説明

表面化粧材及び無機塗膜の形成方法

【課題】基材表面に水溶性アルカリ金属珪酸塩系無機塗膜を形成した表面化粧材の該無機塗膜の基材に対する密着性を改善する。
【解決手段】基材表面に水溶性アルカリ金属珪酸塩系無機塗膜を形成するに当たり、基板表面に水性樹脂エマルジョンを付着させることにより第1の下地層を形成し、この第1の下地層上に、無機粉末を含有する水性樹脂エマルジョンを付着させることにより第2の下地層を形成し、この第2の下地層上に水溶性アルカリ金属珪酸塩水溶液よりなる塗料を付着させることにより水溶性アルカリ金属珪酸塩系無機塗膜を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は表面化粧材及び無機塗膜の形成方法に係り、特に、基材表面に水溶性アルカリ金属珪酸塩系無機塗膜を形成した表面化粧材の該無機塗膜の基材に対する密着性を高めた表面化粧材と、このような表面化粧材の無機塗膜の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セメント基材や珪酸カルシウム基材の表面に、無機質塗膜の持つ不燃性、耐熱性に加えて、有機質塗料やガラス釉面並の光沢と平滑性を持ち、且つ無機質塗膜の欠点であった可撓性、耐汚染性、耐白華性に優れ、更には、基材の加熱劣化をも生じさせない無機塗膜を形成する方法として、基材上に、充填材、顔料及び硬化剤等から選ばれる粉体固形分を含有する水溶性アルカリ金属珪酸塩系水溶液塗料を塗布して適度に乾燥させ、次に該粉体固形分の含有量が該下塗り塗料よりも少量ないし零である該珪酸塩系水溶液塗料を塗布して適度に乾燥させた塗膜を、pH値約3.5〜約10.0の酸・アンモニウム塩系水溶液で処理して硬化させ、その後、水洗、乾燥する方法が提案されている(特許文献1)。
【0003】
しかし、特許文献1の方法で形成される水溶性アルカリ金属珪酸塩系無機塗膜と基材との密着性は、基板表面の微細な凹凸部と塗膜とのアンカー効果によるものであるため、無機塗膜形成初期には十分であるが、形成された無機塗膜の微細なクラックに起因して以下の問題点があった。
【0004】
(1)経年劣化(雨水等の浸透と凍害現象の繰り返し)により、塗膜クラックから水分が浸透し、基板と塗膜の界面で劣化現象が発生し、徐々に密着性が低下し、塗膜剥離を生じる。
(2)経年劣化(空気中の二酸化炭素起因のセメント基板中性化による基材の収縮)により、塗膜クラックから二酸化炭素が浸透し、基板と塗膜との界面で劣化現象が発生し、徐々に密着性が低下し、塗膜剥離を生じる。
【0005】
この解決手段として、従来、基板と無機塗膜との間に下地層を設けることが提案されているが、従来の下地層(シーラー)は有機系塗膜であり(例えば特許文献2)、無機成分のみからなる塗膜である水溶性アルカリ金属珪酸塩系無機塗膜とは相性が悪く、このため、水溶性アルカリ金属珪酸塩系無機塗膜と下地層との密着性を確保することが困難であり、また、水溶性アルカリ金属珪酸塩系無機塗膜のクラックから侵入した雨水や二酸化炭素から基材を十分に保護し得ないという問題があった。
【0006】
特許文献3には、エチレン−酢酸ビニル樹脂系塗料等の樹脂系の上塗り剤と基材との密着性を改善するために、無機粉粒体を含有する水性樹脂エマルジョンの下塗り剤を塗布することが提案されているが、基材と水溶性アルカリ金属珪酸塩系無機塗膜との密着性についての検討はなされていない。
【特許文献1】特公平3−18514号公報
【特許文献2】特開平5−123639号公報
【特許文献3】特開平7−207191号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記従来の問題点を解決し、基材表面に水溶性アルカリ金属珪酸塩系無機塗膜を形成した表面化粧材の、該無機塗膜の基材に対する密着性を高めた表面化粧材と、このような表面化粧材の無機塗膜の形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、水溶性アルカリ金属珪酸塩系無機塗膜の下地層として、水性樹脂エマルジョンを用いて形成された第1の下地層と、無機粉末を含有する水性樹脂エマルジョンを用いて形成された第2の下地層とを設けることにより、上記課題を解決することができることを見出した。
【0009】
本発明はこのような知見に基いて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0010】
本発明(請求項1)の表面化粧材は、基材表面に下地層を介して水溶性アルカリ金属珪酸塩系無機塗膜を形成してなる表面化粧材において、該下地層が、基板表面に水性樹脂エマルジョンを付着させることにより形成された第1の下地層と、該第1の下地層上に、無機粉末を含有する水性樹脂エマルジョンを付着させることにより形成された第2の下地層とを有することを特徴とする。
【0011】
請求項2の表面化粧材は、請求項1において、前記第1の下地層を形成する水性樹脂エマルジョンが、無機粉末を含有しないか、或いは、前記第2の下地層を形成する水性樹脂エマルジョンよりも少ない量の無機粉末を含有することを特徴とする。
【0012】
請求項3の表面化粧材は、請求項1又は2において、前記第1の下地層を形成する水性樹脂エマルジョンが撥水性を有する樹脂の水性エマルジョンであることを特徴とする。
【0013】
請求項4の表面化粧材は、請求項1ないし3のいずれか1項において、前記無機粉末が水溶性アルカリ金属珪酸塩用硬化剤粉末であることを特徴とする。
【0014】
請求項5の表面化粧材は、請求項1ないし4のいずれか1項において、前記第1の下地層を形成する水性樹脂エマルジョン中の樹脂と第2の下地層を形成する水性樹脂エマルジョン中の樹脂とが同種の樹脂であることを特徴とする。
【0015】
