説明

被検物質の齧歯類発がん性予測方法

【課題】遺伝子発現の差異から短期間で被検物質の齧歯類に対する発がん性を予測する、簡便な発がん性予測方法を提供する。
【解決手段】被検物質溶液を被検群に、その溶媒を対照群に投与する工程と、各群からmRNAを採取し、特定な配列からなる塩基配列を含む遺伝子から、それぞれ選択される1以上の遺伝子についてmRNAの発現量を測定する工程と、被検群と対照群の間で前記遺伝子から発現しているmRNAの発現量に有意差が認められるかどうかを判定する工程と、被検群と対照群の間でいずれか1の遺伝子から発現しているmRNAの発現量に有意差が認められ、かつmRNAの発現量の増加又は減少の方向が遺伝子毎に予め定められる方向であるときに被検物質に発がん性有りと決定する工程と、を有する被検物質の齧歯類発がん性予測方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラット、マウス等の齧歯類に被検物質を投与した後所定の遺伝子から発現するmRNAの発現量を測定することにより、被検物質の齧歯類に対する発がん性を予測する発がん性予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化学物質の有害性(ハザード)の評価項目の一つに長期毒性の評価がある。発がん性などの化学物質の長期毒性を評価するには、多額の費用と長期の試験期間を要する動物実験の実施が必要とされる。
【0003】
化学物質の発がん性を評価する動物実験では、試験動物に癌が出現するまで、あるいは試験動物が死亡するまで化学物質の連続投与が行われる。癌は長い潜伏期間を経て出現するため、長期にわたる動物実験が必要になる。
【0004】
一方、近年のゲノム情報に関する技術の著しい発展により、遺伝子レベルで化学物質の有害性評価が行われるようになっている。例えば、特許文献1には、化学物質を曝露した組織や細胞の遺伝子の発現の差異を検出することにより化学物質の毒性作用を予測する方法が記載されている。
【0005】
化学物質の発がん性の評価においても発がんメカニズムに関与している遺伝子の存在が予想される。これらの遺伝子の発現の差異を検出することにより遺伝子レベルで化学物質の発がん性の評価が可能であると考えられる。しかしながら、化学物質が引き起こす遺伝子レベルでの発がんメカニズムはほとんど解明されていない。従って、遺伝子の発現の差異から化学物質の発がん性の予測を行うことは非常に困難である。
【0006】
本発明者は、DNAマイクロアレイを利用してラットの遺伝子の発現情報を包括的に取得し、遺伝子の発現パターンから被検物質の発がん性を予測する方法を見出し、先に特許出願を行った(特許文献2)。
【0007】
この方法においては、遺伝子発現パターンの類似性により発がん物質群を予め3つのグループに分類する。これら3グループに共通する遺伝子発現パターンと、被検物質の遺伝子発現パターンとを比較し、その一致度から被検物質の発がん性を予測する予測方法である。この方法においては、予め多数の発がん物質の遺伝子発現パターンを取得し、発がん物質のグループ毎に遺伝子発現パターンを準備しておく。次いで、準備したこれらの遺伝子発現パターンと被検物質の遺伝子発現パターンとの一致度を算出する。この一致度の算出をするためには、膨大な数のデータの取得と演算処理を行う必要がある。そのため、より簡便な被検物質の発がん性予測方法の開発が望まれている。
