説明

被覆セラミック触媒担体および方法

多孔質セラミック触媒担体は、触媒または触媒支持コーティングを施す前に、表面安定化層によりプレコートされ、この表面安定化層は、ポリビニルアルコール/ビニルアミンコポリマー、ポリビニルアルコール/ビニルホルムアミドコポリマー、およびゼラチンからなる群より選択される少なくとも一種類のコーティング材料を含む液体混合物のコーティングからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関からの排ガスの制御に用いられる種類の多孔質セラミック触媒担体への触媒または触媒支持コーティングの施用に関する。本発明は、より詳しくは、セラミック触媒担体の物理的性質への触媒コーティングの悪影響を回避しながら、そのようなセラミック触媒担体に触媒コーティングを施用できるプレコーティングまたは表面安定化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックハニカムなどのセラミック触媒担体の熱的性質への触媒コーティングプロセスの悪影響がよく知られており、これらの問題に対する解決策が数多く提案されてきた。主な問題は、アルミナなどの、触媒または触媒支持コーティングの酸化物成分が、コーティングおよび硬化プロセス中にセラミック担体の微小構造中に入り込み、触媒の施されたハニカムの熱膨張係数を一般に上昇させる様式で、その微小構造を満たす。このよわうな熱膨張の増加により、それらハニカムの耐熱衝撃性が実質的に減少してしまう。特許文献1から4には、この問題とそれに対する様々な解決策が記載されている。
【0003】
中でも、特に、排気流からの煤などの粒子状物質を効率的に除去するための、内燃機関の排ガス規制のために現在用いられているハニカム構造体は、当該技術分野において、ウォール・フロー・フィルタと称されるタイプの構造体である。そのようなフィルタは一般に、交互のチャンネルに端部栓が設けられた多孔質セラミックハニカムであり、それによって、構造体を通り抜ける排ガスは、排ガスの排出前に粒子状物質を捕捉する多孔質チャンネル壁を通過しなければならない。そのようなフィルタを製造するのに有用なセラミック材料の例としては、触媒被覆プロセスにより悪影響を受けることがあるが、コージエライト、チタン酸アルミニウム、炭化ケイ素、耐火性リン酸ジルコニウムアルカリ、並びにベータ・ユークリプタイト、ベータ・スポジュメン、およびポルサイトなどの低膨張アルカリアルミノケイ酸塩が挙げられる。これらの材料を用いた排気フィルタ設計の例が特許文献5から7に記載されている。
【0004】
米国および欧州において適用されている強化されてきたディーゼルエンジンの排ガス規制に対処するために、最近の注目は、ディーゼルエンジンの排ガスを処理するためのセラミック製ウォール・フロー・ハニカムフィルタの設計および性能の基本的な改良に焦点が当てられている。数ある改良の中でも、炭化水素および/または窒素酸化物の排出を制御するために触媒コーティングを使用できる設計変更が実施されている。その目的は、現行の高コストおよび/または触媒の施されていない粒子状物質フィルタを置き換えることのできる、進歩した排ガス制御触媒技術に適合する、耐高温性と耐熱衝撃性が改善された低コストのハニカム煤フィルタを開発することにある。
【特許文献1】米国特許第4452517号明細書
【特許文献2】米国特許第4483940号明細書
【特許文献3】米国特許第4532228号明細書
【特許文献4】米国特許第5346722号明細書
【特許文献5】米国特許第6620751号明細書
【特許文献6】米国特許第6673414号明細書
【特許文献7】米国特許第6468325号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