請求項6の表面化粧材は、請求項1ないし5のいずれか1項において、前記第2の下地層を形成する水性樹脂エマルジョンが、該水性樹脂エマルジョン中の樹脂成分100重量部に対して無機粉末を10〜50重量部含むことを特徴とする。
【0016】
請求項7の表面化粧材は、請求項1ないし6のいずれか1項において、前記水溶性アルカリ金属珪酸塩系無機塗膜は、前記下地層上に、充填材及び顔料を含む水溶性アルカリ金属珪酸塩水溶液よりなる下塗り塗料を付着させることにより形成された下塗り層と、該下塗り層上に水溶性アルカリ金属珪酸塩水溶液よりなる上塗り塗料を付着させることにより形成された上塗り層とを備えることを特徴とする。
【0017】
本発明(請求項8)の無機塗膜の形成方法は、基材表面に水溶性アルカリ金属珪酸塩系無機塗膜を形成する方法において、該基板表面に水性樹脂エマルジョンを付着させることにより第1の下地層を形成する工程と、該第1の下地層上に、無機粉末を含有する水性樹脂エマルジョンを付着させることにより第2の下地層を形成する工程と、該第2の下地層上に水溶性アルカリ金属珪酸塩水溶液よりなる塗料を付着させることにより水溶性アルカリ金属珪酸塩系無機塗膜を形成する工程とを有することを特徴とする。
【0018】
請求項9の無機塗膜の形成方法は、請求項8において、前記第1の下地層を形成する水性樹脂エマルジョンが、無機粉末を含有しないか、或いは、前記第2の下地層を形成する水性樹脂エマルジョンよりも少ない量の無機粉末を含有することを特徴とする。
【0019】
請求項10の無機塗膜の形成方法は、請求項8又は9において、前記第1の下地層を形成する水性樹脂エマルジョンが撥水性を有する樹脂の水性エマルジョンであることを特徴とする。
【0020】
請求項11の無機塗膜の形成方法は、請求項8ないし10のいずれか1項において、前記無機粉末が水溶性アルカリ金属珪酸塩用硬化剤粉末であることを特徴とする。
【0021】
請求項12の無機塗膜の形成方法は、請求項8ないし11のいずれか1項において、前記第1の下地層を形成する水性樹脂エマルジョン中の樹脂と第2の下地層を形成する水性樹脂エマルジョン中の樹脂とが同種の樹脂であることを特徴とする。
【0022】
請求項13の無機塗膜の形成方法は、請求項8ないし12のいずれか1項において、前記第2の下地層を形成する水性樹脂エマルジョンが、該水性樹脂エマルジョン中の樹脂成分100重量部に対して無機粉末を10〜50重量部含むことを特徴とする。
【0023】
請求項14の無機塗膜の形成方法は、請求項8ないし13のいずれか1項において、前記水溶性アルカリ金属珪酸塩系無機塗膜を形成する工程は、前記第2の下地層上に、充填材及び顔料を含む水溶性アルカリ金属珪酸塩水溶液よりなる下塗り塗料を付着させて下塗り層を形成する過程と、該下塗り層上に水溶性アルカリ金属珪酸塩水溶液よりなる上塗り塗料を付着させて上塗り層を形成する過程とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、水溶性アルカリ金属珪酸塩系無機塗膜の下地層として、水性樹脂エマルジョンを用いて形成された第1の下地層と、無機粉末を含有する水性樹脂エマルジョンを用いて形成された第2の下地層とを設けることにより、第1の下地層により基材への密着性を確保することができると共に、第2の下地層により、水溶性アルカリ金属珪酸塩系無機塗膜のクラックから侵入した雨水や二酸化炭素が基材表面に到達するのを防止し、基材表面を保護することができる。この第2の下地層は、水性樹脂エマルジョンにより形成される樹脂層であることから、第1の下地層に対する親和性も良く、また、無機粉末を含有することから、水溶性アルカリ金属珪酸塩系無機塗膜に対する親和性にも優れ、この結果、第1の下地層及び第2の下地層よりなる下地層で、基材と水溶性アルカリ金属珪酸塩系無機塗膜との間の密着性を十分に高めることができる。
【0025】
本発明によれば、このような基材と水溶性アルカリ金属珪酸塩系無機塗膜との密着性の向上効果による直接的な無機塗膜の剥離防止効果と、基材を保護することによる基材の劣化に起因する無機塗膜のクラックの増大ないし拡大を防止することによるクラックに起因する無機塗膜の剥離防止効果で、長期に亘り水溶性アルカリ金属珪酸塩系無機塗膜の剥離を確実に防止して、耐久性に優れた表面化粧材を実現することができる。
【0026】
本発明において、第1の下地層を形成する水性樹脂エマルジョンは、無機粉末を含有しないか、或いは、第2の下地層を形成する水性樹脂エマルジョンよりも少ない量の無機粉末を含有することが好ましく、これにより、第1の下地層と基材との密着性を十分に高いものとすることができる(請求項2,9)。
【0027】
また、第1の下地層を形成する水性樹脂エマルジョンは撥水性を有する樹脂の水性エマルジョンであることが、耐久性の面で好ましく(請求項3,10)、第1の下地層を形成する水性樹脂エマルジョン中の樹脂と第2の下地層を形成する水性樹脂エマルジョン中の樹脂とは同種の樹脂であることが、第1の下地層と第2の下地層との密着性の面で好ましい(請求項5,12)。
【0028】
また、第2の下地層を形成する水性樹脂エマルジョンに含まれる無機粉末としては、水溶性アルカリ金属珪酸塩用硬化剤粉末であることが、水溶性アルカリ金属珪酸塩系無機塗膜と第2の下地層との密着性をより高める上で好ましい(請求項4,11)。即ち、無機粉末として水溶性アルカリ金属珪酸塩用硬化剤粉末を用いることにより、水溶性アルカリ金属珪酸塩用硬化剤粉末を含む第2の下地層と水溶性アルカリ金属珪酸塩系無機塗膜との間で硬化反応が進行し、水溶性アルカリ金属珪酸塩系無機塗膜と第2の下地層とが強固に結合するようになり、耐塗膜剥離性がより一層向上する。