【特許文献1】特開2003−304888号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2007−54022号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、がん発生の初期段階に発がんメカニズムに関与している可能性が高い遺伝子の発現の増減を検出することにより短期間で被検物質の齧歯類に対する発がん性を予測する方法であって、膨大な数のデータの取得や煩雑な計算を必要としない、簡便な発がん性予測方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、3つの発がん物質のグループ毎に各遺伝子から発現しているmRNAの発現量を詳細に検討した。その結果、発がん物質投与群と非発がん物質投与群との間で発現量が異なる遺伝子群が発がん物質のグループ毎に明瞭に存在することを見出した。これらの遺伝子を組み合わせて使用することにより、被検物質の発がん性が予測できることを確認し、本発明を完成するに到った。
【0010】
即ち、上記課題を解決する本発明は以下に記載するものである。
【0011】
〔1〕 被検物質を溶媒に溶解又は分散させて調製した被検物質溶液を被検群に、前記被検物質溶液の調製に使用した溶媒を対照群に投与する工程と、
被検物質溶液又は溶媒の各群への投与期間経過後に各群からmRNAを採取し、下記(A)〜(C)
(A)配列番号1〜5に示す塩基配列を含む遺伝子
(B)配列番号6〜8に示す塩基配列を含む遺伝子
(C)配列番号9〜32に示す塩基配列を含む遺伝子
からそれぞれ選択される1以上の遺伝子から発現されるmRNAの発現量を測定する工程と、
被検群と対照群の間で前記選択された遺伝子から発現しているmRNAの発現量に有意差が認められるかどうかを有意差検定により判定する工程と、
被検群と対照群の間で前記選択された遺伝子のいずれか1の遺伝子から発現しているmRNAの発現量に有意差が認められ、かつ対照群に対する被検群の当該mRNAの発現量の増加又は減少の方向が当該mRNAを発現させる遺伝子毎に予め定められる方向に増加又は減少しているときに被検物質に発がん性有りと決定する工程と、
を有する被検物質の齧歯類発がん性予測方法。
【0012】
〔2〕 被検物質を溶媒に溶解又は分散させて調製した被検物質溶液を被検群に、前記被検物質溶液の調製に使用した溶媒を対照群に投与する工程と、
被検物質溶液又は溶媒の各群への投与期間経過後に各群からmRNAを採取し、下記(A)〜(C)
(A)配列番号1〜5に示す塩基配列を含む遺伝子
(B)配列番号6〜8に示す塩基配列を含む遺伝子
(C)配列番号9〜32に示す塩基配列を含む遺伝子
からそれぞれ選択される1以上の遺伝子から発現されるmRNAの発現量を測定する工程と、
被検群と対照群の間で前記選択された遺伝子から発現しているmRNAの発現量に有意差が認められるかどうかを有意差検定により判定する工程と、
被検群と対照群の間で前記選択された遺伝子のいずれか1の遺伝子から発現しているmRNAの発現量に有意差が認められ、かつ対照群に対する被検群の当該mRNAの発現量の増加又は減少の方向が当該mRNAを発現させる遺伝子毎に予め定められる方向に増加又は減少しているときに被検物質に発がん性有りと決定し、前記選択された遺伝子のいずれについても被検群と対照群の間でmRNAの発現量に有意差が認められないとき、又は前記選択された遺伝子のいずれかに有意差が認められる場合であっても対照群に対する被検群の当該遺伝子から発現しているmRNAの発現量の増加又は減少の方向が当該遺伝子毎に予め定められる方向でないときに発がん性無しと決定する工程と、
を有する被検物質の齧歯類発がん性予測方法。
【0013】
〔3〕 被検物質溶液の投与期間が1〜90日間である〔1〕又は〔2〕に記載の被検物質の齧歯類発がん性予測方法。
【0014】
〔4〕 被検群及び対照群の試験動物が、ラット、マウス、ハムスター、又はモルモットである〔1〕又は〔2〕に記載の被検物質の齧歯類発がん性予測方法。
【0015】
〔5〕 (A)から選ばれる遺伝子が配列番号2に示す塩基配列を含む遺伝子であり、(B)から選ばれる遺伝子が配列番号7に示す塩基配列を含む遺伝子であり、(C)から選ばれる遺伝子が配列番号10に示す塩基配列を含む遺伝子である〔1〕又は〔2〕に記載の被検物質の齧歯類発がん性予測方法。
