説明

表示装置および防災システム

【課題】 装置全体が大型化したり、コストが高くなるなどの問題を生じさせることなく、少ない個数の固体光源で、多くの情報量を高精細に表示する。
【解決手段】 紫外光から可視光までの波長領域のうちの所定の波長の光を発光する固体光源6と、固体光源6からの励起光により励起され固体光源6の発光波長よりも長波長の蛍光を発光する少なくとも1種類の蓄光蛍光体を含み、仕切りによって区分された複数の蛍光体セルを有する蛍光体領域5と、描画用の画素情報が与えられるとき、固体光源6からの励起光を、描画用の画素情報に従って制御して、蛍光体領域5へ照射する反射機構7とを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表示装置および防災システムに関する。
【背景技術】
【0002】
火災などの非常時には煙などにより視界が悪くなるため、避難口への経路への誘導設備が必要である。従来では一般に、非常口付近の天井等に、図1(a),(b)に示すような避難誘導用の表示装置が設置されている。なお、図1(a)は正面図、図1(b)は図1(a)のA−A線における断面図である。図1(a),(b)の避難誘導用の表示装置は、表示パネル101と、光源102とを有し、通常時は外部電源で光源102を点灯するが、外部電源が遮断されても内蔵のバッテリーで一定時間は光源102を点灯することが可能となっている。ここで、光源102としては、蛍光灯が多く用いられているが、LEDやその他の光源も用いられる場合もある。また、図1(a),(b)の方式以外にも、様々の避難誘導用の表示装置が案出されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、蓄光蛍光体を混入した合成樹脂シートをコンクリート等の壁に埋設して、蓄光蛍光体の発光を利用して避難口への誘導を行う表示設備が提案されている。
【0004】
また、特許文献2には、蓄光蛍光体をより確実に輝光させるために、天井や床、壁に蛍光塗料で避難誘導マークを表示し、更にその蛍光塗料を輝光させる放電等を備えた非常誘導設備が提案されている。
【0005】
また、特許文献3には、LED表示装置を用いて、非常口への誘導を音声と文字により誘導する表示装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平08−302629号公報
【特許文献2】特開平11−202810号公報
【特許文献3】特開平07−160208号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の表示装置では、表示できる情報量が少なく、避難などが確実にできるように災害情報や避難経路などを知ることができなかった。また、表示装置に、災害情報や避難経路等の情報を表示するには、多数の半導体発光素子(多数の固体光源)や大型の内蔵バッテリーで駆動する必要があり、筐体が大型化して天井からの設置が困難となるなどの問題があった。また、表示装置全体を大型化するには多大なコストが必要であった。さらに、従来の表示装置では、表示を高精細に行うには限度があった。
【0008】
本発明は、装置全体が大型化したり、コストが高くなるなどの問題を生じさせることなく、少ない個数の固体光源で、多くの情報量を高精細に表示することの可能な表示装置および防災システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、請求項1記載の発明は、紫外光から可視光までの波長領域のうちの所定の波長の光を発光する固体光源と、該固体光源からの励起光により励起され該固体光源の発光波長よりも長波長の蛍光を発光する少なくとも1種類の蓄光蛍光体を含み、仕切りによって区分された複数の蛍光体セルを有する蛍光体領域と、描画用の画素情報が与えられるとき、前記固体光源からの励起光を、描画用の画素情報に従って制御して、前記蛍光体領域へ照射する反射機構とを有していることを特徴とする表示装置である。
【0010】
また、請求項2記載の発明は、請求項1記載の表示装置において、前記固体光源と前記反射機構が前記蛍光体領域よりも観測者側にある場合において、前記蛍光体領域は、仕切りによって分割された複数の蛍光体セラミック基板からなり、背面に反射層を有していることを特徴としている。
【0011】
また、請求項3記載の発明は、請求項1または請求項2記載の表示装置において、前記蓄光蛍光体には、SrAl1425:Eu,Dy 、SrAl:Eu,Dy 、CaAl:Eu,Nd 、ZnS:Cu 、CaS:Bi、 CaSrS:Bi、 ZnCdS:Cuのうちの少なくとも1種類の蛍光体が用いられることを特徴としている。
