説明

衝突物保護構造

【課題】ワイパ装置及びワイパブラケットの基本的な構造を変えることなく、衝突物の保護性能を向上する。
【解決手段】カウルトップ204により形成されるワイパ収納空間内205には、ワイパブラケット102が配置される。ワイパブラケット102は、カウルトップ204における車幅方向の略中央に位置して、車両前後方向に延びている。ホルダ部103は、ワイパブラケット102から上方に突出する。連結部104は、ワイパ収納空間内205内のワイパ装置301とホルダ部103とを繋いでいる。ワイパ脚部105は、ホルダ部103における車両後方側の外周103Cから、外周103Cから離れるにつれてワイパブラケット102から遠ざかるよう延びている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の正面に衝突した衝突物の損傷を減少させるための衝突物保護構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載のワイパ装置は、ワイパモータ1と、第一リンクアーム10(レバー)と、第一リンクアーム7(セグメント)と、第一リンク(ロッド)6と、第二リンク9(ロッド)とを有する。また、第一、第二リンクアーム7、10に対して、第一、第二スリーブ12、13が、ピボット軸8、11を回動自在に内嵌して回動自在に配される。このワイパ装置では、ワイパモータ1に配置される減速部3bに平板状の躯体取付け部3dが突出形成されており、躯体取付け部3dの先端部にある取付け座3fと躯体側の取付け部(図示せず)とを螺子止めして、モータブラケット3が躯体(例えば、カウルトップ)に対して固定支持される。また、第一、第二スリーブ12、13の外周面には平板状の躯体取付け部12c、13cがそれぞれ突出状に形成されており、躯体取付け部12c、13の先端部にある取付け座12d、13dと躯体側の取付け部(図示せず)とをそれぞれ螺子止めして、第一、第二スリーブ12、13が躯体に対して固定支持される。
【0003】
このようなワイパ装置には、従来、衝突物がワイパ装置に衝突したときにその衝突物を保護するための、入力荷重吸収構造が採用されている。その一例は、特許文献1に記載される、ピボット軸8、11側に予め設定される荷重を越える負荷が作用した場合に破壊させるための、躯体取付け部12c、13cに設けられた板幅方向に長い長孔12e、13eである。そして、一般に、このような長孔12e、13eを設けることに代えて、凹形状を設けて薄肉にする(いわゆる「肉盗み」)ことも行われている。
【0004】
なお、躯体取付け部3dや躯体取付け部12c、13cは、一般に、ダイカスト法で形成されることが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−356142号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の技術によれば、衝突物がピボット軸8、11に衝突した場合に、躯体取付け部3dや躯体取付け部12c、13cでの、肉盗みによる薄肉部や長孔12e、13eによる脆弱部に応力を集中させて破断させ、衝突物とワイパ装置とを共に移動させて衝突物の移動ストローク(エネルギー吸収ストローク)を大きくし、衝突物の保護性能(エネルギー吸収性能)を向上させることができる。
【0007】
図5は、ワイパ装置に対する衝突物の衝突箇所を説明するための説明図である。図6は、図5のZ−Z線断面図である。ワイパ装置901が、ワイパブラケット902及びこれに設けられるホルダ903、ブッシュ903aを介してカウルトップ904に取り付けられることを考える。なお、図6には、カウルトップ904の上方に位置するフロントガラス905、及び、フロントガラス905とボンネット(図示せず)との間に挟まれるカウルルーバ906も示されている。ワイパブラケット902は、剛性の高い部材で形成され、取付部材907を用いて強固にカウルトップ904に取付けられて、車両走行時に振動しないようになっている。ワイパブラケット902からは、ホルダ903が車両前方側に突出する。ホルダ903には、ブッシュ903aを介して、ワイパ装置901の躯体取付部D(特許文献1でいうところの躯体取付け部12cに相当)が取付けられる。
【0008】
