被標識物質の捕捉・搬送装置並びに同定・計数方法および計数・選別方法
【課題】磁気標識が付着した生物学的分子などの被標識物質を効果的に捕捉し、誘導搬送することができ、更にはその被標識物質の同定、計数および選別を効率よく行うことができる装置および方法を提供する。
【解決手段】ターゲット分子2に付着した磁気標識4は、当初MRセンサ12(d)の磁界によって右側のエッジ引き付けられ、且つそれ自体が磁化される((A))。外部磁界100が印加されると、磁気標識4は再磁化され、MRセンサ12(d)の左側のエッジに移動する((B))。続いて、外部磁界100がオフになると、磁気標識4はMRセンサ12(d)から解放され、MRセンサ12(c)により捕獲される((C))。再び外部磁界100が印加されることにより、磁気標識4はMRセンサ12(c)の左側のエッジに移動する((D))。このような捕獲・解放過程の繰り返しにより磁気標識4がアレイに沿って搬送される。
【解決手段】ターゲット分子2に付着した磁気標識4は、当初MRセンサ12(d)の磁界によって右側のエッジ引き付けられ、且つそれ自体が磁化される((A))。外部磁界100が印加されると、磁気標識4は再磁化され、MRセンサ12(d)の左側のエッジに移動する((B))。続いて、外部磁界100がオフになると、磁気標識4はMRセンサ12(d)から解放され、MRセンサ12(c)により捕獲される((C))。再び外部磁界100が印加されることにより、磁気標識4はMRセンサ12(c)の左側のエッジに移動する((D))。このような捕獲・解放過程の繰り返しにより磁気標識4がアレイに沿って搬送される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば小さな磁気粒子が磁気標識として付着した生物学的分子または細胞など(以下、分子等とも称する)の被標識物質を捕捉し、誘導搬送するための捕捉・搬送装置、並びに被標識物質を同定し、計数するための同定・計数方法および被標識物質を計数し選別するための計数・選別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医療業務や生物学的業務の分野においては、磁気標識に磁力を与えて液体状の生体液から生物学的分子等を物理的に抽出する技術が幅広く採用されている。磁気標識は外部磁界により磁化可能な磁性材料の微小粒子であり、分子等に付着される。そのような磁性材料の微小粒子は典型的には超常磁性であり、自発的なドメイン形成を破壊するほど熱運動が大きく、そのためそれらを外部磁界下に曝すことにより磁化する必要がある。
【0003】
よって、ターゲット分子等の検出は、一般的には磁気標識を磁化して磁力を与え、そして磁気標識を液状試料から付着した分子等と共に抽出する、そのような外部磁界を加えることでなされる。その後、例えば抽出された細胞または分子に対し事前に同様に付着した蛍光または発光化合物(染料)から放出される光信号を順次読み取ることにより、ターゲット分子等の存在を同定する。しかしながら、このような従来の抽出技術では、ターゲット分子は結集したクラスターまたは液滴として検出され、未結合の磁気標識または溶液による信号の散乱が非常に高くなり、単一分子レベルでの検出が困難である。
【0004】
図12(A)〜(C)は、そのような磁気的に標識された分子を磁気的に抽出し、光学的に検出する従来技術の手法を模式的に表したものである。図12(A)はターゲット分子2を含む生体液1を示したもので、この生体液1にはターゲット分子2と区別すべき検出対象外の非ターゲット分子3も含まれている。図12(B)はターゲット分子2に磁気標識4および蛍光染料5が付着した状態を示している。図12(C)は磁石7の極間のチャネル8を生体液1が通過する様子を表している。実線の矢印は磁石の磁化方向を表すものである。磁気標識4は磁石7による外部磁界と磁気標識4内の誘導磁気との相互作用によってチャネル8の両側に引き付けられ、この磁気標識4と共にターゲット分子2が両側に引き寄せられる。図12(D)は磁気標識されたターゲット分子2に励起光線9を照射し、これにより得られた励起蛍光10を光学検出系11により検出することによってターゲット分子2が順次同定される状態を表す。
【0005】
M.A. ReeveおよびM.A.M. Gijs は、そのような磁気的に引き付け可能な粒子を用いて高分子を分離する方法を開示している(特許文献1,非特許文献1)。また、D.R. Baselt 等(非特許文献2)、M.M. Miller 等(非特許文献3)および S.X. Wang(非特許文献4)は、磁気抵抗(MR)センサを用いることで単一分子レベルの精度で磁気標識された生物学的分子またはウイルスを検出する技術を開示している。
【0006】
図13はそのような従来の検出システムの動作原理を模式的に表したものである。このシステムは、複数のMRセンサ12のアレイを規則的に配置した構造を有する。各MRセンサ12は互いに直交する導電線16,160の交点に形成されている。導電線16,160はともに水平に配置されており、鉛直方向において互いに分離されている。個々のMRセンサ12は、非磁性層15により分離された2つの水平な磁性層13,14を備える。このMRセンサ12のアレイは、蒸着法により磁性層14,非磁性層15および磁性層13をこの順に積層したのち、パターニングすることによって形成される。
【0007】
MRセンサ12の磁性層13,14は、アレイパターニングの後、またはそれに先立って磁化されるが、一方の磁性層14は磁化方向は空間位置において固定されてピンド層、他方の磁性層13はその磁化の向きが自由に変わるフリー層となる。これらピンド層およびフリー層の磁化方向は、各層に何らかの磁気異方性を付与することにより決定される。磁気異方性としては、層蒸着過程に起因する結晶異方性またはパターニングに起因する形状異方性が挙げられる。
【0008】
この検出システムでは、2つの導電線160,16に流れる電流を適切に選択することによって、フリー層(磁性層13)の磁化方向をピンド層(磁性層14)のそれに対して平行または反平行となるように切り替える。磁気モーメントが平行である場合には低抵抗、モーメントが反平行である場合には高抵抗となり、アレイ中の任意の素子の抵抗値を測定することにより、その磁化方向が直ちに示される。基本的な考え方としては、次に、捕捉されたターゲット分子2の磁気標識4を磁化し、その磁気標識4を捕捉したMRセンサ12のフリー層の磁化方向を切り替えるようにする。その切り替えは抵抗変化として検出され、捕捉された粒子の指標となる。
【0009】
MRセンサ12のアレイは、典型的には、検出される分子等に特異的な化学結合サイトを有する基板表面(図示しない)の下に形成される。図13では図面を簡潔に且つ見やすくするために、便宜上、捕捉されたターゲット分子2およびそれに付着した磁気標識4は、導電線160の内の一つに結合しているものとして図示されている。実際には、導電線16,160は基板の下に設けられ、ターゲット分子2は基板表面上のサイトに結合する。ターゲット分子2がサイトの内の一つに結合すると、その磁気標識4は、次にセンサアレイの結合サイト下の部分を覆う固定位置に位置する。この状態で、基板表面に未結合の磁気標識を、典型的にはその表面を洗い流すことで除去した後、残余の磁気標識4に対して基板面に垂直な外部磁界が与えられる。これにより、磁気標識4は、下方に位置するMRセンサ内を通り、且つセンサの磁性層13,14に平行な誘起磁界18を発生する。上述のように磁気粒子はごく小さいものであるため、それらは超常磁性、すなわち熱エネルギーが安定したドメインを形成するエネルギーを上回るので、自発的な磁化は存在しない。そのため、外部磁界を与えることで粒子が磁化し、固有の磁界を発生するようにしなくてはならない。磁気標識4を基板表面に付着させることにより、磁気標識4をMRセンサに近接させることができ、それらが発生する微小な磁気信号を効率よく検出することができる。
【0010】
しかしながら、従来のこの方法では、ターゲット分子2を基板表面に捕捉するプロセス、および表面サイトにその分子が付着していない磁気標識を除去するプロセスが必要となる。分子に対する磁気標識の結合と基板表面に対する分子の結合との2つの別個の準備過程が必要であるため、上記方法による処理は準備段階において理論上は従来の光学的方法よりも遅くなる。光学的同定法では、ターゲット分子に対する磁気標識の付着と染料の付着との両方を行うには一回の準備で十分であるからである。また、MRセンサ間では、MR信号が大きく変動するおそれがあるので、許容精度を達成し、検出の再現性を確保するためには、磁気標識を所定の大きさよりも大きくする必要がある。
【0011】
ここで、従来技術における研究から、図13に示したセンサアレイは微小な磁気粒子を検出する以外に、むしろそれらを移動させるために用いることもできることが判明した。その従来技術としては、E. Mirowski 等による非特許文献5が挙げられる。また、J. Moreland 等は、単一の磁気粒子の物理的操作が磁気多層薄膜構造のパターンアレイによって達成可能であることを教示している(特許文献2)。磁気粒子は、磁気パターン(薄膜磁気構造)によって捕捉可能であり、その後に複数の磁性層の内の一つの磁化を異なる方向に切り替えることで、捕捉した磁気粒子をその磁気パターンから解放することができる。
【0012】
図14(A),(B)は、単一の磁気標識されたターゲット粒子2とMRセンサ12とを取り出して、その過程をより詳細に表したものである。MRセンサ12は、CoFe等の磁性材料から形成されたフリー層13と、AlOx等の誘電材料から形成された非磁性中間層15と、フリー層13の磁性材料と同様の材料により形成されたピンド層14と、を含む。図14(A)において、磁気標識4が付着したターゲット分子2はMRセンサ12に隣接している。導電線16にスイッチング電流19(Iswitch)が流れると、フリー層13の磁気モーメント50(Mfree)が回転してピンド層14の磁気モーメント6(Mpinned)と平行になる。磁気モーメント6,50が平行になると、MRセンサ12の側方エッジに磁荷が効果的に発生し、これにより磁気標識4に対し磁化9(Mlabel )が引き起こされる。この誘導過程によって、MRセンサ12の側方エッジと磁化された磁気標識4との間にネット磁気引力が発生し、その結果磁気標識4がMRセンサ12に引き寄せられ捕捉される。
【0013】
導電線16に流れるスイッチング電流19の方向が逆方向になると、図14(B)に示したように、フリー層13の磁気モーメント50の方向が逆方向に回転し、ピンド層14の磁気モーメント6とは反平行状態となる。これによりMRセンサ12の側方エッジの磁荷は零となって磁気標識4を解放すると共にその誘導磁化を実質的に消滅させる。
【0014】
【非特許文献1】「オンチップを扱う磁気ビーズ:分析応用の新展開」、Microfluid Nanofluid、22頁〜40頁、2004年("A Magnetic bead handling on-chip: new opportunities for analytical applications," Microfluid Nanofluid. Pp 22-40, 2004 )
【非特許文献2】「磁気抵抗技術に基づくバイオセンサ」、Biosens. Bioelectron、第13巻、731頁〜739頁、1998年10月("A biosensor based on magnetoresistance technology," Biosens. Bioelectron., vol. 13, pp. 731-739, Oct. 1998 )
【非特許文献3】「磁気マイクロビーズおよび磁気電子検出を用いたDNAアレイセンサ」、J. Magn. Magn. Mater. 、第225巻、138頁〜144頁、2001年4月("A DNA array sensor utilizing magnetic microbeads and magnetoelectronic detection," J. Magn. Magn. Mater., vol. 225, pp. 138-144, Apr. 2001 )
【非特許文献4】「高感度診断のための磁気マイクロアレイの試み」、J. Magn. Magn. Mater. 、第293巻、731頁〜736頁、2005年("Towards a magnetic microarray for sensitive diagnostics," J. Magn. Magn. Mater., vol. 293, pp. 731-736, 2005 )
【非特許文献5】「磁気スピンバルブトラップのパターンアレイによる磁気粒子の操作」、J. Magn. Magn. Mat. 、第311巻、401頁〜404巻、2007年("Manipulation of magnetic particles by patterned arrays of magnetic spin-valve traps," J. Magn. Magn. Mat., vol. 311, pp 401-404, 2007)
【特許文献1】米国特許第5,523,231号
【特許文献2】米国特許出願公開第2005/0170418号
【特許文献3】米国特許第5,691,208号
【特許文献4】米国特許第6,294,342号
【特許文献5】米国特許第7,056,657号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
どのような検出方法が用いられていようと、単一分子レベルで迅速な検出を行うと共に分子の計数を可能とするためには、生物学的な準備工程は可能な限り単純であることが望ましい。そのため例えば図12に示した従来の光学的方法の準備過程は一段階であるため、図13に示したMR検定方法と比較して有利とされている。
【0016】
単一分子の計数を実現するためには、分子等を操作し、且つ個別に検出することにより、十分な物理的分離状態を発生させ、個々の分子の空間あるいは時間における別々の反応を確保する必要がある。これは基本的な要件である。しかしながら、図12に示した従来の集合的な磁気標識抽出・光学検出手法では、たとえ最先端のフローサイトメトリあるいはマイクロ流体系を用いたとしても、個々の磁気標識または分子を分離することはできない。一方、図13に示したMRセンサを用いた検出手法は、捕捉した個々の分子間の制御可能な空間分離をもたらすものであり、単一分子の検出・計数という目標を達成するためにはこちらの手法が好ましい。
【0017】
ちなみに、特許文献2は、スピンバルブ素子を用いて、磁気的な目印が付けられた粒子を捕獲、保持、操作および解放する技術を開示しているが、その粒子を搬送することの記載はない。
【0018】
特許文献1には、磁気粒子(ビーズ)を用いた分子の磁気的抽出手法が開示されている。また、Miltenyiらによる特許文献3には、流体から磁気標識された細胞を分離するために用いられる格子形式の磁性球が開示されている。Rohrらによる特許文献4は、磁気的に標識された粒子を結合する検定方法を開示している。Terstappenらによる特許文献5は、磁気的に標識された細胞の捕獲および解放する技術を開示しているが、搬送に関する開示はなされていない。
【0019】
上述したように、光学的検出手法およびMRセンサ検出手法を含む従来技術の各方法は一長一短で、個々の磁気粒子の存在を確実に検出するために有効な手法は提供されていなかった。
【0020】
本発明は上記課題に鑑みてなされたもので、その主目的は、かかる手法を提供することにある。
【0021】
すなわち、本発明の第1の目的は、磁気標識として生物学的分子または細胞等の被標識物質に付着した微小な磁気粒子の存在を検出することができる装置および方法を提供することにある。
【0022】
本発明の第2の目的は、単一の磁気標識された分子等を検出するために十分な感度を有する装置および方法を提供することにある。
【0023】
本発明の第3の目的は、そのような磁気標識された分子等が移動している場合において、その存在を検出できる装置および方法を提供することにある。
【0024】
本発明の第4の目的は、上述の磁気標識された分子等が、一つまたは複数の光学的に励起可能な染料によってさらに標識され、これにより磁気標識の付着と染料の付着との単一の準備過程を有する場合において、そのような分子等を検出することのできる装置および方法を提供することにある。
【0025】
本発明の第5の目的は、磁気標識された分子等を分離し単独で検出可能とすべく、溶液に含まれる分子等を搬送し誘導することのできる装置および方法を提供することにある。
【0026】
本発明の第6の目的は、1または複数の光学的に励起可能な染料によって発せられた放射光を用いて、磁気標識された分子等を分離し単独で検出可能とすべく、溶液に含まれる分子等を搬送し誘導することのできる装置および方法を提供することにある。
【0027】
本発明の第7の目的は、加えて、溶液から分子等の抽出を可能とし、光回折による悪影響なしにその光学的な同定を可能とする方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0028】
上記の本発明の目的は、近傍の導電線によって作動可能な、多層磁気デバイスの1または複数のアレイ、あるいは、互いに平行な複数の単層磁気ストリップ(幅よりも長さを有する矩形状の磁性層)からなる磁気ストライプを用いることによって達成することができる。これら磁気ストリップまたはデバイスは、磁気的および光学的に標識された生物学的分子等の被標識物質を、付着した染料の光学的励起とその染料により発生した励起放射の検出とによってそれらを個別に計数可能な位置まで磁気的に誘導し搬送する。これらのデバイスのいくつかは、図13に示したアレイにおいてセンサとして用いられるデバイスと実質的に同一であるが、以下に詳細に説明するように、それらは、磁化した磁気標識およびそれに付着した細胞あるいは分子を検出するものではなく、所定の方向に移動(搬送)させるよう動作するものである。
【0029】
[A.磁気的に標識された粒子の搬送と誘導]
パターン薄膜磁気構造により磁気標識を捕獲し解放する、この方法は、磁気標識をそれが付着した生物学的分子等と共に光学的検出のための目的位置に搬送し、必要に応じてその磁気標識された分子等を生体液から抽出するために用いられる。一旦、磁気標識された分子が光学的検出装置の位置に達すると、それらを個別に検出し計数することができる。
【0030】
上述のように被標識物質としての分子等は、それらの移動をもたらす磁気標識と、光学的検出を可能とする染料との両方を備えていなくてはならない。これらを備える方法は一段階準備過程として行うことができ、これにより生物学的な準備作業の複雑さを低減させることができる。また、光学的な検出のために染料を用いることによって、分子が含まれる溶液に起因して生ずる回折効果と強い背景雑音を排除することができ、分子の検出中での信号対雑音比(S/N比)がより良くなる。分子を個別に搬送することにより、単一分子を計数することができる。その検出手法としては、成熟した光学技術を用いるものであり、全過程を容易に実施することができる。以下、磁気標識の所望の誘導と搬送とを達成するために、デバイスのアレイと代替的な磁気ストリップのアレイとを如何にして用いるかを説明する。
【0031】
図1(A),(B)は、本発明の被標識物質捕捉・搬送装置に用いるデバイス、例えばMRセンサ12(a〜e)の列を模式的に表したものである。各デバイスは図11(A),(B)に示した三層構造のMRセンサ12と同じものである。
【0032】
MRセンサ12(a〜e)の各ピンド層14の底部は導電線16に接している。導電線16は紙面に対して垂直に延在し、その紙面側に向かう電流は×印付きの円、紙面側から外に向かう電流は点付きの円によりそれぞれ表されている。MRセンサ12の表面は保護膜17により覆われている。ここでは、磁気標識4と染料分子5が付着した生物学的分子2(ターゲット分子)とは、MRセンサ12(d)のフリー層13とピンド層14との両方の平行な磁気モーメント(矢印)による磁界によって、MRセンサ12(d)とMRセンサ12(e)との間の位置に捕獲されている。生物学的分子2は染料5が付着することにより光学的に標識されている。他のすべてのMRセンサ12(a〜c)のフリー層およびピンド層は、反平行の磁化を有しており、これによってそれらの側方エッジはネット磁荷が零となっている。
【0033】
図1(A)に示した状態から、MRセンサ12(c)での導電線16に流れる電流の向きが切り替わることにより、MRセンサ12(c)のピンド層およびフリー層の各磁気モーメントが平行になると、磁気標識4により、図1(B)に示したように、生物学的分子2が新たな捕獲位置(MRセンサ12(c)の位置)に移動する。このとき以前に捕獲していたMRセンサ12(d)は、その下の導電線16の電流の向きが逆方向となることにより、その側方エッジの磁荷が零に設定され、その結果磁気標識4を解放する。これにより生物学的分子2はMRセンサ12(c)に対向する位置に移動する。このような過程を順次繰り返すことで、磁気標識した分子2を、そのMRセンサ12(a〜d)のアレイに沿って任意の方向に運ぶことができるものである。
【0034】
