説明

表面改質粒子とその製造方法および樹脂組成物

【課題】表面改質率を高く維持し、かつ、所要時間が短縮された、表面改質粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】(1)無機粒子水ゾルに分散剤を分散させ、分散剤含有無機粒子水ゾルを得る工程と、(2)前記分散剤含有無機粒子水ゾルをフリーズドライ等により乾燥し、乾燥粉末を得る乾燥工程と、(3)前記乾燥粉末を有機溶媒に分散させ、有機溶媒ゾルを得る工程と、(4)前記有機溶媒ゾルに表面改質剤を分散させる、表面剤改質処理工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面改質粒子の製造方法、その製造方法によって得られる表面改質粒子およびその表面改質粒子と、樹脂とを含む樹脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリカをはじめとする金属酸化物微粒子は、近年さまざまな産業分野で有用性、応用性が認められている。ところが粒子径が小さくなるほど表面積は増大し、相互作用が強まるため、凝集が容易に起こることが一般的である。ましてや、この金属酸化物微粒子を有機溶媒や樹脂中に均一分散させることは容易ではない。上述したナノ粒子に相当するような微小な金属酸化物微粒子の、有機物質中での均一分散を達成するためには、前記金属酸化物微粒子の表面を、目的化合物に均一分散可能な官能基を有するように有機化合物で化学的に表面処理し、疎水化する手法が有効である。これにより、微粒子同士が凝集しにくくなり、有機物質中での分散性を向上させることができる。
【0003】
一方で、有機樹脂の諸物性を向上させる手法として、有機高分子の特長である柔軟性、低密度や成形性などを保持しつつ、無機化合物の特徴である高強度、高弾性率、耐熱性、電気特性などを併せ持つ材料の開発が盛んに行われている。
【0004】
ところが、シリカ粒子、アルミナ粒子は活性な親水基を有するため、樹脂と混合した場合、樹脂の重合阻害という問題点や、縮合系熱可塑性樹脂が加水分解され、樹脂としての物性を大きく損なうという問題点があった。
【0005】
本発明者らはその問題点を解決すべく、粒子表面を改質する一連の工程中の乾燥工程において、フリーズドライ等を用いるという創意工夫を行い、活性な親水基を化合物により封止し、表面改質率を向上させ、透明性や強度の向上といった樹脂組成物の物性の改善を行うことに成功した(特許文献1)。
【0006】
その特許文献1においては、表面改質アルミナ粒子を得る技術を開示している。具体的には、長軸100nm、短軸10nmのサイズのアルミナ粒子を含んだ水溶液を、フリーズドライ等の手段にて乾燥粉末とする。次いでテトラヒドロフランにアルミナ粒子を分散させTHF(テトラヒドロフラン)アルミナ分散液とする。さらにそこへシランカップリング剤を導入する(実施例参照)。その表面改質アルミナ粒子を含有するポリカーボネート樹脂組成物は分子量を損なうことなく、物性(透明性、強度等)もまた良好であった。
【特許文献1】特開2007−2049号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記技術における表面改質率と同等以上にし、かつ、製造工程数が減少し、製造に要する時間が短縮された、表面改質粒子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記技術をさらに改良すべく、鋭意研究を行った。その結果、無機粒子と、分散剤と、表面改質剤と、を噴霧により加熱容器に導入し、無機粒子と、表面改質剤と、を接触させることにより、前記課題を解決することを見出し、本発明が完成した。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る表面改質粒子の製造方法によると、前記技術における表面改質率と同等以上でき、かつ、製造工程数が減少し、製造に要する時間が短縮される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、無機粒子または無機粒子および分散剤の混合物と、表面改質剤と、を噴霧により、加熱した容器に導入し、無機粒子と、表面改質剤と、を接触させることを有する、表面改質粒子の製造方法である。
【0011】
一方で、上述の通り、特許文献1に開示される表面改質粒子の製造方法においては、
(1)無機粒子水ゾルに分散剤を分散させ、分散剤含有無機粒子水ゾルを得る工程と、
(2)前記分散剤含有無機粒子水ゾルをフリーズドライ等により乾燥し、乾燥粉末を得る乾燥工程と、
(3)前記乾燥粉末を有機溶媒に分散させ、有機溶媒ゾルを得る工程と、
(4)前記有機溶媒ゾルに表面改質剤を分散させる、表面改質剤処理工程と、
を含む。
【0012】
かようにすることで、活性な親水基を化合物により封止し、物性の改善を行うことに成功した。
【0013】
ここで、本発明者らは、さらに簡易な方法によって、透明性に代表される外観や、強度、弾性率、耐熱性に優れた無機粒子含有樹脂組成物を提供すべく、表面改質率を同等以上に保持し、簡易な工程によって表面改質粒子を製造する方法を、下記の通り鋭意検討した。
【0014】
まず、製造工程の数や時間を減少、短縮させるために考えられる手法としては、上記(1)〜(4)の工程のいずれかの工程を行わない(省略する)ということが一般的に考えられる。
【0015】
ここで、無機粒子水ゾルにおいて、無機粒子を均一に分散させるためには、「分散剤」を使用することが特に好ましく、上記(1)の工程は特に好ましい。また、完成した樹脂組成物の分子量の低下を防止するためには、活性な親水基を化合物により封止する必要があるため、上記(4)の工程も特に好ましい。すると、結局は、「分散剤」と「表面改質剤(以下、単に「改質剤」とも称することがある)」とを含有させる工程の存在が特に好ましいことになる。
【0016】
そうであるならば、上記(1)の工程において、表面改質剤を分散させる工程を含ませることで、工程を省略化することが考えられる。しかしながら、通常、水と、表面改質剤との反応性が高いため、表面改質剤を直接水に投入し、長い間表面改質反応を行わせしめることは現実的ではないと考えるのが通常である。つまり、水と、表面改質剤との反応が起こるため、大量に表面改質剤を添加しなければならないおそれがあり、工業的な観点からしても好ましくなく、また、十分に改質できないおそれもある。また、表面改質剤を最初の方の工程で投入すると、表面改質剤自体が凝集してしまうおそれもある。
【0017】
すなわち、所望の表面改質粒子を製造するためには、上記(4)の工程を、最終工程に位置させる他ならず、つまり、上記(1)工程〜上記(4)工程をこの順番にて行わねばならなかった。
【0018】
このように、より簡易な方法を模索する中で、「分散工程」や「乾燥工程」に囚われないで、それぞれ独立していた「乾燥工程」と「表面改質剤処理工程」と結合することができる方法を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0019】
すなわち、本発明は、無機粒子または無機粒子および分散剤の混合物と、表面改質剤と、を噴霧により、加熱した容器に導入し、無機粒子と、表面改質剤と、を接触させることを有する、表面改質粒子の製造方法である。
【0020】
本発明の構成要件を以下に詳説する。
【0021】
<無機粒子>
本発明の無機粒子は、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化鉄、酸化チタン、酸化銅、酸化亜鉛、酸化カルシウム、及び酸化イットリウムからなる群から選択される少なくとも1種であると好ましい。中でも、前記無機粒子が、金属酸化物粒子であると好ましく、前記金属酸化物粒子が、酸化アルミニウム粒子または酸化ケイ素粒子であるとより好ましい。また、分散剤や表面改質剤との反応起点となり、水酸基を有するものが好ましい。さらに、上記のうち、酸化ケイ素(シリカ)、酸化アルミニウム(ベーマイト等)、ヘマタイト、チタニアは、低充填量で樹脂の機械的物性を発揮しうるアスペクト比を有する異方性を持つものが多い点で好ましい。また、これらは、可視光線波長に比べて小さい粒子の製造法が広く確立しているため好ましい。この中でも樹脂攻撃性が少なく、樹脂に着色を起こすことなく、とくに高アスペクト比の粒子を入手しやすいという観点からベーマイトが好ましい。
