被コーティング物品及び関連する方法
被コーティング物品及び関連する方法が記載される。幾つかの場合では、被コーティング物品は、高強度、高硬度、高輝度、高耐摩耗性、高耐腐食性、及び他の所望の構造的かつ機能的特性を示すことができる。幾つかの実施形態では、コーティングは、ニッケル−タングステン合金のような合金、及び/又は金属酸化物を含むことができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は概して、被コーティング物品及び関連する方法に関し、特に電着プロセスを使用して形成される金属被覆物品に関する。
【背景技術】
【0002】
コーティングを使用して独自の機能を物品の表面に付与することが多い。例えば、無電解浴または電解浴に浸漬して電着させる金属コーティングを物品に施して、これらの物品に1つ以上の高機能表面特性を付与することが多く、これらの高機能表面特性として、とりわけ、高硬度性、耐摩耗性、光沢性、高反射性、顕色性または他の外観良好性、耐磨滅性、及び高潤滑性を挙げることができる。このようなコーティングはまた、頻繁に材料表面に施されて耐腐食性を向上させる。これは普通、物品が、処理中、保存中、または使用中のいずれかにおいて、腐食プロセスを加速させる虞のある環境に曝されて、当該物品の1つ以上の表面が当該環境に曝されることになる場合に必要になる。この点に関する1つの共通の例が、液体媒質に触れる可能性のある表面であり、この液体媒質としては、水溶液、酸性溶液または塩基性溶液、或いはアルコール系溶液を挙げることができる。腐食は通常、環境が流体を含む場合に問題となるが、腐食は、蒸気環境においてもごく普通に発生する。
【0003】
腐食プロセスは概して、腐食環境に曝される物品の表面の構造及び組成に影響し得る。例えば、腐食では、原子が物品の表面から直接溶け出す、物品の表面化学が、選択的溶解または脱合金化によって変化する、または物品の表面化学及び構造が、例えば酸化または不動態皮膜の形成によって変化する。これらのプロセスのうちの幾つかのプロセスによって、物品表面の形態、凹凸、特性、または外観が変化する可能性がある。例えば、さび形成プロセスは、鉄表面または鋼表面の外観及び特性に影響し得る。金属物品は、腐食環境に置かれる場合が多い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような物品に施されるコーティングは、表面腐食に幾つかの態様で影響し得る。多くの場合、コーティングはバリアを形成して、下地基板を腐食から保護する、そして/または下地基板が腐食性媒質に直接触れるようになるのを防止することができる。例えば、均一なコーティングが基板を完全に被覆して、基板のほとんどどの部分も腐食環境に曝されることがないようにすることができ、この場合、コーティングが保護バリアとして機能する。このように、バリアコーティングが、基板よりも腐食環境に対して高い腐食耐性(すなわち、低い腐食速度)を示して、物品の全体の腐食速度を低減することが望ましい。しかしながら、コーティングを貫通するクラック、ボイド、または通過孔のようなバリアコーティング内の欠陥によって、基板が腐食環境に曝され得る。これにより、一般的に望ましくない局部腐食プロセスが発生することになる。
【0005】
別の共通のコーティング機能は、目標環境において反応がほとんど進行しない(例えば、目標環境に対して不活性な)物品表面を実現することである;または、物品の表面特性を変化させる可能性のある局所化学反応をほとんど受けることがない最外側表面を実現することである。例えば、腐食性媒質中で退色する、変色する、溶解する、または劣化するコーティングは、特にコーティングを少なくとも部分的に美的目的で施す場合には望ましくない。パッシベーションプロセスは、化学的浸食、劣化、退色、または変色に耐え得る、より反応性の低い表面を、またはより「不動態化し易い」表面を実現するために用いられる場合がある。
【0006】
タングステン系コーティングは普通、電着法により形成される。例えば、このようなコーティングは、元素Ni,Fe,Co,B,S,及びPのうちの1つ以上の元素を含むタングステン合金とすることができる。これらのコーティングは多くの場合、高硬度、耐摩耗性、高光沢性、耐磨滅性、摺動用途における低摩擦係数などを含む所望の特性を示す。タングステン系コーティングは十分な基板保護を実現するが、コーティングの外側表面は多くの場合、腐食性媒質に曝されると、化学的浸食、劣化、退色、または変色を受け易い。従って、コーティング表面を腐食環境において化学的に更に不活性にし、かつ退色、変色、または劣化を阻止するタングステン系コーティングに改良を加える必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は概して、被コーティング物品及び関連する方法に関するものである。
1つの態様では、物品が提供される。前記物品は、基板と、そして前記基板の上に形成されるコーティングと、を備える。前記コーティングは、第1部分及び第2部分を有する。前記第2部分は、ニッケル、タングステン、及び酸素を含む。前記第2部分に含まれるタングステンの重量百分率は1〜20パーセントである。
【0008】
別の態様では、物品が提供される。前記物品は、基板と、そして前記基板の上に形成されるコーティングと、を備える。前記コーティングは、ニッケル及びタングステンを含む。前記物品は、少なくとも2時間のCASS腐食寿命を有する。
【0009】
別の態様では、コーティングを電着させる方法が提供される。前記方法では、アノードと、カソードと、前記アノード及び前記カソードを浸漬させた電着浴と、そして前記アノード及び前記カソードに接続される電源と、を設ける。前記方法では更に、前記電源を駆動して波形を生成することによりコーティングを電着させる。前記波形は、少なくとも1つの順方向パルスと、そして少なくとも1つの逆方向パルスと、を含むセグメントを含む。前記少なくとも1つの順方向パルスは、期間及び平均順方向電流密度を有し、そして前記少なくとも1つの逆方向パルスは、期間及び平均逆方向電流密度を有する。前記逆方向パルスの前記期間に亘って積分された前記平均逆方向電流密度に対する前記順方向パルスの前記期間に亘って積分された前記平均順方向電流密度の比は0.5〜5である。
【0010】
別の態様では、コーティングを電着させる方法が提供される。前記方法では、アノードと、カソードと、前記アノード及び前記カソードを浸漬させた電着浴と、そして前記アノード及び前記カソードに接続される電源と、を設ける。前記方法では更に、前記電源を駆動して波形を生成することによりコーティングを電着させる。前記波形は、少なくとも1つの順方向パルスと、そして少なくとも1つの逆方向パルスと、を含むセグメントを含む。前記少なくとも1つの順方向パルスは、約1ms〜約100msの期間を有し、平均順方向電流密度が約0.01A/cm2〜1A/cm2である。前記少なくとも1つの逆方向パルスは、約1ms〜約100msの期間を有し、平均逆方向電流密度が約0.01A/cm2〜1A/cm2である。
【0011】
別の態様では、被コーティング物品を形成する方法が提供される。前記方法では、アノードと、カソードと、前記アノード及び前記カソードを浸漬させた電着浴と、そして前記アノード及び前記カソードに接続される電源と、を設け、前記電気化学浴は、ニッケル種及びタングステン種を含む。前記方法では更に、前記電源を駆動して波形を生成することによりコーティングを基板上に電着させて被コーティング物品を形成する。前記コーティングは、ニッケル及びタングステンを含む。前記物品は、少なくとも2時間のCASS腐食寿命を有する。
【0012】
別の態様では、被コーティング物品を形成する方法が提供される。前記方法では、アノ
ードと、カソードと、前記アノード及び前記カソードを浸漬させた電着浴と、そして前記アノード及び前記カソードに接続される電源と、を設け、前記電気化学浴は、ニッケル種及びタングステン種を含む。前記方法では更に、前記電源を駆動して波形を生成することによりコーティングを基板上に電着させて被コーティング物品を形成し、前記コーティングは、第1部分及び第2部分を有する。前記第2部分は、ニッケル、タングステン、及び酸素を含み、前記第2部分に含まれるタングステンの重量百分率は1〜20パーセントである。
【0013】
本発明の他の態様、実施形態、及び特徴は、以下の詳細な説明から、添付の図面に関連付けて考察することにより明らかになると思われる。添付の図は、模式図であり、かつ寸法通りに描かれている訳ではない。図を分かり易くするために、全ての構成要素に全ての図において記号を付している訳ではなく、かつ図示が、本発明に関するこの技術分野の当業者による理解を可能にするためには必要ではない場合には、本発明の各実施形態の全ての構成要素を示している訳ではない。本明細書において参照されて組み込まれることになる全ての特許出願及び特許は、参照されることにより、これらの特許出願及び特許の内容の全てが本明細書に組み込まれる。相容れない内容がある場合には、定義を含む本明細書が優先する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の1つの実施形態による被コーティング物品の模式図。
【図2】(a)2段階反転パルス電着プロセスを使用してNi−W合金をコーティングしたパネル試料、及び(b)1段階反転パルス電着プロセスを使用してNi−W合金をコーティングしたパネル試料に対して標準的なCASS腐食試験を14時間に亘って行なった後の写真。
【図3A】サンプルEのニッケルのXPSスペクトル。
【図3B】サンプルFのニッケルのXPSスペクトル。
【図4A】サンプルEのタングステンのXPSスペクトル。
【図4B】サンプルFのタングステンのXPSスペクトル。
【図5A】サンプルEの酸素のXPSスペクトル。
【図5B】サンプルFの酸素のXPSスペクトルを示している。
【図6】本発明の1つの実施形態による反転パルスシーケンスを含む波形の一例。
【図7】本発明の1つの実施形態による(i)単一の順方向パルスを含むセグメントと、そして(ii)反転パルスシーケンスを含むセグメントと、を含む波形の一例。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は概して、被コーティング物品及び関連する方法に関するものである。コーティングは、高強度、高硬度、高輝度、高耐摩耗性、高耐腐食性、低密度巨視的欠陥(例えば、クラック、ボイド)のような有利な特性を実現する。幾つかの場合では、コーティングは、ニッケル−タングステン合金のような合金から成る。本発明の幾つかの実施形態は、化学組成、粒子サイズなどのような種々のコーティング特性を調整する機能を提供するので有利である。例えば、コーティングは、異なる特性を付与する異なる化学組成を有する複数部分を含むことができる。例えば、コーティングは、耐腐食性を高める上層部分を含むことができ、この上層部分は、高強度を有する下層部分の上に形成される。以下に更に説明するように、コーティングまたはコーティングの複数部分は、電着プロセスにより形成することができ、この電着プロセスでは、物品にコーティングを、適切な化学種を含む電着浴中で行なうことができる。
【0016】
被コーティング物品は、基板と、そして当該基板の上に形成されるコーティングと、を含むことができる。幾つかの場合では、コーティングは、基板表面の少なくとも一部分の上に形成することができる。他の場合では、コーティングは基板表面全体を被覆する。
【0017】
コーティングは、1種類以上の金属を含む。例えば、コーティングは、合金(例えば、ニッケル−タングステン合金)を含むことができる。適切な合金の例は、次の元素群:とりわけ、Ni,W,Fe,B,S,Co,Mo,Cu,Cr,Zn,及びSnのうちの2種類以上の元素を含むことができる。幾つかの場合では、タングステンを含む合金(例えば、ニッケル−タングステン合金)が特に好ましい。合金の幾つかの特殊例として、Ni−W,Ni−Fe−W,Ni−B−W,Ni−S−W,Co−W,Ni−Mo,Co−Mo,及びNi−Co−Wを挙げることができる。
【0018】
幾つかの実施形態では、コーティングが、高毒性または他の不具合を有する元素群または化合物群をほとんど含まないことが有利である。幾つかの実施形態では、コーティングが、高毒性または他の不具合を有する化学種を使用して電着させる元素群または化合物群をほとんど含まないことが有利である。例えば、幾つかの場合では、コーティングは、クロムを、毒性のあるクロムイオン種(例えば、Cr6+)を使用して電着させる場合が多いので、クロム(例えば、酸化クロム)を含まないようにする必要がある。このようなコーティングは、従前のコーティングよりも優れた種々の処理上の、健康上の、及び環境上の利点を実現することができる。
【0019】
幾つかの実施形態は、1つ以上の部分を有するコーティングを含むことができ、各部分は、化学組成、厚さ、微細構造(例えば、結晶化度、粒子サイズ)、耐腐食性などを含む異なる特徴及び/又は特性を示すことができる。例えば、コーティングは、第1部分及び第2部分を有することができ、第1部分は下地基板の上にあり、そして第2部分は第1部分の上にある。第2部分は上層部分(top portion)と表記することもできる。例えば、図1に示すように、物品10は基板20を含み、この基板20の上に、コーティング30が形成される。コーティングは、基板に接触する第1部分40と、そして第1部分の上に形成される第2部分50と、を含む。
【0020】
他の実施形態では、コーティングは、異なる特徴及び/又は特性を有する2つよりも多くの部分を含むことができることを理解されたい。また、幾つかの実施形態では、コーティングは、全体的に同じ特徴及び特性を有する部分を1つしか含まないようにしてもよい。
【0021】
幾つかの場合では、コーティングの第1部分は、ニッケル及びタングステンのように、1種類よりも多くの金属を含む。例えば、第1部分は、ニッケル及びタングステン合金とすることができる。幾つかの場合では、第1部分は、ニッケル及びタングステンを含み、第1部分に含まれるニッケルの重量百分率は、少なくとも30パーセント、少なくとも40パーセント、少なくとも50パーセント、少なくとも60パーセント、またはこれらよりも大きいパーセントである。例示的な実施形態では、第1部分は、約60重量パーセントのニッケル、及び約40重量パーセントのタングステンを含むことができる。幾つかの実施形態では、第1部分は、酸素をほとんど含まないようにすることができる、すなわち第1部分に含まれる酸素の重量百分率は1パーセント未満である。
【0022】
コーティングは更に、第1部分の上に形成される第2部分を含むことができる。例えば、第2部分は、酸素及び1種類以上の金属を含むことができる。幾つかの場合では、第2部分は、ニッケル、タングステン、及び酸素を含む。幾つかの実施形態は、タングステンを少量しか含まないので有利である。例えば、第2部分がニッケル、タングステン、及び酸素を含む場合、第2部分に含まれるタングステンの重量百分率は、第2部分に含まれるニッケルの重量百分率よりも小さくすることができる。幾つかの場合(例えば、第2部分がニッケル、タングステン、及び酸素を含む場合)では、第2部分に含まれるタングステンの重量百分率は1〜20パーセントであり;幾つかの場合では、当該重量百分率は5〜
15パーセント(例えば、約10パーセント)である。第2部分は、比較的多量のニッケルを含むことができる。例えば、第2部分がニッケル、タングステン、及び酸素を含む場合、第2部分は、少なくとも50重量パーセントのニッケルを含むことができ;そして幾つかの場合では、少なくとも約70重量パーセントのニッケルを含むことができる;または、幾つかの場合では、少なくとも80重量パーセントのニッケルを含むことができる。幾つかの実施形態では、重量パーセントのタングステンに対する重量パーセントのニッケルの比は、15:1よりも大きい、または20:1よりも大きい。以下に更に説明するように、第2部分の組成によって耐腐食性を高めることができる。
【0023】
第2部分は1種類以上の金属酸化物種を含むことができる。これらの金属酸化物種としては、例えばニッケル酸化物、タングステン酸化物、ニッケル−タングステン酸化物などを挙げることができる。コーティングの組成、またはコーティングの複数部分は、この技術分野で公知のオージェ電子分光法(Auger Electron Spectroscopy:AES)のような適切な方法を使用して特徴付けることができる。例えば、AESを使用してコーティングの表面の化学組成を特徴付けることができる。
【0024】
