説明

表面積測定方法および表面積測定装置、並びにメッキ方法

【課題】 主として電気化学反応を利用した表面処理を行う被処理物を測定対象とし、その被測定物の表面積を正確に測定することを一の課題とする。
また、電気化学反応を利用して被処理物のメッキを行うに際し、被処理物の表面に均一なメッキ層を形成することを他の課題とする。
【解決手段】 電解質溶液に被測定物および電極を浸漬し、該電解質溶液中で被測定物と電極とに電圧を印加し、その際の通電状態から被測定物の表面積を測定する表面積測定方法において、被測定物の周囲2箇所以上に前記電極を配置し、さらに該電極と被測定物との間で電解質溶液の流通を抑制した状態で通電することを特徴とする表面積測定方法を提供による。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として電気化学反応を利用した表面処理の前工程において被測定物の表面積を測定する方法およびその装置、並びに電気化学反応を利用した被処理物のメッキ方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メッキ、アルマイト、電解研磨など電気化学反応を利用した表面処理は、被処理物の表面における電流密度(A/dm2)を制御しながら行う必要があるが、直接これを測定することはできないため、該電流密度(A/dm2)に被処理物の表面積(dm2)を掛けた総電流(A)を測定することによって行っている。
従って、このような表面処理において被処理物の表面積を正確に把握することは、表面処理の精度および品質を向上させる上で極めて重要な課題である。
【0003】
従来、被処理物(表面積測定においては、被測定物ともいう)の表面積を測定する方法としては、センサーやCCDカメラを用いて立体形状を計測してコンピューターで解析する方法や、或いはCAD図面のデータを利用してコンピューターで解析する方法などが提案されている。
しかしながら、斯かる方法ではセンサーやCCDカメラ、コンピューターといった高価な機器が多数必要となる上、さらに高度な測定技術や数学的知識などが要求されるため、メッキ処理等を行う作業現場には必ずしも適していない。
また、近年の多品種少量生産の要請によって同一形状の被処理物の処理数量が減る傾向にあるため、一個の被処理物について手間のかかる該測定方法では採算性が悪化することとなる。
【0004】
こうした事情から、形状の複雑な被処理物を処理する際には作業員が大雑把に表面積を推定し、メッキ処理の際に発生する気泡を目視により判断することによって電流の調整を行うことも多い。しかし、斯かる方法には高度な熟練を要する上、製品のメッキ層は極めてバラツキの大きなものとなる。
【0005】
このような問題を解決すべく、特許文献1に開示されているように、電解溶液中に浸漬した被処理物の表面積を電気化学的に測定する方法が提案されている。即ち、該方法は、面積が既知で互いに異なる面積を有する複数個の金属試験片を電解質溶液に浸漬し、所定の電解条件において一定の電圧を与え、その際の電流を測定することによって電流値と試験片面積との関係式を求めた後、面積未知の被測定物に対して同じ電解条件で同一の電圧を与えた際の電流値を前記関係式へあてはめることによって被測定物の面積を求めるものである。
【0006】
【特許文献1】特開昭56−160608号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、該特許文献1のような圧延平銅版を被測定物とした場合には比較的正確な測定結果が得られやすいが、複雑な立体形状の被測定物については必ずしも正確な測定結果を得ることが出来ない。これは、被測定物と電極との距離が異なれば電解質溶液の抵抗値も異なることとなるため、表面の電流密度が一定とならないからである。
【0008】
尚、本発明者は、電極と被測定物との距離による影響を相殺すべく、図11(a)に示すような被測定物52の両側に電極51を配置する方法や、図11(b)に示すような被測定物52の周囲全体を電極51で囲むような方法についても検討した。しかしながら、いずれの場合にも被測定物の位置が中央からずれるに従って抵抗値が非直線的に大きく上昇することが確認された。
従って、複雑な立体形状の被処理物の場合には、被測定物の各部位と電極との距離が一定でないために表面積を正確に測定することはできない。即ち、斯かる装置を使用した場合であっても、基準として使用される試験平板と同程度の厚みの薄板、若しくは電極との距離に影響を与えないような厚みの薄板のみしか正確に測定することができないという問題がある。
