説明

被覆用組成物及び被覆物品

【課題】塗装欠陥を生ずることなく、耐久性の高い撥水性被膜を形成することのできる被覆用組成物、及びこの被膜を設けた被覆物品を提供する。
【解決手段】(A)ポリオール、(B)ポリイソシアネート、及び(C)両末端にOH基を有するシリコーン添加剤を含み、ポリオールに対するシリコーン添加剤の添加量が3〜60wt%であり、ポリオールとシリコーン添加剤が有するOH価とポリイソシアネートが有するNCOの当量比(NCO/OH)が1.05〜1.1である、被覆用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐久性の高い撥水性被膜を形成する被覆用組成物、及びこの被膜を設けた被覆物品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、被膜の汚染を防止するため、この被膜に撥水性を付与することを目的として、シリコーン系添加剤やフッ素系添加剤をトップコートに添加していた(例えば特許文献1及び特許文献2参照)。しかしながら、十分な撥水性を得るためにはトップコートのメイン樹脂に対する添加剤の添加量を多くする必要があるが、上記の添加剤を塗料に大量に添加すると、得られる被膜が均一にならず、はじきと呼ばれる塗装欠陥が生じてしまう。また、上記添加剤を大量に添加しないと、継続的な撥水性の性能を持続させることができなかった。さらに、屋外使用時においては、雨水等により添加した成分が被膜から流出してしまい、撥水性の効果を長く保持することができなかった。
【0003】
また、片末端ラジカル重合性シリコーン系添加剤を用いて被膜の撥水性の持続を向上させた手法も知られている(例えば特許文献3参照)。しかしながら、この手法によっても、はじき等の塗装欠陥を伴う危険性が高い。
【0004】
【特許文献1】特開平11−349893号公報
【特許文献2】特開2000−7995号公報
【特許文献3】特開2003−292870号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、以上のような問題点を解決するためになされたものであって、はじき等の塗装欠陥を生ずることなく、耐久性の高い撥水性被膜を形成することのできる被覆用組成物、及びこの被膜を設けた被覆物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明の第一の態様によれば、(A)ポリオール、(B)ポリイソシアネート、及び(C)両末端にOH基を有するシリコーン添加剤を含み、ポリオールに対するシリコーン添加剤の添加量が3〜60wt%である被覆用組成物が提供される。好ましくは、ポリオールとシリコーン添加剤が有するOH価とポリイソシアネートが有するNCOの当量比(NCO/OH)は1.05〜1.15である。
【0007】
また本発明の第二の態様によれば、上記の被覆用組成物を基材上に塗布し、この組成物を硬化させてなる被覆物品が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明の被覆用組成物は、両末端にOH基を有するシリコーン添加剤の添加量が少量でも十分な撥水性を示し、はじき等の塗装欠陥を生ずることなく被膜を形成することができ、さらにOH基がNCOと反応して固定されるため、得られる被膜は耐久性に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の被覆用組成物は、(A)ポリオール、(B)ポリイソシアネート、及び(C)両末端にOH基を有するシリコーン添加剤を含むが、このうち成分(A)のポリオール及び成分(B)のポリイソシアネートは、通常のウレタン系塗料に使用されるものを用いることができる。
【0010】
ポリオールとしては、分子内に水酸基を2個以上有するものであり、例えば以下に示すものを用いることができる。脂肪族、脂環式、脂肪芳香族多価アルコール、具体的には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、グリセロール、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール、ソルビトール等。また、これらのアルコールを開始剤としてオキシラン基を有する炭化水素基、すなわちエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等で変性したポリマー(ポリエーテル)ポリオール。アルキルアミン、アルカノールアミンを開始剤としてオキシラン基を有する炭化水素で変性したアミルポリマーポリオール。オキシラン基を有するエポキシ樹脂やエポキシ化油を水又はアルカノールアミンにて開環させたポリマーポリオール。上記アルコールを開始剤としてε−カプロラクトンのラクトン類を開環重合反応させて得られるラクトンポリオール。上記多価アルコールと公知の1種以上の多価カルボン酸、例えばシュウ酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸又はこれらの酸無水物と反応させて得られるポリエステルポリオール。公知の油、ヒマシ油、又は各種脂肪酸を用い、多価アルコールとのエステル交換又はエステル化と多塩基酸とのエステル化により合成されるアルキドポリオール。ヒドロキシル基含有ラジカル重合性不飽和モノマー及び必要に応じて少なくとも1種の他のラジカル重合性モノマーを共重合させて得られるアクリルポリオール。ヒドロキシル基含有ラジカル重合性不飽和モノマー、フルオロオレフィンモノマー及び必要に応じて他のラジカル重合性モノマーを共重合させて得られる含フッ素ポリオール。
