説明

衛星からの測位データを用いた測位方法及び測位装置

【課題】測位の精度を向上させる。さらに、装置の低コスト化を実現する。
【解決手段】以下のステップを備える:
(1)測位データを供給する複数の衛星でそれぞれ構成される複数の組を用いて、複数の仮想測位点を算出するステップ;
(2)前記複数の仮想測位点から、第1空間中心を算出するステップ;
(3)前記各仮想測位点について、前記第1空間中心からの外れ距離を算出するステップ;
(4)前記外れ距離に対する、前記各衛星の責任量を算出するステップ;
(5)前記責任量が基準値以上である前記衛星(以後「マルチパス衛星」という)を判別するステップ;
(6)前記マルチパス衛星が関与する仮想測位点を除いた、前記仮想測位点を用いることにより、受信位置を算出して出力するステップ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衛星からの測位データを用いて、マルチパスの緩和が可能な測位方法及び測位装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
衛星から提供された測位データを用いて、受信位置の測位を行う技術が提案されている(下記非特許文献及び特許文献参照)。この技術では、基本的に、以下のようにして測位が行われる。すなわち、まず、複数の衛星から供給される電波を受信し、受信信号をデコードして、測位データを得る。つまり、測位データは、各衛星について取得される。ついで、各測位データを用いて、受信位置を決定する(つまり測位を行う)。
【0003】
原理的には、最低三つの衛星からの測位データがあれば、受信位置を決めることができる。ただし、測位精度を上げるため、四つ以上の測位データを用いることがある。
【0004】
近年では、測位精度を向上させるために、アンテナ、受信機あるいは信号処理装置のようなハードウエアを改良することが提案されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】van Dierendonck, A.J., Braasch, M., 1997. Evaluation of GNSS receiver correlation processing techniques for multipath and noise mitigation, In: Proceedings of Institute of Navigation NTM-97, Santa Monica, California, 207-215.
【非特許文献2】Fante, R.L., Vaccaro, J.J., 2003. Multipath and reduction of multipath-induced bias on GPS time-of-arrival. IEEE Transactions on Aerospace and Electronic Systems 39(3), 911-920.
【非特許文献3】Garin, L., Rousseau, J.-M., 1997. Enhanced strobe correlator multipath rejection for code and carrier, In: Proceedings of Institute of Navigation GPS-97, Kansas City, Missouri, 559-568.
【非特許文献4】McGraw, G.A., Braasch, M.S., 1999. GNSS multipath mitigation using gated and high resolution correlator concepts, In: Proceedings of Institute of Navigation NTM-99, San Diego, California, 333-342.
【非特許文献5】Phelts, R.E., Enge, P., 2002. The multipath invariance approach for code multipath mitigation, In: Proceedings of Institute of Navigation GPS 2000, Salt Lake City, Utah, 2376-2384.
【非特許文献6】Ray, J.K., Cannon, M.E., Fenton, P.C., 1999. Mitigation of static carrier-phase multipath effects using multiple closely spaced antennas. Navigation 46(3), 193-201.
【非特許文献7】Santos, M.C., Farret, J.C.F., 2002. Analysis and generalization of a dual-antenna multipath mitigation technique, In: Proceedings of Institute of Navigation GPS 2002, Portland, Oregon, 487-492.
【非特許文献8】Stolk, K., Brown, A., 2003. Phase center calibration and multipath test results of a digital beam-steered antenna array, In: Proceedings of Institute of Navigation GPS/GNSS 2003, Portland, Oregon, 1889-1897.
【非特許文献9】Townsend, B.R., Fenton, P.C., van Dierendonck, K.J., van Nee, R.D.J., 1995. Performance evaluation of the multipath estimating delay lock loop. Navigation 42(3), 503-514.
