説明

被加工物保持装置

【課題】 レーザ光が照射されたとしてもアブレーション現象の発生を抑制し,被加工物に貼り付けられたテープの溶融を防止可能な,被加工物保持装置を提供すること。
【解決手段】 テープが貼り付けられた被加工物にレーザ光を照射して被加工物を加工するレーザ加工装置に使用される被加工物保持装置36が提供される。この被加工物保持装置36では,被加工物のテープが貼り付けられた面を保持する被加工物保持部361を備え,この被加工物保持部361の少なくとも保持面361a側の材質は,PTFEであることを特徴とする。かかる構成により,被加工物保持部361の保持面361aは,ビームエネルギーの吸収率が小さいPTFEで形成されているので,レーザ光の照射を受けたとしても,アブレーション現象が発生しにくい。このため,被加工物保持部361が過度に加熱されないので,被加工物に貼り付けられたテープが溶融することがない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,レーザ光を照射することにより被加工物をレーザ加工するレーザ加工装置に設けられる被加工物保持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス製造工程においては,略円板形状の半導体ウェハの表面に格子状に配列された切断予定ライン(ストリート)によって複数の領域が区画され,この区画された各領域にIC,LSI等の回路が形成される。そして,半導体ウェハを切断予定ラインに沿って切断することにより,回路が形成された領域を分割して,個々の半導体チップを製造している。また,サファイヤ基板の表面に窒化ガリウム系化合物半導体等が積層された光デバイスウェハも,切断予定ラインに沿って切断することにより,個々の発光ダイオード,レーザダイオード等の光デバイスに分割され,電気機器に広く利用されている。
【0003】
上述した半導体ウェハや光デバイスウェハ等の切断予定ラインに沿った切断加工(即ち,ダイシング加工)は,通常,ダイサーと称される切削装置によって行われている。この切削装置は,上記半導体ウェハや光デバイスウェハ等の被加工物を保持するチャックテーブルと,該チャックテーブルに保持された被加工物を切削する切削手段と,チャックテーブルと切削手段とを相対的に移動せしめる切削送り手段と,を具備している。この切削手段は,スピンドルと,スピンドルに装着された切削ブレードと,スピンドルを回転駆動する駆動機構とを備える。切削ブレードは,円盤状の基台と,該基台の外周部に装着された環状の切刃からなっており,切刃は例えば粒径3μm程度のダイヤモンド等の砥粒を電鋳によって基台に固定して,厚さ20μm程度に形成されている。
【0004】
しかし,サファイヤ基板,炭化珪素基板等はモース硬度が高いため,上記切削ブレードによる切断は必ずしも容易ではない。さらに,切削ブレードは,例えば20μm程度の厚さを有するため,デバイスを区画する切断予定ラインの幅は,50μm程度必要となる。このため,例えば大きさが300μm×300μm程度の基板の場合には,切断予定ラインの占める面積比率が14%にもなり,生産性が低いという問題がある。
【0005】
そこで,近年,半導体ウェハ等の板状の被加工物を切断する方法として,その被加工物に対して透過性を有するパルスレーザ光を用い,分割すべき領域の内部に集光点を合わせてパルスレーザ光線を照射するレーザ加工方法も試みられている。このレーザ加工方法を用いた切断方法は,被加工物の一方の面側から内部に集光点を合わせて,被加工物に対して透過性を有する赤外光領域のパルスレーザ光を照射し,被加工物の内部に切断予定ラインに沿って変質層を連続的に形成し,これによって強度が低下した切断予定ラインに沿って,外力を加えることにより,被加工物を分割するものである(例えば,特許文献1参照)。
【0006】
また,近年においては,IC,LSI等の回路の処理能力を向上するために,シリコンウェハの如き半導体ウェハの表面に,SiOF,BSG(SiOB)等の無機物系の膜やポリイミド系,パリレン系等のポリマー膜である有機物系の膜からなる低誘電率絶縁体被膜(Low−k膜)を積層した形態の半導体ウェハが実用化されている。このLow−k膜は,雲母のように多層(例えば5〜15層)に積層されており,非常に脆いことから,切削ブレードにより切断予定ラインに沿って切削すると,Low−k膜が剥離し,この剥離が回路にまで達し,半導体チップに致命的な損傷を与えてしまうという問題があった。
【0007】
この問題を解消するために,半導体ウェハの切断予定ラインに形成されているLow−k膜に対し,レーザ光を照射してLow−k膜を除去し,Low−k膜が除去された切断予定ラインを切削ブレードにより切削する加工装置も提案されている。(例えば,特許文献2参照。)
【0008】
【特許文献1】特許第3408805号公報
【特許文献2】特開2003−320466号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら,上記従来のレーザ加工装置を用いて,半導体ウェハ等の被加工物を切断する際には,以下のような問題があった。
【0010】
レーザ加工装置で半導体ウェハを切断するためには,被加工物保持手段である例えばチャックテーブル上に半導体ウェハを保持した状態で,レーザ光照射手段からレーザ光を照射しつつ,チャックテーブルとレーザ光照射手段を加工送り方向に相対移動させる。半導体ウェハをダイシングする際には,ダイシングテープに貼着した状態の半導体ウェハに対し,切断予定ラインに沿ってレーザ光を照射する。
【0011】
このとき,半導体ウェハの外周緑を越えてレーザ光が照射されると,半導体ウェハを保持しているチャックテーブルにレーザ光が照射される,この結果,チャックテーブ表面にアブレーション現象が生じるため,チャックテーブルの表面が損傷して表面精度が低下したり,チャックテーブルが加熱されてダイシングテープが溶融したりするという問題があった。このアブレーション現象は,高エネルギー密度を有するレーザ光を個体物質表面に照射した際,レーザ光のエネルギーを吸収した物質が,大きなエネルギーを有するフラグメントとして爆発的に飛散する現象である。