【0016】
〔6〕 被検物質を溶媒に溶解又は分散させて調製した被検物質溶液を被検群に、前記被検物質溶液の調製に使用した溶媒を対照群に投与する工程と、
被検物質溶液又は溶媒の各群への投与期間経過後に各群からmRNAを採取し、下記(A)〜(C)
(A)配列番号1〜5に示す塩基配列を含む遺伝子
(B)配列番号6〜8に示す塩基配列を含む遺伝子
(C)配列番号9〜32に示す塩基配列を含む遺伝子
からそれぞれ選択される1以上の遺伝子と、下記(D)の遺伝子
(D)配列番号33に示す塩基配列を含む遺伝子
と、から発現されるmRNAの発現量を測定する工程と、
被検群と対照群の間で前記遺伝子から発現しているmRNAの発現量に有意差が認められるかどうかを有意差検定により判定する工程と、
被検群と対照群の間で前記遺伝子のいずれか1から発現しているmRNAの発現量に有意差が認められ、かつ対照群に対する被検群の当該mRNAの発現量の増加又は減少の方向が当該mRNAを発現させる遺伝子毎に予め定められる方向に増加又は減少しているときに被検物質に発がん性有りと決定する工程と、
を有する被検物質の齧歯類発がん性予測方法。
【0017】
〔7〕 被検物質溶液の投与期間が1〜90日間である〔6〕に記載の被検物質の齧歯類発がん性予測方法。
【0018】
〔8〕 (A)から選ばれる遺伝子が配列番号2に示す塩基配列を含む遺伝子であり、(B)から選ばれる遺伝子が配列番号7に示す塩基配列を含む遺伝子であり、(C)から選ばれる遺伝子が配列番号10に示す塩基配列を含む遺伝子である〔6〕に記載の被検物質の齧歯類発がん性予測方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明においては、所定の遺伝子から発現するmRNAの発現量を測定することによりラット、マウス、ハムスター、モルモット等の齧歯類に対する被検物質の発がん性を予測できる。予測に必要な計算は、被検群と対照群との間のmRNAの発現量の有意差の計算である。mRNAの発現量の比較は3又は4程度の遺伝子について行えばよく、極めて簡単なデータ処理しか必要としない。
【0020】
齧歯類への被検物質の投与は1〜90日程度の短期間である。そのため、試験動物に癌が出現するまで化合物の連続投与を行うような長期にわたる動物実験を必要としない。
【0021】
本発明によれば短期間の試験と簡単なデータ処理により高い精度で被検物質の齧歯類に対する発がん性を予測することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の被検物質の発がん性予測方法は、以下の手順で行う。
【0023】
まず、被検物質を被検群に投与するために、被検物質を溶媒に溶解、分散させて被検物質溶液を調製する。
【0024】
本発明において発がん性の予測方法の対象となる被検物質は、任意の化学物質である。その形態は、固体、粉体、液体、又はこれらの混合物のいずれであってもよい。これらは適宜、溶液、分散液の形態にして試験に供される。
【0025】
被検物質を溶解させる溶媒は、被検物質が溶解又は分散する非発がん性の媒体であれば特に制限することなく使用できる。例えば、トウモロコシ油、精製水等の動物実験に汎用的に使用される溶媒を挙げることができる。分散には、発がん性のない界面活性剤等の分散剤を用いることができる。
【0026】
被検物質の投与量は、被検物質の刺激により試験動物のmRNAの発現量に適度な増加又は減少を引き起こす量とすることが望ましい。投与量は、被検物質の試験動物に対するLD50値を基準に決定することが可能である。1日あたりの投与量は、LD50値の1/250〜1/2とすることが好ましく、1/50〜1/2とすることがより好ましく、1/10〜1/2とすることが更に好ましい。
【0027】