フロー・スルー型セラミックハニカム触媒担体の熱膨張係数および耐熱衝撃性への触媒コーティングプロセスの悪影響を最小にするために従来技術においてうまく用いられた材料および方法は、触媒の施されたウォール・フロー・フィルタの製造には、大部分は不適切であることが実証された。引き続いている問題は、触媒の施されたフィルタにおいて高いガス透過率および低い熱膨張係数を維持しつつ、排気流の効果的な触媒処理にとって十分な触媒装填量を提供する必要性である。触媒コーティングは、担持しているセラミック壁構造体の要求される高いガス透過率または熱膨張係数のいずれも許容できないほど劣化させずに、触媒を効果的に分布させるような様式でフィルタ構造体内に配置されなければならない。
【0006】
望ましくは、フィルタの耐熱衝撃性を維持するために、ウォッシュコートまたは触媒コーティングの塗布から生じるCTEの増加は、1000℃の温度で測定して、10×10-7/℃を超えるべきではなく、ウォッシュコートの施されたフィルタのCTE値は、その温度で測定して、25×10-7/℃を超えるべきではない。さらに、触媒の施されたフィルタを通るガス透過率は、捕捉された粒子状物質を除去するためのフィルタの再生後に、150,000/時までの排ガス空間速度で圧力降下を8kPa未満に維持するのに十分であるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、触媒被覆されたまたはウォッシュコートの施された担体のCTEの上昇を抑え、それでも気孔率またはガス透過率を許容できないほどは減少させない、触媒コーティングまたはウォッシュコートのための担体として使用すべき多孔質セラミック体の微細な気孔構造体を製造するまたは「表面安定化する(passivating)」方法を提供する。それゆえ、この方法は、担体の微細な気孔構造体中への触媒またはウォッシュコートの侵入並びに触媒またはウォッシュコートによる開放壁気孔構造体の許容できない封鎖を防ぐのに効果的であり、それでもまだ、セラミック壁上またはその中への触媒またはウォッシュコートの良好な分布を支援する。
【0008】
第1の態様において、本発明は、多孔質セラミック触媒担体を、触媒または触媒支持コーティングをそこに施す前に、下塗りする方法であって、ポリビニルアルコール/ビニルアミンコポリマー、ポリビニルアルコール/ビニルホルムアミドコポリマー、およびゼラチンからなる群より選択される少なくとも一種類のコーティング材料を含む液体混合物のコーティングをその担体に施して、被覆担体を提供する工程を有してなる方法を含む。次いで、得られたコーティングは乾燥せしめられて、従来の触媒コーティングおよびウォッシュコート配合物に適合しており、それでもまだ、触媒またはウォッシュコート液体のセラミック担体の微細な気孔構造体中への望ましくない侵入を遮断するのに十分に安定であるコーティング材料の層を担体上に残す。
【0009】
別の態様において、本発明は、ポリビニルアルコール/ビニルアミンコポリマー、ポリビニルアルコール/ビニルホルムアミドコポリマー、およびゼラチンからなる群より選択される材料のコーティングを支持するセラミック触媒担体などの多孔質セラミック体を含む。そのようなコーティングが施されたセラミック触媒担体は、許容できないほど触媒担体の熱膨張係数を増加させたり、そのガス透過率を減少させたりせずに、そのような用途にとって慣例のプロセスを用いて、その上に触媒コーティングおよびウォッシュコートを施すために処理することができる。
【0010】
本発明の方法を実施する際に、コポリマーまたはゼラチンの架橋を促進させるために、例えば、乾燥中に、活性化させることのできる化学架橋剤を液体コーティング混合物中に含ませることが一般に好ましい。コーティング材料の化学的に架橋した層が設けられた触媒担体は、従来の触媒コーティングまたはウォッシュコート配合物との良好なコーティング適合性を示し続け、それでも、その架橋したコーティングは、触媒コーティングまたはウォッシュコーティングプロセス中に改善された耐溶解性を示す。それゆえ、コーティング材料の架橋層は、セラミック担体を熱膨張の上昇およびガス透過率の減少からより効果的に保護する。