【0022】
さらに本発明のベーマイトは下記の式で示されるものであると好ましい。
【0023】
【化1】

【0024】
具体的にはn=1〜3である。
【0025】
通常、学術的にはn=0は酸化アルミニウム、n=1がベーマイト、n=3以上が水酸化アルミニウムと呼ばれている。またn=1〜3と表記する場合はベーマイトと水酸化アルミニウムの混合物を示す。ベーマイトは製造方法にもよるが、どうしても水酸化アルミニウムの混合物を含むため、本発明のベーマイトとはn=1、2、3そして1〜3と表記されるものの全てを示している。また、n=0の酸化アルミニウム(例えば、αアルミナ、γアルミナ)でも、粒子の表面を酸処理し、表面に水酸基を作り出したり、表面一層にベーマイトを析出させれば、本発明における「ベーマイト」に含まれるものとする。
【0026】
本発明で使用する無機粒子は、異方性のあるものが好ましく、繊維状、紡錘状、棒状、針状、筒状、柱状のいずれでもよい。好ましくは、市場入手性、生産性の観点から繊維状、紡錘状、柱状である。その粒子サイズは、透明と機械的物性を兼ね備えた樹脂組成物を得るとの観点からは、好ましくは短軸長さ10nm以下であり、長軸長さは400nm以下である。アスペクト比(長軸長さ/短軸長さ)は、引っ張り、曲げ弾性率をはじめとする機械的物性の向上を考慮すると、好ましくは5以上である。短軸長さは好ましくは3nm以上、10nm以下である。この範囲にあることで粒子は容易に屈曲することなく、また粒子同士が絡みにくくなって粒子の凝集を低減できるので見かけのアスペクト比が維持されて透明と機械的物性が確保できる。なお長軸長さは樹脂組成物の透明性確保の点からは300nm以下が好ましい。
【0027】
ここで、無機粒子の短軸長さ、長軸長さ及びアスペクト比(長軸長さ/短軸長さ)は、いずれも後述の方法で測定した100個の粒子の平均値を意味する。
【0028】
図1Aに示すように、無機粒子の長軸長さは、Lとして求められる。無機粒子の短軸長さは、短軸方向の断面の長径Lおよび短径Lの平均値L=(L+L)/2として求められる。ここで、L≧Lであり、短軸方向の断面形状が円形の場合には、L=Lである。また、L≧Lであり、球状粒子の場合には、L=L(=L=L=粒子径)である。
【0029】
アスペクト比は、無機粒子の長軸長さと、短軸長さとの比(L/L)として求められる。なお、無機粒子が中空形状や海島形状の場合でも、図1Aの中実粒子と同様に、図1Bに示すようにして、無機粒子の短軸長さ、長軸長さ及びアスペクト比を求めることができる。
【0030】
また、後述する無機粒子が中空形状や海島形状の場合の中空円筒もしくは中空角柱のサイズに関しても、中空円筒もしくは中空角柱の短軸の径Lは、短軸方向の中空断面の長径Lと、短径Lとの平均値(L+L)/2として求められる。中空円筒もしくは中空角柱の長さは、Lとして求められる。中空円筒もしくは中空角柱の両端は、図1Bに示すように開口していてもよいし、いずれか一端または両端が閉じていてもよい。
【0031】
上述したアルミナ粒子等の無機粒子の製造方法は、上記結晶系、形状、サイズのものが得られれば特に限定されず、水熱合成法やゾルゲル法など一般的な方法を用いることができる。
【0032】
<分散剤>
本発明の分散剤は、有機スルホン酸類、有機リン酸類およびこれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも1種であると好ましい。また、粉末化条件によっては分散剤を必須としない。
【0033】
有機スルホン酸としては、スルホン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸などのアルキルスルホン酸;ドデシルベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、スチレンスルホン酸などのアルキルベンゼンスルホン酸;ナフタレンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸などの芳香族スルホン酸;およびこれらの低級アルコールとのエステル、アルカリ金属塩、アンモニウム塩を挙げることができる。
【0034】
有機リン酸およびその誘導体としては、トリブチルホスフェート、ジエチルホスフェート、メチルホスフェートなどのリン酸モノ/ジ/トリアルキルエステル;トリフェニルホスフェートなどのリン酸アリールエステル;ジメチルフェニルホスフォナイトなどのホスフォン酸エステル;トリブチルホスファイト、トリフェニルホスファイトなどの亜リン酸エステル;トリフェニルホスフィンオキシドなどのホスフィンオキシド;9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイドなどの環状亜リン酸エステル;メチルホスフォン酸、エチルホスフォン酸、フェニルホスフォン酸などのホスフォン酸;メチルホスフィン酸、エチルホスフィン酸、フェニルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸などのホスフィン酸;およびこれらの少なくとも1種と低級アルコールとのエステル、アルカリ金属塩、アンモニウム塩を挙げることができる。
【0035】
<表面改質剤>
本発明の表面改質剤は、シランカップリング剤(シリル化剤)またはチタンカップリング剤(チタニル化剤)であると好ましい。後述する各シランカップリング剤、チタンカップリング剤から選ばれる2種以上を組み合わせて使っても良い。
【0036】
シランカップリング剤は下記一般式で示される1〜4官能のシランカップリング剤である。
【0037】
【化2】

【0038】
式中R〜Rは、それぞれ独立してアルキル基またはアリール基を示し、X〜X10は、それぞれ独立して水素原子や加水分解性の置換基や水酸基を示す。アルキル基の炭素数、アリール基の炭素数には特に制限はない。
【0039】
〜Rの例としては、メチル基、エチル基、プロピル基などの脂肪族アルキル基;シクロヘキシル、シクロペンチルなどの脂環式アルキル基;フェニル基、ベンジル基、トリル基などのアリール基が一例として挙げられる。ここで、R〜Rは、同一であってもあるいは異なるものであってもよい。
【0040】
〜X10の例としては、水素原子、水酸基、加水分解性の置換基が挙げられる。ここで加水分解性の置換基としては、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基などの炭素数が1〜4のアルコキシ基、アセトキシ基;そして、塩素、臭素などのハロゲン原子を挙げることができる。このうちハロゲン原子は加水分解すると強酸を生成し、樹脂の分解を起こし機械物性の低下を招くおそれがあり、強酸の除去の追加処理が必要となるおそれがあるため、アルコキシ基、アセトキシ基が好ましい。また、加水分解性の置換基は、加水分解すると水酸基となった後に、無機粒子の水酸基と反応するおそれがあるため、水酸基も置換基Xである方がよい。ここで、X〜X10は、同一であってもあるいは異なるものであってもよい。より具体的な化合物名としては、トリメチルメトキシシラン、トリエチルメトキシシラン、フェニルジメチルメトキシシラン、ジフェニルメチルメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、フェニルメチルジメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、テトラエトキシシラン、トリメチルアセトキシシラン、トリエチルアセトキシシラン、フェニルジメチルアセトキシシラン、ジフェニルメチルアセトキシシランからなる群から選択される少なくとも1種が一例として挙げられる。
【0041】
チタンカップリング剤は、下記一般式で示される1〜2官能のチタンカップリング剤である。
【0042】
【化3】

【0043】
式中R〜Rは、それぞれ独立して、アルキル基またはアリール基を示し、X〜Xは、それぞれ独立して水素原子や加水分解性の置換基や水酸基を示す。アルキル基の炭素数、アリール基の炭素数には特に制限はない。
