説明

衝突解析装置及び衝突解析方法

【課題】衝撃吸収体と車両との衝突を有限要素モデルにより、応力−歪特性の幅広い特性領域で実際の特性と異なる抗力特性、変形部位、変形順序及び変形形状(変形種類(折れ・圧壊))が発生することなく衝突を自然に精度良く再現して解析する。
【解決手段】筒状体を軸線を互いに平行に集合して構成した衝撃吸収体12を有限要素法によりシェル要素でモデル化し、有限要素法によりモデル化した被衝突車両21と所定に衝突させて衝突解析する衝突解析装置1において、モデル化した衝撃吸収体12のそれぞれの要素に対し、圧縮時における応力と歪の特性として予め定めた第1の歪領域に歪の増加に伴って応力が低下するダメージ特性を設定すると共に、予め定めた第2の歪領域に該要素自身が消滅する特性を設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハニカム構造を有する衝撃吸収体を備えた車両衝突試験用バリア(ムービングバリア、固定バリア等)と車両との衝突を有限要素法によりシェル要素でモデル化して解析する衝突解析装置及び衝突解析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両においては様々な衝突試験が行われており、近年では、実車による衝突試験のみならず、有限要素法でモデル化して解析することが行われるようになってきている。
【0003】
例えば、特開2007−102537号公報(以下、特許文献1)では、互いに平行な軸線を有する筒状に形成された多数のハニカム格子の集合体であるアルミハニカムで構成される衝撃吸収体を有限要素法でモデル化するにあたり、そのハニカム格子の仮想寸法を実物におけるハニカム格子の寸法よりも大きく設定し、かつ実物と同じ圧縮荷重が作用した場合に実物と同じ圧縮応力が生じるように、仮想板厚を実物の板厚とは異なるようにモデル化する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−102537号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、実際の衝突では、衝撃吸収体(実機)は概ね衝突側から順次崩壊していく形態をとるが、これを上述の特許文献1に開示されるように、板厚若しくは応力−歪特性のスケールファクターで抗力特性を合わせて解析することは非常に困難であるという問題がある。有限要素法では、要素ロッキング等の問題もあり、例えば、図9の一点破線で示すように、解析対象をある程度圧縮していくと、要素間の干渉等により、ある一定の歪を超えると実際の応力−歪特性(図9中、実線で示す)とは異なる抗力(応力の上昇)が発生してきて再現性が悪化してしまう。従って、上述の特許文献1に開示されるように板厚等を仮想的に設定する際には、変形モード等を考慮して更に複雑な調整が必要になるという問題がある。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、衝撃吸収体と車両との衝突を有限要素モデルにより、応力−歪特性の幅広い特性領域で実際の特性と異なる抗力特性、変形部位、変形順序及び変形形状(変形種類(折れ・圧壊))が発生することなく衝突を自然に精度良く再現して解析することができる衝突解析装置及び衝突解析方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、筒状体を軸線を互いに平行に集合して構成した衝撃吸収体を有限要素法によりモデル化し、有限要素法によりモデル化した被衝突体と所定に衝突させて衝突解析する衝突解析装置において、上記モデル化した衝撃吸収体の圧縮時における応力と歪の関係で示す全体の抗力特性が予め設定した歪の値を超える領域で、応力が上昇するのを抑制する補正特性を設定したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
本発明による衝突解析装置及び衝突解析方法によれば、衝撃吸収体と車両との衝突を有限要素モデルにより、応力−歪特性の幅広い特性領域で実際の特性と異なる抗力特性、変形部位、変形順序及び変形形状(変形種類(折れ・圧壊))が発生することなく衝突を自然に精度良く再現して解析することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施の一形態に係る衝突解析装置の概略構成図である。
【図2】本発明の実施の一形態に係る衝突解析プログラムのフローチャートである。
【図3】本発明の実施の一形態に係るムービングバリアモデル化処理のフローチャートである。
【図4】本発明の実施の一形態に係るムービングバリアの斜視図である。
【図5】本発明の実施の一形態に係る衝撃吸収体の説明図である。
【図6】本発明の実施の一形態に係る有限要素法によりシェル要素でモデル化した衝撃吸収体の説明図である。
【図7】本発明の実施の一形態に係る解析する衝突試験の一例を示す説明図である。
【図8】本発明の実施の一形態に係る各要素に設定する応力−歪特性の説明図である。
【図9】本発明の実施の一形態に係る衝撃吸収体の圧縮時における全体の応力−歪特性の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
本実施形態において、ハニカム構造を有する衝撃吸収体を備えた車両衝突試験用バリア(ムービングバリア)と車両との衝突置解析の処理は、パーソナルコンピュータ(以下、PCと略称)等のコンピュータシステムにおいて後述する衝突解析プログラムが実行されることによって行われる。
