説明

血管炎抗原ペプチドと血管炎診断方法

ペルオキシレドキシンであるヒト血管炎抗原ペプチドと、被験者の血清中に、この抗原ペプチドと結合する抗体が存在するか否かを試験する血管炎診断方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
この出願の発明は、ヒト血管炎の抗原ペプチドと、このペプチドをコードするポリヌクレオチド、並びにこれらを用いた血管炎診断方法に関するものである。
【背景技術】
結節性多発動脈炎などの血管炎症を主体とする一群の疾患(いわゆる血管炎症候群)は、一般に難治性かつ予後不良であり、その病因解明が社会的要請となっている。血管炎に含まれる疾患として、結節性多発動脈炎の他、ウエゲナー肉芽腫症、顕微鏡的結節性多発血管炎、アレルギー性肉芽腫性血管炎、結節性多発動脈炎、側頭動脈炎、高安動脈炎、悪性関節リウマチ、バージャー病、抗リン脂質抗体症候群、川崎病、ヘノッホ−シェンライン紫斑病、リベドー紫斑病、半月体形成腎炎、肺毛細血管炎、チャーグ−ストラウス症候群等、多くの疾病が知られている。また、皮膚筋炎、混合性結合組織病、強皮症、ベーチェット病、シェーグレン症候群、全身性エリテマトーデスなどの膠原病において血管炎を合併しうることが知られている。発症の機序としては自己免疫機序の関与が考えられているが、その詳細は不明である。
一方、各種のヒト疾患に対して、その疾患に特異的な血清マーカーを指標とする分子生物学的診断が普及しつつある。この方法は、抗体と反応性を有する患者血清中の自己抗原ペプチドの存在、または抗原ペプチドに反応する自己抗体の存在を検出するものであり、大がかりな設備を必要とせず、被験者への負担も少ないため、自覚症状のない多くの被験者に対しても広範囲に実施することが可能である。血管炎においても、例えばANCA等の診断的価値のある自己抗体が報告されているが(Bartunkova J,Tesar V,Sediva A.Diagnostic and pathogenetic role of antineutrophil cytoplasmic autoantibodies.Clin Immunol 2003;106:73−82)、ANCA陰性の血管炎も多くあり、診断指標として不十分である。
【発明の開示】
この出願の発明は、以上のとおりの事情に鑑みてなされたものであって、血管炎の診断に有効な新規抗原ペプチドを提供することを課題としている。
またこの出願の発明は、前記の抗原ペプチドをコードする遺伝子材料と、抗原ペプチドに対する抗体を提供することを課題としている。
さらにこの出願の発明は、前記のペプチド、ポリヌクレオチドおよび抗体等を用いた血管炎診断方法を提供することを課題としている。
この出願は、前記の課題を解決するものとして、以下の(1)〜(17)の発明を提供する。
(1)ヒト・ペルオキシレドキシンである血管炎抗原ペプチド。
(2)配列番号2のアミノ酸配列を有するヒト・ペルオキシレドキシン2相同体である前記発明(1)の血管炎抗原ペプチド。
(3)前記発明(1)の抗原ペプチドをコードするポリヌクレオチド。
(4)配列番号1の塩基配列を有し、前記発明(2)のヒト・ペルオキシレドキシン2相同体をコードする前記発明(3)のポリヌクレオチド。
(5)前記発明(3)のポリヌクレオチドをPCR増幅するためのプライマーセット。
(6)前記発明(1)の抗原ペプチドと結合する抗体。
(7)前記発明(6)の抗体とは異なるエピトープと結合する抗体。
(8)被験者から採取した生体試料中の前記発明(1)の抗原ペプチドと結合する抗体を検出し、生体試料中にその抗体が健常者よりも多く存在する被験者を血管炎患者または血管炎ハイリスク者と判定することを特徴とするヒト血管炎診断方法。
(9)抗原ペプチドを固定化した担体上において被験者から採取した生体試料中の抗体と抗原ペプチドとの結合を試験する前記発明(8)の診断方法。
(10)被験者から採取した生体試料中の前記発明(6)の抗体と結合する抗原ペプチドを検出し、生体試料中にその抗原ペプチドが健常者よりも多く存在する被験者を血管炎患者または血管炎ハイリスク者と判定することを特徴とするヒト血管炎診断方法。
(11)前記発明(6)の抗体を固定化した担体上において、抗体と抗原ペプチドの結合を試験する前記発明(10)の診断方法。
(12)被験者から採取した生体試料における前記発明(3)のポリヌクレオチドの存在量を試験し、ポリヌクレオチドの存在量が健常者のそれらと比較して多い被験者を血管炎患者または血管炎ハイリスク者と判定することを特徴とするヒト血管炎診断方法。
(13)少なくとも以下の要素:
(a)前記発明(1)の抗原ペプチド;および
(b)前記発明(1)の抗原ペプチドと結合する抗体に特異的に結合する標識化抗体
からなることを特徴とする血管炎診断キット。
(14)少なくとも以下の要素:
(a)前記発明(1)の抗原ペプチドを固定化した担体;および
(b)前記発明(1)の抗原ペプチドと結合する抗体に特異的に結合する標識化抗体
からなることを特徴とする血管炎診断キット。
(15)少なくとも、前記発明(6)の抗体および/または標識化した前記発明(7)の抗体を含むことを特徴とする血管炎診断キット。
(16)少なくとも以下の要素:
(a)前記発明(6)の抗体;および
(b)標識化した前記発明(7)の抗体
からなることを特徴とする血管炎診断キット。
(17)少なくとも以下の要素:
(a)前記発明(6)の抗体を固定化した担体;および
(b)標識化した前記発明(7)の抗体
からなることを特徴とする血管炎診断キット。
(18)血液に不溶性の担体に固定化されたヒトのペルオキシレドキシンまたはその抗原決定基を含む断片を含む、血管炎の治療剤。
(19)次の工程を含む、血管炎の治療または予防方法。
(a)患者から採取した血液または抗体を含むその分画を、血液に不溶性の担体に固定化されたヒトのペルオキシレドキシンまたはその抗原決定基を含む断片に接触させる工程、および
