説明

表面修飾血清アルブミン−金属ポルフィリン複合体、およびそれを含有する酸素輸液

【課題】より長期にわたって安定な酸素錯体を形成し、生体内で酸素輸液として有効に作用し得るアルブミン−金属ポルフィリン複合体を提供する。
【解決手段】金属ポルフィリンを包接した血清アルブミンを含み、前記血清アルブミンの分子表面にポリオキシエチレン基が共有結合されていることを特徴とする表面修飾血清アルブミン−金属ポルフィリン複合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属ポルフィリンを包接した血清アルブミンの分子表面にポリオキシエチレン基を共有結合して得た表面修飾血清アルブミン−金属ポルフィリン複合体と、それを含有する酸素輸液(人工酸素運搬体)に関する。
【背景技術】
【0002】
生体内で酸素運搬・貯蔵の役割を担うヘモグロビンやミオグロビンの補欠分子族であるヘム、すなわち鉄(II)ポルフィリンは、酸素分圧に応答して分子状酸素を可逆的に結合解離する。このような天然のヘムと同じ酸素吸脱着能を合成の鉄(II)ポルフィリンで再現しようとする研究は1970年代から報告されているが、初期の研究例としては、非特許文献1、非特許文献2等が代表的であり、また、最近の開発動向は非特許文献3、非特許文献4等に記載されている。
【0003】
室温条件下で安定な酸素錯体を形成できる鉄(II)ポルフィリンとしては、5,10,15、20−テトラキス(α,α,α,α−o−ピバルロイルアミノフェニル)ポルフィリン鉄(II)錯体(以下、FeTpivPP錯体と呼ぶ)(非特許文献5)が知られている。FeTpivPP錯体は軸塩基、例えば、1−アルキルイミダゾール、1−アルキル−2−メチルイミダゾール等を共存させると、ベンゼン、トルエン、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミド等の有機溶媒中、室温で分子状酸素を可逆的に結合解離できる。
【0004】
可逆的な酸素配位活性を発現できるのは、鉄ポルフィリンの中心鉄が2価の状態にある時のみで、中心鉄が酸化し、鉄(III)錯体になると、その酸素配位活性は完全に失われる。一般的に水溶液中では中心鉄(II)の酸化反応が加速されるため、得られる酸素錯体の安定度は著しく低い。本発明者らの研究グループは、FeTpivPP錯体をリン脂質から成る二分子膜小胞体に包埋させることにより、この問題を克服し、生理条件下(水相系、pH7.4、37℃)でも同様の酸素吸脱着機能を発揮させることに成功した(例えば、非特許文献6等)。鉄(II)ポルフィリンをリン脂質小胞体中に包接させるこの技術は、均一に水中へ溶解させるだけでなく、酸素配位座近傍に微小な疎水空間を提供することにより、酸素錯体の安定度を延長させる効果がある。しかし、FeTpivPP錯体が酸素を可逆的に結合解離するためには、有機溶媒中と同様に過剰モル数の軸塩基分子を外部から添加することが不可欠であった。よく知られているように、軸塩基として広く用いられているイミダゾール誘導体には薬理作用を持つものがあり、体内毒性の高い場合が多い。また、リン脂質小胞体を利用する場合、過剰に共存させたイミダゾール誘導体がその形態を不安定化させる要因とも成り得る。この軸塩基の添加量を極限的に少なくする方法は、分子内に共有結合でイミダゾール誘導体を導入することに他ならない。
【0005】
本発明者らの研究グループは、鉄(II)ポルフィリンの分子内へ置換基として、例えばアルキルイミダゾール誘導体を共有結合すれば、軸塩基を外部添加することなく安定な酸素運搬体を供給できるものと考え、既にポルフィリン環の2位に置換基を有するFeTpivPP類縁体を合成し、これをリン脂質小胞体中やヒト血清アルブミンに包接させた系について、可逆的な酸素の吸脱着反応を明らかにしている(特許文献1、特許文献2、特許文献3)。特に、ヒト血清アルブミンに、この分子内塩基結合型のFepivPPを包接させて得たアルブミン−鉄(II)ポルフィリン複合体は、安全性高く生体内で酸素輸送のできる赤血球代替物として作用することが実証されている(非特許文献8)。また、分子状ヘモグロビン製剤に見られる血圧亢進等の副作用も全く認められない(非特許文献9)。
【0006】
他方、このアルブミン−鉄(II)ポルフィリン複合体系では鉄(II)ポルフィリンの包接駆動力は、疎水性相互作用、すなわち非共有結合であるため、酸素結合サイトとして機能する金属ポルフィリンが、疎水場から解離してしまう可能性もある。上記アルブミン−金属ポルフィリン複合体水溶液を人工酸素運搬体として、例えば赤血球代替物として体内へ投与した場合、ある程度の期間、血流中に留まり、酸素輸送体の役割を担ってくれることが望ましい。実際、アルブミン−金属ポルフィリン複合体を血中に投与すると、金属ポルフィリンはアルブミンから解離する。つまり、より長い血中半減期を実現するため、アルブミンから金属ポルフィリンが解離しにくい分子設計と合成が待たれていたのが現状であった。
【非特許文献1】J. P. Collman, Acc. Chem. Res., 10, 265 (1977)
【非特許文献2】F. Basolo, B. M. Hoffman, J. A. Ibers, Acc. Chem. Res., 8, 384 (1975)
【非特許文献3】Momentau et al., Chem. Rev., 110, 7690 (1994)
【非特許文献4】J. P. Collman, Chem. Rev., 104, 561 (2004)
【非特許文献5】J. P. Collman, et al., J. Am. Chem. Soc., 97, 1427 (1975)
【非特許文献6】E. Tsuchida et al., J. Chem. Soc., Dalton Trans., 1984, 1147 (1984)
【非特許文献7】E. Tsuchida et al., J. Chem. Soc., Perkin Trans. 2, 1995, 747 (1995)
【非特許文献8】E. Tsuchida et al., Bioconjugate Chem. 11, 46 (2000)
【非特許文献9】E. Tsuchida et al., J. Biomed. Mater. Res. 64A, 257 (2003)
【特許文献1】特開平06−271577号公報
【特許文献2】特開平08−301873号公報
【特許文献3】特開2003−040893号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明は、上記従来技術の問題点を解消し、より長期にわたって安定な酸素錯体を形成し、生体内で酸素輸液として有効に作用し得るアルブミン−金属ポルフィリン複合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、アルブミンから金属ポルフィリン錯体が解離しにくい構造体の分子設計と機能発現に鋭意研究を重ねた結果、金属ポルフィリンを包接した血清アルブミンの分子表面にポリオキシエチレン基を共有結合することにより、表面修飾血清アルブミン−金属ポルフィリン複合体を調製すると、従来、金属ポルフィリンをアルブミンの疎水領域へただ包接させていただけの血清アルブミン−金属ポルフィリン複合体に比べ、金属ポルフィリン錯体がアルブミン内部に留まる率が高く、結果として血中半減期が延長する新しい酸素輸液が提供できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の第1の側面によれば、金属ポルフィリンを包接した血清アルブミンを含み、前記血清アルブミンの分子表面にポリオキシエチレン基が共有結合されていることを特徴とする表面修飾血清アルブミン−金属ポルフィリン複合体が提供される。
【0010】
また、第2の側面によれば、表面修飾血清アルブミン−金属ポルフィリン複合体を含む酸素輸液(人工酸素運搬体)が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の表面修飾血清アルブミン−金属ポルフィリン複合体は、アルブミン分子の表面がポリオキシエチレン基で被覆されているため、その内部に包接されている金属ポルフィリンが解離しにくい特徴を持つ。つまり、本発明の表面修飾血清アルブミン−金属ポルフィリン複合体を含有する酸素輸液は、酸素結合能を保持したまま、金属ポルフィリンを解離しにくい、実用に耐える、血中滞留時間の長い製剤として提供できる。また、本発明の表面修飾血清アルブミン−金属ポルフィリン複合体は前記した酸素輸液のほかにも、ガス吸着剤、酸素吸着剤、酸化還元触媒、酸素酸化反応触媒等としても有用なものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の表面修飾血清アルブミン−金属ポルフィリン複合体は、金属ポルフィリンを包接した血清アルブミンを含み、血清アルブミンの分子表面にポリオキシエチレン基が共有結合されている。好ましくは、ポリオキシエチレン基は、チオエーテル結合で導入されており、特に、血清アルブミンの分子表面に存在するリジン残基のアミノ基をイミノチオランでチオレート基に変換し、それに末端マレイミド基を有するポリオキシエチレンを反応させることによりチオエーテル結合で導入される。
【0013】
包接される金属ポルフィリンは、上記式[I]、[II]、[III]、[IV]、または[V]で示されるものがよい。
【化6】

