説明

表面被覆された木質系複合材料

【課題】本発明の課題は、表面の木質感を維持して、その耐候性を向上させた木質系複合材料を提供することである。
【解決手段】木粉と熱可塑性重合体からなる木質系複合材料の存在下に、気相から木質系複合材料表面に供給された重合性単量体(モノマー)を加熱や光照射を行うことによって気相表面重合を行い、新たに複合材料表面に析出した付加重合体が、木質系複合材料の表面(表面層に存在する微細空間の表面を含む)を被覆することで、結果的に、その耐候性が向上した表面被覆された木質系複合材料が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、付加重合体によって表面被覆された木質系複合材料に関する。具体的には、木質系複合材料の表面層で、気相から供給される重合性単量体を重合することによって製造される、耐候性と耐水性に優れた木質系複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、産業および一般廃棄物の資源循環利用の高まりから、廃住宅から排出される木質素材と、容器包装リサイクル法に基づいて各自治体に収集されたプラスチック類とを、溶融混合して押出成形を行うことによって、木材様の複合材料が開発されてきている。このような木質系複合材料は、建築・土木資材として多方面で利用されてきている。しかし、屋外使用時に、太陽光の照射や雨水の浸透蒸発、空気中の酸素による酸化などの多様な刺激によって、木質系複合材料の変色や機械的強度の変化のみならず、表面層の劣化などの問題が顕在化してくる。これらの外部からの物理的および化学的要因だけでなく、木質系複合材料それ自身にも、劣化を促す内的要因が存在している。たとえば、木質成分とプラスチック成分とを溶融複合化する際の親和性の不足による界面剥離、押出成形時の木質系成分の共存に基づく低流動性から生じる表面スキン層の存在、さらに、木質系成分の吸湿・吸水性などである。
【0003】
木質系複合材料の耐候性を向上させるために、その表面層に耐候性に優れたアクリル樹脂やウレタン樹脂を塗布する技術(特許文献1、2)が一般的に行われているが、太陽光照射、とりわけ紫外線照射による分解劣化を防ぐために、紫外線吸収剤や光安定剤の表面層への添加(特許文献3、4)、光を遮断する無機系粉体などの添加(特許文献5)、紫外線を吸収する重合体の塗布(特許文献1)などの技術が既に開示されている。
【0004】
雨水の浸透蒸発による物理的劣化を防ぐために、耐水性の高い樹脂・塗料の塗布(特許文献6)や耐水性に優れたマトリックス樹脂成分の利用(特許文献7)などの技術も開示されている。
【0005】
また、木質成分とプラスチック成分との親和性を高めるために、極性の高いプラスチックを用いる方法(特許文献1)や、木質成分とポリオレフィンマトリックスの双方に親和性を有し双方の親和性を助ける成分として、不飽和カルボン酸グラフト変性オレフィン系重合体を用いる方法(特許文献4)などが提案されている。さらに、押出成形時の表面スキン層の形成を抑えるため、溶融粘度の低い素材を表層部に用いる方法(特許文献5)も提案されている。
【0006】
一方、木質系複合材のもう一つの重要な要素は、その木質感である。木質の外観を視覚的に見せるために、表面塗布剤として、透明なアクリル樹脂の利用は広く採用されている方法であり、さらに木質の手触り感を与えるために、表面をサンディングする技術(特許文献2、6、8)が採用されている。耐候性を高めるために表面塗布膜が薄すぎると、サンディングにより切削されてしまう危険性があるため、比較的厚い表面塗布膜が施されたり、サンディング後に再度塗布する方法が採られている(特許文献6)。
【0007】
上記したような様々な技術の提案にもかかわらず、耐候性の問題が解決されていない原因は、上述したように耐候性の問題が複数の要因によって引き起こされており、さらに耐候性対策の技術が、意匠性を低下させてしまう場合があるためである。従って、意匠性を低下させることなく、耐候性を向上させるために、木質系複合材料表面の形状や手触り感を消滅させることないように、できる限り薄く透明な耐候性材料で均一にコーティングする技術の開発が望まれている。
【0008】
固体表面を耐候性に優れたアクリル樹脂によって薄く透明にコーティングする技術として、液相法と気相法が知られている。液相法は、希薄溶液を刷毛塗り、ロールコーター、スピンコーター等の方法で実施されるが、多くの場合、木質表面の繊細な形状を失われる。さらには、その表面張力のために微細な空間には浸透できず、表面スキン層に存在する微細な空隙を埋めることが難しい。
【0009】
