説明

衛生マスク

【課 題】 ウイルス及び/又は微生物を含有する唾液飛沫等空中飛散物、空中漂流物等を媒介とする伝染性疾患防護用で、且つ着色防止機能を有する衛生マスクの提供。
【解決手段】 織布又は不織布等のマスク基材に(A)X型等の銀ゼオライトと(B)プリン塩基類、ピリミジン塩基類又はチアベンダゾールより選ばれた1種又は2種以上の成分とからなる配合物をPVAのようなバインダーで固定されてなるウイルス及び/又は微生物防護用衛生マスク。
【選択図面】 なし

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着色防止機能を有するウイルス及び/又は微生物防護用衛生マスクに関する。
さらに詳しくは、本発明は、ウイルス及び/又は微生物を含有する唾液飛沫等の空中飛散物、空中漂流物等を媒介とする伝染性疾患の防護効果を有する衛生マスクに関する。
【背景技術】
【0002】
抗菌性マスクは、例えば、特開平2‐88083号公報(特許文献1)、特開平9‐84890号公報(特許文献2)等で開示されている。
しかしながら、これらに使用される抗菌性ゼオライトは、空気酸化又は光酸化されて褐色ないし黄色に着色し易く、使用時又は保存時において製品価値が著しく損なわれ、実用上問題があった。特に、水分が存在すると、着色が始まり、着色時に呼気中の湿気、唾液等の水分の存在によりその着色部分がさらに着色を増していた。
これらの抗菌性ゼオライトによる着色問題に対して、ゼオライトの一部をアンモニウムイオンで置換する技術(特開昭63‐265958号公報(特許文献3)、特開平1‐24860号公報(特許文献4))が提案されたが、着色問題があった。
【0003】
一方、インフルエンザウイルス等は感染力が強く、ウイルスが変異を起こしやすいため、有効な薬剤はなかった。また、最近、中国を初め各国で爆発的な流行を来たし、深刻な問題となっているSARS(重症急性呼吸器症候群)の原因であるコロナウイルスは、抗生物質に耐性を有するウイルスであり、従来の殺菌剤等でこれを満たすものはなかった。
【0004】
【特許文献1】特開平2‐88083号公報
【特許文献2】特開平9‐84890号公報
【特許文献3】特開昭63‐265958号公報
【特許文献4】特開平1‐24860号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、上記問題に鑑み鋭意研究を行った結果、銀ゼオライトと、プリン塩基類、ピリミジン塩基類又はチアベンダゾールより選ばれた1種又は2種以上、からなる配合物を織布又は不織布にバインダーで固定せしめたマスクが抗菌作用のみならず、人体に重篤な被害を与えるウイルス群、特に耐性ウイルス、例えばSARSの元凶となるコロナウイルス等に対して特定の活性部位を失活させることによる防護作用に優れ、長時間使用しても持続性がよいことを見出し、本発明に到達したものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明は以下の構成を基本とするものである。
(1)X型ゼオライトを使用した銀ゼオライトと、プリン塩基類、ピリミジン塩基類又はチアベンダゾールより選ばれた1種又は2種以上の成分とからなる配合物が織布又は不織布にバインダーで固定されてなるウイルス及び/又は微生物防護用衛生マスク。
(2)ウイルス及び/又は微生物が、コロナウイルス、インフルエンザウイルス、A香港型ウイルス、Bソ連型ウイルス、ムンプスウイルス、帯状疱疹ウイルス、風疹ウイルス、バルボウイルス、バビーローマウイルス、ポリオウイルスから選ばれたものであることを特徴とする(1)に記載のウイルス及び/又は微生物防護用衛生マスク。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、銀ゼオライトを固定することにより細菌類ことにMRSAに関する黄色ブドウ球菌、緑膿菌、真菌類、マイクロプラズマ等の微生物類からの防護、さらにはウイルス類、好ましくは風疹ウイルス、コロナウイルス、インフルエンザウイルス群、麻疹ウイルス、ヘルペスウイルス等の外被タンパク質を有するウイルス群からの防護作用に著しく優れる防護用マスクを提供することが可能となり、微生物類、ウイルスからの防護、感染防止ひいては感染の拡大防止にも著しい効果を発揮するものである。
