説明

表示装置の製造装置および表示装置の製造方法

【課題】従来よりも真空雰囲気下で行う工程を減らし、大型基板にも対応可能な表示装置の製造装置および表示装置の製造方法を提供する。
【解決手段】下部電極と上部電極との間に少なくとも発光層を有する有機層を挟持してなる有機電界発光素子が基板上に配列形成された表示装置の製造装置10であって、大気圧雰囲気下および不活性ガス雰囲気下で、下部電極の表面が露出された状態の被処理基板Sに、少なくともプラズマ洗浄を含む前処理を行う前処理部20と、真空雰囲気下で、前処理後の下部電極上に有機層と上部電極とを成膜する成膜部30とを備えており、成膜部30は、被処理基板Sを水平状態に対して略垂直に保持する保持手段を備えていることを特徴とする表示装置の製造装置およびこれを用いた表示装置の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表示装置の製造装置および表示装置の製造方法であり、特には有機電界発光素子(有機エレクトロルミネッセンス素子;以下「有機EL素子」という)を用いた有機EL表示装置の製造に好適に用いられる表示装置の製造装置および表示装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、平面型の表示装置として、有機EL素子を発光素子としたもの(以下「有機EL表示装置」という)が注目を集めている。この有機EL表示装置は、バックライトが不要な自発光型のフラットパネルディスプレイであり、自発光型に特有の視野角の広い表示装置を実現できるという利点を有する。また、必要な画素のみを点灯させればよいため消費電力の点でバックライト型(液晶ディスプレイ等)に比べて有利であるとともに、今後実用化が期待されている高精細度の高速のビデオ信号に対して十分な応答性能を具備すると考えられている。
【0003】
このような有機EL表示装置は、一般に、有機材料を上下から電極(陽極および陰極)で挟み込む構造を持つ。そして、有機材料からなる有機層に対して、陽極から正孔が、陰極から電子がそれぞれ注入され、その有機層にて正孔と電子が再結合して発光が生じるようになっている。
【0004】
この有機EL表示装置を製造する場合には、ガラスからなる基板上にTFT回路をアレイ状に配列形成した後、このTFT回路を覆う状態で絶縁膜を形成し、この絶縁膜上に、コンタクトホールを介して上記TFT回路と接続する状態の下部電極を形成する。そして、下部電極上に有機層を形成する前の前処理として、プラズマ洗浄を行うことで、下部電極の表面を清浄化する。
【0005】
その後、下部電極上に有機層、上部電極を順次蒸着し、上部電極上に保護膜を形成した後、保護膜上および基板の周縁部上に、熱硬化性の樹脂を塗布し、この樹脂上にガラスからなる対向基板を貼り合わせた状態で、加熱することで樹脂封止を行う。
【0006】
上述した有機EL表示装置の製造方法においては、下部電極のプラズマ洗浄から保護膜(封止膜)の形成まで、真空状態を破ることなく有機EL表示装置を製造する方法が報告されている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
一方、有機EL表示装置の大型化にともない、有機層および上部電極を蒸着する際、水平状態に配置されることで、重力による基板のたわみを防止するため、基板を水平状態に対して略垂直に配置した状態で、有機層を蒸着する方法が検討されている。
【0008】
【特許文献1】特許第3531680号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1に記載された表示装置の製造方法によれば、有機層を蒸着するための前処理として、真空雰囲気下で、下部電極が露出された状態の基板にプラズマ洗浄を行うことから、前処理工程においても処理室を真空引きするための設備が必要となり、製造装置が複雑化するだけでなく、設備コストが高くなる、という問題がある。また、真空一貫で製造プロセスを行うに当たって、基板を水平状態に対して略垂直に保持した状態で、有機層の蒸着を行う場合には、プラズマ洗浄は水平状態で行われるため、真空雰囲気下に基板の水平垂直転換機を配置する必要がある。しかし、真空雰囲気下で基板旋回を行うとそれにともなうダストが製造装置内に発生し、このダストによりダークスポットなどの品質不良を引き起こす、という問題がある。また、真空雰囲気に対応した水平垂直転換機の設備費用は高く、コスト的にも問題であった。