【0044】
〜Rの例としては、メチル基、エチル基、プロピル基などの脂肪族アルキル基;シクロヘキシル、シクロペンチルのような脂環式アルキル基;フェニル基、ベンジル基、トリル基といったアリール基が挙げられる。ここで、R〜Rは、同一であってもあるいは異なるものであってもよい。
【0045】
〜Xの例としては、水素原子、水酸基、加水分解性の置換基である。ここで加水分解性の置換基としては、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基などの炭素数が1〜4のアルコキシ基;アセトキシ基;そして塩素、臭素などのハロゲン原子を挙げることができる。具体例としては、味の素ファインテクノ株式会社KRTTS、KR46B、KR55、KR41B、KR138S、KR238Sなどを挙げることができる。ここで、X〜Xは、同一であってもあるいは異なるものであってもよい。
【0046】
上記表面改質剤の置換基中に窒素やチオールを有すると、ポリカーボネート樹脂と混合した際に、これらが塩基性、酸性を示し、ポリカーボネート樹脂の加水分解の触媒となり、ポリカーボネート樹脂の分子量を低下させるおそれがある。そのため、改質剤中にはこれらの元素が置換基に含有されないことが好ましい。
【0047】
以上、本発明で用いられる表面改質剤は、シランカップリング剤およびチタンカップリング剤の少なくとも一方であると好ましい。
【0048】
<導入工程>
本発明に係る表面改質粒子の製造方法は、無機粒子または無機粒子および分散剤の混合物と、表面改質剤と、を噴霧により加熱した容器に導入(以下、「同一反応場に導入」とも称する。)し、無機粒子と、表面改質剤と、を接触させる工程を有する点に特徴を有する。前記導入工程は、特に制限はないが、好ましくは、前記無機粒子または無機粒子および分散剤の混合物が、溶液形態または固体形態であり、かつ、前記表面改質剤が、溶液形態であって、噴霧により加熱した容器に導入する。
【0049】
当該噴霧の方法にも特に制限はなく公知の方法を使用できるが、後述するスプレードライ法が特に好ましい。
【0050】
(無機粒子または無機粒子および分散剤の混合物が、溶液形態)
「無機粒子または無機粒子および分散剤の混合物が、溶液形態である」とは、具体的には、前記無機粒子または無機粒子および分散剤の混合物が、溶媒に分散している形態をいう。
【0051】
無機粒子は水に分散されて市販されていることが多いため、溶媒としては、水を選択することが好ましい。無論、該溶媒は水に限定されることはない。すなわち、前記無機粒子を分散させる溶媒は、上記の通り水や、種々の有機溶媒から選択されることが好ましい。また、所望の樹脂組成物を得るためには、前記溶媒に、無機粒子が良好に分散していると好ましい。ここで、当該種々の有機溶媒にも特に制限はなく、従来公知の溶媒を適宜選択して使用できるが、例えば、メタノール、エタノール、テトラヒドロフラン等が挙げられる。
【0052】
この際、つまり、「無機粒子または無機粒子および分散剤の混合物が、溶液形態」である場合の粘度にも特に制限はないが、好ましくは20〜400mPa・s、より好ましくは20〜200mPa・sである。
【0053】
良好に分散しているという評価の基準判断としては、5.0質量%の無機粒子を溶媒に分散させ、室温23℃で1時間攪拌したのち、攪拌を止め1時間静置いたあと、沈殿が生じるかの目視の判断によって行うことができる。樹脂組成物としたときの透明性、機械的物性を考慮すると、沈殿物が生じていない方が、特によい。換言すると、沈殿物が生じていないと、(凝集の発生が見られないと)、無機粒子の表面積が増加し、表面改質剤の粒子に対する改質率が向上し、ひいては、樹脂組成物の分子量低下、物性低下を抑制/防止する効果に繋がる。
【0054】
上記のように分散性をさらに向上させるという意味で、適宜分散剤を加え、つまり、無機粒子および分散剤の混合物を溶液形態とし、分散状態が良好な無機粒子の分散溶液を作製することができる。なお、分散剤としては、溶媒と反応するものを選択することは避ける方がよい。例えば、溶媒としてのピリジンと、分散剤としてのパラトルエンスルホン酸などは中和反応を起こすおそれがあるため、このような場合、パラトルエンスルホン酸を分散剤として使用することは避けた方がよい。
【0055】
なお、上記において、分散剤の添加に際しては、一般的な回転翼を取り付けたモーター型攪拌装置で攪拌しながら投入していくことができる。回転翼の形状は特に制限されない。この際、分散剤を水や有機溶媒により希釈しておいても良い。
【0056】
添加する無機粒子や分散剤の量も、当業者であれば、本発明に係る技術的思想に基づいて、適量を適宜選択することができる。
【0057】
無機粒子が溶液形態の場合、分散させる無機粒子の量は、溶媒(100質量部)に対し、好ましくは、20質量部以下、より好ましくは15質量部以下である。
【0058】
また無機粒子および分散剤の混合物が溶液形態の場合、分散剤の量は、無機粒子(100質量部)に対し、好ましくは、500質量部以下である。
【0059】
(無機粒子または無機粒子および分散剤の混合物が、固体形態)
「無機粒子または無機粒子および分散剤の混合物が、固体形態である」とは、端的にいうと、前記無機粒子または無機粒子および分散剤の混合物が、粉末の形態であることをいう。無機粒子を固体形態にする方法としては特に制限はないが、例えば、水に分散した無機粒子をスプレードライして粉末化する方法が挙げられる。また、無機粒子および分散剤を固体形態にする方法としては特に制限はないが、例えば、水に分散した無機粒子および分散剤をスプレードライして粉末化する方法が挙げられる。この場合、無機粒子は、分散剤で被覆された粉末となる。このように、無機粒子および分散剤の混合物を用いてもよいが、無機粒子粉末(例えば、無機粒子5質量%)を有機溶媒に分散させ、室温23℃で1時間放置しても、沈殿が生じない場合は(沈殿が視認できない場合は)、分散剤を用いなくともよい。ただし、無機粒子または無機粒子および分散剤の混合物を粉末化する条件(量産性)を考慮すると、上記の通り、無機粒子または無機粒子および分散剤の混合物が、溶液形態である方が好ましい。
【0060】
固体形態の、つまり、粉末の大きさにも特に制限はないが、出来るだけ小さい方が好ましく、たとえば10μm以下が好ましい。
【0061】
無機粒子または無機粒子および分散剤の混合物が、固体形態である場合、分散剤の量は、無機粒子(100質量部)に対し、たとえば200質量部以下とできる。
【0062】
(表面改質剤が、溶液形態)
「表面改質剤が、溶液形態」とは、表面改質剤自体が一般的には、溶液形態にて存在するので、そのままの原液であってもよいし、適切な溶媒によって希釈されていても構わないことをいう。この適切な溶媒としても特に制限されないが、好ましくは、水、メタノール、エタノール、テトラヒドロフランのような一般的な溶媒が挙げられる。
【0063】
上記をもう少し分かりやすく説明する。
【0064】
前記導入工程において、(A)前記無機粒子または無機粒子および分散剤の混合物が溶液形態または固体形態であり、かつ、(B)前記表面改質剤が、溶液形態であると好ましい。
【0065】
前記導入工程における(A)と(B)との組み合わせは、以下が好ましい。
【0066】
すなわち、(A)は、(i)無機粒子が溶媒に分散したもの、(ii)無機粒子と分散剤が溶媒に分散または溶解しているもの、(iii)無機粒子粉末、(iv)分散剤で被覆された無機粒子である。一方、(B)は、(I)表面改質剤原液そのもの、または(II)改質剤を溶媒で希釈したものである。
【0067】
これらのうちで、特に好ましい組み合わせは、(A)においては、(i)または(ii)を使った場合である。それは、粒子は乾燥粉末化されながら、改質剤と化学的反応、または吸着することができ、乾燥と改質を一度に行うことができるからである。特に、(ii)の場合は、分散剤も同時に含んでいるため、乾燥中の粒子同士の癒着が弱く、次工程の樹脂と混合する際に凝集が無くなるため無機粒子の導入形態として特に好ましい。(B)においては、(II)の改質剤を溶媒で希釈したほうが好ましい。溶媒で希釈することにより、噴霧中に希釈された改質剤がより微細な液滴となり、無機粒子に均一に当るからである。
