説明

表面形状測定方法

【課題】表面形状の測定精度が低い。
【解決手段】対象物の表面に触針を接触させた状態で表面上を走査することにより対象物の表面形状を測定する表面形状測定方法であって、対象物の表面にエッジがある場合に、走査の方向について、エッジがあるべき想定位置に対して予め定められた距離だけ離れた設定位置まで、表面上を第1の速度で走査して表面形状を計測する高速走査段階と、走査の方向について、設定位置から想定位置まで、表面上を、第1の速度よりも遅い第2の速度で走査して表面形状を計測する低速走査段階とを備える表面形状測定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面形状測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
対象物の表面に触針の先端を接触させた状態で、表面上を走査させる表面形状測定方法が知られている(例えば、特許文献1)。この表面形状測定方法では、触針が対象物の表面に沿って上下することにより、対象物の表面形状が測定される。
[先行技術文献]
[特許文献]
[特許文献1]特開2005−156235号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記の表面形状測定方法では、対象物のエッジの側壁に衝突すると、触針がエッジの頂点近傍で飛び跳ねて、触針が表面から離脱する。このため、触針が表面から離脱している領域が大きくなり、表面の形状の測定精度が低いといった課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様は、対象物の表面に触針を接触させた状態で前記表面上を走査することにより前記対象物の表面形状を測定する表面形状測定方法であって、前記対象物の前記表面にエッジがある場合に、走査の方向について、前記エッジがあるべき想定位置に対して予め定められた距離だけ離れた設定位置まで、前記表面上を第1の速度で走査して表面形状を計測する高速走査段階と、走査の方向について、前記設定位置から前記想定位置まで、前記表面上を、前記第1の速度よりも遅い第2の速度で走査して表面形状を計測する低速走査段階とを備える表面形状測定方法である。
【0005】
なお、上記の発明の概要は、本発明の必要な特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】実施形態による表面形状測定装置の全体構成図である。
【図2】表面形状測定装置の制御系を説明するためのブロック図である。
【図3】触針の軌跡を説明する図である。
【図4】外周から中心へと移動させた場合の触針の軌跡を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0008】
図1は、実施形態による表面形状測定装置の全体構成図である。図1に矢印で示す上下左右を表面形状測定装置1の上下左右方向とする。
【0009】
本実施形態による表面形状測定装置1は、対象物の一例である表面にエッジ51が形成されたフレネルレンズ9の表面に触針28を接触させた状態で、フレネルレンズ9の表面上を走査させることによりフレネルレンズ9の表面形状を測定する。
【0010】
図1に示すように、表面形状測定装置1は、基台2と、上下方向駆動機構3と、水平方向駆動機構4と、触針機構5と、制御部6とを有する。
【0011】
基台2は、水平方向駆動機構4及び触針機構5を保持する上下方向駆動機構3と、制御部6とを支持する。基台2は、保持部11を有する。保持部11は、基台2の上面に配置されている。保持部11は、フレネルレンズ9を基台2の上面に固定する。
【0012】
上下方向駆動機構3は、固定柱15と、筐体16と、上下駆動部17とを備える。
【0013】
固定柱15は、基台2の右側の端部に立設され、かつ、固定されている。固定柱15は、上下駆動部17、及び、筐体16を支持する。
【0014】
筐体16は、上下方向に移動可能に固定柱15の上部に設けられている。筐体16は、触針機構5が設けられた水平方向駆動機構4を保持する。
【0015】
上下駆動部17は、筐体16に固定されている。上下駆動部17は、モータ等を有する。上下駆動部17は、上下方向の駆動力を筐体16に供給する。これにより、筐体16は、上下駆動部17とともに、固定柱15に沿って上下方向に移動する。
【0016】
水平方向駆動機構4は、水平アーム21と、水平駆動部22とを備える。
【0017】
水平アーム21は、水平方向に延びる梁状に形成されている。水平アーム21の右側の端部は、水平方向に移動可能に筐体16によって保持されている。水平アーム21の左側の端部は、上下方向に移動自在に触針機構5を保持している。
【0018】