特許文献1に記載の技術(肉盗みによる薄肉部や長孔による脆弱部による躯体取付部Dの破断)によって衝突物の損傷を低減できるのは、衝突物がピボット軸P及びこれの近傍(図5に示す領域X)に衝突した場合である。また、二つのピボット軸Pの間の領域Yに衝突物が衝突した場合、二つのピボット軸Pの間に延びるロッドRが撓んで、衝突物の損傷が低減される。しかしながら、衝突物がワイパブラケット902及びこれの近傍(図5に示す領域W)に衝突した場合、ワイパブラケット902は動かず、破損もしにくいため、衝突物による負荷を低減するための移動ストロークを確保できない。
【0009】
ここで、カウルルーバ906とワイパブラケット902との間に緩衝材を配置すると、衝突時にその緩衝材の潰れ残りによって衝突物が損傷するおそれがある。また、ワイパブラケット902の剛性を下げると、ワイパ装置901の耐久性が低下し破断してしまう。また、衝突物とワイパブラケット902との距離を稼ぐためにワイパブラケット902を下方に位置付けたりカウルルーバ906を上方に位置付けたりしても、取付部材907の耐久性が低下し破断してしまう。
【0010】
本発明は、上記の点を鑑みてなされたものであり、ワイパ装置及びワイパブラケットの基本的な構造を変えることなく、衝突物の保護性能を向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の衝突物保護構造は、カウルトップにより形成されるワイパ収納空間内に位置し、前記カウルトップにおける車幅方向の略中央位置から車両前後方向に延びるワイパブラケットと、前記ワイパブラケットから上方に突出するホルダ部と、前記ワイパ収納空間内で前記ワイパブラケットに対して車幅方向左側及び右側の少なくとも一方に収納されるワイパ装置と前記ホルダ部とを繋ぐ連結部と、前記ホルダ部における車両後方側の外周から、この外周から離れるにつれて前記ワイパブラケットから遠ざかるよう延びるワイパ脚部と、を備える。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、衝突物による衝突負荷をワイパ脚部が吸収して、衝突物Hの損傷が減少する。したがって、ワイパ装置及びワイパブラケットの基本的な構造を変えることなく、衝突物の保護性能を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】衝突物保護構造の平面図である。
【図2】図1のA−A線断面図である。
【図3】連結部及びワイパ脚部を示す図2のB矢視図である。
【図4】連結部及びワイパ脚部の示す図2のC矢視図である。
【図5】ワイパ装置に対する衝突物の衝突箇所を説明するための説明図である。
【図6】図5のZ−Z線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
実施の一形態を、図1ないし図4に基づいて説明する。図1は、衝突物保護構造101の平面図である。図2は、図1のA−A線断面図である。車両201の外観には、フロントガラス202(図1では省略)と、カウルルーバ203(図1では省略)と、ボンネット(図示せず)とがあらわれている。カウルルーバ203は、フロントガラス202の下端から車両前方側に延びる。ボンネットは、このカウルルーバ203よりも車両前方側に位置する。フロントガラス202とカウルルーバ203との下方には、カウルトップ204が設けられる。カウルトップ204は、車幅方向に長い。カウルトップ204は、第1カウルトップ204Aと、第2カウルトップ204Bとにより構成される。第1カウルトップ204Aは、上下方向に延びている。第2カウルトップ204Bは、第1カウルトップ204Aに対して車両前方側に連なり、車両前後方向に延びている。カウルトップ204は、ワイパ装置301(後述)が収納されるワイパ収納空間内205を形成する。
【0015】
ワイパ収納空間内205には、ワイパブラケット102が配置される。ワイパブラケット102は、第1ワイパブラケット102Aと、第2ワイパブラケット102Bとにより構成される。第1ワイパブラケット102Aは、第1カウルトップ204Aにおける車幅方向の略中央位置に溶接等により固定取付される。第2カウルトップ204Bは、第1カウルトップ204Aの先端側にボルト締めにより固定取付され、第2ワイパブラケット102Bに沿うように車両前後方向に延びる。この第2カウルトップ204Bには、第2ワイパブラケット102Bが打点溶接されている。第1カウルトップ204Aも第2カウルトップ204Bも、剛性の高い板金で形成される。
