説明

血管アクセスデバイス

【課題】従来よりも心血管疾患の発生リスクを低減することが可能な血管アクセスデバイスを提供する。
【解決手段】静脈と接続可能に構成された、管状の第1接続部10と、第1接続部10が接続される静脈の位置よりも下流側の位置の静脈と接続可能に構成された、管状の第2接続部20と、穿刺部32,34を有する本体部30とを備える血管アクセスデバイス1。第1接続部10、第2接続部20及び本体部30の内部には、第1接続部10の端部から第2接続部20の端部まで連通する内部流路40が設けられている。内部流路40は、上流側連通孔12から下流側第1連通孔22及び下流側第2連通孔24までの区間において、上流側連通孔12から下流側第1連通孔22に至る第1流路42と、上流側連通孔12から下流側第2連通孔24に至る第2流路44とに分岐している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液透析等を行う際に血管から血液回路等への血液の出入り口となる、血管アクセスデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の血管アクセスデバイスとして、動脈と静脈を連結する皮下埋込み型の血管アクセスデバイスが知られている(例えば、特許文献1及び2参照。)。
【0003】
特許文献1に開示された血管アクセスデバイスは、末端が動脈に縫合接続されるチューブと、末端が静脈内に挿入されるカテーテルと、これらチューブ及びカテーテルに接続された針アクセスサイトとを備える。チューブ及びカテーテル(並びに針アクセスサイト)は、連続した血液の流れを提供するように構成されている。
【0004】
また、特許文献2に開示された血管アクセスデバイスは、内部に血液通路が形成されるとともに当該血液通路と外部とを連通する連通孔が設けられた本体部と、本体部の血液通路に接続された2本のチューブと、連通孔を閉塞するように配置され、穿刺針で刺通可能かつ再シール性を有する閉鎖部材とを備える。2本のチューブのうち一方のチューブは静脈と結紮して接続されており、他方のチューブは動脈と結紮して接続されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2002−5157998号公報
【特許文献2】特開平11−4888号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1及び2に開示された血管アクセスデバイスは、動脈と静脈を直接連結するタイプのものであることから、動脈を流れる血液が静脈へと直接流れ込んでしまう場合がある。血管アクセスデバイスを介して動脈から静脈へと流れ込む血流量が増えると、心臓への負担が増えてしまう結果、例えば心肥大等の心血管疾患が発生してしまいかねない。特に特許文献1に開示された血管アクセスデバイスは、心臓に近い鎖骨下動脈と鎖骨下静脈(又は上大静脈)を直接連結したものであるため、心臓への負担がより大きなものとなってしまう。
【0007】
そこで、本発明は、このような問題を解決するためになされたもので、従来よりも心血管疾患の発生リスクを低減することが可能な血管アクセスデバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の血管アクセスデバイス(1)は、静脈と接続可能に構成された、管状の第1接続部(10)と、前記第1接続部(10)が接続される静脈の位置よりも下流側の位置の静脈と接続可能に構成された、管状の第2接続部(20)と、前記第1接続部(10)と前記第2接続部(20)との間の位置において前記第1接続部(10)及び前記第2接続部(20)と接続された本体部(30)とを備え、前記第1接続部(10)、前記第2接続部(20)及び前記本体部(30)の内部には、前記第1接続部(10)の端部から前記第2接続部(20)の端部まで連通する内部流路(40)が設けられ、前記本体部(30)は、前記内部流路(40)に流体が存在するときには当該流体を外部へと送出可能で、かつ、外部から前記内部流路(40)へと流体を受け入れ可能に構成され、前記第1接続部(10)には、前記内部流路(40)に通じる上流側連通孔(12)が設けられ、前記第2接続部(20)には、前記内部流路(40)に通じる下流側第1連通孔(22)及び下流側第2連通孔(24)が設けられ、前記内部流路(40)は、前記上流側連通孔(12)から前記下流側第1連通孔(22)及び前記下流側第2連通孔(24)までの区間において、前記上流側連通孔(12)から前記下流側第1連通孔(22)に至る第1流路(42)と前記上流側連通孔(12)から前記下流側第2連通孔(24)に至る第2流路(44)とに分岐していることを特徴とする。
【0009】