水平駆動部22は、筐体16に固定されている。水平駆動部22は、モータ等を有する。水平駆動部22は、水平方向の駆動力を水平アーム21に供給する。これにより、水平アーム21は、触針機構5とともに左右方向に移動する。
【0019】
触針機構5は、被摺動部24と、摺動柱25と、上規制部26と、下規制部27と、触針28と、位置センサ29とを備える。
【0020】
被摺動部24は、水平アーム21の左側の端部に固定されている。被摺動部24は、上下方向に貫通された摺動孔30が形成された円筒形状に構成されている。
【0021】
摺動柱25は、上下方向に延びる円柱状に形成されている。摺動柱25は、摺動可能に摺動孔30に挿通されている。摺動柱25の下端部は、触針28を保持する。これにより、摺動柱25は、摺動孔30を摺動しつつ、触針28とともに、上下方向に移動する。
【0022】
上規制部26は、摺動柱25の上端部に設けられている。上規制部26は、摺動柱25の下方向の移動を規制する。下規制部27は、摺動柱25の上下方向の中央部に設けられている。下規制部27は、摺動柱25の上方向の移動を規制する。換言すると、摺動柱25は、上規制部26と下規制部27とによって上下方向の移動を一定の距離で規制されている。上規制部26と下規制部27との間隔は、フレネルレンズ9の凹凸の高さよりも十分に高い。
【0023】
触針28は、下方に細くなる円錐状に形成されている。触針28の上部の直径は、例えば、数百μmである。触針28は、摺動柱25の下端部に固定されている。表面形状測定時、触針28は、フレネルレンズ9の表面に接触する。これにより、触針28は、フレネルレンズ9の表面の形状に伴って、摺動柱25とともに上下に移動する。
【0024】
位置センサ29は、被摺動部24の内部に固定されている。位置センサ29は、水平アーム21に固定された被摺動部24に対する摺動柱25の相対位置を検出する。そして、位置センサ29は、その検出した相対位置を検出データとして制御部6に出力する。制御部6は、この相対位置の変化に基づいて、フレネルレンズ9の表面形状を測定する。
【0025】
図2は、表面形状測定装置1の制御系を説明するためのブロック図である。
【0026】
制御部6は、表面形状測定装置1の全体を制御する。図2に示すように、制御部6は、処理部41と、取得部42と、記憶部43とを備える。
【0027】
処理部41は、CPU等の演算処理装置を有する。処理部41は、種々のプログラムを実行する。また、処理部41は、種々のデータを処理して記憶部43に格納するとともに、それらのデータを記憶部43から読み出す。
【0028】
取得部42は、ネットワークまたは記憶媒体等を介して、想定位置データ45等の種々のデータを取得する。取得部42は、取得したデータを処理部41へと出力する。
【0029】
記憶部43は、種々のデータを格納する。種々のデータには、想定位置データ45と、設定位置を算出するための距離Dと、第1の速度V1と、第2の速度V2と、第1測定データ46と、第2測定データ46と、・・、第n測定データ46等が含まれる。
【0030】
想定位置データ45がデータとして有する想定位置とは、フレネルレンズ9のエッジ51があるべき位置のことである。設定位置とは、走査の方向において、エッジ51の想定位置から距離Dだけ手前に離れた位置のことである。ここで距離Dは、テーパ角度及び直径等を含む触針28の形状、及び、エッジ51の高さ等に基づいて、触針28がエッジ51に接触しないように予め算出して定められる。
【0031】
第1の速度V1は、設定位置までの水平アーム21の水平方向の移動速度である。即ち、制御部6は、水平駆動部22を介して、設定位置まで水平アーム21を第1の速度V1で水平方向に移動させる。これにより、触針28は、設定位置までフレネルレンズ9の表面上を第1の速度V1で水平方向に移動する。第1の速度V1の一例は、1mm/sである。
【0032】
第2の速度V2は、第1の速度V1よりも遅い速度であって、設定位置以降の水平アーム21の水平方向の速度である。即ち、制御部6は、水平駆動部22を介して、設定位置以降、水平アーム21を第2の速度V2で水平方向に移動させる。これにより、触針28は、設定位置以降、フレネルレンズ9の表面上を第2の速度V2で水平方向に移動する。ここでいう表面上とは、フレネルレンズ9の表面の上方をも含む概念である。第2の速度V2の一例は、0.3mm/sである。
【0033】
