説明

表示板

【課題】印刷によりCFRPを表現する場合でも本物のCFRP(カーボン繊維強化プラスチック)に近い質感を表現し得る表示板を提供することを目的とする。
【解決手段】
基板5と、この基板5の前面側に形成される下地印刷層6と、この下地印刷層6の前面側に形成されるヘアライン印刷層8とを備え、ヘアライン印刷層8は、延長方向の異なる二種類の縞模様M1,M2を規則的に交互に配置した編目模様を形成し、二種類の縞模様M1,M2の各々が一方向に湾曲したライン層L1,L2の集合体からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車、自動二輪車、建設機械、小型船舶に搭載される計器の表示板に関し、特にヘアライン印刷にてカーボン繊維模様のデザインを表現してなる表示板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
軽量で高強度の素材として知られるカーボン繊維強化プラスチック(以下、CFRPという)パネルは、非常に高価であるため、レーシングカーや一部の高級車のパーツに用いられるのみであり、それら嗜好する者にとって、あこがれの素材と位置づけられている。このような中、自動車部品においてはCFRPの持つ独特な質感を印刷という安価な方法で再現して、スポーティ感や高級感の演出に用いる試みがなされてきた。
【0003】
例えば下記特許文献1には、例えば白黒の市松模様にグラデーションを付与することによって、実物のカーボン繊維の起伏により発現する局所的なハイライト(反射光沢)を擬似的な絵として表現した表示板が記載されている。また例えば下記特許文献2には、微細な縞(ヘアライン)によって市松模様を形成することによって、インクの光沢と凹凸によってカーボン繊維の光沢反射を再現しようとする表示板が記載されている。この場合、縞(ヘアライン)による市松模様は図8に示すように二種類の直線からなる縞模様を規則的に交互に配置した編目模様となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−119662号公報(図4)
【特許文献2】特開2008−122214号公報(段落0028)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1記載の表示板のごとく、グラデーションによって反射光沢感を付与するものは、静止状態で見るには、それらしく見えるが、外光強度や視点との位置関係が変わっても本来ならば変化すべき反射光沢の強さや位置が全く変化しないため、CFRPの質感を十分に表現しているとは言い難い。一方、特許文献2記載の表示板のごとく、ヘアラインによる凹凸にて反射光沢を得るものは、外光強度や視点との位置関係に応じて見え方が変化するが、図9に示すように同一方向のヘアラインが同時に一様に反射する決まったパターンの市松模様が出現するだけであるため、CFRPの質感を表現するには限界があった。
【0006】
本発明は前述の課題に着目し、印刷によりCFRPを表現する場合でも本物のCFRPに近い質感を表現し得る表示板を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前述した課題を解決するため、基板と、この基板の前面側もしくは背面側に形成される下地印刷層と、前記基板及び前記下地印刷層の前面側に形成されるヘアライン印刷層とを備え、前記ヘアライン印刷層は、延長方向の異なる二種類の縞模様を規則的に交互に配置した編目模様を形成し、前記二種類の縞模様の各々が一方向に湾曲したライン層の集合体からなることを特徴とする。
このように構成することにより、平面でありながら個々の縞模様(升目)の中でハイライト(反射光沢)位置と強さが外光との位置関係の変化に応じて刻々と変化し、あたかも繊維が立体的に隆起しているかのような光沢感を再現することでき、これにより印刷によりCFRPを表現する場合でも本物のCFRPに近い質感を表現することができる。
【0008】
また本発明は、透明材料からなる基板と、この基板の背面側に透明インクで形成されるヘアライン印刷層と、このヘアライン印刷層の背面側に形成される下地印刷層とを備え、前記ヘアライン印刷層は、延長方向の異なる二種類の縞模様を規則的に交互に配置した編目模様を形成し、前記二種類の縞模様の各々が一方向に湾曲したライン層の集合体からなることを特徴とする。
このように構成することにより、ヘアライン印刷層の厚みによって形成される下地印刷層の凹凸が基板の表面の光沢を通して視認されるため、印刷によりCFRPを表現する場合でも本物のCFRPに近い質感を表現することができることに加え、カーボン繊維が透明体に包まれた独特な様子を再現することができる。
【0009】
また本発明は、前記ヘアライン印刷層が光沢を有する光透過性材料でなることを特徴とする。
このように構成することにより、下地印刷層や下地印刷層中に配置された意匠表示部を隠すことなく、CFRP調の質感を付与することができる。例えばCFRP調質感の中に発光する意匠表示部を出現させることができる。
【0010】
また本発明は、前記下地印刷層と前記ヘアライン印刷層との間に光透過性材料からなる保護層を設けたことを特徴とする。
