説明

表面コーティング構造物及び方法

本発明は
支持体の露出した表面を、IV型緑膿菌(P. aeruginosa)(T4P)ピリンのC末端レセプター結合タンパク質に由来するジスルフィドループを含む合成ピリン・ペプチドと接触させ、前記露出した表面に前記ピリンペプチドを結合させる工程、及び化合物を前記ピリンペプチドに共有結合的に結合させる工程により、化合物をステンレス鋼、スズ、鉄、あるいはチタニウム支持体へ共有結合的に結合させる方法に関する。また、本発明は、前記方法によって作られた支持体及びこれを使用するバイオセンサー装置に関する。また、ある金属の耐食性、付着力、硬度及び電子仕事関数を改善する方法に関する。
なし

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、IV型緑膿菌(P. aeruginosa)(T4P)ピリンペプチドを使用する物質コーティングの分野及びその適用に関する。
【背景技術】
【0002】
バクテリアIV型線毛(pili)は多くのグラム陰性細菌の宿主コロニー形成及び毒性にとって不可欠であり、また、あるグラム陽性細菌の発病の役割も果たすことがある。IV型線毛は、バクテリアの表面から伸び、生物及び非生物表面への特異的な付着を仲介する。この結合に関与する線毛結合ドメインは、タンパク質のC末端領域にある12−17のジスルフィドループ領域内にコードされ、例えば、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)IV型ピリン由来の残基128−144から構成されるジスルフィドループペプチドのような、この領域のみを含む合成ペプチドは生物及び非生物表面へ結合することが示されている。
【0003】
現在の発明者及び同僚は、ピリン誘導タンパク質ナノチューブ(PNT)が高親和性でステンレス鋼に結合することを最近示した。またこの結合は、IV型ピリンペプチド結合ドメインに対応する合成ペプチドによるPNT結合の拮抗的阻害を受けながら、C末端先端が関連することを示した。(Yu, B. et al., J. Bionanoscience, 1:73−83 (2007)。その後、現在の発明者及び同僚によって、C末端レセプター結合ドメインに由来したピリンペプチドが、ステンレス鋼、スズ、アルミニウム、チタニウム、クロム、プラスチック、ガラス、シリケート、セラミックス、及びそれらの混合物のような、非生物表面に結合された時、塗布面上のバクテリアのバイオフィルム形成を防止することができることをさらに実証した(U.S. 20080287367)。
【0004】
今回、IV型緑膿菌(P. aeruginosa)(T4P)ピリンのC末端レセプター結合タンパク質に由来するジスルフィドループを含む合成ピリンペプチドをいくつかの金属に結合させることが、金属の、表面だけの特性を著しく増強させ(つまりバイオフィルム形成と無関係に)、いくつかの金属の中で、例えば、バイオセンサーの適用に、利用することができるような態様で表面の電子特性を変更させることを発見した。
【発明の概要】
【0005】
ある態様においては、本発明は、ステンレス鋼、スズ、鉄、又はチタニウムから作られる支持体の露出表面の一以上に化合物を共有結合させる方法を含む。方法は、
i)材料の露出表面をIV型緑膿菌(P. aeruginosa)(T4P)ピリンのC末端レセプター結合タンパク質に由来するジスルフィドループ及び前記ループのN末端側又はC末端側のいずれか又は両方上に0−10、好ましくは0−5の追加的残基を含む合成ペプチドと接触させ、ピリンペプチドを露出表面に共有結合させる工程、及び
ii)ペプチドを前記支持体に結合する前又は後に、化合物をピリンペプチドに直接的に又は間接的に共有結合させる工程、を含む。前記接触させる工程が、材料の露出した粒界領域に前記化合物を優先的に局在させてよい。
【0006】
ピリンペプチドが、L−アミノ酸、D−アミノ酸、L−及びD−アミノ酸の混合物、又はレトロインバーソ(retro−inverso)(RI)形態のD−アミノ酸で作られてよい。
【0007】
好ましいT4Pピリンペプチドは、配列K/A/S/T-C-T/K/A-S/T-D/T/N-Q/V/A-D/E-E/P/A/N-Q/M/K-F/Y-I/T/R/L-P-K/N-G/T-C-S/D/T/Q/N-K/N/D/T (配列番号10)を含む。ペプチドの例としては、配列番号3、4、又は9として同定された配列を含む。
【0008】
別の好ましいT4Pピリンペプチドは、配列S/T-I-D-W-G/A-C-A/T-S-D/A-S-N-A-V/T-S/--S--G/A-T-D/A-R/Q-N/G-M/F-P/T-A/G-L/M-T/A-A-G-T/S-L/V-P-A/Q-R/E-F-A-P-S/A-E/Q-C-R (配列番号11)を含む。ペプチドの例としては、配列番号1及び2として同定された配列を含む。
【0009】
支持体が多孔性又は網状であり、コーティング工程が、ピリンペプチドを材料中の孔又は網目により形成された内側の面に結合するために実施されてよい。
【0010】
支持体に付着する化合物の例は、ポリペプチド類、オリゴサッカロイド類、脂質類、核酸類、及び小さな有機分子類を含む。
【0011】
方法の中で考えられる他の支持体金属は、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、カドミウム、オスミウム、白金、金、クロム、及び水銀、及びそれらの混合物及び合金を含む、周期表の4−6列及び9−12カラムからの遷移金属、及びメタロイド・シリコン及びメタロイド・ゲルマニウム、及びそれらの酸化物である。
【0012】
また、本明細書は、上記方法により作成された共有結合した化合物を有するステンレス鋼、スズ、鉄、又はチタニウム支持体を開示する。支持体の表面へのT4Pピリンペプチドの共有結合により、支持体が、改変された仕事関数を有する。支持体は移植可能な医療機器の一部でよく、共有結合した化合物(直接的に又は間接的に結合した)は、好ましくは、例えば骨形態形成因子のような、生物活性化合物である。あるいは、支持体は、表面結合レセプターへの検体関連リガンドの結合に応答して支持体表面にわたる、電流の変化を検出するためのバイオセンサー装置中の電流センサー部品として使用されてよい。ここで前記レセプターは、ピリン・ペプチドに直接に付けられているか、ビオチン/アビジン対又はロイシンジッパーコイルド‐コイル対(leucine−zipper coiled−coil pair)のような、高親和性結合対を介してピリン・ペプチドに間接的に付けられていることを特徴とする。
【0013】
より一般的な態様(それはガラス、ポリマー、ラテックス、シリケートを含む(下記を参照)、様々な材料へのピリン・ペプチドの高親和性結合の利点を有する)においては、本発明は、非ピリンに由来する化合物を一つの又はこれらの材料から構成される表面を有する装置へ付ける方法を含み、該方法は、そのような表面へピリン・ペプチドを付着させること、及びそのように付着させる前に又は後に、化合物をピリン・ペプチドに、直接的に又は間接的に、共有結合させることを含む。上記のように、間接の結合が高親和性結合対を介してよい。この方法により作られた、コーティングした装置も考えられる。
【0014】
より一般的に、検体検出装置は、金属、プラスチック、セラミック、ガラス、又はシリケート支持体を含む検体検出装置を含み、前記支持体は、IV型緑膿菌(P. aeruginosa)(T4P)ピリンのC末端レセプター結合タンパク質に由来するジスルフィド・ループを含む合成ペプチドにより支持体表面に付着した化合物を有し、及び化合物は共有結合で付着される。装置は支持体上の化合物に結合する検体関連分子を検出するための検出器を含む。
【0015】
また、本発明は、材料の表面硬度を増加させ、及び腐食速度を低減させるために、露出した粒界領域を持つ表面を有する、ステンレス鋼、スズ、鉄又はチタニウム金属材料を処理する方法の改善を含む。この方法は、露出した粒界領域の電子仕事関数を、0.2EFW単位以上変化させるのに、及び所定の力を有する原子間顕微鏡のチップで金属表面を打って生じるナノインデンテーションにより測定して、露出した粒界領域の硬度を20%以上増加させるのに、有効な条件下にて、材料中の露出した表面粒界領域をIV型緑膿菌(P. aeruginosa)(T4P)ピリンのC末端レセプター結合タンパク質に由来するジスルフィドループを含み、かつ前記ループのN又はC末端側のいずれか又は両方上に0−10、好ましくは0−5の追加的残基を含む、合成ピリンペプチドと接触させることを含む。
【0016】
方法の中で考えられる他の金属は、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、カドミウム、オスミウム、白金、金、クロム、及び水銀、及びそれらの混合物及び合金、及びメタロイドのシリコン及びゲルマニウム、及びそれらの酸化物を含む、周期表及びの4−6列及び9−12カラムからの遷移金属である。
【0017】
構造がステンレス鋼である場合、これをコーティングすると、表面全体にわたって流れる腐食電流を測定して、コーティングした表面の腐食速度を少なくとも30%低減するのに効果的でよい。材料が、多孔性又は網状である場合、コーティングする工程が、ピリンペプチドを材料中の孔又は網目により形成された内側の面に結合するように実施されてよい。接触工程は、ピリンペプチドを前記粒界領域に選択的に結合させるために効果的であり得、その粒界領域にて表面を優先的に保護することにより、材料表面の硬度及び腐食耐性を増強させる。
【0018】
ピリンペプチドが、L−アミノ酸、D−アミノ酸、L−及びD−アミノ酸の混合物、又はレトロインバーソ(retro−inverso)形態でのD−アミノ酸で作られてよい。
【0019】
好ましいT4Pピリンペプチドは、配列K/A/S/T-C-T/K/A-S/T-D/T/N-Q/V/A-D/E-E/P/A/N-Q/M/K-F/Y-I/T/R/L-P-K/N-G/T-C-S/D/T/Q/N-K/N/D/T (配列番号10)を含む。ペプチドの例としては、配列番号3、4、又は9として同定された配列を含む。
【0020】
別の好ましいT4Pピリンペプチドは、配列S/T-I-D-W-G/A-C-A/T-S-D/A-S-N-A-V/T-S/--S--G/A-T-D/A-R/Q-N/G-M/F-P/T-A/G-L/M-T/A-A-G-T/S-L/V-P-A/Q-R/E-F-A-P-S/A-E/Q-C-R (配列番号11)を含む。ペプチドの例としては、配列番号1及び2として同定された配列を含む。
【0021】
さらに、本発明は、IV型緑膿菌(T4P)ピリンのC末端レセプター結合タンパク質に由来したジスルフィド・ループ及びそのループのN又はC末端側のどちらか又は両方上で0−10、好ましく0−5の追加の残基を含む合成ピリン・ペプチドでガラスの外部表面をコーティングすることによる、ガラスを硬化する方法を含む。ピリン・ペプチドはアミノ酸形態を有してよく、好ましい配列は上記に言及した。