この無機粉末は、第2の下地層を形成する水性樹脂エマルジョン中に、樹脂成分100重量部に対して10〜50重量部含まれていることが、基材の保護効果と、水溶性アルカリ金属珪酸塩系無機塗膜及び第1の下地層に対する密着性に優れた第2の下地層を形成する上で好ましい。
【0029】
本発明において、水溶性アルカリ金属珪酸塩系無機塗膜は、好ましくは、下地層上に、充填材及び顔料を含む水溶性アルカリ金属珪酸塩水溶液よりなる下塗り塗料を付着させることにより下塗り層を形成し、この下塗り層上に水溶性アルカリ金属珪酸塩水溶液よりなる上塗り塗料を付着させることにより上塗り層を形成することにより形成される(請求項7,14)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下に本発明の表面化粧材及び無機塗膜の形成方法の実施の形態を詳細に説明する。
【0031】
[基材]
本発明が適用される基材としては、石綿セメント板、石綿パーライト板、珪酸カルシウム板、石綿セメント珪酸カルシウム板、石膏ボード、モルタルボード、コンクリートボード、パルプセメント板、木片セメント板、GRC(ガラス繊維強化セメント)ボード、CFRC(カーボン繊維強化セメント)ボード、SFRC(スチール繊維強化セメント)ボード、ALCボード、ロックウール無機質成形体、金属板等が例示される。これらの基材のうち、本発明は特に、水溶性アルカリ金属珪酸塩系無機塗膜のクラックからの雨水や二酸化炭素の侵入による塗膜剥離の問題が起き易いセメント系基材に対して有効であるが、本発明で用いる基材は何らセメント系基材に限定されるものではない。
【0032】
[下地層]
本発明では、上記基材に対して、まず、水性樹脂エマルジョンを用いて第1の下地層を形成し(以下、第1の下地層の形成に用いる水性樹脂エマルジョンを「第1の水性樹脂エマルジョン」と称す。)、この第1の下地層上に、無機粉末を含有する水性樹脂エマルジョンを用いて第2の下地層を形成する(以下、第2の下地層の形成に用いる水性樹脂エマルジョンを「第2の水性樹脂エマルジョン」と称す。)。
【0033】
<第1の下地層>
第1の下地層を形成する第1の水性樹脂エマルジョンは、耐久性の点から撥水性を有する樹脂の水性樹脂エマルジョンであることが好ましい。このような水性樹脂エマルジョンとしては次のようなものを用いることができる。
【0034】
(1)酢酸ビニル系エマルジョン(例えば、ポリ酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、酢酸ビニル−(メタ)アクリル共重合体、酢酸ビニル−塩化ビニル共重合体、エチレン−酢酸ビニル−塩化ビニル共重合体エマルジョン、酢酸ビニルと、プロピオン酸ビニル、カプリル酸ビニル、バーサチック酸ビニルなどのベオバ(VeoVa)と称されるビニルエステルとの共重合体エマルジョン、酢酸ビニル−マレイン酸エステル共重合体エマルジョンなどの酢酸ビニル系樹脂を含むエマルジョン)
(2)(メタ)アクリル系エマルジョン(例えば、(メタ)アクリル系単量体の単独又は共重合体、(メタ)アクリル−スチレン共重合体などの(メタ)アクリル系樹脂を含むエマルジョン)
(3)スチレン系エマルジョン(例えば、スチレン−(メタ)アクリル共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−ブタジエン−アクリロニトリル共重合体などのスチレン系樹脂を含むエマルジョン)
(4)ハロゲン含有樹脂エマルジョン(例えば、ポリクロロプレン、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニリデン、塩化ビニルデン−(メタ)アクリル酸共重合体、塩化ビニルデン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、塩化ビニルデン−アクリロニトリル共重合体、塩化ビニルデン−酢酸ビニル共重合体などの塩化ビニリデン系樹脂、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレンなどの塩素化ポリオレフィン、フッ素樹脂などを含むエマルジョン)
(5)その他のエマルジョン(例えば、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂などの熱硬化性樹脂を含むエマルジョン、シリコーン樹脂エマルジョンなど)
(6)複数の樹脂成分を複合化した複合化エマルジョン、例えば、上記例示水性樹脂エマルジョンの混合物、架橋剤(例えば、尿素、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂などのアミノ樹脂、ポリイソシアネート化合物、エポキシ化合物、ポリエチレンイミンなど)と、反応性官能基(例えば、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基、グリシジル基、メチロール基、アルコキシメチル基など)を有する樹脂エマルジョンとを含む複合型エマルジョン、複数の樹脂のポリマー鎖がブロック又はグラフト重合した水性エマルジョンなど。さらには、ポリマー粒子の存在下、ビニル基、(メタ)アクリロイル基などのα,β−エチレン性重合性不飽和基を有する単量体を重合したコア/シェル構造を有する水性樹脂エマルジョン、ミクロドメイン構造を有する水性樹脂エマルジョン)
【0035】
これらのうち、好ましい水性樹脂エマルジョンとしては、
(1)酢酸ビニル系エマルジョン(例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体、酢酸ビニル−(メタ)アクリル共重合体、酢酸ビニル−ベオバ(VeoVa)共重合体エマルジョンなどの酢酸ビニル系樹脂を含むエマルジョン)
(2)(メタ)アクリル系エマルジョン(例えば、(メタ)アクリル系単量体の単独又は共重合体、(メタ)アクリル−スチレン共重合体などの(メタ)アクリル系樹脂を含むエマルジョン)
