説明

衛星を用いた測位方法、測位プログラム、及びGPS受信装置

【課題】 高精度な測位をリアルタイムに行うとともに、連続的に測位結果を出力する。
【解決手段】 DGPSにより仮の解を導出し、導出した仮の解の情報を用いて、真の解が存在する第1の空間領域を求める。第1の空間領域を線形写像した第2の空間領域内に存在する所定の解を真の解となりうる解候補とし、解候補のそれぞれについて、χ二乗検定を行う。χ二乗検定の結果、解候補が1つに限定された場合に、限定された解候補を真の解し、真の解から整数サイクルを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、GPS(Global Positioning System)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
GPSは、衛星から送信される衛星信号を用いることにより、航空機や船舶などの移動体の測位を可能としたシステムである。
近年では、相対航法を利用して測位精度の向上を図るDGPS(ディファレンシャルGPS:Differential GPS)が開発され、このDGPSを用いた各種測位方法が提案されている。
上記DGPSは、既知の位置におかれた基準局と、測位対象である移動局とで衛星からの衛星信号を同時に採取し、両局に共通な誤差を相殺することによって、結果的に測位精度を改善する技術である。
例えば、DGPSでは、基準局の受信機を正確に位置がわかっているところにおき、そこでの観測データ(上記衛星信号を基準局にて信号処理した後のデータをいう)から計算によって得られた位置座標と実際の正確な位置座標とを比較することにより、観測データに内包されている誤差量を算出し、この誤差量をDGPS補正データとして移動局へ送信する。移動局では、基準局から受信した補正データによって、自己の観測データを補正することにより、基準局と共通の誤差、例えば、電離層遅延、対流圏遅延などを除去することで、より精度の高い測位結果を得ることができる。
【0003】
上記DGPSでは、主に観測データとして衛星信号のC/Aコードを計測する。このため、その測定単位(計測対象に依存した計測の分解能)は300mである。
これに対し、衛星信号の搬送波位相を計測するKGPS(キネマティックGPS:Kinematic GPS)が開発、提案されている。
このKGPSでは、測定単位が非常に小さいため(例えば、L1周波数帯信号で0.19m、L2周波数帯信号で0.22m)、非常に高精度な測位結果を得ることが可能となる。
しかしながら、このKGPSでは、以下に示すように、未知数である整数サイクル(Ambiguity)を導出する必要がある。
一般的に、観測データは、以下の(1)式のような数式(観測方程式)により表される。
φ+λN=ρ+diono+dtrop+e (1)
φは観測データ(搬送波位相)、Nは整数サイクル(Ambiguity)、ρはGPS衛星の送信機アンテナと移動局などに設けられたGPSアンテナとの間の位相中心間の幾何学的距離、dionoは電離層遅延、dtropは対流圏遅延、eはノイズなど伝搬経路に依存しない誤差である。
【0004】
ここで、観測データφは観測により得ることができ、電離層遅延diono、対流圏遅延dtrop、及びノイズなどの誤差eは、上述したDGPSにより得ることができる。しかしながら、整数サイクルNは、観測により直接的に得ることができず、未知数として残ってしまう。このため、移動局の測位を正確に行うためには、この整数サイクルNを導出する必要がある。
【0005】
上記整数サイクルを演算により導出し、高精度な測位を実現させる測位方法の一例として、例えば、非特許文献1に開示されているKINGS法(KINematic Global
positioning system Software)や、非特許文献2に開示されているLAMBDA法(the Leaset-squares
AMBiguity Decorrelation
Adjustment)などが知られている。
【0006】
非特許文献1に開示されているKINGS法では、以下の方法により移動体の位置が求められる。
まず、DGPS方式にて求めた位置座標(整数サイクルに起因する誤差を内包する位置座標)を仮の解とし、この仮の解の整数サイクルを数サイクル分増減させた各解を真の解の候補(以下、これらを「解候補」という。)とする。ここで、真の解とは、正確な整数サイクルが反映された誤差分の最も少ない位置座標である。
続いて、全ての解候補について、χ二乗検定法を行うことにより、真の解となり得ない解候補を排除し、信頼性の高い解候補のみを抽出する。
続いて、抽出された解候補の全てについて、二次元的位置(水平面)に関する適合性検定を行い、更に真の解として信頼性の高い解候補を更に絞りこむ。この結果、検定をパスした解候補が1つに限定された場合に、この解候補を真の解として決定する。
真の解を決定した後は、この真の解から整数サイクルを導出する。そして、次のエポックからは、この整数サイクルと観測データとを用いて、移動体の測位を行う。
整数サイクル導出後において、一定の整数値であるはずの整数サイクルが、何らかの原因により違う整数値へ変化してしまった場合、つまり、サイクルスリップ(cycle slip)が発生した場合には、上述した同様の手法により、整数サイクルを再度導出することが必要とされる。
【0007】
非特許文献2に開示されているLAMBDA法では、以下の方法により移動体の位置が求められる。
