説明

表面活性化方法および表面活性化装置

【課題】被接合物の接合面の表面活性化処理を効率よく行うことで該被接合物どうしの接合強度の向上を図ることのできる技術を提供する。
【解決手段】プラズマ処理前半において、酸素プラズマによって被接合物308の接合面を表面活性化処理した後、プラズマ処理後半において、酸素ラジカルを照射することで、被接合物308の接合面は、主にプラズマ中のラジカルと反応して、効率よく均一に表面活性化(親水化)処理される。さらに、続いて、効率よく均一に親水化処理された接合面に窒素ラジカルを照射することで、親水化処理された接合面に生成されたOH基が窒素置換されてON基に置換され、この状態で、被接合物どうしを重ね合わせることによって接合界面に窒素化合物(Si、O、Nの化合物)が形成され、常温〜100℃以下の低温でも被接合物どうしを強固に接合することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被接合物どうしを接合するために、該被接合物の接合面をプラズマで表面活性化する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、シリコン基板の接合面どうしを張り合わせるために、該接合面を酸素プラズマで親水化処理(表面活性化処理)する技術が知られている。例えば、特許文献1に記載の技術では、高周波電源によるプラズマ発生装置を用いて酸素を含んだ雰囲気下で発生させた酸素プラズマによって、サブオキサイドを有する酸化層がシリコン基板の研磨面に形成される。このサブオキサイドを有する酸化層では接合界面において有効に働くシリコンの未結合手が多く形成され、このように親水化処理された接合面どうしが直接密着され、加熱処理されて2枚のシリコン基板が相互に接合される。
【0003】
【特許文献1】特開平5−82404号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記した従来技術では、シリコン基板が設置された電極に電圧印加して酸素プラズマを発生させているため、次のような問題が生じることがあった。すなわち、酸素イオンが該電極(シリコン基板)の方向へ加速してシリコン基板に衝突するため、酸素イオンによるエッチング力が強すぎてシリコン基板の接合面に破損が生じてしまい、該接合面の活性化処理(親水化処理)が上手く行われないことがあった。そのため、シリコン基板どうしの接合強度が低下してしまう。また、加速した酸素イオンが、シリコン基板が設置されている電極をエッチングしてしまうこともあった。このようにエッチングされた電極の埃がシリコン基板の接合面に付着してしまうと、該シリコン基板どうしの接合強度が低下してしまう。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、被接合物の接合面の表面活性化処理を効率よく行うことで該被接合物どうしの接合強度の向上を図ることのできる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、上記目的を達成するため、被接合物の接合面をプラズマで表面活性化処理する表面活性化方法において、前記接合面に酸素プラズマを照射した後、酸素ラジカルを照射して該接合面を親水化処理し、その後、窒素ラジカルに切り換えて、前記接合面に窒素ラジカルを照射することを特徴としている(請求項1)。
【0007】
また、この発明にかかる表面活性化装置は、プラズマ電極と、電源とを有し、被接合物の接合面をプラズマで表面活性化処理するプラズマ処理手段を備えた表面活性化装置において、前記プラズマ処理手段は、前記接合面に酸素プラズマを照射した後、酸素ラジカルを照射して該接合面を親水化処理し、その後、窒素ラジカルに切り換えて、前記接合面に窒素ラジカルを照射することを特徴としている(請求項3)。
【0008】
このように構成された発明では、プラズマ処理前半において、酸素プラズマによって被接合物の接合面を表面活性化処理している。そのため、比較的、強い衝突力で被接合物表面の接合面に衝突するプラズマ中のイオンと、電気的に中性なラジカルとによって該接合面が表面活性化処理される。続いて、プラズマ処理後半において、酸素ラジカルを被接合物の接合面に照射することによって、被接合物の接合面に衝突するイオンの衝突力を弱めるとともに、衝突するイオンの数を減少させることができる。その結果、被接合物の接合面は、主にプラズマ中のラジカルと反応して表面活性化(親水化)処理される。このラジカルは、電気的に中性であるので電極への電圧印加により発生する電界によって加速されないため、被接合物の接合面を破損させることなく、該接合面を均一に親水化処理して該接合面の表面全体にOH基を生成することができる。
