説明

被割断材の加工方法および加工装置

【課題】ひび割れや欠損等の破損の発生を効果的に防いでガラス板の安全性や強度等の品質を保持しつつ、大規模な周辺設備を必要とせずにガラス板の割断にかかる時間を短縮することのできるガラス板の加工装置及び加工方法を提供する。
【解決手段】被割断材(ガラス1)の割断予定線1A部分に照射するパルスレーザ光4aを発振するレーザ光源4と、パルスレーザ光4aを照射位置に誘導する光学系(誘導部5)と、パルスレーザ光4aが割断予定線1Aと交差する方向に振動しつつ被割断材に照射されるようにパルスレーザ光4aに振動を与える振動手段(振動部7)を備え、前記パルスレーザ光4aを、被割断材の照射部分が瞬間的に蒸発するエネルギー密度で照射する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ガラスなどの被割断材をレーザ光によって加工する加工方法および加工装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガラスなどの高脆性非金属材料では、需要に応じて所定の形状や寸法に切断して使用される。この切断では、前記材料に溝状の割断部を形成し、前記材料に機械的な応力や熱応力を加えることで前記割断部に沿って切断する方法が採用されている。
この種の装置としては、特許文献1、特許文献2で提案されているものが知られている。
特許文献1により提案されているものは、パルス幅が100ps以下の短パルスを基板に掃引照射することにより、基板表面に切断用の溝を形成する。この方法では、塑性変形に伴う残留応力、熱歪みがそれぞれ原理的に発生しないため、微小クラックの発生を抑制または回避でき、垂直方向の溝のみを良好に形成することができ、この結果、安定な基板の切断を実現し、また、切断した基板に対して、安定的かつ十分な曲げ強度を提供する とされている。
【0003】
特許文献2により提案されている割断方法の概念を図9に示す。被加工物20を相対移動させながら、該被加工物20の切断予定位置21上に、局部加熱して圧縮応力を発生させる加熱領域22、被加工物20を蒸散させて凹所を形成する加工点23a及び被加工物20を冷却して引張り応力を発生させる冷却領域24aを、順次に生成させる。加工点23aは、可視又は紫外領域のレーザ光を被加工物20の表面に集光照射して形成される。レーザ光と被加工物20との相対移動により、加工点23aが連続してガイド溝23bが形成され、ガイド溝23bに案内させて冷却領域24aを設けることで被加工物20が切断されるとしている。
【特許文献1】特開2007−331983号公報
【特許文献2】特開2007−55000号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、レーザ光を用いてガラスを切断する従来の装置では、ガラス板に切断用の鋭い溝が生成されるため、切断した角部は鋭角となる。その後に、このガラス板をハンドリングした場合、角部にガイド用のピンがあたって傷がつくなどの問題が生じるため、場合によっては切断後に前記角部を面取りをしなければならない。該面取りの方法としては、従来、研磨工具が用いられてきたが、研磨工具に使用に代えてレーザ光を利用するものも提案されている。
いずれにしてもガラスを切断した後に面取り工程が必要になるため、作業工程が複雑になるという問題がある。
また、従来のレーザ光を使った面取り方法では、ガラスを溶融させて切断面をR面にするため、溶融部で欠損や形状に垂れなどが生じて形状精度が損なわれるという問題がある。さらに、ガラスが部分的に加熱されることで、残留歪が発生し、微細クラックなどを招くので、残留歪みを取り除く必要があり、このために時間を掛けて徐冷するなどの手段が必要になるが、徐冷のために長い時間を要し、効率が悪い。
また、ガラスのサイズが大きくなると、残留応力が積算されて、ガラスが残留応力に耐え切れずに破壊されてしまう問題もある。残留歪みに対しては、ガラス全体を予め加熱しておくことにより残留歪の発生を回避することができるが、ガラス全体を加熱するのは時間がかかり生産性に問題がある。
【0005】
この発明は上記のような従来のものの課題を解決するためにこなされたもので、レーザ光でガラスを瞬間的に蒸発させ、割断予定線をR面に加工して割断部を形成できる方法および装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明の被割断材の加工方法のうち、第1の本発明は、被割断材の割断予定線に沿って割断部を形成する方法において、パルスレーザ光を前記割断予定線と交差する方向に振動させながら前記被割断材に照射し、該被割断材の照射部分でレーザアブレーションを生じさせて該被割断材に割断部を形成することを特徴とする。
