説明

血管新生を調節するための低分子量の高度に硫酸化された多糖誘導体の使用

本発明は、血管新生を調節するのに使用するための医薬組成物、特に、血栓事象における出血の危険性が低く血管内皮の修復を促進するのに使用するための医薬組成物の製造のための、細菌に由来する多糖から得られた特定の低分子量の高度に硫酸化された多糖誘導体の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管新生を調節するのに使用するための医薬組成物、特に、血栓事象における出血の危険性が低く血管内皮の修復を促進するために使用することができる医薬組成物の製造のための、細菌に由来する多糖から得られた特定の低分子量の高度に硫酸化された多糖誘導体の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ヘパリン(哺乳類の粘膜から抽出された硫酸化多糖)は、静脈血栓症の予防および治療において最も一般的に使用されている抗血栓剤である。しかしながら、ヘパリン治療においては、(その高い抗凝血活性が原因で)アレルギー反応または出血症の合併症などの副作用が生じる可能性がある。加えて、ヘパリンは、動脈血栓症の予防および治療においては、比較的に不活性であることが見出されている。ヘパリンの治療的使用が制限されるために、(出血の危険性を減少させるために)低い抗凝血活性を有し、動脈血栓症の治療に有効である、(従来に無い因子の伝播を避けるために)哺乳類以外に由来する新規の多糖類(例えば、フカン、フコシル化コンドロイチン硫酸、エキソポリサッカリド等)を提供することが重要である。
【0003】
その目的は、動脈血栓症、および、それによりもたらされる現象を予防および治療することである。具体的には、動脈病変が生じた場合に、内皮細胞のモノレイヤーの欠如が、血小板凝集をもたらし、その結果、血栓の形成をもたらしてしまう。この動脈血栓が、血管の内面を妨害し、下流に位置する組織の酸素供給を防ぎ、ネクローシスをもたらし得る。この危険に直面した場合、血管新生の刺激に由来する2つの細胞内事象である「血管内皮の修復を促進できること」および「対応する血管循環形成を刺激できること」が有用である。
【0004】
血管新生は、予め存在する血管ネットワークから新規の血管を形成する生理学的に調節された、複雑な工程である。病的状態(内皮細胞病変または低酸素状態)においては、塩基性繊維芽細胞増殖因子(FGF-2)または血管内皮増殖因子(VEGF)などの特定の血管新生因子の量が、血管周囲環境で非常に増加することが、以前から開示されている。具体的には、FGF-2は、血管内皮病変後に主に放出されるのに対して、VEGFは、主に、低酸素状態において細胞から合成される。これら2つの因子FGF-2およびVEGFは、内皮細胞に作用することによって、血管新生工程を誘発する。この工程は、血管新生の3つの主な工程(新血管を形成するための、内皮細胞の移動、増殖および分化)の刺激により影響を受ける(Folkman J., Nat. Med., 1995, 1, 27-31; Detillieux K.A. et al., Cardiovasc. Res., 2003, 57, 8-19; Heilmann C. et al., Cardiovasc. Surg., 2002, 10, 570-578; NcNeil P.L. et al., J. Cell Biol., 1989, 109, 811-822; Heba G. et al., J. Vasc. Res., 2001, 38, 288-300およびMarti H.H. and Risau W. Et al., Thromb. Haemost., 1999, 82 (Suppl. 1), 44-52)。
【0005】
以前の研究では、硫酸化多糖類(ヘパリンまたはフカン等)または非硫酸化多糖類(例えばヒアルロン酸等)が、実験条件に依存して、血管新生増殖因子によって誘導される血管新生を調節することができることが示された。これらの多糖類は、負に荷電した化学基(硫酸基およびカルボキシル基)が豊富であり、特定のマトリクスタンパク質(基底膜、細胞外マトリクス)、特定の凝固因子、および増殖因子(例えばFGF-2およびVEGF等)、ならびに、血管新生に関与していることが知られているタンパク質であるそれらの高親和性受容体を含む多くの正に荷電したタンパク質と相互作用することができる(Giraux J.L. et al., Eur. J. Cell Biol., 1998, 77, 352-359; Matou S. et al., Thromb. Res., 2002, 106, 213-221; Chabut D. Et al., Mol. Pharmacol., 2003, 64, 696-702; Luyt C.E. et al., J. Pharmacol. Exp. Ther., 2003, 305, 24-30)。これらの増殖因子は、ヘパリン-結合増殖因子(すなわちHBGF)のファミリーに属する。これらのポリアニオン可溶性多糖類は、血管新生因子と、内皮細胞の表面に存在する高親和性受容体(シグナル伝達を含む)または低親和性受容体(高親和性受容体のための補因子)との相互作用を調節することができる。それ故、これら多糖類は、幾つかの分子の高親和性受容体への結合を触媒し、高親和性受容体の重合化を増加させることによって、血管新生因子の効果を増強することができる。この受容体の重合化によって、シグナル伝達が誘発され、その結果、内皮細胞の移動、増殖および分化に関与する遺伝子の発現を刺激することができる。この場合において、硫酸化された多糖類は、膜結合性ヘパラン硫酸プロテオグリカン(低親和性部位)のように、補因子として作用する(Rusnati M. and Presta M. Int. J. Clin. Lab. Res., 1996, 26, 15-23; Soker S. et al., Biochem. Biophys. Res. Commun., 1994, 203, 1339-47)。逆に、硫酸化多糖類は、電荷競合により、ヘパラン硫酸プロテオグリカンへの血管新生因子の結合を妨げ、細胞内応答の誘導を妨害してしまう。
【0006】
GY785と呼ばれるエキソポリサッカリド(EPS)は、細菌Alteromonas infernusによって産生される多糖であり、特許出願FR 2 755 142およびRaguenes G. et al., J. Appl. Microbiol., 1997, 82, 422-30による論文に開示されている。EPS GY 785は、高い平均分子量を有する分子(すなわち、1×106g/molを超える分子)の不均一な集団からなっている。EPS GY 785は、高度には硫酸化されておらず(10重量%未満の硫酸含量);中性の単糖(グルコースおよびガラクトースが大部分)ならびに酸性単糖(グルクロン酸およびガラクツロン酸)からなり;如何なるアミノ酸または酢酸、乳酸、ピルビン酸およびコハク酸置換体を含まない;そのタンパク質含量は約4重量%である(Guezennec J., Ind. Microb. Biotech., 2002, 29, 204-208)。
