説明

血管内皮細胞増殖活性を有するペプチド複合体

【課題】優れた血管内皮細胞増殖活性を有するVEGFミメティックペプチド複合体を提供すること。
【解決手段】水溶性高分子又はその誘導体にペプチド鎖が2個以上結合しているペプチド複合体であって、ペプチド鎖が、(1)Try−Pro−Asp−Glu−Ile−Glu−Try−Ile、(2)Cys−Asn−Asp−Glu−Gly−Leu−Glu−Cys、及び(3)Ile−Met−Arg−Ile−Lys−Pro−His−Gluで示されるペプチド鎖から選ばれる1種以上のペプチド鎖である複合体、並びに当該ペプチド複合体を有効成分として含む血管内皮細胞増殖促進剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管内皮細胞増殖活性を有するペプチド複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
血管形成を誘導する因子として線維芽細胞増殖因子(FGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)など多くのタンパク質が発見されている。中でも、VEGFは血管内皮細胞に対して特異的に相互作用を起こすことが知られており、この特徴から,VEGFは血管新生のみをターゲットとした機能発現の制御が可能と考えられている。
【0003】
これまで、天然のVEGFのアミノ酸配列におけるC末端から63,64,67残基目の酸性アミノ酸Asp63,Glu64,Glu67をAlaに置換することで、Flt-1レセプターとの結合活性を失うことが報告され、また、C末端から82,84,86残基目の塩基性アミノ酸Arg82,Lys84,His85と43,46残基目の疎水性アミノ酸Ile43,Ile46をAlaに置換することで、KDR/Flk1レセプターの結合活性が失われることが報告されている(非特許文献1〜4参照)。
【非特許文献1】Bruce A. Keyt, Hung V. Nguyen, Lea T. Berleau, Carlos M. Duarte, Jeanie Park, Helen Chen, and Napoleone Ferrara.“Identification of Vascular endothelial Growth Factor Determinants for Binding KDR and FLT-1 Receptors,”J. Biol. Chem., 271, 5638-5646 (1996)
【非特許文献2】Yves A. Muller, Bing Li, Hans W. Christinger, James A. Wells, Brian C. Cunningham, and Abraham M, de Vos.“Vascular Endothelial Growth Factor: Crystal structure and functional mapping of the kinase domain receptor binding site,”Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 94, 7192-7197 (1997)
【非特許文献3】Steven A. Stacker, Angela Vitali, Carol Caesar, Teresa Domagala, Leo C. Groenen, Edouard Nice, Marc G. Achen, and Andrew F. Wilks.“A Mutant Form of Vascular Endothelial Growth Factor (VEGF) That Lacks VEGF Receptor-2 Activation Retains the Ability to Induce Vascular Permeability,”J. Biol. Chem., 274, 34884-34892 (1999)
【非特許文献4】Shalini Iyer, Demetres D. Leonidas, G. Jawahar Swaminathan, Domenico Maglione, Mauro Battisti, Marina Tucci, M. Graziella Persico and K. Ravi Acharya. “The Crystal Structure of Human Placenta Growth Factor-1 (PlGF-1), an Angiogenic Protein, at 2.0 A Resolution,”J. Biol. Chem., 276, 12153-12161, (2001)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、優れた血管内皮細胞増殖活性を有するペプチド複合体を提供することを主な課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、血管内皮細胞増殖因子(以下、「VEGF」ともいう)におけるアミノ酸配列Tyr-Pro-Asp-Glu-Ile-Glu-Tyr-Ile(以下、「YPDEIEYI」ともいう)、Cys-Asn-Asp-Glu-Gly-Leu-Glu-Cys(以下、「CNDEGLEC」ともいう)、およびIle-Met-Arg-Ile-Lys-Pro-His-Gln(以下、「IMRIKPHQ」ともいう)を化学合成し、それらを高分子材料に導入した複合体が、天然のVEGFと同様の活性を有し得ることを見出し、更に、鋭意検討を重ねて、本発明を完成するに至った。
