説明

血管新生向性ペプチド

【課題】傷治癒を促進するペプチドと処置を提供する。より詳細には、有益なプロ血管形成サイトカインの生産を刺激することができて、食細胞を起動させることができて、傷治癒に有害なサイトカイン放出を防止できるペプチドを提供する。従ってペプチドは、炎症のような有害な副作用を引き起こすことなく、傷治癒を促進することができる。
【解決手段】次の構造を有する下記の配列を有するペプチド(Nはアスパラギン、Qはグルタミン、Sはセリン、Tはスレオニン、Xは天然に存在するL−アミノ酸、m、n及びpは0又はこれより大きい整数)。
m−N−Xn−S−Xp
m−Q−Xn−S−Xp
m−N−Xn−T−Xp及び
m−Q−Xn−T−Xp。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人間の傷を処置するための合成ペプチドの使用に関し、より詳細には血管新生を刺激するペプチド及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
循環障害は、末梢動脈疾患(PAD)、虚血性心疾患及び慢性的な傷を含む多くの臨床的に明らかにされた病気の内在する態様である。米国では2400万人以上が、これらの状況に苦しめられ、PADのみでも1000万人が罹っている。PADは糖尿病の結果として起こり、40歳台以上では3人に1人が罹患していて、その発生率は一般人口の肥満増加の結果、増加すると考えられている。
【0003】
慢性的な傷は、毎年650万人の患者を生じさせ、日常生活の満足度を大きく損なうことになる。現在の治療でも、命を脅かす虚血のため、毎年約35000件の手足の切断が行われている。
【0004】
受傷後の治癒は、主に3段階で行われる。第1段階は、止血及び炎症段階で、失われる血液量を最小にし、傷のサイトに特定の細胞を動員する。血小板は、この第1段階の間に、傷ついた組織に結合し、血栓形成を開始し、成長因子を放出する。第2段階では、マクロファージや単球などの補充食細胞は、損傷した組織を消化し、活性化された血小板、マクロファージ及び他の細胞により放出された血管由来の成長因子が、これまでに存在する血管中の内皮細胞の表面の受容体に結合する。次いで内皮細胞は急増して、創傷床に移り、動脈及び静脈の血管組織に分化する。最後に第3のリモデル段階では、筋肉細胞を円滑に補充することにより新しい血管が成長して血管構造が安定化し、血液が新しい血管を通って流れ始める。
【0005】
血管新生(新生血管の成長の過程)は、創傷治癒と負傷の後に組織への血流を回復するための必須過程である。このプロセスを刺激する成長因子の発見は、血液循環のロスから生じているひどくて致命的な状況の治療に対する大きな影響を持ってきた。血管新生を刺激する少なくとも20種の成長因子が特定されている。最も広く研究されかつ臨床的に使われ成長因子は、プロ血管形成血小板由来成長因子-BB(PDGF−BB)である。PDGFは活性化された血小板、活性化されたマクロファージ、内皮細胞、線維芽細胞と腫瘍細胞を含む多くのタイプの細胞から放出され、そしてPDGFは糖尿病性足潰瘍のための局所用薬剤として臨床的使用ために1997年12月にFDAの承認を得た。臨床的使用のために開発された第2の成長因子は、血管内皮成長因子(VEGF)である。このタイプと生物学上活性類似体の成長因子は組換え技術(例えばイースト中で)によって生産されることができる中型のタンパク質であり、成長因子による血管形成の開始は、少なくとも部分的には、サイトカイン生産の刺激によって達成される。
【0006】
IL−8は、好中球を活性化するサイトカインで、好中球及びリンパ球に対する強力な走化性活性を有する。感染又は創傷のサイトでの炎症は、単球又はマクロファージを活性化し、これらはIL−8を放出する。炎症を起こした内皮組織もIL−8を放出し、防衛機構の最初の段階ので、組織に血液から好中球を引きつける。その結果、IL−8に応答する好中球の漸増の悪循環、組織への損害と,副作用として有害な炎症に至るIL−8のより多くの生産が生じる。更に、好中球は、細胞から分泌されるインテグリンを通して炎症を起こした内皮組織に付着し、ICAMIは好中球が結合するインテグリンの放出を刺激することができ、これにより創傷の現場で有害な炎症のレベルを上昇させる。

感染症または怪我のサイトの特定の種類の臨床的に有害なサイトカイン(例えばIL−8とICAM−I)濃度が増加すると、治癒プロセスを阻害する有害な副作用を引き起こすことがある。
【0007】
哺乳類の組織の傷の治癒は、カルシトニン遺伝子関連ペプチドと同じように、単独で、または、サイトカインや成長因子と結合した、タチキネンス(Tachykinins)、物質P,物質Kなどのような特定の神経ペプチドの使用によって促進される。臨床応用のためのそのようなペプチドの使用は、有害な副作用を含むいくつかの問題の問題によって妨げられていた。例えば、物質Pは既知の痛み衝撃の媒介物質で、傷の治癒に関する効果は従来から知られている。しかし物質Pは、ニューロンを刺激して、傷のサイトに炎症を起こすサイトカインと好中球を補充する因子を放出することも示し、これによって痛みと炎症を引き起こした。
【0008】
従って、ペプチドまたは成長因子及び、傷治癒のための治療薬としてのそれらの類縁体の使用は、有効性、コスト及び炎症のような有害な副作用を含む多くの理由のために問題であることがある。これらの1又は2以上の問題点に関する情報は、下記の刊行物中に記載されている。米国特許第7,105,481号、米国特許出願番号第2007/0021342号及び米国特許出願番号第2007/0154448号。しかし、これらの刊行物には、以下の1又は2以上の不都合がある。
【0009】
1)生産を複雑にしかつコストを大きく増加させる、タンパク質をコード化しているヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドの発現の必要性。
2)生産を複雑にしかつコストを大きく増加させる宿主細胞の他のタンパク質から発現したタンパク質を精製する必要性。
3)食細胞を更に活性化する能力のない、血管形成成長因子を投与し、これにより有効性を促進するか、感染又は他の付随する障害を改善する。
4)炎症を減らす更なる能力のない血管形成成長因子を投与し、これにより有害な副作用を減少させる。
5)炎症を起こすサイトカイン及び好中球を傷のサイトに補充して痛みと炎症を引き起こす因子の放出を刺激できるペプチドの投与。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Arici A (2002)、「子宮内膜組織中の局部サイトカイン:子宮内膜症の発病におけるインターロイキンー8の役割」 Ann NY Acad Sci 955: 101-109.