【0010】
そこで、本発明は、従来よりも真空雰囲気下で行う工程を減らし、大型基板にも対応可能な、表示装置の製造装置および表示装置の製造方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述したような目的を達成するために、本発明の製造装置は、下部電極と上部電極とで少なくとも発光層を有する有機層を挟持してなる有機電界発光素子が基板上に配列形成された表示装置の製造装置である。そして、大気圧雰囲気下および不活性ガス雰囲気下で、下部電極の表面が露出された状態の基板に、少なくともプラズマ洗浄を含む前処理を行う前処理部と、真空雰囲気下で、前処理後の下部電極上に有機層と上部電極とを成膜する成膜部とを備えており、成膜部は、基板を水平状態に対して略垂直に保持する保持手段を有することを特徴としている。
【0012】
このような表示装置の製造装置によれば、前処理部において、大気圧雰囲気下および不活性ガス雰囲気下で、下部電極の表面が露出された状態の基板に、少なくともプラズマ洗浄を含む前処理を行うことから、前処理部に真空設備を配備する必要がなく、製造装置が簡略化される。また、プラズマ洗浄を含む前処理を、基板を水平に保持した状態で行う場合でも、基板を水平状態から略垂直状態に転換する水平・垂直転換機は大気圧雰囲気下に配置することが可能となるため、真空雰囲気下に水平・垂直転換機を配置することによるダストの発生が防止され、ダストに起因するダークスポットの発生が防止される。また、真空雰囲気下に水平・垂直転換機を配置することによる設備コストの増大が防止される。さらに、成膜部が、基板を水平状態に対して略垂直に保持する保持手段を有することで、大型基板にも対応可能である。
【0013】
また、本発明の表示装置の製造方法は、下部電極と上部電極とで少なくとも発光層を有する有機層を挟持してなる有機電界発光素子が基板上に配列形成された表示装置の製造方法であって、次のような工程を順次行うことを特徴としている。まず、大気圧雰囲気下および不活性ガス雰囲気下で、下部電極の表面が露出された状態の基板に、少なくともプラズマ洗浄を含む前処理を行う。次に、真空雰囲気下で、前処理後の基板を水平状態に対して略垂直に保持した状態で、下部電極上に有機層と上部電極とを成膜する。
【0014】
このような表示装置の製造方法は、上述した製造装置を用いて行われるものであり、大気圧雰囲気下および不活性ガス雰囲気下で、下部電極の表面が露出された状態の基板に、少なくともプラズマ洗浄を含む前処理を行うことで、前処理工程を真空雰囲気に制御しなくてもよいことから、製造工程が簡略化される。さらに、基板を水平状態に対して略垂直に保持した状態で、下部電極上に有機層と上部電極とを成膜することから、大型基板にも対応可能である。
【発明の効果】
【0015】
以上、説明したように、本発明における表示装置の製造装置によれば、大型基板にも対応可能であるとともに、製造装置が簡略化されるため、製造コストを低減できるとともに、生産性を向上させることができる。また、真空雰囲気下に水平・垂直転換機を配置することによるダークスポットの発生や設備コストの増大が防止されるため、表示装置の高品質化を図れるとともに、これによっても製造コストを低減することができる。
【0016】
また、本発明の表示装置の製造方法によれば、大型基板にも対応可能であり、製造工程が簡略化されるため、生産性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0018】