(b)工程(a)の後に当該血液またはその分画を、患者に戻す工程。
(20)抗体を含む分画が血漿である前記発明(19)に記載の方法。
すなわち、この出願の発明者らは、2次元電気泳動法(例えば、Electrophoresis 22:3019−3025,2001)により血管内皮細胞に特異的な自己抗原ペプチドを網羅的に解析することによって、血管炎患者血清が反応する血管炎抗原ペプチドを同定し、それがペルオキシレドキシンまたはチオレドキシンペルオキシダーゼであることを見出してこの発明を完成させた。ペルオキシレドキシンまたはチオレドキシンペルオキシダーゼはその抗酸化作用や、酸素ストレスに対する細胞反応等に関係する酵素タンパク質として知られているが、血管炎との関係、特に血管炎患者血清中の抗体と特異的に反応することは、従来全く知られていない。
この出願の発明は、以上のとおりの新規抗原ペプチドと、そのペプチドに対する抗体、それらをコードするポリヌクレオチドを基礎とするものである。
なお、この発明において、「タンパク質」および「ペプチド」とは、アミド結合(ペプチド結合)によって互いに結合した複数個のアミノ酸残基から構成された分子を意味する。「ポリヌクレオチド」とは、プリンまたはピリミジンが糖にβ−N−グリコシド結合したヌクレオシドのリン酸エステル(ATP、GTP、CTP、UTP;またはdATP、dGTP、dCTP、dUTP)が100個以上結合した分子を言い、「オリゴヌクレオチド」とは2−99個連結した分子を言う。
また、配列表に示した塩基配列およびアミノ酸配列については、1以上の塩基の付加、欠失、他の塩基への置換、あるいはこれらの塩基変異に基づく1以上のアミノ酸残基の付加、欠失および他のアミノ酸への置換をも包含するものである。
さらに、「ペルオキシレドキシンを認識する抗体」とは、発明(1)の抗原ペプチドと結合する抗体を意味するが、ペルオキシレドキシンと非特異的に結合する抗体は含まない。また、発明(6)および(7)の「抗体」は、発明(1)の抗原ペプチドを免疫原として作製されたポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体を意味する。
この発明におけるその他の用語や概念は、発明の実施形態の説明や実施例において詳しく規定する。またこの発明を実施するために使用する様々な技術は、特にその出典を明示した技術を除いては、公知の文献等に基づいて当業者であれば容易かつ確実に実施可能である。例えば、この発明の診断方法等に使用可能な薬剤の調製はRemington’s Pharmaceutical Sciences,18th Edition,ed.A.Gennaro,Mack Publishing Co.,Easton,PA,1990に、遺伝子工学および分子生物学的技術はSambrook and Maniatis,in Molecular Cloning−A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press,New York,1989;Ausubel,F.M.et al.,Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons,New York,N.Y,1995等に記載されている。
以下、各発明について、実施形態を詳しく説明する。
発明(1)の血管炎抗原ペプチドは、ペルオキシレドキシン(Peroxiredoxin:PRDX)である。このPRDXはまた、チオレドキシンペルオキシダーゼ(Thioredoxin peroxidase)と呼称されることもある。PRDXとしては、PRDX1(GenBank/NM_002574)、PRDX2(GenBank/NM_005809)、PRDX3(GenBank/NM_006793)、PRDX4(GenBank/NM_006406)、PRDX5(GenBank/NM_012094)、PRDX6(GenBank/NM_004905)が公知である。またチオレドキシンペルオキシダーゼとしてはGenBank/BC003609、GenBank/BC007107等が公知である。さらに、PRDX2(チオレドキシンペルオキシダーゼ1)の相同体としてはGenBank/BC003022、GenBank/BC000452が公知である。従って、この発明(1)の血管炎抗原はこれら公知のPRDXを全て包含するが、特に配列番号2のアミノ酸配列を有するPRDX2相同体(GenBank/BC000452)が好ましい(発明(2))。
これらの抗原ペプチド(PRDX)は、例えば、発明(3)のポリヌクレオチドを保有する組換え発現ベクターからインビトロ転写によってRNAを調製し、これを鋳型としてインビトロ翻訳を行うことによりインビトロでペプチドを発現できる。また組換え発現ベクターを大腸菌、枯草菌等の原核細胞や、酵母、昆虫細胞、哺乳動物細胞等の真核細胞に導入して形質転換細胞を作製すれば、この形質転換細胞からペプチドを発現させることができる。
抗原ペプチドをインビトロ翻訳で発現させる場合には、ポリヌクレオチドを、RNAポリメラーゼプロモーターを有するベクターに挿入して組換え発現ベクターを作製し、このベクターを、プロモーターに対応するRNAポリメラーゼを含むウサギ網状赤血球溶解物や小麦胚芽抽出物などのインビトロ翻訳系に添加すれば、抗原ペプチドをインビトロで生産することができる。RNAポリメラーゼプロモーターとしては、T7、T3、SP6などが例示できる。これらのRNAポリメラーゼプロモーターを含むベクターとしては、pKA1、pCDM8、pT3/T7 18、pT7/3 19、pBluescript IIなどが例示できる。