【0068】
<無機粒子と、表面改質剤と、の接触>
本発明に係る製造方法は、上記の通り、無機粒子(分散剤を含んでもよい)と、表面改質剤と、を噴霧させることにより「加熱した容器」に導入する工程を経て、無機粒子と、表面改質剤と、を接触させる工程を含む。すなわち、前記したものを噴霧により導入することにより、加熱した容器内にて、これらが接触する。
【0069】
ここで、「加熱した容器」とは、容器であって、前記容器内における反応場(無機粒子と、表面改質剤と、が接触し、改質が行われる場所)が、加熱雰囲気下にあるものを指す。「加熱した容器」としては、特に制限はないが、前記容器内において、加熱した不活性の気体(例えば、窒素、ヘリウム、アルゴン、乾燥窒素、乾燥ヘリウム、乾燥アルゴン)、または、空気(好ましくは乾燥空気)などが、常に吹き込まれ、前記容器内における気流が、上から下へ流れている装置が好ましく例示できる。
【0070】
なお、ここでいう「乾燥」とは、好ましくは23℃で相対湿度5%以下である。
かような装置としても、特に制限はないが、例えば、スプレードライ装置を好ましく例示できる。
【0071】
一方で、上記「噴霧」させることにより行われる導入の方法としても、特に制限はないが、例えば以下の方法を好ましく例示できる。
【0072】
1.無機粒子または無機粒子および分散剤の混合物と、表面改質剤と、を別々の供給部を介して行う。
【0073】
2.無機粒子または無機粒子および分散剤の混合物と、表面改質剤と、を混合した後に、1の供給部を介して行う。
【0074】
前記供給部としては、特に制限はなく、例えば、ノズル、ジェットノズル、アトマイザー(回転噴霧機)等が挙げられる。ここで、アトマイザーを使う場合、回転数としても制限はないが、好ましくは10,000〜20,000rpm、より好ましくは15,000〜20,000rpm程度に制御する。
【0075】
なお、噴霧する際、できるだけ前述の無機粒子、無機粒子分散液は細かいミスト状に噴霧することが好ましい。例えば、無機粒子を密閉されたヘンシェルミキサー等に入れ、スクリューで攪拌することで、無機粒子粉末を舞わせ、その舞わせた状態のものを、窒素ラインを用いてノズルに導入することもできる。
また、表面改質剤も、細かいミスト状、または予め加熱しておいて蒸気として導入すると好ましい。
【0076】
上述のスプレードライ装置を用いる場合、この装置内における容器の上部から、例えば、供給部としてのジェットノズルを介して、アルミナ粒子等の無機粒子(液A)を吹き込み、一方で、供給部としての別ノズルから表面改質剤(液B)を吹き込むことができる。スプレードライは、その装置の特性上、加熱された不活性気体等がノズル付近から下方に向けて流れており、噴出された無機粒子、改質剤が衝突し、無機粒子を表面改質することができる(図2参照)。一方で、反応性の低い表面改質剤を用いる場合は、噴霧直前に無機粒子と表面改質剤を混ぜ、一本のノズルから噴霧してもよい。具体的には、メトキシトリメチルシランなどのアルコキシ、アセトキシを有する1官能のシランカップリング剤は、水と鋭敏には反応しない。このような場合、配管を工夫してノズルの直前に無機粒子水分散液とメトキシシランが混合されるようにし、1本のノズルから噴霧することができる。なお、この工夫とは、例えば、噴霧前の流路にコレクタータンクを設け、2液を混合させる。また、2液混合ノズルを用いても良い。
【0077】
このようにスプレードライ装置を用いることで、無機粒子と、表面改質剤とを、同時に吹き込むことによって、表面改質粒子を一気に、製造することができる。さらには、従来のような溶液中で反応させる場合と異なり、表面改質剤が粒子に直接接触できるため、表面改質率の向上にも繋がり、ひいては、樹脂組成物の分子量維持にも繋がる。
【0078】
上記スプレードライ装置としても、特に制限はないが、例えば、サークレックスCL−8(大川原化工機製)を用いることができる。供給部としてのノズルとしては、加圧二流体ノズル(大川原化工機製ツインジェットノズル)等が挙げられる。2本の加圧二流体ノズルを用いる場合、そのノズルの取り付け方としては、通常の装置天板中央のノズルの他に、そのノズルの半径40センチ以内にもうひとつのノズルを新たに増設する方法が一例として挙げられる。噴霧の方向についても、無機粒子と表面改質剤とが接触する方法であれば、特に制限はないが、ノズルが1本の場合も2本の場合も同様に、真下に噴霧できるようにノズルの角度を調製することが好ましい。
【0079】
装置内の温度測定器は、装置の標準装備されている位置に準ずるが、大体の目安としては、ノズル13付近に上部温度測定器11を備えつけ、装置筒内傾斜部下端に、下部温度測定器12を備えつける(図3参照)。また、本明細書中に記載する温度は、サークレックスCL−8(大川原化工機製)に備え付けられている温度を示す。
【0080】
以上説明したスプレードライ装置を用いて、無機粒子および分散剤の混合物と、表面改質剤と、を別々の供給部を介して、加熱した容器に導入し、無機粒子と、表面改質剤と、を接触させるための実際の手順を、さらに具体的に説明する。無論、下記記載は、一例を挙げたに過ぎず、これに限定されない。
【0081】
(a)まず、水に分散したベーマイトに分散剤を添加しよく攪拌する;
(b)続いて、ベーマイト/分散剤/水の無機粒子分散液を作製する;
(c)一方で、表面改質剤をメタノールで希釈した改質剤溶液を準備する;
(d)これらの溶液をスプレードライ装置に導入するため、2本のノズルから別々に無機粒子分散液と改質剤溶液を噴霧する。
【0082】
噴霧量、噴霧圧力、そして装置内気流(空気または不活性気体)温度を制御することにより、前記噴霧された2つの液体(溶液)が、装置内における気流に乗り、ぶつかり合い、乾燥され、加熱されることで、表面改質粒子が製造されうる。
【0083】
それぞれのノズルから噴霧する量は、無機粒子、表面改質剤の種類によって決定されうる。なお、基本的に反応に使われなかった表面改質剤は気流に乗って回収することができるため、無機粒子に比べて多く吹き付けても構わない。しかしながら、無機粒子に比べ多すぎると、表面改質剤が自己縮合して、表面改質剤が無駄になったり、無機粒子に多量に付着しすぎて、粒子の凝集を招くおそれがあったりするため、無機粒子の固形分と同量程度の質量に留めることが好ましい。
【0084】
ただし、表面改質剤の量は、気流温度、気流の乾燥状態、表面改質剤に種類によって決められうる。ここでいう気流温度は、装置の原理、都合上、上部でのみ判断するとよい。つまり、下部の温度は装置中に昇温させることができず、すなわち、個別に制御できず、下部の温度は蒸発熱で奪われた結果何度になるかという目安でしかない。仮に、下部の温度を上昇させたい場合は溶液の噴霧量を少なくすれば、蒸発熱が小さくなり、下部も温度が上昇する。また、制御のできる上部での温度設定を上げることでも、同じ噴霧量であれば下部の温度が上昇する。上部での温度設定を高くすると、瞬時に乾燥するため、改質剤の反応性向上を望めるが、瞬時に乾燥されすぎたことによる噴霧のノズルの詰まりを招くおそれがあり、際限なく上げればいいというものでもない。一方で、低くしすぎると、乾燥、反応性の悪化を招くおそれがある。
【0085】
ここで、上記を踏まえて、前記(d)についてさらに詳説する。なお、下記に限定されることは言うまでもなく、当業者であれば、後述する実施例を適宜参照しながら、選択、設計が可能である。
【0086】
前記(d)は、「これらの溶液をスプレードライ装置に導入するため、2本のノズルから別々に無機粒子分散液と改質剤溶液を噴霧する。」である。
【0087】
また、無機粒子と表面改質剤の反応を促進させるという観点で、上記の気流の上部温度は、150℃〜250℃程度に制御することが好ましい。また、下部温度は、70℃〜120℃程度が好ましい。
【0088】
上記の通り、本発明により、抜本的な時間短縮方法を模索する中で、それぞれ独立していた「乾燥工程」と「表面改質剤処理工程」とを結合することができる製造方法を提供することができる。かようにすることにより、透明性と強度が必要とされるフロントガラスなどに用いられる樹脂組成物に供される無機粒子の表面改質率を有意に維持し、かつ、製造工程の数が減少し、表面改質粒子を製造するために所要する時間を短縮することができることとなる。