第1測定データ46、第2測定データ46、・・、第n測定データ46は、複数個のフレネルレンズ9を測定した場合におけるn個目に計測されたフレネルレンズ9の表面形状のデータである。制御部6は、これらの測定データ46に基づいて、エッジ51の位置を特定して、想定位置データ45を補正する。例えば、制御部6は、全ての測定データ46、・・、46の平均値を算出して、想定位置データ45を補正する。また、n個の測定データ46、・・、46のうち、1個の測定データ46(mは1〜nの何れか)のみが、他の測定データ46、・・、46に比べて、極めて異なる場合、制御部6が、その測定データ46を除外して想定位置データ45を補正するように構成してもよい。これにより、製造工程中に破損したフレネルレンズ9の測定データ46を除外して、想定位置データ45の精度を向上させることができる。
【0034】
制御部6は、上下駆動部17、水平駆動部22、及び、位置センサ29に接続されている。これにより、制御部6は、上下駆動部17を駆動して、筐体16を上下方向に移動させる。制御部6は、水平駆動部22を駆動して、水平アーム21を水平方向に移動させる。ここで、制御部6は、水平駆動部22を介して、第1の速度V1または、第2の速度V2の何れかの速度で水平アーム21の移動速度を制御する。制御部6は、位置センサ29から入力される検出データに基づいて、フレネルレンズ9の表面形状を測定する。ここで、位置センサ29は、一定の時間間隔で検出データを出力する。従って、触針28を一定の速度で移動させれば、解像度は一定である。換言すると、触針28を第1の速度V1で移動させると、全体の測定時間は短くなるが、解像度は低下する。一方、触針28を第2の速度V2で移動させると、全体の測定時間は長くなるが、解像度は高くなる。
【0035】
次に、表面形状の測定対象であるフレネルレンズ9について説明する。フレネルレンズ9は、約20mmの直径を有する。フレネルレンズ9の表面には、複数のエッジ51が形成されている。フレネルレンズ9のエッジ51のピッチは、100μm〜2mmである。フレネルレンズ9のエッジ51の高さは、約50μmである。尚、フレネルレンズ9以外を測定対象とすることは可能であり、また、これらの数値は、一例であり、適宜変更することができる。
【0036】
次に、上述した表面形状測定装置1によるフレネルレンズ9の表面形状測定方法について説明する。この測定方法では、触針28をフレネルレンズ9の中心から外周へと移動させる。図3は、触針の軌跡を説明する図である。
【0037】
図3において、点線は本実施形態による触針の軌跡を示す。点線は触針28の下端から上方に距離d1の位置の軌跡である。図3において、一点鎖線は従来の測定方法による触針の軌跡を示す。一点鎖線は触針の下端から上方に距離d2の位置の軌跡である。これらd1、d2は、説明の都合上、フレネルレンズ9の表面を示す線及び両軌跡の線をずらすための値であって、技術的に意味のある値ではない。また、点線の軌跡上の黒丸は、本実施形態の位置センサ29による検出データの出力間隔を示す。一点鎖線の軌跡上の黒四角は、従来の測定方法の位置センサ29による検出データの出力間隔を示す。
【0038】
まず、想定位置取得段階において、制御部6の取得部42が、想定位置データ45を外部の記憶媒体から取得して、処理部41がその想定位置データ45を記憶部43に格納する。次に、図1に示すように、測定対象のフレネルレンズ9が、保持部11によって、基台2の上面に固定される。次に、触針28の下端部が、初期位置であるフレネルレンズ9の中心上に接触するように、制御部6によって触針28が配置される。尚、フレネルレンズ9の外周の何れかの位置を初期位置としてもよい。ここで、水平アーム21の上下方向の位置が、上規制部26と下規制部27との略中心となるように、筐体16の上下方向の位置が、制御部6によって設定される。
【0039】
次に、高速走査段階において、制御部6は、水平駆動部22を駆動して、触針28を含む触針機構5とともに水平アーム21を第1の速度V1で右方向へと移動させる。ここで、触針28の下端部がフレネルレンズ9の表面に接触している。これにより、図3の点線で示すように、触針28が第1の速度V1でフレネルレンズ9の表面上を右方向に走査して、表面形状を計測する。この結果、触針28を保持する摺動柱25は、フレネルレンズ9の表面に合わせて、被摺動部24を摺動しつつ、上下方向に移動する。被摺動部24に固定された位置センサ29は、摺動柱25の上下方向の位置を検出して、その位置を検出データとして制御部6へと出力する。制御部6は、位置センサ29から入力された検出データによって、フレネルレンズ9の表面の形状を測定する。
【0040】
次に、制御部6は、記憶部43に格納された想定位置データ45及び距離Dに基づいて、触針28がエッジ51の想定位置から距離Dだけ手前の設定位置に到達したか否かを判定する。制御部6は、触針28が設定位置に到達したと判定すると、高速走査段階を終了して、低速走査段階を開始する。
【0041】