このように調製した被検物質溶液を被検群に、被検物質溶液の調製に使用した溶媒を対照群に投与する。対照群への溶媒の投与量は、被検群へ投与した被検物質溶液と同量とする。被検群、対照群の試験動物は、ラット、マウス、ハムスター、モルモット等の齧歯類である。
【0028】
各群への投与期間は、1〜90日程度とする。より迅速に試験する観点から、好ましくは1〜28日、より好ましくは1〜14日である。投与期間中は、1日1〜数回(好ましくは1日1回)被検物質溶液又は溶媒を反復して投与することが望ましい。
【0029】
被検物質溶液又は溶媒の試験動物への投与方法は特に制限されず、経口投与、腹腔内投与、静脈内投与等の汎用的な方法を使用できる。
【0030】
投与期間の終了後、直ちに被検群と対照群の試験動物から組織を採取する。試験動物の組織からmRNAを公知の方法により抽出、精製した後、mRNAの発現量の測定を行う。
【0031】
mRNAの発現量を測定するために採取する組織としては、肝臓、腸、肺、腎臓、胃、脾臓、脳、血液等がある。
【0032】
mRNAの発現量の測定方法としては、mRNAと相補的な配列を有するcDNA又はDNAが固定してあるDNAマイクロアレイやマイクロプレートにmRNAから調製した蛍光標識化cDNA又はcRNAを結合させる方法、ノーザンブロッティング、定量的RT−PCR、RNaseプロテクションアッセイ等の公知の方法が使用できる。
【0033】
DNAマイクロアレイを用いてmRNAの発現量の測定を行う場合、アレイには、Gene Chip(商品名、アフィメトリクス社製)、Rat Oligo Microarray Kit(商品名、アジレント社製)等の市販品を利用することが可能である。
【0034】
発現量を測定するmRNAは、下記(A)〜(C)の遺伝子から発現しているmRNAである。
(A)配列番号1〜5に示す塩基配列を含む遺伝子
(B)配列番号6〜8に示す塩基配列を含む遺伝子
(C)配列番号9〜32に示す塩基配列を含む遺伝子
本発明においては、上記(A)〜(C)からそれぞれ1以上の遺伝子を選択し、選択した遺伝子から発現しているmRNAの発現量を測定する。(A)〜(C)の各群から選択する遺伝子数は、各群に属する遺伝子数を上限とする1以上の任意の数である。(A)〜(C)の各群からそれぞれ選択する遺伝子数は、同一であってもよいし、異なっていてもよい。発がん性の予測の精度を高く維持しつつ操作を簡略化する観点から、(A)〜(C)から選択する遺伝子数はそれぞれ1〜3程度とすることが好ましく、1又は2とすることがより好ましく、1とすることが最も好ましい。
【0035】
被検群と対照群の各群について、選択した遺伝子から発現しているmRNAの発現量を測定する。その後、被検群と対照群との間で、測定したmRNAの発現量の比較を行う。測定したmRNAの発現量が以下の2つの条件(1)(2)のいずれも満たしている場合に、被検物質に発がん性有りと決定する。
(1)mRNAの発現量を測定した遺伝子のうち少なくともいずれか1つから発現しているmRNAの発現量が、被検群と対照群との間で有意差があること。
(2)(1)でmRNAの発現量に有意差が見られた遺伝子のうち、少なくともいずれか1つの遺伝子の被検群におけるmRNAの発現量が、対照群におけるmRNAの発現量に対し、当該遺伝子毎に定められる方向に増加又は減少していること。
【0036】
被検群と対照群の間でmRNAの発現量に有意差があるかどうかの判断は、有意差検定により行う。有意差検定は、t検定、U検定、F検定、Dunnet法、Tukey法、Kruskal-Wallis検定、Wilcoxon検定、Steel-Dwass法等の公知の検定方法を採用することが可能である。
【0037】
当該遺伝子毎に定められる方向とは、齧歯類に発がん物質を投与したときに各遺伝子から発現しているmRNAの発現量が増加と減少のいずれに変動するかを示す方向である。具体的には下記表1に示す増加又は減少の方向である。
【0038】
【表1】