【0007】
EPS GY 785は、治療において、天然型で使用することは困難である。その原因として、その高分子量およびサイズの不均一性が挙げられ、これらにより、可溶性が低くなり、活性な調製物を再現可能に特徴化して入手することが非常に困難になる。
【0008】
最近の研究により、本発明者らは、EPS GY 785の硫酸化からなる第1の工程、および、これに続く、酸加水分解またはフリーラジカル解重合による過剰に硫酸化されたEPS GY 785の解重合からなる第2の工程を含む、20または40重量%の硫酸含量を有する解重合された誘導体を得ることができる、低分子量の硫酸化誘導体を製造する方法を開発した(Guezennec J. et al., Carbohydr. Polym., 1998, 37, 19-24)。天然の生成物とは異なり、EPS GY 785の化学的な改変後に得られた誘導体は、抗凝血活性を有する(Colliec-Jouault S. et al., Biochim. Biophys. Acta 1528, 2001, 141-151)。
【0009】
本発明者らは、また、酢酸銅の存在下で過酸化水素の作用によって得られるフリーラジカル解重合が、一回の工程で、一般的に25000g/mol未満であり、一定の組成(低い分子量分散)を有する低分子量誘導体を、酸加水分解解重合方法で得られる収率よりも著しく高い収率でもたらすことを見出した。反応は、過酸化水素を用いた金属イオン(Cu2+またはFe3+)の反応に由来するフリーラジカルの形成を介して行なわれる(Van Dedem G. and Nielsen J.I., Pharmeuropa, 1990, 3, 202-218)。これらのフリーラジカルは、非常に反応性に富み、中性pHで、酸加水分解よりも効率的に多糖類を分解することができる。
【0010】
本発明者らは、特に、以前に、T. Nishino and T. Nagumo(Carbohydr. Res., 1992, 229, 355-362)の条件に従って実施した化学的な硫酸化により、天然型のEPS GY 785よりも硫酸含量が高い誘導体を製造することを見出した(誘導体が20から40重量%の硫酸に対して、天然型は10重量%)。抗凝血作用は、硫酸含量に応じて増加し、硫酸含量が20重量%未満であるならば活性は消失する。
【特許文献1】FR 2 755 142
【特許文献2】EP-A-0 221 977
【非特許文献1】Folkman J., Nat. Med., 1995, 1, 27-31
【非特許文献2】Detillieux K.A. et al., Cardiovasc. Res., 2003, 57, 8-19
【非特許文献3】Heilmann C. et al., Cardiovasc. Surg., 2002, 10, 570-578
【非特許文献4】NcNeil P.L. et al., J. Cell Biol., 1989, 109, 811-822
【非特許文献5】Heba G. et al., J. Vasc. Res., 2001, 38, 288-300
【非特許文献6】Marti H.H. and Risau W. Et al., Thromb. Haemost., 1999, 82 (Suppl. 1), 44-52
【非特許文献7】Giraux J.L. et al., Eur. J. Cell Biol., 1998, 77, 352-359
【非特許文献8】Matou S. et al., Thromb. Res., 2002, 106, 213-221
【非特許文献9】Chabut D. Et al., Mol. Pharmacol., 2003, 64, 696-702
【非特許文献10】Luyt C.E. et al., J. Pharmacol. Exp. Ther., 2003, 305, 24-30
【非特許文献11】Rusnati M. and Presta M. Int. J. Clin. Lab. Res., 1996, 26, 15-23
【非特許文献12】Soker S. et al., Biochem. Biophys. Res. Commun., 1994, 203, 1339-47
【非特許文献13】Raguenes G. et al., J. Appl. Microbiol., 1997, 82, 422-30
【非特許文献14】Guezennec J., Ind. Microb. Biotech., 2002, 29, 204-208
【非特許文献15】Guezennec J. et al., Carbohydr. Polym., 1998, 37, 19-24
【非特許文献16】Colliec-Jouault S. et al., Biochim. Biophys. Acta 1528, 2001, 141-151
【非特許文献17】Van Dedem G. and Nielsen J.I., Pharmeuropa, 1990, 3, 202-218
【非特許文献18】T. Nishino and T. Nagumo, Carbohydr. Res., 1992, 229, 355-362
【非特許文献19】Rimington, Biochem. J., 1931, 25, 1062-1071
【非特許文献20】Tillmans and Philippi, Analyt. Chem., 1929, 28, 350-
【非特許文献21】Filisetti-Cozzi and Carpitta, Anal. Biochem., 1991, 197, 157-162
【非特許文献22】Montreuil et al., Glycoproteins In: Carbohydrate analysis a practical approach, 1986, Chaplin M.F. and Kennedy J.F. (eds), IRL Press, Oxford, 143-204
【非特許文献23】Kamerling et al., Biochem. J., 1975, 151, 491-495