このため、本発明の血管アクセスデバイスによれば、第1接続部と第2接続部はともに静脈に接続可能に構成されていることから、第1接続部と第2接続部をそれぞれ静脈に接続したときには、静脈を流れる血液が内部流路を通ってそのまま静脈へと流れることとなる。つまり、本発明の血管アクセスデバイスは、従来の血管アクセスデバイスのように動脈と静脈を直接連結するタイプのものではないことから、従来よりも心臓への負担を減らすことができ、結果として、心血管疾患の発生リスクを低減することが可能となる。
【0010】
また、本発明の血管アクセスデバイスによれば、静脈を流れる血液が、上流側連通孔から内部流路へと通じ、下流側第1連通孔又は下流側第2連通孔を通ってそのまま静脈へと流れるような構成となっていることから、血管アクセスデバイス内に血液が滞留しにくいという利点がある。その結果、血管アクセスデバイス内に血液が滞留することに起因する血栓の発生を抑制することができるし、血管アクセスデバイス内を流れる血流が所定量確保できているのであれば、ヘパリン等の抗血液凝固剤を血管アクセスデバイス内に注入しておかなくても済むようになる。
【0011】
なお、この明細書において「下流側」とは、血液の流れを川の流れに見立てたときに、流れの下手側のことをいう。一方、「上流側」とは、血液の流れを川の流れに見立てたときに、流れの上手側のことをいう。第1接続部と第2接続部が、同じ静脈にそれぞれ接続される場合、例えば第1接続部と第2接続部がともに右鎖骨下静脈に接続される場合には、第1接続部の接続位置は右鎖骨下静脈のうち上流側の位置(心臓から遠い位置)となり、第2接続部の接続位置は右鎖骨下静脈のうち下流側の位置(心臓に近い位置)となる。また、第1接続部と第2接続部が、異なる静脈であって流れの連続する静脈にそれぞれ接続される場合、例えば第1接続部と第2接続部が右鎖骨下静脈と上大静脈に接続される場合には、第1接続部の接続位置は、上大静脈よりも上流側である右鎖骨下静脈となり、第2接続部の接続位置は、右鎖骨下静脈よりも下流側である上大静脈となる。
【0012】
本発明の血管アクセスデバイス(1)においては、前記第1流路(42)と前記第2流路(44)とに分岐する部分は、前記第1接続部(10)に存在することが好ましい。
【0013】
このように構成することにより、本体部には2つの流路(第1流路と第2流路)が必ず存在することとなるため、2つの流路に対して外部からそれぞれ独立してアクセスすることが可能となる。例えば、本発明の血管アクセスデバイスを血液透析用の血管アクセスデバイスとして用いる場合、本体部における第1流路が通る位置に脱血用の針を刺し、本体部における第2流路が通る位置に返血用の針を刺すことによって、第1流路を脱血ラインとして、第2流路を返血ラインとして使用することが可能となる。
【0014】
本発明の血管アクセスデバイス(1)においては、前記下流側第1連通孔(22)及び前記下流側第2連通孔(24)のうち一方の連通孔は、他方の連通孔よりも前記本体部(30)に近い位置に設けられていることが好ましい。
【0015】
このように構成することにより、下流側第1連通孔と下流側第2連通孔との位置を離隔させることが望ましい用途に使用する場合、本発明の血管アクセスデバイスは好適なものとなる。例えば、本発明の血管アクセスデバイスを血液透析用の血管アクセスデバイスとして用いる場合、第1流路を脱血ラインとし第2流路を返血ラインとして使用すると、下流側第1連通孔は脱血口となり下流側第2連通孔は返血口となるが、上記のように構成することにより、脱血口と返血口の位置を離隔させることができるため、透析効果の高い血管アクセスデバイスとなる。
【0016】
本発明の血管アクセスデバイス(1)においては、前記第1接続部(10)、前記本体部(30)及び前記第2接続部(20)は、皮下に埋め込み可能に構成されていることが好ましい。
【0017】
このように構成することにより、感染症の発生を抑制することが可能となる。また、外見上は血管アクセスデバイスを構成する各部材が目立ちにくくなるため、美容上の観点からも優れている。
【0018】
本発明の血管アクセスデバイス(1)においては、前記本体部(30)は、可撓性の人工血管で構成されており、前記本体部(30)に対して、外部から針を穿刺可能に構成されていることが好ましい。
【0019】
皮下に本発明の血管アクセスデバイスを埋め込んだときには、上記のように構成するとより一層目立ちにくくなり、美容面で特に優れた血管アクセスデバイスとなる。
【0020】
本発明の血管アクセスデバイス(2)においては、前記本体部(70)は、上面が開口したハウジング(80,84)と、当該開口を閉塞するように配置されたセプタム(82a〜82c,86a〜86c)とを有するアクセスポート(72,74)で構成されており、前記ハウジング(80,84)と前記セプタム(82a〜82c,86a〜86c)によって前記内部流路(92,94)が形成され、前記セプタム(82a〜82c,86a〜86c)は、外部から針を穿刺可能に構成されていることも好ましい。
【0021】
