説明

表示装置

【課題】有機EL素子を用いた表示装置において有機化合物層よりも高い屈折率の透明層を伝播する伝播光を効率的に外部に取り出しながらも、表示装置にとって問題となる表示像のにじみを低減する。
【解決手段】画素4内に互いに異なる発光色を発光する複数の副画素1,2,3を有し、各副画素1,2,3が有機EL素子を備えた表示装置において、有機EL素子の光出射側に、有機EL素子の有機化合物層よりも屈折率の高い高屈折率透明層を設け、さらに、該高屈折率透明層の光出射側に光取り出し構造物7を設け、隣り合う二つの画素に含まれる最近接の副画素1,3間の距離6を、それぞれの副画素の発光の導波距離の和以上とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL素子を備えた表示装置に関するものであり、特に、1画素が互いに異なる色を発光する複数の副画素からなる、フルカラー表示の表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、数ボルト程度の低駆動電圧で自己発光する有機発光素子が注目を集めている。有機EL(エレクトロルミネッセンス)素子は、面発光特性、軽量、視認性といった優れた特徴を活かし薄型ディスプレイや照明器具、ヘッドマウントディスプレー、また電子写真方式プリンタのプリントヘッド用光源など発光装置としての実用化が進みつつある。
【0003】
有機EL素子は、有機材料からなる発光層やその他の機能分離された複数の有機材料からなる層を陽極及び陰極で挟んだ構造を有しており、少なくとも一方の光出射側の電極は透明である。この積層構造ゆえに、発光層の屈折率や光出射側の媒質、最終的な光の放出の行われる空気の屈折率で決定される各界面における臨界角以上の方向に進行する光は、全反射を受けて素子内部に伝播光として閉じ込められる。伝播光は素子内部の有機化合物層及び金属電極により吸収され、外部に取り出されなくなり、光取り出し効率が低下する。
【0004】
光取り出し効率改善を目的として、伝播光を外部に取り出すために、光出射側の表面に微細凹凸構造或いはレンズ構造など、光の進行方向を変化させ全反射条件を破る方法が多く提案されている。特に、改善効果が高い方法として、透明電極の光出射側に接して屈折率が発光層と同等以上の透明層を設け、更に、この透明層の光出射側もしくは内部に光の反射・散乱角に乱れを生じさせる領域を設ける方法が提示されている(特許文献1)。
【0005】
この方法は、古典的なスネルの法則によれば発光層で発光した光の約80%を占める発光層内の伝播光を、発光層よりも高屈折率である高屈折率透明層に引き込むことで、透明層内の伝播光に変換する。その伝播光を透明層の表面もしくは内部の光の反射・散乱角に乱れを生じさせる領域によって外部に取り出せるようにしている。
【0006】
しかしながら、こうした高屈折率透明層内に光を伝播させる方法にはディスプレイなど表示装置に適用する場合に特有の課題が生じる。高屈折率透明層に導かれ光の反射・散乱角に乱れを生じさせる領域によって最終的に空気に出射する光は本来であれば全反射されていた臨界角以上の角度で進行する光を含む。従って、高屈折率透明層の厚さに起因した視差により実際の発光点とは異なる位置からの発光と認識されるため表示像のにじみの問題が発生する。これに対しては、高屈折率透明層ではないものの、光が伝播する基板の厚みを画素サイズの一定割合以下に抑える方法が提案されている(特許文献2)。
【0007】
更に、高屈折率透明層に導かれた光が反射・散乱角に乱れを生じさせる領域に入射した際に、必ずしも一回の入射で空気側に取り出されるわけではない。反射・散乱角に乱れを生じさせる領域によって進行方向を変えた光であっても、高屈折率透明層と空気界面の臨界角以上の角度に進む光は再度、全反射を受けて高屈折率透明層内を伝播する。この結果、光は高屈折率透明層内を横方向に伝播し、いずれ全反射条件が破れた発光点とは離れた位置で空気側に出射することになるため、やはり、表示像のにじみの問題が発生する。特に透明層の屈折率が高いほど、高角度成分の光が多いため反射・散乱角に乱れを生じさせる領域に入射する回数が減少、空気側に取り出されるまでの横方向の導波距離が長くなり、問題が顕著になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−296429号公報