上述の搬送過程を実現するためには、磁気標識4が、現在捕獲しているMRセンサ12と隣接するMRセンサ12との両方からの磁界を感知可能であることが必要となる。よって、磁気標識4の寸法は、MRセンサ12の幅よりも大きいことが好ましく、MRセンサ12の層は厚いことが好ましい。MRセンサ12の幅と等しいかそれよりも小さい寸法を有する磁気標識、または薄い磁性層によって形成されたMRセンサでは、生物学的分子2を効果的に搬送することが困難である。
【0035】
磁気標識4に対しては外部磁界を印加することが好ましい。すなわち、磁気標識4が隣接するMRセンサの磁界を感知できない場合には、現在捕獲しているMRセンサから解放された際に正しく移動できないことになるので、外部磁界を用いて、磁気標識が搬送されるべき隣接するMRセンサに対向する現在の捕獲MRセンサのエッジへの、磁気標識の移動を支援するものである。
【0036】
図2(A)〜(D)は、そのような外部磁界(鉛直磁界)を印加することによって磁気標識が付された分子2等の搬送を支援する手法を模式的に表したものである。ここに、x,yおよびzの直交座標軸は磁界方向および動きの方向を特定する。まず、図2(A)において、磁気標識4は、当初MRセンサ12(d)(ピンド層およびフリー層の磁化方向が平行)の右側のエッジの磁界によって引き付けられ、且つ+z方向に沿う鉛直の磁化成分を有するMRセンサ12(d)のエッジの磁界によって、それ自体が磁化される(磁気標識4の矢印55)。
【0037】
図2(B)に示したように、−z方向に外部磁界100が印加されると、−zの磁化成分を有する磁気標識4が再磁化(矢印55)され、これにより磁気標識4は、より低い磁力を得るべくMRセンサ12(d)の左側のエッジに移動する。
【0038】
図2(C)はこの外部磁界100がオフにされた状態を表している。この状態では、MRセンサ12(c)の下方の導電線16に流れる電流によって、MRセンサ12(c)のフリー層の磁化方向はそのピンド層の磁化方向と平行になるように切り替えられる。同時に、MRセンサ12(d)の下方の導電線16に流れる電流がオフになり、MRセンサ12(d)のフリー層の磁化方向は元の状態に戻される。よって、MRセンサ12(d)は今度は磁化方向が反平行状態となり(ネット零磁界)、MRセンサ12(c)は磁化方向が平行となる。従って、磁気標識4はMRセンサ12(d)からは解放され、一方MRセンサ12(c)により捕獲される。また、磁気標識4の磁化55は、MRセンサ12(c)の磁界によって今度は+z方向の磁化成分を与えらる。ここで、磁気標識4の捕獲作用は、磁気標識4の磁力の平衡の観点、または磁気標識4およびMRセンサ12の系の極小静磁エネルギーの観点から理解することもできる。図2(D)では再び外部磁界100が印加され、磁気標識は再びアレイに沿って負のy方向(−y方向)に搬送される。
【0039】
この方法では、外部磁界100を印加することにより、磁気標識4を大型化する必要はなく、MRセンサ12の膜厚を厚くする必要がなくなる。また、印加される磁界の方向と、隣接するMRセンサ12の捕獲・解放過程のシーケンスとにより、搬送方向も容易に制御することができる。これにより、磁気標識4の捕獲および解放の信頼性も高くなる。
【0040】
以上はMRセンサ12として、フリー層およびピンド層を有する三層構造のものを用いて説明したが、これに限定されるものではなく、単一の磁性層構造を用いるようにしてもよい。
【0041】
図3(A)〜(D)は、そのような単層磁気構造とその構造のアレイの一例とを模式的に表したものである。図2(A)〜(D)の多層構造のMRセンサとは異なり、図3(A)〜(D)では、長い帯状の1つの磁性層13(磁気ストリップ)のみを用いる。ここでは、磁気ストリップが、その長さ方向(x軸方向)に沿って比較的強い磁気異方性を有しており、その長さ方向が、磁気標識4の搬送路に垂直であることを想定している。よって、磁気ストリップの磁化は、外部からの磁界の印加がない場合は、自然にx軸方向に沿っている。その結果、磁気標識4を引き付ける磁界を発生するy軸層のエッジの磁荷は存在しない。磁気標識4の捕捉は、磁性層13の下の導電線16に+x方向の電流が流れることで磁性層13に磁界を発生させ、その磁性層13を+y方向に磁化することによってのみ行う。磁性層13の強力な磁気異方性は、層形成の際にx軸方向に沿って強い結晶異方性を誘導させることで得られる。また、磁性層13の強力な磁気異方性は、x軸に沿った層の長さをy軸方向の幅よりもはるかに長くすることで、x軸に沿った強い形状異方性を発生させることによっても得ることができる。
【0042】
図3(A)〜(D)に示した手順による捕獲・解放過程は、磁気標識4の捕獲および解放が、上述の三層MRセンサ内の平行または逆平行の磁化方向によるものではなく、単一の磁性層13にてオン・オフされる電流場を用いることによる以外は、図2(A)〜(D)において説明した原理と同じであるので、その説明は省略する。その電流場は、導電線16に流れる電流によって発生する。なお、円で囲んだ×印は紙面側に向かう電流を示す。この手法の利点は、磁気および電気的な構造がより単純で、膜層のそれぞれにより発生する磁界の強度を電流振幅によって制御可能である点にある。
【0043】
図4(A)〜(D)は、図3(A)〜(D)に示した単一の磁気ストリップを用いた手法の変形例を模式的に表すものである。6つの磁性層13(a〜f)はy軸方向に沿う磁化容易軸(矢印)を付与する固有異方性を有する。隣接する磁性層13間の間隔は非常に狭くなっている。ネットの捕獲磁界が実質的にない「解放」状態では、図4(A)に示したように全ての層は同一の方向に沿って磁化されている。よって、ある磁性層13のエッジの磁荷からの磁界は、隣接する磁性層13のエッジの負の磁荷からの磁界によって相殺される。すなわち、その磁性層13間の有効磁界は零に近い。これにより分子2に付着した磁気標識4は誘導磁化を有さず、自由に移動可能となる。
【0044】
図4(B)は、捕獲中において、磁性層13(d)がその下の導電線16に流れる電流によって他の磁性層13に対し反対方向または逆平行に磁化されている様子を表している。よって、隣接する磁性層13(c)のエッジおよび磁性層13(d)のエッジの界面の磁荷(両方とも「負」)と、隣接する磁性層13(d)のエッジおよび磁性層13(e)のエッジの界面の磁荷(両方とも「正」)とは、破線の磁力線50で示すネット磁界を発生し、磁気標識4内に磁化55を誘導する。この変形例の利点は、図3(A)〜(D)のものとは異なり、現在の磁性層13の磁化方向にが切り替えられた際、その切り替わった磁化方向を維持するための電流発生磁界を必要としないことにある。また、捕獲状態中において、捕獲磁界は、図2(A)〜(D)のような1つの三層構造MRセンサや、図3(A)〜(D)のような一つの磁性層13によるものではなく、磁性層13(c)および磁性層13(e)と、磁性層13(e)および磁性層13(d)と、の2つの隣接する磁性層13のエッジの磁荷により発生する。よって、捕獲磁界の振幅と磁性層13からの勾配とを、上記の例と比較して高くすることができる。
【0045】
磁性層13のアレイに沿った磁気標識4の搬送は、直流磁界を印加することにより、図2(A)〜(D)および図3(A)〜(D)に示した例と同じ方法で行うことができる。但し、この構造においては、磁性層13同士が接近し且つエッジの磁界が高い、すなわち、隣接する磁性層13間のエッジの磁界が高いことから、磁気標識の搬送を簡素化することができる。図4(C)は、磁性層13(c)の磁化が磁性層13(d)の磁化と同一方向に切り替えられ、その結果、磁性層13(c)と磁性層13(d)との磁化方向の組み合わせにより発生した磁界(破線の磁力線51)が、磁気標識4の磁化55を変化させ、その誘導的に磁化した磁気標識4を−y方向に引き寄せている状態を表している。次に、磁性層13(d)の磁化方向は、図4(D)に示したように逆向きとなる。すなわち、磁性層13(d)は、今度は図4(A)に示した元の状態となる。これにより、磁気標識4は印加磁界の支援なしに左側に自動的に移動し、今度は磁性層13(c)と磁性層13(d)との間に捕獲される。このように本例では、前述の外部磁界を用いる必要がないので、搬送手順が簡略化される。
【0046】
上述のように単一の磁気標識のそれぞれを搬送する他にも、連鎖した磁気標識間の十分な分離を確保するために、2つの隣接する磁気標識を分離することも同様に重要である。上記のE. Mirowski らは、数個の粒子が積層膜からの磁界を受けている場合、それらは粒子内の磁界によって結合した連鎖状態を形成する傾向にあり、それら粒子は自然には分離しないことを実験的に証明している。よって、連結した磁気標識を個別に搬送する前に、特定の手順を用いてその連鎖状態の磁気標識を互いに切り離す必要がある。
【0047】
図5(A)〜(D)は個別の搬送を行うべく連鎖状態の磁気標識4を個別に分離するための手順を模式的に表したものである。ここでは、図2(A)〜(D)と同様に3層構造MRセンサを用いる。磁気標識の連鎖(ここでは、2つの磁気標識4,41のみを示す)は、最も近接する2つのMRセンサ12により磁気標識4を同時に捕獲することによって分離することができる。
【0048】
図5(A)では、磁気標識4,41が、MRセンサ12(c)とMRセンサ12(d)との間、およびMRセンサ12(d)とMRセンサ(e)との間にそれぞれ捕獲されている状態を示している。このような捕獲はMRセンサ12(c)の磁化方向が逆転されてMRセンサ12(c),(d)間の捕獲磁界を形成し、磁気標識4およびその後の磁気標識41も捕獲することにより生じる。以下の手順では、先頭の磁気標識4は、図2において個々の磁気標識が搬送されたのと同様に、順方向に搬送されることとなる。但し、ここでは、前方の磁気標識4の後にあるMRセンサ12(d),(e)間の位置に磁気標識41を捕獲することで、その磁気標識41を先頭の磁気標識4の後ろに位置させ続けるものであり、この点において上記実施の形態とは異なっている。
【0049】
図5(B)は−z方向に印加磁界100が印加された状態を表している。ここでは、MRセンサ12(e)の磁化方向が逆転されて、磁気標識41をMRセンサ12(d),(e)間に捕獲している。その一方、磁気標識4は外部磁界100によってMRセンサ12(b),(c)間の位置に移動する。
【0050】
次に、この外部磁界100をオフにすると、図5(C)に示した状態となる。すなわち、MRセンサ12(c)の磁化方向は反平行に切り替えられることにより、磁気標識4を解放する一方、MRセンサ12(d)の磁化方向は逆転されて平行状態になり、これにより磁気標識4を引き付ける。MRセンサ12(e)の磁化方向は逆転されていないので、後続の磁気標識41を保持し続ける。図5(D)は、磁気標識4がMRセンサ12(a),(b)間に捕獲されるようにすべく、再び外部磁界(下向きの矢印)100が印加され、図5(B)の過程と同様に磁気標識4を−y方向に移動させた状態を表している。
【0051】
このような手順により、図2(A)〜(D)のものと略同一なこの逐次の捕獲・解放過程を介して、最も外側の磁気標識4を後続する磁気標識41から分離し、磁気標識の連鎖の連続する要素(図示せず)から一つずつ離して搬送することができる。これにより、各磁気標識を付着した分子2の個別の検出が可能となる。
【0052】
図6は、磁気標識4が付着した単一分子2の搬送を維持する手助けとなる付加的な特徴を模式的に表したものである。この磁気標識4による分子2の搬送は、エッジ(縁部)17,18により画定される搬送チャネル170内で実現される。一連の互いに平行な磁性層13(あるいは三層構造のMRセンサ)の各々の下部は、磁性層13(あるいはMRセンサ)の磁化方向を変更可能な導電線16に接している。搬送チャネル170の幅は、単一の磁気標識4,41のそれぞれの直径よりも大きくなっている。この搬送チャネルの幅は、磁気標識4,41の直径の2倍未満であることが好ましい。このような搬送チャネルを図5(A)〜(D)等で説明した手順に適用することによって、磁気標識4が付着した単一分子2を搬送チャネル170内において常に個別に搬送させることができる。
【0053】
[B.溶液内での磁気標識の濃縮と制御配列]
上述した単一磁気標識の搬送手順を実用化するためには、磁気標識および染料と結合した多様な分子や細胞を含む溶液内で、ターゲットとなる分子等に付着した磁気標識のみを分離し選別する必要がある。また、個別の磁気標識の搬送に加えて、最終的に分子等の光学的検出を行うために、分離された磁気標識を搬送チャネルに個別に誘導させる必要がある。
【0054】
図7(A)は、このような目的を達成するための誘導分離搬送装置の一例を模式的に表したものである。
【0055】
この誘導分離搬送装置は、溶液閉じ込め構造を有する。この溶液閉じ込め構造は、実質的に3つの領域、すなわち貯留領域500、漏斗状のチャネル移行領域190および搬送チャネル170を有している。貯留領域500は、多数の磁気標識4が付された分子2を含み、その方には前述と同様の長い磁性層13が形成されている。磁性層13の下には導電層(図示せず)が設けられ、前述のように磁界の変動をもたらすようになっている。チャネル移行領域190は、貯留領域500から搬送チャネル170への入り口であり、磁気標識4に付着した分子2を1つずつ搬送チャネル170へ送り込むために用いられる。磁気標識4は、貯留領域500の下方に設けられた磁性層13により捕捉され、搬送チャネル170内で磁気標識4に作用する同じ搬送メカニズムにより、溶液内から搬送チャネル170の入り口まで移動する。磁気標識4が搬送チャネル170への入り口に達すると、その磁気標識4は捕捉され、図4(A)〜(D)および図5(A)〜(D)に示した手順で、実質的に同一であるが、より短い磁性層13によって搬送チャネル170に沿って個々に搬送される。
【0056】
図7(A)では、1の貯留領域500に対して搬送チャネル170を1つとしたが、図7(B)に示したように、1の貯留領域500に対して複数、例えば3つの搬送チャネル161,162,163を設けるようにしてもよい。各搬送チャネル161〜163における誘導搬送は、上記と同様に各チャネルの下方に形成された個別の磁性層13のアレイにより行われる。
【0057】
ここで、上述した磁気標識4の搬送手順では、搬送チャネル内に溶液が存在することは必要とされない。上記誘導分離搬送装置では、磁気標識4を貯留領域500から誘導可能であると共に、その磁気標識4を搬送過程の最中に溶液から物理的に分離することも可能である。例えば、磁気標識4を溶液よりも高い位置に上昇させることにより、その溶液から物理的に離すことができる。よって、その後、磁気標識された分子の光学的検出を、液体からの回折およびその液体内の未結合の染料による影響なしに行うことができる。これにより高い信号対雑音比を得ることができる。
【0058】
[C.個別の磁気標識の運搬および位置決めを伴う単一の分子等の光学的検出]
磁気標識と共にターゲット分子を所望の最終位置へ個々に搬送するに伴って、ターゲット分子を光学的に検出することができる。本例では、この光学的検出を、従来には必要とされた試料表面全体の二次元画像化、またはその振幅が分子の個数と相関する絶対光信号を取得することが必要な振幅個数相関を用いることなしに開始することができる。
【0059】
図8(A)は、磁気標識が付されると共に染色されたターゲット分子187を光学的に検出するためのシステムを模式的に表したものである(磁性層13は図示せず)。すなわち、染色された分子187のための適切にフィルタリングされた励起光源22からの光が搬送チャネル170の狭い領域(小領域)を透過する。その領域では、励起光が磁気標識されたターゲット分子187に個別に作用する。これによりターゲット分子187に付着した染料分子が励起し検出光として発光する。その検出光は、励起光を除去する二次光学フィルタ188を介して光検出器11に入射する。このシステムでは、光検出器11は励起光源22側から見て搬送チャネル170の反対側に位置しているが、光検出器11を励起光源22と同じ側に設けてもよい。
【0060】
図8(B)は、光検出器11により電気信号に変換された光検出信号の一例を表すものである。縦軸は光信号強度、横軸は時間をそれぞれ示している。励起光源22と光検出器11との間を磁気標識4が通過していない場合には、励起光源22からのフィルタリングされた光が到達することによって基準信号90が発生する。励起光源22と光検出器11との間を磁気標識4が通過すると、励起光が妨げられ、信号強度に僅かに低下部分95が生ずる。そして、励起光がターゲット分子187上の染料を励起すると、信号ピーク97として現れる誘導発光が生じる。励起光源22と光検出器11とが搬送チャネル170の同じ側にある場合には、吸収による低下部分95は、磁気標識4の反射による若干のピークによって置換し得るが、そのような磁気標識の反射によるピークは、染料の誘導発光によって発生したピーク97に対して相対的に小さい。
【発明の効果】
【0061】
本発明の被標識物質捕捉・搬送装置によれば、小さな磁気粒子が磁気標識として付着した生物学的分子または細胞などの被標識物質を効果的に捕捉し、誘導搬送することができ、更には本発明の同定・計数方法および計数・選別方法によって、誘導搬送された被標識物質の同定、計数および選別を効率よく行うことができる。本発明では、従来の光学的画像化・検出手法と比較すると、高度に集束された励起光および光ファイバを含む狭視野角光学系を用いることができ、バックグラウンド干渉が殆ど発生することはない。また、分子等の被標識物質を個別に検出することができるので、その分計数は信号振幅によるものではなく、信号における染料発光のピークの数による。これにより感度が向上すると共に雑音に対する安定性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0062】
以下、本発明を実施するための最良の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0063】
本発明の好適な実施の形態は、微小の、典型的には超常磁性の磁気粒子が磁気標識として付着した被標識物質を搬送し、誘導するためのデバイス、およびそのデバイスを用いて、磁気標識が付着した個々の被標識物質を検出し計数する方法である。磁気的に標識される被標識物質は、好ましくは生物学的分子または細胞であるが、これに限定されるものではない。以下、一例としてMRセンサのアレイ構造を用いて磁気標識を逐次捕獲、解放することで被標識物質の誘導搬送を行う方法を説明する。
【0064】
本実施の形態による磁気標識の誘導搬送方法は、ターゲットとなる生物学的分子または細胞を個別に操作し検出する生物学的検定法に用いることができる。この方法では、まず、磁気標識と光学的に励起可能な蛍光染料または自己発光性の化合物とを、準備過程を経てターゲット分子等に貼り付ける。次に、そのように準備した磁気標識および染料が付着した分子等を含む溶液を、閉じ込めデバイスに導入する。その閉じ込めデバイス内では、磁気標識された細胞等が操作されつつ溶液が保持される。
【0065】
この操作には、MRセンサによる磁気標識の個別的な捕獲と、逐次の捕獲および解放を行う過程を介した閉じ込め領域の下方に形成された磁気構造アレイへの搬送とが含まれる。磁気構造アレイは、矩形状の単層磁気ストリップ、他の概ね矩形状の幾何学的形状を有する磁気ストリップ、または磁気三層構造デバイス等のさらに複雑なパターン多層磁気デバイスとすることができ、それらすべては電流で作動する。搬送されるべき磁気標識(および付着した生物学的分子または細胞)は、搬送チャネルによる搬送前に、漏斗状のチャネル移行領域を経て狭く直線状の搬送チャネルに個別に導かれる。そこでは、磁気標識は一つずつ搬送されて互いに物理的に分離されることから、個々の磁気標識された分子等を、殆ど干渉を受けることなく光学的に検出することができる。このようにして、磁気標識をそれに結合した分子とともに元の溶液の場所から抽出・搬送し、これにより単一分子あるいは単一細胞レベルの分離および高精度の光学的検出が可能になる。
【0066】
磁気細胞または分子の従来の抽出、および光学的な画像化またはセンシング技術と比較すると、この方法では単一の細胞または単一の分子の検出が可能になる。この方法は、生物学的被標識物質を操作するために流体工学に依存せず、より精密に制御された磁気力を用いて単一の磁気標識を誘導する。また、検出過程では、感度レベルを制限する過剰なバックグラウンド干渉を含む二次元画像化に依存せず、ターゲット個数と相関関係にある光信号振幅にも依存しない。この個別的な磁気標識の搬送によって、信号検出をピークパターン認識によって行うことができる。搬送された磁気標識と付着された分子等との間の一対一の相関関係の場合では、分子等の計数は光信号の振幅変動とは殆ど無関係である。
【0067】
図13に示した従来の二次元MRセンサ検定法と比較した場合でのこの方法の利点は、本方法では検定面に対するターゲット分子の捕獲過程を必要としないことである。また、従来のように未結合の磁気標識を後に除去するプロセスも不要である。このようなことから検出前の生物学的な準備手順を減少させることができる。
【0068】
