説明

被曝線量演算装置

【課題】 従来のX線検査装置に対してその構成に変更を加えることなく、被曝線量を演算する機能を付加することが可能な被曝線量演算装置を提供する。
【解決手段】 被曝線量演算装置10は、X線検査装置における表示部8を撮影するためのカメラ11と、カメラ11により撮影した表示部8の画像におけるOCR処理を実行すべきOCR処理領域を指定する処理領域指定部12と、処理領域指定部12により指定されたOCR処理領域に対してOCR処理を実行することにより表示部8に表示されたX線条件を認識するOCR処理部13と、OCR処理部13において認識されたX線条件に基づいて被曝線量を演算する線量演算部14と、表示部8におけるX線条件の画像やOCR処理部13において認識されたX線条件等を表示するX線条件表示部15と、キーボード16やマウス17等からなる入力部とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、表面線量簡易換算法により被曝線量を演算する被曝線量演算装置に関する。
【背景技術】
【0002】
X線撮影装置やX線透視装置等のX線検査装置においては、被検者のX線被曝線量を管理することが必要となる。このため、従来においては、線量計をX線検査装置に付設してX線量を計測していた。これに対し、近年、表面線量簡易換算法が利用されている。この表面線量簡易換算法は、X線条件やX線焦点入射表面間距離(FSD/focus−surface distance)から、X線を被検体に照射したときの被検体の被曝量を算出するための方法であり、NDD(Non Dosimeter Dosimetry)法とも呼称される。
【0003】
特許文献1においては、透過X線の画像データのヒストグラムを作成し、このヒストグラムの体厚に関連する特徴量から、FSD値を推定するFSD推定手段と、そのFSD推定手段により求めたFSD値に基づいて、所定の表面線量換算式により被検者の表面入射線量を演算する表面線量演算手段とを備えることにより、線量計を用いることなく精度の高い被曝線量を求めることができるX線診断装置が提案されている。
【0004】
また、特許文献2においては、X線条件設定部により設定されたX線条件と、X線発生部から被検体での位置情報と、被検体に照射するX線の照射角度とに基づいて線量分布演算部によりX線照射野内を第1段階、第2段階のように順次複数の領域に細分化し、これら細分化毎に、それぞれ細分化した各領域ごとの各X線照射線量を求め、これらX線照射線量を合わせてX線照射野全体の線量分布を求めて表示部に表示することにより、リアルタイム性を損なわずに、高精度にX線照射野全体の線量分布を求めることが可能な被曝線量算出方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-142497号公報
【特許文献2】特開2008-132147号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような表面線量簡易換算法を利用して被曝線量を演算する方式は、被検者に対する被曝線量を管理する上で有効なものである。一方、現在稼働中のX線検査装置においては、被曝線量を算出する機構を備えていないものも多数存在する。そのようなX線検査装置において表面線量簡易換算法を利用して被曝線量を演算する被曝線量の算出システムを付加するためには、装置を制御するための制御用のソフトウエアおよびハードウエアの更新が必要となる。しかしながら、このようなソフトウエアおよびハードウエアの更新は、X線検査装置が最新のものでない限り、現実的ではない。このため、従来、被曝線量の管理が行われないままX線検査が実行される場合があるという問題があった。
【0007】
この発明は上記課題を解決するためになされたものであり、被曝線量を算出する機構を備えない従来のX線検査装置に対して、その構成に変更を加えることなく被曝線量を演算する機能を付加することが可能な被曝線量演算装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明は、表面線量簡易換算法により被曝線量を演算する被曝線量演算装置であって、X線検査装置におけるX線条件を表示する表示部を撮影するための撮影部と、前記撮影部により撮影したX線条件を表示する表示部の画像に対してOCR処理を実行することにより、前記表示部に表示されたX線条件を認識するOCR処理部と、前記OCR処理部において認識されたX線条件に基づいて、被曝線量を演算する線量演算部とを備えたことを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記撮影部により撮影したX線条件を表示する表示部の画像における、OCR処理を実行すべきOCR処理領域を指定する処理領域指定部を備える。