【特許文献2】特開2005−322490号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、有機EL素子を用いた表示装置において有機化合物層よりも高い屈折率の透明層を伝播する伝播光を効率的に外部に取り出しながらも、表示装置にとって問題となる表示像のにじみを低減することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の表示装置は、有機EL素子の光出射側の透明電極に隣り合う有機化合物層よりも高い高屈折率透明層に光取り出し構造を設けることでより多くの光が素子内部から取り出されるような画素からなる表示装置である。本出願人等は、高屈折率透明層を横方向に伝播する光の導波距離に着目し、本発明を達成した。
【0011】
即ち本発明は、互いに異なる色を発光する複数の副画素を有する画素を複数備え、
前記副画素がそれぞれ、第1電極と、第2電極と、前記第1電極と前記第2電極との間に配置された発光層を含む有機化合物層とを有する有機EL素子を備えた表示装置であって、
前記有機EL素子の光出射側に前記有機化合物層よりも屈折率の高い高屈折率透明層を有し、
前記高屈折率透明層の光出射側に光取り出し構造物を有し、
隣り合う二つの画素に含まれる最近接の副画素間の距離が、それぞれの副画素の発光の導波距離の和以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、光取り出し効率を向上させつつ表示像のにじみが低減された表示装置を提供できる。光取り出し効率の向上により全方位に対して輝度が上昇するため、低消費電力の表示装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の表示装置の一実施形態の画素の平面レイアウトを示す図である。
【図2】本発明の表示装置の一実施形態の平面レイアウトを模式的に示す図である。
【図3】本発明の表示装置の好ましい実施形態の断面模式図である。
【図4】本発明の表示装置の好ましい実施形態の有機EL素子の断面模式図である。
【図5】本発明の表示装置の光取り出し構造物の他の平面レイアウトを示す図である。
【図6】本発明の表示装置の光取り出し構造物の他の平面レイアウトを示す図である。
【図7】本発明の表示装置の光取り出し構造物の底面の大きさと中心間の距離との関係を説明するための平面図である。
【図8】本発明に係る発光の導波距離の説明図である。
【図9】本発明の表示装置の他の実施形態の平面レイアウトを模式的に示す図である。
【図10】本発明の実施例における通電領域からの距離と輝度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
有機EL素子は、第1電極上に発光領域を備えた発光層を含むいくつかの有機化合物層と第2電極とを有している。そして、該第1電極と第2電極間に電圧を印加して有機化合物層に注入された正孔と電子が再結合する際に生じるエネルギーを利用して発光する素子である。第1電極と第2電極の一方は反射電極であり、他方は透明電極である。また、第1電極と第2電極の一方は陽極、他方は陰極である。本発明の表示装置は、第1電極として反射電極を支持基板上に形成し、透明電極側から発光を取り出す。本発明の表示装置は、有機EL素子内で発光した光を効果的に外部に取り出すために、透明電極に隣接して有機化合物層よりも高い屈折率を有する高屈折率透明層が設けられ、更に、該高屈折率透明層に隣接して光を取り出すための光取り出し構造物が配置されている。係る構成により、発光層からの光は全反射せずに光取り出し構造物まで達し、効果的に外へ取り出されることになる。
【0015】
本発明においては、互いに異なる画素に属する最近接の副画素間の距離が互いの副画素の発光の導波距離の和以上となることを特徴としている。これにより、隣り合う画素間同士の混色で発生する表示像のにじみを抑制することができる。
【0016】
以下、本発明の発光装置の実施の形態について説明する。図1は、本発明の表示装置の一実施形態の画素の平面レイアウトを示す。本実施形態では、青、緑、赤の光の三原色をそれぞれ発光する副画素1,2,3により一つの画素4が形成されている。ここで画素4は少なくとも3つの副画素1,2,3と2つの副画素間領域5からなる。一方、画素間領域6は隣り合う二つの画素4の間の領域であり、より詳しく言えば、隣り合う画素間にそれぞれ含まれる副画素1と3の間の領域のことである。また、画素間領域6のX方向とY方向の距離をPxとPyと定義しておく。尚、一般的にはPxとPyを等しくとる場合が多い。
【0017】
図2は、図1の表示装置に設けた光取り出し構造物7の平面レイアウトを示す図である。本発明の表示装置では、図2に示すように画素4上と画素間領域6上の双方に光取り出し構造物7が設けられている。