また、ウイルス及び/又は微生物防護機能を確保しつつ通気機能が高いので、着用時に息苦しさがなく、使用感に優れるものである。
さらに、銀ゼオライトはバインダーで不織布等のマスク基材に固定されているので、マスク着用時に銀ゼオライトを含有する配合物を口に接する個所に固定しても安全である。
銀ゼオライト自体は、プリン塩基類、ピリミジン塩基類又はチアベンダゾールより選ばれた1種又は2種以上からなる塩基類の配合により、長時間着用しても銀ゼオライトに起因する着色を防止し、しかも長時間にわたって耐性のあるウイルス及び/又は微生物に対して防護効果を発揮する。
本発明のウイルス及び/又は微生物防護用マスクは、微生物、ウイルス防護性及び感染の拡大の防止に優れた効果を有するとともに高い安全性、耐久性、安定性を有するため各種病原体汚染地区での着用に高い効果を発揮する。このため、医療関係者のみならず、病原体汚染地区在住者、旅行者、空港関係者、教育機関、各種の事業所関係者への展開が可能であり、社会的貢献度は高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に、本発明の具体的な実施の形態について説明する。
本発明では、ウイルス及び/又は微生物防護のために銀ゼオライトを使用する。銀ゼオライトは銀イオンを保持する物質であり、長時間にわたって銀イオンを徐々に放出するが、該銀イオンが病原体に対する不活化物質となる。銀ゼオライトが、細菌類、特にMRSA黄色ブドウ球菌、緑膿菌、真菌類、マイクロプラズマ類等の微生物類に対し殺菌作用による防護効果に特に優れ、ウイルス類への活性阻害作用による防護効果に著しく優れることが判明した。本発明の防護マスクに使用する銀ゼオライトが、特に有効に作用するウイルスとしては、包被タンパク質を有するウイルス群が挙げられる。具体的には、風疹ウイルス、コロナウイルス、インフルエンザウイルス群、麻疹ウイルス、HIVウイルス、ヘルペスウイルス、チクングニヤウイルス、RSウイルス、脳炎ウイルス又はアレナウイルス群等が挙げられる。とりわけ、遺伝子中に硫黄原子を含むウイルスに対して銀イオンが有効に作用する。
包被タンパク質を有するコロナウイルスに対して銀イオンは有効であり、SARSに対しても有効性が期待される。
本発明で使用する銀ゼオライトに使用されるゼオライトは、A型、Y型又はX型等のタイプがあるが、ことにX型ゼオライトを使用すると、著しい防護効果を発揮する。
【0009】
一方、銀ゼオライトを含有する配合物を織布又は不織布にバインダーで固定したマスクを口部に掛けて使用する際、銀ゼオライト単独の場合は、主として呼気や排気又は唾液中に含まれる湿気又は水分によってマスクは吸湿又は吸水し、銀ゼオライトが着色しやすくなる。着色の主因は、湿気又は水分の存在によって解離する銀イオンの濃度が限界濃度を超えた場合に関係すると考えられており、解離する銀イオンの濃度を限界濃度内に抑えるのに最も有効な物質として、プリン塩基類、ピリミジン塩基類又はチアベンダゾールより選ばれた1種又は2種以上の成分がある。
【0010】
上記プリン塩基類又はピリミジン塩基類は、遊離塩基を有する化合物、あるいはRNA、DNAを構成するアデニン、グアニン、シトシン、チミン又はウラシルを挙げることができる。
これらの物質を銀ゼオライトに配合することによって、銀イオンの活性が損なわれることもなく、着色防止機能を飛躍的に改善することができる。
【0011】
本発明のウイルス及び/又は微生物防護用マスクが、所期の防護効果を顕著に発揮するために、衛生マスクを構成する織布又は不織布に対して、該素材100重量部に対して銀ゼオライトを0.01〜3重量部、銀イオンの着色防止機能を発揮するためにプリン塩基類、ピリミジン塩基類又はチアベンダゾールより選ばれた1種又は2種以上の塩基類を0.0001〜3重量部固定することが好ましい。
【0012】
本発明では、織布又は不織布にかかる物質を固定するためにバインダーを使用するが、バインダーに使用する物質としては特に限定されるものではないが、ポリビニルアルコール、ポリウレタン、アクリル系ポリマー、ゼラチン、プルラン、セルロース誘導体、デンプン、SBR又はNBR等のゴム類等を例示することができる。上述するようにバインダーによって織布又は不織布に対して銀ゼオライトを固定するので、マスクとして使用したときに、人体、特に口部に直接接触しても十分衛生上の安全が確保される。