【0012】
さらに,レーザ光照射手段によるレーザ光の出力や波長にもよるが,切断予定ラインを切断したレーザ光が,ダイシングテープを透過した結果,チャックテーブルの表面でアブレーション現象が発生する場合もある。チャックテーブルの表面はダイシングテープで密閉されているため,上記アブレーション現象によって,チャックテーブルは一層高熱に加熱され,その熱がダイシングテープに伝導して,ダイシングテープを溶融させてしまう。加えて,半導体ウェハがシリコンウェハである場合には,シリコンに入射したレーザ光がシリコンのレンズ効果によって屈折し,レーザ光の一部がシリコンを透過してチャックテーブルで集光されてしまうことも,アブレーション現象を助長させていると考えられる。特に,半導体ウェハの縦方向と横方向の切断予定ラインの交点直下にあるダイシングテープは,溶融しやすい。
【0013】
さらに,例えば,チャックテーブルが真空吸着により被加工物を保持する真空チャックである場合には,溶融したダイシングテープが,チャックテーブルの吸着チャック表面に付着して,吸着チャックに形成された吸引孔を目詰まりさせてしまうという問題もあった。このため,吸着チャックに付着したダイシングテープを砥石によって削ぎ落とす作業が必要となり,場合によっては,チャックテーブルを交換せざるを得ない場合すらあった。
【0014】
また,切断されたチップをチャックテーブルから剥離する際に,ダイシングテープがチャックテーブルに溶着していると,チップにダメージを与えてしまうという問題があった。加えて,チャックテーブル表面で発生するアブレーション現象によって,チップが衝撃を受けるので,チップの抗折強度が著しく低下してしまうという問題もあった。
【0015】
そこで,本発明は,上記問題に鑑みてなされたものであり,本発明の目的とするところは,レーザ光が照射されたとしてもアブレーション現象の発生を抑制し,被加工物に貼り付けられたテープの溶融を防止可能な,新規かつ改良された被加工物保持装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために,本発明のある観点によれば,テープが貼り付けられた被加工物にレーザ光を照射して被加工物を加工するレーザ加工装置に使用される被加工物保持装置が提供される。この被加工物保持装置では,被加工物のテープが貼り付けられた面を保持する被加工物保持部を備え,上記被加工物保持部の少なくとも保持面側の材質は,PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)であることを特徴とする。
【0017】
かかる構成により,レーザ光照射を受ける可能性のある被加工物保持部の保持面側は,レーザ光のビームエネルギーの吸収率が小さいPTFEで形成されるので,レーザ光の照射を受けたとしても,アブレーション現象の発生を抑制できる。このため,被加工物保持部の保持面が,レーザ光の照射により,破損,変形することがない。また,被加工物保持部の保持面が過度に加熱されないので,被加工物に貼り付けられたテープが溶融することがない。さらに,被加工物保持部の変形により被加工物に衝撃を与えず,かつ,テープを被加工物保持部から剥離する時に,被加工物を分割したチップに衝撃を与えないので,当該チップの抗折強度の低下を防止できる。
【0018】
また,上記被加工物保持部は,多孔質のPTFEで形成され,被加工物を真空吸着により保持するようにしてもよい。これにより,多孔質の被加工物保持部の内部を通して真空引きして,被加工物を好適に真空吸着して保持できる。このとき,テープを介して被加工物と被加工物保持部とを密着させて保持できるので,レーザ加工時におけるレーザ光の焦点制御を高精度で行うことができる。このため,被加工物保持部の保持面にレーザ光が照射される頻度を低下させることができる。
【0019】
また,上記レーザ加工装置で使用されるレーザ光の波長は,355nm〜1064nmであるようにしてもよい。PTFEは,かかる波長領域のレーザ光に対しては,従来のセラミックと比べて吸収率が非常に低い。このため,上記アブレーション現象の発生が,より好適に抑制される。
【0020】
また,上記被加工物保持部は,被加工物に貼り付けられたテープと略同一の面積,若しくは当該テープより大きい面積を有してもよい。また,上記被加工物保持部は,プレート状の吸着チャックで構成されてもよい。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように本発明によれば,被加工物保持部の少なくとも保持面側を,レーザ光のエネルギーを吸収し難い材料であるPTFEで形成することによって,被加工物保持部の表面にレーザが照射されたとしても,アブレーション現象が発生しにくい。
【0022】
従って,被加工物保持部が損傷して表面精度が低下することがない。また,被加工物に貼り付けられたテープが溶融することを防止できる。さらに,被加工物を分割したチップの抗折強度の低下も防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下に添付図面を参照しながら,本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお,本明細書及び図面において,実質的に同一の機能構成を有する構成要素については,同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0024】
(第1の実施の形態)
まず,図1に基づいて,本発明の第1の実施形態にかかるレーザ加工装置の全体構成について説明する。なお,図1は,本実施形態にかかるレーザ加工装置1の全体構成を示す斜視図である。