一方、気相法としては、プラズマ重合法(非特許文献1)や気相重合法(非特許文献2)が知られている。気相中からのモノマー分子が基板表面に吸着した後、重合が進行して表面を被覆するため、極めて薄い被覆が可能である。しかしながら、プラズマ重合法は、その処理設備が複雑でかつ高価であるという問題点がある。一方、気相重合法は、モンモリロナイトのような粘土鉱物の微細な空間に、モノマー分子が侵入して重合することが知られているが、木質系複合材の表面被覆の例はなく、耐候性への効果についても一切報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2003−128986号公報
【特許文献2】特開2009−006716号公報
【特許文献3】特開2000−006316号公報
【特許文献4】特開2003−253192号公報
【特許文献5】特開2004−114356号公報
【特許文献6】特開2005−081324号公報
【特許文献7】特開平9−241517号公報
【特許文献8】特開2004−041983号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】表面技術、Vol.50、No.6、1999年、526-531頁
【非特許文献2】Macromolecules、Vol.42、2009年、768-772頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、表面の木質感を維持して、その耐候性を向上させた木質系複合材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するための本発明の態様の1つは、木粉と熱可塑性重合体からなる木質系複合材料において、該複合材料の表面が、気相表面重合によって形成された付加重合体で被覆されていることを特徴とする表面被覆された木質系複合材料である。
【0014】
そして、本発明の他の態様は、木粉と熱可塑性重合体からなる木質系複合材料の存在下に、気相から該複合材料表面に供給された付加重合性単量体を気相表面重合によって重合させ、形成された付加重合体で、木質系複合材料の表面を被覆させることを特徴とする表面被覆された木質系複合材料の製造方法である。なお、本発明において気相表面重合とは、気体状態の単量体を用いて行われる重合反応が、複合材料表面で行われる場合だけでなく、気相で生成した付加重合体が複合材料表面に析出・生成する場合も含むものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の表面被覆された木質系複合材料は、その表面層が付加重合体によって薄く均一に被覆されることによって、その木質感を維持したまま、優れた耐水性と耐候性が与えられる。
【0016】
より具体的には、本発明によれば、木本系バイオマスと熱可塑性プラスチックとを溶融混練成形後、サンディング処理によって表面に木質感を与えて製造される木質系複合材料の表面を、耐水性と耐候性に優れた付加重合体によって薄く均一に被覆することによって、木本系バイオマスの問題点である吸水性を抑え、また、木本系バイオマス含有コンポジット成形体の問題点である、スキン層内のクラックなどの微細空間を充填し耐水性と耐候性に優れた表面被覆木質系複合材料を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、木粉と熱可塑性重合体からなる木質系複合材料の存在下に、気相から木質系複合材料表面に供給された重合性単量体(モノマー)を加熱や光照射を行うことによって表面気相重合を行い、新たに複合材料表面に析出した付加重合体が、木質系複合材料の表面(表面層に存在する微細空間の表面を含む)を被覆することで、結果的に、その耐候性が向上した表面被覆された木質系複合材料を与えるものである。
【0018】
本発明における木質系複合材料とは、木本系バイオマスの粉砕物と熱可塑性プラスチックとの複合体を少なくとも50重量%以上を含有する材料である。ここで、木本系バイオマスとは、木や竹などに由来する再生可能な天然資源であり、伐採木、間伐材、バークなどの一次資源のみならず、建設廃材や古紙などの二次資源も有効に用いることができる。また、これらの木本系バイオマスは、熱可塑性プラスチックとの溶融複合化を容易にするために、破砕や粉砕処理によって、粒径2mm以下、より好ましくは1mm以下、さらに好ましくは、0.5mm以下に細粒化もしくは細粉化されて用いられる。破砕および粉砕方法としては、その粒径に応じて、好適な方法が種々選択可能であるが、一般的には、カッターミルやハンマークラッシャーのような粉砕装置が用いられる。
【0019】
