説明

被膜の製造方法及び反射防止基板

【課題】優れた表面強度と防汚染性とを具備すると共に、耐アルカリ性が高く、特に反射防止用途等の光学系用途に対して好適な被膜の製造方法を提供する。
【解決手段】アルコールを実質的に含有しない溶媒中でアルコキシシランを加水分解する。得られた生成物を含むコーティング材を基材表面に塗布した後、乾燥する。これにより基材表面に厚み0.05〜1μmの被膜を形成する。アルコキシシランの加水分解反応時にはこの加水分解反応を阻害するアルコールが反応系から排除されて加水分解反応が促進され、生成物中におけるアルコキシ基の残留が抑制される。この結果、高温処理ができない場合であってもアルコキシシランの加水分解縮合物から構成される被膜中のアルコキシ基の残留を抑制して架橋密度を向上することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学系部材のコーティング等に用いられる被膜の製造方法及び反射防止基板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アルコキシシラン、特にテトラエトキシシランに代表される4官能アルコキシシランを部分加水分解したコーティング材は、ガラスに近い高い表面強度を有する被膜を形成することができ、機能性充填剤(微粒子等)やフッ素変性、ビニル変性、アミノ変性等の変性アルコキシシランと組み合わせることで屈折率を調整するなどして、反射防止被膜等の光学系用途に用いられ、また他の分野でも実用化されている(特許文献1参照)。
【0003】
反射防止用途の中でも、特にディスプレイの最表面に位置する反射防止被膜等は、優れた反射防止性能と共に、傷発生を防止するために表面強度(耐摩擦性)、指紋等の汚れが簡単に除去できる表面撥水・撥油性(防汚染性)も同時に要求されるが、この被膜を多孔質シリカ微粒子と4官能アルコキシシラン部分加水分解物あるいは4官能アルコキシシランとフッ素変性アルコキシシランとの共加水分解物からなる被膜にて形成することで、優れた反射防止性能と共に、優れた表面硬度を付与することができる。
【0004】
しかしながら、このような被膜はアルカリ溶液に対する耐性が弱い傾向にあり、特に用途等に応じて膜厚を1μm以下とする必要がある場合、200℃以上の高温熱処理ができない場合、4官能アルコキシシラン比率を高くして高強度化する必要がある場合、機能性充填剤比率を高くする必要がある場合等において、アルカリ耐性の低さが顕著になってくる。このようなアルカリ耐性の低さが顕著となるような具体的な用途としては、酸化チタンに代表される光触媒微粒子を含有したコーティング材被膜を、ガラス等の高硬度基材の表面に形成する用途や、高屈折率・低屈折率微粒子を含有したコーティング材被膜を形成する光学用途が挙げられる。特に光学用途の中でも反射防止用途はその膜厚を0.1〜0.2μm程度の薄膜に形成する必要があり、このためアルカリによって少しでもダメージを受けて屈折率が変化したり膜厚が僅かに減少したりしただけで、反射色に変化を生じてしまう。
【0005】
また、ディスプレイ表面の反射防止被膜にはフッ素樹脂からなる被膜も使用されているが、このような被膜は優れた防汚染性と共に強いアルカリ耐性を有しているものの、表面硬度が弱いという問題がある。
【特許文献1】特開2003−201443号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記の点に鑑みて為されたものであり、優れた表面強度と防汚染性とを具備すると共に、耐アルカリ性が高く、特に反射防止用途等の光学系用途に対して好適な被膜の製造方法及び反射防止基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究の結果、アルコキシシランの加水分解反応時に未反応のアルコキシ基が残留すると、このアルコキシ基が特に被膜形成時に200℃以上の高温で処理することができない場合に分解せずに被膜中にそのまま残留し、架橋密度が低下してこの被膜のアルカリ耐性が低下してしまうことを見出し、この未反応アルコキシ基を極力少なくすることで被膜のアルカリ耐性を向上させることが可能であると考えて、本発明を為すに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、アルコールを実質的に含有しない溶媒中でアルコキシシランを加水分解し、得られた生成物を含むコーティング材を基材表面に塗布した後、乾燥することにより、基材表面に厚み0.05〜1μmの被膜を形成することを特徴とする。従来、溶媒とアルコキシシラン及び水との相溶性を考慮してアルコキシシランの加水分解反応はアルコール溶媒中で行われていたものであるが、このように溶媒中にアルコールが実質的に含有されないようにすることで、アルコキシシランの加水分解反応時にはこの加水分解反応を阻害するアルコールが反応系から排除されて前記加水分解反応が促進され、生成物中におけるアルコキシ基の残留を抑制することができ、この結果、高温処理ができない場合であってもアルコキシシランの加水分解縮合物から構成される被膜中のアルコキシ基の残留を抑制して架橋密度を向上することができる。