(3)スチレン系エマルジョン(例えば、スチレン−(メタ)アクリル共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−ブタジエン−アクリロニトリル共重合体などのスチレン系樹脂を含むエマルジョン)
(4)ハロゲン含有樹脂エマルジョン(例えば、塩化ビニル系重合体、塩化ビニリデン系重合体、ポリクロロプレン、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン、フッ素樹脂などのエマルジョン)
(6)複合化エマルジョン(例えば、(メタ)アクリル/エポキシ系、(メタ)アクリル/ウレタン系、(メタ)アクリル/シリコーン系、(メタ)アクリル/フッ素樹脂系エマルジョン)
などが挙げられ、さらに好ましくは、(メタ)アクリル系エマルジョン、(メタ)アクリル−スチレン系エマルジョン、スチレン−(メタ)アクリル系エマルジョン、(メタ)アクリル/エポキシ系エマルジョン、(メタ)アクリル/ウレタン系エマルジョン、(メタ)アクリル/シリコーン系エマルジョン、(メタ)アクリル/フッ素樹脂系エマルジョンなどが挙げられる。
【0036】
これらの水性樹脂エマルジョンは1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0037】
この第1の水性樹脂エマルジョンは、無機粉末を含有しないか、或いは、後述の第2の水性樹脂エマルジョンの無機粉末含有量よりも少ない量の無機粉末を含有することが好ましく、特に、無機粉末を含有しないことが、基材と第1の下地層との密着性を高める上で好ましい。
【0038】
<第2の下地層>
第2の下地層を形成する第2の水性樹脂エマルジョンは、無機粉末を含有する水性樹脂エマルジョンである。この第2の水性樹脂エマルジョンの樹脂としては、第1の下地層と第2の下地層との密着性を高める上で第1の水性樹脂エマルジョンの樹脂と同種の樹脂(ここで、同種の樹脂とは同一の樹脂であるが、少なくとも一部のモノマー構成単位が共通する樹脂をさす)であることが好ましいが、第1の下地層と第2の下地層との密着性を十分に確保できるものであれば、異なる樹脂であっても良い。
【0039】
第2の水性樹脂エマルジョンの水性樹脂エマルジョンとしては、上述の第1の水性樹脂エマルジョンの水性樹脂エマルジョンとして例示したものを用いることができる。
【0040】
第2の水性樹脂エマルジョンに含まれる無機粉末としては、不活性な種々の金属酸化物や金属炭酸化物を含む細粒骨材や充填材、例えば、硅砂、硅石粉、砂、微粉シリカ、陶磁器粉、ガラスビーズ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化鉄、水酸化アルミニウム、硫酸カルシウム、クレー、タルク、ケイ藻土、マイカ粉、アルミナ、カオリン、スレート粉、ホワイトカーボン、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、合成ケイ酸アルミニウム、バライト粉、雲母状酸化鉄、アスベスチンなどが例示される。
【0041】
また、無機粉末としては、特に水溶性アルカリ金属珪酸塩用硬化剤粉末を用いることが好ましく、これにより、水溶性アルカリ金属珪酸塩用硬化剤粉末を含む第2の下地層とその上の水溶性アルカリ金属珪酸塩系無機塗膜との間で硬化反応を進行させて、水溶性アルカリ金属珪酸塩系無機塗膜と第2の下地層とを強固に結合させることができ、耐塗膜剥離性をより一層向上させることができる。
【0042】
水溶性アルカリ金属珪酸塩用硬化剤粉末としては、後述の[水溶性アルカリ金属珪酸塩系無機塗膜]の項で例示する各種の金属の酸化物、水酸化剤、炭酸化物、珪フッ化物、リン酸塩等を用いることができる。
【0043】
これらの無機粉末は、1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0044】
本発明で用いる無機粉末の平均粒径は、好ましくは3〜20μm、さらに好ましくは4〜7μm程度である。無機粉末の粒径が小さ過ぎると水溶性アルカリ金属珪酸塩系無機塗膜のクラックからの雨水や二酸化炭素の侵入に対するバリヤー効果や、水溶性アルカリ金属珪酸塩系無機塗膜に対する密着性を十分に得ることができず、大き過ぎると塗布作業性が低下し、好ましくない。
【0045】
また、第2の水性樹脂エマルジョン中の無機粉末の含有量は、第2の水性樹脂エマルジョンに含まれる樹脂成分100重量部に対して10〜50重量部、特に20〜35重量部とすることが好ましい。第2の水性樹脂エマルジョン中の無機粉末の含有量が少な過ぎると水溶性アルカリ金属珪酸塩系無機塗膜のクラックからの雨水や二酸化炭素の侵入に対するバリヤー効果や、水溶性アルカリ金属珪酸塩系無機塗膜に対する密着性を十分に得ることができず、また特にこの無機粉末が水溶性アルカリ金属珪酸塩用硬化剤粉末の場合、上記硬化反応を十分に進行させて密着性を高めることができず、多過ぎると塗布作業性が低下し、好ましくない。
【0046】
<下地層の形成方法>
基材上に下地層を形成するには、まず、前述の第1の水性樹脂エマルジョンを基材の水溶性アルカリ金属珪酸塩系無機塗膜形成面に付着させて(以下「塗布」と称す。)第1の下地層を形成し、この第1の下地層上に第2の水性樹脂エマルジョンを塗布して第2の下地層を形成する。
【0047】
基材上に第1の水性樹脂エマルジョンを塗布する方法としては、慣用の方法、例えば、スプレーコーティング、ディップコーティング、ロールコーティング、フローコーティング、刷毛塗りなどの方法を採用することができる。
【0048】
第1の水性樹脂エマルジョンの塗布量は、固形分換算の塗布量として3〜20g/m、特に5〜15g/mとすることが好ましい。この塗布量が少な過ぎると第1の下地層を形成することによる密着性の向上効果を十分に得ることができず、多過ぎるとアルカリ金属珪酸塩系無機塗膜が発泡する。