【0012】
また、請求項4記載の発明は、請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の表示装置において、前記反射機構は、複数の微小鏡を有する構造のものであって、描画用の画素情報に従って、それぞれの個々の画素に対応する微小鏡を画素ごとに駆動制御することにより、前記蛍光体領域への励起光の照射位置および/または強度を制御することを特徴としている。
【0013】
また、請求項5記載の発明は、請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の表示装置において、前記表示装置は、前記蛍光体領域の描写位置を補正するための描写位置補正手段をさらに有していることを特徴としている。
【0014】
また、請求項6記載の発明は、請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の表示装置と、防災のための情報を送信する情報送信装置と、該情報送信装置からの情報を受信する受信装置とを有し、該受信装置によって受信された情報は、前記表示装置に与えられ、前記表示装置の反射機構は、前記受信装置によって受信された情報に基づいて、前記固体光源からの励起光を制御することを特徴とする防災システムである。
【発明の効果】
【0015】
請求項1乃至請求項6記載の発明によれば、紫外光から可視光までの波長領域のうちの所定の波長の光を発光する固体光源と、該固体光源からの励起光により励起され該固体光源の発光波長よりも長波長の蛍光を発光する少なくとも1種類の蓄光蛍光体を含み、仕切りによって区分された複数の蛍光体セルを有する蛍光体領域と、描画用の画素情報が与えられるとき、前記固体光源からの励起光を、描画用の画素情報に従って制御して、前記蛍光体領域へ照射する反射機構とを有しているので、装置全体が大型化したり、コストが高くなるなどの問題を生じさせることなく、少ない個数の固体光源で、多くの情報量を高精細に表示することができる。
【0016】
特に、請求項5記載の発明によれば、請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の表示装置において、前記表示装置は、前記蛍光体領域の描写位置を補正するための描写位置補正手段をさらに有しているので、長年の使用により、あるいは、地震等の災害の発生により、蛍光体領域と固体光源および反射機構との位置関係がずれてしまうときにも、固体光源および反射機構の照射位置(描写位置)を補正して、表示画像を蛍光体領域に正確に描写することが可能となる。
【0017】
また、請求項6記載の発明によれば、請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の表示装置と、防災のための情報を送信する情報送信装置と、該情報送信装置からの情報を受信する受信装置とを有し、該受信装置によって受信された情報は、前記表示装置に与えられ、前記表示装置の反射機構は、前記受信装置によって受信された情報に基づいて、前記固体光源からの励起光を制御するので、防災のための情報が多くの情報量を有している場合にも、防災のための情報を表示することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】従来の避難誘導用の表示装置を示す図である。
【図2】本発明の表示装置の一構成例を示す図である。
【図3】図2の表示装置に用いられている蓄光蛍光体プレート(蛍光体領域)の構成例を示す図である。
【図4】本発明の表示装置の他の構成例を示す図である。
【図5】図2または図4の表示装置における蓄光蛍光体プレート(蛍光体領域)の表示例を示す図である。
【図6】図2または図4の表示装置を用いた防災システムの構成例を示す図(ブロック図)である。
【図7】図6の防災システムにおける蓄光蛍光体プレート(蛍光体領域)の表示例を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0020】
本発明の表示装置は、紫外光から可視光までの波長領域のうちの所定の波長の光を発光する固体光源と、該固体光源からの励起光により励起され該固体光源の発光波長よりも長波長の蛍光を発光する少なくとも1種類の蓄光蛍光体を含み、仕切りによって区分された複数の蛍光体セルを有する蛍光体領域と、描画用の画素情報(より正確には、後述の位置情報)が与えられるとき、前記固体光源からの励起光を、描画用の画素情報(より正確には、位置情報)に従って制御して、前記蛍光体領域へ照射する反射機構とを有していることを特徴としている。
