説明

表面保護フィルム

【課題】展開性に優れ、表面の凹凸が極めて小さい被着体に適用した場合でも粘着昂進が抑制される表面保護フィルムを提供すること。
【解決手段】粘着剤層がプロピレン系重合体と、芳香族アルケニル化合物単位が連続し、芳香族アルケニル化合物単位を主体とする重合体ブロックAと、共役ジエン単位と芳香族アルケニル化合物単位がランダムに含まれる芳香族アルケニル−共役ジエン共重合体ブロックであって芳香族アルケニル化合物単位含有率が10〜35重量%である重合体ブロックBを有し、全体の芳香族アルケニル化合物単位含有率が30〜50重量%であり、重合体ブロックAの総量と重合体ブロックBの総量との重量比(A:B)が5:95〜25:75である芳香族アルケニルブロック重合体とを含有し、芳香族アルケニルブロック重合体とプロピレン系重合体との合計重量に占めるプロピレン系重合体の割合が25〜60重量%である表面保護フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面保護フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、光学デバイス、金属板、塗装した金属板、樹脂板、ガラス板等、種々の部材の表面を保護するために、フィルム状の基材の一方面に粘着剤層が積層されてなる表面保護フィルム(一般に、プロテクトテープ、マスキングテープ、または表面保護シートなどと称される場合もある。)が広く用いられている。特に、近年、光学シートのような液晶ディスプレイ用の光学部材に表面保護フィルムが使用されている。
【0003】
ところで、一般に、表面保護フィルムは、長尺状のフィルムをロール状に巻回した巻回体として工業的に製造されている。このような巻回体とした表面保護フィルムでは、巻回体の巻き戻しに必要な力(展開力)が高く、かつ経時による展開力の上昇が大きくなりやすいことが知られているが、展開力が小さいこと、すなわち巻回体の巻戻しが容易にできることが強く求められている。
また、表面保護フィルムは、使用後には剥離除去されるため、スムーズな剥離性等が要求されている。
【0004】
一方、光学シートの素材としては、アクリル系の樹脂およびポリカーボネート系の樹脂、PET等の極性ポリマーが多用されている。これら光学シートは、表面保護フィルムを貼り付けた後に光学デバイスメーカーに出荷されるが、その運搬、保管中等において高温に曝されることがある。
ここで、時間および温度などの外因によって被着体と粘着剤層と間の接触面積が増加することによる粘着力の上昇、いわゆる粘着昂進の問題がある。
【0005】
一般に、粘着剤としてはアクリル系粘着剤が広く用いられているが、アクリル系粘着剤は、経時による粘着力の上昇が特に大きい。
【0006】
このようなことから、特に光学シートに適用する表面保護フィルムの場合、表面保護フィルムを構成する粘着剤層には、アクリル系粘着剤ではなくゴム系粘着剤が主として用いられていた。これによって、経時による粘着力の増大を回避し、表面保護フィルムを光学部材表面から円滑に剥離すること等が図られている。
【0007】
しかし、ゴム系粘着剤は、一般に溶液塗布タイプであるため、溶剤乾燥時の環境汚染およびエネルギー浪費等の問題があるとともに、汎用されるオレフィン基材層の背面(粘着剤層が積層される側とは反対側の面)に対する離型処理も必要となる。また、ホットメルト型の粘着剤であれば、前者の問題は解消または低減できるが、背面の離型処理は回避することができない。更にゴム系粘着剤であっても、従来のゴム系粘着剤の場合は、表面の凹凸が極めて小さい被着体、例えば表面粗さRaが2.0μm以下の被着体には粘着力が重すぎて、実用上使用することが出来なかった。
【0008】
巻戻し性を改善するという課題に対しては、例えば、1個以上の分子内2重結合を有するポリオルガノシロキサンとポリオレフィン系樹脂とからなる基材層と、粘着剤層とが積層された積層フィルムの基材層の表面に、電子線またはγ線を照射する表面保護フィルムの製造方法が提案されている(特許文献1)。
また、ポリオレフィン系樹脂を含有する表層と、熱可塑性エラストマーを含有する粘着
剤層とを、共押出法にて積層成膜した後、表層の背面に離型層を塗工法により形成して得
られる表面保護フィルムが提案されている(特許文献2)。
また、天然ゴムに代えて、スチレン系エラストマー主成分とする粘着剤層を用い、オレフィン基材層との共押出により形成した表面保護フィルムであって、基材層の背面が摩擦処理されてなり、巻戻し性に優れる表面保護フィルムが提案されている(特許文献3)。
【0009】
一方、粘着昂進を抑制するという課題に対しては、例えば、高級アルキル基が導入されたポリエチレンイミンを基材層に混ぜ込み、粘着剤層表面にブリードアウトさせることで被着体に対する初期粘着力を確保しながら、粘着昂進を抑制する試みがなされている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平2−252783号公報
【特許文献2】特開2003−41216号公報
【特許文献3】特開平07−62311号公報
【特許文献4】特開平09−188857号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、前記の従来技術には、なお、下記の問題がある。
特許文献1、または3の表面保護フィルムによっても、背面処理だけでは展開力を十分に低減させることが出来ず、巻回体の巻戻し性が十分でなく、作業性が低下する恐れがある。
特許文献2の離型処理法では、基材の背面が粗い場合でも十分な繰出し性を確保できるが、離型剤が粘着剤層に転写され、被着体に対する粘着性が低下する恐れがある。
特許文献4に開示されている表面保護フィルムは、極端な高温環境(例えば、熱帯地域や亜熱帯地域)での保存の場合、表面にブリードアウトするポリエチレンイミンの量が通常環境での保存の場合と異なり、十分な粘着昂進抑制の効果を発揮できない恐れがある。