また、従来の光学的方法では、光信号の大量のサンプル検出が行われることから、生物学的ターゲットが比較的大型で、有意な信号を発生させるために単一の細胞表面に付着させる染料分子の数を多くすることが可能な細胞への応用に対しては精確である。しかし、より小さな分子の検出に対しては、ターゲット分子に付着した染料からの光信号は、より大型の磁気標識によって容易に妨げられてしまう可能性がある。他方、従来のMRセンサを用いた手法では、分子レベルの応用に適するが、十分な磁界を発生させるために磁気標識がMRセンサに対して接近させる必要がある。更に、捕獲した被標識物質が未結合の磁気標識の除去過程で除去されないようにするため、捕獲したターゲットと検定面との間の強い結合力を必要とする。また、細胞の場合には大型であるため、磁界または除去過程での流れ力がその結合を容易に破壊する可能性がある。
【0069】
これに対して、本実施の形態では、生物学的細胞検出手法と分子検出手法との両方を殆ど変更せずに容易に採用することができる。細胞検出の場合、チャネル幅は搬送されるユニット(磁気標識によって覆われた単一細胞)の大きさよりも大きくすることが求められるが、その大きさの2倍未満である。分子検出の場合では、搬送ユニットはその後単一の磁気標識となる。
【0070】
本実施の形態の磁気標識は、ゼロ磁場で非凝集状態となり、磁化可能で、必要とされる生物学的または化学的な化合物を確実にコーティング可能な、機能的且つ市販の磁気標識を想定している。そのような要素は他の従来技術では公知のものである。本実施の形態による搬送体は、具体的には磁気標識、この磁気標識が付着した単一あるいは複数の生物学的分子、あるいは磁気標識がコーティングされた細胞である。なお、分子や細胞に限らず磁気標識を付着可能なものであれば、他の物質も本発明により誘導し搬送することができる。更に、本実施の形態では、多層磁気薄膜構造が関連した生物学的または化学的環境で機能することを可能とする、必要なあらゆる保護層およびコーティングを想定している。
【0071】
以下、次の順で説明する。
(1)電流誘起の磁界により制御され、磁気標識を捕獲し解放する磁気薄膜構造またはデバイス。
(2)外部磁界による補助の有無による、磁気標識の順次の捕獲・解放を介してデバイスのアレイに渡って磁気標識を搬送するための方法。
(3)磁気的に結合した磁気標識を分離して、別個の搬送を行う方法。
(4)チャネル移行領域において、捕獲解放メカニズムを用いた磁気標識の収集・誘導分離方法。
(5)ピークパターン認識を用いる光信号検出方法。
【0072】
上記5つの側面に鑑み、以下の観点から本実施の形態を5つのカテゴリーに分類する。 1−捕獲構造
2−搬送方法
3−磁気標識の分離
4−磁気標識の収集と誘導分離
5−信号検出
【0073】
よって、本実施の形態において考え得る構成は、上掲の5つのカテゴリーの以下のサブ実施の形態の任意の組み合わせとすることができる。
【0074】
[1−捕獲構造]
磁気標識の捕獲および解放は、磁気薄膜構造の側方エッジからのエッジ磁界を介してなされる。そのエッジ磁界は、対応する磁性層の磁化方向を異なる方向に切り替えることでオン・オフされる。磁性層の切り替えは、パターン膜の近傍を流れる電流によって発生する磁界によってなされることが好ましいが、これには限定されない。また、捕獲磁界の有無は、そのような側方エッジの表面の「磁荷」の観点からも説明することができる。そのような磁荷は、領域内の磁化の発散の作用を説明するための代替的なメカニズムであり、閉曲面における矢印の集積として図形的に考えることができる。
[実施の形態1A]
【0075】
図9(A)に模式的に示す捕獲構造(「デバイス」とも称する)は、ここでは図示しない保護層の下方に形成されている。なお、本実施の形態で用いられている用語「捕獲」は、略固定位置における磁化した磁気標識の捕捉および保持を意味している。
【0076】
磁気標識は、捕獲構造の磁界により引き付けられ、以下に説明するように、閉じ込めデバイスの底面とすることができる保護層の上面へ移動する。その磁気標識は、図の直交座標系で示される方向2に保護層の表面に沿って搬送される。捕獲構造は多層的なデバイスであり、フリー層13と、非磁性層(スペーサ層)15と、ピンド層14と、方向1に沿った両方向矢印で示すいずれの方向にも電流19を伝えることが可能な導電線16と、の4つの部分を有している。フリー層13の磁化方向は、方向2に沿った両方向である。非磁性スペーサ層15は、フリー層13とピンド層14とを結合する磁気交換を断ち切る役割を果たす。ピンド層14の磁化は、方向2の一方向(図面では負方向)に沿って固定され、外部磁界によって容易に切り替えがなされないようになっている。ピンド層14の方向2のピンド磁界は、そのピンド層14を形成する材料の強力な異方性磁界、ピンド層14と接する反強磁性層(図示せず、但し磁気ピンド層14の一部とすることもできる)との交換結合、または、磁気ピンド層14に接続された合成反強磁性(SAF:Synthetic AntiFerromagnetic )構造(図示せず、但し磁気ピンド層14の一部とすることもできる)によって発生させることができる。これらの方法は、MRセンサを製造する分野では一般的に周知であるので、その詳細な説明は省略する。
【0077】
ここで、捕獲構造の平面形状は、菱形、台形および他の四辺形等の、種々の幾何学的形態のうちの任意の形状とすることができる。図9(E)は、フリー層13の平面形状が四角形、台形または菱形である場合での図9(A)〜(D)に示す構造の配列状態を表すものである。磁気標識を捕獲可能な強力なエッジ磁界を発生させるために、隣接した磁気構造は互いに対向する平行なエッジを有することが好ましい。但し、そのような隣接する磁気構造間による平行性は、直線状のエッジを有する種々の断面形状によって達成可能ではあるが、それらは必ずしも同じ構造において対応するエッジとは平行ではない。見やすさと説明の便宜上、本実施の形態では捕獲構造を矩形状とする。
【0078】
電流19は、導電層16をその面内に沿って流れる。電流19によって発生した磁界は、フリー層13の磁化方向を、方向2の正の方向と同じまたは反対の方向に切り替える。捕獲状態では、フリー層13の磁化方向は、ピンド層14の磁化と同じ方向に切り替えられている。解放状態では、フリー層13の磁化方向はピンド層14の磁化方向とは反対方向に切り替えられる。
[実施の形態1B]
【0079】
図9(B)に模式的に示したデバイスは、図9(A)に示したデバイスと同様であるが、隣接する導電層(図9(A)の導電層16)がなく、代わりに電流19が非磁性層15を流れる点で異なっている。
[実施の形態1C]
【0080】
図9(C)は、やはり保護層の下方に形成されるデバイスを模式的に表したものである。この保護層の下方の捕獲構造により、磁気標識は保護層に対して引き付けられる。捕獲構造は、1つの磁性層13と導電層16との2つの部分を有する。その磁性層13の自然磁化または正規磁化は、方向2に垂直な方向1の面内に沿った内部磁界によって確保されている。磁性層13の内部磁界は、結晶異方性、形状異方性および応力誘導異方性のいずれか1つまたはそれらの組み合わせによるものとすることができる。また、磁性層13の内部磁界は、上記したように隣接した反強磁性層(図示せず)との交換結合、または図示しないSAF構造によっても発生させることができる。電流19は、方向1に沿って導電層16を流れ、磁界を発生することで磁性層13に方向2の磁化成分を誘起する。なお、磁性層13の磁化方向を方向1に沿って示しているが、導電層16を流れる電流19は、方向2の磁化成分を誘起するものである。捕獲状態では、磁性層13は、導電層16の電流場によって磁化されて方向2の磁化成分を有し、これによって方向2の(側方)エッジに表面電荷を形成する。解放状態では、導電層16の電流により発生した磁界はオフとされ、磁性層13は方向2の磁化成分を失うことで、再び方向1に完全に沿うようになる。
[実施の形態1D]
【0081】
図9(D)は、材料的および幾何学的に図9(C)のものと同一であるが、磁性層13の磁化方向が捕獲状態と解放状態との両方の状態において方向2と完全に並んだままとなる点で大きく異なる捕獲構造を表したものである。電流19は、導電層16を方向1に沿って流れ、磁界を発生させて磁性層13の磁化方向を方向2に沿った2つの方向間で切り替える。磁性層13の磁化は、結晶異方性、形状異方性および応力誘導異方性のいずれか一つまたはそれらの組み合わせ、または電流19により誘起された磁界によって、方向2に沿って固定される。ピンニング磁界は、磁性層13の下方の反強磁性層(図示せず)との交換結合、または図示しないSAF構造によっても供給可能である。捕獲状態では、デバイスのそれぞれの磁性層13の磁化は、磁気標識を捕獲している特定のデバイス以外は同一の方向に向いている。その捕獲デバイスの磁化は、隣接するデバイスの磁化とは反対方向に切り替えられている。解放状態中、すべてのデバイスの磁化方向は同一となる。
[2−搬送方法]
[実施の形態2A]
【0082】
搬送される物質は、単一または複数の分子あるいは細胞に付着した磁気標識である。また、この物質は、それ自身が複数の磁気標識に付着した分子によって覆われた細胞とすることもできる。磁気標識に失敗なく付着可能な分子および細胞の組み合わせの多様性から、以下の記載では搬送される対象を単に「テストユニット」と称する。
【0083】
テストユニットの搬送は、一度に1つのユニットずつとすることが好ましいが、これには限定されない。テストユニットの一定方向への搬送は、それぞれ実施の形態1A〜1Dとして説明した図9(A)〜(D)に示す空間的に分離された捕獲構造アレイによって達成され、アレイが整列していることにより、一定方向または搬送路に沿ったテストユニットの搬送が行われる。図10(A)は、図7(A)のものと実質的に同一な、テストユニットの搬送のための単純な構造を模式的に表わしたものである。例えば、図9(A)〜(D)に示した、平行な磁気ストリップ13のアレイまたはデバイスは、閉じ込めエッジ17により画定される貯留領域の下に設けられる。本実施の形態では、搬送チャネル170も同様にエッジによって画定され、磁気ストリップ等の平行な磁気ストリップ13のアレイが、その搬送チャネルの下部に形成されている。貯留領域の下部の磁気ストリップおよびチャネルの長さは、異なるものとする。
【0084】
テストユニットの搬送は、搬送チャネル170を介して行われる。搬送チャネル170の長さは、搬送チャネルに沿ってユニットの大きさよりも著しく長く、その幅は、搬送チャネルに対して垂直で単一のユニットの大きさ(例えば、直径)よりも大きいが、その大きさの2倍未満である。捕獲構造(すなわち、図9(A)〜(D)に示す磁気構造と、図9(E)の考え得る形状のバリエーション)は、図9に示した方向2に沿った搬送チャネル170の下方に設けられている。
【0085】
捕獲構造の経路横断方向の幅が、単位時間当たりの一つの搬送対象のテストユニットを閉じ込めるために十分に小さく調整可能な場合には、閉じ込めチャネル構造を使用せずに搬送することもできる。また、捕獲構造の経路横断方向の幅を大きくすると、一定時間内により多くのテストユニットを搬送することができる。
[実施の形態2B]
【0086】
捕獲構造のアレイに沿ったテストユニットの搬送は、搬送方向に隣接する捕獲構造における逐次の捕獲および解放によって実現される。また、テストユニットの搬送は、一時的に加えられる外部磁界によって支援される。一つのテストユニットが捕獲構造のエッジ(捕獲状況を形成すべく磁気的に方向されたデバイスのエッジ)によって捕獲された場合、印加された磁界はユニットに付着した磁気標識を磁化し、これによりユニットは、そのユニットにさらに低い磁力を与える隣接する捕獲構造のエッジに移動する。ここで、捕獲された磁気標識の状態は、エネルギー的には、磁気標識アレイ系の極小の局所的な静磁エネルギーの位置にあると見ることができる。外部磁界を印加することによって、磁気標識がそのような極小エネルギーに向かって移動する作用が支援される。外部磁界が磁気標識を移動させる方向の隣接するエッジを、その磁気標識が次に搬送されるべきエッジと同じエッジとすることにより、初めの捕獲構造を解放状態に置き(その磁化を再設定することによって)且つ外部磁界をオフにした際、ユニットはより良い併行精度で隣接する捕獲位置にいっそう容易に移動する。
【0087】
[3−捕獲デバイスによる磁気標識の分離]
第1のテストユニットが捕獲磁界により捕獲され、且つ他の近接する磁気標識が磁気標識内の磁気力によってそのテストユニットに連鎖している場合、第2のテストユニット上の隣接する磁気標識に、別のより遠隔のアレイサイトから捕獲磁界を印加することにより、その連鎖した磁気標識を分離することができる。図5(A)〜(D)に示したように、この第2のテストユニットを捕獲することにより、第1のテストユニットが残余の連鎖したユニットから分離し且つそれから離れて搬送されることが可能になる。
[実施の形態3A]
【0088】
搬送対象ではない連鎖したテストユニットが捕獲されているサイトの捕獲モードを維持することにより、それらの連鎖ユニットからの第1のテストユニットの分離、およびその第1のテストユニットのターゲットサイトへの搬送を、搬送方向に隣接する捕獲デバイスの逐次の捕獲および解放によって実現する。第1のテストユニットに隣接するサイトがその第1のテストユニットがそれに向かって搬送されるターゲットサイトとなり、最初にその隣接するサイトの磁界が捕獲状態へとオンにされ、その後、現在第1のテストユニットを捕獲している捕獲磁界がオフにされる(その解放状態に置かれる)に伴い、第1のテストユニットは、そのユニットが隣接するサイトから与えられる磁界に起因して、隣接するサイトに移動することになる。
[実施の形態3B]
【0089】
一時的に外部磁界を印加すると共に、搬送対象ではない連鎖したテストユニットが捕獲されているサイトの捕獲モードを維持することにより、それらの連鎖ユニットからの第1のテストユニットの分離と、その第1のテストユニットのターゲットサイトへの搬送とを同時に実現することができる。印加された外部磁界は、各ユニット内の磁気標識を磁化し、これによって第1のユニットと連鎖した第2のユニットとは、それらを捕獲している捕獲デバイスの最も低い静磁エネルギーを有するエッジへと移動する。その連鎖の残余のユニットは、すべて隣接する第2のユニットに付着しているので、第1のユニットが捕獲されている最低エネルギーを有するエッジであって、そのユニットが次に搬送されるべき隣接するデバイスに対向するエッジを外部磁界下に置くことで、隣接するデバイスがその捕獲状態にある場合、ユニットはその隣接するデバイスからより高い磁界を受けることになる。第1のユニットを捕獲しているデバイスがその解放状態に置かれ、隣接するデバイスが捕獲状態に置かれ、そして印加磁界がオフにされた際、第1のユニットは、隣接する捕獲デバイスに移動し、そして連鎖の残余のユニットから離れて搬送されることが可能となる。
[4−磁気標識の収集と誘導分離]
[実施の形態4A]
【0090】
図10(A)は、テストユニットを含む液状の生物学的試料液を模式的に示している。テストユニットは、磁気標識が付着した生物学的分子4である。その試料液は、未付着の磁気標識を含んでもよい。この試料液は、平面だが閉じ込められた貯留領域17内に沈着される。貯留領域17はチャネル移行領域190を有する。このチャネル移行領域190は、テーパ状または非テーパ状とすることができるが、ここでは漏斗状としている。このチャネル移行領域190は、テストユニット4と未付着の磁気標識8とが搬送される狭い搬送チャネル170に至る。貯留領域17、チャネル移行領域190および搬送チャネル170は、すべて試料液を閉じ込めるための底面を有する。通常、それらは、試料液の閉じ込めを支援すべくそれらの周辺に沿ってエッジも有するが、上述したようにチャネル領域は、必ずしも閉じ込めエッジを有する必要はない。
【0091】
搬送チャネル170の底面の下方には、平行な捕獲構造のアレイ131が設けられている。平行捕獲構造のアレイ131は、下部に導電リード線または上述したような他のデバイスなどを有する、平行且つ密集した薄膜磁気ストリップのアレイである。貯留領域17およびチャネル移行領域190の底面の下には、チャネルの下部のものと同様のアレイ131が設けられているが、貯留領域17およびチャネル移行領域190の幅を横切って伸びるために、チャネルの下部のものよりも長くなっている。よって、チャネル移行領域190の下方のアレイ131が適切なサイトで捕獲状態に切り替えられた際、アレイ131は、試料液の貯留領域17からテストユニットを引き付ける。順次切り替えられる捕獲状態を連続的に適用することにより、テストユニットが、貯留領域17からチャネル移行領域190を介して搬送チャネル170へ移行し、一つずつこの搬送チャネル170に沿って移動する。
[実施の形態4B]
【0092】
図10(B)は、複数のチャネル移行領域90,91,92を有するシステムを模式的表したものである。複数のチャネル移行領域90,91,92のそれぞれは、図10(A)の単一の場合での構造と同一であり、それぞれ対応する搬送チャネル161,162,163に通じている。本実施の形態では、テストユニットはこれら搬送チャネル161,162,163を通じて並行且つ独立して搬送される。
[5−信号検出およびサンプル選別]
[実施の形態5A]
【0093】
図11(A)は、例えば図10(A)に模式的に示したもの等の構成(図示しない磁気ストリップ)の搬送チャネル170において、生物学的細胞または分子に付着した発光または蛍光染料により発生する光信号の検出を行う過程を模式的に表したものである。例示的なターゲット187上の染料の反応を誘起するために必要な励起光(検出器11とは反対側からの励起光源22、または検出器11と同じ側の励起光源222からの励起光)は、励起光学系122を通過し、光に対して透明な搬送チャネル170の小領域を照明する。その被照明領域の大きさは、多くても2つのユニットが同時に出現可能な程の大きさであることが好ましい。検出光学系110は、被照明領域から検出器11に光検出信号を送る。よって、テストユニットが検出光学系を通過した際、図8(B)で既に述べたように、検出器により信号のピークを発生することができる。励起光学系と検出光学系とは、部分的または全体的に光ファイバ要素によって構成することもできる。
[実施の形態5B]
【0094】
図11(B)は、搬送チャネル170を通過したテストユニット7が第2の貯留領域161に収集された状態を表している。テストユニット7が第2の貯留領域161に到達した後、放出された励起光は、第2の貯留領域161内の収集され且つ照明されたユニットから検出器11に達し、光信号として受光される。受光した光信号は第2の貯留領域161内のユニットの個数と関連付けることができる。このようにして、第2の貯留領域161の従来の二次元光学像が取得され、または光信号振幅と個数との相関が行われた場合、ターゲット分子等の存在および個数を、最初の貯留領域500内の試料液および未結合の光学染料による干渉なしに推定することができる。この方法では、必ずしもユニットを搬送チャネル170中に個別に搬送する必要はない。
[実施の形態5C]
【0095】
図11(C)は、光学的検出領域が、異なる搬送チャネル170,99の交点20にある構造を模式的に表したものである。拡大部分25に示す捕獲アイランド66は、図9(A)に示したデバイス等のデバイス66により形成され、その下部には、デバイス66を2つの異なる垂直方向のいずれの方向にも磁化可能な2つの電流路160,177が設けられている。本実施の形態では、搬送チャネル170,99毎に、テストユニットに対して磁気的に異なる種類の磁気標識を付すると共に、異なる光学染料を付着させる。これにより、捕獲アイランド66に搬送された際、図11(B)の場合と同様に、検出光学系110および検出器11によって検出された光信号に応じて、いずれのテストユニットも計数し、そして異なる搬送チャネル170,99に分路させることができる。よってテストユニットを別個の貯留領域に選別あるいは分離することができる。
【0096】
以上、実施の形態の形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、種々変形可能である。例えば、磁気的且つ光学的に標識された細胞および分子を個別レベルで検出できるように、それらを誘導し搬送するための捕獲・解放デバイスのアレイの形成、準備および使用に採用される方法、材料、構成および寸法は修正や変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】本発明の一実施の形態に係る磁気標識された生物学的分子の搬送過程を説明するための模式図である。
【図2】外部磁界の印加による生物学的分子の搬送支援を説明するための模式図である。
【図3】磁気標識された分子の搬送を、単層磁気構造のアレイを用いると共に、外部磁界の支援により行う例を説明するための模式図である。
【図4】磁気標識された分子の搬送を、固有異方性磁界が搬送方向に沿った単層磁気構造のアレイを用いると共に、外部磁界の支援により行う例を説明するための模式図である。
【図5】一対の磁気標識された分子を切り離して搬送する方法を表す模式図である。