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、前記処理領域指定部は、オペレータが入力手段を操作して設定した領域をOCR処理領域として指定する。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、前記X線条件は、X線管の管電圧、X線管の管電流およびX線照射時間の少なくとも一つを含み、前記処理領域指定部は、前記撮影部により撮影したX線条件を表示する表示部の画像におけるX線管の管電圧、X線管の管電流またはX線照射時間の単位を表す文字の配置情報を利用することにより、OCR処理を実行すべきOCR処理領域を指定する。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に記載の発明によれば、X線検査装置の表示部に表示されるX線条件を利用して、被曝線量を演算することが可能となる。このため、被曝線量を算出する機構を備えない従来のX線検査装置に対して、その構成に変更を加えることなく被曝線量を演算する機能を付加することが可能となる。
【0013】
請求項2に記載の発明によれば、OCR処理を実行すべきOCR処理領域を指定することにより、OCR処理を迅速かつ正確に実行することが可能となる。
【0014】
請求項3に記載の発明によれば、オペレータが入力手段を操作して設定した領域をOCR処理領域として指定することにより、OCR処理領域を正確に設定することができ、OCR処理を迅速かつ正確に実行することが可能となる。
【0015】
請求項4に記載の発明によれば、X線管の管電圧、X線管の管電流またはX線照射時間の単位を表す文字に配置情報を利用してOCR処理領域を指定することにより、OCR処理領域を自動的に設定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】この発明の第1実施形態に係る被曝線量演算装置10をX線検査装置とともに示す概要図である。
【図2】カメラ11により撮影された表示部8の画像を示す模式図である。
【図3】カメラ11により撮影された表示部8の画像を示す模式図である。
【図4】この発明のさらに他の実施形態に係る被曝線量演算装置10をX線検査装置とともに示す概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は、この発明の第1実施形態に係る被曝線量演算装置10をX線検査装置とともに示す概要図である。
【0018】
この発明に係る被曝線量演算装置10を適用するX線検査装置は、患者4を載置するテーブル3と、X線管1と、このX線管1に付与する管電圧等を制御する高電圧発生部6と、X線検出器としてのフラットパネルディテクタ2と、画像処理部7と、装置全体を制御する制御部5と、X線検査時のX線条件やX線検査時の撮影画像を表示する表示部8とを備える。このX線検査装置においては、X線管1からテーブル3上の患者4に向けてX線を照射し、患者4を通過したX線をフラットパネルディテクタ2により検出し、画像処理部7において検出されたX線を画像処理し、画像処理されたX線画像を表示部8に表示する構成を有する。
【0019】
また、この発明に係る被曝線量演算装置10は、表面線量簡易換算法により被曝線量を演算するものであり、X線検査装置における表示部8に表示されたX線条件をカメラ11により撮影し、その画像をOCR(Optical Character Recognition/光学文字認識)処理することでX線条件を認識し、このX線条件に基づいて被曝線量を計算するものである。
【0020】
すなわち、この発明に係る被曝線量演算装置10は、X線検査装置における表示部8を撮影するための撮影部としてのカメラ11と、カメラ11により撮影した表示部8の画像におけるOCR処理を実行すべきOCR処理領域を指定する処理領域指定部12と、カメラ11により撮影したX線条件を表示する表示部10の画像のうち処理領域指定部12により指定されたOCR処理領域に対してOCR処理を実行することにより、表示部8に表示されたX線条件を認識するOCR処理部13と、OCR処理部13において認識されたX線条件に基づいて被曝線量を演算する線量演算部14と、カメラ11により撮影した表示部8におけるX線条件の画像やOCR処理部13において認識されたX線条件等を表示するX線条件表示部15と、キーボード16およびマウス17等からなる入力部とを備える。
【0021】
この発明に係る被曝線量演算装置10において被曝線量の演算を行う場合には、最初に、X線検査装置における表示部8に表示されたX線条件をカメラ11により撮影する。すなわち、一般的なX線検査装置においてX線撮影を行う場合には、X線撮影時のX線管1の管電圧、X線管1の管電流およびX線管1によるX線照射時間等のX線条件が表示部8に表示される。また、X線検査装置においてX線透視を行う場合には、X線透視時のX線管1の管電圧、X線管1の管電流および透視を実行中である旨の表示等のX線条件が表示部8に表示される。この発明に係る被曝線量演算装置10においては、これらのX線条件をカメラ11により撮影する構成となっている。