【0039】
本発明者は、多数の発がん物質をそれぞれ齧歯類に投与したときに得られる遺伝子発現パターンは、その類似性により、3つのパターンに分類されることを知得している。3つのパターンに分類される発がん物質のグループは、以下のとおりである。
(グループ1)
2,4-ジアミノトルエン、キノリン、ジエチルニトロサミン、2-ニトロプロパン、N-ニトロソモルホリン、フラン、N-ニトロソジメチルアミン、N-ニトロソピペリジン、2-アセチルアミノフルオレン、2-アミノ-3,8-ジメチルイミダゾ[4,5-f]キノキサリン、メチルカルバメート、チオアセトアミド、ウレタン、アセトアミド、メタピリレン塩酸塩、3'-メチル-4-ジメチルアミノアゾベンゼン、1,4-ジオキサン
(グループ2)
サフロール、クロフィブレート、ジ(2-エチルヘキシル)フタレート、ヘキサクロロベンゼン、α-ヘキサクロロシクロヘキサン、D,L-エチオニン、クロレンド酸、2-アミノ-1-メチル-6-フェニルイミダゾ[4,5-b]-ピリジン、7,12-ジメチルベンズ[a]アントラセン、3-メチルコラントレン、4-ニトロキノリン-1-オキサイド、N-エチル-N-ニトロソウレア、ベンゾ[a]ピレン、4-ジメチルアミノアゾベンゼン、アルドリン、アジピン酸ジ(2-エチルヘキシル)、トリクロロエチレン、ブチル化ヒドロキシアニソール、D-リモネン、テトラクロロエチレン、1,4-ジクロロベンゼン、フェニトインナトリウム塩、トリクロロ酢酸
(グループ3)
エチニルエストラジオール、クロロホルム、ベンズ[a]アントラセン、ペンタクロロエタン、ジエチルスチルベストロール、フェノバルビタール
【0040】
上述した(A)の遺伝子はグループ1の発がん物質を、(B)の遺伝子はグループ2の発がん物質を、(C)の遺伝子はグループ3の発がん物質をそれぞれ齧歯類に投与したときに、mRNAの発現量が表1に記載する方向に有意に増加又は減少する遺伝子である。(A)〜(C)の遺伝子は、他のグループの発がん物質や、非発がん物質の投与によっては、mRNAの発現量は有意に増減しない。従って、(A)〜(C)からそれぞれ選択した遺伝子のうち、いずれかから発現しているmRNAの発現量が表1に示す方向に有意に増加又は減少したときには被検物質は発がん性有りと判定され、かかる遺伝子が1つもない場合には被検物質は発がん性無しと決定される。
【0041】
上記(A)〜(C)の遺伝子のうち、特に予測精度が高い組み合わせは、以下に示す配列番号の塩基配列を有する遺伝子から選択される組み合わせである。
【0042】
(A)配列番号1〜4
(B)配列番号6,7
(C)配列番号9、10、14、15、17、21、22、30、31、32
【0043】
上述した遺伝子から選択される組み合わせの中でも、以下に示す組み合わせがより好ましい。
・(A)配列番号1、(B)配列番号7、(C)配列番号10
・(A)配列番号3、(B)配列番号7、(C)配列番号10
・(A)配列番号4、(B)配列番号7、(C)配列番号10
・(A)配列番号2、(B)配列番号7、(C)配列番号9
・(A)配列番号2、(B)配列番号7、(C)配列番号10
・(A)配列番号2、(B)配列番号7、(C)配列番号14
・(A)配列番号2、(B)配列番号7、(C)配列番号15
・(A)配列番号2、(B)配列番号7、(C)配列番号17
・(A)配列番号2、(B)配列番号7、(C)配列番号21
・(A)配列番号2、(B)配列番号7、(C)配列番号22
・(A)配列番号2、(B)配列番号7、(C)配列番号30
・(A)配列番号2、(B)配列番号7、(C)配列番号31
・(A)配列番号2、(B)配列番号7、(C)配列番号32
【0044】
更に、上述した組み合わせのうち、最も好ましい組み合わせは、(A)配列番号2、(B)配列番号7、(C)配列番号10に示す塩基配列を有する3つの遺伝子の組み合わせである。
【0045】
本発明の他の予測方法として、上述した(A)〜(C)の遺伝子に加えて、(D)の遺伝子として配列番号33に示す塩基配列を含む遺伝子について、発現しているmRNAの発現量を併せて測定する方法がある。
【0046】
(D)の遺伝子は、基本的にはグループ2の発がん物質を齧歯類に投与したときにmRNAの発現量が減少する遺伝子である。
【0047】
グループ2の発がん物質は、肝発がん物質とそれ以外の発がん物質との間でmRNAの発現量に有意差が見られる遺伝子が異なる傾向がある。上述した(B)の遺伝子は、肝発がん物質以外の発がん物質の投与によってはmRNAの発現量に有意差が生じない場合がある。そのため、(B)の遺伝子と(D)の遺伝子とを併せて用いることにより、グループ2の発がん物質の予測精度が向上する。従って、上述した(A)〜(C)の遺伝子と(D)の遺伝子とについてmRNAの発現量を測定することにより、グループ2のタイプの発がん物質を非発がん物質と誤って判断する場合が少なくなり、発がん性予測の精度がより高いものとなる。
【実施例】
【0048】
検討例1
表2〜6に示す発がん物質、非発がん物質を、表2〜6に示す溶媒に溶解して試験溶液を調製した。調製した試験溶液と、調製に使用した溶媒を、各群のラットに強制経口投与した。ラットは日本チャールス・リバー社から入手した5週令の雄性ラット(F344、SPF系統)を4匹/群に分けて使用した。媒体対照群への溶媒の投与量は、発がん物質投与群又は非発がん物質投与群に投与した試験溶液の容量と同量とした。試験溶液又は溶媒の投与は1日1回とし、28日間行った。投与開始から28日経過後にラットの肝臓から断片を切り出し、total RNAを抽出して精製した。自家製のオリゴDNAマイクロアレイ(2007/05/16版UniGeneデータベースに基づくUniGene ID数:6,689、1プローブあたりの遺伝子長さ:60mer)を用いてtotal RNAに含まれる各mRNA量を測定した。
【0049】
使用した発がん物質、非発がん物質の物質番号、試験溶液の調製に使用した溶媒、ラットへの投与量を表2〜6に示す。
【0050】
【表2】