【0009】
この場合、更に上記アルコールを実質的に含有しない溶媒が、水酸基を有さないものであると、アルコール以外の他の水酸基を有する化合物よっても加水分解反応が阻害されないようにすることができ、アルコキシ基の残留を更に抑制することができる。
【0010】
また、上記アルコキシシランの加水分解時に、加水分解反応で生成するアルコールを反応系から除去しながら反応を進行させるようにすれば、加水分解反応で副生するアルコールによっても加水分解反応が阻害されることを抑制し、アルコキシ基の残留を更に抑制することができる。
【0011】
また、上記コーティング材の調製時には、上記アルコキシシランの加水分解の後、得られた生成物を充填材、溶剤、変性アルコキシシランのうち少なくともいずれかと混合することも好ましい。このように、アルコキシシランを加水分解してマトリクス形成材料を得た後に他の成分を配合することで、これらの成分がマトリクス形成材料に取り込まれることなく、その作用を効果的に発揮するようになる。
【0012】
また、本発明に係る反射防止基板は、上記のような被膜の製造方法により基材の表面に被膜を形成して成ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、被膜がアルコキシシランの加水分解縮合物にて構成されることで表面強度(耐摩擦性)が高く、また高い撥水性、撥油性を備えることで防汚染性が高いものとなり、しかもこの被膜の架橋密度を向上して耐アルカリ性を向上することができ、薄膜の被膜がアルカリに侵されて厚みが低減したり屈折率が変化したりすることで反射色が変化するなどといった特性変化が生じるような事態を防止することができ、特に高温処理ができない用途や、光学系の用途において好適なものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0015】
本発明におけるコーティング材組成物中のマトリクスを形成するマトリクス形成材料は、アルコキシシランの加水分解物(部分加水分解物を含む)、或いはその加水分解物が縮合して生成するシロキサン結合を有する加水分解縮合物である。
【0016】
アルコキシシランは下記式(A)で表される。
【0017】
nSiY4-n …(A)
式(A)中、Rは同一又は異種の置換もしくは非置換の炭素数1〜9の1価炭化水素基又はフェニル基を示し、nは0〜2の整数、Yはアルコキシ基を示す。Rとしては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、へプチル基、オクチル基などのアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基などのシクロアルキル基;2−フェニルエチル基、2−フェニルプロピル基、3−フェニルプロピル基などのアラルキル基;フェニル基、トリル基のようなアリール基;ビニル基、アリル基のようなアルケニル基;クロロメチル基、γ−クロロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基のようなハロゲン置換炭化水素基;γ−メタクリロキシプロピル基、γ−グリシドキシプロピル基、3,4−エポキシシクロヘキシルエチル基、γ−メルカプトプロピル基等の置換炭化水素基などを例示することができる。これらの中でも、合成の容易さ、あるいは入手の容易さから炭素数1〜4のアルキル基、フェニル基が好ましい。
【0018】
このようなアルコキシシランとしては、上記一般式(A)中のnが0〜2の整数である、ジ−、トリ−、テトラ−の各官能性のアルコキシシランが挙げられる。特に、n=0のテトラアルコキシシランとしてはテトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン等を例示でき、n=1のオルガノトリアルコキシシランとしては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリメトキシシラン等を例示できる。また、n=2のジオルガノジアルコキシシランとしては、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、メチルフェニルジメトキシシラン等を例示できる。