【0089】
本願に係る製造方法の利点は、これだけに留まらない。
【0090】
すなわち、一般的に、表面改質率を向上させるためには、加熱雰囲気下で表面改質を行うと特に好ましい。従来の方法(溶媒中での改質)においても、表面改質率を向上させるため、加熱雰囲気下において改質を行っていた。すると、溶媒の沸点以上の加熱雰囲気下にするためには、別途の装置(例えば、蒸留塔など)を設ける必要がある。しかしながら、本願に係る製造方法によれば、より簡易な方法で、表面改質粒子を製造することができる。
【0091】
纏めると、本発明に係る製造方法は、多くのステップや長時間の加熱工程を必要とせず、簡便な工程(方法)で、かつ、短縮された時間で、高品質な表面改質粒子を製造することができる。つまり、本発明は、量産性を実現した、表面改質粒子の製造方法を提供し、本発明に係る製造工程を経て製造された、高品質の表面改質粒子を用いて樹脂組成物を製造すれば、ひいては、量産性を実現した樹脂組成物の製造方法を提供することができる。
【0092】
下記に、本発明に係る方法により製造される表面改質粒子を樹脂に混合し、有機高分子の特徴である、透明性、柔軟性、低密度や成形性、などを保持しつつ、無機化合物の特長である高強度、高弾性率、耐熱性、電気特性などを併せ持つ樹脂組成物について詳説する。
【0093】
<樹脂組成物>
本発明の樹脂組成物は、本発明の製造方法により得られる、表面改質粒子と、樹脂と、を含む。下記にて、本発明の製造方法により得られる、表面改質粒子(以下、「本発明に係る表面改質粒子」とも称する)を、樹脂に含ませる方法について詳説する。無論、以下の方法に制限されないことはいうまでもない。
【0094】
すなわち、本発明の製造方法により得られる表面改質粒子を、樹脂を含む有機溶媒に分散させ、該有機溶媒を除去する方法が一例として挙げられる。
【0095】
無論、本発明に係る表面改質粒子を一旦有機溶媒に分散させてから、樹脂を含む有機溶媒に分散させてもよいし、本発明に係る表面改質粒子と、樹脂と、を直接樹脂に混合してもよい。本発明に係る表面改質粒子を一旦有機溶媒に分散させ、樹脂を含む有機溶媒に分散させる場合、これら有機溶媒は、同種であっても異種であっても良い。なお、本発明に係る表面改質粒子と、樹脂と、を直接樹脂に混合するよりも、有機溶媒に分散させる工程を経た方が、得られる樹脂組成物の透明性や機械的物性は優れている。本発明に係る表面改質粒子が、樹脂を含む有機溶媒に溶解しにくい場合は、本発明に係る表面改質粒子を予め有機溶媒に溶解して、両者を混合させてもよい。
【0096】
かような形態とすることにより、(特に、有機溶媒に分散させる工程を含むことにより、)透明性に代表される外観や、十分に強度、弾性率および耐熱性に優れた無機粒子含有樹脂組成物を提供することができる。さらには、本発明に係る表面改質粒子は、従来の工程よりも有意に工程数が減少した製造方法を用いて、製造されている。つまり、本発明に係る表面改質粒子を用いて樹脂組成物すれば、従来の工程よりも有意に工程数が減少し、ひいては時間も減少して樹脂組成物を製造できる。
【0097】
すなわち、本発明に係る表面改質粒子の製造方法によると、特許文献1に記載の技術における表面改質率と同等以上にし、かつ、製造に所要する時間を短縮することができる。
【0098】
(有機溶媒)
本発明に係る表面改質粒子を分散する有機溶媒は、任意のものを用いれば良く特に制限されない。
【0099】
溶媒の具体的な例としては、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンなどのケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソランなどのエーテル類;プロパノール、ブタノール、ヘキサノール、オクタノール等のアルコール類;クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、メチレンクロライド、四塩化炭素、トリフルオロメチルベンゼン、メタキシレンヘキサフロリドなどのハロゲン系溶媒;アセトニトリル、ピリジン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドンなどの非プロトン系極性溶媒;テルピネオール、テルペン油等のテルペン類;オキシム類;γ−ブチロラクトン等のラクトン類が挙げられる。中でも、環境負荷、溶解性、工業的な入手のしやすさなどの観点から、トルエン、キシレン、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、メチレンクロライドが好ましい。
【0100】
なお、前記有機溶媒は、単独で用いてもよく、2種以上の混合物の形態で用いてもよい。好ましくは、単独で用いる。
【0101】
(樹脂)
樹脂は、その化学構造の繰返し単位が、ポリオレフィンやアクリル樹脂に代表されるラジカル重合で生じた炭素−炭素結合、エステル結合、エーテル結合、アミド結合、イミド結合、ウレタン結合、スルフィド結合及びスルホン結合からなる群から選択される少なくとも1種を含む樹脂であると好ましい。
【0102】
上記樹脂としては具体的には、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、環状ポリオレフィン(COP)、ポリメチルペンテンなどのポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂(PS)、ポリカーボネート樹脂(PC)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)やポリアクリル酸メチル(PMA)などのアクリル樹脂、ポリ塩化ビニル(PVC)やポリ塩化ビニリデン(PVDC)、テフロン(登録商標)(PTFE)などのハロゲン化ビニル系樹脂、ポリ酢酸ビニル(PVAc)、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリブチレンテレフタレート(PBT)などのポリエステル樹脂、ナイロン6やナイロン66などのポリアミド樹脂、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリアリレート(PAR)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリサルホン(PSU)、ポリエーテルサルホン(PES)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、フェノキシ樹脂、ポリアセタール、ポリビニルアセタールなどが挙げられ、さらに、ABS樹脂やAS樹脂などの共重合樹脂や、PC/PSのようなポリマーアロイでもかまわない。これらの中でも、本発明の無機粒子の均一分散性を最大限活かすために、環状ポリオレフィン(COP)、スチレン・ブタジエンブロックコポリマー(P(S−b−B))などのポリスチレン樹脂(PS)、ポリカーボネート樹脂(PC)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、AS樹脂などの透明樹脂が望ましい。
【0103】
本発明に係る樹脂の重量平均分子量(Mw)は特に限定されないが、本発明においてはポリカーボネートの場合は25,000以上、好ましくは30、000〜150,000の範囲が好適であり、より好ましくは20,000〜70,000の範囲である。樹脂の数平均分子量が6,000未満であると強度などが低下し、更に得られる樹脂組成物の熱安定性が低下する場合がある。
【0104】
本発明における樹脂組成物中の無機粒子の濃度は、固形分として1〜50質量%の範囲が好ましい。機械的強度などの諸特性の向上を考慮すると、5質量%を超えることが好ましい。一方、比重の増加を考慮したり、衝撃強度を考慮したりすると、40質量%未満であることが好ましい。一般に、ポリマーに無機粒子を大量に配合すると衝撃強度が減少するが、本発明の組成物はナノオーダーの無機粒子が均一分散したものなので、40質量%程度含有されても、衝撃強度の低下は実用上とても小さいものである。しかしながら、高い衝撃強度という点を考えると、40質量%未満であることが好ましく、より好ましくは5〜35質量%である。
