説明

衣類の製造方法及び成形編みされた衣類

【課題】本発明は、着用した状態において、プリントした絵柄が変形したり、色彩が斑になったりすることのない衣類の製造方法及び成型編みされた衣類を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の衣類の製造方法は、パンツ(衣類)12を成型編みした後、トルソー10に装着したパンツ12に、ロボットアーム14先端に取り付けたインクジェットプリンタ16によって、立体的に絵柄18のプリントを行う方法である。この方法によって製造されたパンツ12が、本発明の成型編みされた衣類である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、模様、文字又は記号等の絵柄が表わされた衣類を製造する衣類の製造方法及び成形編みされた衣類に関する。
【0002】
従来から、カットソー衣類が製造されている。カットソー衣類は、フラットな生地を所定部品毎のパターンに裁断した後、縫製することにより製造される。これに対して、身頃に縫合部を設けずに連続的に編成する「成形編みされた衣類」が製造されている。ここで、成形編みとは、衣服の形状に合わせて編み目の目増やし、目減らし目移しなどして形を作る編み方であり、横編機や丸編機を用いて編まれる。さらには、ループ長制御などにより、例えば上衣の胸部やボトム衣類の臀部など身体の凹凸に応じ、周辺より膨出した立体部を設けて編成する、いわゆる立体成形編みされた衣類が製造されるようになった。(例えば、特許文献1参照。)
【0003】
しかし、成形編みされた衣類において絵柄を表す場合には、通常絵柄部分において異色の糸に切替えたり挿入することにより絵柄を形成するが、絵柄が限定的になったり、挿入等した異色の糸をカットした糸端が残り、着用感が悪いという問題があった。
【0004】
【特許文献1】特開2003−129305号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明者は、このような課題の原因を究明してこのような課題を解決するべく、鋭意研究を重ねた結果、本発明に至ったのである。
【0006】
すなわち、本発明は、成形編みの利点を維持しながらも、所望の絵柄を表すことができ、しかも質の高い衣類の製造方法及び品質の高い成形編みされた衣類を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の衣類の製造方法は、衣類を成形編みするステップと、前記衣類をトルソーに装着し、インクジェットプリンタによって、絵柄のプリントを行うステップと、を含むことを特徴とする。ここで、絵柄には、模様、文字、記号又は数字を含む。
【0008】
また、本発明の衣類の製造方法は、前記衣類へのプリント方法において、ロボットアーム先端に取り付けたインクジェットプリンタによって前記衣類にプリントを行うことを特徴とする。
【0009】
また、本発明の成形編みされた衣類は、前記衣類の製造方法によって製造された成形編みされた衣類であり、着用時の前記絵柄が、前記インクジェットプリンタによってプリントした絵柄であることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の成形編みされた衣類は、周辺より膨出した立体部を設けて編成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の衣類の製造法及び成形編みされた衣類によれば、トルソーに装着した状態でプリントすることにより製造するため、人の身体に着用した時の衣類の形状とトルソーに装着した時の衣類の形状とが近似しており、身体に着用した時に理想の絵柄が表われる。このため、プリントした絵柄が変形等することがなく、また膨出部においても絵柄が途切れることもない。よって、成形編みの利点を維持しながらも、所望の絵柄を表すことができ、質の高い衣類の製造方法及び品質の高い成形編みされた衣類を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
次に、本発明に係る衣類の製造方法及び成形編みされた衣類について、図面に基づいて詳しく説明する。
【0013】
本発明の衣類の製造方法は、パンツ(衣類)12の身頃部を成形編みした後、マチ部分を縫合等により取り付けて、図1のトルソー10に装着したパンツ12に、ロボットアーム14先端に取り付けたインクジェットプリンタ16によって、立体的に絵柄18のプリントを行って製造する方法である。よって、この製造方法によって製造されたパンツ12が、本発明の成形編みされた衣類である。このプリント方法によってプリントされることにより、本発明のプリントされた衣類は、人の身体への着用時に表れる絵柄18が、インクジェットプリンタ16によって実際にプリントした絵柄18と略同一となる。
【0014】