【0019】
アルコキシシランの加水分解は溶媒中で行われるが、このときアルコールを実質的に含有しない溶媒を用いる必要がある。ここで、「実質的に含有しない」とは、意図的に配合しないことを意味するものであり、反応副生成物や不純物として含有するものは許容される。また、この溶媒としては、更にアルコール以外の水酸基を含む化合物も含まないものであることが好ましい。
【0020】
このような溶媒は、水又は水と他の液体との混合物であることが好ましく、他の液体としては、例えばトルエン、キシレン、ヘキサン、ヘプタン酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトオキシム等の一種又は二種以上を使用することができる。
【0021】
また、この加水分解の際には必要に応じて触媒を使用することができる。この触媒としては、特に限定されないが、酸触媒(或いは酸性触媒)としては、例えば、有機酸(例えば酢酸、クロロ酢酸、クエン酸、安息香酸、ジメチルマロン酸、蟻酸、プロピオン酸、グルタール酸、グリコール酸、マレイン酸、マロン酸、トルエンスルホン酸、シュウ酸等)、無機酸(例えば塩酸、硝酸、ハロゲン化シラン等)、酸性ゾル状フィラー(例えば酸性コロイダルシリカ、酸化チタニアゾル等)を挙げることができる。また塩基触媒(或いは塩基性触媒)としては、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム等のアルカリ金属あるいはアルカリ土類金属の水酸化物の水溶液、アンモニア水、アミン類の水溶液等を挙げることができる。これらの触媒は一種単独で用いるほか、二種以上を併用しても良い。
【0022】
アルコキシシランの加水分解は必要に応じて(例えば、それほど大きな機械的強度を必要としない場合)加温して行ってもよく、例えば30〜80℃の範囲で10分間〜24時間かけて加水分解反応を進行させることができる。
【0023】
ここで、アルコキシシランの加水分解は、例えばテトラエトキシシランの場合は下記のような反応式で進行する。
【0024】
Si(OC254+2H2O → SiO2+4C25OH
この反応ではアルコールが副生するため、反応系中のアルコールの存在は逆反応の反応速度の増大を促して上記加水分解反応を阻害する要因となり、未反応のアルコキシ基の残留を引き起こす原因となる。特に4官能のテトラアルコキシシランの加水分解の場合には、その傾向が顕著である。
【0025】
しかし、上記のように加水分解の反応系中の溶媒が上記加水分解反応の阻害要因となるアルコールを実質的に含まないようにすると、加水分解物中のアルコキシ基の残留を抑制して、加水分解重縮合物の架橋密度を向上し、被膜の耐アルカリ性を向上することができるものである。
【0026】
また、アルコール以外にも、フェノール性水酸基を有する化合物等のような他の水酸基を有する化合物も、アルコールと同様に加水分解反応を阻害するおそれがあるが、このような他の水酸化物を有する化合物も反応系中の溶媒に含有させないようにすれば、加水分解物中のアルコキシ基の残留を更に抑制することができる。
【0027】
また、上記加水分解を減圧下で行うなどして、アルコールを留去しながら加水分解反応を進行させることも好ましい。この場合、上記のような加水分解反応で副生するアルコールを反応系から除去することができて、加水分解反応を更に促進することができ、これによりアルコキシ基の残留を更に抑制することができる。
【0028】
このようにして得られるマトリクス形成材料の、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)にて標準ポリスチレン換算値として測定される重量平均分子量は、800〜2000の範囲であることが好ましい。
【0029】
上記加水分解によりマトリクス形成材料を生成した後、このマトリクス形成材料に必要に応じて充填剤、溶剤、変性アルコキシシラン等を配合することにより、コーティング材を調製することができる。このように加水分解によるマトリクス形成材料の生成後の他の成分を加えることで、前記他の成分がマトリクス形成材料に取り込まれることなく、その作用を効果的に発揮するようになる。
【0030】
充填材としては適宜のもの、例えばエアロゲル微粒子、中空シリカ微粒子、ポリマー製中空微粒子、有機ポリマー微粒子、金属酸化物微粒子等を用いることができる。このような充填材を含有させることにより、被膜の各種特性の調整、例えば屈折率の調整等を行うことができる。
【0031】