【0014】
【化7】

【0015】
【化8】

【0016】
【化9】

【0017】
【化10】

【0018】
式[I]で示される金属ポルフィリンは、特開平6−271577号公報および特開2003−40893号公報に記載されている。式[I]において、R1は置換基を有してもよい直鎖または脂環式炭化水素基である。R1は1位に置換基を有する直鎖または脂環式炭化水素基が好ましい。そのような直鎖または脂環式炭化水素基の例を挙げると、1,1−二置換C1〜C10アルカン基、1−置換シクロプロピル基、1−置換シクロペンチル基、1−置換シクロヘキシル基−2−置換ノルボルニル基(これら基における置換基は、メチル基、アルキルアミド基(R’CONH−)、アルキルエステル基(R’OOC−)またはアルキルエーテル基(R’O−))、1−メチル−2−シクロヘキセニル基、または1−アダマンチル基等である。ここでR’で表されるアルキル基としてはC1〜C6アルキル基が好ましい。
【0019】
式[I]において、R2はアルキレン基であり、好ましくはC1〜C10アルキレン基である。
【0020】
式[I]において、R3はイミダゾリル基の中心遷移金属イオンM(周期律表第4〜5周期の遷移金属イオン)への配位を許容する基である。かかるR3の例を挙げると、水素原子またはメチル基、エチル基もしくはプロピル基である。X-は塩化物イオン、臭化物イオン等のハロゲン化物イオンを示し、X-の個数nは前記遷移金属イオンMの価数から2を差し引いた数である。
【0021】
式[II]で示される金属ポルフィリンは、特開2002−128781号公報に記載されている。式[II]において、R4は置換基を有してもよい直鎖または脂環式炭化水素基である。R4は1位に置換基を有する直鎖または脂環式炭化水素基が好ましい。そのような直鎖または脂環式炭化水素基の例を挙げると、1,1−二置換C1〜C10アルカン基、1−置換シクロプロピル基、1−置換シクロペンチル基、1−置換シクロヘキシル基−2−置換ノルボルニル基(これら基における置換基は、メチル基、アルキルアミド基(R’CONH−)、アルキルエステル基(R’OOC−)またはアルキルエーテル基(R’O−))、1−メチル−2−シクロヘキセニル基、または1−アダマンチル基等である。ここで、R’で表されるアルキル基としてはC1〜C6アルキル基が好ましい。
【0022】
式[II]において、R5はアルキレン基、好ましくはC1〜C6アルキレン基である。
【0023】
式[II]において、R6はアルキル基、好ましくはC1〜C6アルキル基である。
【0024】
式[II]において、Mは中心遷移金属イオン(周期律表第4〜5周期の遷移金属イオン)である。X-は塩化物イオン、臭化物イオン等のハロゲン化物イオンを示し、X-の個数nは前記遷移金属イオンMの価数から2を差し引いた数である。
【0025】
式[III]で示される金属ポルフィリンは、特願2004−190189号明細書に開示されている。式[III]において、R7は置換基を有してもよい直鎖または脂環式炭化水素基である。R7は1位に置換基を有する直鎖または脂環式炭化水素基が好ましい。そのような直鎖または脂環式炭化水素基の例を挙げると、1,1−二置換C1〜C10アルカン基、1−置換シクロプロピル基、1−置換シクロペンチル基、1−置換シクロヘキシル基−2−置換ノルボルニル基(これら基における置換基は、メチル基、アルキルアミド基(R’CONH−)、アルキルエステル基(R’OOC−)またはアルキルエーテル基(R’O−))、1−メチル−2−シクロヘキセニル基、または1−アダマンチル基等である。ここで、R’で表されるアルキル基としてはC1〜C6アルキル基が好ましい。
【0026】
式[III]において、R8はアルキレン基、好ましくはC1〜C10アルキレン基である。
【0027】
式[III]において、R9はイミダゾリル基の中心遷移金属イオンM(周期律表第4〜5周期の遷移金属イオン)への配位を許容する基、好ましくは水素原子またはメチル基、エチル基もしくはプロピル基であり、Rはメチレン基またはエチレン基である。X-は塩化物イオン、臭化物イオン等のハロゲン化物イオンを示し、X-の個数nは前記遷移金属イオンMの価数から2を差し引いた数である。
【0028】
式[III]で示される金属ポルフィリンは、例えば、次のようにして合成することができる。メソ−テトラキス(o−アミノフェニル)ポルフィリンを適当な有機溶媒(例えば、クロロホルム、テトラヒドロフランなど)に溶解し、そこにトリチルブロマイドおよびトリエチルアミンを加え、さらに10分〜1時間撹拌後、溶媒を減圧除去する。得られたポルフィリンのトルエン溶液を活性アルミナおよびヘプタンの入った容器に加え、90℃、遮光下にて12〜24時間撹拌する。ガラスフィルターでアルミナを濾別し、シリカゲルカラムによりメソ−トリ(α,α,α−o−アミノフェニル)−β−o−(N−トリフェニルメチル)アミノフェニルポルフィリンを分画精製する。得られたポルフィリンと適当な塩基(ピリジン、4−ジメチルアミノピリジン、トリエチルアミン等)を適当な有機溶媒(例えば、クロロホルム、テトラヒドロフラン等)に溶解した溶液を式R7COCl(ここで、R7は、上記定義の通り)で示される酸クロライドに滴下し、窒素雰囲気下、室温で2〜15時間撹拌する。溶媒を減圧除去後、クロロホルム、水を添加、水層をクロロホルムで洗浄後、有機層を回収し、溶媒を減圧除去する。得られた残渣をシリカゲルカラムで分画精製し、真空乾燥することで、メソ−トリ(α,α,α−o−(置換アミド))−β−o−(N−トリフェニルメチル)アミノフェニルポルフィリンを固体として得る。得られたポルフィリンと適当な塩基(ピリジン、4−ジメチルアミノピリジン、トリエチルアミン等)を適当な有機溶媒(例えば、クロロホルム、テトラヒドロフラン等)に溶解した溶液を下記式[VI]で示されるω−イミダゾリルカルボン酸(式[VI]において、R8〜R9は、上記定義の通り)の酸クロライドに滴下し、窒素雰囲気下、室温で2〜15時間撹拌する。
【化11】

