説明

表面処理金属及びその製造方法と表面処理液

【課題】本発明は、無機−有機複合体を主成分とし、添加物を含有する被覆層を有し、耐熱性と耐食性をそれぞれ高いレベルで満足する表面処理金属を提供する。また、この表面処理金属を製造する方法及びそれに使用する表面処理液を提供する。
【解決手段】基材表面の少なくとも一部に、被覆層を有する表面処理金属であって、該被覆層が、シロキサン結合を主骨格とし、炭素数1以上12以下のアルキル基、炭素数6以上12以下のアリール基、カルボキシル基、アミノ基又は水酸基から選ばれる少なくとも1種の有機基を側鎖に含む架橋皮膜中に、平薄板形状の添加物と繊維状又はウィスカー状の添加物とを含有する被覆層であるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に被覆層を有する表面処理金属であって、500℃以上の耐熱性と絞り加工や折り曲げ加工等が可能な表面処理金属とその製造方法及びそれを好適に製造するための表面処理液に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄に代表される金属は、熱的、化学的な外乱要因から保護して耐久性を向上させ、また、美しい外観を得ることを目的として塗装して使用されるのが一般的である。これらの塗装金属には、耐食性、耐汚染性、耐熱性等の機能が必要とされる場合が多いが、このうち、耐熱性が必要とされる用途としては、自動車及び自動二輪車の排気系部品、加熱調理器具、空調機器、暖房機器等が挙げられる。これらの用途には、通常300℃〜400℃の耐熱性が必要とされ、また、自動車等の排気系部品に対しては500℃以上の耐熱性が要求される場合がある。
【0003】
塗装金属を製造する方法のうち、特に生産性に優れる方法として、プレコート法が挙げられる。これは、例えば、塗装薄鋼板を製造する場合、コイルの状態で塗装を行って製造し、その後の工程で所定の形状に加工して使用するものであり、安価に大量処理することが可能である。反面、コイルを処理する温度以下で皮膜の焼き付け・固化できることが必要であり、また、鋼板には所定の加工性と塗膜密着性が必要とされている。
【0004】
プレコート鋼板で用いられる塗膜のうち、耐熱性を有するものとしてシリコーン樹脂が知られている。シリコーン樹脂塗膜の耐熱性は、シリコーン樹脂に導入される有機基の種類や含有量によって大きく変化するため、塗膜の耐熱性と加工性、密着性のバランスを取り、所望の性能を得るために、これまでに種々の検討が行われてきた(特許文献1〜7)。
【0005】
また、プレコート鋼板では、一般的には200〜250℃程度で塗膜の硬化を行うため、予備加熱等を行わずに300℃以上の高い温度で使用する場合、使用する温度域によっては、反応が進行して塗膜の性能が低下したり、塗膜の熱分解によって異臭を伴うガスが発生したりする場合がある。この解決策として、特定のシリコーン樹脂を主成分とし、添加物を添加する方法が提案されている(特許文献8〜11)。
【0006】
発明者らも、自動車や自動二輪車等の排気系部品や加熱調理器具、空調機器、暖房機器用として好適に用いられる、耐熱性に優れた表面処理金属について開示している(特許文献12〜14)。これらの表面処理金属表面には、ケイ素の酸化物を主成分とし、かつ炭素数1以上12以下のアルキル基、アリール基、カルボキシル基、アミノ基、水酸基からなる群の少なくとも1種の有機基を含む化合物を主成分とする被覆層を有している。これらの表面処理金属は、プレコート鋼板と同様の条件で製造することが可能であり、薄板形状で性能を比較した場合、プレコート鋼板と同等以上の加工性と密着性を有している。また、500℃を超える耐熱性を有しており、自動車等の排気系部品として、また暖房機器用等として好適に使用することができるものである。
【0007】
【特許文献1】特開昭63−172640号公報
【特許文献2】特開平2−265742号公報
【特許文献3】特開平8−10701号公報
【特許文献4】特開平8−245922号公報
【特許文献5】特開2002−234109号公報
【特許文献6】特開2002−307606号公報
【特許文献7】特開2002−80974号公報
【特許文献8】特開2003−213210号公報
【特許文献9】特開2004−52000号公報
【特許文献10】特開2004−50772号公報
【特許文献11】特開2005−131981号公報
【特許文献12】特開2005−325440号公報
【特許文献13】特開2006−116876号公報
【特許文献14】特開2006−192717号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記表面処理金属の問題点として、使用する温度によっては、特に長時間に亘って使用した場合に、表面を被覆している皮膜が変質し、ひび割れが生じることがあり、場合によっては、密着性が損なわれたり、耐食性が低下したりする場合もあった。
【0009】