【0021】
図2は本発明の表示装置の一構成例を示す図である。図2を参照すると、この表示装置は、蓄光蛍光体プレート5(蛍光体領域)と、紫外光から可視光までの波長領域のうちの所定の波長の光を発光する固体光源6と、反射機構7と、文字情報や図形情報を、位置情報と励起強度の情報とを含む描画用の画素情報に変換する情報変換部1と、情報変換部1において、文字情報や図形情報が位置情報と励起強度の情報とを含む描画用の画素情報に変換されるとき、位置情報と励起強度の情報とを含む描画用の画素情報に基づいて、固体光源6および反射機構7を制御する制御部2とを有している。
【0022】
より詳細に、制御部2は、情報変換部1から描画用の画素情報が与えられるとき、描画用の画素情報の励起強度の情報に基づいて固体光源6を制御し(例えば固体光源6の励起時間等を制御し)、描画用の画素情報の位置情報に基づいて反射機構7を制御するようになっている。すなわち、反射機構7は、描画用の画素情報の位置情報が与えられるとき、固体光源6からの励起光を、描画用の画素情報の位置情報に従って制御して、蓄光蛍光体プレート5へ照射するようになっている。
【0023】
ここで、固体光源6には、紫外光から可視光までの波長領域のうちの所定の波長の光を発光するものが用いられ、具体的には例えば半導体レーザー(より具体的には、例えば近紫外半導体レーザーなど)が用いられる。なお、固体光源6として例えば半導体レーザーが用いられる場合、用いられる半導体レーザーの個数は、通常は1個であり、蓄光蛍光体プレート5(蛍光体領域)が大型のものである場合にも、2個や3個程度の少ない個数で良い。
【0024】
また、反射機構7には、複数の微小鏡を有する構造のものであって、描画用の画素情報に従って、それぞれの個々の画素に対応する微小鏡を画素ごとに駆動制御することにより、蓄光蛍光体プレート5(蛍光体領域)への励起光の照射位置および/または強度を制御するものが用いられる。
【0025】
具体的には、反射機構7には、DMD(デジタルマルチミラーデバイス)を用いることができる。ここで、DMDは、微細なミラーを多数配列した構造となっており、その1つのミラー構造は、次のようになっている。すなわち、C−MOS回路上のヒンジと呼ばれる吊り橋状の構造の中心上に、ヨークと呼ばれる台座を載せ、さらにその上に、小型のミラーを固定する。ヨークは、羽のような形状をしており、ヨークの一方に静電引力を発生させることで、ヨークとミラーを傾けることができる。静電引力を解除すると、ヒンジの復元力で、ヨークとミラーは元の位置に戻る。このような構造で、DMDの各ミラー1個が描写1画素を制御することができる。すなわち、本発明では、反射機構7にDMDを用いる場合、DMDの各ミラー1個が描写1画素を制御する構成となっている。
【0026】
より具体的に、本発明では、例えば文字情報や図形情報は、情報変換部1において、位置情報と励起強度の情報とを含む画素情報に変換される。画素情報は、制御部2を介し、DMDの各セルに電気信号で伝達され、例えば文字情報を描写する際には、画素情報の位置情報に従い、文字部以外つまり照射する部分以外のミラーに静電引力を印加し、文字の部分のみが励起光(例えばレーザー光)を描写方向に反射し、その他の部分は励起光(例えばレーザー光)を描写方向ではない別の方向に反射する。さらに、制御部2に画素情報の励起強度の情報が与えられるとき、制御部2は、画素情報の励起強度の情報に基づいて、励起光(例えばレーザー光)の励起時間を制御することで(固体光源6を制御することで)、励起強度を制御する。
【0027】
また、図3(a),(b)は、図2の表示装置に用いられている蓄光蛍光体プレート5(蛍光体領域)の構成例を示す図である。なお、図3(a),(b)はそれぞれ蓄光蛍光体プレート5の断面図、平面図である。図3(a),(b)の構成例では、蓄光蛍光体プレート5は、基板8と、基板8上に設けられている仕切り10と、仕切り10によって区分された複数の蓄光蛍光体(すなわち、複数の蓄光蛍光体セル)9とにより構成されている。
【0028】
ここで、蓄光蛍光体9の材料には、SrAl1425:Eu,Dy 、SrAl:Eu,Dy 、CaAl:Eu,Nd 、ZnS:Cu 、CaS:Bi、 CaSrS:Bi、 ZnCdS:Cu等が用いられる(例えば、SrAl1425:Eu,Dy 、SrAl:Eu,Dy 、CaAl:Eu,Nd 、ZnS:Cu 、CaS:Bi、 CaSrS:Bi、 ZnCdS:Cuのうちの少なくとも1種類の蛍光体が用いられる)。なお、蓄光蛍光体9としては、紫外光から可視光までの波長領域のうちの所定の波長の光を発光する固体光源6により励起され、固体光源6の発光波長よりも長波長の蛍光を発光し蓄光性を有する材料であれば、上記以外の材料も使用可能である。