【非特許文献2】Baggiolini M, Loetscher P, Moser B (1995)、「インターロイキンー8及び ケモカイン・ファミリー」、Int J Immunopharmacol 17: 103-108.
【非特許文献3】Barja-Fidalgo C, Coelho ALJ, Saldanha-Gama R, Helal-Neto E, Mariano-Oliveira A, de Freitas MS (2005) 、「ディスインテグリン:インテグリンー結合シグナリング起動させ、かつ白血球機能を調整するインテグリン選択的リガンド」、Braz J Med Biol Res 38: 1513- 1520.
【非特許文献4】Delgado AV, McManus AT, Chambers JP (2005)、「物質Pの外因性投与により、新しい皮膚損傷モデルで、傷治癒が促進される」、 Exptl Biol Med 230: 271-280.
【非特許文献5】Etzoni A (1999)、「インテグリン:生命の接着剤」、Lancet 353: 341-343.
【非特許文献6】Li WW and Li VW (2003a) 、「PDGFのバイオロジーと傷の新生血管形成の他の成長因子」、Contempory Surgery, Supplement, November, 12-18.
【非特許文献7】Li WW and Li VW (2003b)、「治療的血管新生:損傷した組織中の循環を回復するたの成長因子の使用」、Contempory Surgery, Supplement, November, 19-25
【非特許文献8】Li VW and Li WW (2003c)、「慢性的な傷の血管由来の治療:ベカプラマンによる臨床的経験」、Contempory Surgery, Supplement, November, 26-32.
【非特許文献9】Li WW, Tsakayannis D and Li VW (2003)、「血管形成:正常及び遅れた傷治癒用の制御ポイント」、Contempory Surgery, Supplement, November, 5-11.
【非特許文献10】O' Shea JJ, Ma A, Lipsky P (2002)、「サイトカイン及び自己免疫」、Nature Rev Immunol 2: 37-45.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、血管形成を刺激することによって傷治癒を促進するために利用できる処置を考慮すると、有害な副作用を引き起こすことなく、慢性的な傷の治癒を促進するか最適化する、実用的な、費用効果が良好な治療法が要請されている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、一般に、傷治癒を促進するペプチドと処置に関する。より詳細には、有益なプロ血管形成サイトカインの生産を刺激することができて、食細胞を起動させることができて、傷治癒に有害なサイトカイン放出を防止できるペプチドに関する。従ってペプチドは、炎症のような有害な副作用を引き起こすことなく、傷治癒を促進することができる。
【0013】
本発明の一態様によると、少なくとも1つのコア配列を有する治療用ペプチドのファミリが提供される。少なくとも5つのアミノ酸残基を含むペプチドコア配列は、Xm−N−Xn−S−Xp、Xm−Q−Xn−S−Xp、Xm−N−Xn−T−Xp及びXm−Q−Xn−T−Xp、及び治癒時に生存可能なこれらのフラグメント又は誘導体から成る群から選択され、ここで、Nはアスパラギン、Qはグルタミン、Sはセリン、Tはトレオニン、Xは天然に存在するLアミノ酸であり、m、n及びpはそのゼロ以上の整数である。
【0014】
本発明の他の態様では、本発明による治癒用ペプチドを含む組成物が提供される。ある態様では、前記組成物はペプチド構成体である。
【0015】
本発明の更に他の態様では、本発明の治療用ペプチドを含む組成物の効果的な投与量を対象に投与することを含む処理方法が提供される。ある態様では、該方法は、対象中への特定のパターンのサイトカイン分子の放出の制御、及び/又は対象の免疫システムを調節し、これにより傷治癒のプロセスを促進する。
【0016】
本発明の更に他の態様によると、効果的な量の本発明の組成物を投与することを含む、対象中の血管形成を促進する方法が提供される。一態様では、前記組成物は、対象物の少なくとも一表面に隣接する。
【0017】
本発明の更に他の態様では、本発明のペプチドを含む少なくとも1つの表面を有する医療機器が提供される。
【0018】
本発明の前述及び他の特徴および利点は、添付図面に例示されるように、引き続く本発明の実施例の詳細な説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は本発明の一態様の分子構造を例示し、これは、それぞれがリンカー配列を通して中心のコア構造にリンクしている4個のペプチドを含む多価ペプチド構成体である。
【図2A】図2Aは、本発明の一態様のペプチド構成体の化学構造を例示し、構成体SynGia(登録商標)HlBは、分枝した中央の骨組み構造にリンクするコア配列WNSTL(配列番号1)の4個のコピーを含む。
【図2B】図2Bは、本発明の一態様のペプチド構成体の化学構造を例示し、構成体SynGia(登録商標)6Dは、分枝した中央の骨組み構造にリンクするコア配列NQHTPR(配列番号2)の4個のコピーを含む。