また、いずれの特許文献に開示されている表面保護フィルムでも、表面粗さRaが2.0μm以下の被着体に対しては、粘着力が重すぎるという問題がある。
【0012】
したがって、本発明の目的は、上述した従来技術の欠点を解消し、適当な初期粘着力を確保しつつ、展開性、粘着力に優れ、粘着昂進が防止された表面保護フィルムを提供することである。
また、本発明の更なる目的は、適当な初期粘着力を確保しつつ、極端な高温(例、60℃)の環境下においても粘着昂進が抑制されている光学シート用表面保護フィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、鋭意検討の結果、芳香族アルケニル重合体ブロックと芳香族アルケニル−共役ジエン共重合体ブロックとを有する特定のマルチブロック共重合体を粘着剤層に用いることにより、適当な初期粘着力を確保しつつ、展開性に優れ、粘着昂進が防止された表面保護フィルムが得られることを見出し、更なる検討の結果、本発明を完成するに至った。
【0014】
本発明の表面保護フィルムは、
基材層と粘着剤層とを有する表面保護フィルムであって、
粘着剤層が芳香族アルケニルブロック重合体と粘着付与剤、およびスチレン系ブロック相補強剤からなり、
芳香族アルケニルブロック重合体は、
重合体(i):下記重合体ブロックAおよび下記重合体ブロックBを含み、一般式[A−B]n(式中、Aは重合体ブロックAを、Bは重合体ブロックBを、nは1〜3の整数を表す。)で表される構造を有する共重合体(I)またはその水素添加物と、
重合体(ii):下記重合体ブロックAおよび下記重合体ブロックBを含み、一般式A−B−A(式中の記号は前記と同意義を表す。)もしくは一般式(A−B)x−Y(式中、xは1以上の整数を表し、Yはカップリング剤残基を、その他の記号は前記と同意義を表す。)で表される構造を有する共重合体(II)またはその水素添加物と
を含有し、
前記重合体(i)および前記重合体(ii)の全体の芳香族アルケニル化合物単位含有率(St(A+B))は、30〜50重量%であり、
前記重合体(i)および前記重合体(ii)にそれぞれ含まれる重合体ブロックAの総量と重合体ブロックBの総量との重量比(A:B)が5:95〜25:75の範囲内であり、
スチレン系ブロック相補強剤の含有量が、芳香族アルケニルブロック重合体100重量部に対して5〜50重量部であり、かつ
下記式(1)を満足することを特徴とする。
スチレン系ブロック相補強剤 / 粘着付与剤 ≧ 1 (1)
重合体ブロックA:
芳香族アルケニル化合物単位が連続し、芳香族アルケニル化合物単位を主体とする重合体ブロック
重合体ブロックB:
共役ジエン単位と芳香族アルケニル化合物単位がランダムに含まれる芳香族アルケニル−共役ジエン共重合体ブロックであって、芳香族アルケニル化合物単位含有率(St(b))が10〜35重量%である重合体ブロック
【発明の効果】
【0015】
本発明の表面保護フィルムは、展開性に優れる。
さらに、本発明の一態様の表面保護フィルムは、適当な初期粘着力を確保しつつ、極端な高温(例、60℃)の環境下においても粘着昂進が抑制されるので、優れた経時粘着力も確保できる。
【0016】
<本明細書中の記号および用語の定義>
本明細書において数値範囲を表すために用いられる記号「〜」は、特に記載の無い限り、当該数値範囲がその両端の数値を含むことを意図して用いられる。
本明細書において、用語「芳香族アルケニル化合物単位含有率」等において用いられる重合体の繰り返し単位の「含有率」とは、繰り返し単位が由来するモノマーに換算した重量比、すなわち、前記重合体を形成するための全モノマーの重量に対する、前記繰り返し単位が由来するモノマーの重量の比(重量%)、すなわち重合体の芳香族アルケニル化合物含量[alkenyl aromatic compound content]を意味する。ここで、「前記重合体を形成するための全モノマーの重量」は、前記重合体の重量に近似する。また、同様に、本明細書において、重合体ブロックの繰り返し単位の「含有率」とは、繰り返し単位が由来するモノマーに換算した重量比、すなわち、前記重合体ブロックを形成するための全モノマーの重量に対する、前記繰り返し単位が由来するモノマーの重量の比(重量%)を意味する。ここで、「前記重合体ブロックを形成するための全モノマーの重量」は、前記重合体ブロックの重量に近似する。
本明細書において、「ビニル結合の含有率」は、赤外吸収スペクトル法を用い、モレロ法により算出した1,2−ビニル結合および3,4−ビニル結合の総含有率を意味する。
本明細書において、「表面粗さRa」は、JIS B0601:2001に規定されている、「算術平均高さ」である。
【0017】
<表面保護フィルム>
本発明の表面保護フィルムは、基材層と粘着剤層とを有する。
好ましくは、当該粘着剤層は、当該基材層の一方の表面上に積層されている。
【0018】
<粘着剤層>
粘着剤層は芳香族アルケニルブロック重合体、粘着付与材、およびスチレン系ブロック相補強剤を含有する。
粘着剤組成物には、必要に応じて、軟化剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、充填剤、顔料、粘着昂進防止剤、オレフィン系樹脂、シリコーン系ポリマー、液状アクリル系共重合体、リン酸エステル系化合物等の公知の添加剤を適宜含有してもよい。
【0019】
粘着剤層の厚さは特に制限されないが、例えば、通常0.5〜50μm程度、好ましくは1〜40μm、さらに好ましくは2〜30μmである。
【0020】
<芳香族アルケニルブロック重合体>
芳香族アルケニルブロック重合体は、重合体(i)および重合体(ii)を含有する。
<重合体(i)および(ii)>
本明細書中、「重合体(i)」は、下記重合体ブロックAおよび下記重合体ブロックBを含み、一般式[A−B]n(式中、Aは重合体ブロックAを、Bは重合体ブロックBを、nは1〜3の整数を表す。)で表される構造を有する共重合体(I)またはその水素添加物である。
