説明

表面粗さ測定装置

【課題】測定開始時間を短縮化できるとともに、測定範囲が狭い部位も測定可能な表面粗さ測定装置を提供する。
【解決手段】ピックアップ16を移動させるための駆動装置18A〜18Cが複数備えられた表面粗さ測定装置10において、駆動装置18A〜18Cごとに測定待ち時間が設定される。駆動装置18A〜18Cの一つがデータ処理部14に接続されると、接続された駆動装置18A〜18Cが特定され、その駆動装置18A〜18Cに設定された測定待ち時間の情報が読み出される。測定時は、ピックアップ16の移動直後の測定データは使用せず、測定待ち時間の経過後に得られる測定データに基づいて表面粗さの測定が行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面粗さ測定装置において、測定待ち時間を最適化する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
被測定物の表面粗さを測定する表面粗さ測定装置は、ピックアップの先端に備えられた触針で被測定物の表面を走査し、その変位を測定することにより、被測定物の表面粗さを測定する(たとえば、特許文献1、2等)。
【0003】
ところで、触針による走査は、ピックアップを駆動手段によって移動させることにより行われる。ピックアップの駆動手段は、一般にモータを駆動源とし、このモータの回転を直進運動に変換して、ピックアップを往復移動させている。そして、この運動方向の変換や動力の伝達は、一般にギアや送りネジを用いて行われる。
【0004】
しかし、ピックアップの駆動にギアや送りネジを用いると、バックラッシュの存在により、走査初期の測定値が安定しないという問題がある。また、モータも立ち上がりは速度が不安定なため、走査初期は測定が不安定になりやすいという問題がある。
【0005】
このため、実際の測定では、一定の測定待ち時間を設定し、この測定待ち時間が経過するのを待って測定を開始することとしていた。そして、従来、この測定待ち時間は、信頼性の高い測定を確実に実施することができるようにするため、大幅にマージンをとって設定していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−104025号公報
【特許文献2】特開平10−104027号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、マージンを大きくとると、ピックアップの空送距離が無駄に長くなるという欠点がある。このような空送距離は、被測定物の測定範囲が広い場合には、あまり問題とならないが、微小範囲を測定する場合のように、測定範囲が狭い場合には、有効な測定ができなくなるという問題がある。また、空送距離が長くなると、実際の測定が開始されるまでに時間がかかるという欠点もある。
【0008】
これに対して、装置にスケールを組み込み、一定の距離間隔で測定を実施することにより、バックラッシュ等の問題を回避することも考えられるが(いわゆるスケールサンプリング)、装置にスケールを組み込むと、装置が複雑かつ大型化するという問題がある。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、測定開始時間を短縮化できるとともに、測定範囲が狭い部位も測定可能な表面粗さ測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
課題を解決するための手段は、次のとおりである。
【0011】
[1]表面粗さ測定装置の第1の態様は、選択可能に複数揃えられ、ピックアップを被測定物の表面に沿って移動させる駆動手段と、前記ピックアップから得られる変位の測定データを処理して、前記被測定物の表面粗さのデータを生成するデータ処理手段と、前記駆動手段ごとに設定された測定待ち時間の情報が記録される記憶手段と、測定に使用する前記駆動手段を検出する検出手段と、前記検出手段で検出された前記駆動手段に対応する測定待ち時間の情報を前記記憶手段から取得する取得手段と、を備え、前記データ処理手段は、測定開始から前記取得手段で取得された前記測定待ち時間の経過後に前記ピックアップから得られる変位の測定データを処理して、前記被測定物の表面粗さのデータを生成することを特徴とする。
【0012】
本態様によれば、ピックアップの駆動手段が交換可能な場合において、駆動手段ごとに最短の測定待ち時間が設定される。この測定待ち時間の設定は、測定時に測定に使用する駆動手段を検出し、その駆動手段に対応して設定された測定待ち時間の情報を記憶手段から読み出すことにより行われる。これにより、どの駆動手段を用いて測定する場合であっても最短の測定待ち時間で測定を開始することができる。また、これにより、どの駆動手段を用いて測定する場合であっても最短の空送距離で測定することができ、測定範囲が狭い被測定物を測定する場合であっても有効に測定することができる。
【0013】
[2]表面粗さ測定装置の第2の態様は、第1の態様の表面粗さ測定装置において、前記ピックアップの移動速度を複数選択できる場合において、前記記憶手段には、前記各駆動手段の移動速度ごとの測定待ち時間の情報が記録され、前記検出手段は、測定に使用する前記駆動手段と移動速度とを検出し、前記取得手段は、前記検出手段で検出された前記駆動手段の移動速度に対応する測定待ち時間の情報を前記記憶手段から取得することを特徴とする。
【0014】
本態様によれば、駆動手段が、ピックアップの移動速度(走査速度、測定速度と同義)を変えられる場合において、ピックアップの移動速度ごとに最短の測定待ち時間が設定される。この測定待ち時間の設定は、測定時に測定に使用する駆動手段、ピックアップの移動速度を検出し、その駆動手段、移動速度に対応して設定された測定待ち時間の情報を記憶手段から読み出すことにより行われる。これにより、どの移動速度を用いて測定する場合であっても最短の測定待ち時間で測定を開始することができる。また、これにより、どの移動速度を用いて測定する場合であっても最短の空送距離で測定することができ、測定範囲が狭い被測定物を測定する場合であっても有効に測定することができる。
【0015】