【図6】搬送チャネルに沿って搬送されている磁気標識された分子を表す模式的な俯瞰図である。
【図7】多数の磁気標識された分子を含む溶液が、いかにして単一のチャネルまたは複数のチャネルに沿って誘導、搬送されるかを表す模式的な俯瞰図である。
【図8】チャネルに沿って搬送されている磁気標識された生物学的被標識物質の光学的検出を表す模式図であり、(B)は、(A)に示す検出過程により発生した光信号波形の模式図である。
【図9】磁気捕獲デバイスの種々の構成を表す模式図であり、(E)は(A)〜(D)の構成の平面形状を表す俯瞰図である。
【図10】磁気捕獲デバイスのチャネル誘導・搬送構造の一例を表す模式図である。
【図11】磁気標識された分子を検出するための光学検出系の3つの例を表す模式図である。
【図12】磁気標識が付着した液体中の生物学的分子を磁界によって液体から抽出する従来の技術を説明するための模式図である。
【図13】従来技術において、磁気抵抗(MR)センサマトリクスに磁気標識された生物学的分子が結合した状態を表す模式図である。
【図14】磁気標識された分子を捕捉および解放するために用いられるMR型磁気三層構造の模式図である。
【符号の説明】
【0098】
1…生体液、2…生物学的分子(ターゲット分子)、3…生物学的分子(非ターゲット分子)、4…磁気標識、5…染料、12…MRセンサ、13…フリー層(磁性層)、14…非磁性層、15…ピンド層(磁性層)、16…導電層、55…磁界、100…外部磁界、170…搬送チャネル、500…貯留領域、190…チャネル移行領域
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば小さな磁気粒子が磁気標識として付着した生物学的分子または細胞など(以下、分子等とも称する)の被標識物質を捕捉し、誘導搬送するための捕捉・搬送装置、並びに被標識物質を同定し、計数するための同定・計数方法および被標識物質を計数し選別するための計数・選別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医療業務や生物学的業務の分野においては、磁気標識に磁力を与えて液体状の生体液から生物学的分子等を物理的に抽出する技術が幅広く採用されている。磁気標識は外部磁界により磁化可能な磁性材料の微小粒子であり、分子等に付着される。そのような磁性材料の微小粒子は典型的には超常磁性であり、自発的なドメイン形成を破壊するほど熱運動が大きく、そのためそれらを外部磁界下に曝すことにより磁化する必要がある。
【0003】
よって、ターゲット分子等の検出は、一般的には磁気標識を磁化して磁力を与え、そして磁気標識を液状試料から付着した分子等と共に抽出する、そのような外部磁界を加えることでなされる。その後、例えば抽出された細胞または分子に対し事前に同様に付着した蛍光または発光化合物(染料)から放出される光信号を順次読み取ることにより、ターゲット分子等の存在を同定する。しかしながら、このような従来の抽出技術では、ターゲット分子は結集したクラスターまたは液滴として検出され、未結合の磁気標識または溶液による信号の散乱が非常に高くなり、単一分子レベルでの検出が困難である。
【0004】
図12(A)〜(C)は、そのような磁気的に標識された分子を磁気的に抽出し、光学的に検出する従来技術の手法を模式的に表したものである。図12(A)はターゲット分子2を含む生体液1を示したもので、この生体液1にはターゲット分子2と区別すべき検出対象外の非ターゲット分子3も含まれている。図12(B)はターゲット分子2に磁気標識4および蛍光染料5が付着した状態を示している。図12(C)は磁石7の極間のチャネル8を生体液1が通過する様子を表している。実線の矢印は磁石の磁化方向を表すものである。磁気標識4は磁石7による外部磁界と磁気標識4内の誘導磁気との相互作用によってチャネル8の両側に引き付けられ、この磁気標識4と共にターゲット分子2が両側に引き寄せられる。図12(D)は磁気標識されたターゲット分子2に励起光線9を照射し、これにより得られた励起蛍光10を光学検出系11により検出することによってターゲット分子2が順次同定される状態を表す。
【0005】
M.A. ReeveおよびM.A.M. Gijs は、そのような磁気的に引き付け可能な粒子を用いて高分子を分離する方法を開示している(特許文献1,非特許文献1)。また、D.R. Baselt 等(非特許文献2)、M.M. Miller 等(非特許文献3)および S.X. Wang(非特許文献4)は、磁気抵抗(MR)センサを用いることで単一分子レベルの精度で磁気標識された生物学的分子またはウイルスを検出する技術を開示している。
【0006】
図13はそのような従来の検出システムの動作原理を模式的に表したものである。このシステムは、複数のMRセンサ12のアレイを規則的に配置した構造を有する。各MRセンサ12は互いに直交する導電線16,160の交点に形成されている。導電線16,160はともに水平に配置されており、鉛直方向において互いに分離されている。個々のMRセンサ12は、非磁性層15により分離された2つの水平な磁性層13,14を備える。このMRセンサ12のアレイは、蒸着法により磁性層14,非磁性層15および磁性層13をこの順に積層したのち、パターニングすることによって形成される。
【0007】
MRセンサ12の磁性層13,14は、アレイパターニングの後、またはそれに先立って磁化されるが、一方の磁性層14は磁化方向は空間位置において固定されてピンド層、他方の磁性層13はその磁化の向きが自由に変わるフリー層となる。これらピンド層およびフリー層の磁化方向は、各層に何らかの磁気異方性を付与することにより決定される。磁気異方性としては、層蒸着過程に起因する結晶異方性またはパターニングに起因する形状異方性が挙げられる。
【0008】
この検出システムでは、2つの導電線160,16に流れる電流を適切に選択することによって、フリー層(磁性層13)の磁化方向をピンド層(磁性層14)のそれに対して平行または反平行となるように切り替える。磁気モーメントが平行である場合には低抵抗、モーメントが反平行である場合には高抵抗となり、アレイ中の任意の素子の抵抗値を測定することにより、その磁化方向が直ちに示される。基本的な考え方としては、次に、捕捉されたターゲット分子2の磁気標識4を磁化し、その磁気標識4を捕捉したMRセンサ12のフリー層の磁化方向を切り替えるようにする。その切り替えは抵抗変化として検出され、捕捉された粒子の指標となる。
【0009】
MRセンサ12のアレイは、典型的には、検出される分子等に特異的な化学結合サイトを有する基板表面(図示しない)の下に形成される。図13では図面を簡潔に且つ見やすくするために、便宜上、捕捉されたターゲット分子2およびそれに付着した磁気標識4は、導電線160の内の一つに結合しているものとして図示されている。実際には、導電線16,160は基板の下に設けられ、ターゲット分子2は基板表面上のサイトに結合する。ターゲット分子2がサイトの内の一つに結合すると、その磁気標識4は、次にセンサアレイの結合サイト下の部分を覆う固定位置に位置する。この状態で、基板表面に未結合の磁気標識を、典型的にはその表面を洗い流すことで除去した後、残余の磁気標識4に対して基板面に垂直な外部磁界が与えられる。これにより、磁気標識4は、下方に位置するMRセンサ内を通り、且つセンサの磁性層13,14に平行な誘起磁界18を発生する。上述のように磁気粒子はごく小さいものであるため、それらは超常磁性、すなわち熱エネルギーが安定したドメインを形成するエネルギーを上回るので、自発的な磁化は存在しない。そのため、外部磁界を与えることで粒子が磁化し、固有の磁界を発生するようにしなくてはならない。磁気標識4を基板表面に付着させることにより、磁気標識4をMRセンサに近接させることができ、それらが発生する微小な磁気信号を効率よく検出することができる。
【0010】
しかしながら、従来のこの方法では、ターゲット分子2を基板表面に捕捉するプロセス、および表面サイトにその分子が付着していない磁気標識を除去するプロセスが必要となる。分子に対する磁気標識の結合と基板表面に対する分子の結合との2つの別個の準備過程が必要であるため、上記方法による処理は準備段階において理論上は従来の光学的方法よりも遅くなる。光学的同定法では、ターゲット分子に対する磁気標識の付着と染料の付着との両方を行うには一回の準備で十分であるからである。また、MRセンサ間では、MR信号が大きく変動するおそれがあるので、許容精度を達成し、検出の再現性を確保するためには、磁気標識を所定の大きさよりも大きくする必要がある。
【0011】
ここで、従来技術における研究から、図13に示したセンサアレイは微小な磁気粒子を検出する以外に、むしろそれらを移動させるために用いることもできることが判明した。その従来技術としては、E. Mirowski 等による非特許文献5が挙げられる。また、J. Moreland 等は、単一の磁気粒子の物理的操作が磁気多層薄膜構造のパターンアレイによって達成可能であることを教示している(特許文献2)。磁気粒子は、磁気パターン(薄膜磁気構造)によって捕捉可能であり、その後に複数の磁性層の内の一つの磁化を異なる方向に切り替えることで、捕捉した磁気粒子をその磁気パターンから解放することができる。
【0012】
図14(A),(B)は、単一の磁気標識されたターゲット粒子2とMRセンサ12とを取り出して、その過程をより詳細に表したものである。MRセンサ12は、CoFe等の磁性材料から形成されたフリー層13と、AlOx等の誘電材料から形成された非磁性中間層15と、フリー層13の磁性材料と同様の材料により形成されたピンド層14と、を含む。図14(A)において、磁気標識4が付着したターゲット分子2はMRセンサ12に隣接している。導電線16にスイッチング電流19(Iswitch)が流れると、フリー層13の磁気モーメント50(Mfree)が回転してピンド層14の磁気モーメント6(Mpinned)と平行になる。磁気モーメント6,50が平行になると、MRセンサ12の側方エッジに磁荷が効果的に発生し、これにより磁気標識4に対し磁化9(Mlabel )が引き起こされる。この誘導過程によって、MRセンサ12の側方エッジと磁化された磁気標識4との間にネット磁気引力が発生し、その結果磁気標識4がMRセンサ12に引き寄せられ捕捉される。
【0013】
導電線16に流れるスイッチング電流19の方向が逆方向になると、図14(B)に示したように、フリー層13の磁気モーメント50の方向が逆方向に回転し、ピンド層14の磁気モーメント6とは反平行状態となる。これによりMRセンサ12の側方エッジの磁荷は零となって磁気標識4を解放すると共にその誘導磁化を実質的に消滅させる。
【0014】
【非特許文献1】「オンチップを扱う磁気ビーズ:分析応用の新展開」、Microfluid Nanofluid、22頁〜40頁、2004年("A Magnetic bead handling on-chip: new opportunities for analytical applications," Microfluid Nanofluid. Pp 22-40, 2004 )
【非特許文献2】「磁気抵抗技術に基づくバイオセンサ」、Biosens. Bioelectron、第13巻、731頁〜739頁、1998年10月("A biosensor based on magnetoresistance technology," Biosens. Bioelectron., vol. 13, pp. 731-739, Oct. 1998 )
【非特許文献3】「磁気マイクロビーズおよび磁気電子検出を用いたDNAアレイセンサ」、J. Magn. Magn. Mater. 、第225巻、138頁〜144頁、2001年4月("A DNA array sensor utilizing magnetic microbeads and magnetoelectronic detection," J. Magn. Magn. Mater., vol. 225, pp. 138-144, Apr. 2001 )
【非特許文献4】「高感度診断のための磁気マイクロアレイの試み」、J. Magn. Magn. Mater. 、第293巻、731頁〜736頁、2005年("Towards a magnetic microarray for sensitive diagnostics," J. Magn. Magn. Mater., vol. 293, pp. 731-736, 2005 )
【非特許文献5】「磁気スピンバルブトラップのパターンアレイによる磁気粒子の操作」、J. Magn. Magn. Mat. 、第311巻、401頁〜404巻、2007年("Manipulation of magnetic particles by patterned arrays of magnetic spin-valve traps," J. Magn. Magn. Mat., vol. 311, pp 401-404, 2007)
【特許文献1】米国特許第5,523,231号
【特許文献2】米国特許出願公開第2005/0170418号
【特許文献3】米国特許第5,691,208号
【特許文献4】米国特許第6,294,342号
【特許文献5】米国特許第7,056,657号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
どのような検出方法が用いられていようと、単一分子レベルで迅速な検出を行うと共に分子の計数を可能とするためには、生物学的な準備工程は可能な限り単純であることが望ましい。そのため例えば図12に示した従来の光学的方法の準備過程は一段階であるため、図13に示したMR検定方法と比較して有利とされている。
【0016】
単一分子の計数を実現するためには、分子等を操作し、且つ個別に検出することにより、十分な物理的分離状態を発生させ、個々の分子の空間あるいは時間における別々の反応を確保する必要がある。これは基本的な要件である。しかしながら、図12に示した従来の集合的な磁気標識抽出・光学検出手法では、たとえ最先端のフローサイトメトリあるいはマイクロ流体系を用いたとしても、個々の磁気標識または分子を分離することはできない。一方、図13に示したMRセンサを用いた検出手法は、捕捉した個々の分子間の制御可能な空間分離をもたらすものであり、単一分子の検出・計数という目標を達成するためにはこちらの手法が好ましい。
【0017】
ちなみに、特許文献2は、スピンバルブ素子を用いて、磁気的な目印が付けられた粒子を捕獲、保持、操作および解放する技術を開示しているが、その粒子を搬送することの記載はない。
【0018】
特許文献1には、磁気粒子(ビーズ)を用いた分子の磁気的抽出手法が開示されている。また、Miltenyiらによる特許文献3には、流体から磁気標識された細胞を分離するために用いられる格子形式の磁性球が開示されている。Rohrらによる特許文献4は、磁気的に標識された粒子を結合する検定方法を開示している。Terstappenらによる特許文献5は、磁気的に標識された細胞の捕獲および解放する技術を開示しているが、搬送に関する開示はなされていない。
【0019】
上述したように、光学的検出手法およびMRセンサ検出手法を含む従来技術の各方法は一長一短で、個々の磁気粒子の存在を確実に検出するために有効な手法は提供されていなかった。
【0020】
本発明は上記課題に鑑みてなされたもので、その主目的は、かかる手法を提供することにある。
【0021】
すなわち、本発明の第1の目的は、磁気標識として生物学的分子または細胞等の被標識物質に付着した微小な磁気粒子の存在を検出することができる装置および方法を提供することにある。
【0022】
本発明の第2の目的は、単一の磁気標識された分子等を検出するために十分な感度を有する装置および方法を提供することにある。
【0023】
本発明の第3の目的は、そのような磁気標識された分子等が移動している場合において、その存在を検出できる装置および方法を提供することにある。
【0024】
本発明の第4の目的は、上述の磁気標識された分子等が、一つまたは複数の光学的に励起可能な染料によってさらに標識され、これにより磁気標識の付着と染料の付着との単一の準備過程を有する場合において、そのような分子等を検出することのできる装置および方法を提供することにある。
【0025】
本発明の第5の目的は、磁気標識された分子等を分離し単独で検出可能とすべく、溶液に含まれる分子等を搬送し誘導することのできる装置および方法を提供することにある。
【0026】
本発明の第6の目的は、1または複数の光学的に励起可能な染料によって発せられた放射光を用いて、磁気標識された分子等を分離し単独で検出可能とすべく、溶液に含まれる分子等を搬送し誘導することのできる装置および方法を提供することにある。
【0027】
本発明の第7の目的は、加えて、溶液から分子等の抽出を可能とし、光回折による悪影響なしにその光学的な同定を可能とする方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0028】
上記の本発明の目的は、近傍の導電線によって作動可能な、多層磁気デバイスの1または複数のアレイ、あるいは、互いに平行な複数の単層磁気ストリップ(幅よりも長さを有する矩形状の磁性層)からなる磁気ストライプを用いることによって達成することができる。これら磁気ストリップまたはデバイスは、磁気的および光学的に標識された生物学的分子等の被標識物質を、付着した染料の光学的励起とその染料により発生した励起放射の検出とによってそれらを個別に計数可能な位置まで磁気的に誘導し搬送する。これらのデバイスのいくつかは、図13に示したアレイにおいてセンサとして用いられるデバイスと実質的に同一であるが、以下に詳細に説明するように、それらは、磁化した磁気標識およびそれに付着した細胞あるいは分子を検出するものではなく、所定の方向に移動(搬送)させるよう動作するものである。
【0029】
[A.磁気的に標識された粒子の搬送と誘導]
パターン薄膜磁気構造により磁気標識を捕獲し解放する、この方法は、磁気標識をそれが付着した生物学的分子等と共に光学的検出のための目的位置に搬送し、必要に応じてその磁気標識された分子等を生体液から抽出するために用いられる。一旦、磁気標識された分子が光学的検出装置の位置に達すると、それらを個別に検出し計数することができる。
【0030】
上述のように被標識物質としての分子等は、それらの移動をもたらす磁気標識と、光学的検出を可能とする染料との両方を備えていなくてはならない。これらを備える方法は一段階準備過程として行うことができ、これにより生物学的な準備作業の複雑さを低減させることができる。また、光学的な検出のために染料を用いることによって、分子が含まれる溶液に起因して生ずる回折効果と強い背景雑音を排除することができ、分子の検出中での信号対雑音比(S/N比)がより良くなる。分子を個別に搬送することにより、単一分子を計数することができる。その検出手法としては、成熟した光学技術を用いるものであり、全過程を容易に実施することができる。以下、磁気標識の所望の誘導と搬送とを達成するために、デバイスのアレイと代替的な磁気ストリップのアレイとを如何にして用いるかを説明する。
【0031】
図1(A),(B)は、本発明の被標識物質捕捉・搬送装置に用いるデバイス、例えばMRセンサ12(a〜e)の列を模式的に表したものである。各デバイスは図11(A),(B)に示した三層構造のMRセンサ12と同じものである。
【0032】
MRセンサ12(a〜e)の各ピンド層14の底部は導電線16に接している。導電線16は紙面に対して垂直に延在し、その紙面側に向かう電流は×印付きの円、紙面側から外に向かう電流は点付きの円によりそれぞれ表されている。MRセンサ12の表面は保護膜17により覆われている。ここでは、磁気標識4と染料分子5が付着した生物学的分子2(ターゲット分子)とは、MRセンサ12(d)のフリー層13とピンド層14との両方の平行な磁気モーメント(矢印)による磁界によって、MRセンサ12(d)とMRセンサ12(e)との間の位置に捕獲されている。生物学的分子2は染料5が付着することにより光学的に標識されている。他のすべてのMRセンサ12(a〜c)のフリー層およびピンド層は、反平行の磁化を有しており、これによってそれらの側方エッジはネット磁荷が零となっている。
【0033】
図1(A)に示した状態から、MRセンサ12(c)での導電線16に流れる電流の向きが切り替わることにより、MRセンサ12(c)のピンド層およびフリー層の各磁気モーメントが平行になると、磁気標識4により、図1(B)に示したように、生物学的分子2が新たな捕獲位置(MRセンサ12(c)の位置)に移動する。このとき以前に捕獲していたMRセンサ12(d)は、その下の導電線16の電流の向きが逆方向となることにより、その側方エッジの磁荷が零に設定され、その結果磁気標識4を解放する。これにより生物学的分子2はMRセンサ12(c)に対向する位置に移動する。このような過程を順次繰り返すことで、磁気標識した分子2を、そのMRセンサ12(a〜d)のアレイに沿って任意の方向に運ぶことができるものである。
【0034】