本発明において、木本系バイオマスと複合化される熱可塑性プラスチックとしては、加熱による流動化するプラスチックであれば何ら制限無く用いることが可能であるが、成型性の容易さから、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン類;ポリスチレンやアクリロニトニル−ブタジエン−スチレン(ABS)樹脂、アクリロニトニル−スチレン(AS)樹脂、メタクリル酸メチル−ブタジエン−スチレン(MBS)樹脂などのスチレン系樹脂類;ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートなどの芳香族ポリエステル類;ポリ乳酸やポリカプロラクトン、ポリ(3−ヒドロキシ酪酸)、ポリテトラメチルグリコリド、ポリグリコール酸などの脂肪族ポリエステル類などが好適に用いられる。これらの熱可塑性プラスチックの中でも、入手の容易さなどから、ポリオレフィン類が特に好ましく用いられる。また、これらの熱可塑性プラスチックは、単独あるいは混合して用いてもよい。
【0020】
本発明における木質系複合材料の複合化の方法は、木本系バイオマスを熱可塑性プラスチック中に均一に分散させることのできる方法であれば、何ら制限無く利用することができる。一般公知の方法としては、熱可塑性プラスチックを熱溶融させて、木本系バイオマスをせん断応力をかけながら練り込む溶融混練法、熱可塑性プラスチックを溶剤に溶解し、木本系バイオマスを加え分散させた後に、溶剤を気化除去する溶液混合法、熱したロール上で熱可塑性プラスチックを柔らかくし、その上に木本系バイオマスを添加し、熱ロールによって圧着しながら練り込む成型方法などがある。これらの方法の中でも、効率性の点で、溶融混練法が最も好適に用いられる方法である。
【0021】
本発明における木質系複合材料の組成は、20〜80重量%の範囲の木本系バイオマスおよび80〜20重量%の範囲の熱可塑性プラスチックからなる。さらに、全体の1〜20重量%の範囲内で、その他の有効な成分を含むことも可能である。かかる有効な成分とは、無機/有機フィラー、滑剤、加工助剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、着色材、および相溶化剤などである。これらの有効成分は、用途に応じてその添加および添加量が選択される。
【0022】
本発明における木質系複合材料は、一般に、その木質の風合いを出すために、表面をサンディング法により粗面化されて用いられる。このサンディングにより、表面のプラスチック層は削られ、プラスチック独特の光沢感は排除される。本発明の第一の特徴は、気相から重合性単量体を供給し表面で重合するという気相重合技術は、溶剤を用いる液体塗料の欠点である表面の粗面化の平滑化、すなわちプラスチック用の光沢表面の再生を抑制することができる点である。液体塗料が凹部に溜まり表面の凹凸を平滑化し、かつ、表面の繊細な凸部を傾倒もしくは削りとってしまうという問題点があるのに対し、気相重合法によれば、繊細かつ微細な表面を一様に、かつ粗面化された凹凸を何ら変形させることなしに、重合体が表面を被覆することが可能である。
【0023】
本発明における木質系複合材料は、一般に、フィラーとしての木本系バイオマスを包含しているため、その流動性は、通常の熱可塑性プラスチック単身に比べて劣っている。したがって、例えば押出成形機を用いた溶融成型加工時において、ダイスより押し出された成形体の表面には、スキン層と呼ばれる高度に配向した層が形成されやすい。このスキン層は、配向方向に沿って多くのクラックや易剥離面を有している。これらのクラックや易剥離面に水が浸入すると、例えば、凍結や乾燥蒸発などによる体積変化に伴い、クラックが膨張し、易剥離面が剥離を起こしやすい。本発明の第二の特徴は、気相重合時に供給される気体状の重合性単量体は、気体であるため、表面張力のため微細空間に入り込めない液体の単量体と違って、あらゆる微細空間に拡散していき、その微細空間の表面(材料表面)で重合することが可能である。
【0024】
本発明において、気相とは、木質系複合材料が接する気相であり、溶融混練法によって複合化され、混練機の出口(ダイス)より押し出されてきた直後から、サンディングにより粗面化された直後、あるいは製品形態にまで組み立てられた直後の木質系複合材料の接する気相をいう。
【0025】
本発明においては、この気相中に重合性単量体を存在させ、この重合性単量体を木質系複合材料の表面に吸着させて同時に重合を行うことが最も重要な態様である。この態様により、木質系複合材料の木質感の風合いを失うことなく、その表面を均一に被覆できる。さらに、スキン層内の微細空間にも拡散吸着した重合性単量体によって、スキン層内表面の被覆、重合条件の選択により、そのクラック内部を重合体で被覆し、安定化させることも本態様の重要な特徴である。
【0026】