抗原ペプチドを、大腸菌などの微生物で発現させる場合には、微生物中で複製可能なオリジン、プロモーター、リボソーム結合部位、DNAクローニング部位、ターミネーター等を有するベクターにポリヌクレオチドを組換えた発現ベクターを作製し、この発現ベクターで宿主細胞を形質転換したのち、得られた形質転換体を培養すれば、そのポリヌクレオチドがコードしている抗原ペプチドを微生物から発現させることができる。この際、他のタンパク質との融合タンパク質として発現させることもできる。大腸菌用発現ベクターとしては、pUC系、pBluescript II、pET発現システム、pGEX発現システム、pMAL発現システムなどが例示できる。
抗原ペプチドを、真核細胞で発現させる場合には、ポリヌクレオチドを、プロモーター、スプライシング領域、ポリ(A)付加部位等を有する真核細胞用発現ベクターに挿入して組換えベクターを作製し、真核細胞内に導入すれば、抗原ペプチドを形質転換真核細胞で発現させることができる。発現ベクターとしては、pKA1、pCDM8、pSVK3、pMSG、pSVL、pBK−CMV、pBK−RSV、EBVベクター、pRS、pcDNA3、pMSG、pYES2などが例示できる。また、pIND/V5−His、pFLAG−CMV−2、pEGFP−N1、pEGFP−C1などを発現ベクターとして用いれば、Hisタグ、FLAGタグ、mycタグ、HAタグ、GFPなど各種タグを付加した融合タンパク質として抗原ペプチドを発現させることもできる。真核細胞としては、サル腎臓細胞COS7、チャイニーズハムスター卵巣細胞CHOなどの哺乳動物培養細胞、出芽酵母、分裂酵母、カイコ細胞、アフリカツメガエル卵細胞などが一般に用いられるが、この発明の抗原ペプチドを発現できるものであれば、いかなる真核細胞でもよい。発現ベクターを真核細胞に導入するには、電気穿孔法、リン酸カルシウム法、リポソーム法、DEAEデキストラン法など公知の方法を用いることができる。
抗原ペプチドを原核細胞や真核細胞で発現させたのち、培養物から目的ペプチドを単離精製するためには、公知の分離操作を組み合わせて行うことができる。例えば、尿素などの変性剤や界面活性剤による処理、超音波処理、酵素消化、塩析や溶媒沈殿法、透析、遠心分離、限外濾過、ゲル濾過、SDS−PAGE、等電点電気泳動、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィーなどが挙げられる。
なお、以上の方法によって得られる組換え抗原ペプチドには、他の任意のタンパク質との融合タンパク質も含まれる。例えば、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)や緑色蛍光蛋白質(GFP)との融合蛋白質などが例示できる。さらに、形質転換細胞で発現されたペプチドは、翻訳された後、細胞内で各種修飾を受ける場合がある。したがって、修飾されたペプチドも第1発明の抗原ペプチドの範囲に含まれる。このような翻訳後修飾としては、N末端メチオニンの脱離、アセチル化、糖鎖付加、細胞内プロテアーゼによる限定分解、ミリストイル化、イソプレニル化、リン酸化などが例示できる。
以上の方法により得られた抗原ペプチドは、この発明によって提供される血管炎診断方法の材料として使用される。
発明(3)は、発明(1)の抗原ペプチドをコードするポリヌクレオチド(DNA断片、RNA断片)である。具体的には、各ペプチド(タンパク質)をコードするゲノムDNA、ゲノムDNAから転写されるmRNA、mRNAから合成されるcDNAである。また、2本鎖であっても1本鎖であってもよい。さらに、これらのゲノムDNAやmRNA、cDNAのセンス鎖およびアンチセンス鎖も含まれる。またさらに、ゲノムDNAの場合には、その発現制御領域(プロモーター、エンハンサー、サプレッサー領域)をも含む。
これらのポリヌクレオチドは、それぞれ公知の方法によって容易に取得することができる。例えば、cDNAの場合には、公知の方法(Mol.Cell Biol.2,161−170,1982;J.Gene 25,263−269,1983;Gene,150,243−250,1994)を用いてcDNAを合成し、それぞれ公知の塩基配列に基づいて作製したプローブDNAを用いて、それぞれのcDNAを単離する方法によって取得することができる。得られたcDNAは、例えば、PCR(Polymerase Chain Reaction)法、NASBA(Nucleic acid sequence based amplification)法、TMA(Transcription−mediated amplification)法およびSDA(Strand Displacement Amplification)法などの通常行われる遺伝子増幅法により増幅することができる。また、この発明によって提供されるプライマーセットを用い、ヒト細胞から単離したmRNAを鋳型とするRT−PCR法によっても必要量の各cDNAを得ることができる。
このようにして取得されるポリヌクレオチドの好ましい態様は、PRDX2相同体をコードする配列番号1の塩基配列を有するポリヌクレオチド(cDNA)である(発明(4))。