このように構成することにより、下地印刷層のキズつきを防止し、また耐候性を向上させることもできる。さらに保護層を光沢のある材料で施せば、ヘアライン印刷層の反射に加えて保護層の表面の光沢による反射も利用することができ、カーボン繊維が透明体である保護層に包まれた独特な様子を再現することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、初期の目的を達成することができ、印刷によりCFRPを表現する場合でも本物のCFRPに近い質感を表現し得る表示板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1の実施形態による表示板であって点線囲みにて示す所定領域を拡大して示す正面図。
【図2】同実施形態の表示板における所定領域の要部断面図。
【図3】同実施形態の表示板の所定領域において所定角度にて外光があたった際の反射光沢を示す正面図。
【図4】同実施形態の表示板の所定領域において図3とは異なる所定角度にて外光があたった際の様子(反射光沢)を示す正面図。
【図5】本発明の第2の実施形態による表示板の要部断面図。
【図6】本発明の第3の実施形態による表示板の所定領域を示す正面図。
【図7】本発明の第4の実施形態による表示板の要部断面図。
【図8】本発明の従来例を示すものでヘアラインによる市松模様にてカーボン繊維模様を表現した表示板の要部を示す正面図。
【図9】本発明の従来例を示すもので図7のカーボン繊維模様に対して所定角度にて外光があたった際の様子(反射光沢)を示す正面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を用いて説明する。
【0014】
<第1の実施形態>
図1において、本発明の第1の実施形態による表示板は、例えば自動車計器(速度計)の表示板として用いられるもので、図示しない指針を装着するための孔部1と、車速を示す数字、目盛からなる指標部2と、これら指標部2を包含する帯状領域からなり指標部2の背景を形成する第1の背景部3と、この第1の背景部3の周囲に広がる第2の背景部4とを備えている。
【0015】
実施形態による表示板は、例えば合成樹脂からなる基板5に各種インクをスクリーン印刷して指標部2と第1,第2の背景部3,4とを形成してなり、本実施形態では、例えば第1の背景部3は黒色インク、指標部2は白色インクにて形成されている。
【0016】
第2の背景部4は、ダークシルバー調のメタリックインクからなる下地印刷層6として基板5の前面側に形成され、この下地印刷層6の前面側には、透明な光沢性インクを用いて保護層7が形成され、さらにこの保護層7の前面側にはCFRP(カーボン繊維強化プラスチック)調のデザイン模様を形成するヘアライン印刷層8が形成されている。
【0017】
保護層7は、下地印刷層6をキズや紫外線等から保護すると共に下地印刷層6の表面に光沢を付与する機能を有している。
【0018】
ヘアライン印刷層8は、一定の間隔を有して複数隣接する縦縞からなる第1の縞模様M1と、同じく一定の間隔(第1の縞模様と同じ間隔)を有して複数隣接する縦縞からなる第2の縞模様M2とで延長方向の異なる二種類の縞模様M1,M2を市松模様(編目模様)となるように規則的に交互に配置してなり、縦縞からなる第1の縞模様M1と横縞からなる第2の縞模様M2は共に長さが同じに設定され、これにより平織り状のCFRPを表現している。
【0019】
これら第1,第2の縞模様M1,M2の各々は一方向に湾曲したライン層L1,L2の集合体から構成されている。すなわち、第1の縞模様M1を形成するライン層L1は、その全てが矢印Rにて示す右方向に一様に湾曲し、第2の縞模様M2を形成するライン層L2は、その全てが矢印Uにて示す上方向に一様に湾曲している。
【0020】
各ライン層L1,L2は、光沢のあるインクを用いて形成されているため、図2に示すように各ライン層L1,L2のエッジ部で外光が反射し、同一方向に延びる複数の線が連続して反射することで帯状のハイライト(反射光沢)が出現する。
【0021】
ライン層L1,L2自体は前面側が平面であるが、市松模様の各升目(各縞模様M1,M2)の中で線が湾曲しているため、図3,図4に示すように、外光があたる角度の変化に応じてハイライトの位置がそれぞれの升目の中で変化する。
【0022】
これがあたかも各縞模様M1,M2が立体的に起伏しているかのように見え、CFRPに似た質感が再現される。
【0023】
また本実施形態の場合、保護層7が光沢を有することで、保護層7の平面がつくる反射光沢とヘアライン印刷層8のハイライトとが合成されるため、よりCFRPに似た質感を有してて視認される。
【0024】
なお各ライン層L1,L2の湾曲は、角部なく滑らかに湾曲する湾曲形状でもよいし、複数の角部を有して屈曲する折れ線状の湾曲形状であってもよく、一定方向に湾曲する形状であれば任意の湾曲形状を設定できる。
【0025】
また各升目(各縞模様M1,M2)の一辺の寸法を3mm以下とし、さらに各ライン層L1,L2の線幅及び線間は、0.2mm以下に設定するのが望ましい。
【0026】
これは単位面積あたりの線(反射面の数)密度を高めてハイライトを多く出現させる効果と、本来は直線に見えるべきライン層L1,L2の湾曲を肉眼では見えにくくする効果を狙うためである。ちなみに目から約80cm離れた距離にある0.2mmの線間を識別するための必要となる視力は1.2以上である。