【0013】
本発明のウイルス及び/又は微生物防護用マスクは、通気度が50〜600cm3/cm2・secであることが好ましい。通気度が、50cm3/cm2・sec未満では、ウイルス防護効果は高いが、使用時に息苦しくなり、長時間使用し辛い。一方、通気度が600cm3/cm2・secを越えると、呼吸は楽であるが、ウイルス防護効果が低下する。
【0014】
本発明のウイルス及び/又は微生物防護用マスクの形状、構造は、特に限定されるものではなく、使用性や口部への密着性を考慮して、適宜、形態、デザインを設計することができる。
銀ゼオライトと、プリン塩基類又はピリミジン塩基類又はチアベンダゾールより選ばれた1種又は2種以上からなる配合物を、マスク着用時にマスクの口に直接当たる側にバインダーで固定することも出来るが、外面側に固定することも出来る。さらには、厚み方向の中間層に固定することも可能である。
織布又は不織布への固定の方法は、特に限定されるものではないが、例えば、上記配合物とバインダーとを混合しておき、該混合物を織布又は不織布等の基材に塗布する方法、含浸せしめる方法、スプレーする方法又は印捺法等を例示することができる。また、上記配合物の固定の形態は、織布又は不織布からなる基材に対する直接的な固定又は、予め上記配合物を固定した基材をマスクに装着することによって所期の目的を達成することができる。
【0015】
〔実施例〕
以下、本発明を実施例によってさらに詳しく説明する。
(評価例)
銀ゼオライトを純水に懸濁し(10mg/ml)、オートクレーブ滅菌後、所定の濃度に希釈した。各種ウイルス液を添加後37℃に保持し経時的に試料の一部を採取してブラック法によってウイルス力価を測定し、次式によって不活化度を求めた。包被タンパク質を有するウイルスとして、下記表1に示すように、コロナウイルス、インフルエンザウイルス、A香港型ウイルス、Bソ連型ウイルス、ムンプスウイルス、帯状疱疹ウイルス、風疹ウイルス、バルボウイルス、バビーローマウイルス、ポリオウイルスによってゼオライトの試験をした。
結果を下表1に示す。
[不活化度]=[処理後のウイルス力価]/[処理前のウイルス力価]
【0016】
【表1】

【0017】
X型ゼオライトを使った銀ゼオライト、A型ゼオライトを使った銀ゼオライトのいずれの場合にもウイルス不活化度効果が認められたが、銀ゼオライトの同一濃度のときには、X型ゼオライトを使った銀ゼオライトによるウイルス不活化度効果の方がX型ゼオライトを使った銀ゼオライトよりもすぐれていることがわかった。
【実施例1】
【0018】
銀ゼオライトとして、ゼオミックHD‐10N(X型ゼオライト使用:登録商標、シナネン株式会社製造)、塩基類としてアデニン、グアニンからなる配合物をバインダーとしてポリウレタンエマルジョンを使用して目付80g/m2の綿不織布に固着し、乾燥した。
不織布100重量部に対する固着量は、ゼオミックHD−10Nが0.10重量%、アデニン0.02重量%、グアニン0.02重量%であった。この乾燥物をカッテングして7cm×13cmのウイルス防護用マットを作成した。
【0019】
得られたマットをガーゼマスクの生地(8.5cm×15cm)の口当て生地の中に挿入してウイルス防護用マスクを製造した。
得られたマスクの通気度は280cm3/cm2・secであった。
このマスクを病原体汚染地域への旅行者に対して10日間の着用テストした。
着用テストの結果、着用中に息苦しさもなく、使用感も良好であり、連続着用しても何ら着色は認められず、使用後の外観が変わらなかった。また、コロナウイルスがこのマスクを通過することもなく、SARS感染防止に効果があった。
【実施例2】
【0020】
銀ゼオライトとして、ゼオミックHD‐10N(X型ゼオライト)とゼオミックAZ‐10N(A型ゼオライト)(登録商標、シナネン株式会社製造)の等量混合物、塩基類としてシトシン、チミンからなる配合物をバインダーとしてアクリル樹脂エマルジョンを使用して目付100g/m2の綿織布に固着し、乾燥した。
不織布100重量部に対する固着量は、ゼオミックHD−10Nが0.06重量%、ゼオミックAZ−10Nが0.06重量%、シトシン0.03重量%、チミン0.03重量%であった。