上述の搬送過程を実現するためには、磁気標識4が、現在捕獲しているMRセンサ12と隣接するMRセンサ12との両方からの磁界を感知可能であることが必要となる。よって、磁気標識4の寸法は、MRセンサ12の幅よりも大きいことが好ましく、MRセンサ12の層は厚いことが好ましい。MRセンサ12の幅と等しいかそれよりも小さい寸法を有する磁気標識、または薄い磁性層によって形成されたMRセンサでは、生物学的分子2を効果的に搬送することが困難である。
【0035】
磁気標識4に対しては外部磁界を印加することが好ましい。すなわち、磁気標識4が隣接するMRセンサの磁界を感知できない場合には、現在捕獲しているMRセンサから解放された際に正しく移動できないことになるので、外部磁界を用いて、磁気標識が搬送されるべき隣接するMRセンサに対向する現在の捕獲MRセンサのエッジへの、磁気標識の移動を支援するものである。
【0036】
図2(A)〜(D)は、そのような外部磁界(鉛直磁界)を印加することによって磁気標識が付された分子2等の搬送を支援する手法を模式的に表したものである。ここに、x,yおよびzの直交座標軸は磁界方向および動きの方向を特定する。まず、図2(A)において、磁気標識4は、当初MRセンサ12(d)(ピンド層およびフリー層の磁化方向が平行)の右側のエッジの磁界によって引き付けられ、且つ+z方向に沿う鉛直の磁化成分を有するMRセンサ12(d)のエッジの磁界によって、それ自体が磁化される(磁気標識4の矢印55)。
【0037】
図2(B)に示したように、−z方向に外部磁界100が印加されると、−zの磁化成分を有する磁気標識4が再磁化(矢印55)され、これにより磁気標識4は、より低い磁力を得るべくMRセンサ12(d)の左側のエッジに移動する。
【0038】
図2(C)はこの外部磁界100がオフにされた状態を表している。この状態では、MRセンサ12(c)の下方の導電線16に流れる電流によって、MRセンサ12(c)のフリー層の磁化方向はそのピンド層の磁化方向と平行になるように切り替えられる。同時に、MRセンサ12(d)の下方の導電線16に流れる電流がオフになり、MRセンサ12(d)のフリー層の磁化方向は元の状態に戻される。よって、MRセンサ12(d)は今度は磁化方向が反平行状態となり(ネット零磁界)、MRセンサ12(c)は磁化方向が平行となる。従って、磁気標識4はMRセンサ12(d)からは解放され、一方MRセンサ12(c)により捕獲される。また、磁気標識4の磁化55は、MRセンサ12(c)の磁界によって今度は+z方向の磁化成分を与えらる。ここで、磁気標識4の捕獲作用は、磁気標識4の磁力の平衡の観点、または磁気標識4およびMRセンサ12の系の極小静磁エネルギーの観点から理解することもできる。図2(D)では再び外部磁界100が印加され、磁気標識は再びアレイに沿って負のy方向(−y方向)に搬送される。
【0039】
この方法では、外部磁界100を印加することにより、磁気標識4を大型化する必要はなく、MRセンサ12の膜厚を厚くする必要がなくなる。また、印加される磁界の方向と、隣接するMRセンサ12の捕獲・解放過程のシーケンスとにより、搬送方向も容易に制御することができる。これにより、磁気標識4の捕獲および解放の信頼性も高くなる。
【0040】
以上はMRセンサ12として、フリー層およびピンド層を有する三層構造のものを用いて説明したが、これに限定されるものではなく、単一の磁性層構造を用いるようにしてもよい。
【0041】
図3(A)〜(D)は、そのような単層磁気構造とその構造のアレイの一例とを模式的に表したものである。図2(A)〜(D)の多層構造のMRセンサとは異なり、図3(A)〜(D)では、長い帯状の1つの磁性層13(磁気ストリップ)のみを用いる。ここでは、磁気ストリップが、その長さ方向(x軸方向)に沿って比較的強い磁気異方性を有しており、その長さ方向が、磁気標識4の搬送路に垂直であることを想定している。よって、磁気ストリップの磁化は、外部からの磁界の印加がない場合は、自然にx軸方向に沿っている。その結果、磁気標識4を引き付ける磁界を発生するy軸層のエッジの磁荷は存在しない。磁気標識4の捕捉は、磁性層13の下の導電線16に+x方向の電流が流れることで磁性層13に磁界を発生させ、その磁性層13を+y方向に磁化することによってのみ行う。磁性層13の強力な磁気異方性は、層形成の際にx軸方向に沿って強い結晶異方性を誘導させることで得られる。また、磁性層13の強力な磁気異方性は、x軸に沿った層の長さをy軸方向の幅よりもはるかに長くすることで、x軸に沿った強い形状異方性を発生させることによっても得ることができる。
【0042】
図3(A)〜(D)に示した手順による捕獲・解放過程は、磁気標識4の捕獲および解放が、上述の三層MRセンサ内の平行または逆平行の磁化方向によるものではなく、単一の磁性層13にてオン・オフされる電流場を用いることによる以外は、図2(A)〜(D)において説明した原理と同じであるので、その説明は省略する。その電流場は、導電線16に流れる電流によって発生する。なお、円で囲んだ×印は紙面側に向かう電流を示す。この手法の利点は、磁気および電気的な構造がより単純で、膜層のそれぞれにより発生する磁界の強度を電流振幅によって制御可能である点にある。
【0043】
図4(A)〜(D)は、図3(A)〜(D)に示した単一の磁気ストリップを用いた手法の変形例を模式的に表すものである。6つの磁性層13(a〜f)はy軸方向に沿う磁化容易軸(矢印)を付与する固有異方性を有する。隣接する磁性層13間の間隔は非常に狭くなっている。ネットの捕獲磁界が実質的にない「解放」状態では、図4(A)に示したように全ての層は同一の方向に沿って磁化されている。よって、ある磁性層13のエッジの磁荷からの磁界は、隣接する磁性層13のエッジの負の磁荷からの磁界によって相殺される。すなわち、その磁性層13間の有効磁界は零に近い。これにより分子2に付着した磁気標識4は誘導磁化を有さず、自由に移動可能となる。
【0044】
図4(B)は、捕獲中において、磁性層13(d)がその下の導電線16に流れる電流によって他の磁性層13に対し反対方向または逆平行に磁化されている様子を表している。よって、隣接する磁性層13(c)のエッジおよび磁性層13(d)のエッジの界面の磁荷(両方とも「負」)と、隣接する磁性層13(d)のエッジおよび磁性層13(e)のエッジの界面の磁荷(両方とも「正」)とは、破線の磁力線50で示すネット磁界を発生し、磁気標識4内に磁化55を誘導する。この変形例の利点は、図3(A)〜(D)のものとは異なり、現在の磁性層13の磁化方向にが切り替えられた際、その切り替わった磁化方向を維持するための電流発生磁界を必要としないことにある。また、捕獲状態中において、捕獲磁界は、図2(A)〜(D)のような1つの三層構造MRセンサや、図3(A)〜(D)のような一つの磁性層13によるものではなく、磁性層13(c)および磁性層13(e)と、磁性層13(e)および磁性層13(d)と、の2つの隣接する磁性層13のエッジの磁荷により発生する。よって、捕獲磁界の振幅と磁性層13からの勾配とを、上記の例と比較して高くすることができる。
【0045】
磁性層13のアレイに沿った磁気標識4の搬送は、直流磁界を印加することにより、図2(A)〜(D)および図3(A)〜(D)に示した例と同じ方法で行うことができる。但し、この構造においては、磁性層13同士が接近し且つエッジの磁界が高い、すなわち、隣接する磁性層13間のエッジの磁界が高いことから、磁気標識の搬送を簡素化することができる。図4(C)は、磁性層13(c)の磁化が磁性層13(d)の磁化と同一方向に切り替えられ、その結果、磁性層13(c)と磁性層13(d)との磁化方向の組み合わせにより発生した磁界(破線の磁力線51)が、磁気標識4の磁化55を変化させ、その誘導的に磁化した磁気標識4を−y方向に引き寄せている状態を表している。次に、磁性層13(d)の磁化方向は、図4(D)に示したように逆向きとなる。すなわち、磁性層13(d)は、今度は図4(A)に示した元の状態となる。これにより、磁気標識4は印加磁界の支援なしに左側に自動的に移動し、今度は磁性層13(c)と磁性層13(d)との間に捕獲される。このように本例では、前述の外部磁界を用いる必要がないので、搬送手順が簡略化される。
【0046】
上述のように単一の磁気標識のそれぞれを搬送する他にも、連鎖した磁気標識間の十分な分離を確保するために、2つの隣接する磁気標識を分離することも同様に重要である。上記のE. Mirowski らは、数個の粒子が積層膜からの磁界を受けている場合、それらは粒子内の磁界によって結合した連鎖状態を形成する傾向にあり、それら粒子は自然には分離しないことを実験的に証明している。よって、連結した磁気標識を個別に搬送する前に、特定の手順を用いてその連鎖状態の磁気標識を互いに切り離す必要がある。
【0047】
図5(A)〜(D)は個別の搬送を行うべく連鎖状態の磁気標識4を個別に分離するための手順を模式的に表したものである。ここでは、図2(A)〜(D)と同様に3層構造MRセンサを用いる。磁気標識の連鎖(ここでは、2つの磁気標識4,41のみを示す)は、最も近接する2つのMRセンサ12により磁気標識4を同時に捕獲することによって分離することができる。
【0048】
図5(A)では、磁気標識4,41が、MRセンサ12(c)とMRセンサ12(d)との間、およびMRセンサ12(d)とMRセンサ(e)との間にそれぞれ捕獲されている状態を示している。このような捕獲はMRセンサ12(c)の磁化方向が逆転されてMRセンサ12(c),(d)間の捕獲磁界を形成し、磁気標識4およびその後の磁気標識41も捕獲することにより生じる。以下の手順では、先頭の磁気標識4は、図2において個々の磁気標識が搬送されたのと同様に、順方向に搬送されることとなる。但し、ここでは、前方の磁気標識4の後にあるMRセンサ12(d),(e)間の位置に磁気標識41を捕獲することで、その磁気標識41を先頭の磁気標識4の後ろに位置させ続けるものであり、この点において上記実施の形態とは異なっている。
【0049】
図5(B)は−z方向に印加磁界100が印加された状態を表している。ここでは、MRセンサ12(e)の磁化方向が逆転されて、磁気標識41をMRセンサ12(d),(e)間に捕獲している。その一方、磁気標識4は外部磁界100によってMRセンサ12(b),(c)間の位置に移動する。
【0050】
次に、この外部磁界100をオフにすると、図5(C)に示した状態となる。すなわち、MRセンサ12(c)の磁化方向は反平行に切り替えられることにより、磁気標識4を解放する一方、MRセンサ12(d)の磁化方向は逆転されて平行状態になり、これにより磁気標識4を引き付ける。MRセンサ12(e)の磁化方向は逆転されていないので、後続の磁気標識41を保持し続ける。図5(D)は、磁気標識4がMRセンサ12(a),(b)間に捕獲されるようにすべく、再び外部磁界(下向きの矢印)100が印加され、図5(B)の過程と同様に磁気標識4を−y方向に移動させた状態を表している。
【0051】
このような手順により、図2(A)〜(D)のものと略同一なこの逐次の捕獲・解放過程を介して、最も外側の磁気標識4を後続する磁気標識41から分離し、磁気標識の連鎖の連続する要素(図示せず)から一つずつ離して搬送することができる。これにより、各磁気標識を付着した分子2の個別の検出が可能となる。
【0052】
図6は、磁気標識4が付着した単一分子2の搬送を維持する手助けとなる付加的な特徴を模式的に表したものである。この磁気標識4による分子2の搬送は、エッジ(縁部)17,18により画定される搬送チャネル170内で実現される。一連の互いに平行な磁性層13(あるいは三層構造のMRセンサ)の各々の下部は、磁性層13(あるいはMRセンサ)の磁化方向を変更可能な導電線16に接している。搬送チャネル170の幅は、単一の磁気標識4,41のそれぞれの直径よりも大きくなっている。この搬送チャネルの幅は、磁気標識4,41の直径の2倍未満であることが好ましい。このような搬送チャネルを図5(A)〜(D)等で説明した手順に適用することによって、磁気標識4が付着した単一分子2を搬送チャネル170内において常に個別に搬送させることができる。
【0053】
[B.溶液内での磁気標識の濃縮と制御配列]
上述した単一磁気標識の搬送手順を実用化するためには、磁気標識および染料と結合した多様な分子や細胞を含む溶液内で、ターゲットとなる分子等に付着した磁気標識のみを分離し選別する必要がある。また、個別の磁気標識の搬送に加えて、最終的に分子等の光学的検出を行うために、分離された磁気標識を搬送チャネルに個別に誘導させる必要がある。
【0054】
図7(A)は、このような目的を達成するための誘導分離搬送装置の一例を模式的に表したものである。
【0055】
この誘導分離搬送装置は、溶液閉じ込め構造を有する。この溶液閉じ込め構造は、実質的に3つの領域、すなわち貯留領域500、漏斗状のチャネル移行領域190および搬送チャネル170を有している。貯留領域500は、多数の磁気標識4が付された分子2を含み、その方には前述と同様の長い磁性層13が形成されている。磁性層13の下には導電層(図示せず)が設けられ、前述のように磁界の変動をもたらすようになっている。チャネル移行領域190は、貯留領域500から搬送チャネル170への入り口であり、磁気標識4に付着した分子2を1つずつ搬送チャネル170へ送り込むために用いられる。磁気標識4は、貯留領域500の下方に設けられた磁性層13により捕捉され、搬送チャネル170内で磁気標識4に作用する同じ搬送メカニズムにより、溶液内から搬送チャネル170の入り口まで移動する。磁気標識4が搬送チャネル170への入り口に達すると、その磁気標識4は捕捉され、図4(A)〜(D)および図5(A)〜(D)に示した手順で、実質的に同一であるが、より短い磁性層13によって搬送チャネル170に沿って個々に搬送される。
【0056】
図7(A)では、1の貯留領域500に対して搬送チャネル170を1つとしたが、図7(B)に示したように、1の貯留領域500に対して複数、例えば3つの搬送チャネル161,162,163を設けるようにしてもよい。各搬送チャネル161〜163における誘導搬送は、上記と同様に各チャネルの下方に形成された個別の磁性層13のアレイにより行われる。
【0057】
ここで、上述した磁気標識4の搬送手順では、搬送チャネル内に溶液が存在することは必要とされない。上記誘導分離搬送装置では、磁気標識4を貯留領域500から誘導可能であると共に、その磁気標識4を搬送過程の最中に溶液から物理的に分離することも可能である。例えば、磁気標識4を溶液よりも高い位置に上昇させることにより、その溶液から物理的に離すことができる。よって、その後、磁気標識された分子の光学的検出を、液体からの回折およびその液体内の未結合の染料による影響なしに行うことができる。これにより高い信号対雑音比を得ることができる。
【0058】
[C.個別の磁気標識の運搬および位置決めを伴う単一の分子等の光学的検出]
磁気標識と共にターゲット分子を所望の最終位置へ個々に搬送するに伴って、ターゲット分子を光学的に検出することができる。本例では、この光学的検出を、従来には必要とされた試料表面全体の二次元画像化、またはその振幅が分子の個数と相関する絶対光信号を取得することが必要な振幅個数相関を用いることなしに開始することができる。
【0059】
図8(A)は、磁気標識が付されると共に染色されたターゲット分子187を光学的に検出するためのシステムを模式的に表したものである(磁性層13は図示せず)。すなわち、染色された分子187のための適切にフィルタリングされた励起光源22からの光が搬送チャネル170の狭い領域(小領域)を透過する。その領域では、励起光が磁気標識されたターゲット分子187に個別に作用する。これによりターゲット分子187に付着した染料分子が励起し検出光として発光する。その検出光は、励起光を除去する二次光学フィルタ188を介して光検出器11に入射する。このシステムでは、光検出器11は励起光源22側から見て搬送チャネル170の反対側に位置しているが、光検出器11を励起光源22と同じ側に設けてもよい。
【0060】
図8(B)は、光検出器11により電気信号に変換された光検出信号の一例を表すものである。縦軸は光信号強度、横軸は時間をそれぞれ示している。励起光源22と光検出器11との間を磁気標識4が通過していない場合には、励起光源22からのフィルタリングされた光が到達することによって基準信号90が発生する。励起光源22と光検出器11との間を磁気標識4が通過すると、励起光が妨げられ、信号強度に僅かに低下部分95が生ずる。そして、励起光がターゲット分子187上の染料を励起すると、信号ピーク97として現れる誘導発光が生じる。励起光源22と光検出器11とが搬送チャネル170の同じ側にある場合には、吸収による低下部分95は、磁気標識4の反射による若干のピークによって置換し得るが、そのような磁気標識の反射によるピークは、染料の誘導発光によって発生したピーク97に対して相対的に小さい。
【発明の効果】
【0061】
本発明の被標識物質捕捉・搬送装置によれば、小さな磁気粒子が磁気標識として付着した生物学的分子または細胞などの被標識物質を効果的に捕捉し、誘導搬送することができ、更には本発明の同定・計数方法および計数・選別方法によって、誘導搬送された被標識物質の同定、計数および選別を効率よく行うことができる。本発明では、従来の光学的画像化・検出手法と比較すると、高度に集束された励起光および光ファイバを含む狭視野角光学系を用いることができ、バックグラウンド干渉が殆ど発生することはない。また、分子等の被標識物質を個別に検出することができるので、その分計数は信号振幅によるものではなく、信号における染料発光のピークの数による。これにより感度が向上すると共に雑音に対する安定性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0062】
以下、本発明を実施するための最良の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0063】
本発明の好適な実施の形態は、微小の、典型的には超常磁性の磁気粒子が磁気標識として付着した被標識物質を搬送し、誘導するためのデバイス、およびそのデバイスを用いて、磁気標識が付着した個々の被標識物質を検出し計数する方法である。磁気的に標識される被標識物質は、好ましくは生物学的分子または細胞であるが、これに限定されるものではない。以下、一例としてMRセンサのアレイ構造を用いて磁気標識を逐次捕獲、解放することで被標識物質の誘導搬送を行う方法を説明する。
【0064】
本実施の形態による磁気標識の誘導搬送方法は、ターゲットとなる生物学的分子または細胞を個別に操作し検出する生物学的検定法に用いることができる。この方法では、まず、磁気標識と光学的に励起可能な蛍光染料または自己発光性の化合物とを、準備過程を経てターゲット分子等に貼り付ける。次に、そのように準備した磁気標識および染料が付着した分子等を含む溶液を、閉じ込めデバイスに導入する。その閉じ込めデバイス内では、磁気標識された細胞等が操作されつつ溶液が保持される。
【0065】
この操作には、MRセンサによる磁気標識の個別的な捕獲と、逐次の捕獲および解放を行う過程を介した閉じ込め領域の下方に形成された磁気構造アレイへの搬送とが含まれる。磁気構造アレイは、矩形状の単層磁気ストリップ、他の概ね矩形状の幾何学的形状を有する磁気ストリップ、または磁気三層構造デバイス等のさらに複雑なパターン多層磁気デバイスとすることができ、それらすべては電流で作動する。搬送されるべき磁気標識(および付着した生物学的分子または細胞)は、搬送チャネルによる搬送前に、漏斗状のチャネル移行領域を経て狭く直線状の搬送チャネルに個別に導かれる。そこでは、磁気標識は一つずつ搬送されて互いに物理的に分離されることから、個々の磁気標識された分子等を、殆ど干渉を受けることなく光学的に検出することができる。このようにして、磁気標識をそれに結合した分子とともに元の溶液の場所から抽出・搬送し、これにより単一分子あるいは単一細胞レベルの分離および高精度の光学的検出が可能になる。
【0066】
磁気細胞または分子の従来の抽出、および光学的な画像化またはセンシング技術と比較すると、この方法では単一の細胞または単一の分子の検出が可能になる。この方法は、生物学的被標識物質を操作するために流体工学に依存せず、より精密に制御された磁気力を用いて単一の磁気標識を誘導する。また、検出過程では、感度レベルを制限する過剰なバックグラウンド干渉を含む二次元画像化に依存せず、ターゲット個数と相関関係にある光信号振幅にも依存しない。この個別的な磁気標識の搬送によって、信号検出をピークパターン認識によって行うことができる。搬送された磁気標識と付着された分子等との間の一対一の相関関係の場合では、分子等の計数は光信号の振幅変動とは殆ど無関係である。
【0067】
図13に示した従来の二次元MRセンサ検定法と比較した場合でのこの方法の利点は、本方法では検定面に対するターゲット分子の捕獲過程を必要としないことである。また、従来のように未結合の磁気標識を後に除去するプロセスも不要である。このようなことから検出前の生物学的な準備手順を減少させることができる。
【0068】