【0007】
上記本発明によれば、パルスレーザ光によって割断予定線部分の被割断材が蒸散して割断部が形成されるとともに、該パルスレーザ光が割断予定線と交差する方向に繰り返し振動することで割断部の両角部が面取りされ、割断部形成と割断部角部の面取りとが同時になされる。なお、割断部は、被割断材をフルカットしたものを意味するものではなく、深さ方向に少なくとも部分的に溝を生じさせたものを指すものである(フルカットしたものを排除するものではない)。
パルスレーザ光は集光して小さいビームスポットに成形し、割断予定線の中心に振幅中心があるように振動させつつ割断予定線に照射することによって、割断予定線の中心が深く加工され、中心から離れるに従い加工量が減り、振幅の両端側で割断部にR面が形成される。
【0008】
第2の本発明の被割断材の加工方法は、前記第1の本発明において、前記被割断材が高脆性非金属材料であることを特徴とする。
【0009】
第3の本発明の被割断材の加工方法は、前記第1または第2の本発明において、前記パルスレーザ光を前記被割断材の割断予定線に沿って相対的に走査して、該被割断材に前記割断予定線に沿った前記割断部を形成することを特徴とする。
【0010】
第4の本発明の被割断材の加工方法は、前記第3の本発明において、前記パルスレーザ光に先行して前記被割断材を部分的に予備加熱する加熱部分を前記被割断材に与え、該加熱部分を前記割断予定線に沿って前記パルスレーザ光とともに走査して、該加熱部分に重ねて前記パルスレーザ光を照射することを特徴とする。
【0011】
上記本発明によれば、予備加熱による加熱部分で割断予定部が適度に加熱されており、これにパルスレーザ光を重ねて照射することで、被割断材全体の加熱を要することなく効率的に被割断材にレーザアブレーションを生じさせて割断部を形成することができる。
【0012】
第5の本発明の被割断材の加工方法は、前記第4の本発明において、前記パルスレーザ光は、前記加熱部分の後方側域に重ねて照射することを特徴とする。
【0013】
上記本発明によれば、予備加熱による加熱部分で被加熱材が略最高温度付近となっている箇所にパルスレーザ光を照射することができ、より効果的な加熱効果が得られる。
【0014】
第6の本発明の被割断材の加工方法は、前記第2〜第5の本発明のいずれかにおいて、前記パルスレーザ光に後続して前記被割断材を部分的に冷却する冷却部分を前記被割断材に与え、該冷却部分を前記割断予定線に沿って前記パルスレーザ光とともに走査することを特徴とする。
【0015】
上記本発明によれば、形成された割断部が直後に冷却部分で部分的かつ急速に冷却されることになり、イニシャルクラックを入れた場合には、その部分の亀裂をより深く進展させることができ、所望により切断に至るまで亀裂を進展させることができる。
【0016】
第7の本発明の被割断材の加工方法は、前記第1〜第6の本発明のいずれかにおいて、前記パルスレーザ光の振動幅が3〜20μmの範囲内であることを特徴とする。
【0017】
本発明によれば、パルスレーザ光の振動幅を設定することで、適度な幅の割断部を形成することができる。振動幅が小さすぎると、割断部の面取りが十分になされない。また、振動幅が大きすぎると、割断部の幅が過度になり、面取りのR径も大きくなりすぎる。
【0018】
第8の本発明の被割断材の加工方法は、前記第1〜第7の本発明のいずれかにおいて、前記パルスレーザ光が前記走査方向と交差する方向に複数のビームスポットを有するものであることを特徴とする。
【0019】
上記本発明によれば、一度の照射パルスで複数スポットに照射することができ、振動幅内での照射をより確実に行うことができる。
【0020】
第9の本発明の被割断材の加工方法は、前記第1〜第8の本発明のいずれかにおいて、前記パルスレーザ光は、パルス幅が100ピコ秒以下の短パルスレーザ光であることを特徴とする。
【0021】
短パルスレーザ光の使用により、被割断材への熱影響をできるだけ小さくして割断部を形成することが可能になる。
【0022】
第10の本発明の被割断材の加工装置は、被割断材の割断予定線部分に照射するパルスレーザ光を発振するレーザ光源と、前記パルスレーザ光を照射位置に誘導する光学系と、前記パルスレーザ光が前記割断予定線と交差する方向に振動しつつ前記被割断材に照射されるように該パルスレーザ光に振動を与える振動手段とを備え、前記パルスレーザ光は、該パルスレーザ光の照射によって前記被割断材の照射部分が瞬間的に蒸発するエネルギー密度で照射されるものであることを特徴とする。
【0023】
