説明

被検物質の発がん性予測方法

【課題】 短期間で容易に被検物質の発がん性を予測する方法を提供する。
【解決手段】 複数の発がん物質をそれぞれ各発がん物質投与群に投与し、所定期間経過後に各発がん物質投与群からmRNAを採取してmRNAの発現量が増加又は減少した発現変動遺伝子を選定する第一の工程と、発現変動遺伝子の発現パターンを各発がん物質投与群の間で比較して、発現パターンの類似性により発現パターンを複数のグループに分類し、グループ毎に発現変動遺伝子の発現パターンを用意する第二の工程と、被検物質を被検物質投与群に投与し、所定期間経過後に被検物質投与群からmRNAを採取して発現変動遺伝子について発現パターンを取得し、予め用意しておいた発がん物質投与群のグループ毎の発現変動遺伝子の発現パターンと比較してその一致度を算出し被検物質の発がん性を予測する第三の工程とを有する被検物質の発がん性予測方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検物質の投与により被検物質投与群に発現するmRNAの発現量から被検物質の発がん性を予測する発がん性予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化学物質の有害性(ハザード)評価においては、発がん性など長期毒性を評価するには多額の費用と長期の試験期間を要する動物実験の実施が必要とされる。また、動物実験の結果をヒトへ外挿する際は、種差や作用機序などを考慮しなければならないなど様々な課題がある。
【0003】
一方、近年のゲノム情報に関する技術の著しい発展により、遺伝子レベルで化学物質の有害性評価が行われるようになっている。例えば、特許文献1には、化学物質を曝露した組織や細胞の遺伝子の発現の差異を検出することにより化学物質の毒性作用を予測する方法が記載されている。
【0004】
化学物質の発がん性の評価においても発がんメカニズムに関与している遺伝子の存在が予想されることからこれらの遺伝子の発現の差異を検出することにより遺伝子レベルでの評価が可能であると考えられる。しかしながら、現段階では、化学物質が引き起こす遺伝子レベルでの発がんメカニズムはほとんど解明されておらず、遺伝子の発現の差異から化学物質の発がん性予測を行うことは非常に困難である。
【0005】
最近では、遺伝子の発現プロファイルデータを網羅的に収集し解析する手法としてDNAマイクロアレイが開発され、様々な分野で使用されるようになっている。DNAマイクロアレイ(DNAチップ)はスライドガラス等の基板上に固定化した数百から数万種類の微量のDNAに、核酸分子同士の相補性を利用してmRNAから作成したcDNA或いはcRNAを結合させ、mRNAの発現量に関する情報を得る技術である。
【0006】
既知の遺伝子を搭載したDNAマイクロアレイが既に商品化され一般に使用できる環境にあるが、市販のアレイは化学物質の毒性評価を目的に設計・製作されたものではない。また、通常の毒性試験規模で使用するにはデータの解析を含めたシステム全体を構築するコストが多大であることから、毒性試験分野で広く活用されていないのが現状である。
【特許文献1】特開2003−304888号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般に、化学物質の発がん性を評価する動物実験では、試験動物に癌が出現するまで、あるいは試験動物が死亡するまで化学物質の連続投与を行うが、癌は長い潜伏期間を経て出現するため長期にわたる動物実験が必要となる。
【0008】
しかしながら、癌が出現する前段階においても、発がん物質により刺激されて遺伝子レベルでは何らかの変化が生じていることが予想される。
【0009】
本発明の目的は、がん発生の初期段階に発がんメカニズムに関与している可能性が高い遺伝子群について発現の差異を検出してデータ解析することにより、長期にわたる動物実験を行うことなく被検物質の発がん性を予測する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは発がん物質の投与により発現量が変動するmRNAに着目し、その変動から被検物質の発がん性を予測することを試みた。当初は、これらmRNAの変動パターンが類似性を持つものと考えていた。しかし、実際には異なる挙動を示し、1つの類似性を共有することはなかった。
【0011】
そこで本発明者らは、これらの発現パターンが類似するものをグループ化してグループごとの発現パターンを予め得ておき、被検物質を投与したときの発現パターンを発がん物質のグループごとの発現パターンと比較してその一致度を評価すると、動物実験の初期段階においても被検物質の発がん性が高い精度で予測できることを見出し本発明を完成するに到った。
【0012】
即ち、上記課題を解決する本発明は以下に記載するものである。
【0013】
〔1〕 複数の発がん物質をそれぞれ各発がん物質投与群に投与し、所定期間経過後に各発がん物質投与群からmRNAを採取し、そのmRNAの発現量を測定してmRNAの発現量が有意に増加又は減少した発現変動遺伝子を選定する第一の工程と、
第一の工程で選定した発現変動遺伝子の発現パターンを各発がん物質投与群の間で比較して、発現パターンの類似性により発現パターンを複数のグループに分類し、複数のグループに分類した発現変動遺伝子の発現パターンを用意する第二の工程と、
被検物質を被検物質投与群に投与し、所定期間経過後に被検物質投与群からmRNAを採取して発現変動遺伝子について発現パターンを取得し、被検物質投与群の発現変動遺伝子の発現パターンを予め第二の工程で用意しておいた発がん物質投与群のグループ毎の発現変動遺伝子の発現パターンと比較してその一致度を算出し、被検物質の発がん性を予測する第三の工程と
を有する被検物質の発がん性予測方法。
【0014】
〔2〕 複数の発がん物質をそれぞれ各発がん物質投与群に投与し、所定期間経過後に各発がん物質投与群からmRNAを採取し、そのmRNAの発現量を測定してmRNAの発現量が有意に増加又は減少した発現変動遺伝子を選定する第一の工程と、
第一の工程で選定した発現変動遺伝子の発現パターンを各発がん物質投与群の間で比較して、発現パターンの類似性により発現パターンを複数のグループに分類し、複数のグループに分類した発現変動遺伝子の発現パターンを用意する第二の工程と、
被検物質を被検物質投与群に投与し、所定期間経過後に被検物質投与群からmRNAを採取して発現変動遺伝子について発現パターンを取得し、被検物質投与群の発現変動遺伝子の発現パターンを予め第二の工程で用意しておいた発がん物質投与群のグループ毎の発現変動遺伝子の発現パターンと比較してその一致度を算出し、被検物質の発がん性を予測する第三の工程と、
を有する被検物質の発がん性予測方法であって、次の3つの工程:
発がん物質投与群から採取したmRNAから調製した蛍光標識cDNA又はcRNAをDNAマイクロアレイにハイブリダイゼーションして得られる蛍光パターンと、非発がん物質を投与した非発がん物質投与群から採取したmRNAから調製した蛍光標識cDNA又はcRNAをDNAマイクロアレイにハイブリダイゼーションして得られる蛍光パターンとを比較し、蛍光パターンの各スポットの蛍光強度から有意差検定により発現変動遺伝子を選定する工程、
発がん物質投与群から採取したmRNAから調製した蛍光標識cDNA又はcRNAをDNAマイクロアレイにハイブリダイゼーションして得られる蛍光パターンの比較により各発がん物質投与群の間の発現変動遺伝子の発現パターンを比較し、発がん物質投与群の発現パターンを複数のグループに分類する工程、
発がん物質投与群から採取したmRNAから調製した蛍光標識cDNA又はcRNAをDNAマイクロアレイにハイブリダイゼーションして得られる蛍光パターンと、被検物質投与群から採取したmRNAから調製した蛍光標識cDNA又はcRNAをDNAマイクロアレイにハイブリダイゼーションして得られる蛍光パターンの比較により発がん物質投与群の発現変動遺伝子のグループ毎の発現パターンと被検物質投与群の発現変動遺伝子の発現パターンを比較してその一致度を算出する工程、