【0018】
本発明の表示装置では副画素1,2,3の発光領域は後述する支持基板側に形成された、パターニングされた電極の面積で決まる。その場合、表示装置は図3に模式的に示すような断面構造になる。この場合は後述する反射電極19の電極面積がそれぞれの副画素1,2,3の領域となる。
【0019】
また、図3の構成では、画素間のクロストーク、ショート、電極配線の断線などの回避、又は電極間を絶縁して発光領域を限定するために、隔壁15を設けているが、なくても構わない。図3の場合、それぞれの副画素に隔壁15によって設けられた開口部が図1の副画素1,2,3に対応する。
【0020】
各副画素1,2,3は、それぞれの発光色を発光する有機EL素子からなる。図3においては、支持基板9上にそれぞれ第1電極として反射電極9を有し、該反射電極9上に有機化合物層16,17,18を備え、さらに光出射側に第2電極として透明電極20を備えている。有機化合物層16,17,18はそれぞれ、副画素1,2,3の発光色に応じた発光を行う発光層を備えている。透明電極20は表示領域全体にわたって連続して形成されており、その光出射側(支持基板9とは反対側)に、有機化合物層16,17,18よりも屈折率の高い高屈折率透明層10を有している。そしてさらに、高屈折率透明層10の光出射側に光取り出し構造物7を備えている。
【0021】
副画素1に用いられる有機EL素子の断面構造の構成例を図4に示す。尚、副画素2,3に用いられる有機EL素子の断面構造も図4と同様である。支持基板9上に設けられた第1電極として反射電極22及び透明電極23と、第2電極としての透明電極20との間に、発光層を含むいくつかの有機化合物層があり、発光効率、駆動寿命、光学干渉などの観点から様々な積層構成があることはよく知られている。尚、図3では第1電極として反射電極19のみを示したが、図4の構成では第1電極を反射電極22と透明電極23とで構成しており、本発明では反射性を有する電極構成であればいずれの構成でも構わない。
【0022】
図4の例では、図3の有機化合物層16として、正孔注入層24、正孔輸送層25、発光層26、電子輸送層27、電子注入層28を設けた構成を示す。本発明は、各層に含まれる材料には限定されない。例えば、発光層26を構成する材料は、蛍光材料、燐光材料のいずれでもよく、ホスト材料、発光材料の他に、少なくとも一種類以上の化合物が素子性能向上のために含まれていてもよい。また、正孔輸送層25は電子ブロック層として機能してもよく、電子輸送層27は正孔ブロック層として機能してもよい。
【0023】
有機化合物層16のうち、発光層26の発光位置と反射電極22の反射面との間の膜厚を調節することで、発光層26内部の放射分布を制御することができる。表示装置としては特に正面方向の輝度が高くなるように各有機化合物層の膜厚を設定することで、光学干渉により発光色も制御され、より高効率に正面方向に光が放出されるようになる。より具体的には、発光層26の発光位置から透明電極21と反射電極22の界面までの光学距離を発光波長のn/4(n=1、3、5、・・・)に調整することで、発光層26から光取り出し方向に向けた正面輝度をより高めることができる。
【0024】
光取り出し効率を高めるためには反射電極22の反射率はより高い方が好ましい。例えば、反射電極22の材料としては、アルミニウム(Al)電極よりも銀(Ag)電極の方が好ましい。更に反射率を高める手段として誘電多層膜ミラーのように屈折率の異なる層を積層する手法を用いてもよい。
【0025】
図4の例では第2電極に透明電極20を用いることで素子内に発光が閉じ込められなくなり、この透明電極20の光出射側に隣接して高屈折率透明層10を設けることで、閉じ込め及び全反射することなく、光取り出し構造物7へ光が取り出されてくる。即ち、高屈折率透明層10と空気或いは別の媒体などとの間で起こる全反射を光取り出し構造物7を設けることで回避し、効果的に内部の光を外部に取り出すことができる。このようにして、有機EL素子の光取り出し効率は通常20%程度と言われるものが飛躍的に向上する。
【0026】
また第2電極の透明電極20に代わって金属薄膜などの半透明電極を用いてもよい。その場合は第2電極の反射率が上昇し、光学共振器としての特性が発現してくる。しかしながら発光層26からの高角度放射光成分の発生は、程度は少なくても発生している。ゆえに、透明電極20に比べて光取り出し効率の増加は小さいが効果はあるといえる。第2電極が透明かどうかそのものに特に限定されるものではない。
【0027】
