説明

表面プラズモン共鳴測定用マイクロチップ及び表面プラズモン共鳴測定装置

【課題】光源からの光の強度のばらつきおよび上記光源から光検出器までの光路における偏光特性の変動が存在する場合でも精度の高い測定を行うことができるようにすること。
【解決手段】流路となる溝部が形成されている第1のマイクロチップ基板11と、金属薄膜13が成膜されている第2のマイクロチップ基板12とを接合したマイクロチップ10において、試料を設置する検出部となる金属薄膜13とは別に、第1または第2のマイクロチップ基板上であって上記流路外に参照部Nとなる金属薄膜15を設ける。金属薄膜15へは表面は一様な媒質で覆い表面の状態を一定に保つ。光源22からの光を金属薄膜13,15に同時に照射し、反射光を光検出器であるCCD受光器23で受光し、反射光の測定結果により、検出部となる金属薄膜13の測定結果から光源22の強度ばらつきおよび光源22からCCD受光器23までの光路における偏光特性の変動の影響を取り除く。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面プラズモン共鳴測定を行う際に使用されるマイクロチップ、および、該マイクロチップ内の検査体を検査するための測定装置である表面プラズモン共鳴測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、表面プラズモン共鳴(Surface Plasmon Resonance:以下、SPRともいう)現象を利用した様々な表面プラズモン共鳴センサ(以下、SPRセンサともいう)が提案されている。
SPR現象は、金属薄膜上に存在する表面プラズモンと呼ばれるプラズマ波と金属薄膜裏面から照射した光が全反射した際に当該金属表面に生じるエバネッセント波との共鳴により、ある角度(共鳴角度)における反射光強度が減衰する現象である。この共鳴角度は金属表面の屈折率に依存する。
【0003】
図12は、Kretschmannにより提案されたSPRセンサの構成を説明する図である。
センサ本体は、大気中より屈折率の高いガラスからなるプリズム21上に金属薄膜13が設けられた構造を有する。そしてプリズム21と金属薄膜13との境界面に対して、レーザ光等の単色光が入射される。光の入射角θiは、境界面にて全反射が発生する臨界角以上の角度に設定される。単色光は境界面にて全反射されてプリズム21外へと進行するが、このときエバネッセント波が金属薄膜13表面に滲み出す。上記エバネッセント波の波数が、金属表面で発生し得る表面プラズモンの波数と一致した場合、両者の共鳴(以下、表面プラズモン共鳴ともいう)が発生し、入射光のエネルギーの一部が表面プラズモン波のエネルギーに変化する。結果として上記境界面からの反射光が減衰する。
なお、表面プラズモンは金属表面において、光の進行方向と平行な方向に電子の疎密波として伝播するので、表面プラズモン共鳴を発生させるためには、この方向に電場の振動成分を有するP偏光の光を入射する必要があり、P偏光と電場の振動が互いに垂直であるS偏光の光では入射しても表面プラズモン共鳴が発生する事は無い。
【0004】
表面プラズモン共鳴は、入射する光の波長、入射角、金属薄膜13の表面の屈折率分布等に依存する。よって、金属薄膜13表面に試料Sが設置された場合、金属薄膜13の表面の屈折率が変化するので、表面プラズモン共鳴が発生する際の上記入射する光の入射角も変化する。
すなわち、反射光強度をモニタして、反射光強度が減衰するときの入射角(以下、共鳴角ともいう)を測定し解析することにより、金属薄膜13表面の状態を特定することが可能となる。
【0005】
このようなSPRセンサは様々な測定に利用されている。例えば特許文献1に記載されているように、SPRセンサは、誘電体物質の表面近傍の情報や誘電体薄膜の膜厚分布を高感度で測定する顕微鏡として使用される。
また、特許文献2に記載されているように、SPRセンサは、金属薄膜13に接触した溶液(例えば、血液、尿等の試料)などの屈折率やその変動を検出し溶液中の物質量の変動を観測したり、金属薄膜13上に固定された抗体が特異的に結合するタンパク質、核酸、その他の生体関連物質などを検出・定量する(抗体抗原反応をモニタリングする)のにも使用される。すなわち、SPRセンサは、生化学や分子生物学や医療検査等の分野で使用されるバイオセンサとして使用される。
【0006】
以下、抗体抗原反応をモニタリングするバイオセンサを例に取り、SPRセンサ装置の構成例を説明する。図13にSPRセンサの構成例を示す。
【0007】
被検査体は、マイクロチップ10として構成される。マイクロチップ10は、典型的には一対の基板(第1のマイクロチップ基板11、第2のマイクロチップ基板12)が対向して接合された構造を有し、少なくとも1つの上記基板の表面に微細な流路14(マイクロチャンネル:例えば、幅10〜数100μm、深さ10〜数100μm程度)が形成されている。
【0008】
第2のマイクロチップ基板12に金属薄膜13が施され、当該金属薄膜13上に抗体Ig(抗原受容体)が固定される。流路14が第1のマイクロチップ基板11に形成されている。第1のマイクロチップ基板11と第2のマイクロチップ基板12とを接合して構成されるマイクロチップ10において、金属薄膜13および金属薄膜13に固定された抗体Igは、上記流路14内に存在する。
【0009】
上記マイクロチップ10は、SPRセンサ装置の試料保持部27に設置される。上記したように、表面プラズモン共鳴を用いて測定するには、大気中より屈折率の高いガラスからなるプリズム21上に金属薄膜13が設けられる。よって、本来は図13における第2のマイクロチップ基板12はプリズムである必要がある。しかし、この場合、各マイクロチップ10毎にプリズム21を用意する必要があり、コストが増大する。
よって、第2のマイクロチップ基板12はプリズム21と同じ材質のガラス基板とし、第2のマイクロチップ基板12とプリズム21との間に、ガラスと同一の屈折率をもった媒質であるマッチングオイルMOを介在させる。このようにして、マイクロチップ10とプリズム21とは光学的に接合される。本構成によれば、各マイクロチップ10毎にプリズム21を用意する必要がなく、複数の測定を行う場合、マイクロチップ10を交換するだけでよい。
【0010】
なお、第2のマイクロチップ基板12ならびにプリズム21の材質は必ずしもガラスである必要はなく、大気中より屈折率の高い樹脂であってもよい。具体的には、シクロオレフィンポリマー (Cyclo Olefin Polymer:COP)、環状オレフィンコポリマー(Cyclic Olefin Copolymer:COC)といった環状オレフィン構造を有する樹脂を採用してもよい。この場合、マッチングオイルMOとしては、当該マッチングオイルの屈折率が環状オレフィン構造を有する樹脂の屈折率と同一となるようなものを使用する。
マッチングオイルMOとしては、例えば、オリンパス社製、米国CARGILLE研究所製のものが使用される。上記製造メーカからは所望の屈折率に応じたマッチングオイルを入手可能であり、対応可能範囲は、例えば、屈折率=1.515〜1.700である。
【0011】
金属薄膜13に対して光を照射する光源22は例えば半導体レーザ装置であり、例えば波長760nmのレーザビームが放出される。光源22からの光照射は制御部40により制御される。光源22から放出されるレーザビームは、図示を省略した偏光素子を通過後P偏光のレーザビームとなり金属薄膜13に照射される。
金属薄膜13からの反射光はCCD(固体撮像素子)受光器23により受光される。CCD受光器23からの画像情報は制御部40に送出され、CCD受光器23からの画像情報を受信した制御部40は、当該画像情報を解析して抗体抗原反応をモニタリングする。
【0012】
光源22およびCCD受光器23の位置、レーザビームの出射方向、試料保持部27の基準面Lの高さは、試料保持部27の所定位置(マイクロチップ10の測定位置)にマイクロチップ10を載置して光源22からレーザビームを出射した際、当該レーザビームがマイクロチップ10の流路14内に位置する金属薄膜13に照射され、その反射光がCCD受光器23受光面に到達するようにそれぞれ設定されている。
【0013】
抗体Igが固定された金属薄膜13表面に対して光源22からのP偏光レーザビームを照射すると、当該金属薄膜13からの反射光がCCD受光器23の受光面に到達する。