【0022】
図2は、カメラ11により撮影された表示部8の画像を示す模式図である。ここで、図2(a)はX線撮影を実行する場合のカメラ11により撮影された表示部8の画像を示し、図2(b)はX線透視を実行する場合のカメラ11により撮影された表示部8の画像を示している。
【0023】
X線撮影を実行する場合には、図2(a)に示すように、表示部8には、管電圧として100kVの表示が、管電流として200mA表示が、X線照射時間として25msの表示がなされている。これに対して、処理領域指定部12が、OCR処理を実行すべきOCR処理領域を指定する。このときには、カメラ11により撮影された表示部8におけるX線条件の画像をX線条件表示部15に表示する。そして、オペレータがマウス17等の入力部を操作することにより、管電圧の表示領域21と、管電流の表示領域22と、X線照射時間の表示領域23とを、各々、指定する。
【0024】
なお、この管電圧の表示領域21と、管電流の表示領域22と、X線照射時間の表示領域23の指定は、表示部8における管電圧、管電流およびX線照射時間の表示位置の設定等が変更されない限り、一度だけ実行すれば十分である。
【0025】
管電圧の表示領域21と、管電流の表示領域22と、X線照射時間の表示領域23とが指定されれば、OCR処理部13によりそれらの領域21、22、23の画像に対してOCR処理を行う。OCR処理部13は、領域21、22、23について光学文字認識を実行し、各領域21、22、23に表示された文字列を認識し、被曝線量演算部14に送信する。被曝線量演算装置10は、それらの文字列から、X線撮影時のX線管1の管電圧、X線管1の管電流およびX線管1によるX線照射時間の情報を得る。そして、線量演算装置10は、それらの管電圧、管電流およびX線照射時間から、表面線量簡易換算法により被曝線量を演算する。
【0026】
なお、この場合においては、X線管1の焦点から患者4の体表面までの距離であるFSD(Focus−Surface Distance)のデータが必要となる。このSFDのデータは、X線検査を実行する前に、オペレータがキーボード16等の入力部を操作して入力すればよい。また、オペレータがキーボード16等の入力部を操作して検査部位を入力し、その検査部位から体厚を測定することにより、FSDのデータを算出してもよい。また、FSDのデータを、X線検査装置毎に固有の値としてもよい。
【0027】
このような構成を採用することにより、X線検査装置の表示部8に表示されるX線条件を利用して、被曝線量を表面線量簡易換算法により演算することが可能となる。このため、被曝線量を算出する機構を備えない従来のX線検査装置に対して、装置に変更を加えることなく被曝線量を演算する機能を付加することが可能となる。
【0028】
なお、X線撮影を行う場合には、図2(a)に示すように、各領域21、22、23に表示された文字列から、X線撮影時のX線管1の管電圧、X線管1の管電流およびX線管1によるX線照射時間の情報を得ている。これに対して、X線透視を行う場合には、X線照射時間についての情報は表示部8には表示されない。この場合においては、表示部8に表示される透視状態を示すマークを利用して透視時間を認識するようにすればよい。
【0029】
すなわち、図2(b)に示すように、X線透視の実行中には、X線撮影の場合と同様、表示部1には、管電圧として100FkVの表示と、管電流として2.5mA表示とがなされるとともに、X線透視を実行中にはそれを示す黒丸等のマークが表示部8に表示される。このため、管電圧の表示領域24と、管電流の表示領域25とに基づいて管電圧と管電流とを認識するとともに、透視状態を示す表示領域26に黒丸等のマークが表示された時間を認識することにより、線量演算部14において透視時間を認識して被曝線量を演算すればよい。
【0030】
なお、上述した実施形態においては、処理領域指定部12は、オペレータがマウス17等の入力部を操作することにより設定した領域21、22、23、24、25、26をOCR処理領域として指定している。これに対して、処理領域指定部12が、カメラ11により撮影した表示部8の画像におけるX線管1の管電圧、X線管1の管電流およびX線照射時間等の単位を表す文字の配置情報を利用することにより、OCR処理を実行すべきOCR処理領域を指定するようにしてもよい。
【0031】
図3は、このような実施形態を適用した場合の、カメラ11により撮影された表示部8の画像を示す模式図である。なお、図2の場合と同様、図3(a)はX線撮影を実行する場合のカメラ11により撮影された表示部8の画像を示し、図3(b)はX線透視を実行する場合のカメラ11により撮影された表示部8の画像を示している。