本発明において、重合性単量体とは、蒸気もしくは微細なミストとして気相中に存在可能であり、適当な刺激によって互いに結合しあい、大きな分子量の物質に変化しうるものであれば、何ら制限なく用いることができる。具体的な重合性単量体を例示すれば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸−2−ヒドロキシエチル、グリシジルメタクリレート、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、グリシジルアクリレートなどの(メタ)アクリルエステル類;スチレン、ヒドロキシスチレンなどのスチレン誘導体;エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート、グリセロールトリメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、グリセロールトリアクリレートなどの多官能(メタ)アクリレート類;メタクリル酸、アクリル酸、クロトン酸などの不飽和脂肪酸類;ペンタフルオロプロピルメタクリレート、ヘプタフルオロプロピルメタクリレートなどの(メタ)アクリルパーフルオロエステル類;エチルグリシジルエーテル、シクロへキシルグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、トリメチレングリコールトリグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテルなどのエポキシ化合物などが好適に用いられる。これらの重合性単量体の中でも、重合速度や重合の容易さから、(メタ)アクリルエステル類、スチレン誘導体および多官能(メタ)アクリレート類がより好適に用いられる。
【0027】
本発明において、付加重合体とは、上述した重合性単量体が結合(付加反応)し合って、大きな分子量を形成したものをいう。付加反応を行う際に、一つの重合性単量体に二つ以上の重合性基が存在した場合、付加重合に伴い架橋点が形成され、結果として、網状の架橋体が表面に形成される場合がある。このような網状の架橋体は、それ自身、高い強度と耐熱性を有しているため、本発明においては、より好ましい態様の一つである。なお、ここでは、脱水、脱アルコール、脱アミンなどの低分子量を排出しながら重合する重縮合体は含まない。
【0028】
本発明において、木質系複合材料表面での重合とは、気相より吸着した重合性単量体が、適当な刺激によって結合しあい、それが連続して起こる反応である。ここで、適当な刺激とは、重合反応が進行するに足りる活性化エネルギーを与える刺激であり、通常、熱もしくは光エネルギーの形で供給され、それによって進行する反応を、それぞれ、熱重合および光重合という。これらの重合反応には、熱や光エネルギーに加えて、重合開始剤という成分の供給が必要な場合が多い。熱重合に際しては熱重合開始剤、光重合に際しては光重合開始剤が、それぞれ用いられる。
【0029】
ここで、熱重合開始剤とは、加熱により重合開始活性種を生成する化合物である。一般に、開始活性種としては、ラジカルやカチオン、アニオン種があり、いずれの活性種を利用することも可能であるが、気相中の水分の影響に対して安定な活性種であるラジカルを発生するラジカル重合開始剤が、最も好適に利用される。ラジカル重合開始剤としては、過酸化ベンゾイル、ジクミルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイドなどの過酸化物類;アゾビスイソブチロニトリルや2,2−アゾビス(2,4−ジメチル−4−メトキシ)バレロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)などのアゾ化合物類などが好適に用いられる。これらのラジカル重合開始剤は、それぞれラジカル種を生成する活性化エネルギーが異なっており、気相重合を行う温度に応じて、適切な10時間半減温度を示すラジカル重合開始剤を選択することができる。一般的に熱重合で用いられる温度は、50〜120℃の範囲であり、この温度範囲で適切な重合開始剤が選択される。50℃未満では、用いられる開始剤が非常に低温で分解しやすいため、取り扱い状の安全性の確保が必要である。一方、120℃を超える温度では、熱可塑性プラスチックとしてポリエチレンを用いた場合に、熱変形を受ける場合がある。
【0030】
光重合開始剤としては、紫外線などの光照射によって重合開始活性種、たとえば遊離ラジカルを生成するようないかなる化合物であってもよい。具体的には、アセトフェノン系化合物(吸収波長220〜260nmで活性種を生成)、ベンゾフェノン系化合物(同吸収波長210〜260nm)、チオキサントン系化合物(同吸収波長259〜260nm)およびベンゾインエーテル系化合物(同吸収波長360nm付近)光重合開始剤が好適に用いられる。具体的には、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル
−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノプロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、2−ベンジル
−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタン−1−オン、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メ
チル−1−プロパン−1−オン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、4’−イソプロピル−2−ヒドロキシ
−2−メチルプロピオフェノンなどのベンゾイル系化合物類;ビスアシルホスフィンオキサイド、アシルホスフィンオキサイド、2,4,6−トリ
メチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,6−ジメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ベンゾイルジエトキシホスフィンオキサイ
ド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキサイドなどのホスフィンオキサイド系化合物類;ベンゾイ
ンメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、n−ブチルベンゾインエーテルなどのベンゾインアルキルエーテル化合物類;p−tert−ブチルトリクロロアセトフェノン、p−tert−ブチルジクロロアセトフェノン、アセトフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、塩素化アセトフェノン、ヒドロキシアセトフェノン、α,α−ジクロロ−4−フェノキシアセトフェノンなどのアセトフェノン系化合物類;ベンゾフェノン、4,4’−ジクロロベンゾフェノン、4,4’−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4’−
ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、3,3’,4,4’−テトラ(tert−ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3’−ジメチル−4−
メトキシベンゾフェノンなどのベンゾフェノン系化合物類;2−クロロチオキサントン、2−メチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、
2,4−ジイソプロピルチオキサントンなどのチオキサントン系化合物類;ビアセチル、フェニルグリオキシル酸
メチル、メチルベンゾイルホルメートなどのジケトン系化合物類;およびα,α’−アゾビスイソブチロニトリル、ベンゾイルパーオキサイド、カンファーキノン、テトラメチルチウラムジスルフィドなどの光重合開始剤が好適に用いられる。これらの光重合開始剤は、単独で用いてもよく、または2種以上を混合して使用することも可能である。さらに、少なくとも1種の光増感剤を光開始剤と組み合わせて用いることも有効な方法である。
【0031】
これらの光重合開始剤から、重合開始活性種を発生させるためには、使用する重合開始剤の吸収波長領域の光の照射が必要である。具体的に用いられる光源としては、低圧水銀UVランプ(照射波長185〜254nm)、中圧水銀UVランプ(照射波長254nm以上の連続光)、高圧水銀UVランプ(照射波長365nm)、メタルハライドUVランプ(照射波長200〜400nm)、キセノンフラッシュランプ(照射波長200〜2000nm)、キセノンショートアークランプ(照射波長 可視光〜赤外域)、高圧UVランプ(照射波長250〜320nm/365nm)、DeepUVランプ(照射波長〜400nm)、低圧UVランプ(照射波長185nm/254nm)、エキシマランプ(照射波長126/146/172/222/308nm)、KrFレーザ(照射波長248nm)などが効果的に用いられる。この光重合に際しては、熱重合と組み合わせて実施することも好適な態様の一つである。
【0032】
重合に必要な時間は、チャンパー内フロー方式で行う場合、0.5〜10分、好ましくは、0.5〜5分であり、バッチ処理方式の場合、5分〜24時間、好ましくは、10分から2時間の範囲で実施される。これらの反応時間は、気相中の重合性単量体の濃度や重合開始剤の濃度、温度、光照射強度に応じて、適切に選択される。一般的に、高い重合性単量体濃度および開始剤濃度、温度、光照射強度の条件下では、反応時間はより短い時間が選択される。
