらはワクチンにより誘発された交差防御(同一HAタイプ内の、および異なるHAタイプ間も)を改善してもよい[75]。マトリックスタンパク質は、組成物調製(例えば、それはHAと共に共精製してもよい)の結果として、内在的に存在してもよいか、またはマトリックスタンパク質は、例えば卵由来ワクチンを含むマトリックス成分不含ワクチンを改善するために、外来性の成分として追加されてもよい。
【0053】
理論に束縛されることを意図せずに、本発明者は、安定した複合体を形成するためにワクチンのHAへマトリックスタンパク質が結合するだろうと考える。複合体がHA単独よりも安定しているならば、ワクチン保管期間および特に冷蔵庫に入れない保存に耐える能力は改善されてもよい。
【0054】
M1中の配列番号1の周囲の領域は脂質結合ドメインとして働くことができる[76]。より詳細に以下に記述されるように、マトリックスタンパク質中にこの領域を含むことにより、したがって、タンパク質は脂質アジュバントと有利に相互作用することができる。
【0055】
組成物が1つ以上のインフルエンザA型ウイルス株からのHAを含む場合には、組成物は一般に1つ以上の株からのマトリックスタンパク質もまた含むだろう。しかしながらこれらの株からのHAは互いとは通常異なっているだろうが、マトリックスタンパク質は同じであってもよい。マトリックスタンパク質が同一ならば、最終産物において2つのマトリックスタンパク質を区別することは可能でいかもしれないが、それらは異なる起源を有するだろう。
【0056】
HAおよびマトリックスを含むことに加えて、本発明の組成物はノイラミニダーゼおよび/または核タンパク質を含んでもよい。
【0057】
組成物がインフルエンザB型ウイルスからのHAを含んでいる場合には、この組成物はインフルエンザB型ウイルスからのM1タンパク質もまた含んでよい。
【0058】
宿主細胞DNA
ウイルスを株化細胞で増殖させた場合には、DNAの任意の腫瘍形成活性を最小限にするために、最終的なワクチン中の株化細胞DNAの残余量を最小限にすることが標準的技法である。マトリックスタンパク質は核酸(RNAおよび二本鎖DNAを含む)へ結合することができ[77]、したがって既存のHAに基づくワクチンよりも容易にDNAを保持するので、ワクチン中にインフルエンザウイルスのマトリックスタンパク質を含んでいる場合、この安全対策は特に重要である。
【0059】
したがって微量の宿主細胞DNAは存在してもよいが、組成物は好ましくは1用量あたり10ng未満の(好ましくは1ng、およびより好ましくは100pg未満の)宿主細胞残余DNAを含む。任意の宿主細胞残余DNAの平均長が500bp未満、例えば400bp未満、300bp未満、200bp未満、100bp未満で存在していることが好ましい。一般に、本発明の組成物から除外することが望ましい宿主細胞DNAは、100bpよりも長いDNAである。
【0060】
宿主細胞残余DNAの測定は、現在では生物製剤のための所定の規制基準であり、当業者には通常可能である。DNAを測定するために使用される分析は典型的には検証分析になるだろう[78、79]。検証分析の性能特性は、数学的かつ定量化可能な用語で記述することができ、可能性のある誤差源が同定されるだろう。この分析は、正確性、精度、特異性などの特性について一般に検査されるだろう。一旦分析が検定され(例えば既知の基準量の宿主細胞DNAに対して)検査されれば、次に定量的DNA測定は慣例的に実行できる。DNA定量化のための以下の3つの原理技術を使用することができる。サザンブロットまたはスロットブロットなどハイブリダイゼーション法[80];スレッショルド(Threshold)(商標)システムなど免疫測定方法[81];および定量的PCR[82]。各方法の正確な特性は、当該宿主細胞(例えばハイブリダイゼーションのためのプローブの選択、増幅のためのプライマーおよび/またはプローブの選択など)に依存してもよいが、これらの方法はすべて当業者によく知られている。モレキュラー・デバイス(Molecular Devices)社からのスレッショルド(商標)システムは、総DNAのピコグラムレベルのための定量的分析で、バイオ製剤[81]中の混入DNAレベルのモニタリングのために使用された。典型的な分析は、ビオチン化されたssDNA結合タンパク質とウレアーゼ結合抗ssDNA抗体とDNA間の反応複合体の配列非特異的な形成を含む。分析成分はすべて、製造業者から利用可能な、完全な総DNA分析キットに含まれる。様々な市販の製造業者は、宿主細胞残余DNA検出のために定量的PCR分析を提示する(例えばアペテック(AppTec)(商標)、ラボラトリー・サービス(Laboratory Services)社、バイオリライアンス(BioReliance)(商標)、アルセア・テクノロジーズ(Althea Technologies)社など)。ヒトのウイルス性ワクチンの、宿主細胞DNA混入の測定のための化学発光ハイブリダイゼーション分析と全DNAスレッショルド(商標)システムの比較は、参考文献83で見出すことができる。
【0061】
DNA混入は、標準的精製法(例えばクロマトグラフィーなど)を使用して、ワクチン調製間に除去できる。宿主細胞残余DNAの除去はヌクレアーゼ処理により、例えばDNaseの使用により促進することができる。宿主細胞DNA混入減少のために好都合な方法は、参考文献84および85に開示され、2工程の処理を含んでおり、最初はDNase(例えばベンゾナーゼ)の使用であり、これはウイルス増殖の間に使用されてもよく、次に陽イオン性界面活性剤(例えばCTAB)であり、これはビリオン破壊の間に使用されてもよい。β−プロピオラクトンなどアルキル化剤による処理もまた宿主細胞DNAを除去するために使用することができ、ビリオンを不活性化するために都合よく使用されてもよい[86]。
【0062】
容量0.25mlあたり<10ng(例えば<1ng、<100pg)の宿主細胞DNAを含むワクチンなので、15μgの血球凝集素あたり<10ng(例えば<1ng、<100pg)の宿主細胞DNAを含んでいるワクチンが好ましい。ワクチンが容量0.5mlあたり<10ng(例えば<1ng、<100pg)の宿主細胞DNAを含むので、50μgの血球凝集素あたり<10ng(例えば<1ng、<100pg)の宿主細胞DNAを含むワクチンはさらに好ましい。
【0063】
アジュバント
本発明の組成物は、都合よくアジュバントを含んでもよく、それは組成物を投与される患者に誘発される免疫反応(液性および/または細胞性)を促進するために機能することができる。インフルエンザワクチンとのアジュバントの使用は以前に記述されている。参考文献87および88において、水酸化アルミニウムが使用され、参考文献89において、水酸化アルミニウムおよびリン酸アルミニウムの混合物が使用された。参考文献90は、アルミニウム塩アジュバントの使用についても記述した。カイロン・ワクチン(Chiron Vaccines)社からのフルアド(FLUAD)(商標)製品は、水中油滴型エマルジョンを含む。
【0064】
本発明で使用することができるアジュバントは以下のものを含むが、これらに限定されない。
【0065】
・カルシウム塩およびアルミニウム塩(またはその混合物)を含むミネラル含有組成物。カルシウム塩はリン酸カルシウム(例えば参考文献91に開示された「CAP」粒子)を含む。アルミニウム塩は、任意の適切な形式をとる塩(例えばゲル、結晶質、非結晶質など)で、水酸化物、リン酸塩および硫酸塩などを含んでいる。これらの塩への吸着が好ましい。ミネラル含有組成物は金属塩の粒子としても製剤化されてよい[92]。アルミニウム塩アジュバントはより詳細に以下に記述される。
【0066】
・サイトカイン誘導剤(より詳細に以下に参照)。
【0067】
・樹皮、葉、茎、根および広範囲の植物種の花などで見出されるステロール配糖体およびトリテルペノイド配糖体の異種グループである、サポニン[参考文献128の22章]。バラ科キラヤ(Quillaia saponaria Molina)の木の樹皮からのサポニンは、アジュバントとして広く研究されてきた。サポニンは、スミラックス・オルナタ(Smilax ornata)(サルサパリラ)、シュッコンカスミソウ(Gypsophilla paniculata)(ブライドベール(brides veil))およびサポナリア・オフィシアナリス(Saponaria officianalis)(サボンソウ根)からもまた商業的に得ることができる。サポニンアジュバント製剤は、ISCOMのような脂質製剤に加えて、QS21のような精製製剤も含んでいる。QS21はスティミュロン(Stimulon)(商標)として市場へ出される。サポニン組成物はHPLCおよび逆相HPLCを使用して精製されてきた。これらの技術を使用する特異的精製画分は、QS7、QS17、QS18、QS21、QH−A、QH−BおよびQH−Cを含んで、同定された。好ましくは、サポニンはQS21である。QS21産生方法は参考文献93に開示される。サポニン製剤は、さらにコレステロールのようなステロールを含んでもよい[94]。サポニンおよびコレステロールの組合せは、免疫刺激複合体(ISCOM)と呼ばれる特有の粒子を形成するために使用することができる[参考文献128の23章]。ISCOMは、典型的にはホスファチジルエタノールアミンまたはホスファチジルコリンのようなリン脂質もまた含む。任意の公知のサポニンは、ISCOM中で使用することができる。好ましくは、ISCOMは1つまたは複数のQuilA、QHAおよびQHCを含んでいる。ISCOMはさらに参考文献94〜96に記載されている。任意で、ISCOMSは付加的な界面活性剤がなくてもよい[97]。サポニンに基づくアジュバントの開発の総説は、参考文献98および99に見出すことができる。
【0068】
・水中油滴型エマルジョンを含む脂質アジュバント(より詳細には以下を参照)。
【0069】
・LT−K63およびLT−R72[100]として公知の変異体毒素のような、細菌のADPリボシル化毒素(例えば大腸菌(Escherichia coli)易熱性エンテロトキシン「LT」、コレラ毒素「CT」または百日咳毒素「PT」)およびその解毒された誘導体。粘膜アジュバントとしての解毒されたADPリボシル化毒素の使用は参考文献101に、および非経口アジュバントとしては参考文献102に記載される。
【0070】
・エステル化されたヒアルロン酸ミクロスフェア[103]またはキトサンおよびその誘導体[104]のような、生体接着物質および粘膜接着物質。
【0071】
・負に荷電した表面(例えばSDSにより)または正に荷電した表面(例えばCTABのような陽イオン性界面活性剤により)を有するように任意で処理された、好ましいラクチド・グリコリドコポリマーと共に、生物分解性であり無毒な物質(例えばポリ(α−ヒドロキシ酸)、ポリヒドロキシ酪酸およびポリオルトエステルおよびポリ無水物およびポリカプロラクトンなど)から形成されるミクロ粒子(すなわち直径で〜100nmから〜150μm、より好ましくは、直径で〜200nmから〜30μm、または直径で〜500nmから〜10μmの粒子)。
【0072】
・リポソーム(参考文献128の13章および14章)。アジュバントとしての使用に適切なリポソーム製剤の例は、参考文献105〜107に記載されている。
【0073】
ポリオキシエチレンエーテルおよびポリオキシエチレンエステル[108]。さらなるそのような製剤は、オクトキシノールのような少なくとも1つの付加的な非イオン性界面活性剤と組み合わせたポリオキシエチレンアルキルエーテルまたはエステル界面活性剤[110]に加えて、オクトキシノールと組み合わせたポリオキシエチレンソルビタンエステル界面活性剤[109]を含む。好ましいポリオキシエチレンエーテルは、ポリオキシエチレン−9−ラウリルエーテル(ラウレス9)、ポリオキシエチレン−9−ステオリル(steoryl)エーテル、ポリオキシチレン(polyoxytheylene)−8−ステオリル(steoryl)エーテル、ポリオキシエチレン−4−ラウリルエーテル、ポリオキシエチレン−35−ラウリルエーテル、およびポリオキシエチレン−23−ラウリルエーテルの群から選択される。
【0074】
N−アセチルムラミル−L−トレオニル−D−イソグルタミン(「thr−MDP」)、N−アセチル−ノルムラミル−L−アラニル−D−イソグルタミン(nor−MDP)、N−アセチルグルクサミニル(acetylglucsaminyl)−N−アセチルムラミル−L−Al−D−イソグル−L−Ala−ジパルミトキシプロピルアミド(「DTP−DPP」、または「テラミド(Theramide)(商標)」)、N−アセチルムラミル−L−アラニル−D−イソグルタミニル−L−アラニン−2−(1’−2’ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ヒドロキシホスホルイルオキシ)−エチルアミン(「MTP−PE」)のようなムラミルペプチド。
【0075】
・外膜タンパク質プロテオソームおよびリポサッカライド調製品が安定した非共有結合のアジュバント複合体を形成することを特徴とする、第2のグラム陰性細菌に由来するリポサッカライド調製品と組み合わせた第1のグラム陰性細菌から調製された外膜タンパク質プロテオソーム調製品。そのような複合体は、「IVX−908」、髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)外膜およびリポポリサッカライドからなる複合体を含む。それらはアジュバントとしてインフルエンザワクチンに使用されてきた[111]。
【0076】
・ポリオキシドオニウムポリマー[112,113]または他のN−酸化ポリエチレン−ピペラジン誘導体.
・メチルイノシン5’−1リン酸(「MIMP」)[114]。
【0077】
・以下の式を持つような、ポリ水酸化ピロリジジン化合物[115]
【0078】
【化4】