【0029】
ついで、溶媒を減圧除去後、クロロホルム層を水洗し、溶媒を減圧除去する。得られた残渣をシリカゲルカラムで分画精製し、真空乾燥することで、式[III]で示されるポルフィリン化合物を得ることができる。
【0030】
こうして得られたポルフィリン化合物への中心金属導入は、例えば D. Dolphin 編、The Porphyrin、1978年、アカデミック・プレス社などに記載の一般法により達成され、相当のポルフィリン金属錯体として得られる。
【0031】
式[IV]で示される金属ポルフィリンは、上記特許文献2(特開平08−301873号公報)に記載されている。式[IV]において、R10は炭化水素基である。R10は水素原子、ビニル基、エチル基、ホルミル基、アセチル基が好ましい。
【0032】
式[IV]において、R11はアルキル基であり、好ましくはC1〜C10アルキル基である。
【0033】
式[IV]において、R12はアルキレン基であり、好ましくはC1〜C10アルキレン基である。
【0034】
式[IV]において、R13はイミダゾリル基の中心遷移金属イオンM(周期律表第4〜5周期の遷移金属イオン)への配位を許容する基である。かかるR13の例を挙げると、水素原子またはメチル基、エチル基もしくはプロピル基である。X-は塩化物イオン、臭化物イオン等のハロゲン化物イオンを示し、X-の個数nは前記遷移金属イオンMの価数から2を差し引いた数である。
【0035】
式[V]で示される金属ポルフィリンは、特願2004−190190号明細書に開示されている。式[V]において、Rは、メチレン基またはエチレン基である。R14は置換基を有してもよい直鎖または脂環式炭化水素基である。R14は1位に置換基を有する直鎖または脂環式炭化水素基が好ましい。そのような直鎖または脂環式炭化水素基の例を挙げると、1,1−二置換C1〜C10アルカン基、1−置換シクロプロピル基、1−置換シクロペンチル基、1−置換シクロヘキシル基−2−置換ノルボルニル基(これら基における置換基は、メチル基、アルキルアミド基(R’CONH−)、アルキルエステル基(R’OOC−)またはアルキルエーテル基(R’O−))、1−メチル−2−シクロヘキセニル基、または1−アダマンチル基等である。ここで、R’で表されるアルキル基としてはC1〜C6アルキル基が好ましい。
【0036】
式[V]において、R15はアルキレン基、好ましくは、C1〜C10アルキレン基である。
【0037】
式[V]において、R16はイミダゾリル基の中心遷移金属イオンM(周期律表第4〜5周期の遷移金属イオン)への配位を許容する基で、好ましくは水素原子またはメチル基、エチル基もしくはプロピル基である。X-は塩化物イオン、臭化物イオン等のハロゲン化物イオンを示し、X-の個数nは前記遷移金属イオンMの価数から2を差し引いた数である。
【0038】
式[V]で示される金属ポルフィリンは、例えば、Tsuchida et al., J. Chem. Soc. Perkin Trans 2, 1995, 747 (1995)に記載の方法を用いて合成した2−ヒドロキシメチル−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−置換アミドフェニル)ポルフィリンを出発物質として合成することができる。具体的には、式[A]:R”OOCRC(NH−Fmoc)COOH(ここで、Rは、上に定義した通り、Fmocは、9−フルオレニルメチルオキシカルボニル、R”は、例えば、t−ブチル)で示されるアスパラギン酸もしくはグルタミン酸誘導体を適当な乾燥溶媒(例えば、ジクロロメタン、ベンゼン、ジメチルホルムアミド等)に溶解し、縮合剤としてジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)を加え、室温で1〜12時間撹拌する。反応の進行に伴い白色の沈殿が生成するので、反応溶液を2〜30分間氷浴中で冷却した後、析出したN,N’−ジシクロヘキシル尿素(DCU)を濾過により除去する。濾液に、2−ヒドロキシメチル−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−置換アミドフェニル)ポルフィリンを加え、遮光下で1〜12時間攪拌する。薄層クロマトグラフィー(TLC)で反応の進行を追跡し、必要であれば適当な塩基(ピリジン、ジメチルアミノピリジン、トリエチルアミン等)を加える。溶媒を減圧除去し、残渣をベンゼンに溶解し、析出したDCUを再び濾過により除去する。溶媒を減圧除去後、冷ヘキサンを加え、ポルフィリンを析出させる。得られた混合物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製すると、2−(N−Fmoc−t−ブトキシカルボニル−アミノアシル)メチル−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−置換アミドフェニル)ポルフィリンが得られる。ここで、アミノアシルは、いうまでもなく、アスパラギルまたはグルタミルである(以下、同じ)。得られたポルフィリンをジメチルホルムアミドに溶解し、ピペリジンを加え、遮光下、室温で6〜24時間撹拌する。ジメチルホルムアミドとピペリジンを減圧除去した後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製すると、2−(t−ブトキシカルボニル−アミノアシル)メチル−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−置換アミドフェニル)ポルフィリンが得られる。次に、下記式[VII]で示されるω−イミダゾリルアルカン酸(式[VII]において、R15およびR16は、上に定義した通り)の塩酸塩を蒸留ジメチルホルムアミドに溶解し、DCCと適当な塩基(例えばピリジン、ジメチルアミノピリジン、トリエチルアミン等)を加え、室温で30分〜4時間撹拌する。
【化12】