【0022】
また、本発明は、IV型緑膿菌(T4P)ピリンのC末端レセプター結合タンパク質に由来したジスルフィド・ループ及び(ii)そのループのN又はC末端側のどちらか又は両方上で0−10、好ましく0−5の追加の残基を含む合成ピリン・ペプチドで構成要素の表面をコーティングすることによって、器械中の、互いとの可動接触子にある構成要素間の摩擦を低減する方法を含む。ピリン・ペプチドはアミノ酸形態を有してよく、好ましい配列を上記に言及した。
【0023】
別の態様においては、本発明は、例えばチタニウム又はステンレス鋼構造のような、金属移植構造を含む骨インプラントを含む。前記構造の一部は、領域内に又はその領域に対して置かれるのに適し、及びこの一部は、IV型緑膿菌(T4P)ピリンのC末端レセプター結合タンパク質に由来したジスルフィド・ループを含む、及びそのループのN又はC末端側のどちらか又は両方上で0−10、好ましく0−5の追加の残基を含む、合成ピリン・ペプチド及び骨形態形成因子の複合体を含む骨形態形成ペプチドのコーティングを施される。
【0024】
関節置換移植として使用するために、コーティングを施した部分は骨の皮質の領域内に置かれるのに適しており、複合体は、ピリン・ペプチド及び骨形態形成因子の共有結合性の複合体でよく、骨形態形成因子は、RGD及び骨形態形成因子BMP2−BMP7から成る群から選択されてよい。
【0025】
歯科インプラントして使用するために、コーティングを施した部分は、上顎又は下顎の骨の中で形成されたホール内に置かれるのに適したインプラントを含んでよく、複合体は、ピリン・ペプチド及び骨形態形成因子の共有結合性の複合体でよく、骨形態形成因子は、RGD及び骨形態形成因子BMP2−BMP7から成る群から選択されてよい。
【0026】
また、例えば、本明細書にて開示される、ステントの外部表面領域に設けられる、ステンレス鋼、チタニウム、クロム支持体のような、拡張型支持体を含む血管内ステントを含む。そのステントは、IV型緑膿菌(P. aeruginosa)(T4P)ピリンのC末端レセプター結合タンパク質に由来するジスルフィド・ループを含み、かつそのループのN又はC末端側のどちらか又は両方上に0−10、好ましく0−5の追加の残基を含む、合成ピリンペプチドのコーティングを含む。ステントは、抗再狭窄化合物を含む薬物放出コーティングでさらにコーティングされてよい。
【0027】
また、別の態様においては、本発明は、対象に挿入された又は移植された医療機器に対する炎症反応を阻害する方法であって、
移植する前に、機器の露出表面を、
IV型緑膿菌(P. aeruginosa)(T4P)ピリンのC末端レセプター結合タンパク質に由来するジスルフィドループ、及び
(ii)前記ループのN末端側又はC末端側のいずれか又は両方上に0−10、好ましくは0−5の追加的残基、及び
D−アミノ酸、L−及びD−アミノ酸の混合物、又はレトロインバーソ(RI)形態でのD−アミノ酸から構成されること、
を含む合成ピリンペプチドとコーティングすることを含む前記方法を含む。1つの好ましい実施態様においては、医療機器のコーティングを施した部分はステンレス鋼、スズ、鉄又はチタニウム表面である。
【0028】
関連する態様においては、本発明は、身体に移植される時、炎症反応細胞にさらされる表面を有する医療機器であって、そのような表面が、
(i)IV型緑膿菌(P. aeruginosa)(T4P)ピリンのC末端レセプター結合タンパク質に由来するジスルフィドループ、
(ii)前記ループのN末端又はC末端のいずれか又は両方上に0−10好ましくは0−5の追加的残基、及び
(iii)D−アミノ酸、L−及びD−アミノ酸の混合物、又はレトロインバーソ(RI)形態でのD−アミノ酸の構成、
を有する合成ピリンペプチドとコーティングすることを特徴とする前記機器を含む。露出表面はステンレス鋼、スズ、鉄又はチタニウム表面でよい。
【0029】
また、さらなる態様においては、本発明は、
(i)ステンレス鋼、スズ、鉄、チタニウム、クロム、プラスチック、ガラス、シリケート、セラミックス、及びその混合物から成る群から選択された材料から作られた固体担体を、IV型緑膿菌(P. aeruginosa)(T4P)ピリンのC末端レセプター結合タンパク質に由来するジスルフィドルを含む、及び前記ループのN末端又はC末端のいずれか又は両方上に0−10好ましくは0−5の追加的残基を含む、合成ピリン・ペプチドに、切断リンカーを介して、目的ポリペプチドのN又はC末端にて、結合された目的ポリペプチドを含む融合ポリペプチドを含む組成物と接触させる工程、
(ii)、この接触させる工程により、固体支持体への融合タンパク質を付ける工程、
(iii)、固体担体を洗浄し、組成物中の非結合成分を除去する工程、
(iv)、融合タンパク質中のリンカーを切断するのに効果的な薬剤で、洗浄した固体担体を処理し、それにより、固体担体から無傷の形態の目的のポリペプチドを放出する工程、及び
(v)放出された目的のポリペプチドを固体担体から分離させる工程、
により、目的のポリペプチドを得る方法を含む。ピリン・ペプチドはアミノ酸形態を有してよく、好ましい配列は、上記に言及した。
【0030】
融合タンパク質中のリンカーは、選択されたタンパク分解酵素によってリンカーを切断しやすくするアミノ酸配列を含んでよく、工程(iv)の処理は選択されたタンパク分解酵素の存在下にて固体担体をインキュベートすることを含んでよい。
【0031】
次の発明の詳細な説明が添付した図面と共に読まれる時、これら及び本発明の他の目的及び特徴はより完全に明白になるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1A−1Dは、多くのバクテリアの属/種/株の中のIV型緑膿菌(P. aeruginosa)(T4P)ピリンのC末端レセプター結合ドメインの配列を示す。
【0033】
図2Aと2Bは、コーティングがないステンレス鋼又はK122−4(2A)及びPAO(2B)ピリン・ペプチドでコーティングしたステンレス鋼上でなされた付着力測定を示すプロットである。
【0034】
図3Aと3Bは、コーティングがないステンレス鋼及びK122−4(3A)及びPAK(3B)ピリン・ペプチドでコーティングしたステンレス鋼での電子仕事関数(EWF)を示すプロットである。
【0035】
図4は、2か月の期間にわたって得られた、コーティングした及びコーティングがない、ステンレス鋼を用いたEWF測定を示す。
【0036】
図5は、800nM荷重下にて、ペプチドをコーティングした及びコーティングしていない、ステンレス鋼の力‐変位曲線を示す。
【0037】
図6Aと6Bは、20μN(6A)及び50μN(6B)荷重で行なわれたナノ‐インデンテーション試験の結果を示す。
【0038】
図7Aと7Bは、ペプチドコーティング(7A中のPAO及び7B中のK122−4)及びコーティングがない、ステンレス鋼での荷重を増加させながらの変位測定のプロットである。
【0039】
図8A及び8Bは、コーティングがない(8A)及びT4P17ピリン・ペプチドでコーティングを施した(8B)ステンレス鋼支持体及びAFMチップの間の電流のコンダクタンスAFM表面マップである.
【0040】
図9A−9Bは、コーティングした及びコーティングがないステンレス表面の腐食特性の測定であり、ピリンをコーティングしたステンレス鋼が、コーティングがないステンレス鋼より著しく低い腐食電流(Icorr)を有すること(9A)、並びにピリンコーティング及びコーティングがないステンレス鋼は、著しく異なる腐食電位(Ecorr)(9B)がないことを示す。
【0041】
図10Aと10Bは、ピリンをコーティングしたステンレス鋼がコーティングがないステンレス鋼より著しく低い腐食速度(10A)及びコーティングがないステンレス鋼と比較して、分極に対する著しく高い耐性(10B)を有することを示すプロットである。
【0042】
図11は、ピリン・ペプチドが別のペプチドに、この場合、ロイシンジッパー型Eコイル又はE/Kコイルドコイルに接合する場合、金属表面へ結合するピリン・ペプチドの腐食阻害作用を逆になりえることを示す。
【0043】
図12A−12Cは、コーティングがないか(12A)、ピリン・ペプチドでコーティングしたか(12B)、又はピリンに接合するコイル‐コイル二重螺旋を有するピリン・ペプチドでコーティングしたか、どちらかであるステンレス鋼サンプル上の腐食の視覚的な効果を示す写真である。
【0044】
図13は、増加する量の外因性ペプチドを使用する競合結合測定法のステンレス鋼表面から結合ピリン・ペプチドが置き換えられないことを示す。
【0045】
図14はコーティングがない及びK−122−4ピリン・ペプチドコーティング、ステンレス鋼サンプルのXPSプロットである。
【0046】
図15Aと15Bは、LとD形態の両方又はピリン・ペプチドでコーティングした、ステンレス鋼サンプル上の付着力測定(15A)及びピリン・ペプチドの同じL及びD形態でコーティングしたステンレス鋼サンプル上のEWF力測定(15B)を示す。
【0047】
図16Aと16Bは、ピリン・ペプチド(D形態)がステンレス鋼ステント(16A)及びガラス表面(16B)にしっかりと結合する能力を実証する。
【0048】
図17Aと17Bは、ステンレス鋼サンプルに結合したLアミノ酸及びD−アミノ酸ピリンの中でプロテアーゼ消化に対する相対的抵抗性を示す棒グラフである。
【0049】
図18Aと18Bは、本発明の1つの実施態様として構築されたバイオセンサー装置の操作を示す略図である。
【0050】
図19は、ピリン・ペプチドを介して、検体を結合する薬剤Rがバイオセンサー表面に直接に付けられたバイオセンサーにおける検体を結合する工程を例示する。
【0051】
図20は、検体を結合する薬剤Rが、ピリン・ペプチド・コイルド‐コイル複合体を介して、バイオセンサー表面に付けられたバイオセンサーにおける検体を結合する工程を例示する。
【0052】
図21は本発明のバイオセンサーの中で異なる検出構成配置を示す。
【0053】
図22Aと22Bは、レセプターに結合する検体を結合する前に及び後に、バイオセンサー装置に記録されたサイクリックボルタンメトリー・プロットであり、22Bは、図22Aの中の長方形パネルの拡大である。
【0054】
図23A及び23のBは、本発明のより一般的な実施態様によって構築された検体検出装置を示す。
【0055】
図24A−24Dは、ステンレス鋼(24A)、冠状動脈のステント(24B)、フォーリー(Foley)(ラテックス)カテーテル(24C)及び中心静脈の(シリコーン)(24D)カテーテルにT4P17ピリン・ペプチドが結合することを示す棒グラフである。
【0056】