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−17604号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来において提案されてきた、測位精度向上のための技術では、ハードウエアの改良を伴うことが多く、このため、コスト高になりがちであるという問題があった。特に、カーナビゲーション・システムや、携帯電話用のナビゲーション・システムにおいては、測位装置を安価にする必要がある。このため、このような民生用のシステムに適する測位技術が必要となる。
【0008】
本発明は、前記した事情に鑑みてなされたものである。本発明の目的は、測位の精度を向上させ、かつ、比較的低コストを実現しうる、測位方法及び測位装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、下記のいずれかの項目に記載の構成を備えている。
【0010】
(項目1)
以下のステップを備えることを特徴とする測位方法:
(1)測位データを供給する複数の衛星でそれぞれ構成される複数の組を用いて、複数の仮想測位点を算出するステップ;
(2)前記複数の仮想測位点から、第1空間中心を算出するステップ;
(3)前記各仮想測位点について、前記第1空間中心からの外れ距離を算出するステップ;
(4)前記外れ距離に対する、前記各衛星の責任量を算出するステップ;
(5)前記責任量が基準値以上である前記衛星(以後「マルチパス衛星」という)を判別するステップ;
(6)前記マルチパス衛星が関与する仮想測位点を除いた、前記仮想測位点を用いることにより、受信位置を算出して出力するステップ。
【0011】
この発明においては、一つの仮想測位点を算出するために、一つの組が用いられ、一つの組は、複数の(通常は三つ以上の)衛星で構成される。
【0012】
この測位方法では、マルチパス衛星が関与していない仮想測位点を用いて、受信位置を決定することができる。このため、測位精度を向上させることが可能になる。また、本発明で実行させるステップは、いずれも、コンピュータ・ソフトウエア上の処理により(つまりプログラム上で)実行可能なので、ナビゲーション・システムを安価に構成することが可能になる。
【0013】
(項目2)
前記衛星の個数は、六つ個以上である
ことを特徴とする項目1に記載の測位方法。
【0014】
原理的には、最低三つの衛星からの測位データがあれば、受信位置を決めることができる。一般的にn個の衛星があった場合、三つ以上の衛星で構成される組の数は、

である。したがって、n=5とすれば、衛星の組の数は、5C3 + 5C4 + 5C5 = 16個となり、一組当たり一つが作られる仮想測位点の数も16個になる。n=6としたら、仮想測位点の数は、6C3 + 6C4 + 6C5 + 6C6 = 42になる。また、四つ以上の衛星で構成される組の数は、

であり、n=5としたら、仮想測位点の数は、5C4 + 5C5 = 6個、n=6とすれば、6C4 + 6C5 + 6C6 = 22個になる。一方、マルチパス衛星を統計的に判別するには20個以上の仮想測位点があることが好ましい。よって、前記のような仮想測位点の分布パタンを考慮すると、前記衛星の個数を六つ以上とすることが好ましい。
【0015】
(項目3)
前記組を構成する衛星の数は、三つ以上である
ことを特徴とする項目1に記載の測位方法。
【0016】
(項目4)
前記ステップ(6)は、以下のステップを備えていることを特徴とする、項目1〜3のいずれか1項に記載の測位方法:
(6−1)前記マルチパス衛星が関与する仮想測位点を除いた、前記仮想測位点を用いることにより、第2空間中心を算出するステップ;
(6−2)前記第2空間中心を受信位置として出力するステップ。
【0017】
(項目5)
前記ステップ(6)は、以下のステップを備えていることを特徴とする、項目1〜3のいずれか1項に記載の測位方法:
(6−1)前記マルチパス衛星が関与する仮想測位点を除いた、前記仮想測位点を用いることにより、第2空間中心を算出するステップ;
(6−2)前記第2空間中心を中心とした所定の距離内にある前記仮想測位点を用いて、第3空間中心を算出するステップ;