【図3】図3は、本発明のペプチドに加えられることのできるリポータータグの構造を例示し、これは蛍光ダンシル基を含むC末端伸長である。
【図4】図4は、本発明の一態様の血管形成活動の結果として腫瘍の成長の刺激を例示しているデータの棒グラフで、ペプチド構成体SynGia(登録商標)HIBは、図2Aに示したように、コア配列WNSTL(配列番号1)を含む。
【発明を実施するための形態】
【0020】
血管形成を促進する幅広い特性を有する治療剤、及び傷治癒及び損傷を受けた組織への循環の回復に必要なプロセスを提供するために、前記治療剤は、炎症のような臨床的に有害な副作用を誘発することなく治癒を促進しなければならず、かつ組織破片を除去し更に細菌性感染症を減らすために、食細胞の活動と協働して作用する必要がある。本発明のペプチドは、有益なサイトカインの放出を誘起し、有害なサイトカインの放出を抑制して、食細胞の細胞の活性を刺激することにより、前記ゴールを達成することができる。後者の活性は、傷ついた組織が、慢性的な傷の条件で生成する病原体に対抗する抗体の存在に対し反応することを許容する。本発明のペプチドを使用する処理は、外因的に与えられる単一のサイトカインの存在と対照的に、有益なサイトカインの配列を内在性に増加させることにより、治療プロセスを誘導する必要がある。
【0021】
以下の説明は、種々のモードで発明を実施するために意図される本発明の態様を提示する。この説明は限定的ではなく、その範囲が特許請求の範囲により限定される本発明の一般的な原理を説明する目的でのみ提示される。
【0022】
本願明細書で使用される「含んで成る」、「含む」、「有する」及びこれらの変形は、限定せずに含ませることを意図している。例えば一連の要素を含んで成るプロセス、方法、物品又は装置は、必ずしもこれらの要素にのみ限定されず、前記プロセス、方法、物品又は装置に列挙されておらず又はこれらに固有でない他の要素を含んでも良い。明確な逆の指摘がない限り、「又は」は、含むこと及び含まないとこを意味する。例えば条件A又はBは次のいずれかを満足する。Aは真実であり(又は存在する)かつBは虚偽である(又は存在しない)、Aは虚偽であり(又は存在しない)かつBは真実であり(又は存在する)、及びAとBの両者が真実である(又は存在する)。
【0023】
これらの説明は単なる便宜的なもので、発明の一般的な意義を与えるものである。本明細書は、明確な記載がない限り、要素は1つ又は少なくとも1つ含まれ、単数は複数も含む。
【0024】
他に定義されていなければ、本明細書で使用される全ての技術的及び科学的用語は、当業者が共通理解するのと同じ意味を有する。本明細書で記載する方法及び材料又はそれらの等価物が本発明の実施又はテストにおいて使えるが、適切なプロセス及び材料は下記の通りである。本明細書に記載のすべての刊行物、特許出願、特許と他の引用文献は、参照によってそれらの全部が本明細書に含まれる。抵触する場合は、定義を含む本明細書が優先する。更に、材料、プロセス及び実施例は、例示であって、限定することを意図しない。
【0025】
下記の定義は本明細書に記載した特定の態様を意味するが、限定的に解釈されるべきでない。本発明は記載されていない他の態様の等価物を含む。
【0026】
本明細書で使用される用語「隣接する」は、表面に対してペプチド又はペプチド組成物の位置に関して言及する場合は、該ペプチド又はペプチド組成物が表面の直接接することを意味しない。該ペプチド又はその組成物と表面の間に、他の接触又は非接触の層、被覆、物質又は空間が存在してもしなくても良く、表面自体は他の層又は被覆であっても良い。
【0027】
本明細書で使用される用語「血管形成」を因子又は試薬として参照する場合、血管形成を刺激するか、又は内皮細胞増殖、血管の安定性や脈管形成を含みこれらに限定されない血管形成を促進する試薬を意味する。
【0028】
本明細書で使用される用語「構成体」をペプチドとして参照する場合、同構造中に、4個の同じペプチド配列を支持する3−リジン中央骨組み構造を含みこれに限定されない1又は2以上のペプチドを支持する骨組み構造を意味する。
【0029】
本明細書で使用される用語「コア配列」は、下記のアミノ酸配列の少なくとも1種を有するペプチドを意味し、
m−N−Xn−S−Xp
m−Q−Xn−S−Xp
m−N−Xn−T−Xp及び
m−Q−Xn−T−Xp
ここで、Nはアスパラギン、Qはグルタミン、Sはセリン、Tはスレオニン、Xは天然に存在するL−アミノ酸、m、n及びpは0又はこれより大きい整数である。従ってコアペプチド配列、及びそのフラグメント及び誘導体は、次のアミノ酸配列の対の少なくとも1つを含む。N及びS(N/S)、Q及びS(Q/S)、N及び(N/T)又はQ及び(Q/T)。
【0030】
本明細書で使用される用語「サイトカイン」は、免疫システムの細胞を含みこれに限定されない細胞の活性を制御するメッセンジャー分子を意味する。サイトカインは、細胞が、他の機能と連携し又はそれを変えることを許容することを含みこれに限定されない数種の機構を通して細胞活性を制御できる。サイトカインの非限定的な例は、免疫系の細胞によって分泌されて、免疫反応に影響を及ぼすインターロイキンとインターフェロンのような免疫調節性タンパク質を含みかつこれに限定されない。
【0031】
本明細書で使用される用語「有害なサイトカイン」は、増加したレベルのIL−8又はICAM−1から生じる炎症を含みこれに限定されない処置に有害な1又は2以上の効果を生じさせるサイトカインを意味する。