【0025】
図1に示すように,レーザ加工装置1は,例えば,静止基台2と,この静止基台2に水平方向(矢印Xで示す方向。以下「X方向」という。)に移動可能に配設され,被加工物を保持する被加工物保持機構3と,静止基台2に上記X方向と垂直な水平方向(矢印Yで示す方向。以下「Y方向」という。)に移動可能に配設されたレーザ光照射ユニット支持機構4と,レーザ光ユニット支持機構4に対して鉛直方向(矢印Zで示す方向。以下「Z方向」という。)に移動可能に配設されたレーザ光照射ユニット5と,撮像手段6とから構成される。
【0026】
上記被加工物保持機構3は,例えば,静止基台2上にX方向に沿って略平行に配設された一対の案内レール31,31と,この案内レール31,31上にX方向に移動可能に配設された第1の滑動ブロック32と,第1の滑動ブロック32上にY方向に移動可能に配設された第2の滑動ブロック33と,第2の滑動ブロック33上に円筒部材34によって支持された支持テーブル35と,被加工物を保持する被加工物保持装置の一例であるチャックテーブル36と,を備える。
【0027】
チャックテーブル36は,本実施形態における被加工物保持装置として構成されており,本発明の特徴的部分である。このチャックテーブル36は,例えば,本実施形態における被加工物保持部である吸着チャック(吸着用プレート)361と,この吸着チャック361を支持するチャック基台部362とを具備しており,吸着チャック361上に載置された被加工物を真空吸着して保持する。また,チャックテーブル36は,円筒部材34内に配設されたパルスモータ(図示せず。)によって,水平方向に回転可能である。なお,かかるチャックテーブル36の詳細については後述する。
【0028】
このようなチャックテーブル36上には,被加工物の一例である半導体ウェハWが載置される。この半導体ウェハWとしては,例えば,8,12または16インチの略円板状のシリコンウェハや,低誘電率絶縁体被膜(Low−k膜)を積層された半導体ウェハ,CSP(Chip Size Package)基板等のパッケージ基板など,各種の半導体基板を採用できる。
【0029】
かかる半導体ウェハWは,一側の面に,粘着テープである例えばダイシングテープ14が貼り付けられている。このダイシングテープ14により,半導体ウェハWの表面を保護できるとともに,半導体ウェハWを分割して形成された複数のチップがバラバラにならないようにできる。また,このダイシングテープ14の外周は,ウェハリング(フレーム)16に貼り付けられている。このように,半導体ウェハWは,ダイシングテープ14を介してウェハリング16に支持された状態で,チャックテーブル36の吸着チャック361上に載置される。この際,半導体ウェハWのダイシングテープ14が貼り付けられた側の面を下向きにして載置される。よって,半導体ウェハWと吸着チャック361との間には,ダイシングテープ14が介在することとなる。
【0030】
上記第1の滑動ブロック32は,その下面に上記一対の案内レール31,31と嵌合する一対の被案内溝321,321が設けられているとともに,その上面にY方向に沿って平行に形成された一対の案内レール322,322が設けられている。かかる構成の第1の滑動ブロック32は,被案内溝321,321が一対の案内レール31,31に嵌合することにより,一対の案内レール31,31に沿ってX方向に移動可能に構成される。
【0031】
さらに,被加工物保持機構3は,第1の滑動ブロック32を一対の案内レール31,31に沿ってX方向に移動させるための移動手段37を具備している。この移動手段37は,上記一対の案内レール31,31の間に平行に配設された雄ネジロッド371と,雄ネジロッド371を回転駆動するためのパルスモータ372等の駆動源を備えている。雄ネジロッド371は,その一端が上記静止基台2に固定された軸受ブロック373に回転自在に支持されており,その他端が上記パルスモータ372の出力軸に減速装置(図示せず。)を介して伝動連結されている。なお,雄ネジロッド371は,第1の滑動ブロック32の中央部下面に突出して設けられた雌ネジブロック(図示せず。)に形成された貫通雌ネジ穴に螺合されている。従って,パルスモータ372によって雄ネジロッド371を正転および逆転駆動することにより,第1の滑動ブロック32は案内レール31,31に沿ってX方向に移動せしめられる。
【0032】
上記第2の滑動ブロック33は,その下面に上記第1の滑動ブロック32の上面に設けられた一対の案内レール322,322と嵌合する一対の被案内溝331,331が設けられており,この被案内溝331,331を一対の案内レール322,322に嵌合することにより,Y方向に移動可能に構成される。
【0033】
さらに,被加工物保持機構3は,第2の滑動ブロック33を第1の滑動ブロック32に設けられた一対の案内レール322,322に沿ってY方向に移動させるための移動手段38を具備している。移動手段38は,上記一対の案内レール322と322の間に平行に配設された雄ネジロッド381と,雄ネジロッド381を回転駆動するためのパルスモータ382等の駆動源を備えている。雄ネジロッド381は,その一端が上記第1の滑動ブロック32の上面に固定された軸受ブロック383に回転自在に支持されており,その他端が上記パルスモータ382の出力軸に減速装置(図示せず。)を介して伝動連結されている。なお,雄ネジロッド381は,第2の滑動ブロック33の中央部下面に突出して設けられた雌ネジブロック(図示せず。)に形成された貫通雌ネジ穴に螺合されている。従って,パルスモータ382によって雄ネジロッド381を正転および逆転駆動することにより,第2の滑動ブロック33は案内レール322,322に沿ってY方向に移動せしめられる。
【0034】