本発明は、これらの課題を解決し、加熱時のひび割れを抑制することによって、密着性、耐食性の低下を防止し、耐熱性と耐食性、皮膜密着性をそれぞれ高いレベルで満足する表面処理金属を提供するものである。また、この表面処理金属を製造する方法及びそれに使用する表面処理液を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者らは、上記した皮膜のひび割れを抑制すべく検討を重ねた結果、被覆層中に特定形状の添加物を配合することで、課題が解決できることを見出し、本発明を完成させた。即ち、特定の成分、構造を有する樹脂中に、アスペクト比の大きな平薄板形状の添加物及び繊維又はウィスカー状の添加物を含有する被覆層を形成することで、課題が解決できることを見出した。具体的には、以下の通りである。
【0011】
(1) 基材表面の少なくとも一部に、被覆層を有する表面処理金属であって、該被覆層は、シロキサン結合を主骨格とし、炭素数1以上12以下のアルキル基、炭素数6以上12以下のアリール基、カルボキシル基、アミノ基又は水酸基から選ばれる少なくとも1種の有機基を側鎖に含む架橋皮膜中に、平薄板形状の添加物と繊維状又はウィスカー状の添加物とを含有する被覆層であることを特徴とする、表面処理金属。
(2) 前記添加物の合計含有量は、前記被覆層全体に対する質量%で、0.05〜60%であることを特徴とする、(1)に記載の表面処理金属。
(3) 前記平薄板形状の添加物の含有量は、前記被覆層全体に対する質量%で、0.01〜50%であり、前記繊維状又はウィスカー状の添加物の含有量は、前記被覆層全体に対する質量%で、0.01〜40%であることを特徴とする、(2)に記載の表面処理金属。
(4) 前記平薄板形状の添加物は、平面方向の平均粒子径を厚さの平均値で除した比率で5以上の粒子であることを特徴とする、(1)又は(3)に記載の表面処理金属。
(5) 前記平薄板形状の添加物は、粘土鉱物、六方晶窒化ホウ素、黒鉛又は黒鉛化カーボンブラックから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする、(1)、(3)又は(4)に記載の表面処理金属。
(6) 前記繊維状又はウィスカー状の添加物は、平均長径を平均短径で除した平均アスペクト比で5以上であることを特徴とする、(1)又は(3)に記載の表面処理金属。
(7) 前記繊維状又はウィスカー状の添加物の短径は、10μm以下であることを特徴とする、(6)記載の表面処理金属。
(8) 前記繊維状又はウィスカー状の添加物は、チタン酸カリウム又は炭酸カルシウムの一方又は両方であることを特徴とする、(1)、(3)、(6)又は(7)に記載の表面処理金属。
(9) 前記架橋皮膜は、前記主骨格又は前記側鎖の一方又は双方に、Si−O−M結合、M−O−M結合(ここで、MはSi以外の2価以上の金属元素である。)、エーテル結合又はアミノ結合から選ばれる少なくとも1種の結合を含むことを特徴とする、(1)に記載の表面処理金属。
(10) 前記基材は、めっき鋼材、ステンレス鋼材、チタン材、チタン合金材、アルミニウム材又はアルミニウム合金材であることを特徴とする、(1)に記載の表面処理金属。
(11) テトラアルコキシシラン又はその加水分解物と、炭素数1以上12以下のアルキル基、炭素数6以上12以下のアリール基、カルボキシル基、アミノ基又は水酸基から選ばれる少なくとも1種の有機基を有するアルコキシシラン又はこれらの加水分解物と、平薄板形状の添加物と繊維状又はウィスカー状の添加物と、を少なくとも含有することを特徴とする、金属表面処理液。
(12) さらに、アルコキシシラン以外の金属アルコキシドを含有することを特徴とする、(11)に記載の金属表面処理液。
(13) 基材表面の少なくとも一部に、(11)又は(12)に記載の金属表面処理液を塗布した後、150〜300℃の温度で焼き付けることを特徴とする、表面処理金属の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、加熱時に発生する被覆層のひび割れが抑制され、耐熱性と皮膜密着性、耐食性をそれぞれ高いレベルで満足する表面処理金属を容易に得ることができる。また、この表面処理金属を好適に製造するための方法とそれに用いる表面処理液を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の表面処理金属は、表面の被覆層に特徴があり、シロキサン結合を主骨格とし、炭素数1以上12以下のアルキル基、炭素数6以上12以下のアリール基、カルボキシル基、アミノ基、水酸基から選ばれる少なくとも1種の有機基を側鎖に含む架橋皮膜中に、平薄板形状の添加物及び繊維又はウィスカー状の添加物とを含有する被覆層であることを特徴としている。これらの添加物の効果は必ずしも明らかにできていないものの、添加物が被覆層中に分散していることで、ひび割れの原因となるき裂の進展を効果的に抑制することができ、優れた耐食性を確保することができると考えられる。
【0014】
これらの添加物のうち、平薄板形状の添加物については、平面方向の平均粒子径を厚さの平均値で除して得た値が5以上の粒子であることが好ましく、より好ましくは10以上、さらに好ましくは25以上の薄片状粒子である。添加物粒子の粒子径は、著しく大きくなければ使用可能であるが、被覆層の厚さから考えると、平面方向の粒子径が100μm以下であることが好ましく、より好ましくは50μm以下、さらに好ましくは25μm以下である。また、粒子径が極端に小さい場合には平薄板形状でなくなり、等方的な形状となるため、本発明で期待するところの効果を発揮することができない。好ましい粒子径の範囲としては、平面方向の粒子径が0.05μm以上、より好ましくは0.1μm以上、さらに好ましくは0.2μm以上である。この性状の平薄板形状添加物が被覆層中で層状に積層することで、発生するひび割れが分散し、また、水の浸透を防ぐことによって、耐食性が確保されることとなる。