図1に示すように、本実施形態の表示装置の製造装置は、下部電極と上部電極との間に少なくとも発光層を有する有機層を挟持してなる複数の有機電界発光素子が基板上に配列形成された有機EL表示装置の製造装置10である。この製造装置10は、大気圧雰囲気下および不活性ガス雰囲気下で、下部電極の表面が露出された状態の基板(以下、被処理基板Sとする)に、少なくともプラズマ洗浄を含む前処理を行う前処理部20と、真空雰囲気下で、前処理後の被処理基板Sの下部電極上に、有機層と上部電極とを形成する成膜部30とを備えている。
【0019】
上記前処理部20と上記成膜部30とは、それぞれ複数の処理室を備えており、各処理室は、インライン方式で連通した状態となっている。また、本実施形態における製造装置10は、後述する保持具(図示省略)に固定された状態の被処理基板Sを、水平状態に対して略垂直に保持した状態で、各処理室に搬送する搬送手段40(請求項の保持手段に相当)を備えている。
【0020】
この搬送手段40は、図2の要部拡大図((a)平面図、(b)断面図))に示すように、被処理基板Sを保持した状態の保持具50を、水平状態に対して略垂直となるように、上下方向から挟持し、搬送するための例えばローラーからなる一対の搬送駆動部41と、保持具50の被処理面とは反対側の面を支持するアシストローラー42を備えている。上記一対の搬送駆動部41は、各処理室(ここでは基板受入室21を表示)の上下に、処理室間に渡って配置されており、上記アシストローラー42は、各処理室の一壁面に配設されている。
【0021】
搬送駆動部41は、ここでは例えば上下ともにローラーで構成されることとするが、スチールベルトで構成されていてもよく、上記ローラーとスチールベルトを組み合わせてもよい。ここで、本発明における上記略垂直とは、水平状態に対して80°〜90°の傾斜角度θを有した状態を指し、80°〜85°の傾斜角度θで支持されることが、被処理基板Sの歪みを防止できるため、好ましい。ここでは、上記処理室の一壁面が上記範囲の傾斜角度θを有して配置されることとする。
【0022】
次に、上記前処理部20および上記成膜部30の各処理室の構成を、再び図1を用いて説明する。
【0023】
上記前処理部20は、例えば被処理基板Sの受け入れを行う基板受入室21、被処理基板Sにベーク処理を行うベーク室22、被処理基板Sにプラズマ洗浄を行うプラズマ洗浄室23およびプラズマ洗浄後の被処理基板Sを冷却する冷却室24が、この順に隣接された状態で配置されている。また、上記基板受入室21の受入れ側の外側には、被処理基板Sを水平状態から略垂直状態となるように旋回させる水平・垂直転換機Aが設けられることとする。
【0024】
ここで、上述したように、前処理部20では、大気圧雰囲気下および不活性ガス雰囲気下で被処理基板Sの前処理を行うことから、上記前処理部20を構成する上記各処理室(受入室21、ベーク室22、プラズマ洗浄室23および冷却室24には、不活性ガスを供給するためのガス供給管がそれぞれ接続されるとともに、余剰なガスを排気するための排気口がそれぞれ設けられている。ここで、本発明の不活性ガス雰囲気下とは、処理室内の雰囲気が例えばヘリウム、アルゴン、窒素(N2)等の不活性ガスで置換された状態を指すこととする。処理室内の雰囲気が上記不活性ガスで置換されることで、前処理工程中の被処理基板Sへの水分の付着が防止される。
【0025】
上記基板受入室21は、大気雰囲気下に配置された水平・垂直転換機Aにより、水平状態から略垂直状態に転換された被処理基板Sを室内に受け入れ、処理雰囲気を大気雰囲気下から不活性ガス雰囲気下に置換する処理室である。
【0026】
また、ベーク室22は、被処理基板Sにベーク処理を行うところであり、ヒーター等の直接方式の加熱手段や、熱輻射等の非接触方式の加熱手段を備えている。
【0027】
続いて、本発明に特徴的な構成を有するプラズマ洗浄室23について説明する。このプラズマ洗浄室23は、不活性ガス雰囲気下で大気圧プラズマ処理を行う処理室であり、略垂直状態に保持された被処理基板Sに対して、プラズマ照射を行うためのプラズマ照射部60を備えている。