かかる構成の被加工物保持機構3は,移動手段37および移動手段38を動作させて,被加工物を保持するチャックテーブル36をX方向およびY方向に自在に移動させることができる。これにより,レーザ加工装置1は,後述するレーザ光照射手段52のレーザ加工ヘッド100に対して,被加工物をX方向またはY方向に所定の送り速度(例えば50〜80mm/s)で相対移動させることができる。かかる被加工物の相対移動により,被加工物に対するレーザ光の照射位置を変えることができるので,被加工物を所定の直線或いは曲線の切断ラインで切断加工することができる。
【0035】
また,上記レーザ光照射ユニット支持機構4は,静止基台2上に割り出し送り方向(Y方向)に沿って平行に配設された一対の案内レール41,41と,案内レール41,41上にY方向に移動可能に配設された可動支持基台42を具備している。この可動支持基台42は,案内レール41,41上に移動可能に配設された移動支持部421と,移動支持部421に取り付けられた装着部422とからなる。装着部422は,一側面にZ方向に延びる一対の案内レール423,423が平行に設けられている。
【0036】
さらに,レーザ光照射ユニット支持機構4は,可動支持基台42を一対の案内レール41,41に沿ってY方向に移動させるための移動手段43を具備している。移動手段43は,上記一対の案内レール41,41の間に平行に配設された雄ネジロッド431と,雄ねじロッド431を回転駆動するためのパルスモータ432等の駆動源を備えている。雄ネジロッド431は,その一端が上記静止基台2に固定された軸受ブロック(図示せず。)に回転自在に支持されており,その他端が上記パルスモータ432の出力軸に減速装置(図示せず。)を介して伝動連結されている。なお,雄ネジロッド431は,可動支持基台42を構成する移動支持部421の中央部下面に突出して設けられた雌ネジブロック(図示せず。)に形成された雌ネジ穴に螺合されている。このため,パルスモータ432によって雄ネジロッド431を正転および逆転駆動することにより,可動支持基台42は案内レール41,41に沿って,Y方向に移動せしめられる。
【0037】
レーザ光照射ユニット5は,例えば,ユニットホルダ51と,ユニットホルダ51に取り付けられたレーザ光照射手段52と,移動手段53と,を具備している。
【0038】
ユニットホルダ51は,例えば,上記装着部422に設けられた一対の案内レール423,423に摺動可能に嵌合する一対の被案内溝511,511が設けられており,この被案内溝511,511を上記案内レール423,423に嵌合することにより,Z方向に移動可能に支持される。
【0039】
レーザ光照射手段52は,例えば,上記ユニットホルダ51に固定され,略水平に延出する略円筒形状のケーシング521と,このケーシング521内に配設されたレーザ光発振装置522およびレーザ光変調装置523と,レーザ加工ヘッド100と,を備える。
【0040】
レーザ光発振装置522は,例えば,YAGレーザ発振器などで構成されており,例えばNd:YAGレーザ光を発振することができる。このレーザ光発振装置522が発振する例えばNd:YAGレーザ光の出力は,ピークパワーで例えば0.5〜5kW(MAX)であり,アベレージパワーで例えば20〜180mWである。かかるレーザ光発振手段522が発振したレーザ光は,レーザ光変調装置523を介してレーザ加工ヘッド100に導かれる。
【0041】
レーザ光変調装置523は,例えば,繰り返し周波数設定部,レーザ光パルス幅設定部およびレーザ光波長設定部(いずれも図示せず。)などを備えており,上記レーザ光発振装置522が発振したレーザ光を変調することができる。具体的には,上記繰り返し周波数設定部は,例えば,レーザ光を所定の繰り返し周波数(例えば,1kHz)のパルスレーザ光にすることができる。また,レーザ光パルス幅設定部は,例えば,パルスレーザ光のパルス幅を所定幅(例えば30nsec)に設定することができる。さらに,レーザ光波長設定部は,例えば,パルスレーザ光の波長を所定値(例えば355nm〜1064nm)に設定することができる。
【0042】
レーザ加工ヘッド100は,被加工物の直上に近接して配置され,被加工物に対して上方よりレーザ光を照射するヘッドである。このレーザ加工ヘッド100は,例えば,上記レーザ光発振装置522およびレーザ光変調装置523から発振されたパルスレーザ光(以下では,単にレーザ光という。)を集光し,被加工物である半導体ウェハWに向けて出射する。
【0043】
移動手段53は,ユニットホルダ51を一対の案内レール423,423に沿ってZ方向に移動させることができる。この移動手段53は,上記各移動手段と同様に一対の案内レール423,423の間に配設された雄ネジロッド(図示せず。)と,雄ネジロッドを回転駆動するためのパルスモータ532等の駆動源を含んでおり,パルスモータ532によって雄ネジロッド(図示せず。)を正転および逆転駆動することにより,ユニットホルダ51およびレーザビーム照射手段52を案内レール423,423に沿ってZ方向に移動せしめる。
【0044】
また,撮像手段6は,例えば,上記レーザ光照射手段52を構成するケーシング521の前端部に配設されている。この撮像手段6は,可視光線によって撮像する通常の撮像素子(CCD)の外に,被加工物に赤外線を照射する赤外線照明手段と,この赤外線照明手段によって照射された赤外線を捕らえる光学系と,この光学系によって捕らえられた赤外線に対応した電気信号を出力する撮像素子(赤外線CCD)と(いずれも図示せず。)から構成されている。この撮像手段6によって撮像された画像信号は,例えば,制御手段(図示せず。)に出力され,モニタ上に表示処理等される。
【0045】
以上,レーザ加工装置1の全体構成について説明した。かかるレーザ加工装置1で,半導体ウェハWを切断する場合,上述したように,レーザ光照射によってチャックテーブル36の表面にアブレーション現象が生じ,各種の問題が生じていた。そこで,本願発明者らは,これらの問題を解決するためには,チャックテーブル36の表面においてアブレーション現象を起こさせないことが重要であると考え,鋭意努力して,チャックテーブル36の材質を,一般的に使用されるセラミックではなく,レーザ光のビームエネルギーを吸収し難い材質であるPTFE(ポリテトラフルオロエチレン,例えばテフロン(登録商標))とすることに想到した。以下に,かかるチャックテーブル36の構成について詳細に説明する。