上記本発明によれば、振動手段によってパルスレーザ光を振動しつつ被割断材に照射することが可能になり、上記本発明の方法を確実に実行することができる。
なお、振動手段としては、ガルバノミラー、ポリゴンミラーなどを用いた機械的な手段や、AOM(音響光学素子)などの光学的な手段を採用することができるが、本発明としてはパルスレーザ光を繰り返し振動できるものであればよく、その手段は特に限定されない。また、振動の周期も特に限定されるものではなく、パルスレーザ光の割断予定線方向に沿った走査速度などに応じて適宜選択することができる。例えば振動の周波数を数kHz〜数十MHzとすることができる。
【0024】
第11の本発明の被割断材の加工装置は、前記第10の本発明において、前記レーザ光源から出力される前記パルスレーザ光を、前記エネルギー密度に調整する手段を備えることを特徴とする。
【0025】
第12の本発明の被割断材の加工装置は、前記第10または第11の本発明において、前記パルスレーザ光を、前記割断予定線に沿って相対的に走査する走査手段を備えることを特徴とする。
【0026】
第13の本発明の被割断材の加工装置は、前記第10〜第12の本発明のいずれかにおいて、前記レーザ光源が、パルス幅が100ピコ秒以下の短パルスレーザ光を発振するものであることを特徴とする。
【0027】
第14の本発明の被割断材の加工装置は、前記第10〜第13の本発明のいずれかにおいて、前記パルスレーザ光が被割断材に照射されて該被割断材の一部が蒸発して発生する粉体を吸引する手段を備えることを特徴とする。
【0028】
上記本発明によれば、パルスレーザ光の照射によって発生する粉体を効果的に雰囲気中から除去することができ、該粉体によって被割断材が汚染されるのを防止することができる。
【0029】
第15の本発明の被割断材の加工装置は、前記第10〜第14の本発明のいずれかにおいて、前記パルスレーザ光が前記被割断材に照射される前に、該被割断材を予備加熱する加熱手段を備えることを特徴とする。
【0030】
第16の本発明の被割断材の加工装置は、前記第15の本発明において、前記加熱手段が、前記被割断材の吸収帯波長となる波長を有する予備加熱レーザ光により前記被割断材を予備加熱するものであることを特徴とする。
【0031】
上記本発明によれば、被割断材の吸収帯波長となる波長を有する予備加熱レーザ光を用いることで被割断材を効率よく加熱することができる。
【0032】
第17の本発明の被割断材の加工装置は、前記第15または第16の本発明において、 前記予備加熱により略最高温度に達した前記割断予定線部分に前記パルスレーザ光を照射し被割断材の一部を蒸発させることを特徴とする。
【0033】
第18の本発明の被割断材の加工装置は、前記第10〜第16の本発明のいずれかにおいて、前記パルスレーザ光は、前記被割断材の表面に対して垂直に照射されることを特徴とする。
【0034】
第19の本発明の被割断材の加工装置は、前記第10〜第18の本発明のいずれかにおいて、前記パルスレーザ光に後続して前記被割断材を部分的に冷却する冷却手段を備えることを特徴とする。
【0035】
第20の本発明の被割断材の加工装置は、前記第10〜第19の本発明のいずれかにおいて、前記冷却手段による冷却部分に後続して前記被割断材を部分的に再加熱する再加熱手段を備えることを特徴とする。
【0036】
上記本発明によれば、冷却部分によって割断部の亀裂を進展した直後に、再加熱により圧縮応力を付与して亀裂を進展させ、さらには所望により切断にまで至らせることができる。
【発明の効果】
【0037】
以上説明したように、本発明の被割断材の加工方法によれば、被割断材の割断予定線に沿って割断部を形成する方法において、パルスレーザ光を前記割断予定線と交差する方向に振動させながら前記被割断材に照射し、該被割断材の照射部分でレーザアブレーションを生じさせて該被割断材に割断部を形成するので、レーザ光照射による熱影響が殆どなく、被割断材に残留歪みを生じさせることがない。したがって、残留歪みが発生しないように、事前に被割断材全体を加熱する工程が不要であり、工程が簡略化される。また、面取り後の長時間の徐冷も必要とされないので、さらに工程が簡略化される効果がある。また、パルスレーザ光は、割断予定線中心が一番照射されるようにしてR面が形成されるので、従来、割断後に必要だった面取りをする必要がない。また被割断材を蒸発させてR面を形成しているので、メカニカルスクライブで発生する被割断材の強度低下を招く水平クラックを除去することができ、被割断材本来の強度を持たせることができる。また、スクライブ装置に組み付けることができるため、面取り装置を別途用意する必要がなく、工程短縮・およびスペースの確保ができる。
