説明

表面処理鋼板、その製造方法および樹脂被覆鋼板

【課題】Crを用いず、湿潤樹脂密着性に優れ、かつ樹脂被覆後の表面外観を損なうことがない、ティンフリー鋼板の代替材となり得る表面処理鋼板、その製造方法およびこの表面処理鋼板に樹脂が被覆された樹脂被覆鋼板を提供する。
【解決手段】鋼板の少なくとも片面の最表層に、TiとCoを含み、かつJIS Z8730:2002に規定されている物体色の色差を表すL*値が50以上、a*値が-2以上1.5以下、b*値が2.2以上12以下を満足する密着性皮膜を有することを特徴とする表面処理鋼板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に樹脂フィルムなどをラミネートする、または樹脂を含有する塗料を塗装することにより樹脂が被覆された後、主に缶などの容器に用いられる表面処理鋼板、特に、高温湿潤環境下において被覆された樹脂との密着性(以後、湿潤樹脂密着性と呼ぶ)に優れ、かつ樹脂被覆後に優れた表面外観を示す表面処理鋼板、その製造方法およびこの表面処理鋼板に樹脂が被覆された樹脂被覆鋼板(ラミネート鋼板)に関する。
【背景技術】
【0002】
飲料缶、食品缶、ペール缶や18リットル缶などの各種金属缶には、錫めっき鋼板やティンフリー鋼板と呼ばれる電解クロム酸処理鋼板などの金属板が用いられている。なかでも、ティンフリー鋼板は、6価Crを含むめっき浴中で鋼板を電解処理することにより製造され、塗料など樹脂に対して優れた湿潤樹脂密着性を有していることに特長がある。
【0003】
近年、環境に対する意識の高まりから、世界的に6価Crの使用が規制される方向に向かっており、6価Crのめっき浴を用いて製造されるティンフリー鋼板に対してもその代替材が求められている。例えば、特許文献1には、タングステン酸溶液中で電解処理が施された容器用鋼板が開示されている。また、特許文献2には、表面にリン酸塩層が形成された容器用表面処理鋼板が開示されている。さらに、特許文献3には、Sn、Niの1種以上を含む表面処理層の上にタンニン酸または酢酸の1種以上およびTiまたはZrまたはそれらの化合物の1種以上を含んだフェノール構造を有する樹脂皮膜が形成された容器用鋼板が提案されている。さらにまた、特許文献4には、リン酸イオンを含有しない、Ti、O、Fを主成分とする無機表面処理層と有機表面処理層が形成されている表面処理金属材料が提案されている。
【0004】
一方、各種金属缶は、従来より、ティンフリー鋼板などの金属板に塗装を施した後に、缶体に加工して製造されていたが、近年、製造に伴う廃棄物の抑制のために、塗装に代わって樹脂フィルムなどの樹脂を被覆した樹脂被覆金属板を缶体に加工する方法が多用されるようになっている。この樹脂被覆金属板には、樹脂が金属板に強く密着していることが必要であり、特に飲料缶や食品缶として用いられる樹脂被覆金属板には、内容物の充填後にレトルト殺菌工程を経る場合があるため、高温の湿潤環境下でも樹脂が剥離することのない強い湿潤樹脂密着性が要求されるとともに、樹脂被覆後の表面外観が美麗であることも必要である。
【特許文献1】特開2004-285380号公報
【特許文献2】特開2001-220685号公報
【特許文献3】特開2002-355921号公報
【特許文献4】特開2006-009046号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のタングステン酸溶液中で電解処理が施された容器用鋼板、特許文献2に記載の表面にリン酸塩層が形成された容器用表面処理鋼板を用いた樹脂被覆鋼板、特許文献3に記載のフェノール構造を有する樹脂皮膜が形成された容器用鋼板、特許文献4に記載のTi、O、Fを主成分とする無機表面処理層と有機表面処理層が形成されている表面処理金属材料では、いずれもレトルト雰囲気における湿潤樹脂密着性が不十分である。また、一部の表面処理鋼板では、樹脂被覆後の表面外観が損なわれる場合もある。
【0006】