【0046】
次に,図2に基づいて,本実施形態にかかる被加工物保持装置であるチャックテーブル36の構成について詳細に説明する。なお,図2は,本実施形態にかかるチャックテーブル36の構成を示す一部切り欠き断面図である。
【0047】
図2に示すように,チャックテーブル36は,例えば,本実施形態における被加工物保持部である吸着チャック361と,この吸着チャック361を支持するチャック基台部362とから構成される。このチャックテーブル36は,被加工物である半導体ウェハWを真空吸着する真空チャックとして構成されている。
【0048】
吸着チャック361は,例えば,半導体ウェハWを真空吸着するための略円板状の保持板(吸着用プレート)である。この吸着チャック361は,被加工物の形状に応じた形状及び大きさを有しており,本実施形態では,例えば略円板状の半導体ウェハWに応じて,吸着チャック361もまた円板形状を有しており,吸着チャック361の直径は,ダイシングテープ14の直径よりも大きい。この円板形状の吸着チャック361の厚さは例えば約5mmであり,直径は例えば約200mmである。しかし,吸着チャック361の形状は,かかる例に限定されず,被加工物の形状に応じて,略矩形状,多角形状,略楕円状など,任意の形状の平板であってよい。
【0049】
また,この吸着チャック361の上面361aは,被加工物を保持する保持面(吸着面)であり,高精度に平坦化されている。このため,吸着チャック361の上面361aは,載置された半導体ウェハWの下面に貼り付けられたダイシングテープ14と,隙間なく密接する。
【0050】
かかる吸着チャック361は,全体が,多孔質のPTFEで形成されている点が特徴である。この多孔質のPTFEは,例えば,水槽内に微細な気泡を発生させるための装置であるバブラー等に使用される多孔質材料であり,通気性を有する。本実施形態にかかる吸着チャック361を構成する多孔質のPTFEの孔径は,平均で例えば約10μmであるが,かかる例に限定されない。
【0051】
このような多孔質材料のPTFEで吸着チャック361を形成することにより,吸着チャック361の下面側から真空引きすることで,その吸引力が吸着チャック361の内部を通って吸着チャック361の上面361a側に伝わり,当該上面361aに載置された半導体ウェハWを真空吸着できるようになる。
【0052】
また,吸着チャック361をPTFEで形成することにより,従来のセラミック製の吸着チャックと比べて,レーザ光のエネルギー吸収率を大幅に低減し,吸着チャック361の表面において,レーザ光照射に伴う上記アブレーション現象の発生を抑制できる。この詳細については後述する。
【0053】
チャック基台部362は,例えば,アルミニウムまたはステンレス等の金属材料で形成された略円盤状の支持部材であり,上記吸着チャック361を下方より支持する。このチャック基台部362の上面362aの外周部には,上記吸着チャック361の外形に応じた環状突出部362bが形成されている。この環状突出部362bは,チャック基台部362上に設置された吸着チャック361の外周面を保持して,横ずれしないようにできる。また,吸着チャック361の下面と,チャック基台部362の上面362aとを,例えばアクリル系接着剤などにより接着することで,吸着チャック361をチャック基台部362上により安定して固定できる。
【0054】
また,チャック基台部362の中央部には,吸引孔326cが垂直方向に貫通形成されている。かかる吸引孔326cの下端は,真空ポンプ363に連通している。一方,吸引孔326cの上端は,チャック基台部362の上面362aに形成された溝362dと連通している。この溝362dは,チャック基台部362の上面362aを溝加工して形成される。具体的には,かかる溝362dは,例えば,上記吸引孔326aを中心として同心円状に形成された複数の環状溝と,上記吸引孔326aから上記各環状溝を横切って放射状に延びる複数の直線溝と,からなる。図2の溝362dは,直線溝のうちの一つを示している。かかる溝362dは,真空ポンプ363による負圧(吸引力)を,吸着チャック316の下面全体に略均等に伝える機能を有する。
【0055】
ここで,以上のような構成のチャックテーブル36が半導体ウェハWを保持する動作について説明する。まず,チャックテーブル36の上面(即ち,吸着チャック361の上面361a)に,半導体ウェハWが載置される。次いで,真空ポンプ363を動作させて,チャック基台部362の内部の雰囲気を吸引する。すると,この吸引力は,チャック基台部362の貫通孔362cおよび溝362dを介して,多孔質PTFEで形成され通気性を有する吸着チャック361の内部に伝わり,この結果,半導体ウェハWが吸着チャック361の上面361aに真空吸着される。
【0056】
次に,図3に基づいて,上記チャックテーブル36によって保持された半導体ウェハWを切断加工する態様について説明する。なお,図3は,本実施形態にかかるチャックテーブル36によって保持された半導体ウェハWを切断加工する態様を示す側面図である。
【0057】
図3に示すように,チャックテーブル36は,半導体ウェハWのダイシングテープ14が貼り付けられた側を,上記のように真空吸着して保持する。切断加工時には,このように半導体ウェハWを保持したチャックテーブル36が,上記レーザ光照射手段52のレーザ加工ヘッド100の下方に位置づけられる。そして,レーザ加工ヘッド100からレーザ光101を半導体ウェハWに向けて出射しながら,チャックテーブル36を水平移動させることにより,半導体ウェハWの切断予定ライン(ストリート)に沿ってレーザ光101を照射して,アブレーション作用により半導体ウェハWを切断する。