(6−3)前記第3空間中心を受信位置として出力するステップ。
【0018】
この発明によれば、第2空間中心から離れた位置にある仮想測位点を排除して、第3空間中心を算出しているので、測位精度を更に向上させることが可能になる。
【0019】
(項目6)
前記ステップ(4)における前記責任量は、以下のステップにより算出されることを特徴とする、項目1〜5のいずれか1項に記載の測位方法:
(4−1)一つの前記外れ距離に対する前記各衛星の寄与度を算出するステップ;
(4−2)前記各衛星が関与する全ての外れ距離に対して、各衛星における前記責任量を、前記寄与度を用いて算出するステップ。
【0020】
(項目7)
前記各衛星における前記責任量は、前記責任量の最大値と最小値とを用いて正規化されている
ことを特徴とする項目6に記載の測位方法。
【0021】
正規化された責任量を用いることにより、マルチパス衛星の判別が容易となる。また、正規化された責任量と、正規化される前の責任量とを併用して、マルチパス衛星の判別を行うこともできる。
【0022】
(項目8)
前記ステップ(5)における前記責任量の基準値は、前記ステップ(1)において前記仮想測位点を算出するために用いられた前記衛星の数に応じて設定されている
ことを特徴とする、項目1〜7のいずれか1項に記載の測位方法。
【0023】
用いる衛星の数が少ない場合は、責任量の基準値を緩く設定することができる。反対に、用いる衛星の数が多い場合は、責任量の基準値を厳しく設定することができる。
【0024】
(項目9)
受信部と、処理部と、出力部とを備えており、
前記受信部は、測位データを供給する複数の衛星から送られる測位データを受信する構成となっており、
前記処理部は、以下の(1)〜(6)の処理を行う構成となっており、
(1)前記複数の衛星でそれぞれ構成される複数の組を用いて、複数の仮想測位点を算出する処理;
(2)前記複数の仮想測位点から、第1空間中心を算出する処理;
(3)前記各仮想測位点について、前記第1空間中心からの外れ距離を算出する処理;
(4)前記外れ距離に対する、前記各衛星の責任量を算出する処理;
(5)前記責任量が基準値以上である前記衛星(以後「マルチパス衛星」という)を判別する処理;
(6)前記マルチパス衛星が関与する仮想測位点を除いた、前記仮想測位点を用いることにより、受信位置を算出する処理、
前記出力部は、前記処理部により算出された前記受信位置を出力する構成となっている
ことを特徴とする測位装置。
【0025】
(項目10)
項目1〜8のいずれか1項に記載のステップをコンピュータに実行させることを特徴とするコンピュータプログラム。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、測位の精度を向上させ、かつ、比較的低コストを実現しうる、測位方法及び測位装置を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施形態に係る測位装置の概略的な構成を示すためのブロック図である。
【図2】図1の測位装置が使用される環境を説明するための説明図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る測位方法を説明するための流れ図である。
【図4】外れ距離を説明するための説明図である。
【図5】第2空間中心と第3空間中心の算出を説明するための説明図である。
【図6】実施例に係るシミュレーションの結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の一実施形態に係る測位方法及び測位装置を、添付の図面に基づいて説明する。
【0029】
(実施形態の構成)
本実施形態の測位装置は、受信部1と、処理部2と、出力部3とを備えている。
【0030】
受信部1は、測位データを供給する複数の衛星から送られる電波を受信するためのアンテナ11を備えている。受信部1は、受信した信号をデコードすることにより、測位データを取得する構成となっている。
【0031】