高屈折率透明層10は水蒸気や酸素などのガスの侵入に対するバリア層として用いてもよい。バリア層として機能するには用いる材料にもよるが、数μm程度の膜厚であればよいが、0.5μm以上6.0μm以下の範囲である。好ましい膜厚は光取り出し構造物7のサイズにもよるため、規定する必要はない。高屈折率透明層10の膜厚が6.0μmより大きいと該高屈折率透明層10中を長距離伝播し易くなり、隣の画素4上の光取り出し構造物7から光が取り出されやすくなるので好ましくない。高屈折率透明層10の膜厚は、光取り出し効率の向上という点では、より好ましくは0.5μm以上1.0μm以下である。
【0028】
有機化合物層16,17,18の屈折率は材料によっても変化するが、概ね青の発光領域で1.6乃至2.0、緑では1.5乃至1.9、赤では1.5乃至1.8程度である。従って高屈折率透明層10は、青、緑、赤の各発光領域それぞれで少なくとも有機EL素子に用いる有機化合物層16,17,18よりも高い屈折率であればよい。
【0029】
また、高屈折率透明層10としては、バリア層としても十分機能する窒化ケイ素膜(SiNx)を用いるが、酸化チタン、酸化亜鉛など他材料でも上述の光学特性を満たす材料であれば適宜選択することができる。窒化ケイ素膜の元素組成及び元素組成比は特に限定されるものではなく、窒素、ケイ素を主成分としてその他の元素が混合されていてもよい。窒化ケイ素膜を得る成膜プロセスとしてはCVD(Chemical Vapor Deposition)法が用いられる。窒化ケイ素膜は成膜条件、例えば基板温度や成膜速度などによっても、光学定数は変化するが、本発明においては有機化合物層16,17,18よりも高い屈折率を有する透明層であればよい。高屈折率透明層10の光透過率は、可視光域で85%以上が好ましく、より好ましくは90%以上である。
【0030】
本発明に係る光取り出し構造物7は高屈折率透明層10を直接加工して形成され、高屈折率透明層10と光取り出し構造物7の間には屈折率の差を無くし、フレネル反射を低減するほうがよい。
【0031】
光取り出し構造物7は図4に示すようなレンズ構造を有するレンズ形状物だけではなく、凹凸構造、回折構造などでもよいが、より好ましくはレンズ形状物であることが好ましい。ここでレンズ形状物とは、光取り出し方向に対して凸な形状を指す。このような構造物があることで全反射による素子内部への光の戻りが低減され、光取り出し効率が向上する。レンズ形状物の底部形状は円、楕円、三角形以上の多角形であり、該レンズの高さ方向の断面形状は半球状、台形、錐状のいずれか、或いは半球状、台形状、錐状の複合体からなるものである。
【0032】
光取り出し構造物7の配置パターンは全面均一でもよいし、異なってもよい。例えば、ミクロンサイズの半球レンズとミクロン幅のシリンドリカルレンズ、ミクロンサイズの円錐、四角錐、或いは多角形の錐と、幅がミクロンサイズで断面が直角三角形や頂角が鈍角の三角レンズや台形型のレンズなどの組み合わせなどが挙げられる。
【0033】
これらは画素4内で平面内に360°放出される光をできるかぎり取り出すために配置されることが好ましい。例えば、底面の形状が円の場合は、光取り出し構造物7は図2に示すように六方最密配置がよい。また底面の形が四角形ならば、図5のような千鳥配置をとってもよい。
【0034】
光取り出し構造物7の配置パターンは全面均一でもよい。また、図6(a)で示す光取り出し構造物7a,7b、図6(b)で示す光取り出し構造物7c,7d、図6(c)で示す光取り出し構造物7e,7fのように、副画素1,2,3上と副画素間領域とでその形状が異なっていてもよい。例えば短辺10μmで長辺60μmの副画素の場合、数μmの半球レンズと数μm幅のシリンドリカルレンズ、数μmの円錐、四角錐、或いは多角形の錐と、幅が数μmで断面が直角三角形や二等辺三角形、或いは台形型の構造物などの組み合わせなどが挙げられる。
【0035】
該光取り出し構造物7の製造方法については、特に限定するものではないが、例えばフォトリソグラフィによってSiNxなどの膜上にレジストパターンを形成後、ドライエッチを行って所望の構造に形成してもよい。ナノインプリントによって所望のモールドのパターンをSiN上に転写した後、ドライエッチによってSiNxを加工してもよい。
【0036】
副画素1,2,3の寸法が数十μm角ならば、光取り出し構造物7のサイズ或いは幅はミクロンサイズが好ましい。なぜならば、高屈折率透明層10中に放出される高角度成分の光が光取り出し構造物7に入った場合に1回で取り出されるとは限らず、2個目、3個目の光取り出し構造物7中に入って取り出されることが考えられるためである。また光取り出し構造物7と空気或いは低屈折率層などとの界面で起こる反射があり、2個目、3個目の光取り出し構造物7に光が当たって角度が変わってから取り出されることも考えられる。従って、副画素1,2,3の面積に対して十分な数と大きさの光取り出し構造物7があることが光取り出し効率向上には好ましい。