本発明は、Crを用いず、湿潤樹脂密着性に優れ、かつ樹脂被覆後の表面外観を損なうことがない、ティンフリー鋼板の代替材となり得る表面処理鋼板、その製造方法およびこの表面処理鋼板に樹脂が被覆された樹脂被覆鋼板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、Crを用いず、湿潤樹脂密着性に優れ、かつ樹脂被覆後の表面外観を損なうことがない、ティンフリー鋼板の代替材となり得る表面処理鋼板について鋭意研究を重ねた結果、鋼板面の最表層に、TiとCoを含み、かつJIS Z8730:2002に規定されている物体色の色差を表すL*値、a*値、b*値が制御された密着性皮膜を形成することにより、樹脂被覆後の表面外観を損なうことがなく、極めて優れた湿潤樹脂密着性が得られることを見出した。
【0008】
本発明は、このような知見に基づきなされたもので、鋼板の少なくとも片面の最表層に、TiとCoを含み、かつJIS Z8730:2002に規定されている物体色の色差を表すL*値が50以上、a*値が-2以上1.5以下、b*値が2.2以上12以下を満足する密着性皮膜を有することを特徴とする表面処理鋼板を提供する。
【0009】
本発明の表面処理鋼板では、密着性皮膜を有する鋼板面に、Ni層、Sn層、Fe-Ni合金層、Fe-Sn合金層およびFe-Ni-Sn合金層のうちから選ばれた少なくとも1層からなる耐食性皮膜を有することが好ましい。また、密着性皮膜のTi量が片面あたり3〜200mg/m2であることが好ましい。
【0010】
本発明の表面処理鋼板は、表面処理鋼板を製造する際し、TiとCoを含む水溶液中で、電流密度8A/dm2以上で陰極電解処理を施して密着性皮膜を形成することにより製造できる。
【0011】
本発明は、また、本発明の表面処理鋼板に、さらに樹脂が被覆されている樹脂被覆鋼板を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、Crを用いず、湿潤樹脂密着性に優れ、かつ樹脂被覆後の表面外観を損なうことがない表面処理鋼板を製造できるようになった。本発明の表面処理鋼板は、これまでのティンフリー鋼板の代替材として問題なく、特に、レトルト殺菌処理が施される飲料缶や食品缶用の樹脂被覆鋼板に好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
1)表面処理鋼板
本発明の表面処理鋼板では、鋼板の少なくとも片面の最表層に、TiとCoを含み、かつJIS Z8730:2002に規定されている物体色の色差を表すL*値が50以上、a*値が-2以上1.5以下、b*値が2.2以上12以下を満足する密着性皮膜が形成されている。
【0014】
一般的な缶用の鋼板の最表層に、Ti、Coを含有する密着性皮膜を形成することにより、優れた湿潤樹脂密着性が得られる。この原因は、現在のところ明らかではないが、CoがTiを含む皮膜中に取り込まれることにより、緻密で、表面の凹凸が均一に分布した皮膜が形成されるためと考えられる。
【0015】
Ti、Coを含有する密着性皮膜は、その形成方法によって必ずしも表面外観が美麗でなく、樹脂被覆後の表面外観を損なう場合がある。樹脂被覆後の表面外観を損なうことがないようにするには、JIS Z8730:2002に規定されている物体色の色差を表すL*値が50以上、a*値が-2以上1.5以下、b*値が2.2以上12以下とする必要がある。こうした色差は、JIS Z8722:2000で規定されている分光測光器で測定可能である。
【0016】
密着性皮膜のTi量は、片面あたり3〜200mg/m2であることが好ましい。これは、Ti量が3〜200mg/m2で湿潤樹脂密着性改善の効果が十分に得られ、200mg/m2を超えるとさらなる湿潤樹脂密着性の向上が望めず、コスト高となるためである。また、密着性皮膜に含有されるCoの量は、Tiに対する質量比すなわちCo/Ti質量比で0.01〜3にすることが好ましい。これは、より緻密で、表面の凹凸がより均一に分布した密着性皮膜が形成され、より優れた湿潤樹脂密着性が得られるためである。Co/Ti質量比は、0.1〜2にすることがより好ましい。さらに、密着性皮膜にはさらにOが含有されることが、湿潤樹脂密着性の向上させる上で好ましい。Oを含有することによりTiの酸化物を主体とする皮膜となり、樹脂との間に強い分子間力を発生すると推測される。なお、密着性皮膜のTi量およびCo量の測定は蛍光X線による表面分析により行うことができる。また、透過電子顕微鏡(TEM)観察においてエネルギー分散型X線分析法(EDX)あるいは電子線エネルギー損失分光法(EELS)により測定することも可能である。O量については、特に規定しないが、光電子分光装置(XPS)による表面分析でその存在を確認することができる。