コーティングの種々の部分は、特定の用途における使用に適するいずれの構成となるようにも配置することができる。幾つかの場合では、第2部分は、コーティングの上層部分として配置することができる。すなわち、第2部分の表面により物品の表面を画定することができ、そしてコーティングの更に別の部分は、第2部分の上には設けないようにすることができる。例えば、第2部分をコーティングの上層部分として配置して、耐腐食特性を持たせることができる。幾つかの実施形態では、第2部分はコーティングの内側部分または内側層の内部に配置することができる。幾つかの場合では、コーティングは、ニッケル、タングステン、及び酸素を含む複数部分を含むことができ、これらの部分は、コーティングの上層部分として配置することができる、そして/またはコーティングの内側部分の内部に配置することができる。1つの実施形態では、コーティングは、第1部分群及び第2部分群から成る層を交互に重ねた層状構造を有することができる。
【0025】
上に述べたように、本明細書において説明するコーティングは1種類以上の金属を含むことができる。この技術分野の当業者であれば、耐腐食性を含む所望の特徴または特性を物品に付与する適切な金属群または金属群の組み合わせを選択することができるであろう。
【0026】
コーティング、及びコーティングの複数部分は、特定の用途に適するいずれの厚さを有することもできる。例えば、合計コーティング厚さは、10nm〜1mmとすることができ;幾つかの場合では、100nm〜200ミクロンとすることができ;そして幾つかの場合では、100nm〜100ミクロンとすることができる。幾つかの実施形態では、コーティングが第1部分と、そして第1部分の上に形成される第2部分と、を含む場合、第1部分を第2部分よりも厚くすることができる。例えば、第1部分は第2部分の厚さの2倍超、5倍超、または10倍超の厚さを有することができる。第2部分は、例えば1nm〜500nm、または10nm〜500nm、或いは50nm〜250nmとすることができる。
【0027】
しかしながら、コーティング、及びコーティングの複数部分が上に述べた範囲外の他の厚さを有することもできることを理解されたい。
幾つかの場合では、コーティングは特定の微細構造を有することができる。例えば、コーティングの少なくとも一部分はナノ結晶微細構造を有することができる。本明細書において使用するように、「nanocrystalline(ナノ結晶)」構造とは、結晶粒子の数平均サイズが1ミクロン未満である構造を指す。結晶粒子の数平均サイズは、等しく統計的な重量を各粒子に付与し、そして等価球状粒子直径群の全ての合計値を、本体
の代表体積に含まれる粒子の合計数で割った値として計算される。幾つかの実施形態では、コーティングの少なくとも一部分はアモルファス構造を有することができる。この技術分野において知られているように、アモルファス構造は、長距離対称性を原子位置に持たないことにより特徴付けられる非結晶構造である。アモルファス構造の例として、ガラス構造またはガラス状構造を挙げることができる。幾つかの実施形態は、ナノ結晶構造を、コーティングのほぼ全体に亘って有するコーティングを提供することができる。幾つかの実施形態は、アモルファス構造を、コーティングのほぼ全体に亘って有するコーティングを提供することができる。
【0028】
幾つかの実施形態では、コーティングは、異なる微細構造を有する種々の部分を含むことができる。コーティングは、例えばナノ結晶構造を有する1つ以上の部分と、そしてアモルファス構造を有する1つ以上の部分と、を含むことができる。一連の実施形態では、コーティングは、ナノ結晶粒子と、そしてアモルファス構造を示す他の部分と、を含む。幾つかの場合では、コーティングまたはコーティングの一部分は、結晶粒子群を有する部分を含むことができ、これらの結晶粒子のほとんどが、直径で1ミクロン超の粒子サイズを有する。幾つかの実施形態では、コーティングは他の構造または他の相を、単独で、またはナノ結晶部分またはアモルファス部分と組み合わせた形で含むことができる。例えば、金属粒子状物質、セラミック粒子状物質、金属間化合物の粒子状物質、固体潤滑剤のグラファイト粒子またはMoS2粒子、或いは他の材料を、ナノ結晶部分またはアモルファス部分を有するコーティングに含有させることができる。この技術分野の当業者であれば、本発明に関連して使用されるのに適する他の構造または他の相を選択することができるであろう。
【0029】
本明細書において説明するように、種々の基板にコーティングを施して被コーティング物品を形成することができる。幾つかの場合では、基板は、金属、金属合金、または金属間化合物材料などのような導電材料を含むことができる。適切な基板は、とりわけ、鋼、銅、アルミニウム、真ちゅう、青銅、ニッケル、導電性表面を有する、そして/または表面処理を施したポリマー、透明導電性酸化物を含む。
【0030】
幾つかの実施形態では、本発明は、1つ以上の潜在的な腐食環境において腐食に耐えることができる、そして/または下地基板材料を腐食から保護することができる被コーティング物品を提供する。このような腐食環境の例として、これらには制限されないが、水溶液、酸性溶液、アルカリ性または塩基性溶液、或いはこれらの溶液の組み合わせを挙げることができる。例えば、本明細書において説明する被コーティング物品は、腐食液、蒸気、または湿気雰囲気のような腐食環境に曝露されるときに(例えば、触れたときに、浸漬されたときなどに)腐食に耐えることができる。幾つかの場合では、本明細書において説明する金属コーティング(例えば、Ni−W合金コーティング)は、例えば生理食塩水(NSS)噴霧、他の塩水噴霧または塩水霧、酢酸含有溶液、硫酸銅含有溶液または他の塩含有溶液、クエン酸含有溶液または他の酸含有溶液、アルカリ成分含有溶液または塩基性成分含有溶液などに曝露されるときに腐食に耐えることができる。
【0031】
本明細書において説明する被コーティング物品は、他の従来の被コーティング物品よりもはるかに高い極めて優れた耐腐食性を示すことができる。例えば、耐腐食性は、銅酢酸塩水噴霧(CASS)試験、すなわちコーティングの腐食、退色、変色、及び劣化を引き起こすことができる環境を実現する共通の腐食試験を使用して評価することができる。CASS腐食試験は、「銅加速酢酸塩水噴霧(霧)試験(CASS試験)の標準的な試験方法」と題する規格ASTM B368に規定されている試験規格に基づいて行なわれる。この試験では、概略、被コーティング基板サンプルを特殊規格条件下の腐食試験室に搬入し、そして腐食性雰囲気に曝露する手順が行なわれる。曝露時間は可変とすることができ、そして普通、試験対象の製品またはコーティングのエンドユーザによって指定される。
所定長さの曝露時間が経過した後、パネルを人間の目による目視で、変色及び/又は退色及び/又は腐食から生じる表面外観の変化の兆候に関して検査する。試験に用いられるコーティング及び基板によって変わるが、これらの影響のいずれかが、または全てが現われる可能性がある。例えば、鋼表面には、腐食性雰囲気に曝露された後に赤さびが発生する可能性がある。多くの光沢コーティングを試験して、これらのコーティングの変色し易さ、または退色し易さを評価する。普通、コーティングの腐食及び/又は変色及び/又は退色の結果としての表面外観の変化は不均一であり、幾つかの部分が変化し、そして他の部分が変化していない。このように、曝露表面積の或る割合のみが腐食し、そして/または変色し、そして/または退色していると考えられ、そしてこの面積割合が定量化可能な腐食指標となる。この面積割合が小さくなればなるほど、コーティングまたは製品の耐腐食性または耐変色性が高くなると言える。
【0032】
CASS腐食試験結果は、簡単な合格/不合格手法を使用して報告することができる。この手法では、臨界表面積割合を指定時間と一緒に指定する。CASS試験を指定時間に亘って行なった後、変色及び/又は退色及び/又は腐食の結果として外観が変化するコーティングの表面積の割合が指定臨界値を下回る場合、結果は合格であると見なされる。臨界割合を超える表面積に、変色及び/又は退色及び/又は腐食の結果として外観の変化が現われた場合、結果は不合格であると見なされる。
【0033】
本明細書において使用するように、「CASS腐食寿命(CASS corrosion lifetime)」とは、曝露コーティング表面積の1%の表面積に、この技術分野の当業者が見分けることができるような、腐食及び/又は変色及び/又は退色の結果としての外観の視覚的変化が生じるまでの時間を指す。幾つかの場合では、本発明の被コーティング物品は、2時間超の、5時間超の、または10時間超の耐性を示すCASS腐食寿命を示すことができる。幾つかの場合では、被コーティング物品は、ずっと長いCASS腐食寿命を示すことができる。例えば、幾つかの被コーティング物品は、50時間超の、75時間超の、または96時間超のCASS腐食寿命を示すことができる。例示的な実施形態では、Ni、W、及び酸素を含有する部分を含むNi−W合金コーティングは、2時間超のCASS腐食寿命を有することができ、そして多くの場合、上に説明した寿命を含むずっと長い寿命を有することができる。理論に拘束されることを望まないが、上に説明した上層部分(例えば、金属酸化物)をコーティングに含めることにより、被コーティング物品の耐腐食特性を向上させることができる。
【0034】
本発明の幾つかの実施形態は、コーティングを電着させる(例えば、電気めっきする)方法を含む。電着では普通、材料を基板の上に、当該基板を電着浴に浸漬し、そして電流を2つの電極間に電着浴を通って流す、すなわち2つの電極間の電位差を利用して流すことにより電着させる(例えば、電気めっきする)。例えば、本明細書において説明する方法では、アノードと、カソードと、アノード及びカソードを浸漬させた(例えば、アノード及びカソードを濡らす)電着浴(電着流体としても知られている)と、そしてアノード及びカソードに接続される電源と、を設けることができる。幾つかの場合では、電源を駆動して波形を生成することによりコーティングを形成することができ、これについては、以下に更に完全に説明する。幾つかの実施形態では、少なくとも1つの電極をコーティング対象の基板として機能させることができる。
【0035】
電着条件は、電極群の間に印加される電位を変えることにより(例えば、電位制御または電圧制御)、または流すことができる電流または電流密度を変えることにより(例えば、電流制御または電流密度制御)変化させることができる。幾つかの実施形態では、コーティングは、直流(DC)めっき、パルス電流めっき、反転パルス電流めっき、またはこれらのめっき法の組み合わせを使用して形成する(例えば、電着させる)ことができる。電圧、電位、電流、及び/又は電流密度のパルス、発振、及び/又は他の変化を電着プロ
セス中に取り入れることもでき、これについては以下に更に完全に説明する。例えば、電圧制御パルスを、電流制御パルスまたは電流密度制御パルスと交互に印加することができる。一般的に、電着プロセス中に、電位をコーティング対象の基板上に発生させ、そして印加電圧、電流、または電流密度を変化させて、基板上の電位に変化を与えることができる。幾つかの場合では、電着プロセスにおいて、1つ以上のセグメントを含む波形を使用することができ、各セグメントは、以下に更に完全に説明するように、特定の一連の電着条件(例えば、電流密度、電流期間、電着浴温度など)を含む。
【0036】
本発明の幾つかの実施形態は、電着材料(例えば、金属、合金など)の粒子サイズを制御することができる電着方法を含む。幾つかの実施形態では、合金電着物の組成のような特定のコーティング(例えば、電気めっき)組成を選択することにより、所望の粒子サイズを有するコーティングを実現することができる。例えば、Ni−W,Ni−Pなどのような電着合金では、相対的に多量のWまたはPを含有させることにより、相対的に微細なナノ結晶粒子サイズを有する、または幾つかの場合では、アモルファス構造を有するコーティングを形成することができる。幾つかの実施形態では、本明細書において説明する電着方法(例えば、電着条件)を選択して特定の組成物を形成することにより、電着材料の粒子サイズを制御することができる。本発明の方法では、「合金電着物を形成し、そして合金電着物のナノ構造を負電流パルス電着を使用して制御する方法、及びこのような合金電着物を含む物品」と題する米国特許出願公開第2006/02722949号に記載されている方法の特定の態様を利用することができ、この米国特許出願は、本明細書において参照することにより、当該特許出願の内容全体が本明細書に組み込まれる。2007年11月15日に出願され、かつ「ナノ結晶金属または合金、或いはアモルファス金属または合金の表面形態を調整する方法、及びこのような方法により形成される物品」と題する米国特許出願公開第2006/0154084号及び米国特許出願第11/985,569号に記載されている方法を含む他の電着方法の態様も適しており、これらの米国特許出願は、本明細書において参照することにより、これらの特許出願の内容全体が本明細書に組み込まれる。
【0037】
幾つかの実施形態では、コーティングまたはコーティングの一部分は、直流(DC)めっきを使用して電着させることができる。例えば、基板(例えば、電極)は、当該基板上に電着させることになる1種類以上の化学種を含む電着浴に浸る(例えば、浸漬する)ように配置することができる。一定の定常電流を電着浴に流して、コーティングまたはコーティングの一部分を基板に形成することができる。
【0038】
幾つかの場合では、電着方法において、電源を駆動して波形を生成することによりコーティングを電着させる。当該波形は、方形波形、任意形状の非方形波形などを含むいずれの形状を有することもできる。以下に更に説明するように、異なる部分を有するコーティングを形成する場合のような幾つかの方法では、波形は異なるセグメントを有することができ、これらのセグメントを使用して異なる部分を形成する。しかしながら、全ての方法において、異なるセグメントを有する波形を使用する訳ではないことを理解されたい。
【0039】
幾つかの場合では、少なくとも1つの順方向パルス、及び少なくとも1つの逆方向パルスを含む、すなわち「反転パルスシーケンス」を含む両極性波形を使用することができる。幾つかの実施形態では、少なくとも1つの逆方向パルスが、少なくとも1つの順方向パルスの直ぐ後に続く。幾つかの実施形態では、少なくとも1つの順方向パルスが、少なくとも1つの逆方向パルスの直ぐ後に続く。幾つかの場合では、両極性波形は、複数の順方向パルス及び逆方向パルスを含む。幾つかの実施形態は、複数の順方向パルス及び逆方向パルスを含む両極性波形を含むことができ、各パルスは特定の電流密度及び期間を有する。幾つかの場合では、反転パルスシーケンスを使用することにより、形成されるコーティングの組成及び/又は粒子サイズを変化させることができる。
【0040】
幾つかの実施形態では、反転パルスシーケンスは、順方向電流パルス(群)の期間に亘って積分されたときの順方向(例えば、正の)電流密度が、逆方向電流セグメントの期間に亘って積分された逆方向(例えば、負の)電流密度と同じ絶対値を持つように印加することができる。図6は、反転パルスシーケンスの一例を示しており(縦軸は強度、横軸は時間を示す)、複数部分Aは、逆方向電流パルス(群)の期間に亘って積分された逆方向電流密度を表わし、そして複数部分Bは、順方向電流パルス(群)の期間に亘って積分された順方向電流密度を表わす。幾つかの場合では、逆方向パルス(複数部分A)の期間に亘って積分された平均逆方向パルスの合計に対する、順方向電流パルス(群)(例えば、複数部分B)の期間に亘って積分された平均順方向電流密度の合計の比は、0.5〜5、1〜5、または幾つかの場合では、1〜2である。
【0041】
一連の実施形態では、少なくとも1つの順方向パルスは、約1〜約100msの期間を有し、平均順方向電流密度は約0.01〜1A/cm2であり、そして少なくとも1つの逆方向パルスは、約1〜約100msの期間を有し、平均逆方向電流密度は約0.01〜1A/cm2である。
【0042】
幾つかの実施形態では、反転パルスシーケンスを使用して、耐腐食性のような特定の特性を有するコーティング組成物を形成する。一連の実施形態では、順方向電流密度が約0.09A/cm2であり、かつパルス期間が12msの第1パルスの後に、逆方向電流密度が約0.075A/cm2であり、かつパルス期間が8msの第2パルスが続く構成の波形を使用して、本明細書において説明するようなコーティングを形成する。
【0043】
幾つかの場合では、順方向電流密度及び順方向電流期間の積が約1.08A・ms/cm2であるのに対し、逆方向電流密度及び逆方向電流期間の積は約0.6A・ms/cm2である。これらの2つの値は同じ絶対値を持ち、この場合、順方向値と逆方向値の比は、約1.8である。約0.5〜約5の範囲の比を含む他の比を使用してもよい。