まず、複数のエポック(約数十秒間にわたるエポック)を採取し、これらエポックの観測データから仮の解を導出する。
続いて、仮の解から求められる確率楕円体を線形写像し、この線形写像内に存在する解を真の解の候補(以下「解候補」という。)とする。これにより、効果的に解候補を抽出することができる。
そして、抽出した解候補のうち、最も仮の解に近いものを真の解として決定する。
真の解を決定した後は、この真の解から整数サイクルを導出する。そして、次のエポックからは、この整数サイクルと観測データとを用いて、移動体の測位を行う。
整数サイクル導出後において、サイクルスリップ(cycle slip)が発生した場合には、上述した同様の手法により、整数サイクルを再度導出することが必要となる。
【0008】
【非特許文献1】辻井 俊明、外4名、「キネマティックGPSソフトウェアの開発」(development of Kinematic GPS Software,KINGS, and Flight Teat Evaluation)、航空宇宙技術研究所の技術文献TR-1357T(TECHNICALREPORT OF NATIONAL AEROSPACE LABORATORY TR-1357T)、日本、1998年10月
【非特許文献2】P.J.G Teunissen、外2名、「THE LAMBDA-METHOUDFOR FAST GPS SURVEYING」、International symposium“GPS Technology applications”、ルーマニア、1995年9月26日から29日
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記非特許文献1に開示されたKINGS法による測位では、以下のような問題が生じることとなる。
第1に、整数サイクルの解候補が多数存在するため、真の解を得るまでに時間がかかり、リアルタイム性を確保することが難しい。
第2に、サイクルスリップ発生時は、整数サイクルの情報が失われてしまうため、整数サイクルの導出を再度行わなければならい。そのため、整数サイクル導出までの間、移動体の測位が中断されることとなる。
【0010】
上記非特許文献2に開示されているLAMBDA法による測位では、以下のような問題が生じる。
第1に、相対航法を利用したDGPSなどのように、既知の位置に設置された基準局を利用しない。このため、仮の解を精度よく算出するために、数エポック分の観測データを取得しなければならない。従って、観測データ取得のため時間を要するとともに、導出処理が煩雑になる。
第2に、線形写像内に存在する解候補のうち、仮の解に最も近いものを真の解とするため、真の解の精度は、仮の解の精度に大きく影響される。
第3に、サイクルスリップ発生を検知することができないため、サイクルスリップが発生して、測位結果に大きな誤差が含まれていても、判別することができない。
また、サイクルスリップ発生を判別できたとしても、整数サイクルの情報が失われてしまうため、整数サイクルの導出を再度行わなければならない。そのため、整数サイクル導出までの間、移動体の測位が中断されることとなる。
【0011】
本発明は、上記問題を解決するためになされたもので、その第1の目的は、整数サイクルの導出を簡便な手法により、且つ、迅速に行うことにより、高精度な測位をリアルタイムで実現する測位方法、測位プログラム、及びGPS受信装置を提供することである。
本発明の第2の目的は、サイクルスリップが発生しても継続的に測位結果を出力することが可能な衛星を用いた測位方法、測位プログラム、及びGPS受信装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を採用する。
本発明は、少なくとも4つの衛星からの観測データに基づいて、移動局の測位を行う衛星を用いた測位方法であって、前記移動局及び既知の位置にある基準局が4つの衛星から受信した観測データに基づいて、整数サイクルを導出する整数サイクル導出過程と、前記整数サイクル導出過程により導出された前記整数サイクルを用いて、次のエポック以降の前記移動体の測位を行う測位過程とを備え、前記整数サイクル導出過程は、前記基準局及び前記移動局が受信した観測データを用いて、前記移動局の位置に関する仮の解を求める過程と、前記仮の解の情報を用いて、真の解が存在する第1の空間領域を求める過程と、前記第1の空間領域を線形写像して第2の空間領域を求め、前記第2の空間領域内に存在する所定の解を真の解となりうる解候補とする過程と、絞り込んだ前記解候補のそれぞれについて、χ二乗検定を行う過程と、前記χ二乗検定の結果、前記解候補が1つに限定された場合に、限定された前記解候補を前記真の解とする過程と、前記真の解から整数サイクルを得る過程とを具備する衛星を用いた測位方法を提供する。
【0013】
整数サイクル導出過程では、既知の位置にある基準局が4つのGPS衛星から受信した観測データと、移動局が前記4つのGPS衛星から受信した観測データとを用いて、移動局の位置に関する仮の解、例えば、仮の位置座標を求める。
このように、位置が既知である基準局の観測データを用いて、移動局の仮の解を求めるので、例えば、電離層遅延diono、対流圏遅延dtropなどの誤差を除去した比較的精度の高い仮の解を得ることが可能となる。
【0014】
