説明

血管撮影装置及びそれを用いた穿刺誘導装置

【課題】採血時等において注射針の穿刺の対象とすべき血管を自動に選択できる血管撮影装置を提供する。
【解決手段】この発明の血管撮影装置はプローブ1と制御部200とを有し、プローブ1は血管軸方向の第1の断面像を撮影する第1の撮影部110、第1の断面像と直交する第2の断面像を撮影する第2の撮影部120、を備えてなるプローブ本体10、及びプローブ本体10と被検体との間に流動性かつ保形性のある音響媒体を充填する空間7を形成するスペーサ5を備え、制御部200は第1の断面像から血管の縦断面像を抽出する第1の抽出部233、第2の断面像から血管の横断面像を抽出する第2の抽出部243、及び第1の断面像において実質的な均等幅を有する血管の縦断面像が所定の長さ以上あり、かつ第1の断面像が血管の横断面像においてその最大径部分を縦断するものであるとき、制御信号を出力する判定部250を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は血管撮影装置及びそれを用いた穿刺誘導装置に関する。この血管撮影装置はヒトの上腕の静動脈の断層画像を得るのに好適に使用される。
【背景技術】
【0002】
透析患者のシャントやその他ヒトの上腕肘付近の静動脈、下肢の静動脈または鎖骨下大静脈の診断に超音波診断装置を利用することが提案されている。
超音波診断装置による診断では、一般的に、そのプローブが被検体へ強く押し当てられる。特に、体表近くに存在するヒトの腕の静脈は、体表へ強く押し当てられたプローブにより変形し易いので、正確な診断を行なうことができない。
【0003】
そこで、音響媒体として水等を充填した水袋の挿通孔へ腕を挿通して、水袋内に配置されたプローブを腕から離し、腕とプローブとの間に水が存在する状態でプローブから超音波の送受波を行なうようにした超音波診断装置が提案されている(特許文献1参照)。かかる超音波診断装置によれば、腕にプローブが強く押し当てられないので、静脈の変形を抑制してその診断を正確に行なうことができる。
また、本件に関連する先行文献として特許文献2〜特許文献6を参照されたい。
【0004】
【特許文献1】特開2002―238898号公報
【特許文献2】実願昭55−187963号(実開昭57−113111号)のマイクロフィルム
【特許文献3】特開昭62−179442号公報
【特許文献4】特開昭63−147446号公報
【特許文献5】特開平10−216146号公報
【特許文献6】特開平11−318821号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示の装置では、水袋の準備はもとより、この水袋の内部にプローブが配設されるので、プローブに防水処理が必要となる。また、プローブの位置を調節する機構も要求される。
したがって、プローブ及びプローブ周りの構成が複雑、かつ大型化となり、操作性及び生産コストの点に課題が生じる。
また、採血時等において、ターゲットとなる適切な血管(静脈)を選択することが患者の負担を軽減するうえで重要であるが、当該血管の選択は術者の技量に依存している。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで本発明者は、血管の断面像を利用して適切な血管を自動的に選択する手法について鋭意検討を重ねてきた。
血管の状態(太さ、方向等)はヒトにより千差万別であるので、血管の状態を探りながら断層撮影することとなるが、そのとき、静脈の変形を避けなければならない。また、穿刺に適した血管の存在を術者へリアルタイムに知らせる必要がある。
【0007】
この発明の第1の局面はかかる課題を解決するためになされた。即ち、
超音波の送受波を行うプローブ本体であって、血管軸方向の第1の断面像を撮影する第1の撮影部、前記第1の断面像と直交する第2の断面像を撮影する第2の撮影部、を備えてなるプローブ本体、及び
前記プローブ本体と被検体との間に流動性かつ保形性のある音響媒体を充填する空間を形成するスペーサを備えてなるプローブと、
前記第1の断面像から前記血管の縦断面像を抽出する第1の抽出部、
前記第2の断面像から前記血管の横断面像を抽出する第2の抽出部、及び
