血管形成促進のための柑橘類果皮エキス
血管形成を促進するか、又は血管形成を促進することが望ましい疾患又は疾病を治療するための柑橘類果皮エキスの使用。このような疾患としては、冠動脈性心疾患、脳卒中、又は潰瘍が含まれる。血管形成を促進するか、又は血管形成を促進することが望ましい疾患又は疾病を治療する際の使用に適した柑橘類果皮エキスを含む組成物。柑橘類果皮エキスの調製方法。柑橘類果実は、グレープフルーツ、オレンジ、レモン、ライム、マンダリン、タンジェロ、タンジェリン又はウグリス、好ましくはグレープフルーツ(シトラス・パラディッシ)であってもよい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は血管形成を促進するための柑橘類果皮エキスの使用に関する。特に、本発明は、血管形成を促進するために望ましい疾患又は疾病、例えば、虚血性心疾患、脳卒中又は潰瘍を治療するためのグレープフルーツ皮エキスの使用に関する。また、本発明には、創傷治癒の援助が含まれる。
【背景技術】
【0002】
血管形成は、新しい血管の成長と増殖である。血管形成は、多くの生理的条件や病理学的条件において重要な役割を果たす。健康な体において、血管形成は、創傷治癒の増殖期の間に、損傷又は発作の後に血流を組織に戻すために、また、毎月の生殖周期の間や妊娠の間の女性に生じる。
健康な体は、一連の“オン”と“オフ”スイッチによって血管形成を制御する。“オン”スイッチは、血管形成を刺激する成長因子として知られ、例としては、線維芽細胞成長因子(FGF)、血管内皮成長因子(VEGF)及びインターロイキン8(IL-8)が挙げられる。対照的に、“オフ”スイッチは、血管形成抑制因子と呼ばれる。血管形成抑制因子の例としては、トロンボスポンジン-1、アンギオスタチン、及びメタロプロテイナーゼの抑制因子が挙げられる。通常の健康な体において、血管形成成長因子と血管形成抑制因子の発現は、血管形成の活性化と抑制を容易にするために精巧に釣り合っている。
血管形成の制御の消失は、多くの深刻な病態に至る可能性がある。新規な血管が過剰な成長或いは不十分な成長をするときに、血管形成に依存する疾患が起こる。血管形成成長因子の過剰生産によって生じる過剰な血管増殖は、腫瘍成長と拡散の増大につながり、又は慢性関節リウマチ、乾癬又は糖尿病性盲目を引き起こす可能性がある。事実、いわゆる“過剰な血管形成”から生じる約70の既知の症状がある。これらの症状の多数において、新しい血管が病的な組織を供給し、正常組織を破壊し、癌の場合、新しい血管は血液循環により他の組織まで広がった腫瘍細胞が定着させることを可能にする(即ち、腫瘍転移)。
対照的に、組織が血管形成成長因子の十分な量を生産することが可能でないので、冠動脈性疾患、潰瘍、脳卒中、創傷治癒の遅延のような症状は“不十分な血管形成”から生じる。狭心症又は胸部痛は、例えば、心臓への血液の供給減弱を原因として生じる。これらの症状において、血管は適当な血液循環を回復するのに不十分であり、組織死のリスクになっている。
長期にわたる創傷治癒や潰瘍もまた、不十分な血管形成によって生じる。創傷治癒は、組織損傷に対する自然な修復応答であり、3つの古典的な段階、即ち、炎症、増殖、成熟(又は再造形)の点から記載され得る細胞事象の複雑なカスケードの相互作用を含む。血管形成は、創傷治癒の増殖期の間、創傷を包囲している血管系組織の修復を容易にするために、また、治癒のために必要な局所細胞活性を刺激するために血流から栄養の供給を増加させるために起こる。更に、血管の内層を形成する内皮細胞は、組織治癒応答の重要な形成体及び調節因子である。
【0003】
創傷治癒を調整するさまざまな方法が知られる。特に、特定の植物エキスの使用は、創傷治癒を促進することが知られる。このような植物エキスには、非果実植物エキス及び果実エキス、柑橘類と非柑橘類果実双方が含まれる。
欧州特許第0210785号には、ラットとマウス双方において創傷治癒活性を高めることを示したアエスクラス・ヒポカスタナム(Aesculus hippocastanum)(セイヨウトチノキ)の果皮、皮質又は枝に由来するプロアントシニドA2エキスが記載されている。米国特許第4,587,124号には、イグナチウス子(Strychnos ignatii Berg)(林のつる植物)の熱処理油エキス及びそのエキスを投与することによる皮膚創傷の治療方法が記載されている。
生物活性を有する柑橘類果実エキスの一例は、ドイツ特許第19929298号に記載されている。グレープフルーツの果肉及び/又は種子のエキスで処理された絆創膏又はパッドの使用が記載されている。グレープフルーツエキスは、殺菌性、殺真菌性、抗ウイルス性及び抗寄生虫性の活性を有し、創傷治癒の促進及び瘢痕化の減少になるとして記載されている。国際出願第2004/091569号には、植物又は動物の病原体、例えば、真菌又は細菌の病原体が“活性化”した柑橘類果皮エキスが記載されている。このエキスの有用性は、皮膚症状の治療に制限があると思われる。
非柑橘類果実もまた、創傷治癒を促進することが知られる。例えば、ロシア特許第2140254号には、創傷治癒促進のためのネズノミ果実のエキスを含む化粧液が記載されている。日本国特許第2124809号は、創傷回復を促進するために用いられる霊芝果実からのエキスを含有する化粧品製剤が記載されている。更にもう一例は、組織再生と創傷治癒を促進するためにセンキュウ果実エキスを含有する座薬に関する中国特許第1103802号である。
【0004】
しかしながら、改良された血管形成促進物質の研究が進行中である。血管形成を促進する既知の植物エキスの多数は、入手が困難であり、望ましくない不純物を有し、且つ生産するためのコストがかかる場合がある。更に、血管形成に影響を及ぼすほとんどの植物エキスは、血管形成を抑制するエキスである。血管形成を促進するエキスは、より普通にはみられず、従って、より重要である。また、典型的には全果実(皮、果肉、種子を含む)が抽出されるために、望ましくない不純物を含む複雑な混合物が、通常得られるという問題が、果実エキスにはある。
出願人は、ここで驚くべきことに、柑橘類果実の皮のエキスが創傷治癒及び/又は血管形成を促進する活性を有することを見出した。
従って、本発明の目的は、血管形成促進又は創傷治癒に関連した治療における柑橘類果実の皮のエキスの使用を提供することである。
【発明の開示】
【0005】
第1態様においては、本発明は、血管形成を促進するか、又は血管形成を促進することが望ましい疾患又は疾病を治療する方法であって、ヒト又は非ヒト動物に柑橘類果実の皮のエキスの治療的に有効な量を投与することを含む前記方法を提供する。
好ましくは、疾患又は疾病は、筋虚血、脳卒中又は潰瘍である。より好ましくは、筋虚血は、骨格筋虚血であるか又は冠動脈性疾患によるものである。