【0038】
さらに、被割断材のサイズが大きくなっても残留応力が蓄積されることがなく、大きなサイズの被割断材の処理が可能になる。また通常、ガラスなどの被割断材の割断面には強度を低下させる原因となる水平クラックが存在するが、水平クラックそのものを除去することができるため、ガラスなどの被割断材の強度をアップさせることができる。
さらに被割断材の表面のみに処理することができるため、被割断材の割断部周辺に熱に弱い材質があっても影響を及ぼすことがない。例えば、液晶パネルの液晶、樹脂等に熱ダメージを与えることがなく被割断材であるガラスの処理を行えるという効果がある。
さらには、ドライな割断および面取りであるためその後の洗浄が不要であり、また、面取りしているため、ハンドリングによる傷が付きにくいという効果がある。
【0039】
また、本発明の被割断材の加工装置によれば、被割断材の割断予定線部分に照射するパルスレーザ光を発振するレーザ光源と、前記パルスレーザ光を照射位置に誘導する光学系と、前記パルスレーザ光が前記割断予定線と交差する方向に振動しつつ前記被割断材に照射されるように該パルスレーザ光に振動を与える振動手段とを備え、前記パルスレーザ光は、該パルスレーザ光の照射によって前記被割断材の照射部分が瞬間的に蒸発するエネルギー密度で照射されるものであるので、被割断材に適切なエネルギー密度を有するパルスレーザ光を振動させつつ照射して、前記被割断材の照射部分でレーザアブレーションを生じさせて被割断材に残留歪みを生じさせることなく割断部の形成および面取りを行うことができる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
以下に、本発明の一実施形態を添付図面に基づいて説明する。
加工装置は、図1に示すように、被割断材としてのガラス1を載置する試料台2と、該試料台2を水平方向にリニア移動させる移動装置3を備えている。該移動装置3は、本発明の走査手段に相当する。
【0041】
試料台2の上方には、ミラー5a、5bなどの光学系を有する誘導部5が位置しており、該誘導部5の出射方向に、ビームを集光する調整部6が位置し、該調整部6の出射方向前方(図では調整部6の直下)に、試料台2に載置されるガラス1の割断予定線1Aが位置するように位置付けられている。なお、誘導部5には、その他に、ホモジナイザやシリンドリカルレンズなどの適宜の光学系部材を含むことができ、本発明としては、その構成が特定のものに限定されるものではない。
【0042】
上記誘導部5の入射側には、レーザ光源4から出力されるパルスレーザ光4aが入力するように構成されている。なお、この実施形態では、パルスレーザ光4aとして、紫外線域の波長を有するものが好適なものとして使用されている。
また、誘導部5の光路には、前記パルスレーザ光4aがガラス1に照射された際に、前記被割断線1Aと交差する方向にパルスレーザ光4aが振動するように、パルスレーザ光4aを振動させる振動部7が設けられている。該振動部7は、ガルバノミラー、ポリゴンミラーを用いたものや、音響光学素子を用いたものが例示される。
【0043】
図2(a)は、ガルバノミラー7aを用いた例を示すものである。該ガルバノミラー7aに上記パルスレーザ光4aを照射するとともに、ガルバノミラー7aを小角度範囲内で繰り返し振動させることで、反射光として振動したパルスレーザ光が得られる。振動周期や振動幅は、ガルバノミラーの振動周期や振動角度で設定することができる。
図2(b)は、多面鏡であるポリゴンミラー7bを用いたものである。該ポリゴンミラー7bを高速で回転させるとともに、ポリゴンミラー7bの表面にパルスレーザ光4aを照射し、反射光を好適にはfθレンズ7cを介して振動したパルスレーザ光を得る。振動周期は、ポリゴンミラー7bの回転速度で設定することができる。
【0044】
また、AOD(音響光学素子)では、パルスレーザ光のビームを回折させ、その後集光レンズで集光する。AODでは入力する音響周波数を変調させることによって光の出射角を変調することができるので、これによりパルスレーザ光を振動させることができる。
【0045】
また、上記誘導部5の上方には、ミラー11a、11bなどの光学系を有する誘導部11が位置しており、誘導部11においても、その他に、ホモジナイザやシリンドリカルレンズなどの適宜の光学系部材を含むことができ、本発明としては、その構成が特定のものに限定されるものではない。
【0046】
なお、割断予定線1Aにおいては、前記調整部6による出射方向と前記誘導部11による出射方向とがほぼ重なるようになっているが、誘導部11の出射方向は、前記調整部6の出射方向よりも、走査方向においてやや前方に位置している。