【0028】
このプラズマ照射部60は、図3の要部拡大図に示すように、一方向に長い板状の一対の電極61が、誘電体膜62に覆われた状態で、間隔を有して対向配置されている。この一対の電極61は、電極61の長手方向と同一方向の被処理基板Sの幅と同程度の長さになるように構成されており、この電極61間の間隔から被処理基板Sの被処理面に対してライン状にプラズマが照射される。そして、被処理基板Sがプラズマの照射方向と直交する方向に移動することで、被処理基板Sの被処理面全域にプラズマが照射される。
【0029】
上記誘電体膜62で覆われた一対の電極は、被処理基板S側が開口されたケース63で覆われており、被処理基板S側とは反対側のケース63の底部に、電極61間にプラズマ源となるプロセスガスを供給するガス供給管(図示省略)が接続されている。このプロセスガスを供給するガス供給管は、上述したプラズマ洗浄室23に不活性ガスを供給するガス供給管とは別に設けられることとする。このガス供給管は、一端がガス供給源に接続され、他端側が上記電極61間の間隔に沿って複数に分岐される状態で接続される。ガス供給管は、被処理基板Sの幅方向に渡ってプラズマが均等に照射されるように配置されることが好ましく、例えば重力によりプラズマが下方向に流れる場合には、ガス供給管を上側に密に配置するまたは、上側のガス供給管の流量が多くなるように調整する。
【0030】
ここで、上記ガス供給管に供給されるガスは同一ガスであってもよく、異種ガスが混合されるように構成されていてもよい。
【0031】
なお、ここでは、サイドストリーム方式のプラズマ照射部60について説明したが、図4に示すように、被処理基板Sを挟む状態で、誘電体膜62’に覆われた一対の電極61’が配置されるプラナー方式のプラズマ照射部60’であってもよい。ただし、図3を用いて説明したサイドストリーム方式のプラズマ照射部60の方が、被処理基板Sの被処理面側に、一対の電極61をまとめて配置することができ、プラズマ照射部60をコンパクト化できるとともに、効率よくプラズマを照射できるため、好ましい。
【0032】
また、本実施形態の製造装置は、インライン方式であり、被処理基板Sがプラズマ照射方向と直交する方向に移動した状態でプラズマを照射する例について説明したが、図5(a)に示すように、被処理基板Sを停止させた状態で、プラズマ照射部60を被処理基板Sの被処理面と平行に水平方向に移動させてもよく、図5(b)に示すように、プラズマ照射部60を被処理基板Sの被処理面と平行に上下方向に移動させてもよい。また、ここでの図示は省略したが、プラズマ照射部60が複数並列した状態で配置させてもよい。
【0033】
また、再び図1に示すように、冷却室24は、プラズマ洗浄後に昇温した状態の被処理基板Sを室温レベル(20℃〜30℃程度)に戻すための処理室であり、例えば水冷プレートやペルチェ素子等の冷却手段を備えている。
【0034】
以上のようにして、前処理部20が構成される。なお、ここでは、ベーク室22とプラズマ洗浄室23と冷却室24とがこの順に配置された例について説明したが、前処理部20は少なくともプラズマ洗浄室23を備えていればよく、配置順および処理室数については、適宜設定されることとする。例えばプラズマ洗浄室、ベーク室、冷却室がこの順に配置されていてもよく、ベーク室、冷却室、プラズマ洗浄室、冷却室がこの順に配置されていてもよい。
【0035】
一方、成膜部30は、上記前処理部20において前処理が行われた被処理基板Sに成膜を行うところであり、冷却室24に隣接して配置され、処理雰囲気を大気圧雰囲気下および不活性ガス雰囲気下から真空雰囲気下に置換する真空置換室31、被処理基板Sの下部電極上に各色の有機層を蒸着する有機材料蒸着室32、有機層上に上部電極を構成する上部電極材料を蒸着する金属含有材料蒸着室33、上部電極上に保護膜を形成する無機材料を成膜する無機材料成膜室34、被処理基板Sを払出しする基板払出し室35を備えている。
【0036】