トルソー10としては、プリントを行うパンツ12の寸法及び形状に応じた寸法及び形状を有するものが使用される。例えば、男性のS用、M用及びL用、並びに女性のS用、M用及びL用が準備され、パンツ12に応じて選択される。図1のパンツ12は股間凸部20を有する男性用であるため、図1のトルソー10は股間凸部22を有する男性用である。トルソー10は、螺子25によって支持台24に固定されることにより、床26の上に定置される。
【0015】
ロボットアーム14は、1軸A−1、2軸A−2、3軸A−3、4軸A−4、5軸A−5、及び6軸A−6を有する6軸多関節ロボットアームであり、1個のロボットアーム14によってトルソー10に固定したパンツ12の表面全体にプリントすることが可能である。
【0016】
インクジェットプリンタ16は、複数のノズルを備え、所定の色のインクを噴出することができる。インクジェットプリンタ16は、インク室の圧電素子を振動又は変形させてノズルからインク粒滴を噴射するように構成され、圧力パルス方式又は電荷制御方式等、特に限定されない。
【0017】
ここで、プリント方法としてインクジェットプリント方法を採用したのは、カットソーの場合は、裁断前のフラットな生地の状態でスクリーンプリントまたはロールプリントで印刷することが出来るが、製品ピース毎に編みあがる成形編みの場合は、生地のようにフラットな状態はなくスクリーンプリント等はできないからである。
【0018】
製品ピース毎に印刷する方法としては、製品ピースを平坦に置き、皺が生じないように左右や上下に引っ張った状態で手捺染機等を用いて印刷する方法が考えられるが、側面の折り曲げ部分のプリントはできない問題があり、また本方法は熱を加えてプリントするため、伸縮性を付与するために挿入している弾性糸が熱セットされてしまい、プリント時の引っ張った状態から形状が戻らなくなる虞もある。また周辺より膨出した立体部がある場合は、製品ピースを引っ張っても立体部が完全にフラットにならず皺が生じるため、プリントが困難である。
【0019】
インクジェット方法の場合には、このような問題を回避できるだけでなく、位置ずれなく多彩な色表現をするのが容易である。すなわち、本発明においては、成形編みの利点を維持しながらも、所望の絵柄を表すことができ、しかも質の高い衣類の製造方法及び品質の高い成形編みされた衣類を提供するべく、成形編みにおいて衣類をトルソーに装着してインクジェットプリンタによりプリントすることが採用されている。
【0020】
ロボットアーム14及びインクジェットプリンタ16の制御は、例えば、図2に示す制御装置28によって行われる。制御装置28は、記憶されたプリントデータに基づいて制御プログラムがインクジェットプリンタ16に指令して所定の絵柄をプリントさせ、記憶されたティーチングデータに基づいて制御プログラムがロボットアーム14を作動させ、トルソー10に固定したパンツ12の所定位置に所定の絵柄をプリントしていくことができる。
【0021】
このようなロボットアーム14及びインクジェットプリンタ16によってパンツ12に絵柄18をプリントする場合、まず、所定の形状に形成されたパンツ12の裏側にプリント剤が浸透しないように前処理がなされる。そして、パンツ12がトルソー10に装着され、トルソー10が螺子25によって支持台24に固定され床26上に位置決めされる。なお、パンツ12のトルソー10に対する位置決めは、目印同士を合わせる等の方法により、互いの位置関係が一定になるのが好ましい。
【0022】
次に、ロボットアーム14が原点復帰している状態から、ティーチングボックス30を操作してロボットアーム14を作動させ、インクジェットプリンタ16をプリントする絵柄18の始点近辺に移動させプリント可能な方向に向けて、ティーチングボックス30により始点のティーチングをし、制御装置28にティーチングデータとして記憶させる。その後、ティーチングボックス30を操作して、直線補間又は曲線補間を行いながら、インクジェットプリンタ16により絵柄18を描き、その軌跡のティーチングを行う。なお、予め絵柄18の描かれたパンツ12をトルソー10に装着し、その絵柄18に沿ってティーチングしていってもよい。また、各点における色彩もティーチングし、プリントデータとして記憶させる。
【0023】
このようにしてティーチングが終了すると、ロボットアーム14を原点復帰させ、ティーチングデータ及びプリントデータの再生を行う。再生を行うことにより、ロボットアーム14及びインクジェットプリンタ16がティーチングデータ及びプリントデータに基づいて作動し、パンツ12の所定の位置に所定の絵柄18がプリントされていく。なお、ティーチング作業を行わないで予め制御装置28に入力されたティーチングデータ及びプリントデータに基づいてロボットアーム14及びインクジェットプリンタ16を作動させてもよい。入力方法はメモリ媒体から入力する方法又は他のコンピュータ機器から転送する方法等、特に限定されない。このようにしてプリントが終了したパンツ12は後行程において乾燥及び包装等が行われて販売される。
【0024】