【0011】
本発明の被覆方法の別の有用な改変は、液体コーティング混合物のpHを、この混合物をセラミック担体に施す前に、調節することにある。3から8のpH範囲にあるpH値に調節されたこれらのコポリマーまたはゼラチンの液体混合物は、表面安定化された部分が、一般に酸性のウォッシュコートまたは触媒コーティング調製物のpHに最小にしか影響しないという点で加工上の利点を提供する。
【0012】
本発明による下塗り層または表面安定化コーティングが設けられた任意の多孔質セラミック触媒担体は、触媒コーティングおよび触媒支持ウォッシュコートを施用するための重大な利点を提供するが、この方法は特に、コージエライトおよびチタン酸アルミニウムからなる群より選択されるセラミックから構成された触媒担体のコーティング特性を改善する。炭化ケイ素などのセラミックを処理してもよいが、フロー・スルー型触媒担体およびウォール・フロー・フィルタの製造のためのコージエライトおよびチタン酸アルミニウムセラミックの利点は、それらの非常に低い熱膨張係数の結果であり、これらの低い係数は、少なくとも一部には、セラミック母材の相当な微小亀裂の結果である。本発明の方法は、セラミックコーティングまたはウォッシュコーティングプロセスから生じ得る熱膨張の増加に対してそのような微小亀裂の生じたセラミックを保護するのに特に効果的であり、さらに、触媒担体がウォール・フロー・フィルタとして選択的に塞がれた構造で用いられる場合に高いガス透過率を維持するのに役立つ。
【0013】
ポリビニルアルコール/ビニルアミン(PVOH/VAM)、ポリビニルアルコール/ビニルホルムアミド(PVOH/VF)コポリマーまたはゼラチンは、それらが、従来のウォッシュコートおよび触媒コーティング材料およびプロセスに非常に適合しているので、多孔質セラミック触媒担体上にバリアコーティングを提供するのに特にうまく適している。これらのバリアコーティング材料は、多孔質の微小亀裂の形成されたセラミック基体の気孔構造体に十分に浸透する、比較的低粘度の水溶液または水性懸濁液を形成する。さらに、乾燥したコーティングは、親水性であり、それゆえ、そのようなウォッシュコートおよび触媒コーティング調製物に容易に濡れ、よって、その乾燥したコーティングは、触媒担体上でそのような調製物の分布を妨げない。適切な量のウォッシュコート(触媒)材料を、従来の手法を用いて、乾燥したバリアコーティング上に容易に堆積することができる。
【0014】
上述した種類の任意の様々なコポリマーおよびゼラチンを用いることができる。使用してよいゼラチンには、牛皮、牛骨、豚皮、および魚皮などの供給源から由来するものがある。ゼラチンは、AタイプまたはBタイプのものであっても、任意のブルーム値のものであっても差し支えない。低イオン含有量のゼラチン、例えば、写真用ゼラチングレードが好ましい。ブルーム値の低いまたはゼロのゼラチンも、溶解または加工中に加熱する必要性がなくなるので、好ましい。特に好ましいゼラチンは、米国、ニュージャージー州、クランスベリー所在のノーランド・プロダクツ社(Norland Products Inc.)からの高分子量アイシングラス(High Molecular Weight Fish Gelatin)である。
【0015】
流動性のバリアコーティング水溶液を形成できるPVOH/VAMおよびPVOH/VFコポリマーが、比較的幅広い分子量に亘り市販されている。約30,000〜140,000の分子量範囲に亘る市販のコポリマーが特に適している。そのコポリマー中に存在するビニルアミンまたはビニルホルムアミドの量は、特定の用途の要件を満たすために様々であってよい。市販のコポリマーの特定の例としては、スペイン国、タラゴナ所在のエルコール社(Erkol, S.A.)から市販されている、Erkol(商標)E6、M12、M6i、およびM12iが挙げられる。
【0016】