【0009】
さらに、続いて、効率よく均一に親水化処理された接合面に窒素ラジカルを照射することで、親水化処理された接合面に生成されたOH基が窒素置換されてON基に置換される。この状態で、被接合物どうしを重ね合わせることによって接合界面に窒素化合物(Si、O、Nの化合物)が形成され、常温〜100℃以下の低温でも被接合物どうしを強固に接合することができる。このように、接合面の表面活性化処理を効率よく行うことができ、被接合物どうしの接合強度の向上を図ることができる。
【0010】
ところで、本発明において、プラズマによる「表面活性化処理」とは、プラズマ中の活性なラジカルやイオンによって被接合物の接合面の表面層を化学反応処理し、被接合物の接合面を活性化状態にして被接合物どうしが接合しやすくする処理を示している。本願発明者らによる種々の実験の結果、酸素プラズマを照射した後、酸素ラジカルを照射することで接合面の親水化処理が均一に行われることを見出した。このように均一に親水化処理された接合面に窒素ラジカルを照射することで、被接合物の接合面のOH基が効率良く窒素置換され接合界面に窒素酸化物が形成され、被接合物どうしを強固に接合することができる。
【0011】
例えば、被接合物がSiのような金属、またはガラス、SiO、セラミック系を含む酸化物である場合には、反応ガスとして酸素ガスを選択することで、まず、プラズマ処理前半において、酸素プラズマ中の酸素イオンが接合面に比較的強い衝突力で衝突するため、該接合面の表面層が酸素イオンと入れ替わってOH基が付着しやすい状態となる。この状態で、プラズマ処理後半において、酸素ラジカルを照射することによって、増大させた酸素ラジカルによって接合面の表面活性化処理が促進され接合面へのOH基の付着が効率よく増進されるので、接合面に均一にOH基を付着させることができる。
【0012】
続いて、上記したように酸素ラジカルを窒素ラジカルに切り換えて窒素ラジカルを照射することによって、均一に親水化処理された被接合物の接合面全体のOH基が窒素置換され、合界面に窒素酸化物が形成され、被接合物どうしを強固に接合することができる。
【0013】
また、被接合物の接合面をプラズマで表面活性化処理する表面活性化方法において、前記接合面に酸素プラズマを照射した後、酸素ラジカルを照射して該接合面を親水化処理し、該親水化処理中または親水化処理後、HOまたはH、OH基を含むガスを混入させた後、窒素ラジカルに切り換えて、前記接合面に窒素ラジカルを照射する構成でもよい(請求項2)。
【0014】
また、プラズマ電極と、電源とを有し、被接合物の接合面をプラズマで表面活性化処理するプラズマ処理手段を備えた表面活性化装置において、前記プラズマ処理手段は、前記接合面に酸素プラズマを照射した後、酸素ラジカルを照射して該接合面を親水化処理し、該親水化処理中または親水化処理後、HOまたはH、OH基を含むガスを混入させた後、前記接合面に窒素ラジカルを照射する構成でもよい(請求項4)。
【0015】
被接合物の接合面を通常酸素プラズマおよび酸素ラジカルによって親水化処理する際、水分が不足して該接合面にOH基が十分作られない場合がある。そこで、上記した構成とすれば、被接合物の接合面に酸素プラズマを照射した後、酸素ラジカルを照射することで該接合面を親水化処理し、該親水化処理中または親水化処理後、HOまたはH、OH基を含むガス(水ガス)を混入させているので、水分の不足を補うことができ、接合面を均一に親水化処理して該接合面の表面全体にOH基を生成することができる。水ガスの供給方法としては、水ガスをそのまま供給するだけでも接合面の親水化処理は促進されるが、酸素プラズマおよび酸素ラジカルによる親水化処理中に水ガスを酸素ガスに混入するか、あるいは、酸素プラズマおよび酸素ラジカルによる親水化処理後、連続して水ガスを供給して、該水ガスを反応ガスとしてプラズマ処理することによって、水ガスが活性化し、より効果的に接合面の親水化処理を促進することができる。
【0016】
続いて、効率よく均一に親水化処理された接合面に窒素ラジカルを照射することで、親水化処理された接合面に生成されたOH基が窒素置換されることによりON基に置換される。この状態で、被接合物どうしを重ね合わせることによって接合界面に窒素化合物(Si、O、Nの化合物)が形成され、常温〜100℃以下の低温でも被接合物どうしを強固に接合することができる。このように、接合面の表面活性化処理を効率よく行うことができ、被接合物どうしの接合強度の向上を図ることができる。なお、水ガスとしてアルコール類により発生させたガスを混入することによってOH基の数を増大させて、被接合物の接合面の親水化処理を促進させることもできる。