【0015】
ここで、「平面方向の平均粒子径」とは、平板面の面積から円相当径に換算した値の平均値であり、平薄板形状の粒子を電子顕微鏡で観察することによって求めることができる。一方、「厚さの平均値」とは、平薄板形状粒子の厚さの平均値であり、同じく電子顕微鏡で観察することで求めることができる。
【0016】
上記の平薄板形状添加物は、被覆層全体に対する質量割合で0.01〜50%の範囲で添加されていることが好ましく、より好ましくは0.01〜40%の範囲であり、さらに好ましくは0.1〜40%の範囲である。添加量が上記の範囲を超えて少ない場合、ひび割れの抑制や耐食性に対する十分な効果が得られず、逆に上記の範囲を超えて多過ぎる場合、皮膜を構成するマトリックスに対して添加物粒子が多過ぎるため、良好な外観の皮膜が得られず、また密着性や硬さ、強度等の皮膜特性も不十分なものとなる。
【0017】
添加する平薄板形状粒子は、粘土鉱物、六方晶窒化ホウ素、黒鉛及び黒鉛化カーボンブラックのなかから選択することが望ましく、特に粘土鉱物及び六方晶窒化ホウ素から選択して使用することが望ましい。添加する粒子は、一種類であっても差し支えなく、二種類以上の粒子を組み合わせて添加することも可能である。ここで、粘土鉱物とは、層状ケイ酸塩鉱物全般を指し、カオリン、マイカ、パイロフィライト、スメクタイト、バーミキュライト、ハイドロタルサイト類等が知られている。このうち、本発明の平薄板形状の添加物としては、カオリン、マイカ、ハイドロタルサイト類が特に好適に用いられる。マイカは、XY2〜3(Si,Al)10(OH,F)[X=K、Ca、Na等、Y=Mg、Al、Li、Fe、Mn、Ti等]の化学組成を有する層状アルミノケイ酸塩であり、白雲母、黒雲母、金雲母等が広く知られている。また、ハイドロタルサイト類とは、[M2+1−x3+(OH)][An−x/n・mHO]で表される化合物であり[M2+とM3+は2価及び3価の金属イオン、xは0≦x≦1、An−x/nは層間陰イオンを示す]、MgAl(OH)16CO・4HOの化学式を有するハイドロタルサイトが代表的な化合物である。黒鉛化カーボンブラックは、黒鉛化処理を施したカーボンブラックであり、粒子全体あるいは部分的に黒鉛結晶が生成しているものをいう。
【0018】
もう一つの添加物である繊維又はウィスカー状の添加物は、平均長径を平均短径で除した平均アスペクト比が5以上のものを使用することが好ましく、より好ましくは10以上、さらに好ましくは25以上の平均アスペクト比を有するものを使用することが好ましい。添加する繊維又はウィスカーの大きさは、著しく大きいものを除いて使用可能であるが、被覆層の厚さから考えると、その長径が100μm以下であることが好ましく、より好ましくは80μm以下、さらに好ましくは50μm以下である。また、短径は10μm以下であることが好ましく、より好ましくは5μm以下、さらに好ましくは3μm以下である。この性状を有する繊維又はウィスカー状の添加物が、被覆層中で無秩序に分散することによって、また、特定方向に配向させることによって、効果的にひび割れを抑制することができる。
【0019】
上記の繊維又はウィスカー状の添加物は、被覆層全体に対する質量割合で0.01〜40%の範囲で添加されていることが好ましく、より好ましくは0.01〜30%の範囲であり、さらに好ましくは0.1〜30%の範囲である。添加量が0.01%未満である場合、ひび割れの抑制や耐食性に対する十分な効果が得られず、逆に40%超である場合、皮膜を構成するマトリックスに対して添加物が多過ぎるため、良好な外観の皮膜が得られず、また、硬さ、強度等の皮膜特性も不十分なものとなる。
【0020】
繊維又はウィスカー状の添加物は、マトリックス樹脂との成分の整合性、あるいは形態の点で、チタン酸カリウム又は炭酸カルシウムを主成分とするものであることが好ましい。添加する繊維又はウィスカー状の添加物は、一種類であっても差し支えなく、二種類以上を組み合わせて添加することも可能である。
【0021】
本発明の添加物は、平薄板形状のものと繊維又はウィスカー状のものの両者を添加するが、その添加量は被覆層全体に対する質量割合で0.05〜60%の範囲で添加されていることが好ましく、より好ましくは0.05〜50%の範囲であり、さらに好ましくは0.1〜45%の範囲である。合計添加量が0.05%未満の場合、ひび割れの抑制や耐食性に対する十分な効果が得られず、逆に60%を超えて多過ぎる場合、添加物が多過ぎることとなり、良好な外観の皮膜が得られず、また、硬さ、強度等の皮膜特性も不十分なものとなる。
【0022】
本発明の表面処理金属表面の被覆層は、シロキサン結合を主骨格とし、少なくとも1種の有機基を含む化合物を主成分とするものであれば、いずれも好適に用いることができるが、特定の有機基を含有する化合物を用いたときに、特にその効果を顕著に発現させることができる。即ち、主骨格の主要結合がシロキサン結合であって、主骨格又は側鎖の一方又は双方の結合中に、エーテル結合又はアミノ結合の一方又は双方を含み、かつ、炭素数1以上12以下のアルキル基、炭素数6以上12以下のアリール基、カルボキシル基、アミノ基、水酸基からなる群の少なくとも1種の有機基を含む架橋皮膜としたときに顕著な効果が得られる。