の少なくとも1つの工程を含む被検物質の発がん性予測方法。
【0015】
〔3〕 DNAマイクロアレイが、発がん物質を投与した試験動物からmRNAを抽出し、発現量が増加又は減少したmRNAから逆転写反応により合成したcDNAの配列の全部又は一部をPCRにより増幅又は化学合成したDNAを搭載したDNAマイクロアレイである〔2〕に記載の被検物質の発がん性予測方法。
【0016】
〔4〕 発現変動遺伝子が、配列番号1〜2844に記載する塩基配列に相補的な塩基配列を有する遺伝子から5つ以上選定されたものである〔1〕乃至〔3〕のいずれかに記載の被検物質の発がん性予測方法。
【0017】
〔5〕 発がん物質投与群に投与する発がん物質が、クロフィブレート、ジ(2-エチルヘキシル)フタレート、四塩化炭素、2,4-ジアミノトルエン、キノリン、フェノバルビタール、ジエチルニトロサミン、2-ニトロプロパン、N-ニトロソモルホリン、アルドリン、アジピン酸ジ(2-エチルヘキシル)、エチニルエストラジオール、ヘキサクロロベンゼン、α-ヘキサクロロシクロヘキサン、トリクロロエチレン、ブチル化ヒドロキシアニソール、リモネン、サフロール、1,4-ジクロロベンゼン、1,4-ジオキサン、フラン、メチルカルバメート、チオアセトアミド、N-ニトロソジメチラミン、N-ニトロソピペリジン、2-アミノ-3,8-ジメチルイミダゾ[4,5-f]キノキサリン、2-アミノ-1-メチル-6-フェニルイミダゾ[4,5-b]-ピリジン、ベンツ(a)アントラセン、7,12-ジメチルベンズアントラセン、3-メチルコラントレン、4-ニトロキノリン-1-オキサイド、N-エチル-N-ニトロソ尿素、トリクロロ酢酸、タンニン酸、ウレタン、ペンタクロルエタン、クロロホルム、ベンゾ(a)ピレン、N-メチル-N'-ニトロ-N-ニトロソグアニジン、テトラクロロエチレン、アセタミド、ジエチルスチルベストロール、フェニトインナトリウム塩、D,L-エチオニン、4-ジメチルアミノアゾベンゼン、及びクロレンド酸から選ばれる少なくとも4個を含む〔1〕乃至〔4〕のいずれかに記載の被検物質の発がん性予測方法。
【0018】
〔6〕 発がん物質投与群に投与する発がん物質が、〔5〕に記載の発がん物質を少なくとも6個含む〔1〕乃至〔4〕のいずれかに記載の被検物質の発がん性予測方法。
【0019】
〔7〕 発がん物質投与群に投与する発がん物質が、〔5〕に記載の発がん物質を少なくとも9個含む〔1〕乃至〔4〕のいずれかに記載の被検物質の発がん性予測方法。
【0020】
〔8〕 非発がん物質投与群に投与する非発がん物質が、2,6-ジアミノトルエン、8-ヒドロキシキノリン、D-マンニトール、L-アスコルビン酸、2-クロロエタノール、2-(クロロメチル)ピリジン塩酸塩、dl-メントール、4-ニトロ-o-フェニレンジアミン、ベンゾイン、ヨードホルム、リトコール酸、リンダン、2-クロロ-p-フェニレンジアミン硫酸塩、p-フェニレンジアミン二塩酸塩、2,5-トルエンジアミン硫酸塩、アスピリン、4-(クロロアセチル)アセトアニリド、フタルアミド、カプロラクタム、1-クロロ-2-プロパノール、3-クロロ-p-トルイジン、グルタルアルデヒド、4-ニトロアントラニル酸、及び1−ニトロナフタレンから選ばれる少なくとも1個を含む〔2〕乃至〔7〕のいずれかに記載の被検物質の発がん性予測方法。
【0021】
〔9〕 非発がん物質投与群に投与する非発がん物質が、〔8〕に記載の非発がん物質を少なくとも5個含む〔2〕乃至〔7〕のいずれかに記載の被検物質の発がん性予測方法。
【0022】
〔10〕 非発がん物質投与群に投与する非発がん物質が、〔8〕に記載の非発がん物質を少なくとも10個含む〔2〕乃至〔7〕のいずれかに記載の被検物質の発がん性予測方法。
【0023】
〔11〕 発がん物質投与群の発現変動遺伝子の発現パターンの分類が、クラスタ解析又は決定木により行われる〔1〕乃至〔10〕のいずれかに記載の被検物質の発がん性予測方法。
【0024】
〔12〕 発現変動遺伝子の発現パターンが3以上のグループに分類される〔1〕乃至〔11〕のいずれかに記載の被検物質の発がん性予測方法。
【0025】
〔13〕 発がん物質を各発がん物質投与群に投与した後、1〜90日経過後に各発がん物質投与群からmRNAを採取する〔1〕乃至〔12〕のいずれかに記載の被検物質の発がん性予測方法。
【0026】
〔14〕 発がん物質を各発がん物質投与群に投与した後、14日または28日経過後に各発がん物質投与群からmRNAを採取する〔1〕乃至〔12〕のいずれかに記載の被検物質の発がん性予測方法。
【0027】
〔15〕 被検物質を被検物質投与群に投与した後、1〜90日経過後に被検物質投与群からmRNAを採取する〔1〕乃至〔14〕のいずれかに記載の被検物質の発がん性予測方法。
【0028】
〔16〕 被検物質を被検物質投与群に投与した後、14日または28日経過後に被検物質投与群からmRNAを採取する〔1〕乃至〔14〕のいずれかに記載の被検物質の発がん性予測方法。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、被検物質投与群のmRNAの発現パターンと、発がん物質投与群のグループごとのmRNAの発現パターンとを比較することにより、被検物質の発がん性を予測することができる。本発明の予測方法においては、mRNAの発現量から被検物質の発がん性を予測するので、試験動物に癌が出現するまで化合物の連続投与を行うような長期にわたる動物実験を必要とせず、1〜90日程度の動物実験で容易に化学物質の発がん性を予測することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
本発明の被検物質の発がん性予測方法は、以下の手順で行う。
【0031】
まず、発がん物質を発がん物質投与群に投与した後、各群の試験動物の組織を採取し、各mRNAの発現量を測定する。
【0032】
発がん物質投与群に投与する発がん物質の数は4物質以上とするが、予測の精度を高めるため6物質以上とすることが好ましく、9物質以上とすることがより好ましい。使用する発がん物質の数は多いほど被検物質の発がん性予測の精度が高くなるので発がん物質の数に上限はないが、30物質程度を投与すれば充分な精度で被検物質の発がん性が予測できる。
【0033】
発がん物質投与群に投与する発がん物質は、発がん性を有する公知の化学物質を投与することが可能である。例えば、クロフィブレート、ジ(2-エチルヘキシル)フタレート、四塩化炭素、2,4-ジアミノトルエン、キノリン、フェノバルビタール、ジエチルニトロサミン、2-ニトロプロパン、N-ニトロソモルホリン、アルドリン、アジピン酸ジ(2-エチルヘキシル)、エチニルエストラジオール、ヘキサクロロベンゼン、α-ヘキサクロロシクロヘキサン、トリクロロエチレン、ブチル化ヒドロキシアニソール、リモネン、サフロール、1,4-ジクロロベンゼン、1,4-ジオキサン、フラン、メチルカルバメート、チオアセトアミド、N-ニトロソジメチラミン、N-ニトロソピペリジン、2-アミノ-3,8-ジメチルイミダゾ[4,5-f]キノキサリン、2-アミノ-1-メチル-6-フェニルイミダゾ[4,5-b]-ピリジン、ベンツ(a)アントラセン、7,12-ジメチルベンズアントラセン、3-メチルコラントレン、4-ニトロキノリン-1-オキサイド、N-エチル-N-ニトロソ尿素、トリクロロ酢酸、タンニン酸、ウレタン、ペンタクロルエタン、クロロホルム、ベンゾ(a)ピレン、N-メチル-N'-ニトロ-N-ニトロソグアニジン、テトラクロロエチレン、アセタミド、ジエチルスチルベストロール、フェニトインナトリウム塩、D,L-エチオニン、4-ジメチルアミノアゾベンゼン、及びクロレンド酸等を挙げることができる。
【0034】
発がん物質を動物群に投与するに際しては発がん物質を媒体に溶解した発がん物質溶液を調製する。