【発明の効果】
【0017】
以上のように、請求項1および3に記載の発明によれば、酸素プラズマ処理の後に酸素ラジカルを被接合物の接合面に照射することで、該接合面を均一に親水化処理することができる。続いて、効率よく均一に親水化処理された接合面に窒素ラジカルを照射してOH基をON基に置換した被接合物どうしを重ね合わせることで、接合界面に窒素化合物(Si、O、Nの化合物)が形成され、常温〜100℃以下の低温でも被接合物どうしを強固に接合することができる。
【0018】
また、請求項2および4に記載の発明によれば、被接合物の接合面に酸素プラズマおよび酸素ラジカルを照射して該接合面を親水化処理し、該親水化処理中または親水化処理後、HOまたはH、OH基を含むガス(水ガス)を混入させることで、接合面を均一に親水化処理して該接合面の表面全体により効率よくOH基を生成することができる。続いて、効率よく均一に親水化処理された接合面に窒素ラジカルを照射してOH基をON基に置換した被接合物どうしを重ね合わせることで、接合界面に窒素化合物(Si、O、Nの化合物)が形成され、常温〜100℃以下の低温でも被接合物どうしを強固に接合することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
<第1実施形態>
図1および図2は本発明の第1実施態様における表面活性化装置の概略構成図であり、図2は図1と異なる状態での表面活性化装置の概略構成図である。また、図3はSiOやSiの窒素化合物による接合原理の説明図である。この表面活性化装置300は、図1に示すように、内部に被接合物保持電極309(本発明における「プラズマ電極」に相当)および対向面電極306本発明における「プラズマ電極」に相当)が配設された真空チャンバー303と、本発明における「電源」に相当するRFプラズマ電源301(発生電圧周波数:約13.56MHz)とを備えている。真空チャンバー303は任意のプラズマ反応ガスを供給可能に構成された反応ガス供給口314と、真空チャンバー303内のガスを真空チャンバー303外に排気可能に構成された排気口313とを備えており、反応ガス供給口314によるガス供給量と排気口313からのガス排気量を調整することによって、真空チャンバー303内を任意の真空度に調整可能に構成されている。また、切換器316は、図1に示すように、RFプラズマ電源301から供給される電圧を所定周波数である約13.56MHzのままで被接合物保持電極309に接続するとともに対向面電極306を接地してプラズマを生成する状態と、図2に示すように、RFプラズマ電源309から供給される電圧を対向面電極306に接続するとともに被接合物保持電極309を接地してプラズマを生成する状態とを切り換え自在に構成されている。このように、この実施形態では表面活性化装置300に一部の機能が本発明の「プラズマ処理手段」に相当する。なお、図2に示すように被接合物保持電極309を接地する替わりに真空チャンバー303の壁面を接地してもよい。
【0020】
続いて、この表面活性化装置300の動作について図1および図2を参照して説明する。まず、プラズマ処理前半において、図1に示すように、ウエハー(被接合物)308を被接合物保持電極309で保持した状態で、真空チャンバー303内へプラズマ反応ガスとして、酸素ガスを反応ガス供給口314から供給しつつ排気口313から真空チャンバー303内のガスを排気することによって、例えば、真空チャンバー303内の真空度を約10−2Torr程度で一定となるようにガス給排気動作の調整を行う。そして、真空チャンバー303内の真空度がほぼ一定となった後、切換器316によって、RFプラズマ電源301から供給される電圧を所定周波数である約13.56MHzのままで被接合物保持電極309に接続して電圧印加するとともに、対向面電極306を接地して酸素プラズマを発生させる。この酸素プラズマの構成粒子の1つである酸素イオン310等が、電圧印加されている被接合物保持電極309側に移動することで、被接合物保持電極309側にプラズマを構成する粒子が多く集まった領域であるシース領域312が形成される。シース領域312内には活性な酸素イオン310、酸素ラジカル311が多数集まっており、シース領域312に移動してくる酸素イオン310が被接合物保持電極309に保持されたウエハー308の表面(接合面)に向かって比較的強い衝突力で衝突することで、ウエハー308の表面層が酸素イオン310と入れ替わってOH基が付着しやすい状態となり、酸素イオン310および酸素ラジカル311によってウエハー308表面は親水化処理されてOH基で表面活性化される。