【0033】
木質系複合材料表面上で気相重合を実施するには、重合性単量体に先立ち、あるいは同時に重合開始剤を材料表面上に存在させる必要がある。開始剤を材料表面上に移動させる方法としては、適当な溶剤に溶解して材料表面に塗布する方法、気相から気化させた開始剤を材料表面に吸着させる方法、および適当な溶剤ミストやガス気流に乗せて材料表面に付着させる方法などがある。これらの方法を気相重合条件に合わせて、種々選択もしくは組み合わせて用いることが可能である。
【0034】
気相重合により、木質系複合材料表面に被覆膜を形成させる手段としては、木質系複合材料を製造する装置、例えば、サンディング装置の直後に、気相重合用のチャンバーを置き、その内部をサンディングされた木質系複合材料がある特定の速度で通過する間に、気相重合によって、その材料表面を付加重合体が覆う。このような気相重合用チャンバーに要求される要件としては、1)気相中に重合性単量体を存在させるための不活性ガス気流、ミスト気流、減圧などの状態が設定されること。2)開始剤と重合性単量体を逐次、もしくは同時に気相中に気化させるための、バブリング、スプレー、減圧ポンプなどの装置が付帯すること、3)木質系複合材料表面で重合を行わせるために、加熱及び/又は光照射が可能であること、そして、4)適切な循環および/または排気設備を有し、チャンバーの中の気相を循環して重合性単量体および重合開始剤を有効利用できることである。
【0035】
本発明における気相重合によって得られる被覆層は、木質系複合材料の表面を均一に被覆することが、最も効果的に耐水性および耐候性に寄与する。従って、付加重合体で、複合材料表面を被覆させた後、次いで、該付加重合体を加熱処理により均一平滑化して、表面被覆層をより均一にする方法も、本発明の態様の一つである。気相重合は、複雑な表面層を隈なく被覆するための好ましい方法である。しかし、重合反応をミクロに観察すると、重合反応の停止反応が抑制されやすい被覆重合体表面上で、より反応が継続しやすい。したがって、マクロな観点からは薄く均一な被覆層であっても、ミクロな観点からは被覆重合体は積層しやすいため、ミクロな団子状に形成される場合がある。このような場合、被覆材料のガラス転移温度あるいは融点以上に加熱することによって、容易に、ミクロな観点からもより均一な表面被覆層に変換することが可能である。たとえば、ポリメタクリル酸メチルで表面被覆した場合、ポリメタクリル酸メチルのガラス転移温度である約100℃弱を超える温度、たとえば110℃で加熱することで、積層した付加重合体は軟化拡散し、ミクロな視点でもより均一な被覆層に変化しうる。ただし、ミクロな観点で団子状に積層した被覆層は、当該木質系材料の木質感をさらに強調する効果を発現する場合もある。したがって、木質の粗面状態の保持が第一義的に要求される場合には、加熱処理は特に必要としない。
【0036】
本発明の表面被覆木質系複合材料の被覆層は、該複合材料の木質感の風合いを保ち、なお且つ耐候性の向上に寄与するための層である。したがって、該被覆層の層厚は、0.1〜20μm、好ましくは、0.5〜15μm、さらに好ましくは、1〜10μmmであることが好ましい。層厚が0.1μm未満では耐水性や耐候性の効果は小さく、一方、20μmを超える層厚では、表面の木質感が失われる場合がある。
【0037】
本発明の表面被覆木質系複合材料の被覆層の確認方法は、一般公知の確認方法が何ら制限なく用いられる。例えば、視覚的観察法としては、光学顕微鏡観察、走査型電子顕微鏡観察、透過型電子顕微鏡観察、および原子間力顕微鏡などを用いて被覆層の被覆状況や層厚を確認することができる。一方、化学構造の確認のためには、表面反射を利用した赤外分光分析法、被覆層を適当な溶剤に溶解した後に、核磁気共鳴(NMR)分析法が有効である。さらに、被覆した付加重合体の分子量は、適切な溶剤を用いて溶解し、ゲルパーミエーションクロマトグラフ法を用いて確認することができる。さらに、示差走査熱量計(DSC)や熱天秤/示差熱分析装置(TG/DTA)を用いて、被覆層成分の熱特性を確認することができ、さらに、X線回折法を用いて、被覆層の結晶構造なども確認することができる。
【0038】
本発明は、木質系複合材料の耐候性を改良することを目的としている。耐候性とは、耐水性、耐光性、耐酸化性などである。ここで、耐水性の評価は、水中もしくは熱水中に材料を浸漬し、材料の吸水に伴う重量変化やサイズの変化、さらには表面層の剥がれなどから評価される。また、耐光性は、太陽光のスペクトルに準じた連続波長を有する光や、光分解を促進させるより強い強度を持った紫外線などを用いて材料表面を照射し、それに伴う木質系複合材料の物性変化、例えば、熱転移温度の変化から評価される。具体的には、ポリエチレンは、光照射によって架橋反応が進行するため、その融点が高温側にシフトするのに対し、ポリプロピレンは、光照射によって主鎖の解裂反応が進行して、その融点は低温側にシフトする。さらに、耐酸化性は、酸素によって材料表面層から水素が引き抜かれたり酸素分子が結合することによって、材料表面が酸化脆化する現象から評価される。
