説明

被覆アーク溶接機

【課題】定電流出力特性と垂下出力特性とが適度に組み合わされた特性を有する被覆アーク溶接機を提供すること。
【解決手段】定電流出力特性を有する被覆アーク溶接機において、前記定電流出力特性の特性線が溶接負荷特性ラインLと交差する点を基点として任意の垂下度を持つ、前記定電流出力特性に換わる所望の垂下出力特性を持つことを特徴とする被覆アーク溶接機。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被覆アーク溶接機に係わり、とくに定電流出力特性と調節可能な垂下度を持つ垂下出力特性を併せ持ち熟練者から未熟練者までが使い易い特性を示す被覆アーク溶接機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、溶接機の電流特性は、未熟練者でも安定したアーク溶接が可能になるように定電流出力特性を持たせている。ただし、定電流出力特性のみでは、溶接棒の種類や溶接姿勢によっては対応し難い問題があり、定電流出力特性に垂下出力特性を組合わせ、その特性間移行点を可変としたものも提供されている(特許文献1参照)。
【0003】
これは、図6に示すように、溶接電流域における定電流出力特性Iおよび最大電流抑制用の定電流出力特性III、ならびにこれら2つの定電流出力特性I,IIIを結ぶ垂下出力特性IIを有するものである。このように、常用する定電流出力特性と垂下出力特性とを任意に結合して組合わせるようにしたため、各種溶接棒に対応した溶接作業ができる。
【0004】
そして、垂下出力特性IIは、図7(a)に示すように垂下特性移行電圧を変えるものと、図7(b)に示すように定電流特性移行電流を変えるものとが提供されている。
【特許文献1】特開平11-170046号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような未熟練者でも安定したアーク溶接が可能な溶接機は、熟練者が技能を発揮するには必ずしも適当ではない。熟練者は、図8に示すような垂下出力特性を持った直流発電機(第3ブラシ発電機)を用いて垂下出力特性線と溶接負荷特性ラインL,L’,L”との交点を移動させて溶接電流をI,I’,I”に調整し、入熱調整を微細に行いつつ溶接作業をしていた経験を持つ。
【0006】
これに対して、定電流出力特性を持った溶接機では、図9に示すような定電流出力特性から垂下出力特性への移行点が溶接負荷特性ラインLに設定されていると、この移行点よりも大きな出力電流領域で調節することはできても、より小さな電流領域は定電流となり、調節不能となる。
【0007】
本発明は上述の点を考慮してなされたもので、定電流出力特性と垂下出力特性とが適度に組み合わされた特性を有する被覆アーク溶接機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的達成のため、本発明では、
定電流出力特性を有する被覆アーク溶接機において、
前記定電流出力特性の特性線が溶接負荷特性ラインと交差する点を基点として任意の垂下度を持つ、前記定電流出力特性に換わる所望の垂下出力特性をそなえたことを特徴とする被覆アーク溶接機、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明は上述のように、定電流出力特性を有するアーク溶接機における出力特性線と溶接負荷特性ラインとの交差する点を基点として所望の垂下出力特性を持つようにしたため、熟練者が溶接姿勢、溶接部材に合わせた任意の垂下度に調整することで最適な溶接作業を行うことが可能となり、しかも未熟練者が垂下度を最大にすれば手振れによる電流変化のない安定したアーク溶接が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、エンジン駆動の溶接用発電機を被覆アーク溶接機の溶接電源とした場合の本発明の実施例につき、添付図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0011】
図1は、本発明の実施例1の回路構成を示すブロック図である。実施例1は、図1に示すように、エンジンEにより溶接用発電機Gを駆動して交流電源出力と溶接用出力とを供給するものである。
【0012】
溶接用発電機Gは、自動電圧調整器AVRにより制御された出力を過電流リレーOCを介して取り出して2分し、一方は回路遮断器CBを経て出力端子U,V,W,0に給電し、他方は整流器REC以降の直交変換および交直変換、ならびに溶接電流制御を行って出力端子+,−に給電する。
【0013】
整流器RECは、その整流出力がコンデンサCを経てインバータINVに与えられて交流変換され、高周波トランスT、整流器D,Dおよび直流リアクタDCLを介して出力端子+,−に直流出力として与えられる。