【0058】
この際,レーザ光101は,その集光点が半導体ウェハWの内部に合うように照射されるが,半導体ウェハWがシリコンウェハ等である場合には,図3に示すように,レーザ光101がシリコンにより屈折するなどして,ダイシングテープ14を透過し,チャックテーブル36の吸着チャック361内で集光されてしまうことがある。また,半導体ウェハWの切断予定ラインの両端部では,レーザ光101が,半導体ウェハWの外周緑を越えて照射され,吸着チャック361の上面361aに直接照射されてしまうこともある。
【0059】
このような場合,従来のセラミック製の吸着チャックを使用したチャックテーブルは,ビームエネルギーの吸収率が高いので,レーザ光101の照射を受けて吸着チャック上面にアブレーション現象が生じてしまうという問題があった。
【0060】
これに対し,本実施形態にかかるチャックテーブル36は,被加工物保持部である吸着チャック361が,レーザ光101のビームエネルギーを吸収しにくい材質であるPTFEで形成されている。このため,吸着チャック361の上面361aにレーザ光101が照射されたとしても,アブレーション現象が非常に起こりにくい。このようにアブレーションを抑制できるのは,PTFEの物性に依るものである。
【0061】
PTFEは,レーザ耐性に優れるという物性があり,レーザ加工装置1における被加工物保持部の材質として好適である。即ち,PTFEは,レーザ光101のビームエネルギーの吸収率が低いので,レーザ光101の照射を受けたとしても,アブレーション現象が生じにくい。このため,かかるPTFEで形成された吸着チャック361は,その上面(保持面)361aでアブレーション現象が発生しないので,レーザ加工時に損傷しにくく,ダイシングテープ14を溶融させるほど高温に加熱されることがない。
【0062】
このように,本実施形態にかかるPTFE製の吸着チャック361が,従来のセラミック製の吸着チャックより,ビームエネルギーの吸収率が低いことは,図4に示すグラフにより説明することができる。なお,図4は,照射されるレーザ光の波長(nm)と吸収係数αとの関係を,PTFEとセラミックとで比較して示すグラフである。
【0063】
一般的に,物質のエネルギー吸収率Eは,次の数式1で表すことができる。
【0064】
E=1−e−αt ・・・(数式1)
〔α:吸収係数,t:物質の厚さ〕
【0065】
この数式1から明らかなように,同じ物質であってその厚さが変わらなければ,吸収係数αが大きいほど,そのエネルギーの吸収率Eが大きいことになる。従って,PTFEとセラミックに関し吸収係数αを比較すれば,それらのビームエネルギーの吸収率を比較できることになる。そこで,PTFEとセラミックとに関して吸収係数αを測定した実験結果を示すのが図4のグラフである。なお,この図4の実験結果の具体的数値を,表1にも示す。
【0066】
【表1】

【0067】
図4および表1に示すように,例えば,レーザ光の波長が355nm(三倍波)のとき,セラミックの吸収係数αは約0.00727であるのに対し,PTFEの吸収係数αは約0.00088である。また,レーザ光の波長が532nm(二倍波)のとき,セラミックの吸収係数αは約0.01338であるのに対し,PTFEの吸収係数αは約0.00091である。さらに,レーザ光の波長が1064nm(基本波)のとき,セラミックの吸収係数αは約0.01425であるのに対し,PTFEの吸収係数αは約0.00070である。このように,PTFEの吸収係数αは,セラミックの吸収係数αと比較して,著しく低いことが分かる。よって,PTFEは,セラミックと比較して,ビームエネルギーの吸収率が著しき低いことが明らかである。
【0068】
特に,レーザ光の波長が532nm(二倍波)〜1064nm(基本波)の領域では,PTFEとセラミック間の吸収係数αの差が非常に大きく(約14〜18倍)なっており,チャックテーブル36にPTFEを使用する効果が非常に大きいと考えられる。
【0069】
ただし,レーザ光の波長が200nm以下の領域,あるいは1500nm以上の領域では,PTFEの吸収係数αとセラミックの吸収係数αは,ほぼ変わらない。しかも,両材料の吸収係数αは0.004以下となるため,レーザ耐性が強いと考えられる。このため,レーザ光の波長を,200nm以下あるいは1500nm以上の領域に設定すれば,セラミック製の吸着チャックでも,上述したアブレーション現象はさほど生じないと考えられる。
【0070】
しかし,レーザ加工装置において,波長が200nm以下,あるいは1500nm以上であるレーザ光を使用すると,実際には,半導体ウェハW等の被加工物を好適に切断することができない。このため,レーザ加工装置において通常使用されるレーザ光の波長は,355nm〜1064nmである。
【0071】
従って,上記のように,レーザ光の波長が200nm以下あるいは1500nm以上の波長領域でアブレーション現象が生じないことは,レーザ加工装置による実際の切断加工に対しての貢献度は低い。これに対し,本実施形態にかかるPTFE製の吸着チャック361を採用すれば,レーザ加工装置1において現実に多用される波長領域(355nm〜1064nm)のレーザ光の照射を受けても,吸着チャック361の表面361aにアブレーション現象が生じないという,大きな効果を奏するものである。
【0072】
次に,このようにエネルギー吸収率が低いPTFEで形成されたチャックテーブル36が,レーザ耐性に優れ,アブレーション現象が発生しにくいことを実証するための実験結果について説明する。
【0073】
(実験1:テープの溶融の程度を測定する実験)