[3]表面粗さ測定装置の第3の態様は、第1又は2の態様の表面粗さ測定装置において、前記測定待ち時間の設定を指示する指示手段と、前記指示手段の指示に応じて前記駆動手段を制御し、所定の試験片の表面に触針を当接させた前記ピックアップを測定時と同じ移動速度で所定の測定方向に移動させる移動制御手段と、前記指示手段の指示に応じて前記ピックアップを移動させたときに、前記ピックアップの移動開始直後から得られる前記変位の測定データを解析して、前記変位の測定値が安定し始める点を測定値安定開始点として検出する測定値安定開始点検出手段と、前記指示手段の指示に応じて前記ピックアップを移動させたときに、前記ピックアップが移動開始から前記測定値安定開始点に到達するまでの移動時間を算出する移動時間算出手段と、算出された前記移動時間を前記測定待ち時間に設定し、測定に使用した前記駆動手段に関連付けて前記記憶手段に記録する記憶制御手段と、を更に備えたことを特徴とする。
【0016】
本態様によれば、測定待ち時間の設定は、次のように行われる。まず、ピックアップに備えられた触針を所定の試験片に当接させて、所定の測定方向(実際の測定時のピックアップの移動方向と同じ方向)に所定の移動速度(実際の測定時のピックアップの移動速度と同じ速度)で移動させる。そして、そのピックアップの移動開始直後から触針の変位を所定の測定周期(実際の測定時の測定周期と同じ周期)で測定する。次に、測定により得られた変位の測定結果(測定データ)を解析し、測定値が安定し始める点を検出する。そして、その点を測定値安定開始点とする。次に、ピックアップの移動開始直後から測定値安定開始点に到達するまでに要するピックアップの移動時間を算出する。この時間は変位の測定周期から算出する。そして、算出された移動時間を測定待ち時間に設定し、駆動手段に関連付けて記憶手段に記録する。このように測定待ち時間を設定することにより、測定待ち時間を最適化することができる。なお、ピックアップの移動速度を複数選択できる場合には、選択可能な移動速度ごとに測定待ち時間の設定を行い、駆動手段に関連付けて、移動速度ごとに個別に記憶手段に記録する。
【0017】
[4]表面粗さ測定装置の第4の態様は、第3の態様の表面粗さ測定装置において、前記移動制御手段は、前記ピックアップを前記測定方向に移動させる前に前記ピックアップを前記測定方向と逆方向に所定量移動させることを特徴とする。
【0018】
本態様によれば、触針で試験片を走査して、変位を測定する際、まず、ピックアップを測定方向とは逆方向に所定量移動させ、その後、測定方向に移動させて、変位の測定を実施する。これにより、たとえば、ピックアップをギア等で駆動する場合であっても、より適切に測定待ち時間を設定することができる。すなわち、このようにして測定を開始することにより、バックラッシュを最大の状態にして測定を開始することができ、より適切に測定待ち時間を設定することができる。
【0019】
[5]表面粗さ測定装置の第5の態様は、第3又は4の態様の表面粗さ測定装置において、前記試験片には、表面に所定の凹凸が一定ピッチで繰り返し形成され、前記測定値安定開始点検出手段は、前記試験片の凹凸に対応して現れる前記測定値の極値点を検出し、隣り合う極値点の間の距離を算出し、算出された距離が、あらかじめ設定された基準を満たす最初の極値点を検出し、該極値点を測定値安定開始点とすることを特徴とする。
【0020】
本態様によれば、測定値安定開始点の検出は、次のように行われる。まず、前提として、表面に所定の凹凸が一定ピッチで繰り返し形成された試験片を用いて変位の測定が行われる。次いで、その測定によって得られるデータから試験片の凹凸に対応して現れる測定値の極値点を検出する。次に、検出された極値点に対して、隣り合う極値点同士の間の距離を算出する。次に、算出された距離が、あらかじめ設定された基準を満たす最初の極値点を検出する。そして、検出された極値点を測定値安定開始点とする。すなわち、凹凸の間隔が、正確に検出されるようになれば、駆動が安定したとみなせるので、凹凸の間隔に対応して検出される極値点の間の距離が一定の基準を満たした最初の極値点を検出し、これを測定安定開始点としている。判定の基準は、たとえば、試験片に形成する隣り合う凹凸の間隔(ピークとピークの間の距離)の±5%程度である。
【0021】
[6]表面粗さ測定装置の第6の態様は、第5の態様の表面粗さ測定装置において、前記試験片には、表面に前記凹凸として所定の波形を有するサイン波面が形成されることを特徴とする。
【0022】
本態様によれば、試験片には、表面に凹凸として所定の波形を有するサイン波面が形成される。これにより、正確な試験片を簡単に用意でき、また、測定も簡単に行うことができる。試験片に形成する凹凸は、この他、たとえば、三角形状、矩形状とすることもできる。
【0023】
[7]表面粗さ測定装置の第7の態様は、第3から6のいずれか1の態様の表面粗さ測定装置において、前記ピックアップの移動速度を複数選択できる場合において、あらかじめ移動速度ごとに設定された係数を前記移動速度算出手段で算出された移動時間に乗じて、移動速度ごとの移動時間を算出する第2の移動時間算出手段を更に備え、前記記憶制御手段は、算出された前記移動速度ごとの前記移動時間を前記移動速度ごとの前記測定待ち時間に設定して前記記憶手段に記録することを特徴とする。
【0024】
本態様は、ピックアップの移動速度(走査速度、測定速度と同義)が複数選択できる場合において、一回の測定ですべての移動速度ごとの測定待ち時間を設定できるようにしたものである。基準となる一の移動速度で測定待ち時間を設定し、他の移動速度の測定待ち時間については、その基準となる一の移動速度で求めた移動時間に所定の係数を乗じて求めるように構成する。短時間で移動速度ごとの測定待ち時間を設定することができる。なお、係数については、たとえば、多数のデータを取得して、移動速度ごとの測定待ち時間の関係性を求めて設定する。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、測定開始時間を短縮化できるとともに、測定範囲が狭い部位も測定することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】表面粗さ測定装置の全体構成を示す正面図
【図2】表面粗さ測定装置の全体構成を示す斜視図
【図3】第1の測定部の構成を示す斜視図