【0035】
発がん物質を溶解させる媒体としては、発がん物質が溶解する非発がん性の媒体であれば特に制限することなく使用でき、例えば、トウモロコシ油、精製水等を使用することができる。
【0036】
発がん物質溶液の濃度は、発がん物質の刺激により特徴的に変動するmRNAの発現量に適度な増加又は減少を引き起こす濃度とすることが好ましい。
【0037】
発がん物質溶液の各群への投与は、1日1〜数回(好ましくは1日1回)、1〜90日程度の所定期間反復して連続投与する。
【0038】
発がん物質投与群への発がん物質溶液の投与方法は特に制限されず、経口投与、腹腔内投与、静脈内投与等の汎用的な方法を使用できる。
【0039】
試験動物には、ラット、マウス、イヌ、サル、モルモット、ウサギ等が使用できる。
【0040】
発がん性化学物質を投与後、各群の試験動物の組織を採取するまでの期間としては、1〜90日程度とするが、より迅速に試験する観点から1〜28日程度とすることが好ましい。mRNAの発現量を測定するために採取する試験動物の組織としては、肝臓、腸、肺、腎臓、胃、脾臓、脳、血液等が使用できる。
【0041】
試験動物の組織から公知の方法によりmRNAを抽出、精製した後、各mRNAについて発現量を測定する。mRNAの発現量の測定方法としては、mRNAと相補的な配列を有するcDNA又はDNAが固定してあるDNAマイクロアレイやマイクロプレートにmRNAから調製した蛍光標識cDNA又はcRNAを結合させる方法、ノーザンブロッティング、定量的RT−PCR、RNaseプロテクションアッセイ等の公知の方法が使用できる。中でも、DNAマイクロアレイを用いる方法は、各発がん物質投与群において多くのmRNAについての発現量のデータを同時に取得することができ、各群間での発現パターンの比較を容易に行うことが可能である。
【0042】
mRNAの発現量の測定には、試験動物の種類に応じて選択した市販のマイクロアレイを使用することもできる。例えば、試験動物にラットを使用する場合には、Gene Chip(商品名、アフィメトリクス社製)、Rat Oligo Microarray Kit(商品名、アジレント社製)等が使用できる。
【0043】
mRNAの発現量から、遺伝子の発現パターンをグループ化する方法につき以下説明する。
【0044】
まず、それぞれの発がん物質投与群について発がん物質の投与により有意に発現量が増加又は減少(変動)した遺伝子(以下、発現変動遺伝子と称す)を選択する。遺伝子の発現量が各群において有意に変動したかどうかの判断は、非発がん物質を発がん物質溶液の調製に使用した媒体に溶解して投与した非発がん物質投与群の遺伝子の発現量との相対比較により行う。非発がん物質としては、NTP(National Toxicology Program)、EPA(米国環境保護庁)、IARC(International Agency for Research on Cancer)等で公式に非発がん物質と評価された化合物のうち、少なくとも1以上、好ましくは5以上、より好ましくは10以上の化合物を使用する。使用する非発がん物質の数に上限はないが、20物質程度を投与すれば充分な精度とすることができる。非発がん物質としては、例えば2,6-ジアミノトルエン、8-ヒドロキシキノリン、D-マンニトール、L-アスコルビン酸、2-クロロエタノール、2-(クロロメチル)ピリジン塩酸塩、dl-メントール、4-ニトロ-o-フェニレンジアミン、ベンゾイン、ヨードホルム、リトコール酸、リンダン、2-クロロ-p-フェニレンジアミン硫酸塩、p-フェニレンジアミン二塩酸塩、2,5-トルエンジアミン硫酸塩、アスピリン、4-(クロロアセチル)アセトアニリド、フタルアミド、カプロラクタム、1-クロロ-2-プロパノール、3-クロロ-p-トルイジン、グルタルアルデヒド、4-ニトロアントラニル酸、及び1−ニトロナフタレン等を挙げることができる。
【0045】
発現パターンの解析には、それぞれの発がん物質投与群において発現量が変動した発現変動遺伝子の発現量のデータを全て使用してもよいが、発現量が変動した遺伝子の数が多い場合には解析の操作が煩雑となるので、発がん物質投与群と非発がん物質投与群の間で発現量の差が大きい発現変動遺伝子を選定して使用することが好ましい。
【0046】
発現パターンの分類に使用する発現変動遺伝子は、少なくとも5以上とするが、10〜150程度とすることがより好ましく、30〜120程度とすることが特に好ましい。
【0047】
試験動物にラットを使用する場合、発がん物質投与群において発現量が変動する傾向がある遺伝子の塩基配列の一部を示す塩基配列を配列番号1〜2844に示す。これらの遺伝子を5以上、好ましくは7以上、より好ましくは10以上含むように発現変動遺伝子を選択した場合には、被検物質の発がん性予測の精度を高めることができる。
【0048】
選定した発現変動遺伝子について、発がん物質投与群間で発現パターンを比較し、その類似性により発現パターンを統計学的手法により分類する。
【0049】
発現パターンを分類する統計学的手法としては、例えばクラスタ解析、決定木等の解析方法を挙げることができる。
【0050】
クラスタ解析を用いる場合には、例えば以下の方法により発現パターンの分類を行うことができる。
【0051】
まず、選定した発現変動遺伝子の発現パターンについてクラスタ解析を行った後、発現変動遺伝子の選定条件を変化させて異なる発現変動遺伝子を選定し、他の発現変動遺伝子の組み合わせについてもクラスタ解析を行う。発現変動遺伝子の組み合わせを変えても同じクラスタに分類される発がん物質群を選定し、それぞれを1のグループとする。発現変動遺伝子の組み合わせを変化させても安定して同じクラスタを形成する発がん物質群は、選定された発現変動遺伝子により偶然に形成されたクラスタではなく、発がんメカニズムが同じであると推定できる。更に、グループを形成していない残りの発がん物質について新たに発現変動遺伝子を選定し、残りの発がん物質について同様にクラスタ解析とグループ化を行う。この操作を安定してクラスタを形成する発がん物質群が検出されなくなるまで繰り返し行い、発がん物質群のグループに共通する発現変動遺伝子の発現パターンを当該グループの発現パターンとする。
【0052】
発がん物質の発現パターンを分類し、分類したグループごとに発現変動遺伝子の発現パターンを得ておき、被検物質の発がん性を予測するに際しては、被検物質を発がん物質と同じ条件で被検物質投与群に投与し、所定期間経過後に被検物質投与群の発現変動遺伝子の発現量を測定する。
【0053】
被検物質を投与して得られた発現変動遺伝子の発現パターンを、発がん物質を投与して得られた発現変動遺伝子のグループ毎の発現パターンと比較して、それぞれのグループの発現パターンとの一致度を評価する。被検物質の発現パターンがいずれか1の発がん物質のグループの発現パターンと一致度が高い場合には被検物質は発がん性有りと判定し、いずれの発現パターンとも一致度が低い場合には発がん性無しと判定する。
【0054】
発現パターンの一致度を評価する方法としては、例えば発がん物質と一緒にクラスタ分析や決定木による解析を行って得られた樹形図の階層から評価する方法、発現変動遺伝子の発現量の相関を算出する方法等が使用できる。
【0055】
以下、DNAマイクロアレイを用いて被検物質の発がん性を予測する方法の一例につき具体的に説明する。
【0056】
まず、DNAマイクロアレイに搭載する遺伝子を得るため、発がん物質を投与した試験動物の組織から抽出したmRNAからmRNAと相補的な配列をもつcDNAを逆転写反応により合成する。mRNAからcDNAを合成する際には、配列情報から得たPCRプライマーを用いて、各mRNAを鋳型にして増幅する逆転写PCR法(RT−PCR)、逆転写酵素を使用する方法等が使用できる。
【0057】