【0011】
これらのうち、アクリルポリオール及び含フッ素ポリオールを用いることが好ましい。これらのポリオールの製造に用いられるヒドロキシル基含有ラジカル重合性不飽和モノマーとしては、例えば、ヒドロキシエチルビニルエーテル、ヒドロキシプロピルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、ヒドロキシペンチルビニルエーテル等のヒドロキシアルキルビニルエーテル、エチレングリコールモノアリルエーテル、ジエチレングリコールモノアリルエーテル、トリエチレングリコールモノアリルエーテル等のヒドロキシアリルエーテル等を挙げることができる。
【0012】
他のラジカル重合性モノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、イソブチレン等のα−オレフィン、エチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル等のビニルエーテル、酢酸ビニル、乳酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル等の脂肪酸ビニルや脂肪酸イソプロペニル等の脂肪酸エステル等を挙げることができる。
【0013】
フルオロオレフィンモノマーとしては、二フッ化オレフィンモノマー、三フッ化オレフィンモノマー、及び四フッ化オレフィンモノマーがあり、具体的には、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、三フッ化塩化エチレン、四フッ化エチレン等を挙げることができる。
【0014】
成分(B)としてのポリイソシアネートは、イソシアネート基及び/又はブロック化イソシアネート基を1分子中に2個以上有する化合物であり、脂肪族系、脂環式系、脂肪芳香族系の各ポリイソシアネートがある。具体的には、脂肪族系のポリイソシアネートとしては、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、1,4−テトラメチレンジイソシアネート、2,2,4−又は2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,6−ジイソシアネートメチルカプロエート(リジンイソシアネート)等を挙げることができる。脂環式系のポリイソシアネートとしては、1,3−又は1,4−ジイソシアネートシクロヘキサン、1,3−又は1,4−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート、イソプロピリジル−ビス(4−シクロヘキシルイソシアネート)、3−イソシアネートメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルイソシアネート(イソホロンジイソシアネート)、ノルボルネンジイソシアネート等を挙げることができる。脂肪芳香族系のポリイソシアネートとしては、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、4,4’−ビス(イソシアネートメチル)ジフェニルメタン等を挙げることができる。
【0015】
ブロック化ポリイソシアネートとしては、上記のポリイソシアネートのイソシアネート基の一部又は全部をブロック化剤でブロックしたものを挙げることができる。このブロック化剤の例としては、例えば、ε−カプロラクタム、メチルエチルケトオキシム、メチルイソアミルケトオキシム、メチルイソブチルケトオキシム等のケトオキシム系ブロック化剤、フェノール、クレゾール、カテコール、ニトロフェノール等のフェノール系ブロック化剤、イソプロパノール、トリメチロールプロパン等のアルコール系ブロック化剤、マロン酸エステル、アセト酢酸エステル等の活性メチレン系ブロック化剤、及び3,3−ジメチルピラゾール、1,2,4−トリアゾール等のアゾール系ブロック化剤等を挙げることができる。
【0016】
成分(C)としての、両末端にOH基を有するシリコーン添加剤としては、−Si−O−の基本繰り返し単位を有するシリコーン化合物であって、両末端がOHである化合物であり、具体的には下式
【化1】