【0021】
ところが、図1に示す状態では、酸素イオン310がウエハー308に衝突する衝突力が比較的強いため、この酸素イオン310の衝突により、親水化処理されたウエハー308表面のOH基の一部が再び除去されたりすることがある。そこで、プラズマ処理後半において、図2に示すように切換器316によって、RFプラズマ電源309から供給される電圧を対向面電極306に印加する。このとき、被接合物保持電極309を接地した状態に切り換えて酸素プラズマを生成する。このようにすると、酸素プラズマ中の酸素イオン310は、対向面電極306側に加速されて移動し、対向面電極306側にシース領域312を形成する。その結果、ウエハー308の表面に衝突する酸素イオン310の衝突力を弱めるとともに、衝突するイオンの数を減少させることができるとともに、対向面電極306への印加電圧の周波数をプラズマ処理前半より高めたことにより、プラズマ処理前半よりもその数を増大させた酸素プラズマ中の酸素ラジカル311がウエハー308表面と反応して親水化処理される。この酸素ラジカル311は、電気的に中性であるので電極への電圧印加により発生する電界によって加速されないため、ウエハー308の表面を破損させることなく、ウエハー308表面の親水化処理が促進されOH基の付着が効率よく増進されるので、ウエハー308表面に均一にOH基を付着させることができる。
【0022】
続いて、切換器316によってRFプラズマ電源309から供給される電圧を対向面電極306に印加した状態のままで、反応ガスを酸素ガスから窒素ガスへと切り換えることによって、窒素プラズマ中の窒素ラジカルがウエハー308の表面と反応して、効率よく均一に親水化処理された被接合物の接合面のOH基が窒素置換されて、接合面にON基を生成することができる。その結果、該被接合物どうしを重ね合わせることで、接合界面に窒素化合物(N)が生成され、被接合物どうしを強固に常温接合することが可能となる。
【0023】
このように、親水化処理後にOH基を窒素置換することによって、例えば、Siのような金属、またはガラス、SiO、セラミック系を含む酸化物からなるウエハー308が接合される原理を図3に示す。図3(a)に示すように、酸素プラズマおよび酸素ラジカルによる親水化処理によりSi表面にOH基を付着させる。次に、同図(b)に示すように、OH基を窒素ラジカルによって窒素置換した後、両被接合物を接触させることで、同図(c)に示すように、接合界面に窒素化合物(N)が形成されて常温でも強固な結合を得る。
【0024】
以上のように、この実施形態によれば、プラズマ処理前半において、酸素プラズマによって被接合物の接合面を表面活性化処理している。そのため、比較的、強い衝突力で被接合物表面の接合面に衝突するプラズマ中のイオンと、電気的に中性なラジカルとによって該接合面が表面活性化処理される。続いて、プラズマ処理後半において、酸素ラジカルを被接合物の接合面に照射することによって、被接合物の接合面に衝突するイオンの衝突力を弱めるとともに、衝突するイオンの数を減少させることができる。その結果、被接合物の接合面は、主にプラズマ中のラジカルと反応して表面活性化(親水化)処理される。このラジカルは、電気的に中性であるので電極への電圧印加により発生する電界によって加速されないため、被接合物の接合面を破損させることなく、該接合面を均一に親水化処理して該接合面の表面全体にOH基を生成することができる。
【0025】
さらに、続いて、効率よく均一に親水化処理された接合面に窒素ラジカルを照射することで、親水化処理された接合面に生成されたOH基が窒素置換されてON基に置換される。この状態で、被接合物どうしを重ね合わせることによって接合界面に窒素化合物(Si、O、Nの化合物)が形成され、常温〜100℃以下の低温でも被接合物どうしを強固に接合することができる。このように、接合面の表面活性化処理を効率よく行うことができ、被接合物どうしの接合強度の向上を図ることができる。
【0026】
また、ウエハー308表面へのOH基の吸着が酸素プラズマによるプラズマ処理で十分でない場合は、酸素プラズマおよび酸素ラジカルによる親水化処理中または親水化処理後、HOまたはH、OH基を含んだガス、あるいは大気をそのまま供給することで、ウエハー308表面へのOH基の吸着効率を向上させることができる。
【0027】
また、この実施形態におけるウエハー308の材料としてはSiやSiO、ガラス、セラミック等の酸化物が考えられる。また、被接合物の形状としては、ウエハーまたは該ウエハーをダイシングしたウエハーチップ等でも、上記したように表面活性化処理することによって、効率よく強固に接合することができる。