【0051】
【表3】

【0052】
【表4】

【0053】
【表5】

【0054】
【表6】

【0055】
各化学物質投与群と媒体対照群との間でmRNAの発現量を比較し、(A)〜(D)に記載する条件を満たす遺伝子をそれぞれ選定した。
【0056】
(A)表7に示すグループ1の発がん物質(17物質)のうちの14物質以上について有意に発現量が変動し、かつ非発がん物質(26物質)のうち有意に発現量が変動した物質数が8以下である遺伝子
(B)表7に示すグループ2の発がん物質(23物質)のうちの13物質以上について有意に発現量が変動し、かつ非発がん物質(26物質)のうち有意に発現量が変動した物質数が8以下である遺伝子
(C)表7に示すグループ3の発がん物質(6物質)のうちの5物質以上について有意に発現量が変動し、かつ非発がん物質(26物質)のうち有意に発現量が変動した物質数が8以下である遺伝子
(D)表7に示すグループ2の発がん物質のうち、(B)の遺伝子では発現量が変動していない発がん物質で有意に発現量が変動している遺伝子
【0057】
【表7】

【0058】
発がん物質投与群又は非発がん物質投与群と、媒体対照群との間でmRNAの発現量に有意差があるかどうかの判断は、以下により行った。発がん物質投与群又は非発がん物質投与群におけるmRNAの発現量が、対照群において発現している対応するmRNAの発現量に対して1.5倍以上又は1.5分の1以下である場合に有意とした。但し、有意かどうかの判断は発現量の増減の方向を考慮して行った。他の発がん物質を投与した場合と比較して増減の方向が異なるものについては、その変動は有意ではないと判断した。
【0059】
上記の方法で選定した遺伝子の遺伝子No.、その遺伝子から発現しているmRNAの検出に使用したプローブの塩基配列を示す配列番号、遺伝子のUnigene No.、Unigeneデータベースに記載された遺伝子の塩基配列を示す配列番号、発がん物質を投与したときの発現量の変動方向、発現量が変動した物質数を表8に示す。
【0060】
【表8】

【0061】
以下の表9〜14は、(A)から(D)の条件で選定された各遺伝子が化学物質を投与したときに示す挙動を表したものである。「+」の場合は、化学物質の投与により媒体対照群との間にmRNAの発現量に有意差が認められ、かつ当該遺伝子に定められる方向にmRNAの発現量が変動したことを示している。「−」の場合は、媒体対照群との間にmRNAの発現量に有意差が認められなかったか、変動の方向が定められた方向でなかったことを示している。
【0062】
【表9】