【0044】
上に述べたように、幾つかの実施形態は、1つよりも多くのセグメントを有する波形を含むことができ、各セグメントは、特定の一連の電着条件を含む。すなわち、当該波形は、異なるセグメントでは異なっている。例えば、当該波形は、少なくとも1つの順方向パルス、及び少なくとも1つの逆方向パルスを含む1つのセグメント(例えば、両極性波形、または反転パルスシーケンス)と、そして単一の順方向または逆方向パルスを含む別のセグメントと、を含むことができる。幾つかの場合では、単一のパルスを有するセグメントは、反転パルスシーケンスを有するセグメントの手前に配置することができる。例えば、図7は、本発明の1つの実施形態による(i)単一の順方向パルスを含む第1セグメントと、そして(ii)反転パルスシーケンスを含む第2セグメントと、を含む波形の一例を示している。幾つかの場合では、第2セグメントは、図6に示す波形と同様である。波形は、第1及び第2セグメントの他に、更に多くのセグメントを有することができることを理解されたい。
【0045】
幾つかの方法では、図1に示すように、コーティングの第1部分40は、波形の第1セグメントを使用して形成することができ、そしてコーティングの第2部分50は、波形の第2部分を使用して形成することができる。第1及び第2セグメントのパラメータ群(例えば、パルス種類、パルス期間など)を選択して、所望の特徴(例えば、組成、粒子サイズ)を、これらのセグメント期間中に形成される対応するコーティング部分に付与することができる。幾つかの場合では、第2(例えば、上側)部分は、ニッケル、タングステン、及び酸素を含むことができ、上層部分に含まれるタングステンの重量百分率は、1〜20パーセントである。本明細書において説明する波形を使用する方法では、広範囲の種類のコーティングを比較的短い時間内に、かつ電着浴の組成または温度のいずれをも変更す
る必要を伴うことなく形成する機能を提供することができる。
【0046】
幾つかの場合では、第2(例えば、上層)部分を形成するために使用される第2セグメントは、数秒から多数分の期間に亘って印加される反転パルスシーケンスとすることができる。幾つかの場合では、第2セグメント(例えば、反転パルスシーケンス)を、少なくとも1秒、少なくとも5秒、少なくとも10秒、または幾つかの場合では、少なくとも20秒に亘って印加して、所望の表面特性及び耐腐食特性を有する上層部分を形成する。幾つかの場合では、第2セグメント(例えば、反転パルスセグメント)は、少なくとも1分の期間、またはそれよりも長い期間に亘って印加される。幾つかの場合では、第2セグメント(例えば、反転パルスシーケンス)は、5分未満、または3分未満、または2分未満、或いは1分未満の期間に亘って印加される。第2セグメントの時間長は、第1セグメントの時間長よりも短くすることができる。第2セグメント(例えば、反転パルスセグメント)の期間を変更して所望のコーティングを形成することができる。
【0047】
一般的に、第1セグメントの時間長は制限されない。例えば、第1セグメントは、1分〜10時間とすることができるが;他の時間長を用いることも可能であることを理解されたい。
【0048】
幾つかの場合では、本発明は、特定の微細構造を有するコーティングを形成する方法を提供する。例えば、ナノ結晶部分を含むコーティングは、細粒化添加剤の添加、少なくともナノ結晶形態を採る合金の電着、パルス電流の使用、または反転パルス電流の使用を含む種々の電着法により形成することができる。コーティングの微細構造を変化させる他の方法は、米国特許出願公開第2006/02722949号に記載されている。
【0049】
本明細書において説明するように、本発明の幾つかの実施形態では、電着浴を使用する。電着浴は通常、電流の印加時に基板(例えば、電極)に電着させることができる化学種を含む。例えば、1種類以上の金属種(例えば、金属類、塩類、他の金属源)を含む電着浴は、金属(例えば、合金)を含むコーティングの電着に使用することができる。幾つかの場合では、電着浴は、ニッケル種(例えば、硫酸ニッケル)及びタングステン種(例えば、タングステン酸ナトリウム)を含み、そして例えば、ニッケル−タングステン合金コーティングの形成に有用となり得る。
【0050】
通常、電着浴は水性流体担体(例えば、水)を含む。しかしながら、これらには制限されないが、溶融塩、極低温溶媒、アルコール浴などを含む他の流体担体を本発明に関連して使用してもよいことを理解されたい。この技術分野の当業者であれば、適切な流体担体を選択して電着浴に使用することができるであろう。幾つかの場合では、電着浴は、約7.0〜9.0のpH(水素イオン濃度指数)を有するように選択することができる。幾つかの場合では、電着浴は、約7.6〜8.4のpHを、または幾つかの場合では、約7.9〜8.1のpHを有することができる。
【0051】
電着浴は、濡れ剤、増白剤、または均展剤などのような他の添加剤を含むことができる。この技術分野の当業者であれば、適切な添加剤を選択して特定の用途に使用することができるであろう。幾つかの場合では、電着浴は、クエン酸イオンを添加剤として含む。幾つかの場合では、クエン酸イオン含有量は、約35〜150g/L、40〜80g/L、または幾つかの場合では、60〜66g/Lとすることができる。
【0052】
本発明の方法は、種々の組成を有するコーティング(例えば、Ni−W合金コーティング)を1回の電着工程で容易に形成することができるという点で有利となり得る。例えば、層状組成、段階状組成などを含むコーティングは、単一の電着浴中で、かつ1回の電着工程で、適切なセグメント群を有する波形を選択することにより形成することができる。
形成される被コーティング物品は、高耐腐食性及び高機能表面特性を示すことができる。
【0053】
気相プロセス、スパッタリング、物理気相堆積、化学気相堆積、熱酸化、イオン注入などを含む他の方法を使用してコーティングを、本明細書において説明したように形成することができることを理解されたい。
【0054】
以下の例は、制限的に解釈されるべきではなく、本発明の特定の特徴を例示するものとして解釈されたい。
(例1)
以下の例では、Ni−W合金でコーティングされた物品は、水性電着浴により形成した。コーティング対象の物品を溶液に浸漬し、そして電流を印加して電着を行なった。電着に使用される溶液の成分を表Iに、電着プロセスに使用される複数の条件のうちの幾つかの条件と一緒に列挙する。溶液のpHを値8.0に水酸化アンモニウムを使用して平衡させた。反転パルス電流を、表Iに示す特性条件で印加した。この場合に使用される反転パルス方式は、米国特許出願公開第2006/02722949号によって示唆される方式と同様である。幾つかのコーティングを真ちゅう基板の上に、ステンレス鋼製の対向電極を使用して形成した。
表1.試験1及び2に関する電着条件
【0055】
【表1】
【0056】
Ni−W合金コーティングを含む第1被コーティング物品、サンプルAを、表1に詳述される反転パルス方式を使用して作製した。コーティングは、20分に亘って電着させ、そしてx線蛍光分析(x−ray fluorescence:XRF)により測定されるように、約10〜12マイクロメートルの厚さを達成した。XRF測定によって、このコーティングの組成も提供され、この組成は、約40重量%のW、及び残りのNiであった。電着直後の状態のコーティングは明るく鮮やかであり、かつ光沢があった。X線回折を用いた線広がり測定によれば、本試料の粒子サイズは約10±5nmであり;試料はナノ結晶であった。このようにして、サンプルAに本試験において形成したコーティングは、米国特許出願公開第2006/02722949号に記載されているように、先行技術による方法を使用して形成される。
【0057】
サンプルAに、腐食試験を銅加速酢酸塩水噴霧(CASS)室(規格ASTM B368を参照)において実施した。2時間未満がCASS試験で経過した後、このコーティングは、腐食浸食による退色を示した。CASS腐食寿命は1時間を大幅に下回った。4時間が経過した後、腐食が顕著になり、そしてコーティングは明るく鮮やかではなくなった、または光沢があるということがなくなった。
【0058】
第2被コーティング物品、サンプルBを、上に説明した方法を使用して、サンプルAに関して上に列挙した厚さとほぼ同じ厚さになるように作製した。この例では、Ni−W合金電着の第1工程を、サンプルAにおける条件と同じ条件を使用して実施した。この第1電気めっき工程の終わりに、更に別の電着工程を実施したが、この電着工程では、電流波形は、12msの期間の順方向電流と、それに続く8msの期間の逆方向電流と、を含んでいた。この工程において印加される電流密度は、順方向では0.09A/cm2であり、逆方向では0.075A/cm2であった。この波形を1分に亘って印加し、そして当該波形によって、電着コーティングの第2部分(すなわち、上層部分)を形成した。この2段階プロセスを1回の処理ステップで実施した、すなわち試料を同じ電着浴に、連続して実施される両方の電着工程において浸漬させた。印加電流波形の変化が工程間で生じたが、この場合は、電着処理ステップが1回実施されただけであった。
【0059】
サンプルBに形成されるコーティングは、サンプルAに形成されるコーティングと、XRF(x線蛍光分析)測定による厚さ及び組成に関してほぼ同じであった(約40重量%のW、及び差し引いた残りのNi)。電着直後の状態のサンプルBのコーティングは、明るく鮮やかであり、かつ光沢があり、そしてX線回折を用いた線広がり測定によれば、この試料の粒子サイズは約10±5nmであり;そして試料はナノ結晶であった。
【0060】
サンプルBに、サンプルAにおけるのとほぼ同じ標準的な銅加速酢酸塩水噴霧腐食試験を実施した。4時間が経過した後、識別できる腐食はコーティング表面には観察されなかった。最長96時間までの高耐腐食性能を達成した。CASS腐食寿命は少なくとも4時間であり、大幅に長くなった可能性がある。サンプルA及びサンプルBにおけるコーティングが、XRF(x線蛍光分析)法またはX線回折法のようなバルク測定法を用いて観察する場合には、同じように見えることに注目すると面白い。すなわち、サンプルA及びサンプルBのコーティングは、ほぼ同じ厚さ、組成、及び粒子サイズを有する。しかしながら、サンプルA及びサンプルBの腐食特性及び表面特性は明らかに異なる。サンプルAに関して得られる結果は通常、これまでに説明したDCめっき法、パルスめっき法のような従前の方法を使用して、またはパルス反転めっき法さえも使用して形成されるNi−W電着物である。このようなコーティングは、CASS腐食の影響を、短い曝露時間しか経過していない状態で受け易い。これとは異なり、サンプルBは、CASS腐食に対して高い耐性を示し、上層部分を含むコーティングが高耐腐食性を物品に付与することを示唆していた。
【0061】
更に、サンプルBは、パッシベーションステップのような副ステップを必要とすることなく、かつコーティング内に、またはコーティング表面に或る程度微量のCrまたはクロム酸化物を含むW合金コーティングを残すことになるCrO3含有溶液を用いることなく作製することができる。
(例2)
次に、例1において作製されたサンプル群の種々の特性を分析して、コーティングの最外側表面の特徴及び組成がサンプルの腐食特性に及ぼす影響を把握した。2つの試料、サンプルA及びサンプルBの組成を、オージェ電子分光法を用いて、腐食環境に曝露する前に測定した。オージェ電子分光法による結果は、2つのコーティングの表面近傍領域が異なっていることを示唆していた。
【0062】
サンプルAは、Ni(約62原子%),W(約22原子%),及び酸素(約16原子%)を含む表面組成を持っていた。酸素を分析から除外した場合、金属の比率は、約75原子%のNi:約25原子%のWである、または重量百分率で表わす場合には、約49重量%のNi:約51重量%のWである。この組成は、XRF(x線蛍光分析)による結果から得られるバルク測定値にかなり近く、わずかな差が、酸素が表面に存在することに起因して生じている可能性がある。サンプルBは、Ni(約86原子%),W(約4原子%)
,及び酸素(約10原子%)含む非常に異なる表面組成を持っていた。酸素を分析から除外した場合、金属の比率は、原子比で、約96:4(Ni:W)である、または重量比で、約88:12(Ni:W)である。これらのオージェ測定のいずれの測定によっても、サンプルBのコーティングの上層部分は、サンプルAのコーティングの上層部分とは異なっていた。
【0063】
このように、サンプルBを取得するために使用される特殊手順によって、サンプルAに含まれているのとは異なる表面化学を有する被コーティング物品が形成されていた。特に、サンプルBに形成されるコーティングの上層部分(すなわち、酸化物層、複合酸化物、または酸素含有相)は、サンプルAに形成される組成とは異なる組成を持っていた。サンプルAの酸化物層は、偏りの小さい原子組成Ni62W22O16をほぼ示したのに対し、サンプルBの酸化物層は、Ni86W4O10に近い原子組成を示した。これらの測定値からは、酸化物層が単一の複合酸化物相、または複数の異なる金属酸化物及び/又は金属相から成る複合材料または複合物、或いは溶解酸素を含む合金相を含んでいたかどうかは明らかではなかった。
【0064】
サンプルBにおいて得られる異なる表面化学は、高耐腐食性及び高耐変色性を含む、我々が測定した高機能表面特性に拠る可能性が示された。このように、幾つかの場合では、約20原子%未満のWと、ニッケルと、そして酸素と、を含む酸化物層を含むコーティングは、公知の方法により形成され、かつWを多量に含有する酸化物よりも高い耐腐食性及び優れた他の所望の表面特性を提供することができる。
【0065】
CIE(国際照明委員会)により規定されたCIE Lab表色系(standard
CIE Lab Color Scale)では、サンプルAは、L=82.5;a=0.28;b=3.16で表わされる測色値を有していたのに対し、サンプルBは、L=83.4;a=0.41;及びb=5.26で表わされる測色値を有していた。これは、表面相及び/又は表面特性が2つのサンプルの間で異なることを更に明示している。
【0066】
制御試験として、サンプルA及びサンプルBに形成されるコーティングを更に、Wを含有せず、かつこの工業分野で公知になっている他のNiめっき法により形成されたコーティングと比較した。Niコーティング(例えば、Wを含まないコーティング)を、サンプルA及びサンプルBにおける基板と同じ基板に施し、そしてNiコーティングは、サンプルA及びサンプルBにおける厚さと同様の厚さ(約10〜12ミクロン)であり、かつこの場合、公称純Niコーティングを、例えば通常の光沢ニッケル電気めっき溶液に、またはスルファミン酸ニッケル浴に浸漬して形成した。CASS腐食試をNiコーティングに対して実施し、そして全ての場合において、Niコーティングの表面特性及び腐食特性が、サンプルA及びBにおけるNi−Wコーティングのこれらの特性よりも望ましくなかった。このように、少なくとも或る量のWをコーティングに含有させた状態は、特性を向上させ、かつ腐食保護性を高めるために望ましい。
【0067】
理論に拘束されることを望まないが、Wを含有させることにより、ニッケル及びタングステンの両方を含む所望の複合酸化物または酸素含有相が形成される、またはこれらの金属種のうちの1つの金属種、または両方の金属種を含む幾つかの異なる酸化物相から成る複合材料が形成される。例えば、サンプルBは、約4原子%のWを酸化物に含んでいた。幾つかの場合では、少なくとも1原子%のWをコーティングに含有させることにより、所望の効果を達成することができる。更に、幾つかの場合では、酸化物を含む部分を含むコーティングを形成することが望ましく、この場合、当該酸化物は、約1〜20原子%のWだけでなく、ニッケル及び酸素を含む。このようなコーティングは、高機能表面特性、耐腐食性、及び耐変色性または耐退色性を示すことができる。これらのコーティングは更に、W合金から成る領域群を含むことができ、この場合、これらの領域は、少なくともナノ
結晶とすることができる、または少なくともナノ結晶とする必要はない。幾つかの場合では、これらのコーティングは、クロムまたはクロム酸化物をほとんど含まないようにすることができ、そして処理ステップを電気めっき後に追加する必要を生じることなく形成することができる。
(例3)