【0023】
この化合物は、主骨格の主要結合がシロキサン結合であるが、シロキサン結合以外の結合としては、≡Si−O−M≡、≡M−O−M≡(Mは、系内に含有する可能性があるTi、Zr等のSi以外の金属元素(上記の式では4価で示しているが、2価以上の金属元素であって、必ずしも4価に限られない))で表される無機の結合、−CH−CH(CH)−O−CH−のようなエーテル結合、又は、第2又は第3アミンとなるようなアミノ結合等が挙げられる。
【0024】
この架橋皮膜は、無機の網目構造と有機の網目構造とがSi−C結合を介して連結され、無機と有機の網目が相互に貫入しあった構造を形成している。また、エーテル結合又はアミノ結合、あるいは炭素数1以上12以下のアルキル基、炭素数6以上12以下のアリール基、カルボキシル基、アミノ基、水酸基等は主骨格を形成している部分もあり、あるいは側鎖の結合中に含まれていることもある。ここで、炭素数1以上12以下のアルキル基又は炭素数6以上12以下のアリール基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、ドデシル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等が挙げられる。カルボキシル基は−COOH、アミノ基は−NH、水酸基は−OHをそれぞれ指している。このうち、本発明の有機基として好適に用いられるのは、メチル基とフェニル基であり、これらをシロキサン結合と組み合わせることで、耐熱性と加工性、加工時の密着性に優れた被覆層が得られる。また、この化合物中には、Si原子に直接結合している有機成分(例えば、炭素数1以上12以下のアルキル基、炭素数6以上12以下のアリール基、カルボキシル基、アミノ基、水酸基を指す)が含まれている場合もある。
【0025】
また、被覆層の主成分である化合物には、必須成分としてSiが含まれているが、Si以外の元素を含んでいても一向に差し支えない。例えば、B、Al、Ge、Ti、Y、Zr、Nb、Ta等から選ばれる一種以上の元素が挙げられ、このうち、Al、Ti、Nb、Taは、皮膜を低温・短時間で固化させるための触媒的な働きが期待できる。また、Zrを添加した系では、皮膜の耐アルカリ性が顕著に改善されるため、特に耐アルカリ性が必要とされる用途に好適に用いられる。
【0026】
本発明の表面処理金属は、被覆部分が腐食性ガス、熱、摩擦、酸素、水、水蒸気、各種薬品等から保護され、外部環境の影響を受け難い。基材となる金属の種類あるいは形状は特に限定されるものではなく、いかなるものも好適に使用することができる。例えば、めっき鋼材、ステンレス鋼、チタン、アルミニウム、アルミニウム合金等が、また、厚板、薄板、管(パイプ)、形鋼等の成形品、棒、線材等が用いられる。中でも、めっき鋼板、ステンレス鋼板、チタン板、アルミニウム板、アルミニウム合金板等の鋼板が特に好適に用いられる。めっき鋼板としては、亜鉛めっき鋼板、亜鉛−鉄合金めっき鋼板、亜鉛−ニッケル合金めっき鋼板、亜鉛−クロム合金めっき鋼板、亜鉛−アルミニウム合金めっき鋼板、アルミめっき鋼板、亜鉛−アルミニウム−マグネシウム合金めっき鋼板、亜鉛−アルミニウム−マグネシウム−シリコン合金めっき鋼板、アルミニウム−シリコン合金めっき鋼板、亜鉛めっきステンレス鋼板、アルミニウムめっきステンレス鋼板等が挙げられる。
【0027】
ステンレス鋼板としては、オーステナイト系ステンレス鋼板、フェライト系ステンレス鋼板、マルテンサイト系ステンレス鋼板等が挙げられる。ステンレス鋼板の厚さとしては、数十mm程度の厚いものから、圧延により10μm程度まで薄くした、いわゆるステンレス箔までが挙げられる。ステンレス鋼板及びステンレス箔の表面は、ブライトアニール、バフ研磨等の表面処理を施してあってもよい。
【0028】
アルミニウム合金板としては、JIS1000番系(純Al系)、JIS2000番系(Al−Cu系)、JIS3000番系(Al−Mn系)、JIS4000番系(Al−Si系)、JIS5000番系(Al−Mg系)、JIS6000番系(Al−Mg−Si系)、JIS7000番系(Al−Zn系)等が挙げられる。
【0029】
本発明の表面処理金属は、基材である金属表面の少なくとも一部に、直接被覆層が形成されている場合は勿論であるが、他の皮膜が存在する金属基材に形成され、複層化されている状態であっても全く差し支えない。例えば、クロメート処理を施し、クロメート皮膜が形成された金属基材やクロメート以外の公知の化成処理(例えば、リン酸塩処理等)がなされている金属表面に、本発明で用いる添加物を含有する被覆層が形成されている場合等が挙げられる。
【0030】
本発明の表面処理金属は、材料として用いることも可能であるが、部品に加工した状態でも好適に用いることができる。部品としては、特に限定されるものではなく、家電製品、自動車用部品、建材用等に用いることができる。中でも、表面の皮膜が特に耐熱性と加工性に優れていることを利用して、耐熱性が必要とされる家電製品等に特に好適に用いることができる。代表的な例としては、オーブンレンジ、ガスレンジ等の加熱調理器具、テーブルコンロ、ビルトインコンロ、レンジフード等の厨房機器類、ファンヒーター、エアコン等の暖房機器、空調機器等が挙げられる。また、自動車用部品としても好適に用いることができ、特にマフラー等の排気系部品として好適に用いることができる。