次いで、予めポリ−L−リシンやポリアルキルアミンなどの多価陽イオンで表面処理したスライドガラス上に、DNAマイクロアレイ作製装置を用いて合成したcDNAを順次スポット状にコーティングし、DNAマイクロアレイを作製する。
【0058】
発がん物質投与群の組織から抽出したmRNAと媒体対照群の組織から抽出したmRNAをそれぞれ異なる蛍光物質で蛍光標識化したcDNA又はcRNAを得、これらをDNAマイクロアレイにハイブリダイゼーションする。
【0059】
mRNAの標識に使用する蛍光物質としては、Cy3(赤色)、Cy5(緑色)を挙げることができる。標識方法としては、5’末端に蛍光物質を導入したプライマーを使用する方法、蛍光物質のデオキシヌクレオチド誘導体を逆転写酵素で取り込ませる方法、ポストラベリング試薬を使用する方法などの公知の方法が採用できる。
【0060】
蛍光標識cDNA又はcRNAをハイブリダイゼーションしたDNAマイクロアレイをスキャナで読み取り、各スポットの蛍光強度を測定する。
【0061】
非発がん物質投与群についても発がん物質投与群と同様にしてDNAマイクロアレイの蛍光パターンを得ておき、得られた各スポットの蛍光強度から発現変動遺伝子を選定する。
【0062】
発がん物質投与群のmRNAと媒体対照群のmRNAは異なる蛍光物質で標識されているので、スキャナで読み取った各スポットの蛍光強度の比較により、各群の間でmRNAの発現量の比較を容易に行うことができる。
【0063】
次いで、クラスタ解析、決定木等の統計学的手法を用いて、選定した発現変動遺伝子の蛍光パターンの分類を行い、グループ毎に被検物質投与群の蛍光パターンとの一致度を評価することにより、被検物質の発がん性を予測する。
【0064】
なお、DNAマイクロアレイに搭載するDNAとしては、試験動物の組織から抽出したmRNAから逆転写反応により合成したcDNAの配列の全部又は一部をPCR等により増幅したDNAのほかに、cDNAの配列の一部を化学合成して得たDNAも使用できる。
【実施例】
【0065】
製造例1(cDNAマイクロアレイの作製)
(1)完全長cDNA クローン及びライブラリーの作製(理化学研究所法)
発がん剤投与成獣(6週齢)ラット由来の肝臓、腎臓、脾臓及び大腸組織から、株式会社ダナフォームが作製したラット完全長cDNAライブラリーを利用して完全長cDNAクローンを得た。なお当該ラット完全長cDNAライブラリーの作製手順の概略は以下の通りであった。
【0066】
F344 ラット成獣(6 週齢)に作用機構が異なる4種の既知発がん物質(Diethylnitrosoamine:投与量100mg/kg/day:投与期間3 時間, 1 日, 3 日、2-amino-3,8-dimethyl-imadazo[4,5-f]quinoxaline:投与量20mg/kg/day:投与期間 3 時間, 1 日, 4 日、Clofibrate:投与量100mg/kg/day:投与期間1 日, 2 日, 4 日、Phenobarbital:投与量80mg/kg/day:投与期間1 日, 2 日, 4 日)を投与し、肝臓、腎臓、脾臓及び大腸を採取した。採取した組織からAGPC 法によりtotal RNA を抽出し、MACS mRNA Isolation Kit (Miltenyi Biotec 社製)を用いてmRNA を精製した。その後、Anchored oligo(dT)をプライマーとしてトレハロース存在下で耐熱化した逆転写酵素により逆転写反応を行った。このAnchored oligo(dT)プライマーには、6 塩基のタグ配列を用いてライブラリー及びcDNA の起源に関する情報を付した。次にキャップトラッパー法を用いて完全長cDNA を選択し、第2 鎖合成、制限酵素切断を行った後、方向を定めてクローニングし、完全長cDNA ライブラリーを作製した。この完全長cDNAライブラリーは、化合物未処理ラット臓器由来のcDNA ライブラリーをドライバーとすることでサブトラクション処理を行い、特異性を高めた。
【0067】
(2)cDNAマイクロアレイに搭載する遺伝子の選択
発がん物質投与成獣由来完全長cDNA ライブラリー中のクローンの3’端の塩基配列からクローン間の相同性を調べた。発がん物質投与成獣由来遺伝子の合計数は15,762 で、このうちの肝臓由来の遺伝子数は4,139 であった。また、UniGene ID を元にした非重複塩基配列数は6,954 であった。
【0068】
未処理ラット臓器由来クローンと、発がん物質処理ラット臓器由来クローンを搭載する遺伝子の選定対象の遺伝子プールとして、以下の基準から8,862 クローンを選定した。
【0069】
a) 発がん物質の投与によりコントロール動物と比較して2倍以上あるいは1/2 以下に発現量が変動した遺伝子。
b) 発がん物質処理ラット臓器由来クローン。
c) 文献等で発がん性に関連していることが報告されている遺伝子。これらの遺伝子の中にはがん遺伝子やがん抑制遺伝子、転写因子、増殖因子などが含まれる。なお、文献等で発がん性に関連していることが報告されている遺伝子で、上記の遺伝子プールに入っていないが発がん性評価には重要と考えられる24 種の遺伝子については、個別にクローンを購入あるいは単離した。
d) 市販の毒性評価用マイクロアレイに共通に搭載されている遺伝子。市販アレイとしては、Clontech Rat Toxicology1.2 array、TAKARA Rat Toxicology CHIP ver1.0、NIEHS Rat Chip、MWG Rat Liver、Mergen Rat R01 を調査した。
e) ポジティブコントロールとして3 遺伝子(ベータ-アクチン、GAPDH、ユビキチン)及びネガティブコントロールとしてのラムダファージ遺伝子。
【0070】
a)に含まれる遺伝子は2,890 クローン、b)に含まれるのは5,759 クローン、c)に含まれる遺伝子は44 クローン、d)に含まれる遺伝子は185 クローンであった。
【0071】
(3) cDNAマイクロアレイの作製
選定した遺伝子の塩基配列からお互いに非相補的な部分配列を設計し、(2) で選択した8,862 クローンをテンプレートとして、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法により遺伝子断片を増幅した。増幅遺伝子の長さは、一部の遺伝子を除いて約300bpに設計した。cDNAマイクロアレイに搭載する遺伝子断片をPCR法で増幅するためのプライマーはタカラバイオ株式会社の設計アルゴリズムを用いて設計した。フォワードプライマー、リバースプライマーを各35pmol、Ex-Taq ポリメラーゼ2.5 unit 及び酵素に添付されたバッファーを用いて、反応液量を100μL としてPCR 反応を行った。反応は、95℃ 30 秒間の後、95℃ 45 秒間、54℃ 30 秒間、72℃ 60 秒間を1 サイクルとしてこれを37 サイクル行い、さらに72℃ 3 分間行った。反応終了後、反応液の一部をアガロース電気泳動に供することで、PCR 産物を確認した。
【0072】
PCR 反応後、産物が増幅されたものは8,261クローンであった。さらに産物を詳しく検討した結果、PCR 産物が単一の遺伝子断片でないものやスメアーなものを除き、最終的な解析対象としては8,051 クローンとした。なお2003/01/06 版のUniGeneデータベースでアノテーションし直した結果、非重複なUniGene ID 数としては6,353であった。
【0073】
得られたPCR 産物はQIAGEN 社製 QIAquick PCR Purification Kit で精製したのち、ガラス基板上にスポットし、cDNAマイクロアレイを得た。1グラス当たり2 アレイをスポットした。
【0074】
実施例1(クラスタ解析による発がん性予測)
(1)total RNAの取得
表1〜4に示す化学物質をそれぞれ媒体に溶解し、溶液を調製した。化学物質とその物質番号、発がん性、使用した媒体、試験動物に投与した用量を表1〜4に示す。
【0075】
【表1】

