説明

血行動態モニタリング装置

【課題】再較正の間隔が適正となるように自動的に較正開始信号を送出する血行動態モニターリング装置を提供する。
【解決手段】n個のコンポーネントを有し、時系列上の第1の点において生成されたn次元タプルと、n個のコンポーネントを有し、時系列上の後続の点において生成された少なくとも1つの他のn次元タプルとの間でリレーションが生成され、ここで、nは1以上の自然数であり、コンポーネントは、少なくとも1つの算出されたパラメータ、及び1つの読み込みデータ値の一方又は両方を有する。このリレーションが所定の較正基準を満足すれば、較正信号が送出されるとともに表示されること、及び血行動態モニタリング装置の再較正が自動的に開始されることの、一方又は両方が行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般には患者の血行動態のモニタリングに関し、詳細には、少なくとも一つの物理変数を示すデータを繰り返し読み込むための手段、読み込まれたデータから少なくとも一つのパラメータを計算するための計算手段、及び装置を較正するための較正手段を備える血行動態モニタリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
患者の血行動態のモニタリングのために用いられる多様な装置が既知であるが、基礎的な血行動態モニタリング(心電図検査(EKG)、パルスオキシメトリ検査、連続的又は間歇的な血圧測定及び中心静脈圧(CVP)測定を含む)と、拡張された血行動態モニタリングとの間で、臨床的な観点において、区別がなされる。拡張された血行動態モニタリングはまた、心拍出量(CO)、中心静脈酸素飽和度(Scv02)、他器官との間における心前負荷及び心後負荷のような、心臓血管のパラメータ全般の記録及び判定を含む。方法論的な意味において、種々の標識希釈法(肺内外熱希釈法、リチウム希釈法、及び非侵襲希釈法(たとえばCOベース))を用いた心拍出量の判定に加えて、オキシメトリー、圧波形分析式心拍出量測定法(PCCO)、経食道心エコー法、及び肺動脈カテーテル留置の手法が適用可能である。
【0003】
原則的には、本発明は患者の血行動態のモニタリングに用いられる多様なシステムへの適用に関するいかなる制限も受けないものであるが、本発明は特に、患者のモニタを、たとえば圧波形分析や熱希釈測定の一方又は両方を用いる、望ましくはカテーテルを用いた、圧力又は温度の一方又は両方についての血行動態モニタリングの処理の一部としての、較正又は再較正することに関するものである。このような患者のモニタは、従来の技術からも多様な形態において既知である。カテーテルを用いた圧力及び温度の一方又は両方の測定は、平均動脈圧(MAP)、心拍出量(CO)、心臓拡張末期容量(GEDV)、及び血管外肺水分量(EVLW)のような血行動態パラメータを判定する際に、用いられる。
【0004】
動脈圧測定を経て記録された圧波形の分析により、たとえば、脚の動脈において連続的に測定された血圧曲線の軌跡(「形状」又は波形)から心臓の心拍出量を数学的手法を用いて算出し、各心拍ごとの心拍出量(SV)を判定することが可能になる。これらの状況において、末梢動脈において測定された血圧は、大動脈における血圧とほぼ等しい。この数学的手法の基本は、動脈血圧曲線に含まれる情報を、展開し、かつ臨床的に利用可能に表示することである。心拍出量は、拡張期血圧よりも上にある、血圧曲線よりも下の領域から算出され、大動脈弁が開いている時間に対応する。このようにして、圧波形分析は、呼吸サイクルにわたる呼吸に起因する心拍出量の変化(心拍出量変動 SVV)を判定するために利用可能であるが、このSVVは、心前負荷の変動の結果として発生し、そのため左心室の体積応答の評価において利用可能である。
【0005】
非線形ウインドケッセルモデルに基づく圧波形分析を用いた心拍出量(CO)の判定は、EP0947941B1に記載されている。
【0006】
圧波形分析は、通常は標識希釈法又は熱希釈法によって較正される。これ以外に商品化されている熱希釈システムの大半は、低温標識、言い換えれば冷却ボーラス投与を用いる。肺内外熱希釈法による測定においては、定量の冷却液が被検体の静脈に注入され、肺内外の血液温度の変化が、周辺の動脈(たとえば、橈骨付近又は大腿部の動脈)に設置されたサーマルプローブを用いて記録される。熱希釈法の過程における温度の測定は、通常はサーミスタ、すなわち熱抵抗検出器(RTD)を用いておこなわれる。RTDの利用は、安定性と高い精度によって広く行われており、また全域にわたって線形の測定信号を持つ。
【0007】
肺内外熱希釈法による測定の方法及び装置は、US5,526,817及びUS6,394,961その他に記載されている。US5,526,817には、患者の循環的充満状態を評価する目的で、多様な体積及び体積流量、とりわけ、心臓拡張末期容量(GDEV)、胸腔内血液量(ITBV)、肺動脈内血液量(PBV)、血管外肺水分量(EVLW)、胸腔内熱容積(ITTV)、肺動脈内熱容積(PTV)、及び総心拍出機能指数(CFI)が測定される、熱希釈法における循環的充満状態を判定する手法が、記載されている。
【0008】
上記のように、熱希釈法及び圧波形分析法は、しばしば組み合わせて用いられ、それによって熱希釈の測定を圧波形法の較正に、より優れた形で組み入れることが可能になる。この場合には、既知の圧波形法アルゴリズムはあらゆる状況下で安定性を保証されるものではないため、圧波形法を用いたCOの連続的な測定において充分な信頼性を保証するために、初期較正の後に、日常的な臨床実務における標準的な較正間隔として、毎日2〜3回の較正が求められる。間隔を長くすれば、資源や人員の関与を減らすことができ、おそらく同時に熱希釈測定に関しては容積的な過負荷を回避することはできるが、一方で再較正の間隔を極端に長くし過ぎると、臨床的な状況の変動、カテーテルの位置ずれ、又は不整脈のような較正の間に起こる変化は、システムの再較正を促すようなものでないため、臨床的な評価の誤差を招いてしまう。