【0031】
本発明の表面処理金属の表面被覆層の厚さは、必要とされる特性あるいは用途によっても異なるが、0.1μm以上25μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.1μm以上20μm以下であり、さらに好ましくは0.2μm以上20μm以下である。皮膜厚さがこれらの範囲を超えて薄い場合、均一厚さの皮膜を形成して所定の特性を発現することが困難であり、一方で、皮膜が上記範囲を超えて厚過ぎる場合には、本発明の平薄板、繊維又はウィスカー状の添加物を添加したものであっても、なおひび割れが発生し易かったり、耐食性が不十分である場合が多い。
【0032】
続いて、以下に、本発明の表面処理金属を好適に製造するために用いられる表面処理液について述べる。
【0033】
本発明の表面処理液は、テトラアルコキシシランと炭素数1以上12以下のアルキル基、炭素数6以上12以下のアリール基、カルボキシル基、アミノ基及び水酸基からなる群の少なくとも1種を有するアルコキシシラン及びその加水分解物とからなる群から選択される1種以上に、平薄板、繊維又はウィスカー状の添加物を含んでいることを特徴とする。
【0034】
このうち、テトラアルコキシシランとしては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラノルマルプロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン等が挙げられる。また、炭素数1〜12のアルキル基を有するアルコキシシランとしては、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、デシルトリエトキシシラン等が挙げられる。アリール基を有するアルコキシシランとしては、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン等が挙げられる。アミノ基を有するアルコキシシランとしては、アミノプロピルトリメトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン、(β−アミノエチル)−β−アミノプロピルトリメトキシシラン、(β−アミノエチル)−β−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0035】
この表面処理液には、上記のアルコキシシランの他に、これらの加水分解生成物あるいはその重合物、縮合物を含んでいても差し支えない。また、必要に応じてアルコキシシラン以外の2価以上の金属のアルコキシドを添加物として用いることもできる。例えば、Al、Ti、Nb、Taから選ばれる少なくとも1種の金属アルコキシドを添加し、酢酸を酸触媒として用いたとき、エポキシ基の開環速度が速くなり、低温短時間硬化の効果が特に大きくなる。
【0036】
本発明の表面処理液には、必須の添加物として平薄板及び繊維又はウィスカー状の添加物を含んでいるが、被覆層として焼付け、固化するときに、処理液に含まれる溶剤、あるいは樹脂中の揮発成分が揮散して質量が減少するため、予め減少する量を計算した上で平薄板状添加物、繊維、ウィスカー状添加物の添加量を決定することが望ましい。
【0037】
本発明の表面処理液には、塗膜の意匠性、耐食性、耐摩耗性、触媒機能等を向上させることを目的として、着色顔料、耐湿顔料、触媒、防錆顔料、金属粉末、高周波損失剤、骨材等を添加することも可能である。これらの顔料、粉末、骨材等は、平薄板形状以外の形状、繊維又はウィスカー形状以外の形状であってもなんら問題なく使用することができ、さらには平薄板形状、繊維又はウィスカー形状であっても全く差し支えない。顔料としては、例えば、Cu、Fe、Mn、Cr及びCoよりなる群から選ばれた1種又は2種以上の元素を構成成分とする酸化物等が挙げられる。これら以外にも、Ti、Al等の酸化物や複合酸化物、Zn粉末、Al粉末等の金属粉末等が挙げられる。防錆顔料を添加する場合には、環境汚染物質を含まないモリブデン酸カルシウム、リンモリブデン酸カルシウム、リンモリブデン酸アルミニウム等の非クロム酸顔料を用いることが好ましい。触媒機能が向上できる例としては、酸化チタン等の光触媒を添加することで、汚染物質を分解するセルフクリーニング機能が向上する例が挙げられる。また、高周波損失剤としてはZn−Niフェライト等が挙げられる。これらの顔料、粉末、骨材等の添加量は、すでに述べた平薄板形状、繊維又はウィスカー形状の添加物との合計量で、被覆層全体に対する質量割合で0.05〜60%であることが好ましく、より好ましくは0.05〜50%、さらに好ましくは0.1〜45%である。合計添加量が0.05%未満の場合、ひび割れの抑制や耐食性に対する十分な効果が得られず、逆に60%を超えて多過ぎる場合、添加物が多過ぎることとなり、良好な外観の皮膜が得られず、また、硬さ、強度等の皮膜特性も不十分なものとなる。
【0038】