式中Rは、水素、直鎖または分岐した、非置換または置換された、飽和または不飽和の、アシル基、アルキル基(例えばシクロアルキル基)、アルケニル基、アルキニル基およびアリール基、またはその薬学的に許容される塩または誘導体を含む群から選択される。例は、カスアリン(casuarine)、カスアリン−6−α−D‐グルコピラノース、3−エピ−カスアリン、7−エピ−カスアリン、3,7−ジエピ−カスアリンなどを含むが、これらに限定されない。
【0079】
・α−グリコシルセラミド[116−123](例えばα−ガラクトシルセラミド)、フィトスフィンゴシン含有α−グリコシルセラミド、OCH、KRN7000[(2S,3S,4R)−1−O−(α−D−ガラクトピラノシル)−2−(N−ヘキサコサノイルアミノ)−1,3,4−オクタデカントリオール]、CRONY−101、3’’−O−スルフォ−ガラクトシルセラミドなどのようなCD1dリガンド.
・アルガムリンのような、γイヌリン[124]またはその誘導体。
【0080】
これらおよび他のアジュバント活性物質は、参考文献128および129中で、より詳細に論じられる。組成物は、前記アジュバントの2つ以上を含んでもよい。例えば、水中油滴型エマルジョンおよびサイトカイン誘導剤の組合せが、エマルジョンまたは薬剤のいずれかがそのままで使用される場合に見られたよりもはるかに大きい改善で、インターフェロン−γ反応のようなインフルエンザワクチンにより誘発されるサイトカイン反応を改善するので、組成物は都合よく水中油滴型エマルジョンおよびサイトカイン誘導剤の両方を含んでもよい。
【0081】
組成物中の抗原およびアジュバントは典型的には混合剤中にあるだろう。
【0082】
水中油滴型エマルジョンアジュバント
水中油滴型エマルジョンはインフルエンザウイルスワクチンにアジュバント効果を与えるための使用のために特に適切であることが分かった。そのような様々なエマルジョンが公知であり、それらは典型的には少なくとも1つの油脂および少なくとも1つの界面活性剤を、生物分解性(代謝可能)、生体適合性のある油脂(複数可)および界面活性剤(複数可)の状態で含む。エマルジョン中の油滴は、一般に直径で5μm未満であり、安定したエマルジョンを提供するために微流動化装置により達成されている小さなサイズで、サブミクロン直径でさえあってもよい。濾過滅菌可能なように、220nm未満のサイズの液滴が好ましい。
【0083】
本発明は、動物(魚類のような)または植物源からのもののような油脂を使用することができる。植物油のための源はナッツ、種子および穀類を含む。落花生油、大豆油、ココナッツオイルおよびオリーブオイルであり、最も一般的に利用可能な例は堅果油である。例えばホホバ豆から得られるホホバ油を使用できる。種子油は、サフラワー油、綿実油、ヒマワリ油、ゴマ油および同種のものを含む。穀物群においてトウモロコシ油が最も容易に利用可能であるが、小麦、オートミール、ライ麦、コメ、テフ、ライ小麦および同種のもののような他の穀物の油脂も使用されてもよい。6〜10炭素のグリセロール脂肪酸エステルおよび1,2−プロパンジオールは種子油において自然に存在しないが、堅果油および種子油からの適切な物質の加水分解、分離およびエステル化により調製されていてもよい。哺乳類乳汁からの脂肪および油脂は代謝可能であり、したがって本発明の実行において使用されてもよい。分離、精製、鹸化、および動物源から純粋な油脂を得るために必要な他の手段のための手順は、当技術分野において周知である。大部分の魚類は、容易に回収される代謝可能な油脂を含む。例えば、鱈肝油、鮫肝油および鯨ろうのような鯨油は、本明細書において使用されてもよい、いくつかの魚油の例示である。多数の分枝鎖油脂は5−炭素イソプレン単位で生化学的に合成され、一般にテルペノイドと呼ばれる。鮫肝油は、特に本明細書において好ましいスクワレン(2,6,10,15,19,23−ヘキサメチル−2,6,10,14,18,22−テトラコサヘキサエン)として公知の分岐不飽和テルペノイドを含む。スクアラン(スクワレンの飽和類似化合物)はさらに好ましい油脂である。スクワレンおよびスクアランを含む魚油は、市販源から容易に利用可能であるか、または当技術分野において公知の方法により得られてもよい。他の好ましい油脂はトコフェロールである(以下を参照)。油脂の混合物を使用できる。
【0084】
界面活性剤はそれらの「HLB」(親水性/親油性のバランス)により分類できる。本発明の好ましい界面活性剤は、少なくとも10、好ましくは少なくとも15、およびより好ましくは少なくとも16のHLBを有する。本発明は、ポリオキシエチレンソルビタンエステル界面活性剤(一般的にはツイーンと呼ばれる)、特にポリソルベート20およびポリソルベート80と;線状EO/POブロックコポリマーなどのDOWFAX(商標)商品名で販売される、エチレンオキシド(EO)、プロピレンオキシド(PO)、および/またはブチレンオキサイド(BO)のコポリマーと;特に興味深いオクトキシノール−9(トリトンX−100、またはt−オクチルフェノキシポリエトキシエタノール)と共に、オクトキシノール(反復エトキシ(オキシ−1,2−エタンジイル)基数は変化可能)と;(オクチルフェノキシ)ポリエトキシエタノール(IGEPAL CA−630/NP−40)と;ホスファチジルコリン(レシチン)のようなリン脂質と;タージトール(商標)NPシリーズのようなノニルフェノールエトキシレートと;トリエチレングリコールモノラウリル・エーテル(ブリジ30)のような、ラウリルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコールおよびオレイルアルコール(ブリジ界面活性剤として知られている)に由来するポリオキシエチレン脂肪エーテルと;トリオレイン酸ソルビタン(スパン(Span )85)およびモノラウリン酸ソルビタンのような、ソルビタンエステル(一般にスパンとして公知である)とを含むが、これらに限定されない界面活性剤と共に使用することができる。非イオン性界面活性剤が好ましい。エマルジョン中の含有のために好ましい界面活性剤は、ツイーン80(ツイーン80)、スパン85(トリオレイン酸ソルビタン)、レシチンおよびトリトンX−100である。
【0085】
界面活性剤の混合物、例えばツイーン80/スパン85混合物を使用することができる。ポリオキシエチレンモノオレイン酸ソルビタン(ツイーン80)のようなポリオキシエチレンソルビタンエステル、およびt−オクチルフェノキシポリエトキシエタノール(トリトンX−100)のようなオクトキシノールの組合せもまた適切である。別の有益な組合せは、ラウレス9、とポリオキシエチレンソルビタンエステルおよび/またはオクトキシノールからなる。
【0086】
好ましい量の界面活性剤(重量%)は、ポリオキシエチレンソルビタンエステル(ツイーン80など)0.01〜1%、特に約0.1%;オクチルフェノキシポリオキシエタノールまたはノニルフェノキシポリオキシエタノール(トリトンX−100、またはトリトンシリーズ中の他の界面活性剤など)0.001〜0.1%、特に0.005〜0.02%;ポリオキシエチレンエーテル(ラウレス9など)0.1〜20%、好ましくは0.1〜10%および特に0.1〜1%または約0.5%である。
【0087】
本発明で有益な具体的な水中油滴型エマルジョンアジュバントは以下を含むが、これらに限定されない。
【0088】
・スクワレン、ツイーン80およびスパン85のサブミクロンエマルジョン。エマルジョンの組成物は、容量で約5%スクワレン、約0.5%ポリソルベート80および約0.5%スパン85でありえる。これらの比率は、重量で4.3%スクワレン、0.5%ポリソルベート80および0.48%スパン85である。参考文献128の10章および参考文献129の12章でより詳細に記載されているように、このアジュバントは「MF59」[125〜127]として知られている。MF59エマルジョンは、好都合なことにクエン酸イオン、例えば10mMクエン酸ナトリウム緩衝剤を含む。
【0089】
・スクワレン、αトコフェロールおよびツイーン80のエマルジョン。エマルジョンはリン酸緩衝生理食塩水を含んでもよい。それはスパン85(例えば1%で)および/またはレシチンもまた含んでもよい。これらのエマルジョンは、2〜10%のスクワレン、2〜10%のトコフェロールおよび0.3〜3%のツイーン80を有していてもよく、より安定したエマルジョンを提供するので、スクワレン:トコフェロールの重量比は好ましくは≦1である。スクワレンとツイーンの80は、約5:2容量比で存在してもよい。そのようなエマルジョンの1つは、2%の溶液を生ずるようにPBS中にツイーン80を溶解すること、次にこの90mlの溶液を混合物(5gのDL−α−トコフェロールおよび5mlのスクワレン)に混合すること、および次に混合物を微流動化することによって作製することができる。結果として生じるエマルジョンは、例えば100〜250nm、好ましくは約180nmの平均直径のサブミクロン油滴を有してもよい。
【0090】
・スクワレン、αトコフェロールおよびトリトン界面活性剤(例えばトリトンX−100)のエマルジョン。エマルジョンは3d−MPLもまた含んでもよい(以下を参照)。エマルジョンはリン酸緩衝剤を含んでもよい。
【0091】
・ポリソルベート(例えばポリソルベート80)、トリトン界面活性剤(例えばトリトンX−100)およびαトコフェロール(例えばα−コハク酸トコフェロール)を含むエマルジョン。エマルジョンは、約75:11:10(例えば750μg/mlポリソルベート80、110μg/mlトリトンX−100および100μg/mlα−コハク酸トコフェロール)の質量比でこれらの3つの成分を含んでいてもよく、これらの濃度は、抗原からのこれらの成分の任意の寄与を含むべきである。エマルジョンはスクワレンもまた含んでもよい。エマルジョンは3d−MPLもまた含んでもよい(以下を参照)。水相はリン酸緩衝剤を含んでもよい。
【0092】
・スクアラン、ポリソルベート80およびポロキサマー401(「プルロニック(商標)L121」)のエマルジョン。エマルジョンはリン酸緩衝生理食塩水、pH7.4で製剤化することができる。このエマルジョンは、ムラミルジペプチドのための有益な送達賦形剤であり、「SAF−I」アジュバント[130](0.05〜1%Thr−MDP、5%スクアラン、2.5%プルロニックL121および0.2%ポリソルベート80)中でスレオニル−MDPと共に使用されてきた。さらに、「AF」アジュバント[131](5%スクアラン、1.25%プルロニックL121および0.2%ポリソルベート80)でのように、このエマルジョンはThr−MDPなしに使用することができる。微流動化が好ましい。
【0093】
・0.5〜50%油脂、0.1〜10%リン脂質および0.05〜5%非イオン性界面活性剤を有するエマルジョン。参考文献132で記載されているように、好ましいリン脂質成分は、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール、フォスファチド酸、スフィンゴミエリンおよびカルディオリピンである。サブミクロン液滴サイズは有利である。
【0094】
・非代謝可能油脂(軽油など)および少なくとも1つの界面活性剤(レシチン、ツイーン80またはスパン80など)のサブミクロン水中油滴型エマルジョン。QuilAサポニン、コレステロール、サポニン脂溶性結合物(グルクロン酸のカルボキシル基を介してデスアシルサポニン(desacylsaponin)への脂肪族アミンの付加により産生された、参考文献133で記載されるGPI−0100のような)、臭化ジメチルジオクタデシルアンモニウムおよび/またはN,N−ジオクタデシル−N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)プロパンジアミンのような、添加物が含まれてもよい。
【0095】
・サポニン(例えばQuilAまたはQS21)およびステロール(例えばコレステロール)が、ヘリカルミセルとして結合されるエマルジョン[134]。
【0096】
エマルジョンは、送達時に抗原にその場で混合されてもよい。したがってアジュバントおよび抗原は、パッケージにされたワクチンまたは分配されたワクチン(使用時で最終処方の準備ができている)中で別々に保存されてもよい。2つの液体の混合によってワクチンが最終的に調製されるように、抗原は一般に水溶性形式であるだろう。混合のための2つの液体の容量比は変化させることができる(例えば5:1〜1:5で)が、一般に約1:1である。
【0097】
抗原およびアジュバントが混合された後、血球凝集素抗原は一般に水溶液中に留まるだろうが、油脂/水境界の近くに分布してもよい。一般に血球凝集素は、少しはエマルジョンの油相に入るだろう。
【0098】
組成物がトコフェロールを含む場合には、α、β、γ、δ、εまたはξトコフェロールのいずれかを使用できるが、α−トコフェロールが好ましい。トコフェロールはいくつかの形式(例えば異なる塩および/または異性体)をとることができる。塩は、コハク酸塩および酢酸塩およびニコチン酸塩などのような有機塩を含む。D−α−トコフェロールおよびDL−α−トコフェロールは両方とも使用できる。ビタミンEが、高齢の患者(例えば、60歳以上)の免疫反応に陽性効果を有すると報告されたので、トコフェロールは、この患者群で使用されるワクチンに有利に含まれる[135]。トコフェロールにはエマルジョンの安定化を支援する抗酸化特性もある[136]。好ましいα−トコフェロールはDL−α−トコフェロールであり、このトコフェロールの好ましい塩はコハク酸塩である。コハク酸塩は、TNF関連リガンドとインビボで協調して働くことが見出されている。さらにα−コハク酸トコフェロールはインフルエンザワクチンと適合性があること、および水銀化合物に対する代替物として有益な防腐剤であることが公知である[9]。
【0099】
サイトカイン誘導剤
インターフェロンおよびインターロイキンを含む放出サイトカインに対する免疫系を誘発するために患者に投与される場合、本発明の組成物への含有のためのサイトカイン誘導剤は可能である。サイトカイン反応はインフルエンザ感染に対する宿主防御の初期段階および決定的な段階に関与することが公知である[137]。好ましい薬剤は、インターフェロン−γ;インターロイキン−1;インターロイキン−2;インターロイキン−12;TNF−α;TNF−β;およびGM−CSFのうちの1つまたは複数の放出を誘発できる。好ましい薬剤は、Th1型免疫反応に関連したサイトカイン(例えばインターフェロン−γ、TNF−α、インターロイキン−2)の放出を誘発する。インターフェロン−γおよびインターロイキン−2の両方の刺激が好ましい。
【0100】
本発明の組成物の投与の結果として、したがって患者は、インフルエンザ抗原で刺激された場合、抗原特異的様式で所望のサイトカインを放出するT細胞を有するだろう。例えば、インフルエンザウイルス血球凝集素にインビトロで暴露された場合、患者の血液から精製されたT細胞はγ−インターフェロンを放出するだろう。末梢血単核細胞(PBMC)においてそのような反応を測定する方法は、当技術分野において公知であり、ELISA、ELISPOT、フローサイトメトリーおよびリアルタイムPCRを含む。例えば参考文献138は、破傷風トキソイドに対する抗原特異的T細胞を介した免疫反応(特にγ−インターフェロン反応)がモニタリングされる研究を報告し、ELISPOTが、抗原特異的TT誘導反応と自然な反応とを識別するのに最も敏感な方法であるが、フローサイトメトリーによる細胞質内のサイトカイン検出が再刺激的効果を検出する最も効率的な方法であることを見出した。
【0101】
適切なサイトカイン誘導剤は、以下を含むが、これらに限定されない。
【0102】
・CpGモチーフ(リン酸結合によりグアノシンに結合された非メチル化シトシンを含むジヌクレオチド配列)、または二本鎖RNA、またはパリンドローム配列を含むオリゴヌクレオチド、またはポリ(dG)配列を含むオリゴヌクレオチドを含むもののような免疫刺激オリゴヌクレオチド。
【0103】
・3−O−脱アシル化モノフォスフォリルリピドA(「MPL(商標)」として公知の「3dMPL」)[139〜142]。
【0104】
・イミキモド(「R−837」)[143,144]、レジキモド(「R−848」)[145]およびそれらの類似化合物のような、イミダゾキノリン化合物;ならびにその塩(例えば塩酸塩)。免疫刺激イミダゾキノリンに関するさらなる詳細は参考文献146〜150で見出すことができる。
【0105】
・参考文献151に開示されたもののようなチオセミカルバゾン化合物。活性化合物のための製剤化法、製造法およびスクリーニング法も、参考文献151に記載されている。チオセミカルバゾンは、TNF−αのようなサイトカインの産生のためにヒト末梢血単核細胞の刺激に特に効果的である。
【0106】
・参考文献152に開示されたもののようなトリプタントリン化合物。活性化合物のための製剤化法、製造法およびスクリーニング法も、参考文献152に記載されている。チオセミカルバゾンは、TNF−αのようなサイトカインの産生のためにヒト末梢血単核細胞の刺激に特に効果的である。
【0107】
・以下のようなヌクレオシド類似体。(a)イサトラビン(isatorabine)(ANA−245;7−チア−8−オキソグアノシン):
【0108】
【化5】