【0037】
また光取り出し構造物7が光取り出し効率の向上に十分寄与するためには、光取り出し構造物7が密に配置されていることが好ましい。より好ましくは図7(a)及び(b)に示すように光取り出し構造物7の底部の直径(図7(a)の場合)、又は隣り合う光取り出し構造物7の中心を通る軸に沿った底面の長さ(図7(b)の場合)(A)に対して、光取り出し構造物7の中心間の距離(B)が
1.0≦B/A≦1.2 (1)
であることが好ましい。尚、図7において、37,47は光取り出し構造物7の水平方向の配置軸、38,48は斜め方向の配置軸、35,45は光取り出し構造物7の中心である。また、31は配置軸37に沿った光取り出し構造物7の底部の直径(A)、32は配置軸37に沿った光取り出し構造物7の中心間の距離(B)である。また、33は配置軸38に沿った光取り出し構造物7の底部の直径(A)、34は配置軸38に沿った光取り出し構造物7の中心間の距離(B)である。さらに、41は配置軸47に沿った光取り出し構造物7の底面の長さ(A)、42は配置軸47に沿った光取り出し構造物7の中心間の距離(B)である。また、43は配置軸48に沿った光取り出し構造物7の底面の長さ(A)、44は配置軸48に沿った光取り出し構造物7の中心間の距離(B)である。
【0038】
光取り出し構造物7がより密に配置されていることで高屈折率透明層10まで到達した光が該光取り出し構造物7を経て外に出る機会が増えることになる。例えば、ある特定の点からの発光は360°に放出されるため、隣り合う二つの光取り出し構造物7間に隙間がある場合は、その角度の光は取り出されずその次の光取り出し構造物7に入ったところで取り出される。
【0039】
副画素間領域5上に光取り出し構造物7が設けられていると、該副画素間領域5に、該副画素間領域5に隣り合う副画素の発光が侵入し取り出されることになる。しかしながら、画素4内の光取り出し構造物7によって起こる混色、例えば、青、緑、赤の間での混色は階調制御された色同士の加法混色なので、所望の色度を得るための制御に対して影響は与えない。むしろ隣り合う副画素へ伝播した光が取り出させるため取り出し効率が向上するという利点がある。
【0040】
一方、画素間領域6上に設けられた光取り出し構造物7からは、それぞれ別の階調制御された副画素の発光が混ざり合うことになる。例えば互いに異なる画素4に含まれ、画素間領域6を挟んで隣り合う赤色副画素3と青色副画素1の混色は、それぞれの副画素の階調制御が取り出したい発光色に合わせたものにならないため、全く意図しない加法混色された光として取り出される。
【0041】
ここでMacAdamの偏差楕円を例にとって考える。緑は赤や青よりも色度ずれに対して鈍感であり、青は色度ずれに対しては非常に敏感である。よって、図1の構成において発光色が青色の青色副画素1を例にとって表示像のにじみについて説明する。青色副画素1への他色の異なる階調制御された副画素からの光の侵入は青の色度ずれにつながる。この時、青色副画素1の色は所望の色度で発光しているが、隣り合う画素間領域6上から取り出される発光色は隣の赤色副画素3の色が混ざった色度のずれた発光である。ゆえに、青色副画素1上は所定の青に近いが画素間領域6上に所定の青色とは違う色が認識される。青色副画素1は赤色が混ざった発光色で認識されることになり、色がにじむことになる。また、画素間領域6では、画像を表示するための画素単位の所定の階調制御に対する色度のずれが起こるため表示された画像のエッジ部のにじみにつながる。尚、画素4内での副画素の配置が、青色副画素1,赤色副画素3,緑色副画素2の順であれば、画素間領域6において、該画素間領域6を挟んで隣り合う青色副画素1と緑色副画素2の混色が生じる。
【0042】
このように、光取り出し効率を向上させるために高屈折率透明層10を導入した表示装置では、光が高屈折率透明層10内を横方向に長距離伝播する結果、発せられた光は隣り合う画素にまで達し、にじみの原因となる。
【0043】
本発明においては、このにじみを抑制するために画素間領域の幅を光の導波距離以上に設定した。ここで導波距離とは、発光層で発光された発光が高屈折率透明層10を横方向に光が減衰しながら伝播し、輝度がゼロに漸近する距離と定義する。輝度がゼロに漸近することは、発光点で輝度の1%以下になることをいう。導波距離は、有機EL素子の構造や材料など多くの因子によって決まる。