また、添加剤として、レベリング効果剤、抗酸化剤、紫外線吸収剤、安定剤、可塑剤、ワックス、添加型紫外線安定剤等を混合して用いることができる。また、必要に応じて、皮膜の耐熱性等を損なわない範囲でフッ素樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂等の樹脂系塗料を含んでもよい。これら添加剤は1種のみを用いてもよく、2種類以上を適宜混合して用いることもできる。また、必要に応じて、無機あるいは金属粒子、着色顔料や染料を添加することができる。
【0039】
特に、自動車や自動二輪車の排気系部品に対しては、黒色に着色して使用される場合も多い。このような場合には、黒色の顔料を添加して使用することができる。特に好適に用いられる黒色顔料としては、Cu、Fe、Mn、Cr及びCoよりなる群から選ばれた1種又は2種以上の元素を構成成分とする酸化物、カーボンブラック、黒鉛粉末、あるいは黒鉛化処理を施したカーボンブラックである。これらの顔料のなかで、耐熱性が必要とされる場合には酸化物を用いることが好ましく、特にCu、Mn、FeあるいはCu、Cr、Mnの複酸化物が好適に用いられる。また、スポット溶接等を行うことを目的として皮膜の電気抵抗を下げたい場合には、黒鉛粉末あるいは黒鉛化処理を施したカーボンブラック、あるいはNiをはじめとする金属粉を使用すると皮膜の抵抗値が減少する可能性が高い。
【0040】
上記の表面処理液を基材である金属表面に塗布、150〜300℃の温度で焼き付けることによって、当該金属表面にシロキサン結合を主骨格とし、少なくとも1種の有機基を側鎖に含む架橋皮膜中に平薄板形状及び繊維又はウィスカー形状の添加物を含有する被覆層を有する表面処理金属を製造することができる。焼付け温度が150℃未満の場合、十分な架橋密度の皮膜が得られないため、被覆層の固さが不十分であったり、密着性が良くない場合があり得る。一方、焼付け温度を300℃超とした場合、特に大きな不都合はないものの経済的でなく、また、プレコート金属を対象とした場合には、焼付け温度が高過ぎるため、設備が対応できていない場合が多い。
【0041】
基材である金属への塗装は、ディップコート法、スプレーコート法、バーコート法、ロールコート法、スピンコート法等によって行われる。本発明で用いられる表面皮膜は、前述の各種基材に対して特に前処理を行わなくても良好な密着性を示すが、必要に応じて塗布前に前処理を行うこともできる。代表的な前処理としては、酸洗、アルカリ脱脂、クロメート処理等の化成処理、研削、研磨、ブラスト処理等があり、必要に応じてこれらを単独であるいは組み合わせて行うことができる。
【0042】
本発明は、表面に被覆層を有する表面処理金属であって、500℃以上の耐熱性と絞り加工や折り曲げ加工等が可能な表面処理金属とその製造方法及びそれを好適に製造するための表面処理液に関するものである。即ち、本発明は、例えば、自動車や自動二輪車等の排気系部品として、また加熱調理器具、空調機器、暖房機器用として好適に用いられる表面処理金属とその製造方法及び表面処理液に関するものである。
【実施例】
【0043】
本発明を以下の実施例によって具体的に説明する。
【0044】
(実施例1)
γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン(GPTES)100質量部、メチルトリエトキシシラン(MTES)16.0質量部、フェニルトリエトキシシラン(PhTES)24.0質量部、テトラエトキシシラン(TEOS)200質量部を十分に撹拌した後、エタノールで希釈した蒸留水を用いて酸性条件下で加水分解を行った。ここに、アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)10.0質量部を加え、さらに蒸留水/エタノール混合溶液を用いて加水分解を行い、シロキサン結合を主骨格とし、有機基を含む樹脂液を調製した。加水分解には十分な量の水を添加し、処理液は150℃で乾燥させたときの固形分濃度が10質量%になるように調整した。この処理液に、表1に示すように、平薄板形状の添加物及び繊維又はウィスカー状の添加物を添加し、添加物を含有する表面処理液を作製した。
【0045】
この表面処理液を、有機シリカ系の化成処理を行ったフェライト系ステンレス鋼板(YUS432)にバーコータで塗布後、50秒後に板温が250℃となるような昇温条件を用いて最高温度250℃で乾燥、焼付けを行うことで、添加物を含有する被覆層を有する表面処理金属板を得た。形成した被覆層の厚さは、いずれも約5μmであった。
【0046】
また、比較例として、同様の手順により、添加物を含有していない被覆層を有する表面処理金属板、及び一方の添加剤のみ含有する被覆層を有する表面処理金属板を作製した。比較例で形成した被覆層の厚さは、実施例と同様、いずれも約5μmであった。
【0047】
【表1】

【0048】
本発明の表面処理金属による耐熱性及び耐食性の効果の検証は、以下の方法によって行った。まず、(1)被覆層を形成した段階での密着性をT曲げ試験によって測定した。(2)耐熱性は、300℃及び400℃で200時間加熱後の被覆層のひび割れの有無を、顕微鏡で観察した。(3)耐熱耐食性は、耐熱試験後に塩水噴霧試験を行い、発銹及び被覆層の剥離の状況を観察した。試験結果の評価は、◎→○→△→×の4段階とし、○以上のレベルを合格とした。それぞれの評価の基準は、第2表に示した。
【0049】
【表2】