上記エアロゲル微粒子としては、例えばシリカエアロゲル微粒子、シリカ/アルミナエアロゲル等の複合エアロゲル微粒子、メラミンエアロゲル等の有機エアロゲル微粒子等を用いることができる。
【0032】
中空シリカ微粒子は、外殻がシリカ系無機酸化物によって構成されるものであり、例えば外殻が、シリカ単一層、シリカとシリカ以外の無機酸化物とからなる複合酸化物の単一層、これらが積層した二重以上の層となっているもの等を挙げることができる。このとき、外殻の厚みは例えば1〜50nm、好ましくは5〜20nmの範囲のものを用いることができ、またこの厚みが中空微粒子の平均粒子径の1/50〜1/5の範囲にあるものを用いることができる。また中空シリカ微粒子の平均粒子径は例えば5nm〜2μmの範囲とすることができる。
【0033】
ポリマー製中空微粒子としては、例えば外殻がフッ素系ポリマーのようなポリマー材料により構成されているものを用いることができる。
【0034】
有機ポリマー微粒子としては、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、スチレン樹脂等の微粒子を例示できる。
【0035】
金属酸化物の微粒子としては、チタニア微粒子、酸化インジウム錫微粒子、シリカ微粒子、アルミナ微粒子等を例示できる。これらは、予め分散ゾルとして市販されたゾルを用いてコーティング材組成物に混合することができる。
【0036】
これらの充填材はコーティング材中に目的に応じた適宜の割合で含有させることができるが、例えばマトリクス形成材料100重量部に対して、10〜500重量部の範囲で含有させることが好ましい。
【0037】
また、溶剤としては、上記マトリクス形成材料の合成に用いた溶剤をそのまま用いることができ、或いは更に他の溶剤を配合することができる。このとき、既に加水分解反応を終了させているため、アルコール等のような水酸基を有する溶剤を加えることも可能である。このような溶剤としては、水や適宜の親水性溶媒を挙げることができる。親水性溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール(IPA)、n−ブタノール、イソブタノール等の低級脂肪族アルコール類、エチレングリコール、エチレングリコールモノブチルエーテル、酢酸エチレングリコールモノエチルエーテル等のエチレングリコール誘導体、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のジエチレングリコール誘導体、ジアセトンアルコール等が挙げられ、これらは一種単独で用いるほか、二種以上を併用することもできる。また、これらの親水性有機溶媒と併用して、トルエン、キシレン、ヘキサン、ヘプタン酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトオキシム等を用いることもでき、これらも一種単独で用いるほか、二種以上を併用することもできる。溶剤の含有量は、コーティング材の組成、成膜法、被膜の所望の厚み等に応じて適宜調整されるが、コーティング材全量に対して80〜99重量%の範囲であることが好ましい。
【0038】
また、上記変性アルコキシシランは、上記マトリクス形成材料を得るためのアルコキシシランとは別途に種々の目的で使用されるものであり、例えばフッ素変性アルコキシシラン、ビニル変性アルコキシシラン、アミノ変性アルコキシシラン等の適宜のものを挙げることができる。このような変性アルコキシシランを、アルコキシシランの加水分解によるマトリクス形成材料の生成後に混合してマトリクス形成材料中に取り込まれないようにすると、コーティング材中では前記変性アルコキシシランはフリーなモノマー状態で存在し、被膜形成時には被膜の表面に変性アルコキシシランがブリードアウトして被膜の表面に固定されやすくなり、被膜の表面に変性アルコキシシランを偏在化させることができるようになる。これにより変性アルコキシシランによる作用が効果的に発揮されるようになり、例えばフッ素変性アルコキシシランを用いる場合には被膜に高い撥水性を付与することができる。
【0039】
また、更にコーティング材中にシリコーンジオールを含有させても良い。この場合、被膜にシリコーンジオールが導入されることで、被膜の表面摩擦抵抗を小さくすることができ、被膜の表面への引っ掛かりを低減して、傷が入り難くなるようにすることができ、被膜の耐擦傷性を向上することができる。このシリコーンジオールはジメチル型のシリコーンジオール(HO[Si(CH32O]nH)であることが好ましく、このときシリコーンジオール中のジメチルシロキサン単位の繰り返し数(n)は特に限定されるものではないが、摩擦抵抗の低減の効果を十分に発揮すると共にマトリクス形成材料との相溶性を確保して被膜の透明性の維持や外観ムラを防止するためには、n=20〜100の範囲が好ましい。シリコーンジオールの含有量は特に制限されないが、コーティング材の全固形分に対して1〜10重量%の範囲が好ましい。