【0039】
具体的な耐候性試験方法は、以下のとおりである。
1)耐光性試験:UV−C(波長領域280nm未満)で照射2日間。
2)耐熱酸化性試験:125℃の空気(オーブン)中で1日間。
3)耐水性試験:水中煮沸で1時間。
4)耐光性+耐熱酸化性試験:UV−C照射2日+125℃で1日。
5)耐光性+耐熱酸化性+耐水性試験:UV−C照射2日+125℃で1日+水中煮沸1時間。
【実施例】
【0040】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、これらの実施例は何ら本発明の範囲を制限するものではない。
【0041】
[実施例1〜2]
[木粉/ポリオレフィン複合材料表面でのメタクリル酸メチルの光気相重合による被覆]
木粉/ポリエチレン−ポリプロピレン(50/50重量比)を溶融押出成形後、サンドペーパーを使ったサンディングにより表面を粗面化した木質系複合材料サンプル(20×20×5.8mm)をH型反応器の片方の容器底に置いた。もう一方の容器底には、光重合開始剤である2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオフェノン(1ml)を入れた。光重合開始剤を凍結脱気処理後、H型反応器全体を80℃オーブンに入れ、30分間静置することで、ガス化した開始剤を木質系複合材料の表面に吸着させた。次にこの複合材料サンプルを、石英製の蓋を付属したH型反応器中に入れ、もう一つの容器底に重合性単量体であるメタクリル酸メチル(MMA、1ml)を入れた。MMAを凍結脱気処理後、H型反応容器をそのまま35℃のオーブン中に入れて、MMAの飽和蒸気圧下に30分と1時間、UV−A(波長領域400〜315nm)/B(波長領域315〜280nm)光を照射(4.3mW/cm)し、気相重合を行った。
【0042】
重合後、複合材料表面は、外観上は変化が認められなかった。表1に、複合材料表面に析出したポリメタクリル酸メチルの生成量を示した。また、ここで生成した表面被覆された複合材料は、120℃のオーブン中で2時間、加熱処理された。加熱後の表面被覆複合材料を液体窒素中で割り、その断面を顕微鏡で観察した。その結果、木質系複合材料の表面は、約5μmの厚さのポリメタクリル酸メチル層で被覆されていることが確認された。
【0043】
【表1】

【0044】
[実施例3〜5、比較例1〜3]
[表面被覆木粉/ポリオレフィン複合材料の劣化促進試験]
実施例1で調製したポリメタクリル酸メチルによる表面被覆された木質系複合材料サンプルを用いて、次の3種類の劣化促進試験を実施した。1)UV−C(波長領域280nm未満)で照射2日間、2)UV−C照射2日+125℃で1日、3)UV−C照射2日+125℃で1日+水中煮沸1時間の各条件で劣化促進試験を行った。各劣化処理後、木質系複合材料中のポリエチレン成分とポリプロピレン成分の熱特性を、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定した。測定条件は、窒素ガス気流(20ml/分)中、室温〜185℃まで10℃/分の昇温速度で行った。
【0045】
その結果、ポリエチレン成分の融点が120〜130℃、ポリプロピレンの融点が160〜170℃の温度範囲で観察された。それぞれの融点のピークトップの値を表2に示した。また、比較例として、表面を被覆していない木質系複合材料サンプルを用いて、上記と同じ劣化促進試験を行った。その結果を表3に示した。表2と表3の結果より、実施例3と比較例1、実施例4と比較例2、および実施例5と比較例3を比較すると、いずれの例においても、ポリプロピレン成分の変化に比べて、ポリエチレン成分の融点ピークが高温側にシフトしていることから、ポリエチレン成分が優先的に劣化したことを示している。ここで、ポリメタクリル酸メチルによって表面被覆したサンプルは、同じ条件で処理された比較例サンプルと比較して、ポリエチレン成分の融点ピークの上昇度は小さく、表面被覆層が耐劣化保護膜として機能したことを示している。
【0046】
【表2】

【0047】
【表3】

【0048】
[実施例6]
[木粉/ポリオレフィン複合材料表面でのメタクリル酸メチルの熱気相重合による被覆]