【0011】
図1に示すように、衝突解析装置であるPC1は、中央処理装置(以下、CPUと略称)と各種データ及びプログラムを記憶する記憶装置とを備えたコンピュータ本体2と、このコンピュータ本体2に接続された、キー入力装置であるキーボード3と、ポインティングデバイスであるマウス4と、表示装置であるモニタ5とを有して主要に構成されている。
【0012】
このコンピュータ本体2には、ムービングバリア及び車両等の図面や描画等の解析対象とするデータが、FD(flexible disk)、CD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disk)等の記録メディアや、回線を通じて供給され、コンピュータ本体2に内蔵された、HD(Hard Disk)に記録され、後述の衝突解析プログラムに従って、有限要素モデルによるムービングバリアと車両との衝突解析が実行される。
【0013】
ここで、本実施の形態で解析対象とするムービングバリアの実機について説明する。
図4において、符号10は、ムービングバリアを示し、このムービングバリア10は、台車(4輪車)11の前端に衝撃吸収体12が取り付けられた、デフォーマブルバリアに構成されている。
【0014】
衝撃吸収体12は、実車形状に模して形成されており、実車のバンパの高さに相当する高さに位置する下部吸収体12aが上部吸収体12bよりも前方に突出して形成されている。
【0015】
衝撃吸収体12は、図5に示すように、下部吸収体12a、上部吸収体12b共に、アルミハニカム構造で、衝突により変形自在に構成されている。アルミハニカムは、それぞれの軸線方向が前後方向(衝突方向)に一致するそれぞれ筒状体としての多数の正六角筒状のハニカム格子を並列し、集合して構成されている。各ハニカム格子は、各筒壁を隣接する異なるハニカム格子と共有することで、互いの間に隙間がなく各ハニカム格子内にのみ空間が形成された中空構造となっている。
【0016】
次に、本実施の形態により実行される衝突解析を、図2のフローチャートで説明する。まず、ステップ(以下、「S」と略称)101で、解析に必要な様々な情報、ムービングバリア10の形状(衝撃吸収体12の外形寸法も含む)、被衝突車両の形状、重量等の諸元、側突、後突等の衝突形態、衝突条件(衝突速度、衝突角度)、解析の諸条件等を入力する。
【0017】
次いで、S102に進み、ムービングバリア10の有限要素法によるモデル化を、後述するムービングバリアモデル化処理のフローチャートに従って実行する。
【0018】
次に、S103に進み、被衝突車両を有限要素法によりモデル化する。
【0019】
そして、S104に進んで、有限要素法によりモデル化された被衝突車両に、有限要素法によりモデル化されたムービングバリア10を衝突させて衝突させた後の構造解析を行う。例えば、衝突形態が側突の場合、図7に示すように、公知の側突試験の規格に従って、有限要素法によりモデル化された被衝突車両21に対し、有限要素法によりモデル化されたムービングバリア10を車両側面に衝突させて、衝突させた後の構造解析を行う。尚、衝突形態は、側突に限るものではなく、前突、後突、それぞれのオフセット衝突等であっても良い。
【0020】
次に、上述のS102で実行する、ムービングバリア10の有限要素法によるモデル化を、図3のフローチャートで説明する。
【0021】
まず、S201で、解析の計算時間を決定する。
次に、S202に進んで、S201の計算時間の制約から、解析における各処理のステップ時間が決定されて、総要素数が決定される。これにより、最小要素サイズが決定されて、ハニカム格子の最小コアサイズ(実機の寸法とは異なる仮想的な寸法)が決定される。こうして、ハニカム格子のコアサイズ(実機の寸法とは異なる仮想的な寸法:図5(b)中のSc)が決定される。
【0022】
次に、S203に進むと、板厚を仮想的に決定する。
次いで、S204に進み、例えば、予め実験等により求められているデータ等を参照して、(板厚/ハニカムの一辺の長さ)をパラメータとして、実機の圧縮時における応力−歪特性を、各要素毎の基準となる応力−歪特性として決定する(図8中の実線の特性の決定)。
【0023】
次に、S205に進み、S204で決定した各要素毎の基準となる応力−歪特性に対し、予め設定しておいた実験、演算等による補正特性を設定する。この補正特性は、例えば、図8中の破線で示す特性であり、この例では、歪εがε1を超える領域(第1の歪領域)で、歪εの増加に伴って応力σが低下するダメージ特性となっている。また、本実施の形態では、各要素の補正特性として、上述の破線で示すダメージ特性に加え、例えば、歪εが予め設定した値を超える領域(第2の歪領域)では、その要素自体が消滅する特性が設定されている。
【0024】
次いで、S206に進み、ハニカム構造の衝撃吸収体12が、図6に示すように、有限要素法によりシェル要素でモデル化され、このモデル化された衝撃吸収体12の各要素に対して、上述のS204、S205の応力−歪特性が設定される。
【0025】
そして、S207に進んで、ムービングバリア10が、有限要素法によりシェル要素でモデル化されてルーチンを抜ける。
【0026】