必須ではないが、ウォッシュコートまたは触媒コーティングにおいて遭遇する条件により、有害なバリアコーティングの相互作用が生じ得る場合には、これらの液体バリアコーティング配合物に化学架橋剤を加えてもよい。これらの架橋剤は、ポリマー水溶液に加えられる場合、乾燥プロセス中にそのポリマーを架橋させ、乾燥したコーティングの水溶性を著しく減少させる。水溶性が減少したことにより、ウォッシュコートする最中にバリアコーティングが移行する可能性が減少する、例えば、触媒の有効性を減少させ得る、バリアコーティングからウォッシュコートまたは触媒コーティング中へのコポリマーの抽出が減少する。それと同時に、セラミックの微小孔または微小亀裂の形成された領域からのコポリマーの起こり得る任意の溶解を最小にすることができる。このような溶解は、ウォッシュコートする最中または触媒作用を及ぼしている最中に粒子の侵入を許し得るものである。
【0017】
適切な架橋剤は、ベースの表面安定化ゼラチンまたはコポリマーの一種類以上の官能基と反応性である官能基を含有するものである。多孔質のセラミック基体上に表面安定化コーティング液体が堆積されるまで、架橋を促進しない架橋剤が特に有用である。ブレンドされ、出荷および貯蔵中にほとんどまたは全く架橋しない一液性組成物として貯蔵できる、架橋剤およびベースバリアコーティング材料の配合物が有益であるが、コポリマーおよび架橋剤を別々に保持し、次いで、必要なときにブレンドされる二液性組成物も適している。
【0018】
特に適した架橋剤は、使用条件下で、ベースのゼラチンまたはコポリマーバリア材料の官能基と反応できる官能基を一種類以上含有する材料である。ゼラチン系のバリアコーティング配合物の場合、架橋剤は、タンパク質ポリマー鎖と共に、カルボキシル、アミノ、アルコール、およびフェノール官能基と反応できる基を含有すべきであり、一方で、PVOH/VAMコポリマー配合物の場合には、架橋剤は、ヒドロキシおよびアミノ側基と効果的に反応すべきである。
【0019】
有機コポリマー架橋剤の例としては、以下に限られないが、多官能性カルボジイミド、アルデヒド、無水物、エポキシ、イミデート、イソシアネート、メラミンホルムアルデヒド、エピクロロヒドリン、2,5−ジメトキシテトラヒドロフラン、および2−(4−ジメチルカルボモイル−ピリジノ)エタン−1−スルホネートが挙げられる。中でも、特に好ましい市販の架橋剤は、日本国、千葉県所在の日清紡績株式会社から販売されている、カルボジライト(登録商標)V−02、V−02−L2、V−04、E−02、およびE−03Aカルボジイミドなどの多官能性カルボジイミド材料である。これらのコポリマーのための無機架橋剤としては、オキシ塩化リン、チタンテトラブトキシド、炭酸ジルコニウムアンモニウムなどが挙げられる。
【0020】
ゼラチン系バリアコーティング溶液のための最も効果的な架橋剤は、グリオキサール系の架橋添加剤である。適切な市販の材料の例としては、米国、ロードアイランド州クランストン所在のバーセン社(Bercen, Inc.)から販売されているBerset(商標)2506、2125、2155、および2700架橋剤が挙げられる。
【0021】
約550℃を超えない温度で、従来のウォッシュコートまたは触媒コーティングのか焼工程中に容易に完全に燃え尽きることが、上述したゼラチンおよびコポリマー系のバリアコーティング配合物の特別な利点である。さらに、分解副生成物、例えば、ゼラチンからの一般的な炭質材料、コポリマーからの炭素と水素の酸化物、ガス状アミン、およびアンモニアは、触媒およびウォッシュコートにとって無害である。コポリマーおよび/またはゼラチンコーティング材料およびそれらの除去の副生成物の両方が実質的に塩素を含まず、従来技術のコーティング材料のいくつかに生じ得る基体または触媒が腐食する可能性が避けられることが最も重要である。
【0022】