【0017】
Ti、Coを含有する密着性皮膜を有する鋼板面には、樹脂被覆鋼板とされた後に引っ掻きなどで部分的に樹脂が欠落した場合でも、鋼板に優れた耐食性を付与するために、Ni層、Sn層、Fe-Ni合金層、Fe-Sn合金層およびFe-Ni-Sn合金層のうちから選ばれた少なくとも1層からなる耐食性皮膜を設けることが好ましい。こうした耐食性皮膜の形成は、含有される金属元素に応じた公知の方法で行える。なお、耐食性皮膜のNi量、Sn量の測定は蛍光X線による表面分析により行える。
【0018】
Ti、Coを含有する密着性皮膜は、TiとCoを含む水溶液中で、鋼板あるいは耐食性皮膜形成後の鋼板を電流密度8A/dm2以上で陰極電解処理を施す方法によって形成される。このとき、陰極電解処理条件を電流密度8A/dm2以上としたのは、これ以外の条件では樹脂被覆後の表面外観が損なわれるためである。さらに、表面外観を損なわず、生産性に支障をきたさないためには2sec以下で電解するのが好ましい。高電流密度、短時間処理ほどCo析出量が小さくなる傾向にある。Tiに対するCoの質量比が高くなると表面色調が劣ってくるため、上記に示すようなCo/Ti質量比バランスにする必要があり、それには上記の電解条件が必要である。Tiを含む水溶液としては、フルオロチタン酸イオンを含む水溶液、またはフルオロチタン酸イオンおよびフッ素塩を含む水溶液が好適である。フルオロチタン酸イオンを与える化合物としては、フッ化チタン酸、フッ化チタン酸アンモニウム、フッ化チタン酸カリウムなどを用いることができる。フッ素塩としては、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化銀、フッ化錫などを用いることができる。特に、フッ化チタン酸カリウムを含む水溶液中で、あるいはフッ化チタン酸カリウムおよびフッ化ナトリウムを含む水溶液中で、鋼板を陰極電解処理を施す方法は、効率良く均質な皮膜を形成することが可能であり好適である。また、Coイオンを与える化合物としては、硫酸コバルト、塩化コバルト、硝酸コバルトなどを用いることができる。Ti量が0.008〜0.07mol/L、Co/Tiモル比0.01〜3になるように調整された水溶液を用いて陰極電解処理を施すことが好ましい。
【0019】
2)樹脂被覆鋼板(ラミネート鋼板)
本発明の表面処理鋼板上に、樹脂を被覆して樹脂被覆鋼板とすることができる。上述したように、本発明の表面処理鋼板は湿潤樹脂密着性に優れている。
【0020】
本発明の表面処理鋼板に被覆する樹脂としては、特に限定はなく、各種熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂を挙げることができる。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリルエステル共重合体、アイオノンマー等のオレフィン系樹脂フィルム、またはポリブチレンテレフタラート等のポリエステルフィルム、もしくはナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン11、ナイロン12等のポリアミドフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリ塩化ビニリデンフィルム等の熱可塑性樹脂フィルムの未延伸または二軸延伸したものであってもよい。積層の際に接着剤を用いる場合は、ウレタン系接着剤、エポキシ系接着剤、酸変性オレフィン樹脂系接着剤、コポリアミド系接着剤、コポリエステル系接着剤(厚さ:0.1〜5.0μm)等が好ましく用いられる。さらに熱硬化性塗料を、厚み0.05〜2μmの範囲で表面処理鋼板側、あるいはフィルム側に塗布し、これを接着剤としてもよい。
【0021】
さらに、フェノールエポキシ、アミノ-エポキシ等の変性エポキシ塗料、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体けん化物、塩化ビニル-酢酸ビニル-無水マレイン酸共重合体、エポキシ変性-、エポキシアミノ変性-、エポキシフェノール変性-ビニル塗料または変性ビニル塗料、アクリル塗料、スチレン-ブタジェン系共重合体等の合成ゴム系塗料等の熱可塑性または熱硬化性塗料の単独または2種以上の組合わせであってもよい。
【0022】