種々の更に別のコーティングサンプルを作製し、そしてこれらのサンプルの特性を分析した。例えば、有機添加剤(すなわち、均展剤、濡れ剤、増白剤)を電着浴に、1g/L未満の量だけ添加したことを除いて、サンプルC及びサンプルDを、例1においてサンプルA及びBをそれぞれ作製するために説明した方法を使用して作製した。この技術分野の当業者であれば、均展剤、増白剤、展延剤、濡れ剤などを、このような少量だけこれらの電着浴に共通に使用することができ、かつこれらの添加剤から成る多くの複合物を異なる浴に含有させることができることが理解できるであろう。この例では、低濃度の有機添加剤を含有させることにより、サンプルA及びBに関して上に報告した主要な結果が変化することはなかった。サンプルCは、CASS腐食を数時間しか経過しないうちに示し、極めて大きな腐食が4時間経過後に発生した。しかしながら、サンプルDは、耐腐食性上層部分を含み、そして少なくとも4時間のCASS腐食寿命を有していた。
(例4)
以下の例では、従来のDCめっき法を使用して、Ni−Wコーティングを形成した。複数層をまず、直流(DC)条件で、かつ0.09A/cm2の一定印加電流密度で電着させたことを除いて、サンプルE及びサンプルFを、例1においてサンプルA及びBをそれぞれ作製するために説明した方法を使用して作製した。サンプルE及びサンプルFは共に、約20ミクロン未満の厚さのNi−Wコーティングを含んでいた。DC(直流)めっきを行なってNi−Wコーティングを形成した後、サンプルEを浴から取り出した。これとは異なり、DCめっきを行なってNi−Wコーティングを形成した後、更に別の上層部分をサンプルFに、サンプルBにおいて使用したものと同じDC電流、及び手順を使用して形成した(例えば、0.09A/cm2の順方向電流密度で12msに亘ってめっきし、続いて0.075A/cm2の逆方向電流密度で8msに亘ってめっきする順方向/逆方向シーケンスを1分に亘って行なってめっきする)。
【0068】
サンプルE及びサンプルFは、サンプルA及びBに形成されるコーティングの特徴と同じそれぞれの特徴の全てを示した。図2は、(a)標準的なDC電着プロセスを使用してNi−W合金をコーティングしたパネル試料(例えば、サンプルE);及び(b)2段階反転パルス電着プロセスを使用してNi−W合金をコーティングしたパネル試料(例えば、サンプルF)に対して標準的なCASS腐食試験を14時間に亘って行なった後の写真のコピーを示している。従来のDCめっきを使用して作製されたサンプルEが腐食して、14時間しか経過していないのにほぼ完全に退色してしまった(図2A)のに対し、サンプルFは、同じ曝露を受けた後に、CASS試験に耐えることができて、退色をほとんど示すことがなく、かつ明らかな腐食または明らかな変色を起こすということがなかった。更に別の試験から、サンプルFにおける条件と同じ条件を使用して作製されたサンプル群は、CASS腐食条件に耐えることができ、88時間に亘ってほとんど腐食が起こらなかった。このように、CASS腐食寿命は、このサンプルに関して少なくとも88時間であった。
【0069】
腐食試験の前に、サンプルE及びFを更に分析して、これらのサンプルの表面化学、及び表面上の酸化物を、X線光電子分光法(XPS)を用いて評価した。サンプルEに対するXPS分析から、表面が、ニッケル、タングステン、及び酸素から成っていた、すなわち酸化物層(または、酸素含有相)がニッケル及びタングステンを含んでいたことが判明した。更に、金属含有量の定量測定を行なうことが可能であり、これによって、サンプルEの表面が、約49重量%:51重量%のNi:W重量比を有していたことが判明し、この比は、サンプルAに関してオージェ分光法により測定された比(49:51)に類似し
ていた。サンプルA及びサンプルEは共に、従来の方法を用いて作製された。サンプルFのXPF分析から更に、表面酸素含有層が、Ni及びWを含み、かつ表面における金属比率が異なる、すなわちNi:W比が81重量%:19重量%であることが判明した。この比率は、サンプルBに関してオージェ分光法により測定された比率(例えば、88:12)に類似していた。サンプルB及びサンプルFは共に、最終めっき工程で反転パルス方式を用いて作製され、この反転パルス方式により上層部分を形成した。
【0070】
このようにして、サンプルE及びFに関するXPS測定によって、サンプルA及びBに関する上記知見を、オージェ分光法を用いて確認し、サンプルB及びFに形成される上層部分が、サンプルA及びEに含まれるタングステンよりも少量のタングステンを含む異なる表面組成を有していたことを検証した。サンプルB及びFの大幅に改善されたCASS試験による腐食特性をサンプルA及びEの腐食特性と比較すると、表面相または種々の表面相の性質が腐食挙動及び他の表面特性に影響を及ぼし得ることが分かる。
【0071】
サンプルE及びFのXPS分析から更に、酸素がコーティングに含まれているだけでなく、金属−酸素結合が形成されている明らかな証拠が判明した。図3は、(a)サンプルEのニッケルのXPSスペクトル、及び(b)サンプルFのニッケルのXPSスペクトルを示している。図3に示すように、サンプルEの試料のニッケルのXPSスペクトル(図3A)、及びサンプルFの試料のニッケルのXPSスペクトル(図3B)は同様であり、2つの1次ピークが、金属状態のNiが結合することにより生じている。図中、「Binding Energy」は結合エネルギーを、「Intensity」は強度を示している。相対的に小さい複
数の2次ピークも観察され、これらの2次ピークのうちの2つの2次ピークが金属Niに関連付けられる。約856eVの結合エネルギーに位置する3次ピークは、ニッケルを含有する金属酸化物に関連付けられる。図4は、(a)サンプルEのタングステンのXPSスペクトル、及び(b)サンプルFのタングステンのXPSスペクトルを示している。両方のスペクトルにおいて、2つの大きい方のピークは、金属タングステン結合に関連付けることができ、そして小さい方のピーク群は、タングステン含有酸化物に関連付けることができる。サンプルFは、サンプルEよりも顕著な酸化物ピークを示した。これらのプロットの左側のピークは、結合エネルギーが相対的に高いことを表わしている、すなわち原子構成要素群が相対的に強く結合していることを表わしている。図4のデータは、サンプルFにおいて、原子群が平均的に、サンプルEにおけるよりも強く結合していることを示唆している。図5は、(a)サンプルEの酸素のXPSスペクトル、及び(b)サンプルFの酸素のXPSスペクトルを示している。2つのスペクトルの間に非常に明確な差が生じており、図5Aのスペクトルが1次ピークの右側に肩部を示し、そして図5Bのスペクトルは、この肩部を示していない。これらのプロットの左側のピークは、結合エネルギーが相対的に高いことを表わしている、すなわち原子構成要素群が相対的に強く結合していることを表わしている。図5のデータは、サンプルFにおいて、原子群が平均的に、サンプルEにおけるよりも強く結合していることを示唆している。
【0072】
このように、XPS分析は、サンプルE及びFの表面層に差が生じ、かつこれらの2つのサンプルの上部に位置する酸化物または酸素含有相が明白に異なることを示している。これは、XPS(X線光電子分光法)及びオージェ分光法の両方の方法による組成測定結果及び腐食観察結果と相関する。更に別の試験から、これらの結果が種々の基板に関して、かつ他の条件変化に関して得られることが確認された。銅を含まない酢酸塩水噴霧(ASTM G−85に基づく)、及び中性塩水噴霧(NSS、ASTMG B−117に基づく)を含む他の腐食性媒質も詳細に検討されている。種々の異なる幾何学構造を持つ真ちゅう製基板、及び鋼製基板に対する試験が行なわれている。種々の腐食性媒質に浸漬する浸漬腐食試験も行なわれている。各場合において、固有の上層部分組成を有する試料、または固有の上層部分を形成するために公知になっている方法を用いて作製される試料は、これまでの方法を用いて作製されるコーティングと比較して高い耐腐食性を示した。
【技術分野】
【0001】
本発明は概して、被コーティング物品及び関連する方法に関し、特に電着プロセスを使用して形成される金属被覆物品に関する。
【背景技術】
【0002】
コーティングを使用して独自の機能を物品の表面に付与することが多い。例えば、無電解浴または電解浴に浸漬して電着させる金属コーティングを物品に施して、これらの物品に1つ以上の高機能表面特性を付与することが多く、これらの高機能表面特性として、とりわけ、高硬度性、耐摩耗性、光沢性、高反射性、顕色性または他の外観良好性、耐磨滅性、及び高潤滑性を挙げることができる。このようなコーティングはまた、頻繁に材料表面に施されて耐腐食性を向上させる。これは普通、物品が、処理中、保存中、または使用中のいずれかにおいて、腐食プロセスを加速させる虞のある環境に曝されて、当該物品の1つ以上の表面が当該環境に曝されることになる場合に必要になる。この点に関する1つの共通の例が、液体媒質に触れる可能性のある表面であり、この液体媒質としては、水溶液、酸性溶液または塩基性溶液、或いはアルコール系溶液を挙げることができる。腐食は通常、環境が流体を含む場合に問題となるが、腐食は、蒸気環境においてもごく普通に発生する。
【0003】
腐食プロセスは概して、腐食環境に曝される物品の表面の構造及び組成に影響し得る。例えば、腐食では、原子が物品の表面から直接溶け出す、物品の表面化学が、選択的溶解または脱合金化によって変化する、または物品の表面化学及び構造が、例えば酸化または不動態皮膜の形成によって変化する。これらのプロセスのうちの幾つかのプロセスによって、物品表面の形態、凹凸、特性、または外観が変化する可能性がある。例えば、さび形成プロセスは、鉄表面または鋼表面の外観及び特性に影響し得る。金属物品は、腐食環境に置かれる場合が多い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような物品に施されるコーティングは、表面腐食に幾つかの態様で影響し得る。多くの場合、コーティングはバリアを形成して、下地基板を腐食から保護する、そして/または下地基板が腐食性媒質に直接触れるようになるのを防止することができる。例えば、均一なコーティングが基板を完全に被覆して、基板のほとんどどの部分も腐食環境に曝されることがないようにすることができ、この場合、コーティングが保護バリアとして機能する。このように、バリアコーティングが、基板よりも腐食環境に対して高い腐食耐性(すなわち、低い腐食速度)を示して、物品の全体の腐食速度を低減することが望ましい。しかしながら、コーティングを貫通するクラック、ボイド、または通過孔のようなバリアコーティング内の欠陥によって、基板が腐食環境に曝され得る。これにより、一般的に望ましくない局部腐食プロセスが発生することになる。
【0005】
別の共通のコーティング機能は、目標環境において反応がほとんど進行しない(例えば、目標環境に対して不活性な)物品表面を実現することである;または、物品の表面特性を変化させる可能性のある局所化学反応をほとんど受けることがない最外側表面を実現することである。例えば、腐食性媒質中で退色する、変色する、溶解する、または劣化するコーティングは、特にコーティングを少なくとも部分的に美的目的で施す場合には望ましくない。パッシベーションプロセスは、化学的浸食、劣化、退色、または変色に耐え得る、より反応性の低い表面を、またはより「不動態化し易い」表面を実現するために用いられる場合がある。
【0006】
タングステン系コーティングは普通、電着法により形成される。例えば、このようなコーティングは、元素Ni,Fe,Co,B,S,及びPのうちの1つ以上の元素を含むタングステン合金とすることができる。これらのコーティングは多くの場合、高硬度、耐摩耗性、高光沢性、耐磨滅性、摺動用途における低摩擦係数などを含む所望の特性を示す。タングステン系コーティングは十分な基板保護を実現するが、コーティングの外側表面は多くの場合、腐食性媒質に曝されると、化学的浸食、劣化、退色、または変色を受け易い。従って、コーティング表面を腐食環境において化学的に更に不活性にし、かつ退色、変色、または劣化を阻止するタングステン系コーティングに改良を加える必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は概して、被コーティング物品及び関連する方法に関するものである。
1つの態様では、物品が提供される。前記物品は、基板と、そして前記基板の上に形成されるコーティングと、を備える。前記コーティングは、第1部分及び第2部分を有する。前記第2部分は、ニッケル、タングステン、及び酸素を含む。前記第2部分に含まれるタングステンの重量百分率は1〜20パーセントである。
【0008】
別の態様では、物品が提供される。前記物品は、基板と、そして前記基板の上に形成されるコーティングと、を備える。前記コーティングは、ニッケル及びタングステンを含む。前記物品は、少なくとも2時間のCASS腐食寿命を有する。
【0009】
別の態様では、コーティングを電着させる方法が提供される。前記方法では、アノードと、カソードと、前記アノード及び前記カソードを浸漬させた電着浴と、そして前記アノード及び前記カソードに接続される電源と、を設ける。前記方法では更に、前記電源を駆動して波形を生成することによりコーティングを電着させる。前記波形は、少なくとも1つの順方向パルスと、そして少なくとも1つの逆方向パルスと、を含むセグメントを含む。前記少なくとも1つの順方向パルスは、期間及び平均順方向電流密度を有し、そして前記少なくとも1つの逆方向パルスは、期間及び平均逆方向電流密度を有する。前記逆方向パルスの前記期間に亘って積分された前記平均逆方向電流密度に対する前記順方向パルスの前記期間に亘って積分された前記平均順方向電流密度の比は0.5〜5である。
【0010】
別の態様では、コーティングを電着させる方法が提供される。前記方法では、アノードと、カソードと、前記アノード及び前記カソードを浸漬させた電着浴と、そして前記アノード及び前記カソードに接続される電源と、を設ける。前記方法では更に、前記電源を駆動して波形を生成することによりコーティングを電着させる。前記波形は、少なくとも1つの順方向パルスと、そして少なくとも1つの逆方向パルスと、を含むセグメントを含む。前記少なくとも1つの順方向パルスは、約1ms〜約100msの期間を有し、平均順方向電流密度が約0.01A/cm2〜1A/cm2である。前記少なくとも1つの逆方向パルスは、約1ms〜約100msの期間を有し、平均逆方向電流密度が約0.01A/cm2〜1A/cm2である。
【0011】
別の態様では、被コーティング物品を形成する方法が提供される。前記方法では、アノードと、カソードと、前記アノード及び前記カソードを浸漬させた電着浴と、そして前記アノード及び前記カソードに接続される電源と、を設け、前記電気化学浴は、ニッケル種及びタングステン種を含む。前記方法では更に、前記電源を駆動して波形を生成することによりコーティングを基板上に電着させて被コーティング物品を形成する。前記コーティングは、ニッケル及びタングステンを含む。前記物品は、少なくとも2時間のCASS腐食寿命を有する。
【0012】
別の態様では、被コーティング物品を形成する方法が提供される。前記方法では、アノ
ードと、カソードと、前記アノード及び前記カソードを浸漬させた電着浴と、そして前記アノード及び前記カソードに接続される電源と、を設け、前記電気化学浴は、ニッケル種及びタングステン種を含む。前記方法では更に、前記電源を駆動して波形を生成することによりコーティングを基板上に電着させて被コーティング物品を形成し、前記コーティングは、第1部分及び第2部分を有する。前記第2部分は、ニッケル、タングステン、及び酸素を含み、前記第2部分に含まれるタングステンの重量百分率は1〜20パーセントである。
【0013】
本発明の他の態様、実施形態、及び特徴は、以下の詳細な説明から、添付の図面に関連付けて考察することにより明らかになると思われる。添付の図は、模式図であり、かつ寸法通りに描かれている訳ではない。図を分かり易くするために、全ての構成要素に全ての図において記号を付している訳ではなく、かつ図示が、本発明に関するこの技術分野の当業者による理解を可能にするためには必要ではない場合には、本発明の各実施形態の全ての構成要素を示している訳ではない。本明細書において参照されて組み込まれることになる全ての特許出願及び特許は、参照されることにより、これらの特許出願及び特許の内容の全てが本明細書に組み込まれる。相容れない内容がある場合には、定義を含む本明細書が優先する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の1つの実施形態による被コーティング物品の模式図。
【図2】(a)2段階反転パルス電着プロセスを使用してNi−W合金をコーティングしたパネル試料、及び(b)1段階反転パルス電着プロセスを使用してNi−W合金をコーティングしたパネル試料に対して標準的なCASS腐食試験を14時間に亘って行なった後の写真。