ここで、衛星とは、米国が提供するGPS衛星(2008年3月現在31機が運用されている)、EUが提供するGalileo衛星(27機が運用予定)、日本が提供予定の準天頂衛星システム(QZSS)衛星(3機が運用予定)のいずれか、あるいはその組み合わせを用いることができる。なお、これらの衛星は、将来的に、統合的に運用される予定である。つまり、GPS衛星、Galileo衛星、QZSS衛星の組み合わせを用いて測位が可能になる予定である。以降においては、これらの組み合わせによる測位が可能になっていると仮定して説明を行う。ただし、本発明の原理は、このような統合的運用がなされる前であっても、可用衛星の数に応じて、適用可能である。
【0032】
処理部2は、以下の(1)〜(6)の処理を行う構成となっている。ただし、これらの処理の詳細は、実施形態の動作として詳しく説明する。
(1)複数の衛星でそれぞれ構成される複数の組を用いて、複数の仮想測位点を算出する処理;
(2)複数の仮想測位点から、第1空間中心を算出する処理;
(3)各仮想測位点について、第1空間中心からの外れ距離を算出する処理;
(4)外れ距離に対する、各衛星の責任量を算出する処理;
(5)責任量が基準値以上である衛星(以後「マルチパス衛星」という)を判別する処理;
(6)マルチパス衛星が関与する仮想測位点を除いた仮想測位点を用いることにより、受信位置を算出する処理。
【0033】
これらの処理に対応して、処理部2は、前処理部21と、仮想測位点算出部22と、第1空間中心算出部23と、外れ距離算出部24と、責任量算出部25と、マルチパス衛星判別部26と、第2空間中心算出部27と、第3空間中心算出部28とを備えている。これらの各部による処理の詳細も後述する。なお、これらの各要素は、コンピュータ上で実行可能なコンピュータプログラムにより実装することができる。
【0034】
出力部3は、処理部2により算出された受信位置を出力する構成となっている。出力部3は、例えば、カーナビゲーション・システムや携帯電話ナビゲーション・システムにおけるディスプレイである。しかし、出力部3としては、パーソナルコンピュータやワークステーションにおけるディスプレイでもよいし、あるいは、プリンタなどの他の出力装置であってもよい。要するに、出力部3としては、取得された受信位置を使用者に提示できる装置であればよい。
【0035】
(実施形態の動作)
つぎに、本実施形態に係る測位方法を、図2〜図5を主に参照しながら説明する。
【0036】
まず、この測位方法が行われる環境の一例を、図2に基づいて概説する。この図では、図1に示した測位装置が、車両4に搭載されている。車両4の上空には、複数の(図2では5個の)測位衛星5が存在している。各測位衛星5からは、地表面に向けて電波(すなわち測位データのための搬送波)が放射されている。図2では、車両4の方向に向かう電波を、それぞれ、符号5a、5b、…のように表している。
【0037】
図2の例では、電波5aは、車両4(すなわち測位装置)に直接到達しているので、直接波となっている。電波5bは、建造物6によって散乱されて散乱波となっている。電波5cは、建造物6で反射してから車両4に到達している。このような電波5cが、マルチパスの原因となる。さらに、電波5dは、建造物6で屈折してから車両4に到達するという屈折波となっている。電波5eは、建造物6によって遮蔽され、車両4には到達しない。
【0038】
つぎに、本実施形態に係る測位方法の詳細を、図3に示すフローチャートを参照しながら説明する。
【0039】
(図3のステップS1)
まず、前処理として、測位装置に電波が到達している衛星のうち、測位方法の実施に用いる衛星を選別する。選別の結果残った衛星を可用衛星と称することがある。選別の基準は、仰角が一定以上である衛星のみを可用衛星とするというものである。衛星の仰角が低い場合、建造物や樹木などの障害物の影響により、電波受信状態が不安定になりがちである。このため、本実施形態では、可用衛星の数が十分な場合、そのような低高度衛星からの電波は測位に使用しない。もちろん、可用衛星の選別に用いる仰角の数値としては、理論的な計算によって、あるいは、実測に基づく経験によって適宜に設定することができる。また、可用衛星の選別自体も必須ではない。このような前処理は、処理部2の前処理部21により行われる。
【0040】
(図3のステップS2)
ついで、測位データを供給する複数の衛星(すなわち可用衛星)5で構成される複数の組を用いて、複数の仮想測位点を算出する。この算出は、処理部2の仮想測位点算出部22により行われる。