本明細書中、「重合体(ii)」は、下記重合体ブロックAおよび下記重合体ブロックBを含み、一般式A−B−A(式中の記号は前記と同意義を表す。)もしくは一般式(A−B)x−Y(式中、xは2以上の整数を表し、Yはカップリング剤残基を、その他の記号は前記と同意義を表す。)
で表される構造を有する共重合体(II)またはその水素添加物である。
なお、本明細書中、前記重合体(i)と前記重合体(ii)とからなる組成物を、単に「共重合体組成物」と称する場合がある。
前記重合体(i)および前記重合体(ii)の全体の芳香族アルケニル化合物単位含有率は、30〜50重量%であり、
前記重合体(i)と前記重合体(ii)に含まれる重合体ブロックAの総量と重合体ブロックBの総量との重量比が5:95〜25:75の範囲内である。
本明細書中、「重合体ブロックA」は、芳香族アルケニル化合物単位が連続し、芳香族アルケニル化合物単位を主体とする重合体ブロックである。
本明細書中、「重合体ブロックB」は、共役ジエン単位と芳香族アルケニル化合物単位がランダムに含まれる芳香族アルケニル−共役ジエン共重合体ブロックであって、芳香族アルケニル化合物単位含有率(St(b))が10〜35重量%である重合体ブロックである。
【0021】
<重合体ブロックA>
上述のように、「重合体ブロックA」は、芳香族アルケニル化合物単位が連続し、芳香族アルケニル化合物単位を主体とする重合体ブロックである。
【0022】
「芳香族アルケニル化合物単位」とは、芳香族アルケニル化合物に由来する繰り返し単位である。「芳香族アルケニル化合物」としては、例えば、スチレン、tert−ブチルスチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−エチルスチレン、ジビニルベンゼン、1,1−ジフェニルエチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、N,N−ジェチル−p−アミノエチルスチレンおよびビニルピリジン等を挙げることができる。中でも、原料が工業的に入手し易いという理由から、「芳香族アルケニル化合物単位」はスチレン単位であることが好ましい。
【0023】
「重合体ブロックA」は、芳香族アルケニル化合物単位を主たる繰り返し単位として構成されている必要がある。具体的には、その芳香族アルケニル化合物単位含有率は、80重量%以上である。芳香族アルケニル化合物単位含有率を80重量%以上と高くすることにより、粘着剤組成物の熱可塑性を向上させることができ、粘着剤組成物のリサイクルがより容易になるという利点がある。20重量%未満の範囲で含まれていてもよい芳香族アルケニル化合物単位以外の繰り返し単位としては、芳香族アルケニル化合物と共重合可能な化合物に由来する繰り返し単位、例えば、共役ジエン化合物や(メタ)アクリル酸エステル化合物に由来する繰り返し単位を挙げることができる。中でも、1,3−ブタジエン、イソプレンが、芳香族アルケニル化合物との共重合性が高いという理由から好ましい。
【0024】
<重合体ブロックB>
上述のように、「重合体ブロックB」は、共役ジエン単位と芳香族アルケニル化合物単位がランダムに含まれる芳香族アルケニル−共役ジエン共重合体ブロックであって、芳香族アルケニル化合物単位含有率(St(b))が10〜35重量%である重合体ブロックである。
【0025】
「重合体ブロックB」を構成する「共役ジエン化合物単位」とは、共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位である。「共役ジエン化合物」としては、例えば、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、2−メチル−1,3−オクタジエン、1,3−ヘキサジエン、1,3−シクロヘキサジエン、4,5−ジエチルー1,3−オクタジエン、3−ブチル−1,3−オクタジエン、ミルセンおよびクロロプレン等を挙げることができる。中でも、重合反応性が高く、原料が工業的に入手し易いという理由から、「共役ジエン化合物単位」は1,3−ブタジエン単位およびイソプレン単位の群から選択される少なくとも1種の繰り返し単位であることが好ましい。
【0026】
「重合体ブロックB」は、共役ジエン化合物単位を主たる繰り返し単位として構成されている必要がある。本発明の効果を発揮させる観点から、共役ジエン化合物単位含有率が65〜90重量%の範囲内であることが好ましい。
【0027】
また、「重合体ブロックB」は、本発明の効果を得る観点から、芳香族アルケニル化合物単位含有率(St(b))が10〜35重量%の範囲内である必要があり、13〜33重量%の範囲内であることが好ましく、16〜30重量%の範囲内であることがより好ましい。芳香族アルケニル化合物単位含有率が10重量%未満では、展開性が劣り、ハンドリング性が悪くなることがある。一方、35重量%を超えると、粘着剤組成物の柔軟性が劣り、表面保護フィルムに重要な、十分な粘着力を確保できないことがある。
なお、「重合体ブロックB」は、本発明の効果を妨げない範囲において、共役ジエン化合物単位、および芳香族アルケニル化合物単位以外の繰り返し単位も含んでいてもよい。
【0028】
また、「重合体ブロックB」は、本発明の効果を発揮させる観点から、ビニル結合含有率が50〜90%の範囲内であることが好ましく、60〜80%の範囲内であることがより好ましい。また、ビニル結合含有率を50%以上とすることにより、タックと粘着力のバランスに優れた粘着剤組成物を構成することができるという利点がある。
【0029】
<共重合体(I)>
「共重合体(I)」は、重合体ブロックAおよび重合体ブロックBを含み、一般式[A−B]n(式中、Aは重合体ブロックAを、Bは重合体ブロックBを、nは1〜3の整数を表す。)で表される構造を有する共重合体である。
【0030】