【0076】
【表2】

【0077】
【表3】

【0078】
【表4】

【0079】
日本チャールス・リバー社から入手した5週令の雄性ラット(F344、SPF系統)を4匹/群に分け、各群のラットに調製した溶液又は媒体を強制経口投与した。投与は1日1回、1、3、7、14、28日間行った。投与開始から2、4、8、15、又は29日目に各個体の肝臓を採取した。肝臓から断片を切り出し、total RNA 保存安定用試薬であるRNAlater(登録商標) RNA Stabilization Reagent に浸漬させた。これを室温で24 時間放置後、RNAlater RNA Stabilization Reagent に浸漬させたまま-20℃で保存した。
【0080】
ラット組織からtotal RNAを抽出し、QIAGEN 社BioRobot 3000 を用いてQIAGEN 社RNeasy Midi Kit により精製した。精製法は製造会社の使用法に準じて行ったが、概略は以下のとおりである。
【0081】
切り出した組織サンプル50-100mg と破砕用ビーズ(直径5 mm、ジルコニア製)を2 mL エッペンドルフチューブに入れた。RLT バッファーを添加した後、Mixer Mill (QIAGEN 社製)により25 Hz 4 分間で2 回組織破砕を行った。5,000×g 5分間遠心し、未破砕物を沈殿させた。上清に70%エタノールを添加、混合した後、RNeasy Midi column へ添加した。3,000-5,000×g 5 分間遠心した後、RW1 バッファーを添加した。3,000-5,000×g 5 分間遠心した後、DNase I 溶液(QIAGEN 社製) を添加し室温で15 分間放置しさらにRW1 バッファーを添加した。3,000-5,000×g 5 分間遠心した後、RPE バッファーを添加した。3,000-5,000×g 2 分間遠心した後、再度RPE バッファーを添加した。3,000-5,000×g 2 分間遠心した後、3,000-5,000×g でさらに5 分間遠心しカラムを乾燥させた。RNase-free 水を添加し5 分間放置した後、3,000-5,000×g 2 分間遠心することでRNA 溶液を溶出させた。濃度及び回収率を向上させるために溶出したRNA 溶液を再度カラムに添加し5 分間放置した後、3,000-5,000×g 2 分間遠心することで最終的な精製RNA 溶液を得た。
【0082】
精製total RNA の純度を示す260 nm/280 nm 比は光学的測定装置を用いて測定した。さらに精製total RNA はAgilent 社BioAnalyser2100 を用いてその泳動パターンを検査した。泳動にはRNA6000nano チップ(Agilent 社製) を用い、操作法は製造会社の使用法に準じて行った。精製total RNA の濃度測定は光学的測定装置を用いた方法で行った。
【0083】
光学的測定装置として、分光光度計による場合は光路長1cm の場合1[吸光度(260 nm)-吸光度(320 nm)] = 40 μg RNA/mL として計算した。
【0084】
(2)蛍光標識cDNA の作製
精製total RNA 20 または10 μg を用いて、CyScript 逆転写酵素を用いて蛍光ラベル化cDNA を作製した。
【0085】
total RNA またはmRNA(自家精製、クロンテック社製または北山ラベス株式会社製)を用い、以下の反応条件で蛍光ラベル化を行った。最終反応液量は50μL で行った。
【0086】
反応溶液の終濃度はtotal RNA 10-20μg、Anchored Oligo(dT) (Amersham Bioscience 社製) 0.075μg、dCTP Nucleotide Mix 1μL、1×CyScript buffer (Amersham Bioscience 社製)、10 mM DTT、Cy3-dCTP またはCy5-dCTP (Amersham Bioscience 社製) 1 nmol である。
【0087】
RNA とAnchored Oligo(dT)の混合液を70℃ 5 分静置した後、氷上に1 分静置した。その他の成分を添加した後CyScript 逆転写酵素(Amersham Bioscience 社製)を100 unit添加し42℃ 90 分遮光静置した。1 N NaOH 12.5μL を添加し、65℃ 10 分遮光静置し、RNA を加水分解した。1 N HCl 15μL を添加し中和した後QIAGEN 社製MinElute PCR Purification Kit を用いて蛍光ラベル体を精製した。未反応の蛍光標識核酸を除去するためにPE バッファーによる洗浄は2 回行った。
【0088】
投与群(高用量、低用量)をCy3 で標識し、コントロール群をCy5 で標識した。コントロール群の4 匹から作製したCy5 標識cDNA は精製が終了した時点で等量づつ混合し、ハイブリダイゼーション溶液作製には混合液から分注した。
【0089】
(3)cDNAマイクロアレイへのハイブリダイゼーション及び検出
最終的なハイブリダイゼーション溶液12μL 当たりにCy3 ラベル体4.2 μL、Cy5ラベル体4.2 μL、20×SSC 3 μL、10%SDS 0.6μL になるように混合した後、95℃ 2分遮光静置した。室温3 分遮光静置した後、BSA ブロッキング処理済みのcDNAマイクロアレイに12μL/アレイでスポットした。速やかに24 mm × 32 mm カバーグラス(松浪硝子製)でカバーした後、ハイブリカセット(Telechem 社製、日立ソフトウェア社製等)にセットし55℃で一晩遮光静置した。その後ハイブリカセットからcDNAマイクロアレイを取り出し,2×SSC/0.1%SDS 溶液に浸漬してカバーグラスを取り除いた。室温で2×SSC/0.1%SDS溶液に20 分遮光浸漬し、さらに0.2×SSC/0.1%SDS 溶液に20 分遮光浸漬した。42℃の0.2×SSC/0.1%SDS 溶液に2 回20 分遮光浸漬した後、0.2×SSC/0.1%SDS 溶液、0.05×SSC溶液で洗浄した。遠心器を用いて乾燥させた後、Agilent 社製Microarray Scanner を用いて検出した。検出感度を示すPMT 値は100%を用いた。スキャン画像から各スポットの蛍光値の数値化はAxon Instruments 社製GenePix Pro ver.4.0.1.17 を用いて行った。
【0090】
cDNAマイクロアレイのBSA ブロッキングは0.1 または0.22μm のフィルターで膜ろ過した1%BSA ブロッキング溶液(1%BSA、4×SSC、2%SDS)中で42℃ 45 分遮光静置することで行った。2 回水中で振とう洗浄し遠心器を用いて乾燥させた後、ハイブリダイゼーションに用いた。
【0091】
(4)解析に有効な遺伝子の選定
cDNAマイクロアレイに搭載した各遺伝子の発現量データに対して、以下に示すデータクレンジングを行い、解析に使用する遺伝子の選定を行った。
【0092】
a) cDNAマイクロアレイの数値化発現データには、それぞれのアレイ上のスポット(遺伝子)の有効性を表すフラグ(flag)がついており、フラグが"0"(有効)を示すスポットを選定した。選定後の解析可能なスポット数が、3000未満のアレイについてはデータを用いないこととした。
b) 陰性対照遺伝子のlambda DNAの発現量に標準偏差の2倍を加えた値以下の発現量を示す遺伝子は、ノイズデータと判断して除外した。
c) 4個体から抽出した2個体間の相関計数を計算し、総当りで6通りの組み合わせのうち相関係数が0.5以下を2回以上示す場合は、相関の悪いデータとみなし解析対象から除外した。
d) 実験毎にばらつきの少ない遺伝子を選定するため、サンプル投与群のシグナル値(n=4)と媒体対照群(コントロール)のシグナル値(n=4)間でウエルチt検定(Welch's t-test)を行い、p≦0.05である遺伝子を選定した(帰無仮説:サンプル投与群(n=4)のシグナル値と媒体対照群(n=4)の遺伝子発現量(シグナル値)には差がない)。
e) 統計的に有意といえるn=4の平均発現比を示す遺伝子を選定するため、検出力を基準にしきい値を算出した。結果、LogRatio(化合物投与群の発現量と媒体対照群の発現量の比をLog変換した値)が0を基準に0.8以上離れていれば、有意な発現比であることが確認できた為、LogRatio=|0.8|をしきい値とし、LogRatioが0.8以上-0.8以下変動している遺伝子を選定した。
【0093】
上記a)〜e)に従ってデータクレンジングを行った結果、解析に有効な遺伝子数は2844であった。これらの遺伝子の部分塩基配列に相補的な塩基配列を配列番号1〜2844に示す。
【0094】
更に、配列番号1〜2844に示す塩基配列に相補的な塩基配列を有する遺伝子のユニジーン(UniGene)番号と、それぞれの塩基配列に付与したクローンIDとを表6〜45に示す。
【0095】
【表5】