【0041】
例えば、可用衛星5の数が六つであるとする。そして、この実施形態では、四つ以上の衛星で構成される一つの組により、一つの仮想測位点を生成することとする。仮想測位点とは、一つの組を構成する複数の衛星からのデータを用いて決定される測位点である。一般に、仮想測位点を決定するために必要な衛星の数は、一組当たり、最低で三つである。ただし、この実施形態では、測定精度向上のため、一組当たりの衛星の数を四つ以上としている。
【0042】
一般的にn個の可用衛星があった場合、四つ以上の衛星で構成される組の数は、以下の式で得られる。

【0043】
したがって、四つ以上の衛星で構成される組の数は、n=6とすれば、以下の式により、22個となる。

【0044】
衛星の組の一つ当たりで一つの仮想測位点を得られるので、この場合に得られる仮想測位点の数は、合計22個となる。このようにして得られた仮想測位点の一例を、図4に示した。各仮想測位点には符号8を付した。図4においては、各仮想測位点8は、2次元平面上(XY面上)に配置されている。
【0045】
(図3のステップS3)
ついで、全ての仮想測位点8を用いて、第1空間中心を算出する。空間中心の算出は、例えば、各仮想測位点におけるx方向データとy方向データのそれぞれの平均を用いることで可能である。もちろん、直交座標系を用いる必要はなく、適宜な算出方法が可能である。得られた第1空間中心に符号91を付す(図4参照)。第1空間中心91の算出は、第1空間中心算出部23により行われる。
【0046】
(図3のステップS4)
ついで、各仮想測位点8について、第1空間中心91からの外れ距離を算出する。外れ距離とは、この実施形態では、第1空間中心91から各測位点8までの幾何学的な距離である。図4の例では、衛星の組が{S,S,S,S}であるときの外れ距離をdd、{S,S,S,S}であるときの外れ距離をdd、{S,S,S,S,S}であるときの外れ距離をdd21、{S,S,S,S,S,S}であるときの外れ距離をdd22として示している。ここで、符号Sはi番目の衛星5を表している。外れ距離の算出は、外れ距離算出部24により行われる。
【0047】
(図3のステップS5)
ついで、外れ距離に対する、各衛星の責任量を算出する。責任量の算出は、責任量算出部25により行われる。例えば、外れ距離dd21に対する責任は、衛星S,S,S,S,Sが分担する。本実施形態で扱う責任量は、空間外れ負荷量(Spatial deviation load:SDL)と、空間外れ比率(Spatial deviation ratio:SDR)の二種類である。
【0048】
(空間外れ負荷量の算出)
まず、空間外れ負荷量の算出方法の一例を説明する。まず、一つの外れ距離に関与する各衛星5の責任(寄与度)を、以下の式により算出する。

【0049】
ついで、当該衛星が関与する全ての外れ距離に関して、当該衛星の責任量を、以下の式により合算する。

【0050】
ここでmは、i番目の衛星が関与する仮想測位点の数である。これにより、i番目の衛星における合計された責任量を得ることができる。この計算を全ての可用衛星について行う。このようにして得た空間外れ負荷量(SDL)は、絶対的な値であり、理論的には、0〜無限大までの範囲を取りうる。そこで、この実施形態では、比較に都合のよいように、以下の空間外れ比率(SDR)を算出する。
【0051】
(空間外れ比率の算出)
空間外れ比率(SDR)は、要するに、空間外れ負荷量(SDL)を正規化した値である。i番目の衛星における空間外れ比率の算出式の例を以下に示す。

【0052】
ここで、

は、n個の衛星についての、空間外れ負荷量(SDL)の最小値及び最大値である。空間外れ比率(SDR)は、ある測位点の計測に関与するn個の衛星それぞれにおける、マルチパスの度合いを示すものと言いうる。空間外れ比率(SDR)も、全ての衛星について算出する。
【0053】
(図3のステップS6)
つぎに、責任量が基準値以上である衛星(マルチパス衛星)を判別する。この判別は、マルチパス衛星判別部26により行われる。判別手法の一例を以下に説明する。この実施形態では、基準値として、空間外れ負荷量(SDL)と空間外れ比率(SDR)の両方を用いる。
