説明

表面処理成形体

【課題】 表面酸化処理の効果の経時的な低減が少なく、良好な接着性、印刷特性を示す表面状態を6ヶ月以上の長期にわたって維持することが可能な表面処理成形体を提供する。
【解決手段】 エチレン・不飽和カルボン酸共重合体又はそのアイオノマーのフィルムやシートなどの成形体表面に、コロナ処理、プラズマ処理などの表面酸化処理が施してなる表面処理成形体、及び、基材にこのような表面処理成形体を積層してなる積層成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面濡れ張力を、長期間、高い水準で維持することが可能な表面処理成形体に関する。とりわけ良好な接着性、印刷特性を示す表面状態を長期にわたって維持することが可能な表面処理成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィンは、安価で、優れた加工性、機械的特性、電気特性を有しているところから、フィルム、シート、容器、その他各種形状の成形品に加工されて、広い分野で使用されている。一般には異種基材への接着性、印刷性などが良好でないため、コロナ処理や火炎処理などの表面酸化処理を施すことによって、これらの欠点を補っている。しかしながら上記表面処理の効果は経時的に低減する傾向にあり、そのため表面処理品の保管方法に工夫が凝らされているが、必ずしも満足すべき結果が得られていないのが現状である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
そこで本発明の目的は、表面酸化処理の効果が、特別の保管方法を採用する必要もなく、長期にわたって持続することが可能な表面処理成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
すなわち本発明は、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体又はそのアイオノマーの成形体表面に、表面酸化処理が施されてなる表面処理成形体に関する。本発明はまた、基材にこのような表面処理成形体を積層してなる積層成形体に関する。
【発明の効果】
【0005】
本発明は、6ヶ月以上のような長期にわたって表面酸化処理効果が持続する成形体を提供することができる。かかる本発明の成形体は、上記表面処理面が印刷性、接着性、帯電防止性などに優れているので、床材、壁材、間仕切りカーテンなどの建材や食品、医薬品、電子部品などの包装材料として好適に使用することができる。このような用途において本発明の成形体、特にフィルム、シートは、印刷原反として、あるいは他の基材との貼り合せ原反として使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明で使用するエチレン・不飽和カルボン酸共重合体は、エチレンと不飽和カルボン酸の2元共重合体のみならずさらに他の単量体が共重合された多元共重合体を包含するものである。またエチレン・不飽和カルボン酸共重合体を構成する不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、無水マレイン酸、無水イタコン酸などを例示することができる。これらの中では、とくにアクリル酸又はメタクリル酸が好ましい。またエチレン・不飽和カルボン酸共重合体に共重合されていてもよい上記他の単量体としては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルのようなビニルエステル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n−ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸イソブチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチルのような不飽和カルボン酸エステルなどを例示することができる。
【0007】
上記エチレン・不飽和カルボン酸共重合体としては、加工性、表面濡れ性及びその持続性、耐ブロッキング性などを考慮すると、共重合体中の不飽和カルボン酸含量が2〜30重量%、とくに5〜20重量%のものを使用するのが好ましく、また上記他の単量体を含有する場合には、例えば共重合体中の他の単量体の含量が30重量%以下、好ましくは20重量%以下のものを使用するのが好ましい。
【0008】
本発明の成形体を構成する材料としてはまた、上記エチレン・不飽和カルボン酸共重合体の代わりにそのアイオノマーを使用することができる。具体的には、アイオノマーとして、カチオン成分が、リチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属、マグネシウム、カルシウムなどのアルカリ土類金属、亜鉛などの遷移金属等の金属カチオンであるものを使用することができる。アイオノマーとしては、これら金属カチオンを2種以上含むものであってもよく、さらに有機アミン、例えば、n−へキシルアミン、ヘキサメチレンジアミン、1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン、メタキシレンジアミンなどで錯化合物を形成しているものであってもよい。表面濡れの持続性を考慮すると、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体を使用するより、そのアイオノマーを使用することが好ましく、とりわけアルカリ金属アイオノマー、とくにナトリウム又はカリウムのアイオノマーを使用するのが好ましい。上記アイオノマーとしては、加工性、表面濡れの持続性などを考慮すると、中和度が90%以下、とくに20〜85%、とりわけ40〜85%のものが好ましい。
【0009】
これらエチレン・不飽和カルボン酸共重合体又はそのアイオノマーとしては、加工性、引張特性、耐ブロッキング性などを考慮すると、190℃、2160g荷重におけるメルトフローレート(JIS K7210−1999)が1〜50g/10分、とくに1〜20g/10分のものを使用するのが好ましい。
【0010】
このようなエチレン・不飽和カルボン酸共重合体は、エチレン、不飽和カルボン酸、任意に他の単量体を、ラジカル開始剤を用いて高温、高圧下で共重合することによって得ることができる。またエチレン・不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマーは、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体を溶融条件下に金属化合物と反応させることによって得ることができる。
【0011】