誘導部11の入射側には、COを用いたレーザ光源10から出力される予備加熱レーザ光10aが入力するように構成されている。なお、この実施形態では、予備加熱レーザ光10aとして、赤外線域の波長を有するものが好適なものとして使用されている。
【0047】
さらに、パルスレーザ光4aおよび予備加熱レーザ光10aが前記割断予定線1Aに照射される位置の走査方向後方には、ガラス1に向けて冷却エアおよび冷却水(ミスト)をスポット状に吹き付ける冷却ノズル8が配置されている。
また、パルスレーザ光4aおよび予備加熱レーザ光10aが前記割断予定線1Aに照射される位置の近傍には、吸引装置9が設けられており、吸引装置9周辺の粉塵等を吸引して除去することが可能になっている。
【0048】
なお、上記実施形態では、ガラス1を水平に配置し、その上方に誘導部5、11を配置したものとして説明しているが、本発明としてはその配置方向や配置位置関係が特に限定されるものではない。例えばガラスを縦や斜めに設置するようにしたものであってもよく、誘導部も設置されたガラスの割断面にレーザ光を照射できるよう配置されているものであればよい。
【0049】
次に、上記加工装置を用いた加工方法について説明する。
試料台2上に、割断予定線1Aが誘導部5および誘導部11の出射方向に位置するようにガラス1を載置する。
レーザ光源10では、ガラス1の吸収帯波長に属する波長を有する予備加熱レーザ光10aが出力される。レーザ光源10から出力された予備加熱レーザ光10aは、誘導部11に入射され、適宜のビーム整形やミラー11a、11bなどによる偏向を経て、誘導部11から出射され、ガラス1の割断面1Aの表面に照射される。そのときに予備加熱レーザ光10aがガラス1に照射される際のビーム形状は前記誘導部11によって整形されて、図3の加熱部分10bに示すように、ガラス1が移動する方向と平行に長手の形状にして、割断予定線1Aの部分が急加熱されることなく熱量を有効に与えるような形状にする。
該ビーム形状としては、割断部を形成する部分の大きさに相応して予備加熱できる幅を有するものであればよく、また、長さは、パルスレーザ光4aの照射に先行して予備加熱を効果的に行えるように設定されたものであればよい。例えば、幅と長さの比では数倍から数十倍に設定することができる。該加熱部分10bによってガラス1は、軟化点温度以下の温度に予備加熱される。
【0050】
一方、レーザ光源4では、適宜の出力パワーで紫外線域(波長10−400nm)の波長を有するパルスレーザ光4aが出力される。このパルスレーザ光4aのパルス幅は、ピコオーダーのものとして、好適には波長100ピコ秒以下の短パルスのレーザ光とする。
パルスレーザ光4aは、誘導部5に入射され、適宜の整形やミラー5a、5bなどによる偏向を経て、さらに振動部7で振動が与えられて誘導部5から出射され、調整部6に至る。この例では、振動部7に前記AODを用い、AODで回折しつつ振動を与える。調整部6ではパルスレーザ光4aを集光し、焦点位置がガラス1の割断予定線1Aに位置してガラス1面に垂直に照射されるように調整をする。また、パルスレーザ光4aの振動中心が割断予定線1Aに位置するように設定する。これにより割断予定線1Aを中心として、パルスレーザ光4aによる照射スポット4bがガラス1上で振動幅内で振動した状態となる。照射スポット4bの径は、割断部形成幅に相応する小さいものとすることができ、上記照射部10bの幅よりは小さいものとする。例えば1〜数μmの径とする。
【0051】
上記照射スポット4bは、ガラスが瞬間的に蒸発する、すなわちレーザアブレーションが生じるエネルギー密度を有している。レーザアブレーションは、照射部にある値以上でのエネルギーが与えられると、瞬間的に固体表面から物資が放出される現象であり、固体の溶融を経ることなく蒸発が生じるものである。
なお、上記照射スポット4bは上記調整部6によって集光されてエネルギー密度が調整されたものであり、該調整部6は、前記パルスレーザ光を、該パルスレーザ光の照射によって前記割断予定線の照射部分が瞬間的に蒸発する前記エネルギー密度に調整する手段としての役割を有している。なお、上記エネルギー密度を得るためには、レーザ光源から出力されるレーザ光のパワーが適切に設定されている必要がある。該レーザ光のパワーを調整する手段を備える場合には、これも上記エネルギー密度に調整する手段に含まれる。
【0052】
