説明

袋状のカバー、カバーを備えた成形品及びヘッドレスト

【課題】カバーの種別を識別するための識別手段を低コストで設けることができるとともに、カバーの種別の管理を容易に行うことができ、しかも、外観が損なわれるのを抑制することができるカバーを備えたヘッドレストを提供する。
【解決手段】カバー11の底面に形成されたステー孔11aからヘッドレストステー12の二本の脚部12bを突出させる。カバー11の内部にスリット状の開口11bから発泡合成樹脂原料を注入してクッション材13を発泡成形する。前記カバー11の底面に該カバー11の種別を識別するための識別用ステッチ25を予め施す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車の座席シート用のヘッドレスト、アームレストあるいはシートバック等の袋状のカバー、カバーを備えた成形品及びヘッドレストに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車の座席シートのヘッドレストとして、特許文献1に開示されたものが提案されている。このヘッドレストのトリムカバーは、複数の所定形状に裁断された生地を接ぎ合わせて袋状に縫製されている。
【0003】
このようなヘッドレストにおいて、同一デザインであっても、例えば、カバーの表皮層に対し抗アレルギー性機能を付与するような処理を施す仕様と、施さない仕様とを用意する場合がある。
【特許文献1】特開2002−165670号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、前記のような処理は、形状及び色彩が殆ど変化しないので、表面処理が行われたか否かを肉眼で見分けることが非常に難しくなる。このため、製造、在庫及び出荷の各過程におけるカバー単体及びヘッドレストの種別の管理が難しい。例えば、自動車の座席シートのバックシートへのヘッドレストの組み付け工程において、ヘッドレストの仕様の取り違えが発生し、誤組み付けが起きるおそれがあるという問題があった。
【0005】
上記の問題を解消するため、ヘッドレストのカバーの表面に仕様の種別を識別するための識別ラベルを貼着することもできるが、識別ラベルを製造する工程と、この識別ラベルをカバーに取り付ける工程とが必要となるので、製造コストのアップに直結する上に、識別ラベルが目に付き易いので、ヘッドレストの外観を損なうという問題もある。
【0006】
上記の問題は、座席シートのシートバックや座席シートの側部に設けられたアームレスト等のカバーの内部にクッション材及びインサート部材を収容した各種の成形品にも同様に生じる問題である。
【0007】
本発明の目的は上記の従来の技術に存する問題点を解消して、カバーの種別を識別するための識別手段を低コストで設けることができるとともに、カバーの種別の管理を容易に行うことができ、しかも、外観が損なわれるのを抑制することができる袋状のカバー、カバーを備えた成形品及びヘッドレストを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、内部にクッション材を収容可能に構成した袋状のカバーにおいて、カバーの種別を識別するための識別用ステッチを設けたことを要旨とする。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1において、前記カバーには、内側に折曲された一対の開口形成片により発泡合成樹脂原料の注入用のスリット状の開口が形成され、前記識別用ステッチは、前記開口形成片と該形成片に折曲部を介して繋がるカバーの外表面とに亘って施されていることを要旨とする。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項2において、前記識別用ステッチの末端は前記開口形成片の幅方向の途中に設定されていることを要旨とする。
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項において、前記カバーの裏面には前記識別用ステッチの針孔を遮蔽するための針孔遮蔽手段が設けられていることを要旨とする。
【0011】
請求項5に記載の発明は、請求項4において、前記針孔遮蔽手段は遮蔽用粘着シートであることを要旨とする。
請求項6に記載の発明は、請求項1〜5のいずれか一項に記載の袋状のカバーの内部にクッション材を収容したことを要旨とする。
【0012】
請求項7に記載の発明は、請求項6において、前記クッション材は、前記カバーを成形型にセットするとともに、カバーに形成されたスリット状の開口から発泡合成樹脂原料を注入して発泡成形したものであることを要旨とする。
【0013】
請求項8に記載の発明は、請求項6又は7において、前記識別用ステッチは、成形品の組付け状態において隠れる部位に形成されていることを要旨とする。
請求項9に記載の発明は、請求項6において、前記カバーの内部には該カバーの外部に突出された二本の脚部を有するヘッドレストステーの基端部がクッション材とともに収容されていることを要旨とする。