図25Aと25Bは、コーティングがない及びピリンコーティングした、チタニウム又はステンレス鋼表面にPBMC免疫学的応答について、Dピリン・ペプチド・コーティングの影響を示すウェスタンブロット(25A)と棒グラフのプロット(25B)である。
【0057】
図26A及び26Bは、コーティングがない及びピリンコーティングした、チタニウム又はステンレス鋼表面にヒトマクロファージ免疫学的応答について、Dピリン・ペプチド・コーティングの影響を示すウェスタンブロット(26A)と棒グラフのプロット(26B)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0058】
1.定義
「線毛(pilus)」は多くのバクテリアの表面で見つけられた細い付属器官である。
【0059】
ピリンは線毛のタンパク質サブユニットの一般名である。
【0060】
「IV型緑膿菌(P. aeruginosa)(T4P)ピリン」は、生物又は非生物表面に線毛の遠位末端を付着させてバクテリアを前へ引くために線毛を収縮することにより、運動性の力を作りだすために緑膿菌バクテリアが使用する線毛構造をいう。IV型緑膿菌(P. aeruginosa)(T4P)線毛すべては、酸化体の中で、12−残基ループ又は17−残基ループのいずれかに分類することができるジスルフィド・ループを含むC末端レセプター結合領域を含む。図1は、C末端ピリン領域が配列された多くのバクテリアの種の中のジスルフィド・ループ領域を示す。
【0061】
「IV型緑膿菌(P. aeruginosa)(T4P)ピリンのC末端レセプター結合タンパク質に由来したジスルフィド・ループ」は、そのアミノ酸配列が例えば緑膿菌(Pseudomonas aeroginosa)、SEQ ID NO:4によって同定されたPAK菌株のような公知のバクテリアジスルフィドループのアミノ酸配列に相当するか、或いは4つの緑膿菌の菌株PAK、PAO、PA82935及びK−122−4のジスルフィド・ループ配列の複合体として形成されるSEQ ID NO:10に含まれる配列のうちの1つのような、2つ以上の異なるバクテリアの種及び/又は菌株の間のジスルフィドループ配列中に一以上のアミノ酸変異を置換として形成する配列のうちのひとつのような、既知のバクテリアのジスルフィド・ループ・アミノ酸配列にそのアミノ酸配列が相当するジスルフィド・ループをいう。
【0062】
「合成ペプチド」は、固相又は組み換えのペプチド合成によって形成されるペプチドをいう。
【0063】
「ステンレス鋼、スズ、鉄又はチタニウムから作られた支持体」は、ステンレス鋼、スズ、鉄又はチタニウム又はこれらの金属の2つ以上の混合物からつくられた金属支持体、又は、ステンレス鋼、スズ、鉄又はチタニウム又はその混合物でコーティングした金属又は非金属支持体を意味する。支持体は、他の金属、特にコバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、カドミウム、オスミウム、白金、金、クロム(ステンレス鋼の中にある)、及び水銀を含む周期表の列4−6及び9−12カラムからの遷移金属、の小さな割合を含んでよい。
【0064】
「ステンレス鋼、スズ、鉄又はチタニウムから作られた金属支持体へのT4Pピリン・ペプチドの共有結合」は、ピリン・ペプチドが、(i)遊離ピリン・ペプチドにより置換に抵抗する、及び(ii)金属の表面e軌道の変化を示す改変したエレクトロン仕事関数(EWF)を有する結合を通じて金属表面へ付けられていることを意味する。また、そのような金属支持体へのピリン・ペプチドの共有結合は、(i)表面の付着力の変化、(ii)表面硬度の変化、(iii)コンダクタンスの変化、及び/又は(iv)X線光電子分光法(XPS)で見られた結合するエネルギーのピークの変化が特徴であってもよい。
【0065】
「共有結合した化合物を有する金属支持体」は、支持体表面に共有結合で結合するT4Pピリンペプチド及びピリンペプチドに直接に又は間接的に共有結合で結合するピリンタンパク質のもう一つの部分以外の化合物を有するステンレス鋼、スズ、鉄又はチタニウム支持体を意味する。化合物がコイルド‐コイル・ロイシンジッパー・ペア、ビオチン・アビジン・ペアなどのような高親和性結合ペアによってピリン・ペプチドに結合される場合、化合物は間接的にT4Pピリン・ペプチドに共有結合で結合され、ここで、ペアのメンバーのうちの1つがピリン・ペプチドに共有結合で結合され、及び他方は化合物に共有結合で結合される。
【0066】
金属支持体の「露出した粒界領域」は、粒界が生じる支持体の(すなわち支持体を形成する金属原子の2つの多結晶の配向の境界で)外面領域をいう。
【0067】
「露出した粒界領域でのピリンペプチドの優先的な局在化」は、ピリンペプチド、及びピリンペプチドに共有結合する任意の化合物が、粒界間の露出した領域より大きな分子濃度及び/又は粒界領域での表面コーティングの大きな厚さを有することを意味する。
【実施例】
【0068】
II.ピリンペプチド
図1A−1Dは、シーケンス情報が利用可能な様々なバクテリアの属/種/株のジスルフィドループを含むC末端ピリンペプチド領域に関する配列を示す。所望の配列はジスルフィドループ配列(システイン残基(C)で始まり及び終了し、いくつかの場合、ループの一方の側に5までもしくはそれ以上の残基を含む)を含む。一文字の英字アミノ酸指示は標準規則によるものである。ペプチドの正常な酸化体では、ペプチドは、システイン残基間のジスルフィド架橋を含んでいる。
【0069】
本発明の中で用いる合成ペプチドは、図1A−1Dの中で示される配列の1つ以上を含むか、これらに由来する。配列が、示された配列のうちの一つを含む場合、配列はそのジスルフィド・ループを単独で含んでよく、又はそのループは、ループのN末端又はC末端側のどちらか又は両方にて、10まで、好ましくは5未満の残基をさらに含んでよく、ここで、追加の非ループ残基が、典型的には隣接した非ループ配列の1以上を含むか、またはこれらに由来する。より一般的に、ループ及び非ループ領域両方の配列は、配列、好ましくは、ジスルフィド・ループ中に同じ数又はほとんど同じ数の残基を有する配列、を整列させることによる2つ以上の配列に由来してよい。例えば、図1Aの中で、緑膿菌(P. aeruginosa)株PAO(配列番号:3)、PAK(配列番号:4)、PA82935(配列番号:7)及びK122−4(配列番号:9)に対応する4ペプチドは、14量体のジスルフィド・ループを含む。図1Aの中の4つの緑膿菌株からのジスルフィド・ループ配列を整列させることによって、組み合わせた配列K/A/S/T−C−T/K/A−S/T−D/T/N−Q/V/A−D/E−E/IP/A/N−Q/M/K−F/Y−I/T/R/L−P−K/N−G/T−−C−S/D/T/Q/N−K/N/D/T(配列番号: 10)が明らかになる。この17の残基ペプチド(また、総称的にT4P17と呼ぶ)は14のジスルフィド・ループ残基、ひとつの上流(N末端側)非ループ残基及び2つの下流非ループ残基を含む。この配列内の配列の例は、配列番号:10に由来される実際の4つの異なる配列、つまりPAK(配列番号: 3)、PAO(配列番号: 4)、PA82935(配列番号: 7)、及びK−122−4(配列番号: 9)に対応する配列を含む。
【0070】
別の例は、2つの緑膿菌株G7−09(配列番号:1)及びPA110594(配列番号:2)はコンポジットシーケンスS/T−I−D−W−G/A−C−A/T−S−D/A−S−N−A−V/T−S/−−S−−G/A−T−D/A−R/Q−N/G−M/F−P/T−A/G−L/M−T/A−A−G−T/S−L/V−P−A/Q−R/E−F−A−P−S/A−E/Q−C−R(配列番号:21)を形成する。
【0071】
いったんピリンペプチド配列が選択されると、標準組み換え又は固相合成により合成され得る。例えば、E−コイルPAK(128−144)oxは、pRLD−Eプラスミドから組み換え的に発現され、ここで、PAK(128−144)oxDNA配列が合成オリゴヌクレオチドを利用するE−コイルを用いてインフレームでスプラシングされ、既知のテクニック(例えば、 Giltner et al., Mol. Microbiology (2006) 59(4):1083及び本明細書に引用されるレファレンスを参照願いたい)に従って大腸菌BL−21で発現された。発現されたペプチドは、金属親和性クロマトグラフィーにより精製され、純度及びジスルフィド架橋の構成は、質量分析とN末端タンパク質シーケンシングによって確認された。
【0072】
ある実施態様においては、本発明で使用されるピリン・ペプチドは、Lアミノ酸、つまり天然L−異性体形態を有するアミノ酸)から作られる。すべてのLアミノ酸から構成されるピリン・ペプチドは、従来の組み換え及び固相合成法の両方によって作ることができる。
【0073】
別の実施態様においては、ピリン・ペプチドは、D−アミノ酸又はD−及びL−アミノ酸の混合物から構成される。ピリン・ペプチドにD−アミノ酸を含む1つの目的は、ペプチドがさらされるかもしれない1つ以上のプロテアーゼ酵素によるタンパク質分解に対するペプチドの耐性を増加させることである。例えば、シュードモナス(Pseuodmonas)バクテリアは、ペプチド切断において、エラスターゼ、メタロプロテアーゼ、及びリジン及び/又はアルギニン残基を要求又は標的にする、古典的トリプシン様セリンプロテアーゼを含むプロテアーゼのコレクションがある。つまり、例えば、K122−4ピリン・ペプチド中のK136及びK140にてD−リジンを含むようにピリン・ペプチドを合成され得る。好ましくは、ペプチドをできるだけ多くのプロテアーゼに対して耐性にさせる場合、ピリン・ペプチドは完全にD−アミノ酸から形成されるはずだ。すべてD−アミノ酸又はDとLアミノ酸の混合物から構成されるピリン・ペプチドは、合成において、活性化されたD又はL型アミノ酸試薬を用いる従来の固相法によって作ることができる。(例えば、Guichard, G., et al., Proc. Nat. Acad. Sci. USA Vol. 91, pp. 9765−9769, 1994年10月を参照。)
【0074】
別の実施態様では、ピリン・ペプチドは、いわゆるレトロインバーソ(RI)ピリン・ペプチドを生産するために、逆の配列の方向に(すなわち、カルボキシ末端からアミン末端方向へ)合成されたD−アミノ酸からできている。またレトロインバーソ(RI)形態ピリンペプチドは、プロテアーゼに対する一層大きな耐性を有するという長所を持ち、ピリン塗装物がプロテアーゼにさらされるか(例えば生物学的なセッティングの中で)、細菌増殖にさらされる環境において、本明細書に記載の適用において有利な効果を有する。RI形態ペプチドを合成する方法は、Fletcher, M.D. and Campbell, M.M., Partially Modified Retro−Inverso Peptides: Development, Synthesis, and Conformational Behavior, Chem Rev, 1998, 98:763−795の中で、例えば詳述される。それは引用によって本明細書に組込まれる。