照射スポット4bは、照射部10bと部分的に重なるようにされており、さらには、照射部10bの加熱によりガラス表面の温度が最高温度に達する位置に照射スポット4bが位置するのが望ましい。照射スポット4bと照射部10bとは、移動装置3によってガラス1を移動させることで、ガラス1に対し相対的に移動してパルスレーザ光の走査がなされる。この走査方向に対し、照射スポット4bを照射部10bの走査方向後方域に位置させることで、レーザ光10aによる予備加熱が先行する。
【0053】
レーザ光10aは、図4(a)に示すように、走査方向中心で概ね最高エネルギー密度を示すが、割断予定線1Aに沿って移動させることで、ガラス表面に熱が蓄積され、ガラス1上では、照射部10bの走査方向中央よりも後方側が最高温度になる。
【0054】
図5は、割断面上で、照射部10bが移動した際の時間経過と割断面の温度の変化の一例(ビーム長さLmm、走査速度(L×11)mm/秒)を示す図である。ビーム中心が通過した後、やや時間を置いて割断面1Aが最高到達温度に達している。すなわち、この位置に常に照射スポット4bが位置するように照射スポット4bと照射部10bとの位置関係を定めるのが望ましい。
【0055】
この配置関係で、照射スポット4a、照射部10aとガラス1を相対移動させることにより、前記照射部10bと照射スポット4bとが割断予定線1Aに沿って移動し(走査され)、面取りが行なわれる。すなわち、照射部10bによって部分的に予備加熱された割断予定線1A部分では、続いて照射される照射スポット4bが短パルス、高エネルギー密度で照射され、かつ照射スポット4bが割断予定線1Aと交差する方向(この形態では直交)に振動しているため、図4(b)に示すように振動幅内で該スポットでガラスが瞬間的に蒸発するレーザアブレーション現象が生じ、割断予定線1A部分で面取りが行われる。また、パルスレーザ光4aの振動によって、割断予定線1A上では深く加工がなされ、幅縁に至る程加工深さが小さくなって幅縁では面取りがなされた割断部1Bが割断予定線1Aにそって溝状に形成される。上記パルスレーザ光4aの相対的な走査速度は、例えば数十〜数百mm/秒の速度が例示され、パルスレーザ光の振動幅は3〜20μm、振動周波数としては数kHz〜数十MHが例示されるが、本発明としては特にこれに限定されるものではない。
なお、蒸発したガラス粒子は、吸引装置9で強制的に吸引して除去することで、ガラス1への再付着を確実に防ぐことができる。
【0056】
上記割断部1Bには、形成直後にさらに冷却ノズル8による冷却エアが吹き付けられて冷却部分8bが割断予定線1Aに沿って走査されることになる。形成直後の割断部1Bは加熱状態にあり、冷却部分8bが与えられることで引張応力が加わり、図4(c)に示すように、割断部1Bの亀裂が深さ方向に進展する。
【0057】
図6は、面取りが行われた割断部1Bを示すものである。中央部では、深部1B1を有し、両幅縁で面取り部1B2を有している。面取り部1B2では、例えば曲率半径Rが50μm程度のR面取りを行うことができる。なお、この曲率半径は、前記照射スポットの径、振動幅などによっても異なるものであり、本発明としては広範囲の曲率でR面取りを行うことができる。
図6(c)は、パルスレーザ光を振動させることなく割断予定線方向に走査した際の割断部1Cの断面を示すものである。この割断部1Cでは、深い亀裂が形成されているものの、割断部の両角部は鋭角を有しており、ハンドリングにおいて傷の発生などを招きやすくなる。
【0058】
すなわち、本発明では、ガラスに対して蒸発することができる超短パルスレーザ光を集光して小さいビームスポットにして、ガラスの割断面の表面に照射することによって、ガラスの一部を瞬間的に蒸発させることができる。短パルスを使用しているため、角部の欠損や垂れなどが生じることはなく、また、ガラスの割断面周辺に熱影響を与えることがないので、残留歪を発生させることなく面取りすることができる。
【0059】
またガラスを予め予備加熱により部分的に高温にしておくことで、蒸発して高温になっているガラス粒子が割断面に付着した際に発生する熱ダメージを抑制することができる。なお、予備加熱としては、上記実施形態ではレーザ光を用いたが、本発明としてはこれに限定されるものではなく、加熱源としてバーナなどを用いても構わない。ただし、予備加熱レーザ光を用いれば、最高到達温度点の位置が正確になり、より効果的に予備加熱および面取りを行うことができる。
【0060】
また、上記実施形態では、割断部形成直後に冷却部分を設けて割断部の亀裂を進展させるようにしたが、本発明としては、冷却部分を同時に与えることなく、割断部形成および面取りの処理を一工程として完了するものであってもよい。その後、必要に応じて割断部に対する割断部亀裂の進展や切断処理を行うことができ、その方法も熱応力の付与や機械的な荷重付与などで行うことができ、特定の方法に限定されるものではない。