ここで、上述したように、成膜部30では、真空雰囲気下で前処理後の被処理基板Sの下部電極上に有機層と上部電極と保護膜とをこの順に成膜することから、上記成膜部30を構成する上記各処理室(真空置換室31、有機材料蒸着室32、金属含有材料蒸着室33、無機材料蒸着室34、基板払出し室35)には、処理室内を排気するための真空ポンプに接続された排気口がそれぞれ設けられている。
【0037】
上記真空置換室31は、前処理後の被処理基板Sを受け入れ、処理室内の雰囲気を不活性ガス雰囲気から真空雰囲気に置換する処理室である。
【0038】
また、有機材料蒸着室32は、被処理基板Sの下部電極上に、有機材料(有機発光材料)を蒸着する処理室である。図面では一室のみ表記されているが、赤色有機発光材料、緑色有機発光材料、青色有機発光材料を蒸着するための複数の処理室で構成される。有機材料蒸着室32は、被処理基板Sの被処理面に対してライン状に有機材料を供給するように構成された蒸着源(図示省略)を備えている。この蒸着源は固定されており、蒸着マスクを介して、上記有機材料が被処理面に供給される。そして、被処理基板Sが水平方向に移動することで、被処理面全域の蒸着マスクが開口された領域に、有機材料が蒸着される。
【0039】
さらに、金属含有材料蒸着室33は、被処理基板Sに蒸着された有機層上に、金属含有材料を蒸着することで、上部電極を成膜する処理室である。金属含有材料蒸着室33は、ライン状に金属含有材料を供給するように構成された蒸着源(図示省略)を備えている。この蒸着源は、上述した有機材料の蒸着源と同様に構成される。
【0040】
また、無機材料成膜室34は、被処理基板Sに蒸着された上部電極上に、無機材料を蒸着することで、保護膜を成膜する処理室である。無機材料成膜室34は、ライン状に無機材料を供給するように構成されたスパッタ源(図示省略)を備えている。
【0041】
また、基板払出し室35は、被処理基板Sを大気中に払出すための処理室である。
【0042】
以上のようにして、成膜部30の各処理室が構成される。なお、ここでは、真空置換室31、有機材料蒸着室32、金属含有材料蒸着室33、無機材料成膜室34、基板払出し室35がこの順に配置された例について説明したが、上部電極上への保護膜の形成は、CVD(Chemical Vapor Deposition)法で行う場合もあり、CVD法による成膜は水平状態で行われることから、無機材料成膜室34は製造装置10内に配置されない場合もある。
【0043】
次に、上記製造装置1を用いた表示装置の製造方法について説明する。
【0044】
まず、本発明の表示装置の製造装置に用いられる被処理基板Sについて、図6を用いて説明する。まず、ガラスなどの絶縁材料からなる基板101上に、複数のTFT回路をアレイ状に配列形成する。次に、このTFTアレイ102を覆う状態で、基板101上に、例えばポリイミドからなる第1絶縁膜103を形成した後、第1絶縁膜103にTFTと接続するためのコンタクトホール104を形成する。次いで、第1絶縁膜103上に、コンタクトホール104を介して上記TFT回路に接続され、各画素に対応する例えばITO(Indium thin oxide)からなる下部電極105を配列形成する。次に、下部電極105が設けられた第1絶縁膜103上に、例えばポリイミドからなる第2絶縁膜106を形成した後、第2絶縁膜106に、各画素、すなわち、有機EL素子を形成するための画素開口107を形成し、下部電極105の表面を露出する。この状態の基板101が被処理基板Sとなる。
【0045】
なお、ここでは、下部電極105がITOである例を記載したが下部電極105の材料は上記ITO以外にも、IZO(Indium zinc oxide)、AZO(Al-Doped Zinc Oxide)、銀(Ag)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)、白金(Pt)、ニッケル(Ni)、ネオジウム(Nd)を含有したAl合金等が用いられる。
【0046】