【0006】
即ち、本発明は、下記ペプチド複合体及び血管内皮細胞増殖促進剤に関する。
【0007】
項1:水溶性高分子又はその誘導体にペプチド鎖が2個以上結合しているペプチド複合体であって、ペプチド鎖が、
(1)配列番号1で表されるアミノ酸配列を有するペプチド鎖、
(2)配列番号2で表されるアミノ酸配列を有するペプチド鎖、及び
(3)配列番号3で表されるアミノ酸配列を有するペプチド鎖
から選ばれる1種以上のペプチド鎖である複合体。
【0008】
項2:ペプチド鎖が、前記(1)、(2)及び(3)のペプチド鎖から選ばれる2種以上のペプチド鎖である項1に記載のペプチド複合体。
【0009】
項3:項1又は2に記載のペプチド複合体を有効成分として含む血管内皮細胞増殖促進剤。
【0010】
以下、本発明について、更に詳細に説明する。
【0011】
1.ペプチド鎖
本発明のペプチド複合体は、
(1)配列番号1で表されるアミノ酸配列を有するペプチド鎖、(2)配列番号2で表されるアミノ酸配列を有するペプチド鎖、及び(3)配列番号3で表されるアミノ酸配列を有するペプチド鎖から選ばれる1種以上のペプチド鎖を有している。
【0012】
(1)のペプチド鎖は、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチド鎖、並びに、配列番号1で表されるアミノ酸配列に1又は数個のアミノ酸が付加された配列からなり、かつ、VEGF受容体結合活性を有するペプチド鎖を含む。
【0013】
(2)のペプチド鎖は、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるペプチド鎖、並びに、配列番号2で表されるアミノ酸配列に1又は数個のアミノ酸が付加された配列からなり、かつ、VEGF受容体結合活性を有するペプチド鎖を含む。
【0014】
(3)のペプチド鎖は、配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるペプチド鎖、並びに、配列番号3で表されるアミノ酸配列に1又は数個のアミノ酸が付加された配列からなり、かつ、VEGF受容体結合活性を有するペプチド鎖を含む。
【0015】
上記(1)〜(3)のペプチド鎖は、血管内皮細胞の表面にある、VEGF受容体(以下、「VEGFR」ともいう)のVEGFR-1(Flt-1)とVEGFR-2(KDR/Flk-1)に結合して、細胞内シグナル伝達を刺激して、血管内皮細胞を増殖させる機能を有する。
【0016】
配列番号1、2又は3で表されるアミノ酸配列を主な構成とする上記(1)〜(3)のペプチド鎖は、VEGF受容体との結合活性を有し、かつ製造が容易であり、しかも細胞を増殖させる機能に優れるという特性を有する。
【0017】
上記(1)〜(3)のペプチド鎖は、適宜、公知の合成方法に従って、配列表の配列番号1〜3のいずれかに示されるアミノ酸配列を有するペプチドを合成することにより、作製することができる。
【0018】
公知の合成方法としては、例えば、液相法や、固相法などが挙げられる。
【0019】
固相法は、操作が容易で、短時間ですむという利点がある。
【0020】
また、液相法は、収率が高く、大量合成が可能で、且つ、純度の高いペプチドが得られるという利点がある。
【0021】
2.水溶性高分子又はその誘導体
水溶性高分子又はその誘導体は、上記ペプチド鎖が結合可能な官能基を有しているものであれば、特に限定されない。
【0022】
換言すると、水溶性高分子又はその誘導体には、高分子自体が官能基を有する水溶性高分子、並びに水溶性高分子に常法に従って官能基を導入した誘導体が含まれる。
【0023】
官能基の種類は、上記ペプチドと結合する性質を有する基であれば特に限定はなく、例えば、アミノ基、カルボキシル基、水酸基などが挙げられる。また開環してカルボキシル基を生じる酸無水物なども含まれる。
【0024】
水溶性高分子における官能基の存在割合や存在位置は適宜設定することができる。例えば、水溶性高分子又は誘導体の両末端に官能基が存在しているものでもよい。また水溶性高分子を構成する繰り返し単位に1〜2個程度の官能基が存在しているものでもよい。
【0025】
水溶性高分子は、天然高分子又は合成高分子などから溶解性や生体適合性などを考慮して適宜選択することができる。
【0026】
天然高分子としては、例えば、ゼラチン、コラーゲン、ヒアルロン酸またはその塩、アルギン酸またはその塩、デキストリン、澱粉等が挙げられる。
【0027】
合成高分子としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメタクリレート、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸共重合体、ポリエチレンオキサイド、メチルビニルエーテル−無水マレイン酸共重合体 、イソブチレン−無水マレイン酸共重合体等が挙げられる。
【0028】
このうち、特に、メチルビニルエーテル−無水マレイン酸共重合体、ポリエチレングリコール(ポリエチレンオキシド)、アルギン酸またはその塩などが、溶解性に優れるなどの点から好ましく用いられる。
【0029】
水溶性高分子の大きさは適宜設定し得るが、通常、重合度で10〜1000程度、好ましくは20〜500程度である。
【0030】
3.ペプチド複合体
(3−1)ペプチド複合体の構造
本発明のペプチド複合体は、水溶性高分子又は誘導体と、ペプチド鎖を構成要素として有する。
【0031】
本発明の複合体においては、VEGFレセプターを介したシグナル伝達を生じさせるために、VEGFレセプターと結合するペプチド鎖を2個以上必要とする。