【0032】
本明細書で使用される用語「有害な副作用」は、炎症を含みこれに限定されない処置に関して有害な副作用を意味する。
【0033】
本明細書で使用される用語である「効果的な」または「治療的に効果的な」量は、対象における傷治癒又はシステム的血液循環を加速し又は改良するか、又は対象における潰瘍の再発を防ぐために効果的な試薬の量を意味する。治療のための投与量は、対象に対する治療的な影響が生じる投与量である。
【0034】
本明細書で使用される用語「血管新生向性」は、血管形成を促進するか、さもなければ強化する物質または試薬を意味する。
【0035】
本明細書で使用される用語「興奮剤(賦活剤)」は、アドレナリンのような合成薬剤又は天然に存在する物質を含みこれに限定されない、器官又はその一部の機能的な活性又は効率の一時的な増加をもたらす試薬を意味する。
【0036】
本明細書で使用される用語「刺激する」は、活性又は成長、又はより大きな活性を誘起することを意味する。本明細書で使用される用語「対象」は、医学的な処置や処理を行われているかそれを待っている人間又は人間以外を含みこれに限定されない、処理を受けるものである。
【0037】
本明細書で使用される用語「治療的な」は、物質又は処置に言及する場合、疾病や受傷により生じるような身体の機能障害の治癒を提供し又は補助し、あるいはその兆候を改善する物質又は処理を意味する。
【0038】
本明細書で使用される用語「処理」は、治療的な処理、及び予防的手段を意味する。処理が必要なものは、既に障害を有するものと、障害を予防しようとするものを含む。
【0039】
本明細書で使用される用語「傷の治癒」は、本発明の1又は2以上の態様で処理することで利益を受ける状態を意味する。
【0040】
本発明は、一般に、血管形成の刺激にとって不可欠である生理活性試薬の放出を誘導することができる合成ペプチドに関する。より詳細には、本発明は、有害な副作用を誘発することなく、治療的に傷治癒を刺激することができかつ病原体に誘導された抗体の存在に反応することができる有益なサイトカインの放出を誘導することができる合成ペプチドのファミリーに関する。本発明のペプチドの態様は、血管新生向性サイトカインであるPDGF−BBの放出を刺激できて、好中球を補充する炎症性サイトカインIL−8の放出を禁止する。好中球が、傷ついた組織で大部分の炎症反応に対して関与するので、本発明で提供されるIL−8のダウン・レギュレーションは組織補修に有益である。そのうえ、ペプチドは、好中球が結合するインテグリンの放出を刺激するICAM−Iの放出を抑制できる。治療プロセスを刺激している間、これらの効果は創傷の現場で炎症を最小にする。血管形成のために不可欠なサイトカインであるPDGF−BBの放出の付随するアップ・レギュレーションと、IL−8及びICAM−I放出のダウン・レギュレーションは治癒の初期に有利な状況を提供する。
【0041】
更に、本発明の少なくとも1つの態様のペプチドを組み込んだ多価構造により細胞表面の受容体の選択的な架橋が、傷ついたか又は感染した組織に補充される食細胞の活性を刺激して、細菌性感染症を減らすことができる。食細胞は、食細胞の空胞に細胞をのみ込み、かつ細菌の細胞を消化することによって、それらの表面にリポ多糖類(LPS)を含んでいる細菌の細胞の存在に反応する。それに加えて、食細胞は、例えば細菌の細胞、菌類の細胞またはウイルスのような病原体に向けてかつ結合する抗体の存在に反応する。
【0042】
図1は、本発明の多価の免疫調節ペプチド構成体10の一態様の分子構造の実用モデルである。構成体10は、全4本のアーム上で、同じコアペプチド配列、又は2又は3以上の異なった配列を使用し、2本、3本、4本及び8本以上を含むがこれに限定されない複数のアーム1を有するように合成できる。構成体0の中央の骨組み4とコアペプチド配列2間のスペーサ3の長さが、アーム1の長さを決定する。例えば、5又は6個のアミノ酸配列を有する図1に例示したアーム1は、その構成(分子を横切る長さが約7nm)に応じて、長さが約3±0.5nmである。既知の受容体蛋白の細胞表面領域は、それに対応して、直径が約3nmから約4nmである。この距離は、リンカーの長さを増減することによって調節できる。従って受容体の架橋結合は、このような態様で達成できる。図1で例示した構造の多次元性質は、標準的な分子モデリング技術を使用して得た。
【0043】
[実施例]
[実施例1]
[ペプチドの設計及び合成]
ペプチド配列をスクリーンして、対象のワンセットの配列を同定した。対応するペプチドは、標準的なFmoc(フルオレニル−メトキシ−カルボニル)側鎖保護基を使用する固相法によって合成した。枝分かれペプチドは中心のトリリジン骨組み構造に構築され、同構造中に4個の同一の配列を許容する。(グリシン)3-セリン(GGGS、配列番号3)リンカー配列が存在し、活性配列を中心の骨組み構造から遠ざけている。活性配列の間の距離は、協働する2つのリンカー(GGGSGGGS、配列番号4)の使用を含むがこれに限定されないリンカーの長さの増減により、又は長さが可変であるポリエチレングリコール(PEG)のような不活性なリンカーでも挿入することにより、調節できる。枝分かれ構造は、応答細胞の表面に受容体を集める(架橋結合)ことにより、卓越した活性を有するよう設計した。
【0044】