皮下に本発明の血管アクセスデバイスを埋め込んだときには、触診による血管アクセスデバイスの位置確認が比較的容易となる。
【0022】
なお、特許請求の範囲及び本欄(課題を解決するための手段の欄)に記載した各部材等の文言下に括弧をもって付加された符号は、特許請求の範囲及び本欄に記載された内容の理解を容易にするために用いられたものであって、特許請求の範囲及び本欄に記載された内容を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】第1実施形態に係る血管アクセスデバイス1を体内に留置した状態を示す図。
【図2】第1実施形態に係る血管アクセスデバイス1を説明するために示す図。
【図3】第1実施形態に係る血管アクセスデバイス1の内部流路40を簡易的に示す概略図。
【図4】第2実施形態に係る血管アクセスデバイス2を体内に留置した状態を示す図。
【図5】第2実施形態に係る血管アクセスデバイス2を説明するために示す図。
【図6】第2実施形態に係る血管アクセスデバイス2の内部流路90を簡易的に示す概略図。
【図7】変形例に係る血管アクセスデバイス1Aの内部流路40Aを簡易的に示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の血管アクセスデバイスについて、図に示す実施の形態に基づいて説明する。
【0025】
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態に係る血管アクセスデバイス1を体内に留置した状態を示す図である。図2は、第1実施形態に係る血管アクセスデバイス1を説明するために示す図である。図2(a)は血管アクセスデバイス1を長手方向に沿って切断したときの第1接続部10及び本体部30の部分断面図であり、図2(b)は血管アクセスデバイス1を長手方向に沿って切断したときの第2接続部20の部分断面図であり、図2(c)は図2(b)のA−A矢視端面図である。図3は、第1実施形態に係る血管アクセスデバイス1の内部流路40を簡易的に示す概略図である。
なお、図1及び図2においては、発明の理解を容易にするため、血管アクセスデバイス1全体の大きさ並びに血管アクセスデバイス1を構成する各部材の構成比率及び肉厚をある程度誇張して表している。
【0026】
第1実施形態に係る血管アクセスデバイス1は、図1及び図2に示すように、第1接続部10と、第2接続部20と、第1接続部10と第2接続部20との間の位置において第1接続部10及び第2接続部20と接続された本体部30とを備える、皮下埋込み型の血管アクセスデバイスである。第1実施形態に係る血管アクセスデバイス1は、血液透析を行う際に血管から血液回路への血液の出入り口となる、血液透析用の血管アクセスデバイスである。
【0027】
第1接続部10は、図示による説明は省略するが、外面形状及び内面形状がともに真円形である略Y字状の管状部材である。第1接続部10には、内部流路40に通じる上流側連通孔12が設けられている。内部流路40は、図2(a)及び図3に示すように、本体部30に至るまでの所定位置において、2つの流路(第1流路42及び第2流路44)に分岐している。なお、第1流路42及び第2流路44については後述する。
【0028】
第2接続部20は、図2(c)に示すように、外面の断面形状がひょうたん状の管状部材である。第2接続部20の内部には、断面真円形の第1流路42及び第2流路44がそれぞれ並設されている。第2接続部20には、図2(b)に示すように、第1流路42に通じる下流側第1連通孔22と、第2流路44に通じる下流側第2連通孔24とが設けられている。下流側第1連通孔22は、図2及び図3から分かるように、下流側第2連通孔24よりも本体部30に近い位置に設けられている。
【0029】
第1接続部10及び第2接続部20は、例えばシリコーン樹脂からなるチューブである。なお、第1接続部10及び第2接続部20を構成する材料としては、例えばPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)など、生体適合性(血液適合性)に優れた他の公知の材料を好適に用いることができる。
【0030】
第1接続部10及び第2接続部20は、図1に示すように、右鎖骨下静脈V2と縫合接続されている。第1接続部10の末端は右鎖骨下静脈V2に位置しており、第2接続部20の末端は上大静脈V1に位置している。なお、右鎖骨下静脈V2を流れる血液は、上大静脈V1を通って心臓H(右心房)に流れ込むことから、第1接続部10の接続位置が「上流側」となり、第2接続部20の接続位置が「下流側」となる。
【0031】
第1接続部10と右鎖骨下静脈V2との接続方法について具体的に説明すると、例えば、右鎖骨下静脈V2における上流側の所定位置に第1接続部10を通すための穴を設け、その穴に第1接続部10を通した状態で第1接続部10と右鎖骨下静脈V2とを縫合接続する。このとき、第1接続部10の末端が右鎖骨下静脈V2の内部に位置するように縫合する。第2接続部20と右鎖骨下静脈V2との接続方法についても同様である。