【0075】
III.金属表面の処理
ある態様においては、本発明は、材料の腐食の速度を低減するために、露出した粒界領域を有する表面があるステンレス鋼、スズ、鉄又はチタニウム金属材料を処理するための改善された方法を含む。方法は、別々に又はパッシベーションのような多くの他の耐食方法のうちの1つと組み合わせて使用されてもよい。金属材料は、粒界領域を有する単一の露出面や複数の処理される外部表面を有し得、又は材料の外部表面からアクセス可能な空隙又は内部の網目を有してよい。理解されるように、この方法は、例えば、酸化雰囲気中で、又は塩基性か酸性の液体のような腐食性液体との接触によって、化学腐蝕にさらされるあらゆる、ステンレス鋼、スズ、鉄、又はチタニウム金属材料を処理するいずれの場合にも適している。
【0076】
方法を実行する際に、混入物質を除去するために、金属材料を最初に例えば、エタノール浴の中で1回以上洗浄してよい。その後、材料を、共有結合でピリンを材料の露出面に結合するのに効果的な条件の下にて、ピリンの溶液と接触させる。典型的な処理方法では、材料を、ほぼ中性のpH(例えばpH7)にて、水性の緩衝液(例えばリン酸緩衝生理食塩水)中、2μg/mLと50μg/mLの間、例えば10μg/mL、のピリンペプチド濃度にて、ピリン・ペプチドの溶液中に放置し、ピリン・ペプチドの適切なコーティングが生ずるまで、例えば5−120分間、溶液と接触させる。
【0077】
あるいは、コーティングされる材料をピリン溶液で吹きかけ、所望の接触時間(例えば5−120分)にわたって、高湿環境中でスプレーされた溶液と接触させてよい。
【0078】
別の実施態様では、ピリン・コーティングは、例えば、ミクロファブリケーション操作において、又は材料上の露出した粒界領域にペプチドを選択的に塗布するために、選択された金属表面に塗られる。この実施態様では、ペプチドの溶液は、エリアに特異的な方法で(例えばインクジェット・プリンターなどによって)材料の露出面に供給される。
【0079】
IIIA.処理方法及び金属表面特性の変更
このセクションは、増加した耐食性に加えて、その耐食性を増強するために金属表面を処理するための典型的な方法、及び次のことを実施する発明をサポートするために行われた研究について記述する。
(i)処理した表面の低減した付着力、
(ii)処理した表面の改変した電子仕事関数、
(iii)処理した表面の増加した硬度、
(iv)低減したコンダクタンス、及び
(v)少なくとも2か月の期間にわたるコーティング安定性。
【0080】
試料調製 厚さ1mmの商用銘柄304 2B継目板(20ゲージ)ステンレス鋼板を1cmx1cmの寸法を有するサンプルへカットした。サンプルを空気中1時間1140℃で焼き戻し、空気中で冷却した。表面を120、240、320、400、600及び800#グリットの研磨紙を使用して、磨き、その後、1200#グリットの研磨紙で最終磨きを行った。
【0081】
1cmx1cmx1cmの寸法を有するアルミニウムとステンレス鋼のサンプルは以前に記載された磨きプロトコルを使用して磨かれた。これらのサンプルのどちらも、みがきに先立って焼き戻されなかった。
【0082】
ペプチド又はモノマーの線毛でサンプルをコーティングする工程 ステンレス鋼とアルミニウムのサンプルを商業用の皿洗い用石鹸を使用して1分間洗浄し、その後、蒸留水ですすいだ。その後、サンプルを15分間穏やかな撹拌で95%のエタノールに浸し、蒸留水ですすぎ、1分間試薬用アセトン中へ浸した。サンプルを蒸留水で5回すすぎ、風乾させた。サンプルをペプチド又はモノマーの線毛の10μg/mLを含むリン酸緩衝生理食塩水(PBS)溶液に浸し、穏やかな撹拌で1時間室温(RT)でインキュベートした。溶液を除去し、サンプルを蒸留水で6回洗い、風乾させた。
【0083】
炭素鋼サンプルを水にさらされた時に生じる迅速な空気腐食を防ぐために、アセトン洗浄ステップに続き、100%のメタノールですすぎ、100%のメタノールの中で直ちに浸した以外は、上記に記述されたプロトコールを使用して、きれいにした。ペプチドを100%のメタノールに溶解し、最終濃度10μg/mLを炭素鋼サンプルを浸すために使用した。サンプルを穏やかな撹拌で1時間RTにてインキュベートした。サンプルを100%メタノールで6回洗浄し、風乾させた。
【0084】
付着力測定 50−70nmのチップの丸みを有する標準AuコートAFM窒化ケイ素チップとペプチドコーティング面の間の付着力を原子間力顕微鏡(AFM)を使用して測定した。AFMチップとコート面の間の付着力を決定するために、AFMを「コンタクト」モードで使用した。チップを表面に近付け、接触させ、チップが表面から引き離される時、カンチレバーのデフレクション(deflection)を測定した。デフレクションの全量(それは付着力を反映する)を、レーザー光線によって検知した。カンチレバーのばね定数が知られている場合、付着力は、ビーム偏向から定量的に決定することができる。この研究では、カンチレバーばね定数は0.06N/mだった。各実験については、20と50の間で、付着力測定は1つのサンプル当たり得られた。
【0085】
K122−4又はPAOピリン・ペプチドのいずれかでコーティングしたステンレス鋼サンプルを用いた付着研究の結果を図2A及び2Bそれぞれ中でプロットする。図2Aで見られるように、付着力が約40−75nNの間で、平均約60nNで集団となった、コーティングがされないサンプルに比較して、約5−40nN(ナノニュートン(nanoNewton))の間の範囲の中で、平均約20nNで、コーティングされた金属の付着力は、集団となった。同様の結果はPAOピリン・コーティングで得られた。付着力が電子の反射活性、例えばファンデワールス相互作用、であるので、ペプチドをコーティングすることが金属表面エレクトロン層を覆う役目をすることが結論付けられる。
【0086】
ペプチドをコーティングしたアルミニウム板上の同様の付着測定は、コーティングした及びコーティングしていない、プレート間の接着力の差を実質的に示さなかった。
【0087】
仕事関数測定 コーティングした及びコーティングしていない、ステンレス鋼サンプルの電子仕事関数(EWF)をSKP370 走査型ケルビンプローブ(Scanning Kelvin Probe)で従来通りに測定した。方法は振動するキャパシタンスプローブを使用して操作され、掃引バッキングポテンシャル(swept backing potential)を通して、仕事関数の差はスキャニングプローブリファレンスチップとサンプル表面の間で測定される。調べられたサンプルは、PAKでピリン・ペプチドをコーティングしたサンプルも試験された以外は、付着試験の中で使用されるものに似ていた。
【0088】
研究の結果はコーティングされないサンプル及びK122−4ピリン・ペプチドコーティングサンプルについて図3Aの中でプロットされ、コーティングされないサンプル及びPAO−及びPAKピリン・ペプチドコーティングサンプルについて図3Bの中でプロットした。3つのコーティングすべてについては、ピリン・ペプチド・コーティングは少なくとも約0.5eVの差で、最終値約5eVまで、表面のEWFを上げた。
【0089】
ペプチドコーティングアルミニウム板上の同様のEWF測定は、実質的にはコーティング及び未コーティングプレート間のEWFの差を示さなかった。
【0090】
ペプチド・コーティングの安定性 図4は、コーティングの後に2か月の期間にわたって得られたK122−4ピリンペプチドコーティングサンプル上の測定の結果を示す。未コーティングのスライドに対して、コーティングサンプルのより大きなEFWは、2か月の試験期間にわたって観察され、少なくとも2か月のコーティング安定性を示した。
【0091】
ナノインデンテーション/硬度A トリボスコープ(triboscope)(Hysitron、ミネアポリス、アメリカ)は、ペプチドコーティングを施したサンプルの機械的性質の変化を検査するために使用された。トリボスコープ(triboscope)はナノメカニカルなプローブ及びAFMの組合せである。プローブ(ダイヤモンドのピラミッド形のビッカース(Vickers)圧子)は、100nNの荷重感度及び0.2nmの変位分解能を伴う150nmの名目上の半径を有する。ナノインデンテーション、力と変位の曲線は各インデンテーションについて得られ、サンプルの表面へのチップの全深さ変位は、このカーブから得られた。ナノインデンテーションテストは、50〜800μNの荷重を用いて行なわれた。5つの荷重‐変位曲線が各荷重について得られた。
【0092】
50〜800μNの間の荷重範囲の下で、ペプチドコーティング(暗い)、及びペプチド未コーティング(明るい)ステンレス鋼の荷重‐変位曲線を図5に示す。800μN荷重の全変位はグラフの上に示され、コーティングスライドは範囲45−55nmあり、未コーティングスライドは約90−95nmの間にある。このテストに基づいて、コーティングスライドは、未コーティングスライドの硬度のほぼ2倍を有する。より一般的に、コーティングはステンレス鋼、スズ、鉄、又はチタニウムの金属表面の硬度を少なくとも約20%、好ましくは少なくとも約30%、及び50%以上まで増加させるのに効果的である。
【0093】
図6Aと6Bは、コーティング及び未コーティングスライドについて、20μN(6A)及び50μN(6B)で作られたナノインデンテーション有する変位をプロットする。コーティングが、未コーティングスライドより約20%−100%大きい硬度を持っていたことは、図5からのデータと一致している。
【0094】
PAOコーティング(7A)及びK122−4コーティングについて、50−800μN(7A)及び50−400μN(7B)の荷重範囲にわたり、同じタイプの試験を図7A及び7B中でプロットし、実質的に、同じ結果を伴う。両方の場合では、ピリン・ペプチドコーティングは、金属試料の表面硬度を約2倍にした。
【0095】
ペプチドコーティングアルミニウム板の同様のナノインデンテーションテストは、コーティング及び未コーティングのプレート間で実質的には表面硬度の変化を示さなかった。
【0096】
増加したコンダクタンス コンダクタンスは、材料が電流を導く能力を有することの尺度である。表面コンダクタンスを測定するための1つの標準分析法は、指定された低電圧用の電位のバイアスの下で表面上の指定された位置からAFMチップまで流れる電流を測定するために原子間力顕微鏡(AFM)を使用する。AFMは、それぞれ、未コーティング及びコーティングピリンステンレスプレートについて、図8A及び8Bにおいて、異なる濃淡のレベルによって表わされて、特異的な色として表面とチップの間の電流(pA)を定量的に表示する。一般に、濃色から淡色への色調の変化は大量から小量への電流(28.0〜24.5pA間)の変化を示す。2つの図から、図8A中の未コーティングステンレス鋼サンプルの表面領域が、サンプル表面にわたってかなり変化し得ることが観察され、比較的高い電流を示す濃い色調を有し、一方、図8B中のピリンコーティングサンプル表面領域は著しく低いコンダクタンスで、実質的にコンダクタンス・プロファイルが均一である。ピリンコーティング材料中で実質的により高い金属仕事関数(表面電子を抽出するために必要な仕事関数の尺度)を示す。この結果は、図3Aと3BからのEWFデータと一致する。