【0014】
直流出力は、電流センサCSにより電流Idが検出される。この検出電流Idは、電圧センサVSにより検出された電圧が目標溶接電流演算装置IWに与えられて操作表示部ODからの指令信号x,yに基く演算がなされる。
【0015】
この演算の結果形成された目標溶接電流Iが検出電流Idと突き合わされ、得られた制御信号IcがPWM生成回路PWMおよびドライバDRに与えられ、インバータINVの制御が行われる。
【0016】
目標溶接電流演算装置IWに指令信号x,yを与える操作表示部ODは、電流調整器CCおよび垂下度調整器DCを有し、操作により得られた指令信号x,yを、シリアル通信受信回路RVを介して目標溶接電流演算回路IWに与える。目標溶接電流演算装置IWの動作内容は、図2ないし図4を用いて後述する。
【0017】
図2は、定電流出力特性を基にした垂下出力特性を示した特性図である。この特性は、溶接電圧Vを有するアーク溶接機の定電流出力特性を変えて、特性図上で傾斜を持たせることにより垂下出力特性を実現したものである。
【0018】
図2に実線で示す垂下出力特性ラインは、破線で示す溶接負荷特性ラインLと交点p1で交わり、その溶接電流設定値がxで、短絡電流は溶接電圧V=0との交点p2であるxy(=溶接電流設定値x×倍数値y)となる。ここで、溶接負荷特性ラインLは、
溶接電圧V=20+0.04×溶接電流I
で表わされる。
【0019】
図3は、図2に示した垂下出力特性の垂下度を変化させることによる出力電流の調節の様子を示したものである。この図3では、基本になる垂下出力特性を実線で示し、垂下度を変えた垂下出力特性を2本の想像線で、また垂下出力特性の傾斜度合いを最大に調節した場合、すなわち定電流出力特性をもう1本の想像線で示しており、これらの各特性線と溶接負荷特性ラインLおよび同L’、ならびに溶接電流I,I’との関係を示している。
【0020】
すなわち、実線で示した垂下出力特性では溶接作業者がアーク長を延ばして溶接負荷特性ラインがLからL’に変ると出力電流がIからI’に変るが、この実線の両側の想像線で示した垂下出力特性では出力電流の変化幅がより大きく、またはより小さくなる。
【0021】
これにより、垂下出力特性の傾斜度合いを調節することによって出力電流の調整度合いをより大きくまたはより小さくすることができる。
【0022】
図4は、図3で示した基本的な垂下出力特性を、より実用的に変更した例を示したものである。図4に示した特性は、アーク溶接機の出力電流が最小値Imin、最大値Imaxであると、垂下出力特性101が発電機容量の範囲での最大側で特性線102となり、最小側で特性線103となる。
【0023】
つまり、電流最大値Imaxと最小値Iminとの間で所定傾斜角の垂下出力特性が移動でき、また、垂下度合いを変えると、垂下出力特性ライン101と溶接負荷特性ラインLとの交点p1を中心にして傾斜度合いが異なった垂下出力特性ライン(想像線図示)が得られる。
【0024】
図5は、図1に示したアーク溶接機の目標溶接電流演算装置IWの動作内容を示すフローチャートである。目標溶接電流演算装置IWは、設定溶接電流x、短絡電流倍数値yおよび溶接電圧センサVSからの溶接電圧検出値Vが与えられると、下式によって目標溶接電流Iを求める。すなわち、
I=b−a×V
ここで、b=x×y
a=(b−x)/(20+0.04x)
ただし、x:設定溶接電流(30〜320A)
y:短絡電流倍数値(1.0から2.0)
V:溶接電圧検出値
である。
【0025】
上記式により求められた目標溶接電流と溶接電流検出値との偏差を0に制御することにより、垂下出力特性および定電流出力特性の制御を同一プログラムにより連続的に制御することができる。
【0026】
そしてまた、このプログラムにより従来必要とされてきた膨大な溶接出力特性データを省略することが可能になるのでメモリー容量を大幅に削減できる。
【0027】
これを図5に基いて説明すると、まず溶接電流設定値xを読み込み(ステップS1)、短絡電流倍数値yを読み込み(ステップS2)、さらに溶接電圧検出値Vを読み込む(ステップS3)。
【0028】
これら3つの要素x,yおよびVが与えられると、上記式により溶接電流目標値Iが求められる(ステップS4)。この溶接電流目標値Iが、最大電流(この場合、340A)以上であるか否かを判断し(ステップS5)、以上であればステップS7により溶接電流340AにPID制御する。
【0029】
そして340A未満であれば、ステップS6に移行して目標溶接電流Iが最小値30A未満か否かを判断し、未満であればステップS8により溶接電流30AにPID制御するし、30A以上であればステップS9により目標溶接電流IにPID制御する。
