説明

衝撃吸収材とその製造方法

【課題】多数の空隙を形成して透水性を高めるとともに、ゴムチップ材間の結合強度を維持して引張り強度および耐久性を維持した衝撃吸収材とその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 粒状ゴムチップ材を結合して得られた衝撃吸収材の製造方法において、粒状ゴムチップ材と粒状水溶性物質の混合物を熱圧縮成形して固形物にした後、前記固形物を水溶処理することで前記粒状水溶性物質を水に溶出させて空隙部を設け、前記空隙部を連通させて透水性にしたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は下地面に敷設し、遊具で遊んでいる児童の落下または転倒した場合における衝撃を吸収し、ケガを防止する衝撃吸収材とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
児童が学校や公園の遊具から落下または転倒することでケガをするという事故が多発しており、これを未然に防ぐため遊具の下に衝撃吸収材を敷くことが多くなってきている。そのため最近では、主にゴムの廃材から衝撃吸収材が製造され、広く利用されている。例えば、廃棄タイヤなどのゴムチップ材から製造した衝撃吸収材などが挙げられる。即ち、従来の衝撃吸収材は、廃棄タイヤなどのゴムチップ材をバインダーで結合して製造しているものが多い。(例えば、特許文献1参照)
【特許文献1】特開2003−147710号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしこれらの衝撃吸収材は、各チップ材間の空隙が小さく、透水性が乏しいため、降水時に公園の遊具の下に水たまりができるという問題があった。またこの問題を解決するために、衝撃吸収材に排水用の穴を設けることで透水性を高めた場合や、ゴムチップ材の密度を下げることで衝撃吸収材内に多数の空隙を形成して透水性を高めた場合には、ゴムチップ材間の結合強度が低下するため強度および耐久性が低下し、その結果衝撃吸収材が欠損しやすく、摩耗も早いという問題があった。
【0004】
本発明では、上記の問題点を改善するものであり、多数の空隙を形成して透水性を高めるとともに、ゴムチップ材間の結合強度を維持して引張り強度および耐久性を維持した衝撃吸収材とその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
即ち、本願請求項1記載の発明は、粒状ゴムチップ材を結合して得られた衝撃吸収材であり、粒状ゴムチップ材の間に空隙部を設け、該空隙部を連通させて透水性にした衝撃吸収材にある。
【0006】
本願請求項2記載の発明は、粒状ゴムチップ材を結合して得られた衝撃吸収材の製造方法において、粒状ゴムチップ材と粒状水溶性物質の混合物を熱圧縮成形して固形物にした後、前記固形物を水溶処理することで前記粒状水溶性物質を水に溶出させて空隙部を設けた衝撃吸収材の製造方法にある。本発明では、粒状ゴムチップ材を結合する際に粒状の水溶性物質を添加し、熱圧縮成形することで固形物にし、次にこの固形物の水溶処理を行うことで水溶性物質を溶解し、内部に連通した空隙を形成することにより、本発明の課題を解決した。
【0007】
本願請求項3記載の発明は、粒状ゴムチップ材と粒状水溶性物質の混合物に接着剤がバインダーとして添加される衝撃吸収材の製造方法にある。これにより、ゴムチップ材間の結合強度を維持して引張り強度および耐久性を維持した衝撃吸収材を得ることができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、粒状ゴムチップ材から衝撃吸収材を製造する際に水溶性物質を添加し、次に衝撃吸収材内に含まれる水溶性物質の水溶処理を行うことで衝撃吸収材内に空隙が形成されたことにより、従来の衝撃吸収材よりも高い透水性を示すことが確認された。また、必要により粒状ゴムチップ材にバインダーを添加することでチップ材間の結合を強めて引張り強度および耐久性を維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の実施の形態である衝撃吸収材について説明する。図1は本発明に係る衝撃吸収材の断面図であり、衝撃吸収材1では粒状ゴムチップ材2が互いに3次元的に集合して結合し、しかも粒状ゴムチップ材2の間に空隙部3がランダムに形成され、かつ前記空隙部3同士では連通した水路4を形成している。
【0010】
前記衝撃吸収材1の製造方法では、粒状ゴムチップ材と粒状水溶性物質の混合物が金型に投入されるが、この場合混合物は金型容積1に対して1.5〜3程度である。金型温度を140〜170℃、3〜30分、面圧0.1〜1MPaの条件で混合物を加圧加熱処理され、固形物にする。この場合、混合物には接着剤がバインダーとして添加され、これによりゴムチップ材間の結合強度を維持して引張り強度および耐久性を維持した衝撃吸収材を得ることができる。尚、熱圧縮を行う際、より低温、または短時間で行った場合にはゴム組成物が結合せず衝撃吸収材としての強度や耐久性が低下するため、衝撃吸収材として用いるには適していない。