【図3A】サンプルEのニッケルのXPSスペクトル。
【図3B】サンプルFのニッケルのXPSスペクトル。
【図4A】サンプルEのタングステンのXPSスペクトル。
【図4B】サンプルFのタングステンのXPSスペクトル。
【図5A】サンプルEの酸素のXPSスペクトル。
【図5B】サンプルFの酸素のXPSスペクトルを示している。
【図6】本発明の1つの実施形態による反転パルスシーケンスを含む波形の一例。
【図7】本発明の1つの実施形態による(i)単一の順方向パルスを含むセグメントと、そして(ii)反転パルスシーケンスを含むセグメントと、を含む波形の一例。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は概して、被コーティング物品及び関連する方法に関するものである。コーティングは、高強度、高硬度、高輝度、高耐摩耗性、高耐腐食性、低密度巨視的欠陥(例えば、クラック、ボイド)のような有利な特性を実現する。幾つかの場合では、コーティングは、ニッケル−タングステン合金のような合金から成る。本発明の幾つかの実施形態は、化学組成、粒子サイズなどのような種々のコーティング特性を調整する機能を提供するので有利である。例えば、コーティングは、異なる特性を付与する異なる化学組成を有する複数部分を含むことができる。例えば、コーティングは、耐腐食性を高める上層部分を含むことができ、この上層部分は、高強度を有する下層部分の上に形成される。以下に更に説明するように、コーティングまたはコーティングの複数部分は、電着プロセスにより形成することができ、この電着プロセスでは、物品にコーティングを、適切な化学種を含む電着浴中で行なうことができる。
【0016】
被コーティング物品は、基板と、そして当該基板の上に形成されるコーティングと、を含むことができる。幾つかの場合では、コーティングは、基板表面の少なくとも一部分の上に形成することができる。他の場合では、コーティングは基板表面全体を被覆する。
【0017】
コーティングは、1種類以上の金属を含む。例えば、コーティングは、合金(例えば、ニッケル−タングステン合金)を含むことができる。適切な合金の例は、次の元素群:とりわけ、Ni,W,Fe,B,S,Co,Mo,Cu,Cr,Zn,及びSnのうちの2種類以上の元素を含むことができる。幾つかの場合では、タングステンを含む合金(例えば、ニッケル−タングステン合金)が特に好ましい。合金の幾つかの特殊例として、Ni−W,Ni−Fe−W,Ni−B−W,Ni−S−W,Co−W,Ni−Mo,Co−Mo,及びNi−Co−Wを挙げることができる。
【0018】
幾つかの実施形態では、コーティングが、高毒性または他の不具合を有する元素群または化合物群をほとんど含まないことが有利である。幾つかの実施形態では、コーティングが、高毒性または他の不具合を有する化学種を使用して電着させる元素群または化合物群をほとんど含まないことが有利である。例えば、幾つかの場合では、コーティングは、クロムを、毒性のあるクロムイオン種(例えば、Cr6+)を使用して電着させる場合が多いので、クロム(例えば、酸化クロム)を含まないようにする必要がある。このようなコーティングは、従前のコーティングよりも優れた種々の処理上の、健康上の、及び環境上の利点を実現することができる。
【0019】
幾つかの実施形態は、1つ以上の部分を有するコーティングを含むことができ、各部分は、化学組成、厚さ、微細構造(例えば、結晶化度、粒子サイズ)、耐腐食性などを含む異なる特徴及び/又は特性を示すことができる。例えば、コーティングは、第1部分及び第2部分を有することができ、第1部分は下地基板の上にあり、そして第2部分は第1部分の上にある。第2部分は上層部分(top portion)と表記することもできる。例えば、図1に示すように、物品10は基板20を含み、この基板20の上に、コーティング30が形成される。コーティングは、基板に接触する第1部分40と、そして第1部分の上に形成される第2部分50と、を含む。
【0020】
他の実施形態では、コーティングは、異なる特徴及び/又は特性を有する2つよりも多くの部分を含むことができることを理解されたい。また、幾つかの実施形態では、コーティングは、全体的に同じ特徴及び特性を有する部分を1つしか含まないようにしてもよい。
【0021】
幾つかの場合では、コーティングの第1部分は、ニッケル及びタングステンのように、1種類よりも多くの金属を含む。例えば、第1部分は、ニッケル及びタングステン合金とすることができる。幾つかの場合では、第1部分は、ニッケル及びタングステンを含み、第1部分に含まれるニッケルの重量百分率は、少なくとも30パーセント、少なくとも40パーセント、少なくとも50パーセント、少なくとも60パーセント、またはこれらよりも大きいパーセントである。例示的な実施形態では、第1部分は、約60重量パーセントのニッケル、及び約40重量パーセントのタングステンを含むことができる。幾つかの実施形態では、第1部分は、酸素をほとんど含まないようにすることができる、すなわち第1部分に含まれる酸素の重量百分率は1パーセント未満である。
【0022】
コーティングは更に、第1部分の上に形成される第2部分を含むことができる。例えば、第2部分は、酸素及び1種類以上の金属を含むことができる。幾つかの場合では、第2部分は、ニッケル、タングステン、及び酸素を含む。幾つかの実施形態は、タングステンを少量しか含まないので有利である。例えば、第2部分がニッケル、タングステン、及び酸素を含む場合、第2部分に含まれるタングステンの重量百分率は、第2部分に含まれるニッケルの重量百分率よりも小さくすることができる。幾つかの場合(例えば、第2部分がニッケル、タングステン、及び酸素を含む場合)では、第2部分に含まれるタングステンの重量百分率は1〜20パーセントであり;幾つかの場合では、当該重量百分率は5〜
15パーセント(例えば、約10パーセント)である。第2部分は、比較的多量のニッケルを含むことができる。例えば、第2部分がニッケル、タングステン、及び酸素を含む場合、第2部分は、少なくとも50重量パーセントのニッケルを含むことができ;そして幾つかの場合では、少なくとも約70重量パーセントのニッケルを含むことができる;または、幾つかの場合では、少なくとも80重量パーセントのニッケルを含むことができる。幾つかの実施形態では、重量パーセントのタングステンに対する重量パーセントのニッケルの比は、15:1よりも大きい、または20:1よりも大きい。以下に更に説明するように、第2部分の組成によって耐腐食性を高めることができる。
【0023】
第2部分は1種類以上の金属酸化物種を含むことができる。これらの金属酸化物種としては、例えばニッケル酸化物、タングステン酸化物、ニッケル−タングステン酸化物などを挙げることができる。コーティングの組成、またはコーティングの複数部分は、この技術分野で公知のオージェ電子分光法(Auger Electron Spectroscopy:AES)のような適切な方法を使用して特徴付けることができる。例えば、AESを使用してコーティングの表面の化学組成を特徴付けることができる。
【0024】
コーティングの種々の部分は、特定の用途における使用に適するいずれの構成となるようにも配置することができる。幾つかの場合では、第2部分は、コーティングの上層部分として配置することができる。すなわち、第2部分の表面により物品の表面を画定することができ、そしてコーティングの更に別の部分は、第2部分の上には設けないようにすることができる。例えば、第2部分をコーティングの上層部分として配置して、耐腐食特性を持たせることができる。幾つかの実施形態では、第2部分はコーティングの内側部分または内側層の内部に配置することができる。幾つかの場合では、コーティングは、ニッケル、タングステン、及び酸素を含む複数部分を含むことができ、これらの部分は、コーティングの上層部分として配置することができる、そして/またはコーティングの内側部分の内部に配置することができる。1つの実施形態では、コーティングは、第1部分群及び第2部分群から成る層を交互に重ねた層状構造を有することができる。
【0025】
上に述べたように、本明細書において説明するコーティングは1種類以上の金属を含むことができる。この技術分野の当業者であれば、耐腐食性を含む所望の特徴または特性を物品に付与する適切な金属群または金属群の組み合わせを選択することができるであろう。
【0026】
コーティング、及びコーティングの複数部分は、特定の用途に適するいずれの厚さを有することもできる。例えば、合計コーティング厚さは、10nm〜1mmとすることができ;幾つかの場合では、100nm〜200ミクロンとすることができ;そして幾つかの場合では、100nm〜100ミクロンとすることができる。幾つかの実施形態では、コーティングが第1部分と、そして第1部分の上に形成される第2部分と、を含む場合、第1部分を第2部分よりも厚くすることができる。例えば、第1部分は第2部分の厚さの2倍超、5倍超、または10倍超の厚さを有することができる。第2部分は、例えば1nm〜500nm、または10nm〜500nm、或いは50nm〜250nmとすることができる。
【0027】
しかしながら、コーティング、及びコーティングの複数部分が上に述べた範囲外の他の厚さを有することもできることを理解されたい。
幾つかの場合では、コーティングは特定の微細構造を有することができる。例えば、コーティングの少なくとも一部分はナノ結晶微細構造を有することができる。本明細書において使用するように、「nanocrystalline(ナノ結晶)」構造とは、結晶粒子の数平均サイズが1ミクロン未満である構造を指す。結晶粒子の数平均サイズは、等しく統計的な重量を各粒子に付与し、そして等価球状粒子直径群の全ての合計値を、本体
の代表体積に含まれる粒子の合計数で割った値として計算される。幾つかの実施形態では、コーティングの少なくとも一部分はアモルファス構造を有することができる。この技術分野において知られているように、アモルファス構造は、長距離対称性を原子位置に持たないことにより特徴付けられる非結晶構造である。アモルファス構造の例として、ガラス構造またはガラス状構造を挙げることができる。幾つかの実施形態は、ナノ結晶構造を、コーティングのほぼ全体に亘って有するコーティングを提供することができる。幾つかの実施形態は、アモルファス構造を、コーティングのほぼ全体に亘って有するコーティングを提供することができる。
【0028】
幾つかの実施形態では、コーティングは、異なる微細構造を有する種々の部分を含むことができる。コーティングは、例えばナノ結晶構造を有する1つ以上の部分と、そしてアモルファス構造を有する1つ以上の部分と、を含むことができる。一連の実施形態では、コーティングは、ナノ結晶粒子と、そしてアモルファス構造を示す他の部分と、を含む。幾つかの場合では、コーティングまたはコーティングの一部分は、結晶粒子群を有する部分を含むことができ、これらの結晶粒子のほとんどが、直径で1ミクロン超の粒子サイズを有する。幾つかの実施形態では、コーティングは他の構造または他の相を、単独で、またはナノ結晶部分またはアモルファス部分と組み合わせた形で含むことができる。例えば、金属粒子状物質、セラミック粒子状物質、金属間化合物の粒子状物質、固体潤滑剤のグラファイト粒子またはMoS2粒子、或いは他の材料を、ナノ結晶部分またはアモルファス部分を有するコーティングに含有させることができる。この技術分野の当業者であれば、本発明に関連して使用されるのに適する他の構造または他の相を選択することができるであろう。
【0029】
本明細書において説明するように、種々の基板にコーティングを施して被コーティング物品を形成することができる。幾つかの場合では、基板は、金属、金属合金、または金属間化合物材料などのような導電材料を含むことができる。適切な基板は、とりわけ、鋼、銅、アルミニウム、真ちゅう、青銅、ニッケル、導電性表面を有する、そして/または表面処理を施したポリマー、透明導電性酸化物を含む。
【0030】
幾つかの実施形態では、本発明は、1つ以上の潜在的な腐食環境において腐食に耐えることができる、そして/または下地基板材料を腐食から保護することができる被コーティング物品を提供する。このような腐食環境の例として、これらには制限されないが、水溶液、酸性溶液、アルカリ性または塩基性溶液、或いはこれらの溶液の組み合わせを挙げることができる。例えば、本明細書において説明する被コーティング物品は、腐食液、蒸気、または湿気雰囲気のような腐食環境に曝露されるときに(例えば、触れたときに、浸漬されたときなどに)腐食に耐えることができる。幾つかの場合では、本明細書において説明する金属コーティング(例えば、Ni−W合金コーティング)は、例えば生理食塩水(NSS)噴霧、他の塩水噴霧または塩水霧、酢酸含有溶液、硫酸銅含有溶液または他の塩含有溶液、クエン酸含有溶液または他の酸含有溶液、アルカリ成分含有溶液または塩基性成分含有溶液などに曝露されるときに腐食に耐えることができる。
【0031】
本明細書において説明する被コーティング物品は、他の従来の被コーティング物品よりもはるかに高い極めて優れた耐腐食性を示すことができる。例えば、耐腐食性は、銅酢酸塩水噴霧(CASS)試験、すなわちコーティングの腐食、退色、変色、及び劣化を引き起こすことができる環境を実現する共通の腐食試験を使用して評価することができる。CASS腐食試験は、「銅加速酢酸塩水噴霧(霧)試験(CASS試験)の標準的な試験方法」と題する規格ASTM B368に規定されている試験規格に基づいて行なわれる。この試験では、概略、被コーティング基板サンプルを特殊規格条件下の腐食試験室に搬入し、そして腐食性雰囲気に曝露する手順が行なわれる。曝露時間は可変とすることができ、そして普通、試験対象の製品またはコーティングのエンドユーザによって指定される。
所定長さの曝露時間が経過した後、パネルを人間の目による目視で、変色及び/又は退色及び/又は腐食から生じる表面外観の変化の兆候に関して検査する。試験に用いられるコーティング及び基板によって変わるが、これらの影響のいずれかが、または全てが現われる可能性がある。例えば、鋼表面には、腐食性雰囲気に曝露された後に赤さびが発生する可能性がある。多くの光沢コーティングを試験して、これらのコーティングの変色し易さ、または退色し易さを評価する。普通、コーティングの腐食及び/又は変色及び/又は退色の結果としての表面外観の変化は不均一であり、幾つかの部分が変化し、そして他の部分が変化していない。このように、曝露表面積の或る割合のみが腐食し、そして/または変色し、そして/または退色していると考えられ、そしてこの面積割合が定量化可能な腐食指標となる。この面積割合が小さくなればなるほど、コーティングまたは製品の耐腐食性または耐変色性が高くなると言える。
【0032】
CASS腐食試験結果は、簡単な合格/不合格手法を使用して報告することができる。この手法では、臨界表面積割合を指定時間と一緒に指定する。CASS試験を指定時間に亘って行なった後、変色及び/又は退色及び/又は腐食の結果として外観が変化するコーティングの表面積の割合が指定臨界値を下回る場合、結果は合格であると見なされる。臨界割合を超える表面積に、変色及び/又は退色及び/又は腐食の結果として外観の変化が現われた場合、結果は不合格であると見なされる。
【0033】
本明細書において使用するように、「CASS腐食寿命(CASS corrosion lifetime)」とは、曝露コーティング表面積の1%の表面積に、この技術分野の当業者が見分けることができるような、腐食及び/又は変色及び/又は退色の結果としての外観の視覚的変化が生じるまでの時間を指す。幾つかの場合では、本発明の被コーティング物品は、2時間超の、5時間超の、または10時間超の耐性を示すCASS腐食寿命を示すことができる。幾つかの場合では、被コーティング物品は、ずっと長いCASS腐食寿命を示すことができる。例えば、幾つかの被コーティング物品は、50時間超の、75時間超の、または96時間超のCASS腐食寿命を示すことができる。例示的な実施形態では、Ni、W、及び酸素を含有する部分を含むNi−W合金コーティングは、2時間超のCASS腐食寿命を有することができ、そして多くの場合、上に説明した寿命を含むずっと長い寿命を有することができる。理論に拘束されることを望まないが、上に説明した上層部分(例えば、金属酸化物)をコーティングに含めることにより、被コーティング物品の耐腐食特性を向上させることができる。
【0034】