【0039】
反応の進行に伴い生成したDCUを濾過により除去し、濾液に2−(t−ブトキシカルボニル−アミノアシル)メチル−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−置換アミドフェニル)ポルフィリンを加え、遮光下で15分〜2時間攪拌する。溶媒を減圧除去し、残渣をジクロロメタンとトリエチルアミンの混合溶媒に再溶解し、6〜24時間、室温、遮光下にて攪拌する。DCUを濾過により除去した後、残渣をベンゼンに溶解し、析出物を濾別して、溶媒を減圧除去する。残渣をクロロホルムに溶解し、純水と炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄し、脱水後、クロロホルムを除去して、2−(N−(ω−イミダゾリルアルカノイル)−t−ブトキシカルボニル−アミノアシル)メチル−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−置換アミドフェニル)ポルフィリンを得る。本化合物は、光、シリカゲルカラムによる分離操作で分解してしまうので、そのまま次の反応に用いる。
【0040】
こうして得られたポルフィリンを適当な乾燥溶媒(ジクロロメタン、クロロホルム、ベンゼン等)に溶解し、トリフルオロ酢酸を加え、室温、遮光下で1〜6時間撹拌する。TLCで反応の進行を追跡、溶媒を減圧除去し、残渣にベンゼンを加え、2−(N−(ω−イミダゾリルアルカノイル)−アミノアシル)メチル−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−置換アミドフェニル)ポルフィリンを得る。本化合物は、光、シリカゲルカラムによる分離操作で分解してしまうので、そのまま次の反応に用いる。
【0041】
得られたポルフィリンへ中心金属Mを導入する。この中心金属Mの導入は、例えばD. Dolphin 編、The Porphyrin、1978年、アカデミック・プレス社等に記載の一般法により達成され、相当のポルフィリン金属錯体として得られる。一般に、鉄錯体の場合にはポルフィリン鉄(III)錯体が、コバルト錯体の場合にはポルフィリンコバルト(II)錯体が得られる。具体的には、2−(N−(ω−イミダゾリルアルカノイル)−アミノアシル)メチル−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−置換アミドフェニル)ポルフィリンの蒸留THF溶液を電解鉄と臭化水素酸により調製した臭化鉄(II)へ、乾燥アルゴン雰囲気下ですばやく加え、60〜80℃で2〜24時間反応させる。溶媒を減圧除去後、残渣をクロロホルムに溶解させ、純水で十分に洗浄する。脱水、溶媒除去後、得られた混合物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで分画精製すると、茶色固体の2−(N−(ω−イミダゾリルアルカノイル)−アミノアシル)メチル−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−置換アミドフェニル)ポルフィナト鉄(III)が得られる。
【0042】
このポルフィリンを適当な乾燥溶媒(ジクロロメタン、クロロホルム、ベンゼン、ジエチルエーテル等)に溶解し、DCCを加え、室温で10分〜2時間撹拌する。そこへN−ヒドロキシスクシンイミドのジクロロメタン溶液を添加し、室温、遮光下にて2〜24時間反応させる。TLCで反応の進行を追跡し、析出物を0℃で濾別し、溶媒を減圧除去する。残渣をベンゼンに溶解し、DCUを再び濾過により除去した後、溶媒を減圧除去すると、目的化合物2−(N−(ω−イミダゾリルアルカノイル)−スクシンイミジル−アミノ酸エステル)メチル−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−置換アミドフェニル)ポルフィナト鉄(III)が得られる。ここで、アミノ酸エステルは、いうまでもなく、アルギネートまたはグルタメートである。
【0043】
なお、上記ポルフィリン金属錯体のうち、鉄(III)錯体の形を有する場合は、適当な還元剤(亜二チオン酸ナトリウム、アスコルビン酸等)を用い、常法により中心金属を3価から2価へ還元すれば、酸素結合活性が付与できる。
【0044】
これらのポルフィリン鉄(II)錯体をアルブミンと結合させるには、まずポルフィリン鉄(II)錯体のカルボニル錯体エタノール溶液を調製し、それを例えばヒト血清アルブミンのリン酸緩衝水溶液と混合し、ゆっくりと室温で30分〜3時間攪拌する。得られた溶液をリン酸緩衝水溶液に対して、10〜24時間透析し、エタノールを除去する。こうして得られた式[V]で示される金属ポルフィリンが得られる。ここで、ポルフィリンのスクシンイミジルオキシ基が離脱したアシル基がアルブミンのリジンアミノ基とアミド結合を形成している。
【0045】
本発明の金属ポルフィリンを包接した血清アルブミンは、金属ポルフィリンの結合をもたらすアミノ酸を遺伝子組み換え技術により少なくとも一つ導入した組換えヒト血清アルブミンに、金属ポルフィリンを軸配位結合させて得た組換えヒト血清アルブミン−金属ポルフィリン錯体であってもよい。このような組換えヒト血清アルブミン−金属ポルフィリン錯体は、特表2002−500862号公報に記載されている。導入されるアミノ酸はヒスチジンが好ましく、導入位置はサブドメインIBが好ましい。この場合の金属ポルフィリンは、軸塩基配位子を分子内に持っていない金属プロトポルフィリン、金属デューテロポルフィリン、金属ジアセチルデューテロポルフィリン、金属メソポルフィリン、金属ジホルミルポルフィリン、金属テトラフェニルポルフィリン、金属オクタエチルポルフィリンが好ましい。
【0046】
本発明の表面修飾血清アルブミン−金属ポルフィリン複合体において、中心遷移金属イオンMは好ましくはFeまたはCoである。Feの原子価は+2価または+3価であり得、Coの原子価は+2価であり得る。
【0047】
また、本発明の表面修飾血清アルブミン−金属ポルフィリン複合体において、血清アルブミンはヒト血清アルブミン、ウシ血清アルブミン、組換えヒト血清アルブミン、アルブミン多量体が好ましい。
【0048】