【0028】
また、この実施形態では、切換器316を備えることにより、1つのRFプラズマ電源301のみでプラズマ処理前半とプラズマ処理後半において被接合物保持電極309および対向面電極306に切り換えて電圧印加することができる。したがって、所定周波数で電圧印加することのできるRFプラズマ電源を1つ使用するのみで、被接合物保持電極309と対向面電極306との間で電圧印加の切り換えが可能となるため、装置のコストダウン化を図ることができる。また、マイクロウエーブにより生成したプラズマによる表面活性化装置と比べると、マイクロウエーブを発生させるマイクロウエーブ電源に比べ、RFプラズマ電源は非常に安価であり、装置全体のコストダウン化を図ることができる。また、マイクロウエーブ電源を使用した表面活性化装置に比べると簡易な構成でウエハー308の表面活性化処理が可能となる。なお、の実施形態では、切換器316によって、1つのRFプラズマ電源によってプラズマを発生させているが、RFプラズマ電源を2つ使用してももちろんよい。
【0029】
続いて、この実施形態における構成でウエハー(Si基板)を接合した場合の接合強度の一例を示す。なお、接合強度は、ウエハー接合後の引張強度を示す。
(実験条件)
1.プラズマ処理前半
反応ガス:酸素、出力:50W、照射時間:30秒
2.プラズマ処理後半(ラジカル照射)
反応ガス:酸素、出力:50W、照射時間:20秒
反応ガス:窒素、出力:50W、照射時間:20秒
(接合強度)
1.酸素プラズマ+窒素ラジカルを照射した場合…約20Mpa
2.酸素プラズマ+酸素ラジカル+窒素ラジカルを照射した場合…約23Mpa
3.酸素プラズマおよび酸素ラジカルによる親水化処理中に水ガスを混入した場合…約25Mpa
以上のように、プラズマ処理後半において、酸素ラジカルおよび窒素ラジカルを連続して照射することによって、酸素ラジカルを照射しない場合、つまり上記1.の結果と2.の結果とを比較して、ウエハーどうしを接合した際の接合強度を向上させることができた。さらに、酸素プラズマおよび酸素ラジカルによる親水化処理中または親水化処理後に、チャンバー内にHOまたはH、OH基を含むガス(水ガス)を混入させた場合には、水ガスを混入させなかった場合よりもウエハーどうしを接合した際の接合強度を向上させることができた。
【0030】
<第2実施形態>
続いて、本発明の第2実施態様を図4を参照して説明する。図4本発明の第2実施態様における表面活性化装置の概略構成図である。この第2実施形態が上記第1実施形態と大きく異なる点は、図4に示す表面活性化装置が、マイクロウエーブ電源とRFプラズマ電源の2つのプラズマ発生手段を用いて被接合物の表面活性化処理を行っている点である。すなわち、この表面活性化装置550では、被接合物保持電極509に被接合物としてのウエハー503を保持した状態で、プラズマ処理前半において、酸素ガスを反応ガスとして、RFプラズマ電源501により酸素プラズマを発生させてウエハー503表面に酸素プラズマを照射した後、マイクロウエーブ電源510により酸素プラズマを発生させてウエハー503の表面に酸素ラジカルを照射して親水化処理を行い、該親水化処理中または親水化処理後に、真空チャンバー506内にHOまたはH、OH基を含むガス(水ガス)を混入させる。続いて、窒素ガスを反応ガスとして、マイクロウエーブ電源510により窒素プラズマを発生させてウエハー503の表面に窒素ラジカルを照射して、親水化処理されたウエハー503表面のOH基を窒素置換するものである。
【0031】
図4に示すように、表面活性化装置550は、その内部に被接合物保持電極509、表面波プラズマ発生手段500およびイオントラップ板502が配設された真空チャンバー506と、マイクロウエーブ波電源510と、RFプラズマ電源501とを備えている。真空チャンバー506は任意のプラズマ反応ガスを供給可能に構成された反応ガス供給口507と、真空チャンバー506外に排気可能に構成された排気口508とを備えており、反応ガス供給口507によるガス供給量と排気口508からのガス排気量を調整することによって、真空チャンバー506内を任意の真空度に調整可能に構成されている。また、RFプラズマ電源501により被接合物保持電極509へ電圧印加することによって、上記第1実施形態と同様に被接合物保持電極509側にシース領域512が形成され、被接合物の接合面に対する比較的強めのイオン衝突による表面活性処理を行うことができる。また、マイクロウエーブ電源510により表面波プラズマ発生手段にマイクロ波を印加することによって図4に示す位置にシース領域511が形成される。このシース領域511に存在するイオン505はイオントラップ板502により捕獲されるが、ラジカル504は電気的に中性であるため、イオントラップ板502には捕獲されずに、イオントラップ板が有する開口を通ってダウンフローして被接合物に照射することができる。このように、この実施形態では表面活性化装置550の一部機能が本発明の「プラズマ処理手段」に相当する。