またさらに、この発明(3)ポリヌクレオチドには、その一部連続配列からなるオリゴヌクレオチドも含まれる。このようなオリゴヌクレオチドは、例えば前記のポリヌクレオチド(cDNA)を適当な制限酵素で切断することによっても得ることができる。あるいは、Carruthers(1982)Cold Spring Harbor Symp.Quant.Biol.47:411−418;Adams(1983)J.Am.Chem.Soc.105:661;Belousov(1997)Nucleic Acid Res.25:3440−3444;Frenkel(1995)Free Radic.Biol.Med.19:373−380;Blommers(1994)Biochemistry 33:7886−7896;Narang(1979)Meth.Enzymol.68:90;Brown(1979)Meth.Enzymol.68:109;Beaucage(1981)Tetra.Lett.22:1859;米国特許第4,458,066号に記載されているような周知の化学合成技術により、in vitroにおいて合成することができる。これらのオリゴヌクレオチドは、例えば発明(1)のポリヌクレオチドを単離するためのプローブとして使用することができる。従って、このオリゴヌクレオチドは、標識物質によって標識化されたものも含まれる。標識は、ラジオアイソトープ(RI)法または非RI法によって行うことができるが、非RI法を用いることが好ましい。非RI法としては、蛍光標識法、ビオチン標識法、化学発光法等が挙げられるが、蛍光標識法を用いることが好ましい。蛍光物質としては、オリゴヌクレオチドの塩基部分と結合できるものを適宜に選択して用いることができるが、シアニン色素(例えば、Cy DyeTMシリーズのCy3、Cy5等)、ローダミン6G試薬、N−アセトキシ−N−アセチルアミノフルオレン(AAF)、AAIF(AAFのヨウ素誘導体)などを使用することができる。
発明(5)は、発明(3)のポリヌクレオチドをPCR増幅するためのプライマーセットであり、これはそれぞれ公知の塩基配列に基づき設計し、合成・精製の各工程を経て調製することができる。なお、プライマー設計の留意点として、例えば以下を指摘することができる。プライマーのサイズ(塩基数)は、鋳型DNAとの間の特異的なアニーリングを満足させることを考慮し、15−40塩基、望ましくは15−30塩基である。ただし、LA(long accurate)PCRを行う場合には、少なくとも30塩基が効果的である。センス鎖(5’末端側)とアンチセンス鎖(3’末端側)からなる1組あるいは1対(2本)のプライマーが互いにアニールしないよう、両プライマー間の相補的配列を避けると共に、プライマー内のヘアピン構造の形成を防止するため自己相補配列をも避けるようにする。さらに、鋳型DNAとの安定な結合を確保するためGC含量を約50%にし、プライマー内においてGC−richあるいはAT−richが偏在しないようにする。アニーリング温度はTm(melting temperature)に依存するので、特異性の高いPCR産物を得るため、Tm値が55−65℃で互いに近似したプライマーを選定する。また、PCRにおけるプライマー使用の最終濃度が約0.1〜約1μMになるよう調整する等を留意することも必要である。また、プライマー設計用の市販のソフトウェア、例えばOligoTM[National Bioscience Inc.(米国)製]、GENETYX[ソフトウェア開発(株)(日本)製]等を用いることもできる。
発明(6)の抗体はポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体であり、発明(1)の抗原ペプチドのエピトープに結合することができる全体分子、およびFab、F(ab’)、Fv断片等が全て含まれる。また、発明(7)の抗体は、前記発明(6)の抗体とは異なるエピトーブに結合する抗体である。このような抗体は、例えばポリクローナル抗体の場合には、抗原ペプチドやその一部断片を免疫原として動物を免役した後、血清から得ることができる。あるいは、上記の真核細胞用発現ベクターを注射や遺伝子銃によって、動物の筋肉や皮膚に導入した後、血清を採取することによって作製することができる。動物としては、マウス、ラット、ウサギ、ヤギ、ニワトリなどが用いられる。
また、モノクローナル抗体は、公知のモノクローナル抗体作製法(「単クローン抗体」、長宗香明、寺田弘共著、廣川書店、1990年;″Monoclonal Antibody″James W.Goding,third edition,Academic Press,1996)に従い作製することができる。
発明(7)の抗体は、前記発明(6)の抗体とは異なるエピトープに結合する抗体である。このような抗体は、前記発明(6)の抗体作製のための抗原ペプチド断片とは異なる断片を免疫原とすることによって、前記と同様のポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体として作製される。
発明(6)および(7)の抗体には、それぞれ標識物質によって標識化された抗体も含まれる。標識物質は、酵素、放射性同位体または蛍光色素を使用することができる。酵素は、turnover numberが大であること、抗体と結合させても安定であること、基質を特異的に着色させる等の条件を満たすものであれば特段の制限はなく、通常のイムノアッセイに用いられる酵素、例えば、ペルオキシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、グルコースオキシダーゼ、アセチルコリンエステラーゼ、グルコース−6−リン酸化脱水素酵素、リンゴ酸脱水素酵素、ルシフェラーゼ等を用いることもできる。また、酵素阻害物質や補酵素等を用いたり、アクリジニウム・エステルによって標識することもできる。これら酵素と抗体との結合は、マレイミド化合物等の架橋剤を用いる公知の方法によって行うことができる。基質としては、使用する酵素の種類に応じて公知の物質を使用することができる。例えば酵素としてペルオキシダーゼを使用する場合には、3,3’,5,5’−テトラメチルベンジシンを、また酵素としてアルカリフォスファターゼを用いる場合には、パラニトロフェノール等を用いることができる。放射性同位体としては、125IやH等の通常のRIAで用いられているものを使用することができる。蛍光色素としては、フルオレッセンスイソチオシアネート(FITC)やテトラメチルローダミンイソチオシアネート(TRITC)等の通常の蛍光抗体法に用いられるものを使用することができる。