【0029】
また、蓄光蛍光体の一部の材料には、湿度によって分解、劣化する材料もあるが、野外等の環境で使用する場合には、蓄光蛍光体プレート5に防湿層を付加したり、蛍光体自体を透湿性の低い材料でコーティングするなどの方法を用いる事もできる。また、ガラス等の透明な無機材料に分散して耐候性の高い材料とすることも可能である。
【0030】
また、複数の蓄光蛍光体(すなわち、複数の蓄光蛍光体セル)9としては、上記の蓄光蛍光体粉末をシリコーン樹脂やガラス中に分散させたもの、あるいは、ガラス母体に発光中心イオンを添加したガラス蛍光体、あるいは、樹脂などの結合部材を含まない蛍光体セラミックス等を用いることができる。蓄光蛍光体粉末をガラス中に分散させたものの具体例としては、蓄光蛍光体粉末をSiO、B、Alなどの成分を含むガラス中に分散したものが挙げられる。また、ガラス母体に発光中心を添加したガラス蛍光体としては、亜鉛ホウ珪酸塩系やSrO−Al系ガラス蛍光体などが挙げられる。また、蛍光体セラミックスとしては、酸化アルミニウム系を主成分とするセラミック材料に希土類元素を添加した、樹脂成分を実質的に含まない焼結体などが挙げられる。
【0031】
また、複数の蓄光蛍光体(すなわち、複数の蓄光蛍光体セル)9には、1種類の蛍光体だけを用いることもできるが、2種類以上の蛍光体を用いることも可能であり、多種類の蛍光体を用いる場合には、多様な表示が可能となる。例えば赤色の蛍光体を用いれば、特定の方向に対する危険性などを認知させることができ、緑色や青色蛍光体を用いれば、特定の方向に対する安全性などを認知させることができる。
【0032】
また、仕切り10には、1つの蓄光蛍光体(すなわち、1つの蓄光蛍光体セル)からの発光(蛍光、励起光)が隣接する蓄光蛍光体セルに伝播するのを遮断するもの(例えば光反射性を有するもの)が用いられる。例えば、仕切り10の内面に、反射率の高い銀や銀合金などの材料を湿式メッキ法やスパッタ法等で製膜形成した後に、複数の蓄光蛍光体(すなわち、複数の蓄光蛍光体セル)9を形成する事ができる。
【0033】
また、基板8には、場合に応じて、透明な基板(光を透過する基板)、あるいは、不透明な基板や光反射性を有する基板が用いられる。
【0034】
具体的に、図2に示す例のように、表示部である蓄光蛍光体プレート5を観測者の背面から励起する場合には(以降、透過型の表示装置という)、透明な基板8上に格子状の仕切り10で区分された蓄光蛍光体セル9を形成することで、蓄光蛍光体セル9の発光を正面から観測することができる。なお、固体光源6が紫外光を出射するものである場合、高エネルギーの紫外光は肉眼に照射した場合に視力低下などの障害が発生する危険性があるが、このときには、透明な基板8に紫外光を遮断する材料を使用すれば、上記危険性を防止することができる。
【0035】
また、後述のように(図4に示すように)、表示部である蓄光蛍光体プレート5を観測者側から励起する場合には(以降、反射型の表示装置という)、不透明な基板8上に格子状の仕切り10で区分された蓄光蛍光体セル9を形成することで、蓄光蛍光体セル9の発光を正面から観測することができる。この際、蓄光蛍光体セル9からの発光をより効率的に取り出すために、蓄光蛍光体セル9の背面に反射構造(例えば反射層)を設けることができる。より具体的には、固体光源6と反射機構7が蓄光蛍光体プレート5(蛍光体領域)よりも観測者側にある場合において、蓄光蛍光体プレート5(蛍光体領域)は、仕切り10によって分割された複数の蓄光蛍光体セラミック基板からなり、背面に反射層を有しているのが好ましい。
【0036】
また、上記透過型の表示装置、反射型の表示装置のいずれにおいても、各蓄光蛍光体セル9の励起をより効率的に行い、各蓄光蛍光体セル9の表面からの反射を防ぐために、各蓄光蛍光体セル9の表面に反射防止の構造を設けることが好ましい。この反射防止の構造は、各蓄光蛍光体セル9の表面に光学多層膜や細かな構造を設ける事で実現できる。更に、より効率的に各蓄光蛍光体セル9を励起し、高輝度を得るために、後述のように(図4に示すように)、区分された各蓄光蛍光体セル9の表面(各蓄光蛍光体セル9の表面の垂直な法線)は、固体光源6(より正確には、反射機構(例えばDMD)7)の方向を向いているのが好ましい。
【0037】