アルブミン1分子当りのポリオキシエチレンの平均結合分子数は、1〜15が好ましく、ポリオキシエチレンの平均分子量は1,000〜20,000が好ましい。
【0049】
このような表面修飾血清アルブミン−金属ポルフィリン複合体は、酸素を可逆的に結合解離できるので、酸素輸液としての機能を発現することはもちろん、アルブミンの分子表面がポリオキシエチレン鎖で被覆されているので、アルブミン内部に包接されている金属ポルフィリンが解離しにくい特徴を持つ。つまり、体内へ投与した場合でも、血液循環系で金属ポルフィリンがアルブミンから離脱することなく、より長い血中滞留時間が期待される。
【0050】
酸素輸液の適応は、出血ショックの蘇生液 (輸血用血液の血液代替物)のほか、術前血液希釈液、人工心肺等体外循環回路の補填液、移植臓器の灌流液、虚血部位への酸素供給液(心筋梗塞、脳梗塞、呼吸不全等)、慢性貧血治療剤、液体換気の環流液、癌治療用増感剤、再生組織細胞の培養液、さらに、稀少血液型患者への利用、宗教上の理由による輸血拒否患者への対応、動物医療への応用、が期待されている。
【0051】
加えて、ポルフィリンが例えば第4〜5周期に属する金属イオンの錯体である場合、酸化還元反応、酸素酸化反応または酸素添加反応の触媒としての付加価値も高い。従って、本発明のポルフィリン金属錯体は、酸素輸液のほか、ガス吸着剤、酸化還元触媒、酸素酸化反応触媒、酸素添加反応触媒としての特徴を持つ。
【0052】
本発明の表面修飾血清アルブミン−金属ポルフィリン複合体の製造方法に制限はないが、例えば次の方法により合成される。
【0053】
特開2003−040893号公報に記載の方法により合成された、例えば2−(N−(8−(2−メチルイミダゾリル)オクタノイルオキシ))メチル−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−(1−メチルシクロヘキサンアミド)フェニル)ポルフィナト鉄(II)(一酸化炭素)錯体を包接したヒト血清アルブミン複合体(アルブミン濃度:0.1〜10wt%、好ましくは0.5〜5.0wt%、鉄(II)ポルフィリン/アルブミン:1〜8(モル/モル))のリン酸緩衝生理塩水溶液(PBS、pH7.4)に、例えばイミノチオラン(ピアス・ケミカル製、イミノチオラン/アルブミン:3〜40(モル/モル)、好ましくは10〜30)を加え、室温で1〜12時間、好ましくは2〜6時間攪拌した。続いて片末端マレイミド片末端メチルポリオキシエチレン、例えば、サンブライト メマール50−H(Mw:5,000、日本油脂製、ポリオキシエチレン/アルブミン:3〜40(モル/モル)、好ましくは10〜30)を添加し、同条件で0.5〜6時間、好ましくは1〜3時間反応させた。得られた混合物を限外濾過装置(アドバンテック製、UHP−76K、限外分子量膜:5kDa)を用い、数LのPBS溶液で濃縮・洗浄を繰り返す。得られた赤色の表面修飾血清アルブミン−鉄(II)ポルフィリン複合体水溶液を0.45μmの除菌フィルター(アドバンテック社製、DISMIC 25CS045AS)を通過させて最終調整する。
【0054】
表面修飾血清アルブミン−鉄(II)ポルフィリン複合体の鉄イオン濃度は、誘導プラズマ発光分析(ICP、セイコーインスツルメンツ製SPS 7000A)を用いて測定し、ヘム濃度の指標とできる。また、ブロモクレゾールグリーン法(和光純薬社製、アルブミンテストワコー)により、アルブミン濃度を測定できる。さらに、表面修飾血清アルブミン−鉄(II)ポルフィリン複合体のマトリックス支援レーザー脱離イオン化法−質量分析(MALDI-TOFMS)(島津製作所、KRATOS AXIMA-CFR)により、分子量を測定できる。以上の分析結果から、アルブミン表面に結合したポリオキシエチレン鎖の本数がわかる。
【0055】
表面修飾血清アルブミン−鉄(II)ポルフィリン複合体は、いずれの場合も酸素と接触すると速やかに安定な酸素錯体を生成する。また、これらの錯体は酸素分圧に応じて酸素を吸脱着できる。この酸素結合解離は可逆的に繰り返し行うことができ、酸素吸脱着剤、酸素運搬体として作用する。
【0056】
酸素以外にも金属に配位性である気体の場合、相当する配位錯体を形成できる(例えば、一酸化炭素、一酸化窒素、二酸化窒素等)。これらの理由から、本発明のポルフィリン金属錯体は、特に鉄(II)またはコバルト(II)錯体の場合、有効な酸素輸液として機能することはもちろん、均一系、不均一系での酸化還元反応触媒、およびガス吸着剤としての応用が可能となる。
【0057】
表面修飾血清アルブミン−鉄(II)ポルフィリン複合体(酸素錯体)水溶液を麻酔下のウイスターラットの尾静脈から投与し、その後の経時的採血から血漿中に含まれる鉄(II)ポルフィリン濃度を定量、その血中滞留時間を測定できる。鉄(II)ポルフィリンの血中半減期は12〜24時間であり、これはポリオキシエチレンで修飾していない血清アルブミン−鉄(II)ポルフィリン複合体に比べ約7〜34倍に延長していることになる。
【実施例】
【0058】
以下、この発明を実施例により詳細に説明する。なお、本発明が実施例のものに限定されないことは、言うまでもないことである。
【0059】
例1
特開2003−040893号公報に記載の方法により合成された2−(N−(8−(2−メチルイミダゾリル)オクタノイルオキシ))メチル−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−(1−メチルシクロヘキサンアミド)フェニル)ポルフィナト鉄(II)(一酸化炭素)錯体を包接したヒト血清アルブミン複合体(アルブミン濃度:1wt%、鉄(II)ポルフィリン/アルブミン:4(モル/モル))のリン酸緩衝生理塩水溶液(PBS、pH7.4、50mL)に20mgのイミノチオラン(ピアス ケミカル製、イミノチオラン/アルブミン:20(モル/モル))を加え、室温でゆっくりと4時間攪拌した。続いて片末端マレイミド片末端メチル−ポリオキシエチレン(サンブライト メマール 50−H、Mw:5,000、日本油脂製、0.6g)を添加し、同条件で2時間反応させた。得られた混合物を限外濾過装置(アドバンテック製、UHP−76K、限外分子量膜:5kDa)を用い、1LのPBS溶液で濃縮・洗浄を繰り返し、最終的には10mLに濃縮した。得られた赤色の表面修飾血清アルブミン−鉄(II)ポルフィリン複合体水溶液を0.45μmの除菌フィルター(アドバンテック製、DISMIC 25CS045AS)を通過して最終調整した。