本発明の幾つかの実施形態は、コーティングを電着させる(例えば、電気めっきする)方法を含む。電着では普通、材料を基板の上に、当該基板を電着浴に浸漬し、そして電流を2つの電極間に電着浴を通って流す、すなわち2つの電極間の電位差を利用して流すことにより電着させる(例えば、電気めっきする)。例えば、本明細書において説明する方法では、アノードと、カソードと、アノード及びカソードを浸漬させた(例えば、アノード及びカソードを濡らす)電着浴(電着流体としても知られている)と、そしてアノード及びカソードに接続される電源と、を設けることができる。幾つかの場合では、電源を駆動して波形を生成することによりコーティングを形成することができ、これについては、以下に更に完全に説明する。幾つかの実施形態では、少なくとも1つの電極をコーティング対象の基板として機能させることができる。
【0035】
電着条件は、電極群の間に印加される電位を変えることにより(例えば、電位制御または電圧制御)、または流すことができる電流または電流密度を変えることにより(例えば、電流制御または電流密度制御)変化させることができる。幾つかの実施形態では、コーティングは、直流(DC)めっき、パルス電流めっき、反転パルス電流めっき、またはこれらのめっき法の組み合わせを使用して形成する(例えば、電着させる)ことができる。電圧、電位、電流、及び/又は電流密度のパルス、発振、及び/又は他の変化を電着プロ
セス中に取り入れることもでき、これについては以下に更に完全に説明する。例えば、電圧制御パルスを、電流制御パルスまたは電流密度制御パルスと交互に印加することができる。一般的に、電着プロセス中に、電位をコーティング対象の基板上に発生させ、そして印加電圧、電流、または電流密度を変化させて、基板上の電位に変化を与えることができる。幾つかの場合では、電着プロセスにおいて、1つ以上のセグメントを含む波形を使用することができ、各セグメントは、以下に更に完全に説明するように、特定の一連の電着条件(例えば、電流密度、電流期間、電着浴温度など)を含む。
【0036】
本発明の幾つかの実施形態は、電着材料(例えば、金属、合金など)の粒子サイズを制御することができる電着方法を含む。幾つかの実施形態では、合金電着物の組成のような特定のコーティング(例えば、電気めっき)組成を選択することにより、所望の粒子サイズを有するコーティングを実現することができる。例えば、Ni−W,Ni−Pなどのような電着合金では、相対的に多量のWまたはPを含有させることにより、相対的に微細なナノ結晶粒子サイズを有する、または幾つかの場合では、アモルファス構造を有するコーティングを形成することができる。幾つかの実施形態では、本明細書において説明する電着方法(例えば、電着条件)を選択して特定の組成物を形成することにより、電着材料の粒子サイズを制御することができる。本発明の方法では、「合金電着物を形成し、そして合金電着物のナノ構造を負電流パルス電着を使用して制御する方法、及びこのような合金電着物を含む物品」と題する米国特許出願公開第2006/02722949号に記載されている方法の特定の態様を利用することができ、この米国特許出願は、本明細書において参照することにより、当該特許出願の内容全体が本明細書に組み込まれる。2007年11月15日に出願され、かつ「ナノ結晶金属または合金、或いはアモルファス金属または合金の表面形態を調整する方法、及びこのような方法により形成される物品」と題する米国特許出願公開第2006/0154084号及び米国特許出願第11/985,569号に記載されている方法を含む他の電着方法の態様も適しており、これらの米国特許出願は、本明細書において参照することにより、これらの特許出願の内容全体が本明細書に組み込まれる。
【0037】
幾つかの実施形態では、コーティングまたはコーティングの一部分は、直流(DC)めっきを使用して電着させることができる。例えば、基板(例えば、電極)は、当該基板上に電着させることになる1種類以上の化学種を含む電着浴に浸る(例えば、浸漬する)ように配置することができる。一定の定常電流を電着浴に流して、コーティングまたはコーティングの一部分を基板に形成することができる。
【0038】
幾つかの場合では、電着方法において、電源を駆動して波形を生成することによりコーティングを電着させる。当該波形は、方形波形、任意形状の非方形波形などを含むいずれの形状を有することもできる。以下に更に説明するように、異なる部分を有するコーティングを形成する場合のような幾つかの方法では、波形は異なるセグメントを有することができ、これらのセグメントを使用して異なる部分を形成する。しかしながら、全ての方法において、異なるセグメントを有する波形を使用する訳ではないことを理解されたい。
【0039】
幾つかの場合では、少なくとも1つの順方向パルス、及び少なくとも1つの逆方向パルスを含む、すなわち「反転パルスシーケンス」を含む両極性波形を使用することができる。幾つかの実施形態では、少なくとも1つの逆方向パルスが、少なくとも1つの順方向パルスの直ぐ後に続く。幾つかの実施形態では、少なくとも1つの順方向パルスが、少なくとも1つの逆方向パルスの直ぐ後に続く。幾つかの場合では、両極性波形は、複数の順方向パルス及び逆方向パルスを含む。幾つかの実施形態は、複数の順方向パルス及び逆方向パルスを含む両極性波形を含むことができ、各パルスは特定の電流密度及び期間を有する。幾つかの場合では、反転パルスシーケンスを使用することにより、形成されるコーティングの組成及び/又は粒子サイズを変化させることができる。
【0040】
幾つかの実施形態では、反転パルスシーケンスは、順方向電流パルス(群)の期間に亘って積分されたときの順方向(例えば、正の)電流密度が、逆方向電流セグメントの期間に亘って積分された逆方向(例えば、負の)電流密度と同じ絶対値を持つように印加することができる。図6は、反転パルスシーケンスの一例を示しており(縦軸は強度、横軸は時間を示す)、複数部分Aは、逆方向電流パルス(群)の期間に亘って積分された逆方向電流密度を表わし、そして複数部分Bは、順方向電流パルス(群)の期間に亘って積分された順方向電流密度を表わす。幾つかの場合では、逆方向パルス(複数部分A)の期間に亘って積分された平均逆方向パルスの合計に対する、順方向電流パルス(群)(例えば、複数部分B)の期間に亘って積分された平均順方向電流密度の合計の比は、0.5〜5、1〜5、または幾つかの場合では、1〜2である。
【0041】
一連の実施形態では、少なくとも1つの順方向パルスは、約1〜約100msの期間を有し、平均順方向電流密度は約0.01〜1A/cm2であり、そして少なくとも1つの逆方向パルスは、約1〜約100msの期間を有し、平均逆方向電流密度は約0.01〜1A/cm2である。
【0042】
幾つかの実施形態では、反転パルスシーケンスを使用して、耐腐食性のような特定の特性を有するコーティング組成物を形成する。一連の実施形態では、順方向電流密度が約0.09A/cm2であり、かつパルス期間が12msの第1パルスの後に、逆方向電流密度が約0.075A/cm2であり、かつパルス期間が8msの第2パルスが続く構成の波形を使用して、本明細書において説明するようなコーティングを形成する。
【0043】
幾つかの場合では、順方向電流密度及び順方向電流期間の積が約1.08A・ms/cm2であるのに対し、逆方向電流密度及び逆方向電流期間の積は約0.6A・ms/cm2である。これらの2つの値は同じ絶対値を持ち、この場合、順方向値と逆方向値の比は、約1.8である。約0.5〜約5の範囲の比を含む他の比を使用してもよい。
【0044】
上に述べたように、幾つかの実施形態は、1つよりも多くのセグメントを有する波形を含むことができ、各セグメントは、特定の一連の電着条件を含む。すなわち、当該波形は、異なるセグメントでは異なっている。例えば、当該波形は、少なくとも1つの順方向パルス、及び少なくとも1つの逆方向パルスを含む1つのセグメント(例えば、両極性波形、または反転パルスシーケンス)と、そして単一の順方向または逆方向パルスを含む別のセグメントと、を含むことができる。幾つかの場合では、単一のパルスを有するセグメントは、反転パルスシーケンスを有するセグメントの手前に配置することができる。例えば、図7は、本発明の1つの実施形態による(i)単一の順方向パルスを含む第1セグメントと、そして(ii)反転パルスシーケンスを含む第2セグメントと、を含む波形の一例を示している。幾つかの場合では、第2セグメントは、図6に示す波形と同様である。波形は、第1及び第2セグメントの他に、更に多くのセグメントを有することができることを理解されたい。
【0045】
幾つかの方法では、図1に示すように、コーティングの第1部分40は、波形の第1セグメントを使用して形成することができ、そしてコーティングの第2部分50は、波形の第2部分を使用して形成することができる。第1及び第2セグメントのパラメータ群(例えば、パルス種類、パルス期間など)を選択して、所望の特徴(例えば、組成、粒子サイズ)を、これらのセグメント期間中に形成される対応するコーティング部分に付与することができる。幾つかの場合では、第2(例えば、上側)部分は、ニッケル、タングステン、及び酸素を含むことができ、上層部分に含まれるタングステンの重量百分率は、1〜20パーセントである。本明細書において説明する波形を使用する方法では、広範囲の種類のコーティングを比較的短い時間内に、かつ電着浴の組成または温度のいずれをも変更す
る必要を伴うことなく形成する機能を提供することができる。
【0046】
幾つかの場合では、第2(例えば、上層)部分を形成するために使用される第2セグメントは、数秒から多数分の期間に亘って印加される反転パルスシーケンスとすることができる。幾つかの場合では、第2セグメント(例えば、反転パルスシーケンス)を、少なくとも1秒、少なくとも5秒、少なくとも10秒、または幾つかの場合では、少なくとも20秒に亘って印加して、所望の表面特性及び耐腐食特性を有する上層部分を形成する。幾つかの場合では、第2セグメント(例えば、反転パルスセグメント)は、少なくとも1分の期間、またはそれよりも長い期間に亘って印加される。幾つかの場合では、第2セグメント(例えば、反転パルスシーケンス)は、5分未満、または3分未満、または2分未満、或いは1分未満の期間に亘って印加される。第2セグメントの時間長は、第1セグメントの時間長よりも短くすることができる。第2セグメント(例えば、反転パルスセグメント)の期間を変更して所望のコーティングを形成することができる。
【0047】
一般的に、第1セグメントの時間長は制限されない。例えば、第1セグメントは、1分〜10時間とすることができるが;他の時間長を用いることも可能であることを理解されたい。
【0048】
幾つかの場合では、本発明は、特定の微細構造を有するコーティングを形成する方法を提供する。例えば、ナノ結晶部分を含むコーティングは、細粒化添加剤の添加、少なくともナノ結晶形態を採る合金の電着、パルス電流の使用、または反転パルス電流の使用を含む種々の電着法により形成することができる。コーティングの微細構造を変化させる他の方法は、米国特許出願公開第2006/02722949号に記載されている。
【0049】
本明細書において説明するように、本発明の幾つかの実施形態では、電着浴を使用する。電着浴は通常、電流の印加時に基板(例えば、電極)に電着させることができる化学種を含む。例えば、1種類以上の金属種(例えば、金属類、塩類、他の金属源)を含む電着浴は、金属(例えば、合金)を含むコーティングの電着に使用することができる。幾つかの場合では、電着浴は、ニッケル種(例えば、硫酸ニッケル)及びタングステン種(例えば、タングステン酸ナトリウム)を含み、そして例えば、ニッケル−タングステン合金コーティングの形成に有用となり得る。
【0050】
通常、電着浴は水性流体担体(例えば、水)を含む。しかしながら、これらには制限されないが、溶融塩、極低温溶媒、アルコール浴などを含む他の流体担体を本発明に関連して使用してもよいことを理解されたい。この技術分野の当業者であれば、適切な流体担体を選択して電着浴に使用することができるであろう。幾つかの場合では、電着浴は、約7.0〜9.0のpH(水素イオン濃度指数)を有するように選択することができる。幾つかの場合では、電着浴は、約7.6〜8.4のpHを、または幾つかの場合では、約7.9〜8.1のpHを有することができる。
【0051】
電着浴は、濡れ剤、増白剤、または均展剤などのような他の添加剤を含むことができる。この技術分野の当業者であれば、適切な添加剤を選択して特定の用途に使用することができるであろう。幾つかの場合では、電着浴は、クエン酸イオンを添加剤として含む。幾つかの場合では、クエン酸イオン含有量は、約35〜150g/L、40〜80g/L、または幾つかの場合では、60〜66g/Lとすることができる。
【0052】
本発明の方法は、種々の組成を有するコーティング(例えば、Ni−W合金コーティング)を1回の電着工程で容易に形成することができるという点で有利となり得る。例えば、層状組成、段階状組成などを含むコーティングは、単一の電着浴中で、かつ1回の電着工程で、適切なセグメント群を有する波形を選択することにより形成することができる。
形成される被コーティング物品は、高耐腐食性及び高機能表面特性を示すことができる。
【0053】
気相プロセス、スパッタリング、物理気相堆積、化学気相堆積、熱酸化、イオン注入などを含む他の方法を使用してコーティングを、本明細書において説明したように形成することができることを理解されたい。
【0054】
以下の例は、制限的に解釈されるべきではなく、本発明の特定の特徴を例示するものとして解釈されたい。
(例1)
以下の例では、Ni−W合金でコーティングされた物品は、水性電着浴により形成した。コーティング対象の物品を溶液に浸漬し、そして電流を印加して電着を行なった。電着に使用される溶液の成分を表Iに、電着プロセスに使用される複数の条件のうちの幾つかの条件と一緒に列挙する。溶液のpHを値8.0に水酸化アンモニウムを使用して平衡させた。反転パルス電流を、表Iに示す特性条件で印加した。この場合に使用される反転パルス方式は、米国特許出願公開第2006/02722949号によって示唆される方式と同様である。幾つかのコーティングを真ちゅう基板の上に、ステンレス鋼製の対向電極を使用して形成した。
表1.試験1及び2に関する電着条件
【0055】
【表1】
【0056】
Ni−W合金コーティングを含む第1被コーティング物品、サンプルAを、表1に詳述される反転パルス方式を使用して作製した。コーティングは、20分に亘って電着させ、そしてx線蛍光分析(x−ray fluorescence:XRF)により測定されるように、約10〜12マイクロメートルの厚さを達成した。XRF測定によって、このコーティングの組成も提供され、この組成は、約40重量%のW、及び残りのNiであった。電着直後の状態のコーティングは明るく鮮やかであり、かつ光沢があった。X線回折を用いた線広がり測定によれば、本試料の粒子サイズは約10±5nmであり;試料はナノ結晶であった。このようにして、サンプルAに本試験において形成したコーティングは、米国特許出願公開第2006/02722949号に記載されているように、先行技術による方法を使用して形成される。
【0057】
サンプルAに、腐食試験を銅加速酢酸塩水噴霧(CASS)室(規格ASTM B368を参照)において実施した。2時間未満がCASS試験で経過した後、このコーティングは、腐食浸食による退色を示した。CASS腐食寿命は1時間を大幅に下回った。4時間が経過した後、腐食が顕著になり、そしてコーティングは明るく鮮やかではなくなった、または光沢があるということがなくなった。
【0058】
第2被コーティング物品、サンプルBを、上に説明した方法を使用して、サンプルAに関して上に列挙した厚さとほぼ同じ厚さになるように作製した。この例では、Ni−W合金電着の第1工程を、サンプルAにおける条件と同じ条件を使用して実施した。この第1電気めっき工程の終わりに、更に別の電着工程を実施したが、この電着工程では、電流波形は、12msの期間の順方向電流と、それに続く8msの期間の逆方向電流と、を含んでいた。この工程において印加される電流密度は、順方向では0.09A/cm2であり、逆方向では0.075A/cm2であった。この波形を1分に亘って印加し、そして当該波形によって、電着コーティングの第2部分(すなわち、上層部分)を形成した。この2段階プロセスを1回の処理ステップで実施した、すなわち試料を同じ電着浴に、連続して実施される両方の電着工程において浸漬させた。印加電流波形の変化が工程間で生じたが、この場合は、電着処理ステップが1回実施されただけであった。
【0059】