このとき、抗体Igが固定された金属薄膜13表面の屈折率に対応した共鳴角にて入射したレーザビームによる反射光は、表面プラズモン共鳴が発生するのでその強度が減衰する。すなわち、このように強度が減衰した反射光のCCD受光器23の受光面上の位置は、ある特定された位置となる。ここで、上記した抗体Igが固定された金属薄膜13表面の屈折率は、マイクロチップ10の流路14に細菌、ウイルスや微生物に感染した細胞等の検体が注入される前の屈折率である。
【0014】
そして、上記検体がマイクロチップ10の検体流入口141より流路14に注入されると、抗体Igは検体を抗原として認識して結合し抗体抗原反応が起こる。そのため金属薄膜13に固定された抗体Igの状態が変化するので金属薄膜13表面の屈折率が変化し、この屈折率変化に伴い共鳴角も変化する。よって、強度が減衰した反射光のCCD受光器23の受光面上の位置も変化する。
【0015】
制御部40は、CCD受光器23の受光面における強度が減衰した反射光の受光位置変化情報を画像情報として受信し、強度の変化から共鳴角の変化を求める解析を行うことにより、金属薄膜13表面にて発生した抗体抗原反応の状態(抗体と抗原との結合特性等)を特定する。
【0016】
以上のように、上記したSPRセンサ装置は、マイクロチップ10を用いたマイクロ・トータル・アナリシス・システム(μTAS)として機能し、高速かつ高精度の反応分析を行い、コンパクトで自動化されたシステムを実現することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開平6−167443号公報
【特許文献2】特開2000−55805号公報
【特許文献3】特開2006-187730号公報
【特許文献4】特許3714338号公報
【特許文献5】特開2007−93588号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
上記したように、SPRセンサ装置に使用するマイクロチップ10は、例えば、微細な流路14を施された第1のマイクロチップ基板11と、表面の一部に金属薄膜13が施されている第2のマイクロチップ基板12とを、流路14の形成面と金属薄膜13の形成面が対向するように接合して構成される。
図13に示すように、SPRセンサ装置において、上記マイクロチップ10は、第2のマイクロチップ基板12の下面(金属薄膜13が施されている面と反対側の面)から、第2のマイクロチップ基板12を透過して金属薄膜13に光が照射されるように保持されている。
マイクロチップ10の第2のマイクロチップ基板12側に照射される光源22からの光は、金属薄膜13の所定位置に到達し、金属薄膜13によって反射され、CCD受光器23の受光面に到達する。光源22装置の光出射方向、CCD受光器23の位置は固定されており、金属薄膜13表面上の状態が不変で屈折率が一定であるならば、CCD受光器23受光面が受光する光の強度も変化せず一定となる。
しかしながら、光源22から発せられる光の強度は時間の経過に対して一定でなく、周辺の温度、電力供給など環境に起因した、ある程度のばらつきを持って変化している。
【0019】
金属薄膜13上に抗体Igが固定されたマイクロチップ10に対し、抗原を含んだ検体を流路14に流すことで起こる抗体抗原反応を計測する場合を考える。ここで、SPR装置の光源22、CCD受光器23の位置は一定である。図14(a)に示すように、金属薄膜13の表面状態が一定であるならば、図14(b)のように抗体抗原反応を起こす前、時刻t=0〜t1の間に検出される共鳴角θは時間に関係なくθiで一定となるが、実際には光源22から発せられる光の強度はばらつき、CCD受光器23の受光面上における光の強度も変化するため、図14(c)の時刻t‘=0〜t1の間のように共鳴角を正確に定められない状態になっている。
このような状態で抗原の入った検体を時刻t=t1でマイクロチップ10の流路14に流し、金属薄膜13上において抗体抗原反応を起こした場合、図14(b)のように光源22の強度にばらつきが無い状態であれば反応の結果、最終的に一定の割合Δθだけ変化するが、実際には図14(c)のように光源22の強度ばらつきを反映するため安定せず、抗体抗原反応前のばらつきとあわせて正確な共鳴角変化量Δθを求めることが出来ない。
すなわち、光源22の強度がばらつく分だけ、共鳴角検出が正確に行われず、観測結果データに誤差が生じるという不具合が発生する。
【0020】
上記問題の解決手段として、特許文献5では、表面プラズモン共鳴発生の入射光の偏光方向依存性に注目し、光源22から発せられ金属薄膜13で反射された前の光をP偏光とS偏光に分離し、表面プラズモン共鳴が発生せず光源22の強度ばらつきの影響のみを受けるS偏光強度の検出結果を用いて、表面プラズモン共鳴と光源22の強度ばらつき両方の影響を受けるP偏光強度の検出結果を補正する手段が記載されている。
【0021】
しかしながら、特許文献5に開示されている上記解決手段では、測定に用いられる光の光路上に存在するプリズム21やチップ10の基板から成る多層構造内の干渉や、金属薄膜13での反射によって光の偏光特性が変化する。また、SPRセンサ装置に位置決め・固定されているマイクロチップの第2のマイクロチップ基板12がガラスである場合、ガラスへの光入射によりガラスが加熱されて熱膨張等のガラスの変形が生じ、ガラスの応力歪みが発生し、その結果、ガラスの複屈折性が発現する。よって、第2のマイクロチップ基板を光が通過すると光の偏光特性が変化する。このガラスの複屈折性は、ガラスメーカーのガラス製造工程やガラスの製造ロット毎によってもばらつくので、結果的にマイクロチップ毎に上記した偏光特性がばらつくことになる。
以上のように、偏光特性は光路上に存在する各物質の状態に依存し、S偏光とP偏光の変化の比率は常に一定ではないため、S偏光の結果を用いて正確にP偏光の結果を正確に補正し、高精度な測定を行うことは難しいという問題が存在する。
【0022】
本発明は上記事情によりなされたものであり、その課題は光源から発せられる光の強度にばらつきおよび上記光源から光検出器までの光路における偏光特性の変動が存在する場合でも、SPRセンサ装置による観測結果から容易にその影響を取り除き、精度の高い測定を行うことができるマイクロチップ、および当該マイクロチップを使用する表面プラズモン共鳴測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0023】
図1は、本発明のマイクロチップ10の構造断面と、SPRセンサ装置において当該マイクロチップ10を用いた測定方法を説明する図である。
図1に示すように、本発明のマイクロチップ10は、微細な流路14が施された第1のマイクロチップ基板11と第2のマイクロチップ基板12とが接合されて構成され、第2のマイクロチップ基板12上の、第1のマイクロチップ基板11との接合面の一部に金属薄膜13が施されている。
従来のマイクロチップ10では、基板に施された微細な流路14に内包される位置にのみ、表面プラズモン共鳴を発生させるための検出部となる金属薄膜13を設けた構造であった。これに対し、本発明のマイクロチップ10は、図1に示すように流路14に内包された検出部となる金属薄膜13のほかに、流路14に内包されない位置にも光源22の強度をモニタリングするための参照部となる金属薄膜15を有する。SPRセンサ装置において当該マイクロチップ10は流路14に内包された金属薄膜13と流路14に内包されない金属薄膜15が光源22から同時に照射される位置に固定・保持される。
【0024】
図1から明らかなように、測定において、参照部となる金属薄膜15へは表面に抗体Igなどを固定させることなく、空気や水など一様な媒質で覆うことで、表面の状態が一定に保たれている。この状態にある参照部では抗体抗原反応が起こり得ないため、受光面が受光する参照部となる金属薄膜15からの反射光の変化は、光源22の強度ばらつきおよび光源22からCCD受光器23までの光路における偏光特性の変動によってのみ生じることになる。
また、参照部と検出部を分けることで、それぞれの金属薄膜13からの反射光強度を同じ偏光成分で評価することが出来るため、従来のような光路上において発生する反射、干渉による偏光特性の変化の影響を受けることも無い。
そのため、検出部となる金属薄膜13からの反射光の観測結果から、参照部となる金属薄膜15からの反射光の観測結果を割り引くことで、光源22の強度ばらつきおよび光源22からCCD受光器23までの光路における偏光特性の変動の影響を取り除いた、精度の高い共鳴角の検出を行うことが出来る。
【0025】