(上式中、各Rは独立に炭素数2〜8のアルキレンであり、各Rは独立に炭素数1〜6のアルキルであり、nは1〜30である)
で表される化合物である。
【0017】
本発明の組成物において、ポリオール(A)に対するシリコーン添加剤(C)の添加量は、3〜60wt%、好ましくは10〜40wt%である。3wt%より少ないと、十分な撥水性が得られず、60wt%より多いと、はじき等の塗装欠陥が生じることがある。また、ポリオール(A)とシリコーン添加剤(B)が有するOH価とポリイソシアネート(B)が有するNCOの当量比(NCO/OH)が1.05〜1.15であるようにポリイソシアネート(B)を添加する。ポリイソシアネートの添加量がこの範囲より少ないと、特にOH基の当量より少ないと、未反応のOH基が存在し、得られる被膜の耐候性を悪化させ、また撥水性の効果が短くなる等の不具合をもたらすおそれがある。
【0018】
本発明の組成物において、上記成分(A)、(B)及び(C)に加え、触媒、及びその他の添加剤を適宜配合してもよい。触媒としては、錫化合物や亜鉛化合物等の金属化合物やアミン等が挙げられる。錫化合物としては、例えば塩化錫、臭化錫等のハロゲン化錫、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジラウレート等の有機錫化合物等が挙げられ、亜鉛化合物としては、例えば塩化亜鉛、臭化亜鉛等のハロゲン化亜鉛、オクチル酸亜鉛、ラウリン酸亜鉛等の有機酸の亜鉛塩等が挙げられる。アミンとしては、ジメチルベンジルアミン、ジメチルエタノールアミン、ジメチルラウリルアミン等の1級から3級の高沸点アミンが挙げられる。
【0019】
その他の添加剤としては、着色顔料、フィラー、溶剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、流動調整剤、抗菌剤、防かび剤等を挙げることができる。本発明の組成物において、上記成分(A)〜(C)の配合方法及び上記添加剤の添加方法は特に制限されるものではなく、種々の方法によって行うことができ、また混合順序及び添加順序にも制限はない。
【0020】
図1に示すように、本発明の被覆用組成物2を基材3上に塗布し、硬化させることにより被覆物品1が得られる。基材3としては特に制限はないが、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、PET、オレフィン系フィルム、フッ素系フィルム等を用いれば、フィルム状の被覆物品が得られ、装飾フィルムとして用いることができる。また、この基材として粘着剤付きのフィルムを用いることも可能である。この場合、基材の粘着剤が配置されている面とは反対面に、本発明の組成物を塗布し、硬化させる。
【0021】
基材への本発明の組成物の塗布方法は、この組成物を必要に応じて加温したり、有機溶剤もしくは希釈剤を添加することにより所望の粘度に調整した後、エアスプレー、静電エアスプレー、ロールコーター、フローコーター、ディッピング形式による塗装機等の通常用いられている塗装機、又は刷毛、バーコーター、アプリケーター等を用いて、乾燥後の被膜の膜厚が通常4〜20μmになるように塗布し、80〜100℃の温度で60秒〜2時間かけて硬化させる方法が挙げられる。
【0022】
この被覆物品において、基材3と本発明の組成物より形成した被膜2の間に、例えば着色層や装飾層のような中間層を設けてもよい。また、本発明の組成物より形成した被膜上に保護層を設けてもよい。
【実施例】
【0023】
実施例1〜12
表1に示すように、各種ポリオールA〜Dに対し、ポリイソシアネートとしてデグサジャパン(株)製VESTANAT TMDI(NCO含有率40%)及びシリコーン添加剤としてGE東芝シリコン製XF42-B0970を加え、被覆用組成物を形成した。ここでポリイソシアネートはポリオールとシリコーン添加剤の持つOH基に対し、NCO/OH=1.1当量となるように加えた。また、シリコーン添加剤の量はポリオールに対するwt%である。
【0024】
この組成物を粘着剤付きフィルム表面上にバーコーターを用いて、乾燥厚みが10μmとなるように塗布し、次いで90℃の熱風循環型乾燥機にて1時間加熱して硬化させ、フィルム上に被膜を形成した。
【0025】
比較例1〜12
シリコーン添加剤として、ジメチルシロキサン又は片末端OH基シリコーン(信越シリコン製X-22-170)を用いることを除き、それぞれ実施例1〜12と同様にし、表2に示すように各成分を配合して被覆用組成物を製造し、フィルム上に被膜を形成した。
【0026】
得られた被膜付きフィルムについて、接触角、接着力、高速洗車試験後の接触角、高圧洗車試験後の接触角、及び学振磨耗試験後の接触角を測定し、結果を表1及び表2に示す。なお、各試験は以下のようにして行った。
【0027】
接触角
上記フィルムの被膜上に、テルモ製シリンジ(0.8mm径注射針付き)から脱イオン水を2滴落とし、協和科学製の接触角測定器にて接触角を測定した。
【0028】
接着力
上記フィルムの被膜上に住友スリーエム(株)製のスコッチカル3650をスキージを用いて貼り付け、48時間経過後に300mm/minの速度で180度剥離力を測定し、接着力とした。
【0029】
高速洗車試験
司精機(株)製の洗車試験機を用い、ポリプロピレン製の洗車ブラシを120rpmの回転数で10秒×50000回の洗車試験サイクルで上記フィルムの被膜上で回転させ、その後上記のようにして被膜上の接触角を測定した。
【0030】
高圧洗車試験
7.5×15cmの塗装板に、25mm×50mmにカットした上記フィルムを貼り付け、24時間室温下に放置した後、水温50±2℃、ノズル先端水圧7MPa、放水時間30秒、ノズル先端と試験片距離300mm、ノズル先端と試験片角度45°の条件で試験を行った。5時間温水を噴霧洗浄した後、試験箇所の接触角を上記のようにして測定した。
【0031】
学振磨耗試験
テスター産業(株)製学振磨耗堅牢度試験機を用い、25mm×240mmにカットした上記フィルムに対し、荷重500gにて、連続運転で50000サイクルの学振磨耗試験を行った。その後上記のようにして被膜上の接触角を測定した。
【0032】
【表1】