ペプチドは、Fmoc(9−フルオレニル−メトキシ−カルボニル)で保護されたアミノ酸及びミリガン・バイオサーチ9050+連続流ペプチド合成機(マサチューセッツ州ビレリカのミリポア・コーポレーション)を利用するPAL−PEGポリスチレン樹脂(カリフォルニア州フォスターシティーのアプライドバイオシステムズ)上で合成した。
【0045】
中心骨組み構造のC末端は、一般的にリジン(K)残基である。しかし、C末端は、それに蛍光グループのようなタグが添加できるシステイン残基のようなC末端アミノ酸または以降の精製プロセスに有用なε-ビオチニル−N−リジン(ビオチニル−K)残基を含むよう修正できる。更に、β-アラニン(βA)又はトリプトファン(W)のようなアミノ酸を、スペーサー、又は吸収度で濃度を測定する手段を提供するために、添加C末端アミノ酸と中心骨組み構造のC末端リジン残基の間に挿入できる。中心骨組み構造の修正されたC末端リジン残基の非限定的な例は、K−βA−C及びK−W−ビオチニル−Kを含む。更に、他のリジン残基を、中心骨組み構造の修正されたC末端リジンのα-とε-アミノ基のどちらの一方または両方に加えて、例えば(K)2K, (K)2K−βA−C 又は (K)2K−W−ビオチニル−Kを生成させ、これによりα-及びε-アミノ基が伸張に利用できる枝分かれした構造を形成する。
【0046】
分岐点で使用されるリジン残基は両方のα-及びε-アミノ基のFmoc保護に取り入れられ、従って、両方ともピペリジンとの標準的な脱保護反応の後、アミド結合形成に利用できる。チオール反応プローブ(カリフォルニア州カールスバッドのインビトロゲン・コーポレーション用の標準的なプロトコルに従って、ダンシル基(又は他の蛍光タグ)を、5-((((2 ヨードアセチル)アミノ)エチル)アミノ) ナフタレン-l-スルホン酸(1,5−IAEDANS)を使用して、C末端システイン残基の上に、チオール基との反応によって組み入れることができる。ビオチンは、ストレプタビジン(streptavidin)への高い親和性のため、ペプチドと細胞構成要素の相互作用を研究するために、反応混合物から関連するタンパク質でペプチドを回収する手段を提供する側鎖アミノ基に、アミド結合を通してリジンに結合する。
【0047】
ペプチドは固相樹脂に結合するように形成され、前記樹脂は、ペプチドが樹脂から離れるときに、該ペプチドのC末端のカルボキシル基がアミドとして放出されるようなものから選んだ。トリリジン中心骨組み構造の4つのアミノ基の各々は、リンカー配列GGGS(配列番号3)及び続いて活性なコアペプチド配列の追加により伸張した。
【0048】
樹脂層からの分裂の後、製品は10mMのトリフルオロ酢酸(TFA)を水の中に含む10mMの8%から18%の濃度勾配を有するアセトニトリルを使用して、実験用ジュピター・プロテコC12カラム(21.2mm×250mm)(カリフォルニア州トランスのフェノメネックス社)を使用するHPLCによって、実質的に又は完全に精製した。最終的なペプチド製品の純度は、ボイジャー・デ・STR・質量分析計(カリフォルニア州フォスターシティーのアプライドバイオシステムズ)を使って実行される質量分光によって確認した。HPLCで精製されたペプチドは、真空下で乾燥され、pH7.2の無菌のリン酸塩緩衝塩水(PBS)に溶解され、更にセファデックスG 15又はG 25(少量サンプル用の1×48cm)のゲル濾過カラムを通し、ペプチドからTFAを分離した。次いで無菌のPBSでカラムから溶出させた。
【0049】
その代わりに、前記製品を、C18逆相カートリッジ、イオン交換クロマトグラフィ及びゲル濾過クロマトグラフィの使用して精製して、合成の副生成物を除去する。濃度は、ペプチド中の、螢光色素分子(例えばダンシル基、336nmにおける減衰係数、εmM = 5.7 cm-1)の吸収度、210nmのペプチドバンドの吸収度(εmg/ml≒31cm-1)、芳香族アミノ酸(例えばトリプトファン、280nmにおけるεmM = 5.6 cm-1)の吸収度(存在するならば)、及び/又はビシンコニン酸(イリノイ州ロックフォードのピアス・バイオテクノロジ)の吸収度で決定できる。ペプチド溶液は、使用前に、所望濃度に調節され、濾過殺菌が行われる。
【0050】
[実施例2]
[コアペプチドWNSTL (配列番号1)及びNQHTPR (配列番号2]
非常に興味深いペプチドとして、トリプトファン−アスパラギン−セリン−スレオニン−ロイシン(WNSTL、配列番号1)及びアスパラギン-グルタミン-ヒスチジン-スレオニン-プロリン-アルギニン(NQHTPR、配列番号2)を、ペプチド配列のスクリーニングによって同定した。配列は、ポスネットらによるJ. Biol. Chem.、263の1719-25(1988)に従って、配列に含まれる(グリシン)3-セリン(GGGS、配列番号3)リンカーを使用し、コアから離れて活性なペプチドが伸張するように、トリリジンコア上に合成した。
【0051】
図2A及び2Bは、本発明のこれら2種の態様の化学構造を示す。これらの態様で、R=H又は図3に示すダンシル基のような蛍光タグを含む付加体である。例示したペプチド構成体は、4つの同じ配列を含み、それぞれは(Gly)3Ser (GGGS, 配列番号3) リンカー配列を解して、枝分かれした中央のトリリジン骨組み構造に結合している。図2Aは、ペプチドWNSTL (配列番号1)を含むコア配列を4つ図2Aは、ペプチドWNSTL (配列番号1)を含むコア配列を4つ含む、SynGia(登録商標)HlB と命名された本発明の一態様による枝分かれしたペプチド構成体である。R=Hであるペプチドは、3841.16ダルトンの分子量を有する。