【発明の概要】
【0009】
関連の技術から既知の装置及び方法に基づき、本発明の現在の課題は、上記に概略を述べた短所を除去又は著しく減少させた、患者の血行動態モニタリングのための装置及び方法を提供することである。
【0010】
この課題は、患者の血行動態モニタリングに関して、実際のニーズに合わせて調整された自動又は手動の較正又は再較正を行うことによって、解決される。
【0011】
従って、第1の態様において、少なくとも一つの物理変数を示すデータを、繰り返し読み込む読み込み手段と、読み込まれたデータの助けを借りて、少なくとも一つのパラメータを計算する計算手段と、装置を較正する較正手段とを備え、さらに較正信号を送出するトリガ手段とを備えた、患者の血行動態モニタリングのための装置を提供する。この場合、トリガ手段は、読み込みデータ、又は少なくとも一つのパラメータの一方又は両方の時系列的な変化に応じて、較正信号を送出するように設計されている。本発明は、そのようにして、関連する技術と比較して、較正過程を著しく改善することを可能ならしめる、患者の血行動態モニタリングのための装置を提供する。本発明における再較正の技術はまた、患者における実際の変化にも基づくものであり、それゆえ患者の以前の状態と比較して全体の血流状況に著しい変化を生じたときに、再較正は高い信頼性を持って開始され得る。本発明に基づく装置及び対応する方法では、たとえば繰り返しの熱希釈法測定の一部としての不必要な測定や不必要な容積負荷は、不必要な付加的な資源及び人員の使用と同様に、回避され得る。本発明に基づく装置及び方法はまた、実際の変化に関して、情報のより高い有効性も提供できる。
【0012】
好ましい実施において、トリガ手段を、1又はより大きい整数nに対して、少なくとも一つのパラメータ又は読み込みデータの一方又は両方を組み合わせるn個のコンポーネントを持つn次元タプルを形成するように、設計してもよい。n>1のコンポーネントの(n>1次元の)タプルが用いられるのが好ましい。トリガ手段はまた、リレーション、好ましくは各n次元タプルがn個のコンポーネントを備えた、時系列上の第1のポイントにおいて定義された一つのn次元タプルと、時系列上におけるより遅い少なくとも一つのポイントにおいて定義された一つのn次元タプルとの間の、一変量又は多変量の解析処理を介する算術的リレーションであるものを構成してもよい。とりわけ、n>1次元のタプルの場合においては、多変量の解析処理を用いることが優れている。しかしながら一変量処理も、対応するデータ削減又は重み付けを伴って、使用可能である。時系列上の第1のポイントにおいて定義された一つのn次元タプルと、時系列上におけるより遅い少なくとも一つのポイントにおいて定義された一つのn次元タプルとの間の相違が定義されることが好ましい。一般に、相違は、たとえば時系列上の多数の点によって定義される或る期間にわたる変化の定義の一部として定義されるが、時系列上の第1のポイントと第2のポイントとの間の相違が定義されることが好ましい。
【0013】
他の好ましい実施形態において、トリガ手段は数学的クラス分け手法を実行すべく設計される。好ましくは、このクラス分け手法は、サポートベクトルマシン、又は判別関数解析として実装される。判別関数解析は、2つ、又はより多数のグループを判別するための多変数統計的処理の一手法として理解される。これらのグループは、複数の要素として(たとえば、変数として)記述される。本発明に基づく装置においては、判別関数解析から算出される判別変数Yの意味が、トリガ手段によって定義されてもよい。第1の、及びこれにつづく第2の定義から算出された判別変数Yが、較正の一時的に近い時間間隔において定義され、判別変数Ykalから予め定義された乖離値だけ異なる場合に、較正信号がトリガ手段から送出されてもよい。この場合、乖離値は絶対値、又は前回確立された値に対する百分率によって定義されてもよい。利便性のある乖離値は、最近定義された判別変数Yが判別変数Ykalから5%ないし15%乖離しているものである。これに代えて、判別変数Y及びYm+1のうち後者は前者から直接定義されるものであり、判別分析によって相関を備えてもよい。
【0014】
前回の較正によるパラメータ又は変数が、(まだ)利用可能でないため、初期較正以前には、n−1個、又はn−(>1)個のコンポーネントしか持たないn次元タプルが、好ましくは熱希釈法によって、定義されてもよい。トリガ手段による第1の、及びこれに続く第2の定義から算出される判別変数Ykalが、(特に初期状態で)測定された変数、又は何か他の手法によって予め定義された比較値(保存された、又は予め入力された)である予め定義された参照変数Yから予め定義された乖離値だけ異なっている場合には、較正信号が送出されてもよい。この場合には、n−1個、又はn−(>1)個に縮小されたn次元タプルが、システムの変更の指標としても利用可能である。
【0015】
本発明による、好適な別の実施形態において、トリガ手段が線形判別分析を行ってもよい。一般に、たとえば平方の、正規化された、対角線形の、又は最近傍重心形の判別分析も、利用可能ではあるが、線形判別分析の方が、モデル化の複雑さを低く抑えて実行することが容易であるという点において、より優れている。さらに、大規模に符合する共分散行列で分散されたデータセットは、線形判別分析の目的によく組み入れられる。これにより特に、用いられたデータセットに対する、正確に定義されるべき判断の制限(再較正の可否)が可能になる。
【0016】