およびそのプロドラッグ;(b)ANA975;(c)ANA−025−1;(d)ANA380;(e)参考文献153〜155に開示される化合物;(f)次式を有する化合物であって、
【0109】
【化6】

式中、RおよびRは、それぞれ独立して水素、ハロ、−NR、−OH、C1−6アルコキシ、置換されたC1−6アルコキシ、ヘテロシクリル、置換されたヘテロシクリル、C6−10アリール、置換されたC6−10アリール、C1−6アルキル、または置換されたC1−6アルキルであり;
は、水素、C1−6アルキル、置換されたC1−6アルキル、C6−10アリール、置換されたC6−10アリール、ヘテロシクリル、または置換されたヘテロシクリルでなく;
およびRは、それぞれ独立して水素、ハロ、ヘテロシクリル、置換されたヘテロシクリル、−C(O)−R、C1−6アルキル、置換されたC1−6アルキルであるか、またはR4−5におけるような五員環をともに形成するように結合し、
【0110】
【化7】

結合は、
【0111】
【化8】

により示された結合で達せられ、XおよびXは、それぞれ独立して窒素、炭素、酸素、または硫黄であり;
は、水素、ハロ、−OH、C1−6アルキル、C2−6アルケニル、C2−6アルキニル、−OH、−NR、−(CH−O−R、−O−(C1−6アルキル)、−S(O)、または−C(O)−Rであり;
は、水素、C1−6、アルキル、置換されたC1−6アルキル、ヘテロシクリル、置換されたヘテロシクリルまたはR9aであり、
ここで、R9aは次式であり、
【0112】
【化9】