【0027】
以上のように本実施形態では、基板5と、この基板5の前面側に形成される下地印刷層6と、この下地印刷層6の前面側に形成されるヘアライン印刷層8とを備え、ヘアライン印刷層8は、延長方向の異なる二種類の縞模様M1,M2を規則的に交互に配置した編目模様を形成し、二種類の縞模様M1,M2の各々が一方向に湾曲したライン層L1,L2の集合体からなることにより、平面でありながら個々の縞模様(升目)M1,M2の中でハイライト位置と強さが外光との位置関係の変化に応じて刻々と変化し、あたかも繊維が立体的に隆起しているかのような光沢感を再現することできる。これにより印刷によりCFRPを表現する場合でも本物のCFRPに近い質感を表現することができる。
【0028】
また本実施形態では、ヘアライン印刷層8が光沢を有する光透過性材料でなることにより、下地印刷層6を隠すことなく、CFRP調の質感を付与することができ、下地印刷層6中に意匠表示部を有する場合は、CFRP調質感の中に発光する意匠表示部を出現させることができる。
【0029】
また本実施形態では、下地印刷層6とヘアライン印刷層8との間に透明材料からなる保護層7を設けたことにより、下地印刷層6のキズつきを防止し、また耐候性を向上させることもできる。さらに保護層7が光沢のある材料からなることにより、ヘアライン印刷層8の反射に加えて保護層7の表面の光沢による反射も利用することができ、ヘアライン印刷層8にて表現されるカーボン繊維が透明体である保護層7に包まれた独特な様子を再現することができる。
【0030】
<第2の実施形態>
図5において、本発明の第2の実施形態による表示板は、透明材料からなる基板5と、この基板5の背面側に透明インクで形成されるヘアライン印刷層8と、このヘアライン印刷層8の背面側に形成される下地印刷層6とを備えている。
【0031】
ヘアライン印刷層8の構成は、第1の実施形態と同様であるが、ヘアライン印刷層8の厚みによって形成される下地印刷層6の凹凸61が基板5の表面の光沢を通して視認されるため、印刷によりCFRPを表現する場合でも本物のCFRPに近い質感を表現することができることに加え、ヘアライン印刷層8にて表現されるカーボン繊維が透明体である基板5に包まれた独特な様子を再現することができる。
【0032】
<第3の実施形態>
図6において、本発明の第2の実施形態による表示板は、第1,第2の縞模様M1,M2の長さが異なる例を示している。
【0033】
すなわち、縦縞からなる第1の縞模様M1と横縞からなる第2の縞模様M2のうち、第2の縞模様M2が第1の縞模様M1よりも長く、これにより綾織り状のCFRPを表現している。
【0034】
なおCFRPを表現する際の織り方は、平織り、綾織りの他、朱子織りであってもよい。
【0035】
<第4の実施形態>
図7において、本発明の第4の実施形態による表示板は、下地印刷層6が基板5の背面側に形成されている点と、ヘアライン印刷層8が基板5を隔てて下地印刷層6の前面側であって基板5の前面に直接形成されている点、保護層7が省略されている点で前記第1の実施形態と相違し、その他は前記第1の実施形態と同じである。なおヘアライン印刷層8と基板5との間に保護層7を設けても良い。
かかる構成によっても前記第1の実施形態と同様の効果を期待できる。
【符号の説明】
【0036】
1 孔部
2 指標部
3 第1の背景部
4 第2の背景部
5 基板
6 下地印刷層
7 保護層
8 ヘアライン印刷層
61 凹凸
M1 第1の縞模様
M2 第2の縞模様
L1,L2 ライン層
R,U 矢印

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、この基板の前面側もしくは背面側に形成される下地印刷層と、前記基板及び前記下地印刷層の前面側に形成されるヘアライン印刷層とを備え、前記ヘアライン印刷層は、延長方向の異なる二種類の縞模様を規則的に交互に配置した編目模様を形成し、前記二種類の縞模様の各々が一方向に湾曲したライン層の集合体からなることを特徴とする表示板。
【請求項2】
透明材料からなる基板と、この基板の背面側に透明インクで形成されるヘアライン印刷層と、このヘアライン印刷層の背面側に形成される下地印刷層とを備え、前記ヘアライン印刷層は、延長方向の異なる二種類の縞模様を規則的に交互に配置した編目模様を形成し、前記二種類の縞模様の各々が一方向に湾曲したライン層の集合体からなることを特徴とする表示板。
【請求項3】
前記ヘアライン印刷層が光沢を有する光透過性材料でなることを特徴とする請求項1記載の表示板。
【請求項4】
前記下地印刷層と前記ヘアライン印刷層との間に光透過性材料からなる保護層を設けたことを特徴とする請求項1記載の表示板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−216941(P2010−216941A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−62985(P2009−62985)
【出願日】平成21年3月16日(2009.3.16)
【出願人】(000231512)日本精機株式会社 (1,561)
【Fターム(参考)】