【0052】
図2Bは、SynGia(登録商標)6Dと命名されたN末端配列NQHTPR (配列番号2)を含む構成体の構造を例示する。R=Hであるペプチドは、4543.89.ダルトンの分子量を有する。他の態様では、図3に示すような、β―アラニン、システイン及びダンシルタグを含むC末端伸長が、図2Bに例示するように、構成体に共有的に付加され、4850.23ダルトンの分子量を有するペプチドが得られる。
【0053】
[実施例3]
[サイトカイン放出の制御]
ペプチドがサイトカインの放出を誘起するか抑制かの制御のいずれを行うか決定するために、培養された末梢血単核細胞(PBMCs)を、本発明の一態様のペプチドで処理し、4時間のインキュベーションの後、媒体を集め、40の異なるサイトカインの量の変化を分析した。図2Aに示されたWNSTL(配列番号1)ペプチド構成体SynGia(登録商標)HIBを、分析評価の各々で、100nMの濃度で加えた。PBMC培養物は、セリュラー・テクノロジ社(オハイオ州シェーカーハイツ))から、細胞で形成した。約300万の凍った人間の細胞であるPBMCsを37℃で解凍しかつ50mlの円錐チューブへ移され、ここで8mlの洗浄媒体が徐々に加えられる。更に追加の8mlが渦巻状に加えられ混合する。次いで細胞は10分の間330gで遠心分離され、上澄みが除去される。そして、ペレットは10mlの洗浄媒体に再懸濁され、前述と同様に遠心分離されます。次いで洗浄された細胞は、1ml当たり約600万の細胞になるように、10%FBSを含むRPMI媒体に再懸濁され、次いで該懸濁物100μlを、96の窪みを有するマイクロタイタープレートのそれぞれの窪みに入れ、5%の湿潤CO2中、37℃で一晩インキュベートした。24時間後に、媒体は10%FBSを含む200μlの新鮮なRPMI 1640媒体と入れ替えられ、2日の間、5%の湿潤CO2中、37℃でインキュベートされた。表1で示されるデータのために、一定量のペプチド構成体を、最終濃度が5nM又は100nMになるように、サンプルに加え、5%の湿潤CO2中、37℃で4時間インキュベートした。他の実験(データは示さず)のために、インキュベーションを24時間継続した。次いで媒体が除去され、−80℃で貯蔵された。サンプルは、サイトカインの生産のために分析された。第1のセットのコントロール細胞は、実験用薬品では処理されなかった。コントロール細胞の第2セットを、種々の炎症性のサイトカインの生産を誘起するために一般に使用される試薬であるLPSで処理した。コントロール細胞の第2セットで提供される炎症の積極的なコントロールは、ペプチドが制御されない炎症反応を行わないことを確保するために欠かせないことである。培養媒体の試料のサイトカイン濃度の分析評価は、レイ・バイオテック社(ジョージア州ノルクロス)によって開発された手法を使用して行った。この技術では、サイトカインに対する抗体の膜配列を、媒体の試料でインキュベートする。洗浄後、前記配列はビオチンを付加されたすべての抗体の混合物でインキュベートされる。次いで膜は、結合されていない抗体を含まないよう洗浄され、蛍光色素でラベルされたストレプタビジンでインキュベートされる。最後の洗浄の後、膜配列は、蛍光検出器で読み取られ、かつと相対値を得るために、スポットの強さを定量される。
【0054】
表1及び2は、そのPBMC培養体中の濃度が、本発明の態様のペプチドで細胞を処理する結果として変化する多数のサイトカインを列挙している。このように影響を受けるサイトカインは、次のものを含むがこれに限定されない。
【0055】
エオタクシン(Eotaxin)(化学遊走物質、好酸球の相当な蓄積を誘発する)。
エオタクシン2(好酸球と好塩基球の走化性、及びヒスタミンの放出を誘発する)。
GCSF(顆粒白血球コロニー刺激因子、成長因子)。
ICAM-I(細胞間粘着分子―1、インテグリン及び人間のライノウイルス受容体への結合)。
IL-lβ(インターロイキンlβ、炎症反応の調停)。
IL-4(B細胞の増殖と分化を促進して、IL−I、IL-6及びTNF-αのような炎症サイトカインの生産を停止する)。
IL-6SR(IL-6の可溶性受容体)。
IL-7(前駆体BとT細胞の増殖を刺激する)。
IL-8(好中球の化学遊走物質と活性化剤)。
IL-10(INF-γ、IL-2及びTNF-βのような炎症サイトカインの合成を停止する)。
IL-11(炎症反応を誘発して、免疫反応を促進する)。
IL-12(40及び70kDaのサブユニットを含み、NK細胞を活性化して、リンパ芽球の増殖を刺激する)。
IL-15(IL-2と多くの同じ特性を有し、の多くを持って、T細胞によって媒介される免疫反応に寄与する)。
IL-16(CD4を発現する細胞のための化学遊走物質と活性化剤)。
IL-17(血管内皮細胞と腱形成の移動を刺激して、血管形成を促進しているいろいろな成長因子の生産を管理する血管形成の調停役として機能する)。
INF-γ(インターフェロン-ガンマで、には、抗ウイルス性で、免疫調節で、抗腫瘍特性を有する)。
MCP-1,2(単球走化性タンパク質)。
M-CSF(増殖を誘発して、単球とマクロファージを刺激する)。
MIG(刺激されたT細胞のための化学遊走物質であるが、好中球又は単球に対して活性ではない)。
MIP-Ib(マクロファージ炎症タンパク質で、顆粒白血球とキラー細胞の細胞活性化に関係する)。