本発明の表面処理成形体は、上記エチレン・不飽和カルボン酸共重合体又はそのアイオノマーの成形体を表面酸化処理してなるものである。成形体形状としては、シート、フィルム等が一般的であるが、その他テープ、繊維、中空体、パイプ、チューブ、ロッド、異型押出品、射出成形品など種々の成形法によって得られるものを例示することができる。このような成形体には、本発明の目的を損なわない範囲において、他の重合体や添加剤を配合することができる。かかる他の重合体として例えば、エチレンの単独重合体又はエチレンと炭素数3〜12のα−オレフィンとの共重合体、たとえば高圧法ポリエチレン、中・高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、とくに密度が940kg/m以下の直鎖状低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ−1−ブテン、ポリ−4−メチル−1−ペンテン、エチレンと不飽和エステルの共重合体、例えばエチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレンと1種又は2種以上の不飽和カルボン酸エステル、例えばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸nブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸グリシジル、マレイン酸ジメチルなどとの共重合体、エチレンと一酸化炭素と任意に不飽和カルボン酸エステルや酢酸ビニルとの共重合体、ポリオレフィン系エラストマーの如きオレフィン系重合体を例示することができる。また任意に配合可能な添加剤としては、酸化防止剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、滑剤、帯電防止剤、顔料、染料、可塑剤、抗菌剤、発泡剤、ガラス繊維、酸化チタン、炭酸カルシウム、シリカ、アルミナ、カーボンブラックの如き無機充填剤などを例示することができる。
【0012】
表面酸化処理としては、例えばコロナ処理、プラズマ処理、フレームプラズマ処理、オゾン処理などを挙げることができるが、とくにコロナ処理が好ましい。これら表面酸化処理は、表面濡れ張力が44mN/m以上、とくに50mN/m以上となるように行なうのがよい。
【0013】
コロナ処理は、上記エチレン・不飽和カルボン酸共重合体又はそのアイオノマーの成形体の表面にコロナ放電処理を施すことによって行なわれる。例えば市販のコロナ放電処理器を用い、発生させたコロナ雰囲気下に上記成形体を通過させることによって行なうことができる。コロナ処理は、例えばコロナ放電密度を10〜200ワット・分/m、とくに20〜180ワット・分/mのような条件で行なうのが好ましい。コロナ放電処理に際し、とくに成形体を加温する必要はないが、処理効果を高めるために成形体が変形しない程度に加温してもよい。
【0014】
プラズマ処理は、アルゴン、ヘリウム、クリプトン、ネオン、キセノン、水素、窒素、空気などから選ばれる1種又は2種以上の気体をプラズマジェットで電子的に励起させた後、帯電粒子を除去し、電気的に中性にしたものを成形体表面に吹き付けることによって行なうことができる。
【0015】
フレームプラズマ処理は、天然ガスやプロパンガスを燃焼させたときに生じる火炎内のイオン化したプラズマを成形体表面に吹き付けることによって行なうことができる。
【0016】
表面酸化処理された成形体は、そのまま各種用途分野で使用することができる。また成形体がフィルムやシートの場合には、フィルム状又はシート状の各種基材に積層して使用することができる。例えば各種熱可塑性樹脂、紙、木材、金属、織布、不織布などの1層又は多層からなる基材の接着に使用することができる。
【0017】
このような基材として利用できる熱可塑性樹脂としては、エチレンの単独重合体又はエチレンと炭素数3〜12のα−オレフィンとの共重合体、たとえば高圧法ポリエチレン、中・高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、とくに密度が940kg/m以下の直鎖状低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ−1−ブテン、ポリ−4−メチル−1−ペンテン、エチレンと極性モノマーとの共重合体、例えばエチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレンと1種又は2種以上の不飽和カルボン酸エステル、例えばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸nブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸グリシジル、マレイン酸ジメチルなどとの共重合体、エチレンと一酸化炭素と任意に不飽和カルボン酸エステルや酢酸ビニルとの共重合体、ポリオレフィン系エラストマーの如きオレフィン系重合体、ポリスチレン、ハイインパクトポリスチレンやABS樹脂のようなゴム強化スチレン系樹脂のようなスチレン系重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、シクロヘキサンジメタノール共重合ポリエチレンテレフタレート、ポリエステルエラストマーのようなポリエステル、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、エチレン・ビニルアルコール共重合体、ポリビニルアルコール、ポリアミド樹脂あるいはこれら2種以上の混合物などを例示することができる。
【実施例】
【0018】
多層インフレーションフィルム成形機(50mmφ)を用いて、メタクリル酸含量が11.5重量%、アクリル酸イソブチル含量が5重量%のエチレン・メタクリル酸・アクリル酸イソブチル共重合体のカリウムアイオノマー(中和度:80%、メルトフローレート:0.4g/10分)とメタロセン触媒を用いて合成された直鎖低密度ポリエチレン(商品名:エボリューSP2520、密度925kg/m、メルトフローレート1.9g/10分、三井化学(株)製)からなる2層フィルム(前者フィルム厚み35μm、後者フィルム厚み15μm)を作成した。
【0019】
この2層フィルムの両面を、1kw×ライン速度10m/分の条件でコロナ処理した。加工直後の表面濡れ張力は、両面とも52mN/m以上であった。ついでコロナ処理したこの2層フィルムを23℃、50%相対湿度の条件で2年間保持した。このものの表面濡れ張力は、カリウムアイオノマー側は52mN/m以上であり、優れた濡れ性を示したが、直鎖低密度ポリエチレン側は、42mN/mに低下していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン・不飽和カルボン酸共重合体又はそのアイオノマーの成形体表面に、表面酸化処理が施されてなる表面処理成形体。
【請求項2】
表面濡れ張力が、50mN/m以上である請求項1記載の表面処理成形体。
【請求項3】
成形体がフィルム又はシートである請求項1又は2記載の表面処理成形体。
【請求項4】
表面酸化処理がコロナ処理である請求項1〜3記載の表面処理成形体。
【請求項5】
エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマーが、アルカリ金属アイオノマーである請求項1〜4記載の表面処理成形体。
【請求項6】
基材に請求項1〜5記載の表面処理成形体を積層してなる多層成形体。
【請求項7】
基材及び表面処理成形体が共にフィルム又はシートである請求項6記載の多層成形体。

【公開番号】特開2006−52303(P2006−52303A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−234475(P2004−234475)
【出願日】平成16年8月11日(2004.8.11)
【出願人】(000174862)三井・デュポンポリケミカル株式会社 (174)
【Fターム(参考)】