このような構成の表示装置では、固体光源6が点灯し、描画用の画素情報(例えば文字情報や図形情報が位置情報と励起強度の情報とに変換された結果の画素情報)が制御部2に与えられるとき、制御部2は、励起強度の情報に基づいて固体光源6を制御するとともに、描画用の画素情報の位置情報に基づいて反射機構(例えばDMD)7を制御する。これにより、反射機構(例えばDMD)7では、固体光源6からの励起光を、描画用の画素情報の位置情報に従って制御して(例えば1画素ごとに制御して)、蓄光蛍光体プレート5(蛍光体領域)へ照射する。これにより、従来にはない高精細な図形、文字の表示が可能となる(多くの情報量を高精細に表示することが可能となる)。
【0038】
すなわち、蓄光蛍光体をレーザー等の固体光源で励起して簡単な図形等を描写する方法は既知であるが(例えば特開平10−069233を参照)、従来では、高精細な図形、文字を表示することはできなかった。これは、蓄光蛍光体シートにレーザー光を照射した場合に蛍光体シート内部で励起光が散乱し、固体光源からの励起光の照射部分が小さくても励起される蛍光体部分の面積が大きくなるためである。これに対し、本発明では、蓄光蛍光体プレート5は、例えば格子状の仕切り10によって多数の蓄光蛍光体セル9に区画されているので、1つの蓄光蛍光体セル9の励起(発光)は仕切り10によって隣接する蓄光蛍光体セル9には伝播せず、従って、励起を意図しない蓄光蛍光体部分が励起(発光)する事を防止することができ、これにより、蓄光蛍光体プレート5の特定の蓄光蛍光体セル9を選択的に固体光源6および反射機構(例えばDMD)7で励起して、蓄光蛍光体プレート5に文字情報や図形を高精細に表示することができる。
【0039】
図4は本発明の表示装置の他の構成例を示す図である。なお、図4において、図2と同様の箇所、または、対応する箇所には同じ符号を付している。図4を参照すると、この表示装置は、反射型の表示装置として構成されている。すなわち、図4の例では、蓄光蛍光体プレート5(蛍光体領域)は、基板8と、仕切り10と、仕切り10によって区分された複数の蓄光蛍光体(すなわち、複数の蓄光蛍光体セル)9と、蓄光蛍光体セル9の背面に設けられた反射構造(例えば反射層)11とにより構成されている。なお、基板8が反射面を有するものである場合には、反射構造(例えば反射層)11を設けずに、蓄光蛍光体セル9の背面に基板8が直接設けられていてもよい。また、図4の例では、固体光源6および反射機構(例えばDMD)7は、励起光源ユニット12内に収納されており、前述したように、より効率的に各蓄光蛍光体セル9を励起し、高輝度を得るために、各蓄光蛍光体セル9の表面(各蓄光蛍光体セル9の表面の垂直な法線)が励起光源ユニット12内の固体光源6(より正確には、反射機構(例えばDMD)7)の方向を向くように、各蓄光蛍光体セル9が配置されている。
【0040】
図4のような構成の表示装置においても、固体光源6が点灯し、描画用の画素情報(例えば文字情報や図形情報が位置情報と励起強度の情報とに変換された結果の画素情報)が制御部2に与えられるとき、制御部2は、励起強度の情報に基づいて固体光源6を制御するとともに、描画用の画素情報の位置情報に基づいて反射機構(例えばDMD)7を制御する。これにより、反射機構(例えばDMD)7では、固体光源6からの励起光を、描画用の画素情報の位置情報に従って制御して(例えば1画素ごとに制御して)、蓄光蛍光体プレート5(蛍光体領域)へ照射する。これにより、従来にはない高精細な図形、文字の表示が可能となる(多くの情報量を高精細に表示することが可能となる)。
【0041】
また、図4の例では、蓄光蛍光体プレート5(蛍光体領域)の隅部に、固体光源6および反射機構(例えばDMD)7からの入射光を反射する位置補正用反射部13が設けられ、また、励起光源ユニット12内には、さらに、位置補正用反射部13からの反射光を受光する受光部14と、固体光源6および反射機構(例えばDMD)7の励起光の照射角度を制御する照射角度制御部15とが設けられている。ここで、位置補正用反射部13は、蓄光蛍光体プレート5(蛍光体領域)に対する固体光源6および反射機構(例えばDMD)7の照射位置が正しい状態にあるときには、固体光源6および反射機構(例えばDMD)7からの所定の照射角度の入射光に対する位置補正用反射部13からの反射光を受光部14が受光できるようになっており、固体光源6および反射機構(例えばDMD)7からの入射光の照射角度を例えば±10°の範囲で変えながら、受光部14が位置補正用反射部13からの反射光を受光したかを照射角度制御部15で判別し、受光部14が位置補正用反射部13からの反射光を受光したことが照射角度制御部15で判別されたときに、そのときの固体光源6および反射機構(例えばDMD)7からの入射光の照射角度を例えばメモリに記憶し、固体光源6および反射機構(例えばDMD)7の照射角度を、メモリに記憶された照射角度に補正することで、蓄光蛍光体プレート5(蛍光体領域)に対する固体光源6および反射機構(例えばDMD)7の照射位置(描写位置)を正しい状態に維持することができる。