血管形成促進は、創傷治癒を援助することであってもよい。或いは、血管形成促進が組織培養内で操作された組織又は再生された組織中であってもよい。好ましくは、柑橘類果実はグレープフルーツ、オレンジ、レモン、ライム、マンダリン、タンジェロ、タンジェリン又はウグリスである。本発明の好ましい実施態様においては、柑橘類果実は、グレープフルーツ(シトラス・パラディッシ(Citrus paradisii))である。
好ましくは、外傷の治療のために、ゲル、スプレー、クリーム又はローションの形で局所的にエキスが投与される。或いは、経口、腹腔内、静脈内、皮下、筋肉内、又は他の適切な方法でエキスを投与することができる。
第2態様においては、本発明は、血管形成を促進する、又は血管形成を促進することが望ましい疾患又は疾病を治療する薬剤の製造における柑橘類果実の皮のエキスの治療的に有効な量の使用を提供する。
他の態様においては、本発明は、血管形成を促進するか、又は血管形成を促進することが望ましい疾患又は疾病を治療する際の使用に適した柑橘類果実の皮のエキスを含む組成物を提供する。
【0006】
態様においては、本発明は、更に、柑橘類果実の皮のエキスを調製する方法であって:
(a) 柑橘類果実の皮をホモジナイズし、得られたホモジネートに約5容積の水性溶媒を添加する工程;
(b) 工程(a)で得られた混合物を撹拌する工程;
(c) 工程(b)で得られた混合物をろ過してろ液を得る工程;
(d) 減圧下約45℃でろ液を濃縮する工程;
(e) 濃縮されたろ液をクロマトグラフィー精製に供する工程であって、水で溶離した後、アルコールによる溶離によって得られた画分が得られる、前記工程;
(f) アルコール画分を減圧下約45℃で濃縮してエキスを得る工程
による、前記方法を提供する。
混合物の撹拌とを過の工程は、皮からの抽出を最大にするために任意に繰り返すことができる。
濃縮ろ液のクロマトグラフィー精製は、好ましくは、非イオン性樹脂クロマトグラフィー媒質に濃縮ろ液を吸着させ、最初は水で溶離して望ましくない物質を除去し、その後、アルコールで溶離してエキスを含む画分を得ることによって行われる。
工程(a)の水性溶媒に用いられる溶剤は、メタノール、エタノール、プロパノール及びアセトンからなる群より選ぶことができる。
好ましくは、工程(a)の水性溶媒に用いられる溶媒は70%水性アセトンである。また、ステップ(e)に用いられる非イオン性樹脂がポリスチレンであることが好ましい。更に、吸着された画分がメタノールを用いて工程(f)のカラムから溶離されることが好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本明細書に記載されるように、柑橘類果実の“皮”は食用の果肉と中の種が取り除かれた後の柑橘類果実の残りの部分を意味する。
本発明は、柑橘類果実の皮のエキスに関し、そのエキスは、血管形成を促進する活性を有する。従って、エキスは、血管形成を促進することが望ましい疾患又は疾病、例えば、冠動脈性疾患、脳卒中又は潰瘍を治療するのに有用である。エキスは、また、創傷治癒を援助するのに有用である。更にまた、組織移植のために細胞外マトリックスにおいて操作又は再生した組織のように組織培養内の血管形成促進のためにエキスを使うことができる。
組織培養内で、エキスは、細胞外マトリックスにおいて操作又は再生した組織の不足を支えることができる血管の供給を促進することができる。
有利には、活性エキスは柑橘類果実の皮から得られ、それはしばしば市販の柑橘類果実処理の廃棄物である。更に、柑橘類果実の皮からエキスを得る方法は、簡単である。皮のエキスは、また、全果実のエキスより望ましくない不純物が少ないという利点がある。
本発明は、本発明の好ましい柑橘類果実としてグレープフルーツに関して詳述する。しかしながら、本発明は、グレープフルーツ、オレンジ、レモン、ライム、マンダリン、タンジェロ、タンジェリン及びウグリスを含むが、これらに限定されないあらゆる柑橘類果実に関することは理解されるべきである。
【0008】
血管形成についてのグレープフルーツ皮エキスの効果を求めるためにラット大動脈の血管形成の速度の定量的評価の生体外培養分析を用いた(実施例2)。グレープフルーツ皮エキスで処理した組織の大動脈リングに相対する微小血管成長面積により、対照と比較して、381%の新たな血管形成の増加が生じた。この結果から、血管形成を促進するグレープフルーツ皮エキスの有効性が示されることは明らかである。
創傷治癒についてグレープフルーツ皮エキスの効果を調べるために、ほぼ同一の円形切除創傷を負ったルイスラットの創傷回復速度(全創傷面積として測定した)を求めた。1つの創傷は試験創傷として使用し、その他は対照として使用した。グレープフルーツ皮エキスの投与量が10mg/mlと1mg/mlである2つの別々の実験を行った。
第1の実験については、10mg/mlの投与量で17日の試験期間にわたって一日おきに試験創傷にグレープフルーツ皮エキスを局所的に投与した(図1A〜図1I)。図1Aは、創傷を負った直後の試験創傷と対照創傷を示す写真である。図1B〜図1Iは、創傷後2日間隔で17日目まで(図1I)の同一の創傷を示す写真である。明らかに、試験創傷は、対照よりかなり急速に治癒した。
創傷回復の相対速度を定量化するために、各創傷の全創傷面積を測定した。経時の元の創傷面積の全パーセントとして、表1と図3にデータを示す。表1においては、試験創傷と対照創傷の全創傷面積の比率も示されている。各時点で、比率は1より小さいので、処理創傷は、対照創傷よりも急速に治癒しているということである。最初の5日間にわたって、創傷表面積の減少が著しく加速している(図3)。創傷治癒の血管由来の段階が主にこの期間で起こることに注目することは、重要である。
【0009】
表1
【0010】
第2の実験については、グレープフルーツ皮エキスを1mg/mlの投与量で局所的に投与した。図2Aは、創傷を負った直後の試験創傷と対照創傷を示すグラフである。図2B〜2Iは、17日目(図2I)まで創傷後2日間隔で同一の創傷を示す写真である。また、試験創傷は、対照よりかなり急速に治癒した。
第1の実験と同様に、対照と比較して1mg/mlのグレープフルーツ皮エキスで投与されたラットの全創傷面積(元の創傷面積のパーセントとして表される)の程度を表2と図4に示す。より低い濃度のときでさえ、グレープフルーツエキスは、全創傷回復率に非常に似た効果を及ぼす。
【0011】
表2
【0012】
柑橘類果実皮エキスがゲル、スプレー、クリーム又はローションの形で局所的に投与することができることは当業者によって理解される。エキスは、また、経口、腹腔内、静脈内又は治療すべき疾患又は疾病による他のあらゆる適切な方法で投与することができる。
エキスの投与量は、広く変動し、患者並びに治療すべき疾病の種類及び程度に左右される。