【0009】
また、このような問題は、被測定物の表面において電流密度が均一にならないことが要因であるため、電気分解反応を利用したメッキ方法においても同様の現象が生じ、被処理物の表面に均一なメッキ層が形成されないという問題がある。
【0010】
そこで本発明は、このよう問題に鑑み、主として電気化学反応を利用した表面処理を行う被処理物を測定対象とし、その被測定物の表面積を正確に測定することを一の課題とする。
また、電気化学反応を利用して被処理物のメッキを行うに際し、被処理物の表面に均一なメッキ層を形成することを他の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題を解決すべくなされたものであり、電解質溶液に被測定物および電極を浸漬し、該電解質溶液中で被測定物と電極とに電圧を印加し、その際の通電状態から被測定物の表面積を測定する表面積測定方法であって、被測定物の周囲2箇所以上に於いて水槽の液深方向に2つ以上の電極を配置し、さらに該電極と被測定物との間で電解質溶液の流通を抑制した状態で電圧を印加することを特徴とする表面積測定方法を提供する。
【0012】
好ましくは、液深方向に配置された電極の電圧を別々に調整する。
さらに、好ましくは被測定物の下方に補助電極を配置し、前記電極と該補助電極の電圧を別々に調整する。
【0013】
また、好ましくは、被測定物の浸漬される領域内に於ける電流分布が±5%の範囲内となるように前記電解質溶液の流通を抑制する。尚、本発明における電流分布とは、被測定物が浸漬される領域内に平板電極を設置し、該平板電極と周囲に配置された電極との間に一定電圧を印加した際に流れる電流値であって、該領域内におけるバラツキを測定したものいう。また、±5%の範囲内とは、測定された電流値の最大値と最小値との差を、平板電極を水槽の中心に設置した場合に測定される電流値で除した場合のパーセントをいうものとする。
【0014】
また、本発明は、電解質溶液に浸漬された被測定物と電極とに電圧を印加することにより、その際の通電状態から被測定物の表面積を測定するために用いる表面積測定装置であって、電解質溶液を収容するための水槽と、該水槽内の周囲2箇所以上に於いて液深方向に2つ以上配置された電極と、該電極と被測定物との間で電解質溶液の流通を抑制する流通抑制手段が備えられていることを特徴とする表面積測定装置を提供する。
【0015】
好ましくは、水槽の液深方向に2つ以上配置された前記電極は、別々に電圧を調整し得るように構成されたものとする。また、好ましくは、水槽の底面に補助電極が備えられ、前記電極と該補助電極とは別々に電圧を調整し得るように構成されたものとする。
【0016】
また、好ましくは、被測定物の浸漬される領域内に於ける電流分布が±5%の範囲内となるように前記流通抑制手段が設けられる。
【0017】
さらに、本発明は、電解質溶液に被処理物および電極を浸漬し、該電解質溶液中で被処理物と電極とに電圧を印加し、電解質溶液中の金属イオンを被処理物の表面に析出させるメッキ方法であって、被処理物の周囲2箇所以上に於いて水槽の液深方向に2つ以上の電極を配置し、さらに該電極と被測定物との間で電解質溶液の流通を抑制した状態で行うことを特徴とするメッキ方法を提供する。
【0018】
好ましくは、液深方向に配置された電極の電圧を別々に調整する。また、好ましくは、更に被処理物の下方に補助電極を配置し、前記電極と該補助電極の電圧を別々に調整する。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る表面積測定方法および表面積測定装置によれば、被処理物の表面積を正確に測定することが可能となる。
また、本発明のメッキ方法によれば、被処理物の表面に均一なメッキ層を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明に係る表面積測定装置の一実施形態について図面を参照しつつ説明し、さらに該装置を用いた表面積測定方法の一態様について説明する。
【0021】
図1は、本発明に係る表面積測定装置の一実施形態を示した斜視図であり、図2は、該表面積測定装置の平面図、図3は図2のA−A線断面図である。