【0014】
請求項10に記載の発明は、請求項9において、前記識別用ステッチはヘッドレストステーの脚部の間におけるカバーの底部に設けられていることを要旨とする。
(作用)
請求項1に記載の発明は、前記カバーに対しカバーの種別を表す識別用ステッチが袋状のカバーを製造する縫製工程の前、後又はその途中に施されるので、識別ラベルを取り付ける構成と比較して、材料コスト及び製造コストを低減することができる。又、識別用ステッチによりカバーの種別の管理が容易となる。さらに、識別用ステッチは、識別糸が表れるのみであるため、カバーの外観が損なわれるのを抑制することができる。
【0015】
請求項2に記載の発明は、前記識別用ステッチが前記開口形成片と該形成片に折曲部を介して繋がるカバーの外表面とに亘って施されているので、ステッチの始端と終端をカバーの外部に露出しないようにすることができ、両端の解れが生じ難くなるとともに、ステッチの外観を向上することができる。
【0016】
請求項3に記載の発明は、前記識別用ステッチの末端は前記開口形成片の幅方向の途中まで形成されているので、前記両開口形成片の途中から先端縁までの間の前記識別用ステッチが形成されていない接触界面には識別用ステッチを形成する識別糸のカバーの表面への食い込みによる溝が生じない。このため、前記カバーが成形型にセットされ、カバーの内部に前記開口から発泡合成樹脂原料が注入されて該発泡合成樹脂原料によりクッション材が発泡成形される場合に、前記両開口形成片のステッチが形成されていない部分が発泡合成樹脂原料により互いに圧接されてスリット状の開口が閉塞され、発泡合成樹脂原料がカバーの外部に漏出するのが防止される。
【0017】
請求項4に記載の発明は、前記カバーの裏面には前記識別用ステッチの縫着工程において、該カバー片に縫針により形成された針孔が針孔遮蔽手段により遮蔽されるので、前述したクッション材が発泡成形される場合に、前記針孔に残された隙間から発泡合成樹脂原料が漏出するのが防止される。
【0018】
請求項5に記載の発明は、前記針孔遮蔽手段が遮蔽用粘着シートであるため、コストを低減することができるとともに、粘着シートの装着を容易に行うことができる。
【発明の効果】
【0019】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のカバーの発明によれば、材料コスト及び製造コストを低減することができるとともに、カバーの種別の管理を容易に行うことができ、さらに、カバーの外観が損なわれるのを抑制することができる。
【0020】
請求項6〜8のいずれか一項に記載のカバーを備えた成形品の発明によれば、被取付部材に対する成形品の誤組み付けを防止することができる。
請求項7に記載の発明は、前記識別用ステッチが被取付部材へ成形品を取付けた状態で隠れる部位に形成されているので、カバーの外観が損なわれるのを防止することができる。
【0021】
請求項9又は10に記載のヘッドレストの発明によれば、自動車のバックシートに対するヘッドレストの誤組み付けを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明を成形品としてのヘッドレストのカバー及びヘッドレストに具体化した一実施形態を図1〜図4に従って説明する。
図1に示すように、この実施形態の車両用座席シートに装着されるヘッドレストは袋状のヘッドレストカバー11と、該カバー11の内部に基端部12aを収容し、かつカバー11の底面に形成された二つのステー孔11aから二本の脚部12bを外部に突出させたヘッドレストステー12と、ヘッドレストステー12の内部に収容されたクッション材13とにより構成されている。前記クッション材13は前記カバー11の底面に形成されたスリット状の開口11bから該カバー11の内部に注入された発泡合成樹脂原料が発泡成形されたものである。
【0023】
前記カバー11は、図2に示すように、搭乗者の後頭部を受ける前面14a及び前側底面14bを形成する第1カバー片14と、背面15a及び左右両側面15bを形成する第2カバー片15と、後側底面16aを形成する第3カバー片16とのそれぞれの周縁の縫い代を、図3及び図4に示す縫着糸17により縫着して全体として袋状に形成されている。図2に示すように前記第1カバー片14の前側底面14bの後端縁には、開口形成片14cが形成されるとともに、第3カバー片16の前端縁には、前記開口形成片14cと対応するように開口形成片16bが形成されている。そして、前記両開口形成片14c,16bの両端縁を図3に示す縫着糸18により縫着し、両開口形成片14c,16bの間にスリット状の開口11bを形成している。
【0024】
前記カバー11を製造する際には、各カバー片14〜16の表裏が逆となる状態で縫着作業が行われ、前記開口11bを利用して、裏返し状態のカバー11が反転される。