また、従来の光学的方法では、光信号の大量のサンプル検出が行われることから、生物学的ターゲットが比較的大型で、有意な信号を発生させるために単一の細胞表面に付着させる染料分子の数を多くすることが可能な細胞への応用に対しては精確である。しかし、より小さな分子の検出に対しては、ターゲット分子に付着した染料からの光信号は、より大型の磁気標識によって容易に妨げられてしまう可能性がある。他方、従来のMRセンサを用いた手法では、分子レベルの応用に適するが、十分な磁界を発生させるために磁気標識がMRセンサに対して接近させる必要がある。更に、捕獲した被標識物質が未結合の磁気標識の除去過程で除去されないようにするため、捕獲したターゲットと検定面との間の強い結合力を必要とする。また、細胞の場合には大型であるため、磁界または除去過程での流れ力がその結合を容易に破壊する可能性がある。
【0069】
これに対して、本実施の形態では、生物学的細胞検出手法と分子検出手法との両方を殆ど変更せずに容易に採用することができる。細胞検出の場合、チャネル幅は搬送されるユニット(磁気標識によって覆われた単一細胞)の大きさよりも大きくすることが求められるが、その大きさの2倍未満である。分子検出の場合では、搬送ユニットはその後単一の磁気標識となる。
【0070】
本実施の形態の磁気標識は、ゼロ磁場で非凝集状態となり、磁化可能で、必要とされる生物学的または化学的な化合物を確実にコーティング可能な、機能的且つ市販の磁気標識を想定している。そのような要素は他の従来技術では公知のものである。本実施の形態による搬送体は、具体的には磁気標識、この磁気標識が付着した単一あるいは複数の生物学的分子、あるいは磁気標識がコーティングされた細胞である。なお、分子や細胞に限らず磁気標識を付着可能なものであれば、他の物質も本発明により誘導し搬送することができる。更に、本実施の形態では、多層磁気薄膜構造が関連した生物学的または化学的環境で機能することを可能とする、必要なあらゆる保護層およびコーティングを想定している。
【0071】
以下、次の順で説明する。
(1)電流誘起の磁界により制御され、磁気標識を捕獲し解放する磁気薄膜構造またはデバイス。
(2)外部磁界による補助の有無による、磁気標識の順次の捕獲・解放を介してデバイスのアレイに渡って磁気標識を搬送するための方法。
(3)磁気的に結合した磁気標識を分離して、別個の搬送を行う方法。
(4)チャネル移行領域において、捕獲解放メカニズムを用いた磁気標識の収集・誘導分離方法。
(5)ピークパターン認識を用いる光信号検出方法。
【0072】
上記5つの側面に鑑み、以下の観点から本実施の形態を5つのカテゴリーに分類する。 1−捕獲構造
2−搬送方法
3−磁気標識の分離
4−磁気標識の収集と誘導分離
5−信号検出
【0073】
よって、本実施の形態において考え得る構成は、上掲の5つのカテゴリーの以下のサブ実施の形態の任意の組み合わせとすることができる。
【0074】
[1−捕獲構造]
磁気標識の捕獲および解放は、磁気薄膜構造の側方エッジからのエッジ磁界を介してなされる。そのエッジ磁界は、対応する磁性層の磁化方向を異なる方向に切り替えることでオン・オフされる。磁性層の切り替えは、パターン膜の近傍を流れる電流によって発生する磁界によってなされることが好ましいが、これには限定されない。また、捕獲磁界の有無は、そのような側方エッジの表面の「磁荷」の観点からも説明することができる。そのような磁荷は、領域内の磁化の発散の作用を説明するための代替的なメカニズムであり、閉曲面における矢印の集積として図形的に考えることができる。
[実施の形態1A]
【0075】
図9(A)に模式的に示す捕獲構造(「デバイス」とも称する)は、ここでは図示しない保護層の下方に形成されている。なお、本実施の形態で用いられている用語「捕獲」は、略固定位置における磁化した磁気標識の捕捉および保持を意味している。
【0076】
磁気標識は、捕獲構造の磁界により引き付けられ、以下に説明するように、閉じ込めデバイスの底面とすることができる保護層の上面へ移動する。その磁気標識は、図の直交座標系で示される方向2に保護層の表面に沿って搬送される。捕獲構造は多層的なデバイスであり、フリー層13と、非磁性層(スペーサ層)15と、ピンド層14と、方向1に沿った両方向矢印で示すいずれの方向にも電流19を伝えることが可能な導電線16と、の4つの部分を有している。フリー層13の磁化方向は、方向2に沿った両方向である。非磁性スペーサ層15は、フリー層13とピンド層14とを結合する磁気交換を断ち切る役割を果たす。ピンド層14の磁化は、方向2の一方向(図面では負方向)に沿って固定され、外部磁界によって容易に切り替えがなされないようになっている。ピンド層14の方向2のピンド磁界は、そのピンド層14を形成する材料の強力な異方性磁界、ピンド層14と接する反強磁性層(図示せず、但し磁気ピンド層14の一部とすることもできる)との交換結合、または、磁気ピンド層14に接続された合成反強磁性(SAF:Synthetic AntiFerromagnetic )構造(図示せず、但し磁気ピンド層14の一部とすることもできる)によって発生させることができる。これらの方法は、MRセンサを製造する分野では一般的に周知であるので、その詳細な説明は省略する。
【0077】
ここで、捕獲構造の平面形状は、菱形、台形および他の四辺形等の、種々の幾何学的形態のうちの任意の形状とすることができる。図9(E)は、フリー層13の平面形状が四角形、台形または菱形である場合での図9(A)〜(D)に示す構造の配列状態を表すものである。磁気標識を捕獲可能な強力なエッジ磁界を発生させるために、隣接した磁気構造は互いに対向する平行なエッジを有することが好ましい。但し、そのような隣接する磁気構造間による平行性は、直線状のエッジを有する種々の断面形状によって達成可能ではあるが、それらは必ずしも同じ構造において対応するエッジとは平行ではない。見やすさと説明の便宜上、本実施の形態では捕獲構造を矩形状とする。
【0078】
電流19は、導電層16をその面内に沿って流れる。電流19によって発生した磁界は、フリー層13の磁化方向を、方向2の正の方向と同じまたは反対の方向に切り替える。捕獲状態では、フリー層13の磁化方向は、ピンド層14の磁化と同じ方向に切り替えられている。解放状態では、フリー層13の磁化方向はピンド層14の磁化方向とは反対方向に切り替えられる。
[実施の形態1B]
【0079】
図9(B)に模式的に示したデバイスは、図9(A)に示したデバイスと同様であるが、隣接する導電層(図9(A)の導電層16)がなく、代わりに電流19が非磁性層15を流れる点で異なっている。
[実施の形態1C]
【0080】
図9(C)は、やはり保護層の下方に形成されるデバイスを模式的に表したものである。この保護層の下方の捕獲構造により、磁気標識は保護層に対して引き付けられる。捕獲構造は、1つの磁性層13と導電層16との2つの部分を有する。その磁性層13の自然磁化または正規磁化は、方向2に垂直な方向1の面内に沿った内部磁界によって確保されている。磁性層13の内部磁界は、結晶異方性、形状異方性および応力誘導異方性のいずれか1つまたはそれらの組み合わせによるものとすることができる。また、磁性層13の内部磁界は、上記したように隣接した反強磁性層(図示せず)との交換結合、または図示しないSAF構造によっても発生させることができる。電流19は、方向1に沿って導電層16を流れ、磁界を発生することで磁性層13に方向2の磁化成分を誘起する。なお、磁性層13の磁化方向を方向1に沿って示しているが、導電層16を流れる電流19は、方向2の磁化成分を誘起するものである。捕獲状態では、磁性層13は、導電層16の電流場によって磁化されて方向2の磁化成分を有し、これによって方向2の(側方)エッジに表面電荷を形成する。解放状態では、導電層16の電流により発生した磁界はオフとされ、磁性層13は方向2の磁化成分を失うことで、再び方向1に完全に沿うようになる。
[実施の形態1D]
【0081】
図9(D)は、材料的および幾何学的に図9(C)のものと同一であるが、磁性層13の磁化方向が捕獲状態と解放状態との両方の状態において方向2と完全に並んだままとなる点で大きく異なる捕獲構造を表したものである。電流19は、導電層16を方向1に沿って流れ、磁界を発生させて磁性層13の磁化方向を方向2に沿った2つの方向間で切り替える。磁性層13の磁化は、結晶異方性、形状異方性および応力誘導異方性のいずれか一つまたはそれらの組み合わせ、または電流19により誘起された磁界によって、方向2に沿って固定される。ピンニング磁界は、磁性層13の下方の反強磁性層(図示せず)との交換結合、または図示しないSAF構造によっても供給可能である。捕獲状態では、デバイスのそれぞれの磁性層13の磁化は、磁気標識を捕獲している特定のデバイス以外は同一の方向に向いている。その捕獲デバイスの磁化は、隣接するデバイスの磁化とは反対方向に切り替えられている。解放状態中、すべてのデバイスの磁化方向は同一となる。
[2−搬送方法]
[実施の形態2A]
【0082】
搬送される物質は、単一または複数の分子あるいは細胞に付着した磁気標識である。また、この物質は、それ自身が複数の磁気標識に付着した分子によって覆われた細胞とすることもできる。磁気標識に失敗なく付着可能な分子および細胞の組み合わせの多様性から、以下の記載では搬送される対象を単に「テストユニット」と称する。
【0083】
テストユニットの搬送は、一度に1つのユニットずつとすることが好ましいが、これには限定されない。テストユニットの一定方向への搬送は、それぞれ実施の形態1A〜1Dとして説明した図9(A)〜(D)に示す空間的に分離された捕獲構造アレイによって達成され、アレイが整列していることにより、一定方向または搬送路に沿ったテストユニットの搬送が行われる。図10(A)は、図7(A)のものと実質的に同一な、テストユニットの搬送のための単純な構造を模式的に表わしたものである。例えば、図9(A)〜(D)に示した、平行な磁気ストリップ13のアレイまたはデバイスは、閉じ込めエッジ17により画定される貯留領域の下に設けられる。本実施の形態では、搬送チャネル170も同様にエッジによって画定され、磁気ストリップ等の平行な磁気ストリップ13のアレイが、その搬送チャネルの下部に形成されている。貯留領域の下部の磁気ストリップおよびチャネルの長さは、異なるものとする。
【0084】
テストユニットの搬送は、搬送チャネル170を介して行われる。搬送チャネル170の長さは、搬送チャネルに沿ってユニットの大きさよりも著しく長く、その幅は、搬送チャネルに対して垂直で単一のユニットの大きさ(例えば、直径)よりも大きいが、その大きさの2倍未満である。捕獲構造(すなわち、図9(A)〜(D)に示す磁気構造と、図9(E)の考え得る形状のバリエーション)は、図9に示した方向2に沿った搬送チャネル170の下方に設けられている。
【0085】
捕獲構造の経路横断方向の幅が、単位時間当たりの一つの搬送対象のテストユニットを閉じ込めるために十分に小さく調整可能な場合には、閉じ込めチャネル構造を使用せずに搬送することもできる。また、捕獲構造の経路横断方向の幅を大きくすると、一定時間内により多くのテストユニットを搬送することができる。
[実施の形態2B]
【0086】
捕獲構造のアレイに沿ったテストユニットの搬送は、搬送方向に隣接する捕獲構造における逐次の捕獲および解放によって実現される。また、テストユニットの搬送は、一時的に加えられる外部磁界によって支援される。一つのテストユニットが捕獲構造のエッジ(捕獲状況を形成すべく磁気的に方向されたデバイスのエッジ)によって捕獲された場合、印加された磁界はユニットに付着した磁気標識を磁化し、これによりユニットは、そのユニットにさらに低い磁力を与える隣接する捕獲構造のエッジに移動する。ここで、捕獲された磁気標識の状態は、エネルギー的には、磁気標識アレイ系の極小の局所的な静磁エネルギーの位置にあると見ることができる。外部磁界を印加することによって、磁気標識がそのような極小エネルギーに向かって移動する作用が支援される。外部磁界が磁気標識を移動させる方向の隣接するエッジを、その磁気標識が次に搬送されるべきエッジと同じエッジとすることにより、初めの捕獲構造を解放状態に置き(その磁化を再設定することによって)且つ外部磁界をオフにした際、ユニットはより良い併行精度で隣接する捕獲位置にいっそう容易に移動する。
【0087】
[3−捕獲デバイスによる磁気標識の分離]
第1のテストユニットが捕獲磁界により捕獲され、且つ他の近接する磁気標識が磁気標識内の磁気力によってそのテストユニットに連鎖している場合、第2のテストユニット上の隣接する磁気標識に、別のより遠隔のアレイサイトから捕獲磁界を印加することにより、その連鎖した磁気標識を分離することができる。図5(A)〜(D)に示したように、この第2のテストユニットを捕獲することにより、第1のテストユニットが残余の連鎖したユニットから分離し且つそれから離れて搬送されることが可能になる。
[実施の形態3A]
【0088】
搬送対象ではない連鎖したテストユニットが捕獲されているサイトの捕獲モードを維持することにより、それらの連鎖ユニットからの第1のテストユニットの分離、およびその第1のテストユニットのターゲットサイトへの搬送を、搬送方向に隣接する捕獲デバイスの逐次の捕獲および解放によって実現する。第1のテストユニットに隣接するサイトがその第1のテストユニットがそれに向かって搬送されるターゲットサイトとなり、最初にその隣接するサイトの磁界が捕獲状態へとオンにされ、その後、現在第1のテストユニットを捕獲している捕獲磁界がオフにされる(その解放状態に置かれる)に伴い、第1のテストユニットは、そのユニットが隣接するサイトから与えられる磁界に起因して、隣接するサイトに移動することになる。
[実施の形態3B]
【0089】
一時的に外部磁界を印加すると共に、搬送対象ではない連鎖したテストユニットが捕獲されているサイトの捕獲モードを維持することにより、それらの連鎖ユニットからの第1のテストユニットの分離と、その第1のテストユニットのターゲットサイトへの搬送とを同時に実現することができる。印加された外部磁界は、各ユニット内の磁気標識を磁化し、これによって第1のユニットと連鎖した第2のユニットとは、それらを捕獲している捕獲デバイスの最も低い静磁エネルギーを有するエッジへと移動する。その連鎖の残余のユニットは、すべて隣接する第2のユニットに付着しているので、第1のユニットが捕獲されている最低エネルギーを有するエッジであって、そのユニットが次に搬送されるべき隣接するデバイスに対向するエッジを外部磁界下に置くことで、隣接するデバイスがその捕獲状態にある場合、ユニットはその隣接するデバイスからより高い磁界を受けることになる。第1のユニットを捕獲しているデバイスがその解放状態に置かれ、隣接するデバイスが捕獲状態に置かれ、そして印加磁界がオフにされた際、第1のユニットは、隣接する捕獲デバイスに移動し、そして連鎖の残余のユニットから離れて搬送されることが可能となる。
[4−磁気標識の収集と誘導分離]
[実施の形態4A]
【0090】
図10(A)は、テストユニットを含む液状の生物学的試料液を模式的に示している。テストユニットは、磁気標識が付着した生物学的分子4である。その試料液は、未付着の磁気標識を含んでもよい。この試料液は、平面だが閉じ込められた貯留領域17内に沈着される。貯留領域17はチャネル移行領域190を有する。このチャネル移行領域190は、テーパ状または非テーパ状とすることができるが、ここでは漏斗状としている。このチャネル移行領域190は、テストユニット4と未付着の磁気標識8とが搬送される狭い搬送チャネル170に至る。貯留領域17、チャネル移行領域190および搬送チャネル170は、すべて試料液を閉じ込めるための底面を有する。通常、それらは、試料液の閉じ込めを支援すべくそれらの周辺に沿ってエッジも有するが、上述したようにチャネル領域は、必ずしも閉じ込めエッジを有する必要はない。
【0091】
搬送チャネル170の底面の下方には、平行な捕獲構造のアレイ131が設けられている。平行捕獲構造のアレイ131は、下部に導電リード線または上述したような他のデバイスなどを有する、平行且つ密集した薄膜磁気ストリップのアレイである。貯留領域17およびチャネル移行領域190の底面の下には、チャネルの下部のものと同様のアレイ131が設けられているが、貯留領域17およびチャネル移行領域190の幅を横切って伸びるために、チャネルの下部のものよりも長くなっている。よって、チャネル移行領域190の下方のアレイ131が適切なサイトで捕獲状態に切り替えられた際、アレイ131は、試料液の貯留領域17からテストユニットを引き付ける。順次切り替えられる捕獲状態を連続的に適用することにより、テストユニットが、貯留領域17からチャネル移行領域190を介して搬送チャネル170へ移行し、一つずつこの搬送チャネル170に沿って移動する。
[実施の形態4B]
【0092】
図10(B)は、複数のチャネル移行領域90,91,92を有するシステムを模式的表したものである。複数のチャネル移行領域90,91,92のそれぞれは、図10(A)の単一の場合での構造と同一であり、それぞれ対応する搬送チャネル161,162,163に通じている。本実施の形態では、テストユニットはこれら搬送チャネル161,162,163を通じて並行且つ独立して搬送される。
[5−信号検出およびサンプル選別]
[実施の形態5A]
【0093】
図11(A)は、例えば図10(A)に模式的に示したもの等の構成(図示しない磁気ストリップ)の搬送チャネル170において、生物学的細胞または分子に付着した発光または蛍光染料により発生する光信号の検出を行う過程を模式的に表したものである。例示的なターゲット187上の染料の反応を誘起するために必要な励起光(検出器11とは反対側からの励起光源22、または検出器11と同じ側の励起光源222からの励起光)は、励起光学系122を通過し、光に対して透明な搬送チャネル170の小領域を照明する。その被照明領域の大きさは、多くても2つのユニットが同時に出現可能な程の大きさであることが好ましい。検出光学系110は、被照明領域から検出器11に光検出信号を送る。よって、テストユニットが検出光学系を通過した際、図8(B)で既に述べたように、検出器により信号のピークを発生することができる。励起光学系と検出光学系とは、部分的または全体的に光ファイバ要素によって構成することもできる。
[実施の形態5B]
【0094】
図11(B)は、搬送チャネル170を通過したテストユニット7が第2の貯留領域161に収集された状態を表している。テストユニット7が第2の貯留領域161に到達した後、放出された励起光は、第2の貯留領域161内の収集され且つ照明されたユニットから検出器11に達し、光信号として受光される。受光した光信号は第2の貯留領域161内のユニットの個数と関連付けることができる。このようにして、第2の貯留領域161の従来の二次元光学像が取得され、または光信号振幅と個数との相関が行われた場合、ターゲット分子等の存在および個数を、最初の貯留領域500内の試料液および未結合の光学染料による干渉なしに推定することができる。この方法では、必ずしもユニットを搬送チャネル170中に個別に搬送する必要はない。
[実施の形態5C]
【0095】
図11(C)は、光学的検出領域が、異なる搬送チャネル170,99の交点20にある構造を模式的に表したものである。拡大部分25に示す捕獲アイランド66は、図9(A)に示したデバイス等のデバイス66により形成され、その下部には、デバイス66を2つの異なる垂直方向のいずれの方向にも磁化可能な2つの電流路160,177が設けられている。本実施の形態では、搬送チャネル170,99毎に、テストユニットに対して磁気的に異なる種類の磁気標識を付すると共に、異なる光学染料を付着させる。これにより、捕獲アイランド66に搬送された際、図11(B)の場合と同様に、検出光学系110および検出器11によって検出された光信号に応じて、いずれのテストユニットも計数し、そして異なる搬送チャネル170,99に分路させることができる。よってテストユニットを別個の貯留領域に選別あるいは分離することができる。
【0096】
以上、実施の形態の形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、種々変形可能である。例えば、磁気的且つ光学的に標識された細胞および分子を個別レベルで検出できるように、それらを誘導し搬送するための捕獲・解放デバイスのアレイの形成、準備および使用に採用される方法、材料、構成および寸法は修正や変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】本発明の一実施の形態に係る磁気標識された生物学的分子の搬送過程を説明するための模式図である。
【図2】外部磁界の印加による生物学的分子の搬送支援を説明するための模式図である。
【図3】磁気標識された分子の搬送を、単層磁気構造のアレイを用いると共に、外部磁界の支援により行う例を説明するための模式図である。
【図4】磁気標識された分子の搬送を、固有異方性磁界が搬送方向に沿った単層磁気構造のアレイを用いると共に、外部磁界の支援により行う例を説明するための模式図である。
【図5】一対の磁気標識された分子を切り離して搬送する方法を表す模式図である。