結合は
【0113】
【化10】

により示された結合で達せられ、
10およびR11は、それぞれ独立して水素、ハロ、C1−6アルコキシ、置換されたC1−6アルコキシ、−NR、または−OHであり;
それぞれRおよびRは、独立して水素、C1−6アルキル、置換されたC1−6アルキル、−C(O)R、C6−10アリールであり;
それぞれのRは、独立して水素、リン酸、二リン酸、三リン酸、C1−6アルキル、または置換されたC1−6アルキルであり;
それぞれのRは、独立して水素、ハロ、C1−6アルキル、置換されたC1−6アルキル、C1−6アルコキシ、置換されたC1−6アルコキシ、−NH、−NH(C1−6アルキル)、−NH(置換されたC1−6アルキル)、−N(C1−6アルキル)、−N(置換されたC1−6アルキル)、C6−10アリール、またはヘテロシクリルであり;
それぞれのRは、独立して水素、C1−6アルキル、置換されたC1−6アルキル、C6−10アリール、置換されたC6−10アリール、ヘテロシクリル、または置換されたヘテロシクリルであり;
それぞれのRは、独立して水素、C1−6アルキル、置換されたC1−6アルキル、−C(O)R、リン酸、二リン酸、または三リン酸であり;それぞれのnは、独立して0、1、2、または3であり;それぞれのpは、独立して0、1、または2であり;あるいは、
または(g)(a)〜(f)のいずれかの薬学的に許容される塩、(a)〜(f)のいずれかの互変異性体、または互変異性体の薬学的に許容される塩。
【0114】
・ロキソリビン(7−アリル−8−オキソグアノシン)[156]。
【0115】
・アシルピペラジン化合物、インドールジオン化合物、テトラヒドライソキノリン(Tetrahydraisoquinoline)(THIQ)化合物、ベンゾシクロジオン化合物、アミノアザビニル化合物、アミノベンズイミダゾールキノリンオン(ABIQ)化合物[158,159]、ヒドラサラマイド(Hydrapthalamide)化合物、ベンゾフェノン化合物、イソオキサゾール化合物、ステロール化合物、キナジリノン(Quinazilinone)化合物、ピロール化合物[160]、アントラキノン化合物、キノキサリン化合物、トリアジン化合物、 ピラザロピリミジン(Pyrazalopyrimidine)化合物、およびベンザゾール(Benzazole)化合物[161]を含む参考文献157に開示される化合物。
【0116】
・参考文献162に開示される化合物。
【0117】
・RC−529のようなアミノアルキルグルコサミニドフォスフェート誘導体[163,164]。
【0118】
・参考文献165および166に例えば記載される、ポリ[ジ(カルボキシラトフェノキシ)ホスファゼン](「PCPP」)のようなホスファゼン。
【0119】
・以下のような低分子免疫強化物質(SMIP):
N2−メチル−1−(2−メチルプロピル)−1H−イミダゾ[4,5−c]キノリン−2,4−ジアミン
N2,N2−ジメチル−1−(2−メチルプロピル)−1H−イミダゾ[4,5−c]キノリン−2,4−ジアミン
N2−エチル−N2−メチル−1−(2−メチルプロピル)−1H−イミダゾ[4,5−c]キノリン−2,4−ジアミン
N2−メチル−1−(2−メチルプロピル)−N2−プロピル−1H−イミダゾ[4,5−c]キノリン−2,4−ジアミン
1−(2−メチルプロピル)−N2−プロピル−1H−イミダゾ[4,5−c]キノリン−2,4−ジアミン
N2−ブチル−1−(2−メチルプロピル)−1H−イミダゾ[4,5−c]キノリン−2,4−ジアミン
N2−ブチル−N2−メチル−1−(2−メチルプロピル)−1H−イミダゾ[4,5−c]キノリン−2,4−ジアミン
N2−メチル−1−(2−メチルプロピル)−N2−ペンチル−1H−イミダゾ[4,5−c]キノリン−2,4−ジアミン
N2−メチル−1−(2−メチルプロピル)−N2−プロプ−2−エニル−1H−イミダゾ[4,5−c]キノリン−2,4−ジアミン
1−(2−メチルプロピル)−2−[(フェニルメチル)チオ]−1H−イミダゾ[4,5−c]キノリン−4−アミン
1−(2−メチルプロピル)−2−(プロピルチオ)−1H−イミダゾ[4,5−c]キノリン−4−アミン
2−[[4−アミノ−1−(2−メチルプロピル)−1H−イミダゾ[4,5−c]キノリン−2−イル](メチル)アミノ]エタノール
2−[[4−アミノ−1−(2−メチルプロピル)−1H−イミダゾ[4,5−c]キノリン−2−イル](メチル)アミノ]エチルアセテート
4−アミノ−1−(2−メチルプロピル)−1,3−ジヒドロー−2H−イミダゾ[4,5−c]キノリン−2−オン
N2−ブチル−1−(2−メチルプロピル)−N4,N4−ビス(フェニルメチル)−1H−イミダゾ[4,5−c]キノリン−2,4−ジアミン
N2−ブチル−N2−メチル−1−(2−メチルプロピル)−N4,N4−ビス(フェニルメチル)−1H−イミダゾ[4,5−c]キノリン−2,4−ジアミン
N2−メチル−1−(2−メチルプロピル)−N4,N4−ビス(フェニルメチル)−1H−イミダゾ[4,5−c]キノリン−2,4−ジアミン
N2,N2−ジメチル−1−(2−メチルプロピル)−N4,N4−ビス(フェニルメチル)−1H−イミダゾ[4,5−c]キノリン−2,4−ジアミン
1−{4−アミノ−2−[メチル(プロピル)アミノ]−1H−イミダゾ[4,5−c]キノリン−1−イル}−2−メチルプロパン−2−オール
1−[4−アミノ−2−(プロピルアミノ)−1H−イミダゾ[4,5−c]キノリン−1−イル]−2−メチルプロパン−2−オールN4,N4−ジベンジル−1−(2−メトキシ−2−メチルプロピル)−N2−プロピル−1H−イミダゾ[4,5−c]キノリン−2,4−ジアミン。
【0120】
本発明で使用されるサイトカイン誘導剤はトール様受容体(TLR)の調節因子および/またはアゴニストであってもよい。例えば、それらは、1つまたは複数のヒトTLRl、TLR2、TLR3、TLR4、TLR7、TLR8、および/またはTLR9タンパク質のアゴニストであってもよい。好ましい薬剤はTLR7(例えばイミダゾキノリン)および/またはTLR9(例えばCpGオリゴヌクレオチド)のアゴニストである。これらの薬剤は先天性免疫経路の活性化のために有用である。
【0121】
サイトカイン誘導剤はその産生の間に様々な段階で組成物に追加することができる。例えば、サイトカイン誘導剤は抗原組成物中にあってもよく、この混合物は次に水中油滴型エマルジョンに追加することができる。代替としては、サイトカイン誘導剤が水中油滴型エマルジョン中にあってもよく、その場合には薬剤は乳化前のエマルジョン成分に追加することができるか、または薬剤を乳化後にエマルジョンに追加できる。同様に、薬剤はエマルジョン滴中でコアセルベート形成されてもよい。最終組成物内のサイトカイン誘導剤の所在および分布は、その親水性/疎水性の特性に依存するだろう。例えば、薬剤は水相中に、油相中に、および/または油水界面で位置することができる。
【0122】
サイトカイン誘導剤は抗原のような個別の薬剤に結合させることができる(例えばCRM197)。低分子のために結合技術の一般的な総説は参考文献167中に提供される。代替としては、アジュバントは非共有結合で(疎水性相互作用またはイオン性相互作用経由などで)付加薬剤に結合させてもよい。
【0123】
好ましい2つのサイトカイン誘導剤は、(a)免疫刺激オリゴヌクレオチドおよび(b)3dMPLである。免疫刺激オリゴヌクレオチドは、ホスホロチオエート修飾のようなヌクレオチド修飾物/類似化合物を含むことができ、二本鎖または(RNAを除く)一本鎖でありえる。参考文献168、169および170は可能性のある類似化合物置換(例えばグアノシンの2’−デオキシ−7−デアザグアノシンによる置換)を開示する。CpGオリゴヌクレオチドのアジュバント効果は、さらに参考文献171〜176で論じられる。CpG配列はモチーフGTCGTTまたはTTCGTTのようなTLR9に向けられてもよい[177]。CpG配列は、CpG−A ODN(オリゴデオキシヌクレオチド)のように、Th1免疫反応の誘導に特異的であってもよいし、またはB細胞応答の誘導により特異的であってもよい(CpG−B ODNなど)。CpG−AおよびCpG−B ODNは参考文献178〜180で論じられる。好ましくは、CpGはCpG−A ODNである。好ましくは、CpGオリゴヌクレオチドは、5’末端が受容体認識のために接近可能なように構築される。任意で、2つのCpGオリゴヌクレオチド配列が「イムノマー(immunomer)」を形成するためにそれらの3’末端で結合されてもよい。例えば、参考文献177および181〜183を参照。有益なCpGアジュバントは、プロミューン(ProMune)(商標)(コーリー・ファーマシューティカル・グループ(Coley Pharmaceutical Group)社)として公知のCpG7909である。
【0124】
代替として、または加えて、CpG配列の使用に対して、TpG配列を使用できる[184]。これらのオリゴヌクレオチドは、非メチル化CpGモチーフがなくてもよい。
【0125】
免疫刺激オリゴヌクレオチドは、ピリミジン含量が多くてもよい。例えば、それは1つ以上の連続チミジンヌクレオチド(例えば参考文献184中に開示されるようなTTTT)を含んでもよく、および/または>25%のチミジン(例えば>35%、>40%、>50%、>60%、>80%、など)のヌクレオチド組成を有してもよい。例えば、それは1つ以上の連続シトシンヌクレオチド(例えば参考文献184中に開示されるようなCCCC)を含んでもよく、および/または>25%のシトシン(例えば>35%、>40%、>50%、>60%、>80%など)のヌクレオチド組成を有してもよい。これらのオリゴヌクレオチドは非メチル化CpGモチーフがなくてもよい。
【0126】
免疫刺激オリゴヌクレオチドは典型的には少なくとも20ヌクレオチドを含むだろう。それらは100未満のヌクレオチドを含んでもよい。
【0127】
3dMPL(3デ−O−アシル化モノフォスフォリルリピドA、または3−O−デスアシル−4’−モノホスホルイルリピドAとしても公知)は、モノフォスフォリルリピドA中の還元末端グルコサミンの3位が、脱アシル化されたアジュバントである。3dMPLはサルモネラ・ミネソタ(Salmonella Minnesota)のヘプトース欠損変異体から調製されており、リピドAに化学的に類似しているが、酸に不安定なフォスフォリル基および塩基に不安定なアシル基を欠く。3dMPLは、単球/マクロファージ系列の細胞を活性化し、IL−1、IL−12、TNF−αおよびGM−CSFを含むいくつかのサイトカインの放出を刺激する(さらに参考文献185を参照)。3dMPLの調製は、参考文献186中にもともと記載されていた。
【0128】
3dMPLは、アシル化により変化して(例えば異なる長さの3、4、5または6アシル鎖を有する)、関連分子の混合物の形式をとることができる。2つのグルコサミン(2−デオキシ−2−アミノ−グルコースとしても公知)単糖類は、それらの2位炭素で(すなわち2位および2’位で)N−アシル化され、3’位でもO−アシル化される。炭素2に結合される基は、式−NH−CO−CH−CR1’を有する。炭素2’に結合される基は、式−NH−CO−CH−CR2’を有する。炭素3’に結合される基は、式−O−CO−CH−CR3’を有する。代表的な構造は次式のとおりである。
【0129】
【化11】

基R、RおよびRは、それぞれ独立して−(CH−CHである。nの値は好ましくは8〜16、より好ましくは9〜12、および最も好ましくは10である。
【0130】
基R1’、R2’およびR3’は、それぞれ独立して、(a)−H;(b)−OH;または(c)−O−CO−Rでありえ、式中Rは−Hまたは−(CH−CHのいずれかであり、ここでmの値は好ましくは8〜16、およびより好ましくは10、12または14である。2位ではmは好ましくは14である。2’位ではmは好ましくは10である。3’位ではmは好ましくは12である。基R、RおよびRは、したがって好ましくは、ドデカン酸、テトラデカン酸またはヘキサデカン酸からの−O−アシル基である。
【0131】
1’、R2’およびR3’が、すべて−Hである場合、3dMPLは3アシル鎖のみを有する(1つは各々の2位、2’位および3’位に)。R1’、R2’およびR3’のうちの2のみが−Hである場合、3dMPLは4アシル鎖を有することができる。R1’、R2’およびR3’のうちの1つのみが−Hである場合、3dMPLは5アシル鎖を有することができる。R1’、R2’およびR3’のどれも−Hでない場合、3dMPLは6アシル鎖を有することができる。本発明に従って使用される3dMPLアジュバントは、3〜6アシル鎖でこれらの型の混合物になりえるが、混合物中に6つのアシル鎖の3dMPLを含むこと、および特にヘキサアシル鎖型が全3dMPL重量で少なくとも10%、例えば≧20%、≧30%、≧40%、≧50%またはそれ以上を構成することを保証することが好ましい。6アシル鎖の3dMPLが、最も高いアジュバント活性型であることを見出した。
【0132】
したがって、本発明の組成物への含有のための3dMPLの最も好ましい型は、次式(IV)を有する。
【0133】
3dMPLが混合物の形式で使用される場合には、本発明の組成物中の3dMPLの量または濃度に対する参照は、混合物中で組み合わされる3dMPL種を指す。
【0134】
水溶性条件において、3dMPLは、異なるサイズのミセル凝集体または粒子(例えば直径で<150nm、または>500nm)を形成することができる。どちらか片方またはこれらの両方は、本発明で使用することができ、よい粒子を常用分析で選択することができる。より小さな粒子(例えば、3dMPLの透明水性懸濁液を生ずるのに十分に小さな)は、優れた活性のために本発明に記載の使用に好ましい[187]。好ましい粒子は、220nm未満、より好ましくは200nmまたは150nm未満もしくは120nm未満の平均径を有し、100nm未満の平均径でさえ有することができる。しかしながらほとんどの場合には、平均径は50nmほどは小さくはないだろう。これらの粒子は濾過滅菌に適切でありうるほど十分に小さい。粒子直径は、動的光散乱の常用技術で評価することができ、それは平均粒子直径を示す。粒子がxnmの直径を有すると表現する場合には、一般にこの平均ほどの粒子の分布があるだろうが、粒子の数で少なくとも50%(例えば≧60%、≧70%、≧80%、≧90%、またはそれ以上)は、x±25%以内の範囲の直径を有するだろう。
【0135】
3dMPLは、水中油滴型エマルジョンと組み合わせて有利に使用できる。実質的にすべての3dMPLは、エマルジョンの水相中に位置してもよい。
【0136】
3dMPLは、そのままでまたは1つまたは複数のさらなる化合物と組み合わせて使用できる。例えば、QS21サポニン[188](水中油滴型エマルジョン中に含む[189])と、免疫刺激オリゴヌクレオチドと、QS21および免疫刺激オリゴヌクレオチドの両方と、リン酸アルミニウム[190]と、水酸化アルミニウム[191]と、またはリン酸アルミニウムおよび水酸化アルミニウムの両方と、組み合わせて3dMPLを使用することは公知である。
【0137】
【化12】