【図4】第2の測定部の構成を示す斜視図
【図5】第3の測定部の構成を示す斜視図
【図6】データ処理部の電気的構成を示すブロック図
【図7】被測定物測定中の状態を示す斜視図
【図8】試験片測定中の状態を示す斜視図
【図9】試験片の測定データの一例を示すグラフ
【図10】試験片に形成される凹凸の他の一例を示す拡大図
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、添付図面に従って本発明の好ましい実施の形態について説明する。
【0028】
[装置構成]
図1、図2は、それぞれ本発明が適用された表面粗さ測定装置のシステム構成を示す正面図と斜視図である。
【0029】
同図に示すように、本実施の形態の表面粗さ測定装置10は、選択可能な複数の測定部12A、12B、12Cと、データ処理部14とで構成され、測定部12A〜12Cを1つ選択して使用される。
【0030】
各測定部12A、12B、12Cは、被測定物の表面粗さを測定するピックアップ16A、16B、16Cと、このピックアップ16A、16B、16Cを駆動するための駆動装置18A、18B、18Cとで構成される。
【0031】
測定部12A(以下、第1の測定部という)は、駆動装置18Aによってピックアップ16Aを前後方向(ピックアップ16Aの軸方向)に移動させて測定を行う。
【0032】
測定部12B(以下、第2の測定部という)は、駆動装置18Bによってピックアップ16Bを横方向(ピックアップ16Bの軸と直交する方向)に移動させて測定を行う(いわゆる横トレース)。
【0033】
測定部12C(以下、第3の測定部という)は、上記第1の測定部12Aと同様に駆動装置18Cによってピックアップ16Cを前後方向に移動させて測定を行う。ただし、第3の測定部12Cでは、待機時や測定の終了時において、ピックアップ16Cを上昇(リトラクト)させ、測定面から触針を退避させる。
【0034】
図3は、第1の測定部12Aの構成を斜視図である。
【0035】
上記のように、第1の測定部12Aは、駆動装置18Aによってピックアップ16Aを前後方向(ピックアップ16Aの軸方向)に移動させて測定を行う。
【0036】
ピックアップ16Aは、円柱状に形成され、先端に触針16aが備えられる。ピックアップ16Aは、この触針16aの変位量を内蔵する差動インダクタンス(不図示)で検出し、電気信号としてデータ処理部14に出力する。
【0037】
駆動装置18Aは、ピックアップ16Aを保持して、前後方向(ピックアップ16Aの軸方向)に移動させる。この駆動装置18Aは、四角い筒状のハウジング20Aを備える。ハウジング20Aには、ピックアップ16Aを軸方向(前後方向)に移動させるための駆動機構(不図示)が内蔵される。駆動機構は、駆動源としてのモータ(不図示)と、そのモータの回転を直進運動に変換して、ピックアップ16Aに伝達するための動力伝達機構(不図示)とで構成される。動力伝達機構は、たとえば、ギア列と送りネジ機構とで構成される。駆動機構を駆動すると、ピックアップ16Aが軸方向に往復移動(前後移動)する。なお、ピックアップ16Aは、所定の可動範囲で前後方向に往復移動可能に設けられる。すなわち、所定の「原点位置」と所定の「終端位置」との間で往復移動する。
【0038】
駆動装置18Aのハウジング20Aの後端には、データ処理部14と電気的に接続するためのコネクタ24Aが形成される。駆動装置18Aは、このコネクタ24Aに接続ケーブル26を接続して、データ処理部14と電気的に接続される。
【0039】
また、ハウジング20Aの先端部外周には、左右一対の調整台取付溝28Aが形成される。調整台取付溝28Aは、所定の溝幅をもって形成され、ハウジング20Aの長手方向と直交して形成される。同様に、ハウジング20Aの後端部外周には、左右一対の調整台取付溝29Aが形成される。調整台取付溝29Aは、所定の溝幅をもって形成され、ハウジング20Aの長手方向と直交して形成される。この調整台取付溝28A、29Aには、図7に示すように、必要に応じて調整台70が取り付けられる。
【0040】
調整台70は、一対のレール部72を備え、このレール部72を調整台取付溝28A、29Aに嵌合させることにより、駆動装置18Aのハウジング20Aに取り付けられる。一対のレール部72は、互いに対向して配置され、その上端部において連結部74で連結される。この調整台70は、水平面上に設置した際、レール部72が垂直な状態で自立するように形成される。
【0041】
駆動装置18Aのハウジング20に取り付けられた調整台70は、調整台取付溝28A、29Aとレール部72との間の摩擦力でハウジング20Aを保持する。ハウジング20Aの前後に調整台70を取り付け、レール部72に沿ってスライドさせることにより、駆動装置18Aの高さ及び傾きを調整することができる。
【0042】
図4は、第2の測定部12Bの構成を斜視図である。
【0043】
上記のように、第2の測定部12Bは、駆動装置18Bによってピックアップ16Bを横方向(ピックアップ16Bの軸と直交する方向)に移動させて測定を行う。
【0044】
ピックアップ16Bの構成は、上記第1の測定部12Aのピックアップ16Aの構成と同じである。すなわち、円柱状に形成され、先端に触針16bが備えられる。ピックアップ16Bは、この触針16bの変位量を内蔵する差動インダクタンス(不図示)で検出し、電気信号としてデータ処理部14に出力する。
【0045】
駆動装置18Bは、ピックアップ16Bを保持して横方向(ピックアップ16Bの軸と直交する方向)に移動させる。この駆動装置18Bは、四角い筒状のハウジング20Bを備える。ハウジング20Bには、ピックアップ16Bを横方向に移動させるための駆動機構(不図示)が内蔵される。駆動機構は、駆動源としてのモータ(不図示)と、そのモータの回転を直進運動に変換して、ピックアップ16Bに伝達するための動力伝達機構(不図示)とで構成される。動力伝達機構は、たとえば、ギア列と送りネジ機構とで構成される。駆動機構を駆動すると、ピックアップ16Bが横方向に往復移動する。なお、ピックアップ16Bは、所定の可動範囲で横方向に往復移動可能に設けられる。すなわち、所定の「原点位置」と所定の「終端位置」との間で往復移動する。
【0046】