上記仮の解を導出する手法の代表的なものとして、DGPSが挙げられる。DGPSは、既知の位置に設けられた基準局にて受信された観測データを利用して測位を行うことにより、精度の高い測位計算を実現する手法である。
この場合、予め基準局にて、観測データから誤差を除去するための補正データを導出し、この補正データを基準局から移動局へ送信するようにしても良く、また、基準局が受信した観測データ自体と基準局の正確な位置データを移動局へ送信し、移動局にて、上記補正データの導出と仮の解の導出とを実施するようにしても良い。
【0015】
次に、上記仮の解の情報を用いて、真の解が存在する第1の空間領域を求める。言い換えると、正しい整数サイクルが反映された、誤差の極めて少ない解が存在する第1の空間領域を求める。この第1の空間領域は、仮の解を中心とした確率楕円体であり、例えば、仮の解を導出するために用いた観測データの分散・共分散を使用することにより求めることが可能である。
【0016】
続いて、第1の空間領域と解候補とを線形写像して、第2の空間領域に存在する解候補を抽出する。このように、線形写像を行うことにより、解候補を効果的に抽出することが可能となる。この手法として、例えば、LAMBDA法を適用することが可能である。
そして、抽出された解候補のそれぞれについてχ二乗検定を行い、その解候補が真の解となりうるか否かを判定し、真の解となり得ないものを排除する。そして、解候補が1つに限定された場合には、この解候補を真の解とし、この真の解から整数サイクルを導出する。このように、絞り込まれた解候補についてχ二乗検定を行い、唯一の解に限定された場合にのみ、その解候補を真の解として特定するので、真の解の信頼性を高めることが可能となる。
【0017】
本発明の衛星を用いた測位方法において、前記整数サイクル導出過程は、2回以上繰り返して行われ、N+1回目(Nは1以上の整数)に得られた前記整数サイクル及びN回目までに得られた前記整数サイクルの差が十分小さい値であった場合に、前記N+1回目に得られた前記整数サイクルを前記測位過程において使用することが好ましい。
【0018】
このように、何回か連続して同様な整数サイクルが得られた場合に、その整数サイクルを測位過程において使用するので、例えば、複数要素の誤差が作用しあった結果、たまたま唯一の整数サイクルが得られることで、間違った整数サイクルを正しい値としてみなしてしまう可能性を排除することが可能となる。これにより、信頼性の高い整数サイクルを得ることが可能となり、測位精度を向上させることができる。
【0019】
本発明の衛星を用いた測位方法において、前記測位過程は、少なくとも4つ以上存在する衛星の中からDOP(Dilution Of Precision)が小さい4つの衛星を選定する過程と、選定した前記4つの衛星からの観測データと、前記整数サイクルとを用いて、前記移動体の測位を行うことが好ましい。
【0020】
少なくとも4つ以上存在する衛星のうち、DOPが小さい4つの衛星を選定し、選定した4つの衛星の観測データを用いて移動体の測位を行うので、精度の高い測位結果を得ることが可能となる。
【0021】
本発明の衛星を用いた測位方法において、前記測位過程は、前記移動体の測位結果をχ二乗検定する過程と、前記χ二乗検定の結果に応じて、サイクルスリップの有無を判定する過程とを備えることが好ましい。
【0022】
測位を行う度に、サイクルスリップの検定を行うので、サイクルスリップが発生した場合には、迅速に検知することができる。また、χ二乗検定という簡便な手法によりサイクルスリップを検知することが可能となる。
【0023】
本発明の衛星を用いた測位方法は、前記サイクルスリップが発生していると判定された場合に、少なくともサイクルスリップが発生している前記衛星の整数サイクルを修正する修正過程を備えることが好ましい。
上記修正過程は、例えば、前記観測データを受信した前記4つの衛星とは異なる組み合わせからなる4つの衛星を選定する過程と、新たに選定した前記4つの衛星の観測データと、これら衛星の前記整数サイクルとを用いて、前記移動体の測位を行う過程と、前記測位の結果をχ二乗検定する過程と、前記χ二乗検定の結果に基づいて、サイクルスリップの有無を判定する過程と、サイクルスリップが発生していないと判定された場合に、今回の測位結果を出力する過程とを具備することが好ましい。
【0024】
このように、サイクルスリップが生じた場合には、衛星の組合せを変更し、変更後の衛星による測位を試みる。そして、変更後の4つの衛星がいずれもサイクルスリップを起こしていないときには、これらの衛星からの観測データを用いて移動体の測位を行う。これにより、サイクルスリップが発生した後においても、移動体の測位を継続して行うことが可能となる。
【0025】
上記記載の衛星を用いた測位方法は、新たに選定した前記4つの衛星がいずれもサイクルスリップを起こしていなかった場合に、新たに選定した前記4つの衛星以外の衛星の整数サイクルを修正する過程と、修正後の整数サイクルを保持する過程とを備えることが好ましい。
【0026】
このように、新たに選定した4つの衛星以外の衛星については、その整数サイクルを修正し、修正後の整数サイクルを保持しておくので、再度、衛星の組み合わせが変更された場合でも、これらの整数サイクルを用いて移動局の測位を行うことが可能となる。
【0027】