【0016】
第2ワイパブラケット102Bには、ホルダ部103が取付けられる。ホルダ部103は、ホルダ基部103Aと、ブッシュ103Bとにより構成される。ホルダ基部103Aは、第2ワイパブラケット102Bから上方に突出する。詳細には、ホルダ基部103Aは、第2ワイパブラケット102Bにおいて車両前方に向かうにつれて下方に傾斜する下方傾斜領域102Baに取付けられ、車両前方且つ上方に向かうよう延びている。ブッシュ103Bは、ホルダ基部103Aの外周に配置される。
【0017】
ワイパ収納空間内205には、ワイパ装置301が配置される。ワイパ装置301は、ワイパモータ302を有する。ワイパモータ302には、平板状のモータブラケット302Aが止着される。モータブラケット302Aからは、ワイパフレーム303が、車幅方向に延びる。ワイパフレーム303の先端部には、ピボット軸304が設けられる。また、モータブラケット302Aにおけるワイパフレーム303とは反対側にも、別のピボット軸304が設けられる。それぞれのピボット軸304からは、セグメント305が延びている。いずれのセグメント305も、ピボット軸304に対し回転自在である。ワイパブラケット102側のセグメント305とワイパモータ302とは、駆動ロッド306により連結される。駆動ロッド306は、ワイパモータ302の駆動により動く。二つのセグメント305は、従動ロッド307により連結される。ワイパ装置301には、ワイパアームやワイパブレード(いずれも図示せず)が取付けられ、ワイパモータ302の駆動がセグメント305等の各部を通してワイパアームに伝わり、ワイパブレードをフロントガラス202に摺動させる。
【0018】
このようなワイパ装置301は、ワイパ収納空間内205で、ワイパブラケット102に対して車両正面視で車幅方向の左側(運転席側)に配置される。なお、ワイパ装置301は、車両正面視で車幅方向の右側(助手席側)に配置されていても良い。
【0019】
図3は、連結部104及びワイパ脚部105を示す図2のB矢視図である。図4は、連結部104及びワイパ脚部105を示す図2のC矢視図である。図1から図4を参照する。
【0020】
ワイパ装置301とホルダ部103とは、連結部104により連結される。連結部104は、板状をなす。連結部104の一方の端部(第1端部104A)には、孔部104Aaが形成される。この孔部104Aaには、ピボット軸304が嵌合する。連結部104の他方の端部(第2端部104B)には、切欠104Baが形成される。切欠104Baには、ホルダ部103のブッシュ103Bが嵌め込まれる。第1端部104Aと第2端部104Bとは、互いに平行をなしている。第1端部104Aにおける第1端部104Aと第2端部104Bとの間の領域(中間部104C)は、第1端部104Aや第2端部104Bに対して傾斜している。
【0021】
ホルダ部103における車両後方側の外周103Cからは、ワイパ脚部105が延びている。ワイパ脚部105は、ホルダ部103の外周103Cから離れるにつれてワイパブラケット102から遠ざかるよう傾斜している。ワイパ脚部105は、車両正面視において、ワイパブラケット102に重なって見える。ワイパ脚部105は、平面視においても、ワイパブラケット102に重なって見える。
【0022】
連結部104及びワイパ脚部105の詳細について述べる。連結部104とワイパ脚部105とは、ダイカストにより一体形成され、折り曲げ加工される板金よりも破断しやすくなっている。
【0023】
ワイパ脚部105は、平面視において、車両後方側に向かうにつれてワイパ装置301から離れるよう車両前後方向に対して傾斜している。即ち、ワイパ脚部105の先端部105Aは、ホルダ部103を通る車両前後方向の仮想面からオフセットしている。また、ワイパ脚部105の先端部105Aは、ホルダ部103よりもワイパブラケット102から離れている。換言すると、ホルダ部103よりもフロントガラス202やカウルルーバ203に近い位置に位置付けられる。また、ワイパ脚部105の先端部105Aは、先端側折目部105Aaを折り目として車両後方側に向けて折り曲がった形状をしている。
【0024】