【図6】搬送チャネルに沿って搬送されている磁気標識された分子を表す模式的な俯瞰図である。
【図7】多数の磁気標識された分子を含む溶液が、いかにして単一のチャネルまたは複数のチャネルに沿って誘導、搬送されるかを表す模式的な俯瞰図である。
【図8】チャネルに沿って搬送されている磁気標識された生物学的被標識物質の光学的検出を表す模式図であり、(B)は、(A)に示す検出過程により発生した光信号波形の模式図である。
【図9】磁気捕獲デバイスの種々の構成を表す模式図であり、(E)は(A)〜(D)の構成の平面形状を表す俯瞰図である。
【図10】磁気捕獲デバイスのチャネル誘導・搬送構造の一例を表す模式図である。
【図11】磁気標識された分子を検出するための光学検出系の3つの例を表す模式図である。
【図12】磁気標識が付着した液体中の生物学的分子を磁界によって液体から抽出する従来の技術を説明するための模式図である。
【図13】従来技術において、磁気抵抗(MR)センサマトリクスに磁気標識された生物学的分子が結合した状態を表す模式図である。
【図14】磁気標識された分子を捕捉および解放するために用いられるMR型磁気三層構造の模式図である。
【符号の説明】
【0098】
1…生体液、2…生物学的分子(ターゲット分子)、3…生物学的分子(非ターゲット分子)、4…磁気標識、5…染料、12…MRセンサ、13…フリー層(磁性層)、14…非磁性層、15…ピンド層(磁性層)、16…導電層、55…磁界、100…外部磁界、170…搬送チャネル、500…貯留領域、190…チャネル移行領域
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電線から発生する磁界によって磁化方向が変更可能な磁気薄膜構造のアレイにより磁気標識の逐次の捕獲および解放を実行し、前記磁気標識により標識された被標識物質を捕捉し、搬送するための被標識物質捕捉・搬送装置であって、
前記磁気標識された被標識物質を含む溶液を閉じ込め可能な底面および閉じ込め側面と、少なくとも1つの貯留領域と、前記被標識物質を少なくとも1つの搬送チャネルに搬送可能な少なくとも1つのチャネル移行領域と、を有する閉じ込め領域と、
前記閉じ込め領域の底面の下に形成され、各々が長さと幅と少なくとも4つのエッジを持つ平面形状とを有し、前記エッジの少なくとも2つが互いに平行且つその少なくとも2つのエッジの間隔が前記幅を画定し、隣り合う構造の対向し隣接するエッジが互いに略平行で、前記隣接するエッジ間に均一の間隔を有する、複数の薄膜磁気構造のアレイと、
前記閉じ込め領域の平面に略垂直に外部磁界を印加する磁界源と、を備え、
前記薄膜磁気構造の各々の少なくとも1つの層が、電流によって、前記平行なエッジに垂直または前記平行なエッジに沿う2つの同一線上の方向の少なくとも1つの方向に磁化可能であり、
前記磁化が、前記薄膜磁気構造によって発生する磁界が前記磁気標識を捕獲または解放可能かを決定付け、
前記アレイにおける前記薄膜磁気構造の磁化の空間的に逐次的且つ一時的に同期した変動、または前記外部磁界の一時的に同期した印加とともに作用する前記薄膜磁気構造の磁化の空間的に逐次的且つ一時的に同期した変動により、前記磁気標識された被標識物質を、個別に前記貯留領域から前記薄膜磁気構造の長さ方向に垂直な方向に沿って、かつ前記チャネル移行領域を介して前記搬送チャネルへと搬送する
ことを特徴とする被標識物質捕捉・搬送装置。
【請求項2】
前記被標識物質が光学的に励起可能な光学的標識を含むと共に、光の照射により前記光学的標識を励起し、これにより生じた光信号を検出する光学的検出ユニット、を更に備えた
ことを特徴とする請求項1に記載の被標識物質捕捉・搬送装置。
【請求項3】
前記被標識物質の光学的検出を前記被標識物質に付着した発光染料または蛍光染料によって生じた光信号により行うと共に、前記搬送チャネルの近傍に前記搬送チャネルの小領域に対して焦点を有する励起検出光学系を備え、前記被標識物質の数を検出する
ことを特徴とする請求項2に記載の被標識物質捕捉・搬送装置。
【請求項4】
前記磁気標識が微小な超常磁性粒子である
ことを特徴とする請求項1に記載の被標識物質捕捉・搬送装置。
【請求項5】
前記薄膜磁気構造のエッジまたは隣接する薄膜磁気構造の対向し且つ隣接する平行なエッジ間にネット磁荷が発生している場合に生じたそのエッジまたはそのエッジ間の磁界によって、前記粒子を磁化する
ことを特徴とする請求項4に記載の被標識物質捕捉・搬送装置。
【請求項6】
前記粒子と前記薄膜磁気構造との結合磁界により静磁エネルギーを極小化することによって、前記粒子に対する捕獲状態を形成する
ことを特徴とする請求項5に記載の被標識物質捕捉・搬送装置。
【請求項7】
前記磁気標識の前記外部磁界による磁化によって前記磁気標識の捕獲状態への移行を支援する
ことを特徴とする請求項1に記載の被標識物質捕捉・搬送装置。
【請求項8】
前記薄膜磁気構造の各々が、
第1の方向に向けられた平行な側方エッジと、前記第1の方向に略垂直な第2の方向に沿った2つの方向間で切り替え可能な磁化方向とを有する第1の磁性層と、
前記第1の磁性層と同一且つ同延に形成され、前記第2の方向に沿って一つの方向に固定された磁化方向を有する第2の磁性層と、
前記第1の磁性層と前記第2の磁性層との間に形成され、前記第1の磁性層と前記第2の磁性層とを分離する非磁性層と、
前記第1の磁性層の上部または前記第2の磁性層の下部に形成され、前記第1の方向に延在する導電層と、を備え、
前記第1の磁性層と前記第2の磁性層と前記非磁性層とが、菱形、台形、長方形または四角形の共通の平面形状を有する
ことを特徴とする請求項1に記載の被標識物質捕捉・搬送装置。
【請求項9】
前記導電層に前記第1の方向に流れる電流により、前記第2の方向に磁界を発生させて前記第1の磁性層の磁化方向を切り替える
ことを特徴とする請求項8に記載の被標識物質捕捉・搬送装置。
【請求項10】
前記第2の磁性層の前記磁化方向が、隣接する反強磁性層、合成反強磁性構造または内部結晶異方性によって固定されている
ことを特徴とする請求項8に記載の被標識物質捕捉・搬送装置。
【請求項11】
前記第1の磁性層の磁化方向が前記電流の磁界によって切り替えられることにより前記第2の磁性層の磁化方向と同一方向となると、前記第1の磁性層と前記第2の磁性層とが前記磁気標識を引き付け、その磁気標識を前記エッジに捕獲するために十分な強度を有する磁界を前記側方エッジに発生させる
ことを特徴とする請求項9に記載の被標識物質捕捉・搬送装置。
【請求項12】
前記第1の磁性層の磁化方向が前記電流の磁界によって切り替えられることにより前記第1の磁性層の磁化方向が前記第2の磁性層の磁化方向と反対方向になると、前記第1の磁性層と前記第2の磁性層との磁界が互いに相殺され前記磁気標識に略零の有効磁界を発生させ、これにより前記磁気標識を捕獲されていても、その磁気標識を解放する
ことを特徴とする請求項9に記載の被標識物質捕捉・搬送装置。
【請求項13】
前記薄膜磁気構造の各々が、
第1の方向に向けられた平行な側方エッジと、前記第1の方向に略垂直な第2の方向に沿った2つの方向間で切り替え可能な磁化方向とを有する第1の磁性層と、
前記第1の磁性層と同一且つ同延に形成され、前記第2の方向に沿って一つの方向に固定された磁化方向を有する第2の磁性層と、
前記第1の磁性層と前記第2の磁性層との間に形成され、前記第1の磁性層と前記第2の磁性層とを分離し、且つ導電層として機能する非磁性層と、を備え、
前記第1の磁性層と前記第2の磁性層と前記非磁性層とが、共通の平面形状を有する
ことを特徴とする請求項1に記載の被標識物質捕捉・搬送装置。
【請求項14】
前記共通の平面形状が菱形、台形または長方形である
ことを特徴とする請求項13に記載の被標識物質捕捉・搬送装置。
【請求項15】
前記薄膜磁気構造の各々が、第1の層および第2の層の2つの層から形成され、前記第1の層と前記第2の層との各々が幅と長さとを有し、
前記第1の層が、電流誘起の磁界が存在しない場合、長さ方向に沿った磁化を有する磁気ストリップであり、
前記第2の層が、前記第1の層の上部に形成された導電層である
ことを特徴とする請求項1に記載の被標識物質捕捉・搬送装置。
【請求項16】
前記長さ方向の磁化方向が、反強磁性層、合成反強磁性構造、内部結晶異方性または形状異方性によって維持される
ことを特徴とする請求項15に記載の被標識物質捕捉・搬送装置。
【請求項17】
前記導電層に流れる電流により、前記磁気ストリップの磁化を前記長さ方向に略垂直な幅方向に回転させる磁界を発生させる
ことを特徴とする請求項15に記載の被標識物質捕捉・搬送装置。
【請求項18】
前記電流誘起の磁界による前記磁気ストリップの磁化の前記幅方向への回転により前記磁気標識を引き付け、その磁気標識を前記エッジに捕獲するために十分な強度を有する有効磁界を側方エッジに発生させる
ことを特徴とする請求項17に記載の被標識物質捕捉・搬送装置。
【請求項19】
前記電流誘起の磁界を取り除くことにより前記磁気ストリップの磁界を前記長さ方向に戻し、前記磁気標識に印加する磁界を零とすることにより前記磁気標識を解放する
ことを特徴とする請求項17に記載の被標識物質捕捉・搬送装置。
【請求項20】
前記薄膜磁気構造の各々が第1の層と第2の層との2つの層から形成され、前記第1の層と前記第2の層との各々が幅と長さとを有し、前記第1の層が幅方向に沿っ磁化方向を有する磁気ストリップであり、
前記第2の層が前記第1の層の上部に形成されると共に長さ方向に電流を通電可能な導電層である
ことを特徴とする請求項1に記載の被標識物質捕捉・搬送装置。
【請求項21】
前記導電層の長さ方向に流れる電流により、前記磁気ストリップの磁化方向を前記幅方向に沿った2つの方向間で切り替える磁界を発生する
ことを特徴とする請求項20に記載の被標識物質捕捉・搬送装置。
【請求項22】
前記磁気ストリップの前記幅方向の磁化を、反強磁性層、合成反強磁性構造、内部結晶異方性、形状異方性または前記電流によって発生した磁界によって維持する
ことを特徴とする請求項20に記載の被標識物質捕捉・搬送装置。
【請求項23】
前記導電層の電流による磁界によって、前記磁気ストリップの磁化方向を、前記薄膜磁気構造の内の隣接する前記薄膜磁気構造の磁性層の磁化の方向とは反対の方向に切り替えることにより、前記磁気標識を引き付けその磁気標識を前記磁性層の側方エッジに捕獲するために十分な強度を有する有効磁界を発生させる
ことを特徴とする請求項20に記載の被標識物質捕捉・搬送装置。
【請求項24】
前記電流を反対方向に流すことにより前記磁気ストリップの反転された磁化方向を他の全ての隣接する磁性層の方向に戻すことによって、その戻された磁化を有する前記磁性層のエッジの磁界を略零とし、前記捕獲された磁気標識を解放させる
ことを特徴とする請求項23に記載の被標識物質捕捉・搬送装置。
【請求項25】
前記少なくとも1つの搬送チャネルは、前記搬送チャネルに沿って搬送される最大の被標識物質の2倍未満の幅を有し、単一の被標識物質を搬送させる
ことを特徴とする請求項1に記載の被標識物質捕捉・搬送装置。
【請求項26】
微細な被標識物質を含む溶液内の前記被標識物質を同定し且つ計数するための方法であって、
同定され且つ計数されるべき特定の微細な被標識物質を複数個含む溶液を準備する工程と、
前記特定の被標識物質に磁気標識および光学的標識を付着させる工程と、
前記磁気標識および前記光学的標識によって標識された前記被標識物質を含む溶液を、前記標識された被標識物質を誘導し搬送するデバイス上に配置する工程と、
前記デバイスを動作させ、前記被標識物質を誘導し搬送させると共に、前記被標識物質を磁気的に連結した連鎖状態から分離し、且つ前記被標識物質を光学的に同定し計数可能な領域に個別に供給する工程と、
前記個別に搬送された被標識物質を計数する工程と
を含むことを特徴とする被標識物質同定・計数方法。
【請求項27】
前記被標識物質は生物学的細胞または分子、前記磁気標識は微小な超常磁性粒子であり、前記光学的標識は蛍光または発光染料である
ことを特徴とする請求項26に記載の被標識物質同定・計数方法。
【請求項28】
前記磁気標識された被標識物質を誘導し搬送するデバイスが、
前記磁気標識された被標識物質を含む溶液を閉じ込め可能な底面および閉じ込め側面と、少なくとも1つの貯留領域と、前記被標識物質を少なくとも1つの搬送チャネルに搬送可能な少なくとも1つのチャネル移行領域と、を有する閉じ込め領域と、
前記閉じ込め領域の底面の下に形成され、各々が長さと幅と少なくとも4つのエッジを持つ平面形状とを有し、前記エッジの少なくとも2つが互いに平行且つその少なくとも2つのエッジの間隔が前記幅を画定し、隣り合う構造の対向し隣接するエッジが互いに略平行で、前記隣接するエッジ間に均一の間隔を有する、複数の薄膜磁気構造のアレイと、
前記閉じ込め領域の平面に略垂直に外部磁界を印加する磁界源と、を備え、
前記薄膜磁気構造の各々の少なくとも1つの層が、電流によって、前記平行なエッジに垂直または前記平行なエッジに沿う2つの同一線上の方向の少なくとも1つの方向に磁化可能であり、
前記磁化が、前記薄膜磁気構造によって発生する磁界が前記磁気標識を捕獲または解放可能かを決定付け、
前記アレイにおける前記薄膜磁気構造の磁化の空間的に逐次的且つ一時的に同期した変動、または前記外部磁界の一時的に同期した印加とともに作用する前記薄膜磁気構造の磁化の空間的に逐次的且つ一時的に同期した変動により、前記磁気標識された被標識物質を、個別に前記貯留領域から前記薄膜磁気構造の長さ方向に垂直な方向に沿って、前記チャネル移行領域を介して前記搬送チャネルへと搬送する
ことを特徴とする請求項27に記載の被標識物質同定・計数方法。
【請求項29】
前記デバイスを動作させる工程が、
前記アレイの前記薄膜磁気構造を空間的に逐次的且つ一時的に同期した態様で磁化させることにより、前記磁気標識された被標識物質を、一連の捕獲および解放動作によって、前記貯留領域から前記チャネル移行領域を介し、前記被標識物質の連鎖から分離された単一の被標識物質毎に、前記搬送チャネルへと移行させる工程と、
前記磁気標識された被標識物質を、前記搬送チャネルに沿って光学的検出ユニットに対向する位置に搬送させる工程と
を更に含むことを特徴とする請求項28に記載の被標識物質同定・計数方法。
【請求項30】
順次配列され且つ同一の被標識物質が連結した前記連鎖状態を、
前記連鎖の第1被標識物質を前記アレイの第1の捕獲サイトに捕獲する工程と、
前記第1被標識物質の背後の第2被標識物質を、前記第1の捕獲サイトの背後の第2の捕獲サイトに捕獲する工程と、
前記第2被標識物質を前記第2の捕獲サイトに保持しつつ前記第1被標識物質を前記第1の捕獲サイトから解放する工程と、
前記第2被標識物質を前記第2の捕獲サイトに残しつつ前記第1被標識物質を前記第1の捕獲サイトの直前の第3の捕獲サイトに搬送し、これにより前記第1被標識物質と前記第2被標識物質とを分離する工程と、
前記分離が所望の状態になるまで前記第1被標識物質の前記捕獲と解放とを繰り返す工程と、
前記第1被標識物質を捕獲しつつ前記第2被標識物質を解放し、前記第2被標識物質を前記第1被標識物質の位置へと搬送可能とする工程と、
前記被標識物質の全てが分離されるまで、前記連鎖の後続の被標識物質に対して前記工程を繰り返す工程と、
を含む手順によって解除する
ことを特徴とする請求項29に記載の被標識物質同定・計数方法。
【請求項31】
前記外部磁界を印加することにより前記被標識物質の前記捕獲サイトへの誘導を支援させる
ことを特徴とする請求項30に記載の被標識物質同定・計数方法。
【請求項32】
前記磁気標識された被標識物質の光学的検出を、光学的標識として前記被標識物質に付着した発光染料または蛍光染料によって生じた光信号に基づいて行うと共に、前記搬送チャネルの小領域に対し励起光を集束可能な励起検出光学系を用いて、前記被標識物質の個数の計数を行う
ことを特徴とする請求項26に記載の被標識物質同定・計数方法。
【請求項33】
少なくとも2つの異なる被標識物質を含む溶液内の前記被標識物質を計数し且つ選別する方法であって、
同定され計数され且つ選別されるべき第1被標識物質と第2被標識物質とを含む溶液を準備する工程と、
単一の過程において、前記第1被標識物質および前記第2被標識物質のそれぞれに互いに異なる磁気標識および光学的標識を付着する工程と、
前記磁気標識および光学的標識とによって標識された前記第1被標識物質および前記第2被標識物質を含む前記溶液を、前記第1被標識物質および第2被標識物質を誘導し搬送するデバイス上に配置させる工程と、
前記デバイスを動作させ、前記第1被標識物質および第2被標識物質とを誘導し搬送すると共に、前記第1被標識物質および第2被標識物質との磁気的連鎖を分離し且つ前記第1被標識物質および第2被標識物質を光学的に同定し計数可能な領域に個別に供給する工程と、
前記第1被標識物質の光学的同定に際して、前記第1被標識物質を第1搬送チャネルに磁気的に誘導する工程と、
前記第2被標識物質の光学的同定に際して、前記第2被標識物質を第2搬送チャネルに磁気的に誘導する工程と、を備え、
前記第1被標識物質および第2被標識物質をそれぞれ第1の貯留領域および第2の貯留領域に選別して収容させる
ことを特徴とする被標識物質計数・選別方法。
【請求項34】
前記第1搬送チャネルおよび第2搬送チャネルは、互いに独立して動作する独自の薄膜磁気構造のアレイを有し、前記磁気標識による搬送を、前記第1搬送チャネル内と前記第2搬送チャネル内とで互いに独立に行う
ことを特徴とする請求項33に記載の被標識物質計数・選別方法。
【請求項35】
前記磁気標識された第1被標識物質および第2被標識物質を誘導し搬送するデバイスが、
前記磁気標識された前記第1被標識物質および第2被標識物質を含む前記溶液を閉じ込め可能な底面および閉じ込め側面と、少なくとも1つの貯留領域と、前記第1被標識物質および第2被標識物質を少なくとも1つの搬送チャネルに搬送可能な少なくとも1つのチャネル移行領域と、を有する略平面な閉じ込め領域と、
前記閉じ込め領域の底面の下に形成され、各々が長さと幅と少なくとも4つのエッジを持つ平面形状とを有し、前記エッジの少なくとも2つが互いに平行且つその少なくとも2つのエッジの間隔が前記幅を画定し、隣り合う構造の対向し隣接するエッジが互いに略平行で、前記隣接するエッジ間に均一の間隔を有する、複数の薄膜磁気構造のアレイと、
前記閉じ込め領域の平面に略垂直に外部磁界を印加する磁界源と、を備え、
前記薄膜磁気構造の各々の少なくとも1つの層が、電流によって、前記平行なエッジに垂直または前記平行なエッジに沿う2つの同一線上の方向の少なくとも1つの方向に磁化可能であり、
前記磁化が、前記薄膜磁気構造によって発生する磁界が前記磁気標識を捕獲または解放可能かを決定付け、
前記アレイにおける前記薄膜磁気構造の磁化の空間的に逐次的且つ一時的に同期した変動、または前記外部磁界の一時的に同期した印加とともに作用する前記薄膜磁気構造の磁化の空間的に逐次的且つ一時的に同期した変動により、前記磁気標識された第1被標識物質および第2被標識物質を、前記少なくとも1つの貯留領域から、前記薄膜磁気構造の長さ方向に垂直な方向に沿って、前記チャネル移行領域を介して前記搬送チャネルへ個別に搬送させる
ことを特徴とする請求項33に記載の被標識物質計数・選別方法。
【請求項36】
前記デバイスを動作させる工程が、
前記アレイの前記薄膜磁気構造を空間的に逐次的且つ一時的に同期した態様で磁化させ、一連の捕獲および解放動作によって前記第1被標識物質および第2被標識物質の連鎖を分離し、個々の被標識物質毎に、前記貯留領域から前記チャネル移行領域を介して前記搬送チャネルへと移動させる工程と、
前記第1被標識物質および前記第2被標識物質を前記搬送チャネルに沿って光学的検出ユニットの位置に搬送させる工程とを更に含む
ことを特徴とする請求項35に記載の被標識物質計数・選別方法。
【請求項37】
前記第1被標識物質および第2被標識物質の連鎖状態を、
前記連鎖のうちの前記第1被標識物質を前記アレイの第1の捕獲サイトに捕獲する工程と、
前記第1被標識物質に隣接し前記第1被標識物質の背後にある前記第2被標識物質を、前記第1の捕獲サイトの背後の第2の捕獲サイトに捕獲する工程と、
前記第2被標識物質を前記第2の捕獲サイトに保持しつつ前記第1被標識物質を前記第1の捕獲サイトから解放する工程と、
前記第2被標識物質を前記第2の捕獲サイトに残しつつ前記第1被標識物質を前記第1の捕獲サイトの直前の第3の捕獲サイトに搬送し、これにより前記第1被標識物質と前記第2被標識物質とを分離する工程と、
前記分離が所望の状態になるまで前記第1被標識物質の捕獲と解放とを繰り返す工程と、
前記第1被標識物質を捕獲しつつ前記第2被標識物質を解放し、前記第2被標識物質を前記第1被標識物質の位置へと搬送可能とする工程と、
前記被標識物質が全て分離されるまで、前記連鎖の後続の被標識物質に対して前記工程を繰り返す工程と、
を含む手順によって解除する
ことを特徴とする請求項36に記載の被標識物質計数・選別方法。
【請求項38】
前記外部磁界を印加して前記被標識物質の前記捕獲サイトへの誘導を支援させる
ことを特徴とする請求項37に記載の被標識物質計数・選別方法。
【請求項39】