【0032】
即ち、本発明の複合体は、(1)〜(3)から選ばれる1種以上のペプチド鎖を2個以上有する。
【0033】
本発明の複合体には、
a:(1)のペプチド鎖を2個以上有する複合体
b:(2)のペプチド鎖を2個以上有する複合体、又は
c:(3)のペプチド鎖が2個以上有する複合体が含まれる。
【0034】
また、本発明の複合体には、
d:(1)のペプチド鎖を1個以上及び(2)のペプチド鎖を1個以上有する複合体、
e:(2)のペプチド鎖を1個以上及び(3)のペプチド鎖を1個以上有する複合体、
又は、
f:(1)のペプチド鎖を1個以上及び(3)のペプチド鎖を1個以上有する複合体が含まれる。
【0035】
また、本発明の複合体には、
g:(1)のペプチド鎖を1個以上、(2)のペプチド鎖を1個以上、及び(3)のペプチド鎖を1個以上有する複合体が含まれる。
【0036】
特に本発明においては、(1)、(2)及び(3)のペプチド鎖から選ばれる2種以上のペプチド鎖を有する複合体、即ち、上記d〜gの複合体が、血管内皮細胞を増殖させる作用に優れる点で好ましい。
【0037】
2種以上のペプチド鎖を含む複合体の場合、各ペプチド鎖の割合は、通常(1)のペプチド鎖:(2)のペプチド鎖=4:1〜1:4程度、特に、2:1〜1:2程度である。
同様に、通常(2)のペプチド鎖:(3)のペプチド鎖=4:1〜1:4程度、特に、2:1〜1:2程度である。同様に、通常(1)のペプチド鎖:(3)のペプチド鎖=4:1〜1:4程度、特に、2:1〜1:2程度である。
【0038】
ペプチド複合体におけるペプチド鎖の合計の導入率は、次式(1):
導入率(%)=(導入されたペプチド鎖の物質量(着目したアミノ酸相当分))/(水溶性高分子又は誘導体における官能基の物質量)×100
により算出される値で10〜80%程度、好ましくは、30〜50%程度である。
【0039】
導入率は、水溶性高分子の種類や官能基の種類によって適宜設定される。
【0040】
例えば、水溶性高分子がメチルビニルエーテル/無水マレイン酸共重合体(MAMEC)である場合、ペプチド鎖の合計の導入率は、次式(2):
導入率(%)=(導入されたペプチド鎖の物質量(着目したアミノ酸相当分))/(MAMECにおけるカルボキシル基の物質量)×100
により算出される値で、10〜50%程度、好ましくは、30〜50%程度である。
【0041】
本発明のペプチド複合体には、ペプチド鎖部分及び水溶性高分子又はその誘導体部分以外に、目的に応じて他の構成要素を含めることができる。
【0042】
他の構成要素としては、例えば、スペーサーが挙げられる。
【0043】
スペーサーとは、水溶性高分子又はその誘導体とペプチド鎖との間を介在し、ペプチド鎖に高分子部分との一定の距離を持たせるものであって、ペプチド鎖の自由度を高めるためのものである。
【0044】
スペーサーは、ペプチド鎖と水溶性高分子又はその誘導体に結合し、それらを結びつけることができる官能基を有するものを適宜用いることができる。
【0045】
例えば、アミノ酸、ペプチド、水溶性高分子或いはそれらの組合せなどが挙げられる。
【0046】
アミノ酸としては、グリシンやアラニン等が挙げられる。また、ペプチドとしては、オリゴグリシンやオリゴアラニン、グリシンとアラニンの組み合わせからなるオリゴペプチド等が挙げられる。水溶性高分子としては、ポリエチレングリコールなどのポリオレフィングリコールが挙げられる。
【0047】
スペーサーの長さは、本発明の効果を奏する範囲内で、適宜設定することができる。
アミノ酸又はペプチドであれば、通常1〜10残基、好ましくは、3〜5残基である。また、水溶性高分子であれば、繰り返し単位で通常2〜20個、好ましくは10〜20個である。
【0048】
スペーサーが存在することにより、ペプチド鎖の自由度が向上し、レセプターの構造や動きに対応しやすくなる。
【0049】
(3−2)ペプチド複合体の製造方法
本発明のペプチド複合体は、公知の方法に従って、上記ペプチド鎖と、上記水溶性高分子を結合することにより、製造することができる。
【0050】
公知の方法としては、例えば、縮合剤を用いる方法を挙げることができる。
【0051】
縮合剤としては、4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロライド(以下、「DMT-MM」ともいう。)、DCC(ジシクロカルボジイミド),EDC(WSC)(1-エチル-3(-3-ジメチルアミノプロピル) カルボジイミド(水溶性カルボジイミド)などが挙げられる。
【0052】
また、水溶性高分子又はその誘導体が、酸無水物を構成成分として有する場合は、水溶性高分子又はその誘導体と、ペプチドとを、水溶液中で混合して攪拌することにより、製造することもできる。
【0053】
(3−3)ペプチド複合体の特徴
本発明のペプチド複合体は、VEGF受容体との結合部位を有しており、血管内皮細胞を増殖させる機能を有する。
【0054】
また、本発明のペプチド複合体は、合成が容易であり、大量生産可能である。
【0055】
また、本発明のペプチド複合体は活性部位の修飾や、分子設計を行って、好ましい特性の付与や改善を図ることもできる。
【0056】
また本発明のペプチド複合体は、形質転換体による組み換え蛋白質のような毒性や量的な問題、或いは立体構造が異なる等の問題がなく、また製造コストもより安価となる。
【0057】