【0063】
【表10】

【0064】
【表11】

【0065】
【表12】

【0066】
【表13】

【0067】
【表14】

【0068】
実施例1
検討例1で選定した(A)〜(C)の遺伝子を使用して、遺伝子の選定に使用した化学物質(トレーニング物質)と、遺伝子の選定に使用しなかった化学物質(検証物質)とについて、発がん性の予測を行った。予測は以下の手順で行った。
【0069】
(A)〜(C)からそれぞれ1の遺伝子を選定し、選定した遺伝子について、mRNAの発現量を化学物質投与群と媒体対照群の間で比較した。いずれか1の遺伝子についてのmRNAの発現量が、媒体対照群に比較して有意に増加又は減少し、かつ増加又は減少の方向が表1に記載する方向である場合、その化学物質は発がん性有りと判断し、それ以外の場合は発がん性無しと判断した。
【0070】
なお、化学物質投与群のmRNAの発現量が媒体対照群に対して有意に増減しているかどうかは、対照群のmRNAの発現量に対して1.5倍以上又は1.5分の1以下であるか否かで判断した。
【0071】
全ての遺伝子の組み合わせについて調べるのは難しいが、以下の結果を得た。最も予測率が高かった遺伝子の組み合わせは、4846/2203/813であった。その他の遺伝子を組み合わせた場合についても、検証物質で60%以上の予測率であった。
【0072】
予測に使用した遺伝子No.と、正解した物質数、正解した物質数から算出した予測率を表15、16に示す。
【0073】
【表15】

【0074】
【表16】

【0075】
実施例2
表7に示す(A)〜(C)からそれぞれ選択した1の遺伝子と、(D)の遺伝子を使用して、実施例1と同様に化学物質の発がん性を予測した。全ての組み合わせについて調べるのは難しいが、以下の結果を得た。検証物質で60%以上の予測率であった。予測に使用した遺伝子と、正解した物質数、正解した物質数から算出した予測率を表17、18に示す。
【0076】
【表17】

【0077】
【表18】

【0078】
比較例1
実施例1において最も予測率が高かった遺伝子の組み合わせのうち、1種を検討例1で選択されなかった遺伝子に代えて、トレーニング物質、検証物質の発がん性を予測した。結果を表19に示す。なお、本比較例において実施例1の遺伝子に代えて用いた遺伝子は、検討例1で選択されなかった遺伝子の中から無作為に抽出した遺伝子である。
【0079】
【表19】