本発明において、樹脂被覆層の厚みは3〜50μm、特に5〜40μmの範囲にあることが望ましい。厚みが上記範囲を下回ると耐食性が不十分となり、厚みが上記範囲を上回ると加工性の点で問題を生じやすい。
【0023】
本発明において、表面処理鋼板への樹脂被覆層の形成は任意の手段で行うことができ、例えば、押出コート法、キャストフィルム熱接着法、二軸延伸フィルム熱接着法等により行うことができる。押出コート法の場合、表面処理鋼板の上に樹脂を溶融状態で押出コートして、熱接着させることにより製造することができる。すなわち、樹脂を押出機で溶融混練した後、T-ダイから薄膜状に押し出し、押し出された溶融樹脂膜を表面処理鋼板と共に一対のラミネートロール間に通して冷却下に押圧一体化させ、次いで急冷する。多層の樹脂被覆層を押出コートする場合には、各層用の押出機を複数使用し、各押出機からの樹脂流を多重多層ダイ内で合流させ、以後は単層樹脂の場合と同様に押出コートを行えばよい。また、一対のラミネートロール間に垂直に表面処理鋼板を通し、その両側に溶融樹脂ウエッブを供給することにより、表面処理鋼板両面に樹脂被覆層を形成させることができる。
【0024】
こうした樹脂被覆鋼板は、側面継ぎ目を有するスリーピース缶やシームレス缶(ツーピース缶)に適用することができる。また、ステイ・オン・タブタイプのイージーオープン缶蓋やフルオープンタイプのイージーオープン缶蓋にも適用することができる。
【0025】
上述したところは、この発明の実施形態の一例を示したに過ぎず、請求の範囲内において種々の変更を加えることができる。
【実施例】
【0026】
ティンフリー鋼板(TFS)の製造のために使用される冷間圧延ままの低炭素鋼の冷延鋼板(板厚0.2mm)に、表1に示すめっき浴x、yを用いて、次のA〜Dのめっき方法により耐食性皮膜を両面に形成した。
A:冷延鋼板を700℃程度で焼鈍して、伸び率1.5%の調質圧延を行った後、アルカリ電解脱脂し、硫酸酸洗を施した後、めっき浴xを用いてNiめっき処理を施しNi層からなる耐食性皮膜を形成する。
B:冷延鋼板をアルカリ電解脱脂し、めっき浴xを用いてNiめっき処理を施した後、10vol.%H2+90vol.%N2雰囲気中で、700℃程度で焼鈍して、Niめっきを拡散浸透させたのち、伸び率1.5%の調質圧延を行い、Fe-Ni合金層からなる耐食性皮膜を形成する。
C:冷延鋼板をアルカリ電解脱脂し、めっき浴xを用いてNiめっきを施した後、10 vol.%H2+90vol.%N2雰囲気中で、700℃程度で焼鈍して、Niめっきを拡散浸透させ、伸び率1.5%の調質圧延を行った後、脱脂、酸洗し、めっき浴yを用いてSnめっき処理を施し、Snの融点以上に加熱保持する加熱溶融処理を施す。この処理により、Fe-Ni-Sn合金層とこの上層のSn層からなる耐食性皮膜を形成する。
D:冷延鋼板をアルカリ電解脱脂し、方法Aと同様に焼鈍、調質圧延した後、めっき浴yを用いてSnめっきを施した後、Snの融点以上に加熱保持する加熱溶融処理を施す。この処理により、Fe-Sn合金層とこの上層のSn層からなる耐食性皮膜を形成する。
【0027】
なお、C、Dの方法においては、加熱溶融処理によりSnめっきの一部は合金化するが、合金化しないSnは純Snとして耐食性皮膜中に残存する。
【0028】
その後、形成された耐食性皮膜上に、表2、3、4に示す陰極電解処理の条件で陰極電解を行い、乾燥して密着性皮膜を形成して、表2、3、4に示す表面処理鋼板No.1〜37を作製した。
【0029】
そして、耐食性皮膜のNi量、Sn量、純Sn残量、および密着性皮膜のTi量、Co量、Co/Ti質量比を、上記の方法により求めた。また、密着性皮膜のOは、No.1〜37のすべてについてXPSによる表面分析でその存在を確認した。さらに、密着性皮膜の色差を表すL*値、a*値、b*値をミノルタカメラ(株)製の分光測色計CM-1000Rを用いて測定した。
【0030】
次に、これらの表面処理鋼板No.1〜37の両面に、延伸倍率3.1×3.1、厚さ25μm、共重合比12mol%、融点224℃のイソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタラートフィルムを用い、フィルムの二軸配向度(BO値)が150になるようなラミネート条件、すなわち鋼板の送り速度:40m/min、ゴムロールのニップ長:17mm、圧着後水冷までの時間:1秒でラミネートして、ラミネート鋼板No.1〜37を作製した。ここで、ニップ長とは、ゴムロールと鋼板が接する部分の搬送方向の長さのことである。そして、作製したラミネート鋼板No.1〜37について、下記の湿潤樹脂密着性および耐食性の評価を行った。