この乾燥物をカッティングして7cm×13cmのウイルス防護用マットを作成した。得られたマットをガーゼマスクの生地(8.5cm×15cm)の口当て生地の中に挿入してウイルス防護用マスクを製造した。
得られたマスクの通気度は480cm3/cm2・secであった。
このマスクを冬季のインフルエンザ流行期に20日間着用(被験者5名)しても、使用中に息苦しさを訴える者はなく、使用感も良かった。また、使用後に何ら着色は認められず、外観に変わりはなかった。さらに、使用効果として、マスクをインフルエンザウイルスが通過することもなく、人ごみに出かけてもインフルエンザに感染しなかった。
【実施例3】
【0021】
銀ゼオライトとして、ゼオミックHD‐10N(X型ゼオライト)とゼオミックAZ‐10N(A型ゼオライト)(登録商標、シナネン株式会社製造)の等量混合物、塩基類としてチアベンダゾールからなる配合物をバインダーとしてアクリル樹脂エマルジョンを使用して目付100g/m2の綿製ガーゼに固着し、乾燥した。
綿製ガーゼ100重量部に対する固着量は、ゼオミックHD−10Nが0.05重量%、ゼオミックAZ−10Nが0.05重量%、チアベンダゾール0.05重量%であった。
この乾燥物をガーゼマスク(8.5cm×15cm)の外面用生地として使用した防護用マスクを製造した。
得られたマスクの通気度は300cm3/cm2・secであった。
このマスクを帯状疱疹が流行している小学校で児童に着用させた。
7日間の着用時に息苦しさを訴える児童はおらず、使用性は抜群であった。使用後にマスクに何らの着色は認められず、外観に変わりはなかった。また、防護用マスクを帯状疱疹ウイルスが通過することがなく、感染の恐れは全くなかった。
【実施例4】
【0022】
銀ゼオライトとして、ゼオミックHD‐10N(X型ゼオライト)とゼオミッAZ‐10N(A型ゼオライト)(登録商標、シナネン株式会社製造)の混合物(混合比はX型:A型=1:2)、塩基類としてチアベンダゾールからなる配合物をバインダーとしてアクリル樹脂エマルジョンを使用して目付100g/m2の綿製ガーゼに固着し、乾燥した。
綿製ガーゼ100重量部に対する固着量は、ゼオミックHD−10Nが0.03重量%、ゼオミックAZ−10Nが0.06重量%、チアベンダゾール0.05重量%であった。
この乾燥物をガーゼマスク(7cm×12cm)の口当て生地として使用した防護用マスクを製造した。
得られたマスクの通気度は310cm3/cm2・secであった。
このマスクをインフルエンザ及びマイコプラズマ性肺炎が流行している病院内の患者によって10日間着用テストした。
マスク着用時に息苦しさを訴える者はなく、使用感も良好で、10日間着用後にもマスクに何らの着色がなく、外観に変化がなかった。
結果として、インフルエンザウイルスやマイコプラズマが上記マスクを通過することなく、感染拡大を防止できた。さらにテスト実施の担当医師及び看護士による着用テストにおいても患者から感染することはなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
X型ゼオライトを使用した銀ゼオライトとプリン塩基類、ピリミジン塩基類又はチアベンダゾールより選ばれた1種又は2種以上の成分とからなる配合物が織布又は不織布にバインダーで固定されてなるウイルス及び/又は微生物防護用衛生マスク。
【請求項2】
ウイルス及び/又は微生物が、コロナウイルス、インフルエンザウイルス、A香港型ウイルス、Bソ連型ウイルス、ムンプスウイルス、帯状疱疹ウイルス、風疹ウイルス、バルボウイルス、バビーローマウイルス、ポリオウイルスから選ばれたものであることを特徴とする請求項1に記載のウイルス防護用衛生マスク。

【公開番号】特開2006−247402(P2006−247402A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−80160(P2006−80160)
【出願日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【分割の表示】特願2003−144056(P2003−144056)の分割
【原出願日】平成15年5月21日(2003.5.21)
【出願人】(000212005)
【出願人】(595118010)
【Fターム(参考)】