n個のコンポーネントを備えたn次元タプルは、好ましくは、血行動態に影響を及ぼす薬物の特性及び血行動態に影響を及ぼす呼吸のパラメータと同様に、心拍数(HR)、心拍期間(T)心拍出量(SV)、平均動脈血圧(MAP)、圧波形分析式心心拍出量(PCCO)、熱希釈式心拍出量(COTD)、心拍出量変動(SVV)、全身血管抵抗(SVR)、拍出圧変動(PPV)、流体応答指数(FRI)、心室収縮性(たとえばdPmx)、動脈内血圧又は心室内血圧の一方又は両方(たとえばRAP,RVEDP,LVEDP)、心電図のセクションデータ及び心電図の間隔から、少なくとも一つのパラメータを選択して含んでもよい。適切な心電図のセクション及び心電図の間隔は、たとえば、P波、T波、QRS複合の波高及び波幅、PQ間隔、STセグメントの長さである。心臓の脈拍を乱す期外収縮及び他の要因も考慮されてよい。たとえば、血行動態に影響を及ぼす薬物の特性は、所与の薬物の投薬量を含んでもよく、血行動態に影響を及ぼす呼吸パラメータは、終末呼気陽圧(PEEP)、平均気管内圧、又は換気モードを含んでもよい。
【0017】
n次元タプルは特に、好ましくは、侵襲を全く必要としない又は最小限の侵襲で済む、言い換えれば可能な限り簡潔な既知のモニタリング装置により測定及び/又は定義可能な、最大限の有意性が見込まれる、少なくとも一つのパラメータを含んでもよい。特に、パラメータとしては、先行する較正を用いることなく決定され、参照値及び/又は先行値からの乖離が容易に取得可能であることのいずれか又はすべてを備えることが好ましい。本発明の目的のために、これらは、より多くの侵襲過程を伴うことなく好適に定義可能であり、その定義は、心拍数、心拍期間、推定平均動脈血圧、及び何らかの心電図のパラメータなど、システム上の小さな誤差の影響を受けるに過ぎないすべての心血管パラメータを含む。侵襲を伴わない、より複雑な過程を経て決定されるパラメータ、たとえば延長エコー心電図又はインピーダンス心電図も、n次元に構成されたタプルのコンポーネントとして利用可能である。圧波形分析式心拍出量(PCCO)、全身血管抵抗(SVR)、及び熱希釈式心拍出量(COTD)のパラメータは特に、最小限の侵襲で血行動態をモニタリングする適切な測定配置と、たとえば圧波形分析法及び熱希釈測定法の一方又は両方を用いた、カテーテルにより伝達される圧力測定又は温度測定の一方又は両方の助けによって、容易に得られる。
【0018】
本発明による装置のさらなる実施形態において、n個のコンポーネントを持つn次元タプルが、動脈血圧(P)、中心静脈圧(CVP)、血流温度(Tb)、周辺酸素飽和度(Sp02)、中心静脈酸素飽和度(Scv02)のグループの中から選ばれる少なくとも一つのデータ値を含んでもよい。このn次元タプルは特に、好ましくは、測定、又は侵襲を全く必要としないか、又は最小限の侵襲で済む、言い換えれば可能な限り簡潔な既知のモニタリング装置を用いて定義可能な、可能な最大限の重要性を持つデータ値を持ってもよい。特に、データ値としては、先行する較正を用いることなく決定されるもの、参照値及び/又は先行値からの乖離が容易に取得可能であるもののいずれか又はすべてを備えたものが望ましい。
【0019】
本発明による装置のさらなる実施形態において、n個のコンポーネントを備えたn次元タプルの第1及び少なくとも一つの後続の定義の間の一時的な間隔は、1時間より短くてもよい。この面において、望ましい一時的な間隔は、n次元タプルのコンポーネントに基づいて変動する。特に、侵襲を伴わずに測定できる、又は容易に得られる、その一方又は両方が可能なパラメータ及びデータ値(たとえば HF、Sp02)、を持つn次元タプルにおいては、個別のタプルごとの定義の間に、短い時間隔が選択されてもよい。これに応じて、タプルのコンポーネントが、侵襲を伴う手段により測定可能な、又はより入手が難しいパラメータ及びデータ(たとえばScv02)を持っている場合には、個別のタプルの定義の間に、より長い間隔を選択できる。時間間隔は、数拍又は1拍の心拍に対して、15分を超えてはならない(再較正が必要であるか否かの判断に要する、拍間の評価)。特に時間間隔が短い場合には、好ましくはあらゆる初期較正を必要とせず、また既知のモニタリング装置を用いることによって、容易に測定及び算出の一方又は両方を行えるようなデータ値又はパラメータの一方又は両方を用いているときには、パラメータの間隔は連続的に定義できる。
【0020】
実現を容易にするため、又は或る較正手法に関連して侵襲過程をあまりに頻繁に行うことによる望ましくない副作用を回避するために、2回の連続する較正の間に、予め定義された最小時間間隔、たとえば、10秒、30秒、1分、5分、10分、15分、又は30分を設定することや、単位時間ごとの最大較正回数を設定すること、たとえば、1時間ごとに2回ないし20回の任意の回数とすることの、一方又は両方を行うことも好適である。このような較正の最小時間間隔及び単位時間ごとの最小回数は、本発明を適用する環境に、たとえば、較正方法の複雑さや特定の較正方法と組み合わされて実行されるステップにおける侵襲の程度に、大きく依存して変動する。
【0021】
トリガ手段が、所定の時間間隔の間に一時的に発生するとともに、過去の直近の時点にて算出されるパラメータと、将来の直近の時点にて算出されるパラメータとの両方から、同じ方向に乖離(「外れ値」)して、所定の時刻に読み込まれるデータ及び所定の時刻にて算出されるパラメータの一方又は両方について、その重みを減少させるように、読み込みデータ及び少なくとも一つのパラメータの一方又は両方が、それぞれ別の方向へ連続的に変動することを(好ましくは、フィルタリング又は平均化によって)を考慮して設計される場合が特に好ましい。この重み付けは、値選択アルゴリズムによって「外れ値」の時点を無視する限り、次第に縮小されてもよいが、たとえば簡潔に、連続するパラメータやデータ値を平均化することによっても得られる。読み込みデータ及び少なくとも一つのパラメータの一方又は両方における、一致しない時系列的に連続的な変化に関するこの扱いは、説明的には、読み込みデータや読み込みパラメータの時系列的な傾向を平滑化するものとして、理解されよう。