【0044】
第1の因子は、高屈折率透明層10中を伝播する光のある波長に対する高屈折率透明層10の屈折率と吸収係数である。特に吸収係数は導波距離に顕著に影響を与える。なぜなら、伝播光は高屈折率透明層10を全反射しながら複数回通過するので、例え小さな吸収係数であっても、減衰が大きくなり、導波距離が短くなるからである。
【0045】
第2の因子は、高屈折率透明層10に備えられた光取り出し構造物7の形状、屈折率、数密度が挙げられる。光取り出し構造物7の機能は高屈折率透明層10から空気側に光が出射する際に全反射で高屈折率透明層10側に光が逆戻りするのを回避し、空気側に取り出すことである。従って、この光取り出し構造物7の数密度が小さい場合、光が光取り出し構造物7に衝突する単位距離当たりの回数が減少する。結果として、光は空気側に取り出されることなく高屈折率透明層10に向かって全反射される頻度が上昇し、導波距離が長くなる。また、形状によっても導波距離は変化することになる。
【0046】
こうした主たる因子を用いて計算機による光学シミュレーションで、伝播光が減衰する様子を計算することも可能ではある。光学シミュレーションとしては、光線追跡法やFDTD法などがあるが、計算できる高屈折率透明層10の膜厚や光取り出し構造物7のサイズなど計算できる範囲は限られているため、任意の形状の光取り出し構造物7や素子構造で導波距離を必ずしも算出できるものではない。
【0047】
そこで、本発明においては、導波距離を実験で求めることとする。図8を参照しながら具体的に説明する。今、図4に示したように、支持基板9上に発光層を含む有機化合物層16、さらにその上に光取り出し構造物7を備えた高屈折率透明層10を考える。円形の発光領域51を対象として、その通電領域と非通電領域の境界線52の正面発光輝度を1と規格化する。図中矢印で示した光は高屈折率透明層10を伝播しながら、光取り出し構造物7によって空気層側に出射、或いは、吸収されていくうちに減衰し、やがて、その輝度はゼロに漸近する。その漸近した時の距離を導波距離(L)とする。
【0048】
有機EL素子を備えた表示装置においては、例えば図1に例示したような発光領域即ち副画素1,2,3が青色、緑色、赤色ごとに配置されている。例えば、各色の副画素について、導波距離を求め、青色、緑色、赤色それぞれの発光の導波距離がLB、LG、LRとなったとする。第1の画素内の赤色副画素3と、第2の画素内の青色副画素1が隣りあう(最近接する)配置である場合、にじみを抑制するには、これら副画素間の距離を、赤色副画素の発光の導波距離(LR)と青色副画素の発光の導波距離(LB)の和よりも大きくすればよい。しかしながら、係る副画素間距離を大きくとると、表示装置の解像度が低下するので、より好ましくは、赤色副画素の発光の導波距離と青色副画素の発光の導波距離の和が副画素間距離と等しい方がよい。
【0049】
尚、本発明の表示装置を駆動するための回路、配線などは特に規定するものではなく、必要な性能を得るために所望の設計を施し具備してよい。
【0050】
また、本発明の表示装置では光取り出し構造は素子内部に閉じ込められる光を外に取り出すためのものであり、該光取り出し構造上にさらにガラスキャップや板ガラスなどの封止ガラスで封止してもよい。該封止ガラス上には色度の改善のためカラーフィルタや、外光反射低減のために円偏光板を具備してもよい。
【実施例】
【0051】
以下、本発明の具体的な実施例について説明する。
【0052】
(実施例1)
実施例1として、有機EL素子が図4の断面構造を持ち、図9のように画素、副画素及び光取り出し構造物がレイアウトされた構成の表示装置を、以下に示す方法で作製した。即ち、本例の表示装置は、複数の画素を有し、各画素が複数色(青色副画素1、緑色副画素2、赤色副画素3)の副画素からなり、副画素それぞれが有機EL素子を備えている。
【0053】
本例では、先ず、ガラス基板上に、低温ポリシリコンからなるTFT駆動回路(不図示)を形成し、その上にアクリル樹脂からなる平坦化膜(不図示)を形成して支持基板9とした。次に、支持基板9上に、反射電極22として、スパッタリングによりAg合金を約150nmの膜厚で形成した。Ag合金からなる反射電極22は、可視光の波長域(λ=380nm乃至780nm)で分光反射率80%以上の高反射膜である。更にスパッタリングにより透明電極23としてITO(Indium Tin Oxide)を成膜した。この後、隔壁15としてポリイミド系樹脂をスピンコートしフォトリソグラフィによって所望の各副画素に開口部を設けた。
【0054】