前記第1〜第3カバー片14〜16を構成する生地は、図4に示すようにファブリック等で構成される表皮層21と、その表皮層21の内側に積層された例えばポリウレタンフォームで構成されたスラブよりなる中間層22とを備えている。また、中間層22の内側には、後述するクッション材13の成形工程において、開口11bからカバー11の内部に注入された発泡合成樹脂原料13aが中間層22及び表皮層21に浸透することを防止するためのポリウレタンよりなる薄膜状のフィルム層23が貼着されている。
【0025】
次に、この発明の要部構成について説明する。
カバー11は表面処理を施した仕様と施していない仕様とが用意されている。そして、表面処理を施した仕様のカバー11のみに識別用ステッチ25が施されている。なお、表面処理が施されていない仕様のカバー11のみに識別用ステッチ25を施してもよい。前記表面処理としては、例えば抗アレルギー表面処理があり、この表面処理は肉眼による識別が困難であるために、前記識別用ステッチ25が設けられている。即ち、図2に示すように前記第3カバー片16の後側底面16a及び開口形成片16bには、識別用ステッチ25が施されている。この識別用ステッチ25は、全体で扁平U字状に形成されており、縫い始め端(始端)25a及び縫い終り端(終端)25bは、図2,3に示すように開口形成片16bの幅W方向の途中に設定されている。
【0026】
前記識別用ステッチ25を形成する識別糸として、表皮層21の色彩と異なる色彩のものを用いることが好ましい。第3カバー片16の後側底面16aの裏面には、縫い針が第3カバー片16を貫通する際に形成される針孔の隙間を遮蔽するための針孔遮蔽手段としての粘着剤を塗布した遮蔽用粘着シート26が貼着されている。
【0027】
次に、前記クッション材13は、以下のように成形される。
即ち、図4に示すようにヘッドレストステー12を装着したカバー11を開口11bを上向きにした状態で下型31,32にセットするとともに、上型33に、ヘッドレストステー12を保持させる。この状態において、上型33に形成した図示しない注入口から開口11bに挿入したノズルを介してカバー11の内側に発泡合成樹脂原料13aを注入し、発泡させる。このようにして、クッション材13が発泡成形される。
【0028】
上記実施形態のヘッドレストのカバー11によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)上記実施形態では、第3カバー片16の後側底面16aに対し、カバー11の表皮層21に仕様の相違を示す識別用ステッチ25を施した。このため、肉眼により表皮層21の仕様の識別が困難であっても前記識別用ステッチ25の有無によってカバー11の仕様を容易に識別することができる。従って、在庫、運搬及び組み付け工程等におけるカバー11及びヘッドレストの種別の管理を容易に、かつ誤りなく行うことができて、ヘッドレストの誤組み付け等を防止することができる。
【0029】
(2)上記実施形態では、識別用ステッチ25は各カバー片14,15,16の縫い付けのための縫製時に施すことができるため、手間がかかず、簡単に施すことができ、部品点数も増えないので、コストアップを抑制することができる。
【0030】
(3)上記実施形態では、第3カバー片16の後側底面16aに識別用ステッチ25を設けたので、シートバックに対しヘッドレストを組み付けた使用状態で、識別用ステッチ25を目立ち難くするこができ、従って、ヘッドレストの外観が損なわれるのを抑制することができる。
【0031】
(4)上記実施形態では、識別用ステッチ25の始端25a及び終端25bを開口形成片16bに形成し、識別用ステッチ25の中間部を、前記開口形成片14c,16bと該形成片に折曲部を介して繋がるカバー11の外表面とに亘って施した。このため、始端25aと終端25bに止め縫いが施されていてもその部分が開口形成片14cにより塞がれて露出しないので、外観の低下を防止することができるとともに、始端25aと終端25bを解れ難くすることができる。仮に、解れが生じてもスリット状の開口11bに収まることになるので、その解れが識別用ステッチ25の露出部分に伝播するのを防止することができる。
【0032】
(5)上記実施形態では、識別用ステッチ25の始端25a及び終端25bが開口形成片16bの途中で止められている。このため、カバー11内へのクッション材13の発泡時において、前記両開口形成片14c,16bのステッチ25が形成されていない部分が発泡合成樹脂原料により互いに圧接されてスリット状の開口11bが閉塞され、発泡合成樹脂原料13aが識別用ステッチ25によって生じる両開口形成片14c,16bの隙間から漏出するのを防止することができる。
【0033】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・図5又は図6に示すように搭乗者側の部分が下方へ突出した形状のヘッドレストに具体化してもよい。この場合には、識別用ステッチ25が突出部分によって見え難くなるので、カバー11の外観が損なわれるのを防止することができる。