また、第1絶縁膜103、第2絶縁膜106の材料としては、上記ポリイミド以外の樹脂を用いてもよく、窒化シリコン(SiN)や酸化シリコン(SiO2)等の無機系材料を用いてもよい。
【0047】
上記被処理基板Sは、図7に示す保持具50によって保持される。ここで、図7(a)は保持部材20を被処理基板Sの処理面側からみた斜視図であり、図7(b)は、被処理基板Sの処理面とは反対側の斜視図である。
【0048】
この保持具50は、保持枠51と、保持枠51内に嵌め込まれる状態で、被処理基板Sの処理面側に配置され、所定領域毎に区画された桟52と、保持枠51の開口部51aを有する両主面側に、回動自在に固定された複数の留め具53を備えている。
【0049】
上記被処理基板Sは、上記桟52が嵌め込まれた状態の保持枠51内に、処理面を上記桟52側に向けた状態で嵌め込まれる。そして、留め具53により被処理基板Sが保持具50に固定される。
【0050】
上記保持具50に固定された状態の被処理基板Sは、図1を用いて説明した水平垂直転換機Aにより、水平状態から略垂直状態となるように、縦置きされ、製造装置10における前処理部20の基板受入れ室21に搬入されて、大気圧雰囲気下および不活性ガス雰囲気下で搬送手段40に保持される。
【0051】
次に、ベーク室22では、大気圧雰囲気下および不活性ガス雰囲気下で、被処理基板Sを例えば80℃程度でベークすることで、第1絶縁膜103(前記図6参照)と、第2絶縁膜106(前記図6参照)の微量吸着成分を除去する。
【0052】
その後、プラズマ洗浄室23では、下部電極105(前記図6参照)が露出された状態の被処理基板Sの表面にプラズマ洗浄を行う。この際、このプラズマ洗浄は、プラズマ洗浄室23内を大気圧雰囲気下および不活性ガス雰囲気下とした状態で行われるが、プラズマ源となるプロセスガスとしては、不活性ガスとともに、不活性ガス以外のガスを供給することで、効率よくプラズマ洗浄を行うことができる。ここで、不活性ガス以外のガスとしては、酸素(O2)、水素(H2)、テトラフフロロメタン(CF4)、六フッ化硫黄(SF6)、トリフロロメタン(CHF3)、ヘキサフロロエタン(C26)等を用いることができる。
【0053】
このプロセス条件の一例としては、プロセスガスとして窒素(N2)に酸素(O2)10vol%を添加し、ガス流量をN2/O2=(180/120(L/min))、RFパワー1.3kw、被処理基板Sとプラズマ照射部60の電極61との距離は15mmで行うこととする。なお、この条件は、被処理基板Sとして、300mm×350mmの基板サイズを用いた場合の最適条件である。
【0054】
上述したように、プロセスガスとしてO2を用いることで、下部電極105表面の有機系微量異物が除去され、N2を用いることで、下部電極105表面の酸化絶縁膜が除去されるため、下部電極105の電荷注入性が向上する。そして、処理後の被処理基板Sは大気圧雰囲気下および不活性ガス雰囲気下で次工程に搬送される。このため、プラズマ洗浄後の被処理基板Sへの水分の付着が防止される。
【0055】
なお、ここでは、O2とN2の混合ガスを用いることとしたが、初めにO2のみで処理を行うことで有機系微量異物を除去し、その後、N2のみで処理を行うことで、下部電極105表面の酸化絶縁膜を除去してもよい。
【0056】
次に、冷却室24では、大気圧雰囲気下および不活性ガス雰囲気下で、上記プラズマ洗浄により上昇した被処理基板Sの温度を20℃〜30℃程度まで低下させる。
【0057】
その後、被処理基板Sを真空置換室31に搬送する。この後の成膜工程は、全て真空雰囲気下で行われることとする。そして、有機材料蒸着室32に搬送された被処理基板Sの下部電極105上に、赤色有機層、緑色有機層、青色有機層をそれぞれ成膜する。
【0058】
次いで、金属含有材料蒸着室33に搬送された被処理基板Sの全域上に、金属含有材料を蒸着することで、上部電極を形成する。その後、無機材料成膜室34に搬送された被処理基板Sの上部電極上に、スパッタリング法により、保護膜を形成する。
【0059】