【0050】
結果を第3表に示した。実施例1で試験を行った鋼板は、いずれも優れた耐熱性及び耐熱耐食性を有していることが分かる。また、T曲げ試験で評価した被覆層の密着性も良好であった。一方、添加物を含有していない被覆層、あるいは一方の添加物のみ含有する被覆層を形成した表面処理金属板は、加熱を行っていない被覆層の密着性は良好であるものの、耐熱性試験ではいずれの加熱温度ともひび割れが発生し、不十分なレベルであった。また、耐熱耐食性試験でも発銹が認められ、合格レベルに達していないことが分かった。
【0051】
【表3】

【0052】
(実施例2)
γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン(GPTES)100質量部、チタニウムテトラエトキシド(TE)2.5質量部、メチルトリエトキシシラン(MTES)32.0質量部、テトラエトキシシラン(TEOS)200質量部を十分に撹拌した後、エタノールで希釈した蒸留水を用いて酸性条件下で加水分解を行った。ここに、アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)10.0質量部を加え、さらに、蒸留水/エタノール混合溶液を用いて加水分解を行い、シロキサン結合を主骨格とし、有機基を含む樹脂液を調製した。加水分解には十分な量の水を添加し、処理液は150℃で乾燥させたときの固形分濃度が10質量%になるように調整した。この処理液に、表4に示すように、平薄板形状の添加物及び繊維又はウィスカー状の添加物を添加し、添加物を含有する表面処理液を作製した。
【0053】
この表面処理液を有機シリカ系の化成処理を行ったアルミめっき鋼板にバーコータで塗布後、50秒後に板温が250℃となるような昇温条件を用いて最高温度250℃で乾燥、焼付けを行うことで、添加物を含有する被覆層を有する表面処理金属板を得た。形成した被覆層の厚さは、いずれも約5μmであった。
【0054】
また、比較例として、同様の手順により、添加物を含有していない被覆層を有する表面処理金属板、及び一方の添加剤のみ含有する被覆層を有する表面処理金属板を作製した。比較例で形成した被覆層の厚さは、実施例と同様、いずれも約5μmであった。
【0055】
【表4】

【0056】
本発明の表面処理金属による耐熱性及び耐食性の効果の検証は、実施例1と同じく、曲げ密着性、耐熱性、耐熱耐食性によって行った。試験結果についても、実施例1と同様に◎→○→△→×の4段階とし、○以上のレベルを合格とした。それぞれの評価の基準は、前述の第2表に示した通りである。
【0057】
結果を第5表に示した。実施例2で試験を行った鋼板は、いずれも優れた耐熱性及び耐熱耐食性を有していることが分かる。また、T曲げ試験で評価した被覆層の密着性も良好であった。一方、添加物を含有していない被覆層、あるいは一方の添加物のみ含有する被覆層を形成した表面処理金属板は、加熱を行っていない被覆層の密着性は良好であるものの、耐熱性試験ではいずれの加熱温度ともひび割れが発生し、不十分なレベルであった。また、耐熱耐食性試験でも発銹が認められ、合格レベルに達していないことが分かった。
【0058】
【表5】

【0059】
(実施例3)
実施例1で使用したメチルトリエトキシシラン(MTES)32.0質量部の代わりにフェニルトリエトキシシラン(PhTES)48.0質量部を使用して作製した混合液に、第6表に示した割合で、平薄板形状の添加物及び繊維状又はウィスカー状の添加物を配合して、塗装用の表面処理液を作製した。
【0060】
塗装に使用した鋼板は、実施例1と同じ有機シリカ系の化成処理を行ったフェライト系ステンレス鋼板(YUS432)である。この鋼板に、上記の塗布液を、バーコータを用いて塗布後、250℃で熱処理を行い、表面に添加物を含有する被覆層を形成した。被覆層の厚さは、約5μmである。
【0061】
また、比較例として、同様の手順により、添加物を含有していない被覆層を有する表面処理金属板、及び一方の添加剤のみ含有する被覆層を有する表面処理金属板を作製した。形成した被覆層の厚さは、実施例と同様、約5μmであった。
【0062】
【表6】

【0063】
本発明の表面処理金属による耐熱性及び耐食性の効果の検証は、実施例1と同じく、曲げ密着性、耐熱性、耐熱耐食性によって行った。試験結果についても、実施例1と同様に◎→○→△→×の4段階とし、○以上のレベルを合格とした。それぞれの評価の基準は、前述の第2表に示した通りである。
【0064】
結果を第7表に示した。実施例3で試験を行った鋼板は、含有する添加物あるいは添加量によって結果に違いが生じているものの、いずれも優れた耐熱性及び耐熱耐食性を有していることがわかる。また、T曲げ試験で評価した被覆層の密着性も良好であった。一方、添加物を含有していない被覆層、あるいは一方の添加物のみ含有する被覆層を形成した表面処理金属板は、加熱試験を行っていない被覆層の密着性は良好であるものの、耐熱性試験ではいずれの加熱温度とも加熱後にひび割れが発生し、また被覆層が剥離する場合もあり、不十分なレベルであった。また、耐熱耐食性試験でも発銹が認められ、十分な性状を有していないことがわかった。
【0065】
【表7】

【0066】
(実施例4)