ここで参照部の観測結果を用いて、検出部の観測結果から光源22の強度ばらつきおよび光源22からCCD受光器23までの光路における偏光特性の変動の影響を取り除く方法について述べる。
図2(a)は検出部の反射光を観測しつづけた時の変化を表すグラフである。図中のt1およびt2は流路14への試薬の送液開始時間と終了時間を表しており、0〜t1とのシグナル強度と比較して、t1〜t2では金属薄膜13表面を流れる液体が切り替わったことによる表面の変化、t2以降は金属薄膜13表面に試薬内の抗原が抗原抗体Ig反応によって結合したことによる表面の変化を表している。図2(a)に示すグラフはこのような送液プロセスによる大きなシグナル変化に加えて、光源22の強度ばらつきおよび光源22からCCD受光器23までの光路における偏光特性の変動に起因するノイズがのった形をしている。
一方、参照部には試薬は流さないので、光源22の強度ばらつきおよび光源22からCCD受光器23までの光路における偏光特性の変動がノイズとして反映されただけとなり、参照部の反射光を観測したときの変化は、図2(b)に示すように、光源22の強度ばらつきおよび光源22からCCD受光器23までの光路における偏光特性の変動を表す信号のみとなる。
なお、例えば、第2のマイクロチップ基板12がガラスである場合、SPR測定開始時とある程度の時間が経過した際のガラス温度は相違するので、ガラスの温度変化は時間依存性を有する。よって、ガラスの応力歪みに起因する偏光特性は時間依存性を有する。すなわち、光路上に存在する各物質の状態に依存する偏光特性は時間依存性を有することになる。
【0026】
今、抗体抗原反応を含む送液プロセスがシグナルへ及ぼす影響の時間依存性をh(t)とし、光源22の強度ばらつきおよび光源22からCCD受光器23までの光路における偏光特性の変動がシグナルへ及ぼす影響の時間依存性を上記のようにg(t)とする。
図2(a)で表される検出部の観測シグナルISensingの時間変化f(t)は上記した時間依存性h(t)とg(t)の両方を含むので、ISensingの時間変化f(t)=h(t)*g(t)と表すことができる。
一方、図2(b)で表される参照部の観測シグナルIRefは光源22の上述のように、光源22の強度ばらつきおよび光源22からCCD受光器23までの光路における偏光特性(以下、光路における偏光特性とも言う)の変動のみを含むため、IRefの時間変化=g(t)と表すことが出来る。
Sensingの時間変化を表す式およびIRefの時間変化を表す式の中に含まれる光源22の強度ばらつきおよび光路における偏光特性の変動に相当する式g(t)は全く同一であることから、ISensingの時間変化を表す式をIRefの時間変化を表す式で割れば、抗原抗体Ig反応を含む送液プロセスがシグナルへ及ぼす影響の時間依存性、即ちh(t)のみを取り出すことが出来る。
すなわち、光源22の強度ばらつきおよび光路における偏光特性の変動を補正した検出部の観測シグナルIcorrectedの時間変化=ISensingの時間変化/IRefの時間変化=h(t)となり、図2(c)に示すような光源22の光の強度ばらつきおよび光路における偏光特性の変動を補正した検出部の観測シグナルのグラフを得ることが出来る。
【0027】
図2に示した例では、参照部となる金属薄膜15は、第1のマイクロチップ基板11と第2のマイクロチップ基板12が接合されることで形成される閉空間16内に含まれているが、必ずしもこれに限るものではない。例えば、図3に示すように第1のマイクロチップ基板11を貫通させた貫通部を設け、参照部となる金属薄膜15を空間に露出させてもよい。
図3から明らかなように、本構成においても参照部となる金属表面の状態は一様な媒質(空間的に一様であって、かつ時間的にも変化がない媒質)で覆われ一定に保たれる。そのため、当該参照部からの反射光の測定結果は、図1と同様、検出部の測定結果から光源22の強度ばらつきおよび光源22からCCD受光器23までの光路における偏光特性の変動の影響を取り除くために使用することが出来る。
【0028】
また、後述するように、上記閉空間16や貫通部を設けずに、金属薄膜15を第2のマイクロチップ基板12において、第1のマイクロチップ基板が接合されていない面(図2において下側の面)に設けたり、あるいは、上記閉空間16内の第1のマイクロチップ基板11側の面上に設ける等、第1のマイクロチップ基板11もしくは第2のマイクロチップ基板12上であって上記流路14外の位置に設けてもよい。
しかしながら、図3のように第1のマイクロチップ基板11を貫通し、参照部となる金属薄膜15を外界に露出させたり、第2のマイクロチップ基板12において、第1のマイクロチップ基板が接合されていない面に設けた場合、空気中の埃や測定中に使用する試薬、マイクロチップ10および装置使用者から発せられる唾液、汗等の飛沫により、参照部となる金属薄膜13表面に異物が付着し、測定中金属薄膜15の表面状態が測定中に変化する可能性がある。
【0029】
一方、図1のように第1のマイクロチップ基板11を貫通させること無く加工し、参照部を閉空間16に含ませる構造においては、埃や飛沫などの異物が金属薄膜15表面に付着することはない。そのため、上記のような金属薄膜15の表面状態が測定中に変化するという問題が起こることはない。
したがって、参照部となる金属薄膜15は図1に示すように、第1のマイクロチップ基板11を貫通させず、第1のマイクロチップ基板11と第2のマイクロチップ基板12との接合によって成る閉空間16内に含ませる構造にすることが望ましい。
【0030】
以上に基づき、本発明においては、以下のように前記課題を解決する。
(1)一方の面に溝部が形成されている第1のマイクロチップ基板と表面に金属薄膜が成膜されている第2のマイクロチップ基板とからなり、第1のマイクロチップ基板の溝部が形成されている面と第1のマイクロチップ基板の金属薄膜が成膜されている側の面とが接合されてなり、第1のマイクロチップ基板の溝部と第2のマイクロチップ基板表面とにより形成される流路内に上記金属薄膜が内包されていて、上記第2のマイクロチップ基板の上記金属薄膜が形成されている面とは反対側の面から上記金属薄膜に対して光照射し、上記金属薄膜上の試料に対して表面プラズモン共鳴測定を行う際に使用されるマイクロチップを次のように構成する。
試料を設置する検出部となる金属薄膜とは別に、第1のマイクロチップ基板もしくは第2のマイクロチップ基板上であって上記流路外に参照部となる金属薄膜を設ける。この参照部となる金属薄膜は一様な媒質で覆われている。
(2)上記(1)において、参照部となる金属薄膜を覆う一様な媒質を空気とする。
(3)上記(1)(2)において、参照部となる金属薄膜を第1のマイクロチップ基板と第2のマイクロチップ基板の接合により形成される閉空間内に含むように構成する。
(4)上記(1)(2)(3)において、固体撮像素子の有効エリア内で参照部となる金属薄膜を、流路の長手方向に垂直かつ検出部となる金属薄膜の中心を通る仮想線上からずれた位置に設ける。
(5)光源22と、上記(1)(2)(3)または(4)のマイクロチップと、上記マイクロチップを保持する試料固定部と、プリズムと、光検出器と制御部とを備え、光源から放出される光を上記マイクロチップの金属薄膜に対して照射し、上記金属薄膜からの反射光を光検出器で検出して金属薄膜上の試料特性を求める表面プラズモン共鳴センサ装置において、上記試料固定部は、上記光源からの光が上記マイクロチップの第1のマイクロチップ基板表面において裏面側より照射される領域である測定領域に、検出部となる金属薄膜と参照部となる金属薄膜とが位置するように上記マイクロチップを固定するように構成し、上記制御部には、参照部となる金属薄膜に照射され反射された光を受光した光検出器からの参照部となる金属薄膜に対する画像情報を解析し、検出部となる金属薄膜に照射され反射された光を受光した光検出器からの検出部となる金属薄膜に対する画像情報に含まれる光源から発せられた光の時間に対する強度ばらつきおよび上記光源から光検出器までの光路における偏光特性の変動の影響を除去するように演算する機能を設ける。
(6)上記(1)(2)(3)または(4)のマイクロチップにおける検出部となる金属薄膜と参照部となる金属薄膜で反射した同一の光源から発せられた光を光検出器で受光し、上記光検出器で得られた検出部からの反射光測定結果から金属薄膜の光反射面とは反対側の表面の状態を測定する表面プラズモン共鳴による測定方法であって、上記光検出器で得られた参照部に対する画像情報の解析により、光源から発せられた光の時間に対する強度ばらつきおよび上記光源から光検出器までの光路における偏光特性の変動を算出し、算出された光の時間に対する強度ばらつきおよび上記光源から光検出器までの光路における偏光特性の変動に基づき、検出部からの反射光測定結果から光源の強度ばらつきおよび上記光源から光検出器までの光路における偏光特性の変動の影響を取り除く。