【0096】
【表6】

【0097】
【表7】

【0098】
【表8】

【0099】
【表9】

【0100】
【表10】

【0101】
【表11】

【0102】
【表12】

【0103】
【表13】

【0104】
【表14】

【0105】
【表15】

【0106】
【表16】

【0107】
【表17】

【0108】
【表18】

【0109】
【表19】

【0110】
【表20】

【0111】
【表21】

【0112】
【表22】

【0113】
【表23】

【0114】
【表24】

【0115】
【表25】

【0116】
【表26】

【0117】
【表27】

【0118】
【表28】

【0119】
【表29】

【0120】
【表30】

【0121】
【表31】

【0122】
【表32】

【0123】
【表33】

【0124】
【表34】

【0125】
【表35】

【0126】
【表36】

【0127】
【表37】

【0128】
【表38】

【0129】
【表39】

【0130】
【表40】

【0131】
【表41】

【0132】
【表42】

【0133】
(5)発がん物質の分類
発がん物質39物質(表1〜4に示した発がん物質からジ(2-エチルヘキシル)フタレートとフェノバルビタールを除外)及び非発がん物質20物質(表1〜4に示した非発がん物質)の投与期間28日間の投与群について、以下の手順で化学物質の発がん性を予測した。
【0134】
発がん物質群と非発がん物質群の間で発現量差が有意である遺伝子セットを、ウエルチt値(Welch's t-value)により選定した。選定した遺伝子セットの発現パターンの分類をGene Maths(Applied Maths, Sint-Martens-Latem, Belgium)のクラスタ解析機能を用いて行い、樹形図の形状からクラスタを決定した。ウエルチt値の選定条件を変化させ、数パターンの遺伝子セットにより物質のクラスタ構成について確認を行い、遺伝子セットを変化させても安定して同じクラスタを形成する2つの発がん物質のグループ1、2を選定した。
【0135】
遺伝子セットの選定条件(ウエルチt値の値)と、選定した遺伝子のクローンIDを表43に示す。更に、それぞれのウエルチt値で選定した遺伝子セットを用いてクラスタ解析した樹形図を図1〜3に示す。図1〜3中、●は発がん物質、○は非発がん物質を表す。
【0136】
【表43】

【0137】
次に、発がん物質グループ1、2を除いた残りの発がん物質と、全非発がん物質を用いて、残りの発がん物質中に存在する発現パターンの近い物質グループを同じ方法で選定した。即ち、残りの発がん物質投与群と、全非発がん物質投与群の間で特徴的に変動している遺伝子をウエルチt値で選定した後、その遺伝子セットを用いてクラスタ解析を行った。ウエルチt値の選定条件を変化させ、数パターンの遺伝子セットにより物質のクラスタ構成の確認を行い、常に安定してクラスタを形成する発がん物質グループ3を選定した。遺伝子セットの選定条件(ウエルチt値の値)と、選定した遺伝子のクローンIDを表44に示す。更に、それぞれのウエルチt値で選定した遺伝子セットを用いてクラスタ解析した樹形図を図4〜6に示す。図4〜6中、●は発がん物質、○は非発がん物質を表す。
【0138】
【表44】