出願人は、柑橘類果実皮エキスが果皮から有利に調製され、しばしば市販の柑橘類果実処理の廃棄物であることを見出した。粉末にした後、果皮を70%水性溶媒、例えば、70%水性アセトンで抽出する。溶媒は除去され、精製はクロマトグラフィーによって容易に行われる。アルコール、例えば、メタノールで溶離すると、画分が得られ、それを濃縮し、水に溶解し、次に凍結乾燥して望ましいエキスを得ることができる。
本発明を、以下の実施例によって更に記載する。しかしながら、本発明がこれらの実施例に限定されないことは理解すべきである。
【実施例】
【0013】
実施例1: 抽出手順
柑橘類果実から剥いた皮を、電気ブレンダにおいて粉末にし、この物質に5容積の70%水性アセトン(アセトン/水、7:3v/v)を添加した。この混合物を2時間撹拌し、次に周囲温度で一晩放置した。得られた混合物をナイロン布でろ過し、そのようにしながら果肉をしぼった。固形残留物を水性溶媒に再懸濁し、1時間撹拌し、次にろ過した。ろ液を合わせ、減圧下45℃で濃縮することによりアセトンを除去した。残留水性分を収集するために傾瀉し、非イオン性ポリスチレン樹脂のカラムで処理した。カラムを3容積の蒸留水で洗浄し、吸収物質をメタノールで溶離し、減圧下で濃縮した。残留物質を1容積の蒸留水で希釈し、凍結乾燥して、活性エキスを得た。
【0014】
実施例2: 血管形成分析
脂肪と血管周囲の線維組織を除去した後、ラット大動脈を約2mmの厚みのリングに切断した。トロンビンをMCDB 131媒体に溶解したフィブリノーゲン溶液に添加することによって調製したフィブリンゲル(0.4ml)栓子を、24ウェルの培養プレートのウェルにおいて形成した。大動脈リングを各ウェルの中央に置き、他のフィブリン栓子をかぶせた。各ゲルをMCDB 131媒体(1.5ml)で覆い、3%CO2/97%空気の雰囲気中37℃でインキュベートした。試験すべき試料を媒質に補助剤として添加した。各試料を3回の実験で分析した。
ほぼ5日後に、微小血管は、リングの周辺から成長して検出することができた。5〜14日間の規則的な間隔で、各ウェルの画像を倒立顕微鏡に取り付けたデジタルカメラを用いて記録した。各画像のリングの周辺と相対する微小血管成長面積を、各時点で測定した。成長率の平均値を求め、次に各試料の微小血管率を算出した。
【0015】
実施例3: 創傷治療
2つの円形の切除創傷を、肩のすぐ下に0.8cmの皮膚生検用パンチを用いて各ラットの背中につくった。1つの創傷を、中心線の両側に負った。試験物質の2つの投与量を調べた。各実験について、5匹の雄のルイスラットを用いた。生理食塩水に溶解したグレープフルーツ皮エキスのアリコート(25μl)を、一日おきに各動物の左の創傷に局所的に適用した。ラットの第1グループに対しては、濃度は10mg/mlであり、第2グループに対しては、1mg/mlであった。対照として使用するために、対側創傷には賦形剤を添加した。各一組の創傷の写真は、キヤノンEOS 3000 Nカメラ(F2.8 マクロレンズ)と富士プロフェッショナル400NPHフィルムを用いて各添加の前に撮影した。各露光プリントはデジタル的に記録され、各創傷面積はNIH Image 1.63ソフトウェアを用いてこれらの画像から算出された。結果は、図1及び図2で見ることができる。
本発明を一例として記載してきたが、特許請求の範囲から逸脱することなく変更及び修正がなされてもよいことは理解すべきである。更に、既知の均等物が個々の特徴に存在する場合、このような均等物は、明細書において詳しく言及されるかのように含まれる。
【0016】
工業上の利用性
本発明は、血管形成の促進を可能にする。このことにより、創傷治癒、及び冠動脈性疾患、脳卒中、潰瘍を含む種々の疾患又は疾病の治療の促進に対する適用性がある。本発明に用いられる柑橘類果実皮エキスを得る方法は、柑橘類果実の皮を水性溶媒で抽出すること、及びろ液を精製し、その後、溶媒を除去して、エキスを得ることを含む。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1A】17日間のルイスラットの背中に負った2つのほぼ同一の円形の切除創傷を比較する写真である。左の創傷は、一日おきに、25μlのグレープフルーツ皮エキス(10mg/ml)で治療した。
【図1B】17日間のルイスラットの背中に負った2つのほぼ同一の円形切除創傷を比較する写真である。左の創傷は、一日おきに、25μlのグレープフルーツ皮エキス(10mg/ml)で治療した。
【図1C】17日間のルイスラットの背中に負った2つのほぼ同一の円形の切除創傷を比較する写真である。左の創傷は、一日おきに、25μlのグレープフルーツ皮エキス(10mg/ml)で治療した。
【図1D】17日間のルイスラットの背中に負った2つのほぼ同一の円形の切除創傷を比較する写真である。左の創傷は、一日おきに、25μlのグレープフルーツ皮エキス(10mg/ml)で治療した。
【図1E】17日間のルイスラットの背中に負った2つのほぼ同一の円形の切除創傷を比較する写真である。左の創傷は、一日おきに、25μlのグレープフルーツ皮エキス(10mg/ml)で治療した。
【図1F】17日間のルイスラットの背中に負った2つのほぼ同一の円形の切除創傷を比較する写真である。左の創傷は、一日おきに、25μlのグレープフルーツ皮エキス(10mg/ml)で治療した。
【図1G】17日間のルイスラットの背中に負った2つのほぼ同一の円形の切除創傷を比較する写真である。左の創傷は、一日おきに、25μlのグレープフルーツ皮エキス(10mg/ml)で治療した。
【図1H】17日間のルイスラットの背中に負った2つのほぼ同一の円形の切除創傷を比較する写真である。左の創傷は、一日おきに、25μlのグレープフルーツ皮エキス(10mg/ml)で治療した。
【図1I】17日間のルイスラットの背中に負った2つのほぼ同一の円形の切除創傷を比較する写真である。左の創傷は、一日おきに、25μlのグレープフルーツ皮エキス(10mg/ml)で治療した。
【図2A】17日間のルイスラットの背中に負った2つのほぼ同一の円形切除創傷を比較する写真である。今回、左の創傷は、一日おきに、25μlのグレープフルーツ皮エキス(1mg/ml)で治療した。
【図2B】17日間のルイスラットの背中に負った2つのほぼ同一の円形切除創傷を比較する写真である。今回、左の創傷は、一日おきに、25μlのグレープフルーツ皮エキス(1mg/ml)で治療した。
【図2C】17日間のルイスラットの背中に負った2つのほぼ同一の円形切除創傷を比較する写真である。今回、左の創傷は、一日おきに、25μlのグレープフルーツ皮エキス(1mg/ml)で治療した。