【発明の効果】
【0031】
本発明においては、以下の効果を得ることができる。
(1)試料を設置する検出部となる金属薄膜とは別に、第1のマイクロチップ基板もしくは第2のマイクロチップ基板上であって上記流路外に参照部となる金属薄膜を設けたので、検出部となる金属薄膜に照射される光の強度のばらつきおよび上記光源から光検出器までの光路における偏光特性の変動が存在しても、参照部で反射された光の強度の測定結果から上記光のばらつきおよび偏光特性の変動を求め、これに基づき、同時に測定される検出部の測定結果から、このばらつきおよび偏光特性の変動の影響を排除することができる。このため、精度の高い共鳴角変化を検出することができる。
(2)参照部となる金属薄膜を一様な媒質で覆うことにより、金属薄膜の表面の状態を一定に保つことができ、参照部となる金属薄膜の反射光から光源の強度ばらつきおよび上記光源から光検出器までの光路における偏光特性の変動のみを検出することができる。
(3)参照部となる金属薄膜を第1のマイクロチップ基板と第2のマイクロチップ基板の接合により形成される閉空間内に含むように構成することにより、埃や飛沫などの異物が、参照部の金属薄膜表面に付着することはない。そのため、参照部の金属薄膜の表面状態が測定中に変化するという問題が起こるのを防ぐことができる。
(4)参照部となる金属薄膜を、流路の長手方向に垂直かつ検出部となる金属薄膜の中心を通る仮想線上からずれた位置に設けることにより、検出部となる流路と流路の間に、参照部となる金属薄膜が設けられる領域は存在せず、流路と流路の間の部分における両マイクロチップ基板同士の接合面積を比較的大きくすることができる。このため、両マイクロチップ基板間に、接合が不充分な部分が生ずるのを抑制することができる。
(5)上記マイクロチップ基板を使用する表面プラズモン共鳴センサ装置を、検出部と参照部を同時に照射する測定領域を実現する光源と、検出部と参照部からの反射光を同時に受光できる受光部となるCCD受光器から構成し、参照部からの反射光から光源から発せられた光の時間に対する強度ばらつきおよび上記光源からCCD受光器(光検出器)までの光路における偏光特性の変動を算出し、算出された光の時間に対する強度ばらつきおよび光路における偏光特性の変動に基づき、検出部からの反射光測定結果から光源の強度ばらつきおよび上記光源から光検出器までの光路における偏光特性の変動の影響を取り除くようにしたので、光源から発せられる光の強度ばらつきおよび上記光源から光検出器までの光路における偏光特性の変動が存在する場合でも、参照部の測定結果から強度ばらつきおよび偏光特性の変動のみを表すデータを得ることができ、同時に測定された検出部の測定結果から強度ばらつきおよび偏光特性の変動の影響を排除することができる。そのため、観測結果から精度の高い共鳴角変化を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明のマイクロチップの構造断面と、当該マイクロチップを用いた測定方法を説明する図である。
【図2】本発明における光強度のばらつきおよび光源から光検出器までの光路における偏光特性の変動の補正方法を説明する図である。
【図3】図1において参照部となる金属薄膜を空間に露出させた場合の構成を示す図である。
【図4】本発明の実施例のマイクロチップの外観図である。
【図5】本発明の実施例のマイクロチップ各部分の詳細説明図である。
【図6】図5において検出部となる金属薄膜の中心を通る仮想線上に参照部となる金属薄膜を設けた場合を示す図である。
【図7】参照部となる金属薄膜を流路長手方向に垂直かつ検出部となる金属薄膜の中心を通る仮想線上からずれた位置に設けた場合を説明する図である。
【図8】本発明の実施例のマイクロチップの変形例を示す図である。
【図9】本発明の実施例のマイクロチップを用いたSPRセンサ装置の構成例を示す図である。
【図10】位置決め機構の詳細図である。
【図11】SPRセンサ装置のおけるマイクロチップの位置決めを説明する図である。
【図12】SPRセンサの原理を説明する図である。
【図13】SPRセンサの構成例を示す図である。
【図14】光源からの光の強度のばらつきおよび光源から光検出器までの光路における偏光特性の変動により生ずる誤差を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
図4に本発明の実施例のマイクロチップの外観図、図5にマイクロチップ各部分の詳細説明図を示す。
従来のマイクロチップと同様、本発明のマイクロチップ10は一対の基板(第1のマイクロチップ基板11、第2のマイクロチップ基板12)が対向して接合された構造を有する。第1のマイクロチップ基板11は、例えば、ポリジメチルシロキサン(Polydimethylsiloxane:PDMS)などのシリコーン樹脂からなる。一方、上記したように第2のマイクロチップ基板12は、プリズム21と同じ材質のガラス基板からなる。なお、第2のマイクロチップ基板12、プリズム21の材質として環状オレフィン構造を有する樹脂を採用してもよい。
【0034】
マイクロチップ基板11,12の接合は、第1のマイクロチップ基板11表面に真空紫外光を照射して当該表面を活性化させた後、第2のマイクロチップ基板12を貼り合わせて行われる。具体的には、例えば特許文献3や特許文献4に示されているように、第1のマイクロチップ基板11に波長172nmに輝線を有するエキシマランプからの光を照射して当該表面に改質処理(酸化処理)を施し、ガラス基板である第2のマイクロチップ基板12を第1のマイクロチップ基板11の被改質処理表面に密着させて、両基板を接合する。
【0035】
図4、図5に示すマイクロチップ10において、第2のマイクロチップ基板12の表面に、例えば、幅10〜数100μm、深さ10〜数100μm程度の微細な流路14および、幅10〜数100μm、深さ10〜数100μm程度の微細な閉空間16が複数個形成されている。具体的には、第1のマイクロチップ基板11に形成された微細な溝部および凹部と第2のマイクロチップ基板12表面とにより、上記流路14および閉空間16が構成される。流路14は、検出部(比較参照部M1、測定部M2)のそれぞれに設けられ、流路14内には金属薄膜13が設けられる。
以下では、比較参照部M1の流路、金属薄膜をそれぞれ流路14a、金属薄膜13aといい、測定部M2の流路、金属薄膜をそれぞれ流路14b、金属薄膜13bという。また、閉空間16内に金属薄膜15が設けられた部分を参照部Nという。なお、比較参照部M1については後述する。
また、マイクロチップ10には位置決め用穴部17A,17Bが設けられており、図4、図5においては、上側(比較参照部M1側)に設けられた位置決め用穴部を17Aといい、下側(測定部M2側)に設けられた位置決め用穴部を17Bという。
【0036】
ここでマイクロチップ10に構成する流路14および閉空間16の数は1つでも複数でもよい。しかしながら複数回の測定を行う場合、流路14および閉空間16が1つの場合は測定の都度マイクロチップ10を交換する必要があるので測定に要する時間が長くなる。
一方、1つのマイクロチップ10に複数の流路14および閉空間16を設ける場合は、マイクロチップ10の測定位置を測定の都度ずらすだけで複数回の測定を短時間で行うことが可能となる。また、第1の基板11に溝部および凹部を1箇所成型する場合も複数箇所成型する場合も製造コストに差はあまりなく、1つのマイクロチップ10に複数の流路14および閉空間16を設ける場合、マイクロチップ10の接合工程が1回でよいので、流路14および閉空間16が1つのマイクロチップ10を複数個用意するよりもコストダウンとなる。よって、マイクロチップ10には複数個の流路14および閉空間16が形成される場合が多い。
【0037】
図5(a)に示すように、本実施例のマイクロチップ10には10個の流路14と5個の閉空間16が設けられている。詳細には、上記マイクロチップ10には、1列5個の流路14が2列設けられおり、各列の流路14および閉空間16は等間隔、かつ、ほぼ直線状に配置されている。