ワイパ脚部105におけるホルダ部103側の端部(基端部105B)は、ホルダ部103の外周103Cからワイパブラケット102の下方傾斜領域102Baと平行に延びた後、基端側折目部105Baを折り目として曲がり、そこからワイパブラケット102に対して離れるよう延びている。
【0025】
ワイパ脚部105におけるホルダ部103と基端側折目部105Baとの間には、肉盗部105Cが形成されている。肉盗部105Cは、連結部104及びワイパ脚部105のダイカスト成形時に形成される。なお、この肉盗部105Cに代えて、孔部(図示せず)を設けても良い。
【0026】
なお、ワイパ装置301は、上記の連結部104のみならず、ワイパフレーム303とカウルトップ204とを連結する第2連結部106、及び、ワイパブラケット102から遠い方のピボット軸304とカウルトップ204とを連結する第3連結部107によっても固定されている。
【0027】
上記のように構成される衝突物保護構造101では、車両201の正面に衝突物H(図2)が衝突すると、衝突物Hは、ワイパブラケット102に衝突する前にワイパ脚部105に接触する。その結果、衝突物Hによる衝突負荷をワイパ脚部105が吸収し、衝突物Hの損傷が減少する。このように、本実施の形態の衝突物保護構造101によれば、ワイパ装置301及びワイパブラケット102の基本的な構造を変えることなく、衝突物Hの保護性能を向上することができる。
【0028】
ここで、本実施の形態では、ワイパ脚部105の先端部105Aは、車両後方側に向けて折り曲がった形状をなしていて、衝突物Hを受け止めやすくなっている。また、連結部104とワイパ脚部105とはダイカストにより一体形成されていて板金等に比べて破断しやすくなっており、衝突物Hからの荷重が所定以上かかると、ホルダ部103と基端側折目部105Baとの間に設けられた肉盗部105Cによってワイパ脚部105が破断する。本実施の形態では、ワイパ脚部105が破断するので、ワイパ脚部105の潰れ残りが生じ衝撃吸収効果が減少してしまうようなことはない。
【符号の説明】
【0029】
101 衝突物保護構造
102 ワイパブラケット
103 ホルダ部
103C ホルダの車両後方側の外周
104 連結部
105 ワイパ脚部
105A ワイパ脚部の先端部
105B 基端部(ワイパ脚部におけるホルダ部側の端部)
105Ba 基端側折目部
105C 肉盗部(破断されやすい部分)
201 車両
204 カウルトップ
205 ワイパ収納空間内
H 衝突物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カウルトップにより形成されるワイパ収納空間内に位置し、前記カウルトップにおける車幅方向の略中央位置から車両前後方向に延びるワイパブラケットと、
前記ワイパブラケットから上方に突出するホルダ部と、
前記ワイパ収納空間内で前記ワイパブラケットに対して車幅方向左側及び右側の少なくとも一方に収納されるワイパ装置と前記ホルダ部とを繋ぐ連結部と、
前記ホルダ部における車両後方側の外周から、この外周から離れるにつれて前記ワイパブラケットから遠ざかるよう延びるワイパ脚部と、
を備える衝突物保護構造。
【請求項2】
前記ワイパ脚部の先端部は、車両後方側に向けて曲がって車両前方側からの衝突物を受け止める形状をなしている、
請求項1記載の衝突物保護構造。
【請求項3】
前記ワイパ脚部における前記ホルダ部側の端部は、前記ホルダ部の外周から前記ワイパブラケットと略平行に延びた後に基端側折目部を折り目として曲がってそこからさらに前記ワイパブラケットから離れるよう延び、
前記ワイパ脚部における前記ホルダ部と前記基端側折目部との間の領域は、破断されやすくなっている、
請求項1又は2記載の衝突物保護構造。
【請求項4】
前記連結部と前記ワイパ脚部とは、ダイカストにより一体形成される、
請求項1から3のいずれか一に記載の衝突物保護構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−254701(P2012−254701A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−128527(P2011−128527)
【出願日】平成23年6月8日(2011.6.8)
【出願人】(000157083)トヨタ自動車東日本株式会社 (1,164)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】