先に示したように、PVOH/VAM、PVOH/VFおよびゼラチンポリマーは、易水溶性である。しかしながら、後で施されるウォッシュコートまたは触媒調製物のpHへのコポリマーまたはゼラチンコーティングの影響を最小にするために、ほとんどの場合、その溶液のpHを、3〜8の範囲に調節することが望ましく、これは、混合物への酸添加により容易に行われる。これらのポリマーおよびゼラチン溶液の多孔質セラミック基体への施用は、比較的低粘度であるために、浸漬または真空溶浸により都合よく行われる。
【実施例】
【0023】
本発明による多孔質セラミック触媒基体の被覆のための適切な材料およびプロセスの説明に役立つ実例が以下に述べられている。コーティングを施し、その性能を評価するための一般手順は以下のとおりである。
【0024】
サンプル調製手順
最初に、ガラス容器中に選択された装填量の脱イオン水を秤量することによって、PVOH/VAMの溶液を調製する。この容器には、ステンレス鋼製ミキサ翼のシャフトのため、および混合物の乾燥成分を添加するための開口部を有するが、混合中の蒸発を最小にするように適合された蓋が被されている。
【0025】
ある測定量の選択されたPVOH/VAMまたはPVOH/VF粉末を、600rpmで撹拌しながら、瓶中の水の渦中に加える。次いで、この瓶を、85℃に加熱された油浴中に浸し、次いで、混合速度を1000rpmまで上昇させる。混合を2時間に亘り続け、その後、混合された内容物を、熱い間に、ペーパータオルに通して直ちに濾過して、不溶性物質を除去し、室温まで冷却する。
【0026】
次いで、得られた混合物のpHを、濃硝酸の添加により約7に調節し、架橋したバリアコーティングが要求される場合、ある測定量の選択された化学架橋剤を混合物に加える。この架橋剤は、600rpmのミキサ速度で撹拌しながら、混合物の渦に加えられ、均質なブレンドが製造されるまで、混合は2分間に亘り続けられる。
【0027】
ゼラチンを溶解するために混合物を加熱し、ゼラチン混合物を濾過することが必要ないことを除いて、ゼラチンバリアコーティング溶液の調製に関して、同じ調製手法にしたがう。必要に応じて、貯蔵前に、米国、ニュージャージー州ウェーン所在のアイエスピー社(ISP Corporation)から得られるGermaben II(商標)保存料の0.2%の添加などの、ゼラチンを安定化するための保存料を加えても差し支えない。
【0028】
調製されたバリアコーティング溶液の有効性を評価するためのセラミックハニカム触媒基体サンプルに高圧空気を吹き付けて、埃を除去し、次いで、秤量する。選択されたサンプルは、チタン酸アルミニウムおよびアルカリ土類長石の主結晶相を持つチタン酸アルミニウム組成のものである。これらのハニカムは、約46セル/cm2のチャンネル密度、約0.3mmのチャンネル壁厚、およびガス透過率の高い約50体積%の壁気孔率を有する。これらハニカムは、約1000℃の温度で測定して、約8×10-7/℃の平均線熱膨張係数(CTE)を有する。
【0029】
各サンプルを調製されたコポリマーまたはゼラチン溶液の内の1つの中に浸漬し、サンプルと溶液に1分間に亘り真空を施し、次いで、真空を解放することによって、これらの基体のチャンネル壁上に均一なバリアコーティングを堆積させる。真空の施用と解放のこのサイクルをさらに2回繰り返し、その後、過剰なコーティング溶液を流し出させ、被覆基体に高圧空気を吹き付け、次いで、秤量する。秤量後、被覆サンプルを熱風オーブン内で一晩に亘り100℃で乾燥させ、最後に再度秤量して、乾燥コーティングの装填量を決定する。
【0030】
バリア被覆したサンプルは、それらに従来のアルミナウォッシュコートプロセスを施すことによって、低い熱膨張係数および高いガス透過率を維持する上での有効性について評価される。バリア被覆されたサンプルを、米国、マサチューセッツ州アッシュランド所在のナイアコール社(Nyacol Corporation)からNyacol(商標)AL−20として市販されているコロイドアルミナ・ウォッシュコート溶液中に浸漬し、サンプルと溶液に1分間に亘り真空を施す。次いで、真空を解放し、高圧空気を吹き付けることによって、過剰のウォッシュコート溶液を除去する。