【0032】
続いて、この表面活性化装置550の動作について図4を参照しつつ説明する。被接合物となるウエハー503を被接合物保持電極509に保持した状態で、まず、反応ガス吸気口507を介して真空チャンバー内に反応ガスとして酸素ガスが供給される。このとき、反応ガス供給口507によるガス供給量と排気口508からのガス排気量を調整して、真空チャンバー506内は任意の真空度に調整されている。この状態で、RFプラズマ電源501により被接合物保持電極509に電圧印加して酸素プラズマを発生させ、シース領域512中のウエハー503の表面が親水化処理される。続いて、マイクロウエーブ電源510によりマイクロウエーブを表面波プラズマ発生手段500に印加することにより酸素プラズマを発生させる。そして、酸素プラズマのシース領域511からイオントラップ板502の開口を介してダウンフローする酸素ラジカル504をウエハー503表面へ照射することで、ウエハー503の親水化処理が促進される。そして、この親水化処理中または処理後に、反応ガス吸気口507を介して、HOまたはH、OH基を含むガス(水ガス)を真空チャンバー506に混入させることによって、ウエハー503表面の親水化処理がさらに促進される。その後、真空チャンバー506から排気口508を介して酸素ガスを排気しつつ、反応ガス供給口507を介して窒素ガスを真空チャンバー506内に供給し、真空チャンバー506内を任意の真空度で窒素ガスで充満させる。この状態で、マイクロウエーブ電源510によりマイクロウエーブを表面波プラズマ発生手段500に印加することにより窒素プラズマを発生させる。そして、窒素プラズマのシース領域511からイオントラップ板502の開口を介してダウンフローする窒素ラジカルをウエハー503表面へ照射して、親水化されているウエハー503表面のOH基を窒素置換して、該表面上にON基を形成する。この窒素ラジカルによる表面活性化処理終了後、周知の接合装置によってウエハー503どうしを重ね合わせることで、常温で、かつ強力に接合することができる。
【0033】
以上のように、この実施形態によれば、ウエハー503の表面に酸素プラズマおよび酸素ラジカルを照射して親水化処理中に、または親水化処理後に、HOまたはH、OH基を含むガス(水ガス)を混入させているので、水分や水素(H)の不足を補うことができるため、ウエハー503表面を均一に親水化処理して、ウエハー503表面全体に均一にOH基を生成することができる。続いて、効率よく均一に親水化処理されたウエハー503表面に窒素ラジカルを照射することで、親水化処理されたウエハー503表面に生成されたOH基が窒素置換されることによりON基に置換される。この状態で、ウエハー503どうしを重ね合わせることによって接合界面に窒素化合物(Si、O、Nの化合物)が形成され、常温〜100℃以下の低温でもウエハー503どうしを強固に接合することができる。このように、接合面の表面活性化処理を効率よく行うことができ、ウエハー503どうしの接合強度の向上を図ることができる。
【0034】
なお、水ガスの供給方法としては、水ガスをそのまま供給するだけでも接合面の親水化処理は促進されるが、酸素プラズマによる親水化処理中に水ガスを酸素ガスに混入するか、あるいは、酸素プラズマによる親水化処理後、連続して水ガスを供給して、該水ガスを反応ガスとしてプラズマ処理することによって、水ガスが活性化し、より効果的に接合面の親水化処理を促進することができる。また、水ガスとしてアルコール類により発生させたガスを混入することによってOH基の数を増大させて、被接合物の接合面の親水化処理を促進させることもできる。
【0035】
また、この実施形態におけるウエハー503の材料としてはSiやSiO、ガラス、セラミック等の酸化物が考えられる。また、被接合物の形状としては、ウエハーまたは該ウエハーをダイシングしたウエハーチップ等でも、上記したように表面活性化処理することによって、効率よく強固に接合することができた。
【0036】
続いて、この実施形態における構成でウエハー(Si基板)を接合した場合の接合強度の一例を示す。
(実験条件)