「n」が1〜3の整数を表すことから、明らかなように、「式[A−B]nで表される構造」としては、例えば、A−B、A−B−A−B、およびA−B−A−B−A−Bで表されるの構造が挙げられる。これらのブロック共重合体においては、AおよびBは、それぞれ繰り返しにおいて同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0031】
[A−B]nで示される構造において、重合体ブロックBの効果を確実に発揮させる観点から、末端の重合体ブロックBは共重合体全体の2重量%以上を占めていることが好ましい。なお、一部の共重合体(I)の末端が−Aの構造を有していても、末端の重合体ブロックAの含有率が共重合体(I)全体の2重量%未満である場合には、末端が重合体ブロックBであるのと同様の効果を発揮させることができる。すなわち、前記構造は実質的に末端が重合体ブロックBであるとみなすことができる。
【0032】
nは1〜3の整数であることが必要である。nをこの範囲内とすることにより、工業的
な生産性が良好となる。なお、粘着力および材料強度を向上させるという観点から、nが1〜2であることがより好ましく、1であることが特に好ましい。すなわち、「一般式[A−B]nで示される構造を有する共重合体」としては、一般式A−Bで示される構造を有するブロック共重合体が特に好ましい。
【0033】
共重合体(I)またはその水素添加物(重合体(i))は、芳香族アルケニル化合物単位含有率の下限は30重量であることが必要であり、33であることが好ましい。一方、その上限は、50重量である必要があり、45重量%であることが好ましい。芳香族アルケニル化合物単位含有率をこの範囲内とすることにより、適度な保持力と、被着体表面の凹凸への追随性を兼ね備え、かつ展開性に優れた粘着剤組成物を構成することが可能となる。
【0034】
重合体(i)の分子量については特に制限はないが、重量平均分子量が3万〜50万であることが好ましく、8万〜30万であることが更に好ましく、10万〜20万であることが特に好ましい。重量平均分子量を3万〜50万の範囲とすることで、重合体(i)、ひいては重合体(i)と共重合体(II)またはその水素添加物(重合体(ii))とからなる共重合体組成物の工業的な生産を容易なものとすることができる。重量平均分子量が3万未満であると、ポリマーを脱溶媒、乾燥させる工程において製造設備等にポリマーが付着してしまい、重合体(i)の工業的生産が困難となる場合がある。一方、重量平均分子量が50万以上であると、溶剤への溶解性や熱溶融性が悪くなり、粘着体への加工が困難になる場合がある。
【0035】
共重合体(I)の水素添加物は、優れた耐熱性および耐候性が得られることから
、共役ジエンモノマーに由来する二重結合が80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、水素添加により不飽和結合が飽和結合に水素添加された水素添加物であることが好ましい。
。なお、本明細書中、水素添加の比率(水素添加率)は、四塩化炭素を溶媒として用い、270MHz、lH−NMRスペクトルから算出した水素添加率を意味する。
重合体(i)は、単独(1種)であってもよく、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0036】
<共重合体(II)>
「共重合体(II)」は、下記重合体ブロックAおよび下記重合体ブロックBを含み、一般式A−B−A(式中の記号は前記と同意義を表す。)もしくは一般式(A−B)x−Y(式中、xは2以上の整数を表し、Yはカップリング剤残基を、その他の記号は前記と同意義を表す。)
で表される構造を有する共重合体である。
【0037】
前記一般式から明らかなように、共重合体(II)は、その全ての分子末端に重合体ブロックAを有する。
末端の重合体ブロックAは共重合体(II)全体の2重量%以上を占めていることが好ましい。重合体ブロックAの効果を確実に発揮させるためである。なお、一部の共重合体(II)の末端が−Bの構造を有していても、末端の重合体ブロックBの含有率が共重合体(II)全体の2重量%未満である場合には、末端が重合体ブロックAであるのと同様の効果を発揮させることができる。すなわち、前記構造は実質的に末端が重合体ブロックAであるとみなすことができる。
一般式(A−B)x−Y(式中、xは2以上の整数を表し、Yはカップリング剤残基を、その他の記号は前記と同意義を表す。)で表される構造を有する共重合体は、言い換えれば、共重合体(I)がYによってカップリングした構造を有する。従って、(A−B)x−Yの場合、同じ反応釜で、(I)、(II)の混合物を合成することが出来るため、
工業的な観点から、(A−B)x−Yの方が好ましい。xが3以上である場合、当該共重合体は、いわゆる星形重合体である。xは、当該共重合体製造時における副反応を抑制し、当該共重合体の物性を制御する観点からは、好ましくは2〜4である。
【0038】
また、共重合体(II)またはその水素添加物(重合体(ii))も重合体(i)と同様の理由から、芳香族アルケニル化合物単位含有率が30〜50重量の範囲内であることが好ましく、33〜45重量%であることがより好ましい。
【0039】
重合体(ii)は、優れた耐熱性および耐候性が得られることから、共役ジエンモノマーに由来する二重結合が80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、水素添加により不飽和結合が飽和結合に水素添加された水素添加物であることが好ましい。
【0040】
重合体(ii)の分子量については特に制限はないが、重量平均分子量が5万〜50万であることが好ましく、5万〜30万であることがより好ましい。重量平均分子量を5万〜50万の範囲とすることで、重合体(ii)、ひいては重合体(i)と重合体(ii)とからなる共重合体組成物の工業的な生産を容易なものとすることができる。重量平均分子量が3万未満であると、ポリマーを脱溶媒、乾燥させる工程において製造設備等にポリマーが付着してしまい、共重合体(II)またはその水素添加物の工業的生産が困難となる場合がある。一方、重量平均分子量が50万以上であると、溶剤への溶解性や熱溶融性が悪くなり、粘着体への加工が困難になる場合がある。