駆動装置18Bのハウジング20Bの後端には、データ処理部14と電気的に接続するためのコネクタ24Bが形成される。駆動装置18Bは、このコネクタ24Bに接続ケーブル26を接続して、データ処理部14と電気的に接続される。
【0047】
また、ハウジング20Bには、上記第1の測定部12Aの駆動装置18Aのハウジング20Aと同様に、先端部外周と後端部外周に調整台取付溝28B、29Bが形成される。この調整台取付溝28B、29Bには、必要に応じて調整台70が取り付けられる(図7参照)。
【0048】
図5は、第3の測定部12Cの構成を斜視図である。
【0049】
上記のように、第3の測定部12Cは、上記第1の測定部12Aと同様に駆動装置18Cによってピックアップ16Cを前後方向に移動させて測定を行う。ただし、第3の測定部12Cでは、待機時や測定の終了時において、ピックアップ16Cを上昇(リトラクト)させ、測定面から触針を退避させる。
【0050】
ピックアップ16Cの構成は、上記第1の測定部12Aのピックアップ16Aの構成と同じである。すなわち、円柱状に形成され、先端に触針16cが備えられる。ピックアップ16Cは、この触針16cの変位量を内蔵する差動インダクタンス(不図示)で検出し、電気信号としてデータ処理部14に出力する。
【0051】
駆動装置18Cは、ピックアップ16Cを保持して前後方向(ピックアップ16Cの軸方向)に移動させるとともに、上下方向に移動させる。この駆動装置18Cは、四角い筒状のハウジング20Cを備える。ハウジング20Cには、ピックアップ16Cを前後方向及び上下方向に移動させるための駆動機構(不図示)が内蔵される。駆動機構は、駆動源としてのモータ(不図示)と、そのモータの回転を直進運動に変換して、ピックアップ16Cに伝達するための動力伝達機構(不図示)とで構成される。動力伝達機構は、たとえば、ギア列と送りネジ機構とで構成される。駆動機構を駆動すると、ピックアップ16Cが前後移動するとともに、上下方向に移動する(リトラクト)。
【0052】
なお、ピックアップ16Cは、所定の可動範囲で前後方向に往復移動可能に設けられる。すなわち、所定の「原点位置」と所定の「終端位置」との間で往復移動する。
【0053】
駆動装置18Cのハウジング20Cの後端には、データ処理部14と電気的に接続するためのコネクタ24Cが形成される。駆動装置18Cは、このコネクタ24Cに接続ケーブル26を接続して、データ処理部14と電気的に接続される。
【0054】
また、ハウジング20Cには、上記第1の測定部12Aの駆動装置18Aのハウジング20Aと同様に、先端部外周と後端部外周に調整台取付溝28C、29Cが形成される。この調整台取付溝28C、29Cには、必要に応じて調整台70が取り付けられる(図7参照)。
【0055】
データ処理部14は、扁平な四角い箱状のデータ処理部本体30を備える。データ処理部本体30は、上部にコネクタ32が備えられる。データ処理部14は、このコネクタ32に接続ケーブル26を接続して、いずれか一つの測定部12A、12B、12Cの駆動装置18A、18B、18Cと電気的に接続される。測定部12A、12B、12Cの駆動装置18A、18B、18Cが接続されることにより、データ処理部14は、接続された駆動装置18A、18B、18Cから識別情報(各駆動装置18A、18B、18Cを区別するための情報)を取得し、接続された駆動装置18A、18B、18Cを特定(検出)する。
【0056】
データ処理部本体30の正面部には、各種情報を表示するためのディスプレイ34や、各種操作を行うための操作パネル36等が備えられる。
【0057】
また、データ処理部本体30の一方の側面には、電源スイッチ38やコネクタ部40が備えられる。
【0058】
コネクタ部40には、外部機器(たとえば、パソコンなど)と接続するための通信コネクタ40Aと、外部記憶媒体(ストレージ、たとえば、メモリカードやUSBメモリ)と接続するためのメモリコネクタ40Bとが備えられる。
【0059】
データ処理部14は、通信コネクタ40Aを利用して、外部機器とケーブル(不図示)で接続することにより、たとえば、外部機器に測定データを送信することができる。また、外部機器から所要のデータを受信することができる。この通信コネクタ40Aは、たとえば、USBコネクタで構成することができ、USB規格に従った通信が行われる。通信コネクタ40Aは、この他、IEEEコネクタなどで構成することもできる。
【0060】
なお、本例では、有線による通信形式を採用しているが、無線通信手段を内蔵して、無線で外部機器と通信する構成とすることもできる。
【0061】
また、データ処理部14は、メモリコネクタ40Bに外部記憶媒体を接続することにより、たとえば、測定したデータをその外部記憶媒体に記録することができる。メモリコネクタ40Bは、たとえば、USBコネクタで構成することができ、USBメモリを外部記憶媒体として使用することができる。
【0062】
なお、本例では、メモリコネクタ40Bは、USBコネクタで構成され、USBメモリが外部記憶媒体として使用される。メモリコネクタ40Bは、この他、たとえば、各種メモリカードのスロットで構成することもできる。
【0063】
更に、データ処理部本体30の上面部には、測定結果をプリントした用紙が排紙される排紙口42が備えられる。
【0064】
図6は、データ処理部の電気的構成を示すブロック図である。
【0065】
同図に示すように、データ処理部14は、マイコン50、駆動装置制御回路52、信号変換回路54、表示制御回路56、ディスプレイ34、操作パネル36、通信制御回路58A、USBコントローラ58B、プリント制御回路60、プリンタ62、メモリコントローラ64、EEPROM66等を備えて構成される。
【0066】
マイコン50は、表面粗さ測定装置10の全体を統括制御する制御手段として機能するとともに、各種演算処理を実行する演算処理手段として機能する。マイコン50は、CPU、RAM、ROM等を備え、ROMに格納された制御プログラムをRAMに展開し、CPUで逐次実行することにより、所定の処理を実行する。ROMには、制御プログラムの他、その制御に必要な各種データが格納される。
【0067】