上記記載の衛星を用いた測位方法は、新たに選定した前記4つの衛星についてもサイクルスリップが発生していると判定された場合に、予め決められた所定の条件に達するまで、衛星の組合せを変更する過程と、変更した各衛星の組み合わせについて、サイクルスリップの発生の有無を判定する過程とを具備し、前記判定の結果、サイクルスリップが発生しない衛星の組み合わせが存在しなかった場合に、前記整数サイクル導出過程により、整数サイクルの導出を行うことが好ましい。
【0028】
予め決められた所定の条件に達するまで、衛星の組合せを変更し、変更した各組合せについてサイクルスリップが発生しているか否かを判定するので、サイクルスリップが発生しない組合せを見つけられた場合には、その組み合わせによる衛星からの観測データなどを用いて、移動体の測位を引き続き行うことが可能となる。
そして、いずれの組み合わせによってもサイクルスリップの発生が検知された場合には、整数サイクル導出過程により、整数サイクルの導出が再度行われることとなる。
「予め決められた所定の条件」については、例えば、サイクルスリップの発生が検知されてからの期間、衛星の組合せを変更する回数、組み合わせた衛星のDOPの許容最大値などを適切な値に設定することが可能である。
【0029】
本発明は、少なくとも4つの衛星からの観測データに基づく移動局の測位をコンピュータシステムに実行させるための測位プログラムであって、前記移動局及び既知の位置にある基準局が4つの衛星から受信した観測データに基づいて、整数サイクルを導出する整数サイクル導出処理と、前記整数サイクル導出過程により導出された前記整数サイクルを用いて、次のエポック以降の前記移動体の測位を行う測位処理とを備え、前記整数サイクル導出処理は、前記基準局及び前記移動局が受信した観測データを用いて、前記移動局の位置に関する仮の解を求めるステップと、前記仮の解の情報を用いて、真の解が存在する第1の空間領域を求めるステップと、前記第1の空間領域を線形写像して第2の空間領域を求め、前記第2の空間領域内に存在する所定の解を真の解となりうる解候補とするステップと、前記解候補のそれぞれについて、χ二乗検定を行うステップと、前記χ二乗検定の結果、前記解候補が1つに限定された場合に、限定された前記解候補を前記真の解とするステップと、前記真の解から整数サイクルを得るステップとを具備する測位プログラムを提供する。
【0030】
本発明は、少なくとも4つの衛星から送信された衛星信号を使用して移動局の位置を計測するGPSに使用され、前記移動局に搭載されるGPS受信装置であって、前記衛星から送信された衛星信号を受信するGPSアンテナと、既知の位置にある基準局における観測データ又は前記観測データから導出される補正データを受信する地上アンテナと、前記GPSアンテナ及び前記地上アンテナにて受信された情報に基づいて、整数サイクルを導出するとともに、導出した前記整数サイクルを用いて、次のエポック以降の測位を行う処理部とを備え、前記処理部は、前記GPSアンテナ及び前記地上アンテナにて受信された情報を用いて、移動局の位置に関する仮の解を求める処理と、前記仮の解の情報を用いて、真の解が存在する第1の空間領域を求める処理と、前記第1の空間領域を線形写像して第2の空間領域を求め、前記第2の空間領域内に存在する所定の解を真の解となりうる解候補とする処理と、絞り込んだ前記解候補のそれぞれについて、χ二乗検定を行う処理と、前記χ二乗検定の結果、前記解候補が1つに限定された場合に、限定された前記解候補を前記真の解とする処理と、前記真の解から整数サイクルを得る処理とを実行するGPS受信装置を提供する。
【発明の効果】
【0031】
本発明の衛星を用いた測位方法によれば、整数サイクルの導出を簡便な手法により、且つ、迅速に行うので、高精度な測位をリアルタイムで実現することができるという効果を奏する。
また、サイクルスリップに対する耐性をもつので、サイクルスリップが発生しても継続的に測位結果を出力することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下に、本発明にかかる衛星を用いた測位方法を適用した測位システムの一実施形態について、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る測位システムの全体構成を模式的に示した図である。
【0033】
図1に示すように、本実施形態に係る測位システムは、少なくとも4個の衛星10Aから10Fと、既知の位置にある基準局2と、測位対象である移動局3と、基準局2から送信された所定の情報を移動局3へ送信するための送信機4とを主な構成として備えている。
衛星10Aから10Fは、例えば、地球の周りを飛んでいる24個のGPS衛星のうちの一部である。ここでは、基準局2及び移動局3が捕捉可能な衛星として、衛星10Aから10Fの6つの衛星を例として図示している。
基準局2は、例えば、図2に示されるように、衛星10Aなどから送信される衛星信号を受信するGPSアンテナ61と、GPSアンテナ61で受信した衛星信号を処理する処理部62とを備えるGPS受信装置6を備えている。
移動局3は、例えば、図2に示されるように、GPSアンテナ71と、GPSアンテナ71により受信した衛星信号を処理する処理部72とを備えるGPS受信装置7を備えている。
上記処理部62、72は、アナログ信号処理部63、73、デジタル信号処理部64、74、及び制御部65、75をそれぞれ備えている。
アナログ信号処理部63、73は、GPSアンテナ61、71で受信された電波を周波数変換して増幅し、出力する。