脂質アジュバント
本発明で使用することができる脂質アジュバントは、上で記述された水中油滴型エマルジョンを含み、例えば以下もまた含む。
【0138】
・次式I、IIまたはIIIの化合物、またはその塩であって、
【0139】
【化13】

参考文献192において定義されたように、「ER 803058」,「ER 803732」,「ER、804053」ER 804058」,「ER 804059」,「ER、804442」,「ER 804680」,「ER80476」ER 803022または「ER 804057」などで、例えば次式。
【0140】
【化14】

・OM−174(参考文献193および194中に記載される)のような、大腸菌からのリピドAの誘導体。
【0141】
・アミノプロピル−ジメチル−ミリストレイロキシ(myristoleyloxy)−プロパナミニウムブロミド−ジフィタノイルホスファチジル−エタノールアミン(「バクスフェクチン(Vaxfectin)(商標)」)、またはアミノプロピル−ジメチル−ビス−ドデシロキシ−プロパナミニウムブロミド−ジオレオイルホスファチジル−エタノールアミン(「GAP−DLRIE:DOPE」)のような、陽イオン性脂質および(通常中性)共脂質(co−lipid)の製剤。(±)−N−(3−アミノプロピル)−N,N,N−ジメチルアニリン−2,3−ビス(syn−9−テトラデケニルオキシ)−1−プロパナミニウム塩を含む製剤が好ましい[195]。
【0142】
・3−O−脱アシル化モノフォスフォリルリピドA(上記を参照)。
【0143】
TLR4アンタゴニストE5564のような、リン酸塩を含む非環式骨格に結合された脂質を含む以下の化合物[196、197]。
【0144】
【化15】