【0042】
より具体的には、蓄光蛍光体プレート5(蛍光体領域)の隅部に(例えば描写領域の四隅に)固体光源6および反射機構(例えばDMD)7からの励起光を反射する位置補正用反射部13を設け、励起光源ユニット12内に受光部14を設けておく。表示用の励起を開始するに先立って、固体光源6の出力を低くして、蓄光蛍光体プレート5(蛍光体領域)の隅部の位置補正用反射部13付近を励起し、位置補正用反射部13からの反射光を受光部14で受光して、蓄光蛍光体プレート5(蛍光体領域)の位置を認識した後、固体光源6および反射機構(例えばDMD)7の照射角度を補正し、補正した照射方向に蓄光蛍光体プレート5(蛍光体領域)の励起を開始する。
【0043】
このように、図4の例では、蓄光蛍光体プレート5(蛍光体領域)に対する照射位置(描写位置)を補正する描写位置補正機構が備わっているので、表示部である蓄光蛍光体プレート5(蛍光体領域)と固体光源6および反射機構(例えばDMD)7とを分離した構造にした場合などにおいて、長年の使用により、あるいは、地震等の災害などの発生により、蓄光蛍光体プレート5(蛍光体領域)と固体光源6および反射機構(例えばDMD)7との位置関係がずれてしまうときにも、固体光源6および反射機構(例えばDMD)7の照射位置(描写位置)を補正して、表示画像を正確に描写することが可能となる。特に、蛍光表示部である蓄光蛍光体プレート5(蛍光体領域)が大型化した場合には、この描写位置補正機構(照射位置補正機構)が必要である。また、図2には図示されていないが、図2の表示装置に、この描写位置補正機構(照射位置補正機構)を付加することも可能である。
【0044】
また、図2または図4の表示装置において、励起源である固体光源6は、外部電源で駆動しているが、災害等で電源供給が停止した場合でも内蔵のバッテリーで一定時間駆動することができる。更に、内蔵バッテリーの蓄電が減少して固体光源6の励起が停止しても、励起されていた蓄光蛍光体は長時間発光するため、情報を保持したまま表示をすることができる。
【0045】
また、図2または図4の表示装置において、表示部である蓄光蛍光体プレート5(蛍光体領域)と固体光源6および反射機構(例えばDMD)7とを分離する事で(なお、図2の例では、表示部である蓄光蛍光体プレート5(蛍光体領域)と固体光源6および反射機構(例えばDMD)7とは、1つの筐体に収納されており、分離されていないが、これを分離する事で)、大型化が可能となる。例えば蓄光蛍光体プレート5(蛍光体領域)を建築物の壁面に埋め込み、蓄光蛍光体プレート5(蛍光体領域)を一定方向から励起することで、大型の表示装置として使用すること事ができる。
【0046】
図5には、図2または図4の表示装置における蓄光蛍光体プレート5(蛍光体領域)の表示例が示されている。図5において、符号23が蓄光蛍光体の励起部分であり、符号24が蓄光蛍光体の非励起部分である。
【0047】
このように、図2または図4の表示装置では、装置全体が大型化したり、コストが高くなるなどの問題を生じさせることなく、少ない個数の固体光源で、多くの情報量を高精細に表示することができる。
【0048】
また、図2または図4の表示装置を用いて、防災システムを構築することができる。
【0049】
図6は、図2または図4の表示装置を用いた防災システムの構成例を示す図(ブロック図)である。図6において、情報変換部1、制御部2、固体光源6、反射機構7、蓄光蛍光体プレート5(蛍光体領域)は、図2または図4の表示装置に備わっているものであり、図5の例では、さらに、防災のための情報を送信する情報送信装置(例えば緊急情報を送信する緊急情報送信装置)32と、該情報送信装置32からの情報を受信する受信装置31とが設けられ、受信装置31によって受信された情報は、図2または図4の表示装置に与えられ、図2または図4の表示装置の反射機構7は、受信装置31によって受信された情報に基づいて、固体光源6からの励起光を制御するようになっている。
【0050】