後で述べる測定例のように1回の測定で2つの流路14内の金属薄膜13と1つの閉空間16内の金属薄膜15を使用する場合、このマイクロチップ10では5回の測定を行うことが可能となっている。
【0038】
図5(b)(図5(a)のA−A断面図)に示すように、流路14(14b,14a)は検体流入口141、検体流出口142を有し、流路14(14b,14a)内には検出部(比較参照部M1,測定部M2)となる金属薄膜13(13b,13a)が設置される。金属薄膜13(13b,13a)は流路14(14b,14a)内の第2のマイクロチップ基板12の表面(すなわち、第1および第2のマイクロチップ基板11,12の接合面側の面)上に設けられる。金属薄膜13(13b,13a)はクロム(Cr)薄膜上に金(Au)薄膜が積層された構造を有する。
抗体抗原反応をモニタリングする場合、金属薄膜13(13b,13a)上に抗体Ig(抗原受容体)が設置される。まず金属薄膜13(13b,13a)として採用した上記したAu薄膜と例えばアルカンチオールとを反応させて当該Au薄膜上に自己組織化膜(Self Assembled Monolayer:SAM膜)が形成される。そしてこのSAM膜と抗体Igとを化学的に結合させることにより、抗体IgがSAM膜上に固定される。すなわち、金属薄膜13(13b,13a)上に抗体Igが固定される。
【0039】
図5(c)(図5(a)のB−B断面図)に示すように、上記マイクロチップ10には閉空間16内にも参照部Nとなる金属薄膜15が5箇所設置される。金属薄膜15は閉空間16内の第2のマイクロチップ基板12表面(すなわち、第1および第2のマイクロチップ基板11,12の接合面側の面)上に設けられる。金属薄膜15はクロム(Cr)薄膜上に金(Au)薄膜が積層された構造を有する。これら参照部Nとなる金属薄膜15は、測定中表面状態が一定になるよう保たれ、少なくとも一つの参照部となる金属薄膜15が、測定時、上記検出部となる金属薄膜13(13b,13a)と同時に図5(a)で示される測定領域R内に含まれることが必要となる。
例えば、1回の測定で2流路14a,14b内の金属薄膜13a,13bと1閉空間16内の金属薄膜15を使用する場合、検出部(比較参照部M1,測定部M2)となる2流路14a,14b内の金属薄膜13a,13bと参照部Nとなる1閉空間16内の金属薄膜15とが測定領域R内に含まれることが必要となる。
ここで、測定領域Rとは、光源22からの光がプリズム21を介して第2のマイクロチップ基板12の金属薄膜13a,13b,15が形成されている面を裏面側から照射する領域である。
SPR測定装置において、光源22からの光をこの検出部(比較参照部M1、測定部M2)と参照部Nの金属薄膜13a,13b,15に同時に照射し、検出部(比較参照部M1、測定部M2)と参照部Nからの反射光を光検出器であるCCD(固体撮像素子)受光器23で受光することにより、それぞれの反射光強度変化を画像情報として同時に検出でき、画像情報の解析より得られた参照部Nの測定結果を用いて、検出部(比較参照部M1、測定部M2)の測定結果から光源22の強度ばらつきおよび光源22からCCD受光器23までの光路における偏光特性の変動の影響を取り除くことが出来る。
【0040】
図5に示した例では、閉空間16内の参照部Nとなる金属薄膜15を、流路14a,14bの長手方向に垂直かつ検出部(比較参照部M1、測定部M2)となる流路14a,14b内の金属薄膜13a,13b(1回の測定で2流路内の金属薄膜を使用する場合、検出部(比較参照部M1、測定部M2)となる金属薄膜は13a,13bの2つとなる)の中心を通る仮想線上からずれた位置に設けているが、必ずしもこれに限るものではない。例えば、図6(a)に示すように検出部となる金属薄膜13a,13bの中心を通る仮想線上に参照部Nとなる金属薄膜15を設けてもよい。
この場合は、図6(b)に示す図6(a)のE−E断面拡大図から明らかなように、一つの断面上に検出部(比較参照部M1)を含む流路14a、光源22の強度ばらつきおよび光源22からCCD受光器23までの光路における偏光特性の変動を取り除くための参照部Nを含む閉空間16、検出部(測定部M2)を含む流路14bが並列することになる。
【0041】
ここで、例えば製造時に発生するばらつきにより、検出部(比較参照部M1、測定部M2)となる金属薄膜13a,13bや参照部Nとなる金属薄膜15の第2のマイクロチップ10表面上に占める面積が、設計における当該面積よりも一回り大きくなると、図6(c)のように検出部(比較参照部M1、測定部M2)となる金属薄膜13a、13bと参照部Nとなる金属薄膜15の一部が、第1のマイクロチップ基板11と第2のマイクロチップ基板12に挟まれてなる接合阻害部Hが形成されることになり、結果として両マイクロチップ基板同士の接合面積が小さくなる。
特に、検出部(比較参照部M1、測定部M2)となる金属薄膜13aや金属薄膜13bの中心を通る仮想線上に参照部Nとなる金属薄膜15を設ける場合、図6(c)に示すように、流路14aと閉空間16とを分離する部位や、流路14bと閉空間16とを分離する部位における両マイクロチップ基板同士の接合面積は著しく小さくなる。
このような状態では、測定時のハンドリングで生じる衝撃や薬液の送液などによる負荷が流路14a,14bと閉空間16とを分離する部位に加えられると、当該部位の接合が容易に破られ、検出部を内包する流路14aや流路14bから試薬等が閉空間16内に流入する可能性がある。
【0042】
一方、図5(a)に示すように、参照部となる金属薄膜15を流路14a,14bの長手方向に垂直かつ検出部となる金属薄膜13a,13bの中心を通る仮想線上からずれた位置に設けた場合、図7(d)に示す図5(a)のC−C断面拡大図から明らかなように、流路14aと流路14bとを含む一つの断面上において流路14aと流路14bとの間に閉空間16は存在せず、流路14aと流路14bとを分離する部位における両マイクロチップ基板同士の接合面積も比較的大きくなる。
そのため、製造時に発生するばらつきにより、検出部(比較参照部M1、測定部M2)となる金属薄膜13a、13bや参照部Nとなる金属薄膜15の第2のマイクロチップ10表面上に占める面積が設計における当該よりも大きくなって、図7(e)に示すように接合阻害部Hが形成されたとしても、流路14aと流路14bとを分離する部位における両マイクロチップ基板同士の接合面積は比較的大きいため、上記接合阻害部がもたらす接合面積の減少の影響は小さくなる。
【0043】
また、図7(f)に示す図5(a)のD−D断面拡大図から明らかなように、閉空間16を含む一つの断面上において、閉空間16の両側には流路14aおよび流路14bは存在するが、検出部(比較参照部M1、測定部M2)となる金属薄膜13a、13bは存在しない。
そのため、製造時に発生するばらつきにより、検出部(比較参照部M1、測定部M2)となる金属薄膜13a,13bや参照部Nとなる金属薄膜15の第2のマイクロチップ10表面上に占める面積が設計における当該よりも大きくなって、図7(g)に示すように、接合阻害部Hが形成されたとしても、閉空間16を含む一つの断面上には検出部(比較参照部M1、測定部M2)となる金属薄膜13a、13bが存在しない。よって、当該断面上において形成され得る接合阻害部Hは、金属薄膜15に起因するもののみとなる。
よって、図6(a)に示すような検出部(比較参照部M1、測定部M2)となる金属薄膜13a,13bの中心を通る仮想線上に参照部Nとなる金属薄膜15を設ける場合と比較すると、接合阻害部がもたらす流路14aと閉空間16とを分離する部位や、流路14bと閉空間16とを分離する部位における両マイクロチップ基板同士の接合面積の減少は抑制され、閉空間16は比較的強固に保たれることになる。
したがって、参照部Nとなる金属薄膜15は、流路14a,14bの長手方向に垂直かつ検出部となる金属薄膜13a,13bの中心を通る仮想線上からずれた位置に設ける方が望ましい。
【0044】
図8に前記実施例のマイクロチップの変形例を示す。本変形例のマイクロチップは、図4、図5に示したマイクロチップと同様に一対の基板接合された構造を有し、比較参照部M1測定部M2と、参照部Nを備えており、基本的構成は図4、図5に示したものと同様である。
図8(a)のA−A断面は、図8(b)に示すように図5(b)に示したものと同様であるが、図8(a)のB−B断面に示すように、参照部Nの構造が図5(b)に示したものと相違している。
すなわち、参照部Nを構成する金属薄膜15が、閉空間16の上側の面、すなわち、閉空間16内であって第1のマイクロチップ基板11面上に設けられている。