【0105】
本発明に係る樹脂組成物の重量平均分子量(Mw)は特に限定されないが、本発明においては25,000以上、好ましくは30,000〜100,000の範囲が好適であり、より好ましくは30,000〜80,000の範囲である。この理由は、無機粒子固形分濃度が高い場合、粘度が高くなり、樹脂組成物の成形性、無機粒子配向性が悪化し、所望の機械物性の向上した樹脂組成物を得難くなるからである。
【0106】
混合物中の有機溶媒を除去する際には、エバポレーターなどの加熱減圧留去装置や、熱風循環乾燥機、あるいはスプレードライヤーなどの加熱噴霧装置を用いて溶媒を留去すればよい。この際、留去される溶媒は、環境負荷の観点から、装置の後工程に冷却機を取り付けて冷却、回収することが望ましい。
【0107】
なお、この他に任意成分として、組成物の使用にあたっての作業性、安定性を向上させるため、必要に応じて離型剤、滑剤、可塑剤、帯電防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤等の添加剤を添加することができる。
【0108】
上述した方法により製造された本発明に係る無機粒子含有熱可塑性樹脂組成物は、樹脂単体並みの熱時成形性を維持しており、その成形に際しては、大小、曲面形状によって、溶融押出成形、射出成形、射出圧縮成形、ブロー成形によって成形品を得ることが可能である。
【0109】
本発明に係る製造方法により得られた表面改質粒子を含む樹脂組成物は、透明性、強度、剛性の向上を実現し、熱膨張率が低く、また高温時に変形・ソリ・歪みなどを抑制し得るという特性を兼ね備えている。よって、これらの機能が要求される部材に好適であり、例えば、ヒートサイクルの負荷が掛かる電子部品、光学部品、自動車内外装材、更には家電や住宅に用いられる透明部材、備品、家具にも適した材料といえる。また、薄膜フィルムやコーティング剤として用いる場合も、耐久性、耐候性、耐磨耗性を向上するため、家電、住宅設備、電気・電子部品、光学部品に適した材料といえる。
【0110】
下記に、本発明の効果を纏める。
【0111】
・本発明に係る製造方法は、多くのステップや長時間の加熱工程等を必要とせず、簡便に高品質な(透明性や強度等が向上した)表面改質粒子を製造することができる。
【0112】
・該表面改質粒子を用いて樹脂組成物を製造することは、すなわち、量産性を実現した、高品質な樹脂組成物の製造方法を提供することに繋がる。
【実施例】
【0113】
以下に実施例を挙げるが、本発明はこれに制限されるものではない。
【0114】
<粒子形状、粒子径>
透過型電子顕微鏡(TEM)にて、粒子形状を観察した。
【0115】
[観察方法1(粒子形状)]
試料を純水(2段蒸留水)にて希釈後、超音波洗浄器にて15分間かけた。その後銅メッシュ上の親水処理済カーボン被覆コロジオン膜に試料を塗布し、乾燥させ観察試料を準備した。透過型電子顕微鏡にてその試料の電子顕微鏡像を120kV、70mA、10万倍にて撮影して、観察した。
【0116】
[観察方法2(樹脂組成物中の二次凝集)]
成形後の試験片の一部を、ウルトラミクロトームを用い超薄切片を作製した。透過型電子顕微鏡にてその試料の電子顕微鏡像を200kV、10万倍にて撮影して、観察した。
【0117】
[観察方法1、2の共通の条件]
・TEM用銅メッシュ:マイクログリット150−Bメッシュ、カーボン補強済み 応研商事株式会社
・透過型電子顕徹鏡:JEOLJEM−1200EXII 日本電子株式会社
[観察方法1(粒子形状)]
透過型電子顕微鏡にて撮影した写真を市販のスキャナーで電子データとして取り込み、市販のパソコン上で長さを測るソフトを用いて粒子径を測定した。短軸径、長軸径、厚さ、一辺の長さ共にそれぞれ無作為に100個体選び、測定しその平均値とした。尚、粒子の長軸に垂直方向の断面形状に関する寸法は10万倍拡大のTEM画像中にて画像面に対して長軸が垂直の位置関係にある粒子(前処理のミクロトームにより、粒子が切断されて断面構造がわかるもの)を無作為に10個体選び、測定しその平均値とした。
【0118】
ソフト名:Scion Image for Whindows(登録商標)Scion corp.
[観察方法2(樹脂組成物中の二次凝集)]
透過型電子顕微鏡にて撮影した写真を市販のスキャナーで電子データとして取り込み、市販のパソコン上で長さを測るソフトを用いて二次凝集径を測定した。1.5μm四方の範囲内にて短軸方向に100nm以上の凝集径を持つものの有無を測定した。
【0119】
ソフト名:Scion Image for Whindows(登録商標)Scion corp.
<分析機器、評価方法>
[表面改質率の測定方法]
得られた表面改質粒子を時計皿の上に置き、真空オーブン(100℃、0.1mmHg以下)中で4時間よく乾燥させて、分析の試料とした。試料をアルカリ溶融後、酸溶融させた溶液に対しICP−AES(島津製作所製)を用いて測定し、改質剤の特徴金属と、無機粒子の特徴金属のモル比を算出した。なお、表面改質率を、単に「改質率」とも称することがある。
【0120】
[樹脂組成物中の灰分の測定方法]
樹脂組成物そのままを試料として、示差熱・熱質量同時測定装置(TG−DTA)(TG−DTA320セイコーインスツルメンツ(株)製)を用いて測定した。測定条件は、測定温度:室温〜700℃、昇温速度20℃/分とし、質量減から算出した。
【0121】
[樹脂組成物の質量平均分子量(Mw)の測定方法]
樹脂組成物の0.1質量%のクロロホルム溶液を調製し、0.45μmのフィルターでろ過し、可溶分のみをゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)(システム8000東ソー(株)製)を用いて測定した。カラムはPL GEL mixed−Dを用い、検出器はUV(254nm)である。
【0122】
[樹脂組成物の曲げ弾性率の測定方法]
樹脂組成物を溶融混練し、小型射出成型機を用いてJIS試験片を試料とした。万能試験機(5867卓上型インストロン社製)を用い、JIS K7171に準拠し測定を行った。試験速度は1.0mm/min、試験温度は23℃である。
【0123】
[アイゾット衝撃試験]
樹脂組成物を溶融混練し、射出成型機を用いてJIS試験片を試料とした。アイゾット衝撃試験機(195LFR(株)安田精機製作所製)を用い、JIS K7110に準拠し測定を行った。測定は常温(23℃)にて測定した。
【0124】
[樹脂組成物の線膨張係数の測定方法]
樹脂組成物を真空微量混練機で混練し、直径3mm、長さ10mmのストランドを試料とし、熱機械測定装置(セイコー電子工業(株)製 TMA120C)を用いて測定した。測定条件は昇温速度5℃/分、30℃〜60℃の範囲で、長さ方向の寸法変化から算出した。
【0125】
[樹脂組成物のヘーズ(曇価)、全光線透過率の測定方法]
樹脂組成物を溶融混練した後、単純に加熱プレス成型をして、厚さ1mmの試験フィルムを作製し、村上色彩技術研究所製HM−65を用いて測定した。測定方法はJIS K7105の方法に準拠する。
【0126】
(原材料・試薬)
特別に記載のないものについては、市場にて容易に入手可能なものである。
【0127】
[実施例1]
触媒化成工業(株)製「Cataloid−AS−3」 (水分散のベーマイト、ベーマイトの長軸長さ100nm、短軸長さ10nm、固形分濃度7質量%)5000gと、分散剤としてパラトルエンスルホン酸水和物70gを20Lのポリプロピレン製ペール缶に入れた。
その後、市販の機械攪拌機(トルネード アズワン製)(以下、単に「市販の機械攪拌機」と称する)を用いて30分間よく攪拌し、アルミナ/分散剤/水の無機粒子分散液を作製した。次に改質剤としてメトキシフェニルジメチルシラン(信越化学工業(株)製)をメタノールにて質量比で2倍に希釈して改質剤溶液を準備した。
【0128】