前記第1の断面像において実質的な均等幅を有する前記血管の縦断面像が所定の長さ以上あり、かつ前記第1の断面像が前記血管の横断面像においてその最大径部分を縦断するものであるとき、制御信号を出力する判定部、を備える制御部と、
を有することを特徴とする血管撮影装置。
【0008】
このように構成された血管撮影装置によれば、第1の断層像と第2の断層像とをそれぞれ画像処理することにより穿刺に適した血管を特定可能となり、当該血管が第1の断層像と第2の断層像とで捕らえられたとき、制御信号が出力される。この制御信号に基づき、術者は穿刺に適した血管の存在をリアルタイムで把握できる。
【0009】
上記において、プローブ本体と被検体の体表との間にゲルなどの流動性かつ保形性のある音響媒体を厚めに存在させることにより、プローブ本体を体表へ強く押し当てなくても腕の組織(静脈を含む)の診断ができる。
スペーサはプローブ本体が直接被検体へ触れないように、プローブ本体と被検体との間に介在され、プローブ本体直下に空間を形成するものである。実施例では、プローブ本体の両端から一体的に突出させてブリッジ形状とし、両持ちはり的にプローブ本体を支持している。勿論、プローブ本体の一辺のみにスペーサを形成して片持ちはり的にプローブ本体を支持することもできる。
スペーサをプローブ本体から分離する形態のものとすることもできる。
【0010】
このスペーサにより形成される空間にはゲル等の流動性と保形性とを備えた音響媒体が隙間無く充填される。空間の高さ(即ち、被検体からプローブ本体までの距離)によりゲルの厚さが規定される。本発明者の検討によれば、ヒトの上腕の静脈やシャントを診断する場合、空間の高さは3〜6mmとすることが好ましい。空間の高さが3mm未満であると、血管の性状の把握は可能であるが、針穿刺などの処理を行うスペースが失われる。空間の高さが6mmを超えると、大量のゲルを空間に充填することとなり、診断後のゲル処理などの取扱いが不便になる。
空間に充填された音響媒体は空間への充填が容易である(流動性)とともに空間内に留まりこれから漏出しないこと(保形性)が要求される。カンテン等のゲルの外に粘性の高い水溶液等を使用することができる。
なお、音響媒体の特性如何によっては、ゲルの漏れを確実に防ぎ、かつ被検体を圧迫しないためには、筐体において被検体と接触しない部分に極めて延性にとんだ物質、例えばゴムの膜を張ることも有効である。
【0011】
第1の撮影部及び第2の撮影部にはそれぞれリニアスキャンタイプの超音波送信・受信装置を選択できる。
プローブ本体において第1の撮影部のスキャン方向と第2の撮影部のスキャン方向とは相互に直交している。より好ましくは第1の撮影部によるスキャン面を第2の撮影部のスキャン面のほぼ中央で交差させる。換言すれば、第1の撮影部のスキャン素子と第2の撮影部のスキャン素子とがT字型に配置されることが好ましい。
【0012】
第1の撮影部により撮影される第1の断面像には血管の縦断面像が含まれる。この血管の縦断面像を第1の断面像から抽出するには、例えば、第1の断面像における血管部と肉部との輝度の違いを利用する。即ち、予め定められた血管部の輝度に対応する部分(ピクセル)を第1の断面像から抽出し、血管部(血管縦断面像)の外郭形状を規定する。
ここに、血管部の幅が一定である部分の長さを計測する。血管部の幅が一定であることは、第1の断面像が直線形状の血管の軸に沿っていることを意味する。他方、血管部の幅が変化していると、第1の断面像の撮影方向(即ち、第1の撮影部のスキャン面)が血管の軸に沿っていないこととなる。
本発明者の検討によれば、穿刺には、約1cmの直線状態にある血管が必要で、血管縦断面像においては1cm以上の幅部分の存在が必要で、幅が広いほど静脈等の血管の部位の判定は容易である。
【0013】
血管縦断面像において均等幅部分が認められたとしても、第1の断面像(すなわち第1のスキャン面)が血管の最大径部分を撮影したものか否かが不明である。そこで、第2の撮影部により血管の横断面像を撮影し、血管縦断面像が血管の最大径部分の断面像であるか否かを判断する。
第2の撮影部により撮影される第2の断面像には血管の横断面像が含まれる。この血管の横断面像を第2の断面像から抽出するには、例えば、第1の断面像における血管部と肉部との輝度の違いを利用する。即ち、予め定められた血管部の輝度に対応する部分(ピクセル)を第2の断面像から抽出し、血管部(血管横断面像)の外郭形状を規定する。