重合体(ii)は、単独(1種)であってもよく、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0041】
<共重合体組成物>
重合体(i)と重合体(ii)とからなる共重合体組成物において、重合体(i)と重合体(ii)との重量比は、90:10〜10:90の範囲内であることが必要である。重合体(i)と重合体(ii)との総量100重量部中、重合体(i)を10重量部以上含ませることにより、被着体の表面から粘着剤層が浮き上がり、フイルムが剥離してしまう不具合(浮き)を有効に防止することができるという好ましい効果を発揮させることができる。一方、重合体(i)と重合体(ii)との総量100重量部中、重合体(ii)を10重量部以上含ませることにより、粘着昂進を有効に防止することができるという好ましい効果を発揮させることができる。
粘着剤層の浮きや粘着昂進をより確実に防止するという観点から、重合体(i)と重合体(ii)との重量比は50:50〜15:85の範囲内であることが好ましい。
【0042】
本発明の効果を奏する観点から、前記重合体(i)と前記重合体(ii)に含まれる重合体ブロックAの総量と重合体ブロックBの総量との重量比が5:95〜25:75の範囲内であることが必要である。また、重合体ブロックAと重合体ブロックBとの総量100重量部中、重合体ブロックAを5重量部以上含ませることにより、形成される粘着剤層に適度な保持力を付与することが可能となるという好ましい効果を発揮させることができる。一方、重合体ブロックAと重合体ブロックBとの総量100重量部中、重合体ブロックBを75重量部以上含ませることにより、形成される粘着剤層が被着体表面の凹凸に対して良好な追随性を示すため、被着体表面を確実に保護することが可能となるという好ましい効果を発揮させることができる。重合体ブロックAの総量と重合体ブロックBの総量との重量比の下限は、5:95である必要があり、7:93であることが好ましく、10:90であることがより好ましい。重合体ブロックAの総量と重合体ブロックBの総量との重量比の上限は25:75である必要があり、23:77であることが好ましく、21:79であることがより好ましい。
【0043】
粘着付与剤としては、例えば、脂肪族系共重合体、芳香族系共重合体、脂肪族・芳香族系共重合体や脂環式系共重合体等の石油系樹脂、クマロン−インデン系樹脂、テルぺン系樹脂、テルぺン−フェノール系樹脂、重合ロジン等のロジン系樹脂、(アルキル)フェノール系樹脂、キシレン系樹脂またはこれらの水添物などの、一般に粘着剤に使用されるものを特に制限なく使用することができる。粘着付与剤の軟化点が、90〜140℃のものを用いることがより好ましい。これらの粘着付与剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なお、剥離性および耐候性などを高めるに、水添系の粘着付与剤を用いることがより好ましい。また、オレフィン樹脂とのブレンド物として市販されている粘着付与剤を用いてもよい。
【0044】
スチレン系ブロック相補強剤は、粘着剤層の粘着昂進を抑制するために用いられる。
スチレン系ブロック相補強剤としては、例えば、モノマー単位として、スチレンおよびα−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−クロロスチレン、クロロメチルスチレン、tert−ブチルスチレン、p−エチルスチレン、ジビニルベンゼン等のスチレン系化合物が挙げられる。これらは、単独または2種以上を組み合わせて用いることができる。つまり、スチレン系ブロック相補強剤は、これらモノマーを重合することによって得ることができる。2種以上のモノマーからなる共重合体の場合は、ブロック共重合体であってもよいし、ランダム共重合体であってもよい。なかでも、スチレン系ブロック相補強剤は、100℃程度以上の軟化点を有するものが好ましく、150℃以上がより好ましい。具体的には、イーストマンケミカル社製、商品名「ENDEX155」(軟化点155℃)、「ENDEX160」(軟化点160℃)等が好適に使用される。
スチレン系ブロック相補強剤の含有量は、芳香族アルケニルブロック重合体100重量部に対して5〜50重量部である。
5重量部以下では、スチレン系ブロック相補強剤の添加効果が小さく、経時粘着力が過度に増加する場合がある。また、50重量部以上では成形が悪くなり、成形出来ない場合がある。
更に、粘着付与剤とスチレン系ブロック相補強剤量は、下記式(1)を満足することが好ましい。
スチレン系ブロック相補強剤 / 粘着付与剤 ≧ 1 (1)
スチレン系ブロック相補強剤 / 粘着付与剤 < 1では、経時粘着力が過度に増加する場合がある。
【0045】
<添加剤>
軟化剤は、通例、粘着力の向上に有効である。軟化剤としては、例えば、低分子量のジエン系ポリマー、ポリイソブチレン、水添ポリイソプレン、水添ポリブタジエン、パラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、芳香族系プロセスオイル、ひまし油、トール油、天然油、液体ポリイソブチレン樹脂、ポリブテン、またはこれらの水添物などの一般的に粘着剤に使用されるものを特に制限なく使用することができる。これらの軟化剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0046】
酸化防止剤としては、特に限定されず、例えば、フェノール系(モノフェノール系、ビスフェノール系、高分子型フェノール系)、硫黄系、リン系等の通常使用されるものが挙げられる。
光安定化剤としては、ヒンダードアミン系化合物が挙げられる。
紫外線吸収剤としては、特に限定されず、例えば、サリチル酸系、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、シアノアクリレート系等が挙げられる。