デジタル信号処理部64、74は、アナログ信号処理部63、73の出力信号に含まれている搬送波信号、C/Aコード、及び航法データをそれぞれ分離し、これらをデジタル化して観測データを生成し、この観測データを制御部65、75に送出する。
制御部65、75は、デジタル信号処理部64、74を制御するとともに、デジタル信号処理部64、74からの観測データを処理し、測位等を行う。
この制御部65、75は、図示しないCPU(中央演算装置)、ROM(Read
Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等からなるマイクロコンピュータを備えている。
特に、移動局に搭載されるGPS受信装置7の制御部75のROMには、測位を行う際に実行される後述の測位プログラムが格納されている。測位を開始する場合には、制御部75のCPUが、ROMに格納されている測位プログラムをRAMに読み出し、この測位プログラムの手順に従って処理を実行することにより、移動局の測位を行う。
【0034】
このような構成において、移動体の測位は、以下のような手順で行われる。
まず、基準局のGPS受信装置6及び移動局のGPS受信装置7は、6個の衛星10A〜10F(図1参照)の中から測位に用いる4つの衛星の組合せを所定の条件に基づいて決定する。例えば、DOPの小さい順に4つの衛星を選定(以下、選定した4つの衛星を「主衛星」という。また、「主衛星」に選定されなかった衛星を「副衛星」という。)する。本実施形態では、例えば、衛星10A、10B、10C、10Dが主衛星に選定されたとする。また、この場合、衛星10E、10Fが副衛星となる。
基準局の制御部65は、主衛星10A、10B、10C、10D(図1参照)の観測データに基づき、基準局の測位を行う。そして、この測位結果と、既知である基準局の位置座標とを比較することにより、観測データに含まれている誤差を求め、この誤差を観測データから除去するための補正データを生成する。
例えば、この補正データにより、電離層遅延diono、対流圏遅延dtropなどを観測データから除去することが可能となる。
基準局は、この補正データを移動局に対して送信する。
基準局から送信された補正データは、送信機4を介して移動局へ送信され、移動局が搭載しているGPS受信装置7の図示しない地上アンテナにて受信される。移動局のGPS受信装置7は、この補正データを制御部75の内部記憶装置に格納し、保持する。
【0035】
次に、移動局は、上記補正データと、主衛星10A、10B、10C、10D(図1参照)の観測データとを用いて、測位を行う。これは、GPS受信装置7内の制御部75が測位プログラムを実行することにより実現される。
ここで、本実施形態に係る測位プログラムは、観測データに未知の整数として含まれている整数サイクルを算出するための整数サイクル導出処理と、整数サイクル導出処理により、整数サイクルが決定された後に実行される測位処理とから構成されている。
移動局のGPS受信装置7の制御部75は、まず、整数サイクル導出処理を実行し、整数サイクルの決定を行う。
【0036】
以下、測位プログラムの実行手順について、図3を参照しながら詳しく説明する。
まず、整数サイクル導出処理では、主衛星10A、10B、10C、10D(図1参照)の観測データと、基準局からの補正データとに基づいて、移動局の測位、ここでは、移動局の仮の位置座標(以下「仮の解」という。)を算出する(ステップSA1)。
次に、上記仮の解の情報を用いて、真の解が存在する第1の空間領域を求める(ステップSA2)。
上記第1の空間領域は、例えば、仮の解を導出した観測データの分散共分散により仮の解の確率楕円体として求めることが可能である。
なお、上述したステップSA1の処理は、公知であるDGPSと同様の手法により、実現することが可能である。また、SA2の処理は、公知であるKGPSと同様の手法により、実現することが可能である。
【0037】
続いて、第1の空間領域を線形写像して第2の空間領域を求め、この第2の空間領域内に存在する所定の解を「真の解」となりうる解候補とする(ステップSA3)。ここで、真の解とは、正しい整数サイクルが反映された、誤差の極めて少ない解である。
このように、第1の空間領域を線形写像することにより、解候補を効果的に抽出することが可能となる。この手法として、例えば、LAMBDA法を適用することが可能である。
次に、ステップSA3にて抽出された各解候補について、χ二乗検定を行う(ステップSA4)。
例えば、ステップSA3において、LAMBDA法により、解候補の抽出を行った場合、抽出された解候補は、位置として表現されていることとなる。一方、ステップSA2において導出した分散共分散を使用したχ二乗検定を行う場合、その対象となる解候補は、距離(搬送波位相+整数サイクル)で表現されていなければならない。従って、LAMDA法の適用により、ステップSA3による解候補の抽出を行った場合には、位置で表現された解候補を一旦、距離の表現に戻した後に、距離により表現された各解候補について、χ二乗検定を実施する。
【0038】
続いて、χ二乗検定の結果、解候補が1つに限定されているか否かを判断する(ステップSA5)。この結果、解候補が1つに限定されなかった場合には、「NO」となり、ステップSA1に戻り、次のエポックについて、同様の処理を実行し、1つの解が得られるまで、ステップSA1からステップSA5までを繰り返す。