【0022】
本発明による装置のさらなる実施形態において、トリガ手段によって送出される較正信号が、自動較正又は再較正を初期化してもよい。通常は習慣的な臨床過程として行われる手動による較正又は再較正は、対応する自動的な較正又は再較正をもって代えられてもよい。自動的な較正又は再較正は、較正過程に付加的な侵襲を何も必要としないか、又は最小限の侵襲が必要なだけである場合には、このようにして特に好適に実行される。この場合、たとえば、電子的に制御可能な注入ポンプを介してのボーラス投与が考慮可能である。一方、EP1236435A1に記載されているように、冷間ボーラス投与を必要としないが、代わりに発熱体あるいはペルチェ冷却素子、又は同様のものによる局部的な温度乖離を用いることが熱希釈技術が用いられてもよい。
【0023】
さらに別の実施形態において、較正信号の送出は、較正信号の表示が、すべての場合において連続的に表示される値の表示を超えて継続する、たとえば標準的なディスプレイ装置又は音響発生器によって、可視的及び/又は可聴的に示されてもよい。言い換えれば、ディスプレイは表示された数値の変化を反映するだけにとどまらず、使用者がこの値の比較を自発的に行わなくても、較正信号の送出がこの変化を好適に使用者に対して知らせるものである。それゆえ、あらゆるケースにおける測定値の連続的表示や、そこから算出されるパラメータの連続的表示だけが、本発明の実施形態が目的とする較正信号の出力ではない。
【0024】
較正が自動的に開始されると、好ましくはこのことが使用者に対して可聴的又は可視的な信号によって通知される。しかし、代替の有利な実施形態によれば、信号を通知された使用者も、手動割り込みによって再較正を開始できる。そして、この較正信号は単に較正又は再較正の実行が必要であることを知らせるだけでなく、このようにして、臨床的な状況の評価の判定を使用者に委ねる長所がある。また同様に、使用者からのさらなる信号を伴わずに、のちに自動較正が実行されるような個別に調整された可変の時間間隔を、使用者が特定できる点に基づく、優れた改良を組み入れることも可能である。
【0025】
本発明の有利なさらなる実施形態によれば、トリガ手段は、読み込みデータ及び少なくとも一つのパラメータの一方又は両方における時系列上の変化の傾向に関して、2ステージ又はマルチステージのチェックを行うように構成されてもよい。この場合、2ステージ又はマルチステージのチェックは、較正信号の送出を引き起こすとともに、読み込みデータ及び少なくとも一つのパラメータの一方又は両方における時系列上の変化に依存する、少なくとも2つの送出基準の階層的なチェックを含む。たとえば、トリガ手段は、まず或るパラメータ又は測定値が、所定の期間内に所定の倍数を超えて変化したか否かをチェックしてもよく、この基準を満足する場合には、トリガ手段は、第2の基準として、この変化が、所定の期間にわたって、どれほど確実に起こったかをチェックするようにしてもよい。特に確実な変化は、たとえば水準線の変位と解釈され、較正信号を送出する。較正信号の送出基準に関する他の階層的チェックも、同様に組み入れ可能である。
【0026】
別の望ましい実施形態において、この装置は付加的に、較正の直近以前に読み込まれたデータと直近以後に読み込まれたデータとの間、及び較正の直近以前に定義された少なくとも一つのパラメータと直近以後に定義された少なくとも一つのパラメータとの間の、一方又は両方の間の算術的なリレーションを評価するための評価手段を備える。この場合、直近とは、測定又はパラメータの定義が較正の直前又は直後に行われたか、別の測定又はパラメータの定義が較正の前後の或る期間の間に行われたか、をも意味し、ここに或る期間は短い、すなわち言い換えれば好ましくは2分未満を意味し、とりわけ好ましくは1分未満を意味するものとする。
【0027】
この評価手段は、再較正の評価や再較正された血行動態パラメータの評価を実行するために用いられてもよい。たとえば、再較正の直前に定義された圧波形分析式心拍出量と、再較正の直後に定義された圧波形分析式心拍出量との間には、相関が有り得る。この過程において、評価手段は、読み込みデータ及び少なくとも1つのパラメータの一方又は両方の時系列上の変化に対して再較正が必要か否かを、2つのパラメータの間の乖離の幅に基づいて評価するようにしてもよい。測定されたデータ、又は較正の直前と直後に算出されたパラメータの間で、差異が無いか、又はわずかな差異しか無い場合には、読み込みデータ及び少なくとも1つのパラメータの一方又は両方の時系列上の過度の変化は、生理学的な原因によるものであり、測定又は計算の誤差に帰することのできないものである、と評価されてもよい。
【0028】
この評価手段はまた、トリガ手段によって計算に入れられたn次元タプルにおけるデータ値又はパラメータを評価するように機能してもよい。たとえば、問題の血行動態パラメータが再較正以降変化していない場合、データ値又は少なくとも1つのパラメータにおける時系列上の変化は、着目している血行動態パラメータを以て患者の状態の変化を正確に示すためには適切でない、とトリガ手段によって解釈されてもよい。このようにして、評価手段によって実行される評価はまた、パラメータ及びn次元タプルのデータ空間の対応する評価を実行するとともに、これを必要に応じて更新するように機能してもよい。この評価及び更新の一方又は両方はまた、たとえば対応するアルゴリズムによって自動的に実行されてもよく、また装置の「学習過程」(機械学習)になってもよい。n個のコンポーネントから成るn次元タプルは、この評価に対して、たとえば個別のコンポーネントごとに異なる重み付けを施した、又はコンポーネントを取捨選択した結果に基づいて、更新されてもよい。
【0029】