サンプルBに形成されるコーティングは、サンプルAに形成されるコーティングと、XRF(x線蛍光分析)測定による厚さ及び組成に関してほぼ同じであった(約40重量%のW、及び差し引いた残りのNi)。電着直後の状態のサンプルBのコーティングは、明るく鮮やかであり、かつ光沢があり、そしてX線回折を用いた線広がり測定によれば、この試料の粒子サイズは約10±5nmであり;そして試料はナノ結晶であった。
【0060】
サンプルBに、サンプルAにおけるのとほぼ同じ標準的な銅加速酢酸塩水噴霧腐食試験を実施した。4時間が経過した後、識別できる腐食はコーティング表面には観察されなかった。最長96時間までの高耐腐食性能を達成した。CASS腐食寿命は少なくとも4時間であり、大幅に長くなった可能性がある。サンプルA及びサンプルBにおけるコーティングが、XRF(x線蛍光分析)法またはX線回折法のようなバルク測定法を用いて観察する場合には、同じように見えることに注目すると面白い。すなわち、サンプルA及びサンプルBのコーティングは、ほぼ同じ厚さ、組成、及び粒子サイズを有する。しかしながら、サンプルA及びサンプルBの腐食特性及び表面特性は明らかに異なる。サンプルAに関して得られる結果は通常、これまでに説明したDCめっき法、パルスめっき法のような従前の方法を使用して、またはパルス反転めっき法さえも使用して形成されるNi−W電着物である。このようなコーティングは、CASS腐食の影響を、短い曝露時間しか経過していない状態で受け易い。これとは異なり、サンプルBは、CASS腐食に対して高い耐性を示し、上層部分を含むコーティングが高耐腐食性を物品に付与することを示唆していた。
【0061】
更に、サンプルBは、パッシベーションステップのような副ステップを必要とすることなく、かつコーティング内に、またはコーティング表面に或る程度微量のCrまたはクロム酸化物を含むW合金コーティングを残すことになるCrO3含有溶液を用いることなく作製することができる。
(例2)
次に、例1において作製されたサンプル群の種々の特性を分析して、コーティングの最外側表面の特徴及び組成がサンプルの腐食特性に及ぼす影響を把握した。2つの試料、サンプルA及びサンプルBの組成を、オージェ電子分光法を用いて、腐食環境に曝露する前に測定した。オージェ電子分光法による結果は、2つのコーティングの表面近傍領域が異なっていることを示唆していた。
【0062】
サンプルAは、Ni(約62原子%),W(約22原子%),及び酸素(約16原子%)を含む表面組成を持っていた。酸素を分析から除外した場合、金属の比率は、約75原子%のNi:約25原子%のWである、または重量百分率で表わす場合には、約49重量%のNi:約51重量%のWである。この組成は、XRF(x線蛍光分析)による結果から得られるバルク測定値にかなり近く、わずかな差が、酸素が表面に存在することに起因して生じている可能性がある。サンプルBは、Ni(約86原子%),W(約4原子%)
,及び酸素(約10原子%)含む非常に異なる表面組成を持っていた。酸素を分析から除外した場合、金属の比率は、原子比で、約96:4(Ni:W)である、または重量比で、約88:12(Ni:W)である。これらのオージェ測定のいずれの測定によっても、サンプルBのコーティングの上層部分は、サンプルAのコーティングの上層部分とは異なっていた。
【0063】
このように、サンプルBを取得するために使用される特殊手順によって、サンプルAに含まれているのとは異なる表面化学を有する被コーティング物品が形成されていた。特に、サンプルBに形成されるコーティングの上層部分(すなわち、酸化物層、複合酸化物、または酸素含有相)は、サンプルAに形成される組成とは異なる組成を持っていた。サンプルAの酸化物層は、偏りの小さい原子組成Ni62W22O16をほぼ示したのに対し、サンプルBの酸化物層は、Ni86W4O10に近い原子組成を示した。これらの測定値からは、酸化物層が単一の複合酸化物相、または複数の異なる金属酸化物及び/又は金属相から成る複合材料または複合物、或いは溶解酸素を含む合金相を含んでいたかどうかは明らかではなかった。
【0064】
サンプルBにおいて得られる異なる表面化学は、高耐腐食性及び高耐変色性を含む、我々が測定した高機能表面特性に拠る可能性が示された。このように、幾つかの場合では、約20原子%未満のWと、ニッケルと、そして酸素と、を含む酸化物層を含むコーティングは、公知の方法により形成され、かつWを多量に含有する酸化物よりも高い耐腐食性及び優れた他の所望の表面特性を提供することができる。
【0065】
CIE(国際照明委員会)により規定されたCIE Lab表色系(standard
CIE Lab Color Scale)では、サンプルAは、L=82.5;a=0.28;b=3.16で表わされる測色値を有していたのに対し、サンプルBは、L=83.4;a=0.41;及びb=5.26で表わされる測色値を有していた。これは、表面相及び/又は表面特性が2つのサンプルの間で異なることを更に明示している。
【0066】
制御試験として、サンプルA及びサンプルBに形成されるコーティングを更に、Wを含有せず、かつこの工業分野で公知になっている他のNiめっき法により形成されたコーティングと比較した。Niコーティング(例えば、Wを含まないコーティング)を、サンプルA及びサンプルBにおける基板と同じ基板に施し、そしてNiコーティングは、サンプルA及びサンプルBにおける厚さと同様の厚さ(約10〜12ミクロン)であり、かつこの場合、公称純Niコーティングを、例えば通常の光沢ニッケル電気めっき溶液に、またはスルファミン酸ニッケル浴に浸漬して形成した。CASS腐食試をNiコーティングに対して実施し、そして全ての場合において、Niコーティングの表面特性及び腐食特性が、サンプルA及びBにおけるNi−Wコーティングのこれらの特性よりも望ましくなかった。このように、少なくとも或る量のWをコーティングに含有させた状態は、特性を向上させ、かつ腐食保護性を高めるために望ましい。
【0067】
理論に拘束されることを望まないが、Wを含有させることにより、ニッケル及びタングステンの両方を含む所望の複合酸化物または酸素含有相が形成される、またはこれらの金属種のうちの1つの金属種、または両方の金属種を含む幾つかの異なる酸化物相から成る複合材料が形成される。例えば、サンプルBは、約4原子%のWを酸化物に含んでいた。幾つかの場合では、少なくとも1原子%のWをコーティングに含有させることにより、所望の効果を達成することができる。更に、幾つかの場合では、酸化物を含む部分を含むコーティングを形成することが望ましく、この場合、当該酸化物は、約1〜20原子%のWだけでなく、ニッケル及び酸素を含む。このようなコーティングは、高機能表面特性、耐腐食性、及び耐変色性または耐退色性を示すことができる。これらのコーティングは更に、W合金から成る領域群を含むことができ、この場合、これらの領域は、少なくともナノ
結晶とすることができる、または少なくともナノ結晶とする必要はない。幾つかの場合では、これらのコーティングは、クロムまたはクロム酸化物をほとんど含まないようにすることができ、そして処理ステップを電気めっき後に追加する必要を生じることなく形成することができる。
(例3)
種々の更に別のコーティングサンプルを作製し、そしてこれらのサンプルの特性を分析した。例えば、有機添加剤(すなわち、均展剤、濡れ剤、増白剤)を電着浴に、1g/L未満の量だけ添加したことを除いて、サンプルC及びサンプルDを、例1においてサンプルA及びBをそれぞれ作製するために説明した方法を使用して作製した。この技術分野の当業者であれば、均展剤、増白剤、展延剤、濡れ剤などを、このような少量だけこれらの電着浴に共通に使用することができ、かつこれらの添加剤から成る多くの複合物を異なる浴に含有させることができることが理解できるであろう。この例では、低濃度の有機添加剤を含有させることにより、サンプルA及びBに関して上に報告した主要な結果が変化することはなかった。サンプルCは、CASS腐食を数時間しか経過しないうちに示し、極めて大きな腐食が4時間経過後に発生した。しかしながら、サンプルDは、耐腐食性上層部分を含み、そして少なくとも4時間のCASS腐食寿命を有していた。
(例4)
以下の例では、従来のDCめっき法を使用して、Ni−Wコーティングを形成した。複数層をまず、直流(DC)条件で、かつ0.09A/cm2の一定印加電流密度で電着させたことを除いて、サンプルE及びサンプルFを、例1においてサンプルA及びBをそれぞれ作製するために説明した方法を使用して作製した。サンプルE及びサンプルFは共に、約20ミクロン未満の厚さのNi−Wコーティングを含んでいた。DC(直流)めっきを行なってNi−Wコーティングを形成した後、サンプルEを浴から取り出した。これとは異なり、DCめっきを行なってNi−Wコーティングを形成した後、更に別の上層部分をサンプルFに、サンプルBにおいて使用したものと同じDC電流、及び手順を使用して形成した(例えば、0.09A/cm2の順方向電流密度で12msに亘ってめっきし、続いて0.075A/cm2の逆方向電流密度で8msに亘ってめっきする順方向/逆方向シーケンスを1分に亘って行なってめっきする)。
【0068】
サンプルE及びサンプルFは、サンプルA及びBに形成されるコーティングの特徴と同じそれぞれの特徴の全てを示した。図2は、(a)標準的なDC電着プロセスを使用してNi−W合金をコーティングしたパネル試料(例えば、サンプルE);及び(b)2段階反転パルス電着プロセスを使用してNi−W合金をコーティングしたパネル試料(例えば、サンプルF)に対して標準的なCASS腐食試験を14時間に亘って行なった後の写真のコピーを示している。従来のDCめっきを使用して作製されたサンプルEが腐食して、14時間しか経過していないのにほぼ完全に退色してしまった(図2A)のに対し、サンプルFは、同じ曝露を受けた後に、CASS試験に耐えることができて、退色をほとんど示すことがなく、かつ明らかな腐食または明らかな変色を起こすということがなかった。更に別の試験から、サンプルFにおける条件と同じ条件を使用して作製されたサンプル群は、CASS腐食条件に耐えることができ、88時間に亘ってほとんど腐食が起こらなかった。このように、CASS腐食寿命は、このサンプルに関して少なくとも88時間であった。
【0069】
腐食試験の前に、サンプルE及びFを更に分析して、これらのサンプルの表面化学、及び表面上の酸化物を、X線光電子分光法(XPS)を用いて評価した。サンプルEに対するXPS分析から、表面が、ニッケル、タングステン、及び酸素から成っていた、すなわち酸化物層(または、酸素含有相)がニッケル及びタングステンを含んでいたことが判明した。更に、金属含有量の定量測定を行なうことが可能であり、これによって、サンプルEの表面が、約49重量%:51重量%のNi:W重量比を有していたことが判明し、この比は、サンプルAに関してオージェ分光法により測定された比(49:51)に類似し
ていた。サンプルA及びサンプルEは共に、従来の方法を用いて作製された。サンプルFのXPF分析から更に、表面酸素含有層が、Ni及びWを含み、かつ表面における金属比率が異なる、すなわちNi:W比が81重量%:19重量%であることが判明した。この比率は、サンプルBに関してオージェ分光法により測定された比率(例えば、88:12)に類似していた。サンプルB及びサンプルFは共に、最終めっき工程で反転パルス方式を用いて作製され、この反転パルス方式により上層部分を形成した。
【0070】
このようにして、サンプルE及びFに関するXPS測定によって、サンプルA及びBに関する上記知見を、オージェ分光法を用いて確認し、サンプルB及びFに形成される上層部分が、サンプルA及びEに含まれるタングステンよりも少量のタングステンを含む異なる表面組成を有していたことを検証した。サンプルB及びFの大幅に改善されたCASS試験による腐食特性をサンプルA及びEの腐食特性と比較すると、表面相または種々の表面相の性質が腐食挙動及び他の表面特性に影響を及ぼし得ることが分かる。
【0071】
サンプルE及びFのXPS分析から更に、酸素がコーティングに含まれているだけでなく、金属−酸素結合が形成されている明らかな証拠が判明した。図3は、(a)サンプルEのニッケルのXPSスペクトル、及び(b)サンプルFのニッケルのXPSスペクトルを示している。図3に示すように、サンプルEの試料のニッケルのXPSスペクトル(図3A)、及びサンプルFの試料のニッケルのXPSスペクトル(図3B)は同様であり、2つの1次ピークが、金属状態のNiが結合することにより生じている。図中、「Binding Energy」は結合エネルギーを、「Intensity」は強度を示している。相対的に小さい複
数の2次ピークも観察され、これらの2次ピークのうちの2つの2次ピークが金属Niに関連付けられる。約856eVの結合エネルギーに位置する3次ピークは、ニッケルを含有する金属酸化物に関連付けられる。図4は、(a)サンプルEのタングステンのXPSスペクトル、及び(b)サンプルFのタングステンのXPSスペクトルを示している。両方のスペクトルにおいて、2つの大きい方のピークは、金属タングステン結合に関連付けることができ、そして小さい方のピーク群は、タングステン含有酸化物に関連付けることができる。サンプルFは、サンプルEよりも顕著な酸化物ピークを示した。これらのプロットの左側のピークは、結合エネルギーが相対的に高いことを表わしている、すなわち原子構成要素群が相対的に強く結合していることを表わしている。図4のデータは、サンプルFにおいて、原子群が平均的に、サンプルEにおけるよりも強く結合していることを示唆している。図5は、(a)サンプルEの酸素のXPSスペクトル、及び(b)サンプルFの酸素のXPSスペクトルを示している。2つのスペクトルの間に非常に明確な差が生じており、図5Aのスペクトルが1次ピークの右側に肩部を示し、そして図5Bのスペクトルは、この肩部を示していない。これらのプロットの左側のピークは、結合エネルギーが相対的に高いことを表わしている、すなわち原子構成要素群が相対的に強く結合していることを表わしている。図5のデータは、サンプルFにおいて、原子群が平均的に、サンプルEにおけるよりも強く結合していることを示唆している。
【0072】
このように、XPS分析は、サンプルE及びFの表面層に差が生じ、かつこれらの2つのサンプルの上部に位置する酸化物または酸素含有相が明白に異なることを示している。これは、XPS(X線光電子分光法)及びオージェ分光法の両方の方法による組成測定結果及び腐食観察結果と相関する。更に別の試験から、これらの結果が種々の基板に関して、かつ他の条件変化に関して得られることが確認された。銅を含まない酢酸塩水噴霧(ASTM G−85に基づく)、及び中性塩水噴霧(NSS、ASTMG B−117に基づく)を含む他の腐食性媒質も詳細に検討されている。種々の異なる幾何学構造を持つ真ちゅう製基板、及び鋼製基板に対する試験が行なわれている。種々の腐食性媒質に浸漬する浸漬腐食試験も行なわれている。各場合において、固有の上層部分組成を有する試料、または固有の上層部分を形成するために公知になっている方法を用いて作製される試料は、これまでの方法を用いて作製されるコーティングと比較して高い耐腐食性を示した。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に形成されるコーティングであって、前記コーティングが第1部分及び第2部分を有し、前記第2部分がニッケル、タングステン、及び酸素を含み、前記第2部分に含まれるタングステンの重量百分率が1〜20パーセントである、前記コーティングとを備える、物品。
【請求項2】
前記第2部分は前記第1部分の上に形成される、請求項1に記載の物品。
【請求項3】
前記第2部分は前記コーティングの上層部分である、請求項2に記載の物品。
【請求項4】
前記コーティングは、クロムまたはクロム酸化物を実質的に含まない、請求項1に記載の物品。
【請求項5】
前記コーティングは更に金属酸化物を含む、請求項1に記載の物品。
【請求項6】
前記第1及び第2部分のうちの少なくとも一方の部分は、ナノ結晶構造を有する、請求項1に記載の物品。
【請求項7】
前記第1部分は酸素を実質的に含まない、請求項1に記載の物品。
【請求項8】
前記第1部分は、ニッケル及びタングステンを含む、請求項1に記載の物品。
【請求項9】
前記第2部分に含まれるニッケルの重量百分率は、少なくとも50パーセントである、請求項1に記載の物品。
【請求項10】
前記第2部分に含まれるニッケルの重量百分率は、少なくとも70パーセントである、請求項1に記載の物品。
【請求項11】
前記コーティングの前記第2部分は、10nm〜500nmの厚さを有する、請求項1に記載の物品。
【請求項12】
前記第1部分は、前記第2部分の厚さの5倍超の厚さを有する、請求項1に記載の物品。
【請求項13】
更に、第3部分を備える、請求項1に記載の物品。