そして、ステップSA5において、解候補が1つに限定された場合には(ステップSA5において「YES」)、この解候補を真の解として決定し(ステップSA6)、この真の解から整数サイクルを導出する(ステップSA7)。
続いて、今回得られた整数サイクル及び前回までに得られた整数サイクルの差が十分小さい値であるか否かを判断する。例えば、今回得られた整数サイクルと前回得られた整数サイクルとの差が十分小さく、ほぼ同じであるか否かを判断する(ステップSA8)。ここで、今回は当該ルーチンの1ループ目であり、前回の整数サイクルが保持されていない。従って、ステップSA8において「NO」となり、今回の整数サイクルを保持した後(ステップSA9)、ステップSA1に戻り、次のエポックについて、同様の処理を行う。
【0039】
このようにして、次以降のエポックにおいて、同様に整数サイクルが導出され(ステップSA7)、ステップSA8について、今回の整数サイクルと前回の整数サイクルとの差が十分小さく、ほぼ同じであると判断された場合には(ステップSA8において「YES」)、今回の整数サイクルを後述の測位処理において使用する整数サイクルとして決定し(ステップSA10)、当該整数サイクル導出処理を終了する。
【0040】
以上のように、本実施形態に係る整数サイクル導出処理によれば、既知の位置にある基準局と移動局とが受信した観測データに基づいて仮の解を求めるので、非常に簡便な手法により、信頼性の高い仮の解を導出することが可能となる。
また、第1の空間領域だけでなく、第1の空間領域を線形写像させた第2の空間領域を用いることにより、非常に効果的に解候補を抽出することが可能となる。
更に、抽出された解候補についてχ二乗検定を行い、唯一の解に限定された場合にのみ、その解候補を真の解として特定するので、真の解の信頼性を高めることができる。
【0041】
次に、上述した整数サイクル導出処理を実行することにより、整数サイクルが決定されると、以降のエポックにおいては、決定された整数サイクルを用いて移動体の測位が実施される。
この移動体の測位は、移動体が備えるGPS受信装置7の制御部75が測位プログラムの測位処理を実行することにより実現される。
以下、測位処理について図4を参照して詳しく説明する。
まず、主衛星10A、10B、10C、10D(図1参照)からの観測データと、整数サイクルとに基づいて、測位計算を行う(ステップSB1)。
次に、ステップSB1にて得られた測位結果を用いて、主衛星10A、10B、10C、10Dにサイクルスリップが発生しているか否かを判定する(ステップSB2)。このサイクルスリップの判定は、ステップSB1で得られた測位結果を、距離の表現にて副衛星10E、10Fについてχ二乗検定を実施し、この検定結果が不合格(例えば、観測残差から導出されるχ二乗値が所定のχ二乗分布のパーセント点より大きい値)であれば、サイクルスリップが発生していると判定する。
ステップSB2において、サイクルスリップが発生していないと判断した場合には、ステップSB1で得られた測位結果を移動局の現在位置として出力し(ステップSB3)、当該エポックにおける測位処理を終了する。
そして、次のエポックにおいても、当該測位処理を行うことにより、継続的に移動局の測位を行う。
【0042】
一方、ステップSB2において、サイクルスリップが発生していると判断した場合には、サイクルスリップ修正処理を実行する(ステップSB4)。
具体的には、図5に示すように、まず、測位計算に使用していた主衛星10A、10B、10C、10Dと異なる組み合わせの4つの衛星を選定する(ステップSC1)。例えば、本実施形態では、図1に示すように、主衛星として使用していた衛星10A、10B、10C、10D以外に、捕捉可能な衛星として10Eと10Fが存在する。
従って、まず、今まで主衛星として使用していた10A、10B、10C、10Dのいずれかを10Eと変更した組み合わせ、例えば、10B、10C、10D、10Eの4つを新たな主衛星として選定し、この選定した4つの衛星10B、10C、10D、10Eからの観測データと、上述の整数サイクル導出処理にて得られた各衛星の整数サイクルとを用いて、測位計算を行う(ステップSC2)。ここで、上記整数サイクル導出処理(図3参照)では、主衛星として選定した衛星10A、10B、10C、10D以外の衛星である10E、10Fについても、「真の解」に基づいて整数サイクルを導出、決定しており(図3のステップSA6からステップSA10参照)、これらの整数サイクルを制御部75の内部記憶装置に保持している。これにより、今回のように、主衛星の組み合わせが変更された場合にも、迅速に対応できるように構成されている。
【0043】
続いて、ステップSC1における測位結果をχ二乗検定し、サイクルスリップが発生しているか否かを判断する(ステップSC3)。
この結果、サイクルスリップが発生していないと判定された場合には(ステップSC3において「NO」)、今回の測位に使用された4つの衛星以外の衛星、つまり衛星10Aと10Fの整数サイクルを算出する(ステップSC4)。この整数サイクルは、今回の測位結果、つまりステップSC2において得た測位結果と、各衛星10A、10Fの観測データとに基づいて、それぞれ得ることが可能である。
続いて、ステップSC2で得られた測位結果を今回のエポックの測位結果として出力し(ステップSC5)、当該修正処理を終了する。そして、次エポックにおいては、ステップSC1にて選定した衛星、つまり10B、10C、10D、10Eからの観測データとそれぞれの整数サイクルとに基づいて、図4に示した測位処理を継続して行う。