別の望ましい実施形態において、この装置はさらに、患者に関する特定の情報を入力する入力手段を備える。この患者に関する特定の情報には、分類情報や生体測定法上の情報が含まれてもよい。このようにして、特に初期較正の間に、参照値の定義に生体測定法上のデータを含めることが可能になる。しかし、生体測定法のデータを用いることはまた、読み込みデータ値及びパラメータにインデックスを付与でき、このようにしてインデックスを付与された読み込みデータ値及びパラメータの統計学的重要性及び臨床的重要性の一方又は両方を引き上げられるため、n>1個のコンポーネントを持つn次元タプルを生成するためにも優れている。入力された情報に依存する較正の基準も、同様に確立されてもよい。所与のパラメータの変化の予測を促進する分類に患者が属するか(おそらくは、血行動態のモニタリング中に、患者が或る一連の治療状況下に在るため)否かによって、トリガ手段が、較正信号を送出すべきか否かを判断する際に、これらのパラメータ又は測定値の重要度を加減するようにしてもよい。言い換えれば、これによって、再較正が必要であるか否かの評価からパラメータ及び測定値を排除するような変化が可能になる。たとえば、患者に解熱剤が投与されている場合には、較正信号を送出するための入力値として血流温度を通常のように考慮する評価アルゴリズムにおいては、測定された血流温度を無視することが自然であろう。
【0030】
さらに別の態様では、本発明は、少なくとも一つの物理変数を示すデータの読み込みと、読み込まれたデータを用いての少なくとも一つのパラメータの算出と、読み込まれたデータ及び少なくとも一つのパラメータの一方又は両方の時系列上の変動に応答しての較正信号の送出と、装置の(再)較正とを備える、患者の血行動態をモニタリングする方法に関連する。
【0031】
有利な実施形態によれば、この方法は、読み込まれたデータ、ならびに(再)較正の直前に定義された少なくとも一つのパラメータ及び(再)較正の直後に定義された少なくとも一つのパラメータの、一方又は両方の間の算術的なリレーションの評価も含む。
【0032】
一般に、本願の一部として記述され、又は示唆された本発明のいかなる変形も、個々のケースにおける経済的又は技術的な状況に応じて、特に優れたものであり得る。他に指定のない限り、記述された実施形態の個々の特徴を相互に任意の組み合わせで置き換えたり使用したりしても良い。但し、かかる置き換え又は組み合わせが根本的かつ専門的に実現可能な場合に限る。
【0033】
以下に、本発明の特に好ましいいくつかの実施形態を、添付の図面を参照しつつ、例示目的で非網羅的かつ非限定的に記述する。個々の実施形態は、特に発明的な部分を説明することを意図したものであるが、本発明は、ここに表示された側面だけに限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の好ましい実施形態に係る装置を用いて血行動態モニタリングを受ける患者の心血管のシステムを示す概念図である。
【図2】いくつかの可能な実施形態を一般化した形態の発明による較正信号送出過程を示すフローチャートである。
【図3】較正基準の単一パラメータにおける時系列上の変化の形態に基づく較正信号送出過程を示すフローチャートである。
【図4】2つの階層的に適用された較正基準の他の実施形態に基づく較正信号送出過程を示すフローチャートである。
【図5】本発明の他の望ましい実施形態に基づく較正結果の評価を示すフローチャートである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
図1に、本発明の好ましい実施形態に係る装置の主要なコンポーネントの概念を示す。複数の管を備えた中心静脈カテーテル1が、患者の大静脈2の内部に挿入されている。単体としては従来の技術より既知の圧力センサを備えた圧力測定ライン3が、中心静脈圧の連続的又は間歇的な測定に用いられる。中心静脈カテーテル1はまた、注入物温度センサ4を持つ注入路20を備えている。中心静脈カテーテル1はまた、中心静脈酸素飽和度を測定するための光学測定プローブ5を装備している。
【0036】
温度指標として機能し、また患者の血液よりもはるかに高温又は低温の流体ボーラス(たとえば、10ml又は0.15ml/kg)が、熱希釈法測定のために中心静脈カテーテル1に注入される。このボーラスが、患者の血流中に、局部的な温度の乖離を生じさせる。この温度乖離が、まず注入部から右心房6及び右心室7へ移動し、次いで肺循環システム8へ続き、左心房9及び左心室10を通過して、最後に大動脈11を経てシステム循環部12へ到達する。動脈カテーテル13の周辺部に集中的に配置された温度センサ14が、局部的な温度乖離を時間の関数として測定する。転移温度のあらゆる乖離は、定義された入力信号へのシステムによる応答として、このようにして測定される。局部的な血流温度はまた、温度センサ14を介して連続的にも測定される。この測定部は、好ましくは(図示のように)大腿部動脈、橈骨付近の動脈、又は腋の下の動脈のような末梢動脈15である。動脈カテーテル13はまた、単体としては従来の技術より既知であり、末梢動脈15における局部的な圧力を時間の関数として測定する圧力センサ16を含む圧力測定ラインを、備えている。
【0037】
圧力ライン3,16におけるセンサ、及び温度センサ4,15は、入力信号、対応するシステムの応答、及び圧力信号及び温度信号をコンピュータシステム17のメモリユニットへ伝達するために、コンピュータシステム17に接続されており、それによって、この測定データをその後の処理に供することができる。コンピュータシステム17は、データ値を読み出し、このデータ値から広範囲の血行動態を定義することが可能な、対応する実行可能なプログラムを装備している。本発明に基づく計算手段は、それゆえ適切なプログラムルーチンを用いて実装される。それゆえ特に、動脈の温度センサ14によって測定された温度は、注入路11を通じてのボーラス投与へのシステム応答に対応する熱希釈曲線として記録される。熱希釈曲線18より、ハミルトン-ステュワート公式のような既知のアルゴリズムを用いて、熱希釈ベースの心拍出量(COTD)をコンピュータシステム17が算出できる。この熱希釈測定はまた、コンピュータシステム17上で、既知の手法でたとえば心臓拡張末期容量(GEDV)、胸腔内血液容量(ITBV)、及び血管外熱容積(ETV)のようなパラメータを定義付けるための基準としても機能する。