【0049】
第1の水性樹脂エマルジョンを基材に塗布した後は、40〜80℃で5〜20分程度加熱することにより乾燥して第1の下地層を形成する。この加熱温度が低過ぎたり加熱時間が短いと、十分な乾燥を行えず、加熱温度が高過ぎたり加熱時間が長い場合には、生産性、加熱コスト等の面で不利であり、また、樹脂劣化の恐れもある。
【0050】
なお、この基材への第1の水性樹脂エマルジョンの塗布の際には、基材を予め40〜80℃程度に加熱しておくと、水性樹脂エマルジョンの乾燥を効率的に行うことができ、好ましい。
【0051】
このようにして第1の下地層を形成した後は、第1の下地層上に第2の水性樹脂エマルジョンを塗布して第2の下地層を形成する。この第2の水性樹脂エマルジョンの塗布方法としては、第1の水性樹脂エマルジョンの塗布方法と同様の方法を採用することができる。
【0052】
第2の水性樹脂エマルジョンの塗布量は、固形分換算の塗布量として10〜50g/m、特に20〜40g/mとすることが好ましい。この塗布量が少な過ぎると第2の下地層を形成することによる密着性の向上効果を十分に得ることができず、多過ぎるとアルカリ金属珪酸塩系無機塗膜が発泡する。
【0053】
第2の水性樹脂エマルジョンを第1の下地層上に塗布した後は、40〜80℃で5〜20分程度加熱することにより乾燥して第2の下地層を形成する。この加熱温度が低過ぎたり加熱時間が短いと、十分な乾燥を行えず、加熱温度が高過ぎたり加熱時間が長い場合には、生産性、加熱コスト等の面で不利であり、また、樹脂劣化の恐れもある。
【0054】
なお、この第1の下地層上への第2の水性樹脂エマルジョンの塗布の際にも、基材を予め40〜80℃程度に加熱しておくと、水性樹脂エマルジョンの乾燥を効率的に行うことができ、好ましい。
【0055】
[水溶性アルカリ金属珪酸塩系無機塗膜]
本発明においては、上述のようにして基材上に第1の下地層と第2の下地層とからなる下地層を形成した後、水溶性アルカリ金属珪酸塩系無機塗膜を形成する。
【0056】
この水溶性アルカリ金属珪酸塩系無機塗膜は、下地層(第2の下地層)上に、まず、充填材及び顔料を含む水溶性アルカリ金属珪酸塩水溶液よりなる下塗り塗料を塗布することにより下塗り層を形成し、この下塗り層上に、水溶性アルカリ金属珪酸塩水溶液よりなる上塗り塗料を塗布することにより上塗り層を形成することにより、下塗り層と上塗り層の積層膜として形成することが好ましい。
【0057】
ただし、水溶性アルカリ金属珪酸塩系無機塗膜は、このように下塗り層と上塗り層とを形成するものに何ら限定されず、単層構造のものであっても良く、また、例えば充填材含有量の異なる水溶性アルカリ金属珪酸塩水溶液を複数種類用いて、3層以上の多層積層構造として形成しても良い。また、各層の形成に当たっては、必要に応じて塗布を複数回繰り返し行っても良い。
【0058】
<水溶性アルカリ金属珪酸塩水溶液>
水溶性アルカリ金属珪酸塩水溶液は、水溶性アルカリ金属珪酸塩と、必要に応じ硬化剤、充填材、顔料等の粉体固形分を含む。以下、水溶性アルカリ金属珪酸塩系無機塗膜の形成に用いる水溶性アルカリ金属珪酸塩水溶液を「塗料」と称す場合がある。
【0059】
水溶性アルカリ金属珪酸塩水溶液に用いられる水溶性アルカリ金属珪酸塩は、一般式MO・xSiO・yHO(但し、Mは周期表第I族に属するアルカリ金属、x及びyは正の数である。)で表されるが、この水溶性アルカリ金属珪酸塩を多価金属化合物で変性した変性水溶性アルカリ金属珪酸塩を用いてもよい。水溶性アルカリ金属珪酸塩には、珪酸ナトリウム、珪酸カリウム、珪酸リチウム等があり、xの値は特に制限するものではないが、2〜5が成膜性、耐久性等の観点から好ましい。yの値についても特に制限するものではなく、最終的に得られる塗料に適度な粘性をもたせる範囲、あるいは該塗料を取り扱う上において支障がない範囲であればよい。変性水溶性アルカリ金属珪酸塩は、前記水溶性アルカリ金属珪酸塩にマグネシウム、アルミニウム、カルシウム、亜鉛、ジルコニウム等の多価金属の酸化物、水酸化物、フッ化物、炭酸塩、リン酸塩等の化合物の1種あるいは2種以上を溶解反応させたものであり、塗膜の耐水性、耐薬品性等の改善に寄与する。これらの水溶性アルカリ金属珪酸塩あるいは変性水溶性アルカリ金属珪酸塩は1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0060】
水溶性アルカリ金属珪酸塩としては、実用的には珪酸ナトリウムが、成膜性、接着性、低コスト性等の点で優れており、水溶性アルカリ金属珪酸塩として珪酸ナトリウムの1種だけを用いても優れた無機塗膜が得られる。塗料中のアルカリ金属珪酸塩の含有量は、好ましくは約7重量%以上、特に好ましくは10〜60重量%の範囲である。
【0061】
上記の水溶性アルカリ金属珪酸塩あるいは変性水溶性アルカリ金属珪酸塩の硬化剤には、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム等の多価金属酸化物;水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の多価金属水酸化物;炭酸亜鉛、炭酸マグネシウム等の多価金属炭酸塩;リン酸マグネシウム、リン酸アルミニウム、リン酸亜鉛等の多価金属リン酸塩;珪フッ化亜鉛、珪フッ化ナトリウム、珪フッ化カルシウム、珪フッ化アルミニウム等の珪フッ化物;グリオキザール、シュウ酸アミド等の有機化合物等があり、これらの硬化剤の1種類あるいは2種以上を用いることができる。硬化剤の使用量は、通常水溶性アルカリ金属珪酸塩に対して5重量%以上、特に10〜20重量%程度である。
【0062】