【0097】
耐食性 材料表面中の腐食に対する耐性又は腐食感受性の調査に利用可能な多くの方法がある。1つの方法は、固定電位で金属板をわたって流れる電流を測定することである。測定された電流は、酸化還元反応に伴い往復する表面電子を反映し、高い電流は腐食の大きなポテンシャルを示す。図9A中のプロットは、K−122−4ピリン・ペプチドでコーティングされ又はコーティングされていないで、上記のように調製された304の2B継目板(20ゲージ)ステンレス鋼板について測定した電流(Icorr)を示す。結果は、コーティング板について、著しくより低いIcorrを示した。これはより大きな耐食性を示す。
【0098】
上記の試験で観察されたIcorrの差が、電流が金属表面を横切って最初に流れ始めるポテンシャル(Ecorr)と関係があるかどうかが尋ねられるかもしれない。この質問は、金属中の電流が最初に流れ始めるポテンシャル(Ecorr)を見ることにより試験された。図9Bの中で示される試験の結果は、図9Aで見られたIcorr値の差が2つのサンプル間の電位レスポンスの差によらないことを示して、コーティング又は未コーティング金属試料が同様のEcorr値を持っていることを示す。
【0099】
K−122−4コーティング及び未コーティングサンプルについてミリ(mill)(ミリインチ(milliinch))/年(year)(mpy)で測定された、腐食速度測定を図10A中でプロットした。結果は図9Aで見られたIcorrの差と一致している。特に、平均速度が比較される場合、ピリン・ペプチド・コーティングは腐食速度を3倍以上に低減するように見える。
【0100】
腐食モニタリングで別の広く用いられる方法は、自由腐食電位にて電位電流密度曲線の傾きとして規定される、分極抵抗であり、既知の数学的関係によって腐食電流と関係がありうる抵抗性値Rpをもたらす。図10Bは、コーティング及び未コーティングステンレス鋼値に対するRp値をプロットし、ペプチドコーティングが耐食性の尺度としてのRpを著しく増大することを示す。
【0101】
興味深いことには、ピリン・ペプチドが強い双極子及び/又は高い電荷密度を有する別のペプチドに結合する場合(この場合、ロイシンジッパー型Eコイル、又はそれに結合した同じEコイル、Eコイル/Kコイルペア中の反対に帯電したKコイル)、腐食の防止におけるピリン・ペプチドの影響は逆になり得る。図11で見られるように、未コーティングステンレス鋼サンプルでの腐食速度は、ピリンE又はE/Kコイル中に結合ピリンを有するサンプルより実質的に低い。
【0102】
上記に議論された様々なステンレス鋼サンプルに対する腐食試験法の視覚的な影響は、図12A−12Cで見られる。この試験では、サンプルはピリン・ペプチド未コーティング(12B)又はピリン・ペプチド(12A)コーティングいずれか又はE/Kコイルドコイル・ペアに結合したピリン・ペプチドであった。各場合では、サンプルは薄い食塩水中ですでに記載された腐食試験法を行った。未コーティングプレートと比較して、ピリンコーティング板は表面の腐食をほとんど示さず、その一方でピリン結合コーティングは、腐食を著しく増強するようだ。
【0103】
手短にいえば、ステンレス鋼、スズ、鉄、又はチタニウムのような金属を、IV型緑膿菌(T4P)ピリンのC末端レセプター結合タンパク質に由来したジスルフィド・ループを含む、及び前記ループのN又はC末端側のどちらか又は両方上の0−10、好ましくは、0−5の追加の残基を含む、合成ピリン・ペプチドでコーティングすることは、金属表面の硬度及び耐食性両方を増加するのに効果的である。増加した耐食性は、例えば、0.2EFWユニット以上で金属表面の電子仕事関数を増加、並びに上述のように、Icorr、腐食速度及びRp値など、変化によって証拠づけられ、増加した硬度は、一定の力を有する原子間力顕微鏡のチップで金属表面を押し込んで、つくられた、20%以上低減されたナノインデンテーションにより証拠づけられる。
【0104】
方法の中で意図される他の金属は、周期表の列4−6及び9−12カラム由来の遷移金属であって、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、カドミウム、オスミウム、白金、金、及び水銀、及びそれらの混合物及び合金、及びメタロイドのシリコン及びゲルマニウム、及びそれらの酸化物を含む。
【0105】
IIIB.処理された金属へピリン・ペプチドの共有結合の追加的証拠
コーティング金属の改変された電子仕事関数及び増強された耐浸蝕性は、ピリン・ペプチドがコーティング表面の電子特性を変化させたことを示し、金属の自由電子軌道を変更させるペプチド及び金属の間の共有結合の形成を示唆する。この発見の追加的サポートは、このサブセクションの中で報告されるペプチド置換アッセイ及びX線光電子分光法(XPS)研究からもたらされる。
【0106】
ペプチド/線毛置換アッセイ 化合物と支持体の間の共有結合の相互作用のひとつの標識は、複合体が溶質の形態にある中、化合物の存在下にてインキュベートされる場合に、化合物が支持体から脱離できないことである。ここで、外来性のピリン・ペプチドがステンレス鋼表面に結合されたピリン・ペプチドを離脱させる能力を試験した。すでに記載したように、厚さ1mmの商用銘柄304 2B継目板(20ゲージ)ステンレス鋼板をきれいにした。これらの板は焼き戻しされなかったし磨かれなかった。板を96ウェルSchleicher and Schuell Minifold TM System (Mandel Scientific)の中へ集めた。ビオチン化PAKペプチド又はビオチン化精製線毛の10μg/mLを含む50マイクロリットルの溶液をウェル(5つの複製)に加え、マニホールドを穏やかな撹拌で1時間RTでインキュベートした。ウェルを1xPBSで6回洗浄した。ラベル化していないPAKペプチドを、量を増やしながら(0〜10μg/mL)、複製ウェルに加え、鋼マニホールドを穏やかな撹拌でRTにて1時間インキュベートした。その後、ウェルをPBSで6回洗浄した。結合ビオチン化ペプチド又は線毛の置換をストレプトアビジン・ホースラッディシュペルオキシダーゼ(streptavidin−horseradish peroxidase)(HRP)を使用して評価した。Strepavidin−HRP(シグマ)を1/500に希釈し、100μLを各ウェルに加え、マニホールドをRTで1時間インキュベートした。150マイクロリットルのデベロッピング緩衝液(developing buffer)(1mM2,2’−Azino−bis−(3−ethylbenzthiazoline−6−sulfonic acid) diammonium salt(ABTS)(シグマ)及び0.03%(v/v)過酸化水素含有0.01Mクエン酸ナトリウム緩衝液pH4.2)を各ウェル加えた。マニホールドは穏やかな撹拌で10分間RTでインキュベートした。反応溶液を96ウェル平底マイクロタイタープレート(コーニング)に移し、405nmの吸光度をFLUOstar OPTIMAプレートレーダー(BMG LABTECH)を使用して測定した。
【0107】
図13にプロットされたデータから見られるように、可溶性ピリン・ペプチドの比較的高濃度にさえ、金属表面による結合ピリン・ペプチドの消失は測定できず、結合ピリン・ペプチドが非結合ペプチドと釣り合っていることを実証し、ペプチドと金属表面間の共有結合を示す。金属表面へのペプチドの共有結合の詳細な証拠は、耐食性試験によって下に提供される。
【0108】
XPS特性 X線光電子分光法(XPS)は、材料内に存在する元素の元素組成及び電子状態を測定する量的分光器の方法である。XPSスペクトルは、X線ビームで材料を照らし、一方、分析された物質の頂部1から10nmまでから放出される電子の運動エネルギー及び数を同時に測定することにより得られる。XPSは極めて高い真空(UHV)条件を必要とする。
【0109】
Axis−1651スペクトロメーター(Kratos Analytical)を未コーティングのサンプル及びピリンコーティングされたサンプルから発生した光電子(photo−emitted electron)を試験するために使用した。2つのサンプルから放出された電子についてのスペクトルを図14に示す。見てわかるように、ピリンコーティングされたサンプルは、未コーティングのサンプルの中には存在しない、約100及び150eVの結合エネルギーを有する2つのユニークなピークを有する。1つの可能性は、2つのピークが、共役電子結合により、実質的に赤にシフトした、硫黄金属結合を表すということである。金属とN又はO結合形成の証拠はなく、ピリンと金属間との好ましい共有結合の(共有電子)相互作用は、ピリン・ペプチド中の2つの硫黄原子の1つ又は両方とであることを示唆する。
【0110】
IIIC. 粒界効果
粒界は、多結晶体中の2つの粒子(又は晶子)間の境界である。粒界は結晶構造の欠陥で、材料の電気的及び熱伝導性を減少させる傾向がある。ほとんどの粒界中の高い界面エネルギー及び比較的弱い結合形成は、しばしばそれらに腐食の発現及び固形物から新しい相の沈殿のための好ましい部位を作る。
【0111】
粒界が腐食のための開始部位として役立つことができるので、金属表面へ結合するピリン・ペプチドが粒界部位で優先的に生じたかどうか判断することは興味深かった。この問題を調べるために、ピリン・ペプチドコーティングAFMチップを用いる、上記に説明した付着力試験を、粒子内の及び粒界での付着力効果を調べるためにさらに改良した。試験における「テスト」及び「コントロール」表面は、PAOピリン・ペプチド又はPAOアミノ酸のスクランブル配列を有するペプチドでコーティングしたステンレス鋼プレートだった。各サンプルについては、粒子内の及び粒界での付着力を測定した。
【0112】
下記の表1の結果からわかるように、ピリン・ペプチドは、粒界の内側でスクランブル配列を有する同じ材料より約20nN低い付着力を有し、粒界で約43nN低い付着力を有する。結果は、ピリン・ペプチドが粒界で優先的に局在化している、言い換えると、ピリン・ペプチドが、粒界で大きなコーティング厚さを有するか、又はピリン結合の同じレベルは粒界で大きな付着力効果をもたらすかのいずれかを示す。いずれの場合も、データは、ピリン・ペプチドを金属表面に結合することにより見られる耐食効果の大きさについて説明する。
【0113】
【表1】