【図2D】17日間のルイスラットの背中に負った2つのほぼ同一の円形切除創傷を比較する写真である。今回、左の創傷は、一日おきに、25μlのグレープフルーツ皮エキス(1mg/ml)で治療した。
【図2E】17日間のルイスラットの背中に負った2つのほぼ同一の円形切除創傷を比較する写真である。今回、左の創傷は、一日おきに、25μlのグレープフルーツ皮エキス(1mg/ml)で治療した。
【図2F】17日間のルイスラットの背中に負った2つのほぼ同一の円形切除創傷を比較する写真である。今回、左の創傷は、一日おきに、25μlのグレープフルーツ皮エキス(1mg/ml)で治療した。
【図2G】17日間のルイスラットの背中に負った2つのほぼ同一の円形切除創傷を比較する写真である。今回、左の創傷は、一日おきに、25μlのグレープフルーツ皮エキス(1mg/ml)で治療した。
【図2H】17日間のルイスラットの背中に負った2つのほぼ同一の円形切除創傷を比較する写真である。今回、左の創傷は、一日おきに、25μlのグレープフルーツ皮エキス(1mg/ml)で治療した。
【図2I】17日間のルイスラットの背中に負った2つのほぼ同一の円形切除創傷を比較する写真である。今回、左の創傷は、一日おきに、25μlのグレープフルーツ皮エキス(1mg/ml)で治療した。
【図3】創傷後の時間の関数として、治療した創傷と治療していない創傷の平均創傷サイズを比較するグラフである。治療した創傷は、一日おきに、25μlのグレープフルーツ皮エキス(10mg/ml)を投与された。比較は、もとの創傷面積のパーセントとして表される。各点についてn=5である。
【図4】創傷後の時間の関数として、治療した創傷と治療していない創傷の平均創傷サイズを比較するグラフである。治療した創傷は、一日おきに、25μlのグレープフルーツ皮エキス(1mg/ml)を投与された。比較は、もとの創傷面積のパーセントとして表される。各点についてn=5である。
【技術分野】
【0001】
本発明は血管形成を促進するための柑橘類果皮エキスの使用に関する。特に、本発明は、血管形成を促進するために望ましい疾患又は疾病、例えば、虚血性心疾患、脳卒中又は潰瘍を治療するためのグレープフルーツ皮エキスの使用に関する。また、本発明には、創傷治癒の援助が含まれる。
【背景技術】
【0002】
血管形成は、新しい血管の成長と増殖である。血管形成は、多くの生理的条件や病理学的条件において重要な役割を果たす。健康な体において、血管形成は、創傷治癒の増殖期の間に、損傷又は発作の後に血流を組織に戻すために、また、毎月の生殖周期の間や妊娠の間の女性に生じる。
健康な体は、一連の“オン”と“オフ”スイッチによって血管形成を制御する。“オン”スイッチは、血管形成を刺激する成長因子として知られ、例としては、線維芽細胞成長因子(FGF)、血管内皮成長因子(VEGF)及びインターロイキン8(IL-8)が挙げられる。対照的に、“オフ”スイッチは、血管形成抑制因子と呼ばれる。血管形成抑制因子の例としては、トロンボスポンジン-1、アンギオスタチン、及びメタロプロテイナーゼの抑制因子が挙げられる。通常の健康な体において、血管形成成長因子と血管形成抑制因子の発現は、血管形成の活性化と抑制を容易にするために精巧に釣り合っている。
血管形成の制御の消失は、多くの深刻な病態に至る可能性がある。新規な血管が過剰な成長或いは不十分な成長をするときに、血管形成に依存する疾患が起こる。血管形成成長因子の過剰生産によって生じる過剰な血管増殖は、腫瘍成長と拡散の増大につながり、又は慢性関節リウマチ、乾癬又は糖尿病性盲目を引き起こす可能性がある。事実、いわゆる“過剰な血管形成”から生じる約70の既知の症状がある。これらの症状の多数において、新しい血管が病的な組織を供給し、正常組織を破壊し、癌の場合、新しい血管は血液循環により他の組織まで広がった腫瘍細胞が定着させることを可能にする(即ち、腫瘍転移)。
対照的に、組織が血管形成成長因子の十分な量を生産することが可能でないので、冠動脈性疾患、潰瘍、脳卒中、創傷治癒の遅延のような症状は“不十分な血管形成”から生じる。狭心症又は胸部痛は、例えば、心臓への血液の供給減弱を原因として生じる。これらの症状において、血管は適当な血液循環を回復するのに不十分であり、組織死のリスクになっている。
長期にわたる創傷治癒や潰瘍もまた、不十分な血管形成によって生じる。創傷治癒は、組織損傷に対する自然な修復応答であり、3つの古典的な段階、即ち、炎症、増殖、成熟(又は再造形)の点から記載され得る細胞事象の複雑なカスケードの相互作用を含む。血管形成は、創傷治癒の増殖期の間、創傷を包囲している血管系組織の修復を容易にするために、また、治癒のために必要な局所細胞活性を刺激するために血流から栄養の供給を増加させるために起こる。更に、血管の内層を形成する内皮細胞は、組織治癒応答の重要な形成体及び調節因子である。
【0003】
創傷治癒を調整するさまざまな方法が知られる。特に、特定の植物エキスの使用は、創傷治癒を促進することが知られる。このような植物エキスには、非果実植物エキス及び果実エキス、柑橘類と非柑橘類果実双方が含まれる。
欧州特許第0210785号には、ラットとマウス双方において創傷治癒活性を高めることを示したアエスクラス・ヒポカスタナム(Aesculus hippocastanum)(セイヨウトチノキ)の果皮、皮質又は枝に由来するプロアントシニドA2エキスが記載されている。米国特許第4,587,124号には、イグナチウス子(Strychnos ignatii Berg)(林のつる植物)の熱処理油エキス及びそのエキスを投与することによる皮膚創傷の治療方法が記載されている。
生物活性を有する柑橘類果実エキスの一例は、ドイツ特許第19929298号に記載されている。グレープフルーツの果肉及び/又は種子のエキスで処理された絆創膏又はパッドの使用が記載されている。グレープフルーツエキスは、殺菌性、殺真菌性、抗ウイルス性及び抗寄生虫性の活性を有し、創傷治癒の促進及び瘢痕化の減少になるとして記載されている。国際出願第2004/091569号には、植物又は動物の病原体、例えば、真菌又は細菌の病原体が“活性化”した柑橘類果皮エキスが記載されている。このエキスの有用性は、皮膚症状の治療に制限があると思われる。
非柑橘類果実もまた、創傷治癒を促進することが知られる。例えば、ロシア特許第2140254号には、創傷治癒促進のためのネズノミ果実のエキスを含む化粧液が記載されている。日本国特許第2124809号は、創傷回復を促進するために用いられる霊芝果実からのエキスを含有する化粧品製剤が記載されている。更にもう一例は、組織再生と創傷治癒を促進するためにセンキュウ果実エキスを含有する座薬に関する中国特許第1103802号である。
【0004】