駆動装置制御回路52は、マイコン50からの指令に応じて、駆動装置18A、18B、18Cの駆動を制御する。すなわち、駆動装置18A、18B、18Cに内蔵された駆動機構(モータ)に駆動信号を出力する。駆動装置18A、18B、18Cの駆動機構は、この駆動装置制御回路52から出力される駆動信号に従って動作し、ピックアップ16A、16B、16Cを移動させる。
【0068】
信号変換回路54は、A/D変換器を含み、ピックアップ16A、16B、16Cから出力される電気信号をデジタルの電気信号に変換して、マイコン50に出力する。マイコン50は、所定の制御プログラムに従って入力された信号を処理し、粗さの検出処理等を実行する。
【0069】
表示制御回路56は、マイコン50からの指令に応じて、ディスプレイ34への表示を制御する。
【0070】
操作パネル36は、入力された操作情報をマイコン50に出力する。マイコン50は、この操作パネル36から入力される操作情報に基づいて各種処理を実行する。
【0071】
通信制御回路58Aは、マイコン50からの指令に応じて、通信コネクタ40Aを介して接続された外部機器との間でデータの送受信を行う。
【0072】
USBコントローラ58Bは、マイコン50からの指令に応じて、メモリコネクタ40Bを介して接続された外部機器(本例ではUSBメモリ)に対してデータの読み書きを行う。
【0073】
プリント制御回路60は、マイコン50からの指令に応じて、データ処理部本体30に内蔵されたプリンタ62の駆動を制御し、プリント処理を実行する。上述したように、プリンタ62でプリントされた用紙は、データ処理部本体30の上部に備えられた排紙口42から排紙される。
【0074】
メモリコントローラ64は、マイコン50からの指令に応じて、EEPROM66にデータを読み書きする。EEPROM66には、たとえば、ユーザが設定した各種設定情報等が格納される。なお、本例ではEEPROMを使用しているが、ここで使用するメモリは、いわゆる不揮発性メモリであれば、その構成は特に限定されない。
【0075】
本実施の形態の表面粗さ測定装置10は、以上のように構成される。
【0076】
[測定方法]
次に、本実施の形態の表面粗さ測定装置10を用いた表面粗さの測定方法について説明する。
【0077】
上記のように、本実施の形態の表面粗さ測定装置10は、測定の目的に応じて測定部12A、12B、12Cを選択して使用することができる。
【0078】
まず、測定目的に合った測定部12A、12B、12Cを選択する。そして、選択した測定部12A、12B、12Cの駆動装置18A、18B、18Cをデータ処理部14に接続する。
【0079】
データ処理部14は、駆動装置18A、18B、18Cが接続されると、接続された駆動装置18A、18B、18Cから識別情報を取得する。ここでは、第1の測定部12Aが選択され、その駆動装置18Aが接続されたと仮定する。
【0080】
データ処理部14は、駆動装置18Aから識別情報を取得すると、その駆動装置18Aに対応した測定待ち時間の情報をEEPROM66から取得する。そして、取得した測定待ち時間を実際の測定時の測定待ち時間に設定する。すなわち、この測定待ち時間の経過後に測定データの取り込みを行うように設定する。
【0081】
以上により機器の接続設定が完了する。次に、必要に応じて測定条件の設定を行う。たとえば、評価長さ等の設定を行う。この操作は、データ処理部14の操作パネル36を利用して行う。設定された情報は、ディスプレイ34に表示される。
【0082】
次に、ピックアップ16Aのセッティングを行う。すなわち、ピックアップ16Aの先端に備えられた触針16aを被測定物の表面に当接させる。この際、図7に示すように、必要に応じて駆動装置18Aに調整台70を取り付け、ピックアップ16Aの傾きや高さ調整を行う。
【0083】
次に、データ処理部14の操作パネル36を介して測定の実行を指示する。
【0084】
測定の実行が指示されると、マイコン50は、駆動装置制御回路52を介して駆動装置18Aの駆動を制御し、ピックアップ16Aを一定の移動速度で一定の測定方向(ここではピックアップ16Aが駆動装置18Aのハウジング20A側に退避する方向)に一定距離移動させる。
【0085】
ピックアップ16Aを移動させることにより、ピックアップ16Aに備えられた触針16aの変位が検出される。検出された測定データは、アナログの電気信号として、データ処理部14に出力される。
【0086】
データ処理部14は、このピックアップ16Aから出力されるアナログの電気信号を信号変換回路54において一定のサンプリング周期(測定周期)でデジタルの電気信号に変換する。変換されたデジタルの測定データは、マイコン50に取り込まれる。マイコン50は、このデジタル信号を所定の制御プログラムに従って信号処理することにより、表面粗さの測定データを生成する。
【0087】
ここで、上記のように、測定初期(ピックアップ16Aの移動開始直後)は、駆動装置18Aの駆動が安定せず、変位の測定値が安定しない。そこで、マイコン50は、表面粗さの測定データを生成するに際して、測定待ち時間の経過後に取得される変位の測定データに基づいて表面粗さの測定データを生成する。すなわち、変位の測定データは、ピックアップ16Aの移動開始直後から取得されるが、移動開始直後の測定データは使用せず、ピックアップ16Aの移動開始から上記測定待ち時間の経過後に取得される測定データに基づいて表面粗さのデータを生成する。これにより、信頼性の高い測定結果を出力することができる。
【0088】
生成された表面粗さの測定データ(測定結果)は、ディスプレイ34に出力される。この測定結果は、数値データとして出力されるとともに、必要に応じてグラフ表示される。
【0089】
測定が終了すると、マイコン50は、駆動装置制御回路52を介して駆動装置18Aにリターン指令を出力し、ピックアップ16Aを原点位置に復帰させる。
【0090】
以上一連の工程で被測定物に対する表面粗さの測定処理が終了する。
【0091】
以上説明したように、本実施の形態の表面粗さ測定装置10によれば、実際の測定に際して、ピックアップ16Aの移動開始直後の測定データは使用せず、あらかじめ設定された測定待ち時間が経過後に取得される測定データに基づいて、表面粗さの測定データが生成される。これにより、信頼性の高い測定結果を得ることができる。
【0092】