【0114】
IIID.ピリンのD形態及びRI形態によって結合しているピリンペプチド
金属(ステンレス鋼)サンプルに結合する、ピリンペプチドのD形態及びRI形態の能力及びピリンコーティング材料の特性を検討するために、K122−4ピリンペプチドのD及びRI形態を合成し、同じピリンペプチドのL形態に対して試験した。ステンレス鋼プレートは、L形態ピリン・ペプチド(3つの異なるバッチ)、D形態ピリン又はRI形態ピリンでコーティングし、1枚のプレートはコーティングしなかった。
【0115】
プレートは、付着力の変化について(図2Aと2Bに関して上記に報告された試験と同様)最初に試験した。図15Aでわかるように、付着力の大幅な低減は、未コーティングプレートと比較して、ピリン・ペプチドの3つの形態すべてに見られた。
【0116】
図3A−3Bに関して上記に記載されたものとして行なわれた同じ6つのサンプル上のEWF測定を図15Bの中でプロットした。興味深いことには、D−アミノ酸形態は未コーティングプレートを含む他の5枚のプレートのうちのどれより実質的に低いEWFを与えた。しかし、RI形態は同程度又はL型ピリン・サンプルより高いEWF値を与えた。
【0117】
結果は、金属表面の電子特性を改変する方法において、ピリン・ペプチドのD形態及びRI形態の両方がステンレス鋼板と相互作用することができることを示す。
【0118】
D形態ピリンがステンレス鋼にしっかりと結合する能力は、コーティングしていないか、又はビオチン化コントロールペプチド(ピリン配列のスクランブル化又は非結合領域のいずれかの)でコーティングしたもの、又はビオチン化D形態ピリンペプチドでコーティングしたもののいずれかの、ステンレス鋼ステントに結合するペプチドの比較により調べた。個々のステント表面に結合したペプチドの量を37CでSDSの3%の溶液の表面を最初に洗い、引き続き、PBSで数回洗浄することにより測定した。洗浄表面を、ストレプトアビジンHRP(西洋わさびペルオキシダーゼ)(streptavidin−HRP (horse radish peroxidase))でインキュベートし、次に、ABTS基質にさらし、405nmで吸光度を測定した。図16Aで見られるように、コントロール・ペプチドのものより、ステンレス鋼ステントに結合したD形態ピリン・ペプチドは約2倍だった。
【0119】
金属結合したL形態ピリン・ペプチドに比べて、金属結合したD形ピリン・ペプチドの酵素タンパク質分解に対する耐性を調査するために、ステンレス鋼プレートをL型ペプチド、D形ペプチド及びコントロール(スクランブル化ピリン配列)で、複製して、コーティングした。その後、各複製からの1つのサンプルを、0.25%、EDTA 1mM、pH7.4の濃度で、60分間37Cにてトリプシンでインキュベートした。その後、サンプルを上記に記述したHRTアッセイ方法によって結合タンパク質について分析した。
【0120】
図17Aは、トリプシンへの暴露前後にL形態ピリンの結合したペプチド・レベルを示す。図からわかるように、ピリン・ペプチドの半分以上はプロテアーゼ処理によって除かれた。対照的に、結合D形ピリン・ペプチドの量は、プロテアーゼ消化(図17B)に実質的に影響されなかった。結果は、(i)ステンレス鋼へのL形態ペプチドの共有結合がプロテアーゼ消化からの保護を与えない、及び(ii)結合D形態ピリン・ペプチドは、酵素タンパク質分解から実質的に防御される、ことを実証した。
【0121】
IIIE.関連する適用
また、ピリン・ペプチド結合がコーティングした材料の硬度を増加することができる能力は、本発明の別の態様に従って、板ガラス又は自動車安全ガラスのような、他の硬い材料表面に利用することができる。この適用では、掃除されたガラス表面が、ピリンの層で表面をコーティングするのに効果的な条件の下にてピリン・ペプチドで接触される。支持体に結合したタンパク質の量をHRPアッセイを使用して、上記のように測定した。図16Bで見られるように、D形態ペプチドは、SDS処理によってでさえ除去に抵抗して、ガラス表面にしっかりと結合され、コントロール・ペプチドで行ったのより、ステンレス鋼ステントに結合されたピリン・ペプチドは約2倍であった。
【0122】
別の適用では、表面処理は機械中の互いとの可動接触子にあるコーティングした金属表面の潤滑性を増強するために使用される。ここで目的機械部品を、共有結合でピリン・コーティングを形成する条件の下で、上記のように、ピリン・ペプチドに部品をさらすことにより、増強された表面潤滑性のために前処理する。あるいは、ピリン・ペプチド溶液を機械操作の間に機械部品のより大きな潤滑性を維持するために、操作又は一時停止の間に機械の接触表面に塗布してよい。
【0123】
IV.コーティングした金属支持体及びバイオセンサー装置
このセクションは、検体に特異的な目標化合物(例えばレセプター)が発明に係るピリン・ペプチドを介して検出表面に付けられている診断装置への本発明の適用を考える。検出表面がピリン・ペプチドに共有結合で結合する金属である場合、下記に記載するように、金属表面と電子的相互作用を通じて、装置は電子バイオセンサー・モードで機能してよい。
【0124】
IVA.共有結合で結合した化合物を有する金属支持体
(i)上記に詳述するように、支持体へのピリン・ペプチドの共有結合及びピリンへの直接的又は間接的化合物の共有結合、言い換えると、ピリン化合物複合体を介する、という手段で、本発明の本態様は、例えば、レセプターなどの化合物が支持体にて共有結合する金属支持体を含む。未結合ピリンペプチドについて上記に説明のように、コーティングした支持体は、最初に金属表面へ結合していないピリン・ペプチドを付着させること、続いて、結合ピリンへ化合物を共有結合することにより、あるいは最初にピリン化合物複合体を作り、続いて、金属表面へのその複合体を結合することにより、作成される。ピリン・ペプチドに化合物を共有結合で結合する方法は、例えば、アミン又はカルボキシル基を介して直接的な化学結合により、又は二官能基カップリング試薬を使用することによって行うなど、周知である。化合物がそれ自体ペプチドである場合、ピリン化合物複合体は組み換え又は固相合成によって融合タンパク質として形成することができる。コーティングした支持体は、金属表面へのピリン結合による改変された表面電子特性を有し、下記に詳述されるように、本発明を実証するために行なわれた試験は、表面結合化合物に検体関連分子が結合することにより、支持体表面を流れる電流が調整されることを示し、支持体にわたって流れる電流の変化によって、そのような結合態様を記録することを可能にする。以下に見られるように、化合物も、支持体に(例えばE/Kコイルド‐コイル複合体によって)共有結合で間接的に結合してよい。
【0125】
IVB.結合ピリン支持体を有するバイオセンサー装置
図18Aと18Bは、発明の実施態様に従って構築されたバイオセンサー・アッセイ装置32を示す。装置は、金属検出プレート34上にピリン・ペプチド・コーティングで観察された、改変された電子特性の有益性を有する。すなわち、プレート34は、ステンレス鋼、スズ、鉄、又はチタニウムのような金属から作られ、ピリン・ペプチドによってコーティングされた場合、改変された電子表面性質を有する。上記のように、ピリン・コーティングは、プレート表面を上記のピリン・ペプチド36及び検体を結合する部分38の複合体にさらすことにより、又は結合した、非複合体ピリン・ペプチドに化合物を付けることにより形成される。プレートはそれ自体、その側面が装置中の壁40によって形成され、部分的に水性の導電媒体42で充填される浅いバイオセンサー反応容器41の下部表面を形成する。
【0126】
反対の回線接続が検出プレートの下部側面へある場合、装置中のバイオセンサー回線は容器、電圧ソース46及び電流計48へ伸びる電極44を含む。
【0127】
図19と20は、バイオセンサーの2つの表面の構成を示す。図19では、レセプター(リガンド結合)分子(R)は、ピリン・ペプチド(かぎ型部分)に共有結合で結合し、次に、バイオセンサー表面に共有結合で結合される。バイオセンサー支持体を横切ったコンダクタンスは、(i)支持体表面とピリン・ペプチドの結合相互作用及び(ii)コンダクタンス上のレセプターRの影響によって決定される。リガンドL(例えば検体)がレセプターに結合する場合、表面での電子特性はさらに変調され、その結果観察されたバイオセンサー電流の変化を引き起こす。図21に示された電流の変化は、リガンドがレセプターに結合後、高い電流から低い電流となる。
【0128】
図20では、レセプターRは、支持体へのピリン/Kコイル複合体の共有結合を通じて支持体表面に間接的に結合され、その後、レセプター‐Eコイル複合体とのコイルド‐コイル相互作用する。この実施態様の中で、結合している、バイオセンサー表面コーティングの形成は、ピリン・ペプチドとレセプターRに結合するKコイル、Eコイルの及びレセプターRに結合することができるリガンドLである、3−構成要素の複合体である。この実施態様では、表面上のコーティング、マスキングK−コイル部位に検体を結合するために、最初に、バイオセンサーを検体と反応させる。この反応をK−コイルのマスクキングによって引き起こされた電流の変化として直接に読んでもよく、又は検体反応の後にまだマスキングされていないK−コイルの量に応じて、E−コイルに結合するために、E−コイル試薬が、この段階で添加されてもよい。
【0129】
図22Aと22Bは、図20に示したコイルドコイル構成によってHis部分(レセプター)が支持体表面に結合されるバイオセンサー相互作用についてボルタメーター・サイクル・カーブである。図22Aは、それ自身及びその後Hisの部分の特異的抗‐His抗体を添加することにより、ピリン構築物を介してステンレス鋼に共有結合でリンクされたE−コイルに複合体化したK−コイルに表示されたHisの部分について完全な環式のボルタメトリーカーブを示す。図22Bは、正電圧バイアスだけでなくマイナス電圧バイアスの下でHis部分に結合する抗体によって電流が変化させられることを実証する、左ねじれ部分の環式のボルタメトリーのカーブの増幅を示す。Hisレセプターにanti―His抗体を結合することは、最低の電流サイクルを生産し、バイオセンサー表面に結合する「検体」を有する電流の低下を証拠づける。Hisレセプターがピリン・ペプチドによってバイオセンサー表面に直接に結合された時、同様の結果は得られ、使用された検体はanti―His抗体だった。
【0130】
センサーの操作を理解するために、下記の表2からのデータであって、(i)コーティングがないステンレス鋼板(修飾されない)(ii)E−コイル(負に帯電したロイシンジッパー)ペプチド(E−PAK)に結合したピリン・ペプチドでコーティングしたステンレス鋼板、及び(iii)反対に帯電したK−コイルペプチドに結合した同じ複合体でコーティングされた第3のステンレス鋼板、すなわち、そのペプチドは、E−コイル/K−コイルヘテロダイマー(K−E−PAK)に結合する、ステンレス鋼板について、Icorr、Ecorr、腐食速度及びRpデータを示すデータからの耐食性データを考慮することは有用である。Icorrカラムを考慮すると、データは、プレートに結合するE−PAKがそのIcorr値を著しく増加させることを示し、PAKピリンで単独で見られた効力と反対である。(図9Aを参照)。複合体が中和される場合(K−E−PAK)、Icorr値は、未コーティング金属より実質的に低く、未結合ペプチドで観察された効力に同様である。Ecorr、腐食速度及びRp値に対する同様の影響は、データから見られ、すなわち、反対に帯電したKコイルで結合することによるE−コイル影響を中和することが、E−PAKピリン結合によりもたらされた表面効果を改変させる。
【0131】
【表2】