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者らは、最近、EPS GY 785の特定の硫酸化され解重合された多糖誘導体(45重量%以下の硫酸含量を有する過剰に硫酸化されたEPS GY 785誘導体を得るための、天然型のEPS GY 785の硫酸化からなる第1の工程、および、これに続く、25000g/mol以下の分子量を有する多糖誘導体を製造するための、第1の工程で得られた過剰に硫酸化されたEPS GY 785のフリーラジカル解重合からなる第2の工程を含む、製造方法によって得られる)が、血管新生の調節活性を有することを発見した。
【課題を解決するための手段】
【0012】
それ故、本発明の第1の対象は、25000g/mol以下の分子量、2未満の多分散度(polydispersity index)および45%以下(好ましくは30%からの45%)の硫酸基置換度を有する硫酸化多糖誘導体の、血管新生の調節に使用するための医薬組成物の製造のための使用であり、前記誘導体が、少なくとも以下の工程:
- 以下を含む、化学的な硫酸化からなる第1の工程:
a) 無水溶媒における、海洋細菌Alteromonas infernusによって産生された凍結乾燥したGY 785多糖の溶解からなる第1のサブ工程、および
b) 硫酸化されたGY 785多糖の総重量に対して45重量%以下の硫酸基置換度を有する硫酸化多糖を製造するのに十分な量の少なくとも1つの化学的硫酸化剤の、45から60℃の温度での添加からなる第2のサブ工程;
- 25000g/mol以下の分子量および2未満の多分散度を有する硫酸化多糖を製造するための、第1の工程で得られた硫酸化多糖のフリーラジカル解重合からなる第2の工程、
を含む製造方法によって得られる使用。
【0013】
本発明を使用した方法で得られた硫酸化多糖誘導体は、良好なサイズ均一性(多分散度:I(Mw/Mn)<2;Mw=重量平均分子量、およびMn=数平均分子量)を有し、サイズ排除による補足的な分画を実施する必要が無い。
【0014】
第1の工程においては、凍結乾燥したEPS GY 785は、天然型の状態、または、弱塩基もしくは強塩基(すなわち、例えば、ピリジン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、水酸化テトラブチルアンモニウムおよび水酸化ナトリウムから選択される)との付加塩の形態で使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明を使用した方法の好ましい実施形態によれば、第1の工程で使用されるEPS GY 785は、好ましくは、塩基との凍結乾燥した付加塩の形態である。この凍結乾燥した塩は、例えば、1から8mg/mlの濃度で、イオン交換樹脂カラム(例えば、Dow Chemical社から製品名Dowex(登録商標)で販売されている樹脂)を用いた、EPS GY 785の水性溶液の溶出によって製造することができる;これらにより、EPS GY 785は、H+形態に置換される。pHが酸性のままであるならば、溶出液を回収し、その後、望む前記した塩基を用いてpHを約6.5に調整する。塩の形態のEPS GY 785は、その後、限外ろ過し、凍結乾燥する。
【0016】
第1工程で使用することができる無水溶媒は、好ましくは、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)およびホルムアミドから選択される。
【0017】
無水溶媒に存在するEPS GY 785の量は、約1から10mg/ml、好ましくは約1から5mg/ml、更により好ましくは約5mg/mlとすることができる。
【0018】
サブ工程a)においては、無水溶媒におけるEPS GY 785の溶解は、好ましくは、攪拌しながら、周囲温度で約1から2時間、その後の、40から50℃(好ましくは約45℃)で約2時間、アルゴン雰囲気下モレキュラーシーブスとともに実施する。
【0019】
サブ工程b)で使用する化学的硫酸化剤は、乾燥した形態、または、EPS GY 785の溶解に使用したのと同じ無水溶媒での溶液の形態で、添加することができる。
【0020】
化学的硫酸化剤は、好ましくは、ピリジン硫酸錯体(フリーまたはポリマーにカップリング)、トリエチルアミン硫酸錯体およびトリメチルアミン硫酸錯体から選択される。サブ工程b)においては、化学的硫酸化剤は、好ましくは、溶液のEPS GY 785の質量の約4から6倍の、更により好ましくは約5倍の重量で、EPS GY 785の溶液へ添加する。
【0021】
化学的硫酸化反応は、その後、好ましくは、攪拌しながら、望む硫酸化度に応じて約2から24時間実施する。
【0022】
望む硫酸化度を達成した場合、以下による反応媒体の冷却後に、硫酸化反応を停止する:
- 好ましくは反応物体積の1/10の割合で水を添加し、塩基性化剤(例えば水酸化ナトリウム(3M)等)を用いて反応媒体のpHを9への調整すること、または
- 好ましくは、塩化ナトリウム飽和アセトンもしくはメタノールの存在下で沈殿し、その後に、水で沈殿物を溶解すること。
【0023】
本発明による方法の特定の実施形態によれば、硫酸化EPS GY 785溶液は、好ましくは、その後、透析して様々な塩を取り除き、凍結乾燥する。
【0024】
第1の工程の最後に得られた硫酸化EPS GY 785のフリーラジカル解重合からなる第2の工程は、好ましくは、金属触媒の存在下で、硫酸化EPS GY 785を含む反応混合物への、酸化剤(好ましくは、過酸化水素などの過酸化物ならびに過酢酸および3-クロロ過安息香酸などの過酸から選択される)溶液の添加によって実施される;前記添加は、連続的に、攪拌しながら、30分から10時間かけて実施する;前記反応混合物は、好ましくは、フリーラジカル解重合反応の間、水酸化ナトリウムなどの塩基性化剤の連続的な添加によってpHを6から8に保持し、約30から70℃に保持する。
【0025】
この工程においては、酸化剤は、好ましくは、過酸化水素(H2O2)溶液である。この場合、酸化剤溶液は、好ましくは、V1/1000からV1/10 ml/分(V1は、酸化剤溶液を添加する、EPS GY 785の硫酸化誘導体を含む反応媒体体積である)の流速で加える。
【0026】
本発明の他の好ましい実施形態によれば、第2の工程で使用する酸化剤溶液は、約0.1重量%から0.5重量%の、好ましくは約0.1重量%から0.2重量%の濃度を有する過酸化水素溶液であり、この溶液を、V1/50からV1/500 ml/分、好ましくは、約V1/100 ml/分の流速で反応混合物に添加する。
【0027】
本発明の好ましい実施形態による、解重合からなる第2の工程においては、硫酸化EPS GY 785は、反応混合物の約2から10mg/mlの濃度で、反応混合物内に存在する。
【0028】
解重合工程で使用することができる金属触媒は、好ましくは、Cu++、Fe++およびCr+++イオンならびにCr2O72-アニオンから選択され、特には特許出願EP-A-0 221 977に開示されている。