【0032】
本体部30は、図1及び図2に示すように、2本の穿刺部32,34から構成されている。穿刺部32,34は可撓性の人工血管であって、図示による説明は省略するが、外面形状及び内面形状がともに真円形の円管部材である。各穿刺部32,34の中央部分は、各穿刺部32,34の端部(第1接続部10又は第2接続部20との接続部分)に比べて太くなるように構成されている。
【0033】
本体部30は、例えば、内層がシリコーン樹脂、外層がPTFE収縮性材料で構成された2層構造からなる。これにより、本体部30の全周方向に対して外部から針を穿刺することができ、針を抜いた後においても穿刺孔(刺した針によって形成される孔)を塞ぐことができる。
【0034】
第1接続部10、第2接続部20及び本体部30は、それぞれ別体として形成された後、部材間で段差が極力生じないように、かつ、確実に接続されている。
【0035】
第1接続部10、第2接続部20及び本体部30の内部には、第1接続部10の端部から第2接続部20の端部まで連通する内部流路40が設けられている。内部流路40は、図2及び図3に示すように、上流側連通孔12から下流側第1連通孔22及び下流側第2連通孔24までの区間において、上流側連通孔12から下流側第1連通孔22に至る第1流路42と、上流側連通孔12から下流側第2連通孔24に至る第2流路44とに分岐している。第1流路42は穿刺部32の内部を通り、第2流路44は穿刺部34の内部を通る。
【0036】
図3に示すように、穿刺部32(本体部30における第1流路42が通る位置)に脱血用の針N1を刺し、穿刺部34(本体部30における第2流路44が通る位置)に返血用の針N2を刺すことによって、体内の血液は、下流側第1連通孔22から第1流路42を通り脱血用の針N1を介して血液回路等へと送り出されることとなる一方、血液回路等から戻される血液は、返血用の針N2を介して第2流路44を通り下流側第2連通孔24を通って体内に戻されることとなる。
【0037】
以上のように構成された第1実施形態に係る血管アクセスデバイス1によれば、第1接続部10と第2接続部20はともに静脈に接続可能に構成されていることから、第1接続部10と第2接続部20をそれぞれ右鎖骨下静脈V2に接続したときには、右鎖骨下静脈V2を流れる血液が内部流路40(第1流路42及び第2流路44)を通って上大静脈V1へと流れることとなる。つまり、第1実施形態に係る血管アクセスデバイス1は、従来の血管アクセスデバイスのように動脈と静脈を直接連結するタイプのものではないことから、従来よりも心臓への負担を減らすことができ、結果として、心血管疾患の発生リスクを低減することが可能となる。
【0038】
また、第1実施形態に係る血管アクセスデバイス1によれば、右鎖骨下静脈V2を流れる血液が、上流側連通孔12から内部流路40(第1流路42及び第2流路44)を通じ、下流側第1連通孔22又は下流側第2連通孔24を通ってそのまま上大静脈V1へと流れるような構成となっていることから、血管アクセスデバイス1内に血液が滞留しにくいという利点がある。その結果、血管アクセスデバイス内に血液が滞留することに起因する血栓の発生を抑制することができるし、血管アクセスデバイス1内を流れる血流が所定量確保できているのであれば、ヘパリン等の抗血液凝固剤を血管アクセスデバイス1内に注入しておかなくても済むようになる。
【0039】
第1実施形態に係る血管アクセスデバイス1においては、第1流路42と第2流路44とに分岐する部分は、第1接続部10に存在するため、本体部30には2つの流路(第1流路42と第2流路44)が必ず存在することとなる。このため、2つの流路に対して外部からそれぞれ独立してアクセスすることが可能となり、上述したように、穿刺部32に脱血用の針N1を刺し、穿刺部34に返血用の針N2を刺すことによって、第1流路42を脱血ラインとして、第2流路44を返血ラインとして使用することが可能となる。
【0040】
第1実施形態に係る血管アクセスデバイス1においては、下流側第1連通孔22は、下流側第2連通孔24よりも本体部30に近い位置に設けられている。これにより、脱血口となる下流側第1連通孔22の位置と返血口となる下流側第2連通孔24の位置を離隔させることができるため、透析効果の高い血管アクセスデバイスとなる。
【0041】
第1実施形態に係る血管アクセスデバイス1においては、第1接続部10、本体部30及び第2接続部20は、皮下に埋め込み可能に構成されているため、感染症の発生を抑制することが可能となる。また、外見上は血管アクセスデバイス1を構成する各部材が目立ちにくくなるため、美容上の観点からも優れている。
【0042】