【0054】
(空間外れ負荷量についての基準値)
空間外れ負荷量(SDL)については、可用衛星の数によって変動できる。例えば、可用衛星の数が8未満の場合、10未満の場合、10以上の場合の3通りを想定し、それぞれについての基準値を設定する。具体的な基準値は、理論的な計算によって、あるいは、実測に基づく経験によって設定することができる。
【0055】
(空間外れ比率についての基準値)
空間外れ比率(SDR)については、例えば、0.9を基準値とすることができる。すなわち、0.9以上である場合に、空間外れ比率が基準値以上であると判断することができる。この基準値についても、理論的な計算によって、あるいは、実測に基づく経験によって適宜に設定することができる。
【0056】
本実施形態では、空間外れ負荷量及び空間外れ比率の両者が基準値以上である場合に、当該衛星をマルチパス衛星と判断する。ただし、これらのいずれかが基準値以上である場合にマルチパス衛星と判断することもできる。なお、ここで、基準値以上とは、実質的な意味で用いている。すなわち、例えば、前記した基準値の逆数を基準値として用いる実装においては、前記した「基準値以上」は、形式上は「基準値以下」と読み替える必要がある。しかしながら、このような場合も、実質的に、基準値以上という概念に含まれる。
【0057】
(図3のステップS7及びステップS8)
ついで、マルチパス衛星が関与する仮想測位点8を、その後の測位の計算から排除する。すなわち、マルチパス衛星が関与した仮想測位点8を単に除外して、残った仮想測位点8を用いることにより、第2空間中心92を算出する(図5(a)参照)。第2空間中心92の算出は、第2空間中心算出部27により行われる。
【0058】
(図3のステップS9及びステップS10)
ついで、第2空間中心92を中心とした所定の距離内にある仮想測位点を用いて、第3空間中心93を算出する。
【0059】
具体的には、第2空間中心92を中心とした標準距離サークルを算出する。標準距離サークルとは、第2空間中心92から例えば±1の標準偏差(いわゆる1σ)の範囲を囲む円である。標準距離サークルCを図5(b)において破線で示す。
【0060】
標準距離サークルCの中にある仮想測位点を、「第2空間中心92を中心とした所定の距離内にある仮想測位点」として用いることができる。もちろん、この手法は単なる一例であり、他の方法により「所定の距離」を算出することも可能である。
【0061】
標準距離サークルCの外側に位置する仮想測位点8を、図5(c)において白丸で表した。このようにして得た仮想測位点8から、前記した手法により、第3空間中心93を算出することができる。第3空間中心93の算出は、第3空間中心算出部28により行われる。
【0062】
このようにして得た第3空間中心93を、受信機の位置として出力することができる。つまり、これによって、受信位置の測位ができる。
【0063】
本実施形態の方法では、マルチパス衛星が関与していない仮想測位点を用いて、受信位置を決定することができる。このため、測位精度を向上させることが可能になる。また、本実施形態で実行されたステップは、いずれも、ソフトウエア上の処理により実行可能なので、ナビゲーション・システムを安価に構成することが可能になる。
【0064】
さらに、この実施形態によれば、第2空間中心92から離れた位置にある仮想測位点を排除して、第3空間中心93を算出し、それを測位点として出力しているので、測位精度を更に向上させることが可能になる。
【0065】
また、前記実施形態では、受信位置を、XY平面において特定した。一般のナビゲーション・システムでは、地図データを持っているため、このような測位で問題はない。ただし、本実施形態の方法は、3次元上の測位に適用することができる。この場合は、仮想測位点を、3次元上において特定する。これにより、第1〜第3空間中心を、3次元上において特定することができる。なお、3次元上で一つの仮想測位点を算出するためには、四つ以上の可用衛星が通常は必要になる。
【0066】
(実施例)
シミュレーションを用いて、本実施形態の方法を評価した。シミュレーション条件は以下の通りである。
【0067】