このようにしてプリントが行われることにより製造されたパンツ12を購入した顧客がパンツ12を着用した場合、トルソー10に装着した時と略同じ圧力がパンツ12に付加され、パンツ12の形状はトルソー10に装着した時と同じ形状となる。このため、プリントした時の絵柄18が再現され、身体への着用時の絵柄18が、インクジェットプリンタ16によって、立体的にプリントした絵柄18と略同一となる。すなわち、トルソー10に装着した状態ではなく、平面状態でプリントした場合には、そのパンツ12を着用すると、パンツ12が立体的な形状となって、伸縮する部分があるため、プリントした絵柄が変形したり、色彩が斑になったりする不具合が考えられるが、本発明の衣類の製造方法により製造したパンツ12には、そのような不具合は考えられず、着用した時にプリントした時の理想の絵柄18が表われる。特には、凹凸の複雑な股間凸部20のような膨出する立体部において、そのような効果が顕著に生じる。
【0025】
また、本発明の衣類の製造方法によれば、トルソー10に装着してプリントするため、製品ピースを平坦に置いて手捺染機等を用いて印刷する場合のように側面がプリントできないという問題はなく、例えば図3の側面の絵柄34が途切れて白抜きになったり、不連続になることがない。さらに、本発明のプリント方法によれば、側面に限らず、マチ部分においても、絵柄が途切れて白抜きになったり不連続になることがない。よって、側面やマチ部分においても質の高いプリントを行うことが可能となる。
【0026】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はその他の態様でも実施できる。例えば、本発明の衣類へのプリント方法に使用するロボットアーム14及びインクジェットプリンタ16は1個に限定されず、図4に示すように、2個のロボットアーム14及びインクジェットプリンタ16を使用してもよい。この場合、2箇所において同時にプリントしていくことができる。
【0027】
また、本発明において使用するトルソーは特に限定されず、例えば、図5に示すように、上下逆向きに固定されるトルソー40であってもよい。このトルソー40の場合には、パンツ12を上下逆向きにして上から被せるだけで容易に装着できる。
【0028】
また、本発明は図示した実施形態には限定されない。例えば、本発明の衣類の製造方法は、パンツの製造に使用されることに限定されず、シャツや靴下等の他の衣類の製造に使用されてもよい。その他、本発明の技術的範囲には、その趣旨を逸脱しない範囲で当業者の知識に基づき種々なる改良、修正、変形を加えた態様も含まれる。また、同一の作用又は効果が生じる範囲内で、いずれかの発明特定事項を他の技術に置換した形態で実施しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の衣類の製造方法及び成形編みされた衣類によれば、着用した際にプリントした絵柄が変形したり、色彩が斑になったりすることがなく、また側面や、周辺より膨出した立体部において絵柄が途切れたり不連続になることもない。このため、プリント工程を含む製造方法により製造する衣類のために広く利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の衣類の製造方法を説明するための正面図である。
【図2】本発明の衣類の製造方法を説明するための構成図である。
【図3】本発明の成形編みされた衣類の他の実施形態を示す側面図である。
【図4】本発明の衣類の製造方法の他の実施形態を説明するための正面図である。
【図5】本発明の衣類の製造方法の更に他の実施形態を説明するための正面図である。
【符号の説明】
【0031】
10、40:トルソー
12:パンツ(衣類)
14:ロボットアーム
16:インクジェットプリンタ
18,34:絵柄
20、22:股間凸部
28:制御装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
衣類を成形編みするステップと、
前記衣類をトルソーに装着し、インクジェットプリンタによって、絵柄のプリントを行うステップと、
を含む衣類の製造方法。
【請求項2】
ロボットアーム先端に取り付けたインクジェットプリンタによって、前記衣類にプリントを行う請求項1に記載する衣類の製造方法。
【請求項3】
前記請求項1又は請求項2に記載する衣類の製造方法によって製造された成形編みされた衣類であり、
着用時の前記絵柄が、前記インクジェットプリンタによってプリントした絵柄である成形編みされた衣類。
【請求項4】
前記衣類が、周辺より膨出した立体部を設けて編成されていることを特徴とする請求項3に記載する成形編みされた衣類。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−59563(P2010−59563A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−225058(P2008−225058)
【出願日】平成20年9月2日(2008.9.2)
【出願人】(000001339)グンゼ株式会社 (919)
【Fターム(参考)】