【0044】
一方、図5に示したサイクルスリップ修正処理のステップSC3において、ステップSC1にて選定した組み合わせによる主衛星によってもサイクルスリップが発生していると判定された場合には(ステップSC3において「YES」)、今までの組み合わせと異なる主衛星の組み合わせが存在するか否かを判断する(ステップSC6)。
この結果、今までと異なる組み合わせが存在するので(ステップSC6において「YES」)、ステップSC1に戻り、今までの組み合わせと異なる新たな主衛星の組合せを選定する(例えば、衛星10C、10D、10E、10Fの組み合わせなど)。
このようにして、サイクルスリップが発生していない主衛星の組み合わせがみつかるまで、ステップSC1からSC3の処理を繰り返し行い、サイクルスリップが発生していない組み合わせが見つかれば、上述したステップSC4以降の処理を実行することで、継続的に移動局の測位を行う。
【0045】
一方、全ての組み合わせにおいて、サイクルスリップの発生が検知された場合には(ステップSC6において「NO」)、整数サイクルの修正は不可能であると判断し(ステップSC7)、当該サイクルスリップ修正処理を終了する。
そして、正しい整数サイクルを導出すべく、図3に示した整数サイクル導出処理を再度実行する。
【0046】
以上述べてきたように、本実施形態に係る測位処理及びサイクルスリップ修正処理によれば、サイクルスリップが生じた場合に、主衛星の組合せを変更し、変更後の主衛星による測位を試みる。そして、変更後の主衛星の組み合わせにおいて、サイクルスリップが検知されなかった場合には、これらの衛星による測位を行うこととするので、サイクルスリップが発生しても、連続的に測位を行うことが可能となる。
また、サイクルスリップが発生しない主衛星の組合せを見つけた場合には、その組み合わせからなる主衛星の観測データを用いて得られた測位結果を用いて、上記主衛星以外の衛星の整数サイクルを修正するので、次回、主衛星の変更が行われた場合にも、迅速に対応することが可能となる。
【0047】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
例えば、図5に示したサイクルスリップ修正処理において、サイクルスリップが発生していない主衛星の組み合わせが見つかるまで、主衛星の組合せを変更していたが、この例に限定されず、「予め決められた所定の条件」に達するまで、主衛星の変更を行うようにしても良い。
例えば、予め主衛星の選定変更の回数の上限(例えば、5回など)を決めておき、主衛星の選定を5回行った結果、サイクルスリップが発生していない組み合わせを見つけられなかった場合には、それ以降の組み合わせの変更を断念して、当該サイクルスリップ修正処理を終了するようにしても良い。また、回数でなく、サイクルスリップ修正処理の開始から終了までの時間を決めておき、所定の時間内にサイクルスリップの修正が不可能であった場合には、当該処理を終了して、再度整数サイクルの導出処理を実行するようにしても良い。
【0048】
また、図5に示したサイクルスリップ修正処理において、ステップSC3で、サイクルスリップが発生していない組み合わせが見つかったことにより、ステップSC4でサイクルスリップを発生した衛星の整数サイクルを導出することができた場合には、全ての衛星10A〜10Fについて整数サイクルを有している状態になるので、次エポックからの測位計算においては、衛星10A〜10Fのうち、DOPが小さい4つの衛星を選定しなおし、新たに選定した4つの衛星を用いて、移動局の測位を行うようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の測位システムの全体構成を示す図である。
【図2】図1に示した基準局及び移動局の電気的構成を示したブロック図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る測位プログラムのうち、整数サイクル導出処理の手順を示したフローチャートである。
【図4】本発明の一実施形態に係る測位プログラムのうち、測位計算処理の手順を示したフローチャートである。
【図5】本発明の一実施形態に係る測位計算処理のサブルーチンであるサイクルスリップ修正処理の手順を示したフローチャートである。
【符号の説明】
【0050】
2 基準局
3 移動局
4 送信機
5 受信機
10A〜10F 衛星
6、7 GPS受信装置
61、71 GPSアンテナ
62、72 処理部
63、73 アナログ信号処理部
64、74 デジタル信号処理部
65、75 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも4つの衛星からの観測データに基づいて、移動局の測位を行う衛星を用いた測位方法であって、
前記移動局及び既知の位置にある基準局が4つの衛星から受信した観測データに基づいて、前記観測データに含まれる整数サイクルを導出する整数サイクル導出過程と、
前記整数サイクル導出過程により導出された前記整数サイクルを用いて、次のエポック以降の前記移動体の測位を行う測位過程と
を備え、
前記整数サイクル導出過程は、
前記基準局及び前記移動局が受信した観測データを用いて、前記移動局の位置に関する仮の解を求める過程と、
前記仮の解の情報を用いて、真の解が存在する第1の空間領域を求める過程と、