このようにして規定された血管の横断面像において縦方向の径の変化の割合(微分値)が所定の値以下となる部分を最大径部分とする。
この最大径部分に第1の撮影部のスキャン面が一致したとき、第1の断面像上の血管縦断面像は血管の最大径部分を表示したものとなる。
【0014】
この発明の第2の局面は次のように規定される。即ち、
第1の局面の血管撮影装置において、前記第1の断面像と前記第2の断面像とを同時に表示する表示部が更に備えられる。
このように規定される第2の局面の血管撮影装置によれば、術者は第1の断層像及び第2の断層像に基づき、目視によっても穿刺に適した血管を特定できる。
【0015】
この発明の第3の局面は次のように規定される。即ち、
第2の局面の血管撮影装置において、前記制御信号が出力されたとき前記表示部において前記第1の断面像の血管縦断面像と前記第2の断面像の血管横断面像とが点滅、変色、輝度変化などにより特徴付けられる。
このように規定される第3の局面の血管撮影装置によれば、表示装置において穿刺に適した血管が点滅、変色、輝度変化などによって特徴付けられるので、目視による確認がより正確となる。
【0016】
この発明の第4の局面では、第1〜第3の局面で規定される血管撮影装置により特定された血管に対して穿刺を正確に行うための穿刺補助装置を提供することを目的とする。即ち、
第1〜第3の局面で規定される血管撮影装置と、
該血管撮影装置から出力された制御信号を受けて、前記第1の断面像の属する平面と前記第2の断面像の属する平面とが交差する部分を通過し、かつ前記第1の断面像に沿った穿刺誘導光を照射する誘導光照射装置と、を備えることを特徴とする穿刺補助装置。
穿刺誘導光は、更に被検体の皮膚表面において、前記第1の断面像の属する平面と前記第2の断面像の属する平面とが交差する部分へ照射されることが好ましい。当該照射点の直下から血管は第1の断面像の属する平面内(即ち穿刺誘導光の照射方向)において直線状態を維持しており、当該穿刺誘導光の照射点が穿刺位置として好ましいからである。
【0017】
更には、プローブ本体の筐体の外枠(注射の差込方向上側)に穿刺指示部を設け、この穿刺指示部を第1の断面像の属する平面内に位置させる。この穿刺指示部に沿って注射針をプローブの空間へ差し込み、既述した穿刺誘導光の照射点から被検体内へ挿入すれば、注射針は常に第1の断面像の属する平面内にある。換言すれば、注射針は血管に対し、その軸方向へかつ血管の最大径部分へ誘導される。穿刺指示部は、術者が視認できるようにプローブ本体の筐体の外枠に形成されておればよく、マークや凹凸を用いることができる。
特に筐体に凹部を設けてこれを穿刺のガイドとすると、注射針の穿刺位置がより安定する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1にこの発明の実施例のプローブ1の正面図を示す。同じく図2は側面図、図3は斜視図である。
実施例のプローブ1は、正面視ブリッジ状の筐体3内にプローブ本体10を内蔵させた構成である。
筐体3は両縁に突出部5,5を設け、この突出部5,5が被検体Hであるヒトの腕に当接し、被検体Hとプローブ本体10との間に空間7が形成される。この空間7に音響媒体としての無菌ゲル若しくは滅菌ゲルが隙間無く充填される。図中の符号9は把持部である。
筐体3の上縁の中央には凹部8が設けられている。この凹部8は当該上縁中央に収束している。参照番号6及び参照番号8は第1の撮影像の属する平面位置を示すマーク及び凹部であり、その結果として穿刺指示部となる。
スペーサとしての突出部5の間隔は、ヒトの上腕の静脈の幅より充分に幅広(約3倍以上)であり、突出部5による圧迫が静脈に影響しないようにする。
【0019】
プローブ本体10にはリニアタイプを用いることができる。この実施例では、図4に示すとおり、2つのユニット110、120をその振動子の配列方向が相互に直交するように、ほぼT字に配列している。図中右側の第1のユニット110(第1の撮影部)からは腕の縦方向に超音波がスキャンされ、腕の縦断面像(第1の断面像)が形成される。図中左側の第2のユニット120(第2の撮影部)からは腕の横方向に超音波がスキャンされ、腕の横断面像(第2の断面像)が形成される。図中において符号111は基台、符号113は振動子、符号115は整合層、符号117は音響レンズである。
【0020】