【0060】
得られた表面修飾血清アルブミン−鉄(II)ポルフィリン複合体の鉄イオン濃度を誘導プラズマ発光分析(ICP、セイコーインスツルメンツ製 SPS 7000A)を用いて測定し、ヘム濃度の指標とした。また、ブロモクレゾールグリーン法(和光純薬社製、アルブミンテストワコー)により、アルブミン濃度を測定。さらに、表面修飾血清アルブミン−鉄(II)ポルフィリン複合体のマトリックス支援レーザー脱離イオン化法−質量分析(MALDI-TOFMS)(島津製作所製、KRATOS AXIMA-CFR)により、分子量を測定した。以上の実験結果から、鉄(II)ポルフィリン濃度は3.0mM、アルブミン濃度は4.9mM、分子量は101,516、アルブミン表面に結合したポリオキシエチレン鎖の本数は平均6本であることがわかった。
【0061】
例2
例1で使用した2−(N−(8−(2−メチルイミダゾリル)オクタノイルオキシ))メチル−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−(1−メチルシクロヘキサンアミド)フェニル)ポルフィナト鉄(II)(一酸化炭素)錯体を包接したヒト血清アルブミン複合体の代わりに、特開2002−128781号公報に記載の方法により合成された2−(4−(o−メチル−L−ヒスチジルカルボニル)ブタノイルオキシ)メチル−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−ピバルアミドフェニル)ポルフィナト鉄(II)(一酸化炭素)錯体を包接したヒト血清アルブミン複合体(アルブミン濃度:1wt%、鉄(II)ポルフィリン/アルブミン:8(モル/モル))のリン酸緩衝生理塩水溶液(PBS、pH7.4、50mL)を用いた以外は全く同様な方法に従って、表面修飾血清アルブミン−鉄(II)ポルフィリン複合体水溶液を得た。アルブミン表面に結合したポリオキシエチレン鎖の本数は平均6本であった。
【0062】
例3
例1で使用した2−(N−(8−(2−メチルイミダゾリル)オクタノイルオキシ))メチル−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−(1−メチルシクロヘキサンアミド)フェニル)ポルフィナト鉄(II)(一酸化炭素)錯体を包接したヒト血清アルブミン複合体の代わりに、特許文献2(特開平08−301873号公報)に記載の方法により合成された3,18−ジビニル−8−(3−エトキシカルボニル)エチル−12−(N−イミダゾリルプロピルアミド)−9−オキシメチル)カルボニル)エチル−2,7,13,17−テトラメチルポルフィナト鉄(II)(一酸化炭素)錯体を包接したヒト血清アルブミン複合体(アルブミン濃度:1wt%、鉄(II)ポルフィリン/アルブミン:1(モル/モル))のリン酸緩衝生理塩水溶液(PBS、pH7.4、50mL)を用い、イミノチオラン/アルブミン:15(モル/モル))にした以外は全く同様な方法に従って、表面修飾血清アルブミン−鉄(II)ポルフィリン複合体水溶液を得た。アルブミン表面に結合したポリオキシエチレン鎖の本数は平均5本であった。
【0063】
例4
例1で調製した表面修飾血清アルブミン−鉄(II)ポルフィリン複合体(一酸化炭素錯体)水溶液(4mL)を1cm石英製分光用セルに入れ、氷水浴で冷やしながら、酸素を通気(フロー)しながら、ハロゲンランプ(500W)を用いてポルフィリン鉄(II)錯体結合アルブミン水溶液に光照射した (10分間)。その後、得られた水溶液の紫外可視吸収スペクトル測定を行った。酸素錯体の形成を確認後、窒素を通気して、脱酸素を行いデオキシ体を調製した。ポルフィリン鉄(II)錯体結合アルブミンの窒素雰囲気下における吸収スペクトルは、λmaxが444、540、566nmであり、包接されている鉄(II)ポルフィリン鉄は分子内軸塩基が1つ配位したFe(II)高スピン5配位錯体を形成していることがわかった。この分散液に酸素を通気すると、その可視吸収スペクトルのλmaxは428、551nmへ移行し、これは明らかに酸素化錯体になっていることを示す。この酸素化錯体溶液に窒素ガスを1分間吹き込むことにより、可視吸収スペクトルは酸素化型スペクトルからデオキシ型スペクトルへ可逆的に変化し、酸素の吸脱着が可逆的に生起することを確認した。なお、酸素を吹き込み、次に窒素を吹き込む操作を繰り返し、酸素吸脱着を連続して行うことができた。
【0064】
例5
例4で調製した表面修飾血清アルブミン−鉄(II)ポルフィリン複合体(酸素錯体)水溶液(3.8mL)をセボフルランで麻酔したウイスターラット(体重:約300g、雄)の尾静脈から1mL/分の速度で投与した(この時、投与量はラット全血量の約20%に相当)。投与後、経時的に大腿動脈から採血を行い、得られた血液を遠心分離(3000rpm、10分、4℃)して、血漿中に含まれる鉄(II)ポルフィリン濃度をICP測定により定量し、血中滞留時間を測定した(使用したラットの数(n)=5)。鉄(II)ポルフィリンの血中半減期は約15時間であり、これはポリオキシエチレンで修飾していない血清アルブミン−鉄(II)ポルフィリン複合体に比べ約20倍に延長したことになる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属ポルフィリンを包接した血清アルブミンを含み、前記血清アルブミンの分子表面にポリオキシエチレン基が共有結合されていることを特徴とする表面修飾血清アルブミン−金属ポルフィリン複合体。
【請求項2】
前記ポリオキシエチレン基が、チオエーテル結合により前記血清アルブミンの分子表面に導入されていることを特徴とする請求項1に記載の表面修飾血清アルブミン−金属ポルフィリン複合体。
【請求項3】
前記ポリオキシエチレン基が、前記血清アルブミンの分子表面に存在するリジン残基のアミノ基をイミノチオランでチオレート基に変換し、それに末端マレイミド基を有するポリオキシエチレンを反応させることにより導入されていることを特徴とする請求項2に記載の表面修飾血清アルブミン−金属ポルフィリン複合体。
【請求項4】
前記金属ポルフィリンが、一般式[I]:
【化1】