【0047】
充填剤としては、例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、シリカ、酸化亜鉛、酸化チタン等が挙げられる。
粘着昂進防止剤としては、脂肪酸アミド、ポリエチレンイミンの長鎖アルキルグラフト物、大豆油変性アルキド樹脂(例えば、荒川化学工業社製、商品名「アラキード251」等)、トール油変性アルキド樹脂(例えば、荒川化学工業社製、商品名「アラキード6300」等)などが挙げられる。
これらの添加剤は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0048】
<基材層>
基材層の素材は、ポリオレフィン樹脂が好ましい。
ポリオレフィン樹脂としては、例えば、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖低密度ポリエチレン、エチレン−α−オレフィン共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−メチルアクリレート共重合体、エチレン−n−ブチルアクリレート共重合体、およびポリプロピレン(ホモポリマー、ランダムコポリマー、ブロックコポリマー)等が挙げられる。
これらは単独または2種以上を組み合わせて用いることができる。また、置換基を有するポリオレフィン樹脂であってもよく、ポリオレフィン樹脂以外の樹脂が添加されていてもよい。さらに、表面保護フィルムの製造過程で生じた、ポリオレフィン樹脂を素材とする基材層の端材や表面保護フィルムの端材が添加されていてもよい。
基材層は、単層でもよいし、組成の異なる2種以上の多層構造を有している層であってもよい。
【0049】
基材層は、表面保護フィルムの用途等によって、その厚さを適宜調整することができる。通常、10〜100μm程度の厚さに設定することが適している。
【0050】
<製造方法>
芳香族アルケニルブロック重合体は、例えば、共重合体(I)および共重合体(II)をそれぞれブロック重合により合成し、これらを所定の質量比でブレンドした後に、所望により水素添加を行って、共重合体(I)またはその水素添加物、および共重合体(I)またはその水素添加物の混合物を得、および所望により配合される添加剤を慣用の方法で混合することによって製造される。
水素添加触媒としては、元素周期表Ib、IVb、Vb、VIb、VIIb、VIII
族金属のいずれかを含む化合物を用いることができる。例えば、Ti、V、Co、Ni、Zr、Ru、Rh、Pd、Hf、Re、Pt原子を含む化合物を挙げることができ、より具体的には、Ti、Zr、Hf、Co、Ni、Rh、Ruなどのメタロセン系化合物、pd、Ni、Pt、Rh、Ruなどの金属をカーボン、シリカ、アルミナ、ケイソウ土、塩基性活性炭などの担体に担持させた担持型不均一系触媒を挙げることができる。
なお、メタロセン系化合物の具体例としては、シクロペンタジェニル環(Cp環)またはCp環上の水素をアルキル基で置換した配位子を二つ有するKaminsky(カミンスキー)触媒、ansa(アンサ)型メタロセン触媒、非架橋ハーフメタロセン触媒、架橋ハーフメタロセン触媒等を挙げることができる。
具体的な例を挙げると、特開平1−275605号公報、特開平5−271326号公報、特開平5−271325号公報、特開平5−222115号公報、特開平11−292924号公報、特開2000−37632号公報、特開昭59−133203号公報、特開昭63−5401号公報、特開昭62−218403号公報、特開平7−90017号公報、特公昭43−19960号公報、特公昭47−40473号公報に記載の触媒を挙げることができる。これら各種の触媒は1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0051】
別法として、共重合体(II)が前記一般式(A−B)x−Y(式中の記号は前記と同意義を表す。)で表される構造を有する場合、粘着剤組成物は、以下のような方法(カップリング法)によって、製造してもよい。カップリング法は、共重合体(I)またはその水素添加物(重合体(i))と共重合体(II)またはその水素添加物(重合体(ii))を1ポットで合成することができるため製造工程が簡素であり、製造コストが低廉で、カップリング剤の種類や量により、重合体(i)と重合体(ii)との比率を制御することができる等の点において好ましい。
【0052】
カップリング法は、
第1工程:[A−B]の構造を有する共重合体をブロック重合により合成する工程と、
第2工程:前記[A−B]の構造を有する共重合体の一部を、カップリング剤Y−Zx(但し、「Y」はカップリング剤残基、「Z」は脱離基、「X」は2以上の整数を示す。)によりカップリングさせ、{[A−B]x−Y}の構造を有する共重合体を合成する工程と、
水素添加物を得る場合には、更に、
第3工程:前記[A−B]の構造を有する共重合体及び前記{[A−B]x−Y}の構造を有する共重合体に水素添加することにより、それぞれ水素化された共重合体(I)と共重合体(II)とからなる共重合体組成物を得る工程と
を備える。
【0053】
「カップリング剤」としては、例えば、メチルジクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、メチルトリクロロシラン、ブチルトリクロロシラン、テトラクロロシラン、ジブロモエタン、テトラクロロ錫、ブチルトリクロロ錫、テトラクロロゲルマニウム、ビス(トリクロロシリル)エタン等のハロゲン化合物;エポキシ化大豆油等のエポキシ化合物;アジピン酸ジエチル、アジピン酸ジメチル、ジメチルテレフタル酸、ジエチルテレフタル酸等のカルボニル化合物、ジビニルベンゼン等のポリビニル化合物;ポリイソシアネート;等を挙げることができる。中でも、工業的に入手し易く、反応性も高いという理由から、メチルジクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、メチルトリクロロシラン、テトラクロロシランが好ましい。