また、単に活性部分のペプチド鎖部分のみからなる化合物では、投与すると化合物が拡散として一部しか標的細胞に到達しないことや、効果を発現することなく排除されることが考えられるが、本発明の複合体は、活性部分が高分子でつながっているため、標的細胞付近の存在率を上げることができ、細胞増殖効果を向上させることができる。
【0058】
4.ペプチド複合体を含む血管内皮細胞増殖促進剤
本発明の血管内皮細胞増殖促進剤は、上記本発明のペプチド複合体を有効成分として含む。
【0059】
本発明の血管内皮細胞増殖促進剤は、ペプチド複合体そのものからなるものであってもよいし、ペプチド複合体を塩として含むものであってもよい。また、ペプチド複合体又はその塩を有効成分として、薬学上又は衛生上許容される担体、或いは公知の添加物や薬学的活性成分等の他の成分が配合されているものであってもよい。
【0060】
かかる担体又は他の成分の種類及び配合量は、本発明の効果を損なわないことを限度として、剤型又は適用対象に応じて、適宜選択調整することができる。
【0061】
血管内皮細胞増殖促進剤の形態についても特に制限されず、用途等に応じて、液状、乳液状、クリーム状、粉末状等に任意に調製することができる。
【0062】
本発明の血管内皮細胞増殖促進剤は、血管内皮増殖促進用の試薬または薬剤あるいはそれらの有効成分として用いることもできる。
【0063】
本発明の血管内皮細胞増殖促進剤を試薬として使用する場合、試薬における複合体の割合は、配合対象、剤型、期待される効果等によって異なり、一律に規定することはできないが、通常、系内の複合体又はその塩の濃度が0.01〜600pmol/mL、特に 3〜100pmol/mL程度となることをもたらすような量で設定される。
【0064】
また、本発明の血管内皮細胞増殖促進剤を薬剤として使用する場合、薬剤における複合体の割合は、配合対象、剤型、期待される効果等によって異なり、一律に規定することはできないが、通常、組織内の複合体又はその塩の濃度が0.01〜600pmol/mL、特に3〜100p mol/mL程度となることをもたらすような量で設定される。
【0065】
本発明の血管内皮細胞増殖促進剤は、上記ペプチド複合体又はその塩を有効成分として含むものであり、天然のVEGFと同様の血管内皮細胞増殖能や、血管形成能を有し得る。
【発明の効果】
【0066】
本発明のペプチド複合体は、VEGF受容体との結合部位を有しており、血管内皮細胞を増殖させる作用を有する。
【0067】
また、本発明のペプチド複合体は、合成が容易であり、大量生産可能である。更に、本発明のペプチド複合体は、活性部位の修飾や、分子設計を行うことが可能であり、好ましい特性の付与や改善等を図ることもできる。
【0068】
また本発明のペプチド複合体は、形質転換体による組み換え蛋白質のような毒性や量的な問題、或いは立体構造が異なる等の問題がなく、また安価で取得し得る。
【0069】
また、単に活性部分のぺプチド鎖部分のみからなる化合物の場合は、投与すると化合物が拡散として一部しか標的細胞に到達しないことや、効果を発現することなく排除されることが考えられるが、本発明の複合体は、活性部分が高分子でつながっているため、標的細胞付近の存在率を上げることができ、細胞増殖効果を向上させることができる。
【0070】
また、本発明の血管内皮細胞増殖促進剤は、上記のような特徴を有するペプチド複合体を有効成分として含むものであり、血管内皮細胞を増殖させる作用を有し、試薬や薬剤として、組織工学分野や医療分野において有効に利用し得るものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0071】
以下、本発明をより具体的に説明するために実施例及び実験例を用いて説明するが、本発明は実施例に限定されることはない。
【0072】
1.材料及び測定条件
(1−a)試薬、材料、分析機器
液相合成および固相合成に用いたアミノ酸は渡辺化学工業株式会社を使用した。使用したアミノ酸は以下の通りである。
N-a-t-ブトキシカルボニル-N-b-トリチル-L-アスパラギン(Boc-Asn(Trt)-OH)
N-a-t-ブトキシカルボニル-L-アスパラギン酸 b-ベンジルエステル(Boc-Asp(OBzl)-OH)
N-a-t-ブトキシカルボニル- S-p-メトキシベンジル-L-システイン(Boc-Cys(MeOBzl)-OH)
N-a-t-ブトキシカルボニル-Lグルタミン酸 g-ベンジルエステル(Boc-Glu(OBzl)-OH)
N-a-t-ブトキシカルボニル-グリシン(Boc-Gly-OH)
N-a-t-ブトキシカルボニル-L-イソロイシン(Boc-Ile-OH)
N-a-t-ブトキシカルボニル-L-ロイシン(Boc-Leu-OH)
N-a-t-ブトキシカルボニル-L-プロリン(Boc-Pro-OH)
N-a-t-ブトキシカルボニル-O-ベンジル-L-チロシン(Boc-Tyr(Bzl)-OH)
N-a-(9-フルオレニルメトキシカルボニル)-N-w-2,2,4,6,7-ペンタメチル-ジヒドロベンゾフラン-5-スルフォニル-L-アルギニン(Fmoc-Arg(Pbf)-OH)
N-a-(9-フルオレニルメトキシカルボニル)-N-b-トリチル-L-アスパラギン(Fmoc-Asn(Trt)-OH)
N-a-(9-フルオレニルメトキシカルボニル)-L-アスパラギン酸 b-t-ブチルエステル(Fmoc-Asp(OtBu)-OH)
N-a-(9-フルオレニルメトキシカルボニル)-S-トリチル-L-システイン(Fmoc-Cys(Trt)-OH)
N-a-(9-フルオレニルメトキシカルボニル)-N- g-トリチル-L-グルタミン(Fmoc-Gln(Trt)-OH)