【0030】
ここで、最大電流340Aは溶接機の容量の大小によって決定される値であり、最小電流30Aはアークを安定的に維持できる最小の電流である。これらの値は、適用する溶接機によって適宜決めればよい。
【0031】
また、短絡倍数値yは最小値1.0に調節した場合が定電流出力特性で、短絡倍数値yを大きくすると短絡電流が大きくなるとともに垂下出力特性の傾斜の度合いが緩くなるが、最大値2.0は特に限定されたものではない。
【0032】
これらの制御を、動作終了指令が与えられるまで継続する(ステップS10)。
【0033】
このように、図4に示した定電流出力特性と垂下出力特性との複合制御特性に基いて出力電流を生じるアーク溶接機としての動作が行われる。
【他の実施例】
【0034】
上記実施例では被覆アーク溶接機の電源としてエンジン駆動の溶接用発電機を使用した場合を示したが、溶接電源としてはバッテリ電源、商用電源からトランスを介した電源でも良い。
【0035】
上記実施例では、最大電流または最小電流の定電流出力特性に単一の垂下出力特性を組み合わせた複合特性を持つアーク溶接機を示したが、垂下度合いの異なる2つの垂下出力特性を持った複合特性を有するアーク溶接機を構成してもよい。
【0036】
それには、目標溶接電流演算装置をもう一組設けて2つの目標溶接電流演算装置を切り替えて使用する。これにより、最大電流値および最小電流値による定電流出力特性の間で、それぞれ垂下度合いの異なる2つの垂下出力特性を持った複合特性を有するアーク溶接機を構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の実施例1の回路構成を示すブロック図。
【図2】定電流出力特性を基にした垂下出力特性を示した特性図。
【図3】図2に示した垂下出力特性の垂下度を変化させることによる出力電流の調節の様子を示した特性図。
【図4】図3で示した基本的な垂下出力特性を、より実用的に変更した例を示した特性図。
【図5】図5は、図1に示したアーク溶接機の目標溶接電流演算装置IWの動作内容を示すフローチャート。
【図6】従来の定電流出力特性および垂下出力特性を有するアーク溶接機の出力特性図。
【図7】従来の定電流出力特性および垂下出力特性を有するアーク溶接機の出力特性図。
【図8】従来の第3ブラシ付き発電機の出力特性図。
【図9】従来の定電流出力特性を有するアーク溶接機における出力特性と溶接負荷特性ラインとの関係を示す特性図。
【符号の説明】
【0038】
E エンジン、G アーク溶接機、REC 整流器、INV インバータ、
DCL 直流リアクタ、CS 電流センサ、VS 電圧センサ、
IW 目標溶接電流演算装置、OD 操作表示部、RV シリアル通信受信回路、
PWM パルス幅変調生成回路、DR ドライバ、V 出力電圧、
I 目標溶接電流、L 溶接負荷特性ライン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
定電流出力特性を有する被覆アーク溶接機において、
前記定電流出力特性の特性線が溶接負荷特性ラインと交差する点を基点として任意の垂下度を持つ、前記定電流出力特性に換わる所望の垂下出力特性をそなえたことを特徴とする被覆アーク溶接機。
【請求項2】
請求項1記載の被覆アーク溶接機において、
前記垂下出力特性は、垂下度すなわち傾斜角を設定する代わりに、溶接電流の設定値と溶接電圧の検出値に対して短絡電流の倍数値を設定して垂下度を演算によって求め、制御する被覆アーク溶接機。
【請求項3】
請求項1記載の被覆アーク溶接機において、
前記出力電流値が最小電流値以下の領域で、前記最小電流を基準とする定電流出力特性であることを示す被覆アーク溶接機。
【請求項4】
請求項1記載の被覆アーク溶接機において、
前記出力電流値が最大電流以上の領域で、前記最大電流を基準とする定電流出力特性であることを示す被覆アーク溶接機。
【請求項5】
請求項1記載の被覆アーク溶接機において、
前記垂下出力特性は、下式に基くものであることを特徴とする被覆アーク溶接機。
I=b−a×V
ここで、b=x×y
a=(b−x)/(20+0.04x)
ただし、I:目標溶接電流
x:設定溶接電流
y:短絡電流倍数値
V:溶接電圧検出値

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−296231(P2008−296231A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−141892(P2007−141892)
【出願日】平成19年5月29日(2007.5.29)
【出願人】(000109819)デンヨー株式会社 (88)
【Fターム(参考)】