図1乃至図3に示す如く、該表面積測定装置1は、断面が正方形である水槽2と、水槽内の四隅においてそれぞれ上下2箇所に設けられた合計8個の電極3,3…と、同じく水槽の四隅において電極3を水槽中央部から遮蔽する4枚の邪魔板4,4…と、水槽2の底に載置された補助電極7とを備えている。さらに、被測定物(図示せず)を電解質溶液中で支持するためのラック5と、該ラック5を支持し且つ該ラック5を介して被測定物に通電するための給電棒6が備えられている。
そして、表面積の測定を行う際には、図1〜3に示す如く水槽2に所定の温度および濃度に設定された電解質溶液10が満たされることとなる。
【0022】
本実施形態では、流通抑制手段として邪魔板4が採用されている。具体的には、該邪魔板4は、被測定物に対して電極を直接対向させないように、電極3を被測定物から遮蔽するとともに、電解質溶液10を、電極側の領域(電極領域ともいう)20と、被測定物側の領域(被測定物領域ともいう)30とに区画し、さらにこれら2つの領域間の電解質溶液10の流通を抑制するように設けられている。
【0023】
本実施形態の邪魔板4は、図2に示す如く両端の縁部が屈折された略平板状のものであり、その両端の縁部と水槽2との間には、電解質溶液10の流通を抑制し得るような細長い流路11が形成されており、電極領域20と被測定物領域30とは、該流路11を介してのみ流通可能となっている。
【0024】
電極3の形状については特に限定されるものではないが、電気抵抗が過大とならない程度に面積の小さいものを使用することが好ましく、これによって電極と等距離において被測定物が平行移動する際に生じる、いわゆるワグナー長さ効果を低減できるものと考えられる。
【0025】
補助電極7は、電極3に対する被測定物の位置によって生じるワグナー長さ効果およびオームの法則による影響をさらに補正すべく設置されるものであり、形状については特に限定されるものではない。
【0026】
そして、電極3および補助電極7は、被測定物に対して所定の電圧が印加されるべく電源装置(図示せず)に接続されている。即ち、該電源装置と各電極又は補助電極との間にはそれぞれ可変抵抗器(図示せず)が介在され、電極3と補助電極7とに異なる電圧を印加し得るように、また、電極3についても上方に設置した電極3aと下方に設置した電極3bとに異なる電圧を印加し得るように構成されている。
【0027】
各電極に印加される電圧は、水槽の形状や大きさ、電極の大きさや配置、ラックの形状などの諸条件に応じて適宜調整されるべきものであるが、上方の電極3aに印加される電圧をV1、下方の電極3bに印加される電圧をV2、補助電極7に印加される電圧をV3とすると、V1:V2としては1:0.1〜1:1、V1:V3としては1:0〜1:1の範囲を好適な電圧比率として例示することができる。
【0028】
電源装置としては被測定物と電極とに所定の電圧を印加し得るものであれば特に限定されるものではない。
【0029】
また、電解質溶液10としても特に限定されるものではなく、例えば水酸化ナトリウム溶液、リン酸塩溶液等を使用し得る。該電解質溶液は、モニター電極(図示せず)と連動した水供給装置(図示せず)および電解液供給装置(図示せず)によって電解質濃度が一定に保たれ、さらに、温度計(図示せず)と連動したヒーター(図示せず)によって温度が一定に保たれる。
【0030】
斯かる表面積測定装置1によれば、邪魔板4によって電解質溶液10の流通が抑制されるため、水槽2内の電流分布が均一化されることとなる。
【0031】
次に、斯かる実施形態の表面積測定装置を用いた場合の表面積測定方法について説明する。
【0032】
まず、任意の被測定物を掛けたラック5を給電棒6に吊して電解質溶液10中に浸漬し、一定電圧を印加した状態で被測定物の高さ及び前後左右位置を変えた際の電流値を測定し、電流値の変動が微少となるように、上方の電極3a、下方の電極3bおよび補助電極7の電圧を調整しておく。
【0033】
次に、任意のラックを基準ラックとし、該基準ラックを給電棒6に吊して電解質溶液中に浸漬し、一定の電圧をかけて電流値を測定する。さらに、複数本の同一形状のラックを同様の手順で測定し、平均値を求めてこれを標準ラック電流値(Ls)とする。
表面積が既知である複数の基準測定物(例えば、0.5dm2/枚×20枚)を1枚ずつ順に基準ラックに掛け、ラックが同じ水深となるように浸漬した状態で電流値を測定し、電流と表面積の関係式(Fs)を求める。