そして、本実施の形態の表面粗さ測定装置10では、この測定待ち時間(測定値が安定するまでに要する最短の時間)が、駆動装置ごとに個別に定められる。これにより、駆動装置を変えた場合であっても、最短の待ち時間で測定を行うことができ、迅速に測定することができる。また、空送距離も短くなるので、測定範囲が狭い被測定物であっても有効に測定することができる。
【0093】
なお、本実施の形態では、選択された測定部を検出する際、駆動装置から識別情報を取得して、検出する構成としているが、測定に使用する駆動装置の検出方法は、これに限定されるものではない。この他、たとえば、ユーザが、選択した測定部(駆動装置)の情報をデータ処理部14の操作パネル36から入力し、これをマイコン50が検出して、測定に使用する駆動装置を検出する構成とすることもできる。また、コネクタにおけるピンの接続構造を駆動装置ごとに変えることにより、接続された駆動装置の種別を検出できるようにしてもよい。
【0094】
また、上記実施の形態では、ピックアップを一定の移動速度(測定速度、走査速度と同義)で移動させて測定する場合を例に説明したが、各測定部の駆動装置においてピックアップの移動速度を変えられる場合(たとえば、段階的に変更できる場合)は、移動速度ごとに測定待ち時間を設定することが好ましい。すなわち、測定待ち時間は、移動速度に応じて変わる場合もあるので、移動速度ごとに測定待ち時間を設定する。この場合、EEPROM66には、各駆動装置について、移動速度ごとに定められた測定待ち時間の情報が記録される。測定時には、測定に使用する駆動装置の情報と、測定時のピックアップの移動速度の情報を取得して、EEPROM66から測定待ち時間の情報を取得し、測定待ち時間を設定する。また、ピックアップの移動速度の設定(選択)は、通常、データ処理部14の操作パネル36を利用して行われるので、操作パネル36から入力される情報に基づいて取得(検出)することができる。
【0095】
なお、ピックアップの移動速度が段階的に変更可能な場合は、選択可能な移動速度ごとに測定待ち時間が設定されるが、任意の速度に設定可能な場合は、移動速度と測定待ち時間(測定値が安定するまでに要する最短の時間)との関係を求めて、移動速度から測定待ち時間を導く関数を求め、この関数に従って測定待ち時間を設定する構成とすることもできる。
【0096】
[駆動装置ごとに定められる測定待ち時間の決定方法]
上記のように、本実施の形態の表面粗さ測定装置10では、駆動装置ごとに測定待ち時間が定められる。
【0097】
ここでは、この駆動装置ごとに定められる測定待ち時間の決定方法について説明する。
【0098】
なお、測定待ち時間を決定する処理は、測定部ごと(駆動装置ごと)に行われる。ここでは、第1の測定部12Aの駆動装置18Aの測定待ち時間を決定する場合について説明する。
【0099】
この処理を行うには、まず、所定の試験片80を用意する。この試験片80は、図8に示すように、矩形の板状に形成され、表面に所定の測定領域82が形成される。測定領域82には、所定の凹凸が一定ピッチで繰り返し形成される。ここで、所定の波形(所定の波高、周期)を有するサイン波面が形成される。なお、凹凸は、試験片80の長手方向に沿って一定ピッチで形成され、その波高値、周期は既知である。この試験片80を用いて、次の測定を行う。
【0100】
まず、ピックアップ16Aのセッティングを行う。セッティングは、ピックアップ16Aが、試験片80の表面と平行、かつ、測定領域82に形成された波面の波に対して直交する方向に移動するように設定する。また、触針16aが測定領域82の上を移動(走査)するように設定する。この際、図8に示すように、必要に応じて駆動装置18Aに調整台70を取り付け、ピックアップ16Aの傾きや高さ調整を行う。
【0101】
次に、データ処理部14の操作パネル36を介して測定待ち時間の設定の実行を指示する。
【0102】
測定待ち時間の設定の実行が指示されると、マイコン50は、所定の制御プログラムに従って測定待ち時間の設定処理を実行する。
【0103】
まず、駆動装置制御回路52を介して駆動装置18Aの駆動を制御し、ピックアップ16Aを一定の移動速度で一方向(測定方向)に一定距離移動させる。その後、ピックアップ16Aを一定の移動速度で他方向(測定方向と逆方向)に一定距離移動させる。すなわち、一度測定方向に移動させたのち、逆方向に移動させて、元の位置(原点位置)に戻す。これにより、バックラッシュが最大の状態となる。
【0104】
このように本工程は、バックラッシュを最大の状態にすることを目的とするものであるから、ピックアップ16Aを移動させる量は、バックラッシュを最大の状態にできる量とし、その必要最小限の値に設定することが好ましい。これにより、迅速に準備することができる。
【0105】
次に、マイコン50は、駆動装置制御回路52を介して駆動装置18Aの駆動を制御し、ピックアップ16Aを一定の移動速度(測定時の移動速度)で一方向(測定方向)に一定距離移動させる。その一方でピックアップ16Aの移動直後から触針16aの変位データを取得する。
【0106】
触針16aの変位データは、アナログの電気信号としてデータ処理部14に取り込まれる。データ処理部14は、ピックアップ16Aから取り込んだ電気信号を信号変換回路54において一定のサンプリング周期(測定周期)でデジタルの電気信号に変換する。マイコン50は、この変位のデータを所定のプログラムに従って解析処理することにより、測定待ち時間を設定する。解析は、次の手順によって行われる。
【0107】
上記のように、測定は、試験片80を用いて行われている。試験片80には、所定の波形を有するサイン波面が形成されている。したがって、上記の測定を実施することにより、このサイン波面に対応したサイン波形が検出されるはずである。
【0108】
図9は、試験片の測定データのグラフである。
【0109】
マイコン50は、まず、試験片80の波の凹凸に対応して現れる測定値の極値点を検出する。この極値点は、波の山部と谷部で検出される。山部側の極値点をP1、P2、…とし、谷部側の極値点をV1、V2、…とする。
【0110】
なお、変位の測定データから山部の極値点と谷部の極値点とを検出する方法については、公知の技術であるので、その具体的な手法については、説明を省略する。
【0111】