【0054】
本発明の表面保護フィルムは、例えば、押出成形によって基材シート(基材層)を製造した後、前記粘着剤組成物を溶融または溶解させた液体を基材シートに塗布または噴霧する方法、あるいは、インフレーション法により得られた基材シートと粘着シートを貼り合わせる方法、あるいは多層マニホールドを備えたTダイを用いて基材原料と前記粘着剤組成物を共押出する方法により製造できる。なかでも、基材層と粘着剤層が密着した多層シートが得られるので共押出により製造する方法が好ましい。なお、本発明の粘着剤組成物を溶融または溶解させた液体もまた、本発明の粘着剤組成物に包含される。
【0055】
<適用>
本発明の表面保護フィルムは、表面の凹凸が極めて微細な被着体(例、光拡散板(光拡散フィルム)(片面にプリズムを有するプリズム付きの拡散板(拡散フィルム)を包含する。)等の光学シート)に好適に用いることができるが、表面の凹凸がより大きな被着体にも制限無く使用することができる。
本発明の表面保護フィルムは、より具体的には、表面粗さRaが2.6μm以下の表面の保護に用いることが好ましい。また、本発明の表面保護フィルムは、表面が完全に平滑な光学シートに適用すると、剥離性に劣る場合がある。従って、表面粗さRaが0.3μm以上の表面の保護に用いることが好ましい。
被着体となる光学シートを構成する材料としては、特に限定されないが、透光性を有する樹脂、例えばアクリル系樹脂、ポリカーボネート等が挙げられる。
本発明の表面保護フィルムで、表面を保護された光学シートは、通常、巻回体として保存される。このような巻回体は、例えば、下記の製造方法によって製造される。
(1)表面粗さRaが0.3μm〜2.6μmである第1主面を有する光学シートの当該第1主面に本発明の表面保護フィルムを貼り付けること、および
(2)表面保護フィルムが貼り付けられた光学シートをロール状に巻回すること
を含む、表面が保護された光学フィルムの巻回体の製造方法。
また、このような巻回体を巻き戻して一定の大きさに切断して得られる、表面が保護された光学フィルムを積み重ねて保管することも、通常行われる。
このような表面が保護された光学フィルムは、上述の表面が保護された光学フィルムの巻回体を、巻回体の軸に並行な方向で切断することを含む製造方法に製造することができる。
このようにして得られる、
表面粗さRaが0.3μm〜2.6μmである第1主面を有する光学シートと、
当該第1主面に貼り付けられた本発明の記載の表面保護フィルムと
を有する、表面が保護された光学フィルム
もまた本発明の一態様である。
【実施例】
【0056】
以下、本発明の表面保護フィルムを、実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0057】
(共重合体組成物の合成例)
重合体ブロックA
窒素置換された反応容器に、脱気・脱水されたシクロヘキサン500質量部、スチレン20質量部及びテトラヒドロフラン5質量部を仕込み、重合開始温度の40℃にてn−ブチルリチウム0.13質量部を添加して、昇温重合を行った。
重合体ブロックB
重合体Aの重合転化率が略100%に達した後、反応液を15℃に冷却し、次いで、1,3−ブタジエン70質量部およびスチレン10質量部を加え、更に昇温重合を行った。
【0058】
重合転化率がほぼ100%に達した後、カップリング剤としてメチルジクロロシラン0.06質量部を加え、カップリング反応を行った。カップリング反応が完結した後、水素ガスを0.4MPa−Gaugeの圧力で供給しながら10分間放置した。一部取り出したポリマーは、ビニル含有率64%、重量平均分子量約11万、カップリング率60%であった。
【0059】
その後、反応容器内に、ジエチルアルミニウムクロライド0.03質量部及びビス(シクロペンタジエニル)チタニウムフルフリルオキシクロライド0.06質量部を加え、撹拌した。水素ガス供給圧0.7MPa−Gauge、反応温度80℃で水素添加反応を開始し、水素の吸収が終了した時点で、反応溶液を常温、常圧に戻し、反応容器から抜き出すことにより、重合体(i)と重合体(ii)からなる共重合体組成物を得た(表1の合成例1)。
以下、同様に操作して所望する共重合体組成物を得た(表1の合成例2)。これら共重合体組成物の性質を表1に示す。
【0060】
なお、表1中、「St(A+B)」、「St(B)」、「St(A)」、および「St(b)」は、それぞれ次のように定義される数値を表す。当該定義において、「全重合体」とは、重合体(i)および重合体(ii)の全体を意味する。
「St(A+B)」は、全重合体の芳香族アルケニル化合物単位含有率であり、次式で表される数値を意味する。なお、これは、下記「St(B)」と下記「St(A)」との和に等しい。
式:
St(A+B)=(全重合体中の芳香族アルケニル化合物単位重量)/(全重合体中の全単量体単位重量)×100(重量%)
「St(B)」は、次式で表される数値を意味する。
式:
St(B)=(全重合体ブロックB中の芳香族アルケニル化合物単位重量)/(全重合体中の全単量体単位重量)×100(重量%)
「St(A)」は、次式で表される数値を意味する。
式:
St(A)=(全重合体ブロックA中の芳香族アルケニル化合物単位重量)/(全重合体中の全単量体単位重量)×100(重量%)
【0061】
「St(b)」は、重合体ブロックBの芳香族アルケニル化合物単位含有率であり、次式で表される数値を意味する。
式:
St(b)=(全重合体ブロックB中の芳香族アルケニル化合物単位重量)/(全重合体ブロックB中の全単量体単位重量)×100(重量%)
また、表1中、「A:B」は、重合体ブロックAの総量と重合体ブロックBの総量との重量比を表す。
また、表1中、「(i):(ii)」は、重合体(i)と重合体(ii)の重量比を表す。
また、表1中、「共役ジエン含有率」は、重合体ブロックBの共役ジエン単位含有率を表す。
また、表1中、「ビニル結合含有率」は、重合体ブロックBのビニル結合の含有率を表す。