充填材としては、珪石、アルミナ、ガラス粉等の粒状物;粘土、雲母等の偏平状物;石綿、ガラス繊維粉等の繊維状物等が挙げられ、これらは1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。充填材を配合する場合、塗料中の充填材の含有量は水溶性アルカリ金属珪酸塩に対して20〜40重量%程度とすることが好ましい。
【0063】
顔料としては、二酸化チタン、ベンガラ、黄鉛、クロムグリーン、群青、マルスバイオレット、コバルトブルー、カーボンブラック等が挙げられ、これらは1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。顔料を配合する場合、塗料中の顔料の含有量は水溶性アルカリ金属珪酸塩に対して10〜20重量%程度とすることが好ましい。
【0064】
塗料には、その他の添加剤としては、公知の界面活性剤、分散剤、消泡剤、増粘剤等を必要に応じて配合することができる。
【0065】
<下塗り層の形成>
前述の下地層上に下塗り層を形成するには、下塗り層用塗料を下地層に塗布する。この下塗り層用塗料の塗布方法としては、慣用の方法、例えば、スプレーコーティング、ディップコーティング、ロールコーティング、フローコーティング、刷毛塗りなどの方法を採用することができる。
【0066】
下塗り層用塗料の塗布量は、固形分換算の塗布量として20〜150g/m、特に30〜100g/mとすることが好ましい。この塗布量が少な過ぎると性能不足となり、多過ぎると発泡する。
【0067】
下塗り層用塗料を下地層上に塗布した後は40〜80℃で5〜20分程度加熱することにより乾燥して下塗り層を形成する。この加熱温度が低過ぎたり加熱時間が短いと、十分な乾燥を行えず、加熱温度が高過ぎたり加熱時間が長い場合には、生産性、加熱コスト等の面で不利であり、また、下地層の樹脂劣化の恐れもある。
【0068】
なお、この下地層上への下塗り層の塗布の際には、下地層を形成した基材を予め40〜80℃程度に加熱しておくと、塗料の乾燥を効率的に行うことができ、好ましい。
【0069】
<上塗り層の形成>
上述のようにして下塗り層を形成した後は、下塗り層上に上塗り層用塗料を塗布して上塗り層を形成する。この上塗り層用塗料の塗布方法としては、下塗り層用塗料の塗布方法と同様の方法を採用することができる。
【0070】
上塗り層用塗料の塗布量は、固形分換算の塗布量として2〜10g/m、特に3〜8g/mとすることが好ましい。この塗布量が少な過ぎると光沢不足となり、多過ぎると発泡、剥離する。
【0071】
上塗り層用塗料を下塗り層上に塗布した後は、40〜80℃、5〜20分で一旦乾燥させ、更に100〜180℃で60〜300分程度加熱することにより塗膜を硬化させて上塗り層を形成する。この加熱温度が低過ぎたり加熱時間が短いと、十分な乾燥を行えず、加熱温度が高過ぎたり加熱時間が長い場合には、生産性、加熱コスト等の面で不利であり、また、上塗り層の樹脂劣化の恐れもある。
【0072】
なお、この上塗り層用塗料の塗布の際にも、基材を予め40〜80℃程度に加熱しておくと、塗料の乾燥を効率的に行うことができ、好ましい。
【0073】
<脱アルカリ金属処理>
上述のようにして水溶性アルカリ金属珪酸塩水溶液を用いて塗膜を形成した後は、この塗膜に酸・アンモニウム塩系水溶液を適用して脱アルカリ金属処理することにより塗膜を硬化させる。
【0074】
この酸・アンモニウム塩系水溶液(以下「脱アルカリ金属処理液」と称す場合がある。)のpH値は、一般に約3.5〜10.0の範囲であり、好ましくは約4〜9の範囲であり、より好ましくは約4.5〜8.5、典型的には約5〜8の範囲である。この酸・アンモニウム系水溶液の酸・アンモニウム塩濃度は0.5〜10重量%程度が好ましい。
【0075】
該酸・アンモニウム塩系水溶液とは、酸又は酸性塩と、アンモニア、アンモニア水又はアンモニア化合物との反応生成物或いは反応生成混合物である塩の水溶液であり、代表的には、
(1)水に該酸・アンモニウム塩を溶解する
又は
(2)水に酸及びアンモニア水又はアンモニアガスを添加する
等の方法によって調製される。該水溶液を所望のpH値に調整するには、例えば該水溶液にアンモニア水もしくはアンモニアガス又は該酸を適度に添加すればよい。必要に応じて、所望のpH値を効果的に維持するために適当な緩衝剤を添加することも可能である。なお、酸・アンモニウム塩系水溶液の塩成分は、2種類以上の塩の混合物であってもよい。
【0076】
該酸・アンモニウム塩系水溶液の酸又は酸性塩としては、無機酸及び有機酸又はこれらの酸性塩が使用でき、無機酸系のものとしてはリン酸、塩酸、亜硫酸、硫酸、硝酸、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、第1リン酸アルミニウム、第1リン酸カルシウム、硝酸アルミニウム等が、そして有機酸としてはシュウ酸、クエン酸、酢酸、酒石酸等が代表的に例示されるが、これらに限定されない。
【0077】
なお、代表的な酸・アンモニウム塩として、リン酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、塩化アンモニウム、酢酸アンモニウム等が例示できるが、一般に、第1、第2及び/又は第3リン酸アンモニウムが特に好適である。
【0078】
この酸・アンモニウム塩水溶液を塗膜に適用するには、この水溶液を塗膜に注ぎかけたり、噴霧したり、あるいはこの水溶液中に塗膜を浸潰すればよい。
【0079】
この水溶液との接触時間は1〜24時間程度が好ましく、接触時の温度は室温〜60℃程度が好ましい。
【0080】