関係式(Fs)は、例えば、As=f(x)+C(但し、Asは表面積、xは電流値、Cは標準ラック単体の面積)のように表される。
【0034】
そして、実際に使用するラック(複数ある場合はそれら全て)について電流値(Lv)を測定する。尚、異常な電流値が検出されたラックは、不良ラックとして排除する。前記基準となるラックの電流値(Ls)と使用するラックの電流値(Lv)との比(Lv/Ls)を前記関係式(Fs)の定数項に乗じることにより、基準ラックについての関係式(Fv)が実際に使用する個々のラックの大小や形状差に応じて補正されることとなる。
【0035】
こうして、実際に使用する個々のラックに対して、基準となるラックの関係式(Fs)がそれぞれ補正されたこととなるため、該ラックに面積が未知の被測定物を吊るした状態で電流値(Lv)を測定することにより、前記関係式(Fs)に基づいて被測定物の表面積を正確に算出することができる。尚、ラックの材質等その他補正すべき要因がある場合についても、必要に応じて適宜設定又は補正を行うものとする。
【0036】
斯かる表面積測定装置および測定方法によれば、水槽内の電流分布の均一化が図られることとなり、被測定物の各部位における電流密度が略一定となって複雑な立体形状の被測定物についても正確に表面積を測定することが可能となる。
これは、邪魔板4によって電解質溶液の流通が抑制されることにより、電極と被測定物との距離が見かけ上遠距離にあるように作用したり、電極との距離に反比例して増大する抵抗成分が発生するためであると推測される。そして、斯かる作用に加えて電極3が水槽2内に略均一に配置されていることにより、電流分布の均一化が図られているものと推測される。
【0037】
また、水槽内の電流分布が均一化されるため、水槽内における被測定物の位置が変化した場合であっても表面積を正確に測定することができるという効果がある。
【0038】
尚、上記実施形態では、流通抑制手段として邪魔板4を使用した場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
従って、他の流通抑制手段としては、例えば図4に示す如く、電極を収容し得るような筒体41と、該筒体41の両端に備えられた蓋体42とからなり、筒体41と蓋体42との隙間が所定幅の流路11を形成するように離間して構成されたものを使用することもできる。斯かる構成の流通抑制手段によれば、水槽内に大きな邪魔板を設置する必要がなく、しかも水槽内を広く使用することができるという利点がある。
【0039】
また、流通抑制手段の他の形態としては、幅をやや狭くすることに加えて電極領域と被測定物領域との間の流通距離が長くなるような形状の流路としてもよい。流通距離を長くすると電極と被測定物との距離が長くなってオームの法則による影響を緩和でき、しかも幅の狭い流路とすることによってその作用をより顕著に発揮させることができる。
【0040】
また、電極3の形状についても特に限定されるものではなく、流通抑制手段として図4に示したような筒体41と蓋体42とを使用する場合には、該筒体41の内部に収容しやすい筒状の電極31としてもよい。
【0041】
さらに、電極を設ける位置および数量は、水槽内をできるだけ均等となる位置に配置することが好ましい。上記実施形態では合計8個の電極を水槽内に均等に配置したが、電極の数をそれ未満としてもよく、又はそれ以上としてもよい。
また、水槽の形状についても特に限定されず、円筒形状やその他任意の多面体形状とすることができる。
【0042】
また、上記表面積測定方法の実施形態では、基準となるラックの電流値(Ls)と使用するラックの電流値(Lv)との比(Lv/Ls)を前記関係式(Fs)に乗じることにより、標準ラックについての関係式(Fs)を実際に使用する個々のラックに対して補正したが、使用する個々のラックに複数の基準測定物を順に掛けて電流値を測定し、直接的に電流と表面積の関係式(Fv)を求めてもよい。
【0043】
さらに、上記実施形態では、電圧を一定として電流値を測定することによって表面積を算出したが、本発明はこれに限定されるものではなく、電流を一定として電圧を測定することによって被測定物の表面積を算出してもよい。
【0044】
また、上記実施形態ではメッキ処理を行うべき被処理物を測定対象とする場合に好適であるが、本発明はこれらの電気化学的反応を利用した表面処理の対象となる被処理物を測定対象として限定するものではなく、表面積測定の困難なあらゆるものを測定対象とすることができる。