1.プラズマ処理前半
反応ガス:酸素、出力:50W、照射時間:30秒
2.プラズマ処理後半(ラジカル照射)
反応ガス:酸素、照射時間:20秒
反応ガス:窒素、照射時間:20秒
(接合強度)
1.酸素プラズマ+窒素ラジカルを照射した場合…約25Mpa
2.酸素プラズマ+酸素ラジカル+窒素ラジカルを照射した場合…約28Mpa
3.酸素プラズマおよび酸素ラジカルによる親水化処理中に水ガスを混入した場合…約30Mpa
以上のように、上記第1実施形態と同様に、ウエハーどうしを接合した際の接合強度を向上させることができた。なお、本実施形態における接合強度が上記第1実施形態における接合強度よりも向上しているのは、本実施形態の構成の方が、第1実施形態の構成よりも、より多くのラジカルが被接合物に照射されているからと考えられる。
【0037】
なお、本発明は上記した各実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば、酸素プラズマ、酸素ラジカル、窒素ラジカルの照射方法については上記した構成に限定されず、採算性、コスト、必要な接合強度等、様々な要因に応じて変更することができる。
【0038】
また、ウエハーの材料としては上記したものに限定されず、例えば、イオン酸リチウムや酸化物単結晶(LT)等の酸化物、Si表面に酸化しやすい金属、たとえばAl薄膜を付着させたものでもよい。すなわち、酸素プラズマ(酸素ラジカル)によりOH基を付着させるためには、ウエハーは酸素と結合できる酸化物系のものである必要があり、ウエハー(被接合物)の材料としては、これらのようにOH基と結合できるものであれば構わない。特に、Si表面に酸化しやすい金属であるAl薄膜を付着させることにより、酸素と結合しやすくなるので、より効率よく親水化処理が行われるため接合しやすくなる。このように、酸素プラズマおよび酸素ラジカルによって親水化処理することができるウエハーを被接合物として、これらの被接合物どうしを上記した装置によって親水化処理して窒素置換し、重ね合わせることで常温〜100℃以下の低温で強固に接合することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の第1実施態様における表面活性化装置の概略構成図である。
【図2】本発明の第1実施態様における表面活性化装置の概略構成図である。
【図3】SiOやSiの窒素化合物による接合原理の説明図である。
【図4】本発明の第2実施態様における表面活性化装置の概略構成図である。
【符号の説明】
【0040】
308,503…ウエハー(被接合物)
300,550…表面活性化装置
308…被接合物保持電極(プラズマ電極)
306…対向面電極(プラズマ電極)
316…切換器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被接合物の接合面をプラズマで表面活性化処理する表面活性化方法において、
前記接合面に酸素プラズマを照射した後、酸素ラジカルを照射して該接合面を親水化処理し、その後、窒素ラジカルに切り換えて、前記接合面に窒素ラジカルを照射することを特徴とする表面活性化方法。
【請求項2】
被接合物の接合面をプラズマで表面活性化処理する表面活性化方法において、
前記接合面に酸素プラズマを照射した後、酸素ラジカルを照射して該接合面を親水化処理し、該親水化処理中または親水化処理後、HOまたはH、OH基を含むガスを混入させた後、窒素ラジカルに切り換えて、前記接合面に窒素ラジカルを照射することを特徴とする表面活性化方法。
【請求項3】
プラズマ電極と、電源とを有し、被接合物の接合面をプラズマで表面活性化処理するプラズマ処理手段を備えた表面活性化装置において、
前記プラズマ処理手段は、
前記接合面に酸素プラズマを照射した後、酸素ラジカルを照射して該接合面を親水化処理し、その後、窒素ラジカルに切り換えて、前記接合面に窒素ラジカルを照射することを特徴とする表面活性化装置。
【請求項4】
プラズマ電極と、電源とを有し、被接合物の接合面をプラズマで表面活性化処理するプラズマ処理手段を備えた表面活性化装置において、
前記プラズマ処理手段は、
前記接合面に酸素プラズマを照射した後、酸素ラジカルを照射して該接合面を親水化処理し、該親水化処理中または親水化処理後、HOまたはH、OH基を含むガスを混入させた後、前記接合面に窒素ラジカルを照射することを特徴とする表面活性化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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