より正確には、受信装置31によって受信された情報(例えば文字情報や図形情報)は、図2または図4の表示装置の情報変換部1に与えられ、情報変換部1では、受信装置31によって受信された情報(例えば文字情報や図形情報)を描画用の画素情報(例えば位置情報と励起強度の情報)に変換して制御部2に与え、制御部2は、励起強度の情報に基づいて固体光源6を制御するとともに、描画用の画素情報の位置情報に基づいて反射機構(例えばDMD)7を制御する。これにより、反射機構(例えばDMD)7では、固体光源6からの励起光を、描画用の画素情報の位置情報に従って制御して(例えば1画素ごとに制御して)、蓄光蛍光体プレート5(蛍光体領域)へ照射する。これにより、従来にはない高精細な避難誘導情報の表示を行うことができる。
【0051】
なお、図6の構成例において、受信装置31を図2または図4の表示装置内に内蔵させることもできる。この場合には、外部の情報送信装置32からの防災のための情報を図2または図4の表示装置において受信することができる。また、図5の構成例では、さらに、火災検知器33が設けられ、火災検知器33からの情報(例えば当該建築設備内における火災情報等(文字情報など))も、情報変換部1に与えられるようになっている。
【0052】
図7には、図6の防災システムにおける蓄光蛍光体プレート5(蛍光体領域)の表示例が示されている。図7において、符号25が例えば外部の情報送信装置32からの防災のための情報(災害の内容)の表示部分である。
【0053】
このように、図5の構成例では、災害の内容や当該建築設備内における火災情報等から、その時点の最適な避難経路などを高精細に表示する事で、確実に防災の目的を達成する事ができる。
【0054】
以上のように、本発明では、高精細の情報表示を低消費電力で長時間表示することが可能であるので、災害発生時に電源が遮断された状況下においても避難誘導や情報伝達が可能となる。また、蓄光蛍光体プレート5(蛍光体領域)を大型化することが容易で、設置条件に制限が少ないため、低コストで大型情報表示装置が実現できる。
【0055】
より詳細に、本発明では、防災システムに高精細な表示機能を付加することで、避難方法などを文字や図形で表示することができるようになり、より確実で安全な避難などが可能となる。また、蓄光蛍光体は励起停止後も長時間発光する特性を持っているため、電力を消費することなく長時間表示を保持することが可能であり、更に蓄光の減衰に応じて固体光源6で励起する事で蓄光蛍光体の蓄光時間を超える表示が可能となる。また、蓄光蛍光体と固体光源6(半導体レーザー)とを組み合わせることで表示部の構造が単純になり、装置全体の低コスト化、軽量化、および、表示部の大型化が容易となる。
【0056】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0057】
(実施例1)
実施例1では、図2の例のような表示装置を用いた防災システムを構築した。
【0058】
すなわち、先ず、厚さ2mmのガラス板と、厚さ3mmのアルミ板に3mm角の穴を5mm間隔となる様に格子状に加工したものとを用意した。そして、ガラス板とアルミ板とを接着剤で接着し、一枚の板にした。更に、SrAl1425:Eu,Dy蓄光蛍光体をシリコーン樹脂に40重量部で混合し、三本ロール等の混合装置を用いて均一に分散して蛍光体ペーストを作り、先に用意したアルミ格子の各セルに蛍光体ペーストをディスペンサーで注入し、150℃の温度で2時間、熱硬化して、蓄光蛍光体プレート5とした。
【0059】
そして、図2の例のように、表示装置の筐体に蓄光蛍光体プレート5を蛍光体面が内側になる様に設置した。また、固体光源6として主波長405nmのGaN系半導体レーザーを1個用意し、レンズで半導体レーザーからの光が反射機構7としてのDMD(デジタルマルチミラーデバイス)に集光する様に光学設計を行った。なお、固体光源6としてのGaN系半導体レーザー、および、反射機構7としてのDMDは、蓄光蛍光体の励起側を照射可能な方向、位置に励起ユニットとして、表示装置内部(筐体内)に設置した。
【0060】
次いで、固体光源6としてのGaN系半導体レーザー、および、反射機構7としてのDMDに、制御部2、情報変換部1、受信装置31を接続し、防災システムとした。
【0061】
この防災システムでは、蓄光蛍光体プレート5に図7に示すような情報表示を高精細に行うことができた。
【0062】
(実施例2)
実施例2では、図4の例のような表示装置を用いた防災システムを構築した。
【0063】