アルミニウム塩アジュバント
水酸化アルミニウムおよびリン酸アルミニウムとして公知のアジュバントが使用されてもよい。これらの名称は、どちらも存在する実際の化学化合物の正確な記述でないので、慣習的であるが、便宜的にのみ使用される(例えば、参考文献128の9章を参照)。本発明は、アジュバントとしての一般使用において「水酸化物」アジュバントまたは「リン酸」アジュバントのうちのいずれかを使用できる。
【0145】
「水酸化アルミニウム」として公知のアジュバントは、典型的にはオキシ水酸化アルミニウム塩であり、それは通常部分的に結晶状である。オキシ水酸化アルミニウム(それらは式AlO(OH)により表わすことができる)は、赤外線(IR)分光法によって、特に1070cm−1での吸着バンドの存在および3090〜3100cm−1での強い段差によって、水酸化アルミニウムAl(OH)のような他のアルミニウム化合物から区別することができる[参考文献128の9章]。水酸化アルミニウムアジュバントの結晶化度は、より小さな結晶子サイズのために、より大きな線広がりを示す低結晶状粒子で、2分の1高さでの回折バンド(WHH)の幅に反映される。WHHが増加するにつれて表面領域は増加し、より高いWHH値を有するアジュバントは、より高い抗原吸着のための能力を有すると考えられた。線維状の形態(例えば透過型電子顕微鏡写真において見られるように)は、水酸化アルミニウムアジュバントには典型的である。水酸化アルミニウムアジュバントのpIは典型的には約11で、すなわちアジュバントはそれ自体生理的なpHで正の表面電荷を有している。水酸化アルミニウムアジュバントについては、pH7.4で1mg Al+++あたり1.8〜2.6mgタンパク質の吸着能が、報告されている。
【0146】
「リン酸アルミニウム」として公知のアジュバントは、典型的には少量の硫酸塩(すなわち水酸化リン酸アルミニウム硫酸塩)もまた含む水酸化リン酸アルミニウムである。それらは沈殿によって得られてもよく、沈殿の間の反応条件および濃度は、塩における水酸基に対するリン酸塩による置換度に影響を及ぼす。水酸化リン酸塩は、一般に0.3〜1.2のPO/Alモル比を有する。水酸化リン酸塩は、水酸基の存在によって狭義のAlPOから区別することができる。例えば、3164cm−1(例えば200℃に加熱した場合)でのIRスペクトル帯は、構造的な水酸基の存在を示す[参考文献128の9章]。
【0147】
リン酸アルミニウムアジュバントのPO/Al3+モル比は、一般に0.3〜1.2、好ましくは0.8〜1.2、およびより好ましくは0.95±0.1であるだろう。一般にリン酸アルミニウム、特に水酸化リン酸塩については、非晶質になるだろう。典型的なアジュバントは、0.84〜0.92のPO/Alモル比で、Al3+を0.6mg/mlで含む、非晶質水酸化リン酸アルミニウムである。リン酸アルミニウムは一般に微粒子である(例えば透過型電子顕微鏡写真において見られるようなプレート様形態)。粒子の典型的な直径は、任意の抗原吸着後に0.5〜20μmの範囲(例えば約5〜10μm)である。リン酸アルミニウムアジュバントについては、pH7.4で1mg Al+++あたり0.7〜1.5mgタンパク質の吸着能は、報告されている。
【0148】
リン酸アルミニウムのゼロ電荷点(PZC)は、水酸基に対するリン酸塩による置換度に反比例し、この置換度は、沈殿による塩の調製のために用いられる反応条件および反応物の濃度に依存して変化しうる。PZCは、溶液中で遊離リン酸イオンの濃度を変化させること(より多いリン酸塩=より酸性のPZC)によって、またはヒスチジン緩衝剤(PZCをより塩基性にする)のような緩衝剤の追加によってもまた変化させることができる。本発明に従って用いられるリン酸アルミニウムは、一般に4.0〜7.0、より好ましくは5.0〜6.5、例えば約5.7のPZCを有するだろう。
【0149】
本発明の組成物を調製するために用いられるアルミニウム塩の懸濁物は、緩衝剤(例えばリン酸塩緩衝剤、ヒスチジントリス緩衝剤、トリス緩衝剤)を含んでもよいが、これは常に必要だとは限らない。その懸濁物は好ましくは無菌で発熱物質不含有である。懸濁物は、例えば、1.0〜20mM、好ましくは5〜15mM、およびより好ましくは約10mMの濃度で存在する遊離水溶性リン酸イオンを含んでもよい。その懸濁物はさらに塩化ナトリウムを含んでもよい。
【0150】
本発明は、水酸化アルミニウムおよびリン酸アルミニウムの両方の混合物を用いることができる[89]。この場合には、水酸化物よりもリン酸アルミニウムが多く、例えば少なくとも2:1、例えば≧5:1、≧6:1、≧7:1、≧8:1、≧9:1、などの重量比で存在してもよい。
【0151】
患者に対する投与のための組成物中のAl+++の濃度は、好ましくは10mg/ml未満、例えば≦5mg/ml、≦4mg/ml、≦3mg/ml、≦2mg/ml、≦1mg/ml、などである。好ましい範囲は0.3〜1mg/mlである。最大0.85mg/用量までが好ましい。
【0152】
アジュバント成分は、1つまたは複数のアルミニウム塩アジュバントを含むことに加えて、1つまたは複数のさらなるアジュバントまたは免疫刺激剤を含んでもよい。そのような追加成分は、3−O脱アシル化モノフォスフォリルリピドAアジュバント(「3d−MPL」);および/または水中油滴型エマルジョンを含むが、これらに限定されない。3d−MPLは、3デ−Oアシル化モノフォスフォリルリピドAまたは3−O−デスアシル−4’−モノホスホルイルリピドAとも呼ばれた。この名称は、モノフォスフォリルリピドAにおける還元末端グルコサミンの3位が脱アシル化されていることを示す。3d−MPLはサルモネラ・ミネソタのヘプトース欠損変異体から調製されており、リピドAに化学的に類似しているが、酸に不安定なフォスフォリル基および塩基に不安定なアシル基を欠く。3d−MPLは、単球/マクロファージ系列の細胞を活性化し、IL−1、IL−12およびTNF−αおよびGM−CSFを含むいくつかのサイトカインの放出を刺激する。3d−MPLの調製は、参考文献186中にもともと記載されており、製品は名称MPL(商標)でコリザ社(Corixa Corporation)により製造され、販売された。さらなる詳細は、参考文献139〜142において見出すことができる。
【0153】
医薬組成物
本発明の組成物は薬学的に許容できる。この組成物は、通常抗原に加えて成分を含んでおり、例えばこの組成物は典型的には1つまたは複数の薬学的担体(複数可)および/または賦形剤(複数可)を含む。そのような成分の詳細な考察は、参考文献198において利用可能である。
【0154】
組成物は、一般に水溶性形式であるだろう。
【0155】
組成物は、チオマーサルまたは2−フェノキシエタノールのような防腐剤を含んでもよい。しかしながら、ワクチンは実質的に水銀物質を不含有(すなわち5μg/ml未満)、例えばチオマーサル不含有であるべきことが好ましい[9、199]。水銀を含まないワクチンがより好ましい。防腐剤不含有ワクチンが特に好ましい。
【0156】
等張性を制御するために、ナトリウム塩のような生理的な塩を含むことは好ましい。塩化ナトリウム(NaCl)が好ましく、それらは1〜20mg/mlで存在してもよい。存在してもよい他の塩は塩化カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム無水物、塩化マグネシウム、塩化カルシウムなどを含む。
【0157】
組成物は一般に、200mOsm/kg〜400mOsm/kg、好ましくは240〜360mOsm/kgの浸透圧を有し、より好ましくは290〜310mOsm/kgの範囲以内にあるだろう。浸透圧はワクチン接種により引き起こされる痛みに影響を及ぼさないことが今までに報告されたが[200]、それにもかかわらずこの範囲で浸透圧を保つことは好ましい。
【0158】
組成物は1つまたは複数の緩衝剤を含んでもよい。典型的な緩衝剤は、リン酸塩緩衝剤;トリス緩衝剤;ホウ酸塩緩衝剤;コハク酸塩緩衝剤;ヒスチジン緩衝剤(特に水酸化アルミニウムアジュバントと共に);またはクエン酸塩緩衝剤を含む。緩衝剤は、典型的には5〜20mM範囲で含まれるだろう。
【0159】
組成物のpHは、一般に5.0〜8.1、およびより典型的には6.0〜8.0例えば6.5〜7.5、または7.0〜7.8であるだろう。したがって、本発明の過程は、パッケージングの前にバルクワクチンのpHを調整する工程を含んでもよい。
【0160】
組成物は好ましくは無菌である。組成物は、好ましくは非発熱性であり、例えば1用量あたり<1EU(菌体内毒素ユニット、標準測定値)および好ましくは1用量あたり<0.1EUを含む。組成物には好ましくはグルテン不含有である。
【0161】
本発明の組成物は、界面活性剤、例えばポリオキシエチレンソルビタンエステル界面活性剤(「ツイーン」として公知)、オクトキシノール(オクトキシノール−9(トリトンX−100)もしくはt−オクチルフェノキシポリエトキシエタノールのような)、臭化セチルトリメチルアンモニウム(「CTAB」)、または特にスプリットワクチンもしくは表面抗原ワクチンに対するデオキシコール酸ナトリウムを含んでもよい。界面活性剤は微量でのみ存在してもよい。したがってワクチンは、1mg/ml未満のオクトキシノール−10およびポリソルベート80の各々を含んでもよい。微量での他の残余成分は、抗生物質でありえる(例えばネオマイシン、カナマイシン、ポリミキシンB)。
【0162】
組成物は、単一の予防接種のための物質を含んでもよいし、または複数の予防接種のための物質を含んでもよい(すなわち「マルチ用量」キット)。防腐剤の含有はマルチ用量のアレンジにおいて好ましい。マルチ用量組成物中での防腐剤含有に対する代替として(またはそれに加えて)、組成物は物質除去のための無菌アダプターを有する容器中に含まれてもよい。
【0163】
インフルエンザワクチンは、典型的には約0.5mlの投薬容量で投与されるが、2分の1用量(すなわち約0.25ml)を子供に投与してもよい。
【0164】
組成物およびキットは、好ましくは2℃〜8℃で保存される。それらは凍結するべきでない。それらは、理想的には直射日光から遠ざけておくべきである。
【0165】
本発明のキット
特にアジュバントが用いられている場合、本発明の組成物は送達時にその場で調製されていてもよい。したがって、本発明は、混合のために準備済みの様々な成分を含むキットを提供する。キットは、アジュバントおよび抗原が使用時まで別々に保たれることを可能にする。水中油滴型エマルジョンアジュバントを用いる場合、このアレンジは特に有益である。
【0166】
この成分は、キット中で互いから物理学的に分離しており、この分離は様々な手段で達することができる。例えば、2つの成分はバイアルのような2つの個別の容器中にあってもよい。次に2つのバイアルの内容物は、例えば、1つのバイアルの内容物を取り出し他のバイアルにそれらを追加することにより、または別々に両方のバイアルの内容物を取り出し第3の容器でそれらを混合することにより、混合することができる。
【0167】
好ましいアレンジにおいて、キット成分のうちの1つはシリンジ中にあり、他方はバイアルのような容器中にある。シリンジは、混合のための第2の容器にその内容物を注入するために用いる(例えば針により)ことができ、次に混合物はシリンジの中へ回収することができる。次にシリンジの混合された内容物は、典型的には新しい無菌の針を通して患者に投与することができる。シリンジ中に1つの成分をパックすることは、個別のシリンジを患者投与に用いる必要性を除く。
【0168】
別の好ましいアレンジにおいて、2つのキット成分は、同一のシリンジ(例えば参考文献201−208などで開示されたもののようなデュアルチャンバーのシリンジ)で一緒にされるが、分離されている。次にシリンジを(例えば患者に対する投与の間に)動かす場合、2つのチャンバーの内容物が混合される。このアレンジにより、使用時で個別の混合ステップへの必要性が回避される。
【0169】
キット成分は、一般に水溶性形式であるだろう。いくつかのアレンジにおいて、成分(典型的にはアジュバント成分よりもむしろ抗原成分)は、水溶性形式である他の成分と共に、乾燥形式(例えば凍結乾燥された形式で)である。2つの成分は、乾燥成分を再活性化し、患者に対する投与のための水溶性組成物を生ずるために混合することができる。凍結乾燥成分は、典型的にはシリンジよりもむしろバイアル内にあるだろう。乾燥した成分は、ラクトース、ショ糖またはマンニトールのような安定剤を、その混合物(例えばラクトース/ショ糖混合物、ショ糖/マンニトール混合液など)とともに、含んでもよい。1つ可能なアレンジは、プレフィルドシリンジ中の水溶性のアジュバント成分およびバイアル中の凍結乾燥された抗原成分を用いる。
【0170】
組成物またはキット成分のパッケージング
本発明の組成物(またはキット成分)に適切な容器は、バイアル、シリンジ(例えば使い捨てシリンジ)および鼻内噴霧器などを含む。これらの容器は、無菌であるべきである。
【0171】
組成物/成分がバイアル中にある場合、バイアルは好ましくはガラスまたはプラスチック材料で作製されている。組成物がそれに追加される前に、バイアルは好ましくは滅菌される。ラテックスに過敏な患者に関する問題を回避するために、バイアルは好ましくはラテックス不含有栓により密閉され、すべての包装材料中にラテックスが存在しないことが好ましい。バイアルは、ワクチンの単一用量を含んでもよいか、または1用量以上の(「マルチ用量」バイアル)、例えば10用量を含んでもよい。好ましいバイアルは無色のガラスで作製されている。
【0172】
バイアルは、プレフィルドシリンジをキャップの中へ挿入することができ、シリンジの内容物はバイアルの中へ放出することができ(例えば凍結乾燥された物質をその中で再構成する)、バイアルの内容物をシリンジの中へ戻すことができるように、適合するキャップ(例えばルアーロック)を有することができる。バイアルからのシリンジの除去後に、次に針を結合することができ、組成物を患者に投与することができる。キャップに接近する前にシールまたはカバーを除去しなければならないように、キャップは好ましくはシールまたはカバーの内部に位置する。バイアルは、特にマルチ用量バイアルのために、内容物の無菌的な取り出しを可能にするキャップを有していてもよい。
【0173】
成分がシリンジの中へパッケージにされる場合には、シリンジに針を添付してもよい。針が添付されないならば、組み立ておよび使用のために、個別の針をシリンジと共に供給してもよい。そのような針は鞘に納められてもよい。安全針が好ましい。1インチ23ゲージ、1インチ25ゲージおよび5/8インチ25ゲージ針が典型的である。シリンジは、記録管理を容易にするロット番号、インフルエンザシーズンおよび内容物の使用期限が印刷されたはぎとり式の標識と共に提供されてもよい。シリンジ中のプランジャーは、吸引の間に偶然に除去されるのを防止するために好ましくは栓を有する。シリンジは、ラテックスゴムキャップおよび/またはプランジャーを有してもよい。使い捨てシリンジは、ワクチンの単一用量を含む。シリンジは一般に、針装着以前に先端をふさぐために先端キャップを有し、先端キャップは好ましくはブチルゴムで作製される。シリンジおよび針が別々にパッケージにされるならば、針には好ましくはブチルゴムシールドが取り付けられる。好ましいシリンジは商品名「チップ−ロック(Tip−Lok)」(商標)で、市場で売買されるものである。
【0174】
容器は、例えば子供に対する送達を容易にするために、2分の1用量の容量を示すように印を付けられてもよい。例えば、0.5ml用量を含むシリンジは、0.25ml容量を示す印を有してもよい。
【0175】
ガラス容器(例えばシリンジまたはバイアル)が用いられる場合には、ソーダ石灰ガラスからよりもむしろホウケイ酸ガラスから作製された容器の使用が好ましい。
【0176】
キットまたは組成物は、ワクチンの詳細を含む小冊子(例えば投与、ワクチン内の抗原などの詳細についての説明書)と共に、パッケージ(例えば同一ボックス中に)されてもよい。説明書は警告(例えばワクチン接種後のアナフィラキシー反応に備えて、ただちに利用可能なアドレナリンの溶液を保持すること)なども含んでもよい。本発明のいくつかの実施形態において、小冊子はワクチンがマトリックスタンパク質を含むことを明示するだろう。
【0177】
治療法、およびワクチンの投与
本発明の組成物はヒト患者に対する投与に適切であり、本発明は患者に対して本発明の組成物を投与する工程を含む、患者における免疫反応を誘導する方法を提供する。
【0178】
本発明は、医薬品として使用のための本発明のキットまたは組成物もまた提供する。
【0179】
本発明は、(i)患者における免疫反応を誘導するための医薬品の製造において、細胞培養において増殖させたウイルスから調製される、血球凝集素およびマトリックスタンパク質を含むインフルエンザウイルス抗原調製品の使用もまた提供する。
【0180】
これらの方法および使用により誘導される免疫反応は、一般に抗体反応、好ましくは防御抗体反応を含むだろう。インフルエンザウイルスワクチン接種後の、抗体反応、中和能力、および防御の評価方法は、当技術分野において周知である。ヒトでの研究は、ヒトインフルエンザウイルスの血球凝集素に対する抗体価が防御と関連していることを示した(約30〜40の血清試料赤血球凝集阻害力価は、相同なウイルスによる感染からの約50%防御を与える)[209]。抗体反応は典型的には、赤血球凝集阻害により、マイクロ中和法(microneutralisation)により、一元放射免疫拡散法(SRID)により、および/または一元放射溶血法(SRH)により測定される。これらの検定技法は当技術分野において周知である。