本実施例のマイクロチップにおいて、前記図4、図5に示したマイクロチップと同様、光源からの光が第2のマイクロチップ基板12を介して、参照部Nの金属薄膜15に入射して、反射し、比較参照部M1、測定部M2の金属薄膜13a,13bで反射した光とともに、光検出器であるCCD(固体撮像素子)受光器23で受光される。
【0045】
図9に、上記本発明の実施例のマイクロチップ10を用いたSPRセンサ装置の構成例を示す。なおここでは、上記SPRセンサ装置を、抗体抗原反応をモニタリングするバイオセンサとして使用する場合を例に取る。
ここで図9(a)はSPRセンサ装置の側面図、図9(b)はSPRセンサ装置の上面図、図9(c)は図9(d)のB−B断面図、図9(d)は図9(b)のA−A断面図である。
【0046】
図9に示すSPR装置は、底面側に設けられた底板33(図9(c)(d)参照)と、側面側に設けられた2枚の長手方向側板32(図9(b)(c)参照)および2枚の側板31(図9(a)(b)参照)と、上面側に設けられた2枚の試料固定部24(図9(b)(c)参照)とから構成される筐体構造を有する。
なお、図9において、2枚の試料固定部24の間隔は、第2のマイクロチップ基板12の短手方向の長さよりも狭く、測定領域内に含まれる第二のマイクロチップ基板上の金属薄膜13a,13b,15への光照射を妨げない程度に広く設定されている。
【0047】
SPRセンサ装置上に設置されたマイクロチップ10は、マイクロチップ10に設けられた流路14a,14bおよび閉空間16が、所定の測定領域Rに位置するよう位置決めされる。
試料固定部24の裏面側には、プリズム保持部21aにより保持されたプリズム21、光源22、偏光子22a、レンズ22b、CCD受光器23が設けられ、流路14a,14bおよび閉空間16が所定の測定領域Rに位置決めされると、プリズム駆動機構21bによりプリズム21がマイクロチップ10の下面に接触し、光源22から放出され偏光素子22aによりP偏光となった光は、流路14a,14b内の金属薄膜13a,13bおよび参照部Nに相当する閉空間16内の金属薄膜15に照射され、反射光がCCD受光器23に入射する。
【0048】
前記図5(a)に示したように、本実施例のマイクロチップ10には10個の流路14a,14bと5個の閉空間16が設けられている。図5に示す例においては、10個の流路14a,14bのうちの検出部(比較参照部M1、測定部M2)となる2個の流路14a,14b内の金属薄膜13a,13bと、5個の閉空間16のうちの1つの参照部Nに光が照射されるように、上記測定領域Rは設定されている。すなわち、1つのマイクロチップ10で5回の測定が可能となっている。なお、後で述べるように、2個の流路14a,14b内の各金属薄膜13a,13bはそれぞれ比較参照部M1、測定部M2として用いられる。
【0049】
マイクロチップ10の位置決めは図9に示す位置決め機構25によって行われる。
図10に位置決め機構の詳細図を示す。
位置決め機構25は、位置決め機構本体25aと位置決めピン25bと固定用ねじ25cとからなる。位置決めピン25cは位置決め機構本体25aに嵌め込まれており、位置決めピン25cの一部は位置決め機構本体25aの下面より突出している。ここで、突出長さをd、試料固定部の厚みをt1、第1のマイクロチップ基板11の厚みをt2、第2のマイクロチップ基板12の厚みをt3としたとき、これらの長さにはt2+t3<dなる関係がある。また、位置決めを確実にするためには、d≧t1+t2+t3なる関係を満足することが望ましい。一方、固定用ねじ25cは位置決め機構本体25aに設けられた固定用ねじ貫通穴部25dに挿入される。
【0050】
図4、図5(a)、図8(a)に示したように、マイクロチップ10の長手方向側の両側において、一方には位置決め用穴部17A(A1,A2,A3,A4,A5)が所定の間隔Lで複数個設けられ、他方には位置決め用穴部17B(B1,B2,B3,B4,B5)が所定の間隔Lで複数個設けられている。位置決め用穴部17Aと位置決め用穴部17Bは、それぞれ1個ずつ、各穴部の中心が、マイクロチップ10の長手方向に直交する直線上にほぼ位置するように設定されている。すなわち、位置決め用穴部A1と位置決め用穴部B1との中心、位置決め用穴部A2と位置決め用穴部B2との中心、位置決め用穴部A3と位置決め用穴部B3との中心、位置決め用穴部A4と位置決め用穴部B4との中心、位置決め用穴部A5と位置決め用穴部B5との中心が、それぞれ、マイクロチップ10の長手方向に直交する直線上にほぼ位置するように設定されている。この直線上の位置決め用穴部17Aと位置決め用穴部17Bを、以下、一対の位置決め用穴部と称することにする。
【0051】
図5(a)、図8(a)に示すように、一対の位置決め穴部17A,17Bと検出部(比較参照部M1、測定部M2)における流路14a(a1,a2,a3,a4,a5),流路14b(b1,b2,b3,b4,b5)中の金属薄膜13a(c1.c2.c3.c4.c5)、金属薄膜13b(d1,d2,d3,d4,d5)および参照部Nにおける閉空間16(x1,x2,x3,x4,x5)の金属薄膜15(y1,y2,y3,y4,y5)との位置関係は一定に設定されている。
すなわち、一対の位置決め穴部A1,B1と流路a1中の金属薄膜c1,流路b1中の金属薄膜d1,閉空間x1中の金属薄膜y1との位置関係と、一対の位置決め穴部A2,B2と流路a2中の金属薄膜c2,流路b2中の金属薄膜d2,閉空間x2中の金属薄膜y2との位置関係とは同一である。
同様に、これらの位置関係は、一対の位置決め穴部A3,B3と流路a3中の金属薄膜c3,流路b3中の金属薄膜d3,閉空間x3中の金属薄膜y3との位置関係、一対の位置決め穴部A4,B4と流路a4中の金属薄膜c4,流路b4中の金属薄膜d4,閉空間x4中の金属薄膜y4との位置関係、一対の位置決め穴部A5,B5と流路a5中の金属薄膜c5,流路b5中の金属薄膜d5,閉空間x5中の金属薄膜y5との位置関係と同一である。
【0052】
一方、図9、図10に示すように、SPR装置の試料固定部24には、位置決めピン貫通穴部24bと固定用ねじ穴部24aが設けられている。これらの穴部は各試料固定部24にそれぞれ一箇所ずつ設けられている。そして図9(b)に示すように、2つの位置決めピン貫通穴部24bの中心が試料固定部24の長手方向に直交する直線上にほぼ位置するように、各試料固定部24における上記位置決めピン貫通穴部24bの位置が設定されている。
この各試料固定部24に設けられたほぼ同一直線上にある2つの位置決めピン貫通穴部24bの各中心位置と、マイクロチップ10に設けられた一対の位置決め用穴部17A,17Bの各中心位置とを略一致させることにより、マイクロチップ10の位置決めが行われる。
【0053】
マイクロチップ10の位置決めは以下のように行われる。まず、SPRセンサ装置の試料固定部24に設置されたマイクロチップ10の一対の位置決め用穴部17A,17Bと各試料固定部24にそれぞれ設けられた位置決めピン貫通穴部24bとの位置を合わせる。次に、位置決め機構本体25aの下面から突出した位置決めピン25bが位置決め用穴部17A,17Bおよび位置決めピン貫通穴部24bの双方に挿入されるように、マイクロチップ10の位置を調整する。この後固定用ねじ25cと試料固定部24に設けられている固定用ねじ穴部24aとにより各位置決め機構25をねじ止めする。
【0054】
ここで、マイクロチップ10に設けられた一対の位置決め用穴部17A,17Bの位置と試料固定部24に設けられた位置決めピン貫通穴部24bの位置は、マイクロチップ10が位置決めされたときこのマイクロチップ10の2つの流路14a,14bおよび1つの閉空間16が測定領域Rに位置するように各々設定されている。
すなわち、図5における一対の位置決め用穴部A1およびB1と、各位置決めピン貫通穴部24bとが位置決めされると、検出部(後述する比較参照部M1)に相当する流路a1内の金属薄膜c1と検出部(後述する測定部M2)に相当する流路b1内の金属薄膜d1と参照部Nに相当する閉空間x1内の金属薄膜y1とが測定領域R内に位置決めされる。
【0055】