しかしながら、改良された血管形成促進物質の研究が進行中である。血管形成を促進する既知の植物エキスの多数は、入手が困難であり、望ましくない不純物を有し、且つ生産するためのコストがかかる場合がある。更に、血管形成に影響を及ぼすほとんどの植物エキスは、血管形成を抑制するエキスである。血管形成を促進するエキスは、より普通にはみられず、従って、より重要である。また、典型的には全果実(皮、果肉、種子を含む)が抽出されるために、望ましくない不純物を含む複雑な混合物が、通常得られるという問題が、果実エキスにはある。
出願人は、ここで驚くべきことに、柑橘類果実の皮のエキスが創傷治癒及び/又は血管形成を促進する活性を有することを見出した。
従って、本発明の目的は、血管形成促進又は創傷治癒に関連した治療における柑橘類果実の皮のエキスの使用を提供することである。
【発明の開示】
【0005】
第1態様においては、本発明は、血管形成を促進するか、又は血管形成を促進することが望ましい疾患又は疾病を治療する方法であって、ヒト又は非ヒト動物に柑橘類果実の皮のエキスの治療的に有効な量を投与することを含む前記方法を提供する。
好ましくは、疾患又は疾病は、筋虚血、脳卒中又は潰瘍である。より好ましくは、筋虚血は、骨格筋虚血であるか又は冠動脈性疾患によるものである。
血管形成促進は、創傷治癒を援助することであってもよい。或いは、血管形成促進が組織培養内で操作された組織又は再生された組織中であってもよい。好ましくは、柑橘類果実はグレープフルーツ、オレンジ、レモン、ライム、マンダリン、タンジェロ、タンジェリン又はウグリスである。本発明の好ましい実施態様においては、柑橘類果実は、グレープフルーツ(シトラス・パラディッシ(Citrus paradisii))である。
好ましくは、外傷の治療のために、ゲル、スプレー、クリーム又はローションの形で局所的にエキスが投与される。或いは、経口、腹腔内、静脈内、皮下、筋肉内、又は他の適切な方法でエキスを投与することができる。
第2態様においては、本発明は、血管形成を促進する、又は血管形成を促進することが望ましい疾患又は疾病を治療する薬剤の製造における柑橘類果実の皮のエキスの治療的に有効な量の使用を提供する。
他の態様においては、本発明は、血管形成を促進するか、又は血管形成を促進することが望ましい疾患又は疾病を治療する際の使用に適した柑橘類果実の皮のエキスを含む組成物を提供する。
【0006】
態様においては、本発明は、更に、柑橘類果実の皮のエキスを調製する方法であって:
(a) 柑橘類果実の皮をホモジナイズし、得られたホモジネートに約5容積の水性溶媒を添加する工程;
(b) 工程(a)で得られた混合物を撹拌する工程;
(c) 工程(b)で得られた混合物をろ過してろ液を得る工程;
(d) 減圧下約45℃でろ液を濃縮する工程;
(e) 濃縮されたろ液をクロマトグラフィー精製に供する工程であって、水で溶離した後、アルコールによる溶離によって得られた画分が得られる、前記工程;
(f) アルコール画分を減圧下約45℃で濃縮してエキスを得る工程
による、前記方法を提供する。
混合物の撹拌とを過の工程は、皮からの抽出を最大にするために任意に繰り返すことができる。
濃縮ろ液のクロマトグラフィー精製は、好ましくは、非イオン性樹脂クロマトグラフィー媒質に濃縮ろ液を吸着させ、最初は水で溶離して望ましくない物質を除去し、その後、アルコールで溶離してエキスを含む画分を得ることによって行われる。
工程(a)の水性溶媒に用いられる溶剤は、メタノール、エタノール、プロパノール及びアセトンからなる群より選ぶことができる。
好ましくは、工程(a)の水性溶媒に用いられる溶媒は70%水性アセトンである。また、ステップ(e)に用いられる非イオン性樹脂がポリスチレンであることが好ましい。更に、吸着された画分がメタノールを用いて工程(f)のカラムから溶離されることが好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本明細書に記載されるように、柑橘類果実の“皮”は食用の果肉と中の種が取り除かれた後の柑橘類果実の残りの部分を意味する。
本発明は、柑橘類果実の皮のエキスに関し、そのエキスは、血管形成を促進する活性を有する。従って、エキスは、血管形成を促進することが望ましい疾患又は疾病、例えば、冠動脈性疾患、脳卒中又は潰瘍を治療するのに有用である。エキスは、また、創傷治癒を援助するのに有用である。更にまた、組織移植のために細胞外マトリックスにおいて操作又は再生した組織のように組織培養内の血管形成促進のためにエキスを使うことができる。
組織培養内で、エキスは、細胞外マトリックスにおいて操作又は再生した組織の不足を支えることができる血管の供給を促進することができる。
有利には、活性エキスは柑橘類果実の皮から得られ、それはしばしば市販の柑橘類果実処理の廃棄物である。更に、柑橘類果実の皮からエキスを得る方法は、簡単である。皮のエキスは、また、全果実のエキスより望ましくない不純物が少ないという利点がある。
本発明は、本発明の好ましい柑橘類果実としてグレープフルーツに関して詳述する。しかしながら、本発明は、グレープフルーツ、オレンジ、レモン、ライム、マンダリン、タンジェロ、タンジェリン及びウグリスを含むが、これらに限定されないあらゆる柑橘類果実に関することは理解されるべきである。
【0008】
血管形成についてのグレープフルーツ皮エキスの効果を求めるためにラット大動脈の血管形成の速度の定量的評価の生体外培養分析を用いた(実施例2)。グレープフルーツ皮エキスで処理した組織の大動脈リングに相対する微小血管成長面積により、対照と比較して、381%の新たな血管形成の増加が生じた。この結果から、血管形成を促進するグレープフルーツ皮エキスの有効性が示されることは明らかである。
創傷治癒についてグレープフルーツ皮エキスの効果を調べるために、ほぼ同一の円形切除創傷を負ったルイスラットの創傷回復速度(全創傷面積として測定した)を求めた。1つの創傷は試験創傷として使用し、その他は対照として使用した。グレープフルーツ皮エキスの投与量が10mg/mlと1mg/mlである2つの別々の実験を行った。
第1の実験については、10mg/mlの投与量で17日の試験期間にわたって一日おきに試験創傷にグレープフルーツ皮エキスを局所的に投与した(図1A〜図1I)。図1Aは、創傷を負った直後の試験創傷と対照創傷を示す写真である。図1B〜図1Iは、創傷後2日間隔で17日目まで(図1I)の同一の創傷を示す写真である。明らかに、試験創傷は、対照よりかなり急速に治癒した。
創傷回復の相対速度を定量化するために、各創傷の全創傷面積を測定した。経時の元の創傷面積の全パーセントとして、表1と図3にデータを示す。表1においては、試験創傷と対照創傷の全創傷面積の比率も示されている。各時点で、比率は1より小さいので、処理創傷は、対照創傷よりも急速に治癒しているということである。最初の5日間にわたって、創傷表面積の減少が著しく加速している(図3)。創傷治癒の血管由来の段階が主にこの期間で起こることに注目することは、重要である。