まず、前提として、GALILEOとQZSSは、未だ完全には実用化されていないが、これらとGPSがいずれも統合的に実用化されたと仮定してGPS、GALILEO、およびQZSSの衛星軌道パラメーターデータを用いてこのシミュレーションを行った。また、東京都新宿区における、高層ビルが建ち並ぶ500 m × 500 mの領域から250地点をランダムで選択し,GMT + 9 h における2009年3月20日の午前9時から24時間を3時間間隔で分割し、9時、12時、15時、18時、21時、翌日0時、3時、6時の合計2000件(250地点 × 8時間帯)を対象とした。この状態における全ての可動衛星はGPS、 GALILEO、 及び QZSS について、31、 27、 及び3個とした。かつ、大気干渉などによる衛星電波の到達遅延を反映するために、米陸軍が提示する遅延誤差をそれぞれの衛星に加えることで、より現実的な衛星信号を生成する。このようなシミュレーション設定の上、その2000件において、GPS衛星の場合、仰角0度以上の可用衛星数の平均は、3.9、最小値は0、最大値は10であった。一方、全てのGNSS衛星(つまりGPS、 GALILEO、 及び QZSS)を対象とした場合、仰角0度以上の可用衛星数の平均は、9.1、最小値は1、最大値は18であった。つまり、GNSS衛星の全てを対象とすることにより、可用衛星の数を増やすことができる。すると、マルチパス衛星を排除しても、測位に使用できる衛星の数を確保しやすいという利点がある。
【0068】
さらに、可用衛星の数が12以上になる場合、仰角の高い順で12個の衛星を選別することで、建造物などに邪魔されがちである低高度衛星を前もって排除することにした。この条件下で、各時間帯の地点毎の測位精度を計算した。その結果を図6に示す。ここで、図6の第3欄は、マルチパス衛星を正しく判別した割合を示す。
【0069】
図6の第4欄に示されているように、精度の平均として、2.33 mを得ることができた。また、図6の第4欄のように、標準偏差は 3.85 m であった。一般的なGPSサービスの場合、高密度な都市空間での精度は、数mから数十mまでになる。したがって、この実施例で、東京都新宿区の高層ビルが建ち並ぶエリアを対象とし、平均2.33mの精度を達成したのは、本発明の有効性を示していると言える。
【0070】
なお、前記実施形態及び実施例の記載は単なる一例に過ぎず、本発明に必須の構成を示したものではない。各部の構成は、本発明の趣旨を達成できるものであれば、上記に限らない。
【0071】
例えば、前記実施形態では、第3空間中心93を測位点としたが、第2空間中心92を測位点として出力することも可能である。
【0072】
また、前記実施形態では、第1空間中心算出部23と第2空間中心算出部27と第3空間中心算出部28とを別の機能ブロックとして表現したが、これらは実質的に同じプログラムあるいはハードウエアであっても良い。つまり、一つの空間中心算出用モジュールあるいはサブルーチンを、それぞれの用途に利用することができる。
【0073】
また、前記した各構成要素は、機能ブロックとして存在していればよく、独立したハードウエアとして存在しなくても良い。また、実装方法としては、ハードウエアを用いてもコンピュータソフトウエアを用いても良い。さらに、本発明における一つの機能要素が複数の機能要素の集合によって実現されても良く、本発明における複数の機能要素が一つの機能要素により実現されても良い。
【0074】
また、機能要素は、物理的に離間した位置に配置されていてもよい。この場合、機能要素どうしがネットワークにより接続されていても良い。グリッドコンピューティングにより機能を実現し、あるいは機能要素を構成することも可能である。
【符号の説明】
【0075】
1 受信部
11 アンテナ
2 処理部
21 前処理部
22 仮想測位点算出部
23 第1空間中心算出部
24 外れ距離算出部
25 責任量算出部
26 マルチパス衛星判別部
27 第2空間中心算出部
28 第3空間中心算出部
3 出力部
4 車両
5 測位衛星
5a、5b、… 測位衛星からの電波
6 建造物
8 仮想測位点
91 第1空間中心
92 第2空間中心
93 第3空間中心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下のステップを備えることを特徴とする測位方法:
(1)測位データを供給する複数の衛星でそれぞれ構成される複数の組を用いて、複数の仮想測位点を算出するステップ;
(2)前記複数の仮想測位点から、第1空間中心を算出するステップ;
(3)前記各仮想測位点について、前記第1空間中心からの外れ距離を算出するステップ;
(4)前記外れ距離に対する、前記各衛星の責任量を算出するステップ;
(5)前記責任量が基準値以上である前記衛星(以後「マルチパス衛星」という)を判別するステップ;
(6)前記マルチパス衛星が関与する仮想測位点を除いた、前記仮想測位点を用いることにより、受信位置を算出して出力するステップ。
【請求項2】
前記衛星の個数は、六つ個以上である
ことを特徴とする請求項1に記載の測位方法。
【請求項3】
前記組を構成する前記衛星の数は、三つ以上である
ことを特徴とする請求項1に記載の測位方法。
【請求項4】
前記ステップ(6)は、以下のステップを備えていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の測位方法:
(6−1)前記マルチパス衛星が関与する仮想測位点を除いた、前記仮想測位点を用いることにより、第2空間中心を算出するステップ;
(6−2)前記第2空間中心を受信位置として出力するステップ。
【請求項5】
前記ステップ(6)は、以下のステップを備えていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の測位方法:
(6−1)前記マルチパス衛星が関与する仮想測位点を除いた、前記仮想測位点を用いることにより、第2空間中心を算出するステップ;
(6−2)前記第2空間中心を中心とした所定の距離内にある前記仮想測位点を用いて、第3空間中心を算出するステップ;
(6−3)前記第3空間中心を受信位置として出力するステップ。
【請求項6】
前記ステップ(4)における前記責任量は、以下のステップにより算出されることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の測位方法:
(4−1)一つの前記外れ距離に対する前記各衛星の寄与度を算出するステップ;
(4−2)前記各衛星が関与する全ての外れ距離に対して、各衛星における前記責任量を、前記寄与度を用いて算出するステップ。
【請求項7】
前記各衛星における前記責任量は、前記責任量の最大値と最小値とを用いて正規化されている
ことを特徴とする請求項6に記載の測位方法。
【請求項8】
前記ステップ(5)における前記責任量の基準値は、前記ステップ(1)において前記仮想測位点を算出するために用いられた前記衛星の数に応じて設定されている
ことを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の測位方法。
【請求項9】
受信部と、処理部と、出力部とを備えており、
前記受信部は、測位データを供給する複数の衛星から送られる測位データを受信する構成となっており、
前記処理部は、以下の(1)〜(6)の処理を行う構成となっており、
(1)前記複数の衛星でそれぞれ構成される複数の組を用いて、複数の仮想測位点を算出する処理;
(2)前記複数の仮想測位点から、第1空間中心を算出する処理;
(3)前記各仮想測位点について、前記第1空間中心からの外れ距離を算出する処理;
(4)前記外れ距離に対する、前記各衛星の責任量を算出する処理;
(5)前記責任量が基準値以上である前記衛星(以後「マルチパス衛星」という)を判別する処理;
(6)前記マルチパス衛星が関与する仮想測位点を除いた、前記仮想測位点を用いることにより、受信位置を算出する処理、
前記出力部は、前記処理部により算出された前記受信位置を出力する構成となっている
ことを特徴とする測位装置。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のステップをコンピュータに実行させることを特徴とするコンピュータプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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