低速走査段階では、制御部6は、水平駆動部22を制御して、触針機構5及び水平アーム21の速度を第1の速度V1から第2の速度V2まで減速する。尚、設定位置では、触針28の側面は、エッジ51の側面と接触していない。制御部6は、減速とともに、上下駆動部17を制御して、被摺動部24及び水平アーム21とともに筐体16を上方へと移動させる。これにより、摺動柱25は、上規制部26によって規制される下限位置まで、被摺動部24を摺動する。更に、制御部6は上下駆動部17の駆動を継続させて、触針28をフレネルレンズ9の表面から離脱させる。
【0042】
次に、制御部6は、想定位置データ45に基づいて、触針28の下端部がエッジ51の上端よりも高くなったと判定すると、上下駆動部17の駆動を停止する。ここでいう判定の方法の一例は、水平アーム21を支持する筐体16の上方向の移動距離及び上規制部26に対する摺動柱25の相対位置から算出された触針28の下端の位置が、想定位置データ45に含まれるエッジ51の高さを越えたか否かによって判定する。尚、ここまで、触針28の側面がエッジ51と接触することがないように、距離Dは設定されている。この後、制御部6は、想定位置データ45に基づいて、水平方向において、触針28の下端部がエッジ51の想定位置まで移動した判定すると、低速走査段階を終了する。換言すると、低速走査段階では、走査の方向において、触針28は、設定位置から想定位置まで、フレネルレンズ9の表面上を第2の速度V2で走査して、表面形状を計測する。
【0043】
高速走査段階に再び移行すると、制御部6は、水平駆動部22を制御して、水平アーム21の速度を第2の速度V2から第1の速度V1まで加速する。また、制御部6は、上下駆動部17を駆動して、水平アーム21とともに筐体16を下方へと移動させる。これにより、下限位置の摺動柱25は、触針28とともに、筐体16と同じ距離だけ下方へと移動する。この後、触針28がフレネルレンズ9の表面に接触すると、摺動柱25が被摺動部24を摺動しつつ、水平アーム21及び被摺動部24は下方へと移動する。制御部6は、被摺動部24が上規制部26及び下規制部27の略中央部に達したと判定すると、上下駆動部17を停止する。この後、制御部6は、次のエッジ51の設定位置まで高速走査段階を継続する。
【0044】
ここで、従来の表面形状測定方法では、図3の一点鎖線で示す軌跡となる。即ち、触針28が、エッジ51の側壁に接触した後に、触針28を上方へと移動させる。これにより、触針28の側面がエッジ51に接触しつつ、触針28は上方へと移動する。このため、左方向の外力が触針28に作用するので、触針28がエッジ51の上端を越えると、触針28はエッジ51の上方を飛び跳ねる。従って、従来の方法では、エッジ51の上端部近傍の表面形状が、一点鎖線で示す誤った形状であると測定される。
【0045】
この後、本実施形態の表面形状測定方法では、制御部6は、複数のエッジ51について、上述した高速走査段階及び低速走査段階を繰り返す。これにより、触針28は複数のエッジ51を越えつつ、フレネルレンズ9の表面形状を測定する。制御部6は、触針28がフレネルレンズ9の外周まで達したと判定すると、触針28をフレネルレンズ9の中心まで戻した後、触針28を左方向へと移動させて、フレネルレンズ9の左半分の表面を測定する。最後に、制御部6は、測定データ46を記憶部43に格納して、フレネルレンズ9の表面測定が終了する。
【0046】
次に、エッジ特定段階において、制御部6は、高速走査段階及び低速走査段階の計測結果である測定データ46に基づいて、フレネルレンズ9のエッジ51の位置を特定する。
【0047】
次に、位置補正段階において、制御部6は、エッジ特定段階において特定されたエッジ51の位置に基づいて、想定位置データ45が有するエッジ51の想定位置を補正する。例えば、補正の方法として、特定されたエッジ51の位置と想定位置データ45との平均値を新たな想定位置データ45とすることがあげられる。更には、複数のフレネルレンズ9を測定した後は、全ての測定データ46と想定位置データ45との平均値を想定位置データ45としてもよい。
【0048】
この後、新たなフレネルレンズ9が基台2に固定されて、補正された想定位置データ45を用いて、表面形状の計測が実行される。
【0049】
次に、フレネルレンズ9の外周部から中心部へと触針28を移動させて、フレネルレンズ9の表面形状を測定する場合について説明する。尚、上述した測定方法と同様の段階に関しては、説明を省略する。図4は、外周から中心へと移動させた場合の触針の軌跡を説明する図である。図4において、点線は本実施形態による触針の軌跡を示す。図4において、一点鎖線は従来の測定方法による触針の軌跡を示す。
【0050】