【0009】
表1
【0010】
第2の実験については、グレープフルーツ皮エキスを1mg/mlの投与量で局所的に投与した。図2Aは、創傷を負った直後の試験創傷と対照創傷を示すグラフである。図2B〜2Iは、17日目(図2I)まで創傷後2日間隔で同一の創傷を示す写真である。また、試験創傷は、対照よりかなり急速に治癒した。
第1の実験と同様に、対照と比較して1mg/mlのグレープフルーツ皮エキスで投与されたラットの全創傷面積(元の創傷面積のパーセントとして表される)の程度を表2と図4に示す。より低い濃度のときでさえ、グレープフルーツエキスは、全創傷回復率に非常に似た効果を及ぼす。
【0011】
表2
【0012】
柑橘類果実皮エキスがゲル、スプレー、クリーム又はローションの形で局所的に投与することができることは当業者によって理解される。エキスは、また、経口、腹腔内、静脈内又は治療すべき疾患又は疾病による他のあらゆる適切な方法で投与することができる。
エキスの投与量は、広く変動し、患者並びに治療すべき疾病の種類及び程度に左右される。
出願人は、柑橘類果実皮エキスが果皮から有利に調製され、しばしば市販の柑橘類果実処理の廃棄物であることを見出した。粉末にした後、果皮を70%水性溶媒、例えば、70%水性アセトンで抽出する。溶媒は除去され、精製はクロマトグラフィーによって容易に行われる。アルコール、例えば、メタノールで溶離すると、画分が得られ、それを濃縮し、水に溶解し、次に凍結乾燥して望ましいエキスを得ることができる。
本発明を、以下の実施例によって更に記載する。しかしながら、本発明がこれらの実施例に限定されないことは理解すべきである。
【実施例】
【0013】
実施例1: 抽出手順
柑橘類果実から剥いた皮を、電気ブレンダにおいて粉末にし、この物質に5容積の70%水性アセトン(アセトン/水、7:3v/v)を添加した。この混合物を2時間撹拌し、次に周囲温度で一晩放置した。得られた混合物をナイロン布でろ過し、そのようにしながら果肉をしぼった。固形残留物を水性溶媒に再懸濁し、1時間撹拌し、次にろ過した。ろ液を合わせ、減圧下45℃で濃縮することによりアセトンを除去した。残留水性分を収集するために傾瀉し、非イオン性ポリスチレン樹脂のカラムで処理した。カラムを3容積の蒸留水で洗浄し、吸収物質をメタノールで溶離し、減圧下で濃縮した。残留物質を1容積の蒸留水で希釈し、凍結乾燥して、活性エキスを得た。
【0014】
実施例2: 血管形成分析
脂肪と血管周囲の線維組織を除去した後、ラット大動脈を約2mmの厚みのリングに切断した。トロンビンをMCDB 131媒体に溶解したフィブリノーゲン溶液に添加することによって調製したフィブリンゲル(0.4ml)栓子を、24ウェルの培養プレートのウェルにおいて形成した。大動脈リングを各ウェルの中央に置き、他のフィブリン栓子をかぶせた。各ゲルをMCDB 131媒体(1.5ml)で覆い、3%CO2/97%空気の雰囲気中37℃でインキュベートした。試験すべき試料を媒質に補助剤として添加した。各試料を3回の実験で分析した。
ほぼ5日後に、微小血管は、リングの周辺から成長して検出することができた。5〜14日間の規則的な間隔で、各ウェルの画像を倒立顕微鏡に取り付けたデジタルカメラを用いて記録した。各画像のリングの周辺と相対する微小血管成長面積を、各時点で測定した。成長率の平均値を求め、次に各試料の微小血管率を算出した。
【0015】
実施例3: 創傷治療
2つの円形の切除創傷を、肩のすぐ下に0.8cmの皮膚生検用パンチを用いて各ラットの背中につくった。1つの創傷を、中心線の両側に負った。試験物質の2つの投与量を調べた。各実験について、5匹の雄のルイスラットを用いた。生理食塩水に溶解したグレープフルーツ皮エキスのアリコート(25μl)を、一日おきに各動物の左の創傷に局所的に適用した。ラットの第1グループに対しては、濃度は10mg/mlであり、第2グループに対しては、1mg/mlであった。対照として使用するために、対側創傷には賦形剤を添加した。各一組の創傷の写真は、キヤノンEOS 3000 Nカメラ(F2.8 マクロレンズ)と富士プロフェッショナル400NPHフィルムを用いて各添加の前に撮影した。各露光プリントはデジタル的に記録され、各創傷面積はNIH Image 1.63ソフトウェアを用いてこれらの画像から算出された。結果は、図1及び図2で見ることができる。
本発明を一例として記載してきたが、特許請求の範囲から逸脱することなく変更及び修正がなされてもよいことは理解すべきである。更に、既知の均等物が個々の特徴に存在する場合、このような均等物は、明細書において詳しく言及されるかのように含まれる。
【0016】
工業上の利用性
本発明は、血管形成の促進を可能にする。このことにより、創傷治癒、及び冠動脈性疾患、脳卒中、潰瘍を含む種々の疾患又は疾病の治療の促進に対する適用性がある。本発明に用いられる柑橘類果実皮エキスを得る方法は、柑橘類果実の皮を水性溶媒で抽出すること、及びろ液を精製し、その後、溶媒を除去して、エキスを得ることを含む。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1A】17日間のルイスラットの背中に負った2つのほぼ同一の円形の切除創傷を比較する写真である。左の創傷は、一日おきに、25μlのグレープフルーツ皮エキス(10mg/ml)で治療した。
【図1B】17日間のルイスラットの背中に負った2つのほぼ同一の円形切除創傷を比較する写真である。左の創傷は、一日おきに、25μlのグレープフルーツ皮エキス(10mg/ml)で治療した。
【図1C】17日間のルイスラットの背中に負った2つのほぼ同一の円形の切除創傷を比較する写真である。左の創傷は、一日おきに、25μlのグレープフルーツ皮エキス(10mg/ml)で治療した。
【図1D】17日間のルイスラットの背中に負った2つのほぼ同一の円形の切除創傷を比較する写真である。左の創傷は、一日おきに、25μlのグレープフルーツ皮エキス(10mg/ml)で治療した。
【図1E】17日間のルイスラットの背中に負った2つのほぼ同一の円形の切除創傷を比較する写真である。左の創傷は、一日おきに、25μlのグレープフルーツ皮エキス(10mg/ml)で治療した。
【図1F】17日間のルイスラットの背中に負った2つのほぼ同一の円形の切除創傷を比較する写真である。左の創傷は、一日おきに、25μlのグレープフルーツ皮エキス(10mg/ml)で治療した。
【図1G】17日間のルイスラットの背中に負った2つのほぼ同一の円形の切除創傷を比較する写真である。左の創傷は、一日おきに、25μlのグレープフルーツ皮エキス(10mg/ml)で治療した。