これらの溶液をスプレードライ装置に導入するため、2本のノズルから別々に無機粒子分散液と改質剤溶液を噴霧した。噴霧量、噴霧圧力、粘度について、無機粒子分散液は、それぞれ、6.0Kg/h、0.25MPa、380mPa・s;改質剤溶液は、それぞれ、1.0Kg/h、0.20MPa、5mPa・sとした。装置内気流として乾燥空気を用い、吹き込む気流を上部250℃、下部105℃となるような条件で吹き込み量を調製した。この噴霧により約300gの表面改質粒子粉末を得ることができた。
【0129】
得られた粉末100gとポリカーボネート(三菱エンジニアリングプラスチック(株)製 ノバレックス7030 重量平均分子量:65,000)溶液5質量%(溶媒テトラヒドロフラン)3800gを20Lのポリプロピレン製ペール缶に入れ、上述した機械攪拌機を用いて5分ほどよく攪拌し表面改質粒子のポリカーボネート溶液を得た。
【0130】
ポリカーボネート溶液を、エバポレーターを用いて溶媒をおおまかに除去した。次に、容器を100℃に保ちながら、真空ポンプを用いて0.1mmHg以下の減圧下で溶媒除去と乾燥を24時間行った。放熱した後に微量混練機を用いて230℃に保持し、15rpmにて5分間混練して押出し、樹脂組成物を得た。
【0131】
[実施例2]
触媒化成工業(株)製「Cataloid−AS−3」 5000gと分散剤としてドデシルベンゼンスルホン酸(東京化成製)105gを、20Lのポリプロピレン製ペール缶に入れた。その後、市販の機械攪拌機を用いて30分間よく攪拌し、アルミナ/分散剤/水の無機粒子分散液を作製した。次に改質剤としてメトキシトリメチルシラン(信越化学工業(株)製)をメタノールにて質量比で2倍に希釈して改質剤溶液を準備した。
【0132】
これらの溶液をスプレードライ装置に導入するため、2本のノズルから別々に無機粒子分散液と改質剤溶液を噴霧した。噴霧量、噴霧圧力、粘度については、無機粒子分散液は、それぞれ6.0Kg/h、0.25MPa、360mPa・s、改質剤溶液は、それぞれ1.5Kg/h、0.25MPa、10mPa・sとした。装置内気流として乾燥空気を用い、上部200℃、下部90℃となるような条件で吹き込み量を調製した。この噴霧により約300gの表面改質粒子粉末を得ることができた。
【0133】
得られた粉末100gとポリカーボネート(三菱エンジニアリングプラスチック(株)製 ノバレックス7030 重量平均分子量:65,000)溶液5質量%(溶媒ジクロロメタン)3800gを20Lのポリプロピレン製ペール缶に入れ、市販の機械攪拌機を用いて5分間よく攪拌し表面改質粒子のポリカーボネート溶液を得た。
【0134】
樹脂組成物は実施例1と同様にして作製した。
【0135】
[実施例3]
触媒化成工業(株)製「Cataloid−AS−3」 5000gを蒸留水で固形分濃度が2質量%になるように17.5Kgに調製した。次に改質剤としてメトキシフェニルジメチルシラン(信越化学工業(株)製)をメタノールにて質量比で2倍に希釈して改質剤溶液とした。これらの溶液をスプレードライ装置に導入するため、2本のノズルから別々に無機粒子分散液と改質剤溶液を噴霧した。噴霧量、噴霧圧力、粘度については、無機粒子分散液は、それぞれ8.0Kg/h、0.3MPa、100mPa・s、改質剤溶液は、それぞれ2.0Kg/h、0.25MPa、5mPa・sとした。装置内気流として乾燥空気を用い、上部150℃、下部70℃となるような条件で吹き込み量を調製した。この噴霧により約280gの表面改質粒子粉末を得ることができた。
【0136】
得られた粉末100gとポリカーボネート(三菱エンジニアリングプラスチック(株)製 ノバレックス7030 重量平均分子量:65,000)溶液5質量%(溶媒テトラヒドロフラン)3800gを20Lのポリプロピレン製ペール缶に入れ、市販の機械攪拌機を用いて5分間よく攪拌し表面改質粒子のポリカーボネート溶液を得た。
【0137】
樹脂組成物は実施例1と同様にして作製した。
【0138】
[実施例4]
触媒化成工業(株)製「Cataloid−AS−3」 5000gと分散剤としてドデシルベンゼンスルホン酸105gを20Lのポリプロピレン製ペール缶に入れた。その後、市販の機械攪拌機を用いて30分間よく攪拌し、アルミナ/分散剤/水の無機粒子分散液を作製した。次に改質剤としてメトキシトリメチルシラン(信越化学工業(株)製)をメタノールにて質量比で2倍に希釈して改質剤溶液とした。この溶液をスプレードライ噴霧直前に、先に無機粒子分散液と混合した。具体的には、先の無機粒子分散溶液100質量部に対し、メトキシメチルシラン30質量部をプラスチック容器に入れ、よく攪拌し、これを3時間以内に1本のノズルから1.9g/h、0.4MPa、350mPa・sで噴霧した。なお、シランカップリング剤は通常水と鋭敏に反応すると思われがちだが、このメトキシシランの水との反応性はとても穏やかである。よって両者を混合してしばらく反応を起こさず安定な状態で保管することができる。装置内気流としては乾燥気流を用い、上部200℃、下部90℃となるように吹き込み量を調製した。この噴霧により約300gの表面改質粒子粉末を得ることができた。
【0139】
得られた粉末100gとポリカーボネート(三菱エンジニアリングプラスチック(株)製 ノバレックス7030 重量平均分子量:65,000)溶液5質量%(溶媒テトラヒドロフラン)3800gを20Lのポリプロピレン製ペール缶に入れ、市販の機械攪拌機を用いてよく攪拌し表面改質粒子のポリカーボネート溶液を得た。
樹脂組成物は実施例1と同様にして作製した。
【0140】
[実施例5]
触媒化成工業(株)製「Cataloid−AS−3」 5000gをあらかじめスプレードライ装置を用いて330gの粉末とした。このときの条件は噴霧装置としてアトマイザーを採用し、この回転速度は25000回転、噴霧量は2.0Kg/h、装置内気流としては乾燥空気を用い、上部150℃、下部70℃となるような条件で吹き込み量を調製した。得られたベーマイトの粉末は数十ミクロンの粒子であり、液体のような流動性を有している。
【0141】
次に、アセトキシトリメチルシラン(信越化学工業(株)製)をメタノールにて質量比で2倍に希釈して改質剤溶液とした。先の粉末粒子とこの溶液をスプレードライ装置に導入するため、2本のノズルから別々に無機粒子と改質剤溶液を噴霧した。なお無機粒子は密閉されたヘンシェルミキサーに入れ、スクリューを4000回転で攪拌することで、無機粒子粉末を舞わせ、その舞わせた状態のものを、窒素ラインを用いて、スプレードライ装置における2つ目のノズル孔から導入した。
【0142】
無機粒子の噴霧量は制御せず、改質剤溶液の噴霧量、噴霧圧力、粘度を、それぞれ、4.0Kg/h、0.30MPa、5mPa・sとした。装置内気流として乾燥窒素を用い、上部250℃、下部120℃となる。噴霧により約300gの表面改質粒子粉末を得ることができた。
【0143】
得られた粉末100gとポリカーボネート(三菱エンジニアリングプラスチック(株)製 ノバレックス7030 重量平均分子量:65,000)溶液5質量%(溶媒テトラヒドロフラン)3800gを20Lのポリプロピレン製ペール缶に入れ、市販の機械攪拌機を用いてよく攪拌し表面改質粒子のポリカーボネート溶液を得た。
【0144】
樹脂組成物は実施例1と同様にして作製した。
【0145】
[実施例6]
触媒化成工業(株)製「Cataloid−AS−3」 5000gと分散剤としてドデシルベンゼンスルホン酸105gを20Lのポリプロピレン製ペール缶に入れた。その後、市販の機械攪拌機を用いて30分間よく攪拌し、アルミナ/分散剤/水の無機粒子分散液を作製した。次に、この分散液にスプレードライ装置を用いて粉末化し、320gの粉末を得た。この際の噴霧量、噴霧圧力、粘度は、それぞれ、1.4kg/h、0.26MPa、350mPa・sとし、装置内気流として乾燥空気を用い、上部150℃、下部85℃となるように装置内気流の吹き込み量を調製した。
【0146】
次にこの粉末300gとメトキシトリメチルシラン(信越化学工業(株)製)をメタノールにて質量比で3倍に希釈した改質剤溶液をポリプロピレン製ペール缶中で、常温で30分間攪拌した。
【0147】
これらの混合溶液を1本のノズルから噴霧した。この際の噴霧量、噴霧圧力、粘度は、それぞれ5.4Kg/h、0.30MPa、350mPa・sとし、装置内気流として乾燥空気を用い、上部200℃、下部90℃となるように吹き込み量を調製した。噴霧により約240gの表面改質粒子粉末を得ることができた。