【0038】
心拍出量(SV)や心拍出量変動(SVV)と同様に、既知のアルゴリズムを用いて、動脈血圧ライン16におけるセンサを介して記録された動脈血圧曲線から圧波形分析式心拍出量測定(PCCO)を定義できる。このPCCOを、熱希釈測定によって定義される参照COTDを用いて較正できる。
【0039】
コンピュータシステム17は、制御チャンネル19を介して、注入路20内の薬剤投与装置に接続されている。この薬剤投与装置は、熱希釈測定のための自動的なボーラス投与を実行するための手段として、また手動によるボーラス投与が行われる場合の注入路としても機能する。自動較正ルーチンの一部として、コンピュータシステム17は制御チャンネル19を介して薬剤投与装置に信号を送信し、これに対して流体のボーラスが、(再)較正のために、中心静脈カテーテル1を通じて注入される。読み込みデータ値及び算出されたパラメータの一方又は両方を、信号と同様にコンピュータシステム17に統合されたディスプレイ18上で使用者が視認できる。
【0040】
図2は、本発明に係る再較正の初期化の一般化されたフローチャートを示す。コンピュータシステム17に統合された読み込み手段を介して読み込まれたデータ値、及びコンピュータシステム17に統合された計算手段によって算出されたパラメータの一方又は両方が、時系列上の第1の点mにおいて同じくコンピュータシステム17に統合されたトリガ手段によってn個のコンポーネントを持つ第1のn次元タプルに統合され、n次元タプルを生成する。第2のn次元タプルは、時系列上の後続の、たとえば5分後の点において、読み込み手段を介して読み込まれたデータ値、及び計算手段によって算出されたパラメータの一方又は両方を用いて定義され、これがn次元タプルm+1を生成する。判別係数Yは、次のステップにおいてトリガ手段によって実行される線形判別分析によって算出される。n次元タプル及びn次元タプルから較正後に得られる第1の判別係数Yは、基準判別係数Ykalに対応する。判別係数Yは、次のステップにおいてn次元タプルm+1+1(すなわちn次元タプル)及びn次元タプルから時系列上の後の他の点でトリガ手段により実行される線形判別分析から算出される。次のステップにおいて、判別係数Yは、基準判別係数Ykalとの間に相関を、たとえば単純比較の形で与えられる。これら2つの値が等しければ、すなわちY=Ykal=「真」であれば、他の一つのn次元タプル(すなわちn次元タプル)が、トリガ手段によって、時系列上の後続の点(m=3+1)において定義されるとともに、他の線形判別分析が実行される。これら2つの値が等しくなければ、すなわちY=Ykal=「偽」であれば、YとYkalとの間の差が、たとえば百分率又は絶対値として定義され、次のステップにおいて、予め定義された相対又は絶対の閾値に達したか否かの比較がなされる。続いて、最後に定義された判別変数YとYkalとの間のたとえば15%の差が、乖離閾値である15%に達した(「真」)ため、トリガ手段が較正信号を送出するためのきっかけとなる。一方、最近定義された判別変数YとYkalとの間の差が、より小さければ、たとえば1%であれば、トリガ手段によって較正信号が送出されず(「偽」)、代わって他の一つのn次元タプルが定義される。トリガ手段によって較正信号が送出されると、これはディスプレイに「Calibrate!」というメッセージを表示することによって、使用者に示されるとともに、次のステップにおいて、自動較正を実行する必要があるか否かが定義される。自動較正は、血行動態モニタリングを始める前に、使用者によってセットされてもよく、また血行動態モニタリングの動作中に、手動で自動の再較正に切り替えられてもよい。再較正の後に、n次元タプルのカウンタ値(m)が、初期値(m=1)にリセットされる。2回の較正の間にトリガシステムによって定義されるすべてのn次元タプル及び判別変数は、コンピュータシステム17内のメモリユニットに記憶される。
【0041】
コンピュータシステム17によって制御可能なボーラス投与手段が提供されていない場合には、図1に示すような構成における場合を除き、自動再較正の機能は使用できない。本発明のこのような構成においては、較正信号が送出された旨がディスプレイに表示されたときに、使用者が手動で較正を初期化しなければならない。
【0042】
図3は、成分コンポーネントとして圧波形分析式心拍出量(PCCO)の1次元タプルの例を用いた再較正の本発明に係る初期化のフローチャートを示す。まず、たとえばタッチスクリーン入力として設計されたディスプレイ18を介して、生体測定情報(たとえば身長、体重)を含む、患者に関する個人情報(たとえば性別、年齢)が入力され、基準心拍出量CORef.として最小心拍出量を生成するために使用される。代替として、基準心拍出量を熱希釈測定法によって定義してもよい。
【0043】
圧波形分析式心拍出量PCCOは、動脈血圧曲線から定義される。これが基準心拍出量から、予め定義された閾値(公差「Tol」)、たとえば基準心拍出量から10%又は15%、より小さくしか異なっていない限り、パラメータの定義は再較正を伴わずに継続される。一方、差|PCCO−CORef.|が閾値を超えると、較正信号が送出される。
【0044】
下方乖離と上方乖離とに対して異なった閾値をそれぞれ定義することは好適である。すなわち、乖離が上方であるか下方であるかに較正信号を送出する基準が依存し、言い換えればTol1<|PCCO−CORef.<Tol2である限り、較正信号は送出されない。ただ説明の目的に限って選ばれた或る構成に基づけば、差PCCO−CORef.