【0029】
本発明の好ましい実施形態によれば、金属触媒は、反応混合物中に、約10-3Mから10-1Mの濃度で、より更に好ましくは約0.001から0.05Mの濃度で存在する。
【0030】
反応が終了する時には、本発明で使用する方法は、還元末端が非常に反応性に富む鎖を安定化するために、そして、特には「剥離」反応による鎖の加水分解を防止するために、還元剤を使用した、得られた多糖誘導体の還元からなる付加的な工程を含むこともできる。
【0031】
この作用に使用することができる還元剤の特徴は、必須ではない。特にホウ化水素ナトリウムとすることができる。
【0032】
反応が終了する時には、解重合によって得られた多糖誘導体を、当業者に知られた任意の適切な手法(例えば、膜限外ろ過など)によって回収することができる。
【0033】
前記された、本発明によるフリーラジカル解重合方法により、一回の工程で、サイズ排除による分取分画化の必要無しに、良好な収率で、25000g/mol以下の分子量を有する、非常に均一な硫酸化多糖誘導体を得ることが可能となる。
【0034】
本発明の開示の文脈においては、用語「均一な誘導体」とは、高速サイズ排除クロマトグラフィーにおいて、Mc=クロマトグラフィー質量によって特徴付けられるサイズ、すなわち20000近辺のピークでの質量、および、2未満の、好ましくは1.5から2の多分散度(Mw/Mnを考慮して計算される)に関して均一である多糖鎖が多数を占めることを表す、1つのメインピークを示すことを意味することを企図する。
【0035】
以下に記す実施例で求めるように、このようにして得られた誘導体は、血管新生-調節活性を有する。この誘導体により、特に、弱い抗凝血効果を有する血管内皮修復を促進することが可能となる。
【0036】
本発明により得られる多糖誘導体を含む医薬組成物は、また、前記医薬組成物に存在する、または、別々に(すなわち、多糖誘導体を含む医薬組成物の投与の前に、投与と同時に、もしくは投与の後に)投与する異なる医薬組成物に存在する1つまたは複数の増殖因子と組み合わせて、使用することができる。このような増殖因子は、特に、FGF、VEGF、HGF(肝細胞増殖因子)およびPGF(胎盤成長因子)から選択することができる。
【0037】
その血管新生-調節特性により、前記で示した多糖誘導体は、血管新生促進活性を有する医薬組成物の製造のために使用、より具体的には心臓血管の治療において使用することができ、この組成物は、血管再生および血管リモデリングを促進し、虚血を予防および/または治療することが可能である。
【0038】
本発明により得られる医薬組成物は、好ましくは、一般的に(経口、皮下または静脈内に)投与することを企図する。これらは、また、ゲル、クリーム、軟膏、ローション等の形態で局所的に投与することができる。
【0039】
これらは、また、例えば、遅延放出支持体、または、ゆっくりと崩壊するスポンジなどの再吸収可能または再吸収不可能なデバイス担体を使用して、in situで投与することができる。
【0040】
本発明は、以下に示す(i)から(v)の更なる記載により、より完全に理解される:
(i)前記した方法で実施される、海洋細菌である熱水起源のAlteromona infernusによって産生されたEPS GY 785に由来する硫酸化多糖誘導体(EPS SDR)の製造の実施例、
(ii)FGF-2-誘導性内皮細胞増殖に対する、EPS SDR誘導体の効果に関する実施例、
(iii)VEGF-誘導性内皮細胞増殖に対する、EPS SDR誘導体の効果に関する実施例、
(iv)FGF-2-誘導性またはVEGF-誘導性内皮細胞移動に対する、EPS SDRの効果を実証する実施例、および
(v)FGF-2-誘導性またはVEGF-誘導性内皮細胞分化に対する、EPS SDRの効果を試験する実施例。
【0041】
しかしながら、これらの実施例は、本発明の対象を例示する方法によって示しただけであり、制限を課すものではないことは、明確に理解するべきである。
【実施例】
【0042】
(実施例1:低分子量の高度に硫酸化されたEPS GY 785誘導体の製造)
<1)EPS GY 785の化学的硫酸化>
特許出願FR 2 755 142の実施例1に記載した方法に従って、海洋細菌である熱水起源のAlteromonas infernusによって産生される500mgのEPS GY 785の凍結乾燥物を、100mlの無水DMFに、穏やかに攪拌しながら(250rpm)、2時間周囲温度で、その後、2時間45℃で溶解させた。
【0043】
溶解が完全に行わなれた時に、Fluka社により参照番号84737で販売されている2.5gのピリジン-SO3錯体(すなわち、GY 785多糖の質量の5倍量)を、反応媒体に添加した。その後に、混合物の温度を、攪拌しながら、2時間45℃に上昇させ維持した。反応混合物をビーカーへと移した。その後、反応を、40mlの水の添加によって停止し、その後、3M水酸化ナトリウムを使用してpHを9へと調整した。その後、反応混合物を、12000から16000Daのカットオフ閾値を有する透析袋で、水道水に対して透析し(一晩、流水で)、その後、Milli-Q水に対して24時間3回透析した。
【0044】
透析後、硫酸化EPS GY 785を含む溶液を凍らせ、凍結乾燥した。
【0045】
<2)フリーラジカル解重合およびホウ化水素ナトリウムを用いた還元>
前記した工程で得られた400mgの硫酸化EPS GY 785を、95mlの水に溶解した。溶解後、36mgの酢酸銅一水和物(10-3M)を含む2mlの触媒溶液を添加した。その後、リアクターの温度を60℃に上げ、1M水酸化ナトリウムの添加によりpHを7.5に調整した。その後、0.115%(v/v)過酸化水素溶液を、1分間当たり1mlの流速で添加し、1M水酸化ナトリウムの添加によりpHを7.5付近で調節した。反応は、1時間後に停止させた。
【0046】
ホウ化水素ナトリウム(10mlの水に溶かした270mgのNaBH4)をリアクターに添加することによって、解重合の最後に、還元を実施した。還元は、2時間周囲温度で攪拌しながら実施した。還元は、10N酢酸の添加によって停止させた。これにより、放出した水素ガスの形態で残っていた過剰なNaBH4を除去することが可能となった。その後、ガラス繊維ろ紙(孔径3μm)を用いたブフナー漏斗によってろ過した。残った銅を除去するために、Chelex(登録商標)20カラム(Biorad)を用いて、ろ液を精製した。その後、浄化した溶液を、カセット((カットオフ閾値1000Da)を使用して限外ろ過し、その後、凍結乾燥した。
【0047】
<3)硫酸化して解重合したEPS GY 785の誘導体(EPS SDR)の特徴づけ;天然型EPS GY 785との比較>