この酸・アンモニウム水溶液と接触させることにより塗膜が硬化する機構は、アルカリ金属珪酸塩系塗膜中のアルカリ金属を酸イオンにより選択的かつ強制的に除去して塗膜を硬化させるとともに、一部分の該酸は塗膜中の成分とも反応して硬化作用をもたらすものと考えられる。なお、酸・アンモニウム塩水溶液で処理することにより、白華成分となる塗膜中のアルカリ金属が除去されるので、耐白華性に優れた塗膜ができる。
【0081】
その後、塗膜に水を注ぎかけたり水中に浸潰させることにより、塗膜や下地層ないし基材中の残留未反応酸・アンモニウム塩等の物質を除去し、これを乾燥させると塗膜は収縮して微細なクラックが均一に発生する。こうして発生したクラックは微細であり、また基材の吸水膨張、乾燥収縮等の寸法変化やたわみが発生してもその均一なクラックにより応力を分散吸収させてしまうため、しかも、本発明においては基材上に下地層を形成しており、耐汚染性の低下をもたらすような大きなクラックは発生しない。
【0082】
上記水洗時間は1〜24時間程度で十分である。なお、水洗に際して水の代わりに、残存する酸・アンモニウム塩等に作用して除去を促進(例えば化学反応による分解)しかつ該塗膜に実質的に影響を及ぼすことのない強塩基−強酸・塩(例えばNaCl又はKCl)の希水溶液(例えば0.1〜5重量%程度)を使用すると、水洗時間が短縮される。
【0083】
この水洗の後、40〜100℃で60〜300分程度加熱して乾燥して水溶性アルカリ金属珪酸塩系無機塗膜が形成される。
このようにして形成される水溶性アルカリ金属珪酸塩系無機塗膜の厚さは10〜50μm程度あることが好ましい。また、水溶性アルカリ金属珪酸塩系無機塗膜が前述の下塗り層と上塗り層とで形成される場合、下塗り層の厚さは10〜40μm程度で、上塗り層の厚さは2〜10μm程度であることが好ましい。この厚さが厚過ぎると発泡し、薄過ぎると性能不足となる。
【実施例】
【0084】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0085】
なお、以下の実施例及び比較例において、用いた基材、水性樹脂エマルジョン及び塗料は次の通りである。
【0086】
基材:セメント系基板(300mm角)
【0087】
第1の水性樹脂エマルジョン:日本ペイント社製「アクリル樹脂エマルジョンシーラー
」(樹脂含有量30重量%)
第2の水性樹脂エマルジョン:日本ペイント社製「アクリル樹脂エマルジョンシーラー
」(樹脂含有量40重量%)100重量部に、表1に示
す無機粉末10重量部(樹脂成分100重量部に対する
無機粉末の割合:25重量部)又は5重量部(樹脂成分
100重量部に対する無機粉末の割合:12.5重量部
)と水50重量部を混合したもの
ただし、実施例8においては、日本ペイント社製「ア
クリルシリコーン系シーラー」(樹脂含有量40重量%
)100重量部に、表1に示す無機粉末10重量部(樹
脂成分100重量部に対する無機粉末の割合:25重量
部)と水50重量部を混合したものを用いた。
【0088】
下塗り塗料:下記組成の珪酸ナトリウム系塗料
珪酸ナトリウム水溶液(珪酸ナトリウム濃度40重量%):100重量部
充填材(珪石) :25重量部
顔料(酸化チタン) :12.5重量部
硬化剤(酸化亜鉛) :12.5重量部
水 :50重量部
上塗り塗料:下記組成の珪酸ナトリウム系塗料
珪酸ナトリウム水溶液(珪酸ナトリウム濃度40重量%):100重量部
水 :100重量部
【0089】
脱アルカリ金属処理液:第1リン酸アンモニウム5重量%、第2リン酸アンモニウム
5重量%、pH6.0のリン酸アンモニウム水溶液
【0090】
説明の便宜上、まず比較例を挙げる。
【0091】
[比較例1]
セメント系基材を予め板温60℃に加熱し、下塗り塗料をスプレー塗装(固形分換算の塗布量70g/m)して60℃で30分保持して乾燥させた。その後、更に板温60℃に加熱して上塗り塗料をスプレー塗装(固形分換算の塗布量4g/m)した後、60℃で20分保持して乾燥させた。更に150℃で240分加熱して塗膜を硬化させた。
これを40℃の脱アルカリ金属処理液に4時間浸した後引き上げ、更に1時間水洗後、60℃で240分乾燥させて無機塗膜を形成した。形成された無機塗膜の下塗り層の厚さは30μmであり、上塗り層の厚さは4μmである。
【0092】
[実施例1〜11]
セメント系基材を予め板温60℃に加熱し、第1の水性樹脂エマルジョンをスプレー塗装(固形分換算の塗布量7.5g/m)して60℃で10分加熱した。その後、第2の水性樹脂エマルジョンをスプレー塗装(固形分換算の塗布量25g/m)した後、60℃で10分加熱した。
このようにして、厚さ5μmの第1の下地層と厚さ10μmの第2の下地層よりなる下地層を形成した後、この下地層上に比較例1と同様にして無機塗膜を形成した。
【0093】
[比較例2]
実施例1において、下地層として第1の下地層のみを形成したこと以外は同様にしてセメント系基板上に無機塗膜を形成した。
【0094】
[比較例3]
実施例1において、下地層として第2の下地層のみを形成したこと以外は同様にしてセメント系基板上に無機塗膜を形成した。
【0095】
[無機塗膜の耐久性試験]
上記比較例及び実施例で得られた表面化粧材の無機塗膜の耐久性試験を以下の方法により実施した。
【0096】
<初期最大クラック幅と塗膜密着性>
形成された無機塗膜を電子顕微鏡により観察し、最大クラック幅を測定した。
また、無機塗膜表面に養生テープを貼り、勢いよく剥がした時の、養生テープを粘着した面積に対する剥離した塗面の面積の割合(剥離面積率(%))を電子顕微鏡による観察で測定した。また、この剥離面積率から、密着性を下記基準で評価した。
○:剥離面積率10%未満
△:剥離面積率10%以上35%未満
×:剥離面積率35%以上
【0097】
<ヒートサイクル試験後最大クラック幅と塗膜密着性>
「表面温度80℃に2時間保持」→「散水10分」を1サイクルとして、300サイクルのヒートサイクルを試験体に繰り返した後、上記と同様に最大クラック幅及び剥離面積率の測定と塗膜密着性の評価を行った。