【0139】
発がん物質グループ1〜3に分類された化学物質は以下の通りである。
(グループ1)
四塩化炭素、ジエチルニトロサミン、2-ニトロプロパン、N-ニトロソモルホリン、エチニルエストラジオール、サフロール、N-ニトロソピペリジン、アセタミド、ジエチルスチルベストロール
(グループ2)
クロフィブレート、α-ヘキサクロロシクロヘキサン、トリクロロエチレン、N-ニトロソジメチラミン、2-アミノ-3,8-ジメチリミダゾ[4,5-f]キノキサリン、2-アミノ-1-メチル-6-フェニリミダゾ[4,5-b]-ピリジン、ベンツ(a)アントラセン、7,12-ジメチルベンツアントラセン、3-メチルコラントレン、4-ニトロキノリン-1-オキサイド、N-エチル-N-ニトロソ尿素、タンニン酸、ウレタン、フェニトインナトリウム塩、D,L-エチオニン
(グループ3)
トリクロロ酢酸、ペンタクロルエタン、クロロホルム、ベンゾ(a)ピレン、N-メチル-N'-ニトロ-N-ニトロソグアニジン、テトラクロロエチレン
【0140】
(6)予測式作成手順と検証方法
予測式を作成する前に、対象とする発がん物質グループ・非発がん物質グループを決定した。発がん物質グループは、発がん物質グループ1〜3から選択した。非発がん物質グループとしては、解析が可能な全ての非発がん物質を用いた。
【0141】
選択した発がん物質グループと非発がん物質グループの間で、特徴的な変動を示す遺伝子セットをそれぞれウエルチt値と、各発がん物質グループのLogRatioの平均値の絶対値が、非発がん物質グループのLogRatioの平均値の絶対値より大きいという条件で選定した。
【0142】
Support Vector Machine(SVM)という教師付き分類方法に基づいて作成されたフリーソフトSVMlight(URL http://svmlight.joachims.org/ から入手)を用い、以下の手順で発がん性予測式を作成した。
【0143】
a) 発がん物質グループと、非発がん物質グループに属する各物質数が等しくない場合、多い方の物質グループから少ない方の物質の数だけランダムサンプリングを行い、両グループの物質数を等しくした。
b) 物質数を等しくした両物質グループと、選定した遺伝子セットを用いてSVMlightで学習させ、予測式を作成した。
c) 予測式の有効性を検証する為に、予測式を作成する為に用いた両物質グループ(トレーニングセット)の発がん性予測と、検証手法の一つである物質のリーブ ワン アウト(Leave one out)によるクロスバリデーションを行なった。
d) 予測式作成に用いていない残りの物質データ(テストセット)の予測を行なった。
e) 最も高い予測率を示す遺伝子セットが得られるまで選定条件を調整し、a)〜e)までの手順を繰り返し行った。
【0144】
(7)発現パターン毎の予測式作成
発がん物質グループ1に関する発がん性予測式(i)を、(6)a)〜e)の手順に従って作成した。構築したグループ1に関する予測式(i)を用いて、トレーニングセットとテストセットの予測を行なった結果を表45に示す。
【0145】
表 45
───────────────────────────────
物質数 予測正解数 正解率
───────────────────────────────
(トレーニングセット)
発がん物質グループ1 9 9 100%
非発がん物質 9 9 100%
L00クロスバリデーション 89.7%
(テストセット)
発がん物質グループ2 15 0 0%
グループ1、2に属さ 15 0 0%
ない発がん物質
非発がん物質 11 9 81.8%
───────────────────────────────
【0146】
結果として、トレーニングセットは、100%予測できた。予測式(i)は、L00クロスバリデーションにより89.7%の確率で、未知の発がん物質グループ1を予測できることが確認できた。また、テストセットの発がん物質はほとんど予測できず、非発がん物質については81.8%予測できた。この結果から、予測式(i)は、グループ1の変動パターンに特化した予測式であり、発がん物質グループ2、3は、変動パターンが異なる為に予測できなかったと考えられる。
【0147】
同様に発がん物質グループ2、グループ3についての予測式(ii)及び(iii)を作成した。それぞれの予測式を用いて各々のトレーニングセット、テストセットを予測した結果を表46、47に示す。
【0148】
表 46
───────────────────────────────
物質数 予測正解数 正解率
───────────────────────────────
(トレーニングセット)
発がん物質グループ2 15 15 100%
非発がん物質 15 12 80%
L00クロスバリデーション 82.9%
(テストセット)
発がん物質グループ1 9 6 66.7%
グループ1、2に属さ 15 12 80%
ない発がん物質
非発がん物質 5 3 60%
───────────────────────────────
【0149】
表 47
───────────────────────────────
物質数 予測正解数 正解率
───────────────────────────────
(トレーニングセット)
発がん物質グループ3 6 6 100%
非発がん物質 6 5 83.3%
L00クロスバリデーション 84.6%
(テストセット)
発がん物質グループ1 9 2 22.2%
発がん物質グループ2 15 6 40%
その他の発がん物質 9 4 44.4%
非発がん物質 14 12 85.7%
───────────────────────────────
【0150】
グループ2、3の予測結果についても、グループ1の結果と同じくトレーニングセットとテストセットの非発がん物質は比較的高い予測率を示した。L00クロスバリデーションの結果、予測式(ii)については82.9%、予測式(iii)については84.6%の確率で、グループ2、グループ3を予測できることが確認できた。グループ1の場合と同様に、予測式(ii)、(iii)は、物質グループに特異的な予測式であるため、テストセットの発がん物質は予測できなかった。
【0151】
(8)予測フローの構築
(7)で作成した各発がん物質グループ毎の予測式を組み合わせることにより、遺伝子発現パターンの異なる発がん物質を予測する予測フローを構築した(図7)。予測式作成に用いた59物質のデータを、予測フローに適用した結果、予測式(i)では発がん物質が9物質予測できたが、非発がん物質2物質を発がん物質と誤って予測した。予測式(i)で発がん物質と予測された11物質を除いた残りの物質について予測式(ii)で予測した結果、発がん物質は27物質予測できたが、非発がん物質5物質を誤って発がん物質と予測した。更に、予測式(ii)で発がん物質と予測された22物質を除き、残りの物質について予測式(iii)で予測した結果、発がん物質1物質を予測できたが、非発がん物質2物質を誤って発がん物質と予測した。最終的に予測できない発がん物質は2物質だった。
【0152】
発がん物質に特徴的なパターンによる発がん物質グループ毎に作成した予測式を組み合わせ、予測フローによる発がん性予測を行なった結果、37物質の発がん物質を予測することができた。
【0153】
実施例2(決定木による発がん性予測)
実施例1の(1)〜(4)で得られた発現量データについて決定木による解析を行った。
【0154】
決定木による解析を行うにあたり、データクレンジング後のデータに対して次のような数値変換を行った。
【0155】
化合物投与群の発現量と媒体対照群の発現量の比(Ratio)をLogに変換した値(LogRatio)を算出した。LogRatio≧0.8(LogRatioで変動が有意といえる0.8を採用)の時は、発現量が上がったとみなし、全て1に変換した。同様に、LogRatio≦-0.8の時は発現量が下がったとみなし、全て-1に変換した。それ以外の場合は、全て変動していないとみなし、0に変換した。
【0156】
決定木の解析はClassification and Regression Trees Ver.5 (Salford Systems)を用いて行った。以下の条件で解析を行った結果を図8に示す。
・解析対象物質 発がん物質40物質、非発がん物質21物質
・遺伝子セット データクレンジングで残った897遺伝子
・分岐アルゴリズム Gini分岐ルールを採用
・クロスバリデーション 10-fold Cross Validation
【0157】
図8に示すように、分岐点(Node)1で選定されたID:35953の遺伝子発現量が上がった場合について(分岐点7)、末端分岐点(Terminal node)7では発がん物質のみが分類され、末端分岐点8では両カテゴリの物質が混在した。また、遺伝子発現量が下がった又は変動しなかった場合(分岐点2より右側のTree)について、末端分岐点1,3,4,6では発がん物質のみが分類された。末端分岐点2に分類された9物質のうち、7物質は発がん物質であったことから、末端分岐点2は発がん物質が分類されており、非発がん物質2物質が誤って発がん物質に分類されたと考えられる。末端分岐点5では非発がん物質のみ分類された。7つの分岐点で選定された遺伝子を表48に示す。
【0158】
表 48
────────────
クローンID
────────────
分岐点1 35953
分岐点2 40673
分岐点3 45500
分岐点4 02859
分岐点5 04922
分岐点6 24614
分岐点7 44546
────────────