この後、各有機化合物層を順次、真空蒸着法により成膜して積層した。本表示装置では各副画素1,2,3において、発光層26から反射電極22までの光学膜厚が、各発光色波長の3/4に相当するように正孔輸送層25の膜厚を変えた。青色は蛍光材料を、緑色及び赤色に関してはより高い内部量子効率が期待できる燐光材料を発光層26の発光ドーパントとして用いた。各副画素の有機化合物層のうち最も屈折率の高い層の屈折率は、青色副画素が1.86、緑色副画素が1.80、赤色副画素が1.78であった。
【0055】
次に透明電極20として、IZO(Indium Zinc Oxide)をスパッタリングにより成膜した。その後CVD法により窒化ケイ素(SiN)膜を4μmの厚さで成膜した。このSiN膜の屈折率は450nm(青色領域)で1.89、520nm(緑色領域)で1.88、620nm(赤色領域)で1.86であった。よって、いずれの副画素においても有機化合物層よりも屈折率が高かった。このSiN膜上にヘキサメチルジシラザンをスピンコートして表面を改質した後、フォトレジストのAZ1500をスピンコートし、厚さが約2.5μmの膜厚を得た。これを図9のように画素間領域上にはパターンを持たないフォトマスクであって、直径5μmのドットが画素上に配されたフォトマスクで、マスクアライナーMPA−600FAにより露光を行った。次いでAZ312MIF現像液によって現像を行いレジストパターンを得た。これを120℃で3分間のポストベークを行い、レジスト形状をリフローさせた。これを四フッ化炭素と酸素によるドライエッチによりレジストパターンごとSiNをエッチングすることで直径5μmのマイクロレンズにSiN膜を加工した。この時、有機化合物層16,17,18よりも屈折率の高い高屈折率透明層10の膜厚は1.5μm、マイクロレンズの高さは2.5μmであった。レンズピッチは7μmであった。
【0056】
このような素子構造において、導波距離を上述のように実験的に求めた。赤色副画素からの発光の様子を光学顕微鏡で観察したところ、通電領域と非通電領域の境界から離れるにつれて、輝度が低下し、最終的には光が減衰しきって視認できなくなっていることがわかった。赤色以外の緑色と青色も同様の方法で観察し、境界線からの距離を横軸、縦軸に規格化輝度をとってグラフ化したものが図10である。
【0057】
図10からわかるように、導波距離は赤色が一番長く82μm、次いで緑色が50μm、最短が青色の7μmであった。色によって導波距離が異なるのは高屈折率透明層10に用いたSiNが各色に対して異なる吸収係数を持つためである。つまり、SiNは赤色に対しては吸収を持たないが、緑色から青色と短波長になるにつれ大きな吸収を示すためである。
【0058】
図9のような画素レイアウトにおいて、例えば、画素4aに属する青色副画素1に注目すると、画素4aとは異なる画素に属する最近接の副画素は画素4bに属する緑色副画素2と赤色副画素3及び画素4cに属する緑色副画素2と画素4dに属する赤色副画素3の4つがある。
【0059】
従って、互いに異なる画素に属する副画素間で混色によるにじみが発生しないようにするためには、次のように設定する。即ち、異なる画素に含まれる青色副画素1と赤色副画素3との間の距離を青色の発光の導波距離と赤色の発光の導波距離の和である89μm以上に設定する。さらに青色副画素1と緑色副画素2との間の距離を青色の発光の導波距離と緑色の発光の導波距離の和である57μm以上に設定する。尚、表示装置の解像度は高いほうが望ましいので、異なる画素に含まれる青色と赤色の副画素間距離を89μm、青色と緑色の副画素間距離を57μmと導波距離の和と等しくとればよい。
【0060】
また、各色の副画素間距離を全て等しくしたい場合は、導波距離の和の組み合わせの中で最大である89μmを副画素間距離とした画素配置とすればよい。本実施例では、画素内及び隣り合う画素同士での副画素間距離を全て89μmとして表示装置を試作した。
【0061】
以上のように作製した表示装置のにじみ程度を確認するために、青空を背景に人物の画像を表示し皮膚などの白色系の部位の輪郭部の発光色を確認した。本実施例によって得られた表示像の人物の輪郭部にはにじみに由来する発光色の変化は見られなかった。
【0062】
また、本実施例における光取り出し効率については41%程度であった。発光強度は全視野角にわたって増加が見られた。
【0063】
(比較例1)