発明(8)のヒト血管炎診断方法は、被験者から採取した生体試料中の、前記発明(1)の抗原ペプチドと結合する抗体を検出し、生体試料中にその抗体が健常者よりも多く存在する被験者を血管炎患者または血管炎ハイリスク者と判定する。すなわち、発明(1)の抗原ペプチドは、血管炎患者の生体試料中の抗体と結合するペプチドであるから、被験者の生体試料と反応させ、この抗原ペプチドと結合する抗体を健常者よりも多く含む生体試料を、血管炎患者またはそのハイリスク患者の生体試料として判定することができる。抗体の検出は、RIA、ELISA、EIA、CLIA、CLEIA、ルシフェラーゼアッセイ等の各種公知イムノアッセイとして実施することができる。本発明における検出は、定性的であっても定量的であってもよく、抗体を定量する場合は、血管炎の診断、スクリーニング目的のほか、血管炎治療のモニタリング目的としても使用できる。生体試料としては、血液、血清、血漿や血液細胞(単核球等)、尿、骨髄液、唾液等を用いることができる。なおその際に、すでに知られている他の血管炎マーカーを併用することもできる。
具体的な診断は、例えば抗原ペプチドに被験者血清を接触させ、抗原ペプチドと被験者血清中のIgG抗体とを液相中において反応させる。さらに血清中のIgG抗体と特異的に結合する標識化抗ヒトIgG抗体を反応させて、標識化抗ヒトIgG抗体のシグナルを検出すればよい。標識化抗ヒトIgG抗体の標識物質は、前記の標識化抗体において例示したような酵素、放射性同位体または蛍光色素等を使用することができる。酵素を用いる場合には、酵素作用によって分解して発色する基質を加え、基質の分解量を光学的に測定することによって酵素活性を求め、これを結合抗体量に換算し、標準値との比較から抗体量が算出される。放射性同位体を用いる場合には、放射性同位体の発する放射線量をシンチレーションカウンター等により測定する。また、蛍光色素を用いる場合には、蛍光顕微鏡を組み合わせた測定装置によって蛍光量を測定すればよい。化学発光法の場合はアクリジニウム・エステル発光の量を測定すればよい。
シグナルの検出は、例えば、ウエスタンブロット分析を採用することができる。あるいは、抗原ペプチド+生体試料中抗体+標識化抗ヒトIgG抗体の結合体を、公知の分離手段(クロマト法、固相法等)によって分離し、標識化抗ヒトIgG抗体のシグナルを検出するようにしてもよい。なお、このような診断方法の簡便かつ広範囲な実施を可能とするものとして、発明(13)の診断キットが提供される。
発明(8)の診断方法はまた、抗原ペプチドの1種類以上を担体に固定化し、この担体上において被験者生体試料の担体との結合を試験する方法(発明(9))として実施することもできる。抗原ペプチドを担体上に固定化することによって、未結合の標識化結合分子を容易に除去することができる。担体としては、ビーズ、容器内壁、微粒子、多孔質担体、あるいは磁性粒子などが用いられる。これらの固相は、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリビニルトルエン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ナイロン、ポリメタクリレート、ラテックス、ゼラチン、アガロース、ガラス、金属、あるいはセラミック等の素材を利用して成型されたものを利用できる。これらの固相素材の表面に、抗体等を化学的に結合するための官能基を導入した固相素材も知られている。固相と抗体(あるいは抗原)についても、ポリ−L−リジンやグルタールアルデヒド処理といった化学的な結合や、物理吸着といった公知の結合方法を応用することができる。また、このような診断方法の簡便かつ広範囲な実施を可能とするものとして、発明(14)の診断キットが提供される。また特に、数十種類の抗原ペプチドを固定化したメンブレンを用いるプロテインアレイ法では、0.01ml程度の被験者血清を用いて多種類の抗体の発現を短時間で解析することができる。
この出願の発明(10)の診断方法は、被験者の生体試料中の、前記発明(6)の抗体、またはその標識化抗体と結合する抗原ペプチドを検出し、試料中にその抗原ペプチドが健常者よりも多く存在する被験者を血管炎患者またはそのハイリスク者と判定する。すなわち、ここで使用する抗体または標識化抗体は、血管炎を呈した血管内皮細胞で発現している抗原ペプチドと特異的に結合する抗体であるから、この抗体と結合する抗原ペプチドを含む生体試料を、血管炎患者またはそのハイリスク患者の試料として判定することができる。生体試料としては、血液、血清、血漿、血液細胞(単核球等)、尿、骨髄液、唾液等を対象とすることができる。
この発明(10)の診断方法における一つの態様は、抗体と抗原ペプチドとの結合を液相系において行う方法である。例えば、発明(6)の標識化抗体と生体試料とを接触させて標識化抗体と抗原ペプチドを結合させ、この結合体を前記発明(8)と同様の方法で分離し、標識シグナルを同様の方法で検出する。このような診断方法の簡便かつ広範囲な実施を可能とするものとして、発明(15)の診断キットが提供される。
液相系での診断の別の方法は、発明(6)の抗体(一次抗体)と生体試料とを接触させて一次抗体と抗原ペプチドを結合させ、この結合体に標識化した発明(7)の抗体(二次抗体)を結合させ、この三者の結合体における標識シグナルを検出する。あるいは、さらにシグナルを増強させるためには、非標識の二次抗体を先ず抗体+抗原ペプチド結合体に結合させ、この二次抗体に標識物質を結合させるようにしてもよい。このような二次抗体への標識物質の結合は、例えば二次抗体をビオチン化し、標識物質をアビジン化しておくことによって行うことができる。あるいは、二次抗体の一部領域(例えば、Fc領域)を認識する抗体(三次抗体)を標識し、この三次抗体を二次抗体に結合させるようにしてもよい。なお、一次抗体と二次抗体は、両方ともモノクローナル抗体を用いることもでき、あるいは、一次抗体と二次抗体のいずれか一方をポリクローナル抗体とすることもできる。液相からの結合体の分離やシグナルの検出は前記発明(8)と同様とすることができる。また、このような診断方法の簡便かつ広範囲な実施を可能とするものとして、発明(16)の診断キットが提供される。