制御部6は、フレネルレンズ9の左端部の外周に触針28を配置する。この後、制御部6は、図4に示すように、水平駆動部22を制御して、触針28を第1の速度V1で右方向へと移動させて、高速走査段階を開始する。次に、制御部6は、触針28が設定位置まで達したと判定すると、水平駆動部22を制御して、触針28の速度を第1の速度V1から第2の速度V2まで減速して、低速走査段階へと移行する。この後、触針28が設定位置まで達してエッジ51を越えると、触針28とともに摺動柱25は、触針28がフレネルレンズ9の上面に達するまで、被摺動部24を摺動しつつ落下する。ここで、触針28は、第2の速度V2によって移動しているので、触針28はエッジ51の近傍に落下する。
【0051】
一方、制御部6は、触針28が想定位置まで、即ち、エッジ51まで達したと判定すると、水平駆動部22を制御して、触針28の速度を第2の速度V2から第1の速度V1まで加速して、再度、高速走査段階へと移行する。この後、制御部6は、高速捜査段階及び低速走査段階を繰り返して、フレネルレンズ9の表面形状を測定する。
【0052】
従来の表面形状測定方法では、フレネルレンズ9を外周から中心へと触針28を移動させて、表面形状を測定した場合、図4の一点鎖線に描く軌跡となる。即ち、従来では、表面全体に渡って、第1の速度V1で測定するので、触針28がエッジ51を越えると、触針28がエッジ51から離れた位置に落下する。従って、触針28がフレネルレンズ9と接触していない領域が増えるので、正確に表面形状が測定されてない領域が増加する。
【0053】
上述したように本実施形態による表面形状測定方法では、触針28がエッジ51に接触する前に、触針28を減速させた後、上方へと移動させている。これにより、触針28が、エッジ51に接触することを抑制できるので、触針28がエッジ51の上端部を越えたときに、触針28が飛び跳ねることを抑制できる。この結果、触針28がフレネルレンズ9の表面と接触している状態を長くすることができるので、フレネルレンズ9の表面形状の精度を向上させることができる。また、触針28がエッジ51と接触することを抑制することによって、触針28の破損を低減できるとともに、触針28の位置ずれを抑制できる。これにより、触針28のアライメントの回数を低減することができる。
【0054】
上述の表面形状測定方法では、エッジ51の近傍を除き、高速の第1の速度V1によって触針28を移動させるので、測定時間を短縮しつつ、測定精度を向上させることができる。
【0055】
上述の表面形状測定方法では、実際に計測された結果である測定データ46に基づいて、想定位置データ45を補正するので、エッジ51の位置をより正確に特定することができる。これにより、触針28とエッジ51との接触を更に低減することができるとともに、触針28が接触する表面領域を増加させて、測定精度を更に向上させることができる。
【0056】
次に、上述した実施形態の一部を変更した他の実施形態について説明する。この実施形態は、複数のフレネルレンズ9を測定する場合であって、想定位置データ45を外部から取得できない場合を想定している。
【0057】
この実施形態では、第1測定段階において、制御部6は、少なくとも最初の1個目のフレネルレンズ9において、走査方向の全てに渡って、第2の速度V2で触針28をフレネルレンズ9の表面上で走査して、表面形状を計測する。この後、制御部6は、第1測定段階において測定された表面形状の結果を第1測定データ46として記憶部43に格納する。
【0058】
次に、エッジ特定段階において、制御部6は、第1測定段階で測定された表面形状の第1測定データ46に基づいて、フレネルレンズ9のエッジ51の位置を特定する。
【0059】
次に、制御部6は、1個目のフレネルレンズ9の後に測定される2個目以降のフレネルレンズ9に対して、エッジ特定段階で特定されたエッジ51の位置を想定位置として、上述した高速走査段階及び低速走査段階を実行する。これにより、2個目以降のフレネルレンズ9の表面形状が測定される。
【0060】
更に、この他の実施形態においても、位置補正段階を実行してもよい。即ち、制御部6は、エッジ特定段階において、測定結果に基づいて、2個目以降のフレネルレンズ9のエッジ51を特定する。その後、制御部6は、その特定されたエッジ51の位置に基づいて想定位置データ45の想定位置を補正する。そして、制御部6は、その補正された想定位置データ45を用いて、以降のフレネルレンズ9の表面形状を測定する。
【0061】
この実施形態は、複数のフレネルレンズ9を測定する場合であって、想定位置データ45を外部から取得できない場合であっても、上述した実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0062】
また、別の実施形態として、想定位置、第1の速度V1、第2の速度V2、距離D等をユーザが入力可能に構成してもよい。