前記で得られた、硫酸化して解重合したEPS GY 785誘導体の分子量(Mc:ピークの頂点から求めたクロマトグラフィー分子量;MwおよびMn)ならびに多分散度(I=Mw/Mn)を、Kontron systemを用いた高速サイズ排除クロマトグラフィー(HPSEC)(0.1M水性酢酸アンモニウム、流速0.5ml/分、Superdex(登録商標)200カラム(Pharmacia)を使用)によって、求めた。カラムは、以下の多糖スタンダードを用いてキャリブレーションを行なった:プルラン:853000-5800g/mol(Polymer Laboratories, Interchim)、デキストラン:1500g/mol、メレジトース:522g/mol(Fluka)、スクロース:342g/mol、グルコース:180g/mol(Sigma)。Aramis(登録商標)ソフトウェア(JMBS Developpement, Le Fontanil, France)を使用して、結果を分析した。
【0048】
中性単糖の含量は、Rimington(Biochem. J., 1931, 25, 1062-1071)によって改変されたTillmans and Philippiの方法(Analyt. Chem., 1929, 28, 350-)によって求めた。
【0049】
ウロン酸の含量は、改変したm-ヒドロキシジフェニル-H2SO4方法(Filisetti-Cozzi and Carpitta, Anal. Biochem., 1991, 197, 157-162)を使用し、スタンダードとしてグルクロン酸を使用して求めた。スルファミン酸カリウムを使用することによって、そして、m-ヒドロキシジフェニルを除き、全ての試薬を含む制御を実施することによって、中性ヘキソースによる干渉を回避した。
【0050】
中性単糖および酸性単糖の含量は、ガスクロマトグラフィーによって求めた。トリメチルシリル化された誘導体の形態のグリコシド残基の分析を、Montreuil et al.(Glycoproteins In: Carbohydrate analysis a practical approach, 1986, Chaplin M.F. and Kennedy J.F. (eds), IRL Press, Oxford, 143-204)によって改変したKamerling et al.(Biochem. J., 1975, 151, 491-495)の方法によって実施した。
【0051】
硫酸の総量(フリーの硫酸に加えて、EPS GY 785の硫酸化して解重合した誘導体および天然型のEPS GY 785に結合している硫酸)は、硫黄の元素分析(S%)および以下の関係式:硫酸基の割合(%)=3.22×S%の適用により求めた。フリーの硫酸の量は、製造元Dionexによって開示された方法に従って、導電率計に連結したDionex(登録商標)DX-500システムを用いたイオン交換クロマトグラフィーによって定量した。得られた結果により、EPS誘導体に実際に結合している硫酸の量(フリーの硫酸の量(イオン交換クロマトグラフィーによって得られた)を引いた硫酸の総量(元素分析によって得られた)と等しい)を計算することが可能となった。
【0052】
フーリエ変換赤外分光分析(FT-IR)は、4cm-1の分解能を有するVector 22を使用して実施した。多糖の赤外分光分析は、KBrペレット(2mgの多糖を200mgの乾燥KBrと混合)を使用して求めて、全ての赤外分光分析は、4000から400cm-1で分析した。
【0053】
硫酸化して解重合したEPS GY 785誘導体および天然型のEPS GY 785の抗凝血活性は、ACTキット(Organon Teknika)を使用した活性化セファリン時間(ACT)を測定することによって求めた。実験を行うために、100μlのコントロールバッファー、または硫酸化して解重合したEPS GY 785誘導体もしくは天然型のEPS GY 785の希釈液(0から100μg/ml)を、100μlの乏血小板血漿(PPP)および100μlのACT試薬と混合した。全体を、3分間37℃でインキュベートした。100μlの25mM CaCl2溶液の添加後に、凝固形成時間を測定した。
【0054】
<4)結果>
得られた結果を、以下の表Iにまとめて示す。
【0055】
【表1】

【0056】
これらの結果は、硫酸化して解重合したEPS GY 785誘導体が、良好な収率で得られ、単糖含量が、硫酸化誘導体と、本来は相対的に硫酸化されていない天然型のEPSとの間で同等であることを示している。過剰に硫酸化された産物の硫黄含量は、天然型の硫黄含量よりも4倍高い。フリーラジカル解重合により、20000g/molに等しい分子量(McおよびMw)を有し、サイズに関して均一(I<2)である誘導体は、非常に高い分子量を有する(>106g/mol)過剰に硫酸化されたEPS GY 785から、1時間で得られる。硫酸化して解重合されたEPS GY 785の誘導体のみが、抗凝血活性を有する;この誘導体は、15μg/mlに近い濃度で、コントロールの凝血時間を2倍にする。比較として、同じ条件下で、コントロールの凝血時間を2倍にするためには、4μg/mlの低分子量ヘパリンおよび1.5μg/mlの未分画のヘパリンが必要である。それ故、硫酸化して解重合したEPS GY 785誘導体は、低分子量ヘパリンまたは未分画ヘパリンよりも、それぞれ4倍および10倍低い抗凝血活性を有する。
【0057】
(実施例2:FGF-2-誘導性の内皮細胞増殖に対する、低分子量の高度に硫酸化されたEPS GY 785誘導体の効果)
実施例1で製造した、本発明による低分子量の高度に硫酸化されたEPS GY 785誘導体(EPS SDR)の、ヒト臍帯静脈由来の内皮細胞(HUVEC)の増殖に対する効果を、解重合した天然型誘導体(EPS DR)、すなわちフリーラジカル解重合によって得られた誘導体の効果と比較した。
【0058】
<a)EPS DRの製造>
これらの誘導体は、特許出願FR 2 755 142の実施例1に記載した方法に従って、海洋細菌Alteromonas infernusによって産生される500mgのEPS GY 785の凍結乾燥物から製造した。
【0059】
EPS DRは、実施例1のパラグラフ2)に記載したフリーラジカル解重合工程のみを使用した方法によって製造した。
【0060】
EPS DR誘導体の特徴は、実施例1に記載の方法に従って求めた。その特徴を以下の表IIにまとめる。
【0061】
【表2】

【0062】