また、上記冷却部分の付与に後続して、または冷却部分の付与に変えて割断部を進展させるメカホイールなどの別の手段を設けるようにしても良い。
【0061】
さらに、本発明では、上記実施形態における冷却部分に後続させて再加熱領域を設けることで、割断部の亀裂を深さ方向にさらに進展させて、所望により切断(フルカット)に至らせるようにしてもよい。その概念を図7に示す。なお、上記各実施形態と同様の構成については、同一の符号を付してその説明を省略または簡略化する。
【0062】
この形態では、前記した冷却部分8bに後続させて、冷却部分8bの直後に、再加熱部部12bを与える。該再加熱部分12bは、前記予備加熱に用いたようにCOレーザ光などを用いることができる。但し、本発明としてはその加熱手段の構成が特に限定されるものではない。なお、再加熱部分12bは、割断部1Bに効果的に圧縮応力を付与できるように、割断予定線1Aに沿った方向ではエネルギ領域が小さく、該割断予定線1Aと交差する方向(この例では直交方向)でエネルギ領域が大きくなるものが望ましい。これにより、冷却によって亀裂が進展した割断部1Bに効果的に応力を付与してさらに深さ方向に亀裂を進展させて切断に至らせることができる。すなわち、この例では、ガラスへの割断部形成、面取り、切断に至るまでを一工程により処理することが可能になる。
【0063】
また、上記パルスレーザ光4aの照射においては、振動方向での照射エリアを確実に確保するために、図8に示すように複数のビームスポット40a…40aを有するパルスレーザ光4aを用いてもよい。該パルスレーザ光4aを前記各実施形態と同様に割断予定線と交差する方向に振動させることで、振動方向での照射エリアを確実かつ広く確保することができる。また、パルスレーザ光の振動幅を大きく確保できない場合にも有効である。なお、ビームスポット40a…40aは、前記割断予定線1Aと交差する方向に配列されるように調整するが、パルスレーザ光4aの振動方向と複数のビームスポットの配列方向が一致しているのが望ましい。
なお、複数のビームスポットは、一つのパルスレーザ光ビームを適宜の既知の光学系などを用いて分割して得ても良く、複数のパルスレーザ光を用いて得るようにしてもよい。この場合にも、一つのパルスレーザ光ビームを分割するようにしても良い。
【0064】
なお、上記各説明では、処理対象をガラスに限定して説明をしている。ただし、本発明としては処理対象がガラスに限定されるものではなく、セラミック、半導体などの高脆性非金属材料に適用することができ、さらにはこれに限定されず、上記作用が得られる限りは種々の材料に適用することが可能である。
【0065】
以上、本発明について上記各実施形態に基づいて説明を行ったが、本発明は上記実施形態の内容に限定されるものではなく、本発明を逸脱しない限りは当然に適宜の変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の一実施形態における加工装置を示す概略図である。
【図2】同じく、該装置における振動部の例を示す図である。
【図3】同じく、ガラス表面での割断部形成過程の概念を示す斜視図である。
【図4】同じく、ガラス切断面での割断部形成過程の概念を示す斜視図である。
【図5】同じく、ガラス表面での予備加熱レーザ光による温度変化を示すグラフである。
【図6】同じく、割断処理がなされたガラスの割断部を示す断面図、拡大図および比較例による割断部の断面図である。
【図7】本発明の他の加工装置を示す概略図である。
【図8】さらに、他の実施形態におけるパルスレーザ光のレーザスポットを示す図である。
【図9】従来の加工方法の概念を示す図である。
【符号の説明】
【0067】
1 ガラス
1A 割断予定線
1B 割断部
3 移動装置
4 レーザ光源
4a レーザ光
4b 照射スポット
6 調整部
7 振動部
8 冷却ノズル
8b 冷却部分
9 吸引装置
10 レーザ光源
10a 予備加熱レーザ光
10b 照射部
12b 再加熱部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被割断材の割断予定線に沿って割断部を形成する方法において、パルスレーザ光を前記割断予定線と交差する方向に振動させながら前記被割断材に照射し、該被割断材の照射部分でレーザアブレーションを生じさせて該被割断材に割断部を形成することを特徴とする被割断材の加工方法。
【請求項2】
前記被割断材が高脆性非金属材料であることを特徴とする請求項1記載の被割断材の加工方法。
【請求項3】