−0.1CORef.<PCCO−CORef.<0.15CORef.
の範囲に収まらないときに、較正信号が送出されてもよい。較正信号の送出は、手動較正を促すように表示されてもよく、もし必要な装備が在れば。図1に示すように、自動較正を始めてもよい。較正測定において定義される心拍出量COTDは、次に新規の基準心拍出量として設定される。
【0045】
一方、差|PCCO−CORef.|は、各PCCO測定において、より長い時間間隔での定義も可能ではあるが、一般的には「心拍間」で定義される。「外れ値」、言い換えれば先行及び後続のパラメータ値から(同じ方向に)実質的に乖離したものとして定義される(孤立した)パラメータ値は、再較正の開始からは排除され、更新された較正基準が用いられてもよい。たとえば、差|PCCO−CORef.|が、複数の、たとえば3又は5個の、連続して算出されたパラメータ値が公差より大きくなければならないこと、あるいは、差|PCCO−CORef.|が、定義された時間内におけるPCCO値の最小百分率における公差より大きく(たとえば|PCCO−CORef.|>Tolを、その1分前に算出された値よりも少なくとも50%以上超えること)なければならないことが、較正信号を送出するために(おそらく付加的に)必要な条件として定義される。一方、較正基準
|PCCO−CORef.|>Tol
に代えて、直近のi個のパラメータ値の平均値からの乖離を較正基準として用いて、
|[(PCCO+PCCOm+1+…PCCOm+i)/i]−CORef.|>Tol
となったときに較正基準が満たされるようにしてもよい。平均化(付加的に重み付けも)による外れ値のフィルタリング又は所定の時間間隔における公差範囲から外への値の最小百分率の要件もまた、n>1のn次元タプルの比較に基づく分析においては、好適である。
【0046】
孤立して乖離したパラメータ値によって較正を始めるリスクはまた、2つの連続する較正信号の送出の間に最小の一時的な時間間隔を設けることによっても抑制できる。2つの連続する較正信号の送出の間に最小の一時的な時間間隔はまた、他の理由、たとえば侵襲を伴う測定課程を頻繁に適用することに伴う付加的な危険から、患者及び医療従事者の一方又は双方を遠ざけること、を満足するためにも好適である。
【0047】
従って、図3に大まかに示した過程は、
|PCCO−CORef.|>Tol又は|[(PCCO+PCCOm+1+…PCCOm+i)]/i]−CORef.|>Tol
を満足するか否かという質問に、最後の較正から経過した時間が、所定の期間、たとえば20分、を超えているかという、の別の1つの質問が続き、この期間が経過するまでは較正信号が送出されない、という2ステップの判断過程に展開される。
【0048】
図4は、成分コンポーネントとして拍出圧変動(PPV)及び心拍出量(SV)の2ータプルの例を用いた再較正の本発明に基づく初期化のフローチャートを示す。トリガ手段は、心拍出量SV及び拍出圧変動PPVを定義するために、時系列上の第1の点に着目した1つ、又は複数の他の血行動態パラメータと同様に、既知のアルゴリズムを使用する。このようにして得られた基準タプル(PPV及びSV)Ref.は、次に、たとえば差を生成するとともに閾値(公差"Tol")と比較することによって、各々1つの現状の値(PPV及びSV)と相関づけられる。2次元ベクトル空間における距離とも解釈できるところの差|(PPV,SV)−(PPV,SV)Ref.|が所定の閾値より小さければ、次のパラメータが定義される。これが大きければ、トリガ手段は他の1つの基準、たとえば心拍数の乖離を質問する。この乖離が所定の値より大きければ、たとえば較正直後に定義された値よりも20%を超えて大きければ、トリガ手段により較正信号が送出され、続いて、可視化又は可聴化の一方又は両方による較正信号の表示、及び熱希釈法による自動較正の一方又は両方が行われる。ここで、較正の直前に定義されたタプル(PPV及びSV)は、後続の定義に対する基準タプルとして、再度機能する。
【0049】
図5は、本発明の好ましい実施形態の較正結果の評価のフローチャートを示す。この評価において、手動又は自動の較正の直前及び直後における1つ又は複数の血行動態パラメータの1つ又は複数の値が、相関づけられる。示された例においては、較正の前後に収集されたPCCOの単純比較が示されている。2つの値PCCOm+1−PCCOが、所定の公差”Tol”より小さくしか異なっていなければ、それがディスプレイ18上で使用者に示される。こうして使用者が、最後の2回の較正の間におけるパラメータの変化が、使用されるアルゴリズム、水準線の変位、又は類似のものによる人工的なものでは明らかになく、原因がむしろ生理学的なものに違いないのかを認識する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血行動態モニタリング装置であって、
少なくとも1つの物理変数を示すデータを繰り返し読み込む読み込み手段と、
前記読み込みデータから少なくとも1つのパラメータを算出する計算手段と、
前記装置を較正する較正手段と、
前記読み込みデータ、及び前記少なくとも1つのパラメータの一方又は両方の時系列的な変動に依存して較正信号を送出するトリガ手段と、を備える装置。
【請求項2】