発明(10)の診断方法における別の態様は、抗体と抗原ペプチドとの結合を固相系において試験する方法である。この固相系における方法は、極微量の抗原ペプチド検出と操作の簡便化のため好ましい方法である。すなわちこの固相系の方法は、発明(6)の抗体を樹脂プレート、ビーズ、メンブレン等の担体に固定化し、この固定化抗体に抗原ペプチドを結合させ、非結合ペプチドを洗浄除去した後、担体上に残った抗体+抗原ペプチド結合体に発明(7)の標識化抗体を結合させて、この標識化抗体のシグナルを検出する方法である。この方法は、いわゆる「サンドイッチ法」と呼ばれる方法であり、マーカーとして酵素を用いる場合には、「ELISA(enzyme linked immunosorbent assay)」として広く用いられている方法である。2種類の抗体は、両方ともモノクローナル抗体を用いることもでき、あるいは、いずれか一方をポリクローナル抗体とすることもできる。シグナルの検出は前記発明(8)と同様とすることができる。また、このような診断方法の簡便かつ広範囲な実施を可能とするものとして、発明(17)の診断キットが提供される。
発明(13)〜(17)の診断キットは、前記発明(8)〜(11)の診断方法を行うための試薬キットである。このようなキットは、被検成分の種類に応じて各種のものが市販されており、この発明の診断キットも、この発明によって提供される抗原ペプチド、抗体および/または標識化抗体を用いることを除き、公知公用のキットに用いられている各要素によって構成することができる。
発明(12)の診断方法は、被験者の生体試料における前記発明(3)のポリヌクレオチドの存在量を試験し、ポリヌクレオチドの存在量が健常者のそれらと比較して多い被験者を血管炎患者またはそのハイリスク者と判定する。具体的な判定基準としては、被験者のポリヌクレオチドの存在量が健常者のそれと比較して、10%以上、好ましくは30%以上、さらに好ましくは70%以上、最も好ましくは100%以上である場合である。
生体試料としては、便や血液、血液細胞(リンパ球等)を対象とすることができる。ポリヌクレオチドの検出、測定は公知のPCR法やRT−PCR法、定量的RT−PCR法等によって行うことができ、その場合のPCRは発明(5)のプライマーセットを用いることができる。
またさらに、発明(12)の診断方法は、この発明によって提供されるポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドを備えたDNAマイクロアレイによっても実施することができる。マイクロアレイの作製方法としては、固相担体表面で直接オリゴヌクレオチドを合成する方法(オン・チップ法)と、予め調製したオリゴヌクレオチドを固相担体表面に固定する方法とが知られている。この発明で使用するマイクロアレイは、このいずれの方法でも作製することができる。オン・チップ法としては、光照射で選択的に除去される保護基の使用と、半導体製造に利用されるフォトリソグラフィー技術および固相合成技術とを組み合わせて、微少なマトリックスの所定の領域での選択的合成を行う方法(マスキング技術:例えば、Fodor,S.P.A.Science 251:767,1991)等によって行うことができる。一方、予め調製したオリゴヌクレオチドを固相担体表面に固定する場合には、官能基を導入したオリゴヌクレオチドを合成し、表面処理した固相担体表面にオリゴヌクレオチドを点着し、共有結合させる(例えば、Lamture,J.B.et al.Nucl.Acids Res.22:2121−2125,1994;Guo,Z.et al.Nucl.Acids Res.22:5456−5465,1994)。オリゴヌクレオチドは、一般的には、表面処理した固相担体にスペーサーやクロスリンカーを介して共有結合させる。ガラス表面にポリアクリルアミドゲルの微小片を整列させ、そこに合成オリゴヌクレオチドを共有結合させる方法も知られている(Yershov,G.et al.Proc.Natl.Acad.Sci.USA 94:4913,1996)。また、シリカマイクロアレイ上に微小電極のアレイを作製し、電極上にはストレプトアビジンを含むアガロースの浸透層を設けて反応部位とし、この部位をプラスに荷電させることでビオチン化オリゴヌクレオチドを固定し、部位の荷電を制御することで、高速で厳密なハイブリダイゼーションを可能にする方法も知られている(Sosnowski,R.G.et al.Proc.Natl.Acad.Sci.USA 94:1119−1123,1997)。このマイクロアレイを使用して血管炎を診断する場合には、例えば被験者の細胞から単離したmRNAを鋳型として、cDNAを合成し、PCR増幅する。その際に、標識dNTPを取り込ませて標識cDNAとする。この標識cDNAをマクロアレイに接触させ、マイクロアレイのキャプチャープローブ(オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチド)にハイブリダイズしたcDNAを検出する。ハイブリダイゼーションは、96穴もしくは384穴プラスチックプレートに分注して標識cDNA水性液を、マイクロアレイ上に点着することによって実施することができる。点着の量は、1〜100nl程度とすることができる。ハイブリダイゼーションは、室温〜70℃の温度範囲で、6〜20時間の範囲で実施することが好ましい。ハイブリダイゼーション終了後、界面活性剤と緩衝液との混合溶液を用いて洗浄を行い、未反応の標識cDNAを除去する。界面活性剤としては、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を用いることが好ましい。緩衝液としては、クエン酸緩衝液、リン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、トリス緩衝液、グッド緩衝液等を用いることができるが、クエン酸緩衝液を用いることが好ましい。