PDGF-BB(血小板由来成長因子、BBホモ二量体)。
RANTES(活性化、発現及び分泌された通常のT細胞、T細胞のために走化性について制御される)。
sTNF RI、RII(腫瘍壊死因子(TNF)のための受容体RI又はRHの可溶性形態)。
TEVIP-2(細胞外基質のメタロプロテイナーゼの組織抑制剤)。
そして、TNF-β(線維芽細胞の増殖を促進して、傷治療に関与する)。
【0056】
表1は、血清の存在下、枝分かれペプチド構成体SynGia−HlBでPBMCsの4時間のインキュベーションの間、かなり高いか低い率(未処理のコントロールと比較して)で放出されるサイトカイン示すデータを含む。第1のセットのコントロール試料はペプチドで処理されず、第2のセットのコントロール試料はペプチドの不存在下、リポ多糖類(LPS)で処理された。その構造が図2Aに例示されるSynGia−HlBは、コアペプチド配列WNSTL(配列番号1)を含む。SynGia−HlB でのインキュベーションの結果として2倍以上の高い濃度に誘導されるサイトカインは、PDGF-BB、ILIβ、IL-4、IL-11、IL-12及びRANTESである。対照的に、いくつかのサイトカインは、このペプチドによる未処理コントロールと比較して、濃度が二倍以上の減少を示す。ペプチド治療をうけているサンプルのIL-8濃度の減少は、典型的な炎症剤LPSで処理されているサンプル中IL-8の量と比較すると、特に顕著である。更に未処理のコントロールサンプルと比較すると、ペプチドは炎症サイトカインIL-6の量の変化を誘発しなかった。しかし、IL-6レベルは、ペプチドがない場合、LPSで処理されるサンプル中で顕著に上昇した。ある実験では、例えばペプチド治療をうけているサンプルは、93の相対IL−6濃度を有し、未処理コントロールサンプルは98、LPS処理サンプル(ペプチドがない場合)は5879であった。ペプチド治療をうけているサンプルのIL-6の濃度が未処理のコントロールサンプルと大きくは異ならなかったので、IL-6用データは表1又は2に記載していない。血管新生向性PDGF-BBの増加と炎症性IL-8の減少は、炎症の付随刺激なしで、傷治癒に関して大きな重要性を与える。
【0057】
【表1】

【0058】
ペプチド構成体SynGia(登録商標) 6Dの相対的なサイトカイン濃度データを、表2で同じように示す。その構造が図2Bで例示されるSynGia 6Dは、コアペプチド配列NQHTPR(配列番号2)を含む。サイトカインは、枝分かれSynGia 6D構成体による4時間のインキュベーションの後、かなり高いか低い濃度(コントロールに対して)で、再び観察された。表2のデータは、このペプチドへのサイトカイン反応の全体のパターンが表1で示されるSynGia HlBのそれと幾分異なるが、それが同様にPDGFのより多い量とIL-8のより少ない量を誘導することを示す。
【0059】
生体内ペプチドの毒性は、マウスを含むがこれに限定されない動物の対象にペプチドを注入することによって試験できる。ペプチドは、注射(静注で、皮下に、筋内に、または、腹膜内に)、局所的(経粘膜的、経口腔的又は経皮的)及び/又は経口的(液体、タブレット又はカプセル)を含むがこれに限定されない多くの手法で投与できる。マウスの予備研究において、1ヵ月間、1日おきに、有効量を注射しても(データ示さず)、動物の成長率に対するペプチドの副作用は、観察されなかった。
【0060】
【表2】

【0061】
[実施例4]
[ペプチドの血管新生向性活性]
腫瘍は、成長を支持するために栄養分を得ることを血管新生に要求する。従って、本発明の構成体の投与の応答としての腫瘍の成長の刺激は、血管形成の徴候である。例えば、ヌードマウス(nu/nu)を有するゼノグラフモデルシステムを、腫瘍を誘発するためにマウスの横腹に注射される786-0の人間の腎臓細胞腺癌細胞系の成長に関してペプチドの影響を決定するために使用した。腫瘍が形成された後に、ペプチドは一日おきに皮下に注射された。腫瘍の重さは、量の計算から推定した。
【0062】
図4は、本発明の一態様の血管新生向性活性の分析から生じるデータを示している。図4の棒グラフは、コアペプチドWNSTL(配列番号1)を4つ含んでいるペプチド構成体SynGia HlBで処理(コントロール群と比較して0.05nmole/gmの投与量)したマウスの腫瘍の平均重量を表す。ペプチドは、抗血管新生薬であるソラフェニブ(Sorafenib)と組み合わせても分析された。図4に示す結果は、構成体SynGia−HlBが投与されたマウスのコントロールに対して、1.7倍、腫瘍の成長がかなり強化されたことを示す。血管形成の抑制剤である薬ソラフェニブは、ペプチドの影響を大きく妨げた(しかし、完全にではない)。
【0063】
[実施例5]
[コアペプチドを含む器具又は物質]
本発明のペプチドは、インプラントのために設計された器具又は物質の生物的に活性な表面、又は不活性で非生物学的表面を含むがこれに限定されない表面に、好適な被覆を提供するために寄託しても良い。
ペプチドは、このように、傷になることなく血管新生を達成するために、インプラント材料のまわりで治癒を促進できる。これらは、組込形センサーを含むがこれに限定されないインビトロ又はインビボの他の用途で同様に使用できる。
【0064】