【0040】
このようにして得られるコーティング材を適宜の基材の表面に塗布し、必要に応じて加熱しながら乾燥し、或いは更に縮重合反応を進行させることにより、厚み0.05〜1μmの被膜を形成するものである。加熱処理を施す場合には、60〜200℃で1分間〜2時間加熱することが好ましい。
【0041】
このような被膜はガラス基材やプラスチック基材等の透明基材に塗布することで、例えば低屈折率の被膜を形成することで反射防止基板を製造し、この反射防止基板を透過する光の透過率あるいは反射率を向上させることができる。そのような用途には、例えば、タッチパネル用基板、バックライトユニット部品(例えば導光板、冷陰極管、反射シート等)液晶輝度向上フィルム(例えばプリズム、半透過フィルム等)、太陽電池最表面部材、照明ランプ、反射レンズ、LCDカラーフィルター、各種反射板、増幅レーザー光源等がある。
【0042】
このように形成される被膜はシリコンアルコキシドの加水分解縮合物から構成されることで、表面強度(耐摩擦性)が高く、また高い撥水性、撥油性を備えることで防汚染性が高いものとなる。
【0043】
また、この被膜は内部のアルコキシ基の残留が低減されて架橋密度が高く、耐アルカリ性が高いものとなる。薄膜の被膜にこのような高い耐アルカリ性が付与されることで、この被膜の特性がアルカリによるダメージによって劣化したり変動したりすることを防止することができる。すなわち、例えば被膜をディスプレイ表面の反射防止被膜等のような光学用途に用いる場合には、薄膜の被膜がアルカリによりダメージを受けると、それが僅かなダメージであっても厚みの低減や屈折率の変化により反射色に変化が生じるなどの光学特性の変化が生じてしまうが、上記のように被膜の耐アルカリ性が向上することによりこのような光学特性の変化を防止することができるものである。
【0044】
更に、被膜形成時に高温処理を施すことなく、加水分解時のアルコキシ基の残留を抑制することで架橋密度の向上を図ることができることから、プラスチック等の高温処理が困難な基材に対して被膜を形成する場合であっても、この被膜に高い耐アルカリ性を付与することが可能となるものである。
【0045】
これらの効果は、特にマトリクス形成材料がテトラアルコキシシランの加水分解物で得られたものである場合に、顕著に現れる。
【実施例】
【0046】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明する。尚、特に断りのない限り、「部」は全て「重量部」を、「%」は後述する反射率及びヘーズ率を除き、全て「重量%」を表す。また、重量分子量はGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により、測定機として東ソー株式会社製の型番「HLC8220」を用いて測定し、このとき標準ポリスチレンで検量線を作成してその換算値として測定した。
【0047】
(実施例1)
テトラメトキシシラン152部に酢酸ブチル250部を加え、更に水54部及び0.4Nの塩酸水溶液18部([H2O]/[OR]=1.0)を加え、これをディスパーを用いてよく混合して混合液を得た。この混合液を30℃恒温槽中で2時間攪拌して重量平均分子量を1250に調整したシリコーン加水分解物をマトリクス形成材料として得た。
【0048】
次に、中空シリカ微粒子として中空シリカIPA(イソプロパノール)分散ゾル(触媒化成工業製、商品名「スルーリアCS60−IPA」、固形分20重量%、平均一次粒子径約60nm、外殻厚み約10nm)を用い、これをシリコーン加水分解物に200部加え、(中空シリカ微粒子)/(シリコーン加水分解物(縮合化合物換算))が固形分基準で重量比が40/60となるように配合し、その後、IPA/ブチルセロソルブ混合液を混合して、全固形分が2%、ブチルセロソルブ含有量が2%、酢酸ブチル含有量が5%となるように調製した。
【0049】
さらに、ジメチルシリコーンジオール(n≒40)を酢酸エチルで固形分5%になるように希釈した溶液を、中空シリカ微粒子とシリコーンレジン(縮合化合物換算)の固形分の和に対して、ジメチルシリコーンジオールの固形分が2重量%となるように添加することによって、コーティング材組成物を調製した。
【0050】