この実施例のプローブ本体10では、第1のユニット110の一端が第2のユニット120のほぼ中央に突き当たる構成としている。これにより、第1のユニット110で形成される第1の断面像が第2のユニット120で形成される第2の断面像の中央部分に対応する。換言すれば、第1の断面像の左端側に表示される部分は第2の断面像の中央部分(縦方向)に対応する。
このプローブ本体10は音響レンズ117を下方に向けて筐体3に配置され、その音響レンズ117は筐体3の内面から表出している。
【0021】
筐体3にはゲル注入チューブ13とゲル排出チューブ15とが連結されている。符号17のプローブコードにはプローブ本体10を制御するための制御線、電源線その他のコードが収められている。
図5に示すように、ゲル注入チューブ13は、超音波診断装置20のゲル供給タンク21に連結され、ゲル排出チューブ15はゲル回収タンク22に連結される。プローブコード17は超音波診断装置20の制御部25に連結されている。
【0022】
筐体3の内面には発光部30が形成され(図2参照)、図3に示すように、空間7内へ穿刺誘導光として光ビーム31を照射する。この光ビーム31はプローブ本体10において第1のユニット110の振動子群の配列方向に沿っている。これにより、光ビーム31は第1のユニット110が形成する第1の断面像に沿ったものとなる。即ち第1の断面像が含まれる平面内に照射されて、当該平面内を走行する。更には、光ビーム31は一対の突出部5、5の下縁を結んだ下層平面内において、第1の断面像が含まれる平面と第2の断面像が含まれる平面との交差部分に照射される(照射点32)。換言すれば、第1の断面像の属する平面、第2の断面像の属する平面及び被検体の体表との交点(照射点32)へ光ビーム31照射される。
筐体3の中央の印(▼)及び凹部8の収束部分(穿刺指示部)も第1の断面像が含まれる平面内に位置する。
【0023】
従って、光ビーム31の照射点32と穿刺指示部6,8とは同一平面上に位置し、この平面に第1の断面像も属している。よって、図3に示すように、穿刺指示部6,8と照射点32を通るように注射針を穿刺すれば、注射針は血管軸方向に沿って穿刺されることとなる。
なお、光ビーム31が、照射点32へ正確に照射されておれば、当該照射点32と穿刺指示部6,8との位置関係から注射針の穿刺方向が規定されるので、光ビーム31自体は第1の断面像の属する平面内を走行する必要はない。しかしながら、穿刺時のガイドの役目に鑑みれば、光ビーム31の走行方向は第1の断面像の属する平面内にあることが好ましい。
複数本の光ビームを第1の断面像の属する平面内で走行させることにより、穿刺方向をガイドすることもできる。
【0024】
この実施例のようにマーカ6で示す位置で凹部8を収束させることにより、注射針の位置を正確に決めることができる。
ヒトの上腕のように観察対象表面が湾曲している場合、突出部5,5間の中央(筐体3の上縁中央部分)に上方へ凹んだ凹部を設けることにより、観察対象とプローブとの間へ確実に空間を形成することができる。これにより、筐体3の空間へより簡易かつ確実に注射針を穿刺することができる。
【0025】
図6に実施例の血管撮影装置の制御部200の構成を示す。当該制御部200の動作を図7のフローチャートに示している。
制御部200はプローブ本体10の動作を制御するとともに、プローブ本体10で得られた音響信号に基づき断面像を形成するとともに、得られた断面像を処理する。
ステップ11では、制御部200において第1の撮影部用ドライバ210がプローブ本体10の第1のユニット110を制御して超音波を腕の軸方向(即ち血管の軸方向)へスキャンする。被検体から反射された超音波は第1のユニット110で受波されて第1の画像処理部230の断面像形成部231へ送られる。断面像形成部231は汎用的な手法により断面像(第1の断面像)を形成する。
ステップ12では、第1の断層像がモニタ装置280の第1の断層像表示部281に表示される。
【0026】
ステップ13では、血管抽出部233が第1の断面像から血管部分を抽出してその外郭を規定する。図8−Aからわかるように、肉部に比べて血管部分は暗くなるので、第1の断層像において(更に必要に応じて線形補完等の方法で第1の断層像の各画素の輝度を補正して)所定の輝度より小さい画素を抽出する。抽出された画素において縁にある画素を繋いで血管の縦断面像の外郭を規定する。