【0011】
ここで使用する粒状ゴムチップ材は、ゴム廃棄物を用いることができる。ゴム廃棄物は、ゴム組成物を加硫する前の廃棄物であっても、ゴム組成物を加硫した後の廃棄物であっても、いずれでもよい。伝動ベルトの廃棄物を用いる場合、ゴム組成物には短繊維や帆布として、上記の綿、ナイロン6、パラ系アラミド、メタ系アラミド、ビニロンなどが含有されており、心線として上記のポリエステルなどが含有されている。このようにゴム廃棄物を用いることによって、廃棄物を有効再利用して省資源化することができるものであり、また材料コストが殆どかからずより安価な衝撃吸収材を提供することができるものである。
【0012】
粒状ゴムチップ材の粒径は、衝撃吸収材の引張り強度、耐久性を示しながら高い透水性を示すためにも重要であり、0.3〜10.0mmが好ましく、より好ましくは3〜6mmである。粒状ゴムチップ材の破砕粒径が0.3mm未満の場合では、水溶性物質の水溶処理を行っても衝撃吸収材内に空隙が形成しないため透水性を得ることができず、一方10.0mmを越えるとゴムチップ材間の結合強度が低いため、欠損しやすく、摩耗も早くなる結果となる。
【0013】
粒状ゴムチップ材のゴム成分は、特に限定されるものではなく、クロロプレン系ゴム、EPDM系ゴム、天然ゴム系ゴム、ブタジエン系ゴム、スチレンブタジエン系ゴム、水素化ニトリル系ゴム、ACSM(アルキル化クロロスルフォン化ポリエチレン)系ゴムなど、任意である。
【0014】
本発明に用いる水溶性物質としては、塩化カルシウムのほかに、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、塩化鉄、臭化ナトリウム、臭化ルビジウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化セシウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、硝酸マグネシウム、リン酸カリウム、リン酸二水素一ナトリウム、スクロース、酒石酸、ギ酸ナトリウム、クエン酸、グルコン酸ナトリウム、シュウ酸カリウム、マロン酸などが挙げられる。また、バインダーを用いてゴム組成物の結合を行うことでより強い結合示すことが確認された。
【0015】
前記水溶性物質の含有量は、粒状ゴムチップ材100質量部に対して5〜35質量部にすることで、空隙率5〜35%の衝撃吸収材を得ることができる。水溶性物質の含有量が5質量部未満では、衝撃吸収材内に形成される空隙が少なくなり透水性が低くなるため、屋外で用いる衝撃吸収材には適していない。また水溶性物質の含有量が35質量部を越えると、衝撃吸収材内に形成される空隙が多くなり過ぎ、ゴムチップ材間の結合強度が低下するため強度および耐久性が低下するという結果になる。
【0016】
また水溶性物質の粒径は、0.3〜3mmが好ましく、0.3mm未満の場合では、水溶性物質の水溶処理を行っても衝撃吸収材内に空隙が形成しないため、透水性を得ることができず、一方3mmを越えると衝撃吸収材の空隙が多いため、欠損しやすく、摩耗も早くなる結果になる。
【0017】
前記接着剤としては、粒状ゴムチップ材をNCO末端プレポリマーが主成分である1液性のウレタンバインダーで結合することにより、衝撃吸収材の強度および耐久性を高める効果がある。他の接着剤として、エポキシ樹脂系やアクリル樹脂系のバインダーを使用することができる。
【実施例】
【0018】
次に、本発明を実施例により具体的に説明する。
【0019】
実施例1
表1にゴム配合を示す加硫済みのゴム組成物を6mmの粒径になるように粉砕し、このゴム組成物100質量部に粒径2.0mmの塩化カルシウムを30質量部添加したものを金型に入れて熱プレスによって160℃、30分で加熱加圧した後、金型を冷却して、成形品を取り出し、室温の水中に20分間浸けて、塩化カルシウムを溶かした。試験に用いた成形品の寸法は、縦100mm、横100mm、厚み9mmとした。
【0020】
尚、得られた成形品の上層部を切り取って試料とし、嵩密度、引張強度、耐摩耗性、衝撃吸収性、そして透水性について測定した。その結果を表3に併記する。尚、測定方法は以下の通りである。
【0021】
嵩密度は、成形品の質量(g)/成形品の体積(cm)の式より算出した。
【0022】
引張強度は、成形品から試験片(JIS3号)を切り取り、その試験片の引張試験をJISK6251に準じて行うことにより確認した。
【0023】
耐摩耗性は、成形品に4.9N(500g)の荷重をかけ、テーバ摩耗試験を行うことにより確認した。また摩耗率は、摩耗量(g)/試験前の成形品の質量(g)×100の式より算出した。
【0024】
衝撃吸収性(A硬度)は、JISK6253に準じ、JISA硬度計により測定した。
【0025】
透水性は、成形品上に直径5cmの開口部を有する筒を置き、この筒内に500mlの水を入れ、すべての水が透過するまでの時間を測定した。
ここで、引張強度、耐摩耗性、衝撃吸収性、そして透水性の評価において、◎は優、○は良、△は可、そして×は不可を示す。
【0026】
【表1】