このコーティング材組成物を1時間放置した後、予めUV−オゾン洗浄機(エキシマランプ、ウシオ電機製、型式「H0011」)で表面洗浄したアクリル板(商品名「デラグラスHA」、両面ハードコート処理、ハードコート屈折率1.52、ヘーズ0.10)のハードコート表面にワイヤーバーコータによって塗布して厚さ約100nmの塗膜を形成し、被膜を80℃で1時間酸素雰囲気下で熱処理して被膜を得た。
【0051】
(実施例2)
テトラエトキシシラン152部に酢酸ブチル250部を加え、更に水54部及び0.4Nの塩酸水溶液18部([H2O]/[OR]=1.0)を加え、これをディスパーを用いてよく混合した混合液を得た。この混合液を30℃の恒温槽内で、反応により発生するメタノールをエバポレータにて除去しながら2時間攪拌した後、除去したメタノールを系内に戻して、重量平均分子量を1300に調整したシリコーン加水分解物をマトリックス形成材料として得た。
【0052】
このシリコーン加水分解物を用いて、実施例1と同一の手法によりコーティング材組成物を調製し、更に実施例1と同一の手法により被膜を得た。
【0053】
(比較例1)
テトラメトキシシラン152部にIPA(イソプロパノール)250部を加え、更に水54部及び0.4Nの塩酸水溶液18部([H2O]/[OR]=1.0)を加え、これをディスパーを用いてよく混合して混合液を得た。この混合液を30℃恒温槽内で2時間攪拌して、重量平均分子量を1250に調整したシリコーン加水分解物をマトリックス形成材料として得た。
【0054】
このシリコーン加水分解物を用いて、実施例1と同一の手法によりコーティング材組成物を調製し、更に実施例1と同一の手法により被膜を得た。
【0055】
上記の実施例1,2及び比較例1で得た被膜について、反射率、ヘーズ率、屈折率、機械的強度、耐アルカリ性、及び指紋除去性を測定し、被膜の性能評価を行った。
【0056】
(5°相対反射率)
分光光度計(日立製作所製「U−3400」)を使用して、最小反射率を測定した。
【0057】
(ヘーズ率)
ヘーズメータ(日本電色工業製「NDH2000」)を使用して測定した。
【0058】
(屈折率)
簡易エリプソメータ(FILMETRICS社製、品番「F20」)を用いて屈折率を測定した。
【0059】
(機械的強度)
摩耗試験器(新東科学製、品番「HEIDON−14DR」、スチールウール#0000を使用、250g加重、10往復)で被膜を擦り、被膜に発生するキズの本数を測定した。
【0060】
(耐アルカリ性)
1%NaOH水溶液を被膜表面に滴下し、室温下で30分間放置した後、水洗・風乾し、試験前後での被膜の反射色変化を目視により比較した。
【0061】
(指紋除去性)
被膜表面に指の指紋を付着させ、トレシー(登録商標、東レ株式会社製)で拭き取る際の指紋除去に要する拭き取り回数で評価した。
【0062】
以上の結果を表1に示す。
【0063】
【表1】

【0064】
この結果、実施例1及び実施例2では、比較例1と同等の反射率、ヘーズ率、屈折率機械的強度及び指紋除去性を有しつつ、比較例1と比べて高い耐アルカリ性を有し、特に実施例2では耐アルカリ性の向上が著しいことを確認することができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコールを実質的に含有しない溶媒中でアルコキシシランを加水分解し、得られた生成物を含むコーティング材を基材表面に塗布した後、乾燥することにより、基材表面に厚み0.05〜1μmの被膜を形成することを特徴とする被膜の製造方法。
【請求項2】
上記アルコールを実質的に含有しない溶媒が、水酸基を有さないものであることを特徴とする請求項1に記載の被膜の製造方法。
【請求項3】
上記アルコキシシランの加水分解時に、加水分解反応で生成するアルコールを反応系から除去しながら反応を進行させることを特徴とする請求項1又は2に記載の被膜の製造方法。
【請求項4】
上記コーティング材の調製時に、上記アルコキシシランの加水分解の後、得られた生成物を充填材、溶剤、変性アルコキシシランのうち少なくともいずれかと混合することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の被膜の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の被膜の製造方法により基材の表面に被膜を形成して成ることを特徴とする反射防止基板。

【公開番号】特開2009−651(P2009−651A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−165418(P2007−165418)
【出願日】平成19年6月22日(2007.6.22)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】