【0031】
次に、ウォッシュコートの施されたサンプルを秤量し、一晩、100℃で熱風オーブナ内で乾燥させ、再度秤量して、乾燥したウォッシュコートの質量を決定する。これらのサンプルにウォッシュコートか焼手順を施す。この間、サンプルは、1.6℃/分の割合で550℃まで加熱され、3時間に亘り550℃に保持され、次いで、1.6℃/分の割合で室温まで冷却される。一日後、サンプルを再度秤量して、バリアコーティング材料の除去後のか焼されたウォッシュコートの装填量を決定し、次いで、ウォッシュコート処理から生じた、流動ガスの圧力降下の測定および熱膨張係数の測定のために提出される。
【0032】
PVOH/VAMおよびPVOH/VFコポリマーバリアコーティングの最初の試験のいくつかの結果が、下記の表1に報告されている。試験したサンプルの各々について、初期(乾燥)セラミック基体の質量、水中のコポリマーの質量パーセントで報告されたコポリマー濃度でサンプルを処理するのに用いられる表面安定化コーティング溶液の特定、コポリマーで被覆されたサンプルの質量パーセントで表された乾燥後のサンプル上の表面安定化コーティングの質量、ハニカムの嵩体積のリットル当たりのグラムで表された、ウォッシュコートの乾燥およびか焼後のウォッシュコートの装填量、およびウォッシュコートの施されたセラミック担体の測定された熱膨張係数が表1に含まれている。
【0033】
コーティング溶液の調製に用いられる表面安定化ポリマーが、以下のように表1に文字により識別されている:
A−「Erkol」M6コポリマー(ポリビニルアルコール中6%のビニルアミン)
B−「Erkol」M12ポリマー(ポリビニルアルコール中12%のビニルアミン)
C−「Erkol」M6iポリマー(ポリビニルアルコール中6%のビニルホルムアミド)
D−「Erkol」M12iポリマー(ポリビニルアルコール中12%のビニルホルムアミド)
これらのMシリーズのコポリマーは、80〜140,000amwの範囲の平均分子量を有する。これらの特定の表面安定化溶液のどれも、化学架橋剤は含んでいない。
【表1−1】

表面安定化コーティングを使用していないこれらの多孔質セラミック触媒担体のウォッシュコートから生じたCTEの大幅な増加(具体例1)、並びにPVOH/VAMおよびPVOH/VFコポリマー表面安定化コーティングにより与えられたそのような増加に対する実質的な防止(具体例2〜5)の両方が、表1のデータから明らかである。
【0034】
ウォッシュコートによるCTEの増加を防ぐことにおけるいくつかの比較的薄いゼラチン溶液の有効性が、以下の表1Aに報告されたデータに反映されている。表1Aのサンプルに表面安定化コーティングとして用いられたゼラチンは、米国、アイオワ州スーシティー所在のゲライタ・ユーエスエー社(Gelita USA)から得られるGelita Photo Bone Gelatin、タイプ8669である。表に報告されているように、ウォッシュコート後に表面安定化コーティングを硬化させるために、いくつかの異なる乾燥処理が用いられるが、乾燥したゼラチンコーティングは、各場合において、親水性であり、容易に濡れやすい。それゆえ、後で施されるアルミナウォッシュコート水溶液は、ゼラチン被覆されたセラミック基体に容易に浸透し、濡らすことができる。乾燥したゼラチンコーティングは、比較的低い、室温で水溶性であり、それゆえ、ウォッシュコート(触媒)溶液中に抽出される傾向が最小である。
【0035】
ゼラチン溶液の重要な利点は、比較的低いコーティング濃度でさえも、従来技術の微小亀裂バリアコーティングの多くよりも優れた保護作用を提供することである。1〜3質量%のゼラチンを含む溶液は、50%開気孔率のセラミック基体上に0.2〜0.7%ゼラチンを堆積させることができ、その量は、多くの場合でCTEの増加を防ぐのに良好であり、ウォッシュコートまたは触媒のか焼工程中に容易に除去される。
【表1−2】