湿潤樹脂密着性:温度130℃、相対湿度100%のレトルト雰囲気に25min間保持したのち、この雰囲気中において180°ピール試験により湿潤樹脂密着性の評価を行った。180°ピール試験とは、図1の(a)に示すようなフィルム2を残して鋼板1の一部3を切り取った試験片(サイズ:30mm×100mm、表裏の二面をそれぞれn=1とし、各ラミネート鋼板についてn=2となる)を用い、図1の(b)に示すように、試験片の一端に重り4(100g)を付けてフィルム2側に180°折り返して30min間放置して行うフィルム剥離試験のことである。そして、図1の(c)に示す剥離長5を測定し、各ラミネート鋼板について表裏二面の剥離長(n=2)の平均を求めた。剥離長5は小さいほど、湿潤樹脂密着性が良好であるといえるが、剥離長5が10mm未満であれば、本発明の目的とする優れた湿潤樹脂密着性が得られているとした。
耐食性:ラミネート鋼板のラミネート面にカッターナイフを用い鋼板素地に達するカットを交差して施し、1.5質量%NaCl水溶液と1.5質量%クエン酸水溶液を同量ずつ混合した試験液80mlに浸漬し、55℃で9日間放置して、カット部の耐食性(表裏の二面をそれぞれn=1とし、各ラミネート鋼板についてn=2となる)を次のように評価し、○であれば耐食性が良好であるとした。
○:n=2とも腐食なし
×:n=2の1以上において腐食あり
結果を表5に示す。本発明例であるラミネート鋼板No.2〜15、19〜24、26〜35では、いずれも優れた湿潤樹脂密着性と耐食性、および優れた表面外観を示している。これに対し、比較例であるラミネート鋼板No.1、18、25は、表面外観には問題ないが、湿潤樹脂密着性に劣っている。また、16、17、36、37については、耐食性、湿潤密着性は問題がないが、色差を表すL*値、a*値が発明範囲外であり、表面外観に劣っている。
【0031】
【表1】

【0032】
【表2】

【0033】
【表3】

【0034】
【表4】

【0035】
【表5】

【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】180°ピール試験を説明する図である。
【符号の説明】
【0037】
1 鋼板
2 フィルム
3 鋼板の切り取った部位
4 重り
5 剥離長

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板の少なくとも片面の最表層に、TiとCoを含み、かつJIS Z8730:2002に規定されている物体色の色差を表すL*値が50以上、a*値が-2以上1.5以下、b*値が2.2以上12以下を満足する密着性皮膜を有することを特徴とする表面処理鋼板。
【請求項2】
密着性皮膜を有する鋼板面に、Ni層、Sn層、Fe-Ni合金層、Fe-Sn合金層およびFe-Ni-Sn合金層のうちから選ばれた少なくとも1層からなる耐食性皮膜を有することを特徴とする請求項1に記載の表面処理鋼板。
【請求項3】
密着性皮膜のTi量が片面あたり3〜200mg/m2であることを特徴とする請求項1または2に記載の表面処理鋼板。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の表面処理鋼板を製造する際し、TiとCoを含む水溶液中で、電流密度8A/dm2以上で陰極電解処理を施して密着性皮膜を形成することを特徴とする表面処理鋼板の製造方法。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか1項に記載の表面処理鋼板に、さらに樹脂が被覆されていることを特徴とする樹脂被覆鋼板。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2010−150565(P2010−150565A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−326762(P2008−326762)
【出願日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】