【0132】
バイオセンサーの様々な利点は上記の記載から評価することができる。第一に、検体結合レセプターをバイオセンサー表面に共有結合で結合するピリン・ペプチドが、バイオセンサー表面にて直接に電子活性に影響するので、電流の中で、直接効果(例えば低減)をもたらすリガンド結合により、表面の複合体のサイズ及び電荷を改変させる。第2に、電子活性又は分子と直接に相互に作用する金属の表面の電子の能力が、相互作用の程度及び力を決定するので、金属表面と分子の相互作用はプラスチックとの相互作用とは基本的に異なる。酸化被膜を形成しない金属(金のような)は非常に活性のある表面の電子(結晶のエッジ効果による)を持っており、それらの表面への材料を容易に吸収する。これらの材料は、サンプル・マトリックスからのタンパク質及び他の分子の非特異性の吸着に影響を受けやすく、したがって、バイオセンサー・プラットフォームとして有用ではない。ステンレス鋼のような金属は、表面の酸化を受け、不動酸化物層(不動態化された)を形成し、非特異的に結合するイベントを最小化にし、材料をそれらの表面に容易に結合しない(従って医療と食品産業でのそれらの広範囲の使用)4−6。T4P17ペプチドを使用して、特異的なペプチド/タンパク質成分を不動態化されたステンレス鋼に容易に結合させる能力は、バイオセンサー適用のリガンド・レセプター相互作用を検出する際に信号対ノイズ比を改善する際に有効な利点を与える。上述したように、ステンレス鋼に結合するT4P17は電子伝達を仲介し、電圧バイアスにさらされた時バイオセンサーとして機能することができる。上記に報告した実験は、金属表面に結合したピリン‐レセプター結合物に結合するリガンドに応答してバイオセンサー表面を横切って電子流を変調する能力を実証する。
【0133】
IVE.結合ピリン支持体を有する一般的なアッセイ装置
図23Aと23Bは、プレート18を有する検体探知装置16を示し、そのプレートの上部の検出表面がピリン・ペプチド20及び検体‐特異的ターゲット分子22の複合体でコーティングされる。プレートはピリン・ペプチドが結合する様々な材料から作られてよいが、プレートは、好ましくは、ピリンがそれに共有結合で結合する、ステンレス鋼、スズ、鉄、及びチタニウム表面のような金属である。共有結合は、生産、タンパク質安定性、コーティング安定性の容易さの点から多くの利点を与える。また、装置は、25で示されるように検出表面を照らすために、例えばUV源のような、ビーム源24及び光検出器26を含む。
【0134】
操作では、検出プレートの表面は、可溶性検体分子30として図12Bの中で示される目的の検体を含む流体サンプルで覆われ、これらは、検出表面上の検体特異的な分子22と反応することを許される。示された蛍光検出器では、反応混合物は、検出表面に結合した検体と特異的に反応することができる蛍光性の標識抗体又は他の媒体を含んでよい。その後、検出表面は、非結合成分を除去するために洗浄される。ついで、図12Bで示されるように、蛍光27が放射され、反応表面は結合螢光の存在の有無及び存在するときはその量について分析され、アッセイを完成する。
【0135】
便利な螢光アッセイが装置に組み入れられてよいと認識されるだろう。例えば、ピリン・ペプチドは蛍光性部分を含んでよく、検体結合部分は、ピリン蛍光性部分から螢光を消すのに有効な蛍光性の消光物質を含んでよい。この実施態様では、検体を検体結合部分に結合することは、消光物質の効果を覆うのに有効であり、検体結合部分に結合する検体の存在下にて、より大きな螢光を生産する。
【0136】
代替的な実施態様においては、ピリン・ペプチド及び検体結合部分は第1と第2の蛍光種をそれぞれ含んでよく、所定の励起波長で励起された時、それは蛍光共鳴エネルギー転移を生産するのに有効である。この構成において、検体結合種への検体の結合はそのようなエネルギー転移を阻害するのに有効であり、観察された螢光を低減させる。
【0137】
V.コーティングした金属表面を有する医療機器
例えば、ステンレス鋼、スズ、鉄、及びチタニウム表面のような、ある金属表面に結合するペプチドついて、上記に記載の試験は、ペプチドと金属の間の共有結合の(電子共有)結合の形成を示して、ピリン・ペプチド結合が金属の表面の電子特性を改変することを実証する。この発見は、ステンレス鋼、スズ、鉄、及びチタニウム表面に、例えばペプチド、脂質、核酸、代謝産物、又は薬物分子のような、生物活性の分子を共有結合で結合するための方法及びピリン・ペプチドを介して、露出した機器の金属に共有結合で結合する生物活性化合物を有する新しい医療機器を提供する。
【0138】
方法の中で意図する他の金属は、周期表の列4−6及びカラム9−12からの遷移金属であって、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、カドミウム、オスミウム、白金、金、及び水銀、及びそれらの混合物及び合金を含み、メタロイドのシリコン及びゲルマニウム、及びそれらの酸化物を含む。
【0139】
この方法では、金属の表面は、IVタイプ緑膿菌(P. aeruginosa)(T4P)ピリンのC末端レセプター結合タンパク質から由来するジスルフィド・ループを含む、及びそのループのN又はC末端側上のどちらか又は両方の、0−10、好ましくは、0−5の追加の残基を含む、合成ピリン・ペプチドで接触される。
【0140】
共有結合された生物活性分子を含むように、前もってピリン・ペプチドを調製した場合、接触させる工程単独により、金属表面への生物活性分子の共有結合をもたらす。生物活性分子を有するペプチド(この場合ピリン・ペプチド)の複合体を調製する方法は、周知であり、ペプチドとペプチド生物活性分子の間の融合タンパク質を形成すること、及びペプチドへの生物活性分子の共有結合の反応サイトを提供するための具体的に改良した化学反応の使用を含む。例えば、ピリン・ペプチドの固相合成中の最終工程は、例えばアルデヒドのような、反応性基(それは生物活性分子と共有結合の反応に使用することができる)の追加を含んでよい。
【0141】
あるいは、金属表面へペプチドをつけた後に、金属表面上の結合ピリンに生物活性分子を共有結合でつなぐために、再度、従来の二価性試薬又は特定の化学基化学反応使用して、ピリン・ペプチドで生物活性分子を反応させてもよい。
【0142】
目的のポリペプチドを得る際に使用するポリペプチドための別の適用は、例えば、組み換えのポリペプチド合成によるように、目的のポリペプチドを有する、上記に記載されたタイプのピリン・ペプチドを含む、融合タンパク質を最初に合成することにより実行される。その後、融合タンパク質は、ステンレス鋼、スズ、鉄、チタニウム、クロム、プラスチック、ガラス、ケイ酸塩、セラミックス、又はそれらの混合物から作られた支持体で接触を受けて、それによって、支持体へのピリン・ペプチド部分の結合を介して、支持体へ融合タンパク質が結合する。
【0143】
非結合材料を除去するために支持体を洗った後に、支持体は、結合ピリン・ペプチドから目的のポリペプチドを特異的に切断することができる薬剤で処理される。これは融合タンパク質中の規定された配列リンカーを特異的に切断することができるタンパク質分解酵素で支持体を処理すること又は融合タンパク質中の前記リンカーの特異的に切断できる化学薬品又は放射エネルギー源で支持体を処理することを含んでよい。その後、放出された目的のポリペプチドは、実質的に精製された形態で、支持体から溶出される又は洗われる。
【0144】
結合方法の別の適用は、所望の表面性質を有するか、又はそれらの表面上の所望の生物活性分子を運ぶ移植可能な装置を調製する際にある。例えば、本発明の骨インプラントはステンレス鋼又はチタニウムの移植構造を含み、その一部は骨の領域内に、又はその領域に対して放置するのに適している。移植へのボンド・アタッチメントを加速するために、この部分は、上述の合成ピリン・ペプチド、及びRGDのような、骨形態形成タンパク質因子、又は骨形態形成タンパク質因子BMP2−BMP7の複合体でコーティングされる。
【0145】
関連する適用では、ピリン・ペプチドは、金属又はポリマーのステントの表面に適用され、例えば、血管内の移植組織部位での望まれない凝固又は瘢痕をもたらしうる表面反応が促進することをより少ない傾向にするような、改善された表面性質を有する、本発明によるステントを生産する。あるいは、コーティングは、例えばピリンと薬の間のエステル・リンカーのような、バイオリリーサブル(bioreleasable)リンカーを持つ、ピリン−limus薬剤複合体のような、ピリン・ペプチド及び生物活性分子の複合体によって形成されてよい。
【0146】
下記に見られるように、コーティングした金属表面は、装置に対して、身体におこりうる炎症反応を著しく低減する。
【0147】
VI.低減された炎症反応を備えた医療機器
感染又は細胞の損傷/ストレスによって伝達した炎症に加えて、莫大な量の医原性の炎症は、医療機器類によって引き起こされる。非生物学的適合の医療機器へのヒト組織、細胞、及びタンパク質の露出は、臨床効果が非常に過小評価される、機能障害の宿主レスポンスを引き起こす。実施例は、組織反応、及び血管グラフト、人工関節及び他の移植可能な装置を含む医療用人工装具の挿入に続く機能障害の創傷治癒を含む。同様に、白血球及び凝固系の活性は、心肺バイパスと血液透析のような体外循環血液回路に定期的にさらされる患者に重大な罹患率をもたらす。これらのイベントは、さらに急性及び慢性疾患を持った患者の治癒、再生及びリハビリテーションに影響を与える。
【0148】
発明の別の態様によれば、D−アミノ酸、DとLアミノ酸の混合物、及びレトロインバーソ(RI)形態でのD−アミノ酸で作られたピリン・ペプチドで金属表面をコーティングすることにより、例えばチタニウムのような、医療機器の中で使用されるある金属への炎症反応を調査した。
【0149】
ある試験では、人間の末梢血単核細胞(PBMC)細胞を標準細胞培養状態の下で単独で、又はD形態ピリン・ペプチドでコーティングしていないか又はコーティングしたかいずれかである、チタニウム又は鋼板の存在下においてインキュベートした。37Cにて、RPMI培地中24時間のインキュベーション後、培養培地をサイトカインIL−1β(それはPBMCの中の炎症反応のインジケータである)について分析した。チューブリンをハウスキーピング・コントロールとして分析した。図25Aは、5つのサンプルの各々について測定されたIL−1β及びチューブリンのウェスタンブロットを示す。結果からわかるように、D形態ピリン・ペプチド・コーティングはステンレス鋼及びチタニウムサンプルの両方中の炎症反応を防止するのに効果的だった。この結果は、チタニウム・サンプルについて図25Bの中で示される棒グラフで定量的に見ることができる。
【0150】
同様の試験が同じサンプルに対するヒトTHP−1マクロファージ細胞の炎症反応を試験するために行なわれたが、非結合ピリン・ペプチド配列を表わすコントロール・ペプチド1又は2でコーティングした、ステンレス鋼又はチタニウムから作られた追加サンプルを含んでいた。その後、コーティングした及びコーティングしていないサンプルを72時間37℃にてRPMI培地中THP−1マクロファージとインキュベートした。その後、培養培地及び細胞の溶解産物をサイトカインIL−1β及びハウスキーピング・タンパク質チューブリンについて分析した。結果を図26Aの中の2つのウェスタンブロット中に示す。結果からわかるように、チタニウム単独が、D形態ピリン・コーティングによって実質的に縮小された強い炎症反応を引き起こした。図26Bの中で与えられたステンレス鋼サンプルについての量的図は、コーティングしていないステンレス鋼への炎症反応はやや小さかったが、それにもかかわらず、結果はDペプチド・コーティングによって防止されたことを示す。D形態ピリン・コーティングの影響が、かなり特異的であることは2つのコントロール・ペプチドサンプル(それらは適度に強いレスポンスを示す)から明白である。
【0151】
ある態様においては、本発明は、身体に移植された時、炎症反応細胞に露出される表面がある医療機器を含み、ここで、身体中においてこれらの表面は、
(i)IV型緑膿菌(P. aeruginosa)(T4P)ピリンのC末端レセプター結合タンパク質に由来するジスルフィド・ループ、
(ii)前記ループのN又はC末端側上のいずれかの0−10、好ましくは、0−5の、追加的残基、及び
(iii)D−アミノ酸、D、Lアミノ酸の混合物、又はレトロインバーソ(RI)形態でのD−アミノ酸から構成されること
を含む合成ピリン・ペプチドでコーティングされていることを特徴とする。
【0152】
図24A−24Dにおける結合試験は、ステンレス鋼(図24A)、クロム・コバルト・ステント(図24B)、ラテックス・カテーテル(図24C)及びシリコーン静脈カテーテル(図24D)を含む様々な医療機器及び機器表面へのD形態ピリン・ペプチドの強い結合を実証する。各ケースでは、サンプルはコーティングがない(図24の中の白い棒グラフ)、コントロールスクランブルD形態ピリン・ペプチドでコーティングした(斜線を施した棒グラフ)、又はD形態ピリン・ペプチドでコーティングした、のどちらかだった。その後、サンプルを洗浄し、上記に記述されたHRTアッセイによって結合タンパク質について分析した。すべてのサンプルについては、結合ピリン・ペプチドのレベルが、実質的にコントロールのレベル以上であり、ステンレス鋼を有するサンプルが、最も高い、結合コーティングを生ずるようだった。本発明は、金属及び非金属ステントの両方、さまざまな弾力性のある材料から作ったカテーテル、カテーテルの末端の支持装置、及び心臓及び他の血管のバルブを含む、対象となる身体に移植されるか一時的に移植される他の医療機器を含み、前記機器が、身体中の炎症反応にさらされる表面を含み、D形態又はRI形態ピリン・ペプチドでコーティングされていることを特徴とする。
【0153】
関連する態様においては、本発明は、医療機器を移植する前に、
(i)IV型緑膿菌(T4P)ピリンのC末端レセプター結合タンパク質に由来するジスルフィド・ループ、
(ii)ループのNあるいはC末端側のどちらか又は両方上の0−10、好ましくは、0−5の追加の残基、及び
(iii)D−アミノ酸、DとLアミノ酸の混合物、又はレトロインバーソ(RI)形態でのD−アミノ酸の構成
を有する合成ピリン・ペプチドで機器の露出表面をコーティングすることにより、対象内に移植された医療機器に対する炎症反応を防止する方法も含む。
【0154】
本発明は特定の実施態様及び適用に関して記述されたが、様々な修飾が特許請求の範囲を逸脱せずに作ることができることが理解されるだろう。
【0155】