第1実施形態に係る血管アクセスデバイス1においては、本体部30(穿刺部32,34)は、可撓性の人工血管で構成されており、本体部30に対して、外部から針を穿刺可能に構成されている。これにより、皮下に血管アクセスデバイス1を埋め込んだときにより一層目立ちにくくなり、美容面で特に優れた血管アクセスデバイスとなる。また、本体部30の全周方向から針を穿刺可能であることから、皮下留置後に血管アクセスデバイス1が多少移動又は回転したとしても、さほど針が刺しにくくなることもない。
【0043】
第1実施形態に係る血管アクセスデバイス1においては、各穿刺部32,34の中央部分は、各穿刺部32,34の端部(第1接続部10又は第2接続部20との接続部分)に比べて太くなるように構成されている。これにより、針を刺せる範囲を比較的広く確保することができ、結果として、各穿刺部32,34の長寿命化、ひいては血管アクセスデバイス1の長寿命化を図ることが比較的容易となる。また、脱血する際の血流量を確保しやすいという効果もある。
【0044】
[第2実施形態]
図4は、第2実施形態に係る血管アクセスデバイス2を体内に留置した状態を示す図である。図5は、第2実施形態に係る血管アクセスデバイス2を説明するために示す図である。図5(a)はアクセスポート72を長手方向に沿って切断した断面図であり、図5(b)はアクセスポート74を長手方向に沿って切断した断面図である。図6は、第2実施形態に係る血管アクセスデバイス2の内部流路90を簡易的に示す概略図である。
なお、図4及び図5においては、発明の理解を容易にするため、血管アクセスデバイス2全体の大きさ並びに血管アクセスデバイス2を構成する各部材の構成比率及び肉厚をある程度誇張して表している。
【0045】
第2実施形態に係る血管アクセスデバイス2は、基本的には第1実施形態に係る血管アクセスデバイス1と良く似た構成を有するが、本体部の構成が、第1実施形態に係る血管アクセスデバイス1とは異なる。
【0046】
すなわち、第2実施形態に係る血管アクセスデバイス2においては、図4及び図5に示すように、本体部70は2つのアクセスポート72,74から構成されている。
【0047】
一方のアクセスポート72は、図5(a)に示すように、上面が開口したハウジング80と、当該開口を閉塞するように配置された3つのセプタム82a,82b,82cとを有する。
【0048】
ハウジング80は略台形状である。ハウジング80の側面には、第1接続部50及び第2接続部材60がそれぞれ接続されている。ハウジング80の上面には、セプタム82a〜82cの表面高さ(ハウジング80底面からセプタム82a〜82cまでの高さ)よりも高く盛り上がった2つの隆起部81a,81bが設けられている。セプタム82a,82bの位置は隆起部81aによって仕切られており、セプタム82b,82cの位置は隆起部81bによって仕切られている。
【0049】
ハウジング80は、例えばチタン合金で構成されている。なお、ハウジング80を構成する材料としては、例えば、ステンレス鋼やチタン等の金属、ポリアセタール等の硬質合成樹脂、あるいはセラミックスなど、セプタムに刺した針が容易に突き抜けず、かつ、生体適合性に優れた他の公知の材料を好適に用いることができる。
【0050】
セプタム82a〜82cは、例えばシリコーン樹脂で構成されている。なお、セプタム82a〜82cの構成材料としては、例えば、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)など、外部から針を穿刺可能でかつ自己シール性を有し、生体適合性に優れた他の公知の材料を好適に用いることができる。
【0051】
他方のアクセスポート74は、図5(b)に示すように、上面が開口したハウジング84と、当該開口を閉塞するように配置された3つのセプタム86a,86b,86cとを有する。なお、ハウジング84及びセプタム86a〜86c並びに隆起部85a,85bの構造及び機能については、アクセスポート72におけるハウジング80及びセプタム82a〜82c並びに隆起部81a,81bと同様であるため、詳細な説明は省略する。
【0052】
第1接続部50、第2接続部60及び本体部70の内部には、第1接続部50の端部から第2接続部60の端部まで連通する内部流路90が設けられている(図6参照。)。内部流路90は、図5及び図6に示すように、上流側連通孔52から下流側第1連通孔62及び下流側第2連通孔64までの区間において、上流側連通孔52から下流側第1連通孔62に至る第1流路92と、上流側連通孔52から下流側第2連通孔64に至る第2流路94とに分岐している。第1流路92はアクセスポート72の内部を通り、第2流路94はアクセスポート74の内部を通る。
【0053】
図6に示すように、アクセスポート72におけるセプタム82a〜82cのうちのいずれか1箇所に脱血用の針N1を刺し、アクセスポート74におけるセプタム86a〜86cのうちのいずれか1箇所に返血用の針N2を刺すことによって、体内の血液は、下流側第1連通孔62から第1流路92を通り脱血用の針N1を介して血液回路等へと送り出されることとなる一方、血液回路等から戻される血液は、返血用の針N2を介して第2流路94を通り下流側第2連通孔64を通って体内に戻されることとなる。