すなわち、先ず、100mm角、厚さ5mmのアルミナ製セラミック板に、5mm角、深さ2mmの穴を6mm間隔となる様に格子状に加工したものを用意し、このセラミック基板の穴に直接湿式メッキ法で銀を膜付けして反射構造とした。更に、SrAl1425:Eu,Dy蓄光蛍光体をシリコーン樹脂に40重量部で混合し、三本ロール等の混合装置を用いて均一に分散して蛍光体ペーストを作り、先に用意したアルミナ製セラミック板の各穴に蛍光体ペーストをディスペンサーで注入し、150℃の温度で2時間、熱硬化して、蓄光蛍光体プレート5とした。蓄光蛍光体プレート5は、コンクリート製壁面に接着剤で隙間無く並べて固定する事で、大型の表示パネルとした。なお、表示パネルの角には固体光源6および反射機構(例えばDMD)7からの励起光を反射する位置補正用反射部13を設置した。
【0064】
また、固体光源6として主波長405nmのGaN系半導体レーザーを1個用意し、レンズで半導体レーザーからの光が反射機構7としてのDMD(デジタルマルチミラーデバイス)に集光する様に光学設計を行った。なお、固体光源6としてのGaN系半導体レーザー、および、反射機構7としてのDMDは、蓄光蛍光体の励起側を照射可能な方向に設置した。
【0065】
次いで、固体光源6としてのGaN系半導体レーザー、および、反射機構7としてのDMDに、制御部2、情報変換部1、受信装置31を接続し、防災システムとした。
【0066】
この防災システムでは、大型の表示パネル(蓄光蛍光体プレート5)に図7に示すような情報表示を高精細に行うことができた。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、防災システムや大型情報表示装置などに利用可能である。
【符号の説明】
【0068】
1 情報変換部
2 制御部
5 蓄光蛍光体プレート
6 固体光源
7 反射機構
13 位置補正用反射部
14 受光部
15 照射角度制御部
31 受信装置
32 情報送信装置
33 火災検知器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紫外光から可視光までの波長領域のうちの所定の波長の光を発光する固体光源と、該固体光源からの励起光により励起され該固体光源の発光波長よりも長波長の蛍光を発光する少なくとも1種類の蓄光蛍光体を含み、仕切りによって区分された複数の蛍光体セルを有する蛍光体領域と、描画用の画素情報が与えられるとき、前記固体光源からの励起光を、描画用の画素情報に従って制御して、前記蛍光体領域へ照射する反射機構とを有していることを特徴とする表示装置。
【請求項2】
請求項1記載の表示装置において、前記固体光源と前記反射機構が前記蛍光体領域よりも観測者側にある場合において、前記蛍光体領域は、仕切りによって分割された複数の蛍光体セラミック基板からなり、背面に反射層を有していることを特徴とする表示装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の表示装置において、前記蓄光蛍光体には、SrAl1425:Eu,Dy 、SrAl:Eu,Dy 、CaAl:Eu,Nd 、ZnS:Cu 、CaS:Bi、 CaSrS:Bi、 ZnCdS:Cuのうちの少なくとも1種類の蛍光体が用いられることを特徴とする表示装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の表示装置において、前記反射機構は、複数の微小鏡を有する構造のものであって、描画用の画素情報に従って、それぞれの個々の画素に対応する微小鏡を画素ごとに駆動制御することにより、前記蛍光体領域への励起光の照射位置および/または強度を制御することを特徴とする表示装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の表示装置において、前記表示装置は、前記蛍光体領域の描写位置を補正するための描写位置補正手段をさらに有していることを特徴とする表示装置。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の表示装置と、防災のための情報を送信する情報送信装置と、該情報送信装置からの情報を受信する受信装置とを有し、該受信装置によって受信された情報は、前記表示装置に与えられ、前記表示装置の反射機構は、前記受信装置によって受信された情報に基づいて、前記固体光源からの励起光を制御することを特徴とする防災システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−170132(P2011−170132A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−34361(P2010−34361)
【出願日】平成22年2月19日(2010.2.19)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】