以下の表2には、上述したように一般的に調製されたいくつかの追加の表面安定化被覆されたサンプルに関する代表的な性能データが含まれているが、ここでは、表面安定化溶液の全てに化学架橋剤が含まれている。ウォッシュコートが施されたセラミックハニカムのCTEおよびウォッシュコートが施されたセラミックの圧力降下の増加の両方に関するデータが含まれており、後者は、裸のセラミック担体の圧力降下に対する、ウォッシュコートが施されたセラミック担体の圧力降下の比として報告されている。いくつかの場合には、表に示されているように、表面安定化溶液は、約7のpH値にpH調節されていた。
【0036】
表2のコポリマー溶液では、表1に用いられたコポリマーよりも、いくぶん低い平均分子量(amw)のPVOH/VAMコポリマーが用いられた。各場合において使用したコポリマーとゼラチン、並びに用いた架橋剤は、以下のとおりである:
E−「Ekrol」L12コポリマー(PVOH中12%のビニルアミン;30000〜5000amw)
F−Norland High Molecular Weight Fish Gelatin-ノーランド・プロダクツ社
1−「カルボジライト」V-02カルボジイミド架橋剤
2−Berset 2700グリオキサール架橋剤−バーセン社
試験したサンプルの各々について、サンプル番号、質量パーセントで表された各表面安定化溶液中に用いられた表面安定化材料および架橋剤の識別、グラムで表された施された表面安定化コーティング材料の質量(乾燥後)、ハニカムの嵩体積のリットル当たりのグラムで表されたウォッシュコートが施されか焼されたセラミック担体のウォッシュコート装填量、ハニカムの壁に5g/リットルの合成炭素煤が装填された状態で測定されたセラミックサンプルを通る測定された初期(未被覆)および最終(ウォッシュコートが施された)圧力降下、およびウォッシュコートが施されたものに対する未被覆のものの圧力降下の比が、表2に含まれている。
【表2】

【0037】
表2のデータが反映しているように、架橋したコポリマーおよびゼラチンの表面安定化コーティングは、ここでも、ウォッシュコートの施されたサンプルにおいてCTEの大幅な増加を防ぎ、ウォッシュコートの施されたサンプルの圧力降下の増加を、裸のフィルタの圧力降下の2倍以下に維持した。これと同時に、40g/L以上のウォッシュコートの装填が達成された。表2のサンプル3−1〜3−3は、表面安定化溶液中のコポリマーまたはゼラチンの濃度を増加させると、CTEと圧力降下に対する保護をさらに増加させることができるが、そのような増加は、一般に、架橋剤の濃度を増加させることによって、行うべきである。そうしなければ、ウォッシュコートの付着がある程度損なわれ得る。サンプル4−1〜4−3は、架橋剤の濃度を著しく増加させ、CTEおよび圧力降下両方の増加を良好に防ぎ、それでも、良好なウォッシュコート装填量をまだ達成することができるのを示している。
【0038】
以下の表3は、コポリマー、ゼラチンおよび架橋剤の比率のさらなる変更を示す、表面安定化混合物の追加の実例を示している。コポリマーおよびゼラチンの組合せを含む混合系も含まれている。
【表3】

【0039】
以下の表4は、本発明による有用な表面安定化混合物の追加の具体例を挙げている。具体例の各々について、用いた溶液の組成の詳細、表面安定化コーティングおよびウォッシュコーティングプロセスに施されたセラミックハニカムの未被覆の質量、施された表面安定化コーティングおよびウォッシュコートの質量、および個々のサンプルについて測定された場合の、ウォッシュコートの施されたCTE測定および圧力降下測定に関するデータが表に含まれている。以下の追加の化学架橋剤が個々の場合に用いられた:
3−Berset 2125グリオキサール架橋剤−バーセン社
【0040】
【表4】

【0041】