実施例3で使用した混合液に、第8表に示した割合で、平薄板形状の添加物及び繊維状又はウィスカー状の添加物を配合して、塗装用の表面処理液を作製した。
【0067】
塗装に使用した鋼板は、実施例1と同じ有機シリカ系の化成処理を行ったフェライト系ステンレス鋼板(YUS432)である。この鋼板に、上記の塗布液を、バーコータを用いて塗布後、250℃で熱処理を行い、表面に添加物を含有する被覆層を形成した。被覆層の厚さは、約5μmである。
【0068】
また、実施例3と同じ条件であるため、比較例としては特に試験を行わなかった。
【0069】
本発明の表面処理金属による耐熱性及び耐食性の効果の検証は、実施例1と同じく、曲げ密着性、耐熱性、耐熱耐食性によって行った。試験結果についても、実施例1と同様に◎→○→△→×の4段階とし、○以上のレベルを合格とした。それぞれの評価の基準は、前述の第2表に示した通りである。
【0070】
【表8】

【0071】
結果を第9表に示した。実施例4で試験を行った鋼板は、添加物の量によってわずかに違いが生じているものの、いずれも優れた耐熱性及び耐熱耐食性を有していることがわかる。また、T曲げ試験で評価した被覆層の密着性も良好であった。一方、第7表で示した比較例、すなわち添加物を含有していない被覆層、あるいは一方の添加物のみ含有する被覆層を形成した表面処理金属板は、加熱試験を行っていない被覆層の密着性は良好であるものの、耐熱性試験ではいずれの加熱温度とも加熱後にひび割れが発生していた。また、加熱によって被覆層が剥離する場合もあり、いずれも不十分なレベルであった。また,耐熱耐食性試験でも発銹が認められ、十分な性状を有していないことがわかった。
【0072】
【表9】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材表面の少なくとも一部に、被覆層を有する表面処理金属であって、
該被覆層は、シロキサン結合を主骨格とし、炭素数1以上12以下のアルキル基、炭素数6以上12以下のアリール基、カルボキシル基、アミノ基又は水酸基から選ばれる少なくとも1種の有機基を側鎖に含む架橋皮膜中に、平薄板形状の添加物と繊維状又はウィスカー状の添加物とを含有する被覆層であることを特徴とする、表面処理金属。
【請求項2】
前記添加物の合計含有量は、前記被覆層全体に対する質量%で、0.05〜60%であることを特徴とする、請求項1に記載の表面処理金属。
【請求項3】
前記平薄板形状の添加物の含有量は、前記被覆層全体に対する質量%で、0.01〜50%であり、前記繊維状又はウィスカー状の添加物の含有量は、前記被覆層全体に対する質量%で、0.01〜40%であることを特徴とする、請求項2に記載の表面処理金属。
【請求項4】
前記平薄板形状の添加物は、平面方向の平均粒子径を厚さの平均値で除した比率で5以上の粒子であることを特徴とする、請求項1又は3に記載の表面処理金属。
【請求項5】
前記平薄板形状の添加物は、粘土鉱物、六方晶窒化ホウ素、黒鉛又は黒鉛化カーボンブラックから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1、3又は4に記載の表面処理金属。
【請求項6】
前記繊維状又はウィスカー状の添加物は、平均長径を平均短径で除した平均アスペクト比で5以上であることを特徴とする、請求項1又は3に記載の表面処理金属。
【請求項7】
前記繊維状又はウィスカー状の添加物の短径は、10μm以下であることを特徴とする、請求項6記載の表面処理金属。
【請求項8】
前記繊維状又はウィスカー状の添加物は、チタン酸カリウム又は炭酸カルシウムの一方又は両方であることを特徴とする、請求項1、3、6又は7に記載の表面処理金属。
【請求項9】
前記架橋皮膜は、前記主骨格又は前記側鎖の一方又は双方に、Si−O−M結合、M−O−M結合(ここで、MはSi以外の2価以上の金属元素である。)、エーテル結合又はアミノ結合から選ばれる少なくとも1種の結合を含むことを特徴とする、請求項1に記載の表面処理金属。
【請求項10】
前記基材は、めっき鋼材、ステンレス鋼材、チタン材、チタン合金材、アルミニウム材又はアルミニウム合金材であることを特徴とする、請求項1に記載の表面処理金属。
【請求項11】
テトラアルコキシシラン又はその加水分解物と、
炭素数1以上12以下のアルキル基、炭素数6以上12以下のアリール基、カルボキシル基、アミノ基又は水酸基から選ばれる少なくとも1種の有機基を有するアルコキシシラン又はこれらの加水分解物と、
平薄板形状の添加物と繊維状又はウィスカー状の添加物と、
を少なくとも含有することを特徴とする、金属表面処理液。
【請求項12】
さらに、アルコキシシラン以外の金属アルコキシドを含有することを特徴とする、請求項11に記載の金属表面処理液。
【請求項13】
基材表面の少なくとも一部に、請求項11又は12に記載の金属表面処理液を塗布した後、150〜300℃の温度で焼き付けることを特徴とする、表面処理金属の製造方法。

【公開番号】特開2008−290440(P2008−290440A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−268400(P2007−268400)
【出願日】平成19年10月15日(2007.10.15)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】