ここで、処理後の被処理基板Sを図8(a)に示す。下部電極105上には、赤色有機層108A、緑色有機層108G、青色有機層108Bがそれぞれ設けられている。また、有機層108上および第2絶縁膜107上には上部電極109が設けられており、上部電極109上に保護膜110が設けられている。
【0060】
その後、図8(b)に示すように、保護膜110上に封止樹脂111を塗布成膜し、対向基板112を貼り合わせることで、有機EL表示装置が完成する。
【0061】
このような表示装置の製造装置によれば、前処理部20において、大気圧雰囲気下および不活性ガス雰囲気下で、下部電極105の表面が露出された状態の基板101に、少なくともプラズマ洗浄を含む前処理を行うことから、前処理部20に真空設備を配備する必要がなく、製造装置が簡略化される。また、従来の真空一貫で行う製造装置と比較して真空雰囲気下に水平・垂直転換機Aを配置することによるダストの発生が防止されるため、ダークスポットの発生が防止され、表示装置の高品質化が図れる。また、真空雰囲気下に水平・垂直転換機Aを配置することによる設備コストの増大が防止されるため、製造コストの増大が防止される。さらに、成膜部30が、被処理基板Sを水平状態に対して略垂直に保持する保持手段を有することで、大型基板にも対応可能である。
【0062】
さらに、本実施形態の表示装置によれば、被処理基板Sを略垂直に配置した状態で、前処理と成膜とを続けて行うことができるため、前処理と成膜の間に被処理基板Sの配置状態を転換しなくてもよく、製造工程をスムーズに行うことができる。さらに前処理部における処理雰囲気を変化させずに処理を行うことが可能である。
【0063】
また、上記表示装置の製造方法によれば、上記製造装置を用いて処理を行うことで、前処理工程を真空雰囲気に制御しなくてもよいことから、製造工程が簡略化される。したがって、表示装置の生産性を向上させることができる。
【0064】
ここで、本実施形態の表示装置の製造装置および製造方法を用いて製造した有機EL表示装置と、真空一貫の製造装置において真空酸素プラズマでプラズマ洗浄を行い、各色の有機EL素子を作成し、素子半減寿命を測定した結果を表1に示す。
【表1】

【0065】
この表に示すように、本実施形態の有機EL表示装置における各色の有機EL素子の素子半減寿命は、真空一貫の製造装置において真空酸素プラズマでプラズマ洗浄を行った有機EL表示装置の測定結果と同程度であることが確認された。
【0066】
(変形例1)
なお、上述した実施形態においては、前処理部20においても、被処理基板Sが略垂直に保持された状態で処理される例について説明したが、図9に示すように、前処理部20’では被処理基板Sが水平状態で保持されるように構成された表示装置の製造装置10’であってもよい。ただし、前処理部20’と成膜部30’を構成する各処理室の配置については、第1実施形態と同一であることとする。
【0067】
この製造装置1’においては、前処理部20’と成膜部30’の間に、水平・垂直転換機Aが収納された水平・垂直転換室70が配置される。この場合、この水平・垂直転換室70は、不活性ガス雰囲気下に制御される。また、前処理部20’における搬送手段40は、被処理基板Sを水平状態に配置した状態で、下側のみを保持するように構成される。
【0068】
さらに、プラズマ洗浄室23’には、例えば平行平板型のプラズマ照射部60’が配置されることとするが、ダウンストリーム方式であってもよい。
【0069】
上述したような製造装置を用いた各処理室の処理は第1実施形態と同様に行われる。ここで、上記平行平板型のプラズマ照射部60’を用いてプラズマ洗浄を行う場合のプロセス条件の一例としては、プロセスガスとして窒素(N2)と酸素(O2)10vol%を添加し、ガス流量をN2/O2=(500/50(ml/min))、RFパワー0.5kw、処理時間を200秒、被処理基板Sとプラズマ照射部60’の電極(図示省略)との距離は80mmで行うこととする。
【0070】