【0080】
表15、16より、実施例1においては、グループ1の発がん物質の予測率は80%以上であることがわかる。これに対し、No.4846の遺伝子を他の遺伝子に変更した比較例1では、表19から明らかなように、グループ1の発がん物質の予測率は29.4%であった。同様に、No.2203の遺伝子を他の遺伝子に変更した場合にはグループ2の発がん物質の予測率が、No.813を他の遺伝子に変更した場合にはグループ3の発がん物質の予測率が大きく低下した。
【0081】
また、実施例1では、発がん性検証物質の予測率が60〜100%であったのに対し、比較例1では30〜50%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検物質を溶媒に溶解又は分散させて調製した被検物質溶液を被検群に、前記被検物質溶液の調製に使用した溶媒を対照群に投与する工程と、
被検物質溶液又は溶媒の各群への投与期間経過後に各群からmRNAを採取し、下記(A)〜(C)
(A)配列番号1〜5に示す塩基配列を含む遺伝子
(B)配列番号6〜8に示す塩基配列を含む遺伝子
(C)配列番号9〜32に示す塩基配列を含む遺伝子
からそれぞれ選択される1以上の遺伝子から発現されるmRNAの発現量を測定する工程と、
被検群と対照群の間で前記選択された遺伝子から発現しているmRNAの発現量に有意差が認められるかどうかを有意差検定により判定する工程と、
被検群と対照群の間で前記選択された遺伝子のいずれか1の遺伝子から発現しているmRNAの発現量に有意差が認められ、かつ対照群に対する被検群の当該mRNAの発現量の増加又は減少の方向が当該mRNAを発現させる遺伝子毎に予め定められる方向に増加又は減少しているときに被検物質に発がん性有りと決定する工程と、
を有する被検物質の齧歯類発がん性予測方法。
【請求項2】
被検物質を溶媒に溶解又は分散させて調製した被検物質溶液を被検群に、前記被検物質溶液の調製に使用した溶媒を対照群に投与する工程と、
被検物質溶液又は溶媒の各群への投与期間経過後に各群からmRNAを採取し、下記(A)〜(C)
(A)配列番号1〜5に示す塩基配列を含む遺伝子
(B)配列番号6〜8に示す塩基配列を含む遺伝子
(C)配列番号9〜32に示す塩基配列を含む遺伝子
からそれぞれ選択される1以上の遺伝子から発現されるmRNAの発現量を測定する工程と、
被検群と対照群の間で前記選択された遺伝子から発現しているmRNAの発現量に有意差が認められるかどうかを有意差検定により判定する工程と、
被検群と対照群の間で前記選択された遺伝子のいずれか1の遺伝子から発現しているmRNAの発現量に有意差が認められ、かつ対照群に対する被検群の当該mRNAの発現量の増加又は減少の方向が当該mRNAを発現させる遺伝子毎に予め定められる方向に増加又は減少しているときに被検物質に発がん性有りと決定し、前記選択された遺伝子のいずれについても被検群と対照群の間でmRNAの発現量に有意差が認められないとき、又は前記選択された遺伝子のいずれかに有意差が認められる場合であっても対照群に対する被検群の当該遺伝子から発現しているmRNAの発現量の増加又は減少の方向が当該遺伝子毎に予め定められる方向でないときに発がん性無しと決定する工程と、
を有する被検物質の齧歯類発がん性予測方法。
【請求項3】
被検物質溶液の投与期間が1〜90日間である請求項1又は2に記載の被検物質の齧歯類発がん性予測方法。
【請求項4】
被検群及び対照群の試験動物が、ラット、マウス、ハムスター、又はモルモットである請求項1又は2に記載の被検物質の齧歯類発がん性予測方法。
【請求項5】
(A)から選ばれる遺伝子が配列番号2に示す塩基配列を含む遺伝子であり、(B)から選ばれる遺伝子が配列番号7に示す塩基配列を含む遺伝子であり、(C)から選ばれる遺伝子が配列番号10に示す塩基配列を含む遺伝子である請求項1又は2に記載の被検物質の齧歯類発がん性予測方法。
【請求項6】
被検物質を溶媒に溶解又は分散させて調製した被検物質溶液を被検群に、前記被検物質溶液の調製に使用した溶媒を対照群に投与する工程と、
被検物質溶液又は溶媒の各群への投与期間経過後に各群からmRNAを採取し、下記(A)〜(C)
(A)配列番号1〜5に示す塩基配列を含む遺伝子
(B)配列番号6〜8に示す塩基配列を含む遺伝子
(C)配列番号9〜32に示す塩基配列を含む遺伝子
からそれぞれ選択される1以上の遺伝子と、下記(D)の遺伝子
(D)配列番号33に示す塩基配列を含む遺伝子
と、から発現されるmRNAの発現量を測定する工程と、
被検群と対照群の間で前記遺伝子から発現しているmRNAの発現量に有意差が認められるかどうかを有意差検定により判定する工程と、
被検群と対照群の間で前記遺伝子のいずれか1から発現しているmRNAの発現量に有意差が認められ、かつ対照群に対する被検群の当該mRNAの発現量の増加又は減少の方向が当該mRNAを発現させる遺伝子毎に予め定められる方向に増加又は減少しているときに被検物質に発がん性有りと決定する工程と、
を有する被検物質の齧歯類発がん性予測方法。
【請求項7】
被検物質溶液の投与期間が1〜90日間である請求項6に記載の被検物質の齧歯類発がん性予測方法。
【請求項8】
(A)から選ばれる遺伝子が配列番号2に示す塩基配列を含む遺伝子であり、(B)から選ばれる遺伝子が配列番号7に示す塩基配列を含む遺伝子であり、(C)から選ばれる遺伝子が配列番号10に示す塩基配列を含む遺伝子である請求項6に記載の被検物質の齧歯類発がん性予測方法。

【公開番号】特開2009−159852(P2009−159852A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−340406(P2007−340406)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(000173566)財団法人化学物質評価研究機構 (14)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【出願人】(501054746)株式会社三菱化学安全科学研究所 (3)
【Fターム(参考)】