【請求項14】
前記第2部分は、基本的にニッケル、タングステン、及び酸素から成る、請求項1に記載の物品。
【請求項15】
基板と、
前記基板上に形成され、かつニッケル及びタングステンを含むコーティングとを備える物品であって、
前記物品が、少なくとも2時間のCASS腐食寿命を有する、物品。
【請求項16】
前記コーティングは、クロムまたはクロム酸化物を実質的に含まない、請求項15に記載の物品。
【請求項17】
前記基板は金属を含む、請求項15に記載の物品。
【請求項18】
前記コーティングは、第1部分と、そして前記第1部分の上に形成される第2部分と、を有する、請求項15に記載の物品。
【請求項19】
前記第2部分は、ニッケル、タングステン、及び酸素を含み、そして前記第2部分に含まれるタングステンの重量百分率は1〜20パーセントである、請求項15に記載の物品。
【請求項20】
前記第1部分は、ニッケル−タングステン合金を含む、請求項15に記載の物品。
【請求項21】
前記コーティングは電着される、請求項15に記載の物品。
【請求項22】
前記コーティングはナノ結晶構造を有する、請求項15に記載の物品。
【請求項23】
前記物品は、少なくとも10時間のCASS腐食寿命を有する、請求項15に記載の物品。
【請求項24】
被コーティング物品を製造するための方法であって、
アノードと、カソードと、前記アノード及び前記カソードを浸漬させた電着浴と、前記アノード及び前記カソードに接続される電源とを設ける工程と、前記電気化学浴は、ニッケル種及びタングステン種を含むことと、
前記電源を駆動して波形を生成することによりコーティングを基板上に電着させて被コーティング物品を形成する工程とを備え、前記コーティングは、第1部分及び第2部分を有し、前記第2部分は、ニッケル、タングステン、及び酸素を含み、前記第2部分に含まれるタングステンの重量百分率は1〜20パーセントである、方法。
【請求項25】
コーティングを電着するための方法であって、
アノードと、カソードと、前記アノード及び前記カソードを浸漬させた電着浴と、前記アノード及び前記カソードに接続される電源とを設ける工程と、
前記電源を駆動して波形を生成することによりコーティングを電着させる工程とを備え、前記波形は、少なくとも1つの順方向パルスと、少なくとも1つの逆方向パルスとを含むセグメントを含み、
前記少なくとも1つの順方向パルスは、期間及び平均順方向電流密度を有し、前記少なくとも1つの逆方向パルスは、期間及び平均逆方向電流密度を有し、
前記逆方向パルスの前記期間に亘って積分された前記平均逆方向電流密度に対する前記順方向パルスの前記期間に亘って積分された前記平均順方向電流密度の比は0.5〜5である、方法。
【請求項26】
前記少なくとも1つの逆方向パルスは、前記少なくとも1つの順方向パルスのすぐ後に続く、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記セグメントは、複数の順方向パルス及び逆方向パルスを含む、請求項25に記載の方法。
【請求項28】
各逆方向電流パルスの前記期間に亘って積分された各逆方向電流パルスの前記平均逆方向電流密度の合計に対する各順方向電流パルスの前記期間に亘って積分された各順方向電流パルスの前記平均順方向電流密度の合計の比は0.5〜5である、請求項25に記載の方法。
【請求項29】
前記波形は、前記セグメントの前に先行セグメントを含む、請求項25に記載の方法。
【請求項30】
前記先行セグメントは、順方向パルスを1つだけ含む、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記セグメントによって前記コーティングの第2部分を形成し、そして前記先行セグメントによって、前記コーティングの前記第2部分とは異なる組成を有する前記コーティングの第1部分を形成し、前記第2部分は前記第1部分の上に形成される、請求項29に記載の方法。
【請求項32】
前記第2部分は、ニッケル、タングステン、及び酸素を含み、そして前記上側部分に含まれるタングステンの重量百分率は1〜20パーセントである、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記コーティングは金属合金を含む、請求項25に記載の方法。
【請求項34】
前記コーティングはニッケルタングステン合金を含む、請求項25に記載の方法。
【請求項35】
前記波形の前記セグメントは、10秒〜180秒の期間を有する、請求項25に記載の方法。
【請求項36】
前記電着浴は、タングステン種及びニッケル種を含む、請求項25に記載の方法。
【請求項37】
コーティングを電着するための方法であって、
アノードと、カソードと、前記アノード及び前記カソードを浸漬させた電着浴と、前記アノード及び前記カソードに接続される電源とを設ける工程と、
前記電源を駆動して波形を生成することによりコーティングを電着させる工程とを備え、前記波形は、少なくとも1つの順方向パルスと、少なくとも1つの逆方向パルスとを含むセグメントを含み、
前記少なくとも1つの順方向パルスは、約1ms〜約100msの期間を有し、平均順方向電流密度が約0.01A/cm2〜1A/cm2であり、
前記少なくとも1つの逆方向パルスは、約1ms〜約100msの期間を有し、平均逆方向電流密度が約0.01A/cm2〜1A/cm2である、
方法。
【請求項38】
前記少なくとも1つの逆方向パルスは、前記少なくとも1つの順方向パルスのすぐ後に続く、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記セグメントは、複数の順方向パルス及び逆方向パルスを含む、請求項37に記載の方法。
【請求項40】
前記コーティングはニッケルタングステン合金を含む、請求項37に記載の方法。
【請求項41】
前記コーティングは、第1部分と、そして前記第1部分の上に形成される第2部分と、を含み、前記第2部分は、ニッケル、タングステン、及び酸素を含み、前記上側部分に含まれるタングステンの重量百分率は1〜20パーセントである、請求項37に記載の方法。
【請求項42】
前記電着浴は、タングステン種及びニッケル種を含む、請求項37に記載の方法。
【請求項43】
被コーティング物品を製造するための方法であって、
アノードと、カソードと、前記アノード及び前記カソードを浸漬させた電着浴と、前記アノード及び前記カソードに接続される電源とを設ける工程と、前記電気化学浴は、ニッケル種及びタングステン種を含むことと、
前記電源を駆動して波形を生成することによりコーティングを基板上に電着させて被コーティング物品を形成する工程とを備え、前記コーティングは、ニッケル及びタングステ
ンを含み、
前記物品は、少なくとも2時間のCASS腐食寿命を有する、方法。
【請求項1】
基板と、
前記基板上に形成されるコーティングであって、前記コーティングが第1部分及び第2部分を有し、前記第2部分がニッケル、タングステン、及び酸素を含み、前記第2部分に含まれるタングステンの重量百分率が1〜20パーセントである、前記コーティングとを備える、物品。
【請求項2】
前記第2部分は前記第1部分の上に形成される、請求項1に記載の物品。
【請求項3】
前記第2部分は前記コーティングの上層部分である、請求項2に記載の物品。
【請求項4】
前記コーティングは、クロムまたはクロム酸化物を実質的に含まない、請求項1に記載の物品。
【請求項5】
前記コーティングは更に金属酸化物を含む、請求項1に記載の物品。
【請求項6】
前記第1及び第2部分のうちの少なくとも一方の部分は、ナノ結晶構造を有する、請求項1に記載の物品。
【請求項7】
前記第1部分は酸素を実質的に含まない、請求項1に記載の物品。
【請求項8】
前記第1部分は、ニッケル及びタングステンを含む、請求項1に記載の物品。
【請求項9】
前記第2部分に含まれるニッケルの重量百分率は、少なくとも50パーセントである、請求項1に記載の物品。
【請求項10】
前記第2部分に含まれるニッケルの重量百分率は、少なくとも70パーセントである、請求項1に記載の物品。
【請求項11】
前記コーティングの前記第2部分は、10nm〜500nmの厚さを有する、請求項1に記載の物品。
【請求項12】
前記第1部分は、前記第2部分の厚さの5倍超の厚さを有する、請求項1に記載の物品。
【請求項13】
更に、第3部分を備える、請求項1に記載の物品。
【請求項14】
前記第2部分は、基本的にニッケル、タングステン、及び酸素から成る、請求項1に記載の物品。
【請求項15】
基板と、
前記基板上に形成され、かつニッケル及びタングステンを含むコーティングとを備える物品であって、
前記物品が、少なくとも2時間のCASS腐食寿命を有する、物品。
【請求項16】
前記コーティングは、クロムまたはクロム酸化物を実質的に含まない、請求項15に記載の物品。
【請求項17】
前記基板は金属を含む、請求項15に記載の物品。
【請求項18】
前記コーティングは、第1部分と、そして前記第1部分の上に形成される第2部分と、を有する、請求項15に記載の物品。
【請求項19】
前記第2部分は、ニッケル、タングステン、及び酸素を含み、そして前記第2部分に含まれるタングステンの重量百分率は1〜20パーセントである、請求項15に記載の物品。
【請求項20】
前記第1部分は、ニッケル−タングステン合金を含む、請求項15に記載の物品。
【請求項21】
前記コーティングは電着される、請求項15に記載の物品。
【請求項22】
前記コーティングはナノ結晶構造を有する、請求項15に記載の物品。
【請求項23】
前記物品は、少なくとも10時間のCASS腐食寿命を有する、請求項15に記載の物品。
【請求項24】
被コーティング物品を製造するための方法であって、
アノードと、カソードと、前記アノード及び前記カソードを浸漬させた電着浴と、前記アノード及び前記カソードに接続される電源とを設ける工程と、前記電気化学浴は、ニッケル種及びタングステン種を含むことと、
前記電源を駆動して波形を生成することによりコーティングを基板上に電着させて被コーティング物品を形成する工程とを備え、前記コーティングは、第1部分及び第2部分を有し、前記第2部分は、ニッケル、タングステン、及び酸素を含み、前記第2部分に含まれるタングステンの重量百分率は1〜20パーセントである、方法。
【請求項25】
コーティングを電着するための方法であって、
アノードと、カソードと、前記アノード及び前記カソードを浸漬させた電着浴と、前記アノード及び前記カソードに接続される電源とを設ける工程と、
前記電源を駆動して波形を生成することによりコーティングを電着させる工程とを備え、前記波形は、少なくとも1つの順方向パルスと、少なくとも1つの逆方向パルスとを含むセグメントを含み、
前記少なくとも1つの順方向パルスは、期間及び平均順方向電流密度を有し、前記少なくとも1つの逆方向パルスは、期間及び平均逆方向電流密度を有し、
前記逆方向パルスの前記期間に亘って積分された前記平均逆方向電流密度に対する前記順方向パルスの前記期間に亘って積分された前記平均順方向電流密度の比は0.5〜5である、方法。
【請求項26】
前記少なくとも1つの逆方向パルスは、前記少なくとも1つの順方向パルスのすぐ後に続く、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記セグメントは、複数の順方向パルス及び逆方向パルスを含む、請求項25に記載の方法。
【請求項28】
各逆方向電流パルスの前記期間に亘って積分された各逆方向電流パルスの前記平均逆方向電流密度の合計に対する各順方向電流パルスの前記期間に亘って積分された各順方向電流パルスの前記平均順方向電流密度の合計の比は0.5〜5である、請求項25に記載の方法。
【請求項29】
前記波形は、前記セグメントの前に先行セグメントを含む、請求項25に記載の方法。
【請求項30】
前記先行セグメントは、順方向パルスを1つだけ含む、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記セグメントによって前記コーティングの第2部分を形成し、そして前記先行セグメントによって、前記コーティングの前記第2部分とは異なる組成を有する前記コーティングの第1部分を形成し、前記第2部分は前記第1部分の上に形成される、請求項29に記載の方法。
【請求項32】
前記第2部分は、ニッケル、タングステン、及び酸素を含み、そして前記上側部分に含まれるタングステンの重量百分率は1〜20パーセントである、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記コーティングは金属合金を含む、請求項25に記載の方法。
【請求項34】
前記コーティングはニッケルタングステン合金を含む、請求項25に記載の方法。
【請求項35】
前記波形の前記セグメントは、10秒〜180秒の期間を有する、請求項25に記載の方法。
【請求項36】
前記電着浴は、タングステン種及びニッケル種を含む、請求項25に記載の方法。
【請求項37】
コーティングを電着するための方法であって、
アノードと、カソードと、前記アノード及び前記カソードを浸漬させた電着浴と、前記アノード及び前記カソードに接続される電源とを設ける工程と、
前記電源を駆動して波形を生成することによりコーティングを電着させる工程とを備え、前記波形は、少なくとも1つの順方向パルスと、少なくとも1つの逆方向パルスとを含むセグメントを含み、
前記少なくとも1つの順方向パルスは、約1ms〜約100msの期間を有し、平均順方向電流密度が約0.01A/cm2〜1A/cm2であり、
前記少なくとも1つの逆方向パルスは、約1ms〜約100msの期間を有し、平均逆方向電流密度が約0.01A/cm2〜1A/cm2である、
方法。
【請求項38】
前記少なくとも1つの逆方向パルスは、前記少なくとも1つの順方向パルスのすぐ後に続く、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記セグメントは、複数の順方向パルス及び逆方向パルスを含む、請求項37に記載の方法。
【請求項40】
前記コーティングはニッケルタングステン合金を含む、請求項37に記載の方法。
【請求項41】
前記コーティングは、第1部分と、そして前記第1部分の上に形成される第2部分と、を含み、前記第2部分は、ニッケル、タングステン、及び酸素を含み、前記上側部分に含まれるタングステンの重量百分率は1〜20パーセントである、請求項37に記載の方法。
【請求項42】
前記電着浴は、タングステン種及びニッケル種を含む、請求項37に記載の方法。
【請求項43】
被コーティング物品を製造するための方法であって、
アノードと、カソードと、前記アノード及び前記カソードを浸漬させた電着浴と、前記アノード及び前記カソードに接続される電源とを設ける工程と、前記電気化学浴は、ニッケル種及びタングステン種を含むことと、
前記電源を駆動して波形を生成することによりコーティングを基板上に電着させて被コーティング物品を形成する工程とを備え、前記コーティングは、ニッケル及びタングステ
ンを含み、
前記物品は、少なくとも2時間のCASS腐食寿命を有する、方法。
【図1】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7】
【公表番号】特表2011−521105(P2011−521105A)
【公表日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−509483(P2011−509483)
【出願日】平成21年5月13日(2009.5.13)
【国際出願番号】PCT/US2009/002961
【国際公開番号】WO2009/139866
【国際公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【出願人】(508341245)エクスタリック コーポレイション (4)
【氏名又は名称原語表記】XTALIC CORPORATION
【Fターム(参考)】
【公表日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年5月13日(2009.5.13)
【国際出願番号】PCT/US2009/002961
【国際公開番号】WO2009/139866
【国際公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【出願人】(508341245)エクスタリック コーポレイション (4)
【氏名又は名称原語表記】XTALIC CORPORATION
【Fターム(参考)】
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