【0033】
【表2】

【0034】
以上のように、本発明の被覆用組成物を用いて形成した被膜は、はじき等の塗装欠陥がなく、耐久試験後も十分な撥水性を示した。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の被覆物品の断面図である。
【符号の説明】
【0036】
1 被覆物品
2 被膜
3 基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリオール、
(B)ポリイソシアネート、及び
(C)両末端にOH基を有するシリコーン添加剤
を含み、ポリオールに対するシリコーン添加剤の添加量が3〜60wt%である、被覆用組成物。
【請求項2】
前記シリコーン添加剤が下式
【化1】

(上式中、各Rは独立に炭素数2〜8のアルキレンであり、各Rは独立に炭素数1〜6のアルキルであり、nは1〜30である)
で表される化合物である、請求項1記載の被覆用組成物。
【請求項3】
前記ポリオールと前記シリコーン添加剤が有するOH価と、前記ポリイソシアネートが有するNCOの当量比(NCO/OH)が1.05〜1.15である、請求項1又は2に記載の被覆用組成物。
【請求項4】
基材上に請求項1記載の被覆用組成物を塗布し、この組成物を硬化させてなる被覆物品。
【請求項5】
前記基材が粘着剤付きフィルムである、請求項3記載の被覆物品。

【図1】
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【公開番号】特開2007−332175(P2007−332175A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−162152(P2006−162152)
【出願日】平成18年6月12日(2006.6.12)
【出願人】(599056437)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (1,802)
【Fターム(参考)】