【0148】
得られた粉末100gとポリカーボネート(三菱エンジニアリングプラスチック(株)製 ノバレックス7030 重量平均分子量:65,000)溶液5質量%(溶媒テトラヒドロフラン)3800gを20Lのポリプロピレン製ペール缶に入れ、市販の機械攪拌機を用いてよく攪拌し表面改質粒子のポリカーボネート溶液を得た。
【0149】
樹脂組成物は実施例1と同様にして作製した。
【0150】
[比較例1]
触媒化成工業(株)製「Cataloid−AS−3」(水分散のベーマイト、ベーマイトの長軸長さ100nm、短軸長さ10nm、固形分濃度7質量%)5000gと、分散剤としてドデシルベンゼンスルホン酸105gを20Lのポリプロピレン製ペール缶に入れた。その後、市販の機械攪拌機を用いてよく攪拌し、アルミナ/分散剤/水の無機粒子分散液を作製した。この分散液を、フリーズドライ装置を用いて粉末化し、360gの粉末を得た。
【0151】
粉末化には25時間を必要とした。次に、得られた粉末300gをTHF(テトラヒドロフラン)5700gと共に20Lのポリプロピレン製ペール缶に入れ、市販の機械攪拌機を用いてよく攪拌し無機粒子のアルミナが5質量%のTHF(テトラヒドロフラン)分散液を6000g得た。さらにこの溶液を6000gと、表面改質剤としてメトキシフェニルジメチルシラン600gを、反応槽(ステンレス性の蒸留装置を有している一般的装置)に入れ、4時間還流し、粒子表面を改質した。溶液を十分に冷やした後、2000g取り出して、テトラヒドロフランの5質量%ポリカーボネート(三菱エンジニアリングプラスチック(株)製 ノバレックス7030 重量平均分子量:65,000)溶液を3800gと混ぜ、10分程攪拌し、表面改質粒子のポリカーボネート溶液を得た。
【0152】
ポリカーボネート溶液を、エバポレーターを用いて溶媒をおおまかに除去した。次に、容器を100℃に保ちながら、真空ポンプを用いて0.1mmHg以下の減圧下で溶媒除去と乾燥を24時間行った。放熱した後に微量混練機を用いて230℃に保持し、15rpmにて5分間混練して押出し、樹脂組成物を得た。
【0153】
フリーズドライ、表面処理を行ったことで多量の時間を消費した。
【0154】
[比較例2]
触媒化成工業(株)製「Cataloid−AS−3」 5000gと分散剤としてパラトルエンスルホン酸70gとシクロヘキサノン5000gを20Lのポリプロピレン製ペール缶に入れた。その後、市販の機械攪拌機を用いてよく攪拌し、アルミナ/分散剤/シクロヘキサノンの無機粒子分散液を作製した。次に、エバポレーターを用いて、水をシクロヘキサノンと共沸させながら水を2質量%以下になるように、シクロヘキサノンを継ぎ足しながら除去し(おおよそ15Kg必要とした)、アルミナ/分散剤/シクロヘキサノンのアルミナ5質量%の溶液を7000g得た。さらにこの溶液の全量と表面改質剤としてメトキシトリメチルシラン700gを反応槽へ入れ4時間還流し、粒子表面を改質した。溶液を十分に冷やした後、2000g取り出して、テトラヒドロフランの5質量%ポリカーボネート(三菱エンジニアリングプラスチック(株)製 ノバレックス7030 重量平均分子量:65,000)溶液を3800gと混ぜ、10分程攪拌し、表面改質粒子のポリカーボネート溶液を得た。
【0155】
樹脂組成物は比較例1と同様にして作製した。
【0156】
沸点差を用いた溶媒交換、表面処理により多量の時間を消費した。
【0157】
[比較例3]
触媒化成工業(株)製「Cataloid−AS−3」 (水分散のベーマイト、ベーマイトの長軸長さ100nm、短軸長さ10nm、固形分濃度7質量%)20Kgを予めスプレードライ装置を用いて粉末化した。この粉末1Kgとポリカーボネート(三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製ノバレックス7030)とを真空脱気のベントを2つ備えた2軸混練機(神戸製鋼所製)を用いて樹脂温度250℃で混練し、ペレタイズまで行った。配合比はアルミナ濃度が30質量%になるように添加した。
【0158】
得られた樹脂組成物の作製時間は短縮されているが、粒子表面を改質することができず、物性は低下し、混練機では粒子を分散させることができず透明性も得られなかった。
【0159】
表面改質粒子を作製するに要した時間と、各実施例、比較例によって作製された樹脂組成物の評価結果を以下の表に纏める。
【0160】
【表1】

【0161】
【表2】

【0162】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0163】
【図1】本発明の金属酸化物粒子の短軸径(長さ)及び短軸径(長さ)の取り方を模式的に表した概略図である。このうち、図1Aは、異方性を示す中実粒子の短軸径(長さ)及び短軸径(長さ)の取り方を模式的に表した概略図である。図1Bは、異方性を示す中空粒子の短軸径(長さ)及び短軸径(長さ)、中空円筒もしくは中空角柱の長さ及び短軸の径の取り方を模式的に表した概略図である。
【図2】噴出された無機粒子、改質剤が衝突し、無機粒子を表面改質する状況を模式的に表した概略図である。
【図3】本発明に用いられうるスプレードライ装置の備えられている温度計の位置を概略的に示す図である。
【符号の説明】
【0164】
L1 無機粒子の長軸径(長さ)、
L2 無機粒子の短軸径(長さ)、
L3 無機粒子の中空円筒もしくは中空角柱の長さ、
L4 無機粒子の中空円筒もしくは中空角柱の短軸の径、
La 無機粒子の短軸方向の断面の長径、
Lb 無機粒子の短軸方向の断面の短径、
La 無機粒子の中空円筒もしくは中空角柱の短軸方向の中空断面の長径、
Lb 無機粒子の中空円筒もしくは中空角柱の短軸方向の中空断面の短径、
11 上部温度測定器、
12 下部温度測定器、
13 ノズル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機粒子または無機粒子および分散剤の混合物と、表面改質剤と、を噴霧により、加熱した容器に導入し、
無機粒子と、表面改質剤と、を接触させることを有する、表面改質粒子の製造方法。
【請求項2】
前記導入工程において、
前記無機粒子または無機粒子および分散剤の混合物が、溶液形態または固体形態であり、かつ、
前記表面改質剤が、溶液形態である、請求項1に記載の表面改質粒子の製造方法。
【請求項3】
前記噴霧が、
無機粒子または無機粒子および分散剤の混合物と、表面改質剤と、を別々の供給部を介して行われる、または、
無機粒子または無機粒子および分散剤の混合物と、表面改質剤と、を混合した後に、1の供給部を介して行われる、請求項1または2に記載の表面改質粒子の製造方法。
【請求項4】
前記無機粒子が、金属酸化物粒子である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の表面改質粒子の製造方法。
【請求項5】
前記金属酸化物粒子が、酸化アルミニウム粒子または酸化ケイ素粒子である、請求項4に記載の表面改質粒子の製造方法。
【請求項6】
前記酸化アルミニウム粒子は、アスペクト比(長軸長さ/短軸長さ)が5以上である、ベーマイト粒子またはγアルミナ粒子である、請求項5に記載の表面改質粒子の製造方法。
【請求項7】
前記表面改質剤が、シランカップリング剤およびチタンカップリング剤の少なくとも一方である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の表面改質粒子の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の製造方法により得られる、表面改質粒子。
【請求項9】
請求項8に記載の表面改質粒子と、樹脂と、を含む、樹脂組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−227510(P2009−227510A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−73933(P2008−73933)
【出願日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】