【0063】
また、上述の実施形態では、距離Dは、触針28がエッジ51と接触しないように設定したが、触針28がエッジ51と接触するように設定してもよい。この場合、触針28が、可能な限りエッジ51の上端部のみと接触するように距離Dを設定することが好ましい。触針28がエッジ51からの外力によって飛び跳ねることを低減するためである。
【0064】
また、上述の実施形態では、第2の速度V2として0.3mm/sを例に上げたが、第1の速度V1から「0mm/s」、即ち、停止状態へと減速している間の速度を第2の速度V2としてもよい。この場合においても、触針28が設置位置に達すると、第1の速度V1から「0mm/s」へと減速する。即ち、触針28は、設定位置から第2の速度V2で移動する。この後、触針28が、エッジ51を越えると、触針28の速度を第1の速度V1へと加速を開始する。尚、触針28が、エッジ51を越える前に、第1の速度V1への加速を開始してもよいが、触針28がエッジ51に接触しないように、エッジ51に対する触針28の相対的な高さ位置等を考慮して、加速開始地点を決定することが好ましい。また、触針28の速度が「0mm/s」になる前に、減速を停止して、第1の速度V1への加速を開始してもよい。これにより、触針28をよりエッジ51まで接近させることができる。また、3段階以上に触針28の速度を設定してもよく、そのうちの一の速度を、「0」にしてもよい。
【0065】
また、上述の実施形態における位置補正段階等はユーザによって実行を選択可能に構成してもよい。
【0066】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0067】
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
【符号の説明】
【0068】
1 表面形状測定装置
2 基台
3 上下方向駆動機構
4 水平方向駆動機構
5 触針機構
6 制御部
9 フレネルレンズ
11 保持部
15 固定柱
16 筐体
17 上下駆動部
21 水平アーム
22 水平駆動部
24 被摺動部
25 摺動柱
26 上規制部
27 下規制部
28 触針
29 位置センサ
30 摺動孔
41 処理部
42 取得部
43 記憶部
45 想定位置データ
46 測定データ
51 エッジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物の表面に触針を接触させた状態で前記表面上を走査することにより前記対象物の表面形状を測定する表面形状測定方法であって、
前記対象物の前記表面にエッジがある場合に、
走査の方向について、前記エッジがあるべき想定位置に対して予め定められた距離だけ離れた設定位置まで、前記表面上を第1の速度で走査して表面形状を計測する高速走査段階と、
走査の方向について、前記設定位置から前記想定位置まで、前記表面上を、前記第1の速度よりも遅い第2の速度で走査して表面形状を計測する低速走査段階と
を備える表面形状測定方法。
【請求項2】
前記対象物の前記表面に複数のエッジがある場合に、前記複数のエッジについて、前記高速走査段階と前記低速走査段階とを繰り返し実行する請求項1に記載の表面形状測定方法。
【請求項3】
前記想定位置を外部から取得する想定位置取得段階をさらに備える請求項1または2に記載の表面形状測定方法。
【請求項4】
前記高速走査段階および前記低速走査段階の計測に基づいて前記エッジの位置を特定するエッジ特定段階と、
前記エッジ特定段階により特定された前記エッジの位置に基づいて、以後の対象物に対して用いる前記想定位置を補正する位置補正段階と
をさらに備える請求項3に記載の表面形状測定方法。
【請求項5】
複数の前記対象物を測定する場合に、
少なくとも一の前記対象物に対して、走査の方向に渡って、前記一の対象物の表面上を前記第2の速度で走査して表面形状を計測する第1測定段階と、
前記第1測定段階で測定された表面形状に基づいて、前記一の対象物のエッジの位置を特定するエッジ特定段階と
をさらに備え、
前記一の対象物の後に測定される前記対象物に対して、前記エッジ特定段階で特定された前記エッジの位置を前記想定位置として、前記高速走査段階および前記低速走査段階を実行する請求項1または2に記載の表面形状測定方法。
【請求項6】
前記エッジ特定段階により特定された前記エッジの位置に基づいて、前記一の対象物の後に測定される前記対象物に対して用いる前記想定位置を補正する位置補正段階と
をさらに備える請求項5に記載の表面形状測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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