同様に、一対の位置決め用穴部A2およびB2と各位置決めピン貫通穴部24bとが位置決めされると流路a2内の金属薄膜c2と流路b2内の金属薄膜d2と閉空間x2内の金属薄膜y2とが測定領域R内に位置決めされ、一対の位置決め用穴部A3およびB3と各位置決めピン貫通穴部24bとが位置決めされると流路a3内の金属薄膜c3と流路b3内の金属薄膜d3と閉空間x3内の金属薄膜y3とが測定領域R内に位置決めされ、一対の位置決め用穴部A4およびB4と各位置決めピン貫通穴部24bとが位置決めされると流路a4内の金属薄膜c4と流路b4内の金属薄膜d4と閉空間x4内の金属薄膜y4とが測定領域内に位置決めされ、一対の位置決め用穴部A5およびB5と各位置決めピン貫通穴部とが位置決めされると流路a5内の金属薄膜c5と流路b5内の金属薄膜d5と閉空間x5内の金属薄膜y5とが測定領域内に位置決めされる。
【0056】
以下、SPR装置を用いて、試薬中の抗原濃度を測定する場合の測定手順の例を示す。
測定には2つの流路14(14a,14b)と1つの閉空間16を用いる。図5(a)に示すように、測定領域に位置する2つの流路14a,14bのうち、一方の流路14aは比較参照部M1として用いられ、他方の流路14bは検体中の抗原濃度を測定するための測定部M2として用いられる。すなわち、図5において検出部とは比較参照部M1と測定部M2の2つの金属薄膜13a,13bをまとめて表している。一方、閉空間16は得られた測定結果から光源22の強度ばらつきおよび光源22からCCD受光器23までの光路における偏光特性の変動の影響を排除するための参照部Nとして用いられる。
【0057】
(1)まず、プリズム保持部21aに設置されたプリズム21表面にマッチングオイルMOを塗布する。
制御部40によりプリズム駆動機構21bの駆動を制御して、プリズム保持部21aの位置を上方に移動させ、マッチングオイルM0が塗布されたプリズム21表面と、マイクロチップ10の下面(第2のマイクロチップ基板12の下面)とを接触させる。上記したように、第2のマイクロチップ基板12はプリズム21と同じ材質のガラス基板であり、マッチングオイルはこのガラス材料と同一の屈折率をもった媒質であるので、マイクロチップ10とプリズム21とは光学的に接合される。
【0058】
(2)制御部40により光源22を駆動する。光源22は、例えば、半導体レーザ光源22(以下、LD光源22ともいう)であり、例えば波長760nmの光を放出する。このLD光源22から放出された光は偏光素子22aによりP偏光の光となり、レンズ22bによって平行光にコリメートされる。
(3)この平行光は、測定領域Rにある比較参照部M1に相当する流路14a内の金属薄膜13aと測定部M2に相当する流路14b内の金属薄膜13bおよび参照部Nに相当する閉空間16内の金属薄膜15に照射され、3箇所の金属薄膜13a,13b,15による反射光がCCD受光器23に到達する。
【0059】
(4)次に図示を省略した検体供給手段により、濃度が既知である抗原を含有する液体状の検体を比較参照部M1の流路14aの検体流入口141より注入し、検体流出口142より排出させる。これにより、流路14a中の金属薄膜13a上に固定されている抗体Igと抗原とが反応して結合する。
(5)一方、同じく図示を省略した検体供給手段により、抗原濃度が未知である抗原を含有する液体状の検体を測定部M2の流路14bの検体流入口141より注入し、検体流出口142より排出させる。これにより、流路14b中の金属薄膜13b上に固定されている抗体Igと抗原とが反応して結合する。
(6)ここで比較参照部M1、測定部M2に注入・排出する検体は、含有する抗原の濃度が相違するので、比較参照部M1、測定部M2の各々の金属薄膜13a,13bに固定された抗体Igの状態も相違する。よって、各金属薄膜13a,13b表面での屈折率変化や表面プラズモン共鳴角も相違するので、SPRにより強度が減衰した反射光のCCD受光器23受光面上の強度も互いに相違する。
【0060】
一方、閉空間16内の参照部Nとなる金属薄膜15は抗体抗原反応の間も、その表面の状態は一定に保たれているため、測定中、光源22からの光の強度ばらつきおよび光源22からCCD受光器23までの光路における偏光特性の変動以外に受光面上の強度を変化させる要因を持たない。そのため、比較参照部M1、測定部M2の各々の金属薄膜13a,13bからの反射光は、抗原抗体反応による表面状態の変化と光源22の強度ばらつきおよび光源22からCCD受光器23までの光路における偏光特性の変動の影響が交じり合っているが、参照部Nの金属薄膜15からの反射光は光源22の強度ばらつきおよび光源22からCCD受光器23までの光路における偏光特性の変動の影響のみを含んだものであるとみなすことが出来る。
【0061】
制御部40は、CCD受光器23受光面に到達した3つの金属薄膜13a,13b,15からの反射光の強度を画像情報として受信し、比較参照部M1と測定部M2の共鳴角変化を解析・比較して、金属薄膜13a,13b表面にて発生した抗体抗原反応の状態(抗体Igと抗原との結合特性等)を特定する。例えば、測定部M2に注入した検体内の抗原濃度が算出されるが、この時参照部Nからの測定結果を用いて上記2つの測定結果から光源22の強度ばらつきおよび光源22からCCD受光器23までの光路における偏光特性の変動の影響を排除することで、さらに精度の高い結果を得ることができる。
すなわち、制御部40は、前記したように検出部(測定部M2および比較参照部M1)の観測シグナルISensingの時間変化を参照部Nの観測シグナルIRefの時間変化を用いて光源22の強度ばらつきおよび光源22からCCD受光器23までの光路における偏光特性の変動を補正した検出部の観測シグナルIcorrectedの時間変化を求める。そして、測定部の光源22の強度ばらつきおよび光源22からCCD受光器23までの光路における偏光特性の変動の補正シグナルと、比較参照部M1の光源22の強度ばらつきおよび光源22からCCD受光器23までの光路における偏光特性の変動の補正シグナルとを用いて、比較参照部M1と測定部M2の共鳴角変化を解析・比較して、金属薄膜13b表面にて発生した抗体抗原反応の状態(抗体Igと抗原との結合特性等)を特定する。
【0062】
(7)図5の流路a1とb1および閉空間x1の隣に位置する流路a2とb2および閉空間x2を用いて2回目の測定を行う場合は、以下の手順で行う。まず、制御部40によりプリズム駆動機構21bの駆動を制御して、プリズム保持部21aの位置を下方に移動させ、マッチングオイルが塗布されたプリズム21表面と、マイクロチップ10の下面(第2のマイクロチップ基板12の下面)とを離間させる。
(8)次に、マイクロチップ10の位置決めを行う。図11に2回目以降の位置決め手順を示す。図11(a)は1回目の測定におけるマイクロチップ10の配置を示す。測定領域には、比較参照部M1および測定部M2の流路に相当する流路a1とb1と参照部用の閉空間16に相当するx1が位置している。
図11(b)に示すように、まず位置決め機構25が解除され、次に流路a2とb2および閉空間x2が測定領域に位置するようマイクロチップ10が矢印方向に移動する。そして、一対の位置決め用穴部A2およびB2(図5(a)参照)の各中心位置と、各試料固定部24に設けられた2つの位置決めピン貫通穴部24b(図9(a)、図10参照)の各中心位置とを略一致させる。次に、図11(c)に示すように、位置決め機構25により、マイクロチップ10の位置決めを行う。
【0063】
(9)その後、上記した手順(1)〜(6)を実行することにより2回目の測定が行われる。
(10)流路a3とb3および閉空間x3を用いた3回目の測定、流路a4とb4および閉空間x4を用いた4回目の測定、流路a5とb5および閉空間x5を用いた5回目の測定も、上記した2回目の測定と様な手順を経て行われる。すなわち、試料固定部24の長さは、マイクロチップ10の流路a1とb1および閉空間x1を測定する場合も、マイクロチップ10の流路a5とb5および閉空間x5を測定する場合もマイクロチップ10を上記試料固定部上面に設置することが可能な長さとなっている。
【0064】
2回目〜5回目の測定においても、それぞれの測定時に測定領域内にある閉空間16内の参照部Nから得られる測定結果を用いて、光源22の強度ばらつきおよび光源22からCCD受光器23までの光路における偏光特性の変動に関するデータを得ることができ、それを用いて測定部と比較参照部からの反射光による測定結果から強度ばらつきおよび偏光特性の変動の影響を排除し、精度の高い共鳴角の検出および抗原濃度検出などの測定を行うことが出来る。
【0065】