【0159】
7つの分岐点で構築した樹形図は、クロスバリデーションの結果、判別不能の7物質を除いた52物質の発がん性を予測することができた。
【0160】
なお、実施例1及び2においては、化学物質の発がん性の予測率を算出するため、発がん物質と非発がん物質を解析の対象にして樹形図を作成した。発がん物質のみを用いて樹形図を作成した場合であっても発がん物質は実施例1又は2と同様に分類され、被検物質の発がん性を予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0161】
【図1】実施例1においてクラスタ解析により化学物質を分類した樹形図である。
【図2】実施例1においてクラスタ解析により化学物質を分類した樹形図である。
【図3】実施例1においてクラスタ解析により化学物質を分類した樹形図である。
【図4】実施例1においてクラスタ解析により化学物質を分類した樹形図である。
【図5】実施例1においてクラスタ解析により化学物質を分類した樹形図である。
【図6】実施例1においてクラスタ解析により化学物質を分類した樹形図である。
【図7】実施例1において構築した発がん性予測方法を示すフロー図である。
【図8】実施例2において決定木により化学物質を分類した樹形図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の発がん物質をそれぞれ各発がん物質投与群に投与し、所定期間経過後に各発がん物質投与群からmRNAを採取し、そのmRNAの発現量を測定してmRNAの発現量が有意に増加又は減少した発現変動遺伝子を選定する第一の工程と、
第一の工程で選定した発現変動遺伝子の発現パターンを各発がん物質投与群の間で比較して、発現パターンの類似性により発現パターンを複数のグループに分類し、複数のグループに分類した発現変動遺伝子の発現パターンを用意する第二の工程と、
被検物質を被検物質投与群に投与し、所定期間経過後に被検物質投与群からmRNAを採取して発現変動遺伝子について発現パターンを取得し、被検物質投与群の発現変動遺伝子の発現パターンを予め第二の工程で用意しておいた発がん物質投与群のグループ毎の発現変動遺伝子の発現パターンと比較してその一致度を算出し、被検物質の発がん性を予測する第三の工程と
を有する被検物質の発がん性予測方法。
【請求項2】
複数の発がん物質をそれぞれ各発がん物質投与群に投与し、所定期間経過後に各発がん物質投与群からmRNAを採取し、そのmRNAの発現量を測定してmRNAの発現量が有意に増加又は減少した発現変動遺伝子を選定する第一の工程と、
第一の工程で選定した発現変動遺伝子の発現パターンを各発がん物質投与群の間で比較して、発現パターンの類似性により発現パターンを複数のグループに分類し、複数のグループに分類した発現変動遺伝子の発現パターンを用意する第二の工程と、
被検物質を被検物質投与群に投与し、所定期間経過後に被検物質投与群からmRNAを採取して発現変動遺伝子について発現パターンを取得し、被検物質投与群の発現変動遺伝子の発現パターンを予め第二の工程で用意しておいた発がん物質投与群のグループ毎の発現変動遺伝子の発現パターンと比較してその一致度を算出し、被検物質の発がん性を予測する第三の工程と、
を有する被検物質の発がん性予測方法であって、次の3つの工程:
発がん物質投与群から採取したmRNAから調製した蛍光標識cDNA又はcRNAをDNAマイクロアレイにハイブリダイゼーションして得られる蛍光パターンと、非発がん物質を投与した非発がん物質投与群から採取したmRNAから調製した蛍光標識cDNA又はcRNAをDNAマイクロアレイにハイブリダイゼーションして得られる蛍光パターンとを比較し、蛍光パターンの各スポットの蛍光強度から有意差検定により発現変動遺伝子を選定する工程、
発がん物質投与群から採取したmRNAから調製した蛍光標識cDNA又はcRNAをDNAマイクロアレイにハイブリダイゼーションして得られる蛍光パターンの比較により各発がん物質投与群の間の発現変動遺伝子の発現パターンを比較し、発がん物質投与群の発現パターンを複数のグループに分類する工程、
発がん物質投与群から採取したmRNAから調製した蛍光標識cDNA又はcRNAをDNAマイクロアレイにハイブリダイゼーションして得られる蛍光パターンと、被検物質投与群から採取したmRNAから調製した蛍光標識cDNA又はcRNAをDNAマイクロアレイにハイブリダイゼーションして得られる蛍光パターンの比較により発がん物質投与群の発現変動遺伝子のグループ毎の発現パターンと被検物質投与群の発現変動遺伝子の発現パターンを比較してその一致度を算出する工程、
の少なくとも1つの工程を含む被検物質の発がん性予測方法。
【請求項3】
DNAマイクロアレイが、発がん物質を投与した試験動物からmRNAを抽出し、発現量が増加又は減少したmRNAから逆転写反応により合成したcDNAの配列の全部又は一部をPCRにより増幅又は化学合成したDNAを搭載したDNAマイクロアレイである請求項2に記載の被検物質の発がん性予測方法。
【請求項4】
発現変動遺伝子が、配列番号1〜2844に記載する塩基配列に相補的な塩基配列を有する遺伝子から5つ以上選定されたものである請求項1乃至3のいずれかに記載の被検物質の発がん性予測方法。
【請求項5】
発がん物質投与群に投与する発がん物質が、クロフィブレート、ジ(2-エチルヘキシル)フタレート、四塩化炭素、2,4-ジアミノトルエン、キノリン、フェノバルビタール、ジエチルニトロサミン、2-ニトロプロパン、N-ニトロソモルホリン、アルドリン、アジピン酸ジ(2-エチルヘキシル)、エチニルエストラジオール、ヘキサクロロベンゼン、α-ヘキサクロロシクロヘキサン、トリクロロエチレン、ブチル化ヒドロキシアニソール、リモネン、サフロール、1,4-ジクロロベンゼン、1,4-ジオキサン、フラン、メチルカルバメート、チオアセトアミド、N-ニトロソジメチラミン、N-ニトロソピペリジン、2-アミノ-3,8-ジメチルイミダゾ[4,5-f]キノキサリン、2-アミノ-1-メチル-6-フェニルイミダゾ[4,5-b]-ピリジン、ベンツ(a)アントラセン、7,12-ジメチルベンズアントラセン、3-メチルコラントレン、4-ニトロキノリン-1-オキサイド、N-エチル-N-ニトロソ尿素、トリクロロ酢酸、タンニン酸、ウレタン、ペンタクロルエタン、クロロホルム、ベンゾ(a)ピレン、N-メチル-N'-ニトロ-N-ニトロソグアニジン、テトラクロロエチレン、アセタミド、ジエチルスチルベストロール、フェニトインナトリウム塩、D,L-エチオニン、4-ジメチルアミノアゾベンゼン、及びクロレンド酸から選ばれる少なくとも4個を含む請求項1乃至4のいずれかに記載の被検物質の発がん性予測方法。
【請求項6】
発がん物質投与群に投与する発がん物質が、請求項5に記載の発がん物質を少なくとも6個含む請求項1乃至4のいずれかに記載の被検物質の発がん性予測方法。
【請求項7】
発がん物質投与群に投与する発がん物質が、請求項5に記載の発がん物質を少なくとも9個含む請求項1乃至4のいずれかに記載の被検物質の発がん性予測方法。
【請求項8】
非発がん物質投与群に投与する非発がん物質が、2,6-ジアミノトルエン、8-ヒドロキシキノリン、D-マンニトール、L-アスコルビン酸、2-クロロエタノール、2-(クロロメチル)ピリジン塩酸塩、dl-メントール、4-ニトロ-o-フェニレンジアミン、ベンゾイン、ヨードホルム、リトコール酸、リンダン、2-クロロ-p-フェニレンジアミン硫酸塩、p-フェニレンジアミン二塩酸塩、2,5-トルエンジアミン硫酸塩、アスピリン、4-(クロロアセチル)アセトアニリド、フタルアミド、カプロラクタム、1-クロロ-2-プロパノール、3-クロロ-p-トルイジン、グルタルアルデヒド、4-ニトロアントラニル酸、及び1−ニトロナフタレンから選ばれる少なくとも1個を含む請求項2乃至7のいずれかに記載の被検物質の発がん性予測方法。
【請求項9】
非発がん物質投与群に投与する非発がん物質が、請求項8に記載の非発がん物質を少なくとも5個含む請求項2乃至7のいずれかに記載の被検物質の発がん性予測方法。
【請求項10】
非発がん物質投与群に投与する非発がん物質が、請求項8に記載の非発がん物質を少なくとも10個含む請求項2乃至7のいずれかに記載の被検物質の発がん性予測方法。
【請求項11】
発がん物質投与群の発現変動遺伝子の発現パターンの分類が、クラスタ解析又は決定木により行われる請求項1乃至10のいずれかに記載の被検物質の発がん性予測方法。
【請求項12】
発現変動遺伝子の発現パターンが3以上のグループに分類される請求項1乃至11のいずれかに記載の被検物質の発がん性予測方法。
【請求項13】
発がん物質を各発がん物質投与群に投与した後、1〜90日経過後に各発がん物質投与群からmRNAを採取する請求項1乃至12のいずれかに記載の被検物質の発がん性予測方法。
【請求項14】
発がん物質を各発がん物質投与群に投与した後、14日または28日経過後に各発がん物質投与群からmRNAを採取する請求項1乃至12のいずれかに記載の被検物質の発がん性予測方法。
【請求項15】
被検物質を被検物質投与群に投与した後、1〜90日経過後に被検物質投与群からmRNAを採取する請求項1乃至14のいずれかに記載の被検物質の発がん性予測方法。
【請求項16】
被検物質を被検物質投与群に投与した後、14日または28日経過後に被検物質投与群からmRNAを採取する請求項1乃至14のいずれかに記載の被検物質の発がん性予測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−54022(P2007−54022A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−246583(P2005−246583)
【出願日】平成17年8月26日(2005.8.26)
【出願人】(000173566)財団法人化学物質評価研究機構 (14)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【出願人】(501054746)株式会社三菱化学安全科学研究所 (3)
【Fターム(参考)】