全面に副画素間距離を全て30μmとした以外は実施例1と同じ構成の表示装置を実施例1と同様な製造プロセスで作製した。得られた表示装置のにじみ程度を実施例1と同様にして確認したところ、表示像の人物の輪郭部にはにじみに由来する発光色の変化が見られ、青紫色のにじみが輪郭部に視認された。一方で、光取り出し効率については41%程度で実施例1と同様であり、輝度は全視野角にわたって増加が見られた。
【0064】
(実施例2)
実施例2として図2のような矩形の画素レイアウトと光取り出し構造物配置を有する以外は実施例1と同様の構成の表示装置を、実施例1と同様の方法で試作した。
【0065】
図2のような画素レイアウトにおいて、例えば、右上の画素4の赤色副画素3に注目すると、この画素とは異なる画素に属する最近接の副画素は、紙面左の画素に属する青色副画素1と紙面下の画素に属する赤色副画素3、また、不図示ではあるが紙面上の画素に属する赤色副画素の3つがある。
【0066】
矩形画素レイアウトにおいても実施例1と同様に各色の導波距離を求めたところ、導波距離は赤色が最も長く、次いで、緑色、青色と短くなっていった。最も長い導波距離を有する発光の赤色副画素3を画素の左端に配置したレイアウトでは、この赤色副画素3から見て左の画素に属する青色副画素1の発光の導波距離と赤色副画素3の発光の導波距離の和以上に画素間距離Pxをとる。これによって混色にじみが抑制される。しかしながら、この構成は、画素間距離Pxが大きくなり、表示装置の解像度の観点から好ましくない。
【0067】
そこで、最も長い導波距離を有する発光の赤色副画素3を画素4の中心におくことにより、同じ画素4に属する赤色副画素3と青色副画素1との距離と赤色副画素3と緑色副画素2との距離だけ横方向の画素間距離Pxを短縮化することができる。当該構成は表示装置の解像度の観点から好ましい。実際に赤色副画素3を画素の中心に配置するレイアウトにしたところ、画素間距離Pxを89μm未満とした場合でも、57μm以上であれば特に問題なく、にじみが観察されない表示装置が得られた。尚、Pyについては赤色副画素3同士が隣り合うため、赤色副画素3の発光の導波距離の2倍以上である178μm以上が好ましい。
【0068】
(実施例3)
レンズピッチを6μmに狭めた以外は実施例1と同じ構成の表示装置を実施例1と同様な製造方法で作製した。得られた表示装置のにじみ程度を実施例1と同様にして確認したところ、表示像の人物の輪郭部にはにじみに由来する発光色の変化は見られなかった。また、光取り出し効率については44%程度であった。輝度は全視野角にわたって増加が見られた。
【0069】
(実施例4)
レンズピッチを5μmにして隙間なく5μmのマイクロレンズを配置した以外は実施例1と同様の構成の表示装置を、フォトマスクとしてグレートーンマスクを用いた階調露光によるフォトリソグラフィを行った以外は実施例1と同様な製造方法で作製した。得られた表示装置のにじみ程度を実施例1と同様にして確認したところ、表示像の人物の輪郭部にはにじみにゆらいする発光色の変化は見られなかった。また、光取り出し効率については47%程度であった。輝度は全視野角にわたって増加が見られた。
【符号の説明】
【0070】
1:青色副画素、2:緑色副画素、3:赤色副画素、4:画素、5:副画素間領域、6:画素間領域、7:光取り出し構造物、16乃至18:有機化合物層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに異なる色を発光する複数の副画素を有する画素を複数備え、
前記副画素がそれぞれ、第1電極と、第2電極と、前記第1電極と前記第2電極との間に配置された発光層を含む有機化合物層とを有する有機EL素子を備えた表示装置であって、
前記有機EL素子の光出射側に前記有機化合物層よりも屈折率の高い高屈折率透明層を有し、
前記高屈折率透明層の光出射側に光取り出し構造物を有し、
隣り合う二つの画素に含まれる最近接の副画素間の距離が、それぞれの副画素の発光の導波距離の和以上であることを特徴とする表示装置。
【請求項2】
1画素に含まれる複数の副画素が青色を発光する副画素、赤色を発光する副画素、緑色を発光する副画素であり、
青色を発光する副画素、赤色を発光する副画素、緑色を発光する副画素のうち、最も導波距離が長い色を発光する副画素が画素の中心に配置されている請求項1に記載の表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−221687(P2012−221687A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−85398(P2011−85398)
【出願日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】