前記第1の空間領域を線形写像して第2の空間領域を求め、前記第2の空間領域内に存在する所定の解を真の解となりうる解候補とする過程と、
前記解候補のそれぞれについて、χ二乗検定を行う過程と、
前記χ二乗検定の結果、前記解候補が1つに限定された場合に、限定された前記解候補を前記真の解とする過程と、
前記真の解から整数サイクルを得る過程と
を具備する衛星を用いた測位方法。
【請求項2】
前記整数サイクル導出過程は、2回以上繰り返して行われ、N+1回目(Nは1以上の整数)に得られた前記整数サイクル及びN回目までに得られた前記整数サイクルの差が十分小さい値であった場合に、前記N+1回目に得られた前記整数サイクルを前記測位過程において使用する請求項1に記載の衛星を用いた測位方法。
【請求項3】
前記測位過程は、
少なくとも4つ以上存在する衛星の中からDOPが最も小さい4つの衛星を選定する過程と、
選定した前記4つの衛星からの観測データと、前記整数サイクルとを用いて、前記移動体の測位を行う請求項1又は請求項2に記載の衛星を用いた測位方法。
【請求項4】
前記測位過程は、
前記移動体の測位結果をχ二乗検定する過程と、
前記χ二乗検定の結果に応じて、サイクルスリップの有無を判定する過程と
を備える請求項1から請求項3のいずれかの項に記載の衛星を用いた測位方法。
【請求項5】
前記サイクルスリップが発生していると判定された場合に、少なくともサイクルスリップが発生している衛星の整数サイクルを修正する修正過程を備え、
前記修正過程は、
前記観測データを受信した前記4つの衛星とは異なる組み合わせからなる4つの衛星を選定する過程と、
新たに選定した前記4つの衛星の観測データと、これら衛星の前記整数サイクルとを用いて、前記移動体の測位を行う過程と、
前記測位の結果をχ二乗検定する過程と、
前記χ二乗検定の結果に基づいて、サイクルスリップの有無を判定する過程と、
サイクルスリップが発生していないと判定された場合に、今回の測位結果を出力する過程と
を具備する請求項4に記載の衛星を用いた測位方法。
【請求項6】
新たに選定した前記4つの衛星がいずれもサイクルスリップを起こしていなかった場合に、新たに選定した前記4つの衛星以外の衛星の整数サイクルを修正する過程と、
修正後の整数サイクルを保持する過程と
を備える請求項5に記載の衛星を用いた測位方法。
【請求項7】
新たに選定した前記4つの衛星についてもサイクルスリップが発生していると判定された場合に、予め決められた所定の条件に達するまで、衛星の組合せを変更する過程と、
変更した各衛星の組み合わせについて、サイクルスリップの発生の有無を判定する過程とを備え、
前記判定の結果、サイクルスリップが発生しない衛星の組み合わせが存在しなかった場合に、前記整数サイクル導出過程により、整数サイクルの導出を行う請求項5又は請求項6に記載の衛星を用いた測位方法。
【請求項8】
少なくとも4つの衛星からの観測データに基づく移動局の測位をコンピュータシステムに実行させるための測位プログラムであって、
前記移動局及び既知の位置にある基準局が4つの衛星から受信した観測データに基づいて、整数サイクルを導出する整数サイクル導出処理と、
前記整数サイクル導出過程により導出された前記整数サイクルを用いて、次のエポック以降の前記移動体の測位を行う測位処理と
を備え、
前記整数サイクル導出処理は、
前記基準局及び前記移動局が受信した観測データを用いて、前記移動局の位置に関する仮の解を求めるステップと、
前記仮の解の情報を用いて、真の解が存在する第1の空間領域を求めるステップと、
前記第1の空間領域を線形写像して第2の空間領域を求め、前記第2の空間領域内に存在する所定の解を真の解となりうる解候補とするステップと、
前記解候補のそれぞれについて、χ二乗検定を行うステップと、
前記χ二乗検定の結果、前記解候補が1つに限定された場合に、限定された前記解候補を前記真の解とするステップと、
前記真の解から整数サイクルを得るステップと
を具備する測位プログラム。
【請求項9】
少なくとも4つの衛星から送信された衛星信号を使用して移動局の位置を計測するGPSに使用され、前記移動局に搭載されるGPS受信装置であって、
前記衛星から送信された衛星信号を受信するGPSアンテナと、
既知の位置にある基準局における観測データ又は前記観測データから導出される補正データを受信する地上アンテナと、
前記GPSアンテナ及び前記地上アンテナにより受信された情報に基づいて、整数サイクルを導出するとともに、導出した前記整数サイクルを用いて、次のエポック以降の測位を行う処理部とを備え、
前記処理部は、
前記GPSアンテナ及び前記地上アンテナにて受信された情報を用いて、移動局の位置に関する仮の解を求める処理と、
前記仮の解の情報を用いて、真の解が存在する第1の空間領域を求める処理と、
前記第1の空間領域を線形写像して第2の空間領域を求め、前記第2の空間領域内に存在する所定の解を真の解となりうる解候補とする処理と、
前記解候補のそれぞれについて、χ二乗検定を行う処理と、
前記χ二乗検定の結果、前記解候補が1つに限定された場合に、限定された前記解候補を前記真の解とする処理と、
前記真の解から整数サイクルを得る処理と
を実行するGPS受信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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