【0054】
なお、第1接続部50及び第2接続部60が接続している静脈の位置や、第1接続部50及び第2接続部60を構成する材料等については、第1実施形態で説明した第1接続部10及び第2接続部20の場合と同様であるため、詳細な説明は省略する。
また、第2実施形態に係る血管アクセスデバイス2は、第1実施形態に係る血管アクセスデバイス1と同様に、血液透析用であって皮下埋込み型の血管アクセスデバイスである。
【0055】
このように、第2実施形態に係る血管アクセスデバイス2は、第1実施形態に係る血管アクセスデバイス1とは本体部の構成が異なるが、第1実施形態に係る血管アクセスデバイス1の場合と同様に第1接続部50と第2接続部60はともに静脈に接続可能に構成されており、従来の血管アクセスデバイスのように動脈と静脈を直接連結するタイプのものではないことから、従来よりも心臓への負担を減らすことができ、結果として、心血管疾患の発生リスクを低減することが可能となる。
【0056】
また、第2実施形態に係る血管アクセスデバイス2によれば、第1実施形態に係る血管アクセスデバイス1の場合と同様に、右鎖骨下静脈V2を流れる血液が、上流側連通孔52から内部流路90(第1流路92及び第2流路94)を通じ、下流側第1連通孔62又は下流側第2連通孔64を通ってそのまま上大静脈V1へと流れるような構成となっていることから、血管アクセスデバイス2内に血液が滞留しにくいという利点がある。その結果、血管アクセスデバイス内に血液が滞留することに起因する血栓の発生を抑制することができるし、血管アクセスデバイス2内を流れる血流が所定量確保できているのであれば、ヘパリン等の抗血液凝固剤を血管アクセスデバイス2内に注入しておかなくても済むようになる。抗血液凝固剤を血管アクセスデバイス2内に注入しなくても済むようになることによって、本体部70の内部流路の容積を比較的大きくすることが可能となる。
【0057】
第2実施形態に係る血管アクセスデバイス2においては、本体部70がアクセスポート72,74で構成されていることから、皮下留置後において触診による血管アクセスデバイス2の位置確認が比較的容易となる。
【0058】
第2実施形態に係る血管アクセスデバイス2においては、セプタムの部分がそれぞれ3つのセプタム82a〜82c,86a〜86cで構成されていることから、例えば週3回の血液透析を必要とする患者において穿刺する曜日に応じて穿刺位置を切り替えることが容易となるなど、穿刺する位置を明確に区別することができるという利益がある。また、隆起部81a,81b,85a,85bが設けられていることから、穿刺位置をさらに明確に区別することが可能となる。
【0059】
第2実施形態に係る血管アクセスデバイス2は、本体部の構成が異なる点以外では、第1実施形態に係る血管アクセスデバイス1と同様の構成を有するため、第1実施形態に係る血管アクセスデバイス1が有する効果のうち該当する効果をそのまま有する。
【0060】
以上、本発明の血管アクセスデバイスを上記の各実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記の各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0061】
(1)上記各実施形態においては、第1接続部及び第2接続部がともに右鎖骨下静脈V2に接続されている場合を例示して説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、第1接続部及び第2接続部がともに左鎖骨下静脈V3に接続されていてもよいし、第1接続部が内頸静脈V4に接続され、第2接続部が上大静脈V1に接続されていてもよい。また、透析に必要な血流量が確保できるのであれば、心臓周辺の静脈ではなく、他の位置の静脈(例えば鼠径部の大腿静脈)に接続することも可能である。
【0062】
(2)上記各実施形態においては、第1接続部と第2接続部を静脈に接続するにあたって、各接続部材の末端ではない位置(本体部との接続端部から反対側端部までの所定位置)で静脈と縫合接続されている場合を例示して説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、第1接続部又は第2接続部の末端が静脈側壁に設けられた穴に縫合接続(いわゆる側端吻合)されていてもよい。
【0063】