【0032】
例えば、X線撮影時においては、カメラ11により撮影された表示部8の画像を画像処理することにより、図3(a)に示すように、管電圧の単位を表すkVの文字の領域31の配置と、管電流の単位を表すmAの文字の領域32の配置と、X線照射時間を表すmsの文字の領域の配置を認識する。そして、処理領域指定部12は、それらの領域31、32、33の配置情報に基づき、それらの領域31、32、33の直前の領域を、各々、管電圧の表示領域21、管電流の表示領域22およびX線照射時間の表示領域23として指定する。
【0033】
このようにして管電圧の表示領域21と、管電流の表示領域22と、X線照射時間の表示領域23とが指定されれば、上述した実施形態と同様、OCR処理部13によりそれらの領域21、22、23の画像に対してOCR処理を行った後、管電圧、管電流およびX線照射時間の情報を線量演算装置10に送信し、表面線量簡易換算法により被曝線量を演算する。
【0034】
なお、図3(b)に示すX線透視の場合においては、管電圧の単位を表すFkVの文字の領域34の配置と、管電流の単位を表すmAの文字の領域35の配置とは認識可能であるが、透視状態を示す黒丸等のマークには単位はない。この場合においては、「透視」の文字を表す領域36の配置情報から、透視状態を示す表示領域26を指定すればよい。
【0035】
次に、この発明のさらに他の実施形態について説明する。図4は、この発明のさらに他の実施形態に係る被曝線量演算装置10をX線検査装置とともに示す概要図である。なお、図1に示す実施形態と同一の部材については、同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0036】
図1に示す実施形態においては、FSDのデータを、オペレータがキーボード16等の入力部を操作することにより設定している。これに対して、図4に示す実施形態においては、X線管1に対して超音波距離計9を付設し、この超音波距離計9の信号に基づいて、FSDのデータを得るようにしている。このような構成を採用した場合においては、FSDのデータを自動的に得ることができることから、オペレータの操作を省略することが可能となる。
【符号の説明】
【0037】
1 X線管
2 フラットパネルディテクタ
3 テーブル
4 患者
5 制御部
6 高電圧発生部
7 画像処理部
8 表示部
9 超音波距離計
10 被曝線量演算装置
11 カメラ
12 処理領域指定部
13 OCR処理部
14 線量演算部
15 X線条件表示部
16 キーボード
17 マウス
21 管電圧の表示領域
22 管電流の表示領域
23 X線照射時間の表示領域
24 管電圧の表示領域
25 管電流の表示領域
26 透視状態を示す表示領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面線量簡易換算法により被曝線量を演算する被曝線量演算装置であって、
X線検査装置におけるX線条件を表示する表示部を撮影するための撮影部と、
前記撮影部により撮影したX線条件を表示する表示部の画像に対してOCR処理を実行することにより、前記表示部に表示されたX線条件を認識するOCR処理部と、
前記OCR処理部において認識されたX線条件に基づいて、被曝線量を演算する線量演算部と、
を備えたことを特徴とする被曝線量演算装置。
【請求項2】
請求項1に記載の被曝線量演算装置において、
前記撮影部により撮影したX線条件を表示する表示部の画像における、OCR処理を実行すべきOCR処理領域を指定する処理領域指定部を備える被曝線量演算装置。
【請求項3】
請求項2に記載の被曝線量演算装置において、
前記処理領域指定部は、オペレータが入力手段を操作して設定した領域をOCR処理領域として指定する被曝線量演算装置。
【請求項4】
請求項2に記載の被曝線量演算装置において、
前記X線条件は、X線管の管電圧、X線管の管電流またはX線照射時間の少なくとも一つを含み、
前記処理領域指定部は、前記撮影部により撮影したX線条件を表示する表示部の画像におけるX線管の管電圧、X線管の管電流およびX線照射時間の単位を表す文字の配置情報を利用することにより、OCR処理を実行すべきOCR処理領域を指定する被曝線量演算装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−115592(P2012−115592A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−270177(P2010−270177)
【出願日】平成22年12月3日(2010.12.3)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】