【0098】
<片面凍結試験後最大クラック幅と塗膜密着性>
水分を含んだスポンジ上に塗膜面が下になるように試験体を置き、「−20℃に3時間保持」→「+20℃に1時間保持」を1サイクルとして、100サイクルのヒートサイクルを繰り返した後、上記と同様に最大クラック幅及び剥離面積率の測定と塗膜密着性の評価を行った。
【0099】
<中性化劣化片面凍結試験後最大クラック幅と塗膜密着性>
温度30℃、湿度60%、二酸化炭素濃度5体積%の雰囲気中で、試験体を中性化劣化させた後、上記と同様の片面凍結試験を行い、その後、上記と同様に最大クラック幅及び剥離面積率の測定と塗膜密着性の評価を行った。
【0100】
【表1】

【0101】
表1より、本発明によれば、基材上の水溶性アルカリ金属珪酸塩系無機塗膜の塗膜密着性が大幅に改善され、その剥離が防止されることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材表面に下地層を介して水溶性アルカリ金属珪酸塩系無機塗膜を形成してなる表面化粧材において、
該下地層が、基板表面に水性樹脂エマルジョンを付着させることにより形成された第1の下地層と、該第1の下地層上に、無機粉末を含有する水性樹脂エマルジョンを付着させることにより形成された第2の下地層とを有することを特徴とする表面化粧材。
【請求項2】
請求項1において、前記第1の下地層を形成する水性樹脂エマルジョンが、無機粉末を含有しないか、或いは、前記第2の下地層を形成する水性樹脂エマルジョンよりも少ない量の無機粉末を含有することを特徴とする表面化粧材。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記第1の下地層を形成する水性樹脂エマルジョンが撥水性を有する樹脂の水性エマルジョンであることを特徴とする表面化粧材。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記無機粉末が水溶性アルカリ金属珪酸塩用硬化剤粉末であることを特徴とする表面化粧材。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、前記第1の下地層を形成する水性樹脂エマルジョン中の樹脂と第2の下地層を形成する水性樹脂エマルジョン中の樹脂とが同種の樹脂であることを特徴とする表面化粧材。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項において、前記第2の下地層を形成する水性樹脂エマルジョンが、該水性樹脂エマルジョン中の樹脂成分100重量部に対して無機粉末を10〜50重量部含むことを特徴とする表面化粧材。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項において、前記水溶性アルカリ金属珪酸塩系無機塗膜は、前記下地層上に、充填材及び顔料を含む水溶性アルカリ金属珪酸塩水溶液よりなる下塗り塗料を付着させることにより形成された下塗り層と、
該下塗り層上に水溶性アルカリ金属珪酸塩水溶液よりなる上塗り塗料を付着させることにより形成された上塗り層とを備えることを特徴とする表面化粧材。
【請求項8】
基材表面に水溶性アルカリ金属珪酸塩系無機塗膜を形成する方法において、
該基板表面に水性樹脂エマルジョンを付着させることにより第1の下地層を形成する工程と、
該第1の下地層上に、無機粉末を含有する水性樹脂エマルジョンを付着させることにより第2の下地層を形成する工程と、
該第2の下地層上に水溶性アルカリ金属珪酸塩水溶液よりなる塗料を付着させることにより水溶性アルカリ金属珪酸塩系無機塗膜を形成する工程と
を有することを特徴とする無機塗膜の形成方法。
【請求項9】
請求項8において、前記第1の下地層を形成する水性樹脂エマルジョンが、無機粉末を含有しないか、或いは、前記第2の下地層を形成する水性樹脂エマルジョンよりも少ない量の無機粉末を含有することを特徴とする無機塗膜の形成方法。
【請求項10】
請求項8又は9において、前記第1の下地層を形成する水性樹脂エマルジョンが撥水性を有する樹脂の水性エマルジョンであることを特徴とする無機塗膜の形成方法。
【請求項11】
請求項8ないし10のいずれか1項において、前記無機粉末が水溶性アルカリ金属珪酸塩用硬化剤粉末であることを特徴とする無機塗膜の形成方法。
【請求項12】
請求項8ないし11のいずれか1項において、前記第1の下地層を形成する水性樹脂エマルジョン中の樹脂と第2の下地層を形成する水性樹脂エマルジョン中の樹脂とが同種の樹脂であることを特徴とする無機塗膜の形成方法。
【請求項13】
請求項8ないし12のいずれか1項において、前記第2の下地層を形成する水性樹脂エマルジョンが、該水性樹脂エマルジョン中の樹脂成分100重量部に対して無機粉末を10〜50重量部含むことを特徴とする無機塗膜の形成方法。
【請求項14】
請求項8ないし13のいずれか1項において、前記水溶性アルカリ金属珪酸塩系無機塗膜を形成する工程は、前記第2の下地層上に、充填材及び顔料を含む水溶性アルカリ金属珪酸塩水溶液よりなる下塗り塗料を付着させて下塗り層を形成する過程と、
該下塗り層上に水溶性アルカリ金属珪酸塩水溶液よりなる上塗り塗料を付着させて上塗り層を形成する過程とを備えることを特徴とする無機塗膜の形成方法。

【公開番号】特開2010−110959(P2010−110959A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−284458(P2008−284458)
【出願日】平成20年11月5日(2008.11.5)
【出願人】(000000479)株式会社INAX (1,429)
【Fターム(参考)】