N-a-(9-フルオレニルメトキシカルボニル)-L-グルタミン酸 g-t-ブチルエステル 1水和物(Fmoc-Glu(OtBu)-OH・H2O)
N-a-(9-フルオレニルメトキシカルボニル)-グリシン(Fmoc- Gly-OH)
N-a-(9-フルオレニルメトキシカルボニル)-N-t-トリチル-L-ヒスチジン(Fmoc- His(Trt)-OH)
N-a-(9-フルオレニルメトキシカルボニル)-L-イソロイシン(Fmoc-Ile-OH)
N-a-(9-フルオレニルメトキシカルボニル)-L-ロイシン(Fmoc-Leu-OH)
N-a-(9-フルオレニルメトキシカルボニル)-N-e-t-ブトキシカルボニル-L-リシン(Fmoc-Lys(Boc)-OH)
N-a-(9-フルオレニルメトキシカルボニル)-L-メチオニン-DL-スルホキシド(Fmoc-Met(O)-OH)
N-a-(9-フルオレニルメトキシカルボニル)-L-プロリン(Fmoc-Pro-OH)
N-a-(9-フルオレニルメトキシカルボニル)-O-t-ブチル-L-チロシン(Fmoc-Tyr(tBu)-OH)
【0073】
また固相合成法で使用した不溶性樹脂担体は渡辺化学工業株式会社を使用した。使用した不溶性樹脂担体は以下の通りである。
N-a-9-フルオレニルメトキシカルボニル-S-トリチル-L-システイン トリチルエステルp-アミドメチル ポリエチレングリコール ポリスチレン樹脂(Fmo-Cys(Trt)-TrtA-PEG Resin)
N-a-9-フルオレニルメトキシカルボニル-S-トリチル-L-グルタミン トリチルエステルp-アミドメチル ポリエチレングリコール ポリスチレン樹脂(Fmo-Gln(Trt)-TrtA-PEG Resin)
N-a-9-フルオレニルメトキシカルボニル-S-トリチル-L-アラニン トリチルエステルp-アミドメチル ポリエチレングリコール ポリスチレン樹脂(Fmo-Ala-TrtA-PEG Resin)
N-a-9-フルオレニルメトキシカルボニル-L-イソロイシン トリチルエステルp-アミドメチル ポリエチレングリコールポリスチレン樹脂(Fmo-Ile-TrtA-PEG Resin)
【0074】
また、C末端保護基としてベンジルエステル基の導入にはa-ブロモトルエン(東京化成工業株式会社製)を、フェナシルエステル基の導入には,2-ブロモアセトフェノン(東京化成工業株式会社製)を使用した。
【0075】
脱保護反応に用いた4mol/L-塩酸/ジオキサン(4mol/L-HCl/DIO),トリフルオロメタンスルホン酸(TFMSA)、トリフルオロ酢酸(TFA),チオアニソール,1,2-エタンジチオールは,渡辺化学工業株式会社製を使用した。
【0076】
その他の有機溶剤と試料は,シグマ アルドリッチ ジャパン株式会社製,和光純薬工業株式会社製,片山化学工業株式会社製を精製して使用した。
【0077】
反応の進行の確認等に用いた薄層クロマトグラフィー(TLC)は,Merck製DC-Platten Kieselgel 60を使用した。
【0078】
反応中間体の分離・精製に使用したカラムクロマトグラフィーは,和光純薬工業株式会社製のワコーゲルC-300と関東化学株式会社製のシリカゲル60N(粒状,中性)を使用した。
【0079】
ペプチドの最終精製には、東ソー株式会社製のデュアルポンプ(CCPD),紫外可視検出器(UV-8010),オートサンプラー(AS-8071)およびフラクションコレクターからなるHPLCシステムを使用した。
【0080】
また脱塩装置に旭化成工業株式会社製のマイクロアシライザーEX3電気透析装置を使用した。
【0081】
合成物の質量分析には,パーセプティブ株式会社製の飛行時間型質量分析計(VoyagerTMPro MALDI-TOF-MS)を使用した。
【0082】
アミノ酸の分析には島津製作所製のLC-VPアミノ酸分析システムを使用した。
【0083】
(1−b)縮合剤4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロライド(DMT-MM)の合成
炭酸水素ナトリウム 40.0gをメタノール 120mLに溶解し、蒸留水12mLを加え、氷冷下で攪拌した。次に塩化シアヌル (東京化成工業株式会社製)29.6gを加え、35℃で7時間攪拌した。その後、反応溶液を蒸留水 1Lに加え、0.5時間攪拌した。不溶物をろ過し、ろ物を減圧乾燥することにより、CDMT(2-クロロ-4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン)を得た。CDMT 21.5g(1.16×10-1mol)をアセトンに溶解し、CDMTの物質量に対して1.5等量のNMM(N-メチルモルフォリン、シグマアルドリッチ ジャパン株式会社製)を加え、常温で0.5時間攪拌した。不溶物をろ過し、ろ物をデシケーターで減圧乾燥することにより白色粉末のDMT-MM 26.2g(9.30×10-1mol)を得た。
【0084】
(1−c)液相法によるペプチド鎖H-Cys-Asn-Asp-Glu-Gly-Leu-Glu-Cys-OHの合成
液相法のフラグメント縮合によりH-Cys-Asn-Asp-Glu-Gly-Leu-Glu-Cys-OHの合成を行った。4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロライド(DMT-MM)を用いてBocケミストリーでジペプチド単位を合成し、ペプチドのN,C末端保護基を適宜脱保護しペプチド鎖の伸長を行った。
【0085】