【0045】
本発明は、前記実施形態のように導電性の測定対象物について例えば電流値を測定することによって表面積を測定することができるが、このような導電性の測定対象物のみを測定対象として限定するものではない。即ち、本発明は、絶縁性の物質をも測定対象物とすることができ、具体的には、同様の方法によって電圧を印加した状態での静電容量を測定し、その静電容量を誘電率で除することにより、測定対象物の表面積を測定することができる。
【0046】
ここで、邪魔板を流通抑制手段として設置した場合に水槽内の電流分布が均一化されることを実証すべく、図5に示す如き試験装置を用いて水槽内の電流分布を測定した。
図5は、試験装置の概略を示した斜視図であり、該試験装置は、水槽2と、該水槽2の中央に配された平板電極(カソード)15と、該平板電極15を囲むような四角い枠型の電極(アノード)3と、該カソード15と該アノード3との間に配された四角い枠型の邪魔板4とから構成されている。邪魔板4の上端は液面よりも上に出ており、邪魔板4の下端は水槽2の底と所定の隙間を隔てて設置されており、この邪魔板4と水槽2との隙間が電解質溶液の流通を抑制するように構成されている。
【0047】
斯かる試験装置を用い、邪魔板4と水槽2との隙間が20mmである場合と1mmである場合と、邪魔板4を設置しない場合について、図6に示す如く、中心に配した平板電極(カソード)15を水槽2の一方向(図6において右方向)へ移動させた際の電流分布を測定した。
尚、電極間に印加する電圧は約6V、電解質溶液は0.5%の水酸化ナトリウム溶液とし、平板電極15は、面積が1dm2と0.5dm2の2種類を用いた。また、平板電極15の移動距離は、実際に移動させた距離を移動前の電極間の距離で除した相対値で表した。
電流分布の測定結果を図7に示す。
【0048】
図7に示す如く、邪魔板4を設置しない場合には、面積が1dm2(図中(1)で示す)と0.5dm2(図中(2)で示す)の何れの場合にも平板電極15を水槽2の一端へ向かって移動させるにつれて、電流値が大きく上昇していることがわかる。
これに対し、邪魔板4を設置すると、隙間が1mm又は20mmの何れの場合であっても平板電極15を移動させた際の電流値が略一定となっており、水槽内の電流分布が均一となっていることがわかる。
【0049】
このように、オームの法則に反して電流分布が一定となる理由については定かではないが、邪魔板等の流通抑制手段を設けたことによってイオンの通過にも何らかの抵抗が生じ、電極間距離が近づいてイオンの通過量が多くなった場合には大きな抵抗となり、電極間距離が遠くなってイオンの通過量が少なくなった場合には小さな抵抗となるように作用しているものと推測される。
【0050】
次に、図8に示す如き立体形状を有し且つ表面積の等しい試験片A〜Iを前記試験装置の中央にカソードとして設置し、個々の試験片について電流値を測定した。邪魔板4を設置しない場合の電流値の測定結果を図9に、水槽との隙間が20mmとなるように邪魔板4を設置した場合の電流値の測定結果を図10に示す。
【0051】
邪魔板を設置しない場合(図9のグラフ)には、電流値のバラツキ、即ち(最大値−最小値)/平均値は、約23%であるのに対し、邪魔板を設置した場合(図10のグラフ)には、電流値のバラツキは約16%にまで低減されていることがわかる。
【0052】
このように、例えば邪魔板のような流通抑制手段をカソードとアノードの間に設置することにより水槽内の電流分布が均一化され、その結果、被測定物の立体形状に起因する電流値の変動が大きく低減されることとなる。
従って、複雑な立体形状を有する被測定物の表面積を測定する場合、本発明の方法および装置は、従来の方法と比べて非常に高精度に表面積を測定することが可能となる。
【0053】
次に、本発明に係るメッキ方法の一実施形態について説明する。
本発明のメッキ方法に使用する装置は、前記表面積測定装置1と略同様にして構成されたものである。但し、電解質溶液として所定の金属イオンを含むメッキ浴を用い、被処理物をアノード、電極をカソードとする。電極として、メッキ金属と同一の金属を用いて行うことも可能である。
【0054】
メッキ方法の具体的手順は、予め表面積を測定した被処理物をメッキ浴中に浸漬し、所望の電流密度となるように電流値を調整し、所望の時間通電することによってメッキ層を析出させる。