前記トリガ手段が、時系列上の第1の点において定義されるn個のコンポーネントを持つ少なくとも1つのn次元タプルと、少なくとも1つの時系列上の後続の点において、定義されるn個のコンポーネントを持つ少なくとも1つのn次元タプルとの間のリレーションを一変量解析又は多変量解析の過程を経て生成するように設計されており、前記nは1以上の自然数であり、前記コンポーネントが少なくとも1つの、前記パラメータ又は前記読み込みデータの値の一方又は両方を備える請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記トリガ手段が、少なくとも1つの数学的分類方法を実行するように設計されている上記の請求項1又は2に記載の装置。
【請求項4】
前記トリガ手段が線形判別分析を実行するように設計されている請求項3に記載の装置。
【請求項5】
前記n個のコンポーネントが、
心拍数(HR)、拍出間隔(T)、心拍出量(SV)、平均動脈血圧(MAP)、圧波形分析式心拍出量(PCCO)、熱帰希釈式心拍出量(COTD)、心拍出量変動(SVV)、全身静脈抵抗(SVR)、拍出圧変動(PPV)、流体応答指数(FRI)、心室収縮性(たとえばdPmx)、動脈内血圧又は心室内血圧の一方又は両方(たとえばRAP、RVEDP、LVEDP)、心電図のセクションデータ、心電図の間隔、血行動態に影響を及ぼす薬物の特性、及び血行動態に影響を及ぼす呼吸パラメータのグループから選ばれる少なくとも1つのパラメータを含む請求項2乃至4のうちのいずれか1つに記載の装置。
【請求項6】
前記n個のコンポーネントが、
動脈血圧(P)、中心静脈圧(CVP)、血流温度(Tb)、周辺酸素飽和度(Sp02)、中心静脈酸素飽和度(Scv02)のグループから選ばれる少なくとも1つの読み込みデータを含む請求項2乃至5のうちのいずれか1つに記載の装置。
【請求項7】
前記n次元タプルの連続する2つの定義の一時的な間隔が、
1時間を超えず、望ましくは15分を超えない請求項2乃至6のうちのいずれか1つに記載の装置。
【請求項8】
前記n次元タプルの連続する2つの定義の一時的な間隔が、患者の所定の心拍数として予め定義されている請求項7に記載の装置。
【請求項9】
前記トリガ手段が、予め定義された時間間隔内における、前記読み込みデータ及び前記少なくとも1つのパラメータの一方又は両方のそれぞれ他の方向において、時系列上の連続的な変化を考慮するように設計されている請求項1乃至8のうちのいずれか1つに記載の装置。
【請求項10】
前記較正信号の送出を、可視的及び可聴的の一方又は両方によって示す手段を備える請求項1乃至9のうちのいずれか1つに記載の装置。
【請求項11】
自動較正又は再較正を開始させる前記較正信号が、前記較正手段に対して送信される請求項1乃至10のうちのいずれか1つに記載の装置。
【請求項12】
前記較正手段が熱希釈測定を備える請求項1乃至11のうちのいずれか1つに記載の装置。
【請求項13】
前記トリガ手段が、読み込みデータ及び少なくとも1つのパラメータの一方又は両方の時系列上の変化への依存に関して2ステップ又は多ステップのチェックを行うように構成されており、
前記2ステップ又は多ステップのチェックが、前記較正信号の送出を引き起こすとともに、前記読み込みデータ及び前記少なくとも1つのパラメータの一方又は両方の時系列上の変化へ依存する少なくとも2つの基準についての階層的なチェックを含む請求項1乃至12のうちのいずれか1つに記載の装置。
【請求項14】
前記装置が、較正直前に読み込まれた少なくとも1つの値と、本較正直後に読み込まれた少なくとも1つの値との間、及び本較正直前に定義された少なくとも1つのパラメータと、本較正直後に定義された少なくとも1つのパラメータとの間、の一方又は両方の、算術的なリレーションを評価するための評価手段を備える請求項1乃至13のうちのいずれか1つに記載の装置。
【請求項15】
前記装置が、患者に関する生体測定及び分類の一方又は両方の情報を入力するための入力手段を備える請求項1乃至14のうちのいずれか1つに記載の装置。
【請求項16】
入力される患者に関する生体測定及び分類の一方又は両方の前記情報に基づく、前記読み込みデータ及び前記少なくとも1つのパラメータの一方又は両方の時系列上の変化に依存する、前記較正信号の送出を引き起こす基準を調整する調整手段を備える請求項15に記載の装置。
【請求項17】
患者の血行動態モニタリング装置の較正のための方法であって、
(a)少なくとも1つの物理変数を示すデータを読み込み、
(b)読み込まれたデータから、少なくとも1つのパラメータを算出し、
(c)読み込みデータ及び少なくとも1つのパラメータの一方又は両方の時系列上の変化に依存して、較正信号を送出し、
(d)較正信号に応答して、装置を較正する各ステップを含む方法。
【請求項18】
較正直前に定義された読み込みデータの少なくとも1つの値と、前記較正直後に読み込まれた少なくとも1つの値との間、及び較正直前に定義された少なくとも1つのパラメータと、較正直後に定義された少なくとも1つのパラメータとの間、の一方又は両方の、算術的なリレーションを評価するステップを含む請求項17に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−78579(P2013−78579A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−215622(P2012−215622)
【出願日】平成24年9月28日(2012.9.28)
【出願人】(512252331)プルシオン メディカル システムズ エス イー (1)
【Fターム(参考)】