【0181】
本発明の組成物は様々な手段で投与することができる。最も好ましい予防接種経路は、筋肉注射(例えば腕または脚の中への)によるものであるが、他の利用可能な経路は、皮下注射、鼻内投与[210〜212]、経口投与[213]、真皮内投与[214,215]、経皮投与、経真皮投与[216]などを含む。
【0182】
本発明に従って調製されたワクチンは子供および成人の両方を治療するために使用されてもよい。インフルエンザワクチンは、6か月から、小児および成人の予防接種における使用に現在推奨される。したがって、患者は1歳未満、1〜5歳、5〜15歳、15〜55歳、または少なくとも55歳であってもよい。ワクチン投与に好ましい患者は、高齢者(例えば、≧50歳、≧60歳、および好ましくは≧65歳)、幼児(例えば≦5歳)、入院患者、医療従事者、軍部および軍関係者、妊婦、慢性病患者、免疫不全患者、ワクチン投与7日前に抗ウイルス性化合物(例えばオセルタミビル化合物またはザナミビル化合物;以下参照)を投与された患者、卵アレルギーのある人、および外国へ旅行する人である。しかしながらワクチンはこれらの群に適切なだけではなく、集団においてより一般に使用されてもよい。汎流行株については、すべての年齢群に対する投与が好ましい。
【0183】
本発明の好ましい組成物は、有効性のためのCPMP基準のうちの1、2または3を満足する。成人(18〜60歳)において、これらの基準は、(1)≧70%のセロプロテクション;(2)≧40%のセロコンバージョン;および/または(3)≧2.5倍のGMT増加である。高齢者(>60歳)において、これらの基準は、(1)≧60%のセロプロテクション;(2)≧30%のセロコンバージョン;および/または(3)≧2倍のGMT増加である。これらの基準は少なくとも50人の患者による非盲検試験に基づく。
【0184】
投与は単一用量スケジュールまたは複数用量スケジュールによることができる。複数用量は一次予防接種スケジュールにおいておよび/または追加予防接種スケジュールにおいて使用されてもよい。複数用量スケジュールにおいて、様々な用量は、同一経路または異なる経路、例えば非経口で一次および粘膜で追加、粘膜で一次および非経口で追加などにより与えられてもよい。1用量以上(典型的には2用量)の投与は、特に免疫学的にナイーブな患者において、例えばインフルエンザワクチンを以前に投与されていない人のために、または新しいHAサブタイプ(汎流行大発生でのように)に対するワクチン接種のために有用である。複数用量は典型的には少なくとも1週間(例えば約2週、約3週、約4週、約6週、約8週、約10週、約12週、約16週など)間隔で投与されるだろう。
【0185】
本発明によって産生されたワクチンは、他のワクチンと実質的に同時に(例えば医療相談、または医療従事者もしくはワクチン接種のセンターへの訪問と同時期に)、例えば、麻疹ワクチン、おたふくかぜワクチン、風疹ワクチン、MMRワクチン、水痘ワクチン、MMRVワクチン、ジフテリアワクチン、破傷風ワクチン、百日咳ワクチン、DTPワクチン、結合型インフルエンザ桿菌(Haemophilus influenzae)b型ワクチン、不活化ポリオウイルスワクチン、B型肝炎ワクチン、髄膜炎菌結合型ワクチン(四価A−C−W135−Yワクチンのような)、呼吸器合胞体ウイルスワクチン、肺炎球菌結合型ワクチンなどと実質的に同時に、患者に投与されてもよい。肺炎球菌ワクチンおよび/または髄膜炎菌ワクチンとしての、実質的に同時の投与は、高齢の患者において特に有用である。
【0186】
同様に本発明のワクチンは、抗ウイルス性化合物、および特にインフルエンザウイルスに対する活性のある抗ウイルス性化合物(例えばオセルタミビルおよび/またはザナミビル)と実質的に同時に(例えば医療相談、または医療従事者もしくはワクチン接種のセンターへの訪問と同時期に)患者に投与されてもよい。これらの抗ウイルス薬は、そのエステル(例えばエチルエステル)およびその塩(例えばリン酸塩塩)を含む、(3R,4R,5S)−4−アセチルアミノ−5−アミノ−3(1−エチルプロポキシ)−1−シクロヘキセン−1−カルボン酸または5−(アセチルアミノ)−4−[(アミノイミノメチル)−アミノ]−2,6−アンヒドロ−3,4,5−トリデオキシ−D−グリセロ−D−ガラクトノン(galactonon)−2−エノン酸のようなノイラミニダーゼ阻害剤を含む。好ましい抗ウイルス薬は、リン酸オセルタミビル(タミフル(商標))として知られている(3R,4R,5S)−4−アセチルアミノ−5−アミノ−3(1−エチルプロポキシ)−1−シクロヘキセン−1−カルボン酸,エチルエステル,リン酸(1:1)である。
【0187】
分析
インフルエンザワクチンの特性を明らかにするために、存在するマトリックスタンパク質の量を決定することは有益であってもよい。したがって、マトリックスタンパク質の存在を決定するためにワクチンのサンプルが解析される場合には、本発明はインフルエンザワクチンを解析するための分析を提供する。この分析は、M1タンパク質の断片のための検査に特に有用である。
【0188】
インフルエンザワクチンは、インフルエンザA型および/またはインフルエンザB型ウイルスからの抗原を含んでもよい。本発明は、ワクチンのサンプルがインフルエンザB型ウイルスマトリックスタンパク質の存在を決定するために解析される場合には、インフルエンザB型ウイルスからの抗原を含むワクチンを解析するための分析を提供する。
【0189】
インフルエンザワクチンは、様々なHAサブタイプからの抗原を含んでもよい。本発明は、ワクチンのサンプルがインフルエンザA型ウイルスマトリックスタンパク質の存在を決定するために解析される場合には、およびインフルエンザA型ウイルスがH2、H4、H5、H6、H7、H8、H9、H10、H11、H12、H13、H14、H15またはH16から選択される血球凝集素サブタイプを有する場合には、インフルエンザA型ウイルスからの抗原を含むワクチンを解析するための分析を提供する。
【0190】
インフルエンザワクチンは、細胞培養で増殖させた抗原を含んでもよい。ワクチンのサンプルがインフルエンザウイルスマトリックスタンパク質の存在を決定するために解析される場合、本発明は細胞培養で増殖させたワクチンの解析ための分析を提供する。
【0191】
インフルエンザワクチンはアジュバントを含んでもよい。ワクチンのサンプルがインフルエンザウイルスマトリックスタンパク質の存在を決定するために解析される場合、本発明はアジュバント効果を与えられたインフルエンザワクチンの解析ための分析を提供する。アジュバント効果を与えられていないワクチンのサンプルがインフルエンザウイルスマトリックスタンパク質の存在を決定するために解析され、次にアジュバントがワクチンに追加される場合、本発明はアジュバント効果を与えられていないインフルエンザワクチンの解析ための分析もまた提供する。
【0192】
これらの分析は典型的にはウエスタンブロットまたはELISAのような免疫測定法になるだろう。免疫測定法はポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体を使用してもよい。モノクローナル抗体が使用される場合、いくつかの実施形態において、それはマウスIgGl抗体のようなマウス抗体ではない。本明細書において開示されるM1断片を認識する抗体、例えば、10kDaまたはより低い(例えば<5kDa)の分子量の断片を認識する抗体、N末端メチオニンを欠く断片を認識する抗体、配列番号15のN末端配列の断片を認識する抗体、配列番号28および/または配列番号29を認識する抗体、配列番号30を含む断片を認識する抗体、共有結合で修飾されたN末端の断片を認識する抗体、などを含む、M1断片を認識する抗体は、この分析において使用することができる。
【0193】
この分析は、10kDaの分子量の断片またはより小さい(例えば<5kDa)断片および/または本明細書において開示される断片(例えば全M1配列のN末端メチオニンを欠く)のような、M1タンパク質の断片の検出のために特に有用である。好ましい分析は、全長M1タンパク質の存在とM1タンパク質断片の存在を区別することができ、さらに異なる断片を区別してもよい。
【0194】
分析は、定性的、半定量的、または定量的であってもよい。
【0195】
本発明は、この方法で分析されるワクチンも提供する。
【0196】
本発明のさらなる態様
本発明は、(i)インフルエンザウイルス血球凝集素およびマトリックスタンパク質と、(ii)アジュバントとを含む免疫原性組成物を提供する。インフルエンザウイルスタンパク質は、細胞培養において増殖させるか、または卵において増殖させたウイルスから調製されていてもよい。上で記述されるように、組成物はさらなる成分(例えばインフルエンザウイルスノイラミニダーゼタンパク質、薬学的担体/賦形剤など)もまた含んでもよい。
【0197】
本発明は、(i)インフルエンザウイルスを増殖させる工程と;(ii)抗原組成物が血球凝集素およびマトリックスタンパク質を含むことを特徴として、工程(i)で増殖させたウイルスから抗原組成物を調製する工程と;(iii)アジュバントにより免疫原性組成物を生ずるために抗原組成物を組み合わせる工程とを含む免疫原性組成物を調製する方法もまた提供する。
【0198】
本発明は、(i)血球凝集素がH2、H4、H5、H6、H7、H8、H9、H10、H11、H12、H13、H14、H15またはH16から選択されるサブタイプを有することを特徴として、インフルエンザウイルス血球凝集素およびマトリックスタンパク質を含む免疫原性組成物を提供する。
【0199】
本発明は、(i)インフルエンザウイルスを増殖させる工程と;(ii)抗原組成物が血球凝集素およびマトリックスタンパク質を含み、血球凝集素がH2、H4、H5、H6、H7、H8、H9、H10、H11、H12、H13、H14、H15またはH16から選択されるサブタイプを有することを特徴として、工程(i)で増殖させたウイルスから抗原組成物を調製する工程と;(iii)アジュバントにより免疫原性組成物を生ずるために抗原組成物を組み合わせる工程とを含む免疫原性組成物を調製する方法もまた提供する。
【0200】
本発明は、(i)組成物中の血球凝集素の濃度が29μg/mlまたはそれ以下(例えば≦28μg/ml、≦27μg/ml、≦26μg/ml、≦25μg/ml、≦24μg/ml、≦23μg/ml、≦22μg/ml、≦21μg/ml、≦20μg/ml、≦19μg/ml、≦18μg/ml、≦17μg/ml、≦16μg/ml、≦15μg/ml、≦14μg/ml、≦13μg/ml、≦12μg/ml、≦11μg/ml、≦10μg/ml、≦9μg/ml、≦8μg/ml、≦7μg/ml、≦6μg/ml、≦5μg/ml、≦4μg/ml、≦3μg/ml、≦2μg/ml)であることを特徴として、インフルエンザウイルス血球凝集素およびマトリックスタンパク質を含む免疫原性組成物を提供する。この組成物は、インフルエンザウイルスの1つ以上の株からの血球凝集素を含んでいてもよく、その場合には前記濃度は1つの株あたりである(すなわち1株あたり≦29μg/ml)。
【0201】
本発明は、(i)組成物中の血球凝集素の濃度が31μg/mlまたはそれ以上(例えば、≧32μg/ml、≧33μg/ml、≧34μg/ml、≧35μg/ml、≧40μg/ml、≧45μg/ml、≧50μg/ml、≧55μg/ml、≧60μg/ml、≧70μg/ml、≧80μg/ml、≧90μg/ml、≧100μg/mlなど、しかし典型的には<200μg)であることを特徴として、インフルエンザウイルス血球凝集素およびマトリックスタンパク質を含む免疫原性組成物を提供する。組成物は、インフルエンザウイルスの1つ以上の株からの血球凝集素を含んでいてもよく、その場合には前記濃度は1つの株あたりである(すなわち1株あたり≧31μg/ml)。
【0202】
本発明は、インフルエンザウイルスM2マトリックスタンパク質を含むが、上で定義されるようなインフルエンザウイルスマトリックスタンパク質M1を実質的に不含有の免疫原性組成物もまた提供する。M2含有ワクチンは現在開発されている[217]。M2は、M1もコードするウイルスセグメントによって天然にコードされる。組み換え発現システムにおいて、したがってM1タンパク質は、副産物として発現されるかもしれない。本発明に従って、このどちらかの副発現は回避することができ、そうでなければM1マトリックスタンパク質はM2含有組成物から除去することができる。M2タンパク質は全長タンパク質であってもよいし、または例えばM2細胞外ドメイン(「M2e」として当技術分野において公知の)のようなM2断片であってもよい。M2タンパク質は別の抗原、例えばB型肝炎ウイルス抗原に結合してもよい。ワクチンは、HAおよび/またはNAを不含有でもよい。
【0203】
一般
用語「含む(comprising)」は、「なる(consisting)」とともに「含む(including)」も包含する。例えば組成物が、Xを「含む(comprising)」ことは、もっぱらXからなって(consist)もよいし、または付加的なもの、例えばX+Yを含ん(include)でもよい。
【0204】
単語「実質的に」は、「完全に」を除外せず、例えば「実質的にY不含有の」組成物は、Yを完全に不含有でもよい。必要な場合には、単語「実質的に」は本発明の定義から省略されてもよい。
【0205】
数値xに関して用語「約」は、例えば、x±10%を意味する。
【0206】
特に明言されない場合、2つまたは複数の成分を混合する工程を含む過程は、任意の特異的な混合順序を必要としない。したがって成分は任意の順序で混合することができる。3つの成分がある場合、2つの成分を互いに組み合わせることができ、次にその組合せは第3の成分と組み合わせるなどしてもよい。
【0207】
動物の(および特にウシの)物質が細胞の培養において使用される場合、それらは伝達性海綿状脳症(TSE)のない、および特に牛海綿状脳症(BSE)のないソースから得られるべきである、全面的に、動物由来物質の完全な非存在下において細胞を培養することが好ましい。
【0208】
化合物が組成物の一部として身体に投与される場合、その化合物は適切なプロドラッグにより代わりに置換されてもよい。
【0209】
細胞基質が再集合またはリバースジェネティクスの手順に使用される場合、それは好ましくはヒトワクチン産生における使用のために承認された例えばヨーロッパ薬局方(Ph Eur)概略章5.2.3におけるようなものである。
【0210】
ポリペプチド配列間の同一性は、好ましくはパラメーターのギャップオープンペナルティー=12およびギャップエクステンションペナルティー=1でアファインギャップ検索を使用して、MPSRCHプログラム(オックスフォード・モレキュラー(Oxford Molecular)社)において実行されるようなスミス−ウォーターマン(Smith−Waterman)ホモロジー検索アルゴリズムによって決定される。
【実施例】
【0211】
発明を実施するための最良の形態
インフルエンザウイルスのための精製された表面抗原ワクチンについて調べている間に、ビリオンをMDCK細胞で増殖させた場合、CTABでインフルエンザA型ウイルスのスプリッティング後のSDS PAGEによって、比較的大量の低分子量ポリペプチドを検出することができることが観察された。この低分子量ポリペプチドはさらなる抗原精製間にも存在し、表面抗原の最終的な調製品中に存在した。このポリペプチドを調べるために、2kDaという小さなポリペプチドの識別を可能にする緩衝系を使用した(インビトロゲンからのニューページ(NuPAGE)(商標)ノベックス(Novex)ビス−トリスゲル)。この系を使用して、〜5kDaの明瞭な分子量のポリペプチドバンドが同定された。このポリペプチドバンドは、現行ワクチンのインフレキシアルV(商標)、インフルスプリット(INFLUSPLIT)(商標)、ミュータグリップ(MUTAGRIP)(商標)、バキシグリップ(VAXIGRIP)(商標)、ベグリバック(商標)、フルアリックス(商標)、インフルバック(商標)またはフルビリン(商標)中に見られず、それらのすべては卵で増殖させたビリオンから調製されている。意外にも、このポリペプチドバンドは、アグリッパル(商標)のいくつかのバッチで検出されたが、その実在または存在は今までに認識されなかった。
【0212】
〜5kDaバンドによるウサギの予防接種は、未変性M1タンパク質を検出できる抗体を誘導した。図2は、ウサギからの抗血清を使用する分画されたインフルエンザビリオンのウエスタンブロット解析の結果であり、ビリオンM1タンパク質への強い反応性を示す。したがって〜5kDaバンド中のポリペプチドは、免疫原性であり、未変性の対応するM1タンパク質に結合する抗体の産生を引き起こすエピトープを保有する。
【0213】
2つの異なるウイルス(H1N1ウイルスおよびH3N2ウイルス)に由来する〜5kDaバンドのN−末端アミノ酸配列分析は、EISLSYSAGALA(配列番号15)のN末端配列を有するペプチドを示した。このアミノ酸配列は、配列番号1のアミノ酸の位置114〜125と同一のインフルエンザウイルスM1タンパク質の断片である。
【0214】
トリプシン消化断片のMS分析を使用するさらなる研究により、以下のN−末端アミノ酸配列の配列番号28を有する(配列番号1のN末端メチオニンを欠いている)がより多くある断片であることを示した。
【0215】
【化16】