ステップ15において、均等幅部分特定部235は、外郭の規定された血管縦断面像の幅を血管の軸方向(第1の断面像では左右方向)にスキャンして、その幅が実質的に均等な部分の長さを特定する。血管縦断面像の幅が一定であると、第1の断面像の形成方向において血管が直線状態にあることを意味している。この実施例では、幅の計測開始点を基準として5%までの幅の違いは測定誤差とし、幅の変化が5%を超えた部分から均等幅部分ではないと判断している。
【0027】
上記ステップ11〜ステップ15までの処理と平行して下記の処理がなされる。
ステップ21では、制御部200において第2の撮影部用ドライバ220はプローブ本体10の第2のユニット120を制御して超音波を腕の軸方向(即ち血管の軸方向)へスキャンする。被検体から反射された超音波は第2のユニット120で受波されて第2の画像処理部240の断面像形成部241へ送られる。断面像形成部241は汎用的な手法により断面像(第2の断面像)を形成する。
ステップ12では、第2の断層像がモニタ装置280の第2の断層像表示部283に表示される。
【0028】
ステップ23では血管抽出部243が第2の断面像から血管部分を抽出してその外郭を規定する。図8−Bからわかるように、肉部に比べて血管部分は暗くなるので、第2の断層像において(更に必要に応じて線形補完等の方法で第2の断層像の各画素の輝度を補正して)所定の輝度より小さい画素を抽出する。抽出された画素において縁にある画素を繋いで血管の横断面像の外郭を規定する。
ステップ25において、最大径部分特定部245は、外郭の規定された血管横断面像において縦方向において最大径部分を特定する。血管横断面像において最大径部分では縦方向の径の変化率がゼロとなる。血管には多少の変形があるので、この実施例では、変化率がゼロとなった部分に左右2mmの幅をもたせて、この部分を最大径部分とした。
勿論、血管横断面像において縦方向の径の変化の割合(微分値)が所定の値以下となる部分を最大径部分とすることもできる。更には、血管横断面像の接線の傾きから最大径部分を特定することもできる。
【0029】
被検体に対して任意な方向にプローブ1は当て付けられるので、当初からプローブ本体10の第1のユニット110が血管の軸方向を向いているわけではない。従って、ステップ16では、血管縦断面像において均等幅部分が所定長さ(例えば1cm)以上とならない場合は、プローブ本体10の第1のユニット110が血管の軸方向へ向いていないので、ステップ11へ戻る。
ステップ26では、第2のユニット120が形成した第2の断面像における第1の断面像の縦断位置をチェックし、第1の断面像が血管横断面像の最大径部分を縦断しているか否かをチェックする。
穿刺は血管の最大径部に対して行うことが望ましいからである。
【0030】
図9には、第1の断面像表示部281と第2の断面像表示部283の表示態様を模式的に示している。
第2の断面像表示部283において、▼(第1の断面位置指示部)が第1の断面像281の縦断位置を示している。図の実線で示すように、第1の断面像の縦断位置が血管横断面像285Aの大径部分と一致するとき、第1の断面像には、太い幅の血管縦断面像286Aとして現れる。他方、図の破線で示すように、第1の断面像の縦断位置が血管横断面像285Bの大径部分から外れていると、第1の断面像には、細い幅の血管縦断面像286Bが現れる。この状態で、▼の位置に注射針を穿刺することは好ましくない。
【0031】
判定部250が、第1の画像処理部230の均等幅部分特定部235の出力と第2の画像処理部240の最大径部分特定部245の出力とを比較する。ステップ30に示すとおり、両特定部235、245の条件を満足したときのみ、出力部260から制御信号が出力される。
即ち、第1の断面像において直線部分の血管を捕らえていたとしても、図9の点線で示すように、血管の最大径部分以外の断面像であれば、当該断面像に沿って穿刺を実行すると、血管の側面に注射針が穿刺されることとなるので好ましくない。他方、第1の断面像が血管横断面像においてその最大径部分を縦断するものであっても、十分な直線状態の部分が確保できなければ穿刺が困難となる。
従って、ステップ30では、ステップ16及びステップ26の結果がともにYESであった場合のみ出力部260から制御信号が出力される。