このような表示装置の製造装置10’であっても前処理部20’において、大気圧雰囲気下および不活性ガス雰囲気下で、被処理基板Sに、少なくともプラズマ洗浄を含む前処理を行うことから、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の表示装置の製造装置に係る実施形態を示す構成図である。
【図2】本発明の表示装置の製造装置の搬送手段を示す平面図(a)および断面図(b)である。
【図3】本発明の表示装置のプラズマ照射部を示す構成図である。
【図4】本発明の表示装置のプラズマ照射部の別の例を示す構成図(その1)である。
【図5】本発明の表示装置のプラズマ照射部の別の例を示す構成図(その2)である。
【図6】本発明の表示装置で処理される処理前の被処理基板の断面図である。
【図7】本発明の表示装置で処理される被処理基板を保持する保持具である。
【図8】本発明の表示装置で処理された後の被処理基板の断面図である。
【図9】本発明の表示装置の製造装置に係る実施形態の変形例を示す構成図である。
【符号の説明】
【0072】
10,10’…製造装置、20,20’…前処理部、30,30’…成膜部、60…プラズマ照射部、101…基板、105…下部電極、108…有機層、109…上部電極、S…被処理基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部電極と上部電極との間に少なくとも発光層を有する有機層を挟持してなる有機電界発光素子が基板上に配列形成された表示装置の製造装置であって、
大気圧雰囲気下および不活性ガス雰囲気下で、前記下部電極の表面が露出された状態の前記基板に、少なくともプラズマ洗浄を含む前処理を行う前処理部と、
真空雰囲気下で、前処理後の前記基板の前記下部電極上に、前記有機層と前記上部電極とをこの順に成膜する成膜部とを備えており、
前記成膜部は、前記基板を水平状態に対して略垂直に保持する保持手段を備えている
ことを特徴とする表示装置の製造装置。
【請求項2】
請求項1記載の表示装置の製造装置において、
前記前処理部は、前記基板を水平状態に対して略垂直に保持する保持手段を備えている
ことを特徴とする表示装置の製造装置。
【請求項3】
請求項1記載の表示装置の製造装置において、
前記前処理部でプラズマ洗浄を行うプラズマ洗浄室には、前記基板の被処理面に対してライン状にプラズマを照射するプラズマ照射部が設けられている
ことを特徴とする表示装置の製造装置。
【請求項4】
請求項2記載の表示装置の製造装置において、
前記前処理部および前記成膜部に設けられた前記保持手段は、前記前処理部から前記成膜部まで前記基板を搬送する搬送手段である
ことを特徴とする表示装置の製造装置。
【請求項5】
請求項1記載の表示装置の製造装置において、
前記前処理部は、前記基板にベーク処理を行うベーク室を備えている
ことを特徴とする表示装置の製造装置。
【請求項6】
請求項1記載の表示装置の製造装置において、
前記前処理部は、前記基板に冷却処理を行う冷却室を備えている
ことを特徴とする表示装置の製造装置。
【請求項7】
下部電極と上部電極とで少なくとも発光層を有する有機層を挟持してなる有機電界発光素子が基板上に配列形成された表示装置の製造方法であって、
大気圧雰囲気下および不活性ガス雰囲気下で、前記下部電極の表面が露出された状態の前記基板に、少なくともプラズマ洗浄を含む前処理を行う工程と、
真空雰囲気下で、前処理後の前記基板を水平状態に対して略垂直に保持した状態で、前記下部電極上に前記有機層と前記上部電極とをこの順に成膜する工程とを有する
ことを特徴とする表示装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−177071(P2008−177071A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−9793(P2007−9793)
【出願日】平成19年1月19日(2007.1.19)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】