EPS DR誘導体は、SDR誘導体よりも硫酸化されていない。HPSEC分析は、EPS DR誘導体が、サイズに関して、EPS SDR誘導体よりも均一性が劣っていることを示しており、その多分散度は、EPS SDR誘導体が1.8であるのに対して、EPS ED誘導体は2.8である。EPS DRを構成する多糖の鎖(Mc = 7800)は、EPS SDR誘導体を構成する多糖の鎖(Mc = 22430)よりも圧倒的に小さい。DR誘導体は、凝血活性を有さないのに対して、EPS SDR誘導体の活性は、10-20μg生成物/1ml血漿という、コントロールの凝血時間を2倍にすることに関する凝血活性、ACT(コントロール時間=40秒)を有する。
【0063】
<b)プロトコール>
HUVEC細胞を、0.5%のゼラチンでコーティングしたウェルで培養を開始した。24時間の培養後、培養培地を、以下の培地に交換した:コントロール培地単独(Gibsco-BRL社、Cergy-Pontoise, Franceによって販売されているM199培養培地(1当量)+RPMI 1640培養媒地(1当量)、ATGC社、Noisy-le-Grand, Franceによって販売されている5%のウシ胎児血清を捕捉)、または、5ng/mlのFGF-2(AbCys SA社、Paris, Franceによって販売)、もしくはEPS誘導体単独(10μg/ml)、もしくはFGF-2(5ng/ml)+EPS誘導体(1もしくは10μg/ml)を添加したコントロール培地単独。培地は、2週間ごとに新鮮なものとした。処置3日後に、細胞を引き剥がし、Malassez cellを使用してカウントした。
【0064】
<c)結果>
結果を、以下の表IIIに示す。
【0065】
【表3】

【0066】
前記表IIIでは、それぞれの値は、5つの測定結果の平均値±標準偏差を表す。それぞれの実験について、結果を%として表し、100%は、5ng/mlのFGF-2単独で処理した細胞に対応する。
【0067】
これらの結果は、コントロール(増殖因子および多糖が存在しない)ならびにFGF-2単独の添加と比較して、顕著な細胞増殖の増加が、FGF-2および10μg/mlの濃度のEPS SDRの存在下で観察されることを示す。
【0068】
(実施例3:VEGF-誘導性の内皮細胞増殖に対する、EPS GY 785 SDR誘導体の効果)
実施例1で合成したEPS GY 785誘導体の、VEGF-誘導性の内皮細胞増殖(AbCys SA社、Paris,Franceによって販売されているVEGF)に対する効果についても、実施例2で使用したのと同じプロトコールに従って、研究した。
【0069】
本実施例においては、VEGFは、10ng/mlの濃度で使用し、HUVEC細胞を引き剥がし、処置から6日後にカウントした。
【0070】
得られた結果を、以下の表IVに示す。
【0071】
【表4】

【0072】
前記表IVでは、それぞれの値は、4つの測定結果の平均値±標準偏差を表す。それぞれの実験について、結果を%として表し、100%は、10ng/mlのVEGF単独で処理した細胞に対応する。
【0073】
(実施例4:FGF-2-誘導性またはVEGF-誘導性の内皮細胞移動に対する、EPS SDRの効果の測定)
<1)プロトコール>
本実施例においては、実施例1で製造したEPS SDR誘導体を使用した。
【0074】
FFG-2およびVEGFなどの血管新生促進因子は、内皮細胞に対する走化効果を有し、内皮細胞の移動を誘発する。血管新生因子によって誘導される内皮細胞の一定方向への移動を実証するシステムを、本発明者らは使用した。このシステムは、Boyden chamber systemである。このシステムは、2つのコンパートメントを含む:血管新生因子に乏しい(FGF-2:1ng/ml;およびVEGF:1ng/ml)培養培地(前記実施例2のb)で記載したのと同じ培養培地)を含む上部チャンバーまたはインサート、ならびに、上部チャンバーと同じ培養培地を含むが血管新生因子に富む(FGF-2:10ng/ml;およびVEGF:10ng/ml)下部チャンバーまたはウェル;これらの2つのチャンバーは多孔質膜によって分離している。内皮細胞を、2つのチャンバーを分けている多孔質膜の上部面に置く。血管新生因子の効果の下では、濃度グラジエントが2つのコンパートメントの間に生じ、内皮細胞は、最も高い濃度の血管新生因子を有するコンパートメント(下部チャンバー)に誘引される。
【0075】
内皮細胞の一定方向への移動に対する、10ng/mlのEPS SDR誘導体の効果を、Boyden chamberの2つのコンパートメントへ加えた場合または加えない場合について、評価した。
【0076】
この一定方向への移動により、6時間のインキュベーション後に、幾つかの細胞が、膜の下側の面に位置する。それぞれの条件について、各回二重に測定を行って3回テストした。移動した細胞(下部面に位置する)のみが固定され、光学顕微鏡でカウントするために染色する。
【0077】
<2)結果>
増殖因子単独(FGF-2またはVEGF)の存在下、すなわちEPS SDR誘導体が存在しない場合は、細胞の移動は、コントロール(増殖因子もEPS誘導体も含まない培養培地に由来する細胞の移動)と比較して、40%顕著に増加する(p<0.0001)。10μg/mlのESP SDR誘導体のFGF-2への添加により、FGF-2単独での誘導と比較して、細胞の移動を20%顕著に減少させる(p<0.05)。同じ濃度で同じ誘導体のVEGFへの添加では、VEGF単独で存在する場合に比較して、細胞の移動は変化しない。
【0078】
(実施例5:FGF-2-誘導性の内皮細胞分化に対する、EPS SDRの効果-EPS DRとの比較)
本実施例においては、実施例1で製造したEPS SDR、および、実施例2で製造したEPS DRを使用した。
【0079】
<1)プロトコール>
<a)Matrigel(登録商標)を用いたin vitro血管新生>
in vitro血管新生モデルを使用することにより、フカン(褐藻の硫酸化多糖)は、未分画のヘパリンと異なり、ヒトの大血管内皮細胞に対するFGF-2の血管新生効果を可能にすることが示されている(Matou et al., 2002, 前記)。
【0080】
Matou et al.による文献で使用したのと同じ実験システムを、FGF-2に関するEPSの効果を研究するための本実施例で使用した。
【0081】
このシステムは、第一に、EPS誘導体(EPS SDRまたはEPS DR)の存在下で、72時間、FGF-2を用いたHUVEC内皮細胞を処理することからなる。このために、細胞を、0.5%のゼラチンでコーティングしたウェルで培養を開始した。使用したFGF-2の濃度は、5ng/ml(血管新生のin vitroモデルで最も一般的に使用される濃度)であり、EPSの濃度は10μg/mlである。
【0082】