合成したBoc-Cys(MeOBzl)-Asn(Trt)-Asp(OBzl)-Glu(OBzl)-Gly-Leu-Glu(OBzl)-Cys(MeOBzl)-OBzlをトリフルオロ酢酸(TFA) に溶解した.エタンジチオール(EDT) ,m-クレゾール,チオアニソールの混合溶液を加えた.次いでトリフルオロメタンスルホン酸(TFMSA) を加え2時間撹拌させた.ジエチルエーテルを用いて結晶化した.結晶をろ別後,蒸留水に溶解し,蒸留水/アセトニトリル混合液を溶出液とする高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により精製した.精製後,マイクロアシライザーを用いて脱塩し,凍結乾燥することでH-Cys-Asn-Asp-Glu-Gly-Leu-Glu-Cys-OHを得た.精製物はアミノ酸分析,MALDI-TOF-MS測定により同定した。
【0086】
(1−d) 固相法によるペプチド鎖H-Ile-Met-Arg-Ile-Lys-Pro-His-Gln-OHの合成
図1に示したFmoc固相合成スキームに従いFmoc-Ile-Met(O)-Arg(Pbf)-Ile-Lys(Boc)- Pro-His(Trt)-Gln(Trt)-TrtA-PEG-Resinの合成を行った。樹脂にはFmoc-Gln(Trt)-TrtA-PEG-Resin 1.0g(アミノ酸含有率0.20mmol/g)を用いた。
【0087】
次いで、以下のように、Fmoc-Ile-Met(O)-Arg(Pbf)-Ile-Lys(Boc)-Pro-His(Trt)-Gln(Trt)-TrtA-PEG-Resinの脱保護および脱樹脂反応を行った。
【0088】
氷冷下条件でFmoc-Ile-Met(O)-Arg(Pbf)-Ile-Lys(Boc)-Pro-His(Trt)-Gln(Trt)-TrtA- PEG-Resinに結晶フェノール0.75g,TAS 0.50 mL,EDT 0.25mL,蒸留水0.25mL,TFA 8.5mLの混合溶液を加え2時間撹拌した。ジエチルエーテルを用いて結晶化し結晶と樹脂をろ過した後,目的物を蒸留水に溶解し,蒸留水/アセトニトリル混合液を溶出液とするHPLCにより精製した。精製後、マイクロアシライザーを用いて脱塩し,凍結乾燥することでH-Ile-Met-Arg-Ile-Lys-Pro-His-Gln-OHを得た。目的物はアミノ酸分析,MALDI-TOF-MS測定により同定した。
【0089】
(1−e)固相法によるペプチド鎖H-Tyr-Pro-Asp-Glu-Ile-Glu-Tyr-Ile-OHの合成
図1に示すFmoc固相合成スキームに従いFmoc-Tyr(tBu)-Pro-Asp(OtBu)-Glu(OtBu)-
Ile-Glu(OtBu)-Tyr(tBu)-Ile-TrtA-PEG-Resinの合成を行った。樹脂にはFmoc-Ala-TrtA- PEG-Resin 1.0g(アミノ酸含有率0.20mmol/g)を用いた。
【0090】
次いで、以下のようにFmoc-Tyr(tBu)-Pro-Asp(OtBu)-Glu(OtBu)-Ile-Glu(OtBu)-
Tyr(tBu)-Ile-TrtA-PEG-Resinの脱保護および脱樹脂反応を行った。
【0091】
氷冷下条件でFmoc-Tyr(tBu)-Pro-Asp(OtBu)-Glu(OtBu)-Ile-Glu(OtBu)-Tyr(tBu)-Ile- TrtA-PEG-ResinにEDT 0.25mL,蒸留水0.25mL,TFA 9.5mLの混合溶液を加え2時間撹拌した.ジチルエーテルを用いて結晶化し結晶と樹脂をろ過した後,目的物を蒸留水に溶解し,蒸留水/アセトニトリル混合液を溶出液とするHPLCにより精製し,マイクロアシライザーを用いて脱塩し,凍結乾燥してH-Tyr-Pro-Asp-Glu-Ile-Glu-Tyr-Ile-OHを得た。目的物はアミノ酸分析、MALDI-TOF-MS測定により同定した。
【0092】
2.メチルビニルエーテル/無水マレイン酸共重合体(MAMEC)へのペプチド鎖の導入
MAMEC(平均分子量約2万,重合度128)は,五協産業株式会社製より寄贈されたものを使用した。
【0093】
MAMECへのペプチド鎖の導入にはDMT-MMを用いた。合成後の透析に使用したセルロースエステル膜(分画分子量2000)はSpectrum社製を用いた。
【0094】
また、MAMEC-ペプチド複合体の1mg中に含まれるMAMECのカルボキシル基の物質量(906nmol)とアミノ酸分析によるアミノ酸含有物質量から、次式(3):
導入率(%)=(導入されたペプチド鎖の物質量(選択したアミノ酸相当分))/(MAMECのカルボキシル基の物質量)×100
により、ペプチドの導入率を算出した。
【0095】
MAMEC-ペプチド複合体におけるペプチド鎖の導入量決定には,島津製作所製のLC-VPアミノ酸分析システムを使用した
この際、MAMECに導入したペプチド鎖のCNDEGLEC,IMRIKPHQ,YPDEIEYIを単独に判別するため、他のペプチドに含まれていない固有の標準アミノ酸を選択して分析に用いた。CNDEGLECはGlyを、IMRIKPHQはLysを、YPDEIEYIはTyrを、選択したアミノ酸として定量を行った。
【0096】
(2−a)MAMEC-CI(CNDEGLECとIMRIKPHQを導入した複合体)の合成
MAMEC 0.0120g(7.69×10-5mol)を蒸留水に溶解し24時間攪拌した。H-Ile-Met-Arg-Ile-Lys-Pro-His-Gln-OH 0.0400g(3.91×10-5mol)、H-Cys-Asn-Asp-Glu-Gly-Leu-Glu-Cys-OH 0.0320g(3.63×10-5mol)と1.1等量のDMT-MM 0.0221g(8.00×10-5mol)を加え24時間常温攪拌した。分画分子量2000の透析膜を用いて透析を行い,凍結乾燥して目的物を得た。