【図1H】17日間のルイスラットの背中に負った2つのほぼ同一の円形の切除創傷を比較する写真である。左の創傷は、一日おきに、25μlのグレープフルーツ皮エキス(10mg/ml)で治療した。
【図1I】17日間のルイスラットの背中に負った2つのほぼ同一の円形の切除創傷を比較する写真である。左の創傷は、一日おきに、25μlのグレープフルーツ皮エキス(10mg/ml)で治療した。
【図2A】17日間のルイスラットの背中に負った2つのほぼ同一の円形切除創傷を比較する写真である。今回、左の創傷は、一日おきに、25μlのグレープフルーツ皮エキス(1mg/ml)で治療した。
【図2B】17日間のルイスラットの背中に負った2つのほぼ同一の円形切除創傷を比較する写真である。今回、左の創傷は、一日おきに、25μlのグレープフルーツ皮エキス(1mg/ml)で治療した。
【図2C】17日間のルイスラットの背中に負った2つのほぼ同一の円形切除創傷を比較する写真である。今回、左の創傷は、一日おきに、25μlのグレープフルーツ皮エキス(1mg/ml)で治療した。
【図2D】17日間のルイスラットの背中に負った2つのほぼ同一の円形切除創傷を比較する写真である。今回、左の創傷は、一日おきに、25μlのグレープフルーツ皮エキス(1mg/ml)で治療した。
【図2E】17日間のルイスラットの背中に負った2つのほぼ同一の円形切除創傷を比較する写真である。今回、左の創傷は、一日おきに、25μlのグレープフルーツ皮エキス(1mg/ml)で治療した。
【図2F】17日間のルイスラットの背中に負った2つのほぼ同一の円形切除創傷を比較する写真である。今回、左の創傷は、一日おきに、25μlのグレープフルーツ皮エキス(1mg/ml)で治療した。
【図2G】17日間のルイスラットの背中に負った2つのほぼ同一の円形切除創傷を比較する写真である。今回、左の創傷は、一日おきに、25μlのグレープフルーツ皮エキス(1mg/ml)で治療した。
【図2H】17日間のルイスラットの背中に負った2つのほぼ同一の円形切除創傷を比較する写真である。今回、左の創傷は、一日おきに、25μlのグレープフルーツ皮エキス(1mg/ml)で治療した。
【図2I】17日間のルイスラットの背中に負った2つのほぼ同一の円形切除創傷を比較する写真である。今回、左の創傷は、一日おきに、25μlのグレープフルーツ皮エキス(1mg/ml)で治療した。
【図3】創傷後の時間の関数として、治療した創傷と治療していない創傷の平均創傷サイズを比較するグラフである。治療した創傷は、一日おきに、25μlのグレープフルーツ皮エキス(10mg/ml)を投与された。比較は、もとの創傷面積のパーセントとして表される。各点についてn=5である。
【図4】創傷後の時間の関数として、治療した創傷と治療していない創傷の平均創傷サイズを比較するグラフである。治療した創傷は、一日おきに、25μlのグレープフルーツ皮エキス(1mg/ml)を投与された。比較は、もとの創傷面積のパーセントとして表される。各点についてn=5である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
血管形成を促進するか、又は血管形成を促進することが望ましい疾患又は疾病を治療する方法であって、柑橘類果実の皮のエキスの治療的に有効な量をヒト又は非ヒト動物に投与することを含む前記方法。
【請求項2】
疾患又は疾病が、筋虚血、脳卒中、又は潰瘍である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
筋虚血が、骨格筋虚血であるか又は冠動脈性疾患によるものである、請求項2記載の方法。
【請求項4】
血管形成の促進が創傷治癒を援助することである、請求項1記載の方法。
【請求項5】
血管形成の促進が、組織培養内で操作された又は再生された組織におけるものである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
柑橘類果実が、グレープフルーツ、オレンジ、レモン、ライム、マンダリン、タンジェロ、タンジェリン、又はウグリスである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
柑橘類果実がグレープフルーツ(シトラス・パラディッシ)である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
エキスが、経口、腹腔内、静脈内、皮下又は筋肉内で投与される、請求項1〜4のいずれか1項、請求項6又は7記載の方法。
【請求項9】
外傷の治療のために、エキスがゲル、スプレー、クリーム又はローションの形で局所的に投与される、請求項1〜4のいずれか1項、請求項6、7又は8記載の方法。
【請求項10】
血管形成を促進するか、又は血管形成を促進することが望ましい疾患又は疾病を治療するための薬剤の製造における柑橘類果実の皮のエキスの治療的に有効な量の使用。
【請求項11】
疾患又は疾病が筋虚血、脳卒中、又は潰瘍である、請求項10記載の使用。
【請求項12】
筋虚血が、骨格筋虚血であるか又は冠動脈性疾患によるものである、請求項11記載の使用。
【請求項13】
血管形成の促進が、創傷治癒を援助することである、請求項10記載の使用。
【請求項14】
血管形成を促進するか、又は血管形成を促進することが望ましい疾患又は疾病を治療する際の使用に適した柑橘類果実の皮のエキスを含む組成物。
【請求項15】
柑橘類果実の皮のエキスの調製方法であって:
(a) 柑橘類果実の皮をホモジナイズし、得られたホモジネートに約5容積の水性溶媒を添加する工程;
(b) 工程(a)で得られた混合物を撹拌する工程;
(c) 工程(b)で得られた混合物をろ過してろ液を得る工程;
(d) 減圧下約45℃でろ液を濃縮する工程;
(e) 濃縮されたろ液をクロマトグラフィー精製に供する工程であって、水で溶離した後、アルコールによる溶離によって得られた画分が得られる、前記工程; 及び
(f) アルコール画分を減圧下約45℃で濃縮してエキスを得る工程
による、前記方法。
【請求項16】
混合物の撹拌とろ過の工程が皮からの抽出を最大にするために繰り返される、請求項15記載の方法。
【請求項17】
濃縮したろ液のクロマトグラフィー精製が、濃縮したろ液を非イオン性樹脂クロマトグラフィー媒体に吸着させ、最初に水で溶離して望ましくない物質を除去し、次にアルコールで溶離してエキスを含む画分を得る、請求項15又は請求項16記載の方法。
【請求項18】
工程(a)の水性溶媒に用いられる溶媒が、メタノール、エタノール、プロパノール及びアセトンからなる群より選ばれる、請求項15〜17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
工程(a)の水性溶媒に用いられる溶媒が70%水性アセトンである、請求項15〜18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