被処理物の表面積測定には上述の表面積測定方法を好適に採用でき、表面積の計測を終えた被処理物をラック5に吊るしたまま洗浄槽に浸漬して洗浄した後に該ラック5に吊るしたままメッキ浴に浸漬すればよい。
【0055】
斯かるメッキ方法によれば、メッキ浴中の電流分布が均一化されることになって被処理物の表面における電流密度が略一定となるため、複雑な立体形状の被処理物であっても均一な厚みのメッキ層を形成できるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明に係る表面積測定装置の一実施形態を示した斜視図。
【図2】本発明に係る表面積測定装置の一実施形態を示した平面図。
【図3】図2のA−A線断面図。
【図4】流通抑制手段と電極の他の実施形態を示した一部切り欠きの斜視図。
【図5】邪魔板の効果を確認するために用いた試験装置の斜視図。
【図6】図5のB−B線断面図。
【図7】電流分布の測定結果を示したグラフ。
【図8】被測定物として用いた試験片の形状を示した図。
【図9】邪魔板を設置しない場合の電流値の測定結果を示したグラフ。
【図10】邪魔板を設置した場合の測定結果を示したグラフ。
【図11】従来の測定方法の改良案として、本発明者らが検討した電極の配置例。
【符号の説明】
【0057】
1 表面積測定装置
2 水槽
3 電極
4 邪魔板
5 ラック
7 補助電極
10 電解質溶液
15 平板電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質溶液に被測定物および電極を浸漬し、該電解質溶液中で被測定物と電極とに電圧を印加し、その際の通電状態から被測定物の表面積を測定する表面積測定方法であって、
被測定物の周囲2箇所以上に於いて水槽の液深方向に2つ以上の電極を配置し、さらに該電極と被測定物との間で電解質溶液の流通を抑制した状態で電圧を印加することを特徴とする表面積測定方法。
【請求項2】
前記液深方向に配置された電極の電圧を別々に調整することを特徴とする請求項1記載の表面積測定方法。
【請求項3】
更に被測定物の下方に補助電極を配置し、前記液深方向に配置された2つ以上の電極と該補助電極の電圧とを、別々に調整することを特徴とする請求項1又は2に記載の表面積測定方法。
【請求項4】
被測定物の浸漬される領域内に於ける電流分布が±5%の範囲内となるように前記電解質溶液の流通を抑制することを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の表面積測定方法。
【請求項5】
前記電極を収容し得るような筒体と、該筒体の端に備えられた蓋体とを備え、該筒体と該蓋体との隙間に於いて電解質溶液の流通を抑制することを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の表面積測定方法。
【請求項6】
前記電極が、筒状の電極であることを特徴とする請求項5記載の表面積測定方法。
【請求項7】
電解質溶液に浸漬された被測定物と電極とに電圧を印加することにより、その際の通電状態から被測定物の表面積を測定するために用いる表面積測定装置であって、
電解質溶液を収容するための水槽と、該水槽内の周囲2箇所以上に於いて液深方向に2つ以上配置された電極と、該電極と被測定物との間で電解質溶液の流通を抑制する流通抑制手段が備えられていることを特徴とする表面積測定装置。
【請求項8】
電解質溶液に被処理物および電極を浸漬し、該電解質溶液中で被処理物と電極とに電圧を印加し、電解質溶液中の金属イオンを被処理物の表面に析出させるメッキ方法であって、
被処理物の周囲2箇所以上に於いて水槽の液深方向に2つ以上の電極を配置し、さらに該電極と被測定物との間で電解質溶液の流通を抑制した状態で行うことを特徴とするメッキ方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−77504(P2007−77504A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−251174(P2006−251174)
【出願日】平成18年9月15日(2006.9.15)
【分割の表示】特願2003−13478(P2003−13478)の分割
【原出願日】平成15年1月22日(2003.1.22)
【出願人】(503031628)
【出願人】(503031640)テックス株式会社 (2)
【Fターム(参考)】