以上のように、本発明のマイクロチップ10は、一方の面に溝部が形成されている第1のマイクロチップ基板11と第2のマイクロチップ基板12とを接合した構造であって、第2のマイクロチップ基板12の接合面上に表面プラズモン共鳴を用いた測定用の金属薄膜13が施される以外に、第1のマイクロチップ基板11と第2のマイクロチップ基板12とを接合することで外界から遮断した閉空間16内に金属薄膜15が設けられる構造を有しているため、光源22の強度ばらつきおよび光源22からCCD受光器23までの光路における偏光特性の変動のみを測定することができる。そのため、閉空間16内の金属薄膜13からの反射光の測定結果を用いて、検出部となる金属薄膜13の反射光の測定結果から光源22の強度ばらつきおよび光源22からCCD受光器23までの光路における偏光特性の変動の影響を排除し、精度の高い観測結果を得ることができる。
【0066】
特に、第2のマイクロチップ基板12がガラスもしくは環状オレフィン構造を持つ樹脂からなり、第1のマイクロチップ基板11と比較して第2のマイクロチップ基板12の方が大きくなるように構成すると、両者を接合した際、第2のマイクロチップ基板12の接合面は第1のマイクロチップ基板11から突出した状態となる。マイクロチップ10の支持は、第2のマイクロチップ基板12と試料固定部上面とにより行われる。第2のマイクロチップ基板12はガラスや環状オレフィン構造を有する樹脂といった比較的硬い材質からなるので、マイクロチップ10に作用する重力の影響を受けても変形せず、また、マッチングオイルを介したプリズム21接合時や検体供給手段の検体送液用チューブをマイクロチップ10の流路14に接続する際にプリズム21やチューブを介してマイクロチップ10に対してある程度の力が作用しても変形しない。そのため、第2のマイクロチップ基板12上にある金属薄膜13の位置が測定中にずれてしまう可能性は生じない。
【0067】
ここで、マイクロチップ10に金属薄膜13を内部に内包する流路14を複数設ける場合、各流路14内の金属薄膜13の位置が同一直線上に配置されていると、各測定を行う場合のマイクロチップ10の位置決めは、この同一直線と同じ方向にずらすことにより行うことができる。すなわち、図5(a)に示すように、金属薄膜c1、c2、c3、c4、c5の位置をほぼ同一線上に配置し、金属薄膜d1、d2、d3、d4、d5の位置をほぼ同一線上に配置し、金属薄膜y1、y2、y3、y4、y5の位置をほぼ同一線上に配置することにより、マイクロチップ10をこの直線と同方向の一次元方向に移動させることにより、金属薄膜c1とd1とy1、c2とd2とy2、c3とd3とy3、c4とd4とy4、c5とd5とy5をそれぞれ測定領域内に配置することができる。
【0068】
本発明のマイクロチップ基板を使用するSPRセンサ装置は、検出部(比較参照部M1、測定部M2)と参照部Nを同時に照射する測定領域を実現する光源22と、検出部(比較参照部M1、測定部M2)と参照部Nからの反射光を同時に受光できる受光部となるCCD受光器23を有している。よって、光源22から発せられる光に強度ばらつきおよび光源22からCCD受光器23までの光路における偏光特性の変動が存在する場合でも、参照部Nの測定結果から強度ばらつきおよび偏光特性の変動のみを表すデータを得ることができ、同時に測定された検出部(比較参照部M1、測定部M2)の測定結果から強度ばらつきおよび偏光特性の変動の影響を排除することができる。そのため、観測結果から精度の高い共鳴角変化を検出することができる。
【符号の説明】
【0069】
10 マイクロチップ
11 第1のマイクロチップ基板
12 第2のマイクロチップ基板
13,13a,13b 金属薄膜
14,14a,14b 流路
141 検体流入口
142 検体流出口
15 金属薄膜
16 閉空間
17A,17B 位置決め用穴部
20 SPRセンサ装置(表面プラズモン共鳴測定装置)
21 プリズム
21a プリズム保持部
22 光源
22a 偏光子
22b レンズ
23 CCD受光器
24 試料固定部
24a 固定用ねじ穴部
24b 位置決めピン貫通穴部
25 位置決め機構
25a 位置決め機構本体
25b 位置決めピン
25c 固定用ねじ
25d 固定用ねじ貫通穴部
31 側板
32 長手方向側板
33 底板
34 マイクロチップ搬入・退出部
35 押付け機構
35a 押付け機構保持部
40 制御部
Ig 抗体
L 基準面
M1 比較参照部
M2 測定部
N 参照部
MO マッチングオイル
R 測定領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の面に溝部が形成されている第1のマイクロチップ基板と表面に金属薄膜が成膜されている第2のマイクロチップ基板とからなり、第1のマイクロチップ基板の溝部が形成されている面と第2のマイクロチップ基板の金属薄膜が成膜されている側の面とが接合されてなり、
第1のマイクロチップ基板の溝部と第2のマイクロチップ基板表面とにより形成される流路内に上記金属薄膜が内包されていて、上記第2のマイクロチップ基板の上記金属薄膜が形成されている面とは反対側の面から上記金属薄膜に対して光照射し、上記金属薄膜上の試料に対して表面プラズモン共鳴測定を行う際に使用されるマイクロチップにおいて、
試料を設置する検出部となる金属薄膜とは別に、第1のマイクロチップ基板もしくは第2のマイクロチップ基板上であって上記流路外に参照部となる金属薄膜が設けられていて、この参照部となる金属薄膜は一様な媒質で覆われている
ことを特徴とするマイクロチップ。
【請求項2】
参照部となる金属薄膜を覆う一様な媒質を空気とする
ことを特徴とする請求項1に記載のマイクロチップ。
【請求項3】
参照部となる金属薄膜を第1のマイクロチップ基板と第2のマイクロチップ基板の接合により形成される閉空間内に含む
ことを特徴とする請求項1、2のいずれか1項に記載のマイクロチップ。
【請求項4】
固体撮像素子の有効エリア内で参照部となる金属薄膜を、流路の長手方向に垂直かつ検出部となる金属薄膜の中心を通る仮想線上からずれた位置に設ける
ことを特徴とする請求項1、2、3のいずれか1項に記載のマイクロチップ。
【請求項5】
光源22と、請求項1、2、3、4のいずれか1項に記載のマイクロチップと、上記マイクロチップを保持する試料固定部と、プリズムと、光検出器と制御部とを備え、光源から放出される光を上記マイクロチップの金属薄膜に対して照射し、上記金属薄膜からの反射光を光検出器で検出して金属薄膜上の試料特性を求める表面プラズモン共鳴センサ装置において、
上記試料固定部は、上記光源からの光が上記マイクロチップの第2のマイクロチップ基板表面において裏面側より照射される領域である測定領域に、検出部となる金属薄膜と参照部となる金属薄膜とが位置するように上記マイクロチップを固定するものであって、
上記制御部は、参照部となる金属薄膜に照射され反射された光を受光した光検出器からの参照部となる金属薄膜に対する画像情報を解析し、検出部となる金属薄膜に照射され反射された光を受光した光検出器からの検出部となる金属薄膜に対する画像情報に含まれる光源から発せられた光の時間に対する強度ばらつきおよび上記光源から光検出器までの光路における偏光特性の変動の影響を除去するように演算する機能を含む
ことを特徴とする表面プラズモン共鳴センサ装置。
【請求項6】
請求項1、2、3、4のいずれか1項に記載のマイクロチップにおける検出部となる金属薄膜と参照部となる金属薄膜で反射した同一の光源から発せられた光を光検出器で受光し、
上記光検出器で得られた検出部からの反射光測定結果から金属薄膜の光反射面とは反対側の表面の状態を測定する表面プラズモン共鳴による測定方法であって、
上記光検出器で得られた参照部に対する画像情報の解析により、光源から発せられた光の時間に対する強度ばらつきおよび上記光源から光検出器までの光路における偏光特性の変動を算出し、算出された光の時間に対する強度ばらつきおよび上記光源から光検出器までの光路における偏光特性の変動に基づき、検出部からの反射光測定結果から光源の強度ばらつきおよび上記光源から光検出器までの光路における偏光特性の変動の影響を取り除く
ことを特徴とする表面プラズモン共鳴による測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−251810(P2012−251810A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−123164(P2011−123164)
【出願日】平成23年6月1日(2011.6.1)
【出願人】(000102212)ウシオ電機株式会社 (1,414)
【Fターム(参考)】