工程(e)に用いられる非イオン性樹脂がポリスチレンである、請求項15〜19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
吸着した画分が、メタノールを用いて工程(f)のカラムから溶離する、請求項15〜20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項1】
血管形成を促進するか、又は血管形成を促進することが望ましい疾患又は疾病を治療する方法であって、柑橘類果実の皮のエキスの治療的に有効な量をヒト又は非ヒト動物に投与することを含む前記方法。
【請求項2】
疾患又は疾病が、筋虚血、脳卒中、又は潰瘍である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
筋虚血が、骨格筋虚血であるか又は冠動脈性疾患によるものである、請求項2記載の方法。
【請求項4】
血管形成の促進が創傷治癒を援助することである、請求項1記載の方法。
【請求項5】
血管形成の促進が、組織培養内で操作された又は再生された組織におけるものである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
柑橘類果実が、グレープフルーツ、オレンジ、レモン、ライム、マンダリン、タンジェロ、タンジェリン、又はウグリスである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
柑橘類果実がグレープフルーツ(シトラス・パラディッシ)である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
エキスが、経口、腹腔内、静脈内、皮下又は筋肉内で投与される、請求項1〜4のいずれか1項、請求項6又は7記載の方法。
【請求項9】
外傷の治療のために、エキスがゲル、スプレー、クリーム又はローションの形で局所的に投与される、請求項1〜4のいずれか1項、請求項6、7又は8記載の方法。
【請求項10】
血管形成を促進するか、又は血管形成を促進することが望ましい疾患又は疾病を治療するための薬剤の製造における柑橘類果実の皮のエキスの治療的に有効な量の使用。
【請求項11】
疾患又は疾病が筋虚血、脳卒中、又は潰瘍である、請求項10記載の使用。
【請求項12】
筋虚血が、骨格筋虚血であるか又は冠動脈性疾患によるものである、請求項11記載の使用。
【請求項13】
血管形成の促進が、創傷治癒を援助することである、請求項10記載の使用。
【請求項14】
血管形成を促進するか、又は血管形成を促進することが望ましい疾患又は疾病を治療する際の使用に適した柑橘類果実の皮のエキスを含む組成物。
【請求項15】
柑橘類果実の皮のエキスの調製方法であって:
(a) 柑橘類果実の皮をホモジナイズし、得られたホモジネートに約5容積の水性溶媒を添加する工程;
(b) 工程(a)で得られた混合物を撹拌する工程;
(c) 工程(b)で得られた混合物をろ過してろ液を得る工程;
(d) 減圧下約45℃でろ液を濃縮する工程;
(e) 濃縮されたろ液をクロマトグラフィー精製に供する工程であって、水で溶離した後、アルコールによる溶離によって得られた画分が得られる、前記工程; 及び
(f) アルコール画分を減圧下約45℃で濃縮してエキスを得る工程
による、前記方法。
【請求項16】
混合物の撹拌とろ過の工程が皮からの抽出を最大にするために繰り返される、請求項15記載の方法。
【請求項17】
濃縮したろ液のクロマトグラフィー精製が、濃縮したろ液を非イオン性樹脂クロマトグラフィー媒体に吸着させ、最初に水で溶離して望ましくない物質を除去し、次にアルコールで溶離してエキスを含む画分を得る、請求項15又は請求項16記載の方法。
【請求項18】
工程(a)の水性溶媒に用いられる溶媒が、メタノール、エタノール、プロパノール及びアセトンからなる群より選ばれる、請求項15〜17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
工程(a)の水性溶媒に用いられる溶媒が70%水性アセトンである、請求項15〜18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
工程(e)に用いられる非イオン性樹脂がポリスチレンである、請求項15〜19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
吸着した画分が、メタノールを用いて工程(f)のカラムから溶離する、請求項15〜20のいずれか1項に記載の方法。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図1E】
【図1F】
【図1G】
【図1H】
【図1I】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図2E】
【図2F】
【図2G】
【図2H】
【図2I】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図1E】
【図1F】
【図1G】
【図1H】
【図1I】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図2E】
【図2F】
【図2G】
【図2H】
【図2I】
【公表番号】特表2007−535534(P2007−535534A)
【公表日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−510645(P2007−510645)
【出願日】平成17年4月29日(2005.4.29)
【国際出願番号】PCT/NZ2005/000084
【国際公開番号】WO2005/105127
【国際公開日】平成17年11月10日(2005.11.10)
【出願人】(506364927)インダストリアル リサーチ リミテッド (12)
【出願人】(506363908)オタゴ イノヴェイション リミテッド (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年4月29日(2005.4.29)
【国際出願番号】PCT/NZ2005/000084
【国際公開番号】WO2005/105127
【国際公開日】平成17年11月10日(2005.11.10)
【出願人】(506364927)インダストリアル リサーチ リミテッド (12)
【出願人】(506363908)オタゴ イノヴェイション リミテッド (1)
【Fターム(参考)】
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