そのように処理した細胞を、Versene(登録商標)(Gibco)および0.01%のコラーゲンを用いてデカンテーションし、(多糖および/または血管新生因子の不在下で)Becton Dickinson社、Bedford, MA, USAによって販売されているMatrigel(登録商標)と呼ばれている再構成基底膜上に配置する;このシステムにより、FGF-2-誘導性の内皮細胞分化に対する、テストするEPSの効果を評価することが可能となる。
【0083】
この基底膜と接触させると、内皮細胞は、分化の程度に依存して、環状構造へと組織化される(または組織化されない)。37℃での18時間インキュベーション後、グルタルアルデヒドを用いて細胞を固定化し、その後、ギムザ染色で染色する。
【0084】
形成した血管の長さは、測定プログラムを使用したイメージング分析(University ofAmiensによって提供されるMesurim(登録商標)、http://www.ac-amiens.fr)によって定量する。それぞれのウェルについて、5フィールド(4象限およびセンター)をカウントする。
【0085】
<b)α6インテグリンサブユニットの過剰発現>
以前に、HUVEC分化に対する硫酸化多糖(フカンファミリー)の効果が、α6インテグリンサブユニットの過剰発現によって達成されることが示された(Matou et al., 2002, 前記)。α6インテグリンサブユニットの過剰発現は、FGF-2の不在下または存在下で、EPS SDR誘導体の存在下または不在下で、ゼラチン上で培養し、前記したように引き剥がしたHUVEC内皮細胞の表面で定量した。定量は、フローサイトメトリーで実施した。細胞を、30分間4℃で、抗-α6抗体(BD Biosciences & Pharminge社、San Diego, CA, USAにより、参照番号555736で販売されている)を用いてインキュベートした。その後、細胞を、FACSCalibur(登録商標)フローサイトメトリー(BD Biosciences)による免疫蛍光によって分析した。
【0086】
<2)結果>
得られた結果を、以下の表Vに示す。
【0087】
【表5】

【0088】
それぞれの値は、3回測定した場合の平均値±標準偏差を表す。
【0089】
これらの結果は、増殖因子およびEPS誘導体の不在下(コントロール)では、細胞は、18時間後にMatrigel(登録商標)上で血管を形成しないことを示す。FGF-2単独の存在下では、細胞は、血管へと組織化され、毛細血管型3次元血管ネットワークを形成する。一緒に細胞培地へと添加したFGF-2およびEPS SDR誘導体により、ネットワークの密度を顕著に増大することが可能となる。具体的には、本発明で使用した方法によって得られた多糖誘導体の、FGF-2で処理した細胞への添加により、環状構造のトータルの長さが、FGF-2単独存在下で得られた結果と比較して、顕著に56%増大する(p<0.01)。
【0090】
比較として、本発明を構成しない方法によって得られたESP DR誘導体を用いた場合は、FGF-2誘導性の血管新生における顕著な増加は得られなかった。
【0091】
α6インテグリンサブユニットの発現に関しては、本発明の方法によって得られたEPS SDR誘導体のみを、テストした。FGF-2単独を用いた細胞の処理により、α6インテグリンサブユニットの顕著な過剰発現(p<0.0001)が誘導される;この発現は、コントロール(非処理細胞)よりも4倍大きい。本発明によるEPS SDR誘導体は、FGF-2に添加した場合、α6インテグリンサブユニットの発現を、FGF-2単独存在下の場合よりも、顕著に72%増加させる(p<0.001)。EPS SDR誘導体は、FGF-2の不在下では、効果を有さない。
【0092】
全てのこれらの結果は、本発明による製造法方法(すなわち、化学的硫酸化工程を、フリーラジカル解重合工程に先行して行う)によって得られたEPS SDR誘導体のみが、FGF-2の血管新生効果を、顕著に、そして再現可能に増強することを示している。
【0093】
(実施例6:VEGF-誘導性の内皮細胞分化に対する、EPS SDRの効果)
<1)プロトコール>
<a)Matrigel(登録商標)を用いたin vitro血管新生>
非常に重要なもう1つの血管新生因子であるVEGFは、FGF-2よりも内皮細胞に対して特異的であることが知られている。Matrigel(登録商標)上での内皮細胞分化に対するFGF-2の効果を評価するために、研究システムをセットしたところ、実施例5で示すように、VEGFの存在下では血管新生を観察することは可能ではなかった。
【0094】
それ故、タンパク質サポートの変化を想定し、I型コラーゲン(ラットの尻尾から抽出、Biogenesis社、Poole, UKにより販売)を選択し、実施例5に記載されているシステムのゼラチンを置換した。早ければHUVEC細胞の培養を開始して1日後に、培養培地を換えて、VEGF(10ng/ml)を添加していない、または添加し、10μg/mlのEPS SDRが存在する、または存在しない培地に置換した。
【0095】
この処理の6日後に、Versene(登録商標)(Gibco)および0.1%のコラーゲンを用いて、細胞を引き剥がし、その後、Matrigel(登録商標)上に置いた。実施例5に記載するように、環状構造を観察した。
【0096】
<b)α6インテグリンサブユニットの過剰発現>
実施例5に記載したように、フローサイトメトリーを使用して、α6インテグリンサブユニットの定量を実施した。
【0097】
<2)結果>
Matrigel(登録商標)上で、EPS SDR誘導体の存在下または非存在下で、VEGFで処理しなかった細胞は、環状構造を形成しない。VEGF単独の存在下では、細胞は、部分的な3次元血管ネットワークを形成する。EPS SDR誘導体のVEGFへの添加により、このネットワークの密度を増加する。
【0098】
VEGFを用いた細胞の処理により、非処理の細胞と比較して、α6インテグリンサブユニットの発現が2倍顕著に増加する(p<0.001)。このVEGF処理にEPS SDR誘導体を添加することにより、VEGF単独の存在下の場合と比較して、α6インテグリンサブユニットの発現が顕著に54%増大する(p<0.001)。
【0099】
全てのこれらの結果は、硫酸化工程を解重合工程に先行して行う製造方法によって得たEPS SDR誘導体が、血管新生を調節するのに使用する医薬の製造のために使用することができることを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
25000g/mol以下の分子量、2未満の多分散度および45%以下の硫酸基置換度を有する硫酸化多糖誘導体の、血管新生の調節に使用するための医薬組成物の製造のための使用であり、前記誘導体が、少なくとも以下の工程:
- 以下を含む、化学的な硫酸化からなる第1の工程:
a) 無水溶媒における、海洋細菌Alteromonas infernusによって産生された凍結乾燥したGY 785多糖の溶解からなる第1のサブ工程、および
b) 硫酸化GY 785多糖の総重量に対して45重量%以下の硫酸基置換度を有する硫酸化多糖を製造するのに十分な量の少なくとも1つの化学的硫酸化剤の、45から60℃の温度での添加からなる第2のサブ工程;
- 25000g/mol以下の分子量および2未満の多分散度を有する硫酸化多糖を製造するための、第1の工程で得られた硫酸化多糖のフリーラジカル解重合からなる第2の工程、
を含む製造方法によって得られる使用。
【請求項2】
前記第1の工程において、凍結乾燥したEPS GY 785を、天然の形態または塩基との付加塩の形態で使用することを特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記凍結乾燥したEPS GY 785を、ピリジン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、水酸化テトラブチルアンモニウムおよび水酸化ナトリウムから選択される強塩基または弱塩基との付加塩の形態で使用することを特徴とする、請求項2に記載の使用。
【請求項4】
前記無水溶媒が、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドおよびホルムアミドから選択されることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
前記無水溶媒に存在するEPS GY 785の量が、1から10mg/mlであることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
前記無水溶媒に存在するEPS GY 785の量が、1から5mg/mlであることを特徴とする、請求項5に記載の使用。
【請求項7】
前記サブ工程a)において、無水溶媒におけるEPS GY 785の溶解を、攪拌しながら、周囲温度で1から2時間、その後は、40から50℃の温度で2時間、アルゴン雰囲気下、モレキュラーシーブスの存在下で実施することを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
前記サブ工程b)において使用する化学的硫酸化剤が、ピリジン硫酸錯体、トリエチルアミン硫酸錯体およびトリメチルアミン硫酸錯体から選択されることを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の使用。
【請求項9】
前記サブ工程b)において、化学的硫酸化剤が、溶液中のEPS GY 785の質量の4から6倍の重量で、EPS GY 785の溶液へ添加されることを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載の使用。
【請求項10】
前記化学的硫酸化反応を、攪拌しながら、2から24時間実施することを特徴とする、請求項1から9のいずれか一項に記載の使用。
【請求項11】
- 反応物体積の1/10の割合で水を添加し、塩基性化剤を用いて反応媒体のpHを9へ調整すること、または
- 塩化ナトリウム飽和アセトンもしくはメタノールの存在下で沈殿させ、その後に、水で沈殿物を溶解すること、
のいずれかによって、反応媒体の冷却後に、化学的硫酸化反応を停止することを特徴とする、請求項1から10のいずれか一項に記載の使用。
【請求項12】
フリーラジカル解重合からなる第2の工程を、金属触媒の存在下における、硫酸化EPS GY 785を含む反応混合物への、酸化剤溶液の添加によって実施し;前記添加を、連続的に、攪拌しながら、30分から10時間かけて実施することを特徴とする、請求項1から11のいずれか一項に記載の使用。
【請求項13】
前記反応混合物を、フリーラジカル解重合反応の間、30から70℃の温度で、塩基性化剤の連続的な添加によって6から8のpHで維持することを特徴とする、請求項12に記載の使用。
【請求項14】
前記酸化剤が、過酸化物および過酸から選択されることを特徴とする、請求項12または13に記載の使用。
【請求項15】
前記酸化剤が、V1/1000からV1/10 ml/分(V1は、過酸化水素溶液を添加する、EPS GY 785の硫酸化誘導体を含む反応媒体の体積である)の流速で加える過酸化水素溶液であることを特徴とする、請求項14に記載の使用。
【請求項16】
前記第2の工程で使用する酸化剤溶液が、0.1重量%から0.5重量%の濃度を有し、V1/50からV1/500 ml/分の流速で反応混合物に添加する過酸化水素溶液であることを特徴とする、請求項14に記載の使用。
【請求項17】
前記解重合からなる第2の工程において、硫酸化EPS GY 785が、反応混合物の2から10mg/mlの濃度で、反応混合物に存在することを特徴とする、請求項1から16のいずれか一項に記載の使用。
【請求項18】
前記解重合工程で使用することができる金属触媒が、好ましくは、Cu++、Fe++およびCr+++イオンならびにCr2O72-アニオンから選択されることを特徴とする、請求項12から17のいずれか一項に記載の使用。
【請求項19】
前記金属触媒が、反応混合物中に、10-3Mから10-1Mの濃度で存在することを特徴とする、請求項12から18のいずれか一項に記載の使用。
【請求項20】
前記製造方法が、還元剤を使用した、得られた多糖誘導体の還元からなる付加的な工程を含むことを特徴とする、請求項1から19のいずれか一項に記載の使用。
【請求項21】
前記医薬組成物を、1つまたは複数の増殖因子と組み合わせて使用することを特徴とする、請求項1から20のいずれか一項に記載の使用。
【請求項22】
前記医薬組成物が、血管新生促進活性を有し、心臓血管治療用であることを特徴とする、請求項1から21のいずれか一項に記載の使用。
【請求項23】
前記医薬組成物が、虚血の予防および/または治療用であることを特徴とする、請求項22に記載の使用。

【公表番号】特表2008−502762(P2008−502762A)
【公表日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−515983(P2007−515983)
【出願日】平成17年6月6日(2005.6.6)
【国際出願番号】PCT/FR2005/001378
【国際公開番号】WO2006/003289
【国際公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【出願人】(506413247)
【出願人】(506413856)ユニヴェルシテ・ルネ・デカルト・パリ・サンク (6)
【Fターム(参考)】