上のサンプル6−1から6−3は、溶液の表面安定化効果への異なる架橋剤組成およびpHの影響を示しており、一方で、サンプル6−4は、ゼラチン表面安定化材料に関する架橋剤組成の変更例を示している。サンプル7−1および7−2は、ゼラチン系における高濃度の架橋剤および表面安定化材料の使用を示しており、一方で、サンプル7−3から7−5は、PVOH/VAM含有溶液に関する特に好ましい組成範囲を示しており、ここで、コポリマー:架橋剤の質量比は一定に維持される。サンプル7−4に用いたもののような配合物であるが、表面安定化コポリマーの濃度がわずかに高い(例えば、8.5質量%のコポリマーE)配合物が特に有用である。
【0042】
サンプル8−1および8−2は、ゼラチンレベルが高い溶液を示しており、サンプル8−2に用いた溶液は、ゼラチン系溶液に特に好ましい。サンプル8−3および8−4は、他の配合物のいくつかよりも分子量が大きいおよび/またはアミン含有量が少ない、PVOH/VAMコポリマーの使用を示しており、サンプル8−5は、PVOH/VAMポリマーレベルが高いコーティング配合物の具体例を示している。この表の最後の3つのような配合物は、これらの特定のポリマー濃度で、架橋剤とそれらポリマーとの間にある程度不相溶性があるために、架橋剤の濃度が低い。
【0043】
もちろん、先の具体例は、添付の特許請求の範囲内で実施されている限り、本発明の単なる説明である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質セラミック触媒担体を、触媒または触媒支持コーティングをそこに施す前に、下塗りする方法であって、ポリビニルアルコール/ビニルアミンコポリマー、ポリビニルアルコール/ビニルホルムアミドコポリマー、およびゼラチンからなる群より選択される少なくとも一種類のコーティング材料を含む液体混合物のコーティングを前記担体に施して、被覆担体を提供し、次いで、前記コーティングを乾燥させる各工程を有してなる方法。
【請求項2】
前記液体混合物が架橋剤を追加に含むことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記架橋剤が、多官能性カルボジイミド、アルデヒド、無水物、エポキシ、イミデート、イソシアネート、メラミンホルムアルデヒド、エピクロロヒドリン、2,5−ジメトキシテトラヒドロフラン、2−(4−ジメチルカルボモイル−ピリジノ)エタン−1−スルホネート、オキシ塩化リン、チタンテトラブトキシド、および炭酸ジルコニウムアンモニウムからなる群より選択される一種類以上の添加剤を含むことを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記液体混合物が3〜8の範囲のpHを有することを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項5】
ポリビニルアルコール/ビニルアミンコポリマー、ポリビニルアルコール/ビニルホルムアミドコポリマー、およびゼラチンからなる群より選択されるコーティング材料の表面安定化コーティングが施された多孔質セラミック触媒担体。
【請求項6】
前記コーティング材料が化学的に架橋していることを特徴とする請求項5記載の触媒担体。
【請求項7】
コージエライト、チタン酸アルミニウムおよび炭化ケイ素からなる群より選択されるセラミック組成を有することを特徴とする請求項5記載の触媒担体。
【請求項8】
ウォール・フロー・フィルタの形状を有することを特徴とする請求項5記載の触媒担体。

【公表番号】特表2008−529775(P2008−529775A)
【公表日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−555175(P2007−555175)
【出願日】平成18年2月6日(2006.2.6)
【国際出願番号】PCT/US2006/004296
【国際公開番号】WO2006/088699
【国際公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【出願人】(397068274)コーニング インコーポレイテッド (1,222)
【Fターム(参考)】