次に、検出された山部と谷部における極値点(P1、P2、…、V1、V2、…)のうち最初に検出された極値点を測定待ち時間の設定に使用する極値点に設定する。すなわち、山部側の極値点(P1、P2、…)が最初に検出された場合は、山部側の極値点(P1、P2、…)を測定待ち時間の設定に使用する極値点に設定する。逆に、谷部側の極値点(V1、V2、…)が最初に検出された場合は、谷部側の極値点(V1、V2、…)を測定待ち時間の設定に使用する極値点に設定する。
【0112】
なお、極値点の検出は、測定値の入力の時系列に沿って行われる。したがって、最初に検出された極値点とは、測定開始から最初に検出される極値点(本測定ではピックアップ16Aの移動開始から最初に検出される極値点)を意味する。山部側では極値点P1が最初に検出される極値点であり、谷部側では極値点V1が最初に検出される極値点である。
【0113】
図9に示す例では、山部側の極値点P1が谷部側の極値点V1よりも先に検出されているので、山部側の極値点P1、P2、…が、測定待ち時間の設定に使用する極値点である。
【0114】
次に、測定待ち時間の設定に使用する各極値点(ここでは、山部側の極値点)に対して、隣り合う極値点の間の距離を算出する。すなわち、P1−P2間、P2−P3間、…、P(n−1)−P(n)間の距離を算出する。
【0115】
次に、算出された各極値点間の距離を評価する。この評価は、算出された各極値点間の距離と、試験片に形成されたサイン波の山部と山部との間の距離(=谷部と谷部との間の距離)Xとを比較することにより行われる。具体的には、距離Xに対する百分率を求め、基準を満たしているか否かを判定することにより行われる。基準は、たとえば、±5%である。したがって、距離Xに対して、95%〜105%の範囲内であれば、基準を満たしていると判定される。
【0116】
次に、評価した結果に基づいて、基準を満たした最初の極値点を検出する。たとえば、最初に基準を満たした極値点間がP(n−1)−P(n)の場合、P(n−1)が基準を満たした最初の極値点となる。そして、この最初に基準を満たした極値点を測定値安定開始点とする。すなわち、隣り合う極値点の間の距離が基準範囲内に検出できれば、駆動が安定しているとみなせるので、最初に基準を満たした極値点を検出し、その点を測定値安定開始点としている。
【0117】
次に、求めた測定安定開始点の位置と、測定値のサンプリング周期に基づいて、ピックアップ16Aが移動開始から測定値安定開始点に到達するまでに要した時間Sを算出する。そして、この時間S(ピックアップ16Aの測定開始からの移動時間)を測定待ち時間に設定する。
【0118】
以上一連の工程で測定待ち時間の設定が終了する。測定待ち時間が求められると、マイコン50は、得られた測定待ち時間の情報をEEPROM66に記録する。ここでは、第1の測定部12Aの駆動装置18Aについての測定待ち時間を求めたので、第1の測定部12Aの駆動装置18Aに関連付けて、その測定待ち時間の情報をEEPROM66に記録する。なお、接続されている駆動装置18Aの情報は、駆動装置18Aの接続時に駆動装置18Aから識別情報を取得することにより取得する。
【0119】
他の測定部12B、12Cの駆動装置18B、18Cについても同様の手順で測定待ち時間を決定し、EEPROM66に格納する。
【0120】
以上の手順で測定待ち時間を決定することにより、各測定部の駆動装置の測定待ち時間を適切に設定できる。すなわち、各測定部の駆動装置において、最短となる測定待ち時間を適切に設定することができる。
【0121】
[測定速度を複数選択できる場合の測定待ち時間の設定方法]
ピックアップの移動速度を段階的に切り換えることができる場合は、設定可能な移動速度ごとに上記の測定待ち時間の決定処理を行う。すなわち、たとえば、第1の測定部12Aの駆動装置18Aにおいて、移動速度を3段階に切り換えることができる場合、各移動速度でピックアップ16Aを移動させて測定を行う。そして、移動速度ごとに得られる変位の測定データを解析して、移動速度ごとに移動時間を求め、測定待ち時間を決定する。求めた移動速度ごとの測定待ち時間の情報は、移動速度ごとにEEPROM66に記録する。
【0122】
このように、ピックアップの移動速度を段階的に切り換えることができる場合は、その選択可能な移動速度ごとに測定待ち時間の決定処理を行って、測定待ち時間を決定する。
【0123】
しかし、ピックアップの移動速度を多数選択できるような場合、上記の測定待ち時間の決定処理を行うのは手間がかかる。
【0124】
そこで、ピックアップの移動速度を複数選択できる場合は、次の方法で各移動速度に対応した測定待ち時間を決定することもできる。
【0125】
まず、上記手順で一の移動速度の測定待ち時間(ピックアップが移動開始から測定値安定開始点に到達するまでに要する時間(移動時間))を求める。測定待ち時間を求める移動速度は、基準となる移動速度であり、実際の測定時に選択可能なものを使用する。したがって、たとえば、ピックアップの移動速度を3段階(たとえば、A、B、C)で選択可能な場合は、そのうちの一つ(たとえば、速度A)を選択し、上記手順で測定待ち時間を求める。
【0126】
次に、求めた測定待ち時間(移動時間)に所定の係数を乗算し、他の移動速度(速度B、C)について、測定待ち時間を求める。
【0127】
ここで、上記係数は選択可能な移動速度ごとに用意され、選択可能な移動速度ごとに測定待ち時間が算出される。
【0128】
この係数は、事前に選択可能な移動速度ごとに測定を行って、測定待ち時間を算出し、基準となる移動速度の測定待ち時間との関係を求めることにより設定される。したがって、高精度に設定するためには、多数の測定データから、その関係を求めることが好ましい。なお、データの統計的手法については、公知の技術を用いることができる。
【0129】
このように、ピックアップの移動速度を段階的に変更可能な場合は、基準となる一の移動速度についてのみ試験片での測定を行って測定待ち時間を決定し、他の移動速度については、演算により求めるようにすることもできる。これにより、簡便に測定待ち時間を決定することができる。
【0130】