発明(19)の血管炎の治療または予防方法は、患者から血液を取り出して血液中の抗ヒトペルオキシレドキシン抗体を選択的に除去した後、血液を再び患者に戻す方法である。発明(19)の方法は、「(a)患者から採取した血液または抗体を含むその分画を、血液に不溶性の担体に固定化されたヒトのペルオキシレドキシンまたはその抗原決定基を含む断片に接触させる工程」(以下、「接触工程」と略称する。)および「(b)工程(a)の後に当該血液またはその分画を、患者に戻す工程」を含む。実施例に後述するように、本発明者らは血管炎患者の血清中には抗ヒトペルオキシレドキシン抗体が有意に高く存在することを初めて確認した。この結果からは、抗ヒトペルオキシレドキシン抗体が血管炎の発症または進展に強く関連することが示唆される。したがって、血液中の抗ヒトペルオキシレドキシン抗体を除去することにより血管炎の症状の改善または予防が可能になると考えられる。発明(19)の方法では、接触工程において、固定化されたヒトのペルオキシレドキシンまたはその抗原決定基を含む断片によって抗ヒトペルオキシレドキシン抗体が吸着されることによって、上記抗体が血液中から除去される。
患者から取り出した血液は、ヒトペルオキシレドキシン等と接触させる前に、いくつかの分画に分ける処理を施してもよい。例えば発明(20)のように、血液を血漿分離機で血漿分画と細胞分画に分離し、抗ヒトペルオキシレドキシン抗体が存在する血漿分画のみを上記接触工程に付すことができる。抗ヒトペルオキシレドキシン抗体が除去された血漿は、細胞分画と共に再び患者の体内へ戻される。
発明(19)の方法を実施するには、発明(18)の治療剤を用いることができる。発明(18)の治療剤は、ヒトペルオキシレドキシンまたはその抗原決定基を含んだ断片が血液に不溶性の担体に固定化された状態で含まれている。したがって、患者から取り出された血液を該治療剤に通過させると、血液中の抗ヒトペルオキシレドキシン抗体を選択的に除去することが可能である。血液に不溶性の担体として、セルロース、アガロース、セファロース、デキストラン、キチン、キトサン、これらの誘導体、有機または無機の多孔性材料、磁気ビーズ、マイクロビーズなどを使用することができるが、血液に不溶性である限りこれらに限定されない。上記担体にヒトペルオキシレドキシンまたはその抗原決定基を含んだ断片を物理的吸着や共有結合による不溶化によって固定化させ、発明(18)の治療剤とすることができる。
なお本明細書において引用された全ての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
【図面の簡単な説明】
図1aは、細胞抽出タンパク質を2次元電気泳動法で分離展開し、クマシー染色にて可視化した写真である。図1bは、展開したタンパク質をニトロセルロース膜に転写し、血管炎患者4名の血清と反応させた写真である。
図2は、MBPおよび融合タンパク質MBP−BC452を1次元電気泳動し、ペルオキシダーゼ標識Ni−NTAで染色した結果を示す写真である。
図3は、組換えBC000452を抗原ペプチドとして固相化したELISAによる血管炎診断の結果を示す写真である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、実施例を示してこの出願の発明についてさらに詳細かつ具体的に説明するが、この出願の発明は以下の例によって限定されるものではない。
実施例1:血管炎抗原ペプチドの同定
ヒト臍帯静脈由来内皮細胞(HUVEC)とHeLa細胞(対照)を用い、それぞれから尿素、チオ尿素、CHAPSを含む溶液でタンパク質を溶出し、これを等電点電気泳動および分子量によるSDS−PAGEを組み合わせた2次元電気泳動法で分離展開し、クマシー染色にて可視化した(図1a)。次いで、展開したタンパク質をさらにニトロセルロース膜に転写し、血管炎患者4名の血清と反応させた(図1b)。患者血清中抗体と反応するタンパク質(自己抗原ペプチド)が、図1b中に番号で示したものを含め、複数個同定された。
次に、図1aのゲルから、図1bで同定された陽性タンパク質スポット28と一致するタンパク質を切り出して回収し、トリプシン消化によってゲルから抽出した。この消化ペプチドの質量を飛行時間型質量分析器を用いたmass−fingerprinting法により決定し、検索ソフトウエア(マスコット)によるタンパク質データベース検索から質量の一致する候補タンパク質を選択した。
その結果、この抗原ペプチドが、PRDX2相同体(GenBank/BC000452)であることが確認された(以下、このペプチドを「BC452」と記載することがある)。
実施例2:BC452の抗原性の確認
実施例1で同定したBC452が、真に患者自己抗体に反応する抗原であるかを確かめるために、組換えBC452を作成した。
臍帯静脈由来血管内皮細胞より調整したmRNAからRT−PCR法により、BC452 cDNA(配列番号1)のコード領域を増幅し、大腸菌蛋白発現ベクター(pMAL−cHis)にクローニング後、大腸菌に導入し、マルトース結合タンパク質(MBP)との融合タンパク質として発現させた。
結果は図2aに示したとおりである。この図2aは、MBP(コントロール)および融合タンパク質MBP−BC452を精製の後、1次元電気泳動し、さらに、各タンパク質のC端に位置するヒスチジンタグを認識するNi−NTAで染色した結果であり、それぞれのタンパク質が産生精製が確認された。