この断片のC末端には付加的なアルギニン残基(すなわちSLL...QRR、配列番号29)があってもよい。この断片(SLLTEVETYVLS;配列番号30)のN末端12−merは、株間で高く保存される。
【0216】
本発明の組成物はそのような両方の断片を含んでもよく、N末端の付近からの断片(例えば配列番号28)がより多い。
【0217】
本発明が例としてのみ記述されることは理解されるだろうし、本発明の範囲および趣旨内にあるならば、変更は行われてもよい。
【0218】
参考文献(これらの内容は、参考として本明細書に援用される)
【0219】
【化17】

【0220】
【化18】

【0221】
【化19】

【0222】
【化20】

【0223】
【化21】

【図面の簡単な説明】
【0224】
【図1】図1は様々なワクチン調製品のSDS−PAGEである。「M」レーンは分子量マーカー(kDa)である。レーン1はMDCKで増殖させたワクチンである。レーン2〜6は既存の市販のワクチン。矢印は(a)HA(b)HA(c)本発明のM1断片を示す。
【図2】図2は、〜5kDaマトリックスタンパク質断片により予防接種されたウサギからの抗血清を使用して、分画されたインフルエンザビリオンのウエスタンブロット解析の結果を示す。左手パネルは免疫前血清を使用、および右側のパネルは免疫後血清を使用するブロットである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞培養で増殖させたウイルスから調製される、全ビリオンとしてではないインフルエンザウイルス血球凝集素およびマトリックスタンパク質を含む免疫原性組成物。
【請求項2】
全ビリオンとしてではないインフルエンザウイルス血球凝集素およびマトリックスタンパク質を含む免疫原性組成物であって、該組成物がオボアルブミンを含まない、免疫原性組成物。
【請求項3】
インフルエンザウイルス血球凝集素およびマトリックスタンパク質を含む免疫原性組成物であって、該マトリックスタンパク質が20kDa未満の分子量を有し、配列番号1に少なくとも50%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、免疫原性組成物。
【請求項4】
インフルエンザウイルス血球凝集素およびマトリックスタンパク質を含む免疫原性組成物であって、該マトリックスタンパク質が20kDa未満の分子量を有し、配列番号28に少なくとも75%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、免疫原性組成物。
【請求項5】
免疫原性組成物を調製するための方法であって、
(i)細胞培養においてインフルエンザウイルスを増殖させる工程と;
(ii)工程(i)で増殖させた該ウイルスから抗原組成物を調製する工程であって、該抗原組成物が、全ビリオンとしてではない血球凝集素およびマトリックスタンパク質を含む、工程と;
(iii)薬学的担体に該抗原組成物を組み合わせ、該免疫原性組成物を生ずる工程とを包含する、方法。
【請求項6】
前記マトリックスタンパク質が、配列番号2に少なくとも80%の同一性を有する20アミノ酸の配列を含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の組成物または方法。
【請求項7】
前記マトリックスタンパク質がインフルエンザウイルスM1タンパク質由来のT細胞エピトープを含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載の組成物または方法。
【請求項8】
前記マトリックスタンパク質が、1つまたは配列番号1;配列番号21;配列番号22;配列番号23;配列番号24;配列番号25;配列番号26;配列番号27のアミノ酸配列を含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載の組成物または方法。
【請求項9】
前記マトリックスタンパク質が、全長M1マトリックスタンパク質アミノ酸配列の断片であるアミノ酸配列を有する、請求項1〜8のいずれか一項に記載の組成物または方法。
【請求項10】
前記マトリックスタンパク質が、天然のM1配列のN末端メチオニンを欠く、請求項1〜9のいずれか一項に記載の組成物または方法。
【請求項11】
前記マトリックスタンパク質が、N末端配列SLLTEVETYVLS(配列番号30)を有する、請求項10に記載の組成物または方法。
【請求項12】
前記配列番号30のN末端セリンが、共有結合で修飾、例えばアセチル化される、請求項11に記載の組成物または方法。
【請求項13】
前記マトリックスタンパク質がN末端配列EISLSYSAGALA(配列番号18)を有する、請求項1〜9のいずれか一項に記載の組成物または方法。
【請求項14】
前記組成物が、(i)N末端配列SLLTEVETYVLS(配列番号30)を有する第1のマトリックスタンパク質と;(ii)N末端配列EISLSYSAGALA(配列番号18)を有する第2のマトリックスタンパク質とを含む、請求項1〜13のいずれか一項に記載の組成物または方法。
【請求項15】
マトリックスタンパク質が、1μg/ml〜15μg/mlの濃度で存在する、請求項1〜14のいずれか一項に記載の組成物または方法。
【請求項16】
スプリットインフルエンザウイルスまたは精製されたインフルエンザ表面抗原を含む、請求項1〜15のいずれか一項に記載の組成物または方法。
【請求項17】
前記血球凝集素が、H1、H2、H3、H5、H7またはH9インフルエンザA型ウイルスサブタイプ由来である、請求項1〜16のいずれか一項に記載の組成物または方法。
【請求項18】
前記インフルエンザウイルスタンパク質が宿主細胞の培養で増殖させたインフルエンザウイルスから調製されており、前記組成物が該宿主細胞由来の10ng未満の細胞性DNAを含む、請求項1〜17のいずれか一項に記載の組成物または方法。
【請求項19】
前記組成物が、1ウイルス株あたり0.1〜20μgの血球凝集素を含む、請求項1〜18のいずれか一項に記載の組成物または方法。
【請求項20】
前記組成物がアジュバントを含む、請求項1〜19のいずれか一項に記載の組成物または方法。
【請求項21】
前記アジュバントが1つまたは複数のアルミニウム塩を含む、請求項20に記載の組成物または方法。
【請求項22】
前記アジュバントが水中油滴型エマルジョンを含む、請求項20に記載の組成物または方法。
【請求項23】
(i)全ビリオンとしてではないインフルエンザウイルス血球凝集素およびマトリックスタンパク質と、(ii)アジュバントとを含む免疫原性組成物。
【請求項24】
全ビリオンとしてではないインフルエンザウイルス血球凝集素およびマトリックスタンパク質を含む免疫原性組成物であって、該血球凝集素が、H2、H4、H5、H6、H7、H8、H9、H10、H11、H12、H13、H14、H15またはH16から選択されるサブタイプを有する、免疫原性組成物。
【請求項25】
インフルエンザウイルス血球凝集素およびマトリックスタンパク質を含む免疫原性組成物であって、該組成物中の血球凝集素の濃度が1株あたり29μg/mlまたはそれ以下である、免疫原性組成物。
【請求項26】
インフルエンザワクチンを分析するための免疫学的アッセイであって、該ワクチンのサンプルが、M1マトリックスタンパク質の断片の存在を決定するために分析される、免疫学的アッセイ。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2009−524639(P2009−524639A)
【公表日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−551906(P2008−551906)
【出願日】平成19年1月26日(2007.1.26)
【国際出願番号】PCT/IB2007/001150
【国際公開番号】WO2007/085969
【国際公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【出願人】(308007284)ノバルティス ヴァクシンズ アンド ダイアグノスティクス ゲーエムベーハー アンド カンパニー カーゲー (4)
【Fターム(参考)】