なお、上記の例では、実際の測定で選択可能な移動速度の一つを基準の移動速度として用いているが、基準とする移動速度は、必ずしも実際の移動速度で選択可能な速度である必要はない。すなわち、この基準となる移動速度で求められる測定待ち時間との間で上記係数が求められていれば、基準となる移動速度は必ずしも実際の測定で選択可能な移動速度である必要はない。
【0131】
また、ピックアップの移動速度を無段階で調整可能な場合は、関数により測定待ち時間を求める構成とすることもできる。
【0132】
[その他の実施の形態]
上記実施の形態では、試験片80を測定して、駆動装置の測定待ち時間を決定する際、まず、ピックアップを測定方向に一定距離移動させたのち、逆方向に移動させて原点位置に復帰させる構成としているが、この処理はバックラッシュを最大にすることを目的とするので、ピックアップ16にて測定する段階で既にバックラッシュが最大の状態になっていれば、この処理は不要である。すなわち、既に測定方向と逆方向にピックアップ16を移動させている場合は、この処理は不要である。
【0133】
更に、上記実施の形態では、試験片80の測定領域82に形成する凹凸の形状をサイン波形状としているが、他の形状を採用することもできる。たとえば、図10に示すように、断面台形の波形状(同図(A))、断面三角形の波形状(同図(B))、断面矩形の波形状にすることもできる。これらの凹凸の形状は、使用するピックアップに備えられる触針の大きさ、形状等に応じて選択される。
【0134】
また、測定待ち時間の設定処理を行うプログラムは、所定の記録媒体に格納して提供することもできる。
【符号の説明】
【0135】
10…表面粗さ測定装置、12A…第1の測定部、12B…第2の測定部、12C…第3の測定部、14…データ処理部、16A〜16C…ピックアップ、16a〜16c…触針、18A〜18C…駆動装置、20A〜20C…ハウジング、24A〜24C…コネクタ、26…接続ケーブル、28A〜28C…調整台取付溝、29A〜29C…調整台取付溝、30…データ処理部本体、32…コネクタ、34…ディスプレイ、36…操作パネル、38…電源スイッチ、40…コネクタ部、40A…通信コネクタ、40B…メモリコネクタ、42…排紙口、50…マイコン、52…駆動装置制御回路、54…信号変換回路、56…表示制御回路、58A…通信制御回路、58B…USBコントローラ、60…プリント制御回路、62…プリンタ、64…メモリコントローラ、66…EEPROM、70…調整台、72…レール部、74…連結部、80…試験片、82…測定領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
選択可能に複数揃えられ、ピックアップを被測定物の表面に沿って移動させる駆動手段と、
前記ピックアップから得られる変位の測定データを処理して、前記被測定物の表面粗さのデータを生成するデータ処理手段と、
前記駆動手段ごとに設定された測定待ち時間の情報が記録される記憶手段と、
測定に使用する前記駆動手段を検出する検出手段と、
前記検出手段で検出された前記駆動手段に対応する測定待ち時間の情報を前記記憶手段から取得する取得手段と、
を備え、前記データ処理手段は、測定開始から前記取得手段で取得された前記測定待ち時間の経過後に前記ピックアップから得られる変位の測定データを処理して、前記被測定物の表面粗さのデータを生成することを特徴とする表面粗さ測定装置。
【請求項2】
前記ピックアップの移動速度を複数選択できる場合において、
前記記憶手段には、前記各駆動手段の移動速度ごとの測定待ち時間の情報が記録され、
前記検出手段は、測定に使用する前記駆動手段と移動速度とを検出し、
前記取得手段は、前記検出手段で検出された前記駆動手段の移動速度に対応する測定待ち時間の情報を前記記憶手段から取得することを特徴とする請求項1に記載の表面粗さ測定装置。
【請求項3】
前記測定待ち時間の設定を指示する指示手段と、
前記指示手段の指示に応じて前記駆動手段を制御し、所定の試験片の表面に触針を当接させた前記ピックアップを測定時と同じ移動速度で所定の測定方向に移動させる移動制御手段と、
前記指示手段の指示に応じて前記ピックアップを移動させたときに、前記ピックアップの移動開始直後から得られる前記変位の測定データを解析して、前記変位の測定値が安定し始める点を測定値安定開始点として検出する測定値安定開始点検出手段と、
前記指示手段の指示に応じて前記ピックアップを移動させたときに、前記ピックアップが移動開始から前記測定値安定開始点に到達するまでの移動時間を算出する移動時間算出手段と、
算出された前記移動時間を前記測定待ち時間に設定し、測定に使用した前記駆動手段に関連付けて前記記憶手段に記録する記憶制御手段と、
を更に備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載の表面粗さ測定装置。
【請求項4】
前記移動制御手段は、前記ピックアップを前記測定方向に移動させる前に前記ピックアップを前記測定方向と逆方向に所定量移動させることを特徴とする請求項3に記載の表面粗さ測定装置。
【請求項5】
前記試験片には、表面に所定の凹凸が一定ピッチで繰り返し形成され、
前記測定値安定開始点検出手段は、前記試験片の凹凸に対応して現れる前記測定値の極値点を検出し、隣り合う極値点の間の距離を算出し、算出された距離が、あらかじめ設定された基準を満たす最初の極値点を検出し、該極値点を測定値安定開始点とすることを特徴とする請求項3又は4に記載の表面粗さ測定装置。
【請求項6】
前記試験片には、表面に前記凹凸として所定の波形を有するサイン波面が形成されることを特徴とする請求項5に記載の表面粗さ測定装置。
【請求項7】
前記ピックアップの移動速度を複数選択できる場合において、
あらかじめ移動速度ごとに設定された係数を前記移動速度算出手段で算出された移動時間に乗じて、移動速度ごとの移動時間を算出する第2の移動時間算出手段を更に備え、
前記記憶制御手段は、算出された前記移動速度ごとの前記移動時間を前記移動速度ごとの前記測定待ち時間に設定して前記記憶手段に記録することを特徴とする請求項3から6のいずれか1項に記載の表面粗さ測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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