【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】

【図16】

【図17】

【図18A】

【図18B】

【図19】

【図20】

【図21】

【図22】

【図23A】

【図23B】

【図24】

【図25】

【図26】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステンレス鋼、スズ、鉄、又はチタニウムから作られた支持体の露出表面の一以上に化合物を共有結合させる方法であって、前記支持体の露出表面をIV型緑膿菌(P. aeruginosa)(T4P)ピリンのC末端レセプター結合タンパク質に由来するジスルフィドループ及び前記ループのN末端側又はC末端側のいずれか又は両方上に0−10の追加的残基を含む合成ピリンペプチドと接触させる工程、それにより前記ピリンペプチドを前記露出表面に共有結合させる工程、及び
前記接触させる工程及び前記共有結合させる工程の前又は後に、前記化合物を前記ピリンペプチドに共有結合させる工程を含む前記方法。
【請求項2】
前記支持体表面が露出した粒界領域を有すること、及び前記接触させる工程が露出した粒界領域に前記化合物を優先的に局在させるために効果的であること、を特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ピリンペプチドがL−アミノ酸で作られることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ピリンペプチドがD−アミノ酸、L−及びD−アミノ酸の混合物、又はレトロインバーソ(RI)でのD−アミノ酸で作られることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記ピリンペプチドが配列番号10として同定された配列を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記ピリンペプチドが配列番号3、4、又は9として同定された配列を含むことを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記化合物がペプチド類、オリゴサッカロイド類、脂質類、核酸類、及び小さな有機分子類からなる群から選択されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項8】
材料が多孔性又は網状であること、及びコーティングする工程が前記ピリンペプチドを前記材料中の孔又は網目により形成された内側の面に結合させることを効果的にすること、を特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項9】
請求項1の方法により作られた共有結合した化合物を有するステンレス鋼、スズ、鉄、又はチタニウム支持体であって、前記支持体表面へのピリンペプチドの結合及び前記化合物が前記ピリンペプチドに共有結合することにより、前記支持体が改変された電子仕事関数を有することを特徴とする前記支持体。
【請求項10】
移植可能な医療機器の一部であることを特徴とする請求項9に記載の支持体。
【請求項11】
請求項10に記載の支持体を使用するバイオセンサー装置であって、さらに、表面結合レセプターへの検体関連リガンドの結合に応答して支持体表面にわたって電流の変化を検出するための検出器を含み、ここで、前記レセプターは前記化合物それ自身であるか又は前記化合物に高親和性結合により付着していることを特徴とする前記装置。
【請求項12】
共有結合した前記化合物がK又はEコイルであること、及びレセプターがE/Kコイルドコイル複合体を通して表面に結合すること、を特徴とする請求項11に記載のバイオセンサー装置。
【請求項13】
露出した粒界領域を持つ表面を有する、ステンレス鋼、スズ、鉄、又はチタニウム金属材料を前記材料の腐食速度を低減するように処理する改善された方法であって、露出した粒界領域の電子仕事関数を0.2EFW単位以上変化するのに有効であり、かつ所定の力を有する原子間顕微鏡のチップで金属表面を打って生じるナノインデンテーション法により測定して、露出した粒界領域の硬度が20%以上増加するのに有効な条件下にて、前記材料中の露出した表面粒界領域をIV型緑膿菌(P. aeruginosa)(T4P)ピリンのC末端レセプター結合タンパク質に由来するジスルフィドループ及び前記ループのN末端側又はC末端側のいずれか又は両方上に0−10の追加的残基を含む合成ピリンペプチドと接触させる工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項14】
前記金属材料がステンレス鋼であること、及び前記接触させる工程が、表面にわたって腐食電流を測定して、30%以上コーティングされた表面の腐食速度を低減させること、を特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記金属材料が、多孔性又は網状であること、及び前記接触させる工程が、前記ピリンペプチドを前記材料中の孔又は網目により形成された内側の面に結合するために実施されること、を特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記金属材料が、露出した粒界領域を有すること、及び前記接触させる工程が、前記ピリンペプチドを前記粒界領域に選択的に結合するために効果的であり、その粒界領域にて表面を優先的に保護することにより、金属表面の硬度及び腐食耐性を増強させること、を特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記ピリンペプチドがL−アミノ酸で作られることを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項18】
前記ピリンペプチドがD−アミノ酸、L−及びD−アミノ酸の混合物、又はレトロインバーソ(RI)形態でのD−アミノ酸で作られることを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項19】
前記ピリンペプチドが配列番号10として同定される配列を含むことを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項20】
前記ピリンペプチドが配列番号3、4、又は9として同定される配列を含むことを特徴とする請求項19に記載の方法。
【請求項21】
対象内に移植するように設計された医療機器に対する炎症反応を阻害する方法であって、
前記機器を移植する前に、前記機器の露出表面を合成ピリンペプチドであって、
(i)IV型緑膿菌(P. aeruginosa)(T4P)ピリンのC末端レセプター結合タンパク質に由来するジスルフィドループ、及び
(ii)前記ループのN末端又はC末端のいずれか又は両方上に設けられる0−10の追加的残基を含み、
(iii)D−アミノ酸、L−及びD−アミノ酸の混合物、又はレトロインバーソ(RI)形態でのD−アミノ酸から構成されるピリンペプチド
でコーティングすることを含む方法。
【請求項22】
前記ピリンペプチドが配列番号10として同定される配列を含むことを特徴とする請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記ピリンペプチドが配列番号3、4、又は9として同定される配列を含むことを特徴とする請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記医療機器が、
(i)外部表面が前記ピリンペプチドでコーティングされるチューブを有する留置カテーテル、
(ii)前記ピリンペプチドでコーティングされる、外部の、ステンレス鋼、スズ、鉄、又はチタニウムの表面を有する人工装具、及び
(iii)前記ピリンペプチドでコーティングされる、外部の、ステンレス鋼、スズ、鉄、チタニウム、又はポリマーの表面を有する血管内ステント、
の一つであることを特徴とする請求項20に記載の方法。
【請求項25】
身体に移植される時、炎症反応細胞にさらされる表面を有する医療機器であって、前記表面が、次の合成ピリンペプチドであって、
(i)IV型緑膿菌(P. aeruginosa)(T4P)ピリンのC末端レセプター結合タンパク質に由来するジスルフィドループ、
(ii)前記ループのN末端又はC末端のいずれか又は両方上に0−10の追加的残基、及び
(iii)D−アミノ酸、L−及びD−アミノ酸の混合物、又はレトロインバーソ(RI)形態でのD−アミノ酸を含む、
合成ピリンペプチドでコーティングされていることを特徴とする医療機器。
【請求項26】
移植後、炎症反応細胞にさらされる表面が、ステンレス鋼、スズ、鉄、又はチタニウム表面であることを特徴とする請求項25に記載の機器。

【公表番号】特表2013−507149(P2013−507149A)
【公表日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−532431(P2012−532431)
【出願日】平成22年10月8日(2010.10.8)
【国際出願番号】PCT/CA2010/001612
【国際公開番号】WO2011/041906
【国際公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【出願人】(512092313)アーチ バイオフィジックス,インク (1)
【Fターム(参考)】