【0034】
・図7(a)〜(d)に示すように、前記識別用ステッチ25の形状を、例えば三日月状、長四角形状、円形状、あるいはアルファベットの記号等に変更してもよい。これらの場合には、識別用ステッチ25の始端と終端に止め縫いを施す。
【0035】
・前記識別用ステッチ25を施す位置を、カバー11の底面以外の任意の部位に設定してもよい。この場合には、識別用ステッチ25が外部に露出されるが、識別用ステッチ25を、一種の装飾用ステッチとして機能するようにデザインを考慮すれば、カバー11の外観が損なわれるのを抑制することができる。
【0036】
・前記カバーの開口形成片を省略し、カバー内に開口から予めカバーの外部で成形型により成形したクッション材を入れるようにしてもよい。
・前記実施形態では、第1〜第3カバー片14〜16を縫着してカバー11を製造するようにしたが、二枚のカバー片又は四枚上のカバー片を縫着してカバー11を製造するようにしり、一枚のカバー片からカバー11を製造するようにしたりしてもよい。
【0037】
・前述したヘッドレストに代えて、自動車の座席シートの側部に配設されるアームレストに具体化してもよい。又、座席シートのシートバックに具体化してもよい。さらに、その他のカバーの内部にクッション材及びインサート部材を収容した各種の成形品に具体化してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】この発明をヘッドレストに具体化した一実施形態を示す後側から見た斜視図。
【図2】カバーを構成する第1〜第3カバー片の分離斜視図。
【図3】ヘッドレストを逆向きにした斜視図。
【図4】ヘッドレストの成形型を示す断面図。
【図5】この発明の別の実施形態を示すヘッドレストの斜視図。
【図6】この発明の別の実施形態を示すヘッドレストの斜視図。
【図7】(a)〜(d)は、識別用ステッチの別の実施形態を示す平面図。
【符号の説明】
【0039】
11…カバー、11b…開口、12…ヘッドレストステー、12a…基端部、12b…脚部、13…クッション材、13a…発泡合成樹脂原料、14〜16…カバー片、14c,16b…開口形成片、25…識別用ステッチ、25a…始端、25b…終端、26…遮蔽用粘着シート。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部にクッション材を収容可能に構成した袋状のカバーにおいて、カバーの種別を識別するための識別用ステッチを設けたことを特徴とする袋状のカバー。
【請求項2】
請求項1において、前記カバーには、内側に折曲された一対の開口形成片により発泡合成樹脂原料の注入用のスリット状の開口が形成され、前記識別用ステッチは、前記開口形成片と該形成片に折曲部を介して繋がるカバーの外表面とに亘って施されていることを特徴とする袋状のカバー。
【請求項3】
請求項2において、前記識別用ステッチの末端は前記開口形成片の幅方向の途中に設定されていることを特徴とする袋状のカバー。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項において、前記カバーの裏面には前記識別用ステッチの針孔を遮蔽するための針孔遮蔽手段が設けられていることを特徴とする袋状のカバー。
【請求項5】
請求項4において、前記針孔遮蔽手段は遮蔽用粘着シートであることを特徴とする袋状のカバー。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の袋状のカバーの内部にクッション材を収容したことを特徴とする袋状のカバーを備えた成形品。
【請求項7】
請求項6において、前記クッション材は、前記カバーを成形型にセットするとともに、カバーに形成されたスリット状の開口から発泡合成樹脂原料を注入して発泡成形したものであることを特徴とする袋状のカバーを備えた成形品。
【請求項8】
請求項6又は7において、前記識別用ステッチは、成形品の組付け状態において隠れる部位に形成されていることを特徴とする袋状のカバーを備えた成形品。
【請求項9】
請求項6において、前記カバーの内部には該カバーの外部に突出された二本の脚部を有するヘッドレストステーの基端部がクッション材とともに収容されていることを特徴とする袋状のカバーを備えたヘッドレスト。
【請求項10】
請求項9において、前記識別用ステッチはヘッドレストステーの脚部の間におけるカバーの底部に設けられていることを特徴とする袋状のカバーを備えたヘッドレスト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−29741(P2008−29741A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−208868(P2006−208868)
【出願日】平成18年7月31日(2006.7.31)
【出願人】(000119232)株式会社イノアックコーポレーション (1,145)
【Fターム(参考)】