【0032】
この制御信号を受けて発光部30はレーザ光を出力する(ステップ31)。
発光部30から放出されるレーザ光(穿刺誘導光)は第1の断面像の属する平面と第2の断面像の属する平面とが交差する部分(図9の▼で示す部分)を通過し、かつ第1の断面像の属する平面にそって照射される。好ましくは患者の腕に向けて一般的に注射針を穿刺する角度(約30〜50度)で照射される。このレーザ光に沿って血管が伸びており、かつレーザ光の照射される部分が血管の最大径部分であるので、術者にこのレーザ光は注射針の穿刺方向を正しく誘導する。
注射針が血管に穿刺された状態を図10に示す。
【0033】
出力部260で生成された制御信号はモニタドライバ270にも送られる。制御信号を受け取ったモニタドライバ270は血管抽出部233、243の出力を参照して、モニタ装置280に表示されている第1の断面像281及び第2の断面像283において抽出された血管像を特徴付ける。例えば、血管像に対応する画素の輝度を周期的に変化させ、もって血管像を点滅表示させる。
【0034】
図11には他の実施例の超音波プローブ71を示す。この例において、前の実施例と同一の要素には同一の符号を付してその説明を省略する。
この実施例では筐体73と突出部75(スペーサ)とを別体とした。これにより、プローブ71の軽量化が可能となる。
更には、汎用の超音波プローブをプローブ本体として、これと所定高さのスペーサとを組み合わせることにより形成された空間へ無菌ゲルを充填すれば、ヒトの腕の静脈やシャントを何ら変形させることなくこれを診断可能となる。
かかる別体のスペーサにおいては、被検体に対するズレ防止のために被検体当接面へ粘着剤等を塗布することが好ましい。また、スペーサ71とプローブ本体73とのズレ防止のため、両者の間にマグネット等の移動防止手段を配設することが好ましい。
【0035】
以上の説明では、もっぱらヒトの上腕肘付近の静脈、動脈若しくはシャントを観察対象として説明してきたが、本発明のプローブが下肢表在の静動脈等の観察にも適用きでることは言うまでもない。
【0036】
以下、次の事項を開示する。
超音波の送受波を行うプローブ本体であって、少なくとも血管軸方向の第1の断面像を撮影する第1の撮影部、を備えてなるプローブ本体、
前記プローブ本体を収納する筐体であって、その外枠において前記第1の断面像の属する平面上に形成された穿刺指示部、及び
前記プローブ本体と被検体との間に流動性かつ保形性のある音響媒体を充填する空間を形成するスペーサ、を備えてなるプローブと、
前記第1の断層像を表示する表示部と、並びに
前記第1の断面像の属する平面内に穿刺誘導光を照射する誘導光照射装置と、
を備えてなる穿刺補助装置。
【0037】
このように構成されたこの発明の他の局面によれば、穿刺支持部(第1の指標)と穿刺誘導光(第2の指標)とが第1の断面像の属する平面内に存在するので、これら2つの指標から注射針の穿刺方向が定まり、その方向は第1の断面像の属する平面内となる。ここで、表示部に表示された第1の断面像内に表示された血管が十分に太く、かつその幅が均等であれば、第1の断面像に写された部分においてその血管は直線状であり、かつ第1の断面像は血管の最大径部分の断面図を表示している。かかる血管の部分は穿刺に適している。
【0038】
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】図1はこの発明の実施例のプローブの正面図である。
【図2】図2は同じく側面図である。
【図3】図3は同じく斜視図である。
【図4】図4は実施例のプローブに適用されるプローブ本体の構成を示す図である。
【図5】図5は実施例の超音波診断装置の全体図である。
【図6】図6は実施例の血管撮影装置の構成をしめすブロック図である。
【図7】図7は実施例の血管撮影装置の動作を示すフローチャートである。
【図8】図8は断層画像を示し、図8−Aは血管縦断面像を含む第1の断面像を示し、図8−Bは血管横断面像を含む第2の断面像を示す。
【図9】図9は血管縦断面像と血管横断面像の関係を示す模式図である。
【図10】図10は注射針を血管に穿刺した状態を示す第1の断面像である。
【図11】図11は他の実施例の超音波プローブの構成を示す正面図である。
【符号の説明】
【0040】
1、51、71 超音波プローブ