次いで、MBPおよび融合タンパク質MBP−BC452を同一レーンで展開し、個別に各種血管炎患者血清と反応させた。結果は図2bに示したとおりであり、上部のバンド(融合タンパク質MBP−BC452)がMBPに比較して格段に濃く染色されたことから、BC452に対する自己抗体が各種血管炎患者血清血清中に存在することが確認された。
実施例3:ELISAによる診断
実施例2で調製した組換えBC452を抗原ペプチドとして固相化し、被検血清を反応させ、さらにペルオキシダーゼ標識抗ヒトIgG抗体を反応させて、ペルオキシダーゼの基質を加えて発色させ、抗原ペプチドと血清中抗体との結合を検出した。被験血清として、血管炎患者(ウェゲナー肉芽腫症、顕微鏡的多発血管炎、アレルギー性肉芽腫性血管炎、結節性多発動脈炎、側頭動脈炎、高安病、悪性関節リウマチ、バージャー病、全身性エリテマトーデス)、血管炎の無い膠原病患者、健常人の血清を用いた。
図3は、発色反応をOD値として数値化したものである。健常人の平均OD値にその標準偏差の3倍を加えた値を100単位と定義し、それより単位数の高い血清を陽性と判定した。BC452に対する自己抗体は血管炎患者の68%で検出され、血管炎の無い膠原病患者では15%、健常人では0%であった。この結果から、抗原ペプチドBC452対する自己抗体の検出は血管炎を診断する上で極めて有用なマーカーとなることが確認された。
【産業上の利用可能性】
以上詳しく説明したとおり、この出願の発明によって、血管炎の診断用マーカーとして有用な新規抗原ペプチドと、これらを用いた血管炎診断方法が提供される。これによって、血管炎の早期かつ高精度の診断が可能となる。【配列表】




【図1】

【図2】

【図3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト・ペルオキシレドキシンである血管炎抗原ペプチド。
【請求項2】
配列番号2のアミノ酸配列を有するヒト・ペルオキシレドキシン2相同体である請求項1の血管炎抗原ペプチド。
【請求項3】
請求項1の抗原ペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項4】
配列番号1の塩基配列を有し、請求項2のヒト・ペルオキシレドキシン2相同体をコードする請求項3のポリヌクレオチド。
【請求項5】
請求項3のポリヌクレオチドをPCR増幅するためのプライマーセット。
【請求項6】
請求項1の抗原ペプチドと結合する抗体。
【請求項7】
請求項6の抗体とは異なるエピトープと結合する抗体。
【請求項8】
被験者から採取した生体試料中の前記発明(1)の抗原ペプチドと結合する抗体を検出し、生体試料中にその抗体が健常者よりも多く存在する被験者を血管炎患者または血管炎ハイリスク者と判定することを特徴とするヒト血管炎診断方法。
【請求項9】
抗原ペプチドを固定化した担体上において被験者から採取した生体試料中の抗体と抗原ペプチドとの結合を試験する請求項8の診断方法。
【請求項10】
被験者から採取した生体試料中の請求項6の抗体と結合する抗原ペプチドを検出し、生体試料中にその抗原ペプチドが健常者よりも多く存在する被験者を血管炎患者または血管炎ハイリスク者と判定することを特徴とするヒト血管炎診断方法。
【請求項11】
請求項6の抗体を固定化した担体上において、抗体と抗原ペプチドの結合を試験する請求項10の診断方法。
【請求項12】
被験者から採取した生体試料における請求項3のポリヌクレオチドの存在量を試験し、ポリヌクレオチドの存在量が健常者のそれらと比較して多い被験者を血管炎患者または血管炎ハイリスク者と判定することを特徴とするヒト血管炎診断方法。
【請求項13】
少なくとも以下の要素:
(a)請求項1の抗原ペプチド;および
(b)請求項1の抗原ペプチドと結合する抗体に特異的に結合する標識化抗体
からなることを特徴とする血管炎診断キット。
【請求項14】
少なくとも以下の要素:
(a)請求項1の抗原ペプチドを固定化した担体;および
(b)請求項1の抗原ペプチドと結合する抗体に特異的に結合する標識化抗体
からなることを特徴とする血管炎診断キット。
【請求項15】
少なくとも、請求項6の抗体および/または標識化した請求項7の抗体を含むことを特徴とする血管炎診断キット。
【請求項16】
少なくとも以下の要素:
(a)請求項6の抗体;および
(b)標識化した請求項7の抗体
からなることを特徴とする血管炎診断キット。
【請求項17】
少なくとも以下の要素:
(a)請求項6の抗体を固定化した担体;および
(b)標識化した請求項7の抗体
からなることを特徴とする血管炎診断キット。
【請求項18】
血液に不溶性の担体に固定化されたヒトのペルオキシレドキシンまたはその抗原決定基を含む断片を含む、血管炎の治療剤。
【請求項19】
次の工程を含む、血管炎の治療または予防方法。
(a)患者から採取した血液または抗体を含むその分画を、血液に不溶性の担体に固定化されたヒトのペルオキシレドキシンまたはその抗原決定基を含む断片に接触させる工程、および
(b)工程(a)の後に当該血液またはその分画を、患者に戻す工程。
【請求項20】
抗体を含む分画が血漿である請求項19に記載の方法。

【国際公開番号】WO2004/094638
【国際公開日】平成16年11月4日(2004.11.4)
【発行日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−505770(P2005−505770)
【国際出願番号】PCT/JP2004/005729
【国際出願日】平成16年4月21日(2004.4.21)
【出願人】(596165589)学校法人 聖マリアンナ医科大学 (53)
【出願人】(390004097)株式会社医学生物学研究所 (41)
【Fターム(参考)】