(ここで、R1は置換基を有してもよい直鎖または脂環式炭化水素基、R2はアルキレン基、R3はイミダゾリル基の中心遷移金属イオンM(周期律表第4〜5周期の遷移金属イオン)への配位を許容する基)で示されることを特徴とする請求項1〜3いずれか1項に記載の表面修飾血清アルブミン−金属ポルフィリン複合体。
【請求項5】
前記金属ポルフィリンのR1が1位に置換基を有する直鎖または脂環式炭化水素基であり、R2がC1〜C10アルキレン基であり、R3が水素原子またはメチル基、エチル基もしくはプロピル基であることを特徴とする請求項4に記載の表面修飾血清アルブミン−金属ポルフィリン複合体。
【請求項6】
前記金属ポルフィリンのR1が1,1−二置換C1〜C10アルカン基、1−置換シクロプロピル基、1−置換シクロペンチル基、1−置換シクロヘキシル基−2−置換ノルボルニル基(これら基における置換基は、メチル基、アルキルアミド基、アルキルエステル基またはアルキルエーテル基)、1−メチル−2−シクロヘキセニル基、または1−アダマンチル基であることを特徴とする請求項5に記載の表面修飾血清アルブミン−金属ポルフィリン複合体。
【請求項7】
前記金属ポルフィリンが、一般式[II]:
【化2】