【0027】
実施例2〜3
表1に示す加硫済みのクロロプレンゴム組成物を所定の粒径になるように粉砕し、このクロロプレンゴム組成物100質量部にバインダー(1液性のウレタンバインダー:三井化学ポリウレタン社製タケネートF−188P)を16質量部、所定の粒径の塩化カルシウムを10質量部添加したものを金型に入れて熱プレスによって160℃、7分で加熱加圧した後、金型を冷却して、成形品を取り出し、室温の水中に20分間浸けて、塩化カルシウムを溶かした。得られた成形体の物性値を表3に併記する。
【0028】
実施例4
表1に示す加硫済みのクロロプレンゴム組成物を所定の粒径になるように粉砕し、このゴム組成物100質量部にバインダー(1液性のウレタンバインダー:三井化学ポリウレタン社製タケネートF−188P)を16質量部、0.5mm粒径の炭酸ナトリウムを10質量部添加したものを金型に入れて熱プレスによって160℃、7分で加熱加圧した後、金型を冷却して、成形品を取り出し、室温の水中に20分間浸けて、炭酸ナトリウムを溶かした。得られた成形体の物性値を表3に併記する。
【0029】
実施例5
表2に示す加硫済みのEPDMゴム組成物を6mmの粒径になるように粉砕し、このゴム組成物100質量部に粒径2.0mmの塩化カルシウムを30質量部添加したものを金型に入れて熱プレスによって160℃、30分で加熱加圧した後、金型を冷却して、成形品を取り出し、室温の水中に20分間浸けて、塩化カルシウムを溶かした。得られた成形体の物性値を表3に併記する。
【0030】
【表2】

【0031】
実施例6
表2に示す加硫済みのEPDMゴム組成物を6mmの粒径になるように粉砕し、このゴム組成物100質量部にバインダー(1液性のウレタンバインダー:三井化学ポリウレタン社製タケネートF−188P)を16質量部、2.0mm粒径の塩化カルシウムを10質量部添加したものを金型に入れて熱プレスによって160℃、7分で加熱加圧した後、金型を冷却して、成形品を取り出し、室温の水中に20分間浸けて、塩化カルシウムを溶かした。得られた成形体の物性値を表3に併記する。
【0032】
比較例1
表1にゴム配合を示す加硫済みのゴム組成物を6mmの粒径になるように粉砕し、これを金型に入れて熱プレスによって160℃、30分で加熱加圧した後、金型を冷却して、成形品を取り出して成形体を得た。得られた成形体の物性値を表3に併記する。
【0033】
比較例2
表1にゴム配合を示す加硫済みのゴム組成物を6mmの粒径になるように粉砕し、このゴム組成物100質量部にバインダー(1液性のウレタンバインダー:三井化学ポリウレタン社製タケネートF−188P)を16質量部添加したものを金型に入れて熱プレスによって160℃、7分で加熱加圧した後、金型を冷却して、成形品を取り出した。得られた成形体の物性値を表3に併記する。
【0034】
【表3】

この結果、実施例の成形品は、引張強度、耐摩耗性、衝撃吸収性、そして透水性において良好であり、衝撃吸収材として適用可能であることが判る。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明に係る衝撃吸収材の断面図である。
【符号の説明】
【0036】
1 衝撃吸収材
2 粒状ゴムチップ材
3 空隙部
4 水路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒状ゴムチップ材を結合して得られた衝撃吸収材であり、粒状ゴムチップ材の間に空隙部を設け、該空隙部を連通させて透水性にしたことを特徴とする衝撃吸収材。
【請求項2】
粒状ゴムチップ材を結合して得られた衝撃吸収材の製造方法において、粒状ゴムチップ材と粒状水溶性物質の混合物を熱圧縮成形して固形物にした後、前記固形物を水溶処理することで前記粒状水溶性物質を水に溶出させて空隙部を設けたことを特徴とする衝撃吸収材の製造方法。
【請求項3】
粒状ゴムチップ材と粒状水溶性物質の混合物に接着剤がバインダーとして添加される請求項2記載の衝撃吸収材の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−24647(P2010−24647A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−184569(P2008−184569)
【出願日】平成20年7月16日(2008.7.16)
【出願人】(000006068)三ツ星ベルト株式会社 (730)
【Fターム(参考)】