(3)上記第1実施形態においては、第1接続部10及び本体部30の外面形状及び内面形状がともに真円形である場合を例示して説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、断面楕円形の円管状であってもよいし、断面多角形の角管状であってもよい。また、本発明の血管アクセスデバイスを長手方向に垂直な断面で切断したときの外面形状と内面形状について、必ずしも同一形状でなくてもよく、例えば外面形状が楕円形であって内面形状が真円形であってもよいし、外面形状が多角形であって内面形状が楕円形又は真円形であってもよい。上記第2実施形態における第1接続部50についても同様である。
【0064】
(4)上記各実施形態においては、第2接続部の内部に設けられた第1流路及び第2流路の断面形状が真円形である場合を例示して説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば断面楕円形など、他の形状であってもよい。
【0065】
(5)上記第1実施形態においては、図2及び図3(特に図2(c))に示したように、第2接続部20の内部に第1流路42及び第2流路44が上下に並ぶようにして設けられている場合を例示して説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
図7は、変形例に係る血管アクセスデバイス1Aを説明するために示す図である。図7(a)は変形例に係る血管アクセスデバイス1Aの内部流路40Aを簡易的に示す概略図であり、図7(b)は第2接続部20Aを下流側第1連通孔22A及び下流側第2連通孔24A側から見た斜視図である。図7(a)において、図3と同一の部材については同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。
例えば図7に示すように、第2接続部20Aの内部に、第1流路42A及び第2流路44Aが同心円状に配置構成されていてもよい。この場合において、第1流路42Aが外側となり第2流路44Aが内側となるように内部流路を配置構成すると、下流側第1連通孔22Aが下流側第2連通孔24Aよりも本体部30に近い位置に設けられることとなる。
【0066】
(6)上記第1実施形態においては、第2接続部20の内部に、第1流路42及び第2流路44が並設されている場合を例示して説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、第2接続部が独立した2本のチューブからなり、一方のチューブの内部に第1流路が設けられ、他方のチューブの内部に第2流路が設けられたものであってもよい。
【0067】
(7)上記第1実施形態においては、本体部が2層構造(内層:シリコーン樹脂、外層:PTFE収縮性材料)である場合を例示して説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。外部から針を穿刺することができ、針を抜いた後においても穿刺孔を塞ぐことが可能であるならば、例えば3層以上の層構成で構成されていてもよいし、あるいは単層で構成されていてもよい。複数層で構成されている場合には、各層が同一材料で構成されていてもよいし異種材料で構成されていてもよい。単層で構成されている場合や、複数層であって各層を構成する材料が同一である場合には、例えば内面側を緻密層とし外面側を多孔層としたり、反対に内面側を多孔層とし外面側を緻密層としたりするなど、径方向の位置によって層密度の大きさを変更してもよい。
【0068】
(8)上記第1実施形態においては、第1接続部、第2接続部及び本体部が別体として形成されている場合を例示して説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、各部材が一体形成されたものであってもよい。
【0069】
(9)上記第2実施形態においては、ハウジングの全体形状が略台形状である場合を例示して説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば角を所定の曲率で丸め処理した略直方体形状など、他の形状であってもよい。
【0070】
(10)上記第2実施形態においては、各アクセスポートにおけるセプタムの数が3つである場合を例示して説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、各アクセスポートにおけるセプタムの数が1つ、2つ又は4つ以上であってもよい。
【0071】
(11)上記第2実施形態においては、本体部70を構成する2つのアクセスポート72,74が別体である(アクセスポート同士が分離独立している)場合を例示して説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。第1流路と第2流路が隔壁等によって分離された流路構成であれば、2つのアクセスポート72,74自体は一体化されていてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の血管アクセスデバイスは、従来よりも心血管疾患の発生リスクを低減することが可能な血管アクセスデバイスとして、血液透析はもとより、血漿交換療法などの様々な血液浄化療法において利用可能である。また、抗がん剤等の薬剤を注入するための血管アクセスデバイスとしても利用可能である。