前記パルスレーザ光を前記被割断材の割断予定線に沿って相対的に走査して、該被割断材に前記割断予定線に沿った前記割断部を形成することを特徴とする請求項1または2に記載の被割断材の加工方法。
【請求項4】
前記パルスレーザ光に先行して前記被割断材を部分的に予備加熱する加熱部分を前記被割断材に与え、該加熱部分を前記割断予定線に沿って前記パルスレーザ光とともに走査して、該加熱部分に重ねて前記パルスレーザ光を照射することを特徴とする請求項3記載の被割断材の加工方法。
【請求項5】
前記パルスレーザ光は、前記加熱部分の後方側域に重ねて照射することを特徴とする請求項4記載の被割断材の加工方法。
【請求項6】
前記パルスレーザ光に後続して前記被割断材を部分的に冷却する冷却部分を前記被割断材に与え、該冷却部分を前記割断予定線に沿って前記パルスレーザ光とともに走査することを特徴とする請求項2〜5のいずれかに記載の被割断材の加工方法。
【請求項7】
前記パルスレーザ光の振動幅が3〜20μmの範囲内であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の被割断材の加工方法。
【請求項8】
前記パルスレーザ光が前記走査方向と交差する方向に複数のビームスポットを有するものであることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の被割断材の加工方法。
被割断材の加工方法。
【請求項9】
前記パルスレーザ光は、パルス幅が100ピコ秒以下の短パルスレーザ光であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の被割断材の加工方法。
【請求項10】
被割断材の割断予定線部分に照射するパルスレーザ光を発振するレーザ光源と、前記パルスレーザ光を照射位置に誘導する光学系と、前記パルスレーザ光が前記割断予定線と交差する方向に振動しつつ前記被割断材に照射されるように該パルスレーザ光に振動を与える振動手段とを備え、前記パルスレーザ光は、該パルスレーザ光の照射によって前記被割断材の照射部分が瞬間的に蒸発するエネルギー密度で照射されるものであることを特徴とする被割断材の加工装置。
【請求項11】
前記レーザ光源から出力される前記パルスレーザ光を、前記エネルギー密度に調整する手段を備えることを特徴とする請求項10記載の被割断材の加工装置。
【請求項12】
前記パルスレーザ光を、前記割断予定線に沿って相対的に走査する走査手段を備えることを特徴とする請求項10または11に記載に被割断材の加工装置。
【請求項13】
前記レーザ光源が、パルス幅が100ピコ秒以下の短パルスレーザ光を発振するものであることを特徴とする請求項10〜12のいずれかに記載の被割断材の加工装置。
【請求項14】
前記パルスレーザ光が被割断材に照射されて該被割断材の一部が蒸発して発生する粉体を吸引する手段を備えることを特徴とする請求項10〜13のいずれかに記載の被割断材の加工装置。
【請求項15】
前記パルスレーザ光が前記被割断材に照射される前に、該被割断材を予備加熱する加熱手段を備えることを特徴とする請求項10〜14のいずれかに記載の被割断材の加工装置。
【請求項16】
前記加熱手段が、前記被割断材の吸収帯波長となる波長を有する予備加熱レーザ光により前記被割断材を予備加熱するものであることを特徴とする請求項15記載の被割断材の加工装置。
【請求項17】
前記予備加熱により略最高温度に達した前記割断予定線部分に前記パルスレーザ光を照射し被割断材の一部を蒸発させることを特徴とする請求項15または16に記載の被割断材の加工装置。
【請求項18】
前記パルスレーザ光は、前記被割断材の表面に対して垂直に照射されることを特徴とする請求項10〜16のいずれかに記載の被割断材の加工装置。
【請求項19】
前記パルスレーザ光に後続して前記被割断材を部分的に冷却する冷却手段を備えることを特徴とする請求項10〜18のいずれかに記載の被割断材の加工装置。
【請求項20】
前記冷却手段による冷却部分に後続して前記被割断材を部分的に再加熱する再加熱手段を備えることを特徴とする請求項10〜19のいずれかに記載の被割断材の加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−138046(P2010−138046A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−318140(P2008−318140)
【出願日】平成20年12月15日(2008.12.15)
【出願人】(000004215)株式会社日本製鋼所 (840)
【出願人】(399041561)常陽工学株式会社 (36)
【Fターム(参考)】