実施例1で調製した表面を粗面化した木質系複合材料サンプル(20×20×6mm)を用意した。塩化メチレンに開始剤である2,2−アゾビス(4−メトキシ)2,4−ジメチルバレロニトリルを溶解させ、0.1Mの溶液を作成し、その中にサンプルを浸して1分間、保持した。その後、取り出して風乾(20分)した後、H型反応器の片方の容器底に置いた。もう一つの容器底に重合性単量体であるメタクリル酸メチル(MMA、1ml)を入れた。MMAを凍結脱気処理後、H型反応容器をそのまま35℃のオーブン中に入れて、MMAの飽和蒸気圧下に2時間、気相重合を行った。
【0049】
重合後、複合材料表面は、色が濃くなったもののその木質感を与える表面の粗面性は保持されていた。表4に、複合材料表面に析出したポリメタクリル酸メチルの生成量を示した。熱気相重合後の表面被覆された複合材料を液体窒素中で割り、その断面を顕微鏡で観察した。その結果、木質系複合材料の表面は、約10〜15μmの厚さのポリメタクリル酸メチル層で被覆されていることが確認された。
【0050】
【表4】

【0051】
[参考例1、2]
[セルロースシート表面でのメタクリル酸メチルの光気相重合による被覆と耐水性]
木質系複合材料の表面層のモデル物質として、セルロースシートを用いて、その表面をメタクリル酸メチルの光気相重合によって被覆し、さらにその耐水性を調べた。具体的には、粗な表面を持つ木質系素材であるセルロースシート(ADVANTEC製、No.131、φ55mm)をH型反応器の片方の容器底に置いた。もう一方の容器底には、光重合開始剤である2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオフェノン(1ml)を入れた。光重合開始剤を凍結脱気処理後、H型反応器全体を80℃オーブンに入れ、30分間静置することで、ガス化した開始剤をセルロースシートの表面に吸着させた。次にこのシートサンプルを、石英製の蓋を付属したH型反応器中に入れ、もう一つの容器底に重合性単量体であるメタクリル酸メチル(MMA、1ml)を入れた。MMAを凍結脱気処理後、H型反応容器をそのまま35℃のオーブン中に入れて、MMAの飽和蒸気圧下に40分間、UV−A/B光を照射(4.3mW/cm)し、気相重合を行った。重合後、セルロースシート表面は、外観上は変化が認められなかった。表5にセルロースシート表面に析出したポリメタクリル酸メチルの生成量および分子量を示した(参考例2)。
【0052】
[水中試験による膨潤率に基づく耐水性の評価]
セルロースシートサンプルのサイズ、厚さおよび重量を、それぞれ、ノギス、マイクロメーター(Telcock社PG-01)および電子天秤(AND社、HR-202i)を用いて、3か所を測定し平均化した。次に、シャーレに入れた蒸留水5ml(約20℃)の中に、光気相重合によって表面被覆したシートサンプル(参考例2)と、被覆していないオリジナルのセルロースシート(参考例1)を2分間、浸漬した。これらを取り出した後、キムワイプで軽く水を取り除き、サイズ変化(直径、厚さ、それぞれ3か所)と重量変化を測定した。得られた結果を表5に併記した。表5の結果から、元のセルロースシート(参考例1)は容易に水分を吸収して膨潤変形するのに対して、ポリメタクリル酸メチルによって表面被覆されたセルロースシート(参考例2)は膨潤変形が抑えられることが明らかとなった。
【0053】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
木粉と熱可塑性重合体からなる木質系複合材料において、該複合材料の表面が、気相表面重合によって形成された付加重合体で被覆されていることを特徴とする表面被覆された木質系複合材料。
【請求項2】
複合材料の表面が、0.1〜20μmの厚さの付加重合体で被覆されていることを特徴とする請求項1記載の表面被覆された木質系複合材料。
【請求項3】
木粉と熱可塑性重合体からなる木質系複合材料の存在下に、気相から木質系複合材料表面に供給された付加重合性単量体を気相表面重合によって重合させ、形成された付加重合体で、木質系複合材料の表面を被覆させることを特徴とする表面被覆された木質系複合材料の製造方法。
【請求項4】
気相表面重合が、光重合開始剤を用いる光照射によって行われることを特徴とする請求項3記載の表面被覆された木質系複合材料の製造方法。
【請求項5】
付加重合体で、木質系複合材料の表面を被覆させた後、次いで、該付加重合体を加熱処理により均一平滑化することを特徴とする請求項3記載の表面被覆された木質系複合材料の製造方法。


【公開番号】特開2011−183680(P2011−183680A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−51603(P2010−51603)
【出願日】平成22年3月9日(2010.3.9)
【出願人】(504174135)国立大学法人九州工業大学 (489)
【出願人】(503097440)株式会社エコウッド (3)
【Fターム(参考)】