【0062】
[表1]

【0063】
(実施例1)
基材にはポリプロピレン(プライムポリマー社製 J715M)を用い、Tダイ法により基材と表2に記載の割合に調製した粘着剤組成物を共押出成形することで、36μmの厚みの基材層と4μmの厚みの粘着剤層とが積層一体化された、表面保護フィルムを成形し、内径3インチの紙芯に巻取った巻回体を得た。
【0064】
(実施例2〜8、比較例1〜7)
粘着剤組成物を表2に記載した組成に変更したこと以外は、実施例1と同様にして表面保護フィルムを成型し、内径3インチの紙芯に巻取った巻回体を得た。
【0065】
(評価)
上記のようにして得られた各表面保護フィルムについて、以下の項目を評価した。それらの結果を表3に示す。
【0066】
(1)成膜性
上記のようにして共押出しにより製膜した各表面保護フィルムの外観を目視にて評価し、外観上問題が無ければ「○」とした。なお、比較例7では、表面保護フィルムを形成できなかった。
(2)初期粘着力
各表面保護フィルムを、表面粗さRaが1.5μmの凹凸を有する光学シートのレンズ面を覆うように貼り付けた。貼り付け条件は、室温23℃および相対湿度50%の環境下、それぞれ2kgの圧着ゴムローラーを用いて、300mm/分の速度で貼り付け、その状態で30分間放置した後、JIS Z0237に準拠し、25mm幅における180度剥離強度を表2に記載の速度で測定した。
(3)経時粘着力
各表面保護フィルムを、室温23℃および相対湿度50%の環境下、(2)の初期粘着力評価に用いたプリズムシートの表面に、それぞれ2kgの圧着ゴムローラーを用いて、300mm/分の速度で貼り付けた。その後、ポリカーボネート板(厚み2mm)で表面保護フィルムを貼り付けたプリズムシートを挟み、60℃の環境下、30分間放置した。これを室温に取り出し、30分間放置した後、JIS Z0237に準拠し、25mm幅における180度剥離強度を表2に記載の速度で測定した。
このようにして測定された剥離強度を経時粘着力とし、初期粘着力から経時粘着力の変化率(粘着昂進率)を次式で算出した。

変化率(粘着昂進率)= 経時粘着力 / 初期粘着力

(4)展開力
実施例および比較例の各表面保護フィルムの50mm幅の巻回体を巻き戻し速度を変更したこと以外はJIS Z0237に準拠し、15m/分の巻戻し速度で巻戻し力を測定し、展開力とした。
【0067】
[表2]
J715M:ポリプロピレン(プライムポリマー社製、「J715M」)

【0068】
<判定基準>
粘着力(初期)
○(良 ):0.02N/25mm以上、0.50N/25mm未満
×(不良):0.02N/25mm未満、0.5N/25mm以上
粘着昂進率
◎(優 ):150%未満
○(良 ):150%以上、300%未満
×(不良):300%以上
展開力
◎(優 ):2.0N/50mm未満
○(良 ):2.0N/50mm以上、4.0N/50mm未満
×(不良):4.0N/50mm以上

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層と粘着剤層とを有する表面保護フィルムであって、
粘着剤層が芳香族アルケニルブロック重合体、粘着付与剤、およびスチレン系ブロック相補強剤を含有し、
芳香族アルケニルブロック重合体は、
重合体(i):下記重合体ブロックAおよび下記重合体ブロックBを含み、一般式[A−B]n(式中、Aは重合体ブロックAを、Bは重合体ブロックBを、nは1〜3の整数を表す。)で表される構造を有する共重合体(I)またはその水素添加物と、
重合体(ii):下記重合体ブロックAおよび下記重合体ブロックBを含み、一般式A−B−A(式中の記号は前記と同意義を表す。)もしくは一般式(A−B)x−Y(式中、xは1以上の整数を表し、Yはカップリング剤残基を、その他の記号は前記と同意義を表す。)で表される構造を有する共重合体(II)またはその水素添加物と
を含有し、
前記重合体(i)および前記重合体(ii)の全体の芳香族アルケニル化合物単位含有率(St(A+B))は、30〜50重量%であり、
前記重合体(i)および前記重合体(ii)にそれぞれ含まれる重合体ブロックAの総量と重合体ブロックBの総量との重量比(A:B)が5:95〜25:75の範囲内であり、
スチレン系ブロック相補強剤の含有量が、芳香族アルケニルブロック重合体100重量部に対して5〜50重量部であり、かつ
下記式(1)を満足することを特徴とする。
スチレン系ブロック相補強剤 / 粘着付与剤 ≧ 1 (1)
重合体ブロックA:
芳香族アルケニル化合物単位が連続し、芳香族アルケニル化合物単位を主体とする重合体ブロック
重合体ブロックB:
共役ジエン単位と芳香族アルケニル化合物単位がランダムに含まれる芳香族アルケニル−共役ジエン共重合体ブロックであって、芳香族アルケニル化合物単位含有率(St(b))が10〜35重量%である重合体ブロック
【請求項2】
(1)表面粗さRaが0.3μm〜2.6μmである第1主面を有する光学シートの当該第1主面に請求項1に記載の表面保護フィルムを貼り付けること、および
(2)表面保護フィルムが貼り付けられた光学シートをロール状に巻回すること
を含む、表面が保護された光学フィルムの巻回体の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の製造方法で得られる、表面が保護された光学フィルムの巻回体。
【請求項4】
表面粗さRaが0.3μm〜2.6μmである第1主面を有する光学シートと、
当該第1主面に貼り付けられた請求項1に記載の表面保護フィルムと
を有する、表面が保護された光学フィルム。

【公開番号】特開2011−190370(P2011−190370A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−58296(P2010−58296)
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】