10、60 プローブ本体
7 空間
5,55,56,75 スペーサ
13 無菌ゲル供給チューブ
15 無菌ゲル排出チューブ
31 光ビーム(穿刺誘導光)
200 制御部
280 モニタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波の送受波を行うプローブ本体であって、血管軸方向の第1の断面像を撮影する第1の撮影部、前記第1の断面像と直交する第2の断面像を撮影する第2の撮影部、を備えてなるプローブ本体、及び
前記プローブ本体と被検体との間に流動性かつ保形性のある音響媒体を充填する空間を形成するスペーサを備えてなるプローブと、
前記第1の断面像から前記血管の縦断面像を抽出する第1の抽出部、
前記第2の断面像から前記血管の横断面像を抽出する第2の抽出部、及び
前記第1の断面像において実質的な均等幅を有する前記血管の縦断面像が所定の長さ以上あり、かつ前記第1の断面像が前記血管の横断面像においてその最大径部分を縦断するものであるとき、制御信号を出力する判定部、を備える制御部と、
を有することを特徴とする血管撮影装置。
【請求項2】
前記第1の断面像と前記第2の断面像とを同時に表示する表示部が更に備えられる、ことを特徴とする請求項1に記載の血管撮影装置。
【請求項3】
前記制御信号が出力されたとき前記表示部において前記第1の断面像の血管縦断面像と前記第2の断面像の血管横断面像とが点滅、変色、輝度変化などにより特徴付けられる、ことを特徴とする請求項2に記載の血管撮像装置。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれかに記載の血管撮影装置と、
該血管撮影装置から出力された制御信号を受けて、前記第1の断面像の属する平面と前記第2の断面像の属する平面とが交差する部分を通過し、かつ前記第1の断面像の属する平面を通る穿刺誘導光を照射する誘導光照射装置と、を備えることを特徴とする穿刺補助装置。
【請求項5】
前記穿刺誘導光は前記第1の断面像の属する平面、前記第2の断面像の属する平面及び被検体の体表との交点を通過する、ことを特徴とする請求項4に記載の穿刺補助装置。
【請求項6】
前記プローブ本体の筐体の外枠に穿刺指示部が設けられ、該穿刺指示部は前記第1の断面像の属する平面上に位置する、ことを特徴とする請求項5に記載の穿刺補助装置。
【請求項7】
超音波の送受波を行うプローブ本体であって、少なくとも血管軸方向の第1の断面像を撮影する第1の撮影部、を備えてなるプローブ本体、
前記プローブ本体を収納する筐体であって、その外枠において前記第1の断面像の属する平面上に形成された穿刺指示部、及び
前記プローブ本体と被検体との間に流動性かつ保形性のある音響媒体を充填する空間を形成するスペーサ、を備えてなるプローブと、
前記第1の断層像を表示する表示部と、並びに
前記第1の断面像の属する平面内に穿刺誘導光を照射する誘導光照射装置と、
を備えてなる穿刺補助装置。
【請求項8】
前記プローブ本体は血管横断方向の第2の断面像を撮影する第2の撮影部を備え、前記表示は該第2の断面像を前記第1の断面像とともに表示する、ことを特徴とする請求項7に記載の穿刺補助装置。
【請求項9】
前記第1の断面像から前記血管の縦断面像を抽出する第1の抽出部、
前記第2の断面像から前記血管の横断面像を抽出する第2の抽出部、及び
前記第1の断面像において実質的な均等幅を有する前記血管の縦断面像が所定の長さ以上あり、かつ前記第1の断面像が前記血管の横断面像においてその最大径部分を縦断するものであるとき、制御信号を出力する判定部が更に備えられ、
前記制御信号に基づき、前記表示部は前記抽出された血管の縦断面像と前記抽出された血管の横断面像とを点滅、変色、輝度変化などにより特徴付けて表示する、ことを特徴とする請求項8に記載の穿刺補助装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−45427(P2009−45427A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−88255(P2008−88255)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000125381)学校法人藤田学園 (19)
【Fターム(参考)】