【符号の説明】
【0073】
1,1A,2 血管アクセスデバイス
10,50 第1接続部
12,52 上流側連通孔
20,20A,60 第2接続部
22,22A,62 下流側第1連通孔
24,24A,64 下流側第2連通孔
30,70 本体部
32,34 穿刺部
40,40A,90 内部流路
42,42A,92 第1流路
44,44A,94 第2流路
72,74 アクセスポート
80,84 ハウジング
81a,81b,85a,85b 隆起部
82a,82b,82c,86a,86b,86c セプタム
H 心臓
N1 脱血用の針
N2 返血用の針
V1 上大静脈
V2 右鎖骨下静脈
V3 左鎖骨下静脈
V4 内頸静脈

【特許請求の範囲】
【請求項1】
静脈と接続可能に構成された、管状の第1接続部(10)と、
前記第1接続部(10)が接続される静脈の位置よりも下流側の位置の静脈と接続可能に構成された、管状の第2接続部(20)と、
前記第1接続部(10)と前記第2接続部(20)との間の位置において前記第1接続部(10)及び前記第2接続部(20)と接続された本体部(30)とを備え、
前記第1接続部(10)、前記第2接続部(20)及び前記本体部(30)の内部には、前記第1接続部(10)の端部から前記第2接続部(20)の端部まで連通する内部流路(40)が設けられ、
前記本体部(30)は、前記内部流路(40)に流体が存在するときには当該流体を外部へと送出可能で、かつ、外部から前記内部流路(40)へと流体を受け入れ可能に構成され、
前記第1接続部(10)には、前記内部流路(40)に通じる上流側連通孔(12)が設けられ、
前記第2接続部(20)には、前記内部流路(40)に通じる下流側第1連通孔(22)及び下流側第2連通孔(24)が設けられ、
前記内部流路(40)は、前記上流側連通孔(12)から前記下流側第1連通孔(22)及び前記下流側第2連通孔(24)までの区間において、前記上流側連通孔(12)から前記下流側第1連通孔(22)に至る第1流路(42)と前記上流側連通孔(12)から前記下流側第2連通孔(24)に至る第2流路(44)とに分岐していることを特徴とする血管アクセスデバイス(1)。
【請求項2】
請求項1に記載の血管アクセスデバイスにおいて、
前記第1流路(42)と前記第2流路(44)とに分岐する部分は、前記第1接続部(10)に存在することを特徴とする血管アクセスデバイス(1)。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の血管アクセスデバイスにおいて、
前記下流側第1連通孔(22)及び前記下流側第2連通孔(24)のうち一方の連通孔は、他方の連通孔よりも前記本体部(30)に近い位置に設けられていることを特徴とする血管アクセスデバイス(1)。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の血管アクセスデバイスにおいて、
前記第1接続部(10)、前記本体部(30)及び前記第2接続部(20)は、皮下に埋め込み可能に構成されていることを特徴とする血管アクセスデバイス(1)。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の血管アクセスデバイスにおいて、
前記本体部(30)は、可撓性の人工血管で構成されており、
前記本体部(30)に対して、外部から針を穿刺可能に構成されていることを特徴とする血管アクセスデバイス(1)。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の血管アクセスデバイスにおいて、
前記本体部(70)は、上面が開口したハウジング(80,84)と、当該開口を閉塞するように配置されたセプタム(82a〜82c,86a〜86c)とを有するアクセスポート(72,74)で構成されており、
前記ハウジング(80,84)と前記セプタム(82a〜82c,86a〜86c)によって前記内部流路(92,94)が形成され、
前記セプタム(82a〜82c,86a〜86c)は、外部から針を穿刺可能に構成されていることを特徴とする血管アクセスデバイス(2)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−27580(P2013−27580A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−166345(P2011−166345)
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【出願人】(000200035)川澄化学工業株式会社 (103)
【Fターム(参考)】