実験1では,平均孔径が約10μmの多孔質PTFEを,厚さ5mm,直径20mmの円板状に成形した吸着チャック361を用いて,ダイシングテープ14が貼り付けられた半導体ウェハWを真空吸着して,かかる半導体ウェハWをレーザ切断加工し,この加工後に,ダイシングテープ14が吸着チャック361に溶着しているか否かを観察した。レーザ光源としてはYAGレーザを使用し,波長が1064nm,532nm,355nmの3種類のレーザ光によって,それぞれ切断加工実験を行った。このレーザ光の平均出力はそれぞれ,16W,12W,4Wであった。
【0074】
また,比較対象として,一般的に使用されている多孔質セラミックからなる吸着チャックを使用して,同様の実験を行った。
【0075】
かかる実験1の結果を表2に示す。
【0076】
【表2】

【0077】
表2に示すように,吸着チャック361の材質として,本実施形態にかかる多孔質のPTFEを使用した場合には,いずれのレーザ光の波長の場合も,吸着チャック361の表面361aに溶融したダイシングテープ14が付着することがなかった。これに対し,従来の多孔質セラミックを使用した場合には,いずれのレーザ光の波長の場合も,溶融したダイシングテープ14が当該吸着チャックの表面に付着していた。特に,物質を透過しやすい長波長領域のレーザ光を使用した場合(1064nm)に,テープ溶着が顕著に現れていた。
【0078】
このように,本実施形態にかかるPTFE製の吸着チャック361は,従来のセラミック製の吸着チャックと比べて,ダイシングテープ14が溶着していないので,レーザ光の照射を受けても,その保持面361aにおいてアブレーションが発生しなかったことが分かる。
【0079】
(実験2:チップの抗折強度を測定する実験)
実験2では,数値的指標として,半導体ウェハWを分割したチップの抗折強度を比較する実験を行った。
【0080】
チャックテーブルからチップおよびダイシングテープを剥離する際に,ダイシングテープが吸着チャックに溶着していると,溶着したダイシングテープを吸着チャックから強い力で剥離しなければならないため,分割されたチップにダメージを与え,チップの抗折強度が低下してしまう。また,レーザ光による切断加工時に,吸着チャックの表面でアブレーションが起こると,このアブレーションのエネルギーによってダイシングテープが上方に押し出されるように盛り上がるので,チップは衝撃を受けてしまい,その抗折強度が低下してしまう。ダイシングテープの溶融は,チャックテーブル上でアブレーション反応が起こることに起因する。従って,これら2つのことから,ダイシングテープが溶融していなければ,チップの抗折強度が高いといえる。
【0081】
この実験2では,レーザ光の波長を1064nm,平均出力を16Wとし,チャックテーブル36の送り速度80mm/sとした。被加工物としては,厚さが50μmのシリコンウェハを使用し,このシリコンウェハに厚さ90μmのダイシングテープ14を貼着した上で,ダイシングテープ14が貼着された側の面を,上記実験1と同様な多孔質PTFE製の吸着チャック361上に載置して吸着保持して,レーザ切断加工を行った。かかるレーザ切断加工により形成されたチップの抗折強度を測定した。
【0082】
また,比較対象として,一般的に使用されている多孔質セラミックからなる吸着チャックを使用して同様の実験を行った。
【0083】
かかる実験2の結果を表3に示す。
【0084】
【表3】

【0085】
表3に示すように,本実施形態にかかる多孔質のPTFE製の吸着チャック361を使用して切断加工した場合には,チップの抗折強度は,平均強度800MPa,最大強度1337MPaであった。これに対し,従来のセラミック製の吸着チャックを使用して切断加工した場合には,チップの抗折強度は,平均強度200MPa,最大強度288MPaであった。
【0086】
このように,多孔質PTFE製の吸着チャック361を用いて切断されたチップの抗折強度は,従来の多孔質セラミック製の吸着チャックを用いて切断されたチップの抗折強度と比べて,約4倍も高い数値を示している。よって,多孔質PTFEを使用した場合の方が,多孔質セラミックを使用した場合より,吸着チャック表面でアブレーションが発生しておらず,チップは,ダイシングテープ14の溶融による影響を受けていないことが分かる。
【0087】
以上の実験結果からも分かるように,本実施形態にかかるPTFE製の吸着チャック361は,PTFEのビームエネルギーの吸収率が低いため,その保持面361aでアブレーション現象がほとんど生じない。このため,レーザ光の照射を受けても,ダイシングテープ14を溶融させるほど吸着チャック361が加熱されず,吸着チャック361自体が損傷,変形することもない。
【0088】
以上,本実施形態にかかるレーザ加工装置1におけるチャックテーブル36について詳細に説明した。本実施形態にかかるチャックテーブル36は,被加工物保持部である吸着チャック361の材質をPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)にしたことを特徴とする。これにより,チャックテーブル36の表面(即ち,チャック361の保持面361a)にレーザ光が照射されたとしても,吸着チャック361が,ビームエネルギーの吸収率が低いPTFEが使用されているため,その保持面361aにおいてアブレーション現象が発生しない。よって,吸着チャック361の損傷を抑制してその表面精度の低下を防止でき,被加工物に貼り付けられたダイシングテープ14が溶融して吸着チャック361に溶着することを防止でき,さらに,ダイシングテープ14の溶着および吸着チャックテーブルの変形を原因とする,チップの抗折強度の低下をも防止できる。
【0089】
さらに,本実施形態では,吸着チャック361全体を多孔質のPTFEで形成し,これを使用して真空吸着により被加工物を保持している。これにより,被加工物と吸着チャック361とを密着させて保持できるので,レーザ加工時におけるレーザ光の焦点制御を行い易く,吸着チャック361の表面361aにレーザ光が照射される頻度を低下させることができる。
【0090】