このように、本実施の形態によれば、筒状体を軸線を互いに平行に集合して構成した衝撃吸収体12を有限要素法によりシェル要素でモデル化し、有限要素法によりモデル化した被衝突車両21と所定に衝突させて衝突解析する衝突解析装置1において、モデル化した衝撃吸収体12のそれぞれの要素に対し、圧縮時における応力と歪の特性として予め定めた第1の歪領域に歪の増加に伴って応力が低下するダメージ特性を設定すると共に、予め定めた第2の歪領域に該要素自身が消滅する特性を設定するようになっている。これにより、モデル化した衝撃吸収体12の圧縮時における全体の応力−歪特性が予め設定した歪の値を超える領域で、応力が上昇することが確実に抑制される。すなわち、図9に示すように、所定の歪の値を超えると応力が、実際の特性以上に上昇していこうとする(一点破線)が、応力降下を含んだダメージ特性を設定することで、この応力の上昇を防止して実際の応力−歪特性に近づけるようになっているのである(破線)。また、第2の歪領域に要素自身が消滅する特性を設定することで、歪が大きくなって応力が上昇しようとする要素が消去されるため、これによっても実際の応力−歪特性に近づけられることとなる(消去補正を含んだ応力−歪特性)。このように、本発明の実施の形態による、有限要素法によりモデル化される衝撃吸収体は、応力−歪特性の幅広い特性領域で実際の特性と略同様の特性で解析が可能であるため、衝突を自然に精度良く再現して解析することが可能となる。
【0027】
尚、本実施の形態では、応力−歪特性を補正する特性として、第1の歪領域に歪の増加に伴って応力が低下するダメージ特性を設定する補正と、第2の歪領域に要素自身が消滅する特性を設定する補正の2つを設定するようにしているが、どちらか一方のみの補正を設定するようにしても良い。
【0028】
更に、本実施の形態では、衝撃吸収体の筒状体として、正六角筒状のアルミハニカムを例に説明したが、他の形状、例えば正四角筒状等であっても良いことは言うまでもない。
【0029】
また、本実施の形態では、ハニカム構造を有する衝撃吸収体を備えたムービングバリア10を例に説明しているが、ハニカム構造を有する衝撃吸収体を備えた固定バリアに対しても同様に本解析手法を適用できることは言うまでもない。
【0030】
更に、本実施の形態では、衝撃吸収体を有限要素法によりシェル要素でモデル化した場合の例を説明したが、シェル要素以外の要素でモデル化して解析する場合においても本解析手法が適用できることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0031】
1 衝突解析装置
2 コンピュータ本体
3 キーボード
4 マウス
5 モニタ
10 ムービングバリア
11 台車
12 衝撃吸収体
12a 下部吸収体
12b 上部吸収体
21 被衝突車両

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状体を軸線を互いに平行に集合して構成した衝撃吸収体を有限要素法によりモデル化し、有限要素法によりモデル化した被衝突体と所定に衝突させて衝突解析する衝突解析装置において、
上記モデル化した衝撃吸収体の圧縮時における応力と歪の関係で示す全体の抗力特性が予め設定した歪の値を超える領域で、応力が上昇するのを抑制する補正特性を設定したことを特徴とする衝突解析装置。
【請求項2】
上記補正特性は、上記有限要素法によりモデル化した衝撃吸収体のそれぞれの要素に対し、圧縮時における応力と歪の特性として予め定めた第1の歪領域に歪の増加に伴って応力が低下するダメージ特性を設定して形成することを特徴とする請求項1記載の衝突解析装置。
【請求項3】
上記補正特性は、上記有限要素法によりモデル化した衝撃吸収体のそれぞれの要素に対し、圧縮時における応力と歪の特性として予め定めた第2の歪領域に該要素自身が消滅する特性を設定して形成することを特徴とする請求項1記載の衝突解析装置。
【請求項4】
上記補正特性は、上記有限要素法によりモデル化した衝撃吸収体のそれぞれの要素に対し、圧縮時における応力と歪の特性として予め定めた第1の歪領域に歪の増加に伴って応力が低下するダメージ特性を設定すると共に、予め定めた第2の歪領域に該要素自身が消滅する特性を設定して形成することを特徴とする請求項1記載の衝突解析装置。
【請求項5】
筒状体を軸線を互いに平行に集合して構成した衝撃吸収体を有限要素法によりモデル化し、有限要素法によりモデル化した被衝突体と所定に衝突させて衝突解析する衝突解析方法において、
上記モデル化した衝撃吸収体の圧縮時における応力と歪の関係で示す全体の抗力特性が予め設定した歪の値を超える領域で、応力が上昇するのを抑制する補正特性を設定して解析することを特徴とする衝突解析方法。
【請求項6】
上記補正特性は、上記有限要素法によりモデル化した衝撃吸収体のそれぞれの要素に対し、圧縮時における応力と歪の特性として予め定めた第1の歪領域に歪の増加に伴って応力が低下するダメージ特性を設定することと、予め定めた第2の歪領域に該要素自身が消滅する特性を設定することの少なくとも一方の設定を行って形成することを特徴とする請求項5記載の衝突解析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−53807(P2011−53807A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−200568(P2009−200568)
【出願日】平成21年8月31日(2009.8.31)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】