(ここで、R4は置換基を有してもよい直鎖または脂環式炭化水素基、R5はアルキレン基、R6はアルキル基、Mは中心遷移金属イオン(周期律表第4〜5周期の遷移金属イオン))で示されることを特徴とする請求項1〜3いずれか1項に記載の表面修飾血清アルブミン−金属ポルフィリン複合体。
【請求項8】
4が1位に置換基を有する直鎖または脂環式炭化水素基であり、R5がC1〜C6アルキレン基であり、R6がC1〜C6アルキル基であることを特徴とする請求項7に記載の表面修飾血清アルブミン−金属ポルフィリン複合体。
【請求項9】
前記金属ポルフィリンのR4が1,1−二置換C1〜C10アルカン基、1−置換シクロプロピル基、1−置換シクロペンチル基、1−置換シクロヘキシル基−2−置換ノルボルニル基(これら基における置換基は、メチル基、アルキルアミド基、アルキルエステル基またはアルキルエーテル基)、1−メチル−2−シクロヘキセニル基、または1−アダマンチル基であることを特徴とする請求項8に記載の表面修飾血清アルブミン−金属ポルフィリン複合体。
【請求項10】
前記金属ポルフィリンが、一般式[III]:
【化3】

(ここで、R7は置換基を有してもよい直鎖または脂環式炭化水素基、R8はアルキレン基、R9はイミダゾリル基の中心遷移金属イオンM(周期律表第4〜5周期の遷移金属イオン)への配位を許容する基)で示されることを特徴とする請求項1〜3いずれか1項に記載の表面修飾血清アルブミン−金属ポルフィリン複合体。
【請求項11】
7が1位に置換基を有する直鎖または脂環式炭化水素基であり、R8がC1〜C10アルキレン基であり、R9が水素原子またはメチル基、エチル基もしくはプロピル基で示される請求項10に記載の表面修飾血清アルブミン−金属ポルフィリン複合体。
【請求項12】
10が1,1−二置換C1〜C10アルカン基、1−置換シクロプロピル基、1−置換シクロペンチル基、1−置換シクロヘキシル基−2−置換ノルボルニル基(これら基における置換基は、メチル基、アルキルアミド基、アルキルエステル基またはアルキルエーテル基)、1−メチル−2−シクロヘキセニル基、または1−アダマンチル基であることを特徴とする請求項11に記載の表面修飾血清アルブミン−金属ポルフィリン複合体。
【請求項13】
前記金属ポルフィリンが、一般式[IV]:
【化4】

(ここで、R10は炭化水素基、R11はアルキル基、R12はアルキレン基、R13はイミダゾリル基の中心遷移金属イオンM(周期律表第4〜5周期の遷移金属イオン)への配位を許容する基)で示されることを特徴とする請求項1〜3いずれか1項に記載の表面修飾血清アルブミン−金属ポルフィリン複合体。
【請求項14】
前記金属ポルフィリンのR10が水素原子、ビニル基、エチル基、ホルミル基、もしくはアセチル基であり、R11がC1〜C10アルキレン基であり、R12がC1〜C10アルキレン基でありR13が水素原子またはメチル基、エチル基もしくはプロピル基であることを特徴とする請求項14に記載の表面修飾血清アルブミン−金属ポルフィリン複合体。
【請求項15】
前記金属ポルフィリンが、一般式[V]:
【化5】

(ここで、R14は置換基を有してもよい直鎖または脂環式炭化水素基、R15はアルキレン基、R16はイミダゾリル基の中心遷移金属イオンM(周期律表第4〜5周期の遷移金属イオン)への配位を許容する基、Rはメチレン基またはエチレン基)で示され、血清アルブミンのリジン残基であるアミノ基と結合している請求項1〜3いずれか1項に記載の表面修飾血清アルブミン−金属ポルフィリン複合体。
【請求項16】
14が1位に置換基を有する直鎖または脂環式炭化水素基であり、R15がC1〜C10アルキレン基であり、R16が水素原子またはメチル基、エチル基もしくはプロピル基で示される請求項15に記載の表面修飾血清アルブミン−金属ポルフィリン複合体。
【請求項17】
14が1,1−二置換C1〜C10アルカン基、1−置換シクロプロピル基、1−置換シクロペンチル基、1−置換シクロヘキシル基−2−置換ノルボルニル基(これら基における置換基は、メチル基、アルキルアミド基、アルキルエステル基またはアルキルエーテル基)、1−メチル−2−シクロヘキセニル基、または1−アダマンチル基である請求項16に記載の表面修飾血清アルブミン−金属ポルフィリン複合体。
【請求項18】
金属ポルフィリンを包接した血清アルブミンが、金属ポルフィリンの結合をもたらすアミノ酸を遺伝子組み換え技術により少なくとも一つ導入された組換えヒト血清アルブミンに、金属ポルフィリンを軸配位結合させて得た組換えヒト血清アルブミン−金属ポルフィリン錯体で示される請求項1〜3いずれか1項に記載の表面修飾血清アルブミン−金属ポルフィリン複合体。
【請求項19】
金属ポルフィリンのMがFeまたはCoであることを特徴とする請求項6、9、12、14、17、18いずれか1項に記載の表面修飾血清アルブミン−金属ポルフィリン複合体。
【請求項20】
Feの価数が+2価または+3価である請求項19記載の表面修飾血清アルブミン−金属ポルフィリン複合体。
【請求項21】
Coの価数が+2価である請求項19記載の表面修飾血清アルブミン−金属ポルフィリン複合体。
【請求項22】
アルブミンがヒト血清アルブミン、ウシ血清アルブミン、組換えヒト血清アルブミン、アルブミン多量体である請求項1〜21のいずれか1項に記載の表面修飾血清アルブミン−金属ポルフィリン複合体。
【請求項23】
アルブミン1分子当りのポリオキシエチレンの平均結合分子数が1〜15である請求項1〜22のいずれか1項に記載の表面修飾血清アルブミン−金属ポルフィリン複合体。
【請求項24】
ポリオキシエチレンの平均分子量が1,000〜20,000である請求項1〜23のいずれか1項に記載の表面修飾血清アルブミン−金属ポルフィリン複合体。
【請求項25】
請求項22〜24のいずれか1項に記載の表面修飾血清アルブミン−金属ポルフィリン複合体を含有する酸素輸液。

【公開番号】特開2006−45173(P2006−45173A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−232519(P2004−232519)
【出願日】平成16年8月9日(2004.8.9)
【出願人】(000218719)
【Fターム(参考)】