以上,添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが,本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば,特許請求の範囲に記載された範疇内において,各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり,それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0091】
例えば,上記実施形態では,レーザ光として,YAGレーザを用いたが,本発明はかかる例に限定されず,例えば,He−Neレーザ,COレーザ(横型励起大気圧COレーザ等),半導体レーザ,エキシマレーザ,イオンレーザなどを用いてもよい。
【0092】
また,上記実施形態では,被加工物として,半導体ウェハWを切断加工する例について説明したが,本発明はかかる例に限定されない。例えば,被加工物は,その他の化合物半導体材(ガリウムヒ素,インジウムリン等),合成樹脂材(GPS基板,BGA基板,ガラスエポキシ樹脂,アクリル樹脂等),ガラス材(石英板,液晶,サファイヤ基板,光ファイバ等),セラミックス材,金属材(銅,ニッケル,SUS鋼,超硬材等)などであってもよい。
【0093】
また,上記実施形態では,基板状の被加工物の一面に貼り付けられるテープとして,ダイシングテープ14の例を挙げて説明したが,本発明は,かかる例に限定されない。例えば,テープは,上記各種の被加工物に貼り付けられるテープであれば,グライディングテープ,表面保護テープ,各種の粘着テープなど,如何なるテープであってもよい。
【0094】
また,上記実施形態では,被加工物保持装置であるチャックテーブル36は,被加工物を真空吸着する真空チャックとして構成されたが,本発明は,かかる例に限定されない。例えば,被加工物保持装置は,被加工物を静電吸着する静電チャックとして構成されてもよい。
【0095】
また,上記実施形態では,被加工物保持部である吸着チャック361の全体をPTFEで形成したが,本発明は,かかる例に限定されない。例えば,被加工物保持部は,少なくとも被加工物を保持する保持面側(上面側361a)が,PTFEで形成されていればよく,保持面と反対側(下面側)は,他の材質,例えばセラミック,合成樹脂,ステンレス等の金属などで形成してもよい。この場合には,被加工物保持部は,例えば,PTFE製の部材と,上記他の材質製の部材とを接合して構成されてもよく,或いは,上記他の材質からなる基材に,PTFEをコーティングして構成されてもよい。
【0096】
また,上記実施形態では,被加工物保持部である吸着チャック361は,多孔質PTFEで形成されていたが,本発明は,かかる例に限定されない。例えば,被加工物保持部の保持面側は,多孔質でないPTFEで形成されてもよい。この場合には,真空吸着を行うために,被加工物保持装置(例えばチャックテーブル)の被加工物保持部(例えば吸着チャック)に,真空ポンプと連通する複数の微細な吸引孔を貫通形成し,かかる吸引孔を介して真空引きすることによって,被加工物を真空吸着するようにしてもよい。このように,被加工物保持部に複数の吸引孔を設けたとしても,上記のように,PTFEで形成された被加工物保持部の表面でアブレーション現象が生じにくいので,被加工物に貼り付けられたテープが溶融しない。このため,溶融したテープが上記吸引孔を目詰まりさせることがない。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明は,レーザ加工装置における被加工物保持装置に適用可能であり,特に,レーザ光の照射を受けてもアブレーションが生じにくい被加工物保持部を要する被加工物保持装置に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】本発明の第1の実施形態にかかるレーザ加工装置の全体構成を示す斜視図である。
【図2】同実施形態にかかるチャックテーブルの構成を示す一部切り欠き断面図である。
【図3】同実施形態にかかるチャックテーブルによって保持された半導体ウェハを切断加工する態様を示す側面図である。
【図4】照射されるレーザ光の波長と吸収係数との関係を,PTFEとセラミックとで比較して示すグラフである。
【符号の説明】
【0099】
1 レーザ加工装置
3 被加工物保持機構
36 チャックテーブル
100 レーザ加工ヘッド
361 吸着チャック
361a 吸着チャックの上面(保持面)
362 チャック基台部
362a チャック基台部の上面
362b 環状突出部
362c 吸引孔
362d 溝
363 真空ポンプ
W 半導体ウェハ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テープが貼り付けられた被加工物にレーザ光を照射して前記被加工物を加工するレーザ加工装置に使用される被加工物保持装置において:
前記被加工物の前記テープが貼り付けられた面を保持する被加工物保持部を備え,
前記被加工物保持部の少なくとも保持面側の材質は,PTFEであることを特徴とする,被加工物保持装置。
【請求項2】
前記被加工物保持部は,多孔質のPTFEで形成され,前記被加工物を真空吸着により保持することを特徴とする,請求項1に記載の被加工物保持装置。
【請求項3】
前記レーザ加工装置で使用される前記レーザ光の波長は,355nm〜1064nmであることを特徴とする,請求項1または2のいずれかに記載の被加工物保持装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2006−7250(P2006−7250A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−185490(P2004−185490)
【出願日】平成16年6月23日(2004.6.23)
【出願人】(000134051)株式会社ディスコ (2,397)
【Fターム(参考)】