本願明細書で述べられる態様と実施例は、本発明とその実際上の用途を最良に説明するために提示した。これにより当業者が発明を製作し使用することが可能になる。しかし、当業者は、前述の説明と実施例が例示の目的のみであることを認識するであろう。記載された説明は、排他的でも、開示された正確な形態に限定することも意図しない。前述の特許請求の範囲の精神および範囲から逸脱することなく、前記教示に基づいて、多くの修正変更が可能である。本願明細書の実施例は、傷治癒に関して本発明のペプチドの治療有効性を開示しているが、例えばペプチドは一般に循環の回復にも役立つ。該循環は、例えば糖尿病、損害を受けた組織への循環と他の類似した障害のような慢性の状況により危険な状況になる循環を含む。さらにまた、活性なコア配列を含んでいるより大きなペプチドの使用は、本願明細書で開示した治療的な利益を潜在的に強化できた。
【符号の説明】
【0065】
1 アーム
2 コアペプチド配列
3 スペーサ
4 骨組
10 ペプチド構成体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
m−N−Xn−S−Xp
m−Q−Xn−S−Xp
m−N−Xn−T−Xp及び
m−Q−Xn−T−Xp
及びこれらのフラグメント及び誘導体から成る群から選択される、少なくとも5種のアミノ酸残基を含んで成る少なくとも1種のコア配列を含んで成る治療用ペプチド(ここで、Nはアスパラギン、Qはグルタミン、Sはセリン、Tはスレオニン、Xは天然に存在するL−アミノ酸、m、n及びpは0又はこれより大きい整数)。
【請求項2】
ペプチドが4から8のアミノ酸を含んで成り、整数m、n及びpの合計が2から6の範囲内である請求項1に記載のペプチド。
【請求項3】
ペプチドが、WNSTL(配列番号1)、NQHTPR (配列番号2), WNSTY (配列番号5), YNSTL (配列番号6), YQPSL (配列番号7), VQATQS (配列番号8)及びこれらのフラグメント及び誘導体からなる群から選択される請求項1に記載のペプチド。
【請求項4】
請求項1に記載の少なくとも1個のコア配列を含んで成る血管新生向性ペプチド。
【請求項5】
請求項1に記載の少なくとも1個のペプチドを含んで成る血管新生向性組成物。
【請求項6】
前記組成物が、少なくとも1個のペプチドを含んで成る少なくとも1個の構成体を含む請求項5に記載のペプチド。
【請求項7】
少なくとも1個の構成体が、1から4個のペプチドを含んで成る請求項6に記載のペプチド。
【請求項8】
少なくとも1個の構成体が、少なくとも1個の可変長さ及び組成を有する少なくとも1個のリンカーを含んで成る請求項6に記載のペプチド。
【請求項9】
少なくとも1個の構成体が、分枝している請求項6に記載のペプチド。
【請求項10】
対象に、効果的な量の請求項5記載の組成物を投与することを含む処置方法。
【請求項11】
処置を有害な副反応を生じさせずに行うようにした請求項10に記載の方法。
【請求項12】
処置を有害な炎症を副反応を生じさせずに行うようにした請求項10に記載の方法。
【請求項13】
少なくとも1つのタイプの傷を含む少なくとも1つの医学的状態を処置するための請求項10に記載の方法。
【請求項14】
組成物の投与が、少なくとも1つの治療に有用なサイトカインの生産を刺激する請求項10に記載の方法。
【請求項15】
少なくとも1つのサイトカインが、PDGF−BBである請求項14に記載の方法。
【請求項16】
組成物の投与が、少なくとも1つの治療に有害なサイトカインの生産を禁止する請求項10に記載の方法。
【請求項17】
少なくとも1つのサイトカインが、IL-8である請求項16に記載の方法。
【請求項18】
対象に、特定パターンのサイトカイン分子を導入すこと、及び対象の免疫システムを調節することの少なくとも一方を備え、これにより傷の治癒プロセスを促進するようにした請求項10に記載の方法。
【請求項19】
対象の免疫システムを調節することが、食細胞の活性を刺激することである請求項18に記載の方法。
【請求項20】
注射、局所的及び経口から成る群から選択される少なくとも1種の方法により、組成物が対象に投与される請求項10に記載の方法。
【請求項21】
組成物が、更に薬学的に受け入れられるキャリアを含む請求項10に記載の方法。
【請求項22】
効果的な量の請求項10記載の組成物を対象に投与することを含む対象の血管形成を刺激する方法。
【請求項23】
組成物が、少なくとも1つの目的物又は体の表面に隣接して投与される請求項10に記載の方法。
【請求項24】
少なくとも1つの表面が、生物活性表面及び不活性な非生物的な表面の少なくとも一方である請求項23に記載の方法。
【請求項25】
請求項23に記載の少なくとも1つの表面を有する医療器具。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−513308(P2010−513308A)
【公表日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−541590(P2009−541590)
【出願日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際出願番号】PCT/US2007/087413
【国際公開番号】WO2008/076815
【国際公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【出願人】(509167914)スサヴィオン バイオサイエンシーズ インコーポレイテッド (2)
【Fターム(参考)】