【0097】
(2−b)MAMEC-YI (YPDEIEYIとIMRIKPHQを導入した複合体)の合成
MAMEC 0.0070g(4.48×10-5mol)を蒸留水に溶解し24時間攪拌した。H-Ile-Met-Arg-Ile-Lys-Pro-His-Gln-OH 0.0466g(4.46×10-5mol)、H-Tyr-Pro-Asp-Glu-Ile-Glu-Tyr-Ile-OH 0.0478g(4.60×10-5mol)と1.1等量のDMT-MM 0.0221g(8.00×10-5mol)を加え24時間常温攪拌した。分画分子量2000の透析膜を用いて透析を行い、凍結乾燥して目的物を得た。
【0098】
(2−c)MAMEC-C (CNDEGLECを導入した複合体)の合成
MAMEC 0.0060g(3.84×10-5mol)を蒸留水に溶解し24時間攪拌した.H-Cys-Asn-Asp-Glu-Gly-Leu-Glu-Cys-OH 0.0640g(7.26×10-5mol)と1.1等量のDMT-MM 0.0221g(8.00×10-5mol)を加え24時間常温攪拌した。分画分子量2000の透析膜を用いて透析を行い、凍結乾燥して目的物を得た。
【0099】
(2−d)MAMEC-I (IMRIKPHQを導入した複合体)の合成
MAMEC 0.0060g(3.84×10-5mol)を蒸留水に溶解し24時間攪拌した.H-Ile-Met-Arg-Ile-Lys-Pro-His-Gln-OH 0.0800g(7.82×10-5mol) と1.1等量のDMT-MM 0.0221g(8.00×10-5mol)を加え24時間常温攪拌した.分画分子量2000の透析膜を用いて透析を行い,凍結乾燥して目的物を得た。
【0100】
(2−e)MAMEC-Y (YPDEIEYIを導入した複合体)の合成
MAMEC 0.0060g(3.84×10-5mol)を蒸留水に溶解し24時間攪拌した.H-Tyr-Pro-Asp-Glu-Ile-Glu-Tyr-Ile-OH 0.0820g(7.88×10-5mol)と1.1等量のDMT-MM 0.0221g(8.00×10-5mol)を加え24時間常温攪拌した。分画分子量2000の透析膜を用いて透析を行い,凍結乾燥して目的物を得た。
【0101】
得られたペプチド複合体における導入ペプチドの種類及び導入率をまとめたものを下記表に示す。
【0102】
【表1】

【0103】
表1において、MAMEC-CIでは、Gly:Lysが1.0:1.0の割合で測定されたことから、同じ割合で2種のペプチド鎖を導入することができたことがわかった。MAMEC中のカルボキシル基の含有物質量は1mgあたり906nmol存在し、GlyとLysの物質量が180nmolと187nmolであるからMAMECの20%のカルボキシル基にCNDEGLEC、21%のカルボキシル基にIMRIKPHQが導入できたと推測された。
【0104】
同様に、MAMEC-YIは、Tyr:Lysが1.0:1.0の割合で測定されたことから、同じ割合で2種のペプチドが導入することができたことがわかった。TyrとLysの物質量が212nmolと226nmolであったことからMAMECの24%のカルボキシル基にYPDEIEYI、 25%のカルボキシル基にIMRIKPHQが導入できたと推測された。
【0105】
また、同様に、MAMEC-C,MAMEC-IおよびMAMEC-Yは、Gly,Lys,Tyrの物質量が398nmol,408nmol,434nmolであったことから、MAMEC中のカルボキシル基の44%,45%,48%にペプチド鎖が導入されたと各々推測された。
【0106】
また、ペプチドをMAMECに対して2等量で導入を試みたにもかかわらず導入率が50%を上まわらなかった.これは無水マレイン酸が開環した後,2つのカルボキシル基になるが一方にペプチドが導入されると他方のカルボキシル基との間に立体障害が起き、導入されないと考えられた。
【0107】
3.ヒト臍帯静脈血管内皮細胞(HUVEC)を用いた細胞増殖実験
(3−a)細胞増殖実験1
材料
細胞増殖実験に使用したヒト臍帯静脈血管内皮細胞(HUVEC)、VEGF、FGFおよび培養に用いた培地(CS-C培地)は大日本製薬株式会社製を用いた。
【0108】
上記2.で合成したペプチド複合体を、CS-C培地(増殖因子不含)に溶解させ、0.22μLフィルターにてろ過滅菌し、5.23pmol/mL又は52.3pmol/mLの溶液を調製した。
【0109】
手順
ヒト臍帯静脈血管内皮細胞(HUVEC)を100μL(6×103cell/well)ずつ96 wellコラーゲンコートプレートに播種後,37℃で3時間培養した。
【0110】
次いで培地をとり除いた接着培養細胞に、CS-C培地にFGF、VEGF、MAMEC-CI、MAMEC-YI、MAMEC-C、MAMEC-I、MAMEC-Y、又はMAMEC-CとMAMEC-Iの1:1の混合物を52.3pmol/mL(約10ng/mL)で加えたもの、或いはCS-C培地のみ(コントロール)を100μLずつ添加し、37℃,5%CO2インキュベーターにて培養した。
【0111】
3,24,48及び72時間培養後の細胞数を顕微鏡写真(100倍)で観察して計数した。また標準偏差によりt-testを行い、有意差を求めた(n=5)。
【0112】
結果