前記磁気標識された第1被標識物質および第2被標識物質の光学的検出を、光学的標識として前記第1被標識物質およ第2被標識物質に付着した発光染料または蛍光染料によって生じた光信号に基づいて行うと共に、前記搬送チャネルの小領域に対し励起光を集束可能な励起検出光学系を用いて、前記第1被標識物質および第2被標識物質の個数の計数を行う
ことを特徴とする請求項33に記載の被標識物質計数・選別方法。
【請求項1】
導電線から発生する磁界によって磁化方向が変更可能な磁気薄膜構造のアレイにより磁気標識の逐次の捕獲および解放を実行し、前記磁気標識により標識された被標識物質を捕捉し、搬送するための被標識物質捕捉・搬送装置であって、
前記磁気標識された被標識物質を含む溶液を閉じ込め可能な底面および閉じ込め側面と、少なくとも1つの貯留領域と、前記被標識物質を少なくとも1つの搬送チャネルに搬送可能な少なくとも1つのチャネル移行領域と、を有する閉じ込め領域と、
前記閉じ込め領域の底面の下に形成され、各々が長さと幅と少なくとも4つのエッジを持つ平面形状とを有し、前記エッジの少なくとも2つが互いに平行且つその少なくとも2つのエッジの間隔が前記幅を画定し、隣り合う構造の対向し隣接するエッジが互いに略平行で、前記隣接するエッジ間に均一の間隔を有する、複数の薄膜磁気構造のアレイと、
前記閉じ込め領域の平面に略垂直に外部磁界を印加する磁界源と、を備え、
前記薄膜磁気構造の各々の少なくとも1つの層が、電流によって、前記平行なエッジに垂直または前記平行なエッジに沿う2つの同一線上の方向の少なくとも1つの方向に磁化可能であり、
前記磁化が、前記薄膜磁気構造によって発生する磁界が前記磁気標識を捕獲または解放可能かを決定付け、
前記アレイにおける前記薄膜磁気構造の磁化の空間的に逐次的且つ一時的に同期した変動、または前記外部磁界の一時的に同期した印加とともに作用する前記薄膜磁気構造の磁化の空間的に逐次的且つ一時的に同期した変動により、前記磁気標識された被標識物質を、個別に前記貯留領域から前記薄膜磁気構造の長さ方向に垂直な方向に沿って、かつ前記チャネル移行領域を介して前記搬送チャネルへと搬送する
ことを特徴とする被標識物質捕捉・搬送装置。
【請求項2】
前記被標識物質が光学的に励起可能な光学的標識を含むと共に、光の照射により前記光学的標識を励起し、これにより生じた光信号を検出する光学的検出ユニット、を更に備えた
ことを特徴とする請求項1に記載の被標識物質捕捉・搬送装置。
【請求項3】
前記被標識物質の光学的検出を前記被標識物質に付着した発光染料または蛍光染料によって生じた光信号により行うと共に、前記搬送チャネルの近傍に前記搬送チャネルの小領域に対して焦点を有する励起検出光学系を備え、前記被標識物質の数を検出する
ことを特徴とする請求項2に記載の被標識物質捕捉・搬送装置。
【請求項4】
前記磁気標識が微小な超常磁性粒子である
ことを特徴とする請求項1に記載の被標識物質捕捉・搬送装置。
【請求項5】
前記薄膜磁気構造のエッジまたは隣接する薄膜磁気構造の対向し且つ隣接する平行なエッジ間にネット磁荷が発生している場合に生じたそのエッジまたはそのエッジ間の磁界によって、前記粒子を磁化する
ことを特徴とする請求項4に記載の被標識物質捕捉・搬送装置。
【請求項6】
前記粒子と前記薄膜磁気構造との結合磁界により静磁エネルギーを極小化することによって、前記粒子に対する捕獲状態を形成する
ことを特徴とする請求項5に記載の被標識物質捕捉・搬送装置。
【請求項7】
前記磁気標識の前記外部磁界による磁化によって前記磁気標識の捕獲状態への移行を支援する
ことを特徴とする請求項1に記載の被標識物質捕捉・搬送装置。
【請求項8】
前記薄膜磁気構造の各々が、
第1の方向に向けられた平行な側方エッジと、前記第1の方向に略垂直な第2の方向に沿った2つの方向間で切り替え可能な磁化方向とを有する第1の磁性層と、
前記第1の磁性層と同一且つ同延に形成され、前記第2の方向に沿って一つの方向に固定された磁化方向を有する第2の磁性層と、
前記第1の磁性層と前記第2の磁性層との間に形成され、前記第1の磁性層と前記第2の磁性層とを分離する非磁性層と、
前記第1の磁性層の上部または前記第2の磁性層の下部に形成され、前記第1の方向に延在する導電層と、を備え、
前記第1の磁性層と前記第2の磁性層と前記非磁性層とが、菱形、台形、長方形または四角形の共通の平面形状を有する
ことを特徴とする請求項1に記載の被標識物質捕捉・搬送装置。
【請求項9】
前記導電層に前記第1の方向に流れる電流により、前記第2の方向に磁界を発生させて前記第1の磁性層の磁化方向を切り替える
ことを特徴とする請求項8に記載の被標識物質捕捉・搬送装置。
【請求項10】
前記第2の磁性層の前記磁化方向が、隣接する反強磁性層、合成反強磁性構造または内部結晶異方性によって固定されている
ことを特徴とする請求項8に記載の被標識物質捕捉・搬送装置。
【請求項11】
前記第1の磁性層の磁化方向が前記電流の磁界によって切り替えられることにより前記第2の磁性層の磁化方向と同一方向となると、前記第1の磁性層と前記第2の磁性層とが前記磁気標識を引き付け、その磁気標識を前記エッジに捕獲するために十分な強度を有する磁界を前記側方エッジに発生させる
ことを特徴とする請求項9に記載の被標識物質捕捉・搬送装置。
【請求項12】
前記第1の磁性層の磁化方向が前記電流の磁界によって切り替えられることにより前記第1の磁性層の磁化方向が前記第2の磁性層の磁化方向と反対方向になると、前記第1の磁性層と前記第2の磁性層との磁界が互いに相殺され前記磁気標識に略零の有効磁界を発生させ、これにより前記磁気標識を捕獲されていても、その磁気標識を解放する
ことを特徴とする請求項9に記載の被標識物質捕捉・搬送装置。
【請求項13】
前記薄膜磁気構造の各々が、
第1の方向に向けられた平行な側方エッジと、前記第1の方向に略垂直な第2の方向に沿った2つの方向間で切り替え可能な磁化方向とを有する第1の磁性層と、
前記第1の磁性層と同一且つ同延に形成され、前記第2の方向に沿って一つの方向に固定された磁化方向を有する第2の磁性層と、
前記第1の磁性層と前記第2の磁性層との間に形成され、前記第1の磁性層と前記第2の磁性層とを分離し、且つ導電層として機能する非磁性層と、を備え、
前記第1の磁性層と前記第2の磁性層と前記非磁性層とが、共通の平面形状を有する
ことを特徴とする請求項1に記載の被標識物質捕捉・搬送装置。
【請求項14】
前記共通の平面形状が菱形、台形または長方形である
ことを特徴とする請求項13に記載の被標識物質捕捉・搬送装置。
【請求項15】
前記薄膜磁気構造の各々が、第1の層および第2の層の2つの層から形成され、前記第1の層と前記第2の層との各々が幅と長さとを有し、
前記第1の層が、電流誘起の磁界が存在しない場合、長さ方向に沿った磁化を有する磁気ストリップであり、
前記第2の層が、前記第1の層の上部に形成された導電層である
ことを特徴とする請求項1に記載の被標識物質捕捉・搬送装置。
【請求項16】
前記長さ方向の磁化方向が、反強磁性層、合成反強磁性構造、内部結晶異方性または形状異方性によって維持される
ことを特徴とする請求項15に記載の被標識物質捕捉・搬送装置。
【請求項17】
前記導電層に流れる電流により、前記磁気ストリップの磁化を前記長さ方向に略垂直な幅方向に回転させる磁界を発生させる
ことを特徴とする請求項15に記載の被標識物質捕捉・搬送装置。
【請求項18】
前記電流誘起の磁界による前記磁気ストリップの磁化の前記幅方向への回転により前記磁気標識を引き付け、その磁気標識を前記エッジに捕獲するために十分な強度を有する有効磁界を側方エッジに発生させる
ことを特徴とする請求項17に記載の被標識物質捕捉・搬送装置。
【請求項19】
前記電流誘起の磁界を取り除くことにより前記磁気ストリップの磁界を前記長さ方向に戻し、前記磁気標識に印加する磁界を零とすることにより前記磁気標識を解放する
ことを特徴とする請求項17に記載の被標識物質捕捉・搬送装置。
【請求項20】
前記薄膜磁気構造の各々が第1の層と第2の層との2つの層から形成され、前記第1の層と前記第2の層との各々が幅と長さとを有し、前記第1の層が幅方向に沿っ磁化方向を有する磁気ストリップであり、
前記第2の層が前記第1の層の上部に形成されると共に長さ方向に電流を通電可能な導電層である
ことを特徴とする請求項1に記載の被標識物質捕捉・搬送装置。
【請求項21】
前記導電層の長さ方向に流れる電流により、前記磁気ストリップの磁化方向を前記幅方向に沿った2つの方向間で切り替える磁界を発生する
ことを特徴とする請求項20に記載の被標識物質捕捉・搬送装置。
【請求項22】
前記磁気ストリップの前記幅方向の磁化を、反強磁性層、合成反強磁性構造、内部結晶異方性、形状異方性または前記電流によって発生した磁界によって維持する
ことを特徴とする請求項20に記載の被標識物質捕捉・搬送装置。
【請求項23】
前記導電層の電流による磁界によって、前記磁気ストリップの磁化方向を、前記薄膜磁気構造の内の隣接する前記薄膜磁気構造の磁性層の磁化の方向とは反対の方向に切り替えることにより、前記磁気標識を引き付けその磁気標識を前記磁性層の側方エッジに捕獲するために十分な強度を有する有効磁界を発生させる
ことを特徴とする請求項20に記載の被標識物質捕捉・搬送装置。
【請求項24】
前記電流を反対方向に流すことにより前記磁気ストリップの反転された磁化方向を他の全ての隣接する磁性層の方向に戻すことによって、その戻された磁化を有する前記磁性層のエッジの磁界を略零とし、前記捕獲された磁気標識を解放させる
ことを特徴とする請求項23に記載の被標識物質捕捉・搬送装置。
【請求項25】
前記少なくとも1つの搬送チャネルは、前記搬送チャネルに沿って搬送される最大の被標識物質の2倍未満の幅を有し、単一の被標識物質を搬送させる
ことを特徴とする請求項1に記載の被標識物質捕捉・搬送装置。
【請求項26】
微細な被標識物質を含む溶液内の前記被標識物質を同定し且つ計数するための方法であって、
同定され且つ計数されるべき特定の微細な被標識物質を複数個含む溶液を準備する工程と、
前記特定の被標識物質に磁気標識および光学的標識を付着させる工程と、
前記磁気標識および前記光学的標識によって標識された前記被標識物質を含む溶液を、前記標識された被標識物質を誘導し搬送するデバイス上に配置する工程と、
前記デバイスを動作させ、前記被標識物質を誘導し搬送させると共に、前記被標識物質を磁気的に連結した連鎖状態から分離し、且つ前記被標識物質を光学的に同定し計数可能な領域に個別に供給する工程と、
前記個別に搬送された被標識物質を計数する工程と
を含むことを特徴とする被標識物質同定・計数方法。
【請求項27】
前記被標識物質は生物学的細胞または分子、前記磁気標識は微小な超常磁性粒子であり、前記光学的標識は蛍光または発光染料である
ことを特徴とする請求項26に記載の被標識物質同定・計数方法。
【請求項28】
前記磁気標識された被標識物質を誘導し搬送するデバイスが、
前記磁気標識された被標識物質を含む溶液を閉じ込め可能な底面および閉じ込め側面と、少なくとも1つの貯留領域と、前記被標識物質を少なくとも1つの搬送チャネルに搬送可能な少なくとも1つのチャネル移行領域と、を有する閉じ込め領域と、
前記閉じ込め領域の底面の下に形成され、各々が長さと幅と少なくとも4つのエッジを持つ平面形状とを有し、前記エッジの少なくとも2つが互いに平行且つその少なくとも2つのエッジの間隔が前記幅を画定し、隣り合う構造の対向し隣接するエッジが互いに略平行で、前記隣接するエッジ間に均一の間隔を有する、複数の薄膜磁気構造のアレイと、
前記閉じ込め領域の平面に略垂直に外部磁界を印加する磁界源と、を備え、
前記薄膜磁気構造の各々の少なくとも1つの層が、電流によって、前記平行なエッジに垂直または前記平行なエッジに沿う2つの同一線上の方向の少なくとも1つの方向に磁化可能であり、
前記磁化が、前記薄膜磁気構造によって発生する磁界が前記磁気標識を捕獲または解放可能かを決定付け、
前記アレイにおける前記薄膜磁気構造の磁化の空間的に逐次的且つ一時的に同期した変動、または前記外部磁界の一時的に同期した印加とともに作用する前記薄膜磁気構造の磁化の空間的に逐次的且つ一時的に同期した変動により、前記磁気標識された被標識物質を、個別に前記貯留領域から前記薄膜磁気構造の長さ方向に垂直な方向に沿って、前記チャネル移行領域を介して前記搬送チャネルへと搬送する
ことを特徴とする請求項27に記載の被標識物質同定・計数方法。
【請求項29】
前記デバイスを動作させる工程が、
前記アレイの前記薄膜磁気構造を空間的に逐次的且つ一時的に同期した態様で磁化させることにより、前記磁気標識された被標識物質を、一連の捕獲および解放動作によって、前記貯留領域から前記チャネル移行領域を介し、前記被標識物質の連鎖から分離された単一の被標識物質毎に、前記搬送チャネルへと移行させる工程と、
前記磁気標識された被標識物質を、前記搬送チャネルに沿って光学的検出ユニットに対向する位置に搬送させる工程と
を更に含むことを特徴とする請求項28に記載の被標識物質同定・計数方法。
【請求項30】
順次配列され且つ同一の被標識物質が連結した前記連鎖状態を、
前記連鎖の第1被標識物質を前記アレイの第1の捕獲サイトに捕獲する工程と、
前記第1被標識物質の背後の第2被標識物質を、前記第1の捕獲サイトの背後の第2の捕獲サイトに捕獲する工程と、
前記第2被標識物質を前記第2の捕獲サイトに保持しつつ前記第1被標識物質を前記第1の捕獲サイトから解放する工程と、
前記第2被標識物質を前記第2の捕獲サイトに残しつつ前記第1被標識物質を前記第1の捕獲サイトの直前の第3の捕獲サイトに搬送し、これにより前記第1被標識物質と前記第2被標識物質とを分離する工程と、
前記分離が所望の状態になるまで前記第1被標識物質の前記捕獲と解放とを繰り返す工程と、
前記第1被標識物質を捕獲しつつ前記第2被標識物質を解放し、前記第2被標識物質を前記第1被標識物質の位置へと搬送可能とする工程と、
前記被標識物質の全てが分離されるまで、前記連鎖の後続の被標識物質に対して前記工程を繰り返す工程と、
を含む手順によって解除する
ことを特徴とする請求項29に記載の被標識物質同定・計数方法。
【請求項31】
前記外部磁界を印加することにより前記被標識物質の前記捕獲サイトへの誘導を支援させる
ことを特徴とする請求項30に記載の被標識物質同定・計数方法。
【請求項32】
前記磁気標識された被標識物質の光学的検出を、光学的標識として前記被標識物質に付着した発光染料または蛍光染料によって生じた光信号に基づいて行うと共に、前記搬送チャネルの小領域に対し励起光を集束可能な励起検出光学系を用いて、前記被標識物質の個数の計数を行う
ことを特徴とする請求項26に記載の被標識物質同定・計数方法。
【請求項33】
少なくとも2つの異なる被標識物質を含む溶液内の前記被標識物質を計数し且つ選別する方法であって、
同定され計数され且つ選別されるべき第1被標識物質と第2被標識物質とを含む溶液を準備する工程と、
単一の過程において、前記第1被標識物質および前記第2被標識物質のそれぞれに互いに異なる磁気標識および光学的標識を付着する工程と、
前記磁気標識および光学的標識とによって標識された前記第1被標識物質および前記第2被標識物質を含む前記溶液を、前記第1被標識物質および第2被標識物質を誘導し搬送するデバイス上に配置させる工程と、
前記デバイスを動作させ、前記第1被標識物質および第2被標識物質とを誘導し搬送すると共に、前記第1被標識物質および第2被標識物質との磁気的連鎖を分離し且つ前記第1被標識物質および第2被標識物質を光学的に同定し計数可能な領域に個別に供給する工程と、
前記第1被標識物質の光学的同定に際して、前記第1被標識物質を第1搬送チャネルに磁気的に誘導する工程と、
前記第2被標識物質の光学的同定に際して、前記第2被標識物質を第2搬送チャネルに磁気的に誘導する工程と、を備え、
前記第1被標識物質および第2被標識物質をそれぞれ第1の貯留領域および第2の貯留領域に選別して収容させる
ことを特徴とする被標識物質計数・選別方法。
【請求項34】
前記第1搬送チャネルおよび第2搬送チャネルは、互いに独立して動作する独自の薄膜磁気構造のアレイを有し、前記磁気標識による搬送を、前記第1搬送チャネル内と前記第2搬送チャネル内とで互いに独立に行う
ことを特徴とする請求項33に記載の被標識物質計数・選別方法。
【請求項35】
前記磁気標識された第1被標識物質および第2被標識物質を誘導し搬送するデバイスが、
前記磁気標識された前記第1被標識物質および第2被標識物質を含む前記溶液を閉じ込め可能な底面および閉じ込め側面と、少なくとも1つの貯留領域と、前記第1被標識物質および第2被標識物質を少なくとも1つの搬送チャネルに搬送可能な少なくとも1つのチャネル移行領域と、を有する略平面な閉じ込め領域と、
前記閉じ込め領域の底面の下に形成され、各々が長さと幅と少なくとも4つのエッジを持つ平面形状とを有し、前記エッジの少なくとも2つが互いに平行且つその少なくとも2つのエッジの間隔が前記幅を画定し、隣り合う構造の対向し隣接するエッジが互いに略平行で、前記隣接するエッジ間に均一の間隔を有する、複数の薄膜磁気構造のアレイと、
前記閉じ込め領域の平面に略垂直に外部磁界を印加する磁界源と、を備え、
前記薄膜磁気構造の各々の少なくとも1つの層が、電流によって、前記平行なエッジに垂直または前記平行なエッジに沿う2つの同一線上の方向の少なくとも1つの方向に磁化可能であり、
前記磁化が、前記薄膜磁気構造によって発生する磁界が前記磁気標識を捕獲または解放可能かを決定付け、
前記アレイにおける前記薄膜磁気構造の磁化の空間的に逐次的且つ一時的に同期した変動、または前記外部磁界の一時的に同期した印加とともに作用する前記薄膜磁気構造の磁化の空間的に逐次的且つ一時的に同期した変動により、前記磁気標識された第1被標識物質および第2被標識物質を、前記少なくとも1つの貯留領域から、前記薄膜磁気構造の長さ方向に垂直な方向に沿って、前記チャネル移行領域を介して前記搬送チャネルへ個別に搬送させる
ことを特徴とする請求項33に記載の被標識物質計数・選別方法。
【請求項36】
前記デバイスを動作させる工程が、
前記アレイの前記薄膜磁気構造を空間的に逐次的且つ一時的に同期した態様で磁化させ、一連の捕獲および解放動作によって前記第1被標識物質および第2被標識物質の連鎖を分離し、個々の被標識物質毎に、前記貯留領域から前記チャネル移行領域を介して前記搬送チャネルへと移動させる工程と、
前記第1被標識物質および前記第2被標識物質を前記搬送チャネルに沿って光学的検出ユニットの位置に搬送させる工程とを更に含む
ことを特徴とする請求項35に記載の被標識物質計数・選別方法。
【請求項37】
前記第1被標識物質および第2被標識物質の連鎖状態を、
前記連鎖のうちの前記第1被標識物質を前記アレイの第1の捕獲サイトに捕獲する工程と、
前記第1被標識物質に隣接し前記第1被標識物質の背後にある前記第2被標識物質を、前記第1の捕獲サイトの背後の第2の捕獲サイトに捕獲する工程と、
前記第2被標識物質を前記第2の捕獲サイトに保持しつつ前記第1被標識物質を前記第1の捕獲サイトから解放する工程と、
前記第2被標識物質を前記第2の捕獲サイトに残しつつ前記第1被標識物質を前記第1の捕獲サイトの直前の第3の捕獲サイトに搬送し、これにより前記第1被標識物質と前記第2被標識物質とを分離する工程と、
前記分離が所望の状態になるまで前記第1被標識物質の捕獲と解放とを繰り返す工程と、
前記第1被標識物質を捕獲しつつ前記第2被標識物質を解放し、前記第2被標識物質を前記第1被標識物質の位置へと搬送可能とする工程と、
前記被標識物質が全て分離されるまで、前記連鎖の後続の被標識物質に対して前記工程を繰り返す工程と、
を含む手順によって解除する
ことを特徴とする請求項36に記載の被標識物質計数・選別方法。
【請求項38】
前記外部磁界を印加して前記被標識物質の前記捕獲サイトへの誘導を支援させる
ことを特徴とする請求項37に記載の被標識物質計数・選別方法。
【請求項39】
前記磁気標識された第1被標識物質および第2被標識物質の光学的検出を、光学的標識として前記第1被標識物質およ第2被標識物質に付着した発光染料または蛍光染料によって生じた光信号に基づいて行うと共に、前記搬送チャネルの小領域に対し励起光を集束可能な励起検出光学系を用いて、前記第1被標識物質および第2被標識物質の個数の計数を行う
ことを特徴とする請求項33に記載の被標識物質計数・選別方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2009−139381(P2009−139381A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−310052(P2008−310052)
【出願日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【出願人】(500475649)ヘッドウェイテクノロジーズ インコーポレイテッド (251)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【出願人】(500475649)ヘッドウェイテクノロジーズ インコーポレイテッド (251)
【Fターム(参考)】
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