図2に示すように、MAMEC-ミメティックペプチド複合体添加培地の約48時間後の細胞数は、MAMEC-CIが約4100個、MAMEC-YIが約4100個、MAMEC-Cが約3900個、MAMEC-Iが約3800個、MAMEC-Yが約3800個、MAMEC-CとMAMEC-Iの混合物が約3800個となり、いずれも、コントロールの細胞数約3000個に対して有意な細胞数の増加が確認された。
【0113】
またそれらの値は、FGF(血清・成長因子含)を添加した培地と比べると低いものの、天然のVEGFを加えた場合と同程度であった。
【0114】
また細胞数の差が顕著に観察されたのは、培養48時間後以降であり、細胞増殖が観察される時間に一致することが確認された。
【0115】
(3−b)細胞増殖実験2
上記実験結果で得られた効果の再現性を確認するため,京都大学再生医科学研究所,岩田研究室にて同様の実験を実施した。
【0116】
材料
細胞増殖実験に使用したヒト臍帯静脈血管内皮細胞(HUVEC)および培養に用いた培地(EGM-2培地)はCambrec社製を使用した。細胞数測定にはナカライテクス社製のWST-1試薬を用いて吸光度測定を行った。VEGF及びFGFは大日本製薬株式会社製を用いた。
【0117】
また、上記2.で合成したペプチド複合体を10mM Na2CO3に溶解後、0.22μLフィルターにてろ過滅菌し、5.23pmol/mL又は52.3pmol/mLの溶液を調製した。
【0118】
手順
ヒト臍帯静脈血管内皮細胞を100μL(6×103cell/well)ずつ96wellコラーゲンコートプレートに播種後,37℃で3時間培養した。
【0119】
次いで培地をとり除いた接着培養細胞に、EGM-2培地にFGF,MAMEC-CI,MAMEC-YI,MAMEC-C,MAMEC-I,MAMEC-Y又はMAMEC-CとMAMEC-Iの1:1の混合物を5.23pmol/mL(約1ng/mL)で加えたもの、EGM-2培地にVEGFを52.3fmol/mLで加えたもの,及び、EGM-2培地のみ(コントロール)を、それぞれ100μL添加し、37℃で48時間培養した。
【0120】
培地をとり除き、新たにEGM-2培地を100μLずつ添加した。
【0121】
細胞数を測定するためにWST-1を100μLずつ添加して37℃,5%CO2インキュベーターにて3時間培養した。培養後,吸光度(450nm)測定することで細胞を計数した。また標準偏差によりt-testを行い、有意差を求めた(n=5)。
【0122】
結果
図3に示すように、MAMEC-ミメティックペプチド複合体添加培地の細胞数は、MAMEC-CIが約6500、MAMEC-YIが約6400、MAMEC-Cが約6000、MAMEC-Iが約5600、MAMEC-Yが約6400、MAMEC-CとMAMEC-Iの混合物が約5900であり、いずれもコントロールの約3400個に比べて有意な細胞数の増加が確認できた。
【0123】
また、濃度を52.3pmol/mLに変化させて、同様の実験を行ったところ、MAMEC-CI,MAMEC-YI,MAMEC-C,MAMEC-I,MAMEC-Y,MAMEC-CとMAMEC-Iの1:1混合物の細胞数はいずれも約6000個程度となり、5.23〜52.3pmol/mL(約1ng/mL〜10ng/mL)程度の範囲では濃度依存性を示さないことがわかった。
【0124】
(3−c)
上記のように、細胞増殖実験1及び2のいずれにおいても、同様にMAMEC-ペプチド複合体による細胞増殖効果が確認され、本発明のペプチド複合体が天然のVEGFと同等の血管内皮細胞増殖活性を有することが認められた。
【図面の簡単な説明】
【0125】
【図1】Fmocを用いた固相法によるペプチド鎖の合成スキームを示した図面である。
【図2】細胞増殖実験(3−a)におけるペプチド複合体細胞増殖試験の3時間後、24時間後、48時間後及び72時間後の結果を示した図面である。
【図3】細胞増殖実験(3−b)における、京都大学再生医科学研究所にて調べたペプチド複合体細胞増殖試験の48時間後における結果を示した図面である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性高分子又はその誘導体にペプチド鎖が2個以上結合しているペプチド複合体であって、ペプチド鎖が、
(1)配列番号1で表されるアミノ酸配列を有するペプチド鎖、
(2)配列番号2で表されるアミノ酸配列を有するペプチド鎖、及び
(3)配列番号3で表されるアミノ酸配列を有するペプチド鎖
から選ばれる1種以上のペプチド鎖である複合体。
【請求項2】
ペプチド鎖が、前記(1)、(2)及び(3)のペプチド鎖から選ばれる2種以上のペプチド鎖である請求項1に記載のペプチド複合体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のペプチド複合体を有効成分として含む血管内皮細胞増殖促進剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−44915(P2008−44915A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−224170(P2006−224170)
【出願日】平成18年8月21日(2006.8.21)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2006年2月21日 大阪工業大学主催の「2005年度大阪工業大学大学院工学研究科応用化学専攻修士学位論文公聴会」において文書をもって発表
【出願人】(506283950)
【出願人】(502044843)
【Fターム(参考)】